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特許7137212フラックス、はんだ組成物及び接合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】フラックス、はんだ組成物及び接合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/363 20060101AFI20220907BHJP
   B23K 1/00 20060101ALI20220907BHJP
   B23K 35/26 20060101ALN20220907BHJP
   C22C 9/00 20060101ALN20220907BHJP
   C22C 13/00 20060101ALN20220907BHJP
【FI】
B23K35/363 E
B23K1/00 330E
B23K35/363 C
B23K35/26 310A
C22C9/00
C22C13/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018548973
(86)(22)【出願日】2017-10-26
(86)【国際出願番号】 JP2017038769
(87)【国際公開番号】W WO2018084072
(87)【国際公開日】2018-05-11
【審査請求日】2020-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2016217103
(32)【優先日】2016-11-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000143215
【氏名又は名称】株式会社弘輝
(74)【代理人】
【識別番号】100145849
【弁理士】
【氏名又は名称】井澤 眞樹子
(72)【発明者】
【氏名】内田 令芳
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勇介
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-123472(JP,A)
【文献】特開2014-087814(JP,A)
【文献】特開2002-144077(JP,A)
【文献】特開2009-102545(JP,A)
【文献】特開2013-082004(JP,A)
【文献】特開2016-128600(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/00-35/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジグリコール酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも一種である成分を含むチタンを1.0質量%以上4.0質量%以下含有する銅合金用のフラックス。
【請求項2】
前記成分が0.1質量%以上20質量%以下含まれるチタンを1.0質量%以上4.0質量%以下含有する銅合金用の請求項1に記載のフラックス。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のフラックスとはんだ合金とを含むチタンを1.0質量%以上4.0質量%以下含有する銅合金用のはんだ組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のフラックスをチタン及び銅を含む合金からなる部材の前記合金の表面に塗布し、
前記フラックスを塗布した前記部材にはんだ合金を配置し、
前記部材を加熱することで前記はんだ合金と前記部材を接合して接合体を製造する接合体の製造方法であって、
前記合金はチタンを1.0質量%以上4.0質量%以下含む銅合金である、接合体の製造方法
【請求項5】
請求項3に記載のはんだ組成物をチタン及び銅を含む合金からなる部材の前記合金の表面に配置し、
前記はんだ組成物を配置した前記部材を加熱することではんだ合金と前記部材を接合して接合体を製造する接合体の製造方法であって、
前記合金は、チタンを1.0質量%以上4.0質量%以下含む銅合金である、接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラックス、フラックスを含むはんだ組成物及びこれらを使用した接合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器における電子部品の電気的接合手段としては、はんだによる接合(はんだ接合)が挙げられる。このはんだ接合は、はんだ合金をフラックスが塗布された面に配置し、あるいは、はんだ合金とフラックスとを含むはんだ組成物を塗布し、はんだ合金を溶融することで行う。
かかるはんだ接合に用いられるフラックスは、接合する面のはんだ付け性を向上させるものであり、樹脂成分、溶剤成分、酸化防止成分等の各種成分を含む。
例えば、特許文献1には、ヒンダートフェノール系化合物を酸化防止剤として含むフラックスが記載されている。また、特許文献2及び3には特定のカルボン酸を含むフラックスが記載されている。
【0003】
一方、電子機器の電子部品は小型化が進み、電気的接続部分の部材も小型化が要求されるため、部材自体の高い強度が求められる。例えば、特許文献4に記載されているようなチタンを含有する特定の銅合金(以下、チタン銅とも言う。)は、比較的強度が高く、応力緩和特性も優れているため、電子機器の端子材料等として期待されている。
しかしながら、チタン銅には強固な酸化被膜が付着しやすいため、はんだ濡れ性が悪いという問題があり、従来のフラックスでははんだ付け性を向上させることが難しい.
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国特開2002-283097号
【文献】日本国特開2005-334895号
【文献】日本国特開2014-117737号
【文献】日本国特開2016-60957号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記のような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、強固な酸化被膜を形成する金属に対しても濡れ性を向上させうるフラックス及びはんだ組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、強固な酸化被膜を形成する金属であるチタン銅の濡れ性を向上させうる接合体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ジグリコール酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも一種である成分を含むチタンを1.0質量%以上4.0質量%以下含有する銅合金用のフラックスである。
【0007】
本発明によれば、ジグリコール酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも一種である成分を含むため、強固な酸化被膜を形成する金属に対しても濡れ性を向上させうる。
【0008】
本発明において、前記成分が0.1質量%以上20質量%以下含まれていてもよい。
【0009】
はんだ組成物にかかる本発明は、前記フラックスとはんだ合金とを含む。
【0010】
接合体の製造方法にかかる本発明は、前記いずれかのフラックスをチタン及び銅を含む合金からなる部材の前記合金の表面に塗布し、前記フラックスを塗布した前記部材にはんだ合金を配置し、前記部材を加熱することで前記はんだ合金と前記部材を接合して接合体を製造する接合体の製造方法であって、
前記合金はチタンを1.0質量%以上4.0質量%以下含む銅合金である。
【0011】
さらに接合体の製造方法にかかる別の本発明は、前記はんだ組成物をチタン及び銅を含む合金からなる部材の前記合金の表面に配置し、前記はんだ組成物を配置した前記部材を加熱することではんだ合金と前記部材を接合して接合体を製造する製造方法であって、
前記合金はチタンを1.0質量%以上4.0質量%以下含む銅合金である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、強固な酸化被膜を形成する金属に対しても濡れ性を向上させうる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明に係るフラックス、フラックスを含むはんだ組成物及び接合体の製造方法について説明する。
【0014】
本実施形態のフラックスはジグリコール酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも一種である成分(A)(以下、A成分ともいう。)を含む。
本実施形態のフラックスは前記A成分を含むことでフラックスを塗布する金属表面の濡れ性を向上しうる。特に、金属表面に強固な酸化被膜が形成される場合に、酸化被膜によって濡れ性が低下することをより確実に防止することができる。
【0015】
本実施形態の前記A成分として用いられるジグリコール酸の塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、ジグリコール酸ナトリウム、ジグリコール酸アミン、ジグリコール酸カリウム等が挙げられる。
また、ジグリコール酸としては、ジグリコール酸無水物、ジグリコール酸水和物等が挙げられる。
【0016】
本実施形態のフラックスが塗布される金属としては、銅合金が挙げられ、特に、銅合金のうちでもチタン銅等のような従来のフラックスでは濡れ性の向上が不十分である金属が挙げられる。尚、本明細書中において「チタン銅」とは、チタンを1.0~4.0%程度添加した析出硬化形の銅合金を意味し、チタン以外の金属を含んでいてもよい。かかる金属としては鉄等が挙げられる。すなわち、チタン銅合金として好ましくは銅を主成分として、チタン、鉄を含むチタン銅合金等が挙げられる。
【0017】
前記A成分のフラックスにおける含有量は特に限定されるものではないが、例えば、0.1質量%以上20質量%以下、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下、より好ましくは0.3質量%以上5質量%以下等が挙げられる。
前記A成分のフラックスにおける含有量が前記範囲である場合には、より濡れ性を向上させうるフラックスが得られる。
【0018】
本実施形態のフラックスは、前記A成分の他に、公知のフラックスの成分、例えば、樹脂成分、活性剤成分、溶剤成分、酸化防止成分、チキソトロピック成分等を含んでいてもよい。
【0019】
樹脂成分としては、合成樹脂、天然樹脂など、フラックスの樹脂成分として用いられる公知の樹脂成分であれば特に限定されるものではない。例えば、重合ロジン、水添ロジン、天然ロジン、不均化ロジン、アクリル酸変性樹脂等の酸変性ロジン等が挙げられる。
【0020】
前記樹脂成分のフラックスにおける含有量は特に限定されるものではないが、例えば、1.0質量%以上95質量%以下、好ましくは20質量%以上60質量%以下等が挙げられる。
【0021】
活性剤成分としては、フラックスの活性剤成分として用いられる公知の成分であれば特に限定されるものではない。例えば、有機酸、アミンハロゲン塩等を用いることができる。有機酸としては、例えば、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ステアリン酸、安息香酸などが挙げられる。また、アミンハロゲン塩のアミンとしては、ジエチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ジフェニルグアニジン、シクロヘキシルアミンなどが挙げられる。対するハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、アスタチンが挙げられる。
前記活性剤は、単独で、あるいは複数種類を混合して用いることができる。
【0022】
前記活性剤成分のフラックスにおける含有量は特に限定されるものではないが、例えば、1.0質量%以上30質量%以下、好ましくは3.0質量%以上15質量%以下等が挙げられる。
【0023】
溶剤成分としては、フラックスの溶剤成分として用いられる公知の成分であれば特に限定されるものではない。例えば、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(ヘキシルジグリコール)、ジエチレングリコールジブチルエーテル(ジブチルジグリコール)、ジエチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル(2エチルヘキシルジグリコール)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルジグリコール)などのグリコールエーテル等のグリコール系溶剤類;n-ヘキサン、イソヘキサン、n-ヘプタンなどの脂肪族系化合物;酢酸イソプロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルなどのエステル類;メチルエチルケトン、メチル-n-プロピルケトン、ジエチルケトンなどのケトン類;エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノールなどのアルコール類等が挙げられ、好ましくは、グリコール系溶剤が挙げられる。
前記溶媒は、単独で、あるいは複数種類を混合して用いることができる。
【0024】
前記溶剤成分のフラックスにおける含有量は特に限定されるものではないが、例えば、1.0質量%以上95質量%以下、好ましくは20質量%以上60質量%以下等が挙げられる。
【0025】
酸化防止剤成分としては、フラックスの酸化防止剤成分として用いられる公知の成分であれば特に限定されるものではない。例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリマー型酸化防止剤等が挙げられる。
前記酸化防止剤のフラックスにおける含有量は特に限定されるものではないが、例えば、0.1質量%以上50質量%以下、好ましくは1.0質量%以上20質量%以下等が挙げられる。
【0026】
チキソトロピック成分としては、フラックスのチキソトロピック成分として用いられる公知の成分であれば特に限定されるものではない。例えば、水素添加ヒマシ油、脂肪酸アマイド類、オキシ脂肪酸類が挙げられる。
前記チキソトロピック成分のフラックスにおける含有量は特に限定されるものではないが、例えば、0.1質量%以上50質量%以下、好ましくは1.0質量%以上20質量%以下等が挙げられる。
【0027】
本発明のフラックスには、さらに、他の添加剤を含んでいてもよい。
【0028】
本実施形態のフラックスは、はんだ付け前の金属表面に塗布するはんだ付け用フラックスであってもよい。
本実施形態のフラックスは、あるいは、フラックスとはんだ合金とを含む本実施形態のはんだ組成物の成分であってもよい。
以下、本実施形態のはんだ組成物について説明する。
【0029】
本実施形態のはんだ組成物は、前記のフラックスと、任意のはんだ合金とが混合されてなる。
前記はんだ合金は、鉛フリー合金であってもよい。
前記はんだ合金としては、特に限定されるものではなく、鉛フリー(無鉛)のはんだ合金、有鉛のはんだ合金のいずれでもよいが、環境への影響の観点から鉛フリーのはんだ合金が好ましい。
具体的には、鉛フリーのはんだ合金としては、スズ、銀、銅、亜鉛、ビスマス、アンチモン等を含む合金等が挙げられ、より具体的には、Sn/Ag、Sn/Ag/Cu、Sn/Cu、Sn/Ag/Bi、Sn/Bi、Sn/Ag/Cu/Bi、Sn/Sb、Sn/Zn/Bi、Sn/Zn、Sn/Zn/Al、Sn/Ag/Bi/In、Sn/Ag/Cu/Bi/In/Sb、In/Ag等の合金が挙げられる。特に、Sn/Ag/Cuが好ましい。
【0030】
前記はんだ合金のはんだ組成物における含有量は、特に限定されるものではないが、例えば、80質量%以上95質量%以下、好ましくは85質量%以上90質量%以下等が挙げられる。
【0031】
本実施形態のはんだ組成物は、粉末状のはんだ合金と上記本実施形態のフラックスとが混合されたペースト状のソルダーペーストであってもよい。
はんだ組成物がソルダーペーストとして製造される場合には、例えば、前記はんだ合金80質量%以上95質量%以下、前記フラックス5質量%以上20質量%以下で混合されていることが好ましい。
【0032】
本実施形態のはんだ組成物としては、ソルダーペーストに限定されるものではなく、やに入りはんだ等のような、中空の線状の形状に形成されたはんだ合金の中空内にフラックスが充填されたもの等、任意の形態のものが挙げられる。
【0033】
本実施形態のはんだ組成物における前記A成分の含有量は特に限定されるものではないが、濡れ性を向上させる観点からは、例えば、0.01質量%以上0.2質量%以下、好ましくは0.03質量%以上0.5質量%以下であることが挙げられる。 すなわち、はんだ組成物の成分として前記フラックスを配合する場合には、上記A成分の含有量になるように配合することが好ましい。
【0034】
本実施形態のフラックスは、ジグリコール酸及びその塩からなる群から選択される少なくとも一種であるA成分を含むため、金属表面に塗布した場合に、酸化被膜を除去して、濡れ性を向上させることができる。よって、はんだ付け性を向上させることができる。
特に、チタン銅等のように強固な酸化被膜を形成する金属であっても、濡れ性を向上させることができ、はんだ付け性を向上させることができる。
また、本実施形態のフラックスをはんだ組成物に配合した場合には、はんだ組成物が配置された金属表面の濡れ性を向上させることができる。よって、はんだ付け性を向上させることができる。
【0035】
次に、本実施形態のフラックスを使用して接合体を製造する接合体の製造方法(以下、単に製造方法ともいう)について説明する。
本実施形態の製造方法は、前記フラックスをチタン及び銅を含む合金からなる部材に塗布し、前記フラックスを塗布した前記部材にはんだ合金を配置し、前記部材を加熱することで前記はんだ合金と前記部材を接合して接合体を製造する。
【0036】
本実施形態で製造される接合体は、チタン及び銅を含む金属からなる部材とはんだ合金とが接合されている構造体であれば特に限定されるものではない。チタン及び銅を含む金属としては前述のようなチタン銅が挙げられる。
【0037】
本実施形態の製造方法では、チタン及び銅を含む金属からなる部材に、上述したようなA成分を含むフラックスを塗布する。
【0038】
さらに、フラックスを塗布した部材にはんだ合金を配置する。
本実施形態で使用されるはんだ合金は特に限定されるものではないが、上述したような鉛フリーはんだ合金が環境への影響の観点から好ましい。
はんだ合金の形態は特に限定されるものではないが、はんだボール、はんだペースト、糸はんだ等任意の形態のはんだ合金が使用できる。
【0039】
本実施形態の製造方法では、前記はんだ合金が配置された部材を加熱することで前記はんだ合金と前記部材を接合して接合体を製造する。
加熱する温度は、はんだ合金が溶融する温度であれば特に限定されるものではなく、例えば、150℃以上250℃以下等の温度で加熱することが挙げられる。
【0040】
本実施形態の製造方法では、はんだ合金と部材とを接合すると同時に、はんだ合金にさらに別の部材を配置して、加熱することで、はんだ合金によって、部材同士を接合してもよい。
かかる別の部材としては、例えば、コネクタ、リレー、スイッチなどの電子部品が挙げられる。かかる電子部品の電極をはんだ合金を介してプリント基板等の電極と電気的に接合させる場合に、はんだ合金が十分に広がらないと接続強度が確保できない。
本実施形態の製造方法で得られた接合体は、接合する部材の一方の部材(例えば、基板の電極等)がチタン銅等のチタンと銅を含む部材であっても、フラックスを塗布することによりはんだ濡れ性を向上させることができ、はんだが十分に広がるため、高い接合強度を確保することができる。
【0041】
次に、別の本実施形態の接合体の製造方法について説明する。
本実施形態の製造方法は、上述のようなはんだ組成物をチタン及び銅を含む合金からなる部材の表面に配置し、前記はんだ組成物を配置した前記部材を加熱することではんだ合金と前記部材を接合して接合体を製造する接合体の製造方法である。
【0042】
はんだ組成物としては、粉末状のはんだ合金と上記本実施形態のフラックスとが混合されたペースト状のソルダーペーストの他、やに入りはんだ等のような、中空の線状の形状に形成されたはんだ合金の中空内にフラックスが充填されたもの等が挙げられる。
本実施形態の製造方法では、フラックスを含むはんだ組成物が部材に配置された状態で部材を加熱することで、はんだ組成物が溶融する際にはんだ組成物中のフラックスが部材表面の酸化被膜を除去することができ、はんだ濡れ性を向上させることができる。
【0043】
本実施形態にかかるフラックス、はんだ組成物、及び接合体の製造方法は、以上のとおりであるが、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は前記説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【実施例
【0044】
次に、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。尚、本発明は下記の実施例に限定して解釈されるものではない。
【0045】
[試験1]
(フラックスの作製)
以下に示すような材料で表1に示す配合(数字の単位は質量%)で各フラックスを作製した。
作製方法は各材料を加熱容器に投入して、180℃まで加熱し、全材料が溶解して分散したことを確認した。その後、室温にまで冷却して、均一な状態の各フラックスを得た。各フラックスは後述する各実施例及び各比較例に使用される。
【0046】
<材料>
アクリル変性ロジン:KE-604、荒川化学社製
グリコール系溶剤:ヘキシルジグリコール、日本乳化剤社製
硬化ひまし油:ひまし硬化油A、伊藤製油社製
アマイド系チキソ剤:スリパックスZHH、日本化成社製
ハロゲン系活性剤:DBBD、JAIN CHEMICAL社製
ジグリコール酸:試薬、東京化成社製
コハク酸:試薬、東京化成社製
アジピン酸:試薬、東京化成社製
ドデカン二酸:試薬、東京化成社製
【0047】
(試験基板)
厚み0.3mm、縦30mm、横30mmのチタン銅合金板(金属組成:Ti3%含有のチタン-銅合金)、同サイズのニッケル板及び銅板を200℃で30秒間加熱して酸化処理をして酸化被膜を形成した。かかる試験基板に各フラックスを塗布した。その後、はんだボール(直径0.76mm、金属組成Sn3.0Ag0.5Cu)を載置して、250℃のはんだ槽にて1分間加熱して、はんだボールを溶融した。
【0048】
【表1】
【0049】
(はんだ広がり評価)
前記実施例及び比較例の試験基板の加熱後の溶融したはんだの高さをマイクロノギスで測定し、以下の式からはんだ広がり率(%)を算出した。結果を表1にぬれ広がり率として示す。
はんだ広がり率=(はんだボール直径-はんだの高さ)÷はんだボール直径×100
【0050】
表1に示すように、実施例は試験基板の材質を問わずすべての材質の試験基板で広がり率が50%を超えており、すなわち各種金属板に対して濡れ性を向上させることができた。
一方各比較例はニッケル板、銅板に対しては実施例と同程度以下の広がり率であったが、チタン銅についてはすべて広がり率は50%以下であり、実施例に比べると低かった。
【0051】
[試験2]
(はんだ組成物)
前記試験1の実施例1、3及び比較例1及び2で用いたフラックスと、はんだ合金粉末(SAC305:Sn-Ag-Cu合金、粒径20~38μm)とを用いて実施例6,7及び比較例5,6のはんだ組成物(はんだペースト)を作製した。
はんだ組成物は、表2に示す比率でフラックス及びはんだ合金粉末を混合し、各はんだ組成を得た。
【0052】
(試験基板)
基板として前記試験1と同様のチタン銅、ニッケル及び銅板を準備した。該基板を200℃、30秒で酸化処理を施した。開口直径6.5mm、厚み0.2mmのマスクを用いて各はんだ組成物を基板に印刷した。
各基板を250℃のはんだ槽にて加熱して、はんだ組成物の溶融状態を目視にて以下の評価基準で確認した。
(基準)
1:印刷範囲以上にはんだが濡れ広がっている。
2:印刷範囲と同じ部分にはんだがぬれている。
3:印刷範囲よりも、はんだが濡れ広がっていない(濡れている面積は50%以上ある)。
4:印刷範囲よりも、はんだが濡れ広がっていない(濡れている面積は50%未満)。
結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2に示すように、実施例は試験基板の材質を問わず、印刷範囲と同じかそれ以上にはんだが広がっており、すなわち各種金属板に対して濡れ性を向上させることができた。
一方各比較例は、特にチタン銅についてははんだの濡れひろがりが不十分であった。