(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】リチウムイオン型蓄電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/058 20100101AFI20220907BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20220907BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20220907BHJP
H01M 4/1397 20100101ALI20220907BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20220907BHJP
H01M 4/40 20060101ALI20220907BHJP
H01M 4/485 20100101ALI20220907BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20220907BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20220907BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220907BHJP
H01M 10/0525 20100101ALN20220907BHJP
【FI】
H01M10/058
H01M4/139
H01M4/1391
H01M4/1397
H01M4/38 Z
H01M4/40
H01M4/485
H01M4/58
H01M4/587
H01M10/052
H01M10/0525
(21)【出願番号】P 2018520562
(86)(22)【出願日】2016-10-19
(86)【国際出願番号】 EP2016075114
(87)【国際公開番号】W WO2017067996
(87)【国際公開日】2017-04-27
【審査請求日】2019-10-10
(32)【優先日】2015-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】513233506
【氏名又は名称】ルノー
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レイニー,イヴァン
(72)【発明者】
【氏名】チャキ,モアメ
(72)【発明者】
【氏名】デロベ,ブルーノ
(72)【発明者】
【氏名】マッセ,フロレンス
【審査官】井原 純
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104037418(CN,A)
【文献】特開2006-173001(JP,A)
【文献】特表2013-529830(JP,A)
【文献】特開2011-090876(JP,A)
【文献】特開2011-165343(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03121874(EP,A1)
【文献】特表2018-531497(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587,10/36-10/39
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質の両側に配置された正極及び負極を備えたリチウムイオン蓄電池の製造方法であって、前記正極がリチウム系材料を活物質として含み、以下の工程を含む方法:
a)正極を蓄電池に配置する前に、正極の表面にリチウム塩を沈着させる沈着工程;
b)正極、負極及び電解質を組立てる工程;及び、
c)前述の工程の組立て品に最初の充電を行うことによって、正極の内部構造が破壊されることなく、正極の表面に沈着したリチウム塩が分解されて生じるリチウムイオンを用いて負極の表面上に不動態層を形成する工程であって、不動態層の形成後には過剰な塩が正極に存在することがない工程。
【請求項2】
沈着工程が、正極上にリチウム塩を含む組成物を沈着させることからなるインクジェット技術を用いて行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
リチウム塩が以下を含む組成物を用いて沈着される、請求項1又は2に記載の方法:
-リチウム塩;
-導電性炭素添加剤;
-高分子バインダー;及び、
-有機溶媒。
【請求項4】
リチウム塩が以下から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法:
-式N
3A(式中、Aはリチウムカチオンに相当する)のアジ化リチウム;
-ケトカルボン酸リチウム;
-リチウムヒドラジド;
【請求項5】
前記ケトカルボン酸リチウムが、下記式(II)~(IV)で表される、請求項4に記載の方法:
【化1】
(式中、Aはリチウムカチオンに相当する。)。
【請求項6】
前記リチウムヒドラジドが、下記式(V)~(VI)で表される、請求項4に記載の方法:
【化2】
(式中、Aはリチウムカチオンに相当し、nは括弧内の繰り返しパターンの数に相当し、この繰り返し数は3~1000の範囲とすることができる。)。
【請求項7】
リチウム塩が、シュウ酸リチウムとも呼ばれる式(II)のケトカルボン酸リチウムである、請求項
5に記載の方法。
【請求項8】
正極が、活物質として、少なくとも1種の遷移金属元素を含むリチウム化酸化物系材料、又は、少なくとも1種の遷移金属元素を含むリチウム化リン酸塩系材料を含む、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
正極が、活物質として、LiFePO
4を含む、請求項1~
8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
負極が活物質として以下を含む、請求項1~
9のいずれか一項に記載の方法:
-炭素材料;
-金属リチウム若しくはリチウム合金;又は、
-混合酸化リチウム。
【請求項11】
炭素材料が、硬質炭素又は黒鉛である、請求項
10に記載の方法。
【請求項12】
リチウム合金が、ケイ素・リチウム合金又はスズ・リチウム合金である、請求項8又は9に記載の方法。
【請求項13】
混合酸化リチウムが、Li
4Ti
5O
12又はLiTiO
2である、請求項
10~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
負極が活物質として黒鉛を含む、請求項1~
13のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン型蓄電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
このタイプの蓄電池は、特に携帯電子機器(例えば、携帯電話、ポータブルコンピュータ、工具など)における自律型エネルギー源として使用されることが意図されており、徐々に、ニッケルカドミウム(NiCd)蓄電池及びニッケル水素(NiMH)蓄電池と置き換わっている。これらはまたチップカード、センサー又はその他の電気機械的システムなどの新しいマイクロアプリケーションに必要なエネルギーを供給するために使用することができる。
【0003】
それらの動作に関して、リチウムイオン型蓄電池は、下記事項に準じたリチウムイオンの挿入・脱離原理に従って、動作する。
【0004】
蓄電池の放電中、イオンLi+の形態で負極から脱離したリチウムは、イオン伝導性電解質を通って移動し、正極の活物質の結晶ネットワーク内に挿入される。蓄電池の内部回路内を通過する各Li+イオンは、その電流を生成する外部回路内を通過する電子によって正確に相殺される。
【0005】
一方、蓄電池の充電中、蓄電池内で起こる反応は、放電の逆反応である。すなわち:
-負極は、それを含む挿入材料のネットワークにリチウムを挿入し;
-正極は、負極の挿入材料に挿入されるリチウムを放出する。
【0006】
蓄電池の最初の充電サイクルの間に、負極の活物質がリチウムの挿入電位に達すると、リチウムの一部は負極の活物質の粒子の表面上の電解質と反応し、その表面に不動態層を形成する。反応したリチウムイオンは、その後の充放電サイクルにはもう利用できないために、この不動態層の形成は無視できない量のリチウムイオンを消費する。これは蓄電池の容量における不可逆的な損失(この損失は不可逆容量と判断され、正極の初期容量の約5~20%と見積もることができる)によって現れる。
【0007】
この損失は、蓄電池のエネルギー密度ができる限り高くなるように、最初の充電の間、できる限り最小限に抑える必要がある。
【0008】
これを行うために、先行技術において、上記欠点を克服するために2つのタイプの技術が提案されている:
-負極の前リチウム化(prelithiation)技術;又は、
-正極の過リチウム化(overlithiation)技術。
【0009】
負極の前リチウム化技術に関しては、以下を挙げることができる:
-「in situ」と呼ばれる技術であり、金属シートの形態(特許文献1に記載)又は保護層によって安定化されたリチウム金属粉末の形態(非特許文献1に記載)のリチウム金属(すなわち「0」の酸化度)を、負極成分(すなわち、活物質、電子伝導体及び有機バインダー)を含むインクと混合し、負極上に沈着させることから成り、腐食現象のために自然に維持される代替物とは無関係に、リチウムの挿入が行われる;
-「ex situ」と呼ばれる技術であり、後者(負極)を電解浴及びリチウムを含む対電極を備えるセットアップに配置することによって、負極を電気化学的に前リチウム化することからなる。これらの技術は負極に導入されるリチウムの量を制御することができるが、しかしながら、複雑な実験のセットアップの実施を必要とするという欠点を有する。
【0010】
また従来の技術では、正極の過リチウム化のための技術、特に、最初の充電の間に分解して必要量のLiを供給する犠牲塩(sacrificial salt)を正極を構成する成分を含む組成物に添加することによって負極の表面に不動態層を形成する技術が提案されている。
【0011】
これらの技術では、犠牲塩は最初の充電の間に正極を掃引する電位窓内に位置する電位において分解可能であるべきことに留意すべきである。
【0012】
また最初の充電が行われるとき、2つの電気化学反応が同時に起こり、Li+イオンが生成される。これは正極からのリチウムの脱離及び犠牲塩の分解である。犠牲塩の分解の間、特にガス状の副生成物が形成され充電工程の終わりに除去される。実際、これらの副産物によって蓄電池への負担が不必要に増大することは、このように防止される。これはその後のセルの電気化学的操作をさらに妨害する可能性がある。
【0013】
これらの技術は、特に特許文献2に記載されている。そこでは、犠牲塩が、正極の成分、すなわち、活物質、電子伝導体、有機バインダーを含むインク中に直接導入され、そして該インクが集電体基板上に沈着して正極を形成し、それによって犠牲塩が正極内にランダムに分布することが記載されている。
【0014】
充電の間、犠牲塩は分解して特にガスを生成する。この分解は正極の空隙形成の発端となる。空隙率の数パーセントの変動は内部抵抗を著しく増加させる。これは素子の耐用年数に弊害をもたらす。また、電極の最小空隙率が、その製造中(特に、カレンダー加工の工程中)に、それが順番に支えなければならない機械的ストレスによって制限されることを考えると、最初の充電が塩の分解を引き起こした後、蓄電池の動作にとって好ましくない範囲内の空隙率となる可能性がある。
【0015】
例えば、活物質としてLiFePO4と5重量%のシュウ酸リチウムとを含み、35%の空隙率を有する正極では、活物質としてケイ素/黒鉛複合体を含む負極を用いて5Vでサイクルさせた結果、空隙率が42%の電極と同等の値に抵抗値が増加する。このことは、最初の5%のシュウ酸リチウムのガスの除去によって説明することができる。平均密度が3.2g/cm3の電極と比較して塩の密度が2.2g/cm3であるために、それは電極の7%の体積を占める。
【0016】
要約すると、これらの技術は、犠牲塩の分解がいくつかの現象を生じさせる可能性があるため、いくつかの欠点を有する:
-電極の空隙率の増加に寄与する塩の分解に起因する、電極のコアにおけるデッドボリュームの出現;及び、
-活物質を使用不可能とし、蓄電池の容量の損失を誘発する、電極の特定部分の電子的分離。
【0017】
また上記に照らして、本発明者らは、上記の欠点を克服することを可能にするリチウムイオン型蓄電池の製造方法の開発を目的とした。そして、特に、リチウムイオン蓄電池の容量、ひいてはそのエネルギー密度及び蓄電池のサイクル性を高めることを可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【文献】国際公開第1997/031401号
【文献】仏国特許出願公開第2961634号明細書
【非特許文献】
【0019】
【文献】Electrochemistry Communications 13(2011)664-667
【発明の概要】
【0020】
従って、本発明は電解質の両側に配置された正極及び負極を備えたリチウムイオン蓄電池の製造方法に関する。前記正極はリチウム系材料を活物質として含む。前記方法は、以下の工程を含む:
a)正極を蓄電池に配置する前に、正極の表面にリチウム塩を沈着させる工程;
b)正極、負極及び電解質を組立てる工程;及び、
c)前述の工程の組立て品に最初の充電を行うことによって、リチウム塩の分解から生じるリチウムイオンを用いて負極の表面上に不動態層を形成する工程。
【0021】
換言すると、最初の充電はリチウム塩の分解に必要な電位条件で行われ、この分解はリチウムイオンの放出をもたらし、負極表面上の不動態層の形成に寄与する。リチウム塩は不動態層の形成に必要なリチウムイオンを提供するという事実により、この塩は「犠牲塩」とみなすことができる。
【0022】
また、不動態層の形成に必要なリチウムイオンは正極の活物質に由来するものではない。従って、正極の活物質のリチウムイオンは、最初の充電の間にこの層を形成するために失われることなく、従って蓄電池の容量の損失はより少なく、ゼロでさえある。
【0023】
最後に、リチウム塩を正極の前駆体組成物に添加する従来技術とは対照的に、正極の表面にリチウム塩を適用することは、いくつかの利点を満たす。
【0024】
実際には、まず一つは、最初の充電の終わりに、正極の内部構造が破壊されることなくリチウム塩を含む層が完全に分解されて負極上の不動態層の形成に必要なLi+イオンが提供される。後者を用いると、最初の充電の終わりに従来の電極と同様の構造組織を有し、特に、デッドボリュームや活物質の損失が現れることがない。リチウム塩は電極の表面上にあるため、電極の本質的な空隙率に変化はない。
【0025】
また一方では、電極の構造中で塩粒子の配置の制御が不可能であるために、犠牲塩が正極の前駆体組成物に直接導入され、不動態層の形成に必要な量より多量の塩を含む必要がある従来の技術の実施形態とは対照的に、本発明の方法は、正極の表面に直接配置された専ら負極上に不動態層を形成するのに十分な量のリチウム塩によって利用可能性を与える。従って、この場合、不動態層の形成後には過剰な塩が正極に存在することはない。そして、不要な物質は後者に存在する。
【0026】
上述のように、本発明の方法は、負極と電解質とを備えた組立て品に配置する前に、正極を処理する工程を含む。該処理は、組立て品の最初の充電の間の不動態層の形成に関与することを目的とするリチウム塩を正極上に(有利には、少なくとも電解質と接触させる面に)沈着させることからなる。
【0027】
この沈着工程は、特に、リチウム塩を含む組成物を正極上に噴霧することからなるインクジェット技術によって行うことができる。前記組成物はノズルを用いて噴霧することができる。
【0028】
この沈着工程は、正極の表面上にリチウム塩を含む組成物をコーティングすることによっても実施できる。
【0029】
特に、沈着工程は以下を含む組成物を用いて行うことができる:
-リチウム塩;
-カーボンブラックなどの導電性炭素添加剤;
-フッ化ポリビニリデンなどのフッ素化ポリマー系を用いたバインダーなどの高分子バインダー;及び、
-有機溶媒、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶媒などの非プロトン性極性溶媒。
【0030】
有利には、リチウム塩は、リチウムカチオンで酸化可能なアニオンを有する。
【0031】
リチウム塩の例として、以下のカテゴリーに属する塩を挙げることができる:
-式N3A(式中、Aはリチウムカチオンに相当する)のアジ化リチウム;
-例えば、下記式(II)~(IV)で表される、ケトカルボン酸リチウム;
【0032】
【0033】
(式中、Aはリチウムカチオンに相当する。)
-例えば、下記式(V)~(VI)で表される、リチウムヒドラジド:
【0034】
【0035】
(式中、Aはリチウムカチオンに相当し、nは括弧内の繰り返しパターンの数に相当し、この繰り返し数は3~1000の範囲とすることができる。)
【0036】
有利には、これはシュウ酸リチウムに相当する式(II)のリチウム塩であってもよい。
【0037】
その上にリチウム塩が沈着する正極は、リチウム系材料を活物質として含む。蓄電池の動作中に充放電プロセスが起こり得るように、該材料はリチウムの挿入材料の機能を果たし、可逆的でもある。
【0038】
上記及び下記のように、実際に正極は、通常、発電機が電流を供給しているとき(すなわち、放電プロセスにあるとき)にカソードとして作用し、発電機が充電プロセスにあるときにアノードとして作用する電極である。
【0039】
正極活物質は、少なくとも1種の遷移金属元素を含むリチウム化酸化物系(lithiated oxide type)材料、又は、少なくとも1種の遷移金属元素を含むリチウム化リン酸塩系(lithiated phosphate type)材料であってもよい。
【0040】
少なくとも1種の遷移金属元素を含むリチウム化酸化物化合物の例としては、少なくとも1種の遷移金属元素を含む単純酸化物又は混合酸化物(すなわち、いくつかの異なる遷移金属元素を含む酸化物)、例えばニッケル、コバルト、マンガン及び/又はアルミニウム(これらの酸化物は混合酸化物とすることができる)を含む酸化物を挙げることができる。
【0041】
より具体的には、ニッケル、コバルト、マンガン及び/又はアルミニウムを含む混合酸化物として、下記式(VII)の化合物を挙げることができる:
【0042】
【0043】
(式中、M2は、Ni、Co、Mn、Al及びこれらの混合物から選択される元素である。)
【0044】
このような酸化物の例としては、リチウム化酸化物LiCoO2,LiNiO2及び混合酸化物Li(Ni,Co,Mn)O2(例えば、NMCの名称でも知られるLi(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O2など)、リチウムに富む酸化物Li1+x(Ni,Co,Mn)O2,Li(Ni,Co,Al)O2(例えば、NCAの名称でも知られるLi(Ni0,8Co0,15Al0,05)O2など)又はLi(Ni,Co,Mn,Al)O2を挙げることができる。
【0045】
少なくとも1種の遷移金属元素を含むリチウム化リン酸塩化合物の例としては、式LiM1PO4(式中、M1はFe,Mn,Co及びそれらの混合物から選択される、例えばLiFePO4)の化合物を挙げることができる。
【0046】
上で定義したものなどの活物質の存在に加えて、正極は、フッ化ポリビニリデン(PVDF)やスチレン及び/又はブタジエン系のラテックスとカルボキシメチルセルロースとの混合物などの高分子バインダー、並びに、カーボンブラックなどの炭素材料とすることができる1種又は数種の導電性アジュバントを含むことができる。
【0047】
従って構造的な観点からは、正極は、高分子バインダーを有するマトリックスを含む複合材料の形態とすることができる。ここでは、活物質からなる電荷と、場合により導電性アジュバントが分散されており、前記複合材料は、集電体上に沈着することができる。
【0048】
一旦、正極はリチウム塩で処理され、リチウムイオン蓄電池の電気化学セルを形成するように負極及び電解質と共に組み立てられる。
【0049】
ここで、負極という用語は、通常、上記及び下記のように、発電機が電流を供給しているとき(すなわち、放電プロセスにあるとき)にアノードとして作用し、発電機が充電プロセスにあるときにカソードとして作用する電極を意味する。
【0050】
通常、負極は、電極活物質として可逆的にリチウムを挿入できる材料を含む。
【0051】
特に、負極活物質としては以下を挙げることができる:
-硬質炭素、天然若しくは人造黒鉛などの炭素材料;
-金属リチウム若しくはケイ素・リチウム合金、スズ・リチウム合金などのリチウム合金;又は、
-Li4Ti5O12若しくはLiTiO2などの混合酸化リチウム。
【0052】
さらに、正極の場合と同様に、特に金属リチウム製又はリチウム合金製ではない場合、負極はフッ化ポリビニリデン(PVDF)やスチレン及び/又はブタジエン系のラテックスとカルボキシメチルセルロースとの混合物などの高分子バインダー、並びに、カーボンブラックなどの炭素材料とすることができる1種又は数種の導電性アジュバントを含むことができる。また負極は、正極と同様に構造的な観点から、高分子バインダーを有するマトリックスを含む複合材料とすることができる。ここでは、活物質からなる電荷(例えば、粒状)と場合により導電性アジュバントが分散されており、前記複合材料は、集電体上に沈着することができる。
【0053】
正極と負極との間に配置された電解質は、リチウムイオン伝導性の電解質であり、特に下記とすることができる:
-非プロトン性無極性溶媒などの少なくとも1種の有機溶媒に溶解したリチウム塩を含む液体電解質;
-イオン性液体;又は、
-固体ポリマー電解質。
【0054】
リチウム塩の例としては、LiClO4,LiAsF6,LiPF6,LiBF4,LiRfSO3,LiCH3SO3,LiN(RfSO2)2(Rfは、F又は1~8個の炭素原子を含むペルフルオロアルキル基である)、リチウムトリフルオロメタンスルホニルイミド(LiTfSIの略称で知られる)、ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム(LiBOBの略称で知られる)、リチウムビス(ペルフルオロエチルスルホニル)イミド(LiBETIの略称でも知られる)、フルオロアルキルリン酸リチウム(LiFAPの略称で知られる)を挙げることができる。
【0055】
上記電解質の構成に用いることができる有機溶媒の例としては、環状カーボネート溶媒、鎖状カーボネート溶媒及びそれらの混合物などのカーボネート溶媒を挙げることができる。
【0056】
環状カーボネート溶媒の例としては、エチレンカーボネート(略称ECで表す)、プロピレンカーボネート(略称PCで表す)を挙げることができる。
【0057】
鎖状カーボネート溶媒の例としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート(略称DECで表す)、ジメチルカーボネート(略称DMCで表す)、エチルメチルカーボネート(略称EMCで表す)を挙げることができる。
【0058】
さらに電解質は、蓄電池の2つの電極の間に配置されたセパレータ素子、例えば多孔質ポリマーのセパレータ素子を浸漬して提供することができる。
【0059】
本発明では、このようにして得られた組立て品は、次に正極の表面に沈着したリチウム塩の分解に必要な電位条件で最初の充電の工程にかけられ、不動態層の形成に関与するリチウムイオンの放出によって分解は実現する。
【0060】
また実用的な観点から、リチウム塩は最初の充電の間に正極を掃引する電位窓の範囲内で分解可能であるべきことが理解される。
【0061】
このように、最初の充電が実施される間、蓄電池が充電されること以外にリチウム塩の分解反応も結果として起こる。この反応の間に、リチウム塩はさらにリチウムイオンを生成し、これは電解質中を通過して後者と反応して負極の活物質の粒子上に不動態層を形成する。
【0062】
リチウムイオンの放出に加えて、塩の分解は少量の気体化合物の生成をもたらす。後者は電解質中に可溶性であり、必要に応じて、脱ガスの工程中に除去することができる。
【0063】
本発明の他の特徴及び利点は、特定の実施形態に関する以下の説明の補足に示される。
【0064】
当然に、該説明の補足は、本発明の例示のためにのみ提供されており、決して本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【
図1】
図1は、実施例2の第1の蓄電池及び第2の蓄電池のサイクル数Nによる放電容量C(Ah)の変化を示す曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0066】
実施例1
この実施例は、正極が予めリチウム塩を含む層で被覆されている、本発明に従ったリチウムイオン蓄電池(第1の蓄電池という)と、本発明に従っていないリチウムイオン蓄電池(第2の蓄電池という)の作製を示す。
【0067】
この第1の蓄電池については、正極は、厚さ20μmのアルミニウム1085で作製された集電体上に、90重量%のLiFePO4、5重量%のカーボンブラック系(Super P TIMCAL)の電子伝導体、及び、NMP中に分散した5重量%のポリフッ化ビニリデン系の高分子バインダー(供給業者Solvayから入手)を含むインクを塗布して得られる。
【0068】
次いで、溶媒を蒸発させる乾燥オーブン内に、被覆した電極を通過させる。集電体上に厚さ140μm、19mg/cm2の層が得られる。
【0069】
次いで、正極の電解質と接触させる面に、87重量%のシュウ酸リチウム(供給業者Aldrichから入手)、10重量%のカーボンブラック系(Super P TIMCAL)の電子伝導体、及び、3重量%のポリフッ化ビニリデン系の高分子バインダー(NMP中に溶解)を含むインクを沈着して正極を処理し、1.8mg/cm2のシュウ酸リチウムを沈着させた後、乾燥して溶媒を蒸発させる。
【0070】
結果物を直径14mmの錠剤型に切断し、環状電極を形成する。次いで、プレスを用いてこれらの電極をカレンダー加工し、それらの空隙率を減少させ、約35%の空隙率とする。
【0071】
正極をこのように一旦処理し、電解液で浸漬した厚さ25μmのポリプロピレン製セパレータ(Celgard 2500)の両面に金属リチウムからなる負極と共に配置する。電解液は、カーボネート溶媒(エチレンカーボネート/ジメチルカーボネート/エチル及びメチルカーボネート 体積比1:1:1)とリチウム塩LiPF6(1mol/L)の混合物を含む。これにより、CR2032ボタン蓄電池型の電気化学セルが得られる。
【0072】
第2の蓄電池については、第1の蓄電池がシュウ酸リチウムを含むインクで正極が表面処理されてさえいなければ、同様に後者は作製される。
【0073】
第1の蓄電池及び第2の蓄電池は、10時間の充電に相当するC/10の速度で電気的形成(electrical formation)に供した。
【0074】
5Vまでに達する最初の充電の終わりには、第1の蓄電池の容量は5.3mAhと評価され、一方、第2の蓄電池の容量は4.6mAhと評価された。0.7mAhの差は、追加のリチウムイオンを放出する、電極の表面に沈着した層のシュウ酸リチウムの酸化に帰因すると考えられる。
【0075】
実施例2
この実施例は、正極が予めリチウム塩を含む層で被覆されている、本発明に従ったリチウムイオン蓄電池(第1の蓄電池という)と、本発明に従っていないリチウムイオン蓄電池(第2の蓄電池という)の作製を示す。
【0076】
蓄電池の調製は、第1の蓄電池、第2の蓄電池に関わらず、負極が活物質として黒鉛を含む電極としたこと以外は、実施例1に提示されたものと同様である。
【0077】
この電極は、通常、インクを用いた転写によって被覆される。インクは、96質量%の活物質(Timcal SLP30)、2質量%のカルボキシメチルセルロース(Aldrich)、及び、脱イオン水に分散した2質量%のスチレンブタジエンラテックス(BASF)を含む。
【0078】
第1の蓄電池と第2の蓄電池は、最初の充電の終わりの容量と、該最初の充電の後の放電容量を測定する方法で、2.5Vと5Vの間のC/10の速度の電気的形成に供される。
【0079】
5Vまでに達する最初の充電の終わりには、第1の蓄電池の容量は5.3mAhと評価され、第2の蓄電池の容量は5mAhと評価された。一方、放電容量は、第1の蓄電池では3.9mAhと評価され、第2の蓄電池では3.6mAhと評価された。これはシュウ酸リチウムを含む層の付加による8%のゲインに相当する。
【0080】
また、第1の蓄電池と第2の蓄電池を周囲温度で、2~3.6VのC/2の速度で、50回の充放電サイクル含むサイクルに供することからなる試験も行われる。
【0081】
各サイクルの終わりに、蓄電池の放電容量(Ahで表す)が測定され、その容量値を
図1に記した。
図1は、サイクル数Nによる放電容量C(Ah)の変化を示す。第1の蓄電池と第2の蓄電池の結果は、それぞれ曲線a)及びb)で示される。
【0082】
この結果、
図1から、第1の蓄電池が最良の結果を有することが分かる。これは、最初の充電の間に、不動態層は、電極の表面上に付加されたリチウム塩の分解に由来するリチウムイオンを使用して形成され、活物質及び/又は電極材料のコア由来のリチウムイオンでは形成されないという事実により説明することができる。