(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】MEISタンパク質を阻害する組み合わせ組成物
(51)【国際特許分類】
C12N 5/078 20100101AFI20220907BHJP
C12N 5/0735 20100101ALI20220907BHJP
C12N 5/0789 20100101ALI20220907BHJP
A61K 31/166 20060101ALI20220907BHJP
A61K 31/167 20060101ALI20220907BHJP
A61K 31/15 20060101ALI20220907BHJP
A61K 35/28 20150101ALI20220907BHJP
A61K 35/51 20150101ALI20220907BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
C12N5/078
C12N5/0735
C12N5/0789
A61K31/166
A61K31/167
A61K31/15
A61K35/28
A61K35/51
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2019524350
(86)(22)【出願日】2017-09-25
(86)【国際出願番号】 TR2017050445
(87)【国際公開番号】W WO2018203855
(87)【国際公開日】2018-11-08
【審査請求日】2020-09-15
(32)【優先日】2016-11-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TR
(73)【特許権者】
【識別番号】512081166
【氏名又は名称】イェディテペ・ウニヴェルシテシ
【氏名又は名称原語表記】YEDITEPE UNIVERSITESI
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】ファーティフ・コジャバシュ
(72)【発明者】
【氏名】ライフェ・ディレク・トゥラン
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】Miller, M. E. et al.,Meis1 Is Required for Adult Mouse Erythropoiesis, Megakaryopoiesis and Hematopoietic Stem Cell Expansion,PLoS One,2016年03月17日,Vol.11, No.3,e0151584,doi:10.1371/journal.pone.0151584
【文献】Oyama, K. et al.,Regeneration potential of adult cardiac myocytes,Cell Research,2013年,Vol.23, No.8,p.978-979,doi:10.1038/cr.2013.78
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 45/00-45/08
A61K 38/00-38/58
A61K 31/00-31/80
A61K 35/00-35/768
C12N 5/00- 5/28
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された細胞、培地、増殖因
子およびMEISi阻害因子を含
む、MEISタンパク質を阻害する組み合わせ
組成物であって、ここで、前記細胞が、マウス骨髄、ヒト骨髄またはヒト臍帯血から単離された細胞であり、かつ前記培地が、pH値7.2を有し、ウシ血清アルブミン、組み換えインスリン、トランスフェリン、2-メルカプトエタノールおよびIMDM培地を含有するステムスパン培地であり、かつ前記増殖因子が、造血幹細胞因子(SCF)、胎児肝臓チロシンキナーゼ-3リガンド(Flt3L)およびスロンボポイエチン(TPO)であり、かつ前記MEISi阻害因子が、4-[2-(ベンジルアミノ)-2-オキソエトキシ]-N-(2,3-ジメチルフェニル)ベンズアミド(MEISi-1)または4-ヒドロキシ-N’-[(Z)-(2-オキソナフタレン-1-イリデン)メチル]ベンゾヒドラジド(MEISi-2)である、MEISタンパク質を阻害する組み合わせ組成物。
【請求項2】
成人組織および胚性細胞から得られた造血幹細胞
(HSC)の増殖を可能とする
、請求項1に記載のMEISタンパク質を阻害する組み合わせ
組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造血幹細胞(HSC)の増殖に有効であるMEISタンパク質を阻害する組み合わせ組成物に関連する。
【背景技術】
【0002】
造血幹細胞(HSC)の最も顕著な特徴は、自己複製能と複数タイプの細胞に分化する能力である。これらの能力により、HSCは、将来的に体の造血活性に必要とされる再生能を維持しつつも全てのタイプの血液細胞に形質転換することができる。HSCは、それらの自己複製能により、血液病の治療のためのHSC移植に頻繁に用いられている。しかしながら、適切なドナーがこれらの移植のために見つかったとしても、臍帯血などの供給源から取得された同種異系間のHSC数は、有効な移植に十分ではない。それゆえ、HSCのエクスビボ増殖のための研究はこのような治療適用に必要である。さらに、造血細胞において、遺伝子調節技術後、これらの細胞の単一細胞の選別および増殖が必要とされている。
【0003】
ある文献の適用では、マウスにおけるHSCサイレンシング遺伝子の欠失がHSCの増殖を誘発することが観察されている。MEIS1タンパク質は、これらの標的の最も注目されているものの1つであり、幹細胞増殖技術における治療上の標的とされている。
【0004】
MEISタンパク質(MEIS1、MEIS2およびMEIS3)は、様々なドメインから構成されている。Pbx1ドメインは、MEIS1とPbx1タンパク質との相互作用および共活性化に有効である。このドメインは、MEIS1タンパク質のN末端のアミノ酸69~194に局在する。別の重要なドメインは、一般にアミノ酸335~390を包含するC末端を含むトランス活性化ドメインである。別の重要なドメインは、これらのタンパク質が後に名付けられるホメオボックスドメイン(ホメオドメインとも称される)である。このドメインの大きさは、MEIS1タンパク質で約62アミノ酸であり、アミノ酸272~336を含む。DNAのMEIS1タンパク質のMEIS1特異的ヌクレオチド配列は、TGACAGに結合することを可能にする。この結合ドメインは、MEISタンパク質(すなわち、MEIS1、MEIS2およびMEIS3タンパク質)において保護され、同一であるタンパク質配列を有する。MEISタンパク質がDNAにこのドメインを介して結合し、MEIS1特異的DNA結合ヌクレオチド配列を有するという事実は、ホメオドメインを阻害因子実験のための最良の標的とするものである。
【0005】
MEISタンパク質(MEIS1、MEIS2およびMEIS3)は、TALEクラスホメオドメインを含むホメオボックスタンパク質ファミリーに属する。ホメオボックスタンパク質は、核タンパク質であり、それらは、主に転写因子として機能する。MEIS1タンパク質はまた、心臓再生における心筋細胞サイクルを阻害する特徴を有する。
【0006】
米国特許文献第US20150353890号は、胚性造血幹細胞の増殖およびそれを必要とする患者への造血機能の提供に必要とされるキット、組成物および方法に関する。
【0007】
欧州特許文献第EP2236131号は、サーチュイン脱アセチル化酵素タンパク質の活性を調節するための方法および組成物を開示する。
【0008】
国際特許文献第WO2015148716号は、ヒト造血細胞/前駆細胞のエクスビボ増殖のために得られた方法および組成物を開示する。
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、造血幹細胞の増殖に有効なMEISタンパク質(MEIS1、MEIS2およびMEIS3)を阻害する組み合わせ組成物を提供することである。
【0010】
本発明の別の目的は、細胞膜を容易に通過することができ、細胞におけるその活性を達成する組み合わせ組成物を提供することである。
【0011】
本発明のさらなる目的は、濃度依存的にMEISタンパク質の活性を阻害する組み合わせ組成物を提供することである。
【0012】
本発明の別の目的は、マウス造血幹細胞のエクスビボ増殖を誘導する組み合わせ組成物を提供することである。
【0013】
本発明の別の目的は、ヒト臍帯血造血幹細胞のエクスビボ増殖を誘導する組み合わせ組成物を提供することである。
【0014】
本発明の別の目的は、ヒト骨髄および末梢造血幹細胞のエクスビボ増殖を誘導する組み合わせ組成物を提供することである。
【0015】
本発明のさらなる目的は、造血細胞における遺伝子調節後に造血幹細胞の増殖を誘導する組み合わせ組成物を提供することである。
【0016】
本発明の別の目的は、インビボ前臨床試験においてMEIS阻害を行うことによって造血幹細胞の増殖を高める組み合わせ組成物を提供することである。
【0017】
本発明の別の目的は、p21、Hifla、Hif2a遺伝子発現を低下させる組み合わせ組成物を提供することである。
【0018】
本発明のさらなる目的は、GEMM(顆粒球、赤血球、マクロファージ、巨核球)造血幹細胞コロニー数を5倍以上増加させる組み合わせ組成物を提供することである。
【0019】
本発明の別の目的は、赤血球前駆細胞の数を増加させる組み合わせ組成物を提供することである。
【0020】
本発明のさらなる別の目的は、MEISタンパク質の転写活性を阻害する組み合わせ組成物を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、MEISi-1によるp21-ルシフェラーゼ活性の阻害の図である。
【
図2】
図2は、MEISi-2によるp21-ルシフェラーゼ活性の阻害の図である。
【
図3】
図3は、MEIS1経路(p21、Hif1a、Hif2a)におけるMEIS阻害因子(MEISi-1およびMEISi-2)の効果のリアルタイムPCR分析の図である。
【
図4】
図4は、L929(マウス線維芽)細胞株に適用されたMEIS阻害因子(MEISi-1およびMEISi-2)の細胞毒性分析の図である。
【
図5】
図5は、用量依存的マウス造血細胞増殖に対する投与7日後のMEIS阻害因子の効果の図である。
【
図6】
図6は、ヒト造血細胞増殖に対するMEIS阻害因子の効果の細胞計数結果のフロー分析の図である。(A)CD34+、(B)CD133+、(C)CD34+CD133+、(D)ALDHbr抗体
【
図7】
図7は、MEISi-1を適用したLin-幹細胞および前駆細胞(骨髄から単離し、磁気分離の結果として取得)、およびMEISi-1でそれらの増殖7日後のLSKフロー分析の図である。
【
図8】
図8は、MEISi-2を適用したLin-幹細胞および前駆細胞(骨髄から単離し、磁気分離の結果として取得)、およびMEISi-1でそれらの増殖7日後のLSKフロー分析の図である。
【
図9】
図9は、CFU実験によるマウスHSCのインビトロ機能的増殖および形成される異なるコロニーの比率を示す。
【
図10】
図10は、MEIS阻害因子MEISi-1およびMEISI-2のマウスへの皮下注射10日後の下記細胞のインビボ機能的増殖のフロー分析を示す; (A)LSKCD150+CD48-低HSC。 (B)LSKCD34低HSC。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
本発明は、MEISタンパク質を阻害する小分子から構成される組み合わせ組成物であり、前記分子はまた、エクスビボおよびインビボHSC増殖に有効である。
【0023】
本発明の組み合わせ組成物を構成するMEISタンパク質であるMEIS1、MEIS2およびMEIS3タンパク質は、幹細胞移植に必要とされる幹細胞の増殖技術に多大な貢献をしてきた。
【0024】
*本明細書に開示され、本発明を構成する阻害因子は、「MEISi-1」と略称され、MEIS阻害因子-1を意味するものとする
【0025】
*MEISi-2は、MEIS阻害因子-2を意味する。本発明の目的を達成するために開発されている「MEISタンパク質を阻害する組み合わせ」に関する図が添付されて供される。
図1は、MEISi-1によるp21-ルシフェラーゼ活性の阻害の図である。
図2は、MEISi-2によるp21-ルシフェラーゼ活性の阻害の図である。
図3は、MEIS1経路(p21、Hif1a、Hif2a)におけるMEIS阻害因子(MEISi-1およびMEISi-2)の効果のリアルタイムPCR分析の図である。
図4は、L929(マウス線維芽)細胞株に適用されたMEIS阻害因子(MEISi-1およびMEISi-2)の細胞毒性分析の図である。
図5は、用量依存的マウス造血細胞増殖に対する投与7日後のMEIS阻害因子の効果の図である。
図6は、ヒト造血細胞増殖に対するMEIS阻害因子の効果の細胞計数結果のフロー分析の図である。
(A)CD34+、(B)CD133+、(C)CD34+CD133+、(D)ALDHbr抗体
図7は、MEISi-1を適用したLin-幹細胞および前駆細胞(骨髄から単離し、磁気分離の結果として取得)、およびMEISi-1でそれらの増殖7日後のLSKフロー分析の図である。
図8は、MEISi-2を適用したLin-幹細胞および前駆細胞(骨髄から単離し、磁気分離の結果として取得)、およびMEISi-1でそれらの増殖7日後のLSKフロー分析の図である。
図9は、CFU実験によるマウスHSCのインビトロ機能的増殖および形成される異なるコロニーの比率を示す。
図10は、MEIS阻害因子MEISi-1およびMEISI-2のマウスへの皮下注射10日後の下記細胞のインビボ機能的増殖のフロー分析を示す;
(A)LSKCD150+CD48低HSC。
(B)LSKCD34低HSC。
【0026】
インシリコ、インビトロおよびインビボ実験により、MEISタンパク質(MEIS1、MEIS2、MEIS3)を阻害する製剤が得られる。
【実施例】
【0027】
実験研究
本発明の組成物には、
-MEISi阻害因子、
-単離の結果として得られる細胞、
-培地、
-増殖因子
が含まれる。
【0028】
MEISi阻害因子は、MEISi-1およびMEISi-2から構成される。よって、4-[2-(ベンジルアミノ)-2-オキソエトキシ]-N-(2,3-ジメチルフェニル)ベンズアミド(388.49g/molの分子量)を基準としてMEISi-1阻害因子についてモル濃度を算出した。
【0029】
有効な用量は、用量依存的インビトロ実験により1μMであると決定した。
【0030】
4-ヒドロキシ-N’-[(Z)-(2-オキソナフタレン-1-イリデン)メチル]ベンゾヒドラジド(306.32g/molの分子量)を基準としてMEISi-2阻害因子についてモル濃度を算出した。
【0031】
有効な用量は、用量依存的インビトロ実験により1μMであると決定した。
【0032】
細胞は、マウス骨髄、ヒト骨髄、およびヒト臍帯血から取得した。これらの細胞を、血清を含まない培養培地であるステムスパン培地中でインキュベートした。
【0033】
ステムスパン培地を培地として使用し、この培地は、ウシ血清アルブミン、組み換えインスリン、トランスフェリン、2-メルカプトエタノール、および栄養補給したIMDM培地を含有する。この培地のpH値は7.2である。ステムスパン培地は、各培養前に新たに調製し、増殖因子を付加する。
【0034】
用いられる増殖因子は、SCF(造血幹細胞因子)、Flt3L(胎児肝臓チロシンキナーゼ-3リガンド)、およびTPO(スロンボポイエチン)である。
【0035】
特性実験
上記に記載の内容によって得られた本発明の組み合わせにおいて、単離の結果として得られた細胞を、幹細胞増殖因子を含む培地中に撒種し、MEISi-1またはMEIS2で処理した。次いで、37℃にて5% CO2および通常のO2レベルで約1週間から10日間インキュベートした後、細胞の増殖を、遺伝子調節技術を必要とすることなく試験した。この増殖の結果として、著しい増殖が観察され、これらの結果はフローサイトメトリー分析によって支持された。
【0036】
下記の特性実験をMEIS阻害因子について行った;
1-インシリコ薬物スクリーニング
2-インビトロルシフェラーゼアッセイ
3-PCR経路分析
4-エクスビボHSC増殖試験
5-インビボHSC増殖、および
6-細胞毒性分析
【0037】
1-MEISホメオドメインに対するインシリコ薬物スクリーニング
MEISに対するインシリコ薬物スクリーニングを行うために、ホメオドメインを、標的DNAと相互作用するアミノ酸について解析した。
【0038】
MEISホメオドメインがTGACAGヌクレオチドに結合するために介するアミノ酸を決定するために2つの異なる経路を調べる:
a)MEISのホメオドメインにおけるホモログ/保護アミノ酸ドメインおよびそれが属するTALEタンパク質、ならびにDNAに結合するための保護アミノ酸を解析した。
b)Pbx1は、MEISと同一ファミリーに属するタンパク質である。Pbx1ホメオドメインの結晶構造を調べ;三次構造比較は、MEISホメオドメインの結晶構造を用いてこの構造について行い;次いでMEISホメオドメインタンパク質がDNAと結合する可能性のあるアミノ酸を解析した。
-続いて、グリッドボックス(gridbox)がDNAに結合するために必須であるMEISホメオドメインアミノ酸の周辺で見出され、バーチャル阻害剤スクリーニング(virtual inhibitor screening)を行った。
-PubChemおよびZINCデータベースから100万個の小分子の三次構造を取得した。100万個の分子の自動化スクリーニングは、AutoDockVina 1.1.2およびPaDEL-ADVプログラムを用いることによって実施し、可能性のある相互作用部分を解析した。
表1:MEISi阻害因子のホメオドメイン結合エネルギーの値(kcal/mol)
【表1】
【0039】
さらに、実施した試験を他のTALEホメオドメインと比較し、その結合エネルギーを調べ、それによりMEIS特異的阻害因子を決定した(表1)。
【0040】
2-インビトロルシフェラーゼレポーターアッセイによるMEIS1阻害因子の決定
MEIS阻害因子は、ルシフェラーゼレポーターアッセイを行うことにより試験した。MEISタンパク質は、漸増用量のp21プロモーターを含有するルシフェラーゼレポーターを活性化することが観察された。MEIS1によって活性化されるp21遺伝子プロモーターを含むpGL2ベクターを、ルシフェラーゼアッセイで用いた。それゆえ、0.8μgのp21-pGL2、400ngのMEIS1発現ベクターpCMVSPORT6-MEIS1(Open BioSystems)、および0.2μgのpCMV-LacZ(内部コントロール)ベクターをCOS細胞に一緒にトランスフェクトさせた。4時間後、該細胞をプロトタイプMEIS阻害因子(0.1、1、および10μM濃度)で処理した。6ウェルプレートおよびリポフェクタミンをトランスフェクションに用いた。48時間後、該細胞を溶解し、試料を収集し、ルシフェラーゼ活性を調べた。このためにPromegaのレポーターシステム(Promega Dual-Glo(登録商標)ルシフェラーゼアッセイシステム)を用いた。ルシフェラーゼ測定は、β-gal測定により標準化した(測定は420nmで行った)。Thermo Lab system Lumino scan Ascent装置をルシフェラーゼ測定に用いた。これらの実験の結果として、MEISホメオドメインを標的とし、他のTALEホメオドメインと比較して行ったインシリコ実験により、MEIS特異的なヒットを調べることができた(実験結果(ER):ER-A)。
【0041】
3-リアルタイムRT-PCRによるMEIS阻害因子実験
HSCは、各阻害因子について調製し(6ウェルで3回)、DMSOを含有する細胞シリーズを対照群として用いた。各可能性のある小分子について、アッセイを0.1、1、および10μMの濃度で行い;該細胞をトリプシン処理し、3日後に回収し、RNA単離を行うまでトリゾール中で保存した。RNA抽出をQiagenのRNeasyミニキットおよびプロトコルを用いて行った。cDNAは、InvitrogenのSuperscript II RTシステムを用いることにより2μgのRNAから合成した。アッセイは、SyberGreen(AppliedBiosystems)を用いてBioRad CFX 96 Real Time PCR装置で実施した。GAPDHをコントロール遺伝子として用い、遺伝子発現をddCT法により標準化するために用いた。MEIS1によって活性化されることが知られているp21、Hif-1アルファ(Hif-1α)、Hif-2アルファ(Hif-2α)遺伝子発現のレベルを調べ、DMSO対照群によって調節した(
図3)(ER:B)。
【0042】
4-エクスビボHSC増殖におけるMEIS阻害因子の効果の決定
マウスからの骨髄の単離およびHSC精製を行った。このために、8~12週齢のマウスをイソフルランで安楽死させ、骨髄細胞を大腿骨および脛骨から取得した。簡単に説明すると、Lin-、Sca1+、c-Kit+、CD34低細胞(長期HSC)は、ビオチンを有する細胞株混合物(抗CD3、抗CD5、抗B220、抗Mac-1、抗Gr1、抗Ter119;Stem Cell Technologies)、続いてストレプタビジン-PE/Cy5.5、抗Sca-1-FITC、抗KIT-APC、および抗CD34-PE染色で染色することによって取得した。SCF培地として公知のHSC培地を単離された骨髄細胞の培養に用いた。SCF培地は、10μg/mlのヘパリン(Sigma-Aldrich)、10ng/mlのマウスSCF(R&D system)、20ng/mlのマウスTPO(R&D system)、20ng/mlのマウスIGF-2(R&D system)を加えた血清を含まないステムスパン培地(Stem Cell Technologies)から構成される。
【0043】
HSC出現頻度と数:
骨髄から取得したLin-細胞をMEIS阻害因子またはDMSOを含む細胞培養中で10日間処理し、次いで造血細胞の数(
図4)とHSCの割合(
図5および6)を調べた。HSC数を調べるために、関連する表面抗原(Lin-、Sca1+、c-Kit+、CD34-)を上記の実験と同様に蛍光色素を抱合した抗体で染色し、フローサイトメトリーで解析した(ER:C)。
【0044】
HSCのインビトロ機能的増殖および増加したコロニー数:
細胞培養7日後、MEIS阻害因子またはDMSOで処理したHCS数を調べた。DMSOは対照群である。2000個の細胞を適切な半流動寒天培地(Methocult、M3434、Stem Cell Technologies)中で培養し、10~14日後、コロニー数を調べ、コロニー形成単位アッセイ(CFUアッセイ)を算出した。CFUアッセイとともに、HSCのインビトロ機能増殖、ならびに生じた異なるコロニーの顆粒球、赤血球、マクロファージ、巨核球(GEMM)、顆粒球単球(GM)、およびBFU-E比を示した(
図7)(ER:D)。
【0045】
ヒトHSC増殖:
骨髄または臍帯血から得た細胞をPercollで分離し、単核細胞を得た。それらを、HSC培地を含有するチューブに移した。SCF培地として公知のHSC培地を、単離した骨髄および臍帯血HSCの培養に用いた。SCF培地は、ヒトサイトカイン混合物(ステムスパン(登録商標)CC100、Stem Cell Technologies、カタログ番号02690)および1%のPSA(10.000ユニット/mlのペニシリンおよび10.000ug/mlのストレプトマイシンおよび25μg/mLのアンホテリシンB、Gibco、カタログ番号15240062)を含む血清フリーのステムスパン培地(Stem Cell Technologies)から構成される。HSC精製後、HSCを96ウェルプレート(Corning,3799)に1ウェルあたり200~300個のHSCで撒種し;次いで最大200μlのMEIS阻害因子(SCF培地中で混合)を各細胞に加え、それらを37℃にて5% CO2および通常のO2レベルで7~10日間インキュベートした。次いで、HSCおよび他の造血前駆細胞の数および割合(頻度)を調べた。結果をDMSOで処理した対照群と比較した(ER:E)。
【0046】
5-MEIS阻害因子によるHSCのインビボ増殖
小分子を用いることによるHSCのエクスビボ増殖の代わりに、MEIS阻害因子をインビボHSC増殖に直接用いることも可能であることが示された。注入するMEIS阻害因子を0.5mg/kg~10mg/kgで腹腔内に投与した。有効なインキュベーションを確実なものとするために、前記阻害因子を3つの異なる用量でマウスに投与し;投与10日後、マウスの骨髄から得られたHSCの量を調べた(
図9)(ER:F)。
【0047】
6-MEIS阻害因子の細胞毒性分析
L929マウス線維芽細胞株をMEIS阻害因子の細胞毒性分析に用いた。該細胞を96ウェルプレート(Corning,3799)に1ウェルあたり2000個の細胞で撒種した。撒種翌日に、該細胞を、各ウェルに最大200μlのDMEM培地中に混合したMEIS1阻害因子1(MEISi-1)およびMEIS1阻害因子2(MEISi-2)による0.1μM、1μM、10μMの最終濃度を用いて、勾配濃度法により異なる用量で処理し、37℃にて5% CO2および通常のO2レベルでインキュベートした。インキュベーション4日後、10μlのWST1細胞増殖溶液(Boster、AR1159)を加え、4時間のインキュベーション後、吸光度の測定をThermo Lab system Multiskan Spektrum(ER-G)により450nmで行った。
【0048】
実験結果
実験結果を(ER)と略記し、関連する結果を下記に記載する。
A-インビボルシフェラーゼ実験を用いて、MEIS阻害因子-1(MEISi-1)およびMEIS阻害因子-2(MEISi-2)と称するMEIS阻害因子を最初に調べた。これらの阻害因子(MEISi-1およびMEISi-2)は、p21-Luc MEISレポーターを濃度依存的に阻害する(
図1および
図2)。
B-MEISi-1およびMEISi-2(開発されたMEIS阻害因子である)は、MEIS1経路におけるp21、Hif-1アルファ(Hif-1α)、Hif-2アルファ(Hif-2α)遺伝子の発現を減少させることが知見された(
図3)。
C-10日後のMEISi-1およびMEISi-2で処理した造血細胞数を調べると、2.5倍までの用量依存的増加を測定した(
図4)。MEISi-1による処理では、HSC数において10倍までの増加が見られた(
図5)。この増加は用量に依存する(
図5)。さらに、MEISi-2で処理したLin-細胞では、HSC数において3倍までの増加が見られた(
図6)。
D-CFU-GEMMコロニーの増加数から、MEIS阻害因子の適用がHSC数を増加させることが見られた(
図7)。MEIS阻害因子は、有効にHSCの機能的に増加させることができる。
E-全ての結果を解析すると、MEIS阻害因子がヒトHSCの機能的なエクスビボ増殖を引き起こすことが観察される(
図8)。MEISi-1およびMEISi-2を用いた場合、ヒト造血細胞培養におけるCD34+HSC数(
図8A)、CD133+HSC数(
図8B)、CD34+CD133 HSC数(
図8C)、およびALDHBr HSC数(
図8D)は、DMSO対照群と比較して2倍増加した。
F-MEISi-1およびMEISi-2をインビボで用いた場合、マウス骨髄におけるHSC数(
図9A、LSKCD34低細胞)および血液におけるHSC数(
図9B、LSKCD150+CD48細胞)の持続的な増加が示された。つまり、MEIS阻害因子がマウスおよびヒトHSCの機能的なエクスビボ増殖を実現することが観察された(
図5-8)。
G-得られた結果において、MEIS阻害因子MEISi-1およびMEISi-2は、0.1、1、および10μMの用量で細胞毒性を有しないことが観察された(
図10)。
【0049】
結果として、MEIS阻害因子を実施した実験において初めて調べた。インシリコ実験は、MEISホメオドメインを標的とし、他のTALEホメオドメインと比較して行い、MEIS特異的なヒットを調べることを可能とした(表1)。
【0050】
これらの阻害因子は
p21-Luc MEISレポーターを阻害する(
図1および
図2)
MEIS1経路における遺伝子発現を減少させる(
図3)
MEIS阻害因子は、マウスおよびヒト機能HSCのエクスビボ増殖を引き起こす(
図4、5、6、7、8)。
【0051】
MEISi-1およびMEISi-2をインビボで用いた場合、骨髄および末梢血におけるHSC数が増加したことが示された(
図9)
【0052】
MEIS阻害因子1(MEISi-1)およびMEIS阻害因子2(MEISi-2)は細胞毒性を有しないことを確認した(
図10)
【0053】
本発明の出願
本発明は、臍帯幹細胞およびヒト骨髄幹細胞のインビトロおよびエクスビボ増殖を実現する。さらに、本発明により;単一細胞の増殖が、遺伝子調節後の単一造血幹細胞の選別後に活性化され、成人組織および胚性細胞から得られた造血幹細胞の増殖を可能とする。さらに;常在の心筋幹細胞および心筋細胞の増殖;単核細胞の骨髄移植前のエクスビボ増殖;線維芽細胞、軟骨、内皮、角膜縁、および間葉系幹細胞のエクスビボ増殖;MEIS遺伝子ファミリーを高度に発現する癌および癌幹細胞におけるMEIS阻害が可能である。