(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】ドローンシステム、飛行管理装置およびドローン
(51)【国際特許分類】
G08G 5/00 20060101AFI20220907BHJP
G08G 1/0968 20060101ALI20220907BHJP
G01C 21/34 20060101ALI20220907BHJP
B64C 39/02 20060101ALI20220907BHJP
B64D 1/18 20060101ALI20220907BHJP
B64C 27/08 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
G08G5/00 A
G08G1/0968
G01C21/34
B64C39/02
B64D1/18
B64C27/08
(21)【出願番号】P 2021569699
(86)(22)【出願日】2020-01-10
(86)【国際出願番号】 JP2020000697
(87)【国際公開番号】W WO2021140657
(87)【国際公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-05-26
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515019537
【氏名又は名称】株式会社ナイルワークス
(74)【代理人】
【識別番号】110002790
【氏名又は名称】One ip弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】村雲 泰
(72)【発明者】
【氏名】和氣 千大
(72)【発明者】
【氏名】加藤 宏記
【審査官】佐々木 佳祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-8409(JP,A)
【文献】特開2017-206066(JP,A)
【文献】特開2017-144811(JP,A)
【文献】国際公開第2019/168042(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
G01C 21/00-25/00
B64C 39/02
B64D 1/18
B64C 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圃場の上空において飛行ルートに沿ってドローンを飛行させる飛行制御部と、
前記圃場に薬剤を散布する散布制御部と、
前記飛行ルートの各地点における前記ドローンの飛行高度を決定する飛行管理部と、
を備え、
前記飛行ルートは、前記圃場の縁部に薬剤を散布しながら飛行する縁部ルートと、前記縁部より内側の中央部に前記薬剤を散布しながら飛行する中央部ルートと、を含み、
前記飛行管理部は、前記縁部ルートにおける前記飛行高度を、前記中央部ルートにおける前記飛行高度よりも低くなるように制御する、
ドローンシステム。
【請求項2】
前記縁部ルートは、前記圃場の一部であって、前記圃場と前記圃場以外の領域との境界から所定距離の領域内を飛行するルートである、
請求項1記載のドローンシステム。
【請求項3】
前記縁部ルートは、前記圃場の内縁を周回するルートであり、前記中央部ルートは、前記中央部を往復して走査するルートである、
請求項1又は2記載のドローンシステム。
【請求項4】
前記縁部ルートは、前記圃場の内縁を周回するルートであり、前記中央部ルートは、前記中央部の略中央から端に向かって、又は前記端から略中央に向かって、順次周回するルートである、
請求項1又は2記載のドローンシステム。
【請求項5】
前記飛行ルートは、前記縁部ルートの一部を飛行した後に、前記中央部ルートの少なくとも一部を飛行し、その後、前記縁部ルートの他の一部を飛行するルートである、
請求項1乃至4のいずれかに記載のドローンシステム。
【請求項6】
前記飛行管理部は、前記飛行ルートの各地点における前記薬剤の散布流量を決定し、前記中央部における前記散布流量を前記縁部における前記散布流量よりも増加させる、
請求項1乃至5のいずれかに記載のドローンシステム。
【請求項7】
前記飛行管理部は、前記飛行ルートの各地点における前記ドローンの飛行速度を決定し、前記縁部ルートにおける前記飛行速度を前記中央部ルートにおける前記飛行速度よりも上昇させる、
請求項1乃至6のいずれかに記載のドローンシステム。
【請求項8】
前記飛行管理部は、前記飛行ルートの各地点における前記ドローンの飛行速度を決定し、前記縁部ルートにおける前記飛行速度を前記中央部ルートにおける前記飛行速度よりも低下させる、
請求項1乃至6のいずれかに記載のドローンシステム。
【請求項9】
前記縁部ルートにおける飛行速度と、前記中央部ルートにおける飛行速度との組合せを選択する経路選択部をさらに備える、
請求項1乃至8のいずれかに記載のドローンシステム。
【請求項10】
前記縁部ルートから前記中央部ルートに移行する際に、旋回および移動を行った後に、高度を上昇させる、
請求項1乃至9のいずれかに記載のドローンシステム。
【請求項11】
前記縁部ルートから前記中央部ルートに移行する際に、高度の上昇、旋回および移動を同時に行う、
請求項1乃至9のいずれかに記載のドローンシステム。
【請求項12】
前記縁部ルートから前記中央部ルートに移行する際に、高度の上昇の後に旋回および移動を行う、
請求項1乃至9のいずれかに記載のドローンシステム。
【請求項13】
圃場の上空において飛行ルートに沿って飛行し、前記圃場に薬剤を散布するドローンの、前記飛行ルートの各地点における飛行高度を決定する飛行管理装置であって、
前記飛行ルートは、前記圃場の縁部に薬剤を散布しながら飛行する縁部ルートと、前記縁部より内側の中央部に前記薬剤を散布しながら飛行する中央部ルートと、を含み、
前記縁部ルートにおける前記飛行高度を、前記中央部ルートにおける前記飛行高度よりも低くなるように制御する、
飛行管理装置。
【請求項14】
前記縁部ルートは、前記圃場の一部であって、前記圃場と前記圃場以外の領域との境界から所定距離の領域内を飛行するルートである、
請求項13記載の飛行管理装置。
【請求項15】
前記縁部ルートは、前記圃場の内縁を周回するルートであり、前記中央部ルートは、前記中央部を往復して走査するルートである、
請求項13又は14記載の飛行管理装置。
【請求項16】
前記縁部ルートは、前記圃場の内縁を周回するルートであり、前記中央部ルートは、前記中央部の略中央から端に向かって、又は前記端から略中央に向かって、順次周回するルートである、
請求項13又は14記載の飛行管理装置。
【請求項17】
前記飛行ルートは、前記縁部ルートの一部を飛行した後に、前記中央部ルートの少なくとも一部を飛行し、その後、前記縁部ルートの他の一部を飛行するルートである、
請求項13乃至16のいずれかに記載の飛行管理装置。
【請求項18】
前記飛行ルートの各地点における前記薬剤の散布流量を決定し、前記中央部ルートにおける前記散布流量を前記縁部ルートにおける前記散布流量よりも増加させる、
請求項13乃至17のいずれかに記載の飛行管理装置。
【請求項19】
前記飛行ルートの各地点における前記ドローンの飛行速度を決定し、前記縁部ルートにおける前記飛行速度を前記中央部ルートにおける前記飛行速度よりも低下させる、
請求項13乃至18のいずれかに記載の飛行管理装置。
【請求項20】
前記飛行ルートの各地点における前記ドローンの飛行速度を決定し、前記縁部ルートにおける前記飛行速度を前記中央部ルートにおける前記飛行速度よりも上昇させる、
請求項13乃至18のいずれかに記載の飛行管理装置。
【請求項21】
前記縁部ルートにおける飛行速度と、前記中央部ルートにおける飛行速度との組合せを選択する経路選択部をさらに備える、
請求項13乃至20のいずれかに記載の飛行管理装置。
【請求項22】
前記縁部ルートから前記中央部ルートに移行する際に、旋回および移動を行った後に、高度を上昇させる、
請求項13乃至21のいずれかに記載の飛行管理装置。
【請求項23】
前記縁部ルートから前記中央部ルートに移行する際に、高度の上昇、旋回および移動を同時に行う、
請求項13乃至22のいずれかに記載の飛行管理装置。
【請求項24】
前記縁部ルートから前記中央部ルートに移行する際に、高度の上昇の後に、高度を変更せずに旋回および移動を行う、
請求項13乃至23のいずれかに記載の飛行管理装置。
【請求項25】
圃場の上空において飛行ルートに沿ってドローンを飛行させる飛行制御部と、
前記圃場に薬剤を散布する散布制御部と、
前記飛行ルートの各地点における前記ドローンの飛行高度を決定する飛行管理部と、
を備え、
前記飛行ルートは、前記圃場の縁部に薬剤を散布しながら飛行する縁部ルートと、前記縁部より内側の中央部に前記薬剤を散布しながら飛行する中央部ルートと、を含み、
前記飛行管理部は、前記縁部ルートにおける前記飛行高度を、前記中央部ルートにおける前記飛行高度よりも低くなるように制御する、
ドローン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、ドローンシステム、飛行管理装置およびドローンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般にドローンと呼ばれる小型ヘリコプター(マルチコプター)の応用が進んでいる。その重要な応用分野の一つとして農地(圃場)への農薬や液肥などの散布が挙げられる(たとえば、特許文献1)。比較的狭い農地においては、有人の飛行機やヘリコプタではなくドローンの使用が適しているケースが多い。
【0003】
特許文献2には、所定時間後に非散布領域上空に機体が進入しかつ進入時の飛行速度および飛行高度が非散布領域上空で要求される飛行速度および飛行高度を下回ると判定した場合、加速及び上昇する無人ヘリコプタが開示されている。
【0004】
特許文献3には、散布区画ごとに最適な散布量、散布速度、散布高度からなる散布パターンを決定する農薬散布方法が開示されている。
【0005】
特許文献4には、風情報と散布作業における散布領域の許容偏差とに基づき、飛行体の飛行位置を制御する飛行制御方法が開示されている。
【0006】
特許文献5には、圃場の周縁部を検出し、周縁部と自車両との距離に基づいて、走行車体の走行制御を行う自動直進走行支援システムが開示されている。当該システムは、圃場周縁部が接近している場合は速度を落とすことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許公開公報 特開2001-120151
【文献】特許公開公報 特開2006-121997
【文献】特許公開公報 特開2018-111429
【文献】特許公開公報 特開2019-8409
【文献】特許公開公報 特開2019-88272
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
圃場での薬剤散布時に、散布薬剤が圃場の外に漏れないようにする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の一の観点に係るドローンシステムは、圃場の上空において飛行ルートに沿ってドローンを飛行させる飛行制御部と、前記圃場に薬剤を散布する散布制御部と、前記飛行ルートの各地点における前記ドローンの飛行高度を決定する飛行管理部と、を備え、前記飛行ルートは、前記圃場の縁部に薬剤を散布しながら飛行する縁部ルートと、前記縁部より内側の中央部に前記薬剤を散布しながら飛行する中央部ルートと、を含み、前記飛行管理部は、前記縁部ルートにおける前記飛行高度を、前記中央部ルートにおける前記飛行高度よりも低くなるように制御する。
【0010】
前記縁部ルートは、前記圃場の一部であって、前記圃場と前記圃場以外の領域との境界から所定距離の領域内を飛行するルートであるものとしてもよい。
【0011】
前記縁部ルートは、前記圃場の内縁を周回するルートであり、前記中央部ルートは、前記中央部を往復して走査するルートであるものとしてもよい。
【0012】
前記縁部ルートは、前記圃場の内縁を周回するルートであり、前記中央部ルートは、前記中央部の略中央から端に向かって、又は前記端から略中央に向かって、順次周回するルートであるものとしてもよい。
【0013】
前記飛行ルートは、前記縁部ルートの一部を飛行した後に、前記中央部ルートの少なくとも一部を飛行し、その後、前記縁部ルートの他の一部を飛行するルートであるものとしてもよい。
【0014】
前記飛行管理部は、前記飛行ルートの各地点における前記薬剤の散布流量を決定し、前記中央部における前記散布流量を前記縁部における前記散布流量よりも増加させるものとしてもよい。
【0015】
前記飛行管理部は、前記飛行ルートの各地点における前記ドローンの飛行速度を決定し、前記縁部ルートにおける前記飛行速度を前記中央部ルートにおける前記飛行速度よりも上昇させるものとしてもよい。
【0016】
前記飛行管理部は、前記飛行ルートの各地点における前記ドローンの飛行速度を決定し、前記縁部ルートにおける前記飛行速度を前記中央部ルートにおける前記飛行速度よりも低下させるものとしてもよい。
【0017】
前記縁部ルートにおける飛行速度と、前記中央部ルートにおける飛行速度との組合せを選択する経路選択部をさらに備えるものとしてもよい。
【0018】
前記縁部ルートから前記中央部ルートに移行する際に、旋回および移動を行った後に、高度を上昇させるものとしてもよい。
【0019】
前記縁部ルートから前記中央部ルートに移行する際に、高度の上昇、旋回および移動を同時に行うものとしてもよい。
【0020】
前記縁部ルートから前記中央部ルートに移行する際に、高度の上昇の後に旋回および移動を行うものとしてもよい。
【0021】
上記目的を達成するため、本発明の別の観点に係る飛行管理装置は、圃場の上空において飛行ルートに沿って飛行し、前記圃場に薬剤を散布するドローンの、前記飛行ルートの各地点における飛行高度を決定する飛行管理装置であって、前記飛行ルートは、前記圃場の縁部に薬剤を散布しながら飛行する縁部ルートと、前記縁部より内側の中央部に前記薬剤を散布しながら飛行する中央部ルートと、を含み、前記縁部ルートにおける前記飛行高度を、前記中央部ルートにおける前記飛行高度よりも低くなるように制御する。
【0022】
前記縁部ルートは、前記圃場の一部であって、前記圃場と前記圃場以外の領域との境界から所定距離の領域内を飛行するルートであるものとしてもよい。
【0023】
前記縁部ルートは、前記圃場の内縁を周回するルートであり、前記中央部ルートは、前記中央部を往復して走査するルートであるものとしてもよい。
【0024】
前記縁部ルートは、前記圃場の内縁を周回するルートであり、前記中央部ルートは、前記中央部の略中央から端に向かって、又は前記端から略中央に向かって、順次周回するルートであるものとしてもよい。
【0025】
前記飛行ルートは、前記縁部ルートの一部を飛行した後に、前記中央部ルートの少なくとも一部を飛行し、その後、前記縁部ルートの他の一部を飛行するルートであるものとしてもよい。
【0026】
前記飛行ルートの各地点における前記薬剤の散布流量を決定し、前記中央部ルートにおける前記散布流量を前記縁部ルートにおける前記散布流量よりも増加させるものとしてもよい。
【0027】
前記飛行ルートの各地点における前記ドローンの飛行速度を決定し、前記縁部ルートにおける前記飛行速度を前記中央部ルートにおける前記飛行速度よりも低下させるものとしてもよい。
【0028】
前記飛行ルートの各地点における前記ドローンの飛行速度を決定し、前記縁部ルートにおける前記飛行速度を前記中央部ルートにおける前記飛行速度よりも上昇させるものとしてもよい。
【0029】
前記縁部ルートにおける飛行速度と、前記中央部ルートにおける飛行速度との組合せを選択する経路選択部をさらに備えるものとしてもよい。
【0030】
前記縁部ルートから前記中央部ルートに移行する際に、旋回および移動を行った後に、高度を上昇させるものとしてもよい。
【0031】
前記縁部ルートから前記中央部ルートに移行する際に、高度の上昇、旋回および移動を同時に行うものとしてもよい。
【0032】
前記縁部ルートから前記中央部ルートに移行する際に、高度の上昇の後に、高度を変更せずに旋回および移動を行うものとしてもよい。
【0033】
上記目的を達成するため、本発明のさらに別の観点に係るドローンは、圃場の上空において飛行ルートに沿ってドローンを飛行させる飛行制御部と、前記圃場に薬剤を散布する散布制御部と、前記飛行ルートの各地点における前記ドローンの飛行高度を決定する飛行管理部と、を備え、前記飛行ルートは、前記圃場の縁部に薬剤を散布しながら飛行する縁部ルートと、前記縁部より内側の中央部に前記薬剤を散布しながら飛行する中央部ルートと、を含み、前記飛行管理部は、前記縁部ルートにおける前記飛行高度を、前記中央部ルートにおける前記飛行高度よりも低くなるように制御する。
【発明の効果】
【0034】
圃場での薬剤散布時に、散布薬剤が圃場の外に漏れないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本願発明に係るドローンシステムに含まれるドローンの平面図である。
【
図6】上記ドローンの飛行制御システムの全体概念図である。
【
図7】上記ドローンが有する機能ブロック図である。
【
図8】上記ドローンシステムが有するドローン、ユーザインターフェース装置、診断装置および計画装置の機能ブロック図である。
【
図9】上記ドローンから吐出される薬剤が圃場に到達する様子を示す模式図であって、(a)上記ドローンが第1飛行高度から薬剤を散布している様子を示す模式図、(b)上記ドローンが、第1飛行高度よりも低い第2飛行高度から薬剤を散布している様子を示す模式図である。
【
図10】上記ドローン圃場403内の飛行ルートの例を示す模式図であって、(a)飛行ルートの第1例を示す模式図、(b)飛行ルートの第2例を示す模式図、(c)飛行ルートの第3例を示す模式図、(d)飛行ルートの第4例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、図を参照しながら、本願発明を実施するための形態について説明する。図はすべて例示である。以下の詳細な説明では、説明のために、開示された実施形態の完全な理解を促すために、ある特定の詳細について述べられている。しかしながら、実施形態は、これらの特定の詳細に限られない。また、図面を単純化するために、周知の構造および装置については概略的に示されている。
【0037】
まず、本発明にかかるドローンの構成について説明する。本願明細書において、ドローンとは、動力手段(電力、原動機等)、操縦方式(無線であるか有線であるか、および、自律飛行型であるか手動操縦型であるか等)を問わず、複数の回転翼を有する飛行体全般を指すこととする。
【0038】
図1乃至
図5に示すように、回転翼101-1a、101-1b、101-2a、101-2b、101-3a、101-3b、101-4a、101-4b(ローターとも呼ばれる)は、ドローン100を飛行させるための手段であり、飛行の安定性、機体サイズ、および、電力消費量のバランスを考慮し、8機(2段構成の回転翼が4セット)備えられている。各回転翼101は、ドローン100の筐体110からのび出たアームにより筐体110の四方に配置されている。すなわち、進行方向左後方に回転翼101-1a、101-1b、左前方に回転翼101-2a、101-2b、右後方に回転翼101-3a、101-3b、右前方に回転翼101-4a、101-4bがそれぞれ配置されている。なお、ドローン100は
図1における紙面下向きを進行方向とする。
【0039】
回転翼101の各セットの外周には、略円筒形を形成する格子状のプロペラガード115-1,115-2,115-3,115-4が設けられ、回転翼101が異物と干渉しづらくなるようにしている。
図2および
図3に示されるように、プロペラガード115-1,115-2,115-3,115-4を支えるための放射状の部材は水平ではなくやぐら状の構造である。衝突時に当該部材が回転翼の外側に座屈することを促し、ローターと干渉することを防ぐためである。
【0040】
回転翼101の回転軸から下方には、それぞれ棒状の足107-1,107-2,107-3,107-4が伸び出ている。
【0041】
モーター102-1a、102-1b、102-2a、102-2b、102-3a、102-3b、102-4a、102-4bは、回転翼101-1a、101-1b、101-2a、101-2b、101-3a、101-3b、101-4a、101-4bを回転させる手段(典型的には電動機だが発動機等であってもよい)であり、一つの回転翼に対して1機設けられている。モーター102は、推進器の例である。1セット内の上下の回転翼(たとえば、101-1aと101-1b)、および、それらに対応するモーター(たとえば、102-1aと102-1b)は、ドローンの飛行の安定性等のために軸が同一直線上にあり、かつ、互いに反対方向に回転する。
【0042】
ノズル103-1、103-2、103-3、103-4は、散布物を下方に向けて散布するための手段であり4機備えられている。なお、本願明細書において、散布物とは、農薬、除草剤、液肥、殺虫剤、種、および、水などの圃場に散布される液体または粉体を一般的に指すこととする。
【0043】
タンク104は散布物を保管するためのタンクであり、重量バランスの観点からドローン100の重心に近い位置でかつ重心より低い位置に設けられている。ホース105-1、105-2、105-3、105-4は、タンク104と各ノズル103-1、103-2、103-3、103-4とを接続する手段であり、硬質の素材から成り、当該ノズルを支持する役割を兼ねていてもよい。ポンプ106は、散布物をノズルから吐出するための手段である。
【0044】
図6に本願発明に係るドローン100の飛行制御システムの全体概念図を示す。本図は模式図であって、縮尺は正確ではない。同図において、ドローン100、操作器401、基地局404およびサーバ405が移動体通信網400を介して互いに接続されている。これらの接続は、移動体通信網400に代えてWi-Fiによる無線通信を行ってもよいし、一部又は全部が有線接続されていてもよい。また、構成要素間において、移動体通信網400に代えて、又は加えて、直接接続する構成を有していてもよい。
【0045】
ドローン100および基地局404は、GPS等のGNSSの測位衛星410と通信を行い、ドローン100および基地局404座標を取得する。ドローン100および基地局404が通信する測位衛星410は複数あってもよい。
【0046】
操作器401は、使用者の操作によりドローン100に指令を送信し、また、ドローン100から受信した情報(たとえば、位置、散布物の貯留量、電池残量、カメラ映像等)を表示するための手段であり、コンピューター・プログラムを稼働する一般的なタブレット端末等の携帯情報機器によって実現されてよい。操作器401は、ユーザインターフェース装置としての入力部および表示部を備える。本願発明に係るドローン100は自律飛行を行なうよう制御されるが、離陸や帰還などの基本操作時、および、緊急時にはマニュアル操作が行なえるようになっていてもよい。携帯情報機器に加えて、緊急停止専用の機能を有する非常用操作器(図示していない)を使用してもよい。非常用操作器は緊急時に迅速に対応が取れるよう大型の緊急停止ボタン等を備えた専用機器であってもよい。さらに、操作器401とは別に、操作器401に表示される情報の一部又は全部を表示可能な小型携帯端末、例えばスマートホンがシステムに含まれていてもよい。小型携帯端末は、例えば基地局404と接続されていて、基地局404を介してサーバ405からの情報等を受信可能である。
【0047】
圃場403は、ドローン100による散布の対象となる田圃や畑等である。実際には、圃場403の地形は複雑であり、事前に地形図が入手できない場合、あるいは、地形図と現場の状況が食い違っている場合がある。通常、圃場403は家屋、病院、学校、他の作物圃場、道路、鉄道等と隣接している。また、圃場403内に、建築物や電線等の侵入者が存在する場合もある。
【0048】
基地局404は、RTK-GNSS基地局として機能し、ドローン100の正確な位置を提供できるようになっている。また、Wi-Fi通信の親機機能等を提供する装置であってもよい。Wi-Fi通信の親機機能とRTK-GNSS基地局が独立した装置であってもよい。また、基地局404は、3G、4G、およびLTE等の移動通信システムを用いて、サーバ405と互いに通信可能であってもよい。基地局404およびサーバ405は、営農クラウドを構成する。
【0049】
サーバ405は、典型的にはクラウドサービス上で運営されているコンピュータ群と関連ソフトウェアであり、操作器401と携帯電話回線等で無線接続されていてもよい。サーバ405は、ハードウェア装置により構成されていてもよい。サーバ405は、ドローン100が撮影した圃場403の画像を分析し、作物の生育状況を把握して、飛行ルートを決定するための処理を行ってよい。また、保存していた圃場403の地形情報等をドローン100に提供してよい。加えて、ドローン100の飛行および撮影映像の履歴を蓄積し、様々な分析処理を行ってもよい。
【0050】
小型携帯端末は例えばスマートホン等である。小型携帯端末の表示部には、ドローン100の運転に関し予測される動作の情報、より具体的にはドローン100が発着地点406に帰還する予定時刻や、帰還時に使用者が行うべき作業の内容等の情報が適宜表示される。また、小型携帯端末からの入力に基づいて、ドローン100の動作を変更してもよい。
【0051】
通常、ドローン100は圃場403の外部にある発着地点から離陸し、圃場403に散布物を散布した後に、あるいは、散布物の補充や充電等が必要になった時に発着地点に帰還する。発着地点から目的の圃場403に至るまでの飛行経路(侵入経路)は、サーバ405等で事前に保存されていてもよいし、使用者が離陸開始前に入力してもよい。発着地点は、ドローン100に記憶されている座標により規定される仮想の地点であってもよいし、物理的な発着台があってもよい。
【0052】
図7に本願発明に係る散布用ドローンの実施例の制御機能を表したブロック図を示す。フライトコントローラー501は、ドローン全体の制御を司る構成要素であり、具体的にはCPU、メモリー、関連ソフトウェア等を含む組み込み型コンピュータであってよい。フライトコントローラー501は、操作器401から受信した入力情報、および、後述の各種センサーから得た入力情報に基づき、ESC(Electronic Speed Control)等の制御手段を介して、モーター102-1a、102-1b、102-2a、102-2b、102-3a、102-3b、104-a、104-bの回転数を制御することで、ドローン100の飛行を制御する。モーター102-1a、102-1b、102-2a、102-2b、102-3a、102-3b、104-a、104-bの実際の回転数はフライトコントローラー501にフィードバックされ、正常な回転が行なわれているかを監視できる構成になっている。あるいは、回転翼101に光学センサー等を設けて回転翼101の回転がフライトコントローラー501にフィードバックされる構成でもよい。
【0053】
フライトコントローラー501が使用するソフトウェアは、機能拡張・変更、問題修正等のために記憶媒体等を通じて、または、Wi-Fi通信やUSB等の通信手段を通じて書き換え可能になっている。この場合において、不正なソフトウェアによる書き換えが行なわれないように、暗号化、チェックサム、電子署名、ウィルスチェックソフト等による保護が行われている。また、フライトコントローラー501が制御に使用する計算処理の一部が、操作器401上、または、サーバ405上や他の場所に存在する別のコンピュータによって実行されてもよい。フライトコントローラー501は重要性が高いため、その構成要素の一部または全部が二重化されていてもよい。
【0054】
フライトコントローラー501は、通信機530を介して、さらに、移動体通信網400を介して操作器401とやり取りを行ない、必要な指令を操作器401から受信すると共に、必要な情報を操作器401に送信できる。この場合に、通信には暗号化を施し、傍受、成り済まし、機器の乗っ取り等の不正行為を防止できるようにしておいてもよい。基地局404は、移動体通信網400を介した通信機能に加えて、RTK-GPS基地局の機能も備えている。RTK基地局404の信号とGPS等の測位衛星410からの信号を組み合わせることで、フライトコントローラー501により、ドローン100の絶対位置を数センチメートル程度の精度で測定可能となる。フライトコントローラー501は重要性が高いため、二重化・多重化されていてもよく、また、特定のGPS衛星の障害に対応するため、冗長化されたそれぞれのフライトコントローラー501は別の衛星を使用するよう制御されていてもよい。
【0055】
6軸ジャイロセンサー505はドローン機体の互いに直交する3方向の加速度を測定する手段であり、さらに、加速度の積分により速度を計算する手段である。6軸ジャイロセンサー505は、上述の3方向におけるドローン機体の姿勢角の変化、すなわち角速度を測定する手段である。地磁気センサー506は、地磁気の測定によりドローン機体の方向を測定する手段である。気圧センサー507は、気圧を測定する手段であり、間接的にドローンの高度も測定することもできる。レーザーセンサー508は、レーザー光の反射を利用してドローン機体と地表との距離を測定する手段であり、IR(赤外線)レーザーであってもよい。ソナー509は、超音波等の音波の反射を利用してドローン機体と地表との距離を測定する手段である。これらのセンサー類は、ドローンのコスト目標や性能要件に応じて取捨選択してよい。また、機体の傾きを測定するためのジャイロセンサー(角速度センサー)、風力を測定するための風力センサーなどが追加されていてもよい。また、これらのセンサー類は、二重化または多重化されていてもよい。同一目的複数のセンサーが存在する場合には、フライトコントローラー501はそのうちの一つのみを使用し、それが障害を起こした際には、代替のセンサーに切り替えて使用するようにしてもよい。あるいは、複数のセンサーを同時に使用し、それぞれの測定結果が一致しない場合には障害が発生したと見なすようにしてもよい。
【0056】
流量センサー510は散布物の流量を測定するための手段であり、タンク104からノズル103に至る経路の複数の場所に設けられている。液切れセンサー511は散布物の量が所定の量以下になったことを検知するセンサーである。
【0057】
生育診断カメラ512aは、圃場403を撮影し、生育診断のためのデータを取得する手段である。生育診断カメラ512aは例えばマルチスペクトルカメラであり、互いに波長の異なる複数の光線を受信する。当該複数の光線は、例えば赤色光(波長約650nm)と近赤外光(波長約774nm)である。また、生育診断カメラ512aは、可視光線を受光するカメラであってもよい。
【0058】
病理診断カメラ512bは、圃場403に生育する作物を撮影し、病理診断のためのデータを取得する手段である。病理診断カメラ512bは、例えば赤色光カメラである。赤色光カメラは、植物に含有されるクロロフィルの吸収スペクトルに対応する周波数帯域の光量を検出するカメラであり、例えば波長650nm付近の帯域の光量を検出する。病理診断カメラ512bは、赤色光と近赤外光の周波数帯域の光量を検出してもよい。また、病理診断カメラ512bとして、赤色光カメラおよびRGBカメラ等の可視光帯域の少なくとも3波長の光量を検出する可視光カメラの両方を備えていてもよい。なお、病理診断カメラ512bはマルチスペクトルカメラであってもよく、波長650nm乃至680nm付近の帯域の光量を検出するものとしてもよい。
【0059】
なお、生育診断カメラ512aおよび病理診断カメラ512bは、1個のハードウェア構成により実現されていてもよい。
【0060】
障害物検知カメラ513はドローン侵入者を検知するためのカメラであり、画像特性とレンズの向きが生育診断カメラ512aおよび病理診断カメラ512bとは異なるため、生育診断カメラ512aおよび病理診断カメラ512bとは別の機器である。スイッチ514はドローン100の使用者402が様々な設定を行なうための手段である。障害物接触センサー515はドローン100、特に、そのローターやプロペラガード部分が電線、建築物、人体、立木、鳥、または、他のドローン等の侵入者に接触したことを検知するためのセンサーである。なお、障害物接触センサー515は、6軸ジャイロセンサー505で代用してもよい。カバーセンサー516は、ドローン100の操作パネルや内部保守用のカバーが開放状態であることを検知するセンサーである。注入口センサー517はタンク104の注入口が開放状態であることを検知するセンサーである。
【0061】
これらのセンサー類はドローンのコスト目標や性能要件に応じて取捨選択してよく、二重化・多重化してもよい。また、ドローン100外部の基地局404、操作器401、または、その他の場所にセンサーを設けて、読み取った情報をドローンに送信してもよい。たとえば、基地局404に風力センサーを設け、風力・風向に関する情報を移動体通信網400経由又はWi-Fi通信経由でドローン100に送信するようにしてもよい。
【0062】
フライトコントローラー501はポンプ106に対して制御信号を送信し、吐出量の調整や吐出の停止を行なう。ポンプ106の現時点の状況(たとえば、回転数等)は、フライトコントローラー501にフィードバックされる構成となっている。
【0063】
LED107は、ドローンの操作者に対して、ドローンの状態を知らせるための表示手段である。LEDに替えて、または、それに加えて液晶ディスプレイ等の表示手段を使用してもよい。ブザーは、音声信号によりドローンの状態(特にエラー状態)を知らせるための出力手段である。通信機530は、3G、4G、およびLTE等の移動体通信網400と接続されており、移動体通信網400を介して基地局、サーバで構成される営農クラウド、操作器と通信可能に接続される。通信機に替えて、または、それに加えて、Wi‐Fi、赤外線通信、Bluetooth(登録商標)、ZigBee(登録商標)、NFC等の他の無線通信手段、または、USB接続などの有線通信手段を使用してもよい。スピーカー520は、録音した人声や合成音声等により、ドローンの状態(特にエラー状態)を知らせる出力手段である。天候状態によっては飛行中のドローン100の視覚的表示が見にくいことがあるため、そのような場合には音声による状況伝達が有効である。警告灯521はドローンの状態(特にエラー状態)を知らせるストロボライト等の表示手段である。これらの入出力手段は、ドローンのコスト目標や性能要件に応じて取捨選択してよく、二重化・多重化してもよい。
【0064】
●制御システムの概要
図8に示すように、ドローンシステム1000は、例えばドローン100、ユーザインターフェース装置200、および飛行管理装置600を含むシステムであり、これらはネットワークNWを通じて互いに通信可能に接続されている。飛行管理装置600は、ハードウェア構成であってもよいし、サーバ405上に構成されていてもよい。ドローン100、ユーザインターフェース装置200、および飛行管理装置600は、無線で互いに接続されていてもよいし、一部又は全部が有線により接続されていてもよい。
【0065】
なお、
図8に示した構成は例示であり、ある構成要素が別の構成要素を包含していてもよいし、各構成要素が有する機能部は、別の構成要素が有していてもよい。例えば、飛行管理装置600の機能の一部および全部がドローン100に搭載されていてもよい。
【0066】
ユーザインターフェース装置200は、作業者による入力部および表示部を備えていればよく、操作器401の機能により実現されてもよい。また、ユーザインターフェース装置200は、パーソナルコンピュータであってもよく、パーソナルコンピュータにインストールされたWebブラウザを介して、Web上のUIに情報を入力し、表示させてもよい。
【0067】
●ドローンの機能部
ドローン100は、情報処理を実行するためのCPU(Central Processing Unit)などの演算装置、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などの記憶装置を備え、これによりソフトウェア資源として少なくとも、飛行制御部1001および散布制御部1002を有する。
【0068】
飛行制御部1001は、モーター102を稼働させ、ドローン100の飛行および離着陸を制御する機能部である。飛行制御部1001は、例えばフライトコントローラー501によって実現され、飛行高度、飛行速度、および飛行ルートを制御して、ドローン100を圃場の上空に飛行させる。
【0069】
散布制御部1002は、ポンプ106を稼働させ、ノズル103-1、103-2、103-3、103-4からの散布物の散布を制御する機能部である。散布制御部1002は、例えばフライトコントローラー501によって実現される。
【0070】
●飛行管理装置の機能部
図8に示すように、飛行管理装置600は、少なくとも圃場内においてドローン100が飛行する飛行ルートと、当該飛行ルートの各地点における高度、速度および散布流量の少なくともいずれかを決定する装置である。飛行管理装置600は、情報処理を実行するためのCPU(Central Processing Unit)などの演算装置、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などの記憶装置を備え、これによりソフトウェア資源として少なくとも、圃場情報取得部610、経路生成部620、飛行態様決定部630および経路選択部640を有する。なお、飛行管理装置600は、ドローンシステム1000に含まれる構成要素のいずれかが有する機能部、すなわち飛行管理部として実現されていてもよい。
【0071】
圃場情報取得部610は、ドローン100が飛行する圃場の境界の3次元座標を取得する機能部である。圃場の3次元座標は、航空写真又は農地バンクのデータを参照してもよいし、作業者により入力されるデータを使用してもよい。また、圃場の3次元座標は、RTK-GNSSの移動局の機能を有する装置により圃場の座標情報を測量し、当該測量結果を受信することで取得してもよい。
【0072】
経路生成部620は、少なくとも圃場内におけるドローン100の飛行ルートを生成する機能部である。経路生成部620は、ドローン100が圃場403内に薬剤を散布しながら飛行する際、当該薬剤が圃場に網羅的に行き渡るような飛行ルートを生成する。
【0073】
図9は、ドローン100から吐出される薬剤Mが圃場に到達する様子を示す模式図である。同図に示すように、ドローン100は、当該ドローン100の位置を起点に定められる所定の散布領域に薬剤Mを散布しながら飛行する。すなわち、ドローン100は、ノズル103-1乃至103-4から所定の角度範囲に薬剤Mを散布する。
図9(a)においては、圃場403からノズル103-1乃至103-4までの第1飛行高度L1から散布された薬剤Mは、ドローン100の下方から進行方向に略直交する方向、すなわち図中左右方向に伸び出た、散布幅W1の範囲に散布される。
【0074】
図9(b)は、
図9(a)における第1飛行高度L1よりも低い第2飛行高度L2から薬剤Mが散布される様子を示す模式図である。圃場403からノズル103-1乃至103-4までの飛行高度L2から散布された薬剤Mは、散布幅W2の範囲に散布される。ノズル103-1、103-2、103-3、103-4から吐出される薬剤の角度範囲は、飛行高度に関わらず同一である。したがって、散布幅W2は、散布幅W1より小さい。また、散布流量および飛行速度がそれぞれ互いに場合、飛行高度L2で吐出される薬剤は、飛行高度L1で吐出される薬剤より狭い面積に散布される。すなわち、散布流量および飛行速度がそれぞれ互いに等しい場合、飛行高度L2での散布における圃場の薬剤濃度は、飛行高度L1での散布における圃場の薬剤濃度よりも高い。
【0075】
飛行ルートは、隣接する互いの飛行ルートにおける散布領域が隙間なく敷設されるように設定される。隣接する散布幅は、一部が互いに重複していてもよい。重複して散布される領域における薬剤濃度が十分安全であるように、薬剤濃度は適宜調整されている。
【0076】
図10(a)乃至
図10(d)は、圃場403内の飛行ルートの例を示す模式図である。各図においては、ドローン100の中央が通過する経路を矢印で示しており、散布幅に係る描画は省略されている。また、圃場403は矩形に表されているが、これに限定されるものではない。
【0077】
各図において、圃場403は、圃場と圃場以外の領域との境界から水平面上所定距離に含まれる縁部403aと、縁部403aの内側の領域、すなわち中央部403bと、が、説明のために便宜上区別されて描画されている。縁部403aは、圃場の境界が凸又は凹形状を有していても、圃場の境界線形状に沿って、圃場の境界から所定距離の範囲に規定される。また、言い換えれば、縁部403aは、中央部403bの外周を囲うように規定される。なお、縁部403aおよび中央部403bは、実際の圃場403においては差異がない。
【0078】
図10(a)は、圃場403内の飛行ルートの第1例を示す模式図である。本例においては、飛行ルートは、縁部403aに薬剤を散布しながら飛行する縁部ルート413aと、中央部403bに薬剤を散布しながら飛行する中央部ルート413bと、を含む。
【0079】
縁部ルート413aは、圃場403の一部であって、圃場403と圃場403以外の領域との境界から所定距離の領域内を飛行するルートである。本例においては、縁部ルート413aは、圃場403の内縁を周回するルートである。このとき、ドローン100の散布幅端部が、圃場403の境界と略同一になっている。言い換えれば、縁部ルート413aは、縁部ルート413a飛行時における散布幅の半分だけ圃場403の境界よりも内側に規定されている。
【0080】
中央部ルート413bは、中央部403bを往復して走査するルートである。中央部ルート413bは、例えば中央部403bの各辺のうち、最も長い長辺方向に沿って連続して生成され、当該長辺に隣接する辺のうち短い方の短辺に沿う経路上で旋回を行うように生成されている。長辺方向に沿う飛行ルートは、長辺に平行であってもよいし、平行でなくてもよい。また、長辺方向に沿うルートのそれぞれは、互いに平行であってもよいし、平行でなくてもよい。
【0081】
中央部ルート413bには、中央部403bに網羅的に薬剤散布が行えるよう、縁部403a上空を飛行するルートが含まれていてもよい。例えば、縁部403aで旋回を行ってもよい。旋回中はドローン100の位置変化の様子が直進中とは異なるため、旋回を中央部403b以外の領域で行うことにより、中央部403b全域に渡って直進飛行が可能になり、中央部403bへ散布される薬剤を均一にすることができる。
【0082】
図10(b)は、圃場403内の飛行ルートの第2例を示す模式図である。本例において、縁部ルート413aは、第1例と同様、圃場403の内縁を周回するルートである。中央部ルート413bは、中央部403bの端部から略中央に向かって、順次周回するルートである。この構成によれば、90度の旋回を繰り返して中央部403b内を飛行するため、180度の旋回を複数回行う飛行ルートに比べて、少ないエネルギーで中央部403bの網羅的な散布が可能である。
【0083】
図10(c)は、圃場403内の飛行ルートの第3例を示す模式図である。本例は、中央部ルート423bが、中央部403bの略中央から端部に向かって順次周回する点で、
図10(b)に示す第2例とは異なる。なお、縁部ルート413a、ならびに、第2例および第3例における中央部ルート423b、433bの周回方向は任意であり、図中右回りであっても左回りであってもよい。また、縁部ルート413aと中央部ルート423b、433bとは、周回方向が同一であっても反対方向であってもよい。
【0084】
図10(d)は、圃場403内の飛行ルートの第4例を示す模式図である。本例においては、縁部ルート443aおよび中央部ルート443bがそれぞれ複数に分割され、交互に接続されている。言い換えれば、第4例における飛行ルートは、縁部ルート443aの一部を飛行した後に、中央部ルート443bの少なくとも一部を飛行し、その後、縁部ルート443aの他の一部を飛行するルートである。本例の飛行ルートによれば、縁部ルート443aと中央部ルート443bとを別々に生成する必要がないため、旋回の回数が少なくて済み、少ないエネルギーおよび短時間で、圃場403における網羅的な散布が可能である。
【0085】
経路生成部620により生成された飛行ルートは、ユーザインターフェース装置200の表示部に表示されてもよい。またその際、飛行ルートは、圃場の画像に重ね合わされて表示されてもよい。
【0086】
飛行態様決定部630は、当該飛行ルートの各地点における飛行高度、飛行速度および散布流量の少なくともいずれかを決定する機能部である。飛行態様決定部630は、縁部ルート413a、443aと、中央部ルート413b、423b、433b、443bとで、高度、速度および散布流量の少なくともいずれかを異ならせる。
【0087】
飛行態様決定部630は、縁部ルート413a、443aにおける飛行高度を、中央部ルート413b乃至443bにおける飛行高度よりも低くなるように制御する。薬剤散布時の飛行高度が高いと、近隣に薬剤が浮遊し、圃場外への薬剤飛散、すなわちドリフトが生じるおそれがある。ドリフトは、近隣とのトラブルの原因となったり、公共用水域への農薬混入による環境への悪影響を与えるおそれがある。また、圃場の外に有機農場がある場合、有機農場に薬剤が漏れ出てしまうことで品質を損なうおそれがある。縁部ルート413a、443aの飛行高度を低くする構成によれば、縁部ルート413a、443aにおけるドローン100からのドリフト率を小さくすることができる。
【0088】
一方、中央部403bにおいては、圃場外の領域と隣接していないため、中央部ルート413b乃至443bにおいて縁部ルート413a、443aよりも飛行高度を高くしても、低いドリフト率を維持できる。高い高度で飛行する構成によれば、散布幅が大きくなるため、経路長を短くすることができる。中央部403bにおいても低い飛行高度で飛行するものとすると、
図9を用いて説明した通り、散布幅が小さくなるため、長い飛行経路を飛行して、密に飛行する必要が生じる。その結果、飛行時間が長くなり、飛行に必要な電力量が増大する。したがって、縁部ルートにおける飛行高度と中央部ルートにおける飛行高度とを異ならせ、縁部ルートにおける飛行高度を低くすることで、短時間かつ少ないエネルギー消費量で圃場全体に薬剤を散布しつつ、圃場外へのドリフト率を低減することができる。
【0089】
飛行態様決定部630は、飛行ルートの各地点における薬剤の散布流量を決定し、中央部ルート413b乃至443bにおける散布流量を縁部ルート413a、443aにおける散布流量よりも増加させる。中央部ルート413b乃至443bの飛行高度は縁部ルート413a、443aよりも高いため、他の条件が同一の場合、圃場403に到達する中央部403bの薬剤密度は、縁部403aより低くなる。そこで、中央部ルート413b乃至443bにおける散布流量を縁部ルート413a、443aよりも大きくすることで、圃場403に到達する薬剤密度を均一にすることができる。なお、散布流量は、単位時間当たりの薬剤の吐出量であり、特に、等速での直進中における制御目標値である。
【0090】
飛行態様決定部630は、飛行ルートの各地点におけるドローンの飛行速度を決定し、中央部ルート413b乃至443bにおける飛行速度を縁部ルート413a、443aにおける飛行速度よりも低下させてもよい。中央部ルート413b乃至443bの飛行高度は縁部ルート413a、443aよりも高いため、飛行速度を縁部ルート413a、443aよりも低下させることで圃場403に到達する薬剤密度を均一にすることができる。
【0091】
飛行態様決定部630は、あらかじめ記憶されている飛行高度と散布流量の関係式に基づいて、飛行高度が高いほど散布流量を大きくするように制御してもよい。また、飛行態様決定部630は、飛行高度と散布流量の組合せを少なくとも2個含むテーブルを有していて、飛行高度に応じて散布流量を選択してもよい。飛行態様決定部630は、あらかじめ記憶されている飛行高度と飛行速度の関係式に基づいて、飛行高度が高いほど飛行速度を低下させるように制御してもよい。飛行態様決定部630は、飛行高度と飛行速度の組合せを少なくとも2個有していて、飛行高度に応じて飛行速度を選択してもよい。
【0092】
飛行高度と散布流量との関係は、散布される薬剤の種類に応じて異なっていてもよい。例えば、肥料を散布する場合は、均一に散布する必要がある。一方で、農薬散布を行う場合、病原菌は圃場403の外から浮遊してくるため、縁部403aの散布濃度を高くすることで、圃場403内での病気の蔓延を防ぐことができる。そこで、縁部403aにおける農薬の散布流量は、肥料の散布流量より大きくてもよい。また、飛行高度と飛行速度との関係は散布される薬剤の種類に応じて異なり、縁部ルート413a、443aにおける農薬散布時の飛行速度は、肥料散布時の飛行速度より大きくてもよい。
【0093】
なお、飛行態様決定部630は、中央部ルート413b乃至443bにおける飛行速度を、縁部ルート413a、443aにおける飛行速度よりも上昇させるものとしてもよい。中央部ルート413b乃至443bの飛行速度を速くすることで、作業時間を短くし、省力化を行うことができる。一方、縁部ルート413a、443a飛行時は、作業者等が近くに存在する可能性が中央部ルート413b乃至443bに比べて高い。そのため、低速で飛行することで高い安全性を担保できる。
【0094】
経路選択部640は、縁部ルート413a、443aにおける飛行速度と、中央部ルート413b乃至443bにおける飛行速度との組合せを選択する機能部である。上述した通り、飛行態様決定部630においては、縁部ルート413a、443aにおける飛行速度が中央部ルート413b乃至443bにおける飛行速度よりも速い態様と遅い態様の両方が実現できる。経路選択部640は、ドローン100の状況又は作業者からの入力に応じて、いずれの態様で制御するかを選択する。
【0095】
ドローン100の状況とは、例えばドローン100の作業余力、具体的にはバッテリ残量又は飛行可能時間である。バッテリ残量が少ない場合は、中央部ルート413b乃至443bにおける飛行速度を上げることで飛行時間を短縮することができる。また、ドローン100の状況とは、当該圃場403における残作業量を含んでいてもよい。残作業量が所定以上ある場合は、時間短縮を優先して中央部403bにおける飛行速度を上げてもよい。経路選択部640は、バッテリ残量および残作業量を参照し、残作業量に対してバッテリ残量が少ない場合に飛行速度を上げてもよい。状況に応じて飛行速度の組合せが選択される構成によれば、作業効率の良い態様を自動的に制御することができる。また、作業者からの入力に応じて飛行速度の組合せが選択される構成によれば、作業者の方針に合わせた経路の生成が可能である。
【0096】
経路選択部640により選択された飛行速度の組合せに応じて、縁部ルート413a、443a飛行時および中央部ルート413b乃至443b飛行時の散布流量が変更されてもよい。特に、均一散布のために、飛行速度が大きいほど散布流量は大きく制御される。また、飛行速度の組合せに応じて、飛行高度が変更されてもよい。なお、縁部ルート413a、443aにおける飛行高度は、所定の高度上限を超えないように制御されることが望ましい。
【0097】
飛行態様決定部630および経路選択部640により決定された、各地点における飛行速度、飛行高度および散布流量は、ユーザインターフェース装置200の表示部に出力されてよい。
【0098】
なお、本説明において、飛行高度、飛行速度および散布流量の大小は、単に相対的な関係を示したものである。すなわち、所望の差異を実現するために、一方を大きくしてもよいし、他方を小さくしてもよい。また、一方を大きく、かつ、他方を小さくしてもよい。
【0099】
●縁部ルートと中央部ルートの移行時における飛行態様
ドローン100は、縁部ルート413a、443aから中央部ルート413b乃至443bに移行する際に、高度変更、旋回および移動を行う必要がある。ここで、飛行態様決定部630は、高度変更と、旋回および移動と、を別々に行うようドローン100を制御する。
【0100】
旋回および移動は、ドローン100の中央以外の点を回転中心として、ドローン100の中央の位置を移動させながら機先の向きを変える旋回であり、いわゆるサイマルターンである。サイマルターンは、ドローン100がその位置を変えずに機先の向きを変えるヨー回転に比べて、回転翼等の各機器に対する負担を小さくすることができる。ヨー回転は、対角に位置する4枚2セットの回転翼のみを回転させて機体を回転させるため、当該回転する回転翼に多くのエネルギーを消費させ、付随するモータを回転させる必要がある。一方で、サイマルターンは、中央部の位置を移動させるため、すべての回転翼を使用して旋回する。すなわち、サイマルターンは、ヨー回転に比べて、各回転翼およびモータの負担を分散することができる。
【0101】
飛行態様決定部630は、縁部ルート413a、443aから中央部ルート413b乃至443bに移行する際に、高度の上昇の後に、高度を変更せずに旋回および移動を行うようドローン100を制御してもよい。また、飛行態様決定部630は、縁部ルート413a、443aから中央部ルート413b乃至443bに移行する際に、高度を変更せずに旋回および移動を行った後に、高度のみを上昇させるようドローン100を制御してもよい。縁部ルート413a、443aから中央部ルート413b乃至443bへの移行において、サイマルターンを行ってから上昇する構成によれば、縁部403aにおいて飛行高度が上がることがない。縁部403aを高い飛行高度で飛行すると、障害物や人に衝突する可能性があるため、本構成によれば、高い安全性を維持できる。
【0102】
飛行態様決定部630は、縁部ルート413a、443aから中央部ルート413b乃至443bに移行する際に、高度の上昇、旋回および移動を同時に行うようドローン100を制御してもよい。この構成によれば、縁部403aにおいて飛行高度が上がることがないため、安全性が維持できる。また、サイマルターンと同時に上昇が完了するため、サイマルターンと高度上昇を別々に行う場合に比べて飛行時間を短縮できる。
【0103】
また、中央部ルート413b乃至443bから縁部ルート413a、443aに移行する際も同様に、飛行態様決定部630は、高度変更と、旋回および移動と、を別々に行ってよい。その際、旋回および移動を行った後に下降を行ってもよいし、下降の後に旋回および移動を行ってもよい。下降の後に旋回および移動を行う構成によれば、縁部403aにおける飛行高度が低く維持されるため、安全性を維持できる。
【0104】
(本願発明による技術的に顕著な効果)
本発明にかかる圃場管理システムにおいては、圃場での薬剤散布時に、散布薬剤が圃場の外に漏れないようにすることができる。