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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】自律型無人潜水機
(51)【国際特許分類】
   B63C 11/48 20060101AFI20220907BHJP
   B63C 11/00 20060101ALI20220907BHJP
   B63C 11/52 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
B63C11/48 D
B63C11/00 E
B63C11/52
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018075748
(22)【出願日】2018-04-10
(65)【公開番号】P2019182214
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】向田 峰彦
(72)【発明者】
【氏名】益田 興佑
(72)【発明者】
【氏名】宮田 慎一
(72)【発明者】
【氏名】岡矢 紀幸
(72)【発明者】
【氏名】中村 和行
(72)【発明者】
【氏名】橋本 誠志
(72)【発明者】
【氏名】沖村 祐亮
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2015-0052617(KR,A)
【文献】特開平05-254487(JP,A)
【文献】特開2016-159662(JP,A)
【文献】特開2013-067358(JP,A)
【文献】特開2005-106655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63C 11/48
B63C 11/00
B63C 11/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水中または水底に位置する検査対象物に沿って航走する潜水機本体と、
前記潜水機本体から延びるアームと、
前記検査対象物に対して接触する接触部および前記検査対象物を検査する検査機器を有する検査用ツール部と、
前記アームと前記検査用ツール部の間に設けられた、少なくとも1軸周りに前記アームに対する前記検査用ツール部の受動的な相対回転を許容する受動関節と、を備える、自律型無人潜水機。
【請求項2】
前記受動関節は、互いに垂直な3軸周りに前記アームに対する前記検査用ツール部の受動的な相対回転を許容する、請求項1に記載の自律型無人潜水機。
【請求項3】
前記検査対象物は、水中または水底において所定の方向に延在し、
前記接触部は、前記検査対象物を幅方向に挟み込むように前記検査対象物に接触し、
前記少なくとも1軸は、前記検査対象物が延在する延在方向と前記幅方向の双方に垂直である、請求項1または2に記載の自律型無人潜水機。
【請求項4】
前記接触部が前記検査対象物に対して接触しないとき、前記少なくとも1軸周りの前記アームに対する前記検査用ツール部の回転位置は中立位置にあり、
前記中立位置から前記検査用ツール部が前記アームに対して相対回転したときに、前記検査用ツール部を前記中立位置に戻す方向の付勢力を発生させる付勢部材を備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の自律型無人潜水機。
【請求項5】
前記潜水機本体は、
前記接触部を前記検査対象物に対して接触させる作業位置と、前記作業位置よりも前記潜水機本体に近い待機位置との間で、前記検査用ツール部が移動するよう前記アームを駆動する駆動部と、
前記潜水機本体の正面から見て、前記検査用ツール部が前記待機位置にあるときの前記アームが隠れるように、当該アームと重なるカバー部と、を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の自律型無人潜水機。
【請求項6】
前記検査用ツール部は、前記接触部が前記検査対象物に対して接触したことを検知する接触検知部を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の自律型無人潜水機。
【請求項7】
前記潜水機本体は、前記検査用ツール部が移動するよう前記アームを駆動する駆動部と、前記駆動部を制御する制御装置と、を有し、
前記接触部が前記検査対象物に押し付けられる押付力が大きいほど、前記受動関節と前記接触部の間の間隔を狭める間隔変更機構と、
前記間隔を検知する間隔検知部を備え、
前記制御装置は、前記間隔検知部が検知した検知信号に基づき、前記間隔が所定の範囲内に収まるように前記駆動部を制御する、請求項1~6のいずれか1項に記載の自律型無人潜水機。
【請求項8】
前記検査用ツール部は、水の流れを受けて前記接触部を前記検査対象物に対して押し付ける方向に力を発生させる羽根部材を有する、請求項1~7のいずれか1項に記載の自律型無人潜水機。
【請求項9】
前記検査用ツール部は、前記羽根部材が発生する力が所定の範囲内に保たれるように、前記羽根部材が受ける水の流速に応じて、前記検査対象物に対する前記羽根部材の傾きを変更する傾き変更機構を有する、請求項8に記載の自律型無人潜水機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海底パイプラインや海底の構造物などの検査を行う自律型無人潜水機に関する。
【背景技術】
【0002】
海底パイプラインや海底の構造物などは、腐食や劣化の具合等を定期的に検査する必要がある。例えば特許文献1には、海底パイプラインに沿って航走しながら当該海底パイプラインを検査する自律型無人潜水機(AUV:Autonomous Underwater Vehicle。以下、AUVともいう。)が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示されたAUVは、検査対象物としての海底パイプラインを辿りながら航走する潜水機本体と、基端部が潜水機本体の後部に連結された多関節のロボットアームと、当該ロボットアームの先端部に取り付けられた検査用ツール部と、制御部を備える。制御部は、ロボットアームの複数の駆動部を制御して、検査用ツール部が海底パイプラインに対して所定の位置関係となるようにロボットアームを作動させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5806568号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したAUVでは、検査対象物に対する潜水機本体の向きが航走中に変化した場合でも、ロボットアームの各駆動部が駆動して、検査対象物に対する検査用ツール部の向きを目標の向きに維持することができる。これにより、検査精度の向上が期待できる。ところで、上述のAUVにおいて、ロボットアームの各駆動部の作動には、潜水機本体に内蔵されたバッテリの電力が用いられる。バッテリの電力が少なくなると、バッテリの充電のためにAUVを浮上させる必要が生じる。このため、検査作業を効率よく進めるためには、AUVのバッテリの電力の消費をできるだけ抑制することが望まれる。
【0006】
そこで、本発明は、内蔵されたバッテリの電力の消費を抑えつつ、検査対象物を精度よく検査することができるAUVを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係るAUVは、水中または水底に位置する検査対象物に沿って航走する潜水機本体と、前記潜水機本体から延びるアームと、前記検査対象物に対して接触する接触部および前記検査対象物を検査する検査機器を有する検査用ツール部と、前記アームと前記検査用ツール部の間に設けられた、少なくとも1軸周りに前記アームに対する前記検査用ツール部の受動的な相対回転を許容する受動関節と、を備える。
【0008】
上記の構成によれば、検査対象物に対する潜水機本体の向きが多少変化しても、少なくとも1軸周りについては、アームに対して検査用ツール部が受動的に相対回転するので、アクチュエータを用いずに潜水機本体の回転変位が検査用ツール部に伝わるのを抑制することができる。これにより、少なくとも1軸周りについては、検査対象物に対する検査用ツール部の向きを維持することができる。従って、潜水機本体に内蔵されたバッテリの電力の消費を抑えつつ、検査対象物を精度よく検査することができる。
【0009】
上記のAUVにおいて、前記受動関節は、互いに垂直な3軸周りに前記アームに対する前記検査用ツール部の受動的な相対回転を許容してもよい。この構成によれば、検査対象物に対する潜水機本体の向きがどのような方向に変化しても、潜水機本体の回転変位が検査用ツール部に伝わるのをより抑制することができる。
【0010】
上記のAUVにおいて、前記検査対象物は、水中または水底において所定の方向に延在し、前記接触部は、前記検査対象物を幅方向に挟み込むように前記検査対象物に接触し、前記少なくとも1軸は、前記検査対象物が延在する延在方向と前記幅方向の双方に垂直であってもよい。この構成によれば、接触部が検査対象物を幅方向に挟み込むように検査対象物に接触する。このため、検査対象物に対する潜水機本体の向きが、検査対象物の延在方向と幅方向の双方に垂直な軸周りに変化した場合でも、検査対象物からその幅方向に接触部に作用する接触力により、受動関節が、当該軸周りに検査用ツール部が回転しないよう、アームに対する検査用ツール部の受動的な相対回転を許容することができる。
【0011】
上記のAUVにおいて、前記接触部が前記検査対象物に対して接触しないとき、前記少なくとも1軸周りの前記アームに対する前記検査用ツール部の回転位置は中立位置にあり、前記中立位置から前記検査用ツール部が前記アームに対して相対回転したときに、前記検査用ツール部を前記中立位置に戻す方向の付勢力を発生させる付勢部材を備えてもよい。この構成によれば、接触部が検査対象物に対して接触しないとき、アームに対する検査用ツール部の回転位置を中立位置にするため、検査用ツール部を所望の姿勢とした状態で検査対象物に対し近づけることができる。
【0012】
上記のAUVにおいて、前記潜水機本体は、前記接触部を前記検査対象物に対して接触させる作業位置と、前記作業位置よりも前記潜水機本体に近い待機位置との間で、前記検査用ツール部が移動するよう前記アームを駆動する駆動部と、前記潜水機本体の正面から見て、前記検査用ツール部が前記待機位置にあるときの前記アームが隠れるように、当該アームと重なるカバー部と、を有してもよい。この構成によれば、検査用ツール部が待機位置にあるとき、アームが受ける水の抵抗を抑制することができる。
【0013】
上記のAUVにおいて、前記検査用ツール部は、前記接触部が前記検査対象物に対して接触したことを検知する接触検知部を有してもよい。この構成によれば、接触検知部の信号を利用して、検査用ツール部が検査対象物を検査可能な状態となったか否かを即座に判断することができる。
【0014】
上記のAUVにおいて、前記潜水機本体は、前記検査用ツール部が移動するよう前記アームを駆動する駆動部と、前記駆動部を制御する制御装置と、を有し、前記接触部が前記検査対象物に押し付けられる押付力が大きいほど、前記受動関節と前記接触部の間の間隔を狭める間隔変更機構と、前記間隔を検知する間隔検知部を備え、前記制御装置は、前記間隔検知部が検知した検知信号に基づき、前記間隔が所定の範囲内に収まるように前記駆動部を制御してもよい。この構成によれば、受動関節と接触部の間の間隔を所定の範囲内に収めるため、接触部が検査対象物を押し付けすぎたり、接触部が検査対象物から離れたりすることを抑制することができる。
【0015】
上記のAUVにおいて、前記検査用ツール部は、水の流れを受けて前記接触部を前記検査対象物に対して押し付ける方向に力を発生させる羽根部材を有してもよい。この構成によれば、潜水機本体が航走することにより羽根部材の周りに水の流れが生じる。この水の流れを受けて羽根部材が発生する力により、接触部が検査対象物に対して押し付けられるため、接触部が検査対象物から離れにくくすることができる。
【0016】
上記のAUVにおいて、前記検査用ツール部は、前記羽根部材が発生する力が所定の範囲内に保たれるように、前記羽根部材が受ける水の流速に応じて、前記検査対象物に対する前記羽根部材の傾きを変更する傾き変更機構を有してもよい。この構成によれば、羽根部材の傾きを変えて、接触部が検査対象物に対して押し付ける力が大きくなり過ぎないようにすることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、内蔵されたバッテリの電力の消費を抑えつつ、検査対象物を精度よく検査することができるAUVを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係るAUVの斜視図である。
図2図1に示すAUVの下部を示す部分側面図である。
図3図1に示すAUVのロボットアームの先端部近傍と検査用ツール部の斜視図である。
図4図3に示す検査用ツール部の検査対象物に対する接触状態を説明するための検査用ツール部の部分正面図である。
図5図3に示す検査用ツール部の間隔変更機構を説明するための検査用ツール部の模式的側面図である。
図6図1に示すAUVの制御系統の構成を示すブロック図である。
図7図3に示す検査用ツール部の傾き変更機構を説明するための検査用ツール部の模式的側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態に係るAUVについて説明する。
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係るAUV1の斜視図である。本実施形態では、AUV1は、水中において航走しながら水中または水底に位置する検査対象物を検査する。本実施形態では、検査対象物は、海底パイプラインXであり、水中または水底において所定の方向に延在し、延在方向に対して垂直な断面が円形の外表面を有する。なお、本願の明細書および特許請求の範囲において、「水」とは、例えば海や湖などAUV1が航走可能な液体を意味しており、例えば「水中」は、海中や湖中などを含む。
【0021】
AUV1は、潜水機本体2と、当該潜水機本体2から延びるロボットアーム3と、ロボットアーム3により移動する検査用ツール部4とを備える。本実施形態では、検査用ツール部4を海底パイプラインXに接触させながら、潜水機本体2が海底パイプラインXに対して非接触状態で海底パイプラインXに沿って航走する。
【0022】
潜水機本体2には、航走方向に対する通常の姿勢が定められている。以下の潜水機本体2についての説明では、通常の姿勢における潜水機本体2の航走方向前方、航走方向の反対方向を後方、航走方向左側を左側、航走方向右側を右側、航走方向上側を上側、航走方向下側を下側と定義する。ここで、航走方向に対する通常の姿勢とは、潜水機本体2が航走方向に対して斜め向きの潮流があるような水中を航走する際に、潜水機本体2が潮流に沿うように航走方向に対して斜め向きの姿勢をとるような例外的な場合の姿勢を除く意味である。
【0023】
潜水機本体2は、バッテリを収容する本体部10と、当該本体部10に設けられた推力発生装置11と、当該推力発生装置11を制御する制御装置12を有する。本体部10は、その前部が水の抵抗の少ない流線型をなしており、また、本体部10の上部および下部は、互いに平行な平面状に形成されている。
【0024】
推力発生装置11は、主推進用のスラスタ、および姿勢制御や軌道の微修正等に使用されるスラスタを含む。なお、図1では主推進用スラスタのみ示し、それ以外のスラスタは省略する。
【0025】
制御装置12は、本体部10が海底パイプラインXに対して非接触状態でこの海底パイプラインXを辿りながら航走するように推力発生装置11を制御する。本実施形態では、潜水機本体2が、当該本体部10に対する海底パイプラインXの位置を特定または推定するための検査対象物情報を得るための検出部13を有する。そして、制御装置12は、得られた検査対象物情報に基づき、本体部10が海底パイプラインXに対して非接触状態でこの海底パイプラインXを辿りながら航走するように推力発生装置11を制御する。
【0026】
本実施形態では、検出部13は、第1検出部13aと2つの第2検出部13bを含む。第1検出部13aは、マルチビームソーナであり、図1に示すように、本体部10の前側下部に設けられ、主に中距離前方の検査対象物情報を収集するためのものである。この中距離前方の検査対象物情報とは、海底パイプラインX及びその周辺の中距離の状況、例えば中距離前方の海底パイプラインXの曲がり具合に関する情報である。
【0027】
2つの第2検出部13bは、形状把握用レーザであり、図1に示すように、本体部10の下面において前後に互いに離間して設けられている。この2つの形状把握用レーザは、互いの相対位置の差に基づいて、主に近距離前方の検査対象物情報を収集するためのものである。この近距離前方の検査対象物情報とは、海底パイプラインX及びその周辺の近距離の状況、例えば近距離前方の海底パイプラインXの曲がり具合に関する検査対象物情報を収集するためのものである。
【0028】
図2は、AUV1の下部を示す部分側面図である。図2に示すように、ロボットアーム3は、第1~第7リンク21~27が連結して構成される。ロボットアーム3は、6軸の垂直多関節型のロボットアームであり、基端側から先端側に向かって、第1~第6関節31~36を有する。
【0029】
第1リンク21が第1関節31により潜水機本体2に相対回転可能に連結される。第2リンク22が第2関節32により第1リンク21に相対回転可能に連結される。第3リンク23が第3関節33により第2リンク22に相対回転可能に連結される。第4リンク24は、第2リンク22と第3リンク23とともに、平行リンク機構を構成する。すなわち、第2リンク22に対する第3リンク23の位置が決まると、第3リンク23に対する第4リンク24の位置は、一意に定まる。第5リンク25が第4関節34により第4リンク24に相対回転可能に連結される。第6リンク26が第5関節35により第5リンク25に相対回転可能に連結される。第7リンク27が第6関節36により第6リンク26に相対回転可能に連結される。
【0030】
第1リンク21は、本体部10の下面より下方に位置する。第1リンク21は、第1関節31を介して本体部10の下面に垂直な第1軸C1周りに回転可能に、本体部10に連結される。第1関節31には、図2で図示しない第1駆動部61(図6参照)が設けられている。第1駆動部61は、本体部10に対して第1軸C1周りに第1リンク21を回転駆動する。
【0031】
第2リンク22は、第2関節32を介して第1軸C1に垂直な第2軸C2周りに回転可能に、第1リンク21に連結される。第2関節32には、図2で図示しない第2駆動部62(図6参照)が設けられている。第2駆動部62は、第1リンク21に対して第2軸C2周りに第2リンク22を回転駆動する。
【0032】
第3リンク23は、一対の互いに平行な長尺の第3リンク部材23a,23bで構成される。一対の第3リンク部材23a,23bの長手方向の一端は、それぞれ、第1軸C1および第2軸C2の双方に垂直な第3軸C3a,C3b周りに回転可能に第2リンク22に連結される。また、一対の第3リンク部材23a,23bの長手方向の他端は、それぞれ、第3軸C3a,C3bに平行な第4軸C4a,C4b周りに回転可能に第4リンク24に連結される。
【0033】
第3関節32には、図2で図示しない第3駆動部63(図6参照)が設けられている。第3駆動部63は、第2リンク22に対して第3軸C3a周りに第3リンク部材23aを回転駆動する。上述したように、第4リンク24は、第2リンク22と第3リンク23とともに平行リンク機構を構成するため、第3リンク部材23aが回転すると、第3リンク部材23aに対し平行な状態を維持するように第3リンク部材23bも回転する。すなわち、第3軸C3a,C3bのうち、第3軸C3aは駆動軸であり、第3軸C3bは従動軸である。
【0034】
第5リンク25は、第4関節34を介して第4軸C4a周りに回転可能に、第4リンク24に連結される。第6リンク26は、第5関節35を介して第4軸C4aに垂直な第5軸C5周りに回転可能に、第5リンク25に連結される。第7リンク27は、第6関節36を介して第4軸C4aおよび第5軸C5の双方に垂直な第6軸C6周りに回転可能に、第6リンク26に連結される。第7リンク27には検査用ツール部4が接続される。
【0035】
上述したように、第1~第3関節31~33には第1~第3駆動部61~63がそれぞれ設けられているため、第1~第3関節31~33は、能動関節である。第1~第3駆動部61~63は、例えばサーボモータであり、第1~第3関節31~33にはサーボモータの回転角度位置を検出する位置センサ(図示略)がそれぞれ設けられている。制御装置12は、位置センサからの回転角度位置情報に基づき、第1~第3駆動部61~63を制御する。
【0036】
以下の説明では、ロボットアーム3における、潜水機本体2に対する位置の制御が可能な部分、すなわち、第1~第4リンク21~24を、能動アーム部3aと呼ぶこととする。能動アーム部3aは、本発明の「アーム」に相当し、能動アーム部3aを駆動する第1~第3駆動部61~63は、本発明の「駆動部」に相当する。
【0037】
一方、第4~第6関節34~36には、第1~第3関節31~33とは異なり駆動部が設けられていない。すなわち、第4~第6関節34~36は、受動関節である。これら第4~第6関節34~36は、能動アーム部3aに対する検査用ツール部4の受動的な相対回転を許容する。
【0038】
以下の説明では、ロボットアーム3における第5~第7リンク25~27を、受動アーム部3bと呼ぶこととする。
【0039】
本実施形態では、検査用ツール部4を用いた検査作業を行うとき、制御装置12は、検査用ツール部4を、海底パイプラインXに対して接触させる位置(作業位置)P1に移動するよう能動アーム部3aを作動させる。
【0040】
基端側の第1~第3関節31~33(すなわち能動関節)と先端側の第4~第6関節34~36(すなわち、受動関節)の間に配置された第3リンク23(具体的には第3リンク部材23a,23b)は、他のリンクよりも長く形成される。具体的には、制御装置12は、本体部10が海底パイプラインXを辿る際に当該海底パイプラインXに対して接触しないように、本体部10が海底パイプラインXから所定の距離(範囲)を確保しながら海底パイプラインXを辿るよう推力発生装置11を制御する。そして、第3リンク23は、海底パイプラインXから所定の距離離れた本体部10からでも検査用ツール部4を海底パイプラインXから接触させるのに十分な長さを有する。
【0041】
また、制御装置12は、検査用ツール部4を用いた検査を行わないとき(例えば検査作業を行うために海底パイプラインXにアプローチするときや、検査の途中または終了後に海底パイプラインXの近傍から浮上するときなど)、図2に二点鎖線で示すように、作業位置P1よりも潜水機本体2に近い予め定めた位置(待機位置)P2に、検査用ツール部4を待機させるよう能動アーム部3aを作動させる。本実施形態では、待機位置P2は、第2軸C2が潜水機本体2の前後方向に延び、さらに第3リンク23が潜水機本体2の前後方向に水平に延びるときの検査用ツール部4の位置である。
【0042】
図2に示すように、本体部10の下面には、当該下面から下方に突き出たカバー部14が設けられている。カバー部14は、潜水機本体2が航走するときにロボットアーム3が受ける水の抵抗を低減するためのものである。カバー部14は、その前部から側部にかけて、水の抵抗の少ない流線型をなしている。また、カバー部14の後部は、開口しており、当該開口部分から能動アーム部3aが後方に突き出ている。カバー部14と能動アーム部3aとは、能動アーム部3aが予め定めた動作範囲内で動作する際に干渉しないように構成される。
【0043】
カバー部14は、潜水機本体2の正面から見て(本実施形態では、潜水機本体2が航走するときの航走方向前方から見て)、検査用ツール部4が待機位置P2にあるときの能動アーム部3aが隠れるように、能動アーム部3aと重なる。このため、検査用ツール部4が待機位置P2にあるとき、能動アーム部3aが受ける水の抵抗を抑制することができる。
【0044】
図3は、ロボットアーム3の先端部近傍と検査用ツール部4の斜視図である。受動アーム部3bの各リンク25~27は、検査用ツール部4が海底パイプラインXに接触していないとき、能動アーム部3aの先端部である第4リンク24に対して予め定めた中立位置にくるように構成される。具体的には、受動アーム部3bには、一対の第1付勢部材34a,34bと、一対の第2付勢部材35a,35bと、一対の第3付勢部材36a,36bが設けられている。一対の第1付勢部材34a,34b、一対の第2付勢部材35a,35b、一対の第3付勢部材36a,36bは、例えばコイルばねである。
【0045】
一対の第1付勢部材34a,34bは、その一端が第4リンク24に固定され、その他端が第5リンク25に固定される。一対の第1付勢部材34a,34bは、それぞれ第4軸C4aを挟むように互いに平行に設けられており、第4リンク24に対する第5リンク25の回転位置が所定の中立位置にあるときに、互いの付勢力が釣り合った状態にある。そして、第5リンク25が中立位置から第4リンク24に対して相対回転したときに、一対の第1付勢部材34a,34bは、第5リンク25を中立位置に戻す方向の付勢力を発生させる。
【0046】
一対の第2付勢部材35a,35bは、その一端が第5リンク25に固定され、その他端が第6リンク26に固定される。一対の第2付勢部材35a,35bは、それぞれ第5軸C5を挟むように互いに平行に設けられており、第5リンク25に対する第6リンク26の回転位置が所定の中立位置にあるときに、互いの付勢力が釣り合った状態にある。そして、第6リンク26が中立位置から第5リンク25に対して相対回転したときに、一対の第2付勢部材35a,35bは、第6リンク26を中立位置に戻す方向の付勢力を発生させる。
【0047】
一対の第3付勢部材36a,36bは、その一端が第6リンク26に固定され、その他端が第7リンク27に固定される。一対の第3付勢部材36a,36bは、それぞれ第6軸C6を挟むように互いに平行に設けられており、第6リンク26に対する第7リンク27の回転位置が所定の中立位置にあるときに、互いの付勢力が釣り合った状態にある。そして、第7リンク27が中立位置から第6リンク26に対して相対回転したときに、一対の第3付勢部材36a,36bは、第7リンク27を中立位置に戻す方向の付勢力を発生させる。
【0048】
検査用ツール部4は、第7リンク27に固定されたフレーム41と、フレーム41に支持された海底パイプラインXに対して接触する接触部としての4つの車輪42を備える。本実施形態において、フレーム41は、複数の骨部材などが連結されて構成されている。4つの車輪42は、海底パイプラインXに沿って海底パイプラインX上を走行するように配置される。
【0049】
以下の検査用ツール部4についての説明では、検査用ツール部4が海底パイプラインX上を走行するときの走行方向を前方、走行方向の反対方向を後方、走行方向左側を左側、走行方向右側を右側、走行方向上側を上側、走行方向下側を下側と定義する。
【0050】
図4は、検査用ツール部4の海底パイプラインXに対する接触状態を説明するための検査用ツール部4の部分正面図である。本実施形態では、フレーム41の前側で、4つの車輪42のうちの2つの車輪(前側車輪)42aが、検査用ツール部4の左右方向に対向するように位置しており、フレーム41の後ろ側で、4つの車輪42のうちの残りの2つの車輪(後側車輪)42bが、検査用ツール部4の左右方向に対向するように位置する(例えば図2参照)。
【0051】
一対の前側車輪42aは、海底パイプラインXを幅方向に挟み込むように海底パイプラインXに接触する。同様に、一対の後側車輪42bも、海底パイプラインXを幅方向に挟み込むように海底パイプラインXに接触する。また、一対の前側車輪42aおよび一対の後側車輪42bのそれぞれの回転面は、海底パイプラインXの中央部分に向かって延びるように配される。言い換えれば、各車輪42の回転軸は、検査用ツール部4の左右方向における中央側に向かうにつれて上方に位置するように傾く。
【0052】
また、フレーム41には、第1および第2カメラ43,43が支持されている。図4に示すように、第1および第2カメラ43,43は、4つの車輪42が海底パイプラインXに接触しているときに、海底パイプラインXの左右の各側面を撮像する。作業者は、その撮像された映像を見て、海底パイプラインXの左右の各側面を目視検査できる。
【0053】
また、フレーム41には、第3カメラ44が支持されている。図3に示すように、第3カメラ44は、4つの車輪42が海底パイプラインXに接触しているときに、海底パイプラインXの上面を撮像する。作業者は、その撮像された映像を見て、海底パイプラインXの上面を目視検査できる。
【0054】
また、フレーム41には、海底パイプラインXを検査するための検査機器として、防食検査器45が支持されている。この防食検査器45は、海底パイプラインXの全長に亘って防食処置(例えば防食塗装)の劣化の程度を検査するためのものであり、電位測定用プローブ45aとリモート電極(図示略)とを有している。電位測定用プローブ45aは、その先端部が海底パイプラインXの上面に近づくよう配置されている。
【0055】
また、検査用ツール部4は、4つの車輪42が海底パイプラインXに押し付けられる押付力が大きいほど、受動アーム部3bと車輪42の間の間隔Hの間の間隔Hを狭める間隔変更機構50を備える。間隔変更機構50について、図5(A)~(C)を参照して説明する。
【0056】
図5(A)は、検査用ツール部4の間隔変更機構50を説明するための検査用ツール部4の模式的側面図である。なお、図5(A)~(C)において、間隔変更機構50とは関係しない検査用ツール部4の構成要素は省略している。検査用ツール部4のフレーム41は、第7リンク27に固定された第1フレーム部51と、4つの車輪42を支持する第2フレーム部52を有する。本実施形態では、間隔変更機構50は、これら第1フレーム部51および第2フレーム部52と、第1フレーム部51と第2フレーム部52との間にそれぞれ設けられた接続部材53と付勢部材54を有する。
【0057】
第1フレーム部51と第2フレーム部52とは、検査用ツール部4の上下方向に相対変位可能に連結されている。本実施形態では、第1フレーム部51が第2フレーム部52に対して第4軸C4aに平行な軸周りに回動するように、接続部材53に連結されている。接続部材53は、長尺状の部材であり、第1フレーム部51と第2フレーム部52とを連結する。接続部材53の長手方向の一端は、第4軸C4aに平行な軸D1周りに回転可能に第1フレーム部51に連結され、また、接続部材53の長手方向の他端は、第4軸C4aに平行な軸D2周りに回転可能に第2フレーム部52に連結される。
【0058】
付勢部材54は、例えばコイルばねであり、第1フレーム部51と第2フレーム部52とを連結し、上述の間隔Hに応じて付勢力を発生させる。具体的には、4つの車輪42が接触することで、間隔Hが狭まると、付勢部材54は当該間隔Hに応じた付勢力を発生させる。第2フレーム部52は、付勢部材54の付勢力により海底パイプラインXに対して押圧される。このため、後述するように、制御装置12は、検査用ツール部4を適切な力で海底パイプラインXに押圧するように、付勢部材54の一端と他端の間隔を調整するよう能動アーム部3aを作動させる。
【0059】
また、能動アーム部3aが作動して4つの車輪42が海底パイプラインXに接触したときに、間隔変更機構50は、受動アーム部3bと4つの車輪42の間の間隔を変化させる。このため、間隔変更機構50は、海底パイプラインXに対する車輪42の衝撃力を吸収する衝撃吸収機構としても機能する。
【0060】
検査用ツール部4は、4つの車輪42の少なくとも1つが海底パイプラインXに対して接触したことを検知する接触検知部55(図6参照)を有する。接触検知部55は、例えばリミットスイッチである。接触検知部55は、例えば4つの車輪42のそれぞれに対して設けられる。
【0061】
また、検査用ツール部4は、間隔変更機構50によって変更される間隔Hを検知する第1間隔検知部56および第2間隔検知部57を有する。
【0062】
本実施形態では、制御装置12は、間隔変更機構50によって変更される間隔Hが予め定めた目標間隔範囲内に収まるように、能動アーム部3aの動作を制御する。例えば、第1間隔検知部56および第2間隔検知部57は、それぞれ間隔Hが上述の目標間隔範囲の上限値および下限値に到達したときの接続部材53の位置を検出するリミットスイッチである。
【0063】
図5(B)は、間隔変更機構50によって変更される間隔Hが目標間隔範囲の下限値に到達した状態を示し、図5(C)は、間隔変更機構50によって変更される間隔Hが目標間隔範囲の上限値に到達した状態を示す。第1間隔検知部56は、間隔変更機構50によって変更される間隔Hが上述の目標間隔範囲の下限値に到達したことを検知する(図5(B)参照)。また、第2間隔検知部57は、間隔変更機構50によって変更される間隔Hが上述の目標間隔範囲の上限値に到達したことを検知する(図5(C)参照)。
【0064】
接触検知部55、第1間隔検知部56および第2間隔検知部57は、例えば第2フレーム部52に支持されている。接触検知部55、第1間隔検知部56および第2間隔検知部57がそれぞれ検知した検知信号は、制御装置12に送られる。制御装置12は、接触検知部55、第1間隔検知部56および第2間隔検知部57がそれぞれ検知した検知信号に基づき、第1~第3駆動部61~63を制御する。
【0065】
図6は、AUV1の制御系統の構成を示すブロック図である。制御装置12は、上述したように、第1検出部13aおよび第2検出部13bにより得られた検査対象物情報に基づき、本体部10が海底パイプラインXに対して非接触状態でこの海底パイプラインXを辿りながら航走するように推力発生装置11を制御する。
【0066】
また、制御装置12は、検査用ツール部4が海底パイプラインXに対して予め設定された目標位置関係となるように、第1~第3駆動部61~63を駆動して、能動アーム部3aを動作させる。なお、本実施形態における検査用ツール部4が海底パイプラインXに対する目標位置関係とは、検査用ツール部4が海底パイプラインXの中心軸線の略真上であって、海底パイプラインXの上面と接触した状態で走行する位置関係をいう。
【0067】
また、制御装置12は、第1間隔検知部56および第2間隔検知部57から得た検知信号に基づき、間隔変更機構50によって変更される間隔Hが予め定めた目標間隔範囲内に収まるように、能動アーム部3aの動作を制御する。
【0068】
具体的には、図5(B)に示すように、第1間隔検知部56が間隔Hが上述の目標間隔範囲の下限値に到達したことを検知すると、制御装置12は、第1間隔検知部56から得た検知信号に基づき、能動アーム部3aの先端部を海底パイプラインXから遠ざかるように第3駆動部63を駆動する。また、図5(C)に示すように、第2間隔検知部57が間隔Hが上述の目標間隔範囲の上限値に到達したことを検知すると、制御装置12は、第2間隔検知部57から得た検知信号に基づき、能動アーム部3aの先端部を海底パイプラインXに近づけるように第3駆動部63を駆動する。こうして、受動アーム部3bと車輪42の間の間隔Hを所定の範囲内に収めるため、受動アーム部3bが海底パイプラインXを押し付けすぎたり、受動アーム部3bが海底パイプラインXから離れたりすることを抑制することができる。
【0069】
また、図2および図3に示すように、検査用ツール部4は、羽根部材46を有する。羽根部材46は、検査用ツール部4が海底パイプラインXに沿って走行することにより、検査用ツール部4を海底パイプラインXに押し付ける力を発生する。なお、図4では、羽根部材46を省略している。また、検査用ツール部4は、海底パイプラインXに対する羽根部材46の傾きを変更する傾き変更機構70を有する。
【0070】
図7は、検査用ツール部4の傾き変更機構70を説明するための検査用ツール部4の模式的側面図である。図7(A)は、検査用ツール部4が走行していない状態を示し、図7(B)は、検査用ツール部4が走行している状態を示す。
【0071】
本実施形態では、羽根部材46は、図7(A)に示すように、検査用ツール部4の左右方向に垂直な断面形状が翼型であり、そのキャンバーラインが下に凸である。傾き変更機構70は、左右方向に延び、羽根部材46をフレーム41(より詳しくは第2フレーム部52)に回転可能に支持する軸部71と、軸部71より後方に設けられた付勢部材72を有する。付勢部材72は、例えばコイルばねであり、羽根部材46とフレーム41(より詳しくは第2フレーム部52)の間に配置される。図7(A)に示すように、検査用ツール部4が走行していないとき(言い換えれば、付勢部材72に付勢力が発生していないとき)、羽根部材46は、その前縁が後縁よりも下方に位置するように、海底パイプラインXに対して羽根部材46が傾いた状態にある。
【0072】
図7(B)に示すように、検査用ツール部4が海底パイプラインXの上を走行すると、羽根部材46は、正面から水の流れを受ける。これにより、羽根部材46の上面側の水の圧力が、羽根部材46の下面側の水の圧力より大きくなり、羽根部材46には全体として下向きの力が作用する。こうして、羽根部材46が水から受ける下向きの力は、軸部71を介してフレーム41に伝わり、結果として、4つの車輪42を海底パイプラインXに押し付ける力となる。このため、検査用ツール部4が海底パイプラインXに沿って走行する際に、4つの車輪42を海底パイプラインXから離れにくくすることができる。
【0073】
ただし、例えば海底パイプラインXに対する羽根部材46の傾きが一定である場合、羽根部材46が受ける水の流速が大きくなるほど、羽根部材46が4つの車輪42を海底パイプラインXに押し付ける力は大きくなる。この押付力が過度になりすぎないように、本実施形態では、傾き変更機構70が、羽根部材46が受ける水の流速に応じて、海底パイプラインXに対する羽根部材46の傾きを変更する。
【0074】
具体的には、羽根部材46が正面から水の流れを受けると、羽根部材46には、その周りの水により、羽根部材46の上面側と下面側で水の圧力差が小さくなるような軸部71周りの回転力、言い換えれば、検査用ツール部4が走行する方向(海底パイプラインXの延在する方向)に対して傾きを低減させる回転力が作用する。一方、付与部材62は、この回転力に抗する付勢力を発生させて、検査用ツール部4の前後方向に対する羽根部材46の傾きが一定以上に維持する。こうして、傾き変更機構70は、羽根部材46が発生する力が所定の範囲内に保たれるように、羽根部材46が受ける水の流速に応じて、海底パイプラインXに対する羽根部材46の傾きを変更する。これにより、車輪42が海底パイプラインXに対して押し付ける力が大きくなり過ぎないようにすることができる。
【0075】
以上に説明した本実施形態に係るAUV1によれば、ロボットアーム3の第4~第6関節34~36が、受動関節であり、互いに垂直な3軸C4a,C5,C6周りに能動アーム部3aに対する検査用ツール部4の受動的な相対回転を許容する。これにより、海底パイプラインXに対する潜水機本体2の向きがどのような方向に変化しても、潜水機本体2の回転変位が検査用ツール部4に伝わるのをより抑制することができる。
【0076】
従って、海底パイプラインXに対する検査用ツール部4の向きを維持することができ、その結果、内蔵されたバッテリの電力の消費を抑えつつ、海底パイプラインXを精度よく検査することができる。
【0077】
また、本実施形態では、一対の前側車輪42aおよび一対の後側車輪42bは、それぞれ海底パイプラインXを幅方向に挟み込むように海底パイプラインXに接触する。このため、海底パイプラインXに対する潜水機本体2の向きが、海底パイプラインXの延在方向と幅方向の双方に垂直な軸(軸C6)周りに変化した場合でも、海底パイプラインXからその幅方向に車輪42に作用する接触力により、受動関節(第6関節36)が、当該軸周りに検査用ツール部4が回転しないよう、能動アーム部3aに対する検査用ツール部4の受動的な相対回転を許容することができる。
【0078】
また、本実施形態では、受動アーム部3bには、一対の第1付勢部材34a,34bと、一対の第2付勢部材35a,35bと、一対の第3付勢部材36a,36bが設けられている。これにより、車輪42が海底パイプラインXに対して接触しないとき、能動アーム部3aに対する検査用ツール部4の回転位置を中立位置にするため、検査用ツール部4を所望の姿勢とした状態で海底パイプラインXに対し近づけることができる。
【0079】
また、本実施形態では、検査用ツール部4が接触検知部55を有するため、制御装置12は、接触検知部55の信号を利用して、検査用ツール部4が海底パイプラインXを検査可能な状態となったか否かを即座に判断することができる。
【0080】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0081】
例えば検査対象物は、海底パイプラインXに限定されず、例えば検査対象物は水中の構造物であってもよい。また、検査対象物は、海底パイプラインと異なる形状でもよく、例えば水中において上下方向に延びたものでもよい。また、検査対象物は、平面状であってもよく、この場合、4つの車輪42の回転軸は互いに平行であってもよい。また、平面状の検査対象物など、検査対象物は、検査用ツール部4の接触部によって左右方向に挟み込むことが可能な部分を有さない場合、本発明の接触部は、検査対象物を挟み込むように接触する必要はない。
【0082】
また、上記実施形態では、潜水機本体2が海底パイプラインXに対して非接触状態でこの海底パイプラインXを辿りながら航走したが、潜水機本体2は、検査対象物に対して接触しながら当該検査対象物に沿って航走してもよい。
【0083】
また、上記実施形態では、ロボットアーム3は、互いに垂直な関節軸を有する3つの受動関節を有していたが、受動関節の数はこれに限定されず、本発明のAUVは、少なくとも1軸周りに能動アーム部3aに対する検査用ツール部4の受動的な相対回転を許容する受動関節を有していればよい。この場合でも、検査対象物に対する潜水機本体2の向きが多少変化しても、少なくとも1軸周りについては、検査対象物に対する検査用ツール部4の向きを維持することができるため、潜水機本体が内蔵するバッテリの電力の消費を抑えつつ、検査対象物を精度よく検査することができる。また、ロボットアーム3は、互いに垂直な関節軸を有する3つの受動関節を有する代わりに、アームに対する検査用ツール部4の受動的な3自由度の相対回転を許容する球関節を受動関節として有してもよい。
【0084】
例えば検査対象物が平面状のものであった場合、AUVは、当該平面に垂直な軸周りの能動アーム部3aに対する検査用ツール部4の受動的な相対回転を許容する受動関節を有さなくてもよい。
【0085】
また、上記実施形態では、一対の第1付勢部材34a,34bが、第5リンク25を中立位置に戻す方向の付勢力を発生させたが、このような付勢部材は一対でなくてもよく、1つであってもよい。一対の第2付勢部材35a,35bや一対の第3付勢部材36a,36bも同様である。
【0086】
また、上記実施形態では、検査用ツール部4が、接触検知部55を有していたが、検査用ツール部4は接触検知部55を有さなくてもよい。例えば、制御装置12は、第2間隔検知部57からの信号(間隔Hが上述の目標間隔範囲の上限値に到達したことを検知する信号)がオフになったことを指標として、車輪42が検査対象物に対して接触したと判断してもよい。
【0087】
また、検査用ツール部4の間隔変更機構50も、上記実施形態で説明された構成に限定されない。例えば、上記実施形態では、第1フレーム部51が第2フレーム部52に対して第4軸C4aに平行な軸周りに回動するように、接続部材53に連結されていたが、第1フレーム部51は、第2フレーム部52に対して検査用ツール部4の上下方向に直動変位可能に連結されていてもよい。
【0088】
また、上記実施形態では、羽根部材46は傾き変更可能にフレーム41に支持されていたが、羽根部材46は、フレーム41に対する傾きが変更しないようフレーム41に固定されていてもよい。また、羽根部材46は、断面形状が翼型でなくてもよい。例えば羽根部材46は、互いに平行な2つの主面を有する平板部材であってもよい。付勢部材54により十分に車輪46を検査対象物に押圧する力を確保できる場合、検査用ツール部4は、羽根部材46を有さなくてもよい。
【0089】
潜水機本体2、ロボットアーム3、および検査用ツール部の形状や構成も、上記実施形態で説明されたものに限定されるものではない。潜水機本体2は、カバー部14を有さなくてもよい。この場合でも、検査用ツール部4を待機位置P2に位置付けることで、潜水機本体2の航走方向と第3リンク23が延びる方向を一致させることができるため、能動アーム部3aが受ける水の抵抗を多少抑制することができる。また、ロボットアーム3は、潜水機本体2の下部ではなく、潜水機本体2の前部または後部に連結されていてもよいし、ロボットアーム3は、6軸の多関節型のロボットアームでなくてもよく、5軸以下、あるいは7軸以上の多関節型のロボットアームでもよい。
【0090】
また、検査用ツール部が有する検査機器として、上記実施形態では、防食検査器45が挙げられたが、検査用ツール部が有する検査機器はこれに限定されない。例えば、検査用ツール部が有する検査機器は、例えば超音波を用いて海底パイプラインXの全長に亘って肉厚を検査することができる肉厚検査器でもよい。
【符号の説明】
【0091】
1 :AUV(自律型無人潜水機)
2 :潜水機本体
3a :能動アーム部(アーム)
3b :受動アーム部
4 :検査用ツール部
12 :制御装置
14 :カバー部
34 :第4関節(受動関節)
34a,34b :第1付勢部材(付勢部材)
35 :第5関節(受動関節)
35a,35b :第2付勢部材(付勢部材)
36 :第6関節(受動関節)
36a,36b :第3付勢部材(付勢部材)
42 :車輪(接触部)
45 :防食検査器(検査機器)
46 :羽根部材
50 :間隔変更機構
55 :接触検知部
56 :第1間隔検知部(間隔検知部)
57 :第2間隔検知部(間隔検知部)
60 :傾き変更機構
61 :第1駆動部(駆動部)
62 :第2駆動部(駆動部)
63 :第3駆動部(駆動部)
P1 :作業位置
P2 :待機位置
X :海底パイプライン(検査対象物)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7