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特許7137495蓄熱材の使用方法、蓄熱材容器、及び蓄熱材組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】蓄熱材の使用方法、蓄熱材容器、及び蓄熱材組成物
(51)【国際特許分類】
   F28D 20/00 20060101AFI20220907BHJP
   C09K 5/06 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
F28D20/00 G
C09K5/06 E
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019033506
(22)【出願日】2019-02-27
(65)【公開番号】P2020139643
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-06-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000221834
【氏名又は名称】東邦瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 洸平
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/147199(WO,A1)
【文献】特開2019-011465(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0219402(US,A1)
【文献】特開2018-059016(JP,A)
【文献】特開2017-015309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 20/00 - 20/02
C09K 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一種以上の無機塩水和物を含むミョウバン水和物に蓄熱し、蓄えた熱を放出して使用するにあたり、
放熱と共に、前記ミョウバン水和物を生成させるための基材を準備する第一工程と、前記基材より前記ミョウバン水和物を生成させる第二工程と、を有し、
前記第一工程では、前記ミョウバン水和物を蓄熱時に、室温を超える温度で加熱することにより、前記ミョウバン水和物に含有する12水和水に対し、少なくとも1以上の水和数に相当する水分を系外に脱離して欠落させ、前記水分の量に相当する重量が減少した状態のミョウバン水分欠落物を、前記基材として生成すること、
前記第二工程では、放熱時に、前記ミョウバン水分欠落物への加水を経て、前記ミョウバン水和物を生成すること、
前記加水では、潮解性を有する反応助剤と混ぜ合わせた状態にある前記ミョウバン水分欠落物に直接、水蒸気を晒すこと、
前記反応助剤により、前記水蒸気を、前記ミョウバン水分欠落物に吸収させて水和反応を促進することにより、前記ミョウバン水和物は生成されること、
を特徴とする蓄熱材の使用方法。
【請求項2】
請求項1に記載する蓄熱材の使用方法において、
前記反応助剤は、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、または塩化マグネシウム(MgCl)のうち、少なくとも何れかに該当する物質であること、
を特徴とする蓄熱材の使用方法。
【請求項3】
請求項2に記載する蓄熱材の使用方法において、
前記反応助剤は、前記ミョウバン水和物と前記反応助剤とによる蓄熱材組成物全体に占める重量比で、少なくとも10wt%以上を満たす割合で添加されていること、
を特徴とする蓄熱材の使用方法。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載する蓄熱材の使用方法において、
前記ミョウバン水分欠落物の生成にあたり、前記ミョウバン水和物を加熱する温度は、250℃以上であること、
を特徴とする蓄熱材の使用方法。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のいずれか1つに記載する蓄熱材の使用方法において、
前記第一工程で用いる前記基材は、既製品のミョウバン無水物であること、
を特徴とする蓄熱材の使用方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載する蓄熱材の使用方法において、
前記ミョウバン水和物は、アンモニウムミョウバン十二水和物(AlNH(SO・12HO)、または、カリウムミョウバン十二水和物(AlK(SO・12HO)の少なくともいずれか一方であること、
を特徴とする蓄熱材の使用方法。
【請求項7】
熱の出入りを利用して蓄熱またはその放熱を行う蓄熱材を、充填して収容するための蓄熱材容器において、
前記蓄熱材を収容する内部空間に、水または水蒸気を外部から供給するための取水口として、閉蓋可能に形成された取水手段と、
前記内部空間の圧力を制御する圧力調整弁と、を備え、
前記圧力調整弁は、前記内部空間から前記蓄熱材の流出を遮断すると共に、前記内部空間の内外で液体の流通を遮断する一方で、前記内部空間から気体の流出を許容する弁体部を有していること、
前記蓄熱材は、請求項1乃至請求項6のいずれか1つに記載する蓄熱材の使用方法で用いる前記基材から生成される前記ミョウバン水和物を、少なくとも含むものであること、
を特徴とする蓄熱材容器。
【請求項8】
水和反応に伴う反応熱の出入りを利用して蓄熱またはその放熱を行う蓄熱材と、該蓄熱材の物性を調整する添加剤とを配合してなる蓄熱材組成物において、
前記添加剤は、潮解性を有する反応助剤であること、
前記蓄熱材は、その蓄熱状態において、一種以上の無機塩水和物を含むミョウバン水和物に含有する12水和水のうち、少なくとも1以上の水和数に相当する水分に対し、系外への脱離により欠落していることに伴い、前記水分の量に相当する重量が減少した状態にあるミョウバン水分欠落物、または一種以上の無機塩無水物を含むミョウバン無水物のいずれかとする基材からなり、水蒸気との水和反応により、反応熱を放熱する機能を持つ物質であり、
前記反応助剤は、前記蓄熱材である前記ミョウバン水和物の生成にあたり、前記水蒸気を前記基材に吸収させて、前記基材と前記水蒸気との水和反応を促進させる役割りを担う物質であること、
を特徴とする蓄熱材組成物。
【請求項9】
請求項8に記載する蓄熱材組成物において、
前記反応助剤は、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、または塩化マグネシウム(MgCl)のうち、少なくとも何れかに該当する物質であること、
を特徴とする蓄熱材組成物。
【請求項10】
請求項9に記載する蓄熱材組成物において、
当該蓄熱材組成物全体の重量に占める前記反応助剤の配合比率は、少なくとも10wt%以上であること、
を特徴とする蓄熱材組成物。
【請求項11】
請求項8乃至請求項10のいずれか1つに記載する蓄熱材組成物において、
前記ミョウバン水和物は、アンモニウムミョウバン十二水和物(AlNH(SO・12HO)、またはカリウムミョウバン十二水和物(AlK(SO・12HO)の少なくともいずれか一方であること、あるいは、
前記ミョウバン無水物は、アンモニウムミョウバン無水物(AlNH(SO)、またはカリウムミョウバン無水物(AlK(SO)の少なくともいずれか一方であること、
を特徴とする蓄熱材組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱材に蓄えた熱を、必要時に放出させて使用する蓄熱材の使用方法と、この使用方法下で蓄熱材を収容するための蓄熱材容器と、この使用方法の対象となる蓄熱材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潜熱蓄熱材(PCM:Phase Change Material)は、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱することができる物性を有しており、本来廃棄される排熱をこの蓄熱材に蓄熱し、蓄えた熱を必要に応じて取り出すことで、エネルギが無駄なく有効に活用できる。蓄熱材の一例として、ミョウバン水和物の一種であるアンモニウムミョウバン十二水和物(AlNH(SO・12HO)(アンモニウムミョウバン)は、広く知られている。アンモニウムミョウバンの物性は、融点93.5℃で、融点を超えた高い温度帯域では、液体(融液)であり、排熱に基づき、潜熱を蓄えることができる一方で、融点より低い温度帯域になると、融液状態から凝固して固体状態になり、蓄えていた潜熱を放熱することができる。そのため、蓄熱材は、蓄熱時と時間差を有しても、放熱される潜熱を利用することができる。
【0003】
ところで、特許文献1には、肌に塗布して使用する温熱感シートが、開示されている。この温熱感シートは、塩化マグネシウムや、乾燥ミョウバン等からなる粉末状の水和発熱物質のほかに、保湿剤等を含んでおり、温熱感シートに水を含有させてから、温熱感シートを摩擦すると、水和発熱物質の発熱により、温熱効果を生じることが記載されている。すなわち、ミョウバンを活用して蓄熱とその放熱を行う手段には、前述したように、融解・凝固に伴う潜熱の出入りを利用する方法と、特許文献1のように、水和水の脱着に伴う水和熱の出入りを利用する方法とがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-300121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、アンモニウムミョウバン等の潜熱蓄熱材では、潜熱が蓄熱された状態を、長い時間にわたって維持しようとすると、蓄熱後、時間の経過と共に生じる顕熱の放熱ロスに伴い、蓄熱材自体の温度は、次第に低下する。このとき、蓄熱材自体の温度が、その融点にまで到達すると、それまで液相状態にあった蓄熱材は、自ずと凝固し始めて、放熱を開始してしまう。そのため、蓄熱材に蓄えた潜熱の利用時に、潜熱の放熱量が、前もって蓄えた潜熱の吸熱量よりも低くなり、放熱により潜熱を失った分、エネルギ損失が生じてしまう。
【0006】
また、潜熱蓄熱材の種類によって、現象の程度は異なるものの、蓄熱材に、融液を凝固点以下に冷却しても結晶化しない過冷却現象が発現することがある。このような過冷却現象にある状態の下で、潜熱を蓄えた蓄熱材が保管されていた場合、過冷却現象を解除する処理が、蓄熱材に行われると、この処理により、蓄熱材自体の温度が、その融点近傍まで上昇する。このとき、蓄えていた熱の多くが、蓄熱材の温度上昇に費やされてしまうため、蓄熱材において、潜熱の蓄熱量が実質的に低下してしまう。
【0007】
このように、潜熱蓄熱材では、潜熱の蓄熱後、長い時間が経過すると、蓄えていた潜熱の蓄熱量は、潜熱の放熱ロスに伴って低下してしまうため、本出願人は、例示した特許文献1の技術のように、水和水の脱着に伴った水和熱の出入りを活用することにより、蓄熱材に蓄熱可能な熱を、無駄なく使用することができる技術の開発に取り組んできた。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、蓄熱材に蓄えた熱を、その必要時に、放熱ロスを抑えて有効に使用することができる蓄熱材の使用方法と、この蓄熱材を収容する蓄熱材容器と、この使用方法の対象となる蓄熱材組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る蓄熱材の使用方法は、以下の構成を有する。
(1)一種以上の無機塩水和物を含むミョウバン水和物に蓄熱し、蓄えた熱を放出して使用するにあたり、放熱と共に、前記ミョウバン水和物を生成させるための基材を準備する第一工程と、前記基材より前記ミョウバン水和物を生成させる第二工程と、を有し、前記第一工程では、前記ミョウバン水和物を蓄熱時に、室温を超える温度で加熱することにより、前記ミョウバン水和物に含有する12水和水に対し、少なくとも1以上の水和数に相当する水分を脱離して欠落させた状態のミョウバン水分欠落物を、前記基材として生成すること、前記第二工程では、放熱時に、前記ミョウバン水分欠落物への加水を経て、前記ミョウバン水和物を生成すること、前記加水では、前記ミョウバン水分欠落物に直接、水を接触させること、あるいは、潮解性を有する反応助剤と混ぜ合わせた状態にある前記ミョウバン水分欠落物に直接、水蒸気を晒すこと、を特徴とする。
(2)(1)に記載する蓄熱材の使用方法において、前記反応助剤は、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、または塩化マグネシウム(MgCl)のうち、少なくとも何れかに該当する物質であること、を特徴とする。
(3)(2)に記載する蓄熱材の使用方法において、前記反応助剤は、前記ミョウバン水和物と前記反応助剤とによる蓄熱材組成物全体に占める重量比で、少なくとも10wt%以上を満たす割合で添加されていること、を特徴とする。
(4)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載する蓄熱材の使用方法において、前記ミョウバン水分欠落物の生成にあたり、前記ミョウバン水和物を加熱する温度は、250℃以上であること、を特徴とする。
(5)(1)乃至(3)のいずれか1つに記載する蓄熱材の使用方法において、前記第一工程で用いる前記基材は、既製品のミョウバン無水物であること、を特徴とする。
(6)(1)乃至(5)のいずれか1つに記載する蓄熱材の使用方法において、前記ミョウバン水和物は、アンモニウムミョウバン十二水和物(AlNH(SO・12HO)、または、カリウムミョウバン十二水和物(AlK(SO・12HO)の少なくともいずれか一方であること、を特徴とする。
【0010】
また、上記目的を達成するために、本発明に係る蓄熱材容器は、以下の構成を有する。
(7)熱の出入りを利用して蓄熱またはその放熱を行う蓄熱材を、充填して収容するための蓄熱材容器において、前記蓄熱材を収容する内部空間に、水または水蒸気を外部から供給するための取水口として、閉蓋可能に形成された取水手段と、前記内部空間の圧力を制御する圧力調整弁と、を備え、前記圧力調整弁は、前記内部空間から前記蓄熱材の流出を遮断すると共に、前記内部空間の内外で液体の流通を遮断する一方で、前記内部空間から気体の流出を許容する弁体部を有していること、前記蓄熱材は、(1)乃至(6)のいずれか1つに記載する蓄熱材の使用方法で用いる前記基材から生成される前記ミョウバン水和物を、少なくとも含むものであること、を特徴とする。
【0011】
また、上記目的を達成するために、本発明に係る蓄熱材組成物は、以下の構成を有する。
(8)水和反応に伴う反応熱の出入りを利用して蓄熱またはその放熱を行う蓄熱材と、該蓄熱材の物性を調整する添加剤とを配合してなる蓄熱材組成物において、前記添加剤は、潮解性を有する反応助剤であること、前記蓄熱材は、一種以上の無機塩水和物を含むミョウバン水和物であり、当該蓄熱材組成物は、初めて使用する前の状態下で、前記ミョウバン水和物と前記反応助剤との混合物であること、または、前記蓄熱材の構成成分が、一種以上の無機塩無水物を含むミョウバン無水物であり、当該蓄熱材組成物は、初めて使用する前の状態下で、前記ミョウバン無水物と前記反応助剤との混合物であること、を特徴とする。
(9)(8)に記載する蓄熱材組成物において、前記反応助剤は、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、または塩化マグネシウム(MgCl)のうち、少なくとも何れかに該当する物質であること、を特徴とする。
(10)(9)に記載する蓄熱材組成物において、当該蓄熱材組成物全体の重量に占める前記反応助剤の配合比率は、少なくとも10wt%以上であること、を特徴とする。
(11)(8)乃至(10)のいずれか1つに記載する蓄熱材組成物において、前記ミョウバン水和物は、アンモニウムミョウバン十二水和物(AlNH(SO・12HO)、またはカリウムミョウバン十二水和物(AlK(SO・12HO)の少なくともいずれか一方であること、あるいは、前記ミョウバン無水物は、アンモニウムミョウバン無水物(AlNH(SO)、またはカリウムミョウバン無水物(AlK(SO)の少なくともいずれか一方であること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
上記構成を有する本発明に係る蓄熱材の使用方法の作用・効果について説明する。
(1)一種以上の無機塩水和物を含むミョウバン水和物に蓄熱し、蓄えた熱を放出して使用するにあたり、放熱と共に、ミョウバン水和物を生成させるための基材を準備する第一工程と、基材よりミョウバン水和物を生成させる第二工程と、を有し、第一工程では、ミョウバン水和物を蓄熱時に、室温を超える温度で加熱することにより、ミョウバン水和物に含有する12水和水に対し、少なくとも1以上の水和数に相当する水分を脱離して欠落させた状態のミョウバン水分欠落物を、基材として生成すること、第二工程では、放熱時に、ミョウバン水分欠落物への加水を経て、ミョウバン水和物を生成すること、加水では、ミョウバン水分欠落物に直接、水を接触させること、あるいは、潮解性を有する反応助剤と混ぜ合わせた状態にあるミョウバン水分欠落物に直接、水蒸気を晒すこと、を特徴とする。この特徴により、ミョウバン水和物に熱を加える熱供給源側と、ミョウバン水和物から熱を放出する熱需要先側が遠く離れている場合や、熱需要先側で使用する熱の放熱時と、熱供給源側で加えた熱の蓄熱時との時間差が大きい場合でも、放熱ロスによるエネルギ損失を抑えて、ミョウバン水和物の生成時に、加水により水和反応で生じた水との結合エネルギによる熱が、熱需要先側で有効に使用できるようになる。
【0013】
従って、本発明に係る蓄熱材の使用方法によれば、蓄熱材であるミョウバン水和物に蓄えた熱を、その必要時に、放熱ロスを抑えて有効に使用することができる、という優れた効果を奏する。
【0014】
(2)に記載する蓄熱材の使用方法において、反応助剤は、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、または塩化マグネシウム(MgCl)のうち、少なくとも何れかに該当する物質であること、を特徴とする。この特徴により、雰囲気下にある水蒸気を吸収して、ミョウバン無水物等のミョウバン水分欠落物の結晶と水蒸気との反応を促進することができる。しかも、このような種の反応助剤は、混合させるミョウバン水分欠落物に対し、変質・変性等による悪影響を及ぼさない。また、このような塩化リチウム等の反応助剤は、ミョウバン水分欠落物と混合しても、安定した状態の下で、雰囲気下にある水蒸気を、ミョウバン水分欠落物に吸収させることができる。
【0015】
(3)に記載する蓄熱材の使用方法において、反応助剤は、ミョウバン水和物と反応助剤とによる蓄熱材組成物全体に占める重量比で、少なくとも10wt%以上を満たす割合で添加されていること、を特徴とする。この特徴により、第二工程では、完全なミョウバン十二水和物の状態にあるミョウバン水和物、または水和数12に近い水和水を有する略ミョウバン十二水和物の状態にあるミョウバン水和物が、実用上、特に大きな問題とならない程度に生成できるようになる。
【0016】
(4)に記載する蓄熱材の使用方法において、ミョウバン水分欠落物の生成にあたり、ミョウバン水和物を加熱する温度は、250℃以上であること、を特徴とする。この特徴により、ミョウバン水分欠落物は、ミョウバン水和物からその12水和水相当分の水分が全て脱離した状態のミョウバン無水物になる。そのため、第二工程でミョウバン水和物を生成するにあたり、最多となる12水和水に相当する分の水が、ミョウバン無水物に結合される水和反応により、この水和反応時に発生する放熱量は、ミョウバン水分欠落物からミョウバン水和物を生成する過程で、最も大きくなる。
【0017】
(5)に記載する蓄熱材の使用方法において、第一工程で用いる基材は、既製品のミョウバン無水物であること、を特徴とする。この特徴により、特に、本発明に係る蓄熱材の使用方法を初めて利用する前の状況下で、第一工程で基材を準備するにあたり、ミョウバン水和物をベースにミョウバン水分欠落物を生成するまでの工程が不要になるため、その工程を行うのに必要な時間とエネルギが節約できる。
【0018】
(6)に記載する蓄熱材の使用方法において、ミョウバン水和物は、アンモニウムミョウバン十二水和物(AlNH(SO・12HO)、または、カリウムミョウバン十二水和物(AlK(SO・12HO)の少なくともいずれか一方であること、を特徴とする。この特徴により、アンモニウムミョウバン十二水和物やカリウムミョウバン十二水和物は、市場で幅広く流通して入手し易く、安価である。
【0019】
上記構成を有する本発明に係る蓄熱材容器の作用・効果について説明する。
(7)熱の出入りを利用して蓄熱またはその放熱を行う蓄熱材を、充填して収容するための蓄熱材容器において、蓄熱材を収容する内部空間に、水または水蒸気を外部から供給するための取水口として、閉蓋可能に形成された取水手段と、内部空間の圧力を制御する圧力調整弁と、を備え、圧力調整弁は、内部空間から蓄熱材の流出を遮断すると共に、内部空間の内外で液体の流通を遮断する一方で、内部空間から気体の流出を許容する弁体部を有していること、蓄熱材は、(1)乃至(6)のいずれか1つに記載する蓄熱材の使用方法で用いる基材から生成されるミョウバン水和物を、少なくとも含むものであること、を特徴とする。この特徴により、前述した発明に係る蓄熱材の使用方法は、より簡単な構造で構成される蓄熱材容器を用いて、ミョウバン水和物に蓄えた熱を、その必要時に、放熱ロスを抑えて有効に使用することができるようになる。
【0020】
上記構成を有する本発明に係る蓄熱材組成物の作用・効果について説明する。
(8)水和反応に伴う反応熱の出入りを利用して蓄熱またはその放熱を行う蓄熱材と、該蓄熱材の物性を調整する添加剤とを配合してなる蓄熱材組成物において、添加剤は、潮解性を有する反応助剤であること、蓄熱材は、一種以上の無機塩水和物を含むミョウバン水和物であり、当該蓄熱材組成物は、初めて使用する前の状態下で、ミョウバン水和物と反応助剤との混合物であること、または、蓄熱材の構成成分が、一種以上の無機塩無水物を含むミョウバン無水物であり、当該蓄熱材組成物は、初めて使用する前の状態下で、ミョウバン無水物と反応助剤との混合物であること、を特徴とする。この特徴により、前述した発明に係る蓄熱材の使用方法を、水蒸気による加水を行って実施するにあたり、本発明に係る蓄熱材組成物を用いると、放熱ロスによるエネルギ損失を抑えて、ミョウバン水和物の生成時に、加水により水和反応で生じた水との結合エネルギによる熱が、熱需要先側で有効に使用できるようになる。
【0021】
従って、本発明に係る蓄熱材組成物によれば、蓄熱材であるミョウバン水和物に蓄えた熱を、その必要時に、放熱ロスを抑えて有効に使用することができる、という優れた効果を奏する。
【0022】
(9)に記載する蓄熱材組成物において、反応助剤は、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、または塩化マグネシウム(MgCl)のうち、少なくとも何れかに該当する物質であること、を特徴とする。この特徴により、前述した発明に係る蓄熱材の使用方法を実施するにあたり、本発明に係る蓄熱材組成物が用いられると、雰囲気下にある水蒸気を吸収して、ミョウバン無水物等のミョウバン水分欠落物の結晶と水蒸気との反応を促進することができる。しかも、このような種の反応助剤は、混合させるミョウバン水分欠落物に対し、変質・変性等による悪影響を及ぼさない。
【0023】
(10)に記載する蓄熱材組成物において、当該蓄熱材組成物全体の重量に占める反応助剤の配合比率は、少なくとも10wt%以上であること、を特徴とする。この特徴により、前述した蓄熱材の使用方法を実施するにあたり、本発明に係る蓄熱材組成物が用いられると、熱需要先側で本発明に係る蓄熱材組成物からの放熱時に、本発明に係る蓄熱材組成物に含むミョウバン水分欠落物は、完全なミョウバン十二水和物の状態、または水和数12に近い水和水を有する略ミョウバン十二水和物の状態に再生できるため、実用上、特に大きな問題なく、本発明に係る蓄熱材組成物からの放熱を使用することができる。
【0024】
(11)に記載する蓄熱材組成物において、ミョウバン水和物は、アンモニウムミョウバン十二水和物(AlNH(SO・12HO)、またはカリウムミョウバン十二水和物(AlK(SO・12HO)の少なくともいずれか一方であること、あるいは、ミョウバン無水物は、アンモニウムミョウバン無水物(AlNH(SO)、またはカリウムミョウバン無水物(AlK(SO)の少なくともいずれか一方であること、を特徴とする。この特徴により、アンモニウムミョウバン十二水和物やそのアンモニウムミョウバン無水物、カリウムミョウバン十二水和物やカリウムミョウバン無水物は、市場で幅広く流通して入手し易く、安価である。アンモニウムミョウバン十二水和物やカリウムミョウバン十二水和物は、食品添加物や化粧品原料等にも使用されていることから、人体にとっても安全な物質であり、安全衛生上、取扱いが容易である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施形態に係る蓄熱材組成物の構成成分を示す模式図である。
図2】実施形態に係る蓄熱材に関し、(a)12個の水分子が全て結合した状態と、(b)12個の水分子が全て脱離した状態を、それぞれ示す模式図である。
図3】実施形態に係る蓄熱材であるアンモニウムミョウバンを、280℃まで加熱した実験1で、時間と共に変化する温度と蓄熱量との関係を示すグラフである。
図4】実験2で、実施形態に係る蓄熱材の無水物である焼きミョウバンに、水を加えてアンモニウムミョウバン十二水和物に戻すまでの温度変化を示すグラフである。
図5】蓄熱材であるアンモニウムミョウバン十二水和物に、反応助剤を添加していない条件の比較例1に係る実験3で、水蒸気の供給開始による蓄熱材の重量変化と、重量が一定値に収束した状態にある蓄熱材の放熱量を示すグラフである。
図6】蓄熱材であるアンモニウムミョウバン十二水和物に、反応助剤として臭化リチウムを添加した蓄熱材組成物による実験4で、反応助剤の配合比率を30wt%とした条件の実施例1に係る蓄熱材組成物に対し、水蒸気の供給開始による蓄熱材組成物の重量変化と、重量が一定値に収束した状態にある蓄熱材組成物の放熱量を示すグラフである。
図7】実験4で、反応助剤の配合比率を、25wt%とした条件の実施例2に係る蓄熱材組成物と、20wt%とした条件の比較例2に係る蓄熱材組成物とに対し、それぞれの重量変化を示すグラフである。
図8】蓄熱材であるアンモニウムミョウバン十二水和物に、反応助剤として塩化リチウム無水物を添加した蓄熱材組成物による実験5で、反応助剤の配合比率を30wt%とした条件の実施例3に係る蓄熱材組成物に対し、水蒸気の供給開始による蓄熱材組成物の重量変化と、重量が一定値に収束した状態にある蓄熱材組成物の放熱量を示すグラフである。
図9】実験5で、反応助剤の配合比率を、15wt%とした条件の実施例4に係る蓄熱材組成物と、10wt%とした条件の比較例7に係る蓄熱材組成物に対し、それぞれの重量変化を示すグラフである。
図10】蓄熱材であるアンモニウムミョウバン十二水和物に、反応助剤として塩化マグネシウム無水物を添加した蓄熱材組成物による実験6で、反応助剤の配合比率を30wt%とした条件の実施例5に係る蓄熱材組成物に対し、水蒸気の供給開始による蓄熱材組成物の重量変化と、重量が一定値に収束した状態にある蓄熱材組成物の放熱量を示すグラフである。
図11】実験6で、反応助剤の配合比率を、10wt%とした条件の実施例6に係る蓄熱材組成物と、8wt%とした条件の比較例10に係る蓄熱材組成物とに対し、それぞれの重量変化を示すグラフである。
図12】実験3~6で行った全ての試験条件と試験結果とをまとめて掲載した表である。
図13】本実施形態に係る蓄熱材容器を例示した模式図であり、ミョウバン水分欠落物に供給水を直接接触させて加水する場合を示す図である。
図14図13中、X部の拡大図である。
図15図13と同様の説明図であり、ミョウバン水分欠落物に水蒸気を直接晒して加水する場合を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る蓄熱材組成物について、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施形態に係る蓄熱材は、熱供給源から提供された熱を一時的に蓄えた後、熱需要先で、蓄えた潜熱に基づく熱エネルギを、その時間差をもって活用する目的で用いられる。蓄熱材(必要に応じて添加剤を加えた「蓄熱材組成物」の場合を含む)は、後に詳述するように、蓄熱材容器に漏れのない態様で、液密に充填され、蓄熱材を充填した蓄熱材容器は、熱エネルギの活用を図る熱需要先に配置される。蓄熱材は、充填された蓄熱材容器の内外で、水和水の出入りを伴った水和熱の出入りを利用して、蓄えた熱を必要に応じて取り出すことができ、蓄熱とその放熱のサイクルを複数回繰り返して使用される。
【0027】
その一例として、大規模な建物内に設置された非常用発電装置において、コジェネレーションのガスエンジンシステム等の熱供給源から生じる排熱との熱交換により、熱が、蓄熱槽内に収容された蓄熱材容器内の蓄熱材に蓄えられる。蓄熱材に蓄えた熱は、必要時に放出されて、給湯設備や、冷暖房を行う空気調和設備等の熱提供先の設備に供給され、熱エネルギとして活用される。また、蓄熱材は、自動車技術への用途として、車両で生じた排熱の熱エネルギを、エンジン暖機時のラジエータの加温や、その排気ガスの清浄化に使用されている触媒等への加温等、車両内の活用先で使用する蓄熱システムに利用される。また、蓄熱材は、蓄熱材を充填したコンテナに、工場から出される排熱等を蓄えて遠隔の熱利用先へと輸送する用途のほか、日常の食生活において、食時するまでの間、給食や弁当、料理、食材を加温する用途等、様々な業界の技術分野に活用される。
【0028】
<蓄熱材組成物>
はじめに、蓄熱材組成物の構成について、図1及び図2を用いて説明する。図1は、実施形態に係る蓄熱材組成物の構成成分を示す模式図である。図2は、実施形態に係る蓄熱材に関し、(a)12個の水分子が全て結合した状態と、(b)12個の水分子が全て脱離した状態を、それぞれ示す模式図である。図1に示すように、蓄熱材組成物1は、水和反応に伴う反応熱の出入りにより、蓄熱または放熱を可能とする蓄熱材10を主成分に、この蓄熱材10の物性を調整する添加剤として、潮解性を有する反応助剤20を配合してなる。
【0029】
ここで、蓄熱材組成物1の主成分である蓄熱材10の態様について、簡単に説明する。蓄熱材組成物1を初めて使用する前の状態にある状況下で、蓄熱材組成物1の主成分は、蓄熱材10自体の態様となっている第1の場合と、蓄熱材10の構成成分の態様となっている第2の場合とがある。
【0030】
主成分の態様が第1の場合では、蓄熱材10が、一種以上の無機塩水和物を含むミョウバン水和物であり、蓄熱材組成物1は、初めて使用する前の状態下で、ミョウバン水和物10(蓄熱材10)と反応助剤20との混合物になっている。ミョウバン水和物10は、本実施形態では、アンモニウムミョウバン十二水和物(硫酸アンモニウムアルミニウム・十二水和物)(AlNH(SO・12HO)(以下、単に「アンモニウムミョウバン」と称する場合もある)である。アンモニウムミョウバンは、分子量[g/mol]453.34、融点93.5℃、常温では固体で、水に可溶な物性を有する。アンモニウムミョウバンは、水和数12であり、アンモニウムミョウバンが250℃以上に加熱されると、全ての水和水が完全に脱離する。そのため、アンモニウムミョウバンが単体で、250℃未満で加熱されたとしても、水和水が全て脱離しないため、水和水が完全に脱離した場合に比べ、蓄熱量は減少する。
【0031】
また、主成分の態様が第2の場合では、蓄熱材10の構成成分が、一種以上の無機塩無水物を含むミョウバン無水物11であり、蓄熱材組成物1は、初めて使用する前の状態下で、ミョウバン無水物11と反応助剤と20との混合物になっている。ミョウバン無水物11は、本実施形態では、アンモニウムミョウバンの構成成分である粉末状のアンモニウムミョウバン無水物(AlNH(SO)(焼アンモニウムミョウバン)である。
【0032】
なお、蓄熱材10とするミョウバン水和物は、アンモニウムミョウバンや、カリウムミョウバン十二水和物(AlK(SO・12HO)以外にも、例えば、クロムミョウバン十二水和物(CrK(SO・12HO)、鉄ミョウバン十二水和物(FeNH(SO・12HO)等、1価の陽イオンの硫酸塩M (SO)と、3価の陽イオンの硫酸塩MIII (SOとの複硫酸塩である「ミョウバン」の十二水和物であっても良い。また、この「ミョウバン」に含まれる3価の金属イオンは、アルミニウムイオン、クロムイオン、鉄イオン以外に、例えば、コバルトイオン、マンガンイオン等の金属イオンでも良い。さらに、蓄熱材10は、このようなミョウバン水和物に属する物質を、少なくとも二種以上含む混合物、または混晶を主成分とした蓄熱材であっても良い。
【0033】
同様に、ミョウバン無水物11についても、焼アンモニウムミョウバン以外に、前述した「ミョウバン」の無水物であっても良い。また、ミョウバン無水物11は、前述した「ミョウバン」に属する物質のうち、十二水和水分を除いた構成成分を、少なくとも二種以上含む混合物、または混晶を主成分とした無水物であっても良い。
【0034】
次に、反応助剤20について、説明する。反応助剤20は、空気中の水分を吸収する吸湿性を有しており、対象となる物質の結晶に、自発的に空気中の水分を吸収させることにより、この結晶を融かす潮解性を備えた物質である。具体的には、本実施形態で用いる反応助剤20は、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、塩化マグネシウム(MgCl)等である。蓄熱材組成物1全体の重量に占める反応助剤20の配合比率については、後述する。
【0035】
なお、潮解性を備えた物質には、ここに挙げた塩化リチウム等の物質以外に、例えば、塩化カルシウム六水和物(CaCl・12HO)、クエン酸(C)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、炭酸カリウム(KCO)、硫酸マンガン(MnSO)等の物質もある。本発明の蓄熱材組成物の使用上、主成分であるミョウバン水和物10との化学反応により、変質・変性等の支障が生じなければ、このようなクエン酸等の物質を反応助剤20に用いても良い。
【0036】
<蓄熱材の使用方法>
次に、本実施形態に係る蓄熱材の使用方法について、説明する。本実施形態に係る蓄熱材の使用方法は、前述した蓄熱材10であるミョウバン水和物10を主成分に、熱供給源(図示省略)から提供された熱を一時的に蓄えた後、熱需要先(図示省略)で、ミョウバン水和物10に蓄えた熱に基づく熱エネルギを、その時間差をもって活用するための方法である。蓄熱材の使用方法は、一種以上の無機塩水和物を含むミョウバン水和物10(蓄熱材10)に蓄熱し、蓄えた熱を放出して使用するにあたり、放熱と共に、ミョウバン水和物10を生成させるための基材13を準備する第一工程と、基材13よりミョウバン水和物10を生成させる第二工程と、を有する。
【0037】
第一工程では、ミョウバン水和物10を蓄熱時に、大気に開放した下で、室温を超える温度で加熱することにより、ミョウバン水和物10に含有する12水和水に対し、少なくとも1以上の水和数に相当する水分12を脱離して欠落させた状態のミョウバン水分欠落物14を、基材13として生成する。あるいは、基材13として、既製品のミョウバン無水物11を用いる。第二工程では、放熱時に、ミョウバン水分欠落物14(ミョウバン無水物11の場合もある。以下、水和数が1以上、11以下に相当する水分12が脱離して欠落させた状態のミョウバン水分欠落物14と、水和数が12全てに相当する水分12が脱離して欠落させた状態のミョウバン水分欠落物14、すなわちミョウバン無水物11とをまとめた総称を、単に「ミョウバン水分欠落物14」と称する。)への加水を経て、ミョウバン水和物10を生成する。加水では、ミョウバン水分欠落物14に直接、供給水30W(水30)を接触させる。あるいは、潮解性を有する反応助剤20と混ぜ合わせた状態にあるミョウバン水分欠落物14に直接、水蒸気30S(水30)を晒す。
【0038】
具体的に説明する。本実施形態に係る蓄熱材の使用方法の第一工程では、基材13の準備にあたり、ミョウバン水和物10を加熱して水分12を脱水させてミョウバン水分欠落物14を生成する場合、ミョウバン水和物10から脱離させる水分12は、1以上の水和数に相当する量であれば良い。好ましくは、ミョウバン水和物10を250℃以上に加熱して、基材13が、図2に示すように、12水和数のうち、ほぼ全ての水和数に相当する分の水分12を失った状態にあるミョウバン水分欠落物14、または12水和数全てに相当する分の水分12を完全に失った状態にあるミョウバン無水物11(ミョウバン水分欠落物14)であると良い。
【0039】
また、第一工程では、基材13の準備にあたり、蓄熱材10を初めて使用する前の条件下で、前述したように、ミョウバン水和物10からミョウバン水分欠落物14を生成する手法に代えて、既製品の焼アンモニウムミョウバン等のミョウバン無水物(図2に示すミョウバン無水物11の状態)が、基材13として用いられても良い。ミョウバン無水物11が第一工程で用いられることにより、水和数が1以上、11以下に相当する水分12が脱離して欠落させた状態のミョウバン水分欠落物14を、基材13に含んでしまう状況が回避でき、加水による水30との水和反応分が増えることに依拠して、生成されるミョウバン水和物10からの放熱量がより大きくなるからである。
【0040】
次に、第二工程で加水に用いる水30は、例えば、純水、イオン交換水、水道水等による供給水30Wや、水をバブリングした空気等に含む水蒸気30Sである。但し、供給水30Wを直接、ミョウバン水分欠落物14に接触させる場合には、前述した反応助剤20は不要であるが、水30が水蒸気30Sである場合、反応助剤20と混合状態にあるミョウバン水分欠落物14に、水蒸気30Sを吹きかけて水30を晒す。
【0041】
加水が供給水30Wの場合、ミョウバン水分欠落物14は、ミョウバン水和物10の生成に必要な水30と、不足なく万遍に浸透して接触できるため、ミョウバン水和物10が生成され易い。しかしながら、加水が水蒸気30Sの場合、ミョウバン水分欠落物14は、水蒸気30Sに晒された雰囲気の下に晒されるだけでは、ミョウバン水和物10の生成に必要となる十分な量の水30と結合できず、ミョウバン水和物10が生成され難い。そこで、吸水性を有した反応助剤20を、ミョウバン水分欠落物14と混ぜ合わせている。そのため、ミョウバン水分欠落物14による基材13の結晶は、水蒸気30Sで湿った雰囲気の下、添加した反応助剤20により、晒した水蒸気30S(水30)に加え、元々空気中に含まれている水分30の吸収が活性化されるため、ミョウバン水和物10が生成され易い状態になる。
【0042】
次に、反応助剤20の添加量について説明する。第一工程で準備した基材13(ミョウバン水分欠落物14、ミョウバン無水物11)では、12水和水を有するミョウバン水和物10との対比で、ミョウバン水和物10に含む12水和水に相当した水分12が、欠落した状態にある。そのため、準備した基材13を、第二工程でミョウバン水和物10に生成させるにあたり、第二工程で加水する水30は、準備された基材13に対し、ミョウバン水和物10の12水和水分を満たす十分な量、またはそれに概ね近い量で供給されなければならない。基材13に対し、水30が十分に供給されないと、第二工程では、基材13に結合する水30の不足に起因して、ミョウバン水分欠落物14のまま、完全な状態にあるミョウバン水和物10は生成されない。そこで、加水が水蒸気30Sの場合に、前述した反応助剤20を基材13と混ぜ合わせるが、添加する反応助剤20を増量するに連れて、より十分な量の水30が、基材13に吸収されて結合するようになる。
【0043】
ここで、説明の便宜上、ミョウバン水和物10の12水和水分を満たす量の水30が基材13に結合された状態にあるミョウバン水和物10を、完全なミョウバン水和物と称し、ミョウバン水和物10の12水和水分に概ね近い量の水30が基材13に結合された状態にあるミョウバン水分欠落物14を、略ミョウバン水和物と称する。略ミョウバン水和物は、本実施形態では、完全なミョウバン水和物に対し、同体積比で、完全なミョウバン水和物の重量に対し、90%以上に相当する重量をなしたものを意味する。
【0044】
反応助剤20の添加量は、その反応助剤20の種類毎に異なるが、少なくともミョウバン水和物10の12水和水分に概ね近い量の水30を、基材13に供給するのに必要な反応助剤20の添加量として、蓄熱材組成物1全体の重量に占める反応助剤20の配合比率は、少なくとも10wt%以上である。すなわち、第二工程で、略ミョウバン水和物を含め、完全なミョウバン水和物を生成するのに必要な反応助剤20の添加量は、反応助剤20が塩化マグネシウムの場合で、少なくとも10wt%以上、反応助剤20が塩化リチウムの場合で、少なくとも15wt%以上、反応助剤20が臭化リチウムの場合で、少なくとも25wt%以上である。
【0045】
なお、ここで挙げた反応助剤20の添加量は、第一工程で準備する基材13を、ミョウバン水和物10を加熱して水分12を脱水させたミョウバン水分欠落物14とする場合で、このミョウバン水和物10と反応助剤20とによる蓄熱材組成物1全体の重量に占める反応助剤20の配合比率を適用したものである。第一工程で準備する基材13が、既製品のミョウバン無水物11である場合には、反応助剤20の添加量については、蓄熱材組成物1において添加する反応助剤20の前述の配合比率に基づき、ミョウバン水和物10に含む水和数12個分の水分12の分子量を除いた重量換算後の配合比率を適用する。
【0046】
他方、水30自体も、顕熱を蓄えてその熱を放熱する蓄熱・放熱特性を有している。そのため、ミョウバン水分欠落物14に対し、加水する水30が、生成されるミョウバン水和物10の12水和水に相当する分を超えた量であっても、第二工程で生成されたミョウバン水和物10とその余剰分となった水30との混合状態で蓄熱できる蓄熱量は、同体積比で、ミョウバン水和物10単体の蓄熱量に比べ大幅に低下することはない。
【0047】
しかしながら、反応助剤20は、前述したように、塩化リチウム、臭化リチウム、塩化マグネシウム等であり、これらの物質自体は、蓄熱・放熱特性を具備していない。そのため、反応助剤20の添加量をむやみに増やしてしまうと、生成されたミョウバン水和物10と反応助剤20との蓄熱材組成物1に蓄熱できる蓄熱量は、同体積比で、ミョウバン水和物10単体の蓄熱量に比べ大幅に低下してしまい、過大な添加量の反応助剤20は、むしろ阻害要因となる。このことから、第二工程でミョウバン水和物10を生成するにあたり、添加する反応助剤20の配合割合をできるだけ最小限に抑えることが重要である。
【0048】
<蓄熱材容器>
次に、本実施形態に係る蓄熱材容器について、図13図15を用いて説明する。図13は、本実施形態に係る蓄熱材容器を例示した模式図であり、ミョウバン水分欠落物に供給水を直接接触させて加水する場合を示す図であり、図13中、X部の拡大図を、図14に示す。図15は、図13と同様の模式図であり、ミョウバン水分欠落物に水蒸気を直接晒して加水する場合を示す図である。
【0049】
前述した本実施形態に係る蓄熱材の使用方法を実施するにあたり、基材13から生成されるミョウバン水和物10を少なくとも含む蓄熱材を、充填して収容するための蓄熱材容器として、本実施形態に係る蓄熱材容器50が用いられる。蓄熱材容器50は、基材13のほか、基材13から生成されるミョウバン水和物10等を収容する内部空間51に、供給水30Wまたは水蒸気30Sを外部から供給するための取水口として、閉蓋可能に形成された取水口52(取水手段)と、内部空間51の圧力を制御する圧力調整弁55と、を備える。図13図15に示すように、圧力調整弁55は、内部空間51から基材13やミョウバン水和物10等の流出を遮断すると共に、内部空間51の内外で液体LQの流通を遮断する一方で、内部空間51から気体GSの流出を許容する弁体部56を有している。弁体部56は、内部空間51とその外部との間で、供給水30Wの流通や、生成されたミョウバン水和物10(または蓄熱材組成物1)の融液を阻む防水性と、気体GSとして、空気と水蒸気30Sだけを流通可能とする透湿性と、を兼ねた防水透湿素材として、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE:Polytetrafluoroethylene)製の防水透湿膜等で形成されている
【0050】
本実施形態に係る蓄熱材の使用方法では、加水が供給水30Wの場合、第二工程で基材13からミョウバン水和物10を生成して放熱するときに、図13に示すように、供給水30Wの流路をなす給水管61を、蓄熱材容器50の取水口52に接続する。次いで、給水管61を通じて供給水30Wを、ミョウバン水分欠落物14(またはミョウバン無水物11)等の基材13を充填した蓄熱材容器50の内部空間51に給水する。このとき、供給水30Wの給水量は、内部空間51に収容された基材13全体で、少なくともミョウバン水和物10の生成に足りるよう、そのミョウバン水和物10の12水和水に相当する量である。給水完了後には、取水口52から給水管61を取り外して取水口52を閉塞する。なお、次に行う第一工程に備えて基材13を準備するにあたり、内部空間51に収容されているミョウバン水和物10の水分12や、その生成で余剰となった分の供給水30Wは、取水口52等から蓄熱材容器50外に排水される。
【0051】
加水が水蒸気30Sの場合、第二工程で、ミョウバン水和物10と反応助剤20とによる蓄熱材組成物1(図1参照)を、基材13から生成して放熱するときに、図15に示すように、バルブ73を介して、タンク72内に連通する給水管71を、蓄熱材容器50の取水口52に接続する。給水管71に配管されたバルブ73は、給水管71内の流路を開閉可能とした流体制御弁である。タンク72内で水74をバブリングして生じた水蒸気30Sは、ミョウバン水分欠落物14等の基材13を充填した蓄熱材容器50の内部空間51に供給される。このとき、水蒸気30Sの供給量は、内部空間51に収容された基材13全体で、少なくともミョウバン水和物10の生成に足りるよう、そのミョウバン水和物10の12水和水に相当した量である。水蒸気30Sの供給完了後には、バルブ73の閉路操作を行い、給水管71内の流路を閉路する。なお、次に行う第一工程に備え、ミョウバン水和物10と反応助剤20とによる蓄熱材組成物1を、加熱することにより蓄熱して、基材13を準備するにあたり、内部空間51内の雰囲気下にある水蒸気30Sは、給水管71を通じてタンク72に還流される。
【0052】
次に、本実施形態に係る蓄熱材の使用方法について、蓄熱材10(または蓄熱材組成物1)おける放熱の性能に与える影響を確認する目的で、検証実験(実験3~6)とその予備調査実験(実験1,2)を行った。
【0053】
<予備調査実験>
実験1は、実施形態に係る蓄熱材であるアンモニウムミョウバン十二水和物(アンモニウムミョウバン)の試料を、室温を超える280℃まで加熱した実験で、試料において、時間と共に変化する温度と蓄熱量との関係について調査した実験である。実験1では、周知の示差走査熱量測定装置(DSC:Differential scanning calorimetry)により、その試料台に載せたアンモニウムミョウバンの試料10mgに窒素100ml/min.の雰囲気ガスを晒し、大気に開放した下で、試料を、30℃から280℃まで加熱して、試料に蓄えた融解潜熱の熱量を測定した。図3は、その実験結果を示すグラフである。
【0054】
図3に示すグラフでは、縦軸左側の目盛りが、単位時間に試料で蓄熱または放熱した熱量を示しており、この目盛りの「負」の領域は、試料に吸熱される熱量を示し、「正」の領域は、試料から放熱される熱量を示す。
【0055】
なお、本実施形態では、試料の放熱量〔kJ/kg〕について、実際に測定を行っていないため、熱流を示す図3等のグラフで、正確なピーク面積Sの表記はできないが、参考までにこのピーク面積Sについての説明を補助する目的で、参照する図3及び図5に、あくまでも仮定した計測条件の下で、ピーク面積S(斜線の部分)を例示している。また、試料の放熱量〔kJ/kg〕の測定値を掲載していないが、実際の放熱量は、熱量の単位〔mW〕と質量の単位〔mg〕との単位換算を行った上で、単位〔kJ/kg〕で表される。図3,5以外でも、熱流を示すグラフについても同様である。
【0056】
実験1では、図3に示すように、試料の蓄熱量S1は、アンモニウムミョウバン十二水和物単体の融解潜熱量270(kJ/kg)との対比で、約4.5倍に相当する1206kJ/kgであった。このように、アンモニウムミョウバン十二水和物(ミョウバン水和物10)中の12水和水に相当する水分12が、図2に示すように、ミョウバン無水物11から脱離すると、ミョウバン無水物11に蓄熱できる熱量は、ミョウバン水和物10単体の融解潜熱量に比べ、大幅に増大することが判る。
【0057】
また、実験2は、実施形態に係る蓄熱材の無水物である焼きアンモニウムミョウバンの試料に、水を添加してアンモニウムミョウバン十二水和物(アンモニウムミョウバン)に戻す実験である。実験2では、室温(約23℃)下で、試料10mgに、アンモニウムミョウバンの生成に足りる量の水道水をかけ、試料で生じた水和反応により、上昇した試料の温度を測定した。図4は、その実験結果を示すグラフである。
【0058】
実験2では、図4に示すように、試料の温度は、水道水をかけた後、およそ4分足らずで、アンモニウムミョウバンの融点93.5℃に近い約92℃まで上昇した。なお、かける水の量を制御することにより、試料である焼きアンモニウムミョウバンに結合させる水和水の数を調節した上で、焼きアンモニウムミョウバンと水との水和反応を行えば、試料に急峻に生じる発熱の温度と、発熱のピーク温度になるまでの時間を、適宜コントロールすることができる。このような蓄熱材の無水物に水をかけて発熱させる技術は特に、前述したような自動車技術への用途に好適であり、例えば、排気ガスの清浄化に使用されている触媒が冷えた状態にあるとき、蓄熱材の無水物に水をかけたときに生じる発熱により、この触媒を加熱する等、車両内の活用先で使用する蓄熱システムに利用することができる。
【0059】
<検証実験>
検証実験では、実験3~6を行った。実験3は、蓄熱材であるアンモニウムミョウバン十二水和物に、反応助剤を添加していない条件の比較例1に係る試験である。実験4は、蓄熱材であるアンモニウムミョウバン十二水和物に、反応助剤として臭化リチウムを添加した蓄熱材組成物による実験である。実験4では、反応助剤の配合比率を、30wt%とした条件の実施例1に係る試験と、25wt%とした条件の実施例2に係る試験と、20wt%とした条件の比較例2に係る試験と、15wt%とした条件の比較例3に係る試験と、10wt%とした条件の比較例4に係る試験と、5wt%とした条件の比較例5に係る試験と、1wt%とした条件の比較例6に係る試験を、それぞれ行った。
【0060】
実験5は、蓄熱材であるアンモニウムミョウバン十二水和物に、反応助剤として塩化リチウム無水物を添加した蓄熱材組成物による実験である。実験5では、反応助剤の配合比率を、30wt%とした条件の実施例3に係る試験と、15wt%とした条件の実施例4に係る試験と、10wt%とした条件の比較例7に係る試験と、5wt%とした条件の比較例8に係る試験と、1wt%とした条件の比較例9に係る試験を、それぞれ行った。実験6は、蓄熱材であるアンモニウムミョウバン十二水和物に、反応助剤として塩化マグネシウム無水物を添加した蓄熱材組成物による実験である。実験6では、反応助剤の配合比率を、30wt%とした条件の実施例5に係る試験と、10wt%とした条件の実施例6に係る試験と、8wt%とした条件の比較例10に係る試験と、5wt%とした条件の比較例11に係る試験と、1wt%とした条件の比較例12に係る試験を、それぞれ行った。
【0061】
(実験方法)
実験3~6ではそれぞれ、アルミニウム製容器内に秤取した試料10mgを、容器内を大気中に開放した状態で、熱重量測定装置(TG:Thermo Gravimetry)の試料室にセットし、雰囲気ガスとして、流量100ml/min.の窒素ガスを直接試料室内に供給し続けて、試料を加熱した。試料は、加熱速度2℃/min.で30℃から98℃まで加熱され、98℃に到達後、5分間、窒素ガスを供給し続けながら、試料を98℃のまま保持させて、この試料の構成成分をなすアンモニウムミョウバン十二水和物に対し、その12水和水の一部に相当する水分を脱離させた。その後、窒素ガスの供給を継続して、水分が脱離したこの試料を、自然空冷により98℃から30℃に冷却した。試料の温度が30℃に到達した後、流通させる窒素ガスの流路を、熱重量測定装置の試料室から、図15に示すタンク72内の水74中に切替えて経由し、水74中でバブリングさせ、水蒸気(図15に示す水蒸気30S)を含む窒素ガスを、流量100ml/min.のまま、熱重量測定装置の試料室に供給した。窒素ガスの流路の切替えた以降、試料室にある試料に対し、時間の経過と共に変化する重量と放熱量を測定した。試料の重量が一定値となり、試料からの放熱がなくなった時点で、測定を終了した。なお、本実施形態では、試料から放熱した熱量の測定を行なわず、試料から放熱する挙動の有無についてのみ、確認を行った。
【0062】
図12は、実験3~6で行った全ての試験条件と試験結果とをまとめて掲載した表であり、図12では、試料の重量変化に関する測定結果を、「測定開始時の試料重量比率[%]」と「測定終了時の試料重量比率[%]」で表している。「測定開始時の試料重量比率[%]」と「測定終了時の試料重量比率[%]」は何れも、試験開始に伴って秤量したアンモニウムミョウバン十二水和物の試料10mgを基準重量とし、「測定開始時の試料重量比率[%]」は、水蒸気を供給して測定を開始した時点における試料の重量を、基準重量と対比した割合で示したものである。「測定終了時の試料重量比率[%]」は、測定の終了時点における試料の重量を、基準重量と対比した割合で示したものである。
【0063】
(実験3)
実験3は、蓄熱材10(アンモニウムミョウバン十二水和物)に、反応助剤20を添加していない条件の比較例1に係る試験である。
(1)比較例1に係る試験条件
・試料;蓄熱材10単体を10mg
・蓄熱材10;アンモニウムミョウバン十二水和物
・反応助剤20;添加せず
・蓄熱材10と反応助剤20との配合との配合重量比
蓄熱材10:反応助剤20=100:0
【0064】
図5は、比較例1に係る実験3で、水蒸気の供給開始による蓄熱材の重量変化と、重量が一定値に収束した状態にある蓄熱材の放熱量を示すグラフである。図5及び図12に示すように、比較例1に係る実験では、測定開始時の試料重量比率は58.4%で、測定終了時の試料重量比率が72.6%であり、測定開始時からの試料の重量変化は、24%増であった。試料から放熱の挙動は確認できた。
【0065】
(実験4)
実験4は、蓄熱材10(アンモニウムミョウバン十二水和物)に、反応助剤20として臭化リチウム20Aを添加した蓄熱材組成物1A(図1参照)を対象に、実施例1,2及びその比較例2~6に係る試験による7種の条件で行った実験である。
(2)実施例1,2及びその比較例2~6に係る共通の試験条件
・試料;蓄熱材10と反応助剤20Aとの蓄熱材組成物1Aを10mg
・蓄熱材10;アンモニウムミョウバン十二水和物
・反応助剤20A;臭化リチウム
【0066】
蓄熱材10と反応助剤20Aとの配合との配合重量比では、
(3)実施例1に係る試験条件
蓄熱材10:反応助剤20A=70:30
(4)実施例2に係る試験条件
蓄熱材10:反応助剤20A=75:25
(5)比較例2に係る試験条件
蓄熱材10:反応助剤20A=80:20
(6)比較例3に係る試験条件
蓄熱材10:反応助剤20A=85:15
(7)比較例4に係る試験条件
蓄熱材10:反応助剤20A=90:10
(8)比較例5に係る試験条件
蓄熱材10:反応助剤20A=95:5
(9)比較例6に係る試験条件
蓄熱材10:反応助剤20A=99:1
【0067】
図6は、実験4で、反応助剤の配合比率を30wt%とした条件の実施例1に係る蓄熱材組成物に対し、水蒸気の供給開始による蓄熱材組成物の重量変化と、重量が一定値に収束した状態にある蓄熱材組成物の放熱量を示すグラフである。図7は、実験4で、反応助剤の配合比率を、25wt%とした条件の実施例2に係る蓄熱材組成物と、20wt%とした条件の比較例2に係る蓄熱材組成物とに対し、それぞれの重量変化を示すグラフである。
【0068】
図12に示すように、実施例1に係る試験では、測定開始時の試料重量比率は70.2%で、測定終了時の試料重量比率が96.8%であり、測定開始時からの試料の重量変化は、38%増であった。試料から放熱の挙動は確認できた(図6参照)。また、実施例2に係る試験では、測定開始時の試料重量比率は66.8%で、測定終了時の試料重量比率が96.5%であり、測定開始時からの試料の重量変化は、44%増であった。試料から放熱の挙動は確認できた(図7参照)。
【0069】
その一方で、比較例2に係る試験では、測定開始時の試料重量比率は63.7%で、測定終了時の試料重量比率が88.7%であり、測定開始時からの試料の重量変化は、39%増であった。試料から放熱の挙動は確認できた(図7参照)。また、比較例3に係る試験では、測定開始時の試料重量比率は63.0%で、測定終了時の試料重量比率が82.9%であり、測定開始時からの試料の重量変化は、32%増であった。試料から放熱の挙動は確認できた。
【0070】
また、比較例4に係る試験では、測定開始時の試料重量比率は61.9%で、測定終了時の試料重量比率が81.3%であり、測定開始時からの試料の重量変化は、31%増であった。試料から放熱の挙動は確認できた。また、比較例5に係る試験では、測定開始時の試料重量比率は59.0%で、測定終了時の試料重量比率が76.6%であり、測定開始時からの試料の重量変化は、30%増であった。試料から放熱の挙動は確認できた。また、比較例6に係る試験では、測定開始時の試料重量比率は59.1%で、測定終了時の試料重量比率が74.7%であり、測定開始時からの試料の重量変化は、26%増であった。試料から放熱の挙動は確認できた。
【0071】
(実験5)
実験5は、蓄熱材10(アンモニウムミョウバン十二水和物)に、反応助剤20として塩化リチウム無水物20Bを添加した蓄熱材組成物1B(図1参照)を対象に、実施例3,4及びその比較例7~9に係る試験による5種の条件で行った実験である。
(10)実施例3,4及びその比較例7~9に係る共通の試験条件
・試料;蓄熱材10と反応助剤20Bとの蓄熱材組成物1Bを10mg
・蓄熱材10;アンモニウムミョウバン十二水和物
・反応助剤20B;塩化リチウム無水物
【0072】
蓄熱材10と反応助剤20Bの配合との配合重量比では、
(11)実施例3に係る試験条件
蓄熱材10:反応助剤20B=70:30
(12)実施例4に係る試験条件
蓄熱材10:反応助剤20B=85:15
(13)比較例7に係る試験条件
蓄熱材10:反応助剤20B=90:10
(14)比較例8係る試験条件
蓄熱材10:反応助剤20B=95:5
(15)比較例9に係る試験条件
蓄熱材10:反応助剤20B=99:1
【0073】
図8は、実験5で、反応助剤の配合比率を30wt%とした条件の実施例3に係る蓄熱材組成物に対し、水蒸気の供給開始による蓄熱材組成物の重量変化と、重量が一定値に収束した状態にある蓄熱材組成物の放熱量を示すグラフである。図9は、実験5で、反応助剤の配合比率を、15wt%とした条件の実施例4に係る蓄熱材組成物と、10wt%とした条件の比較例7に係る蓄熱材組成物に対し、それぞれの重量変化を示すグラフである。
【0074】
図12に示すように、実施例3に係る試験では、測定開始時の試料重量比率は70.3%で、測定終了時の試料重量比率が128.3%であり、測定開始時からの試料の重量変化は、83%増であった。試料から放熱の挙動は確認できた(図8参照)。また、実施例4に係る試験では、測定開始時の試料重量比率は64.5%で、測定終了時の試料重量比率が100.4%であり、測定開始時からの試料の重量変化は、56%増であった。試料から放熱の挙動は確認できた(図9参照)。
【0075】
その一方で、比較例7に係る試験では、測定開始時の試料重量比率は61.7%で、測定終了時の試料重量比率が82.3%であり、測定開始時からの試料の重量変化は、33%増であった。試料から放熱の挙動は確認できた(図9参照)。また、比較例8に係る試験では、測定開始時の試料重量比率は59.4%で、測定終了時の試料重量比率が77.3%であり、測定開始時からの試料の重量変化は、30%増であった。試料から放熱の挙動は確認できた。また、比較例9に係る試験では、測定開始時の試料重量比率は59.0%で、測定終了時の試料重量比率が75.2%であり、測定開始時からの試料の重量変化は、27%増であった。試料から放熱の挙動は確認できた。
【0076】
(実験6)
実験6は、蓄熱材10(アンモニウムミョウバン十二水和物)に、反応助剤20として塩化マグネシウム無水物20Cを添加した蓄熱材組成物1C(図1参照)を対象に、実施例5,6及びその比較例10~12に係る試験による5種の条件で行った実験である。
(16)実施例5,6及びその比較例10~12に係る共通の試験条件
・試料;蓄熱材10と反応助剤20Cとの蓄熱材組成物1Cを10mg
・蓄熱材10;アンモニウムミョウバン十二水和物
・反応助剤20C;塩化マグネシウム無水物
【0077】
蓄熱材10と反応助剤20Cとの配合重量比では、
(17)実施例5に係る試験条件
蓄熱材10:反応助剤20C=70:30
(18)実施例6に係る試験条件
蓄熱材10:反応助剤20C=90:10
(19)比較例10に係る試験条件
蓄熱材10:反応助剤20C=92:8
(20)比較例11係る試験条件
蓄熱材10:反応助剤20C=95:5
(21)比較例12に係る試験条件
蓄熱材10:反応助剤20C=99:1
【0078】
図10は、実験6で、反応助剤の配合比率を30wt%とした条件の実施例5に係る蓄熱材組成物に対し、水蒸気の供給開始による蓄熱材組成物の重量変化と、重量が一定値に収束した状態にある蓄熱材組成物の放熱量を示すグラフである。図11は、実験6で、反応助剤の配合比率を、10wt%とした条件の実施例6に係る蓄熱材組成物と、8wt%とした条件の比較例10に係る蓄熱材組成物とに対し、それぞれの重量変化を示すグラフである。
【0079】
図12に示すように、実施例5に係る試験では、測定開始時の試料重量比率は75.0%で、測定終了時の試料重量比率が132.0%であり、測定開始時からの試料の重量変化は、76%増であった。試料から放熱の挙動は確認できた(図10参照)。また、実施例6に係る試験では、測定開始時の試料重量比率は63.2%で、測定終了時の試料重量比率が90.9%であり、測定開始時からの試料の重量変化は、44%増であった。試料から放熱の挙動は確認できた(図11参照)。
【0080】
その一方で、比較例10に係る試験では、測定開始時の試料重量比率は63.9%で、測定終了時の試料重量比率が86.9%であり、測定開始時からの試料の重量変化は、36%増であった。試料から放熱の挙動は確認できた(図11参照)。また、比較例11に係る試験では、測定開始時の試料重量比率は60.9%で、測定終了時の試料重量比率が80.3%であり、測定開始時からの試料の重量変化は、32%増であった。試料から放熱の挙動は確認できた。また、比較例12に係る試験では、測定開始時の試料重量比率は59.8%で、測定終了時の試料重量比率が75.4%であり、測定開始時からの試料の重量変化は、26%増であった。試料から放熱の挙動は確認できた。
【0081】
<考察>
実験3~6において、実施例1~6及びその比較例1~12では、何れの試験条件とも、水蒸気30Sを含んだ窒素ガスの供給を試料に開始すると同時に、試料において、重量増加と放熱が生じていることから、試料と水蒸気30Sとの間で、水和反応が起こっているものと推察される。特に、蓄熱材10からミョウバン水分欠落物14の状態になった試料に、反応助剤20を添加していない比較例1と、反応助剤20をある程度添加した実施例1~6とを比較すると、比較例1では、測定開始時からの試料の重量変化は、24%増に留まっている。これに対し、実施例1~6では、何れの試験条件とも、測定開始時からの試料の重量は、概ね40%から80%近く増えている。このように、試料の重量変化分が大幅に増えた理由として、ミョウバン水分欠落物14の状態にある試料に、潮解性を有する反応助剤20を添加して混ぜ合せているために、反応助剤20により、供給した水蒸気30Sや窒素ガス中に含まれる水分(水30)が、試料に吸収され易くなる。その結果、参照する図2に示すように、水30と、試料であるミョウバン水分欠落物14(図2中、アンモニウムミョウバン無水物11に相当)との間で生じる水和反応が、促進されていることから、試料の重量変化分が大幅に増えたものと考えられる。
【0082】
また、実験4において、反応助剤20Aの配合比率が20%wt未満である比較例2~6では、何れの試験条件とも、測定終了時の試料重量比率は、比較例1の72.6%より増えているものの、完全なアンモニウムミョウバン十二水和物に近い状態で、実用上、特に大きな問題とならない目安となる90%を下回っている。これに対し、反応助剤20Aの配合比率が20%wt以上ある実施例1,2では、何れの試験条件とも、測定終了時の試料重量比率が、90%超えとなっている。このことから、反応助剤20が臭化リチウム(反応助剤20A)の場合、反応助剤20Aが、ミョウバン水分欠落物14と共に、少なくとも20%wtの配合比率で添加されていると、完全なアンモニウムミョウバン十二水和物に近い状態のアンモニウムミョウバンが得られることが判る。
【0083】
実験4と同様に、実験5において、反応助剤20Bの配合比率が15%wt未満である比較例7~9では、何れの試験条件とも、測定終了時の試料重量比率は、比較例1の72.6%より増えているものの、アンモニウムミョウバン回復の目安となる90%を下回っている。これに対し、反応助剤20Bの配合比率が15%wt以上ある実施例3,4では、何れの試験条件とも、測定終了時の試料重量比率が、90%超えとなっている。このことから、反応助剤20が塩化リチウム無水物(反応助剤20B)の場合、反応助剤20Bが、ミョウバン水分欠落物14と共に、少なくとも15%wtの配合比率で添加されていると、完全なアンモニウムミョウバン十二水和物に近い状態のアンモニウムミョウバンが得られることが判る。
【0084】
また、実験6において、反応助剤20Cの配合比率が10%wt未満である比較例10~11では、何れの試験条件とも、測定終了時の試料重量比率は、比較例1の72.6%より増えているものの、アンモニウムミョウバン回復の目安となる90%を下回っている。これに対し、反応助剤20Cの配合比率が10%wt以上ある実施例5,6では、何れの試験条件とも、測定終了時の試料重量比率が、90%超えとなっている。このことから、反応助剤20が塩化マグネシウム無水物(反応助剤20C)の場合、反応助剤20Cが、ミョウバン水分欠落物14と共に、少なくとも10%wtの配合比率で添加されていると、完全なアンモニウムミョウバン十二水和物に近い状態のアンモニウムミョウバンが得られることが判る。
【0085】
なお、実験5の実施例3,4と実験6の実施例5では、何れの試験条件とも、測定終了時の試料重量比率が、100%超えとなっており、試料の重量が、測定開始前よりも増えている。このような現象が生じた理由として、ミョウバン水分欠落物14からアンモニウムミョウバン十二水和物(蓄熱材10)に戻されたことに加えて、実験5では、塩化リチウム無水物(反応助剤20B)が、供給した水蒸気30S以外にも、雰囲気ガスである窒素ガス中に含まれる水分を吸収したことが原因であると考えられる。また、実験6の場合では、塩化マグネシウム無水物(反応助剤20C)が、供給した水蒸気30S以外にも、雰囲気ガスである窒素ガス中に含まれる水分を吸収したことが原因であると考えられる。
【0086】
次に、本実施形態に係る蓄熱材の使用方法の作用・効果について説明する。本実施形態に係る蓄熱材の使用方法は、一種以上の無機塩水和物を含むミョウバン水和物10に蓄熱し、蓄えた熱を放出して使用するにあたり、放熱と共に、ミョウバン水和物10を生成させるための基材13を準備する第一工程と、基材13よりミョウバン水和物10を生成させる第二工程と、を有し、第一工程では、ミョウバン水和物10を蓄熱時に、大気に開放した下で、室温を超える温度で加熱することにより、ミョウバン水和物10に含有する12水和水に対し、少なくとも1以上の水和数に相当する水分12を脱離して欠落させた状態のミョウバン水分欠落物14を、基材13として生成すること、第二工程では、放熱時に、ミョウバン水分欠落物14への加水を経て、ミョウバン水和物10を生成すること、加水では、ミョウバン水分欠落物14に直接、供給水30Wを接触させること、あるいは、潮解性を有する反応助剤20と混ぜ合わせた状態にあるミョウバン水分欠落物14に直接、水蒸気30Sを晒すこと、を特徴とする。
【0087】
この特徴により、ミョウバン水和物10に熱を加える熱供給源側と、ミョウバン水和物10から熱を放出する熱需要先側が遠く離れている場合や、熱需要先側で使用する熱の放熱時と、熱供給源側で加えた熱の蓄熱時との時間差が大きい場合でも、放熱ロスによるエネルギ損失を抑えて、ミョウバン水和物10の生成時に、加水により水和反応で生じた水30との結合エネルギによる熱が、熱需要先側で有効に使用できるようになる。
【0088】
また、本実施形態に係る蓄熱材の使用方法では、第一工程で、ミョウバン水分欠落物14を生成しているため、ミョウバン水分欠落物14に対し、水分の供給が外部から行われない限り、ミョウバン水分欠落物14の水和数は変動しない。また、水和数の変動に伴う水和反応熱の出入りも、発生し得ない。そのため、ミョウバン水分欠落物14では、長期間、蓄熱状態を維持することが可能であり、第二工程においても、熱の放熱量が実質的に低下することはない。
【0089】
従って、本実施形態に係る蓄熱材の使用方法によれば、蓄熱材10であるミョウバン水和物10に蓄えた熱を、その必要時に、放熱ロスを抑えて有効に使用することができる、という優れた効果を奏する。
【0090】
また、本実施形態に係る蓄熱材の使用方法では、反応助剤20は、塩化リチウム、臭化リチウム、または塩化マグネシウムのうち、少なくとも何れかに該当する物質であること、を特徴とする。この特徴により、雰囲気下にある水蒸気30Sを吸収して、ミョウバン無水物11等のミョウバン水分欠落物14の結晶と水蒸気30Sとの反応を促進することができる。しかも、このような種の反応助剤20は、混合させるミョウバン水分欠落物14に対し、変質・変性等による悪影響を及ぼさない。また、このような塩化リチウム等の反応助剤20は、ミョウバン水分欠落物14と混合しても、安定した状態の下で、雰囲気下にある水蒸気30Sを、ミョウバン水分欠落物14に吸収させることができる。
【0091】
また、本実施形態に係る蓄熱材の使用方法は、反応助剤20は、ミョウバン水和物10と反応助剤20とによる蓄熱材組成物1全体に占める重量比で、少なくとも10wt%以上を満たす割合で添加されていること、を特徴とする。この特徴により、第二工程では、完全なミョウバン十二水和物の状態にあるミョウバン水和物10、または略ミョウバン十二水和物の状態にあるミョウバン水和物10が、実用上、特に大きな問題とならない程度に生成できるようになる。
【0092】
また、本実施形態に係る蓄熱材の使用方法では、ミョウバン水分欠落物14の生成にあたり、ミョウバン水和物10を加熱する温度は、250℃以上であること、を特徴とする。この特徴により、ミョウバン水分欠落物14は、ミョウバン水和物10からその12水和水相当分の水分12が全て脱離した状態のミョウバン無水物11になる。そのため、第二工程でミョウバン水和物10を生成するにあたり、最多となる12水和水に相当する分の水30が、ミョウバン無水物11に結合される水和反応により、この水和反応時に発生する放熱量は、ミョウバン水分欠落物14からミョウバン水和物10を生成する過程で、最も大きくなる。
【0093】
また、本実施形態に係る蓄熱材の使用方法では、第一工程で用いる基材13は、既製品のミョウバン無水物11であること、を特徴とする。この特徴により、特に、本実施形態に係る蓄熱材の使用方法を初めて利用する前の状況下で、第一工程で基材13を準備するにあたり、ミョウバン水和物10をベースにミョウバン水分欠落物14を生成するまでの工程が不要になるため、その工程を行うのに必要な時間とエネルギが節約できる。
【0094】
また、本実施形態に係る蓄熱材の使用方法では、ミョウバン水和物10は、アンモニウムミョウバン十二水和物(AlNH(SO・12HO)、または、カリウムミョウバン十二水和物(AlK(SO・12HO)の少なくともいずれか一方であること、を特徴とする。この特徴により、アンモニウムミョウバン十二水和物やカリウムミョウバン十二水和物は、市場で幅広く流通して入手し易く、安価である。しかも、アンモニウムミョウバン十二水和物等は、蓄える潜熱の蓄熱量やその放熱量に対し、比較的大きな物性を有しているため、蓄熱材の中でも、大容量の熱を蓄熱し、それを放熱する蓄熱・放熱性能を具備できている点で、優れている。
【0095】
また、本実施形態に係る蓄熱材容器50の作用・効果について説明する。本実施形態に係る蓄熱材容器50は、熱の出入りを利用して蓄熱またはその放熱を行う蓄熱材を、充填して収容するための蓄熱材容器において、蓄熱材を収容する内部空間51に、供給水30Wまたは水蒸気30Sを外部から供給するための取水口として、閉蓋可能に形成された取水口52と、内部空間51の圧力を制御する圧力調整弁55と、を備え、圧力調整弁55は、内部空間51から蓄熱材の流出を遮断すると共に、内部空間51の内外で液体LQの流通を遮断する一方で、内部空間51から気体GSの流出を許容する弁体部56を有していること、蓄熱材は、本実施形態に係る蓄熱材の使用方法で用いる基材13から生成されるミョウバン水和物10を、少なくとも含むものであること、を特徴とする。この特徴により、本実施形態に係る蓄熱材の使用方法は、より簡単な構造で構成される安価な蓄熱材容器50を用いて、ミョウバン水和物10に蓄えた熱を、その必要時に、放熱ロスを抑えて有効に使用することができるようになる。蓄熱材容器50を用いた本実施形態に係る蓄熱材の使用方法は、前述した蓄熱材10(または蓄熱材組成物1)の用途に合わせ、活用の自由度を高くした幅広い分野のニーズに応えて、利用することができる。
【0096】
また、本実施形態に係る蓄熱材組成物1の作用・効果について説明する。本実施形態に係る蓄熱材組成物1は、水和反応に伴う反応熱の出入りを利用して蓄熱またはその放熱を行う蓄熱材10と、該蓄熱材10の物性を調整する添加剤20とを配合してなる蓄熱材組成物において、添加剤20は、潮解性を有する反応助剤20であること、蓄熱材10は、一種以上の無機塩水和物を含むミョウバン水和物10であり、当該蓄熱材組成物1は、初めて使用する前の状態下で、ミョウバン水和物10と反応助剤20との混合物であること、または、蓄熱材10の構成成分が、一種以上の無機塩無水物を含むミョウバン無水物11であり、当該蓄熱材組成物1は、初めて使用する前の状態下で、ミョウバン無水物11と反応助剤20との混合物であること、を特徴とする。
【0097】
この特徴により、本実施形態に係る蓄熱材の使用方法を、水蒸気30Sによる加水を行って実施するにあたり、蓄熱材組成物1を用いると、放熱ロスによるエネルギ損失を抑えて、ミョウバン水和物10の生成時に、加水により水和反応で生じた水30との結合エネルギによる熱が、熱需要先側で有効に使用できるようになる。また、ミョウバン無水物11の重量は、ミョウバンの組成を同じとしたミョウバン水和物10と比べ、12水和水相当分の水分12を欠落している分、量を小さくして軽くなっているため、蓄熱材組成物1を初めて使用する前の状況下では、可搬性の良いミョウバン無水物11は、コストメリットを有する。
【0098】
さらに、ミョウバン水和物10は、12水和水相当分の水分12を含有しており、水和数1から12までの幅広いレンジで、水分12を脱離して欠落させることができるため、ミョウバン水和物10の再生時に、水和反応で生じた水30との結合エネルギによる熱の放熱量も、より幅広いレンジの中から適切に選択することができる。また、ミョウバン水和物10では、その融液が、蓄熱材容器50の形状に関わらず、蓄熱材容器50の内部空間51に充填でき、水分12の脱離により、ミョウバン無水物11が凝固した状態になっても、このミョウバン無水物11は、ミョウバン水和物10の用途に適合した蓄熱材容器50の内部空間51の形状に倣った成形態様の下で、適切に放熱することができる。
【0099】
従って、本実施形態に係る蓄熱材組成物1によれば、蓄熱材10であるミョウバン水和物10に蓄えた熱を、その必要時に、放熱ロスを抑えて有効に使用することができる、という優れた効果を奏する。
【0100】
また、本実施形態に係る蓄熱材組成物1では、反応助剤20は、塩化リチウム、臭化リチウム、または塩化マグネシウムのうち、少なくとも何れかに該当する物質であること、を特徴とする。この特徴により、本実施形態に係る蓄熱材の使用方法を実施するにあたり、蓄熱材組成物1が用いられると、雰囲気下にある水蒸気30Sを吸収して、ミョウバン無水物11等のミョウバン水分欠落物14の結晶と水蒸気30Sとの反応を促進することができる。しかも、このような種の反応助剤20は、混合させるミョウバン水分欠落物14に対し、変質・変性等による悪影響を及ぼさない。また、このような塩化リチウム等の反応助剤20は、ミョウバン水分欠落物14と混合しても、安定した状態の下で、雰囲気下にある水蒸気30Sを、ミョウバン水分欠落物14に吸収させることができるため、熱需要先側での放熱時に、蓄熱材組成物1は、化学的に安定した組成の下で、再生されるようになる。
【0101】
また、本実施形態に係る蓄熱材組成物1では、当該蓄熱材組成物1全体の重量に占める反応助剤20の配合比率は、少なくとも10wt%以上であること、を特徴とする。この特徴により、本実施形態に係る蓄熱材の使用方法を実施するにあたり、蓄熱材組成物1が用いられると、熱需要先側で蓄熱材組成物1からの放熱時に、蓄熱材組成物1に含むミョウバン水和物10は、完全なミョウバン十二水和物の状態、または略ミョウバン十二水和物の状態に再生できるため、実用上、特に大きな問題なく、蓄熱材組成物1からの放熱を使用することができる。
【0102】
また、本実施形態に係る蓄熱材組成物1では、ミョウバン水和物10は、アンモニウムミョウバン十二水和物、またはカリウムミョウバン十二水和物の少なくともいずれか一方であること、あるいは、ミョウバン無水物11は、アンモニウムミョウバン無水物、またはカリウムミョウバン無水物の少なくともいずれか一方であること、を特徴とする。この特徴により、アンモニウムミョウバン十二水和物やそのアンモニウムミョウバン無水物、カリウムミョウバン十二水和物やカリウムミョウバン無水物は、市場で幅広く流通して入手し易く、安価である。アンモニウムミョウバン十二水和物やカリウムミョウバン十二水和物は、食品添加物や化粧品原料等にも使用されていることから、人体にとっても安全な物質であり、安全衛生上、取扱いが容易である。
【0103】
以上において、本発明に係る蓄熱材の使用方法、蓄熱材容器、及び蓄熱材組成物について、実施形態に即して説明したが、本発明に係る蓄熱材の使用方法、蓄熱材容器、及び蓄熱材組成物は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できる。
【0104】
(1)例えば、実施形態では、略ミョウバン水和物を、完全なミョウバン水和物に対し、同体積比で、完全なミョウバン水和物の重量に対し、90%以上に相当する重量をなしたものとしたが、実用上、特に大きな問題とならない程度であれば、略ミョウバン水和物の重量は、完全なミョウバン水和物の重量に対し、例えば、80%以上~90%未満を下限に設定しても良く、実用上に照らし合わせて、適宜変更可能である。
(2)また、実施形態では、実験4~6において、測定終了時の試料重量比率が90%超えとなった実施例1~6に基づき、反応助剤20の配合比率の下限を設定したが、実用上、特に大きな問題とならなければ、略ミョウバン水和物の重量を、例えば、完全なミョウバン水和物の重量の80%以上としても良い。この場合には、反応助剤20の配合比率の下限は、以下の通りである。つまり、反応助剤20が臭化リチウムの場合、反応助剤20Aは、少なくとも10wt%以上としても良い。反応助剤20が塩化リチウムの場合、反応助剤20Bは、少なくとも10wt%以上としても良い。反応助剤20が塩化マグネシウムの場合、反応助剤20Cは、少なくとも5wt%以上としても良い。
【符号の説明】
【0105】
1,1A,1B,1C 蓄熱材組成物
10 蓄熱材(ミョウバン水和物)
11 ミョウバン無水物
12 水分(ミョウバン水和物に含む12水和水に相当)
13 基材
14 ミョウバン水分欠落物
20,20A,20B,20C 反応助剤(添加剤)
30 水
30S 水蒸気(加水)
30W 供給水(加水,水)
50 蓄熱材容器
51 内部空間
52 取水口(取水手段)
55 圧力調整弁
56 弁体部
GS 気体
LQ 液体
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