(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】生体用インプラントの製造方法及び生体用インプラント
(51)【国際特許分類】
A61F 2/28 20060101AFI20220907BHJP
A61L 27/04 20060101ALI20220907BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20220907BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20220907BHJP
C23F 11/00 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
A61F2/28
A61L27/04
A61L27/58
A61L27/50
C23F11/00 B
(21)【出願番号】P 2017232757
(22)【出願日】2017-12-04
【審査請求日】2020-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000001339
【氏名又は名称】グンゼ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 亮
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-537828(JP,A)
【文献】特開2010-240415(JP,A)
【文献】特表2005-523981(JP,A)
【文献】特開2014-193272(JP,A)
【文献】特開2011-72617(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105327397(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/28
A61L 27/04
A61L 27/58
A61L 27/50
C23F 11/00
A61C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム材を界面活性剤溶液に浸漬する工程と、界面活性剤溶液に浸漬後の前記マグネシウム材を洗浄する工程を有し、
前記界面活性剤溶液中の界面活性剤はポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル又はグリセリン脂肪酸エステルである
ことを特徴とする
処理されたマグネシウム材からなる生体用インプラントの製造方法。
【請求項2】
マグネシウム材を洗浄する工程は、水で洗浄する工程とアセトンで洗浄する工程を有することを特徴とする請求項1記載の
処理されたマグネシウム材からなる生体用インプラントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウムの生体内での分解を遅らせて長期にわたって強度を維持することができる生体用インプラントの製造方法及び該処理方法によって得られる生体用インプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、骨折の治療において骨折部を固定するためにインプラントが用いられることがある。一般的に骨折部の修復後のインプラントは抜去されることが望ましいが、インプラントの抜去は体に大きな負担がかかるという問題があった。そこで近年、生体必須金属で構成されており生体内で分解吸収されるマグネシウム材またはマグネシウム合金材からなるインプラントが注目されている。
【0003】
骨折治療においては、自家骨の修復に約3ヶ月を要すると言われているため、骨同士を接合するためのインプラントは、少なくとも3ヶ月間生体内において強度を維持する必要がある。しかしながら、マグネシウム材またはマグネシウム合金材からなるインプラントは生体内の血液および体液中に含まれる水や有機酸ならびに塩化物イオン等と反応するため、既に実用化されているポリ乳酸等の加水分解による反応だけの生分解性高分子とは異なり、体内における分解吸収期間が短いという問題があった。
【0004】
そこで、マグネシウム合金を所定期間にわたって強度が必要とされるインプラント材料に用いるために、マグネシウム合金の表面に耐食性を有する被膜を形成することによって、マグネシウム合金の分解速度を抑制する方法が提案されている。特許文献1には陽極酸化被膜を表面に有するマグネシウム製品が開示されている。特許文献1は工業材料への使用を目的としており、塩水噴霧試験に対して高い耐食性が得られていることが報告されている。一方、特許文献2では陽極酸化処理によってセラミック層が形成されたマグネシウムが開示されている。特許文献2は生体内インプラントへの使用を目的としており、模擬体液中において分解が抑制されることが報告されている。
【0005】
しかしながら、陽極酸化処理を施す場合には、被処理材と電極の接点位置には陽極酸化被膜が形成されず、その部分から局所的に分解が進行するという問題があった。また、陽極酸化処理ではリン酸やアンモニア等の様々な化学薬品を使用に加え、特殊な装置を用いた電気化学的な処理を必要とすることから作業が煩雑であるという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-214761号公報
【文献】米国特許第9066999号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記現状に鑑み、マグネシウムの生体内での分解を遅らせて長期にわたって強度を維持することができる生体用インプラントの製造方法及び該処理方法によって得られる生体用インプラントを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、マグネシウム材を界面活性剤溶液に浸漬する生体用インプラントの製造方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、驚くべきことにマグネシウム材を界面活性剤溶液に浸漬するだけで生体内における分解速度を遅くすることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明の生体用インプラントの製造方法は、マグネシウム材を界面活性剤溶液に浸漬する。
本発明は、マグネシウム材を界面活性剤溶液に浸漬するだけでマグネシウム材の生体内での分解速度を遅くすることができるため、従来の陽極酸化処理と比べて格段に生体への安全性と簡易性に優れている。マグネシウム材を界面活性剤溶液に浸漬することで、マグネシウム材の生体内での分解速度が遅くなる理由ははっきりとはわかっていないが、マグネシウム材の表面に界面活性剤の膜ができ、これが生体内の物質とマグネシウムとの接触を妨げるためではないかと考えられる。また、本発明では、従来の陽極酸化処理と違って被処理材と電極の接点のような処理が行われない部分が存在しないため、陽極酸化処理を用いるよりも耐久性の高い生体用インプラントとすることができる。
【0011】
上記マグネシウム材は、マグネシウム金属単体からなるマグネシウム材であってもよく、マグネシウム合金であってもよい。また、マグネシウム材の形状は、ねじ状、板状等いかなる形状であってもよい。
【0012】
上記界面活性剤溶液を構成する界面活性剤は特に限定されないが、陰イオン界面活性剤又は非イオン界面活性剤であることが好ましい。界面活性剤を陰イオン界面活性剤又は非イオン界面活性剤とすることで、マグネシウム材の生体内における分解速度を充分に遅くでき、生体内で用いた場合により長期間強度を維持することができる。
【0013】
上記陰イオン界面活性剤は特に限定されないが、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩又はアルキルベンゼンスルホン酸塩であることが好ましく、具体的には、ドデシル硫酸ナトリウムであることがより好ましい。上記の陰イオン界面活性剤を用いることでマグネシウム材の生体内における分解速度を充分に遅くでき、生体内で用いた場合により長期間強度を維持することができる。上記陰イオン界面活性剤は単独で用いてもよく複数を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
上記非イオン界面活性剤は特に限定されないが、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル又はグリセリン脂肪酸エステルであることが好ましく、具体的には、ポリエチレングリコールモノラウレート又はポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートであることがより好ましい。上記の非イオン界面活性剤を用いることでマグネシウム材の生体内における分解速度を充分に遅くでき、生体内で用いた場合により長期間強度を維持することができる。上記非イオン界面活性剤は単独で用いてもよく複数を組み合わせて用いてもよい。
【0015】
上記界面活性剤溶液の溶媒は特に限定されず、例えば、水、エタノール、メタノール等が挙げられる。なかでも安全性に優れることから水が好ましい。
【0016】
上記界面活性剤溶液における界面活性剤の濃度は特に限定されないが、好ましい下限は1重量%、好ましい上限は60重量%である。界面活性剤の濃度が上記範囲であることで、マグネシウム材の生体内における分解速度を充分に遅くでき、生体内で用いた場合により長期間強度を維持することができる。
【0017】
上記浸漬の際の温度は特に限定されないが、好ましい下限が5℃、好ましい上限が60℃である。浸漬の際の温度が上記範囲であることで、マグネシウム材の生体内における分解速度を充分に遅くでき、生体内で用いた場合により長期間強度を維持することができる。
【0018】
上記浸漬の時間は特に限定されないが好ましい下限が5分間、好ましい上限が48時間である。上記範囲の時間浸漬することでマグネシウム材の生体内における分解速度を充分に遅くでき、生体内で用いた場合により長期間強度を維持することができる。
【0019】
本発明の生体用インプラントの製造方法は、界面活性剤溶液にマグネシウム材を浸漬するだけであるため、従来の陽極酸化処理に比べて多数の化学薬品を用いる必要がないことから、簡便かつ生体に用いても安全である。また、陽極酸化処理では電極との接点に耐食性皮膜を形成できないという欠点があるのに対して、本発明ではそのような欠点はないため、得られる生体用インプラントは長期にわたって強度を維持することができる。
このような本発明の生体用インプラントの製造方法により処理されたマグネシウム材からなる生体用インプラントもまた、本発明の1つである。
なお、本発明は、マグネシウム材の表面に形成される物質の構造や特性を直接的に特定することは極めて困難であり、不可能であるか、又はおよそ実際的でないといわざるを得ない。従って、本発明においては、生体用インプラントを、本発明の「生体用インプラントの製造方法により処理されたマグネシウム材からなる」と、その物の製造方法により記載することは許容されるべきである。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、マグネシウムの生体内での分解を遅らせて長期にわたって強度を維持することができる生体用インプラントの製造方法及び該処理方法によって得られる生体用インプラントを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の生体用インプラントをリン酸緩衝生理食塩水に浸漬したときの、0日~28日目までの累積水素発生量をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0023】
(実施例1)
切削品マグネシウム合金製タッピンねじ(φ2.2×10mm)を精製水で洗浄し、その後アセトンで更に洗浄して乾燥させた。次いで、40℃に調温したインキュベーター内にポリエチレングリコールモノラウレートの30重量%水溶液を加えて加温し、ねじを浸漬した。溶液がねじの周囲にいきわたるようにするために、溶液を135rpmの条件で振とうしながら24時間反応させた。浸漬、振とう後のねじを精製水で洗浄し、アセトン中に浸漬した。その後、ねじを取り出し室温で乾燥させ、生体用インプラントを得た。
【0024】
(参考例1)
ポリエチレングリコールモノラウレートの30重量%水溶液の代わりにドデシル硫酸ナトリウムの30重量%水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして生体用インプラントを得た。
【0025】
(実施例3)
ポリエチレングリコールモノラウレートの30重量%水溶液の代わりにポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートの30重量%水溶液を用いた以外は実施例1と同様にして生体用インプラントを得た。
【0026】
(比較例1)
処理を行わず、切削品マグネシウム合金製タッピンねじをそのまま生体用インプラントとして用いた。
【0027】
<評価>
実施例
、比較例
及び参考例で得られた生体用インプラントについて、下記の項目について評価した。結果を表1及び
図1に示した。
【0028】
(耐久性の評価)
リン酸緩衝生理食塩水(PBS)200mL中に得られた生体用インプラントを浸漬し、その後PBSで満たされたメスシンダーを生体用インプラントの上にかぶせた。そして、生体用インプラントの分解によって生じる水素をメスシリンダーに捕集し、1日毎に累積の水素発生量を計測した。この際、水素がメスシリンダーの内壁に溜まっていた場合は、超音波洗浄機を用いて水素をメスシリンダー上部へ移動させた。また、PBSは毎日半量を交換した。
28日目の累積水素発生量について、2.0mL以下の場合を「〇」、2.0mLより多い場合を「×」として生体用インプラントの耐久性を評価した。
ここで、
図1に28日目までの累積水素発生量をプロットしたグラフを示した。
図1より、界面活性剤に浸漬する処理を行うことによって、処理を行わなかったものと比べて生体用インプラントの分解が抑制されていることがわかる。
【0029】
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明によれば、マグネシウムの生体内での分解を遅らせて長期にわたって強度を維持することができる生体用インプラントの製造方法及び該処理方法によって得られる生体用インプラントを提供することができる。