(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】カーボンブラック及びこれを用いた二次電池用正極
(51)【国際特許分類】
C09C 1/48 20060101AFI20220907BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20220907BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
C09C1/48
H01M4/13
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2018091204
(22)【出願日】2018-05-10
【審査請求日】2021-03-11
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第30条第2項適用、平成29年11月15日福岡国際会議場において開催された公益社団法人電気化学会電池技術委員会第58回電池討論会で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000116747
【氏名又は名称】旭カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100116481
【氏名又は名称】岡本 利郎
(72)【発明者】
【氏名】山口 東吾
(72)【発明者】
【氏名】有満 望
(72)【発明者】
【氏名】境 哲男
(72)【発明者】
【氏名】森下 正典
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/192827(WO,A1)
【文献】特開2014-221889(JP,A)
【文献】特開2014-241279(JP,A)
【文献】特開2013-082776(JP,A)
【文献】特表2016-512849(JP,A)
【文献】特開2011-126953(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09C 1/48
H01M 4/13,4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝集体径分布:Dw/Dn(Dwは凝集体の重量平均径、Dnは凝集体の数平均径)が2.0以下のカーボンブラックにおいて、次の要件(a)~(c)を満たすことを特徴とする
二次電池用正極用カーボンブラック。
(a)結晶子のX軸方向のサイズLaが1.5~4.5nm
(b)結晶子のZ軸方向のサイズLcが2.0~6.5nm
(c)La×Lcが3.5~29.3
【請求項2】
請求項1記載の
二次電池用正極用カーボンブラックを用いた二次電池用正極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用正極、特に高電位正極として有用なカーボンブラック及びこれを用いた二次電池用正極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池は電気自動車や携帯電話等、非常に広範な分野、業種に渡って用いられている。そして用途の拡大に伴って高エネルギー密度、高出力密度、或いは高速充放電といった性能に対する要求も一層高くなっているのが現状であり、要求達成の為に各種材料の開発が盛んに行われている。
その一つとして着目されているのが高電位の正極活物質であり、その名の通り電位が従来よりも高く、また、蓄えられるエネルギーが大きいといった特徴が有るが、従来の部材を用いた場合、正極の電位が高くなると、正極表面で電解液が酸化分解して可燃性ガス等が発生し、電池の安全性に影響を及ぼすことが懸念されている。また、副反応に起因する無駄なエネルギー消費によって電池性能が低下することも予想されるし、導電材であるカーボンブラックが高電位の環境下でガス化し、他の部材との副反応を起こすことも考えられる。そこで、高電位環境下に対応でき、サイクル特性などの電池性能が低下しない部材、特に導電材であるカーボンブラックの物性の改善が要望されている。
【0003】
上記の問題への対策として、2種類の炭素材料を用いる方法(特許文献1)、カーボンブラック表面をシリカ等の他の部材で被覆する方法(特許文献2)、カーボンブラックの結晶性等を規定する方法(特許文献3)等が試みられているが、何れも必要十分とは言えない。
更に、特許文献1の方法は、カーボンブラック以外の複数の部材を併用する為、工程の煩雑化、コスト増等の製造上の問題が有る。
また、特許文献2の方法は、特許文献1の場合と同様の製造上の問題が有る上に、カーボンブラック表面の被覆によって導電性が低下する為、カーボンブラックの添加量を多くする必要がある。その結果、電池内の活物質量が減少し、結果として電池容量が低下するという問題が有る。
また、特許文献3の方法は、高電位環境下における耐久性の改善効果は認められるものの、該カーボンブラックを導電材として用いたときの電池性能の維持、向上効果の検討が不十分であり、改良の余地が有る。
したがって、高電位環境下において副反応等を起こさず、導電性を維持、向上させることができ、且つ製造に余分な工程を必要としないカーボンブラックが求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-129442号公報
【文献】国際公開2016/084909号パンフレット
【文献】国際公開2015/129683号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の問題点を解決でき、二次電池用正極に適用した場合に、高電位環境下でも電池性能、特にサイクル特性が低下しないカーボンブラックの提供、及び、該カーボンブラックを用いた二次電池用正極の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、次の1)~2)の発明によって解決される。
1) 凝集体径分布:Dw/Dn(Dwは凝集体の重量平均径、Dnは凝集体の数平均径)が2.0以下のカーボンブラックにおいて、次の要件(a)~(c)を満たすことを特徴とするカーボンブラック。
(a)結晶子のX軸方向のサイズLaが1.5~4.5nm
(b)結晶子のZ軸方向のサイズLcが2.0~6.5nm
(c)La×Lcが3.5~29.3
2) 1)記載のカーボンブラックを用いた二次電池用正極。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、二次電池用正極に適用した場合に、高電位環境下における酸化反応を抑制でき、導電性能を保持できるため、電池性能、特にサイクル特性が低下しないカーボンブラック、及び該カーボンブラックを用いた二次電池用正極を提供できる。
また、該正極を用いることにより、安全かつ電池性能の優れた二次電池を作製できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
従来技術では、高電位環境下においてカーボンブラック導電材に起こる副反応を抑制するため、導電材表面の物理的な被覆、保護等が行われている。
これに対し、本発明のように、二次電池用導電材として汎用されているアセチレンブラックよりも凝集体径分布Dw/Dnが小さいカーボンブラックにおける凝集体の結晶子サイズを規定することにより、副反応の抑制と導電性の保持を高次に両立させるという試みは、本発明者等の知る限り存在しない。即ち、本発明のカーボンブラックは、全く新規な特性を有し、従来のカーボンブラックでは達成できない顕著な効果を奏する。
このようなカーボンブラックは、後述する実施例に示すように、一般的な方法で製造した原料カーボンブラックを適切な温度で加熱処理することにより得ることができる。
また、実施例では対極にリチウム金属を用いた二次電池の例を示したが、これに限られるものではなく、電極材料の異なる種々の二次電池にも応用可能である。
【0009】
<凝集体径分布 Dw/Dn>
Dw/Dnは、カーボンブラック凝集体(アグリゲート)の重量平均径(Dw)と数平均径(Dn)の比を示す値である。凝集体径分布を表す値は種々存在するが、Dw/Dnは特に大きい側の凝集体の多寡を評価するメジャーの一つとして利用されており、大きい径の凝集体が多く存在するときはこの数値が大きくなるという特徴を有している。
二次電池用導電材として汎用されているアセチレンブラックのDw/Dnは、後述する参照例に示すように2.25程度であるが、この材料では、本発明と同様の加熱処理を行ったとしても、本発明が目指すような特性のカーボンブラックは得られない。
本発明ではDw/Dnを2.0以下とするが、これを上回るとサイクル特性が低下する。その正確な機構は不明であるが、凝集体径分布全体のバランスにおいて大きい径の凝集体が通常よりも多くなるため、電極ペースト作製時にカーボンブラックの細密充填配置を阻害し、導電パスの形成に悪影響を及ぼすのではないかと推測される。
【0010】
<結晶子サイズ La、Lc>
Laはカーボンブラック結晶子のX軸方向のサイズを、Lcは同じくZ軸方向のサイズを示す値である。本発明では前記要件(a)~(c)を満たす必要があり、La又はLcが規定上限値を上回ると結晶子構造が歪んで欠陥を生じ、インターカレーションが起きてガス発生の原因となる。また、規定下限値を下回った場合には、結晶子の発達が不十分な為、導電経路の形成が行われずサイクル特性の低下を引き起こしたり、結晶子末端からの副反応が容易に起こる為、やはりガス発生の原因となる可能性がある。
【実施例】
【0011】
以下、実施例、比較例及び参照例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
【0012】
<カーボンブラックの製造>
実施例1~4、比較例1~3
上流部より、燃料導入部、原料導入部、狭小円筒部、反応停止用急冷水圧噴霧装置を備えた反応継続兼冷却室が連接した一般的なカーボンブラック製造炉を用い、表1に示した操作条件で原料カーボンブラックを作製した。
この原料カーボンブラックを小型真空雰囲気炉(倉田技研社製)に入れ、アルゴン雰囲気下、表2の実施例1~4及び比較例2~3の各欄に示す処理温度まで20℃/分で昇温し、到達後に1時間保持して加熱処理を行い、各カーボンブラックを製造した。
また、加熱処理を行わない前記原料カーボンブラックを比較例1とした。
また、参照例1~2は市販品のアセチレンブラック〔デンカ株式会社製デンカブラック(登録商標)〕であって、参照例1は加熱処理を行わないもの、参照例2は加熱処理を行ったものである。
【0013】
【0014】
実施例、比較例及び参照例の各カーボンブラックについて、後述するようにして物理化学特性を測定した。結果を表2に示す。
なお、N
2SAは窒素吸着比表面積、DBPはジブチルフタレート吸収量、Dstは遠心沈降法により測定されるカーボンブラックアグリゲートの分布曲線における最頻度値、ΔD50は同曲線の半値幅、Dst/ΔD50はそれらの比である。
【表2】
【0015】
(1)La、Lc
La及びLcは、それぞれカーボンブラックのX線回折パターンにプロファイルフィッティング処理を行い、シェラー法で解析して求めた。
具体的には、取得したX線回折データのピーク位置を指定し、関数を用いてフィッティングを行った。その後、002回折線及びピーク分離後の11回折線の半値幅を、下記のシェラーの式に代入し、形状定数K=1として計算して、002回折線からLcを、11回折線からLaを求めた。
・シェラーの式 L=Kλ/βcosθ
L:結晶子サイズ[nm] β:回折線の広がり(半値幅)[rad] θ:回折角
K:シェラー定数 λ:X線波長
【0016】
(2)凝集体分布 Dw/Dn
JIS K6217-6:2008に記載の方法により、カーボンブラック分散液を加えてからの経過時間と吸光度の分布曲線から、各時間tに対応するストークス相当径を算出する。
測定された凝集体のストークス径を元に、下記式により重量平均径(Dw)と数平均径(Dn)を算出し、その比を求める。
・凝集体の重量平均径(Dw)と数平均径(An)の定義
分布曲線の最小ストークス径と最大ストークス径の間を等間隔に40等分し、
その各ヒストグラムの中心値をDi、その頻度をNiとして、下式によりDw
及びDnの値を算出する。
Dw=〔Σ(NiDi4)÷Σ(NiDi3)〕 (1)
Dn=〔Σ(NiDi)÷ΣNi〕 (2)
【0017】
表2の実施例、比較例及び参照例に示した各カーボンブラックを用いて、以下の手順で評価用二次電池を作製した。
<電池作製法>
一般的な方法で二次電池を作製した。
電極活物質にLNMO〔Li(Ni0.5Mn1.5)O4)〕、導電材に各カーボンブラック、バインダーにポリフッ化ビニリデン、溶剤にN-メチルピロリドンを用い、所定の割合で混合して電極スラリー化した。スラリーを目付量1mAh/cm2でアルミ箔に塗工し、乾燥した後、プレスして電極とした。対極にはリチウム金属を用いた。上記電極とセパレータ、電解液を組み合わせ、容量1mAhの設計でコイン電池を得た。
【0018】
作製した各二次電池のサイクル特性を下記の条件で測定した。結果を表3に示す。
温度30℃、0.5C(Cは充放電レート)、カットオフ電圧3.0~4.85Vで充電、放電を行い、其々の電池容量を測定した。
この充電、放電を50回、及び100回行った際の初期電池容量からの減少程度の指数を求め、サイクル特性とした。数値が大きいほど、減少程度が小さいことを示す。
【表3】
【0019】
表3の結果から明らかなように、比較例及び参照例のカーボンブラックを用いた電池は高電位環境下においてサイクル特性が回数を重ねるごとに顕著に低下していくが、本願発明のカーボンブラックを用いた二次電池は、サイクル特性の低下が非常に小さく、安定した性能を発揮する。
実施例と比較例の結果から判るように、加熱温度を適切に制御することにより、本発明のカーボンブラックが得られる。