(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】脆性材料基板の加工方法
(51)【国際特許分類】
C03B 33/027 20060101AFI20220907BHJP
B28D 5/00 20060101ALI20220907BHJP
B26F 3/00 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
C03B33/027
B28D5/00 Z
B26F3/00 A
(21)【出願番号】P 2020164871
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】390000608
【氏名又は名称】三星ダイヤモンド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114030
【氏名又は名称】鹿島 義雄
(72)【発明者】
【氏名】池内 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】森 亮
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-065245(JP,A)
【文献】特開2016-221815(JP,A)
【文献】特開2016-210026(JP,A)
【文献】国際公開第2015/182241(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/151755(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 33/02-33/04
B28D 1/00-7/04
B26F 1/00-3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脆性材料基板の表面に対し、前記基板の端縁から内側に離れた位置をスクライブ開始点として固定刃のスクライビングツールを押し付けて順方向への移動を行うことによりクラックを伴わない溝状の少なくとも1本のトレンチラインを前記基板の端縁から内側に離れた位置をスクライブ終点として形成する第1工程と、
前記表面上で前記トレンチラインに対し、回転刃のカッターホイールを押し付けて前記順方向と逆方向で、かつ、前記トレンチラインとの交差角度θが3°~25°の鋭角で交差するように移動してアシストラインを形成することにより、交点位置から前記トレンチラインにクラックを誘導して当該トレンチラインの少なくとも一部を、クラックを伴うクラックラインに変化させる第二工程とを含む脆性材料基板の加工方法。
【請求項2】
前記第二工程での前記交差角度θが10°~25°の鋭角である請求項1に記載の脆性材料基板の加工方法。
【請求項3】
前記スクライビングツールには、先端角部を固定刃の刃先としたスクライビングツールを使用する請求項1~2の何れか1項に記載の脆性材料基板の加工方法。
【請求項4】
前記カッターホイールには、外周稜線に溝が形成された刃が形成された溝付きカッターホイールである請求項1~3のいずれか1項に記載の脆性材料基板の加工方法。
【請求項5】
前記第二工程の後に、前記交点位置近傍に前記クラックを伴うクラックラインが形成されているかを確認する検査工程を行い、前記トレンチラインにクラックが誘導されていないときに、前記トレンチライン上で前回の交点位置と異なる位置に追加のアシストラインを形成するための追加の第二工程を行う請求項1~4のいずれか1項に記載の脆性材料基板の加工方法。
【請求項6】
前記脆性材料基板は板厚が100μm以下のガラス基板である請求項1~5のいずれか1項に記載の脆性材料基板の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイ(OLED)等の表示パネル、太陽電池パネル等に用いられるガラス基板等の脆性材料基板の加工方法に関し、さらに詳細には板厚が200μm以下の薄い脆性材料基板においても確実に高品質な分断加工を行うために必要な加工方法に関する。
【0002】
ガラス基板等の分断方法では、回転刃のカッターホイール、あるいは先の尖ったダイヤモンド刃等の固定刃を用いたスクライビングツールの刃先で基板表面上をスクライブすることにより、基板表面に線状に延びる溝を形成する。この溝は、基板表面が塑性変形された切り欠きであり、線状に延びる溝は「スクライブライン」と称されている。
【0003】
なお、本明細書において、カッターホイールのような回転刃ではなく、尖ったダイヤモンド刃等のような固定刃を用いて基板に塑性変形の溝を刻設する工具を、スクライビングツールと称する。
【0004】
基板の端縁にスクライビングツールまたはカッターホイール(回転刃)を乗り上げるようにしてから基板上を摺動または転動させてスクライブラインを形成すると、
図8(b)に示すように、その刻設と同時に、スクライブラインSLから直下方向に延びるクラックCを伴わせることができる。このクラックCを伴ったスクライブラインをここでは「クラックラインCL」と称する。
【0005】
そして、このクラックCを(少なくとも一部に)伴うクラックラインCLが形成されれば、続くブレイク工程で基板を撓ませる等で機械的に応力を付与したり、局所加熱等で熱的に応力を付与したりすることによって(ブレイク処理)、クラックラインCLのクラックCの深さを厚さ方向に進行させ、ライン方向に伸展させて確実に基板を完全分断することができる。
言い換えれば、基板を完全分断するには、ブレイク処理工程の前段階で、クラックCを伴うクラックラインCLを基板に確実に加工することができる基板加工方法を確立すればよいことになる。
【0006】
このようなクラックラインCLの形成には、その起点となるトリガー(起点クラック)が必要である。トリガーは(基板の外側から)基板の端縁へのスクライビングツールまたはカッターホイール(回転刃)の刃先の乗り上げによって、既述のとおり容易に形成することができる。これは基板の端縁においては回転刃の乗り上げの際の衝撃により局所的な破壊が生じるからである。この乗り上げた刃先がさらに基板の表面上を移動することで、トリガーから刃先の移動方向にクラックラインを伸展させることができる。なお、基板の端縁からカッターホイールを転動させてスクライブする場合のように、基板の端縁も含めてスクライブするスクライブ加工方法を「外切り」と称する。また、基板端縁を含まず基板端縁から基板内側に離れた位置をスクライブ開始点(あるいはスクライブ終点)とするスクライブ方法を「内切り」と称する。
【0007】
外切り加工では、刃先が基板の端縁を加工する際の衝撃が必要以上に強すぎると、刃先へのダメージ、基板の端縁での欠けの発生、基板の割れを招きかねない。よって刃先の移動速度や刃先荷重等のスクライブ条件が厳しく制限されることになる。
【0008】
そこで、外切り加工を使わずにトリガーを形成する方法として、本出願人は先に特許文献1並びに特許文献2に示す加工方法を提案した。
すなわち、固定刃のスクライビングツールまたはカッターホイールを用いて、基板表面の一端縁に近い箇所から他端縁に近い箇所まで、端縁を含まないようにスクライブして、上記したクラックCを伴わない浅い溝状のスクライブラインSL(
図8(a)参照)を形成する。これにより、スクライブ開始点に強い衝撃を与えることなくスクライブ開始位置からスクライブ加工することができるので、確実にクラックCを伴わない溝状のスクライブラインSLを加工できる。以下、クラックCを伴わない溝状のスクライブラインSL(
図8(b)参照)を「トレンチラインTL」と称する。
【0009】
次いでトレンチラインTLの一端近傍位置で、当該トレンチラインTLに対して、特許文献1では直交する方向に、特許文献2では斜めに交差する方向に刃先をスクライブさせる「アシストライン」を形成する。そして、形成したアシストラインに沿ってブレイク処理することで、アシストラインとトレンチラインTLとの交点位置のトレンチラインTL側にもクラックCが厚さ方向に進行してクラックCが誘導され(
図8(b)参照)、これが起点となってトレンチラインTLに沿ってクラックCを伸展させることができるようになりクラックラインCLに変化するようになる。
【0010】
この加工方法では、最初のスクライブラインを加工する際に、クラックCを伴うスクライブライン(すなわちクラックラインCL)を形成する必要がないため、スクライブ条件の選択範囲が広がる。すなわち、クラックCを伴わないトレンチラインTLの形成は、低いスクライブ荷重でも容易に加工できることから、基板が割れずに傷の少ない高品質のトレンチラインTLを加工することができるようになり、しかも刃先の摩耗やダメージを抑えることもできる。そして続くアシストラインの加工、さらに続くアシストラインのブレイク処理により、トレンチラインTLとアシストラインとの交点位置からトレンチラインTL側にクラックCを誘導することができるので、その後に続くクラックラインCLへの応力付与によるブレイク処理で完全分断が行なえるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許6249091号公報
【文献】特許6589358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
表示パネルや太陽電池パネル等のデバイスでは、現状においては板厚が100μmより厚い基板、主として200μm以上の厚さの基板の分断加工が行われているが、このような板厚の基板の分断では、特許文献1、特許文献2に記載されているアシストラインを利用する分断方法を採用することで分断が可能であることが確認できている。
【0013】
しかしながら、これらのデバイスに対する薄型化、軽量化の要求が強い。今後は10μm~100μmといったこれまで以上の極薄基板の分断加工が求められる。このような極めて薄い基板の加工になると、もはや上記特許文献に記載された分断方法によっても高い信頼性を維持してクラックラインCを形成できない場合があり、ブレイク処理に至る前の加工工程における「歩留まり」が悪くなるといった問題点があった。
【0014】
そこで本発明は、上記の技術にさらに改良を加えることで極めて薄い脆性材料基板であっても高い歩留まりで信頼性が高く、品質の高い分断加工を可能にするための脆性材料基板の加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
既述のように、高品質で信頼性の高い分断加工を実現するには、ブレイク処理工程の前段階で、基板の分断予定ラインとなるトレンチラインに対して、クラックを伴うクラックラインを確実に形成することが必要であり、クラックラインができさえすれば、機械的または熱的に応力を付与することで完全分断することができる。そこで発明者らは極めて薄い板厚の基板においても、そのようなクラックラインを安定して形成できる基板の加工方法を検討した。
【0016】
すなわち、本発明に係る脆性材料基板の加工方法は、脆性材料基板の表面に対し、前記基板の端縁から内側に離れた位置をスクライブ開始点として固定刃のスクライビングツールを押し付けて順方向への移動を行うことによりクラックを伴わない溝状のトレンチラインを前記基板の端縁から内側に離れた位置をスクライブ終点として形成する第一工程と、前記表面上で前記トレンチラインに対し、回転刃のカッターホイールを押し付けて前記順方向と逆方向で、かつ、前記トレンチラインとの交差角度θが3~25°の鋭角で交差するように移動してアシストラインを形成することにより、交点位置から前記トレンチラインにクラックを誘導して当該トレンチラインの少なくとも一部を、クラックを伴うクラックラインに変化させる第二工程とを含むように脆性材料基板の加工を行う。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、基板の端縁から離れた位置をスクライブ開始点およびスクライブ終点とする、いわゆる内切り-内切りで、固定刃のスクライビングツールの刃先が滑らない範囲でスクライブ荷重を低荷重にして押し付けて順方向にスクライブ加工を行うことにより、クラックを伴わないトレンチラインを形成する。その上で、同一表面上に、前記トレンチラインとの交差角度θが3~25°の鋭角で交差するようにスクライビングツールを移動して順方向と逆方向にアシストラインを形成する。これにより、クラックを伴わないトレンチラインに高い確率(85%以上)でクラックを誘導する加工を行うことができ、歩留まりの高い基板加工を実現することができる。
また、第二工程での前記交差角度θが10°~25°の鋭角にすれば、さらに高い確率(90%以上)でクラックを誘導する加工を行うことができる。
【0018】
ここで、スクライビングツールには、先端角部を固定刃の刃先としたスクライビングツールを使用するようにしてもよい。
また、カッターホイールには、外周稜線に溝が形成された刃が形成された溝付きカッターホイールを使用するようにしてもよい。
【0019】
また、上記発明において、前記第二工程の後に、前記交点位置近傍に前記クラックを伴うクラックラインが形成されているかを確認する検査工程を行い、前記トレンチラインにクラックが誘導されていないときに、前記トレンチライン上で前回の交点位置と異なる位置に追加のアシストラインを形成するための追加の第二工程を行うようにしてもよい。
検査工程としては、例えばクラックCからの反射光を光学的に確認することでクラックCの形成を確認してもよい。
これによれば、検査工程で交点位置近傍にクラックが誘導されていないことが判明した場合に、追加の第二工程により、新たな交点位置近傍にクラックを誘導できるので、追加の第二工程後に、工程全体として、より高い成功確率でトレンチライン側にクラックを誘導する加工方法を確立することができる。
【0020】
なお、追加の第二工程を1回追加する加工工程とすることで、実用上、問題ない成功確率(歩留まり)にすることができるが、追加の第二工程を複数回繰り返してさらに成功確率(歩留まり)を高めてもよい。
【0021】
また、上記発明において、前記脆性材料基板は板厚が100μm以下のガラス基板であってもよい。
本発明に係る基板加工方法は、板厚に限定されず高品質な基板加工を行う上で有効であるが、ガラス基板では10μm~100μmのような極薄基板まで製造されており、そのような極薄基板に対しても、基板が割れることなく確実にクラックを伴うクラックラインを形成する他の有効な基板加工方法がないので、本発明の基板加工方法は上記板厚範囲の極薄ガラス基板に対して特に有効な加工方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態1の基板加工方法において用いられるスクライビングツールの一例を示す図。
【
図2】本発明の実施形態1の基板加工方法において用いられるカッターホイールの一例を示す断面図。
【
図3】本発明の実施形態1の第一工程を示す説明図。
【
図4】本発明の実施形態1の第二工程を示す説明図。
【
図6】本発明実施形態1の追加の第二工程を示す説明図。
【
図8】
図8(a)は基板に形成されるクラックCのないスクライブライン(トレンチライン)を示し、
図8(b)はクラックCが含まれるスクライブライン(クラックラインCL)を示す断面図。
【
図9】本発明の第二の実施形態の工程を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態について説明する。本発明による加工対象基板としては、ガラス基板、セラミック基板、シリコン基板、化合物半導体基板、サファイア基板、石英基板などが挙げられるが、なかでも本発明が特に有効な加工対象基板は、分断予定ラインに沿っての分断が非常に困難である板厚が100μm以下の極薄のガラス基板である。
【0024】
本実施の形態においては、
図1に示すスクライビングツール1と、
図2に示すカッターホイール2が用いられる。
スクライビングツール1は、ホルダ1aに支持された四角錐台形状の部材からなる刃先部1bを備えており、刃先部先端の天面1cと、刃先部周囲の稜線1dとが結ぶ角部がそれぞれ刃先1e(固定刃)を形成している。なお、刃先部1bは四角錘台の形態に代えて、三角錘台または五角錘台等の多角錘台として形成することもできる。また、角柱または多角形の板状の刃先部1bの角部に天面及び稜線を形成して刃先部1eとすることもできる。
【0025】
カッターホイール2は、中心に軸受け穴2aを備えたリング体であり、その周面に先端を尖らせた稜線部が刃先2bを形成している。ここでは、直径2mmで刃先角度αが110度のカッターホイールを用いる。
なお、アシストラインから効率よくトレンチラインに確実にクラックを誘導してクラックラインに変化させるために、本実施形態では外周稜線に溝が形成された刃が形成された溝付きカッターホイールを用いている(溝付きカッターホイールについては例えば特開平9-188534号参照)。
また、上記スクライビングツールの刃先部1b並びにカッターホイール2はダイヤモンド、超硬合金などの超硬材料で形成するようにしている。
【0026】
次に、本発明の一実施形態の基板加工方法について説明する。本発明は、既述の特許文献1、2に記載する基板分断方法、すなわち(a)基板上にクラックを伴わない溝状のスクライブラインであるトレンチラインを形成する第一工程、(b)トレンチラインの少なくとも一部にクラックを誘導してクラックラインとする第二工程、(c)クラックラインに応力を付与して完全分断するブレイク処理工程からなる基板分断方法の改良を想定した発明であり、(c)でブレイク処理を行う前の工程である(a)の第一工程、(b)の第二工程での基板加工を改良することにより、高い信頼性でクラックを伴わない溝状のトレンチラインに確実にクラックを誘導してクラックラインに変化させることが可能な基板加工を実現するものである。
【0027】
<実施形態1>
以下に説明する実施形態1では、本発明の基板加工方法の一例を説明するが、当該加工方法による統計的な検証結果(効果)を説明する便宜上、多数のトレンチラインを形成しているので、統計をとるために用いた基板形状およびトレンチラインの加工方法についても併せて説明する。
【0028】
先ず、
図3に示すように、互いに対向する辺3a、3b並びに4a、4bを四方に有する平面視四角形で、平らな表面を備えたガラス基板W(以下単に基板という)を準備する。使用する基板の板厚としては特に加工が困難である100μm以下の基板、具体的には10~100μmの基板を準備するのが好ましい。本発明の検証例においては30μm、50μmを用いている。
【0029】
次いで、基板加工の第一工程として、基板Wの表面にスクライビングツール1の刃先1eを位置N1(スクライブ開始点)で押し付ける。位置N1は基板Wの端縁から離れており辺3aに近い位置である。そして刃先1eを基板の表面に押しつけた状態で、位置N1から相対する辺3bに近い位置N2(スクライブ終点)まで直線状にスクライブすることによって、トレンチラインTLを形成する。このときの方向を順方向とする。このトレンチラインTLは、
図8(a)に示すように、基板Wの表面に形成される浅い溝(トレンチ)であって、厚み方向に延びるクラックCは形成されないようにしている。従って、クラックCを伴うスクライブラインSL(クラックラインCL)を形成する場合よりも低い荷重を選択することができ、より広いスクライブ条件で、トレンチライン形成のためのスクライブ加工が可能である。
そして上記と同様な手法により、所定の間隔をあけて複数の(図では4本のみ図示)平行なスクライブラインSLを基板Wの表面に形成する。本発明の検証においては1つの基板上に30mmの間隔をあけて検証に必要な本数(例えば50本のトレンチラインTL)を加工するようにしている。
【0030】
次に第二工程として、
図4に示すように、基板WのトレンチラインTLを設けた面と同じ表面上にカッターホイール2を用いてアシストラインAL1を形成する。このアシストラインAL1は、各トレンチラインTLの一端側、本実施例では辺3bに近い一端部分(スクライブ終点側)でこのスクライブラインに対し、それぞれ角度θで交差するようにする。アシストラインAL1のトレンチラインTLに対する交差角度(進入角度)θは順方向とは逆方向に3~25°の範囲で行なわれ(より好ましくは10~25°の範囲)、基板表面上の端縁から離れた内側からスクライブさせて、トレンチラインTLとの交点Pを越えたN3の位置で終了する。アシストラインALはクラックCが形成されたクラックラインCLとするのがよい。
【0031】
このようにしてアシストラインAL1をトレンチラインTLの順方向とは逆方向から交差させることにより、少なくとも交点位置P近傍のトレンチラインTLの溝に厚み方向に伸びるクラックCが誘導される。このクラックCは環境条件やスクライブ条件に応じてトレンチラインTL側に長く伸展することも、交点P近傍のみに短く伸展することもあるが、いずれの場合であっても、その後に応力付与により確実にトレンチライン全体に伸展させることができるので一部にクラックCが誘導できればよい。これにより、トレンチラインTLは
図8(b)に示すようなクラックCを伴うクラックラインCLに変化させることができたこととなる(
図5)。
【0032】
そして、以下に説明する光学的な検査方法で、クラックCが誘導されたか否かを、交差角度(進入角度)θをパラメータとして変化させて検証したところ、板厚が50μmでは、θが3~25°の範囲であれば、5回の測定では100%の成功確率でクラックCが誘導されていることが検証された。また、検証精度を上げるため、θを10°、25°にして約50回ずつ測定を行ったところ、いずれも96%以上の確率でクラックCが誘導されていることが検証された(後述する検証例1、2参照)。
また、板厚が30μmでも、カッターホイールによるアシストラインの交差角度θ、スクライブ速度、スクライブ設定圧を最適化することで50回の測定で94~96%の確率でクラックCが誘導されていることが検証された(後述する検証例3、4参照)
【0033】
検証に用いたクラックCの光学的な検査方法について説明する。トレンチラインTLとアシストラインとの交点Pの近傍に光を照射すると、トレンチラインTL側にクラックCが誘導されている場合は、その位置にクラックCからの反射散乱光が得られることがわかった。よってクラックCからの反射散乱光を、目視検査または受光素子を用いた検査装置による自動検査で検出するようにすれば、クラックCの誘導が成功したか否の測定を行う検査工程に用いることができる。
【0034】
以上の第一工程、第二工程により、50μmの極薄い基板において、所定の成功確率でトレンチラインTLへクラックCを誘導できることが確認できたが、さらに高い成功確率でクラックCの誘導を成功させる基板加工方法を確立することが望まれる。そのために、以下に説明する第三工程(追加の第二工程)を加えた。
【0035】
すなわち、第二工程に続けて、上記の光学的検査方法を用いて、トレンチラインTLへのクラックCの誘導の成否を確認し、クラックCの誘導が不完全であるクラックラインCL’の有無および存在する場合の位置を検出する。
【0036】
そして検出された不完全なクラックラインCL’(トレンチライン)に対して2回目のアシストラインAL2を形成する。2回目のアシストラインAL2は、
図6並びに
図7の拡大図で示すように、一回目のアシストラインAL1と平行で少しずらした位置、本実施例では一回目のアシストラインAL1と不完全なクラックラインCL’との交点Pより基板内側(分断したい側)に間隔Lだけ、例えば3mmだけずらした位置に形成され、クラックラインCL’と交差させてN4の位置で終了する。この2回目のアシストラインAL2の加工により、クラックが不完全であったラインを、前回と同様の成功確率でクラックを誘導させることができるようになる。そして、検査工程とともに同様のアシストラインの追加加工を複数回繰り返すことで、クラックC誘導の成功確率を増大(100%化)することができる(後述する検証例2参照)。
【0037】
以上、極めて薄い基板においてクラックCをトレンチラインへ誘導することが可能な本発明の基板加工方法について説明したが、クラックラインCLが形成された後は、クラックラインCLに沿って機械的あるいは熱的に応力を付与することができる既存のブレイク処理装置を用いることで所望の分断加工を実現することができることは言うまでもない。
【0038】
(検証例1)
目的:トレンチラインTLへのクラックC誘導の成功率が良好な最適交差角度(進入角度)θの範囲の確認
50μm基板(無アルカリガラス)に対して、スクライビングツール1でトレンチラインTLを形成し、続いて、溝付きのカッターホイール2で交差角度(進入角度)θをパラメータとして1°~85°の範囲で変化させてアシストラインALを形成したときに、θに対するトレンチラインTLへのクラックC形成の成功率(歩留まり)について検証する(θが90°~180°の交差角度についても検証したが全範囲で低成功率であったため検証結果の説明を省略する)。
検証での主な設定条件、測定方法を以下に示す。
・第一工程:
スクライビングツールの設定圧力:0.04MPa
スクライビングツールのスクライブ速度:50mm/sec
・第二工程:
カッターホイールの設定圧力:0.10MPa
カッターホイールのスクライブ速度:5mm/sec
交差角度θの範囲1~85°のうち、1~5°については1°刻み、5~85°については5°刻みで検証する。
1つのθに対し、5回(N数)の測定を行い、クラックCの成否を確認し、成功率(歩留まり)を求める。
【0039】
【0040】
検証例1の結果: 表1に示すように、交差角度θが1°、2°、および、30~85°(60°を除く)については少なくとも1回はクラックCが形成されなかったが(不成功)、θが3°~25°については100%の成功率(歩留まり)であった。
【0041】
(検証例2)
目的:検証例1で見つけた最適交差角度(進入角度)θの一部についての成功率の詳細検討、および、追加の第二工程による成功率の100%化の確認
・第一工程:(検証例1と同じ)
スクライビングツールの設定圧力:0.04MPa
スクライビングツールのスクライブ速度:50mm/sec
・第二工程:
カッターホイールの設定圧力:0.10MPa
カッターホイールのスクライブ速度:5mm/sec
検証例1で得られた最適交差角度範θの範囲3~25°の範囲のうち、10°および25°について、50回の測定を行い、クラックCの成否を確認し、成功率(SSP)を求める。さらに1回目に成功しなかったラインについては、追加(2回目)の第二工程によるアシストライン形成を行い、クラックCの成否を再度確認し、成功率、歩留まりを求める。
【0042】
【0043】
検証例2の結果: 表2に示すように、50回の測定で、交差角度θが10°、25°のいずれについても、96%の成功率が得られた。そして1回目に成功しなかったライン(2本)について追加の第二工程(二度切)の結果、これらにクラックCが形成された結果、全体で100%の成功率にすることができた。
【0044】
(検証例3)
目的:検証例1よりもさらに薄い基板(30μm)での最適交差角度(進入角度)θの一部についての成功率(歩留まり)の詳細検討
・第一工程:
スクライビングツールの設定圧力:0.03MPa
スクライビングツールのスクライブ速度:50mm/sec
・第二工程:
カッターホイールの設定圧力:0.10MPa
カッターホイールのスクライブ速度:20mm/sec
予備測定(検証1と同様の方法で最適交差角度範囲θを求めるための予備測定)で得られた最適交差角度θの一つである15°について、49回の測定を行い、クラックCの成否を確認し、成功率、歩留まりを求める。
【0045】
【0046】
検証例3の結果: 表3に示すように、49回の測定で、交差角度θが15°について、85.7%の成功率が得られた。
【0047】
(検証例4)
目的:検証例3の基板(30μm)の最適交差角度θが15°での検証において、さらにスクライブ速度および設定圧をパラメータとして変化させたときの成功率の詳細検討
・第一工程:
スクライビングツールの設定圧力:0.03MPa
スクライビングツールのスクライブ速度:50mm/sec
・第二工程:
カッターホイールの設定圧力:0.05~0.20MPa
カッターホイールのスクライブ速度:5~100mm/sec
最適交差角度θの15°について、カッターホイールの設定圧力、スクライブ速度の設定条件の組み合わせを変更して50回(49回)の測定を行い、クラックCの成否を確認し、成功率、歩留まりを求める。
【0048】
【0049】
検証例4の結果: 表4に示すように、パラメータの設定範囲においては設定圧よりもスクライブ速度の変更の影響が大きくなった。特に、スクライブ速度を5mm/secとした場合に、0.05~0.15Paで94~96%の成功率が得られた。
【0050】
<実施形態2>
実施形態1では、基板上に直線状の複数本の基板加工を行う例について説明した。この実施形態は方形基板を短冊状に切り出す加工の場合に応用できる。
一方、以下の実施形態2では基板上に非直線状の加工を行う例について説明する。ここでは閉曲線を切出す加工について説明する。
図9に示すように、スクライビングツール1で基板W上に位置N1をスクライブ開始点として位置N2、N3を経て、スクライブ終点の位置N4までを、この方向を順方向として一筆書きでスクライブすることにより、「6」字状のトレンチラインTLを形成する。このときN1からN3までの閉曲線部分と、N3からN4までの非閉曲線部分(捨て切り部分)とが形成される。
【0051】
続いて、スクライブ終点近傍であるN3、N4間の非閉曲線部分に対し、アシストラインを形成する。すなわち、トレンチラインTL形成時の順方向と逆方向となるように位置N5から位置N6に、交差角度を3°~25°にしてアシストラインAL1を形成する。これにより、N3、N4間のトレンチラインTLにクラックCを誘導することができ、この部分から閉曲線部分のトレンチラインTLまでをクラックラインCLに変化させることができる。したがって、その後に閉曲線部分に熱応力(光照射、温熱、冷熱噴射等特に限定されない)を付与することで閉曲線に沿ってくり抜くように分断加工が可能になる。
【0052】
以上、本発明の代表的な実施例について説明したが、本発明は必ずしも上記の実施形態に特定されるものでない。例えば、上記実施形態では、脆性材料基板の厚みが100μm以下のものを加工対象としたが、それ以上の厚みのものであっても適用することは可能である。その他本発明は、その目的を達成し、請求の範囲を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明方法は、ガラス基板等の脆性材料基板の分断する際に、ブレイク処理前の基板加工に利用することができる。
【符号の説明】
【0054】
AL1 1回目のアシストライン
AL2 2回目のアシストライン
C クラック
CL クラックライン
SL スクライブライン
W 基板
1 スプライビングツール
2 カッターホイール
3a 基板の一方の辺
3b 基板の他方の辺