(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】魚釣用電動リール
(51)【国際特許分類】
A01K 89/017 20060101AFI20220907BHJP
【FI】
A01K89/017
(21)【出願番号】P 2018149664
(22)【出願日】2018-08-08
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002439
【氏名又は名称】株式会社シマノ
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(72)【発明者】
【氏名】林 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】田内 充
(72)【発明者】
【氏名】阿部 佑亮
【審査官】坂田 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-77244(JP,A)
【文献】実開平7-13166(JP,U)
【文献】実開平4-68677(JP,U)
【文献】米国特許第4784346(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 89/00 - 89/08
H02K 5/00 - 5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リール本体内に設けられ、回転駆動力を回転駆動部に伝達するモータを備えた魚釣用電動リールであって、
前記モータ
に設けられ、モータ回転軸と前記モータの外殻を形成するモータ筐体と、
前記モータ回転軸と前記モータ筐体との間に
設けられたモータ防水シール
と、
前記モータ回転軸に設けられた太陽ギアと、
前記太陽ギアに噛合して前記太陽ギア回りに旋回移動可能に設けられた複数の遊星ギアと、
前記複数の遊星ギアを支持するとともに、前記複数の遊星ギアの旋回移動に伴って前記太陽ギアを中心に回転して、前記回転駆動部に回転駆動力を伝達するキャリアと、
前記モータ回転軸を支持し、内側に前記モータ筐体を固定する筒状のモータケースと、
前記キャリアの外周面と前記モータケースの内周面との間に設けられた外側防水シールと、
を備え、
前記外側防水シールは、平面視でリング状に形成され、外周部が前記モータケースのケース筒の内周面に固定され、内周部が前記キャリアのキャリア本体の外周面に液密に接触し、前記モータケースと前記キャリアとの間で止水する止水機能を備えた、魚釣用電動リール。
【請求項2】
前記モータケースは、前記モータ回転軸の前記太陽ギア寄りの位置で前記モータ筐体に対して固定部材により固定されている、請求項
1に記載の魚釣用電動リール。
【請求項3】
前記キャリアには、前記太陽ギアと同軸に配置され、前記太陽ギア、又は前記モータ回転軸を径方向の外側から軸受けするキャリア軸受部が設けられている、請求項
1又は
2に記載の魚釣用電動リール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、魚釣用電動リールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、魚釣用電動リールは、装着されるスプール駆動モータ(以下、「モータ」という)の回転駆動力によりスプールを回転させて釣糸の巻き取りを行う構造となっている。 このような魚釣用電動リールにおけるモータの止水構造として、例えば特許文献1に示されるようなモータの外殻を覆うようにシール部材を配置したものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の魚釣用電動リールでは、モータの外殻とモータ回転軸との位置関係が高い精度により設けられていないため、モータ回転軸を伝う水分がモータ内部へ浸入してしまうことを防ぐためには、モータの外殻とモータ回転軸との接触圧を高くする等の対応が必要となる。そのため、接触圧を高くすることによる摩擦が大きくなり、モータの軸出力が低下して接触損失が増えるという問題があり、その点で改善の余地があった。
【0005】
本発明は、このような事情に考慮してなされたもので、その目的は、モータのシール部分における接触圧を大きくすることなく、シール部分の接触損失の増大を抑制した構造により高精度な止水ができ、モータの防水性を向上させることができる魚釣用電動リールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明に係る魚釣用電動リールは、リール本体内に設けられ、回転駆動力を回転駆動部に伝達するモータを備えた魚釣用電動リールであって、前記モータに設けられ、モータ回転軸と前記モータの外殻を形成するモータ筐体と、前記モータ回転軸と前記モータ筐体との間に設けられたモータ防水シールと、前記モータ回転軸に設けられた太陽ギアと、前記太陽ギアに噛合して前記太陽ギア回りに旋回移動可能に設けられた複数の遊星ギアと、前記複数の遊星ギアを支持するとともに、前記複数の遊星ギアの旋回移動に伴って前記太陽ギアを中心に回転して、前記回転駆動部に回転駆動力を伝達するキャリアと、前記モータ回転軸を支持し、内側に前記モータ筐体を固定する筒状のモータケースと、前記キャリアの外周面と前記モータケースの内周面との間に設けられた外側防水シールと、を備え、前記外側防水シールは、平面視でリング状に形成され、外周部が前記モータケースのケース筒の内周面に固定され、内周部が前記キャリアのキャリア本体の外周面に液密に接触し、前記モータケースと前記キャリアとの間で止水する止水機能を備えたことを特徴としている。
【0007】
本発明に係る魚釣用電動リールによれば、モータ筐体自体にモータ防水シールを組み込む構造となり、双方の位置精度が高いモータ回転軸とモータ筐体との間にモータ防水シールが配置されることから、高精度な止水構造となり、モータの防水性を向上させることができる。そのため、従来のようなモータのシール部分に対して接触圧を大きくする必要がなくなり、シールによる接触損失の増大を抑制することができる。
【0009】
この場合には、モータ防水シールにおけるモータと反対側となる外側に外側防水シールが配置された二重の防水構造とすることができる。すなわち、太陽ギアを遊星ギアとともに覆うように配置されるキャリアの外周面と筒状のモータケースの内周面との間に外側防水シールが配置され、モータ回転軸自体に付着する水分を減らすことができることから、さらに効果的にモータの防水性を向上させることができる。
【0010】
(2)前記モータケースは、前記モータ回転軸の前記太陽ギア寄りの位置で前記モータ筐体に対して固定部材により固定されている、請求項2に記載の魚釣用電動リール。
ことが好ましい。
【0011】
この場合には、モータケースがモータ筐体に対して固定部材により強固に固定されるので、モータ回転軸とモータケースとが高い精度で配置されることになる。すなわち、モータ回転軸の回転によって太陽ギア及び遊星ギアを介して回転するキャリアとモータケースとの位置関係も高い精度で保持されることから、外側防水シールによる止水精度も高くなり、モータの防水性を向上させることができる。
【0012】
(3)前記キャリアには、前記太陽ギアと同軸に配置され、前記太陽ギア、又は前記モータ回転軸を径方向の外側から軸受けするキャリア軸受部が設けられていてもよい。
【0013】
この場合には、キャリアをキャリア軸受部によって太陽ギア、又はモータ回転軸に支持させることにより、モータ回転軸とキャリアとが高い精度で配置されることになる。そのため、モータ回転軸の回転によって太陽ギア及び遊星ギアを介して回転するキャリアとモータケースとの位置関係も高い精度で保持されることから、外側防水シールによる止水精度も高くなり、モータの防水性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る魚釣用電動リールによれば、モータのシール部分における接触圧を大きくすることなく、シール部分の接触損失の増大を抑制した構造により高精度な止水ができ、モータの防水性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態による魚釣用電動リールの構成を示す上斜め後方から見た斜視図である。
【
図2】
図1に示す魚釣用電動リールを斜め前方から見た斜視図である。
【
図3】魚釣用電動リールをモータ回転軸に沿った断面を見た縦断面図である。
【
図4】
図3に示すモータと減速装置を拡大した要部拡大図であって、
図3に対してモータ軸方向で反転させた図である。
【
図5】
図4に示す減速装置をさらに拡大した要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明による魚釣用電動リールの実施形態について図面を参照して説明する。なお、本実施形態では、魚釣用電動リールとして両軸受リールを例に挙げて説明する。また、各図面において、各構成部材を視認可能な大きさとするために必要に応じて各構成部材の縮尺を適宜変更している場合がある。
【0017】
図1に示すように本実施形態の魚釣用電動リール1は、外部電源から供給された電力により駆動されるとともに、手巻きの両軸受リールとして使用するときの電源を内部に有している。
【0018】
魚釣用電動リール1は、釣り竿に装着可能なリール本体2と、リール本体2に対してハンドル軸線C1回りに回転可能に取り付けられたハンドル20と、リール本体2に対してハンドル軸線C1と平行なスプール軸線C2回りに回転可能で図示しない釣糸が巻かれるスプール3(回転駆動部)と、リール本体2に設けられ、スプール3に回転駆動力を伝達するモータ4と、スプール3とハンドル20とを連結する連結状態及び遮断する遮断状態を切り替え可能に設けたクラッチ機構5と、モータ4の回転駆動力を減速させてスプール3に伝達する減速装置10(
図3参照)と、を備えている。
【0019】
ここで、本実施形態では、
図1乃至
図3に示すようにハンドル軸線C1、スプール軸線C2、及びモータ軸線Oは、それぞれ平行に設けられ、これらの方向を必要に応じて左右方向L1として定義すると共に、左右方向L1に直交すると共にスプール3に巻かれた釣糸が繰り出される方向に沿う方向を前後方向L2として定義する。また、前後方向L2においてスプール3から釣糸が繰り出される方向を前方、その反対方向を後方と定義すると共に、魚釣用電動リール1を後方側から見た視点で左右を定義する。なお、
図1は魚釣用電動リール1を上斜め後方から見た斜視図、
図2は魚釣用電動リール1を下斜め前方から見た斜視図である。
【0020】
(リール本体)
リール本体2は、
図1及び
図2に示すように、本体フレーム21と、本体フレーム21の一部を覆うカバー22と、本体フレーム21の上側に位置する水深表示部23と、を備えている。
本体フレーム21は、例えば合成樹脂又は金属製の一体形成された部材である。本体フレーム21は、左右方向L1でスプール3を挟んでハンドル20側となる右側板21Aと、右側板21Aと反対側に位置する左側板21Bと、右側板21Aと左側板21Bとを連結する複数の連結部材21Cと、を有している。
右側板21Aと左側板21Bは、互いに左右方向L1に間隔を隔てて配置されている。また、それぞれの側板21A、21Bには、スプール3やモータ4を支持する支持部、及びクラッチ機構5、減速装置10等の回転駆動機構が配置されている。
【0021】
右側板21A及び左側板21Bには、スプール3のスプール回転軸(図示省略)の端部が回転自在に支持された状態で装着されている。
図2に示す連結部材21Cは、板状をなし、右側板21A及び左側板21Bの下部を連結する。連結部材21Cのうちの1つには、左右方向L1の略中央部分に釣り竿に取り付けるための釣り竿装着部24が装着されている。
【0022】
カバー22は、右側カバー22A、左側カバー22B、及び前カバー22Cを備えている。右側カバー22Aは、右側板21Aを所定の収容空間を設けて覆い、右側板21Aの外縁部に例えばネジ止めされている。左側カバー22Bは、左側カバー22Bを所定の収容空間を設けて覆い、左側板21Bの外縁部に例えばネジ止めされている。前カバー22Cは、本体フレーム21の前部を覆っている。
右側板21Aの前方下部には、
図2及び
図3に示すように、外部からの電源ケーブルを接続するためのコネクタ28が接続端28aを下向きにした状態で装着されている。
【0023】
(水深表示部)
水深表示部23は、
図1に示すように、右側板21Aと左側板21Bとの間に配置されている。水深表示部23は、釣り糸の先端に装着可能な仕掛けの水深を表示可能な液晶ディスプレイからなる表示板23Aと、リール制御部(不図示)と、を有している。水深表示部23は、右側板21A及び左側板21Bの上部に載置されるケース部を構成し、右側板21A及び左側板21Bの外側面にネジ止め固定され、表示操作を行うための複数(本実施形態では3つ)の操作ボタン23Bを有している。
【0024】
(ハンドル)
図1及び
図2に示すように、ハンドル20は、ハンドル軸線C1上のハンドル軸の先端部20aに回転不能に装着されたハンドルアーム25と、ハンドルアーム25の先端部20aと反対側の自由端にハンドル軸線C1と平行な軸線回りに回転自在に装着されたハンドルノブ26と、ハンドルアーム25のリール本体2側に配置されたドラグ27と、を有している。
ハンドル20からのトルクは、クラッチ機構5がクラッチオンされた状態においてスプール3に直接伝達される。
【0025】
(スプール)
スプール3は、
図1に示すように、右側板21Aと左側板21Bとの間でそれぞれ軸受(図示省略)をかいして回転自在に設けられている。スプール3は、スプール軸線C2上に沿う不図示のスプール回転軸と、スプール回転軸と同軸に配置されて連動して回転可能に設けられた筒状の糸巻胴部32と、糸巻胴部32の両端に径方向の外側に向けて拡径されたフランジ部33と、を備えている。
スプール3は、前述したように減速装置10から図示しないスプール駆動機構を介して回転駆動され、クラッチ操作部材50によって駆動されるクラッチ機構5が連動している。
【0026】
(クラッチ機構)
クラッチ機構5は、クラッチ操作部材50の操作によってハンドル20の回転をスプール3に伝達可能なクラッチオン状態と、ハンドル20の回転をスプール3に伝達不能なクラッチオフ状態とに切換可能である。クラッチオン位置では、ピニオンギアの回転がスプール回転軸に伝達され、クラッチオン状態になり、ピニオンギアとスプール回転軸とが一体回転可能になる。また、クラッチオフ位置では、ピニオンギアの回転がスプール回転軸に伝達されないため、クラッチオフ状態になり、スプール3は自由回転可能になる。
【0027】
(クラッチ操作部材)
クラッチ操作部材50は、
図1に示すように、クラッチ機構5をクラッチオン状態とクラッチオフ状態とに切り換え操作するためのものである。クラッチ操作部材50は、リール本体2の後部において、右側板21Aと左側板21Bとの間でリール本体2の後部において釣り竿装着部24に対して接近及び離反する方向に移動可能に設けられている。クラッチ操作部材50は、本実施形態において、スプール回転軸回りに揺動可能に設けられる。
【0028】
(スプール駆動機構)
上述したスプール駆動機構は、スプール3を糸巻取方向に駆動する。また、巻き取り時にスプール3に対してドラグ27によりドラグ力を発生させて釣糸の切断を防止する。
ドラグ27は、ハンドル20のハンドルアーム25と右側カバー22Aとの間においてハンドル軸に同軸に設けられている。スプール駆動機構は、図示しないローラクラッチの形態の逆転防止部によって糸巻取方向の回転が禁止された上記のモータ4と、減速装置10によって減速されたモータ4の回転をスプール3に伝達したり、ハンドル20の回転を増速してスプール3に伝達する回転伝達機構と、を備えている。
【0029】
(モータ)
モータ4は、
図1に示すように、魚釣用電動リール1の前部においてスプール3よりも前側の位置に配置され、半割れ形状のモータ収容体40(
図2参照)に覆われた状態で設けられている。モータ4は、
図3及び
図4に示すように、モータ回転軸41と、モータ本体42と、モータ本体42を保持する筐体43(モータ筐体)と、を有している。そして、モータ4は、筒状のモータケース44内に収容されている。
【0030】
モータ回転軸41は、モータ本体42の中心部をモータ軸線O方向に貫通し、モータ回転軸41の一端(
図3の紙面右側、
図4の紙面左側)の軸先端部41a及び他端(
図3の紙面左側、
図4の紙面右側)の軸基端部41bがそれぞれ筐体43、後述するモータエンドキャップ434に回転可能に支持されている。
ここで、モータ軸線Oにおいて、モータ回転軸41の軸先端部41a側を先端側、軸基端部41b側を基端側として以下説明する。
【0031】
筐体43は、モータ4の外殻を形成している。筐体43は、
図4に示すように、回転中心にモータ回転軸41を有するモータ本体42を全周で覆う筒状の円筒体431と、円筒体431の先端側を塞ぐ先端版432と、先端版432の中央において第1軸受435を支持する第1中央筒433A及びモータ防水シール436を支持する第2中央筒433Bと、を有している。
【0032】
円筒体431の基端431bは、
図3及び
図4に示すように、右側板21Aに固定されたモータエンドキャップ434に対して第2軸受437を介して液密に係合されて筐体43内が閉塞されている。
先端版432は、
図5に示すように、中心部分に円形の開口部432bを有するリング状をなし、外周部分が円筒体431の先端部431aに接続されている。開口部432bには、モータ軸線Oと同軸で筐体43の内空側に向けて延びる前記第1中央筒433Aと、モータ軸線Oと同軸で軸先端部41a側に向けて延びる前記第2中央筒433Bと、が一体的に設けられている。第1中央筒433Aの内面433aで第1軸受435が支持され、第2中央筒433Bの内面433bでモータ防水シール436が支持されている。
【0033】
筐体43の先端版432には、厚さ方向に貫通する複数の雌ねじ孔432aが周方向に適宜な間隔をあけた位置に形成されている。各雌ねじ孔432aには、モータケース44との間で固定される固定ねじ47が螺合される。
【0034】
第1中央筒433Aの内面433aには、モータ回転軸41の軸先端部41a側を回転可能に支持する第1軸受435が配置されている。第2中央筒433Bの内径は、第1中央筒433Aよりも小さく形成され、内面433bにおいてモータ回転軸41との間で回転可能に液密に接触するモータ防水シール436が配置されている。モータ防水シール436は、モータ本体42、第1軸受435、及び先端版432よりも先端側に位置することで、モータ4(筐体43)内への水の浸入が防止される止水機能を有している。
【0035】
モータ回転軸41におけるモータ防水シール436より軸先端部41a側に突出する部分には、太陽ギア11が回転不能に挿通された状態で固定されている。
太陽ギア11よりさらに突出したモータ回転軸41の軸先端部41aには、キャリア6の内周面61aとの間に、キャリア6を回転可能に支持するキャリア軸受部14(後述する)が設けられている。
【0036】
モータケース44は、
図5及び
図6に示すように、モータ4の筐体43を収容し固定する筒状のケース筒45と、ケース筒45の先端寄りの位置に設けられ、ケース筒45の内側の空間をモータ回転軸41方向に画成する隔壁46と、が一体的に設けられている。隔壁46を挟んで軸基端部41b側に位置する第1空間46Aには筐体43及びモータ本体42が収容され、隔壁46における第1空間46Aと反対側に位置する第2空間46B(外方側)には太陽ギア11、遊星ギア12、リングギア13、及びキャリア6の一部が配置されている。
【0037】
ケース筒45における第2空間46B側の内周面45bには、リングギア13が同軸に回転不能な状態で嵌合されている。隔壁46のキャリア6に対向する先端面46aには、後述する一対の回止め凹部132に係合するようにモータ軸線O方向の先端側に向けて突出する一対の回止め凸部461が設けられている。
回止め凸部461は、ケース筒45の径方向に直交する方向の凸面を形成し、ケース筒45の内周面45bにおいて径方向に対向する2箇所に設けられている。
【0038】
図5に示すように、隔壁46の基端面46bには、筐体43の先端版432が当接している。隔壁46には、先端版432の雌ねじ孔432aに対応する位置にねじ挿入穴46cが形成されている。ねじ挿入穴46cに第2空間46B側から固定ねじ47(固定部材)を挿通させて、先端版432の雌ねじ孔432aに螺合させることによって、モータ4(筐体43)がモータケース44に固定されている。すなわち、モータケース44は、モータ回転軸41の太陽ギア11寄りの位置で筐体43に対して固定されている。
なお、隔壁46と先端版432との接触部分には、熱伝導グリスや熱伝導シートを介在させるようにしてもよい。
【0039】
(減速装置)
図5及び
図6に示すように、減速装置10は、モータ4の回転駆動力を減速させてスプール3(
図1参照)に伝達する。減速装置10は、モータ4のモータ回転軸41に設けられた太陽ギア11と、太陽ギア11に噛合し、遊星ギア支持軸121を有する複数の遊星ギア12(12A、12B、12C)と、太陽ギア11と同軸に設けられ、各遊星ギア12を内周部で噛合させる内周歯車131を有し、内周歯車131に沿って複数の遊星ギア12A、12B、12Cを周回移動させるリングギア13と、各遊星ギア12の遊星ギア支持軸121の両端121a、121bを支持するとともに、複数の遊星ギア12A、12B、12Cの周回移動に伴ってモータ回転軸41を中心にして回転して前記スプール3に回転駆動力を伝達するキャリア6と、を備えている。
【0040】
このような減速装置10は、モータ4の駆動時に、モータ回転軸41の回転駆動力を太陽ギア11と遊星ギア12で減速させて、キャリア6を介してスプール3に伝達する構成となっている。
各遊星ギア12A、12B、12Cは、モータケース44のケース筒45の内周面45bに設けられたリングギア13に常時噛合した構造となっている。
【0041】
(太陽ギア)
太陽ギア11は、モータ回転軸41の軸先端部41aに同軸に固定されている。太陽ギア11は、外周に歯部が形成されている。太陽ギア11の歯部には、3つの遊星ギア12A、12B、12Cが噛合している。
【0042】
(遊星ギア)
各遊星ギア12A、12B、12Cは、それぞれの遊星ギア支持軸121の両端121a、121bがキャリア6に支持された両端支持構造であり、軸受123を介して遊星ギア支持軸121回りに回転可能に設けられている。
これら遊星ギア12A、12B、12Cは、それぞれの外周の歯部122のうち半径方向内側の部分で太陽ギア11と噛合し、同じく半径方向外側の部分でリングギア13と噛合する。
【0043】
(リングギア)
リングギア13は、モータ回転軸41と同軸に設けられ、3つの遊星ギア12A、12B、12Cをリング内周面で噛合させる内周歯車131を有している。遊星ギア12A、12B、12Cは、それぞれが太陽ギア11の回転によって自転しながら内周歯車131に沿って周回移動される。
【0044】
リングギア13は、モータケース44の第2空間46B側の内周面45bに回転不能な状態で嵌合されている。リングギア13には、隔壁46に対向する外周縁部13aにおいて周方向の一部を切り欠いて形成された回止め凹部132を有している。回止め凹部132は、リングギア13の径方向に直交する方向の切欠面を形成し、外周縁部13aにおいて、リングギア13の径方向に対向する2箇所に設けられている。
このようにリングギア13とモータケース44の隔壁46とのそれぞれにモータ回転軸41方向に突出又は凹ませた係合凹凸部(回止め凸部461、回止め凹部132)を形成し、互いに係合させることで、モータケース44に対するリングギア13の回転が規制される。
【0045】
(キャリア)
図5及び
図6に示すように、キャリア6は、3つの遊星ギア12A、12B、12Cの遊星ギア支持軸121を支持するとともに、各遊星ギア12A、12B、12Cのリングギア13に沿う周回移動に伴ってモータ回転軸41を中心にして回転してスプール3に回転駆動力を伝達する。
キャリア6は、リングギア13の内側で周回移動する各遊星ギア12A、12B、12Cとともにモータ回転軸41回りに回転する第1支持体61と、第1支持体61より前記隔壁46と反対側に突出してスプール3に回転を伝達する第2支持体62と、を有している。第1支持体61は、太陽ギア11をモータ回転軸41方向の軸先端部41aから囲うように配置され、キャリア軸受部14を介してモータ回転軸41回りに回転可能に支持されている。
【0046】
第1支持体61は、有頂筒状で、内側でモータ回転軸41の軸先端部41aに回転可能に支持されたキャリア本体63を有している。さらに、第1支持体61には、
図6に示すように、モータ回転軸41と同軸に配置される一対の円盤状の固定フランジ64、65が設けられている。第2固定フランジ65は、キャリア本体63の開口端から径方向の外側に向けて全周にわたって突出したリング状をなしている。第1固定フランジ64は、第2固定フランジ65に対して基端側に離間して対向するように配置されたリング状をなしている。
【0047】
キャリア本体63は、
図5に示すように、内側に太陽ギア11及びモータ回転軸41の軸先端部41aが配置され、内周面63aとモータ回転軸41の軸先端部41aとの間に前述したキャリア軸受部14が設けられている。つまり、キャリア6(キャリア本体63)は、モータ回転軸41を径方向の外側から軸受けするキャリア軸受部14を介して太陽ギア11(モータ回転軸41)回りに回転可能に設けられ、太陽ギア11の回転とは異なる回転数で回転できるようになっている。
【0048】
図6に示すように、第1固定フランジ64と第2固定フランジ65とは、同外径をなし、連結壁66を介して一体的に設けられている。太陽ギア11は、第1固定フランジ64の中央部分に形成された円形の開口部から双方のフランジ64、65同士の間に挿入された状態で配置される。モータ回転軸41の軸先端部41aは、第2固定フランジ65の中央部分に形成された中心穴から先端側に向けて突出した状態で配置される。そして、第1固定フランジ64と第2固定フランジ65との間には、太陽ギア11に噛合する3つの遊星ギア12が周方向に一定の間隔をあけて回転可能に支持されている。
【0049】
第1固定フランジ64と第2固定フランジ65とによって各遊星ギア12A、12B、12Cの遊星ギア支持軸121の両端121a、121bが固定されている。各遊星ギア12A、12B、12Cは、それぞれ少なくとも歯部122のうち半径方向外側の部分が第1固定フランジ64と第2固定フランジ65の外周部から突出した状態で配置されており、前記半径方向外側の部分でリングギア13に噛合するように設けられている。
連結壁66は、各遊星ギア12A、12B、12Cから間隔をあけて干渉しない位置に設けられている。
【0050】
図5に示すように、第1支持体61のキャリア本体63の外周面63bには、ケース筒45における第2空間46B側の内周面45bとの間に外側防水シール67が設けられている。外側防水シール67は、平面視でリング状に形成され、外周部67aがモータケース44のケース筒45の内周面45bに固定され、内周部67bがキャリア6のキャリア本体63の外周面63bに液密に接触し、モータケース44とキャリア6との間で止水する止水機能を有している。
【0051】
このように構成される魚釣用電動リール1では、
図3に示すように、外部電源に接続した給電コードを給電接続部となるコネクタ28に接続することで、モータ4が駆動可能となる。そして、クラッチ機構5がクラッチオン状態にあるとき、ハンドル20を巻取り操作したり、パワーレバーを操作してモータ4を駆動することで、これらの駆動力が減速装置10によりスプール3に伝達されて、スプール3が回転して釣糸が巻き取られる。そして、モータ4の回転駆動力は、
図4に示すように、複数の遊星ギア12により減速されてスプール3に伝達される。
一方、クラッチ操作部材50を操作して、クラッチ機構5をクラッチオフ状態に切り換えると、スプール3がスプールフリー状態に切り換わって釣糸を繰り出すことが可能となる。
【0052】
次に、このように構成される魚釣用電動リールの作用について、図面に基づいて詳細に説明する。
図4に示すように、本実施形態による魚釣用電動リール1では、筐体43自体にモータ防水シール436を組み込む構造となり、双方の位置精度が高いモータ回転軸41と筐体43との間にモータ防水シール436が配置されることから、高精度な止水構造となり、モータ4の防水性を向上させることができる。
そのため、従来のようなモータのシール部分に対して接触圧を大きくする必要がなくなり、シールによる接触損失の増大を抑制することができる。
【0053】
また、本実施形態では、キャリア6の外周面とモータケース44の内周面との間に外側防水シール67が設けられた構成となっているので、モータ防水シール436におけるモータ4と反対側となる外側に外側防水シール67が配置された二重の防水構造とすることができる。すなわち、太陽ギア11を遊星ギア12とともに覆うように配置されるキャリア6の外周面と筒状のモータケース44の内周面との間に外側防水シール67が配置され、モータ回転軸41自体に付着する水分を減らすことができることから、さらに効果的にモータ4の防水性を向上させることができる。
【0054】
さらに、本実施形態では、モータケース44が筐体43に対して固定部材により強固に固定されるので、モータ回転軸41とモータケース44とが高い精度で配置されることになる。すなわち、モータ回転軸41の回転によって太陽ギア11及び遊星ギア12を介して回転するキャリア6とモータケース44との位置関係も高い精度で保持されることから、外側防水シール67による止水精度も高くなり、モータ4の防水性を向上させることができる。
【0055】
また、本実施形態では、キャリア6には、太陽ギア11と同軸に配置され、太陽ギア11、又はモータ回転軸41を径方向の外側から軸受けするキャリア軸受部14が設けられ、キャリア6をキャリア軸受部14によって太陽ギア11、又はモータ回転軸41に支持させることにより、モータ回転軸41とキャリア6とが高い精度で配置されることになる。そのため、モータ回転軸41の回転によって太陽ギア11及び遊星ギア12を介して回転するキャリア6とモータケース44との位置関係も高い精度で保持されることから、外側防水シール67による止水精度も高くなり、モータ4の防水性を向上させることができる。
【0056】
上述のように構成された本実施形態による魚釣用電動リールでは、モータ4のシール部分における接触圧を大きくすることなく、シール部分の接触損失の増大を抑制した構造により高精度な止水ができ、モータ4の防水性を向上させることができる。
【0057】
以上、本発明による魚釣用電動リールの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。実施形態は、その他様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形例には、例えば当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、均等の範囲のものなどが含まれる。
【0058】
例えば、上記実施形態では、モータ4の防水機能として、モータ防水シール436の他に、キャリア6の外周面とモータケース44の内周面との間に外側防水シール67を設けた構成としているが、この外側防水シール67を省略することも可能である。あるいは、外側防水シールの位置としてキャリア6の外周面とモータケース44の内周面との間であることにも限定されることはなく、モータ防水シール436よりも外側の位置であればよく、他の位置に設けられていてもよい。
【0059】
また、本実施形態では、モータ4とモータケース44との固定方法として、モータケース44の隔壁46を使用して固定ねじ47によってモータ4の筐体43に固定しているが、固定ねじを用いる固定方法に限定されることはなく、他の固定手段を採用することも可能である。また、固定部位として、隔壁46や筐体43であることに限定されることはなく、またその固定位置、固定箇所数も適宜設定することができる。
【0060】
さらに、本実施形態では、キャリア6をモータ回転軸41に対して径方向の外側から軸受けするキャリア軸受部14を設けた構成としているが、このキャリア軸受部14を省略した構成であってもかまわない。また、キャリア軸受部14は、キャリア6とモータ回転軸41との間に設けられるものではなく、キャリア6と太陽ギア11の一部との間に介在されるものであってもよい。
【0061】
また、本実施形態では、モータ4のモータ回転軸41に直結する減速装置10を対象としているが、このモータ4に設けられる減速装置10であることに限定されることはない。例えば、スプール回転軸に直結するスプール用減速装置であってもかまわない。すなわち、スプール回転軸の端部に太陽ギアが固定され、その太陽ギアに噛合する複数の遊星ギアが設けられ、リングギアに沿って周回する遊星ギアとともに回転するキャリアが設けられ、このキャリアは上述したモータ4の減速装置10から回転駆動力が伝達される構成であってもよい。この場合には、モータ4の回転駆動力は、減速装置10を介してスプール用減速装置に伝達され、さらにスプール用減速装置で減速されてスプール3を回転させるようになっている。
【符号の説明】
【0062】
1 電動リール
2 リール本体
3 スプール(回転駆動部)
4 モータ
6 キャリア
10 減速装置
11 太陽ギア
12、12A、12B、12C 遊星ギア
13 リングギア
14 キャリア軸受部
20 ハンドル
21 本体フレーム
41 モータ回転軸
42 モータ本体
43 筐体
44 モータケース
45 ケース筒
46 隔壁
47 固定ねじ(固定部材)
67 外側防水シール
436 モータ防水シール