IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 新潟大学の特許一覧

<>
  • 特許-重金属の分離方法 図1
  • 特許-重金属の分離方法 図2
  • 特許-重金属の分離方法 図3
  • 特許-重金属の分離方法 図4
  • 特許-重金属の分離方法 図5
  • 特許-重金属の分離方法 図6
  • 特許-重金属の分離方法 図7
  • 特許-重金属の分離方法 図8
  • 特許-重金属の分離方法 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】重金属の分離方法
(51)【国際特許分類】
   B09B 3/70 20220101AFI20220907BHJP
   C01B 25/32 20060101ALI20220907BHJP
   B09B 101/30 20220101ALN20220907BHJP
【FI】
B09B3/70
C01B25/32 P
B09B101:30
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019523501
(86)(22)【出願日】2018-06-01
(86)【国際出願番号】 JP2018021139
(87)【国際公開番号】W WO2018225638
(87)【国際公開日】2018-12-13
【審査請求日】2021-03-03
(31)【優先権主張番号】P 2017112428
(32)【優先日】2017-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091292
【弁理士】
【氏名又は名称】増田 達哉
(74)【代理人】
【識別番号】100091627
【弁理士】
【氏名又は名称】朝比 一夫
(72)【発明者】
【氏名】金 熙濬
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-523790(JP,A)
【文献】特開2001-130903(JP,A)
【文献】特開平10-101332(JP,A)
【文献】特開2010-132465(JP,A)
【文献】特開2004-203641(JP,A)
【文献】折原雄也 他,下水汚泥灰からの高効率リン回収方法の開発と重金属除去,化学工学会 第80年会(2015)研究発表講演プログラム集,日本,2015年03月19日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B 1/00-5/00
C02F 1/58、1/62
C01B 25/32
C22B 3/06、3/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンFe、Al、Mgのうちの少なくとも1種重金属を含む被処理物と、pHが-1.0以上1.5以下である酸性の液体とを混合し、前記被処理物中に含まれるリンと、Fe、Al、Mgのうちの少なくとも1種と、重金属と、を溶解させる第1の溶解工程と、
リンと、Fe、Al、Mgのうちの少なくとも1種と、重金属と、が溶解した第1の液体を固体成分と分離する第1の固液分離工程と、
前記第1の液体を第1の析出剤と混合するとともに、pHが10以上のアルカリ性の液体を加えることによりpHを上昇させ、リンと、Fe、Al、Mgのうちの少なくとも1種と、重金属と、を含む第1の固体を析出させる第1の析出工程と、
前記第1の固体を液体成分と分離する第2の固液分離工程と、
前記第1の固体中に含まれるリンを、pHが10以上のアルカリ性の液体で溶解させる第2の溶解工程と、
リンが溶解した第2の液体を、重金属を含む固体成分と分離する第3の固液分離工程と、
前記第2の液体と第2の析出剤とpHが-1.0以上2以下の酸性液体とを混合して、リンを含む第2の固体を析出させる第2の析出工程と、を有し、
前記第1の溶解工程の終了時における液相のpHは、1.5以上6.0以下であり、
前記第1の析出工程の終了時における液相のpHは、2.0以上8.0以下であり、
前記第2の溶解工程の終了時における液相のpHは、10以上14以下であり、
前記第2の析出工程の終了時における液相のpHは、3.0以上12.0以下であり、
前記第2の析出工程で用いる前記第2の析出剤は、Ca(OH) およびCaCO よりなる群から選択される1種または2種であることを特徴とする重金属の分離方法。
【請求項2】
前記第1の析出工程で用いる前記第1の析出剤は、Ca(OH) 、CaCO および、Al、Mg、Fe成分を持つ塩化物よりなる群から選択される1種または2種以上である請求項1に記載の重金属の分離方法。
【請求項3】
前記第2の溶解工程で、NaOHを含む液体を用いる請求項1または2に記載の重金属の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
汚泥灰は、一般に、有用性の高い資源としてのリンを多く含んでおり、リンを分離回収し、有効利用する試みがある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このように、汚泥灰は、一般に、有用性の高い資源としてのリンを多く含んでいるものの、その一方で、比較的高い含有率で重金属も含んでいる。リンとともに重金属を含んでいると、リンを有効利用するためには、あらかじめ重金属を除去する必要がある。
【0004】
しかしながら、従来の方法では、リンの回収率が低く、また、重金属の含有率を十分に低くするためには、処理に要する時間が長く、また、多大なコストがかかるという問題があった。そのため、有用成分としてのリンを含むにもかかわらず、産業廃棄物として埋め立て処分されており、資源の有効活用や環境保護の観点から大きな問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5647838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、リンおよび重金属を含む被処理物から、低コストで効率よく重金属を分離することができる重金属の分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような目的は、下記の本発明により達成される。
【0008】
本発明の重金属の分離方法は、リンとFe、Al、Mgのうちの少なくとも1種と重金属を含む被処理物と、pHが-1.0以上1.5以下である酸性の液体とを混合し、前記被処理物中に含まれるリンと、Fe、Al、Mgのうちの少なくとも1種と、重金属と、を溶解させる第1の溶解工程と、
リンと、Fe、Al、Mgのうちの少なくとも1種と、重金属と、が溶解した第1の液体を固体成分と分離する第1の固液分離工程と、
前記第1の液体を第1の析出剤と混合するとともに、pHが10以上のアルカリ性の液体を加えることによりpHを上昇させ、リンと、Fe、Al、Mgのうちの少なくとも1種と、重金属と、を含む第1の固体を析出させる第1の析出工程と、
前記第1の固体を液体成分と分離する第2の固液分離工程と、
前記第1の固体中に含まれるリンを、pHが10以上のアルカリ性の液体で溶解させる第2の溶解工程と、
リンが溶解した第2の液体を、重金属を含む固体成分と分離する第3の固液分離工程と
前記第2の液体と第2の析出剤とpHが-1.0以上2以下の酸性液体とを混合して、リンを含む第2の固体を析出させる第2の析出工程と、を有し、
前記第1の溶解工程の終了時における液相のpHは、1.5以上6.0以下であり、
前記第1の析出工程の終了時における液相のpHは、2.0以上8.0以下であり、
前記第2の溶解工程の終了時における液相のpHは、10以上14以下であり、
前記第2の析出工程の終了時における液相のpHは、3.0以上12.0以下であり、
前記第2の析出工程で用いる前記第2の析出剤は、Ca(OH) およびCaCO よりなる群から選択される1種または2種であることを特徴とする。
【0016】
本発明の重金属の分離方法では、前記第1の析出工程で用いる前記第1の析出剤は、Ca(OH) 、CaCO および、Al、Mg、Fe成分を持つ塩化物よりなる群から選択される1種または2種以上であることが好ましい。
【0017】
本発明の重金属の分離方法では、前記第2の溶解工程で、NaOHを含む液体を用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、リンおよび重金属を含む被処理物から、低コストで効率よく重金属を分離することができる重金属の分離方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、第1の析出工程の終了時における液相のpHと、最終的なリンの回収率との関係を模式的に示す図である。
図2図2は、実施例1、2および3についての、第1の析出工程の終了時における液相のpHと、析出物のX線回折(XRD)パターンとの対応を示す図である。
図3図3は、実施例1で得られた第2の固体について、リンおよび主要金属元素の回収率(すなわち、被処理物中に含まれていた量に対する第2の固体中に含まれている量の比率)を示すグラフである。
図4図4は、実施例1で得られた第2の固体についての、水溶性試験、ク溶性試験の結果を示すグラフである。
図5図5は、被処理物(汚泥灰)について、酸処理またはアルカリ処理を施した場合のリンの溶出率と、酸・アルカリの濃度との関係の一例を示すグラフである。
図6図6は、第1の溶解工程での酸性の液体の温度、撹拌時間を変更した場合のリンの溶出率の変動を示すグラフである。
図7図7は、第1の溶解工程で各金属を溶出させた後、CaClを添加し、NaOH溶液で所定のpHに処理した場合の各金属(Al、Zn、Mn、Cu、Fe)の析出率の一例を示すグラフである。
図8図8は、第1の溶解工程で各重金属を溶出させた後、CaClを添加し、NaOH溶液で所定のpHに処理した場合の各重金属(As、Ni、Cd、Pd)の析出率の一例を示すグラフである。
図9図9は、被処理物(汚泥灰)を、所定の酸性の液体で処理した場合の処理温度と各金属の溶出率との関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の重金属の分離方法は、リンおよび重金属を含む被処理物と酸性の液体とを混合し、前記被処理物中に含まれるリンおよび重金属を溶解させる第1の溶解工程と、リンおよび重金属が溶解した第1の液体を固体成分と分離する第1の固液分離工程と、前記第1の液体を析出剤と混合するとともにpHを上昇させ、リンおよび重金属を含む第1の固体を析出させる第1の析出工程と、前記第1の固体を液体成分と分離する第2の固液分離工程と、前記第1の固体中に含まれるリンをアルカリ性の液体で溶解させる第2の溶解工程と、リンが溶解した第2の液体を、重金属を含む固体成分と分離する第3の固液分離工程とを有する。
【0021】
これにより、リンおよび重金属を含む被処理物から、低コストで効率よく重金属を分離することができる重金属の分離方法を提供することができる。
【0022】
また、上記のようなことから、例えば、産業廃棄物の量を大幅に削減することができる。より具体的には、最終的な産業廃棄物量を、例えば、被処理物の2体積%以下(例えば、約1.5体積%程度)まで減量することができる。また、産業廃棄物の処理に要する費用も大幅に削減すること(例えば、50分の1以下に削減すること)ができる。
【0023】
また、重金属を除去した後に後処理を行うことにより、リンを、重金属の含有率が極めて低い状態で回収することができる。その結果、有用性の高い資源としてのリンを、被処理物中から好適に回収し、好適に再利用することができる。また、被処理物から、非常に高い回収率(例えば、80%以上)でリンを回収することができる。
【0024】
特に、酸を用いた第1の溶解工程の後に、アルカリを用いた第1の析出工程を行うことにより、第1の析出工程で析出するリン酸塩(例えば、リン酸水素カルシウム2水和物、リン酸カルシウム等)の結晶粒径を好適に制御すること(より具体的には微結晶として析出させること)ができ、その後のアルカリを用いた第2の溶解工程で、リン酸塩を高い溶解率で溶解させることができ、リンを高い回収率で回収することができる。
【0025】
なお、本発明では、重金属とは、対応する単体金属が、25℃において、鉄の比重よりも大きい比重を有する金属元素のことをいう。
【0026】
<第1の溶解工程>
第1の溶解工程では、リンおよび重金属を含む被処理物と、酸性の液体とを混合する。
これにより、被処理物中に含まれるリンおよび重金属を溶解させる。
【0027】
なお、被処理物中において、リンは、通常、酸化物(P等)やリン酸、リン酸塩等の形態で含まれている。本明細書では、これらの形態を含めて原子としてのリンを含む化合物(イオン性物質を含む)や当該化合物中に含まれるリン原子のことを、単にリンということがある。
【0028】
また、被処理物中において、重金属は、金属酸化物(複酸化物を含む)や単体金属、合金、金属塩等の形態で含まれている。本明細書では、これらの形態を含めて原子としての重金属を含む化合物(イオン性物質を含む)や当該化合物中に含まれる重金属原子のことを、単に重金属ということがある。また、他の元素名や元素記号で示す成分についても同様である。
【0029】
本工程で用いる被処理物は、リンおよび重金属を含んでいれば、いかなるものであってもよいが、リンおよび重金属に加え、Fe、Al、Mg等の不純物を含んでいるのが好ましい。
【0030】
これにより、本工程において、被処理物中に含まれるリンおよび重金属とともに、Fe、Al、Mg等の不純物を溶解させることができる。これらの成分は、後の第1の析出工程において、不純物として機能し、リン酸塩(特に、例えば、リン酸水素カルシウム2水和物、リン酸カルシウム等のリン酸のカルシウム塩)の結晶の粗大化をより効果的に防止することができる。その結果、形成されるリン酸塩の結晶は、比較的不安定で、アルカリ性の液体で溶解しやすくなる。その結果、第2の溶解工程で、より高い選択性で、リン酸塩を溶解させることができる。
【0031】
被処理物としては、例えば、汚泥灰を好適に用いることができる。
汚泥灰は、一般に、重金属とともに、貴重な資源であるリンを含んでおり、また、世界各地で大量に発生している。したがって、被処理物として汚泥灰を用いることにより、産業廃棄物量の削減効果が特に大きく、貴重な資源であるリンも多量に回収できる可能性がある。また、汚泥灰は、一般に、リンおよび重金属とともに、Fe、Al、Mg等の不純物をより適切な割合で含有している。したがって、上記のようなリン酸塩の結晶粒径の制御をより好適に行うことができ、重金属の分離効率、リンの回収効率をより向上させることができる。言い換えると、被処理物として汚泥灰を用いることにより、本発明による効果がより顕著に発揮される。
【0032】
本工程で用いる酸性の液体は、特に限定されないが、pH(水素イオン指数)が-1.0以上1.5以下の強酸であるのが好ましい。
【0033】
これにより、安全性を確保しつつ、酸性の液体の使用量を抑制し、本工程を効率よく行うことができる。また、本工程での処理後の組成物(すなわち、被処理物と酸性の液体との混合物)の体積が大きくなりすぎることを効果的に防止することができる。また、その後の工程のし易さ、処理すべき廃液量の削減の観点からも好ましい。
【0034】
本工程で用いる酸性の液体のpHは、-1.0以上1.5以下であるのが好ましいが、特に、-0.5以上1.3以下であるのがより好ましく、0以上1.0以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
【0035】
酸性の液体としては、例えば、硫酸、硝酸、酢酸、塩酸や、これらのうちの2種以上を含む液体等を用いることができる。
【0036】
本工程の終了時における液相(すなわち、リンおよび重金属が溶解した第1の液体)のpHは、0.5以上6.8以下であるのが好ましいが、特に、1.0以上6.5以下であるのがより好ましく、1.5以上6.0以下であるのがさらに好ましい。
【0037】
これにより、リンおよび重金属をより効率よく溶出させることができ、本工程の終了時における固相中におけるリンおよび重金属の残存量をより確実に少なくすることができる。また、後の第1の析出工程より前にリンや重金属が不本意に析出することをより確実に防止することができる。
【0038】
本工程の終了時における液相中へのリンの溶解率は、70%以上であるのが好ましく、80%以上であるのがより好ましく、90%以上であるのがさらに好ましい。
これにより、有用物質であるリンをより効率よく回収することができる。
【0039】
また、本工程は、被処理物と酸性の液体との混合物を撹拌しつつ行うのが好ましい。
これにより、被処理物と酸性の液体とをより効率よく接触させることができ、より効率よく、リンおよび重金属を溶解させることができる。
被処理物と酸性の液体との混合物の撹拌には、各種撹拌装置、各種混合装置を用いることができる。
また、本工程は、バッチ式で行ってもよいし、連続式で行ってもよい。
【0040】
<第1の固液分離工程>
第1の固液分離工程では、リンおよび重金属が溶解した第1の液体を固体成分と分離する。
【0041】
これにより、重金属を実質的に含まない固体を得ることができる。このような固体は、例えば、産業廃棄物ではない一般の廃棄物として廃棄することができる。また、例えば、埋め立て用材や、レンガ、コンクリート等の構成材料として好適に利用することができる。また、このような固体は、リンの含有率が低いため、セメント原料、土地改良材として有効利用も望ましい。
【0042】
固液分離の方法は、特に限定されないが、例えば、デカンテーション、ろ過、遠心分離等が挙げられ、複数の方法を組み合わせて行ってもよい。
【0043】
また、本工程では、必要に応じて、一旦分離された固相を水等により洗浄してもよい。
これにより、酸成分のイオン濃度、固体中のリン、重金属の含有率をより低くすることができる。
【0044】
なお、固相の洗浄に用いた液体は、回収後、先の固液分離により得られた液相と合わせて、次工程に用いてもよい。
【0045】
固液分離された固相中におけるリンの含有率は、3質量%以下であるのが好ましく、1.5質量%以下であるのがより好ましく、1.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0046】
固液分離された固相中における重金属の含有率(ただし、複数種の重金属元素を含む場合には、これらの総量。以下、同様。)は、10質量%以下であるのが好ましく、1質量%以下であるのがより好ましく、0.1質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0047】
<第1の析出工程>
第1の析出工程では、第1の固液分離工程で固体成分(固相)から分離された第1の液体を、析出剤と混合するとともにpHを上昇させ、リンおよび重金属を含む第1の固体を析出させる。特に、リンをリン酸塩(例えば、リン酸水素カルシウム2水和物、リン酸カルシウム等)として析出させる。
【0048】
これにより、後の工程における、リンおよび重金属以外を含む物質の取り扱いが容易となる。また、リンおよび重金属以外を含む物質中におけるリンおよび重金属以外の成分の含有率を低下させることができ、重金属の分離における選択性や、リンを回収における不純物の混入量を低下させることができる。
【0049】
また、このような条件でリン酸塩を析出させることにより、当該リン酸塩の核生成および成長を好適に制御することができ、当該リン酸塩を微結晶として析出させることができる。その結果、後の第2の溶解工程において、当該リン酸塩を溶解させやすくすることができ、リン(溶解状態のリン)を重金属(固体状態の重金属)から好適に分離することができる。
【0050】
また、被処理物が、リンおよび重金属とともに、Fe、Al、Mg等の不純物を含んでいると、本工程において、当該不純物がリン酸塩(特に、リン酸のカルシウム塩)の結晶の粗大化をより効果的に防止することができる。これにより、形成されるリン酸塩の結晶は、比較的不安定で、アルカリ性の液体で溶解しやすくなる。その結果、後の工程で、より高い選択性で、リン酸塩を溶解させることができる。
【0051】
本工程では、析出剤と混合するとともにpHを上昇させることができれば、どのような物質、組成物を用いてもよいが、pHが10以上のアルカリ性液体を用いるのが好ましい。
【0052】
これにより、混合物のpHを好適に上昇させることができ、リンおよび重金属を含む第1の固体をより効率よく析出させることができる。また、後の第2の固液分離工程の完了前にリンや重金属が不本意に再溶解してしまうことをより確実に防止することができる。また、本工程において析出する析出物中に含まれるリン酸塩の結晶が粗大化することをより効果的に防止することができる。
【0053】
析出剤は、リン酸塩等の析出を促進する機能を有していればよく、例えば、CaCl、Ca(OH)、CaCO等のCa系物質、Al塩等のAl系物質、Fe塩等のFe系物質、Mg塩等のMg系物質等を用いることができるが、Ca系物質を用いるのが好ましい。これにより、本工程で、リンをリン酸のカルシウム塩(例えば、リン酸水素カルシウム2水和物、リン酸カルシウム等)として析出させることができ、後の工程をより好適に行うことができる。
【0054】
本工程では、pHが10以上のアルカリ性液体を用いるのが好ましいが、当該アルカリ性液体のpHは、11以上であるのがより好ましく、12以上14以下であるのがさらに好ましい。
【0055】
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮されるとともに、当該アルカリ性液体を容易かつ安定的に入手することができる。
【0056】
また、本工程で、アルカリ性カルシウム化合物(イオン性物質)を用いるのが好ましく、例えば、硫酸アルミニウム、硫酸鉄等の硫酸塩を用いることができるが、CaCl、Ca(OH)、CaCOおよび、Al、Mg、Fe成分を持つ塩化物(例えば、ポリ塩化アルミニウム、塩化鉄等)よりなる群から選択される1種または2種以上を用いるのがより好ましく、CaCl、Ca(OH)およびCaCOよりなる群から選択される1種または2種以上を用いるのがさらに好ましく、CaClを用いるのがもっとも好ましい。
【0057】
これにより、これらのカルシウム化合物は、析出剤として好適に機能させることができ、リン酸のカルシウム塩の一部となるカルシウム成分を系内に効率よく供給しつつ、混合物のpHを好適に調整することができる。その結果、本工程で、第1の液体に混合される物質の使用量を抑制し、本工程を効率よく進行させることができる。また、本工程での混合物中における、カルシウム含有率とpHとのバランスを好適に調整することができ、リンおよび重金属の析出効率を向上させつつ、第1の液体中における不純物の含有率をより低くすることができる。また、後の第2の固液分離工程の完了前にリンや重金属が不本意に再溶解してしまうことをより確実に防止することができる。
【0058】
本工程の終了時における液相のpHは、1.0以上12以下であるのが好ましく、1.5以上9.0以下であるのがより好ましく、2.0以上8.0以下であるのがさらに好ましい。
【0059】
これにより、後の第2の固液分離工程の完了前にリンや重金属が不本意に再溶解してしまうことをより確実に防止することができる。
【0060】
また、pHの上昇に用いる材料の使用量が必要以上に多くなることを防止しつつ、液相中に残存するリン、重金属の量をより少なくすることができる。
【0061】
また、粒径が適度に小さく、不安定なリン酸塩の結晶を多く含む析出物を得ることができる。その結果、後の第2の溶解工程で、リン酸塩をより効率よく溶解させることができる。
【0062】
これに対し、本工程の終了時における液相のpHが低すぎると、リンの析出率が低下して最終的なリンの回収率が低下する。
【0063】
また、本工程の終了時における液相のpHが高すぎると、本工程で得られる析出物(第1の固体)中に含まれるリンのアルカリ性の液体への溶解度、溶解速度が低くなり、最終的なリンの回収率が低下する。
【0064】
図1は、第1の析出工程の終了時における液相のpHと、最終的なリンの回収率との関係を模式的に示す図である。
【0065】
本工程では、以下の条件を満足するように、カルシウムを加えるのが好ましい。すなわち、本工程の終了時における系内のリンの物質量をX[mol]、カルシウムの物質量をXCa[mol]としたとき、1.0≦XCa/X≦4.0の関係を満足するのが好ましく、1.3≦XCa/X≦3.0の関係を満足するのがより好ましく、1.5≦XCa/X≦2.5の関係を満足するのがさらに好ましい。
【0066】
これにより、第1の液体中に含まれていたリンをリン酸のカルシウム塩としてより好適に析出させること(ほぼ100%析出させること)ができ、溶解状態で液相中に残存するリンの割合を特に低くさせることができる。また、本工程において析出する析出物中に含まれるリン酸のカルシウム塩の結晶が粗大化することをより効果的に防止することができる。
【0067】
<第2の固液分離工程>
第2の固液分離工程では、リンおよび重金属を含む第1の固体を、液体成分と分離する。
【0068】
これにより、高濃度のリンおよび重金属を含む固体(第1の固体)と、重金属を実質的に含まない液相とに分離することができる。また、一般に、液相中に含まれるリンの含有量は十分に少ない。
【0069】
このような液相(重金属を実質的に含まず、リンの含有量が十分に少ない液相)は、環境に対する負荷が小さく、排水しても問題がない。また、固液分離された液相は、本発明の重金属の分離方法に利用してもよい。これにより、カルシウムを比較的高い含有率で含む液体を再利用することができ、資源のさらなる有効利用の観点から好ましい。
【0070】
固液分離の方法は、特に限定されないが、例えば、デカンテーション、ろ過、遠心分離等が挙げられ、複数の方法を組み合わせて行ってもよい。
また、本工程では、必要に応じて、一旦分離された固相を水等により洗浄してもよい。
【0071】
固液分離された液相中におけるリンの含有率は、1000ppm以下であるのが好ましく、100ppm以下であるのがより好ましく、10ppm以下であるのがさらに好ましい。
【0072】
固液分離された液相中における重金属の含有率は、4000ppm以下であるのが好ましく、500ppm以下であるのがより好ましく、0.1ppm以下であるのがさらに好ましい。
【0073】
<第2の溶解工程>
第2の溶解工程では、第1の固体中に含まれるリンをアルカリ性の液体で溶解させる。
このようにアルカリ性の液体を用いることにより、第1の固体中に含まれる重金属の溶解を防止しつつ、リンを選択的に溶解させることができる。特に、前述したように、第1の析出工程では、所定の条件でリン酸塩を析出させているため、当該リン酸塩の核生成および成長が好適に制御され、当該リン酸塩がアルカリに溶解しやすい状態になっている。その一方で、重金属は、一般に、アルカリ性の液体には、溶解しにくい。その結果、肥料等に利用可能な有用物質としてのリンと、重金属とを好適に分離することができる。また、最終的な固体廃棄物(産業廃棄物)を少なくすることができる。
【0074】
特に、汚泥灰のような被処理物から直接選択的にリンを溶解させようとする場合(重金属の溶解を防止しつつ、リンを選択的に溶解させようとする場合)に比べて、約3倍の高溶解率でリンを溶解させることができる。
【0075】
また、前述した工程(特に、第1の固液分離工程)で、被処理物はすでに大幅に減量されているため、本工程では、小型の装置(例えば、従来の方法で用いていた処理装置の5分の1程度の体積の装置)を用いることができる。
【0076】
本工程で用いるアルカリ性の液体のpHは、特に限定されないが、10以上であるのが好ましく、11以上14以下であるのがより好ましく、12以上14以下であるのがさらに好ましい。
【0077】
これにより、重金属の再溶解を防止しつつ、リン(リン酸塩)をより効率よく溶解させることができる。また、後の第3の固液分離工程の完了前にリンが不本意に析出してしまうことをより確実に防止することができる。
【0078】
アルカリ性の液体は、液体全体としてアルカリ性を呈するものであればよく、アルカリ性の液体中に含まれるアルカリ性物質としては、例えば、NaOH、KOH、Mg(OH)、Ca(OH)、Al(OH)等の金属水酸化物、CaCO、MgCO等の金属炭酸塩、アンモニア、トリエチルアミン、アニリン等のアミン系物質等が挙げられる。
【0079】
中でも、本工程で用いるアルカリ性の液体は、アルカリ性物質として、金属水酸化物を含んでいるのが好ましく、アルカリ金属の水酸化物を含んでいるのがより好ましく、NaOHを含んでいるのがさらに好ましい。
【0080】
これにより、重金属の再溶解をより効果的に防止しつつ、第1の固体中に含まれるリンをより効率よく溶解させることができる。また、このようなアルカリ性物質は、安価でかつ入手が容易であり、コスト削減、安定的な処理等の観点からも好ましい。
【0081】
本工程の終了時における液相のpHは、特に限定されないが、10以上であるのが好ましく、11以上14以下であるのがより好ましく、12以上14以下であるのがさらに好ましい。
【0082】
これにより、重金属の再溶解をより効果的に防止しつつ、第1の固体中に含まれるリンをより効率よく溶解させることができ、pHの上昇に用いる材料の使用量が必要以上に多くなることを防止しつつ、液相中に残存するリンの量をより少なくすることができる。また、後の第3の固液分離工程の完了前にリンが不本意に析出してしまうことや重金属が不本意に溶解してしまうことをより確実に防止することができる。
【0083】
<第3の固液分離工程>
第3の固液分離工程では、リンが溶解した第2の液体を、重金属を含む固体成分と分離する。
【0084】
これにより、リンと重金属とを分離することができる。また、厳重な処理が求められる重金属を固体として取り扱うことができるため、重金属の取り扱いが容易となる。また、重金属を含む材料の体積を大幅に減少させることができるため、例えば、産業廃棄物として処理する場合であってもその処理が容易となる。また、分離された液相は、重金属を実質的に含んでいないため、産業廃棄物として処理する必要がない。
【0085】
固液分離の方法は、特に限定されないが、例えば、デカンテーション、ろ過、遠心分離等が挙げられ、複数の方法を組み合わせて行ってもよい。
【0086】
また、本工程では、必要に応じて、一旦分離された固相を水等により洗浄してもよい。
これにより、固体中のリンの含有率をより低くすることができる。
【0087】
なお、固相の洗浄に用いた液体は、回収後、先の固液分離により得られた液相と合わせてもよい。
【0088】
固液分離された固相中におけるリンの含有率は、30質量%以下であるのが好ましく、10質量%以下であるのがより好ましく、2質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0089】
固液分離された液相中における重金属の含有率は、1000ppm以下であるのが好ましく、10ppm以下であるのがより好ましく、0.01ppm以下であるのがさらに好ましい。
【0090】
<第2の析出工程>
本実施形態では、前述した第3の固液分離工程の後に、第2の液体を析出剤と混合するとともにpHを低下させ、リンを含む第2の固体を析出させる第2の析出工程をさらに有している。
【0091】
これにより、リンを固体状物質であるリン酸塩(例えば、リン酸水素カルシウム2水和物、リン酸カルシウム等)として取り扱うことができ、保管や輸送等をより好適に行うことができる。特に、本工程では、重金属を実質的にほぼ含まない純度の高いリン酸塩を得ることができる。
【0092】
本工程では、析出剤と混合するとともにpHを下降させることができれば、どのような物質、組成物を用いてもよいが、pHが-1.0以上2以下の酸性液体を用いるのが好ましい。
【0093】
これにより、混合物のpHを好適に低下させることができ、リンを含む第2の固体をより効率よく析出させることができる。また、後の第4の固液分離工程の完了前にリンが不本意に再溶解してしまうことをより確実に防止することができる。
【0094】
本工程では、pHが-1.0以上2以下の酸性液体を用いるのが好ましいが、当該酸性液体のpHは、-0.5以上1.3以下であるのがより好ましく、0以上1.0以下であるのがさらに好ましい。
【0095】
これにより、前述したような効果がより顕著に発揮されるとともに、当該酸性液体を容易かつ安定的に入手することができる。
【0096】
また、本工程で用いる析出剤は、リン酸塩等の析出を促進する機能を有していればよく、当該析出剤としては、例えば、CaCl、Ca(OH)、CaCO等のCa系物質、Al塩等のAl系物質、Fe塩等のFe系物質、Mg塩等のMg系物質等を用いることができる。これにより、アルカリ溶液での溶解性能を調節可能になり、さらに、リン酸塩を、肥料等に有用なリン酸金属塩やリン酸カルシウム塩として得ることができる。
【0097】
特に、本工程では、CaCl、Ca(OH)およびCaCOよりなる群から選択される1種または2種以上を用いるのがより好ましく、CaClを用いるのがより好ましい。
【0098】
これにより、リン酸のカルシウム塩の一部となるカルシウム成分を系内に効率よく供給しつつ、混合物のpHを好適に調整することができる。その結果、本工程で、第2の液体に混合される物質の使用量を抑制し、本工程を効率よく進行させることができる。また、本工程での混合物中における、カルシウム含有率とpHとのバランスを好適に調整することができ、リンの析出効率を向上させつつ、第2の固体中における不純物の含有率をより低くすることができる。また、後の第4の固液分離工程の完了前にリンが不本意に再溶解してしまうことをより確実に防止することができる。
【0099】
本工程の終了時における液相のpHは、2.0以上12.0以下であるのが好ましく2.5以上10.0以下であるのがより好ましく、3.0以上8.0以下であるのがさらに好ましい。
【0100】
これにより、後の第4の固液分離工程の完了前にリンが不本意に再溶解してしまうことをより確実に防止することができる。また、pHの上昇に用いる材料の使用量が必要以上に多くなることを防止しつつ、液相中に残存するリンの量をより少なくすることができる。
【0101】
本工程では、以下の条件を満足するように、カルシウムを加えるのが好ましい。すなわち、本工程の終了時における系内のリンの物質量をX[mol]、カルシウムの物質量をXCa[mol]としたとき、1.0≦XCa/X≦4.0の関係を満足するのが好ましく、1.3≦XCa/X≦3.0の関係を満足するのがより好ましく、1.5≦XCa/X≦2.5の関係を満足するのがさらに好ましい。
【0102】
これにより、第2の液体中に含まれていたリンをリン酸のカルシウム塩としてより好適に析出させることができ、溶解状態で液相中に残存するリンの割合を特に低くさせることができる。
【0103】
<第4の固液分離工程>
本実施形態では、前述した第2の析出工程の後に、リンを含む第2の固体(固相)と液体成分(液相)とを分離する第4の固液分離工程を有している。
【0104】
これにより、リンを含む材料を固体として扱うことができ、その取扱いが容易となる。なお、分離された液相は、重金属を実質的に含んでいないため、産業廃棄液として処理する必要がない。また、分離された液相は、リンの含有率が十分に低いため、当該液相を廃棄しても、有用資源の有効利用の観点から不利ではない。また、分離された第2の固体は、リン酸塩を高純度で含み、重金属の含有率が極めて低いため、肥料等に好適に用いることができる。特に、後処理等を行わなくても、また、後処理を行う場合であっても、簡易な処理で、肥料等に好適に用いることができる。また、固液分離された液相は、本発明の重金属の分離方法に利用してもよい。
【0105】
固液分離の方法は、特に限定されないが、例えば、デカンテーション、ろ過、遠心分離等が挙げられ、複数の方法を組み合わせて行ってもよい。
【0106】
また、本工程では、必要に応じて、一旦分離された固相を水等により洗浄してもよい。
これにより、固体中の塩素イオンの含有率をより低くすることができる。
【0107】
なお、固相の洗浄に用いた液体は、回収後、先の固液分離により得られた液相と合わせてもよい。
【0108】
固液分離された固相(第2の固体)中における重金属の含有率は、1000ppm以下であるのが好ましく、500ppm以下であるのがより好ましく、10ppm以下であるのがさらに好ましい。
【0109】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されない。
【0110】
例えば、本発明の重金属の分離方法は、前述した工程以外の工程(例えば、前処理工程、中間処理工程、後処理工程等)を有していてもよい。
【0111】
また、本発明の重金属の分離方法は、第1の溶解工程と、第1の固液分離工程と、第1の析出工程と、第2の固液分離工程と、第2の溶解工程と、第3の固液分離工程とを有していればよく、第2の析出工程、第4の固液分離工程は有していなくてもよい。
【実施例
【0112】
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0113】
《1》重金属、リンの分離
(実施例1)
まず、汚泥灰を用意し、これに110℃で2時間の乾燥処理を施し、含水率を0%にした。この汚泥灰は、リン、重金属に加え、Fe、Al、Mgを含んでいた。
【0114】
次に、300mLの三角フラスコに1Mの塩酸200mLを入れ、80℃で加熱した後、汚泥灰10gをこの三角フラスコ内に添加し、マグネットスターラーを用いて40分間撹拌した。これにより、汚泥中の酸化リンをリン酸イオンとして溶出させた(第1の溶解工程)。
【0115】
60分間撹拌を行った後、ろ紙を濾過器にセットし、固液分離した(第1の固液分離工程)。
【0116】
500mLのメスフラスコを用いて、固液分離した濾液(液相)である第1の液体をメスアップし、サンプル液をした。
【0117】
サンプル液を希釈し、モリブデン青吸光度法にてリン濃度を測定し、測定結果から、リンの溶出率を算出した。溶出液の分析には、UV分光分析器を用いた。
【0118】
また、ICP-AES、ICP-MSを用いてサンプル液中の金属・重金属の濃度を求め、金属・重金属について、固相に含まれる量と液相に含まれる量とを算出した。
【0119】
次に、第1の液体を用いて調製したサンプル液に対し、溶出したリンの物質量とカルシウムの物質量との比が1:2となるように塩化カルシウムを添加し、1MのNaOH溶液を添加しながら、pHメーターを用いてpHを測定し、撹拌を行いながらリンおよび重金属を析出させた(第1の析出工程)。このとき、リンは、主にリン酸塩として析出した。
【0120】
pHを4に調整した後、さらに30分撹拌し、その後、ろ紙を濾過機にセットし、真空ポンプを用いて固液分離を行った(第2の固液分離工程)。
【0121】
500mLのメスフラスコを用いて、固液分離した濾液(液相)をメスアップした。
メスアップした濾液を特定の割合で希釈し、モリブデン青吸光度法によりリン濃度を測定し、測定結果から、リンの析出率を算出した。リン濃度の測定には、UV分光分析器を用いた。
【0122】
また、ICP-AES、ICP-MSを用いて濾液中の金属・重金属の濃度を求め、金属・重金属について、固相に含まれる量と液相に含まれる量とを算出した。
【0123】
また、第2の固液分離工程で得られた固相については、105℃で2時間乾燥した後に、粉末にし、XRDによる分析も行った。
【0124】
第2の固液分離工程で得られた固相を、乾燥した後、200mLの1.0MのNaOH水溶液が入っている三角フラスコに投入し、60℃で20分間撹拌した。これにより、リンを再溶出させた(第2の溶解工程)。
【0125】
リンが溶解した第2の液体(液相)をろ紙で固液分離し、重金属を含む固体成分(固相)と分離した(第3の固液分離工程)。
【0126】
次に、固液分離した第2の液体に対し、第2の液体中のリンの物質量と、添加するカルシウムの物質量との比が1:2となるように塩化カルシウムを添加し、1Mの塩酸を添加しながら、pHメーターを用いてpHを測定し、撹拌を行いながら、リン酸のカルシウム塩を析出させた(第2の析出工程)。本工程は、液温が20℃以上80℃以下となるようにして行った。
【0127】
pHを2.0~12の間で調整しながら、さらに60分間撹拌した後、固液分離を行い、主としてリン酸のカルシウム塩で構成された固体を得た(第4の固液分離工程)。
【0128】
(実施例2~4、参考例1
第1の析出工程の終了時におけるpHを表1に示すように変更した以外は、前記実施例1と同様にして、被処理物からの重金属、リンの分離を行った。
【0129】
(比較例1)
本比較例では、第1の溶解工程および第1の固液分離工程のみを行った以外は、前記実施例1と同様にして、被処理物からの重金属、リンの分離を行った。
【0130】
(比較例2)
本比較例では、被処理物に対し、1MのNaOH溶液を添加し、pHを14に調整した後、さらに30分撹拌し、その後、ろ紙を濾過機にセットし、真空ポンプを用いて固液分離を行った。
【0131】
前記各実施例、参考例1および前記各比較例の方法での処理条件を表1にまとめて示す。なお、前記各実施例および参考例1では、第1の固液分離工程で分離された固相中におけるリンの含有率は、いずれも、5質量%以下であり、第1の固液分離工程で分離された固相中における重金属の含有率は、いずれも、初期含有率の1%以下であり、第2の固液分離工程で分離された液相中におけるリンの含有率は、いずれも、1質量%以下であり、第2の固液分離工程で分離された液相中における重金属の含有率は、いずれも、1質量%以下であり、第3の固液分離工程で分離された固相中におけるリンの含有率は、いずれも、5質量%以下であり、第3の固液分離工程で分離された固相中における重金属の含有率は、いずれも、初期含有率の90%以上であった。第4の固液分離工程で分離された固相中における重金属の含有率は、いずれも、初期含有率の0.1%以下であった。リンの含有率は、初期含有率の60%以上であった(最高は85%)。
【0132】
【表1】
【0133】
《2》評価
被処理物中に含まれていたリンの総量に対する抽出されたリンの比率(前記各実施例および参考例1については、第4の固液分離工程で分離された固体(固相)として回収されたリンの比率、比較例1、2については、被処理物から液相に移行したリンの比率)から求めた。
【0134】
また、上記のようにしてリンの抽出量を求めた対象物(前記各実施例および参考例1については、第4の固液分離工程で分離された固体(固相)、比較例1、2については、固液分離された液相)に含まれる全固形分に対する重金属の含有率を求めた。
【0135】
なお、リンの溶出量、析出量は、モリブデン青吸光光度法によりリン酸濃度を定量し、その結果から算出した。また、溶出、析出時の金属・重金属の挙動は、ICP分光分析(ICP-AES)・ICP質量分析(ICP-MS)・元素分析機器により算出した。また、析出物の同定は、X線回折(XRD)法とICP-MS法を用いて行った。
これらの結果を表2にまとめて示す。
【0136】
なお、実施例1、2および3についての、第1の析出工程の終了時における液相のpHと、析出物のX線回折(XRD)パターンとの対応を図2に示した。
【0137】
【表2】
【0138】
本発明では、被処理物から重金属およびリンを、好適に分離することができた。
また、上記のようにしてリンの抽出量を求めた対象物(前記各実施例および参考例1については、第4の固液分離工程で分離された固体(固相)、比較例1、2については、固液分離された液相)に含まれる全固形分に対する重金属の含有率を求めたところ、本発明では、被処理物から高い比率でリンが移行した第2の固体中における重金属の含有率は、非常に低かった。したがって、分離された第2の固体は、肥料等に好適に利用することができるものであった。
【0139】
これに対し、比較例では満足のいく結果が得られなかった。すなわち、比較例1では、被処理物から高い割合で重金属およびリンを抽出することができたものの、重金属とリンとを分離することはできなかった。また、比較例2では、リンの抽出率が特に低かった。
【0140】
実施例1で得られた第2の固体について、リンおよび主要金属元素の回収率(被処理物中に含まれていた量に対する第2の固体中に含まれている量の比率)を図3に示す。なお、第2の固体中におけるヒ素(As)回収率は、他の重金属に比べると高いが、第2の固体中におけるヒ素の含有率は46.4mg/kgであり、肥料の基準値である1400mg/kgを大幅に下回っており、安全性に問題はないと考えられる。
【0141】
また、前記各実施例および参考例1で得られた第2の固体について、肥料としての適性を評価する目的で、独立行政法人農林水産消費安全技術センター(FAMIC)により定められている肥料分析法を参考に、水溶性試験およびク溶性試験を行った。
【0142】
水溶性試験では、試料(第2の固体):0.15gに対し溶媒(水)量を12mLとし、常温で30分間撹拌した後、固液分離し、溶解したリン濃度をモリブデン青吸光光度法で測定し、リン溶出率を算出した。
【0143】
ク溶性試験では、試料(第2の固体):0.10gに対しクエン酸水溶液8mLを添加し、30℃で60分間撹拌しながら溶出を行った。ここで、用いたクエン酸溶液は、100gのクエン酸一水和物を水100mLに溶かし、その溶液を5倍希釈したものである。
【0144】
その結果、前記各実施例で得られた第2の固体は、いずれも、水での溶出量が少ない一方で、クエン酸溶出量が多かった。
【0145】
代表的に、実施例1で得られた第2の固体についての、水溶性試験、ク溶性試験の結果を図4に示す。
【0146】
また、第1の溶解工程で用いる酸性の液体を、pHが-1.0以上1.5以下の範囲で変更した以外は、前記実施例および参考例1と同様の方法を行ったところ、前記と同様の結果が得られた。
【0147】
また、第1の析出工程の終了時おける液相のpHが2.0以上10以下となるようにアルカリ性液体の使用量を変更した以外は、前記実施例および参考例1と同様の方法を行ったところ、前記と同様の結果が得られた。
【0148】
また、第1の析出工程の終了時における系内のリンの物質量をX[mol]、カルシウムの物質量をXCa[mol]としたとき、XCa/Xの値が1.3以上3.0以下となるように析出剤の使用量を変更した以外は、前記実施例および参考例1と同様の方法を行ったところ、前記と同様の結果が得られた。
【0149】
また、第2の析出工程の終了時における液相のpHが2.0以上12.0以下となるように酸性液体の使用量を変更した以外は、前記実施例および参考例1と同様の方法を行ったところ、前記と同様の結果が得られた。
【0150】
また、第2の析出工程で用いる酸性液体を、pHが-1.0以上2以下の範囲で変更した以外は、前記実施例および参考例1と同様の方法を行ったところ、前記と同様の結果が得られた。
【0151】
また、第2の析出工程の終了時における系内のリンの物質量をX[mol]、カルシウムの物質量をXCa[mol]としたとき、XCa/Xの値が1.3以上3.0以下となるように析出剤の使用量を変更した以外は、前記実施例および参考例1と同様の方法を行ったところ、前記と同様の結果が得られた。
【0152】
また、第1の析出工程、第2の析出工程で、CaClの代わりに、Ca(OH)およびCaCOを用いた以外は、前記実施例および参考例1と同様の方法を行ったところ、前記と同様の結果が得られた。
【0153】
また、被処理物(汚泥灰)について、酸処理またはアルカリ処理を施した場合のリンの溶出率と、酸・アルカリの濃度との関係の一例を図5に示す。
【0154】
また、第1の溶解工程での酸性の液体の温度、撹拌時間を変更した場合のリンの溶出率の変動を図6に示す。
【0155】
また、被処理物(汚泥灰)を第1の溶解工程で各金属を溶出させた後、CaClを添加し、NaOH溶液で所定のpHに処理した場合の各金属(Al、Zn、Mn、Cu、Fe)の析出率の一例を図7に示し、被処理物(汚泥灰)を第1の溶解工程で各重金属を溶出させた後、CaClを添加し、NaOH溶液で所定のpHに処理した場合の各重金属(As、Ni、Cd、Pd)の析出率の一例を図8に示す。
【0156】
また、被処理物(汚泥灰)を、所定の酸性の液体で処理した場合の処理温度と各金属の溶出率との関係の一例を図9に示す。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明の重金属の分離方法は、リンおよび重金属を含む被処理物と酸性の液体とを混合し、前記被処理物中に含まれるリンおよび重金属を溶解させる第1の溶解工程と、リンおよび重金属が溶解した第1の液体を固体成分と分離する第1の固液分離工程と、前記第1の液体を析出剤と混合するとともにpHを上昇させ、リンおよび重金属を含む第1の固体を析出させる第1の析出工程と、前記第1の固体を液体成分と分離する第2の固液分離工程と、前記第1の固体中に含まれるリンをアルカリ性の液体で溶解させる第2の溶解工程と、リンが溶解した第2の液体を、重金属を含む固体成分と分離する第3の固液分離工程とを有する。そのため、リンおよび重金属を含む被処理物から、低コストで効率よく重金属を分離することができる重金属の分離方法を提供することができる。したがって、本発明の重金属の分離方法は、産業上の利用可能性を有する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9