(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】電気用コネクタ
(51)【国際特許分類】
H01R 13/64 20060101AFI20220907BHJP
H01R 13/639 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
H01R13/64
H01R13/639 Z
(21)【出願番号】P 2019186630
(22)【出願日】2019-10-10
【審査請求日】2021-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000231822
【氏名又は名称】日本端子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内海 雅之
(72)【発明者】
【氏名】澁澤 勇樹
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 渉
【審査官】山下 寿信
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-152274(JP,A)
【文献】実開平01-165582(JP,U)
【文献】特開2004-071288(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0282791(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/64
H01R 13/639
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
雌側ハウジングと、前記雌側ハウジングに取り付けられた雌側端子と、前記雌側ハウジングの外側部に内向きに弾性変形可能に設けられたロック用片部と、前記ロック用片部に形成されたロック用開口とを含む雌側コネクタと、
前記雌側ハウジングを差し込まれるべく少なくとも一方に開口を有するコネクタ差込室を画定する雄側ハウジングと、前記雄側ハウジングに取り付けられた雄側端子と、前記雄側ハウジングに形成され、前記ロック用開口に係脱可能なロック用突部とを含む雄側コネクタと、
前記雌側ハウジングの後部に着脱可能に装着される主部を含む補助パーツとを有し、
前記ロック用突部が前記ロック用開口に係合することにより、前記雄側ハウジングに対して前記雌側コネクタが抜け止めされる慣性ロックコネクタであって、
前記雌側ハウジングと前記ロック用片部との間に差込方向に延在する空隙部を有し、
前記補助パーツは、前記主部より延出して前記空隙部に挿入可能な突出片を有し、
前記ロック用突部が前記ロック用開口に係合した状態においては、前記突出片は、前記ロック用片部と干渉することなく第1挿入位置まで挿入可能であり、
前記ロック用突部が前記ロック用開口に係合せず、前記ロック用片部が、前記ロック用突部により押圧されることにより前記空隙部内に向けて弾性変形した状態においては、前記突出片は、前記第1挿入位置より挿入量が少ない第2挿入位置にて前記ロック用片部に当接
し、
前記突出片は傾斜面を含み、前記傾斜面は、前記空隙部の側に向けて変形した前記ロック用片部に当接し、当該突出片の前記空隙部に対する挿入力が前記ロック用片部の変形を減少させる方向の分力を生じる方向に傾斜している電気用コネクタ。
【請求項2】
雌側ハウジングと、前記雌側ハウジングに取り付けられた雌側端子と、前記雌側ハウジングの外側部に内向きに弾性変形可能に設けられたロック用片部と、前記ロック用片部に形成されたロック用開口とを含む雌側コネクタと、
前記雌側ハウジングを差し込まれるべく少なくとも一方に開口を有するコネクタ差込室を画定する雄側ハウジングと、前記雄側ハウジングに取り付けられた雄側端子と、前記雄側ハウジングに形成され、前記ロック用開口に係脱可能なロック用突部とを含む雄側コネクタと、
前記雌側ハウジングの後部に着脱可能に装着される主部を含む補助パーツとを有し、
前記ロック用突部が前記ロック用開口に係合することにより、前記雄側ハウジングに対して前記雌側コネクタが抜け止めされる慣性ロックコネクタであって、
前記雌側ハウジングと前記ロック用片部との間に差込方向に延在する空隙部を有し、
前記補助パーツは、前記主部より延出して前記空隙部に挿入可能な突出片を有し、
前記ロック用突部が前記ロック用開口に係合した状態においては、前記突出片は、前記ロック用片部と干渉することなく第1挿入位置まで挿入可能であり、
前記ロック用突部が前記ロック用開口に係合せず、前記ロック用片部が、前記ロック用突部により押圧されることにより前記空隙部内に向けて弾性変形した状態においては、前記突出片は、前記第1挿入位置より挿入量が少ない第2挿入位置にて前記ロック用片部に当接
し、
前記雄側ハウジングは前記空隙部に整合する部分を含んで外部に向けて開口した開口を有し、
前記突出片は前記第1挿入位置まで挿入された状態において前記開口より外部に突出する先端部を含んでいると共に、前記先端部を含む中央突片部及び前記中央突片部の側部に設けられた拡張突片部を有し、
前記拡張突片部は、前記先端部より前記主部側に、前記空隙部の側に向けて変形した前記ロック用片部に当接し、当該突出片の前記空隙部に対する挿入力が前記ロック用片部の変形を減少させる方向の分力を生じる方向に傾斜した傾斜面を含む電気用コネクタ。
【請求項3】
前記ロック用開口は前記ロック用片部を貫通する貫通孔により構成され、
前記突出片は前記第2挿入位置において前記ロック用開口の内面に当接する部分を含んでいる
請求項1又は2に記載の電気用コネクタ。
【請求項4】
前記雄側ハウジングは前記空隙部に整合する部分を含んで外部に向けて開口した開口を有し、
前記突出片は前記第1挿入位置まで挿入された状態において前記開口より外部に突出する先端部を含んでいる
請求項1に記載の電気用コネクタ。
【請求項5】
前記ロック用片部は前記差込方向に延在して両端を前記雌側ハウジングに結合された両持ち梁状をなし、前記ロック用開口は前記ロック用片部の延在方向の中間部に形成されている
請求項1に記載の電気用コネクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気用コネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
電気用コネクタとして、雌側端子を保持した雌側ハウジング及び前記雌側ハウジングに形成された弾性片の外面から外方に突出したロック用突部を含む雌側コネクタと、前記雌側ハウジングを受け入れるべく少なくとも一方に開口を有するコネクタ差込室を画定し、雄側端子を保持した雄側ハウジング及び前記ロック用突部が係合すべく前記雄側コネクタのハウジングに形成されたロック用開口を含む雄側コネクタとを有し、雌側端子と雄側端子との嵌合に先立ってロック用突部とロック用開口との嵌合が、雌側端子と雄側端子との嵌合に要する挿入力よりの大きいピーク値(ロックピーク値)の挿入力を要するように構成され、端子の半嵌合(不完全嵌合)を防止すべく、挿入力のロックピークによって生じる慣性力によって雌側端子と雄側端子との嵌合が一気に行われる慣性ロックコネクタが知られている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-345149号公報
【文献】特開2006-147322号公報
【文献】特開2013-30381号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の慣性ロックコネクタは、雄側ハウジングに対する雌側ハウジングの差込操作が適切に行われず、半嵌合状態であると、そのことを作業者に明確に知らせることの工夫がなされていない。このため、慣性ロックコネクタが半嵌合状態で使用に供される虞が高くなる。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、慣性ロックコネクタ等の電気用コネクタが半嵌合状態であることを作業者に明確に知らせ、電気用コネクタが半嵌合状態で使用に供されるリスクを低減することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの実施形態による電気用コネクタは、雌側ハウジング(52)と、前記雌側ハウジング(52)に取り付けられた雌側端子(58)と、前記雌側ハウジング(52)の外側部に内向きに弾性変形可能に設けられたロック用片部(62)と、前記ロック用片部(62)に形成されたロック用開口(70)とを含む雌側コネクタ(50)と、前記雌側ハウジング(52)を差し込まれるべく少なくとも一方に開口を有するコネクタ差込室(14)を画定する雄側ハウジング(12)と、前記雄側ハウジング(12)に取り付けられた雄側端子(18)と、前記雄側ハウジング(12)に形成され、前記ロック用開口(70)に係脱可能なロック用突部(22)とを含む雄側コネクタ(10)と、前記雌側ハウジング(52)の後部に着脱可能に装着される主部(82)を含む補助パーツ(80)とを有し、前記ロック用突部(22)が前記ロック用開口(70)に係合することにより、前記雄側ハウジング(12)に対して前記雌側コネクタ(52)が抜け止めされる慣性ロックコネクタであって、前記雌側ハウジング(52)と前記ロック用片部(62)との間に差込方向に延在する空隙部(64)を有し、前記補助パーツ(80)は、前記主部(82)より延出して前記空隙部(64)に挿入可能な突出片(94)を有し、前記ロック用突部(22)が前記ロック用開口(70)に係合した状態においては、前記突出片(96)は、前記ロック用片部(62)と干渉することなく第1挿入位置まで挿入可能であり、前記ロック用突部(22)が前記ロック用開口(70)に係合せず、前記ロック用片部(62)が、前記ロック用突部(22)により押圧されることにより前記空隙部(64)内に向けて弾性変形した状態においては、前記突出片(96)は、前記第1挿入位置より挿入量が少ない第2挿入位置にて前記ロック用片部(62)に当接することにより、それ以上の挿入を阻害される。
【0007】
この構成によれば、雌側ハウジング(52)に対する補助パーツ(80)の位置(第2挿入位置)により、電気用コネクタが半嵌合状態であることを作業者に明確に知らせることができ、電気用コネクタが半嵌合状態で使用に供されるリスクを低減することができる。
【0008】
上記電気用コネクタにおいて、好ましくは、前記ロック用開口(70)は前記ロック用片部(62)を貫通する貫通孔により構成され、前記突出片(94)は前記第2挿入位置において前記ロック用開口(70)の内面(70A)に当接する部分を含んでいる。
【0009】
この構成によれば、第2挿入位置が一義的に決まり、電気用コネクタが半嵌合状態であることを作業者により一層明確に知らせることができる。
【0010】
上記電気用コネクタにおいて、好ましくは、前記雄側ハウジング(12)は前記空隙部(64)に整合する部分を含んで外部に向けて開口した開口(24)を有し、前記突出片(94)は前記第1挿入位置まで挿入された状態において前記開口(24)より外部に突出する先端部(96A)を含んでいる。
【0011】
この構成によれば、開口(24)より先端部(96A)が外部に突出しているか否かが、作業者の目視やカメラによる画像データの解析等によって判別されることにより、電気用コネクタが全嵌合状態であるか否かが明確に判断されるようになる。
【0012】
上記電気用コネクタにおいて、好ましくは、前記突出片(94)は傾斜面(98A)を含み、前記傾斜面(98A)は、前記空隙部(64)の側に向けて変形した前記ロック用片部(62)に当接し、当該突出片(94)の前記空隙部(64)に対する挿入力が前記ロック用片部(62)の変形を減少させる方向の分力を生じる方向に傾斜している。
【0013】
この構成によれば、空隙部(64)に対する突出片(94)の挿入により、ロック用片部(62)の変形が解消され、ロック用片部(62)の折り曲がり変形に起因するロック不良の状態のまま、電気用コネクタが使用に供されるリスクが低減する。
【0014】
上記電気用コネクタにおいて、好ましくは、前記突出片(94)は、前記先端部(96A)を含む中央突片部(96)及び前記中央突片部(96)の側部に設けられた拡張突片部(98)を有し、前記拡張突片部(98)は、前記先端部(96A)より前記主部(82)側に傾斜面(98A)を含み、前記傾斜面(98A)は、前記空隙部(64)の側に向けて変形した前記ロック用片部(62)に当接し、当該突出片(94)の前記空隙部(64)に対する挿入力が前記ロック用片部(62)の変形を減少させる方向の分力を生じる方向に傾斜している。
【0015】
この構成によれば、空隙部(64)に対する突出片(94)の挿入により、ロック用片部(62)の変形が解消され、ロック用片部(62)の折り曲がり変形に起因するロック不良の状態のまま、電気用コネクタが使用に供されるリスクが低減する。
【0016】
上記電気用コネクタにおいて、好ましくは、前記ロック用片部(62)は前記差込方向に延在して両端を前記雌側ハウジング(52)に結合された両持ち梁状をなし、前記ロック用開口(70)は前記ロック用片部(62)の延在方向の中間部に形成されている。
【0017】
この構成によれば、ロック用片部(62)が片持ち梁状である場合に比してロック用片部(62)の強度及び耐久性が向上すると共に良好なロック作用が得られる。
【発明の効果】
【0018】
本実施形態による電気用コネクタによれば、電気用コネクタが半嵌合状態であることを作業者に明確に知らせることができ、電気用コネクタが半嵌合状態で使用に供されるリスクを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一つの実施形態による電気用コネクタの雄側コネクタ及び雌側コネクタを示す斜視図
【
図2】本実施形態による電気用コネクタの結合状態及び補助パーツを示す斜視図
【
図3】本実施形態による電気用コネクタの結合状態及び補助パーツの装着状態を示す斜視図
【
図4】本実施形態による電気用コネクタの端子配置部の断面図
【
図5】本実施形態による電気用コネクタの中央隔壁部の断面図
【
図6】本実施形態による電気用コネクタの補助パーツの装着状態を示す断面図
【
図7】本実施形態による電気用コネクタの半嵌合状態を示す断面図
【
図8】本実施形態による電気用コネクタの半嵌合状態下での補助パーツの装着状態を示す断面図
【
図9】本実施形態による電気用コネクタのロック用片部の倒れ状態を示す断面図
【
図10】本実施形態による電気用コネクタのロック用片部の倒れ状態下での補助パーツの装着状態を示す断面図
【
図11】本発明の他の実施形態による電気用コネクタの中央隔壁部の断面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明による電気用コネクタの一つの実施形態を、
図1~
図10を参照して説明する。
【0021】
本実施形態の電気用コネクタは、
図1~
図6に示されているように、2極の表面実装の慣性ロックコネクタであり、雄側コネクタ10と、雌側コネクタ50と、補助パーツ80を有する。
【0022】
雄側コネクタ10は合成樹脂の成形品による雄側ハウジング12を有する。雄側ハウジング12は、後述の雌側ハウジング52を差し込まれるべく一方が開口した長方体状の空間によるコネクタ差込室14を画定している。雄側ハウジング12は、コネクタ差込室14の奧壁をなす壁部16にインサート成形により固定された各極の雄側端子18を保持している。
【0023】
各雄側端子18は、帯状の金属板により構成され、
図4に示されているように、コネクタ差込室14内に突出した導電接触部18A及び雄側ハウジング12外に突出した基板接続部18Bを含んで雄側ハウジング12に取り付けられている。
【0024】
雄側コネクタ10は、雄側ハウジング12の外側部に係止され且つプリント基板100に半田付けにより結合されたメタルプレート20(
図1~
図3参照)によって、ライトアングル型雄側コネクタとして、プリント基板100上に固定されている。各雄側端子18の基板接続部18Bはプリント基板100に形成されている導電パターン部(不図示)に半田付け等により導通接続される。
【0025】
雄側ハウジング12には、
図5及び
図6に示されているように、コネクタ差込室14の開口縁部の上部からコネクタ差込室14に向けて突出したロック用突部22が形成されている。ロック用突部22は、コネクタ差込室14に対するコネクタ抜き差し方向(
図5及び
図6で見て左右方向)に直交する方向に延在する慣性ロック用前面22A及び係止用後面22Bを含む長方体状をなしている。
【0026】
雌側コネクタ50は合成樹脂の成形品による雌側ハウジング52を有する。雌側ハウジング52は、コネクタ差込室14に差込み可能な長方体状をなし、中央隔壁54(
図1及び
図5参照)により左右に区分された2個の端子室56(
図1及び4参照)を画定している。
【0027】
各端子室56には雌側端子58が取り付けられている。各雌側端子58は、金属製のプレス成形品による圧着端子であり、導電接触部18Aを抜き差し可能に差し込まれて対応する雄側端子18と導通接続される導電接触部58A、電気ケーブル110の絶縁被覆部110Aがかしめにより圧着される被覆バレル部58B及び電気ケーブル110の芯線110Bがかしめにより圧着される芯線バレル部58Cを含む。雌側ハウジング52には各雌側端子58を雌側ハウジング52に係止するサイドリテーナ60が取り付けられている。
【0028】
本実施形態の慣性ロックコネクタでは、
図4に示されているように、雌側ハウジング52の前端面が当該前端面に対向するコネクタ差込室14の奥面に当接する位置にまで雌側ハウジング52がコネクタ差込室14に差し込まれた状態をコネクタの完全嵌合状態と云う。この完全嵌合状態では、対応する導電接触部18Aと58Aとの接触により対応する雄側端子18と雌側端子58とが導通状態で接続される。
【0029】
雌側ハウジング52の上側には、
図1、
図4及び
図5に示されているように、ロック用片部62が形成されている。ロック用片部62は、雌側ハウジング52の上方を、空隙部64をおいてコネクタ抜き差し方向に延在し、前後の各端部を結合部66及び68によって雌側ハウジング52に結合された両持ち梁状をなし、内向きに、つまりに空隙部64の側に向けて弓状に弾性変形可能なばね片をなす。ロック用片部62はコネクタ差込室14に進入可能な前側部分62A及び前側部分62Aより一段高く、前述の完全嵌合状態においてコネクタ差込室14の外方に位置する後側部分62Bを含む。
【0030】
前側部分62Aには、前側部分62Aを上下に貫通した貫通孔によるロック用開口70が形成されている。ロック用開口70は、ロック用片部62の全体で見てロック用片部62の延在方向の中間部(略1/2の部位)に形成され、平面形状がロック用突部22を受容可能な矩形をなし、ロック用突部22の係止用後面22Bと前後に対向する係止用後面(開口端面)70Aを含む。
【0031】
前側部分62Aはコネクタ差込室14に対する雌側ハウジング52の差込方向Aの移動においてロック用片部62の弾性変形のもとにロック用突部22の下側を通過し、この通過後にロック用片部62の弾発力による形状の復元によってロック用開口70にロック用突部22が係合し、係止用後面22Bと係止用後面70Aとが正対することにより、雌側ハウジング52がコネクタ差込室14から抜き出ることを阻止するロック状態になる。
【0032】
慣性ロックコネクタにおいては、ロック用片部62はコネクタ抜き差し方向(
図5及び
図6で見て左右方向)に直交する方向に延在する慣性ロック用前面22Aに対向(正対)する慣性ロック用前面62Cを含む。
【0033】
コネクタ差込室14に対する雌側ハウジング52の差込過程において、ロック用片部62の慣性ロック用前面62Cがロック用突部22の慣性ロック用前面22Aに衝突し、ロック用片部62がロック用突部22により押圧されて生じる弾性変形のもとにロック用突部22の下側を潜るようして通過する際に、挿入力(差込操作力)にロックピーク値が生じ、その後にロックピーク値に基づく慣性力によってコネクタ差込室14に対する雌側ハウジング52の差し込みが進行して雄側端子18に対する雌側端子58の嵌合が一気に行われる。
【0034】
ロック用片部62は結合部分66及び68によって前後両端を雌側ハウジング52に結合された両持ち梁状をなしているから、ロック用片部62が片持ち梁状である場合に比してロック用片部62の強度及耐久性が向上する。その上で、ロック用開口70はロック用片部62の延在方向の中間部に形成されているから、良好な慣性ロック作用が得られる。
【0035】
ロック用片部62の前側部分62Aの左右方向の中央部には、
図1及び
図5に示されているように、空隙部64を前方に開放する開口72が形成されている。また、雄側ハウジング12の壁部16が開口72に前後に整合する部位には、空隙部64に整合する部分を含んで外部に向けて開口した開口24が形成されている。
【0036】
補助パーツ80は、一つの樹脂成形品であり、
図2、
図3及び
図6に示されているように、ブロック状の主部82を有する。主部82は、雌側ハウジング52の、当該雌側ハウジング52のコネクタ差込室14に対する差込方向Aで見て後側の面52Aに当接する当接面84を含む。主部82は差込方向Aで見て後側に垂下延出部86を含み、垂下延出部86の後面が、差込方向Aで見て当接面84より後方において差込方向Aに直交する方向に延在する後端面88をなしている。
【0037】
主部82の左右両側には、
図2に示されているように、主部82より前方に延出した係止用延出部90が設けられている。係止用延出部90は先端部に係止用開口92を有する。雌側ハウジング52の左右両側に形成された係止用突部74が形成されている。
【0038】
主部82は、係止用開口92が係止用突部74に係合することにより、雌側ハウジング52の後部に着脱可能に装着される。主部82は、雌側ハウジング52から後方に延出している電気ケーブル110を垂下延出部86によって下方に折り曲げ、電気ケーブル110の案内部材をなす。
【0039】
補助パーツ80は、
図2及び
図6に示されているように、主部82より前方に延出して空隙部64に挿入可能な突出片94を有する。突出片94は中央突片部96及び中央突片部96の左右両側に設けられた拡張突片部98を有する。
【0040】
中央突片部96は、
図5及び
図6に示されているように、ロック用突部22がロック用開口70に係合し、ロック用片部62が形状を復元した状態においては、ロック用片部62と干渉することなく前述の完全嵌合状態が得られる最大の第1挿入位置まで挿入可能である。中央突片部96が第1挿入位置にある状態では、ロック用片部62が空隙部64の側に弾性変形することが阻止され、ロック用開口70がロック用突部22との係合より離脱することを阻止される。これにより、雌側ハウジング52がコネクタ差込室14から抜き出ることを阻止するロック状態が確実に維持される。
【0041】
これに対し、中央突片部96は、
図7に及び
図8に示されているように、ロック用突部22がロック用開口70に係合せず、ロック用片部62がロック用突部22との当接により押圧されて空隙部64の側に弾性変形した状態においては、第1挿入位置より挿入量が少ない第2挿入位置にて中央突片部96の先端部96Aがロック用片部62に当接し、より詳細には先端部96Aがロック用開口70の前側の内面70Aに当接することにより、それ以上の挿入を阻害され、それ以上挿入できなくなるか、挿入に要する挿入力が飛躍的に増大する。
【0042】
この現象により、前述の完全嵌合状態が得られていない状態、つまり、慣性ロックコネクタが半嵌合状態であることを作業者に明確に知らせることができる。
【0043】
本実施形態では、中央突片部96の先端部96Aがロック用開口70の内面70Aに当接することにより、空隙部64に対する突出片94のそれ以上の挿入が阻害されるから、第2挿入位置が一義的に決まり、慣性ロックコネクタが半嵌合状態であることを作業者により一層明確に知らせることができる。
【0044】
この構成によれば、中央突片部96は、全嵌合状態が得られる第1挿入位置まで挿入された状態では、
図6に示されているように、先端部96Aが開口24より所定の長さLだけ雌側ハウジング52の外部に突出する全長を有する。
【0045】
これにより、全嵌合状態では、開口24から中央突片部96の先端部96Aが雌側ハウジング52の外部に突出するから、作業者の目視やカメラによる画像データの解析等による確認によって慣性ロックコネクタが全嵌合状態であることが明確に判断されるようになる。
【0046】
つまり、開口24より先端部96Aが外部に突出しているか否が、作業者の目視やカメラによる画像データの解析等によって判別されることにより、慣性ロックコネクタが全嵌合状態であるか否かが明確に判断されるようになる。
【0047】
これらのことにより、慣性ロックコネクタが半嵌合状態で使用に供されるリスクが低減する。
【0048】
各拡張突片部98は、先端近傍の上面に、
図2及び
図10に示されているように、傾斜面98Aを含む。各傾斜面98Aは、突出片94の空隙部64に対する挿入力がロック用片部62の空隙部64を塞ぐ側への変形を減少させる方向の分力を生じる方向に傾斜している。つまり、各傾斜面98Aはその先端(前端)側から見て上り勾配になる方向に傾斜している。
【0049】
雌側コネクタ50或いは雌側ハウジング52単体の搬送中等において、ロック用片部62に何だかの外力が作用し、ロック用片部62が、
図10に示されているように、空隙部64を塞ぐ側に折り曲がり変形する不具合が生じることがある。
【0050】
雌側コネクタ50は、ロック用片部62に折り曲がり変形が生じていても、雄側コネクタ10との結合において、
図10に示されているように、全嵌合状態になり得る。この全嵌合状態において、補助パーツ80を雌側コネクタ50に装着すべく、突出片94が空隙部64に挿入されると、拡張突片部98の傾斜面98Aが、空隙部64に侵入しているロック用片部62の前側部分62Aの下面62D(
図10参照)に当接する。これより更に、突出片94が空隙部64に挿入されると、その挿入力が傾斜面98Aの作用により、ロック用片部62の空隙部64を塞ぐ側への変形を減少させる方向の分力を生じる。つまり、変形しているロック用片部62を持ち上げる力が生じ、ロック用片部62の変形が解消され、ロック用片部62が正常な形状に復元する。
【0051】
これにより、ロック用開口70にロック用突部22が係合した正常なロック状態が得られ、ロック用片部62の折り曲がり変形に起因するロック不良の状態のまま、慣性ロックコネクタが使用に供されるリスクが低減する。
【0052】
本実施形態では、傾斜面98Aが先端部96Aより主部82側にあることにより、傾斜面98Aによってロック用片部62の変形を解消することが、中央突片部96の先端部96Aが空隙部64に挿入されている状態下で、補助パーツ80が雌側ハウジング52に対して上下にぐら付くことなく確実に行われる。
【0053】
雌側コネクタ50を雄側コネクタ10から取り外す作業は、先ず、補助パーツ80を雌側コネクタ50から取り外し、ロック用片部62の後側部分62Bを指等により押すことにより行われる。
【0054】
後側部分62Bが押されると、ロック用片部62が下方に向けて弓なりに弾性変形し、ロック用開口70がロック用突部22との係合より離脱する。この状態、つまり、ロックが解除された状態で、雌側コネクタ50をコネクタ差込室14から抜き出すことにより、雌側コネクタ50を雄側コネクタ10から取り外す作業が完了する。
【0055】
以上、本発明を、その好適な実施形態について説明したが、当業者であれば容易に理解できるように、本発明はこのような実施形態により限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0056】
例えば、ロック用開口70は、必ずしも貫通孔によるものでなくてよく、ロック用突部22が係脱可能に進入できる窪み(凹部)であってもよい。本発明による慣性ロックコネクタは、表面実装コネクタに限られることはなく、中継コネクタ等であってもよい。慣性ロックコネクタの極数(端子数)は2極に限られることはなく、2極以上の多極或いは1極であってもよい。
【0057】
本発明による電気用コネクタは、慣性ロックコネクタに限られることなく、
図11に示されているように、互いに対向するロック用突部22の前面とロック用片部62の前面とが傾斜面22C、62Eである一般的なロック機構による電気用コネクタにも、上述の実施形態と同様に適用することができる。
【0058】
また、上記実施形態に示した構成要素は必ずしも全てが必須なものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて適宜取捨選択することが可能である。
【符号の説明】
【0059】
10 :雄側コネクタ
12 :雄側ハウジング
14 :コネクタ差込室
16 :壁部
18 :雄側端子
18A :導電接触部
18B :基板接続部
20 :メタルプレート
22 :ロック用突部
22A :慣性ロック用前面
22B :係止用後面
22C :傾斜面
24 :開口
50 :雌側コネクタ
52 :雌側ハウジング
52A :後面
54 :中央隔壁
56 :端子室
58 :雌側端子
58A :導電接触部
58B :被覆バレル部
58C :芯線バレル部
60 :サイドリテーナ
62 :ロック用片部
62A :前側部分
62B :後側部分
62C :慣性ロック用前面
62D :下面
62E :傾斜面
64 :空隙部
66 :結合部
70 :ロック用開口
70A :係止用後面
72 :開口
74 :係止用突部
80 :補助パーツ
82 :主部
84 :当接面
86 :垂下延出部
88 :後端面
90 :係止用延出部
92 :係止用開口
94 :突出片
96 :中央突片部
96A :先端部
98 :拡張突片部
98A :傾斜面
100 :プリント基板
110 :電気ケーブル
110A :絶縁被覆部
110B :芯線