(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】密封装置
(51)【国際特許分類】
F16C 33/80 20060101AFI20220907BHJP
F16J 15/16 20060101ALI20220907BHJP
F16J 15/3256 20160101ALI20220907BHJP
F16J 15/3232 20160101ALI20220907BHJP
F16J 15/447 20060101ALI20220907BHJP
F16C 33/78 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
F16C33/80
F16J15/16 B
F16J15/3256
F16J15/3232 201
F16J15/447
F16C33/78 Z
(21)【出願番号】P 2018090300
(22)【出願日】2018-05-09
【審査請求日】2021-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002686
【氏名又は名称】協明国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】岡 貞和
【審査官】日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-21567(JP,A)
【文献】特開2016-101562(JP,A)
【文献】特開2016-80095(JP,A)
【文献】実開平7-10630(JP,U)
【文献】実開昭61-85914(JP,U)
【文献】国際公開第2007/135979(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/72 - 33/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外側部材と、該外側部材に対して回転する内側部材との間の被シール空間を密封する密封装置において、
前記内側部材に外嵌される内側円筒部と、前記内側円筒部の端部から径方向外方に延びる円板部と、前記円板部の外周側から軸方向に延びる外周円筒部とを含む第1部材と、
前記外側部材の内周面または外周面に嵌合される嵌合円筒部と、前記嵌合円筒部のいずれか一方の端部から径方向内方に延出する円板部と、前記外周円筒部と径方向に対向する内周円筒部とを含む第2部材と、を備え、
前記外周円筒部と前記内周円筒部との間に外部と連通するシール隙間が形成され、
前記外周円筒部は、その軸方向の長さが、前記シール隙間の径方向幅以上に形成されるともに、軸方向に間隔を空けて複数の第1ガイド突部が配設されて
おり、
前記内周円筒部は、前記外周円筒部と対向する対向面に軸方向に間隔をあけて、前記複数の第1ガイド突部と対向するように複数の第2ガイド突部が設けられており、
前記複数の第1ガイド突部間における径方向断面の表面形状及び前記複数の第2ガイド突部間における径方向断面の表面形状は、曲面状に形成されていることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1に記載の密封装置において、
前記内周円筒部の前記被シール空間側の端部には、前記シール隙間に向って開口する凹所が形成され、
前記凹所の開口の内径側端部と前記外周円筒部の前記被シール空間側の端部との間に形成される軸方向の隙間は、前記シール隙間の径方向幅より小さいことを特徴とする密封装置。
【請求項3】
外側部材と、該外側部材に対して回転する内側部材との間の被シール空間を密封する密封装置において、
前記内側部材に外嵌される内側円筒部と、前記内側円筒部の端部から径方向外方に延びる円板部と、前記円板部の外周側から軸方向に延びる外周円筒部とを含む第1部材と、
前記外側部材の内周面または外周面に嵌合される嵌合円筒部と、前記嵌合円筒部のいずれか一方の端部から径方向内方に延出する円板部と、前記外周円筒部と径方向に対向する内周円筒部とを含む第2部材と、を備え、
前記外周円筒部と前記内周円筒部との間に外部と連通するシール隙間が形成され、
前記外周円筒部は、その軸方向の長さが、前記シール隙間の径方向幅以上に形成されるともに、軸方向に間隔を空けて複数の第1ガイド突部が配設されており、
前記内周円筒部の前記被シール空間側の端部には、前記シール隙間に向って開口する凹所が形成され、
前記凹所の開口の内径側端部と前記外周円筒部の前記被シール空間側の端部との間に形成される軸方向の隙間は、前記シール隙間の径方向幅より小さいことを特徴とする密封装置。
【請求項4】
請求項3に記載の密封装置において、
前記内周円筒部には、前記第1ガイド突部に対向するように、複数の第2ガイド突部が設けられていることを特徴とする密封装置。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の密封装置において、
前記複数の第1ガイド突部間における径方向断面の表面形状は、曲面状に形成されていることを特徴とする密封装置。
【請求項6】
請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の密封装置において、
前記第1ガイド突部は、3以上の奇数個であり、
前記外周円筒部は、その軸方向の長さが、前記シール隙間の径方向幅の偶数倍であり、
隣り合う第1ガイド突部との間隔は、前記シール隙間の径方向幅と同等であることを特徴とする密封装置。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の密封装置において、
前記第1部材は、前記内側円筒部と、前記円板部と、前記円板部の外周側から被シール空間側に延出して形成される外側円筒部とを備えたスリンガからなり、前記外側円筒部の外周面を覆うように弾性材からなる前記外周円筒部が形成されていることを特徴とする密封装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外側部材と、該外側部材に対して回転する内側部材との間の被シール空間を密封する密封装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上述のような密封装置としては、外側部材と内側部材との間に2つのシール部材を組合わせた状態で装着するいわゆるパックシールタイプのものが知られている。
下記特許文献1には、第1シール部材の第一円筒部に円筒状のダストシール部が形成され、そのダストシール部は第二円筒部との間に微小隙間を空けて対向している密封装置が開示されている。
また下記特許文献2には、2つのシール部材のうち、一方のシール部材の端部と、該端部と向かいあう他方のシール部材との間に、外部と連通する隙間が形成された密封装置が開示されている。そしてこの隙間の断面積は、内部側が広く外部側が狭く形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開平7-10630号公報
【文献】特開2016-80095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1及び上記特許文献2に開示されているような密封装置は、泥水・雨水・塵埃等の異物の侵入を抑制するシール性の向上が要求される一方で、低燃費のための低トルクの要請もある。よってシール性を向上させるには、異物の侵入を抑制するリップの数を増やす策が考えられる。しかしながら、シール部材(スリンガ)に摺接するリップを増やすと回転トルクが上昇してしまい、低燃費化の目的とは相反することになる。そのため、リップの数は安易に増やせない。
【0005】
本発明は、前記実情に鑑みなされたもので、低トルクの要請に応えるとともに、外部からの異物の侵入を抑制することができる密封装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る密封装置は、外側部材と、該外側部材に対して回転する内側部材との間の被シール空間を密封する密封装置において、前記内側部材に外嵌される内側円筒部と、前記内側円筒部の端部から径方向外方に延びる円板部と、前記円板部の外周側から軸方向に延びる外周円筒部とを含む第1部材と、前記外側部材の内周面または外周面に嵌合される嵌合円筒部と、前記嵌合円筒部のいずれか一方の端部から径方向内方に延出する円板部と、前記外周円筒部と径方向に対向する内周円筒部とを含む第2部材と、を備え、前記外周円筒部と前記内周円筒部との間に外部と連通するシール隙間が形成され、前記外周円筒部は、その軸方向の長さが、前記シール隙間の径方向幅以上に形成されるともに、軸方向に間隔を空けて複数の第1ガイド突部が配設されており、前記内周円筒部は、前記外周円筒部と対向する対向面に軸方向に間隔をあけて、前記複数の第1ガイド突部と対向するように複数の第2ガイド突部が設けられており、前記複数の第1ガイド突部間における径方向断面の表面形状及び前記複数の第2ガイド突部間における径方向断面の表面形状は、曲面状に形成されていることを特徴とする。
また、本発明に係る他の密封装置は、外側部材と、該外側部材に対して回転する内側部材との間の被シール空間を密封する密封装置において、前記内側部材に外嵌される内側円筒部と、前記内側円筒部の端部から径方向外方に延びる円板部と、前記円板部の外周側から軸方向に延びる外周円筒部とを含む第1部材と、前記外側部材の内周面または外周面に嵌合される嵌合円筒部と、前記嵌合円筒部のいずれか一方の端部から径方向内方に延出する円板部と、前記外周円筒部と径方向に対向する内周円筒部とを含む第2部材と、を備え、前記外周円筒部と前記内周円筒部との間に外部と連通するシール隙間が形成され、前記外周円筒部は、その軸方向の長さが、前記シール隙間の径方向幅以上に形成されるともに、軸方向に間隔を空けて複数の第1ガイド突部が配設されており、前記内周円筒部の前記被シール空間側の端部には、前記シール隙間に向って開口する凹所が形成され、前記凹所の開口の内径側端部と前記外周円筒部の前記被シール空間側の端部との間に形成される軸方向の隙間は、前記シール隙間の径方向幅より小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る密封装置は、上述の構成としたことで、低トルクの要請に応えるとともに、外部からの異物の侵入を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る密封装置が適用される軸受装置の一例を示す概略的縦断面図である。
【
図2】本発明に係る密封装置の一実施形態を示す図であり、該密封装置を模式的に示す部分縦断面図である(
図1のX部の拡大図)。
【
図3】(a)及び(b)は、同実施形態に係る密封装置の変形例を示す図であり、密封装置が装着対象に装着された状態を一部拡大して模式的に示す部分破断縦断面図である。
【
図4】本発明に係る密封装置の第2実施形態であって、装着対象に装着された状態を模式的に示す部分破断縦断面図である。
【
図5】本発明に係る密封装置の第3実施形態であって、装着対象に装着された状態を模式的に示す部分破断縦断面図である(
図1のY部の拡大図)。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明の実施の形態について、図面に基づいて説明する。なお、一部の図では、他図に付している詳細な符号の一部を省略している。
本実施形態に係る密封装置10,11は、外側部材2と、外側部材2に対して回転する内側部材5との間の被シール空間Sを密封する密封装置に関する。密封装置10,11は、第1部材13と第2部材16とを備えている。第1部材13は、内側部材5に外嵌される内側円筒部140と、内側円筒部140の端部140aから径方向外方に延びる円板部141と、円板部141の外周側から軸方向に延びる外周円筒部151とを含む。第2部材16は、外側部材2の車体側の内周面2bまたは外周面2dに嵌合される嵌合円筒部170と、嵌合円筒部170のいずれか一方の端部170aから径方向内方に延出する円板部171と、外周円筒部151と径方向に対向する内周円筒部184とを含む。外周円筒部151と内周円筒部184との間に外部と連通するシール隙間Hが形成され、外周円筒部151は、その軸方向の長さDが、シール隙間Hの径方向幅h以上に形成されるともに、軸方向に間隔を空けて複数の第1ガイド突部151aが配設されている。以下、詳述する。
【0010】
<第1実施形態>
まずは本発明の第1実施形態について、
図1~
図3を参照しながら説明する。
図1は、自動車の車輪(不図示)を軸回転可能に支持する軸受ユニット1を示す。この軸受ユニット1は、大略的に、上述の外側部材に相当する外輪2と、上述の内側部材に相当する内輪5と、外輪2と内輪5との間に介装される2列の転動体(ボール)6…とを含んで構成される。内輪5は、ハブ輪3と内輪部材4とで回転部材として構成され、内輪部材4はハブ輪3の車体側に嵌合一体とされる。ハブ輪3にはドライブシャフト7が同軸的にスプライン嵌合され、ドライブシャフト7は等速ジョイント8を介して不図示の駆動源(駆動伝達部)に連結される。ドライブシャフト7はナット9によって、ハブ輪3と一体化され、ハブ輪3のドライブシャフト7からの抜脱が防止されている。内輪5(ハブ輪3及び内輪部材4)は、外輪2に対して、軸L回りに回転可能な回転部材とされ、外輪2と、内輪5とにより、相対的に回転する2部材が構成され、環状の被シール空間Sが形成される。被シール空間S内には、2列の転動体6…が、リテーナ6aに保持された状態で、外輪2の軌道輪2a、ハブ輪3及び内輪部材4の軌道輪3a,4aを転動可能に介装されている。ハブ輪3は、円筒形状のハブ輪本体30と、ハブ輪本体30より立上基部31を介して径方向外側に延出するよう形成されたハブフランジ32とを有し、ハブフランジ32にボルト33及び不図示のナットによって車輪が取付固定される。以下において、軸L方向に沿って車輪に向く側(
図1において左側)を車輪側、車体に向く側(
図1において右側)を車体側と言う。
【0011】
密封装置10は外輪2と内輪部材4との間(
図1・X部)に装着される。密封装置11は外輪2とハブ輪3との間(
図1・Y部)に装着される。密封装置10,11によって、被シール空間Sが密封され、被シール空間S内への泥水等の侵入や被シール空間S内に充填される潤滑剤(グリース等)の外部への漏出が防止される。
第1実施形態では、本発明を、車体側となる外輪2と内輪部材4との間の端部に装着されるパックシールタイプの密封装置10Aに適用した例を説明する。
【0012】
図2は、
図1のX部を拡大した部分断面図である。密封装置10Aは、第1部材13と第2部材16とを備えている。第1部材13は、スリンガ14と、外周円筒部151を有した弾性部15とを有している。スリンガ14は、SPCC又はSUS等の鋼板をプレス加工して形成され、
図2に示すように片側の断面が略U字形状の2重円筒形とされる。スリンガ14は、回転する内輪部材4に外嵌される内側円筒部140と、内側円筒部140の端部140aから径方向外方に延びる円板部141と、円板部141の外輪2側の端部141aから軸方向に延びる外側円筒部142とを有している。外側円筒部142は、嵌合円筒部170と径方向に重なっている。円板部141の車体側の面及び外側円筒部142の外周面には、フェライト等の磁性粉末がゴム材により結合されてなる弾性部15が加硫接着されている。弾性部15は、ゴムよりも硬く、スリンガ14を構成する鋼板よりも弾性を有する。弾性部15は、円板部141の車体側の面を覆う固着部150と、外側円筒部142の外周側を覆う外周円筒部151とを有している。
図2の固着部150は、円環状のゴム磁石からなり、固着部150の周方向に多数のN極及びS極を着磁し、磁気エンコーダとされている。この場合は、
図1及び
図2において点線で示す磁気センサ12と磁気エンコーダとにより、自動車の車輪の回転検出機構が構成される。
【0013】
固着部150には、外輪2側の端部から被シール空間S側に延びるように外周円筒部151が設けられている。外周円筒部151は内周円筒部184と径方向に対向して設けられ、外周円筒部151の内周円筒部184と対向する対向面151bには、内周円筒部184側へ向けて突出する複数の第1ガイド突部151aが設けられている。第1ガイド突部151aは、小突起であるとともに適宜間隔を空けて複数設けられている。
図2の例では、5個の第1ガイド突部151aが形成されている。第1ガイド突部151aは、軸方向に変位することなく、周方向に沿って1周するように延びて無端状に形成されている。後記するテイラー渦は、隣り合う第1ガイド突部151aと第1ガイド突部151aの間に、周方向に沿ってひとつの渦流が発生する。複数の第1ガイド突部151aは、少なくともテイラー渦が発生する程度の間隔を空けて設けられている。よって第1ガイド突部151aはテイラー渦を区画する仕切りのような機能を果たす。複数の第1ガイド突部151a,151a間における径方向断面の表面形状は、テイラー渦の発生を阻害しない形状であれば特に限定されないが、
図2等に示すような曲面状に形成されていることが望ましい。つまり、外周円筒部151及び第1ガイド突部151aを径方向に沿って切断した場合に、第1ガイド突部151a間に内径側に凹む曲面が表出するように形成されていることが望ましい。また
図2に示すように外周円筒部151を磁性ゴム等の弾性材からなるものとすれば、加工し易いため、所望する位置に所望する数の第1ガイド突部151aを形成することができる。
【0014】
外周円筒部151と内周円筒部184との間には外部と連通するシール隙間Hが形成されており、外周円筒部151は、その軸方向の長さDが、シール隙間Hの径方向幅h以上に形成される。ここで外周円筒部151の軸方向の長さDは、外周円筒部151の被シール空間S側の端部151cから外部側の端部151dまでの距離とする。
以上の構成によれば、ハブ輪3の回転数が所定値に達すると、複数の第1ガイド突部151a,151aの間に周方向に巻きつくように発生する周期的な渦列、すなわちテイラー渦を発生させることができる。よって、外部から泥水、雨水、塵埃等の異物が侵入しようとしても、テイラー渦が障壁となって、異物がシール隙間Hを通過して被シール空間Sに侵入することを抑制できる。またハブ輪3の回転に伴い、複数の第1ガイド突部151a,151aも回転することによりテイラー渦T1~T4の発生が誘起される。そのため、テイラー渦は、安定した規則的な回転運動となり易く且つその流れは維持され易くなるため、テイラー渦による異物に対する障壁機能を安定的に発揮させることができる。
【0015】
具体的には、例えば外周円筒部151の径が80mmで、シール隙間Hの径方向幅hが2.0mmの場合、ハブ輪3の回転数が400r/mになるとテイラー渦が発生している。そして、ハブ輪3の回転数の上昇に伴い、発生したテイラー渦の渦流が安定した状態になる。
図2等において、第1ガイド突部151a,151aの間に記載された矢印はテイラー渦を示している。
【0016】
第1ガイド突部151aの形成個数は図例に限定されるものではないが、
図2及び後記する
図3(a)、(b)等に示すように3以上の奇数個が望ましい。外周円筒部151は、その軸方向の長さDが、シール隙間Hの径方向幅hの偶数倍、すなわち2nhであり、隣り合う第1ガイド突部151a,151aとの間隔D1は、シール隙間Hの径方向幅hと同等(D1≒h)としてもよい。このように2nhを目安に外周円筒部151等の設計を行えば、乱れの少ない安定した渦流のテイラー渦を発生させることができる。
【0017】
また第1ガイド突部151aを3個以上の奇数個とすれば、偶数個のテイラー渦を安定的に形成することができる。すると、
図2のT1とT2、T3とT4といったように回転方向の異なる一対のテイラー渦をより安定的に発生させることができ、隣り合って形成されるテイラー渦の渦流は影響しあって逆回転になる。よって、例えばまずテイラー渦T1の存在により、異物はシール隙間Hに容易には侵入し難いが、たとえシール隙間Hに侵入したとしても、回転方向の異なるテイラー渦T2によって異物がシール隙間Hを通過することを抑制することができる。
【0018】
第2部材16は、芯金17と、シール部18とを有している。芯金17は、SPCC等の鋼板をプレス加工して形成され、
図2に示すように片側の断面が略L字形状とされる。芯金17は、外輪2の内周面2bに嵌合される嵌合円筒部170と、嵌合円筒部170の被シール空間S側の端部170aから径方向内方に延出する円板部171とを有している。シール部18は、ゴム等の弾性材からなり、芯金17に対して加硫接着されることで一体成型されている。シール部18は、シールリップ基部180と、シールリップ基部180から延出された1個のサイドリップ181及び2個のラジアルリップ182,183と、外周円筒部151と径方向に対向する内周円筒部184とを有している。シールリップ基部180は、芯金17における円板部171の被シール空間S側の面の一部から内周縁部171bを回り込み、円板部171の被シール空間Sとは反対側の面171cの全面を覆うように芯金17に固着一体とされている。内周円筒部184は、芯金17の嵌合円筒部170の内径面170bを全面に亘って覆う。内周円筒部184は、嵌合円筒部170の外部側の端部170cを回り込んで嵌合円筒部170の外径面170dに至るように芯金17に固着一体とされている。
【0019】
内周円筒部184の外径面170dに至る部分には、外径側に隆起する環状突部184bが形成され、この環状突部184bは、芯金17が外輪2に内嵌された際、外輪2の内周面2bと嵌合円筒部170の外径面170dとの間に圧縮状態で介在するように形成されている。環状突部184bが、外輪2と嵌合円筒部170との間で圧縮された状態で介在することにより、外輪2と嵌合円筒部170との嵌合部位へ泥水等が浸入することを防止でき、発錆を防止する。なお、図中、環状突部184b、ラジアルリップ182,183の2点鎖線部は圧縮前の原形状を示している。
【0020】
内周円筒部184は、外周円筒部151と対向する対向面184cを有し、対向面184cには、複数の第1ガイド突部151aに対向するように複数の第2ガイド突部184aが形成されている。第2ガイド突部184aは、外周円筒部151の第1ガイド突部151aに向かい合うように突出して形成された小突起である。第2ガイド突部184aは、第1ガイド突部151aと同様の間隔を空けて複数設けられている。互いに突出して形成された第1ガイド突部151a及び第2ガイド突部184aにより、誘起されたテイラー渦の流れを案内して安定化を図ることができる。
【0021】
また内周円筒部184の被シール空間S側の端部には、シール隙間Hに向って開口する凹所184dが形成されている。そして
図2に示すように、この凹所184dの開口の内径側端部184eと外周円筒部151の被シール空間S側の端部151cとの間に形成される軸方向の隙間D2は、シール隙間Hの径方向幅hより小さいことが望ましい。
このように凹所184dを設けた場合は、シール隙間Hに発生するテイラー渦により誘起され、凹所184d内においても渦T5が発生する。そして、凹所184d内に発生した渦T5は、凹所184dの開口の内径側端部184eと外周円筒部151の被シール空間S側の端部151cとのラビリンス部Rに誘引され難く、凹所184d内にて回転運動がガイドされる。よって、シール隙間H内を通過した異物があったとしても、この渦T5が障壁となるため、外部から被シール空間S側への異物の侵入を抑制する効果を一層高められる。
【0022】
以上の構成によれば、ハブ輪3が一定の回転数に達すると、第1ガイド突部151a,151a間にテイラー渦T1~T4が矢印方向に発生し、これに伴い凹所184d内でも渦T5が発生する。テイラー渦T1は外部側に異物を誘導する方向(
図2のT1矢印方向参照)の渦流になるので、異物の侵入口となる箇所で異物の侵入を効果的に抑制することができる。またテイラー渦T1に隣り合うテイラー渦T2、T3、T4はそれぞれが渦流の方向が異なるテイラー渦となって障壁になる上、渦T5の存在も加わり、異物がラビリンス部Rまで到達しさらにサイドリップ181の摺動部、さらには、2個のラジアルリップ182,183の摺動部に達することを抑制できる。また逆に、被シール空間Sに充填される潤滑剤が漏れ出してラジアルリップ183,182、サイドリップ181を通過した場合でも、渦T5やテイラー渦T4~T1が障壁となって潤滑剤が外部に漏れ出すことも防ぐことができる。
【0023】
第1ガイド突部151aの構成は図例に限定されず、
図2に示すように断面が略三角山形状としてもよいし、緩やかな湾曲形状であってもよい。また第1ガイド突部151aは、周方向に沿って連続して環状に設けられる方がテイラー渦を安定して規則的に発生させるという観点からは望ましいが、断続的に設けられる第1ガイド突部151aを除外するものではない。以下では、第1ガイド突部151a等のさらに異なる例について説明する。
【0024】
図3(a)及び
図3(b)は、
図2の例とは異なる変形例を示している。
図2と共通する箇所は共通の符号を付し、共通する箇所の説明は省略する。
図3(a)は、内周円筒部184の被シール空間S側の端部には、シール隙間Hに向って開口する凹所184dが形成されていない例である。第1ガイド突部151aの形成個数や形状等は、
図2の例と同様である。また外周円筒部151は、その軸方向の長さDが、シール隙間Hの径方向幅h以上に形成されることはもちろん、隙間D2がシール隙間Hの径方向幅hより小さい、すなわちD2<hの関係にあること、D1≒hであることも
図2と同様である。
このように凹所184dが形成されていなくても、テイラー渦は発生し、低トルクの要請に応えるとともに、外部からの異物の侵入を抑制することができる。
【0025】
図3(b)は、内周円筒部184に複数の第2ガイド突部184aが形成されておらず、平坦面としている例である。第1ガイド突部151aの形成個数や形状等は、
図2の例と同様である。外周円筒部151は、その軸方向の長さDが、シール隙間Hの径方向幅h以上に形成されることはもちろん、隙間D2がシール隙間Hの径方向幅hより小さい、すなわちD2<hの関係にあること、D1≒hであることも
図2と同様である。
このように第2ガイド突部が形成されていなくても、テイラー渦は発生し、低トルクの要請に応えるとともに、外部からの異物の侵入を抑制することができる。
【0026】
<第2実施形態>
次に本発明の第2実施形態について、
図4を参照しながら説明する。第2実施形態では、本発明を、第1実施形態と同様に車体側となる外輪2と内輪部材4との間の端部に装着されるパックシールタイプの密封装置10Bに適用した例である。第1実施形態と共通する部分には、可能な限り同一の符号を付し、その構成及び作用・効果等の説明は割愛する。
【0027】
図4に示す密封装置10Bは、スリンガ14の構造が大きく異なるが、シール隙間Hにテイラー渦を発生させる基本構成は第1実施形態と共通する。密封装置10Bは、第1部材13と第2部材16とを備えている。第1部材13は、スリンガ14と、外周円筒部151を有した弾性部15とを有している。スリンガ14は、SPCC又はSUS等の鋼板からなり、
図2に示すように片側の断面が略U字形状の2重円筒形とされる。スリンガ14は、第1実施形態とは、円板部141からさらに外径側に段差部143を経て第2円板部144を有している点が異なる。またスリンガ14は、第2円板部144の外輪2側の端部144aが、外輪2の外周面2dよりさらに径方向外方に突出する位置まで形成されている点が異なる。さらに、外側円筒部142が、第2円板部144の端部144aから軸方向に延びている点が異なる。具体的にはスリンガ14は、回転する内輪部材4に外嵌される内側円筒部140と、内側円筒部140の端部140aから径方向外方に延びる円板部141とを有している。また、スリンガ14は、円板部141の外輪2側の端部141aから軸方向外部側に延びる段差部143と、段差部143の外部側の端部143aから径方向外方に延びる第2円板部144と、第2円板部144の径方向外方の端部144aから軸方向外部側とは反対側に延びる外側円筒部142とを有している。
【0028】
図4に示す円板部141の車体側の面には、周方向に多数のN極及びS極が着磁された磁気エンコーダEが貼着されている。この場合は、
図4において点線で示す磁気センサ12と磁気エンコーダEとにより、自動車の車輪の回転検出機構を構成することができる。
スリンガ14の段差部143の径方向外方の面、そして第2円板部144及び外側円筒部142の内面(外輪2に対向する面)には、第1実施形態とは異なりゴム等の弾性材のみからなる弾性部15が加硫接着されている。弾性部15は、スリンガ14の段差部143に固着された外周円筒部151と、第2円板部144及び外側円筒部142の内面を覆う覆い部152,153とを有し、覆い部153は外側円筒部142の端部142aに回り込むように配されている。
【0029】
外周円筒部151は、その半分の部位が段差部143に固着されるものの、その半分は、軸方向に突出した状態とされている。外周円筒部151は、内周円筒部184と対向する対向面151bを有し、対向面151bには、内周円筒部184に向けて突出するように第1ガイド突部151aが設けられている。外周円筒部151と内周円筒部184との間に外部と連通するシール隙間Hが形成されている点、外周円筒部151は、その軸方向の長さDが、シール隙間Hの径方向幅h以上に形成されている点は、第1実施形態と同様である。
第2部材16は、芯金17と、シール部18とを有しており、芯金17及びシール部18の構成は第1実施形態と同様である。よって、内周円筒部184の被シール空間S側の端部には、シール隙間Hに向って開口する凹所184dが形成されている点も共通する。
【0030】
以上の構成によれば、ハブ輪3が一定の回転数に達すると、第1ガイド突部151a,151a間にテイラー渦が矢印方向に発生し、これに伴い凹所184d内でも渦が発生する。第1実施形態と同様にシール隙間Hに発生するテイラー渦及び凹所184dに発生する渦が障壁となって、異物の侵入を効果的に抑制することができる上、外輪2の外周面2dと、外側円筒部142とのラビリンスR1(
図4参照)が形成されるため、一層異物が侵入しにくい構造とすることができる。
なお、外周円筒部151は、その軸方向の長さDが、シール隙間Hの径方向幅h以上に形成されることはもちろん、隙間D2がシール隙間Hの径方向幅hより小さい、すなわちD2<hの関係にあること、D1≒hであることも第1実施形態と同様である。
【0031】
<第3実施形態>
次に本発明の第3実施形態について、
図5を参照しながら説明する。第3実施形態は、第1実施形態の密封装置10Aとは逆側、すなわち、車輪側のハブシールに適用した例である。
密封装置11は、第1部材13と第2部材16とを備えている。第1部材13は、スリンガ14と、外周円筒部151を有した弾性部15とを有している。スリンガ14は、SPCC又はSUS等の鋼板をプレス加工して形成され、
図5に示すようにハブ輪本体30、立上基部31、ハブフランジ32の形状に沿って、湾曲した略J形状とされ、デフレクターとも呼ばれる。スリンガ14は、回転するハブ輪本体30に外嵌される内側円筒部140と、内側円筒部140から立上基部31に沿って径方向外方に延びる湾曲部145と、湾曲部145を経てストレートに形成された外向鍔部146と、外向鍔部146の外径側の端部146aから軸方向に延びる外側円筒部142とを有している。外側円筒部142の表面には、全体的にゴム等の弾性材からなる弾性部15が加硫接着されている。弾性部15のうち、内周円筒部184に向かい合う部分は他の部位より厚みが厚く形成された外周円筒部151とされる。外周円筒部151には、内周円筒部184に向けて突出した第1ガイド突部151aが軸方向に間隔を空けて複数形成されている。
【0032】
第2部材16は、外輪2の車輪側の内周面2cに内嵌される芯金17と、芯金17に固着されたシール部18とを備えている。芯金17は、SPCC等の鋼板をプレス加工して形成され、片側の断面が略L字形状とされる。芯金17は、外輪2の外周面2dに外嵌される嵌合円筒部170と、嵌合円筒部170のハブフランジ32側の端部170eから内径側に延びる円板部171とを有している。シール部18は、ゴム等の弾性体のみからなり、芯金17に加硫成型により固着一体とされる。シール部18は、シールリップ基部180と、シールリップ基部180から延出された2個のサイドリップ181,185及び1個のラジアルリップ183と、外周円筒部151と径方向に対向する内周円筒部184とを有している。内周円筒部184は、外周円筒部151と対向する対向面184cを有し、対向面184cには、第1実施形態と同様に外周円筒部151に形成された複数の第1ガイド突部151aに対向するように同様の間隔を空けて複数の第2ガイド突部184aが形成されている。互いに突出して形成された第1ガイド突部151a及び第2ガイド突部184aにより、誘起されたテイラー渦の流れを案内して安定化を図ることができる。
【0033】
外周円筒部151と内周円筒部184との間に外部と連通するシール隙間Hが形成されている点、外周円筒部151は、その軸方向の長さDが、シール隙間Hの径方向幅h以上に形成されている点は、第1実施形態と同様である。また内周円筒部184の被シール空間S側の端部に、シール隙間Hに向って開口する凹所184dが形成されている点も共通する。
【0034】
以上の構成によれば、ハブ輪3が一定の回転数に達すると、第1ガイド突部151a,151a間にテイラー渦が矢印方向に発生し、これに伴い凹所184d内でも渦が発生する。このようにハブシールを構成する密封装置11においても、第1実施形態と同様にシール隙間Hに発生するテイラー渦及び凹所184dに発生する渦が障壁となって、異物の侵入を効果的に抑制することができる。
なお、外周円筒部151は、その軸方向の長さDが、シール隙間Hの径方向幅h以上に形成されることはもちろん、隙間D2がシール隙間Hの径方向幅hより小さい、すなわちD2<hの関係にあること、D1≒hであることも第1実施形態と同様である。また
図5に示す第3実施形態では、内周円筒部184及び外周円筒部151は、ハブフランジ32に対して軸方向と同じ距離だけ離間して設けられている例を示しているが、例えば、内周円筒部184のハブフランジ32側の端部が、軸方向において、外周円筒部151よりもハブフランジ32に近接するようにして変更してもよい。
【0035】
なお、上記各実施形態は、更に以下のように変更してもよい。
第1ガイド突部151a及び第2ガイド突部184aの形成個数や形状等は限定されず、
図3(a)及び
図3(b)に示す構成を
図4及び
図5に適用してもよい。また、内側部材としての内輪5が所定の回転数であるときに、テイラー渦が発生するのであれば、例えば、最もシール隙間H側の第1ガイド突部151a又は最も外部側の第1ガイド突部151aのいずれか一方を省略して、第1ガイド突部151aが偶数個となるように変更してもよい。また、複数の第1ガイド突部151a間の間隔についても、適宜変更してもよい。
【0036】
また、上記各実施形態では、外周円筒部151が弾性部15に形成されている例を示しているが、スリンガを構成する外側円筒部142を外周円筒部151とし、そこに複数の第1ガイド突部151aを形成してもよい。また、各実施形態における外周円筒部151の軸方向の長さを変更してもよい。外周円筒部151の軸方向の長さDは、必ずしもシール隙間Hの径方向幅hの偶数倍でなくともよく、シール性やシールスペース等種々の条件に応じて、適宜変更してもよい。また、上記各実施形態では、凹所184dの開口の内径側端部184eと外周円筒部151の被シール空間S側の端部151cとの間に形成される軸方向の隙間D2は、シール隙間Hの径方向幅hより小さい例を示しているが、隙間D2がシール隙間Hの径方向幅hより大きくともよい。また、各実施形態において、複数の第1ガイド突部151a,151aに対する径方向断面の表面形状は、曲面状に形成されているが、楔状や逆台形状に変更してもよい。
【0037】
さらに上記各実施形態では、本発明に係る密封装置10,11が、自動車用の軸受ユニットに組み付けられる密封装置に適用される例について述べたが、これに限らず、外側部材と、該外側部材に対して回転する内側部材との間の被シール空間を密封するものに適用可能であり、例えば、ハウジングと回転部材との間に配設されるオイルシールに適用してもよい。また第1部材13、第2部材16の形状・構成も図例のものに限定されない。
【符号の説明】
【0038】
10(10A,10B)、11 密封装置
2 外側部材(外輪)
5 内側部材(内輪)
13 第1部材
14 スリンガ
140 内側円筒部
141 円板部
142 外側円筒部
151 外周円筒部
151a 第1ガイド突部
16 第2部材
17 芯金
170 嵌合円筒部
171 円板部
18 シール部
184 内周円筒部
184a 第2ガイド突部
H シール隙間
L 外周円筒部の軸方向の長さ
D1 第1ガイド突部の間
h シール隙間の径方向幅