(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】フィルム用粘着剤および粘着シート
(51)【国際特許分類】
C09J 133/04 20060101AFI20220907BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20220907BHJP
C09J 7/24 20180101ALI20220907BHJP
【FI】
C09J133/04
C09J7/38
C09J7/24
(21)【出願番号】P 2018207511
(22)【出願日】2018-11-02
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】390029458
【氏名又は名称】ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【氏名又は名称】伊佐治 創
(72)【発明者】
【氏名】柳沢 純司
(72)【発明者】
【氏名】島田 伸行
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-067958(JP,A)
【文献】国際公開第2013/088686(WO,A1)
【文献】特開2017-002190(JP,A)
【文献】特開2005-247903(JP,A)
【文献】特許第6296184(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも下記成分(a)30~90質量部、下記成分(b)15~30質量部および下記成分(c)の共重合体(A)
と、架橋剤(B)とを含み、
前記共重合体(A)の重量平均分子量が10万~40万であ
り、
前記共重合体(A)の共重合成分中における前記成分(c)の含有量が0.05~4.0質量部であり、
前記架橋剤(B)の含有率が、前記共重合体(A)の質量に対し、0.027質量%以上1.5質量%以下である
ことを特徴とするフィルム用粘着剤。
(a)炭素数8~12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルおよび炭素数8~12のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルの少なくとも一方
(b)炭素数1~3のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル
(c)架橋性官能基を有するモノマー
【請求項2】
前記架橋剤(B)の含有率が、前記共重合体(A)の
質量に対し、0.027質量%以上1.0質量%以下である請求項1記載のフィルム用粘着剤。
【請求項3】
ハロゲン含有ポリマー製フィルム用である請求項1または2記載のフィルム用粘着剤。
【請求項4】
前記成分(c)における前記架橋性官能基が、水酸基、カルボキシ基および酸無水物基からなる群から選択される少なくとも一つである請求項1から3のいずれか一項に記載のフィルム用粘着剤。
【請求項5】
前記共重合体(A)の共重合成分が、さらに、下記成分(d)を含む請求項1から4のいずれか一項に記載のフィルム用粘着剤。
(d)カルボン酸の不飽和エステル
【請求項6】
フィルム製基材と、粘着剤層とを含み、
前記粘着剤層が、請求項1から
5のいずれか一項に記載のフィルム用粘着剤を含むことを特徴とする粘着シート。
【請求項7】
前記フィルム製基材が、ハロゲン含有ポリマー製フィルムである請求項
6記載の粘着シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム用粘着剤および粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
粘着剤およびそれを用いた粘着シートは、産業上の種々の分野において広範に用いられている。前記粘着シートは、例えば、基材フィルム上に、前記粘着剤を含む粘着剤層を設けて得られる(特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開2013/080979号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
粘着剤および粘着シートは、特に高温環境下で、長時間経過による接着力(粘着力)の経時的低下が問題となるおそれがある。したがって、高温環境下でも接着力の経時的低下が起こりにくい粘着剤および粘着シートが必要とされる。
【0005】
そこで、本発明は、高温環境下でも接着力の経時的低下が起こりにくいフィルム用粘着剤および粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明のフィルム用粘着剤は、少なくとも下記成分(a)30~90質量部、下記成分(b)15~30質量部および下記成分(c)の共重合体(A)を含み、前記共重合体(A)の重量平均分子量が10万~40万であることを特徴とする。
(a)炭素数8~12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルおよび炭素数8~12のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルの少なくとも一方
(b)炭素数1~3のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル
(c)架橋性官能基を有するモノマー
【0007】
本発明の粘着シートは、フィルム製基材と、粘着剤層とを含み、前記粘着剤層が、本発明のフィルム用粘着剤を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高温環境下でも接着力の経時的低下が起こりにくいフィルム用粘着剤および粘着シートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について、例をあげて説明する。ただし、本発明は、以下の説明により限定されない。
【0010】
本発明のフィルム用粘着剤は、例えば、さらに、架橋剤(B)を含み、前記架橋剤(B)の含有率が、前記共重合体(A)の1.5質量%以下であってもよい。
【0011】
本発明のフィルム用粘着剤は、例えば、ハロゲン含有ポリマー製フィルム用であってもよい。
【0012】
本発明のフィルム用粘着剤は、例えば、前記成分(c)における前記架橋性官能基が、水酸基、カルボキシ基および酸無水物基からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。
【0013】
本発明のフィルム用粘着剤は、例えば、前記共重合体(A)の共重合成分が、さらに、下記成分(d)を含んでいてもよい。
(d)カルボン酸の不飽和エステル
【0014】
本発明のフィルム用粘着剤は、例えば、前記共重合体(A)の共重合成分において、前記成分(c)の含有量が0.05~4.0質量部であってもよい。
【0015】
本発明の粘着シートは、例えば、前記フィルム製基材が、ハロゲン含有ポリマー製フィルムであってもよい。
【0016】
本発明において、「初期接着力」は、粘着シートを被着体に接着させた直後の接着力をいい、すなわち、接着後の接着力の経時変化を考慮しない接着力をいう。本発明において、粘着剤または粘着シートの初期接着力の測定方法は、特に限定されないが、例えば、後述する実施例に記載の測定方法で測定できる。
【0017】
本発明において、「接着力」と「粘着力」とは、特に区別はなく、同義であるものとする。本発明において、「接着剤」と「粘着剤」とは、特に区別はなく、同義であるものとする。本発明において、「粘着剤組成物」は、粘着剤のうち、組成物であるものをいう。
【0018】
一般に、厚みが比較的大きいものを「シート」、厚みが小さいものを「フィルム」と呼んで区別する場合があるが、本発明では、「シート」と「フィルム」とは特に区別はなく同義であるものとする。
【0019】
本発明において、「アルキル」は、例えば、直鎖状または分枝状のアルキルを含む。本発明において、アルキル基は、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基およびtert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等があげられる。
【0020】
以下、本発明の実施形態について、さらに具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0021】
[1.粘着剤]
本発明のフィルム用粘着剤は、前述のとおり、少なくとも下記成分(a)30~90質量部、下記成分(b)15~30質量部および下記成分(c)の共重合体(A)を含み、前記共重合体(A)の重量平均分子量が10万~40万であることを特徴とする。
(a)炭素数8~12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルおよび炭素数8~12のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルの少なくとも一方
(b)炭素数1~3のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステル
(c)架橋性官能基を有するモノマー
【0022】
[1-1.共重合体(A)]
共重合体(A)は、前述のとおり、少なくとも前記成分(a)、(b)および(c)の共重合体である。
【0023】
成分(a)は、前述のとおり、炭素数8~12のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルおよび炭素数8~12のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルの少なくとも一方である。成分(a)としては、例えば、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ノルマルオクチル、アクリル酸イソオクチル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ノニル、アクリル酸デシル、アクリル酸イソデシル、アクリル酸ウンデシル、アクリル酸ドデシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ノルマルオクチル、メタクリル酸イソオクチル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸イソデシル、アクリル酸ウンデシル、メタクリル酸ドデシル等があげられ、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。
【0024】
共重合体(A)の共重合成分中における成分(a)の含有量は、前述のとおり、30~90質量部であり、例えば、40~80質量部であってもよい。30質量部未満または90質量部を超える含有量では、高温環境下における接着力の経時的低下が大きくなる。
【0025】
成分(b)は、前述のとおり、炭素数1~3のアルキル基を有するメタクリル酸アルキルエステルである。前記アルキル基は、直鎖状でも分枝状でもよい。成分(b)としては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピルがあげられ、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。
【0026】
共重合体(A)の共重合成分中における成分(b)の含有量は、前述のとおり、15~30質量部である。15質量部未満では、高温環境下における接着力の経時的低下が大きくなる。また、30質量部を超えると、初期接着力が低くなる。
【0027】
成分(c)は、前述のとおり、架橋性官能基を有するモノマーである。前記架橋性官能基は、特に限定されないが、例えば、水酸基、カルボキシ基、酸無水物基、グリシジル基、アミノ基、アミド基等があげられ、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。前記架橋性官能基は、例えば、前述のとおり、水酸基、カルボキシ基および酸無水物基からなる群から選択される少なくとも一つであってもよい。水酸基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシアルキルエステル、アクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシエステルのカプロラクトン付加物、アクリル酸またはメタクリル酸のポリアルキレングリコールエステル等があげられる。前記アクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシアルキルエステルにおいて、前記アルキル基は、直鎖状でも分枝状でもよく、炭素数は、例えば、1~8であってもよい。前記アクリル酸のヒドロキシアルキルエステルとしては、特に限定されないが、例えば、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸3-ヒドロキシブチル、アクリル酸8-ヒドロキシオクチル、アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル等があげられる。前記メタクリル酸のヒドロキシアルキルエステルとしては、特に限定されないが、例えば、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸3-ヒドロキシブチル、メタクリル酸8-ヒドロキシオクチル、メタクリル酸6-ヒドロキシヘキシル等があげられる。カルボキシ基を有するモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、不飽和カルボン酸(炭素-炭素不飽和結合を有するカルボン酸)等があげられる。前記カルボキシ基を有するモノマーは、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、シトラコン酸等があげられる。酸無水物基を有するモノマー(すなわち酸無水物)は、酸無水物基が加水分解によりカルボキシ基2個を生じ、そのカルボキシ基2個が前記架橋性官能基として働く。したがって、前記酸無水物基を有するモノマーは、実質的に、カルボキシ基2個を有するモノマーと同じである。前記酸無水物基を有するモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、炭素-炭素不飽和結合を有する酸無水物があげられる。前記酸無水物基を有するモノマーとしては、例えば、無水イタコン酸、無水マレイン酸等があげられる。また、成分(c)において、前記架橋性官能基を有するモノマーは、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。
【0028】
共重合体(A)の共重合成分中における成分(c)の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.05~4.0質量部であってもよく、0.1~3.0質量部であってもよい。成分(c)の含有量がこの範囲内であると、さらに、接着力の経時的低下が抑制されやすくなる。
【0029】
また、共重合体(A)の共重合成分は、成分(a)~(c)以外の任意成分を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。前記任意成分としては、特に限定されないが、例えば、前記成分(d)すなわちカルボン酸の不飽和エステルがあげられる。前記成分(d)としては、特に限定されないが、例えば、カルボン酸アルケニルエステル、カルボン酸ビニルエステル等があげられ、より具体的には、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニルカプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリン酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、オクチル酸ビニル、ビバリン酸ビニル等があげられ、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。
【0030】
共重合体(A)の共重合成分中における成分(d)の含有量は、特に限定されないが、例えば、0.5~40質量部、1~40質量部、1~35質量部、または2~35質量部でもよい。重合性(共重合体(A)の共重合成分の重合しやすさ)の観点からは、成分(d)の含有量が少なすぎないことが好ましい。また、接着力の経時的低下抑制の観点からは、成分(d)の含有量が多すぎないことが好ましい。
【0031】
共重合体(A)の重量平均分子量は、前述のとおり、10万~40万であり、例えば、15万以上、または20万以上であってもよく、例えば、38万以下、または35万以下であってもよい。共重合体(A)の重量平均分子量が10万未満では、粘着剤が硬化(皮膜化)しにくく、初期接着力が低くなる。共重合体(A)の重量平均分子量が40万を超えると、接着力の経時的低下が起こりやすい。
【0032】
共重合体(A)の製造方法は、特に限定されず、例えば、共重合体(A)の共重合成分全てを重合させて製造できる。前記重合方法も特に限定されず、例えば、公知の重合方法と同様またはそれに準じてもよい。前記重合方法としては、例えば、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法等があげられる。重合に際して用いられる重合開始剤等は、特に限定されず、公知のものの中から適宜選択して使用することができる。より具体的には、前記重合開始剤としては、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)等のアゾ系重合開始剤;ベンゾイルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロドデカン等の過酸化物系重合開始剤などがあげられる。なお、溶液重合の場合は、油溶性の重合開始剤を用いることが好ましい。重合開始剤は、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。重合開始剤の使用量は、特に限定されず、例えば、一般的な使用量またはそれに準じてもよい。
【0033】
前記共重合体(A)の製造を溶液重合法で行う場合、用いる溶剤には各種の一般的な溶剤を用いることができる。このような溶剤としては、酢酸エチル、酢酸n-ブチル等のエステル類;トルエン、ベンゼン等の芳香族炭化水素類;n-ヘキサン、n-ヘプタン等の脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類などの有機溶剤があげられ、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。前記溶液重合法において、共重合成分の濃度、反応時間、反応温度等も特に限定されず、例えば、一般的な溶液重合法を参考にして適宜設定できる。また、前記共重合成分の濃度、反応時間、反応温度等を適宜調整することで、共重合体(A)の重量平均分子量を調節できる。例えば、前記共重合成分の濃度を低く、または反応時間を短く、または反応温度を高くすると、共重合体(A)の重量平均分子量が小さくなりやすい。また、例えば、前記共重合成分の濃度を高く、または反応時間を長く、または反応温度を低くすると、共重合体(A)の重量平均分子量が大きくなりやすい。
【0034】
[1-2.共重合体(A)以外の任意成分]
本発明のフィルム用粘着剤は、共重合体(A)以外の任意成分以外を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。前記任意成分としては、例えば、前述の架橋剤(B)があげられる。架橋剤(B)は、特に限定されず、例えば、アクリル系粘着剤に用いられる一般的な架橋剤またはそれに準じてもよい。架橋剤(B)としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤等があげられる。前記イソシアネート系架橋剤は、例えば、分子中にイソシアネート基(イソシアナト基)を1つまたは2つ以上有する架橋剤である。前記エポキシ系架橋剤は、例えば、分子中にエポキシ基を1つまたは2つ以上有する架橋剤である。前記イソシアネート系架橋剤としては、特に限定されないが、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、イソプロピルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート及び、これらのイソシアヌレート体、ビウレット体、アダクト体等があげられる。また、前記エポキシ系架橋剤としては、特に限定されないが、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジルトルイジン、m-N,N-ジグリシジルアミノフェニルグリシジルエーテル、p-N,N-ジグリシジルアミノフェニルグリシジルエーテル、トリグリシジルイソシアヌレート、N,N,N’,N’-テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン、N,N,N’,N’-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミン、N,N,N’,N’,N’’-ペンタグリシジルジエチレントリアミン、1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノエチル)シクロヘキサン等があげられる。また、架橋剤(B)は、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。
【0035】
本発明のフィルム用粘着剤において、架橋剤(B)の含有率は、特に限定されないが、共重合体(A)の質量に対し、例えば、1.5質量%以下または1.0質量%以下であってもよい。架橋剤(B)の含有率がこの範囲内であることにより、例えば、接着力の経時的低下をさらに抑制できる。
【0036】
前記任意成分としては、架橋剤(B)以外には、例えば、溶剤等があげられる。前記溶剤は、特に限定されず、例えば、前記溶液重合法の溶剤と同様でもよい。例えば、前記溶液重合法で共重合体(A)を製造した後に、用いた溶剤を除去せず、そのまま共重合体(A)とともに本発明のフィルム用粘着剤に用いてもよい。具体的には、例えば、前記溶液重合法で得られた共重合体(A)の溶液をそのまま本発明のフィルム用粘着剤としてもよいし、架橋剤(B)を加えて本発明のフィルム用粘着剤としてもよい。
【0037】
前記任意成分としては、その他に、例えば、粘着付与剤があげられる。前記粘着付与剤は特に限定されず、例えば、一般的な粘着付与剤等であってもよい。前記粘着付与剤は、例えば、粘着付与性を有する樹脂(粘着付与樹脂)等でもよい。前記粘着付与剤としては、例えば、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、石油系樹脂等があげられる。前記ロジン系樹脂としては、例えば、ガムロジン、トール油ロジン、ウッドロジンの未変性ロジンをアルコールなどでエステル化したロジンエステル、および、未変性ロジンを変性した不均化ロジン、重合ロジン、水添ロジンなどの変性ロジン、これら変性ロジンをさらにアルコール、グリセリン、ペンタエリスリトールなどでエステル化した不均化ロジンエステル、重合ロジンエステル、水添ロジンエステルなどの変性ロジンエステル、未変性ロジンにフェノールを付加したロジンフェノール等があげられる。前記テルペン系樹脂としては、例えば、未変性テルペンを変性した芳香族変性テルペン、水添化テルペン、テルペンとフェノールを共重合したテルペンフェノール等があげられる。前記石油系樹脂としては、例えば、炭化水素樹脂があげられ、前記炭化水素樹脂としては、例えば、脂肪族系炭化水素樹脂、芳香族系炭化水素樹脂等があげられる。これらの粘着付与剤は、1種類のみ用いても2種類以上併用してもよい。
【0038】
また、前記任意成分としては、その他に、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤等もあげられる。
【0039】
[2.フィルム用粘着剤の使用方法および粘着シート]
本発明のフィルム用粘着剤は、例えば、フィルムと、他の被接着物との接着に用いることができる。前記フィルムは、特に限定されず、どのようなフィルムでもよい。前記フィルムとしては、例えば、ハロゲン含有ポリマー製フィルム等があげられる。前記ハロゲン含有ポリマーとしては、例えば、ポリ塩化ビニル(塩化ビニル樹脂)等があげられる。前記他の被接着物は、特に限定されず、例えば、他のフィルムでもよいし、プラスチック、ガラス、金属等であってもよい。
【0040】
本発明のフィルム用粘着剤は、以下の理由により、ハロゲン含有ポリマー製フィルムに特に好適に用いることができる。
【0041】
ハロゲン含有ポリマー製フィルムとしては、例えば、マーキングフィルムやオーバーラミネートフィルム等に用いられるポリ塩化ビニル(塩化ビニル樹脂)を含むフィルムがある。このようなフィルムは、一般に、可塑剤により軟質化されている。前記フィルムに粘着剤を付与した場合、前記可塑剤が前記フィルムから前記粘着剤へと移行し、前記粘着剤の粘着力の低下、凝集力の低下等を引き起こすおそれがある。これにより、前記フィルムが接着されている他の被接着物から、前記フィルムが剥がれるおそれがある。特に、高温環境下では、フィルムから粘着剤に対する可塑剤の移行が起こりやすい。しかし、本発明のフィルム用粘着剤によれば、前記フィルムからの可塑剤の移行を抑制できる。したがって、本発明のフィルム用粘着剤は、可塑剤を含むフィルムに用いた場合においても、高温環境下でも接着力の経時的低下が起こりにくい。
【0042】
本発明のフィルム用粘着剤により接着される前記フィルムは、可塑剤を含んでいなくてもよいが、前述の理由により、可塑剤を含んでいてもよい。可塑剤を含むフィルムとしては、特に限定されないが、前述のとおり、例えば、ハロゲン含有ポリマー製フィルムであり、例えば、ポリ塩化ビニルフィルム(ポリ塩化ビニルを含むフィルム)である。前記可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、フタル酸系、リン酸系、アジピン酸系、トリメリット酸系、エポキシ系等の可塑剤があげられる。フタル酸系可塑剤としては、例えば、フタル酸ジ-2-エチルヘキシル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジブチル、フタル酸ブチルベンジル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジノルマルオクチル等があげられる。アジピン酸系可塑剤としては、例えば、アジピン酸ジ-2-エチルヘキシル、アジピン酸ジイソノニル等があげられる。リン酸系可塑剤としては、例えば、リン酸トリクレジルがある。トリメリット酸系としてはトリメリット酸トリー2-エチルヘキシル等があげられる。エポキシ系可塑剤としては、例えば、脂肪酸をエポキシド化したエポキシ化脂肪酸オクチル、エポキシ化脂肪酸ブチル、油脂をエポキシド化したエポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油等があげられる。
【0043】
本発明のフィルム用粘着剤は、例えば、前述のとおり、本発明の粘着シートに用いることができる。本発明の粘着シートは、前述のとおり、フィルム製基材と、粘着剤層とを含み、前記粘着剤層が、本発明のフィルム用粘着剤を含むことを特徴とする。これ以外は、本発明の粘着シートの構成は特に限定されず、任意である。前記フィルム製基材は、特に限定されないが、例えば、前述のフィルムであり、例えば、ハロゲン含有ポリマー製フィルムであり、例えば、ポリ塩化ビニルフィルム(ポリ塩化ビニルを含むフィルム)である。なお、本発明において、「粘着シート」は、前述のとおり、粘着テープも含む。また、前述のとおり、本発明において、「シート」はフィルムも含み、厚みは特に限定されない。
【0044】
本発明の粘着シートの製造方法も特に限定されず、本発明のフィルム用粘着剤を用いる以外は一般的な粘着シートの製造方法と同様またはそれに準じてもよいが、例えば、以下のようにして行なうことができる。まず、本発明の粘着剤を、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等の剥離ライナーに塗布する。なお、このとき、本発明の粘着剤に、他の成分を混合してもよい。例えば、本発明の粘着剤が架橋剤(B)を含まない場合は、架橋剤(B)を混合して塗布してもよい。その後、必要に応じ、前記粘着剤に含まれている有機溶剤等を、加熱等により除去する(乾燥させる)。さらに、前記粘着剤の上に、前記フィルム基材を被せた後に、一定温度下で放置するエージング処理を行ない、前記フィルム基材上に粘着剤層を形成する。このようにして、本発明の粘着シートを製造することができる。前記エージング処理の温度は特に限定されないが、例えば、5~80℃であり、時間は、例えば1~14日である。
【0045】
本発明の粘着シートの使用方法も特に限定されず、例えば、一般的な粘着シートと同様でもよい。本発明の粘着シートは、前述のとおり、高温環境下でも接着力の経時的低下が起こりにくいため、高温環境下での使用にも適している。ただし、本発明の粘着シートの用途はこれに限定されず、どのような用途でも良い。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0047】
[実施例1]
以下のようにして、本実施例のフィルム用粘着剤および粘着シートを製造した。
【0048】
(粘着剤の製造)
攪拌機、還流冷却器、温度計及び窒素導入管を備えた反応装置に、酢酸エチル49重量部を仕込み、系内(前記反応装置の、反応を行なう容器内)を窒素ガス置換し、酢酸エチルの沸点まで昇温した。つぎに、アクリル酸2-エチルヘキシル(成分(a))77質量部、メタクリル酸メチル(成分(b))20質量部、アクリル酸(成分(c))0.8室量部、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル(成分(c))0.1部、酢酸ビニル(成分(d))2量部、および2,2′-アゾビスイソブチロニトリル(重合開始剤、その他成分)0.21質量部を混合し、モノマー混合物を調製した。そのモノマー混合物を、温度77~88℃の還流下で2時間かけて前記系内に滴下し、そのまま前記温度で加熱および攪拌を継続して重合反応を行った。前記モノマー混合物を前記系内に全量添加してから1.5時間後および3.0時間後に、それぞれ、酢酸エチル9質量部に2,2′-アゾビスイソブチロニトリル0.25質量部を添加した混合溶液を、追加重合開始剤として系内に添加した。そして、前記モノマー混合物の全量添加から5時間後まで還流下で重合反応を継続した。重合反応終了後、酢酸エチルにて希釈し、固形分45質量%のアクリレートポリマー(共重合体(A))溶液を得た。
【0049】
前記のようにして製造したアクリレートポリマー(共重合体(A))溶液100質量部に対してエポキシ系架橋剤(架橋剤(B)、三菱ガス化学株式会社製、商品名「テトラッド-C」)0.027質量部を混合し、本実施例のフィルム用粘着剤を製造した。
【0050】
(粘着シートの製造)
本実施例のフィルム用粘着剤(前記共重合体(A)溶液に前記架橋剤(B)を混合したもの)を、表面が離型処理されたフィルム(剥離ライナー、リンテック株式会社製、商品名「SP-8E」)の離型処理面上に、乾燥後の厚さが約25μmとなるように塗工し、100℃で2分間乾燥させた。乾燥後、前記フィルム用粘着剤側に、ポリ塩化ビニルフィルム(フィルム製基材、タツノ化学株式会社製、商品名「Nクリア28PHR」、厚み:100μm)をラミネートし、40℃で2日エージングを行うことで、本実施例の粘着シートを得た。
【0051】
[実施例2~7、比較例1~6]
各成分の種類および配合比率を下記表1または表2に記載のとおりに変更したこと以外は実施例1と同様にしてフィルム用粘着剤および粘着シートを製造した。
【0052】
前記各実施例および比較例で製造したフィルム用粘着剤および粘着シートについて、初期接着力、加熱保存後接着力、接着力維持率および共重合体(A)の重量平均分子量を、下記の方法で測定した。測定結果は、下記表1および表2にまとめて示す。
【0053】
(初期接着力)
前記各実施例および比較例で製造した粘着シートを20mm×60mmに切り出し、これを試験片とした。前記試験片から前記剥離ライナー(離型フィルム)を剥がし、SUS板に23℃、相対湿度50%の雰囲気下にて2kgゴムローラー2往復で加圧貼付した。これを同雰囲気下で60分放置した後、剥離速度300mm/minで180度剥離強度(N/20mm)を測定した。この測定値を初期接着力とした。
【0054】
(加熱保存後接着力)
前記各実施例および比較例で製造した粘着シートを20mm×60mmに切り出し、これを試験片とした。その試験片を80℃下で7日間保存した。その後、23℃、相対湿度50%の雰囲気下にて60分放置し、前記剥離ライナーを剥がした後、SUS板に同雰囲気下にて2kgゴムローラー2往復で加圧貼付した。そして、同雰囲気下で60分放置した後、剥離速度300mm/minで180度剥離強度(N/20mm)を測定した。この測定値を加熱保存後接着力(80℃×7日保存後接着力)とした。
【0055】
(接着力維持率)
前記のとおり測定した初期接着力および加熱保存後接着力(80℃×7日保存後接着力)に基づき、下記数式により接着力維持率を算出した。下記接着力維持率の数値が大きいほど、接着力の経時的低下が抑制されていることの指標となる。前記各実施例および比較例のうち、下記接着力維持率が50%以上のものを合格(○)と判定し、50%未満のものを不合格(×)と判定した。
接着力維持率=[加熱保存後接着力/初期接着力]×100(%)
【0056】
(分子量測定方法)
アクリルポリマー溶液をテトラヒドロフランで固形分が0.3wt%になるように調整し、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて以下の条件で分子量を測定した。
・GPC :e2695 Separation Module(Waters社製)
・カラム :HSPgel column(Waters社製)
・移動相溶媒:テトラヒドロフラン
・流速 :0.3ml/min
・カラム温度:40℃
【0057】
なお、下記表1および表2中の略号の意味は、下記のとおりである。
BA ブチルアクリレート
AA アクリル酸
2EHA 2-エチルヘキシルアクリレート
n-OA n-オクチルアクリレート
MMA メチルメタクリレート
HEMA 2-ヒドロキシエチルメタクリレート
VAc 酢酸ビニル
MA アクリル酸メチル
T-C 三菱ガス化学株式会社製、商品名「テトラッド-C」
L-45E 東ソー株式会社製、商品名「コロネートL-45E」
ハリタックSE-10 ハリマ化成グループ株式会社製の粘着付与剤(粘着付与樹脂)の商品名
ハリタックFK-125 ハリマ化成グループ株式会社製の粘着付与剤(粘着付与樹脂)の商品名
【0058】
【0059】
【0060】
前記表1に示すとおり、実施例1~7の粘着剤は、全て、成分(a)~(c)を共重合させた共重合体(A)を含む。なお、実施例1~7の粘着剤においては、共重合体(A)は、成分(a)~(c)に加え、さらに成分(d)を共重合させている。また、実施例1~7の粘着剤は、さらに架橋剤(B)を含む。
【0061】
前記表1に示すとおり、実施例1~7の粘着剤は、いずれも、初期接着力が高く、かつ、接着力の経時的低下が抑制されていた。
【0062】
前記表2に示すとおり、比較例1の粘着剤は、成分(a)を用いず、これに代えて成分(a’)としてブチルアクリレート(炭素数4のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステル)を用いた。比較例2の粘着剤は、成分(b)の質量が成分(a)の6分の1未満で、本発明における成分(a)および成分(b)の質量比の条件を満たしていなかった。比較例3の粘着剤は、成分(b)の質量が成分(a)の2分の1を超えており、これも、本発明における成分(a)および成分(b)の質量比の条件を満たしていなかった。比較例4の粘着剤は、成分(b)を用いず、これに代えて成分(b’)としてアクリル酸メチルを用いた。比較例5の粘着剤は、共重合体(A)の重量平均分子量が8万と低く、本発明の条件を満たしていなかった。比較例6の粘着剤は、共重合体(A)の重量平均分子量が40万を超えており、これも、本発明の条件を満たしていなかった。
【0063】
比較例1、2、4および6は、いずれも、接着力の経時的低下が大きかった。比較例3は、接着力維持率が64%で、接着力の経時的低下については合格と判定されたものの、初期接着力が実施例と比較してきわめて低かった。また、比較例5については、粘着剤が皮膜化できず(硬化せず)、接着力の測定自体ができなかった。