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特許7137556半導体レーザ装置、半導体レーザモジュール、溶接用レーザ光源システム、及び、半導体レーザ装置の製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】半導体レーザ装置、半導体レーザモジュール、溶接用レーザ光源システム、及び、半導体レーザ装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/22 20060101AFI20220907BHJP
   H01S 5/20 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
H01S5/22
H01S5/20 610
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2019505842
(86)(22)【出願日】2018-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2018007105
(87)【国際公開番号】W WO2018168430
(87)【国際公開日】2018-09-20
【審査請求日】2021-02-17
(31)【優先権主張番号】P 2017051921
(32)【優先日】2017-03-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】520133916
【氏名又は名称】ヌヴォトンテクノロジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】池戸 教夫
(72)【発明者】
【氏名】中谷 東吾
(72)【発明者】
【氏名】岡口 貴大
(72)【発明者】
【氏名】横山 毅
(72)【発明者】
【氏名】藪下 智仁
(72)【発明者】
【氏名】高山 徹
【審査官】右田 昌士
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-114693(JP,A)
【文献】特開平10-012923(JP,A)
【文献】特開平11-163459(JP,A)
【文献】米国特許第04803691(US,A)
【文献】特開2000-252588(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0112451(US,A1)
【文献】特開平11-233883(JP,A)
【文献】米国特許第05974069(US,A)
【文献】独国特許出願公開第102016106495(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の主面の上方に、第1導電側半導体層、活性層及び第2導電側半導体層が順次積層された積層構造体を備え、マルチ横モードでレーザ発振する半導体レーザ装置であって、
前記第2導電側半導体層は、電流注入領域を画定するための開口部を有し、
前記半導体レーザ装置の共振器長方向に直交し且つ前記基板の主面に平行な横方向において、前記積層構造体における前記第1導電側半導体層の一部から前記第2導電側半導体層までの部分には一対の側面が形成され、
前記横方向において、前記活性層は、前記開口部の第1の幅より広い第2の幅を有し、
前記第1導電側半導体層の少なくとも一部における前記一対の側面は、前記基板の主面に対して傾斜しており、
前記積層構造体を導波する光について、前記基板の主面の法線方向における光分布の最大強度位置は、前記第1導電側半導体層内にあり、
前記第1導電側半導体層は、前記基板の上に、第1導電側の第1半導体層及び第1導電側の第2半導体層をこの順で有し、
前記一対の側面の一方と前記基板の主面とのなす角度をθ[°]とし、
前記活性層から前記第1導電側の第1半導体層と前記第1導電側の第2半導体層との界面までの膜厚をd[μm]とし、
前記積層構造体を導波する光の光分布の幅をNw[μm]とし、
前記第1の幅である開口幅をWs[μm]とし、
前記一対の側面の前記一方と、前記活性層及び前記第1導電側の第2半導体層の界面との交点から前記開口部側面までの距離をX[μm]とすると、以下の関係式を満たす、
【数1】
半導体レーザ装置。
【請求項2】
前記一対の側面は、誘電体膜で覆われている、
請求項1に記載の半導体レーザ装置。
【請求項3】
前記一対の側面の各々は、前記基板に近い側に位置する第1の側面と、前記基板から遠い側に位置する第2の側面とを有し、
前記第1の側面の法線方向と前記基板の主面の法線方向とのなす角θ1は、90度より小さく、
前記第2の側面の法線方向と前記基板の主面の法線方向とのなす角θ2は、90度より大きい、
請求項1又は2に記載の半導体レーザ装置。
【請求項4】
基板の主面の上方に、第1導電側半導体層、活性層及び第2導電側半導体層が順次積層された積層構造体を備え、マルチ横モードでレーザ発振する半導体レーザ装置であって、
前記第2導電側半導体層は、電流注入領域を画定するための開口部を有し、
前記半導体レーザ装置の共振器長方向に直交し且つ前記基板の主面に平行な横方向において、前記積層構造体における前記第1導電側半導体層の一部から前記第2導電側半導体層までの部分には一対の側面が形成され、
前記横方向において、前記活性層は、前記開口部の第1の幅より広い第2の幅を有し、
前記第1導電側半導体層の少なくとも一部における前記一対の側面は、前記基板の主面に対して傾斜しており、
前記積層構造体を導波する光について、前記基板の主面の法線方向における光分布の最大強度位置は、前記第1導電側半導体層内にあり、
前記一対の側面の各々は、前記基板に近い側に位置する第1の側面と、前記基板から遠い側に位置する第2の側面とを有し、
前記第1の側面の法線方向と前記基板の主面の法線方向とのなす角θ1は、90度より小さく、
前記第2の側面の法線方向と前記基板の主面の法線方向とのなす角θ2は、90度より大きく、
前記第1の側面及び前記第2の側面に接するように誘電体膜が前記第1の側面及び前記第2の側面を被覆している、
半導体レーザ装置。
【請求項5】
前記第2の側面の法線方向と前記基板の主面の法線方向とのなす角θ2は、120°≦θ2≦150°である
請求項3又は4に記載の半導体レーザ装置。
【請求項6】
前記積層構造体は、前記一対の側面に挟まれる前記第1導電側半導体層の一部から前記第2導電側半導体層までの間に最狭部を有し、
前記最狭部の幅は、前記第1の幅より大きい、
請求項3~5のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置。
【請求項7】
前記最狭部は、前記第2導電側半導体層内に形成されている、
請求項に記載の半導体レーザ装置。
【請求項8】
前記第2導電側半導体層は、前記基板の上に、第2導電側の第1半導体層、第2導電側の第2半導体層及び第2導電側のコンタクト層とをこの順で有し
記最狭部は、前記第2導電側の第2半導体層と前記第2導電側のコンタクト層との界面付近に形成されている、
請求項又はに記載の半導体レーザ装置。
【請求項9】
前記第1導電側半導体層における第1導電側の第1半導体層及び前記第1導電側の第1半導体層の上の第1導電側の第2半導体層と、前記第2導電側半導体層における第2導電側の第1半導体層及び前記第2導電側の第1半導体層の上の第2導電側の第2半導体層との屈折率を、それぞれ、n11、n12、n21、n22とすると、
22<n11<n12
12≧n21
の関係式を満たす、
請求項1~のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置。
【請求項10】
前記活性層は、単一又は複数の量子井戸層を含む量子井戸構造を有し、
前記活性層における前記量子井戸層の合計膜厚は、100オングストローム以下である、
請求項1~9のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置。
【請求項11】
前記開口部を複数備え、
複数の前記開口部の各々は、前記第1導電側半導体層の一部から前記第2導電側半導体層にわたって形成された分離溝により分離されている、
請求項1~10のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置。
【請求項12】
前記第2導電側半導体層は、前記開口部を有する電流ブロック層を有し、
前記電流ブロック層は、第1導電性半導体からなる、
請求項1~11のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置。
【請求項13】
前記開口部の前記第1の幅は、50μmから300μmである
請求項1~12のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置。
【請求項14】
前記基板の主面の水平方向における前記積層構造体を導波する光分布の幅は、前記開口部の前記第1の幅より大きい、
請求項1~13のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置。
【請求項15】
請求項1~14のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置を備える、
半導体レーザモジュール。
【請求項16】
前記半導体レーザ装置を配置する基台を備え、
前記半導体レーザ装置は前記積層構造体側が前記基台に実装される
請求項15に記載の半導体レーザモジュール。
【請求項17】
前記半導体レーザ装置の前記側面の側方に金属が埋め込まれている
請求項16に記載の半導体レーザモジュール。
【請求項18】
請求項1~14のいずれか1項に記載の半導体レーザ装置を備える、
溶接用レーザ光源システム。
【請求項19】
半導体レーザ装置の製造方法であって、
基板の主面の上方に、第1導電側半導体層、活性層及び第2導電側半導体層を順次積層して積層構造体を形成する工程と、
前記第2導電側半導体層から前記第1導電側半導体層までエッチングして、分離溝を形成する工程とを含み、
前記第2導電側半導体層は、電流注入領域を画定するための開口部を有し、
前記半導体レーザ装置の共振器長方向に直交し且つ前記基板の主面に平行な横方向において、前記積層構造体における前記第1導電側半導体層の一部から前記第2導電側半導体層までの部分には、前記分離溝に起因する一対の側面が形成され、
前記横方向において、前記活性層は、前記開口部の第1の幅より広い第2の幅を有し、
前記第1導電側半導体層の少なくとも一部における前記一対の側面は、前記基板の主面に対して傾斜しており、
前記積層構造体を導波する光について、前記基板の主面の法線方向における光分布の最大強度位置は、前記第1導電側半導体層内にあり、
前記一対の側面の各々は、前記基板に近い側に位置する第1の側面と、前記基板から遠い側に位置する第2の側面とを有し、
前記第1の側面の法線方向と前記基板の主面の法線方向とのなす角θ1は、90度より小さく、
前記第2の側面の法線方向と前記基板の主面の法線方向とのなす角θ2は、90度より大きい、
半導体レーザ装置の製造方法。
【請求項20】
さらに、前記第1の側面と前記第2の側面とに誘電体膜を被覆する工程を含む、
請求項19に記載の半導体レーザ装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体レーザ装置、半導体レーザモジュール及び溶接用レーザ光源システムに関し、特に、溶接用光源、ディスプレイ用光源、センシング用光源、又は、照明用光源、その他の電子装置や情報処理装置などの光源として用いられる半導体レーザ等に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、半導体レーザは、通信用又は光ピックアップ用などの光源として盛んに利用されていたが、近年、通信用又は光ピックアップ用以外の光応用分野の光源として広く活用できるものが求められている。中でも、1エミッタ当たり数十Wもの光出力が実現できる大出力の半導体レーザが切望されている。
【0003】
従来、この種の半導体レーザ装置として、特許文献1に開示された構成のものが知られている。以下、特許文献1に開示された従来の半導体レーザ装置について、図30A及び図30Bを用いて説明する。図30Aは、特許文献1に開示された従来の半導体レーザ装置10の断面図であり、図30Bは、特許文献1に開示された従来の半導体レーザ装置10の各層の禁制帯幅の分布図である。
【0004】
図30Aに示すように、半導体レーザ装置10は、基板19と、基板19の上方に設けられた下部クラッド層15と、下部クラッド層15の上方に設けられたガイド層14と、ガイド層14の上部に設けられた障壁層13(n型障壁層)と、障壁層13の上部に設けられた活性層11と、活性層11の上方に設けられた上部クラッド層12と、上部クラッド層12の上方に設けられた第1コンタクト層17と、ストライプ状の開口部を有し且つ第1コンタクト層17中に設けられた電流ブロック層16と、第1コンタクト層17の上部に設けられた第2コンタクト層18とを有する。
【0005】
図30Bに示すように、活性層11に隣接して設けられた障壁層13の禁制帯幅を、活性層11、ガイド層14及び下部クラッド層15の禁制帯幅よりも大きくしている。また、下部クラッド層15の屈折率を上部クラッド層12の屈折率よりも大きくしている。
【0006】
このような構成にすることで、高駆動電流注入による活性層11の温度上昇に伴うキャリアオーバーフローによる電子が障壁層13を通過して活性層11へ効率よく注入される。また、ガイド層14に拡がった光が導波モードとなり出射端面での光強度が低減するのでCOD(Catastrophic Optical Damage)の発生を抑制することができるとされている。
【0007】
また、特許文献2には、リッジ幅(ストライプ幅)が広い利得導波型の半導体レーザ装置が開示されている。図31は、特許文献2に開示された従来の半導体レーザ装置20の断面図である。
【0008】
図31に示すように、従来の半導体レーザ装置20は、半田材29aを介してヒートシンク29bに接合されている。また、半導体レーザ装置20の表面は、樹脂28によって覆われている。
【0009】
半導体レーザ装置20は、P側電極21a、N-キャップ層22a及びP+-キャップ層22bによって電流狭窄するように構成されている。また、量子井戸層24bがガイド層24a及びガイド層24cを介してP-クラッド層23とN-クラッド層25とで挟まれているとともに、P-キャップ層22cとN-GaAs基板27(N-バッファ層26)とで挟まれた構造である。なお、N-GaAs基板27のN-バッファ層26側とは反対側の面にはN側電極21bが形成されている。
【0010】
このように構成される従来の半導体レーザ装置20では、低反射特性をもつ樹脂28を電流ストライプ幅の両側または片側の側面に被覆することで、リッジ幅の広い利得導波型の半導体レーザ装置において注入電流を増加させたとしても、側面を介した共振器長方向と垂直な方向の光のフィードバックを低減して誘導放出を抑制することができ、共振器長方向のレーザ発振の停止を抑制できるとされている。
【0011】
また、利得導波型の他の半導体レーザ装置が特許文献3に開示されている。図32は、特許文献3に開示された従来の半導体レーザ装置30の断面図である。
【0012】
図32に示すように、半導体レーザ装置30は、共振器長方向に延びる2本の溝31aが形成された半導体基板31の上に、活性層34と、活性層34の上下両側に設けられた一対の光導波層33及び35と、一対のクラッド層32及び36とを備えている。半導体レーザ装置30では、光導波層33及び35が電流注入領域の共振器長方向と直交する横方向の両側において曲がった構造となっている。また、電流注入領域が半導体基板31の2本の溝31aに挟まれた位置に設けられ、各溝31aの深さが活性層34と光導波層33及び35との厚さをそれぞれ加算した厚さ以上になっている。
【0013】
このような構成にすることで、光導波層33及び35から横方向へ漏洩した光がチップ分離側面に伝搬しないようにできるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】国際公開第2010/050071号
【文献】特開2001-308445号公報
【文献】特許第5367263号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、特許文献1に開示された半導体レーザ装置10では、利得導波型の特徴である横方向への光の閉じ込め構造が無いので、光導波路から横方向(共振器長方向に直交し且つ活性層の界面に平行な方向)に光が漏洩しやすい。しかも、電流注入を高注入化した場合には、共振器長方向に定在波として存在している導波モードからの光の漏洩光が増大する。
【0016】
光導波路から横方向に漏洩する光は、半導体層の積層構造体の一対の側面を介して活性層にフィードバックすることになる。この光は、本来発振させたい共振器長方向にフィードバックする光とは導波モードが異なる。このため、これらの光の導波モードが競合し、共振器長方向のレーザ発振が停止するおそれがある。この点、特許文献1には、共振器長方向の導波モードを安定化させることについては何ら記載されておらず、特許文献1に開示された半導体レーザ装置10では、大出力動作そのものが困難である。このように、横方向に光閉じ込め構造を持たない利得導波型の半導体レーザ装置においては、横方向への光の漏洩光の対策が重要である。
【0017】
また、特許文献2に開示された半導体レーザ装置20では、半導体層の積層構造体の一対の側面が、低反射特性をもつ樹脂46で覆われているので、光導波路から横方向に漏洩する光が一対の側面を介してフィードバックすることを抑制できる。これにより、光導波路から横方向に漏洩する光が一対の側面を介してフィードバックする光と、本来発振させたい共振器長方向にフィードバックする光とが競合することを抑制できる。
【0018】
しかしながら、特許文献2に開示された半導体レーザ装置20では、一対の側面を被覆する樹脂46が異質材料であるため屈折率差を無くすことができないので、電流注入量の増加に伴う光導波路内の光量増加に従って漏洩光が増大した場合に、光導波路から横方向に漏洩する光が、やがて一対の側面を介して活性層へフィードバックしてしまい、結局、導波モードの競合が生じてしまう。このため、共振器長方向のレーザ発振が停止してしまうことに変わりはない。したがって、根本的に光導波路から横方向に漏洩する光が一対の側面を介してフィードバックできないよう制御しなければ、本来発振させたい共振器長方向の導波モードを安定化させることができない。
【0019】
また、特許文献3に開示された半導体レーザ装置30では、予め、光導波路を形成する位置を挟み且つ共振器長方向に延在する一対の凹形状の深い溝を半導体基板上に形成しておき、この半導体基板上に半導体層を形成している。これにより、光導波路から横方向に漏洩する光は、半導体基板の一対の溝の上方にて活性層と活性層を挟むように曲がるように形成された光ガイド層とに折り曲げられて減衰する。そのため、半導体層の積層構造体の一対の側面に反射して漏洩光が活性層にフィードバックすることを抑制でき、安定した横モードのレーザ光を実現することができる。
【0020】
しかしながら、特許文献3に開示された半導体レーザ装置30では、半導体基板に溝を形成するための加工プロセス工程が必要になるため、加工プロセスによって半導体基板の表面が汚染したり加工によって傷が発生したりして半導体基板に欠陥が生じるおそれがある。この場合、この欠陥の上に半導体層を結晶成長させることになるため、転移の誘発及び異常成長による再成長ヒロック(結晶欠陥)を多数発生させるおそれがある。
【0021】
1エミッタ当たり数十W級の大出力の半導体レーザ装置を実現するためには、低損失化のためミラー損失を低減すべく共振器長を数mmから十mm程度にして長共振器化する必要があるとともに、利得飽和を抑制して光出射端面の光密度を低減すべくマルチ横モードで動作させるには電流注入幅を広くする必要がある。このため、共振器長を長くし且つ大面積で電流注入を行うために、チップが大型化する。大面積の電流注入領域に対しては、チップ内に誘発される転位及び結晶欠陥の密度を基板レベルにまで低減することは難しく、電流注入領域には転移及び結晶欠陥が含まれてしまう。このため、ウエハ内の均一性が低下して歩留まりの低下につながる。また、たとえ所望の初期特性が実現できたとしても、内在する転移及び結晶欠陥が注入電流により増殖し、大電流を要する1エミッタ当たり10W級の半導体レーザ装置では長期信頼性を得ることができない。
【0022】
さらに、マルチエミッタ構造の半導体レーザ装置では、歩留まりがエミッタ数の分に従ってべき乗で低下するので、長共振器長で大面積に電流注入を行う大型の半導体レーザ装置においては、半導体レーザ装置30の構造は、あまりに歩留まりが悪く不向きである。
【0023】
また、半導体レーザ装置30では、1エミッタ当たりの利得導波型のレーザ発振に必要な領域を形成する他に、光導波路から横方向に漏洩する光を減衰させるための構造として凹領域が必要になるため、小型化が困難であり、また、1エミッタの幅当たりの活性層の利用面積が小さく非常に非効率である。
【0024】
本開示は、以上を鑑みてなされたものであり、光導波路から横方向に漏れた光が活性層にフィードバックすることを抑制し、電流注入量を大きくしてもマルチ横モードでレーザ光を安定して出力させることができ、大出力で長期信頼性に優れた半導体レーザ装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上記目的を達成するために、本開示に係る半導体レーザ装置の一態様は、基板の主面の上方に、第1導電側半導体層、活性層及び第2導電側半導体層が順次積層された積層構造体を備え、マルチモードでレーザ発振する半導体レーザ装置であって、前記第2導電側半導体層は、電流注入領域を画定するための開口部を有する電流ブロック層を有し、前記積層構造体における前記第1導電側半導体層の一部から前記第2導電側半導体層までの部分には一対の側面が形成され、前記活性層は、前記開口部の第1の幅より広い第2の幅を有し、前記第1導電側半導体層の少なくとも一部における前記一対の側面は、前記基板の主面に対して傾斜しており、前記積層構造体を導波する光について、前記基板の主面の法線方向における光分布の最大強度位置は、前記第1導電側半導体層内にある。
【発明の効果】
【0026】
光導波路から横方向に漏れた光が活性層にフィードバックすることを抑制し、電流注入量を大きくしてもマルチ横モードでレーザ光を安定して出力させることができるので、大出力で長期信頼性に優れた半導体レーザ装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、実施の形態1に係る半導体レーザ装置の断面図である。
図2図2は、図1の破線で囲まれる領域IIの拡大図である。
図3図3は、実施の形態1に係る半導体レーザ装置の詳細な構成を示す断面図である。
図4図4は、実施の形態1に係る半導体レーザ装置を電流ブロック層において水平方向に切断したときの断面図である。
図5図5は、実施の形態1に係る半導体レーザ装置の活性層の周辺構造を模式的に示す図である。
図6A図6Aは、実施の形態1に係る半導体レーザ装置1を実際に作製したときの積層構造体の側面の傾斜部を含む領域を前端面(出射端面)側から観察したときのSEM写真である。
図6B図6Bは、図6Aにおいて積層構造体の側面の傾斜部の各部の傾斜角度を、積層界面とのなす角で示した図である。
図7A図7Aは、実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法において、電流ブロック層までの積層構造体を形成する工程の断面図である。
図7B図7Bは、実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法において、電流ブロック層を加工する工程の断面図である。
図7C図7Cは、実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法において、第3半導体層の第2コンタクト層を形成する工程の断面図である。
図7D図7Dは、実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法において、積層構造体に分離溝を形成する工程の断面図である。
図7E図7Eは、実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法において、分離溝の壁面に誘電体膜を形成する工程の断面図である。
図7F図7Fは、実施の形態1に係る半導体レーザ装置の製造方法において、第2電極及び第1電極を形成する工程の断面図である。
図8A図8Aは、比較例1の半導体レーザ装置の横方向における作り付けの屈折率分布と光学利得とを示す模式図である。
図8B図8Bは、図8AのA-A’線に沿った半導体レーザ装置の積層方向における作り付けの屈折率分布と光分布とドーパント濃度分布のプロファイルとを示す模式図である。
図9A図9Aは、実施の形態1に係る半導体レーザ装置の横方向における作り付けの屈折率分布と光学利得とを示す模式図である。
図9B図9Bは、図9AのA-A’線に沿った実施の形態1に係る半導体レーザ装置の積層方向における作り付けの屈折率分布と光分布とドーパント濃度分布のプロファイルとを示す模式図である。
図10図10は、光出力10W時の半導体レーザ装置において、作り付けの屈折率差ΔN、電流ブロック層の開口部の開口幅Ws、及び、活性層の井戸層のウェル数をパラメータとして、活性層のモード損失及び動作電流値の計算結果を示す図である。
図11図11は、図10で示した活性層がSQW構造で光出力が10Wの場合における、動作キャリア分布、光分布(ニアフィールド)、及び、モード利得損失分布の計算結果を示す図である。
図12図12は、図10で示した活性層がDQW構造で光出力が10Wの場合における、動作キャリア分布、光分布(ニアフィールド)、及び、モード利得損失分布の計算結果を示す図である。
図13図13は、図13で示した活性層がTQW構造で光出力が10Wの場合における、動作キャリア分布、光分布(ニアフィールド)、及び、モード利得損失分布の計算結果を示す図である。
図14図14は、光出力1W時の半導体レーザ装置において、作り付けの屈折率差ΔN、電流ブロック層の開口部の開口幅Ws、及び、活性層の井戸層のウェル数をパラメータとして、活性層のモード損失及び動作電流値の計算結果を示す図である。
図15図15は、図14で示した活性層がSQW構造で光出力が1Wの場合における、動作キャリア分布、光分布(ニアフィールド)、及び、モード利得損失分布の計算結果を示す図である。
図16図16は、図14で示した活性層がDQW構造で光出力が1Wの場合における、動作キャリア分布、光分布(ニアフィールド)、及び、モード利得損失分布の計算結果を示す図である。
図17図17は、図14で示した活性層がTQW構造で光出力が1Wの場合における、動作キャリア分布、光分布(ニアフィールド)、及び、モード利得損失分布の計算結果を示す図である。
図18図18は、図1に示される半導体レーザ装置と比較例2の半導体レーザ装置とにおいて、一対の側面の高さを変化させたときのレーザ発振状態を示す図である。
図19A図19Aは、分離溝の深さが浅くて側面の高さが小さい場合において、レーザ発振動作が側面の高さに依存して停止してしまった比較例2の半導体レーザ装置における光分布状態を模式的に示す図である。
図19B図19Bは、分離溝の深さが深くて側面の高さが大きい場合において、レーザ発振動作が側面の高さに依存して停止してしまった比較例2の半導体レーザ装置における光分布状態を模式的に示す図である。
図20図20は、実施の形態1に係る半導体レーザ装置のレーザ発振動作状態における光分布状態を模式的に示す図である。
図21A図21Aは、θ≦45°の場合における実施の形態1に係る半導体レーザ装置の要部拡大図である。
図21B図21Bは、θ>45°の場合における実施の形態1に係る半導体レーザ装置の要部拡大図である。
図22図22は、傾斜角θを変化させたときの内部反射距離を距離dで見積もった結果を示す図である。
図23図23は、実施の形態1に係る半導体レーザ装置と同じ積層構造体のうち、電流ブロック層の開口部について、基板の主面と水平な方向で且つ共振器長方向と垂直な方向における開口部の開口幅Wsを変化させたときの光分布幅Nwの変化を示す図である。
図24図24は、実施の形態1に係る半導体レーザ装置の積層構造体における活性層より上部側において熱が拡散する様子を模式的に示す図である。
図25A図25Aは、マルチエミッタ構造の半導体レーザ装置を示す図である。
図25B図25Bは、図25AのB-B’線における半導体レーザ装置の断面図である。
図26図26は、実施の形態1の変形例に係る半導体レーザ装置の断面図である。
図27図27は、図26に示す半導体レーザ装置における光導波路内の積層方向の屈折率分布と光分布とを示す図である。
図28A図28Aは、実施の形態2に係る半導体レーザモジュールの平面図である。
図28B図28Bは、実施の形態2に係る半導体レーザモジュールの側面図である。
図29図29は、実施の形態3に係る溶接用レーザ光源システムの構成を示す図である。
図30A図30Aは、特許文献1に開示された従来の半導体レーザ装置の断面図である。
図30B図30Bは、特許文献1に開示された従来の半導体レーザ装置の各層の禁制帯幅の分布図である。
図31図31は、特許文献2に開示された従来の半導体レーザ装置の断面図である。
図32図32は、特許文献3に開示された従来の半導体レーザ装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
(本開示の一態様を得るに至った経緯)
低電圧駆動で高出力(大出力)の半導体レーザ装置が要望されているが、1エミッタ当たり10W以上の高出力の半導体レーザ装置では、投入電流(注入電流)が非常に大きくなる。例えば、投入電流が1エミッタ当たり10A超と大きくなるマルチエミッタレーザにおいては、全投入電流は10A×エミッタ数(N)となり、N=20であれば全投入電流は200Aにもなる。低電圧駆動且つ高出力の半導体レーザ装置を実現するには、電力変換効率を向上させるとよいが、高い電力変換効率を実現するためには、個々の電気特性及び光学特性の改善の積み重ねが重要である。
【0029】
高出力の半導体レーザ装置を実現する上では、以下のことが重要である。
【0030】
(i)まず、高出力化に伴う端面損傷(COD)を抑制する必要がある。この場合、例えば、レーザ発振状態の横モード数を増加させて光出射端面の光密度を低減することで、CODを抑制することができる。さらに、半導体層の積層方向における光分布に占める活性層の割合を低減することで、高出力時の光出射端面の光密度を一層下げることができる。
【0031】
(ii)また、高出力時の安定した光特性(電流-光出力特性)が望まれる。この場合、活性層へ注入される電子及び正孔を効率的に活性層へ閉じ込めることで、閾値電流及び動作電流を低減することができるとともに無効電流を低減することができる。これにより、発熱量が低減して高出力領域まで線形性を保った電流-光出力特性を実現できる。
【0032】
(iii)また、1エミッタ当たり数十W級で高出力化するためには導波路内の発熱を低減する必要がある。このためには、光導波路内の光損失の一つであるミラー損失を低減する必要があり、例えば、共振器長を数mmから10mm程度まで長くして長共振器化を行う。また、エミッタ内の横モード数の多モード化を行うことで、1エミッタ当たりの導波モードが寄与する横方向への活性層の幅利用面積を最大限拡大して光密度を低減し、これにより、利得飽和を低減しつつ、微分利得が高い動作ポイントで半導体レーザ装置を駆動できるが、1エミッタ当たりのエミッタ幅は、レーザ発振に寄与している活性層領域から放射状に伝わる発熱に対して放熱性を確保した上で最小化する必要があるとともに、1チップ当たりの大きさを小型化して1ウエハ当たりのチップの取れ数を増やすことで低コスト化を図る必要がある。
【0033】
(iv)また、ウエハから半導体レーザを小片化する際、スクライブ装置等により機械的にウエハに傷を入れて劈開によって個片化するが、ウエハに傷をつける際に欠陥も発生させてしまい、リーク電流の原因となる。このようなリーク電流を抑制するために、電流注入領域とチップ分離領域とを別々設け、個片化に伴う分離溝を形成することが提案されている。また、半導体レーザ装置をアレイ化した場合、隣接するエミッタから隣接チップ側へ漏洩する光及び熱の干渉を抑制する必要がある。漏洩光は、隣接する導波路内の光と相互作用して横モードの不安定性を引き起こす。熱干渉については、チップ端部のエミッタとチップ中央部のエミッタとでは、各チップから発生する熱がチップ全体に影響し、チップ中央部のエミッタの温度が上昇する一方チップ端部の温度が低くなって温度不均一性が発生し、各エミッタから出射する光の発振波長の均一性が低下することから、隣接するエミッタ間を光学的且つ熱的に分離する必要である。
【0034】
このような観点をもとに高出力の半導体レーザ装置を実現するために、本発明者らは、横方向の光の閉じ込め構造が非常に弱い電流ブロック構造を有する半導体レーザ装置において、光導波路から漏洩した光のうち横方向に漏洩した光が積層構造体の側面で反射される光に着目した。具体的には、横方向に漏洩した光と、光導波路の横方に形成された一対の溝の形状と電流ブロック構造による電流狭窄幅とに着目した。
【0035】
そして、本発明者らは、半導体層の積層構造体の側面を傾斜させて傾斜面にするという着想を得て、さらに、光導波路から横方向に漏洩した光がその側面(傾斜面)で反射して光導波路内の活性層に戻らないようにすることを見出した。具体的には、本発明者らは、光導波路から漏洩して側面で反射した反射光が光導波路内の活性層領域に戻る経路を詳細に検討し、側面の傾斜角に対する内部反射距離の見積もりを行った。このように、漏洩光が傾斜面で反射した反射点から活性層領域に戻るまでの距離(内部反射距離)を正確に見積もることで、光導波路内の活性層を内部反射距離以上の部分に配置することで、光導波路から横方向に漏洩した光が側面を介して活性層にフィードバックすることを根本的に抑制できることを新しく見出すことができた。
【0036】
本開示は、以上を鑑みてなされたものであり、横方向の光の閉じ込め構造が非常に弱い利得導波型の半導体レーザ装置であっても、光導波路から漏洩した光のうち横方向に漏洩した光が、半導体層の積層構造体の一対の側面を介して活性層にフィードバックすることを抑制できるとともに、電流注入量を増加させたとしても共振器長方向の安定したマルチ横モードで動作可能で、積層構造体の一対の側面の距離を小さくしてエミッタ幅を最小化して高集積化すること目的としている。ひいては、大出力で長期信頼性に優れた半導体レーザ装置を提供することを目的としている。
【0037】
上記目的を達成するために、本開示に係る半導体レーザ装置の一態様は、基板の主面の上方に、第1導電側半導体層、活性層及び第2導電側半導体層が順次積層された積層構造体を備え、マルチモードでレーザ発振する半導体レーザ装置であって、前記第2導電側半導体層は、電流注入領域を画定するための開口部を有する電流ブロック層を有し、前記積層構造体における前記第1導電側半導体層の一部から前記第2導電側半導体層までの部分には一対の側面が形成され、前記活性層は、前記開口部の第1の幅より広い第2の幅を有し、前記第1導電側半導体層の少なくとも一部における前記一対の側面は、前記基板の主面に対して傾斜しており、前記積層構造体を導波する光について、前記基板の主面の法線方向における光分布の最大強度位置は、前記第1導電側半導体層内にある。
【0038】
本開示に係る半導体レーザ装置では、1エミッタ当たり光出力が10W級の高出力の半導体レーザ装置において、横モードをマルチモードでレーザ発振することで、シングルモードレーザでは実現不可能な1エミッタ当たりの光出力が高い高出力出射が可能である。また、第2導電側半導体層の中に電流ブロック層の開口部を設けることで電流注入領域が画定され、発振モードに寄与する活性層の面内領域を自由な形状で活性層にキャリアを注入することができるとともに、第2導電側半導体層内に電流ブロック層が埋め込まれているため、第2導電側半導体層の上部全体をコンタクト電極として利用できるため、接触面積が最大化でき、コンタクト抵抗の低減によって駆動電圧を低下できるとともに、放熱経路が拡大することで活性層の温度を低減して熱飽和特性を向上させることができる。
【0039】
さらに、電流注入領域を電流ブロック層の開口部の形状によってマルチ横モードでレーザ発振させて光出射端面での光密度を低減することができ、CODの発生を抑制することができる。
【0040】
さらに、第1導電側半導体層の少なくとも一部における一対の側面が基板の主面に対して傾斜しているので、共振器長方向にマルチ横モードで発振している導波モードから、共振器長方向と直交し且つ基板の主面に平行な方向である横方向に漏れ出た漏洩光を一対の側面で反射させて減衰させることができる。これにより、本来発振させたくない共振器長方向と直交し且つ基板の主面に平行な方向に伝搬した漏洩光が一対の側面を介して活性層へフィードバックを起こす導波モードが抑制され、電流を高注入状態にしてもマルチ横モードで安定して動作させることができる。
【0041】
さらに、基板の主面の法線方向である積層方向の光閉じ込め構造の光分布については、一般的に活性層に光分布の最大強度を持たせた構造では光導波損失量が2~3cm-1程度であるが、1エミッタ当たり数十W級の高出力の半導体レーザ装置では動作電流が非常に大きくて光の導波損失も大きい。この点、本開示に係る半導体レーザ装置では、基板の主面の法線方向における光分布の最大強度位置が第1導電側半導体層内に存在するので、光導波路全体の損失のうち、導波損失αi+自由キャリア損失αfreeの損失を低減させることができる。これにより、低損失の光導波路を実現することができるので、閾値電流及び動作電流を低減することができる。
【0042】
また、本開示に係る半導体レーザ装置の一態様において、前記一対の側面の各々は、前記基板に近い側に位置する第1の側面と、前記基板から遠い側に位置する第2の側面とを有し、前記第1の側面の法線方向と前記基板の主面の法線方向とのなす角θ1は、90度より小さく、前記第2の側面の法線方向と前記基板の主面の法線方向とのなす角θ2は、90度より大きい、とよい。
【0043】
この構成により、第2導電側の積層構造体において、基板から遠くなればなるほど幅を拡大させることができる。これにより、第2導電側半導体層の上部を介して放熱を行う際に接触面積が増大するため、放熱経路が拡大して高出力時の排熱を効率的に行うことができる。さらに、第2導電側の積層構造体の各層間の接触面積を大きくできるので、上部に電極を配置する際に接触抵抗を低減することができ、動作電圧を低減できる。
【0044】
また、本開示に係る半導体レーザ装置の一態様において、前記積層構造体は、前記一対の側面に挟まれる前記第1導電側半導体層の一部から前記第2導電側半導体層までの間に最狭部を有し、前記最狭部の幅は、前記第1の幅より大きい、とよい。
【0045】
この構成により、電流ブロック層の開口部の幅(第1の幅)から活性層側に電流注入した際に発生する熱に対して、電流が流れた活性層領域の発熱及びその経路に存在する積層構造体の各層における抵抗成分による発熱分が第2導電側半導体層の上方へと排熱されるが、第2導電側半導体層の最狭部の幅が第1の幅より大きいことで、放射状に拡散する熱の放熱経路を狭めることなく第2導電側半導体層の上方へと放熱させることができる。これにより、高電流注入時の熱飽和レベルを下げることなくレーザ光を高出力で出射させることができる。
【0046】
また、本開示に係る半導体レーザ装置の一態様において、前記最狭部は、前記第2導電側半導体層内に形成されているとよい。
【0047】
この構成により、電流ブロック層の開口部の開口幅から活性層側に電流注入した際に発生する熱に対して、電流が流れた活性層領域の発熱及びその経路に存在する積層構造体の各層における抵抗成分による発熱分が第2導電側半導体層の上方へと排熱されるが、最狭部が第2導電側半導体層内にあることで、発熱分が最狭部に到達する前に積層構造体の横方向に十分熱の拡散が放射状に行われるため、積層構造体全体に熱が拡散する。さらに、第2導電側半導体層の最狭部の上部から幅が広がって各層の面積が拡大して放熱経路が拡大するため、排熱効率が向上する。これにより、高電流注入時の熱飽和レベルを下げることなくさらに高出力でレーザ光を出射させることができる。
【0048】
また、本開示に係る半導体レーザ装置の一態様において、前記第2導電側半導体層は、前記基板の上に、第2導電側の第1半導体層、第2導電側の第2半導体層及び第2導電側のコンタクト層とをこの順で有し、前記電流ブロック層は、前記第2導電側のコンタクト層内に設けられ、前記最狭部は、前記第2導電側の第2半導体層と前記第2導電側のコンタクト層との界面付近に形成されているとよい。
【0049】
第2導電側半導体層内の第2導電側の第1半導体層に僅かながらに分布する光分布に対し、一対の側面を傾斜面にすることで、第2導電側の第1半導体層から横方向に漏れ出る漏洩光が一対の側面で反射する一次反射光が光分布にフィードバックすることを抑制できる。これにより、本来発振させたくない漏洩光と第2導電側の第1半導体層の一対の側面と光分布内の活性層領域とを介した導波モードを抑制することができるので、マルチ横モードで安定したレーザ発振を実現することができる。
【0050】
また、本開示に係る半導体レーザ装置の一態様において、前記第1導電側半導体層は、前記基板の上に、第1導電側の第1半導体層及び第1導電側の第2半導体層をこの順で有し、前記一対の側面の一方と前記基板の主面とのなす角度をθ[°]とし、前記活性層から前記第1導電側の第1半導体層と前記第1導電側の第2半導体層との界面までの膜厚をd[μm]とし、前記積層構造体を導波する光の光分布の幅をNw[μm]とし、前記第1の幅である開口幅をWsとし、前記一対の側面の前記一方と、前記活性層及び前記第1導電側の第2半導体層の界面との交点から前記電流ブロック層の開口部側面までの距離をX[μm]とすると、以下の関係式を満たす。
【0051】
【数1】
【0052】
マルチ横モード発振状態の導波モードから共振器長方向と直交し且つ活性層の界面と平行な方向に漏れ出た漏洩光は一対の側面の方向に向かって伝搬するが、基板の主面に水平な方向と一対の側面とのなす角θが45°以下である場合、光導波路から横方向に漏れ出た漏洩光は、一対の側面(傾斜面)で反射して斜め下方に伝搬するため顕著に減衰し、当該漏洩光が一対の側面で反射して活性層へフィードバックすることを抑制できる。これにより、電流を高注入状態にしても、マルチ横モードで安定して動作させることができる。また、基板の主面に水平な方向と一対の側面とのなす角θが45°よりも大きい場合、光導波路から横方向に漏れ出た漏洩光は、第1導電側の第2半導体層の側面(傾斜面)で反射した一次反射光となって方向を変えて、さらに第1導電側の第1半導体層と第1導電側の第2半導体層との界面で反射して二次反射光となり、光の漏洩元である光分布の方向へ戻ることになるが、上記式を満たすように傾斜角θを設定することで、光分布から漏れ出た漏洩光によって漏洩元の光分布に影響を及ぼすことを抑制でき、半導体レーザ装置を安定して動作させることができる。
【0053】
また、本開示に係る半導体レーザ装置の一態様において、前記第1導電側半導体層における第1導電側の第1半導体層及び前記第1導電側の第1半導体層の上の第1導電側の第2半導体層と、前記第2導電側半導体層における第2導電側の第1半導体層及び前記第2導電側の第1半導体層の上の第2導電側の第2半導体層との屈折率を、それぞれ、n11、n12、n21、n22とすると、n22<n11<n12、かつ、n12≧n21、の関係式を満たすとよい。
【0054】
積層構造体の積層方向の光閉じ込め構造における光分布は、半導体材料の屈折率差により制御され、屈折率分布の平均的に高い方へと分布する。したがって、第2導電側の第2半導体層の屈折率(n22)が最も低く、次に、第1導電側の第1半導体層の屈折率(n11)を低くすることで、光分布は、第1導電側の第1半導体層と第2導電側の第2半導体層に挟まれた第1導電側の第2半導体層と活性層と第2導電側の第1半導体層とに分布することになり、第1導電側の第2半導体層側に寄ることになる。また、第1導電側の第2半導体層の屈折率(n12)が第2導電側の第1半導体層の屈折率(n21)以上であるので、積層方向の光分布は、第1導電側の第2半導体層に分布させることができる。これにより、導波路全体の損失のうち、導波損失αi+自由キャリア損失αfreeの損失を低減させることができる。これにより、低損失導波路を実現することができ、閾値電流及び動作電流を低減することができる。
【0055】
また、本開示に係る半導体レーザ装置の一態様において、前記一対の側面は、誘電体膜で覆われているとよい。
【0056】
この構成により、第2導電側半導体層の上部側をヒートシンク側として半導体レーザ装置を半田を介してヒートシンク(サブマウント)に実装する際、側面(傾斜面)の側方に入り込んだ半田が第1導電側半導体層の一部に接してリーク電流が流れることを防止することができる。また、第2電極を形成する際に、両側が傾斜面である一対の側面が誘電体膜で覆われていることで、第2電極が回り込んで積層構造体にリーク電流が流れることを防止することができる。さらに、放熱性を高めることができるので、側面の側方に放熱性の高いAuや半田材などの単層及び多層膜の金属を埋め込んだとしても、誘電体膜で一対の側面が覆われているため、リーク電流が流れることを防止することができる。
【0057】
また、本開示に係る半導体レーザ装置の一態様において、前記活性層は、単一又は複数の量子井戸層を含む量子井戸構造を有し、前記活性層における前記量子井戸層の合計膜厚は、100オングストローム以下であるとよい。
【0058】
この構成により、活性層が薄膜化されるので、レーザ発振に寄与する活性層の体積が小さくなり、少ない電流注入量で閾値利得に到達して透明化する。電流ブロック層の開口部の直下及び開口部の周辺の電流ブロック層下部の活性層領域において、電流注入時の開口部より拡散した拡散電流により電流注入されるが、活性層構造が薄膜な量子井戸構造であるため、わずかな電流にて透明化する。このため、活性層のモード損失が非常に小さくなるので、光分布は活性層で吸収されにくくなり横方向へと大きく広がる。これにより、光出射端面の光密度が拡大されてCODが発生しにくくなり、また、活性層に占める光の割合が低下するため、利得飽和が起きにくく、低い閾値電流にて大出力化が可能となる。
【0059】
また、本開示に係る半導体レーザ装置の一態様において、前記開口部を複数備え、複数の前記開口部の各々は、前記第1導電側半導体層の一部から前記第2導電側半導体層にわたって形成された分離溝により分離されているとよい。
【0060】
この構成により、エミッタ毎の光軸の調整をする際に発光点位置が隣接するエミッタのエミッタピッチで精密に制御することができ、また、同一の基板に同一の膜厚でエミッタ毎の積層構造体が作られているため、各エミッタの発光点の高さを容易に同一の高さにすることができる。さらに、エミッタ数分だけ光出力を増大させることができるとともに、小型集積化された大出力の半導体レーザ装置を実現することができる。
【0061】
また、本開示に係る半導体レーザ装置の一態様において、前記電流ブロック層は、第1導電性半導体によって構成されているとよい。
【0062】
電流ブロック層を半導体材料によって構成することで熱伝導率を高くすることができる。これにより、第1電極及び第2電極から注入された電子及び正孔が活性層で再結合して発光するが、その際生じた熱は電流注入領域から積層構造体内に放射状に伝播する。その際、第2導電側半導体層内の電流ブロック層の熱伝導率が高くなっているので、活性層から伝搬してきた熱を、電流ブロック層で熱だまりを起こすことなく放射状に放熱させることができる。特に、第2導電側半導体層側をヒートシンク(サブマウント)に実装するP側ダウン実装の場合、電流ブロック層の領域を介した放熱性を確保できるため、発熱部である活性層の位置をヒートシンク側に相対的に寄せることが可能となる。したがって、放熱特性が向上するので、高電流注入時の熱飽和レベルをさらに向上させて、より高出力でレーザ光を出射させることができる。
【0063】
さらに、電流ブロック層の極性が第1導電型であることから、逆バイアス特性に優れている。これにより、電流ブロック層を挟んだ積層構造領域は、基板側より、第1導電型―活性層-第2導電型-第1導電型(電流ブロック層)-第2導電型の積層構造体となるため、サイリスタ構造となる。そのため、電流ブロック層の厚さを薄膜化しても順バイアス印加時に電流ブロック層が存在する積層構造体の領域においては、空乏層幅を確保することができ、電流ブロック機能を十分保持させることができる。例えば、電流ブロック層の厚さを0.5μmから0.1μm程度まで薄膜化しても良好な電流ブロック機能を果たす。また、電流ブロック層の厚さを薄膜化することで、第2導電側半導体層の厚さが薄膜化されるため、低抵抗化する。
【0064】
また、本開示に係る半導体レーザ装置の一態様において、前記基板の主面の水平方向における前記積層構造体を導波する光分布の幅は、前記開口部の幅より大きい、とよい。
【0065】
この構成により、マルチ横モードでレーザ発振できるように電流ブロック層の開口部の開口幅が十分広くなり、第1導電側半導体層の下部方向に放射状に電流が拡散する。また、横方向に光閉じ込め構造が弱い利得導波型のレーザ構造であるため、電流ブロック層の開口部から基板に向かって放射状に拡がった拡散電流により閾値利得に達する活性層の横方向の領域が拡大し、電流ブロック層の開口部の開口幅よりもマルチ横モード発振している光分布の幅を広げることができる。これにより、光出射端面の光密度を低減してCODレベルを向上させることができ、レーザ発振導波モードに寄与する活性層の面積が拡大することで、発熱領域が広がって発熱密度が低減し、活性層の温度を低減することができる。なお、実際の寸法は、電流ブロック層の開口部の開口幅は、50μmから300μmと非常に広いのに対して、積層方向の電流ブロック層から活性層までの距離は0.5μm程度で、厚くても10μm以下であるため、電流ブロック層の開口部の境界から横方向に広がる電流の拡散距離が10μm以下となり、電流ブロック層の開口部の開口幅に対する光分布幅の拡大はおおよそ10μm前後となる。
【0066】
また、本開示に係る半導体レーザモジュールの一態様は、上記のいずれかの半導体レーザ装置を備える。
【0067】
これにより、高出力且つ低電圧駆動可能な半導体レーザ装置を備える半導体レーザモジュールを実現することができる。
【0068】
また、本開示に係る溶接用レーザ光源システムの一態様は、上記いずれかの半導体レーザ装置を備える。
【0069】
これにより、高出力且つ低電圧駆動可能な半導体レーザ装置を備える溶接用レーザ光源システムの構築することができる。
【0070】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本開示の好ましい一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される、数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、並びに、ステップ(工程)及びステップの順序などは、一例であって本開示を限定する主旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本開示の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0071】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、各図において縮尺などは必ずしも一致していない。各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0072】
(実施の形態1)
[半導体レーザ装置の構成]
まず、実施の形態1に係る半導体レーザ装置1の構成について、図1図2及び図3を用いて説明する。図1は、実施の形態1に係る半導体レーザ装置1の概略構成を示す断面図である。図2は、図1の破線で囲まれる領域IIの拡大図である。図3は、実施の形態1に係る半導体レーザ装置1の詳細な構成を示す断面図である。なお、図2において、誘電体膜106は省略している。
【0073】
図1及び図2に示すように、実施の形態1における半導体レーザ装置1は、基板101の主面の上方に、第1導電側半導体層100、活性層300及び第2導電側半導体層200が順に積層された積層構造体を備えている。半導体レーザ装置1は、さらに、第1導電側半導体層100の下方に第1電極103を有するとともに、第2導電側半導体層200の上方に第2電極104を有する。
【0074】
具体的には、半導体レーザ装置1は、基板101と、基板101上に形成されたバッファ層102と、バッファ層102上に形成された第1導電側半導体層100と、第1導電側半導体層100上に形成された活性層300と、活性層300上に形成された第2導電側半導体層200と、基板101の下面に形成された第1電極103と、第2導電側半導体層200上に形成された第2電極104とを備える。本実施の形態において、第1導電型は、n型であり、第2導電型は、第1導電型とは異なる導電型であり、p型である。したがって、第1電極103は、n側電極であり、第2電極104は、p側電極である。第1電極103及び第2電極104によって積層構造体への電流供給が行われる。
【0075】
以下、半導体レーザ装置1における積層構造体の各構成部材について、図1及び図2を参照しつつ、図3を用いて詳細に説明する。
【0076】
基板101は、主面が一様に平面である平面状の基板である。本実施の形態において、基板101は、n-GaAs基板である。
【0077】
バッファ層102は、例えば、膜厚0.5μmのn-GaAs層であり、基板101に積層されている。具体的には、バッファ層102は、基板101の上面に形成されている。
【0078】
第1導電側半導体層100は、例えばn側半導体層であり、複数の半導体層によって構成されている。具体的には、第1導電側半導体層100は、基板101側から順にn側の第1半導体層110(第1導電側の第1半導体層)と、n側の第2半導体層120(第2導電側の第2半導体層)とをこの順に有する。
【0079】
n側の第1半導体層110は、バッファ層102上に形成されたn側クラッド層である。本実施の形態において、n側の第1半導体層110は、総膜厚3.395μmのn型クラッド層(第1導電型クラッド層)であり、その組成は、AlxGa1-xAs(0<x<1)である。
【0080】
n側の第1半導体層110は、Al組成の異なる2層以上の積層膜からなる。具体的には、n側の第1半導体層110は、n-Al0.15Ga0.85Asからなるn型の第1クラッド層111(膜厚0.05μm、Siのドーピング濃度1×1018/cm3)と、n-Al0.335Ga0.665Asからなるn型の第2クラッド層112(膜厚2.85μm、Siのドーピング濃度1×1018/cm3)と、n-Al0.335Ga0.665Asからなるn型の第3クラッド層113(膜厚0.465μm、Siのドーピング濃度4×1016/cm3)とが順に積層された積層膜である。n側の第1半導体層110における積層膜では、活性層300から離れた側にAl濃度の低い組成の膜が配置されている。
【0081】
また、n側の第2半導体層120は、n側の第1半導体層110上に形成されたn側光ガイド層(第1光ガイド層)である。n側の第2半導体層120は、n側の第1半導体層110と活性層300との間に形成される。本実施の形態において、n側の第2半導体層120は、総膜厚0.605μmのn型光ガイド層(第1導電型光ガイド層)であって、その組成は、AlxGa1-xAs(0<x<1)である。
【0082】
n側の第2半導体層120(第1光ガイド層)は、Al組成の異なる2層以上の積層膜からなる。具体的には、n側の第2半導体層120は、n-Al0.27Ga0.73Asからなるn型の第1光導波路層121(膜厚0.56μm、Siのドーピング濃度4×1016/cm3)と、n-Al0.27Ga0.73Asからなるn型の第2光導波路層122(膜厚0.040μm、Siのドーピング濃度8×1016/cm3)と、n-Al0.25Ga0.75Asからなるn型の第3光導波路層123(膜厚0.005μm、Siのドーピング濃度5×1017/cm3)とが順に積層された積層膜である。n側の第2半導体層120における積層膜では、活性層300に近い側にAl濃度の低い組成の膜が配置されている。
【0083】
活性層300上の第2導電側半導体層200は、例えばp側半導体層であり、複数の半導体層によって構成されている。
【0084】
具体的には、第2導電側半導体層200は、活性層300に近い側から順に、p側の第1半導体層210と、p側の第2半導体層220と、p側の第3半導体層230とを有する。さらに、p側の第4半導体層として、電流ブロック層240を有する。
【0085】
p側の第1半導体層210は、活性層300上に形成されたp側光ガイド層(第2光ガイド層)である。p側の第1半導体層210(第2光ガイド層)は、活性層300とp側の第2半導体層220との間に形成されている。本実施の形態において、p側の第1半導体層210は、p型光ガイド層(第2導電型光ガイド層)であって、その組成は、AlxGa1-xAs(0<x<1)である。
【0086】
p側の第1半導体層210(第2光ガイド層)は、Al組成の異なる2層以上の積層膜からなる。具体的には、p側の第1半導体層210は、un-Al0.3Ga0.7Asからなる第1光導波路層211(膜厚0.03μm)と、p-Al0.4Ga0.6Asからなるp型の第2光導波路層212(膜厚0.131μm、Cのドーピング濃度1.5×1017/cm3)とが順に積層された積層膜である。p側の第1半導体層210における積層膜では、活性層300に近い側にAl濃度の低い組成の膜が配置されている。
【0087】
p側の第1半導体層210において、第1光導波路層211は、不純物が意図的にドープされていないアンドープ光ガイド層である。このように、p側の第1半導体層210は、活性層300側にアンドープ光ガイド層(第1光導波路層211)を有する。
【0088】
p側の第2半導体層220は、p側の第1半導体層210上に形成されたp側クラッド層である。p側の第2半導体層220は、p側の第1半導体層210とp側の第3半導体層230との間に形成される。本実施の形態において、p側の第2半導体層220は、総膜厚0.75μmのp型クラッド層(第2導電型クラッド層)であって、その組成は、AlxGa1-xAs(0<x<1)である。
【0089】
p側の第2半導体層220は、Al組成の異なる2層以上の積層膜からなる。具体的には、p側の第2半導体層220は、p-Al0.65Ga0.35Asからなるp型の第1クラッド層221(膜厚0.05μm、Cのドーピング濃度3×1017/cm3)と、p-Al0.65Ga0.35Asからなるp型の第2クラッド層222(膜厚0.65μm、Cのドーピング濃度4×1018/cm3)と、p-Al0.15Ga0.85Asからなるp型の第3クラッド層223(膜厚0.05μm、Cのドーピング濃度4×1018/cm3)とが順に積層された積層膜である。p側の第2半導体層220における積層膜では、活性層300から離れた側にAl濃度の低い組成の膜が配置されている。
【0090】
p側の第3半導体層230は、p側の第2半導体層220上に形成されたp側コンタクト層(第2導電側のコンタクト層)である。p側の第3半導体層230は、p側の第2半導体層220と第2電極104との間に形成される。本実施の形態において、p側の第3半導体層230は、p型コンタクト層(第2導電型コンタクト層)であって、その組成は、GaAsである。
【0091】
p側の第3半導体層230は、第1コンタクト層231と、第2コンタクト層232とを有する。第1コンタクト層231は、膜厚0.4μmで、ドーピング濃度3×1017/cm3でCがドーピングされたp-GaAsからなり、p側の第2半導体層220上に形成される。第2コンタクト層232は、膜厚1.75μmのp-GaAsからなりCのドーピング濃度を段階的に1×1018~3×1019/cm3の濃度へ増加させて作製している。更に、電流ブロック層240の開口部241を埋めるように、第1コンタクト層231上及び電流ブロック層240上に形成される。
【0092】
電流ブロック層240は、p側の第3半導体層230(第2導電側のコンタクト層)内に設けられている。電流ブロック層240は、p側の第3半導体層230における第1コンタクト層231上に形成される。
【0093】
本実施の形態において、電流ブロック層240は、第1導電性半導体からなる第1導電型の電流ブロック層である。具体的には、電流ブロック層240は、膜厚0.45μm且つドーピング濃度2×1018/cm3でSiがドーピングされたn-GaAsからなるn型の電流ブロック層である。電流ブロック層240は、電流注入領域を画定するための開口部241を有する。電流ブロック層240の開口部241は、開口幅(ストライプ幅)として第1の幅を有しており、半導体レーザ装置1の共振器長方向(共振器の長手方向)に直線状に延在している。
【0094】
このように、本実施の形態では、電流ブロック層240の材料に関しては、n-GaAsを用いている。これは、半導体レーザ装置1の断面を横方向に屈折率分布を付けた実屈折率型の課題の一つとして、作り付けの屈折率の影響により、光出射端面から出射されるレーザ光の横方向の拡がり角の角度が屈折率差による回折の影響で拡がってしまい、狭めることができないためである。
【0095】
活性層300は、第1導電側半導体層100上に形成される。具体的には、活性層300は、第1導電側半導体層100と第2導電側半導体層200との間に形成される。活性層300は、電流ブロック層240の開口部241の幅(第1の幅)よりも広い第2の幅を有する。
【0096】
本実施の形態において、活性層300は、単一の量子井戸層を含む単一量子井戸構造である。また、活性層300の組成は、InxGa1-xAs(0≦x≦1)である。この場合、発光波長は、0<x<1の場合は830nm~1000nmであり、x=0(GaAs)の場合は780nm~860nmである。
【0097】
具体的には、活性層300は、un-Al0.25Ga0.75Asからなる第1障壁層310(膜厚0.005μm)と、un-In0.17Ga0.83Asからなる井戸層320(膜厚0.008μm)と、un-Al0.25Ga0.75Asからなる第2障壁層330(膜厚0.01μm)とが順に積層された積層膜である。第1障壁層310、井戸層320及び第2障壁層330は、いずれも不純物が意図的にドープされていないアンドープ層である。
【0098】
なお、活性層300は、単一量子井戸構造に限らず、複数の量子井戸層を含む多重量子井戸構造であってもよい。活性層300が単一量子井戸構造及び多重量子井戸構造のいずれであっても、活性層300における量子井戸層の合計膜厚は、100オングストローム以下であるとよい。
【0099】
このように構成される半導体レーザ装置1は、端面出射型の半導体レーザ素子であり、第1電極103及び第2電極104によって電流が注入されると、横モード多モード(マルチ横モード)で発振して、レーザ光が光出射端面から出射する。
【0100】
また、半導体レーザ装置1は、積層構造体の側面に傾斜部を有している。具体的には、図1図3に示すように、半導体レーザ装置1は、積層構造体の側面として、第2導電側半導体層200から第1導電側半導体層100にかけて基板101の幅よりも内側にある一対の側面105を有する。一対の側面105は、第1導電側半導体層100の一部から第2導電側半導体層200までの部分に傾斜面として形成されている。
【0101】
本実施の形態において、一対の側面105(傾斜面)は、第1導電側半導体層100のn側の第2半導体層120の一部から形成されている。具体的には、図3に示すように、一対の側面105は、n側の第2半導体層120のn型の第3光導波路層123から上側の部分に形成されているが、これに限らない。例えば、一対の側面105は、n型の第1光導波路層121から上側の部分に形成されていてもよい。
【0102】
一対の側面105は、ウエハ上に形成された複数の半導体レーザ装置を個々に分割するための分離溝に起因する側面である。したがって、一対の側面105の高さは、分離溝の深さに相当し、第2導電側半導体層200の最表面から第1導電側半導体層100中に形成された分離溝の下端(底)までの距離である。分離溝の下端の位置は、分離溝の底が基板101の主面と平行な面である場合はその面の位置(底面)であり、分離溝がV溝である場合は分離溝の頂点の位置である。
【0103】
半導体レーザ装置1の積層構造体は、一対の側面105に挟まれる第1導電側半導体層100の一部から第2導電側半導体層200までの間に最狭部を有する。最狭部は、積層構造体の幅が最も小さくなる部分である。つまり、一対の側面105の互いの間隔は、最狭部で最小となる。
【0104】
積層構造体の最狭部は、第2導電側半導体層200内に形成されている。本実施の形態において、最狭部は、p側の第2半導体層220とp側の第3半導体層230との界面付近に形成されている。具体的には、最狭部は、p側の第2半導体層220と第1コンタクト層231との界面に形成されている。本実施の形態では、最狭部の幅は、電流ブロック層240の開口部241の開口幅(第1の幅)より大きい。
【0105】
半導体レーザ装置1では、積層構造体の最狭部でくびれるように一対の側面105が傾斜している。一対の側面105は、互いの間隔が最狭部で最小となるように折れ曲がるように傾斜している。具体的には、第1導電側半導体層100から活性層300を通って最狭部までにかけては順メサ形状に傾斜しており、最狭部から第2導電側半導体層200の上面までにかけては逆メサ形状に傾斜している。
【0106】
本実施の形態において、基板101に[011]方向に0.2°オフした(100)面基板を用いて積層構造体を作製している。そのため積層構造体は、ほぼ左右対称な形状である。したがって、一対の側面105もほぼ左右対称な形状となっている。
【0107】
一対の側面105の各々は、最狭部を境界として、基板101に近い側に位置する第1の側面105aと、基板101から遠い側に位置する第2の側面105bとを有する。
【0108】
一対の側面105の各々において第1の側面105aは、第1導電側半導体層100の側面の少なくとも一部として形成された第1傾斜面と、活性層300の側面として形成された第2傾斜面と、第2導電側半導体層200の側面の一部として形成された第3傾斜面とによって構成されている。
【0109】
第1の側面105aは、基板101の主面の法線方向とは平行ではなく、基板101の主面に対して傾斜している。本実施の形態において、一対の側面105の2つの第1の側面105aは、互いの間隔が基板101に向かうに従って漸次大きくなるように傾斜している。つまり、対向する2つの第1の側面105aで挟まれる積層構造体は、基板101に向かって末広りの形状(順メサ形状)である。
【0110】
また、一対の側面105の各々において第2の側面105bは、第2導電側半導体層200の側面の一部として形成された傾斜面である。
【0111】
第2の側面105bは、基板101の主面の法線方向とは平行ではなく、基板101の主面に対して傾斜している。本実施の形態において、一対の側面105の2つの第2の側面105bは、互いの間隔が基板101から離れるに従って漸次大きくなるように傾斜している。つまり、対向する2つの第2の側面105bで挟まれる積層構造体は、基板101から離れる方向に末広りの形状(逆メサ形状)である。
【0112】
このように、第2導電側半導体層200の対向する側面の各々は、最狭部を間にして第1の側面105aの一部と第2の側面105bとによって構成されている。つまり、第2導電側半導体層200の側面は、最狭部を境界にして、最狭部より下側の順メサ形状の一対の第1の側面105aと、最狭部より上側の逆メサ形状の一対の第2の側面105bとによって構成されている。
【0113】
ここで、図2に示すように、順メサ形状に傾斜する一対の第1の側面105aの各々において、第1の側面105aの法線方向D1と基板101の主面の法線方向D0とのなす角を第1の角θ1とすると、第1の角θ1は、90度より小さい(θ1<90°)。
【0114】
また、逆メサ形状に傾斜する一対の第2の側面105bの各々において、第2の側面105bの法線方向D2と基板101の主面の法線方向D0とのなす角を第2の角θ2とすると、第2の角θ2は、90度より大きい(θ2>90°)。
【0115】
図1及び図3に示すように、一対の側面105は、誘電体膜106で覆われている。本実施の形態では、誘電体膜106は、第1の側面105a及び第2の側面105bの全体を覆っている。具体的には、誘電体膜106は、第1導電側半導体層100の上部の傾斜面及び平坦面(分離溝の底面)と、活性層300の側面と、第2導電側半導体層200の側面全体とを被覆している。誘電体膜106は、例えばSiN又はSiO2等によって構成されており、電流ブロック膜として機能する。
【0116】
次に、半導体レーザ装置1の共振器長方向の構造及び電流ブロック層240の開口部241の形状について、図4を用いて説明する。図4は、実施の形態1に係る半導体レーザ装置1を電流ブロック層240において水平方向に切断したときの断面図である。
【0117】
半導体レーザ装置1を構成する積層構造体は、図4に示すように、レーザ光の出射端面である前端面1aと、前端面1aと反対側の面である後端面1bと有する。
【0118】
また、半導体レーザ装置1を構成する積層構造体は、前端面1aと後端面1bとを共振器反射ミラーとした光導波路とを備える。光導波路への電流注入領域の幅は、電流ブロック層240の開口部241により画定される。具体的には、電流注入領域の幅は、電流ブロック層240の開口部241の開口幅Ws(第1の幅)で画定される。
【0119】
また、電流ブロック層240の開口部241は、共振器端面である前端面1a及び後端面1bよりも内側に形成されている。つまり、電流注入領域の共振器長方向(光導波路の長手方向)の端部は、前端面1a及び後端面1bよりも内側に位置している。
【0120】
本実施の形態では、前端面1aから長さdfだけ内側に後退したところに電流ブロック層240の開口部241の長手方向の一方の端部が形成されている。また、後端面1bから長さdrだけ内側に後退したところに電流ブロック層240の開口部241の長手方向の他方の端部が形成されている。一例として、半導体レーザ装置1の共振器長LがL=6mmの場合、後退量である長さdf及びdrは50μmである。なお、後述するように、長さdr及びdfは、端面窓構造が形成された領域に対応している。
【0121】
また、図4に示すように、前端面1aには、誘電体多層膜で構成された第1反射膜410が形成されており、後端面1bには、誘電体多層膜で構成された第2反射膜420が形成されている。第1反射膜410は、例えば、結晶端面方向からAl23とTa25との多層膜である。また、第2反射膜420は、例えば、結晶端面方向からAl23とSiO2とTa25との多層膜である。第1反射膜410の反射率をR1とし、第2反射膜420の反射率をR2とすると、一例として、R1=2%、R2=95%である。
【0122】
次に、半導体レーザ装置1の活性層300の周辺構造について、図5を用いて説明する。図5は、実施の形態1に係る半導体レーザ装置1の活性層300の周辺構造を模式的に示す図である。なお、図5において、積層構造体の傾斜構造(側面105)、第1反射膜410及び第2反射膜420等の半導体レーザ装置1の一部の構成については省略されている。
【0123】
本実施の形態において、半導体レーザ装置1の積層構造体は、共振器長方向の両端部に端面窓構造を有する。具体的には、図5に示すように、活性層300における光導波路の両端面近傍の電流非注入領域では、前端面1aから長さdfの領域及び後端面1bから長さdrの領域に窓形成が行われている。
【0124】
ここで、活性層300の窓形成が行われていない領域のフォトルミネッセンスのピークエネルギーをEg1とし、活性層300の窓形成が行われた領域のフォトルミネッセンスのピークエネルギーEg2とし、Eg1とEg2との差をΔEgとすると、例えば、ΔEg=Eg2-Eg1=100meVの関係になるように窓形成を行う。つまり、前端面1a近傍及び後端面1b近傍の領域における活性層300のバンドギャップを、前端面1a近傍及び後端面1b近傍以外の領域における活性層300のバンドギャップよりも大きくしている。
【0125】
また、窓形成方法は、一般に不純物拡散法と空孔拡散法とがあるが、本実施の形態では、空孔拡散法によって窓形成を行っている。これは、1エミッタ当たり10Wを超えるような超高出力の半導体レーザ装置においては、低損失化による光吸収量の低減が重要であるからである。つまり、不純物拡散法で窓形成を行うと、不純物によって光吸収が大きくなってしまって光吸収ロスを低減することが難しくなるが、空孔拡散法は不純物フリーであるため、空孔拡散法で窓形成を行うことで、不純物導入に起因する光吸収ロスを無くすことができるからである。空孔拡散法によって窓形成を行うことで、図5に示すように、端面窓構造として、前端面1a側には第1空孔拡散領域510が形成され、後端面1b側には第2空孔拡散領域520が形成される。なお、図5において、破線で示される領域が第1空孔拡散領域510及び第2空孔拡散領域520を示している。
【0126】
なお、空孔拡散法は、急速高温処理を施すことで窓形成を行うことができる。例えば、結晶成長温度近傍の800℃~950℃の非常に高温な熱にさらしてGa空孔を拡散させて活性層300を混晶化することで、活性層300の量子井戸構造を無秩序化し、空孔とIII族元素との相互拡散によって窓化(透明化)することができる。
【0127】
このように、半導体レーザ装置1の共振器長方向の両端部に窓形成を行うことで、半導体レーザ装置1の共振器端面を透明化して前端面1a近傍における光吸収を低減することができる。これにより、前端面1aにおいてCODが発生することを抑制できる。
【0128】
この半導体レーザ装置1を実際に作製したときの積層構造体の側面105の傾斜部を含む領域を前端面1a(出射端面)側から観察したときのSEM写真を図6Aに示す。また、図6Bは、図6Aにおいて積層構造体の側面105の傾斜部の各部の傾斜角度を、積層界面とのなす角で示した図である。
【0129】
図6Aにおいて、前端面1a側から半導体レーザ装置1を見たとき、側面105の傾斜部は、第1導電側半導体層100のn型クラッド層途中から活性層300の上方の第2導電側半導体層200の一部にかけてメサ形状(基板101側に幅が拡がる形状)をしている。活性層300の上方、具体的には、第2導電側半導体層200において電流ブロック層240よりも活性層300に近い側にて最狭部を持ち、その後、積層方向の第2電極104側に向かい角度を大きく変えて逆メサ形状(積層方向に拡がる形状)となる。積層構造体の側面105の傾斜部には、空気層との境界として、メサ形状部から逆メサ形状部にわたって全面に誘電体膜106としてSiN膜が形成されている。
【0130】
側面105の傾斜部は、分離溝を形成する際の等方性のウェットエッチングにより形成したが、側面105の傾斜部の各部の傾斜角度は、積層構造体を構成する各層のAlGaAs材料のAl組成の組成比を変えることで、変化させることができる。具体的には、AlGaAs材料のAl組成を高くするとエッチング速度を速めることができる。半導体レーザ装置1は積層構造体の活性層300上方の第2導電側半導体層200にAl組成の高いAlGaAs層を含むため、第2導電側半導体層200において最狭部を持つように傾斜角を制御した傾斜部を作製することができる。また、側面105の傾斜部の深さは、エッチング時間により調整することができ、例えば、n側の第2半導体層120としてのn型ガイド層の途中、n型ガイド層とn側の第1半導体層110としてのn型クラッド層との境界、n型クラッド層の途中および基板101までの深さで自由に作製することができる。図6A及び図6Bの半導体レーザ装置1のSEM写真は、n型クラッド層途中の深さまでウェットエッチングを行って分離溝を形成して作製した積層構造体の側面105の傾斜部の形状を示す。
【0131】
図6Bは、図6Aにおいて、積層構造体の側面105の傾斜部の各部の傾斜角度の実測値を示している。まず、側面105の傾斜部は、n型クラッド層途中から活性層上部までメサ形状(基板側に幅が拡がる形状)をしており、積層界面と傾斜部とのなす角aは33°であった。次に、活性層300上部より最狭部にかけて傾斜角度が更に大きくなり、積層界面とのなす角bは72°であった。最狭部は第2導電側半導体層200に含まれるAl組成の高いp型クラッド層に形成されている。これは、ウェットエッチングによる積層方向に対して横方向へのエッチング速度が上がったため、傾斜角度が大きくなったものである。更に最狭部を経て積層方向を第2電極104の方向に向かい、角度を大きく変えて逆メサ形状(積層方向に拡がる形状)に拡がる形状となり、積層界面とのなす角cは135°であった。
【0132】
メサ形状(基板側に幅が拡がる形状)の傾斜部の角aの好ましい範囲は、レーザ発振時に側面方向へ伝播した漏洩光が傾斜部で反射した一次光が漏洩元に戻らない角度であることが望ましい。具体的には、角aの上限値は45°、つまり、a≦45°であることが望ましい。
【0133】
また、ウエハ当たりの半導体レーザ装置1の取れ数の低下を考慮すると、角aの下限値は、20°、つまり、20°≦aであることが特に望ましい。
【0134】
また、逆メサ形状(積層方向に拡がる形状)の傾斜部の角cは、電気的コンタクト面積の拡大と放熱面積の拡大との観点より第2電極104の十分な大きさを確保した方がよいため、大きい方が望ましいが、共振器端面をへき開にて作製する際、傾斜分離溝の側面の逆メサ形状の欠けを防ぐ場合には、120°≦c≦150°の範囲が特に望ましい。
【0135】
[半導体レーザ装置の製造方法]
次に、図7A図7Fを用いて、実施の形態1に係る半導体レーザ装置1の製造方法を説明する。図7A図7Fは、実施の形態1に係る半導体レーザ装置1の製造方法における各工程を説明するための図である。
【0136】
まず、図7Aに示すように、基板101上にバッファ層102を形成し、その上に、第1導電側半導体層100、活性層300及び第2導電側半導体層200を形成することによって、AlGaAs材料によって構成された積層構造体を形成する。
【0137】
具体的には、有機金属気相成長法(MOCVD;Metalorganic Chemical Vapor Deposition)による結晶成長技術により、n型GaAs基板のウエハである基板101上に、バッファ層102としてn型GaAsバッファ層、n側の第1半導体層110としてn型AlGaAsクラッド層、n側の第2半導体層120としてn型AlGaAsガイド層、活性層300としてInGaAsウェル層とAlGaAsバリア層とからなる量子井戸活性層、p側の第1半導体層210としてp型AlGaAsガイド層、p側の第2半導体層220としてp型AlGaAsクラッド層、p側の第3半導体層230の第1コンタクト層231としてp型GaAsコンタクト層、及び、電流ブロック層240としてn型GaAs電流ブロック層を、順次結晶成長させる。
【0138】
n側の第1半導体層110及びn側の第2半導体層120のそれぞれの屈折率の大小関係については後述するが、n側の第1半導体層110及びn側の第2半導体層120の各々は、図3に示すように複数の層によって構成された多層構造である。多層構造のn側の第1半導体層110及びn側の第2半導体層120の平均屈折率は、n側の第1半導体層110よりもn側の第2半導体層120の方が大きい関係になっている。
【0139】
次に、図7Bに示すように、電流注入領域を形成するために、第1コンタクト層231の上に、フォトリソグラフィー技術によってSiO2などからなるマスク601をパターン形成し、その後、ウェットエッチング技術によって電流ブロック層240をエッチングすることで、電流ブロック層240を所定形状にパターニングする。このとき、第1コンタクト層231を露出させるまでエッチングを行う。
【0140】
このように、電流ブロック層240をパターニングすることで、電流ブロック層240に開口部241を形成することができる。なお、電流ブロック層240をエッチングするためのエッチング液は、硫酸系のエッチング液が好適に用いられる。例えば、硫酸:過酸化水素水:水=1:1:40のエッチング液などを用いることができる。
【0141】
次に、図7Cに示すように、マスク601をフッ酸系のエッチング液で除去した後に、MOCVD法による結晶成長技術により、p側の第3半導体層230の第2コンタクト層232としてp型GaAsコンタクト層を結晶成長させる。具体的には、電流ブロック層240の開口部241を埋めるようにして、電流ブロック層240及び第1コンタクト層231の上に第2コンタクト層232を結晶成長させる。
【0142】
次に、図7Dに示すように、分離溝を形成するために、第2コンタクト層232の上に、フォトリソグラフィー技術を用いてSiO2などからなるマスク602をパターン形成し、その後、ウェットエッチング技術によって、第2コンタクト層232からn側の第1半導体層110(n型AlGaAsクラッド層)の途中までをエッチングすることで、傾斜する側壁面を有する分離溝650を形成する。これにより、分離溝650の側壁面(傾斜面)として、積層構造体に側面105を形成することができる。
【0143】
分離溝650を形成する際のエッチング液は、硫酸系のエッチング液が好適に用いられる。例えば、硫酸:過酸化水素水:水=1:1:10のエッチング液などを用いることができる。また、エッチング液は、硫酸系のエッチング液に限らず、有機酸系のエッチング液又はアンモニア系のエッチング液を用いてもよい。
【0144】
また、分離溝650は、等方性のウェットエッチングにより形成される。これにより、積層構造体に傾斜面(側面105)を形成して、積層構造体にくびれ構造を形成することができる。側面105の傾斜角度は、積層構造体を構成する各層のAlGaAs材料のAl組成の組成比で変化する。この場合、AlGaAs材料のAl組成を高くすることで、エッチング速度を速めることができる。したがって、図1図3に示すような傾斜を有する側面105を積層構造体に形成するためには、第2導電側半導体層200内のp側の第2半導体層220のAl組成の組成比を最も高くすることで、第2導電側半導体層200において横方向(水平方向)のエッチング速度を最も速くすることができる。これにより、p側の第2半導体層220とp側の第3半導体層230との界面付近に、積層構造体の最狭部を形成することができる。
【0145】
次に、図7Eに示すように、マスク602をフッ酸系のエッチング液で除去した後に、ウエハである基板101の上の全面に、誘電体膜106としてSiN膜を堆積し、その後、フォトリソグラフィー技術及びエッチング技術を用いて、電流注入領域となる部分の誘電体膜106を除去する。
【0146】
誘電体膜106のエッチングとしては、フッ酸系エッチング液を用いたウェットエッチング又は反応性イオンエッチング(RIE)によるドライエッチングを用いることができる。また、誘電体膜106は、SiN膜としたが、これに限らず、SiO2膜等であってもよい。誘電体膜106は、電気導電性に対して絶縁特性の優れた材料で構成されているとよい。
【0147】
次に、図7Fに示すように、フォトリソグラフィー技術及びリフトオフ技術を用いて、第2コンタクト層232の上面に第2電極104を形成する。例えば、電子ビーム蒸着法によって下地電極としてTi/Pt/Auを形成し、その後、電解メッキ法によってAuメッキ電極を形成することで、第2電極104を形成する。その後、基板101の裏面に第1電極103を形成する。
【0148】
その後、図示しないが、ブレードを用いたダイシング又は劈開等によってバー状に分離し、その後、さらに分離溝を切断部として切断することでチップ分離を行う。これにより、個片状の半導体レーザ装置1を作製することができる。
【0149】
[半導体レーザ装置の特性]
次に、半導体レーザ装置1の光特性について、比較例1の半導体レーザ装置1Xと比較して説明する。図8Aは、比較例1の半導体レーザ装置1Xの基板101の主面水平方向(横方向)における作り付けの屈折率分布と光学利得とを示す模式図である。図8Bは、図8AのA-A’線に沿った比較例1の半導体レーザ装置1Xの積層方向(縦方向)における作り付けの屈折率分布と光分布とドーパント濃度分布のプロファイルとを示す模式図である。
【0150】
図8Aに示すように、比較例1の半導体レーザ装置1Xは、横方向において屈折率分布差がない利得導波型の半導体レーザ素子である。比較例1の半導体レーザ装置1Xでは、第2電極104(p側電極)から電流注入を行うと、第2電極104直下の活性層300に電流が注入されるとともに、拡散電流によって横方向に電流注入幅が拡がる。しかし、活性層300が透明化されるまでに必要な電流値が大きくなり、また、第2電極104直下以外に拡がった拡散電流で活性層300が透明化されず光学利得の損失が非常に大きくなる。この結果、光分布を第2電極104の幅よりも顕著に広げることができず、光出射端面の光密度を下げることができない。そのため、光学ロスが大きくなり、発熱量の増大によって活性層300の温度が上昇して熱飽和レベルが低下し、閾値電流が増加したりスロープ効率が低下したりして動作電流が増加する。
【0151】
また、図8Bに示すように、比較例1の半導体レーザ装置1Xでは、n側の第1半導体層110、n側の第2半導体層120、p側の第1半導体層210及びp側の第2半導体層220の屈折率を、それぞれ、n11、n12、n21、n22とすると、n11<n12、n22<n21、n11=n22、n12=n21となっている。
【0152】
このように構成される比較例1の半導体レーザ装置1Xでは、縦方向の光分布においては、活性層300に光分布(ニアフィールド)の最大強度が存在する。このため、光分布は、n側の第2半導体層120(n側光ガイド層)とp側の第1半導体層210(p側光ガイド層)とにも分布し、n側の第2半導体層120とp側の第1半導体層210との電気導電性を有するための不純物を介した自由キャリア損失αfreeが大きくなり、全体の光損失αが非常に大きくなる。
【0153】
このように、横方向に作り付けの屈折率差を持たずに横方向の光閉じ込め構造がない単純な利得導波型の半導体レーザ装置1Xでは、横方向も縦方向も光の損失が大きいので、1エミッタ当たり数十W級の光出力を、高効率且つ低電流駆動で実現することが困難である。
【0154】
これに対して、本実施の形態における半導体レーザ装置1は、横方向に作り付けの屈折率差を持たずに横方向の光閉じ込め構造がない利得導波型の半導体レーザ素子ではあるが、1エミッタ当たり数十W級の光出力を、高効率且つ低電流駆動で実現することが可能である。以下、この点について説明する。
【0155】
図9Aは、実施の形態1に係る半導体レーザ装置1の基板101の主面水平方向(横方向)における作り付けの屈折率分布と光学利得とを示す模式図である。図9Bは、図9AのA-A’線に沿った実施の形態1に係る半導体レーザ装置1の積層方向(縦方向)における作り付けの屈折率分布と光分布とドーパント濃度分布のプロファイルとを示す模式図である。
【0156】
活性層300は、井戸層320(図3)が非常に薄膜であるため、わずかな電流注入により透明化される。図9Aに示すように、電流ブロック層240の開口部241(電流開口幅)の直下の活性層300は閾値利得に達するが、本実施の形態では、p側の第2半導体層220及びp側の第1半導体層210がメサ形状であるので、開口部241を通って注入された電流は、開口部241から活性層300の方向に向かって末広型に拡散し、開口部241の開口幅よりも広く広がって活性層300に注入される。
【0157】
これにより、活性層300における透明な領域は、横方向に広がり、開口部241の開口幅よりも広い幅となる。そのため、光分布は、開口部241の幅よりも大きく横に広がって拡大する。つまり、利得が大きく透明化しやすく、また、光損失が小さい。この結果、閾値電流を低減できるとともに光出射端面の光密度を低減でき、利得飽和が起きにくい。したがって、高出力時のスロープ効率の低下を抑制できるとともに動作電流を低減することができ、さらには光出射端面のCODを抑制できるので、容易に大出力化が可能となる。
【0158】
また、図9Bに示すように、本実施の形態に係る半導体レーザ装置1では、n側の第1半導体層110、n側の第2半導体層120、p側の第1半導体層210及びp側の第2半導体層220の屈折率を、それぞれ、n11、n12、n21、n22とすると、n22<n11<n12、且つ、n12≧n21の関係式を満たしている。本実施の形態では、n22<n21<n11<n12となっている。
【0159】
このように構成される半導体レーザ装置1では、積層構造体を導波する光については、基板101の主面の法線方向(縦方向)における光分布の最大強度位置が、第1導電側半導体層100内にある。具体的には、積層構造体を導波するレーザ光の縦方向における光分布の最大強度位置が、n側の第2半導体層120(n側光ガイド層)に存在している。
【0160】
さらに、本実施の形態では、図9Bに示すように、レーザ光の最大強度位置をn側の第2半導体層120に位置させるとともに、縦方向の光分布の大部分の領域をn側の第2半導体層120に位置させている。つまり、本実施の形態における半導体レーザ装置1は、n側半導体領域で光を導波させるn側導波レーザである。
【0161】
このように、本実施の形態における半導体レーザ装置1では、縦方向における光分布の最大強度をn側の第2半導体層120に位置するように積層構造体が構成されており、n側半導体領域で光を導波させている。これにより、自由キャリア損失αfreeを最小化することができ、活性層300への注入キャリアの利用効率を最大限に向上させることができる。この結果、低電圧駆動、低閾値電流及び高いスロープ効率で動作させることができ、1エミッタ当たり数十W級の光出力を、高効率且つ低電流駆動で実現することができる。
【0162】
また、光学利得の観点から、活性層300は量子井戸構造であるとよいが、中でも、活性層300は、単一量子井戸構造(SQW)であるとよい。この点について、図10図17を用いて説明する。
【0163】
図10は、高出力である光出力10W時の半導体レーザ装置1において、作り付けの屈折率差ΔN、電流ブロック層240の開口部241の開口幅Ws、及び、活性層300の井戸層320のウェル数(SQW、DQW、TQW)をパラメータとして、活性層300のモード損失及び10W動作電流値の計算結果のまとめたものである。なお、SQW、DQW、TQWは、それぞれ、活性層300の井戸層320のウェル数が、1つ、2つ、3つの場合を示している。
【0164】
図11は、図10で示した活性層300がSQW構造(単一量子井戸構造)で光出力が10Wの場合における、動作キャリア分布、光分布(ニアフィールド)、及び、モード利得損失分布の計算結果を示している。
【0165】
図12は、図10で示した活性層300がDQW構造(二重量子井戸構造)で光出力が10Wの場合における、動作キャリア分布、光分布(ニアフィールド)、及び、モード利得損失分布の計算結果を示している。
【0166】
図13は、図10で示した活性層300がTQW構造(三重量子井戸構造)で光出力が10Wの場合における、動作キャリア分布、光分布(ニアフィールド)、及び、モード利得損失分布の計算結果を示している。
【0167】
光導波路における光損失は、大別して、光導波路における自由キャリア損失αfreeとミラー損失αmと導波損失αiとに分けられる。これらの損失の合計を全導波路損失と呼ぶ。
【0168】
半導体レーザ装置1では、電流注入により活性層300で発生する利得に対して、活性層300への光の閉じ込め係数を乗じたモード利得が、全導波路損失とつりあった状態でレーザ発振が生じる。この時、電流ブロック層240の開口部241の外側領域の活性層300では、電流注入量が小さくなっており、開口部241の外側領域の活性層300は、レーザ発振する光に対して吸収体として機能する。したがって、開口部241の外側領域の活性層300にはモード損失が生じてしまう。
【0169】
この場合、電流ブロック層240の開口部241の内側領域への電流注入量を大きくし、開口部241の内側領域に対応する活性層300のモード利得を大きくすることで、開口部241の外側領域のモード損失が補われ、レーザ発振が生じる。
【0170】
このように、活性層300のモード損失の積分値が導波路損失とつりあった状態でレーザ発振が生じることになる。したがって、モード損失の大きい構造では、レーザ発振する閾値電流値の増大を招くことになる。
【0171】
図10図13では、活性層300におけるモード損失成分のみを積分したモード損失について、種々のΔNの構造における開口部幅依存性の計算結果を示している。
【0172】
図10の(a)~(e)に示すように、ΔNを大きくした方が、ウェル数が少ない活性層300でのモード損失の低減に効果があることが分かる。
【0173】
また、SQW構造は、DQW構造及びTQW構造と比較して、活性層300での動作中のモード損失が小さい。特に、本実施の形態における半導体レーザ装置1は、n側半導体領域に光を導波させた構造(n側導波レーザ構造)であるが、ΔNが1×10-3以下であっても、活性層300での動作中のモード損失が小さい。
【0174】
しかも、SQW構造は、動作電流値が小さいのみならず、動作電流値の開口幅依存性が小さく、開口幅Wsが50μm以上のワイドストライプ構造に有利となっている。特に、図10(c)に示すように、開口幅Wsが75μm以上では、ΔNが1×10-3以下である方が低動作電流が小さくなっている。
【0175】
また、図11に示すように、ΔNが大きいと、キャリアホールバーニングが大きくなり、漏れ電流が増大するおそれがある。一方、ΔNが小さいと、光分布が開口幅の外に広がって、キャリアホールバーニングが抑制される。これにより、漏れ電流を低減することができる。
【0176】
また、図14は、低出力である光出力1W時の半導体レーザ装置1において、図10と同様に、作り付けの屈折率差ΔN、電流ブロック層240の開口部241の開口幅Ws、及び、活性層300の井戸層320のウェル数(SQW、DQW、TQW)をパラメータとして、活性層300のモード損失及び10W動作電流値の計算結果のまとめたものである。
【0177】
図15は、図14で示した活性層300がSQW構造(単一量子井戸構造)で光出力が1Wの場合における、動作キャリア分布、光分布(ニアフィールド)、及び、モード利得損失分布の計算結果を示している。
【0178】
図16は、図14で示した活性層300がDQW構造(二重量子井戸構造)で光出力が1Wの場合における、動作キャリア分布、光分布(ニアフィールド)、及び、モード利得損失分布の計算結果を示している。
【0179】
図17は、図14で示した活性層300がTQW構造(三重量子井戸構造)で光出力が1Wの場合における、動作キャリア分布、光分布(ニアフィールド)、及び、モード利得損失分布の計算結果を示している。
【0180】
図14図15では、活性層300におけるモード損失成分のみを積分したモード損失について、種々のΔNの構造における開口部幅依存性の計算結果を示している。
【0181】
図14の(a)~(e)に示すように、1W動作時でも、ΔNを大きくした方が、ウェル数が少ない活性層300でのモード損失の低減に効果がある。また、1W動作時でも、SQW構造は、DQW構造及びTQW構造と比較して、活性層300での動作中のモード損失が小さく、ΔNが1×10-3以下であっても、活性層300での動作中のモード損失が相対的に小さい。
【0182】
しかも、1W動作時でも、SQW構造は、動作電流値が小さいのみならず、動作電流値の開口幅依存性が小さく、開口幅Wsが50μm以上のワイドストライプ構造に有利となっている。なお、1W動作時では、ΔNが1×10-4以上であれば、動作電流値はほぼ同一である。
【0183】
また、図15に示すように、SQW構造で1W動作時の場合、ΔNが小さいと、活性層300でのモード損失が大きくなるが、図16及び図17に示すように、モード損失の大きさは、DQW構造及びTQW構造と比べて小さい。
【0184】
このように、図10図13及び図14図15に示すように、SQW構造は、DQW構造及びTQW構造と比較して、(i)活性層300での動作中のモード損失が小さい、(ii)n側導波レーザ構造の特徴における1×10-3以下の非常に小さい作り付けの屈折率差ΔNでも、活性層300での動作中のモード損失が小さい、(iii)動作電流値が小さいのみならず、動作電流値の開口幅依存性が小さく、Wsが50μm以上のワイドストライプ構造に有利である、(iv)Wsが75μm以上では、ΔNが1×10-3以下である方が、動作電流値が小さい(つまり、光分布が開口部241の外に広がり、キャリアホールバーニング抑制による漏れ電流の低減効果ある)ことが確認された。
【0185】
そこで、本実施の形態における半導体レーザ装置1では、このような効果を最大限に引き出すために、電流ブロック層240としては、n型の半導体材料、具体的には、n-GaAsを用いることにした。また、以上の結果を踏まえて、電流ブロック層240の開口部241の開口幅Wsは100μmと決めて半導体レーザ装置1の試作を行なった。
【0186】
次に、光導波路からの漏洩光に対する半導体レーザ装置1の特性について、以下説明する。
【0187】
まず、本実施の形態において、漏洩光とは、マルチ横モードで発振して共振器長方向に導波している光の光分布において、共振器内を伝播する際に発生する散乱光又は活性層300から漏れ出る自然放出光のことをいう。このような漏洩光は、1エミッタ当たり10W級の光出力で動作をする際は、量が増大し、無視できなくなる。
【0188】
さらに、半導体レーザ装置1のように、積層構造体の積層方向(縦方向)における光分布の最大強度位置を、n側の第2半導体層120(n側の光ガイド層)に位置させ、縦方向の光分布の大部分をn側の第2半導体層120が占める構造では、共振器長方向に直交し且つ基板101の主面水平方向に平行に(つまり横方向に)漏れ出る光を吸収する領域がなく、横方向に漏れ出る漏洩光は、積層構造体の側面に到達してしまう。このため、1エミッタ当たり10W級の光出力で安定したレーザ発振動作を行う上で、漏洩光を抑制することが重要になる。
【0189】
このとき、本実施の形態における半導体レーザ装置1では、ウエハ上に形成された複数の半導体レーザ装置を個々に分割するための分離溝に起因する側面105が傾斜面になっているので、安定してレーザ発振動作を行うことができる。この点について、比較例2の半導体レーザ装置と比較しながら説明する。比較例2の半導体レーザ装置は、図1に示される半導体レーザ装置1において、一対の側面105が基板101の主面の法線方向と平行になっている構造を有する。つまり、比較例2の半導体レーザ装置は、分離溝の側壁面が垂直面となって垂直分離溝構造となっている。
【0190】
図18は、図1に示される半導体レーザ装置1(本実施の形態)と、比較例2の半導体レーザ装置(比較例2)とにおいて、一対の側面105の高さを変化させたときのレーザ発振状態を示す図である。図18では、各高さに対して、電流-光特性と電流-スロープ特性とが示されており、本実施の形態及び比較例2のいずれにおいても、半導体レーザ装置をアレイ化して多数並べたマルチエミッタ構造(エミッタ数は20エミッタ)で評価を行った。なお、評価電流値としては、125Aまで増加させて、レーザ発振動作の違いを比較した。
【0191】
図18に示すように、比較例2の半導体レーザ装置については、側面105の高さが4μmまでは、レーザ発振動作が確認でき、また、レーザ特性である電流-光特性も、本実施の形態における半導体レーザ装置1とほぼ同等な結果であった。
【0192】
しかしながら、比較例2の半導体レーザ装置は、側面105の高さが4.8μmを超えると、突然レーザ発振動作が停止してしまった。また、光出射端面からは弱い自然放出光が漏れ出ており、電流注入量を125Aまで上げてもレーザ発振動作をすることは無かった。
【0193】
これに対して、本実施の形態における半導体レーザ装置1については、側面105の高さを変化させても、安定したレーザ発振動作が続いた。具体的には、比較例2の半導体レーザ装置でレーザ発振動作の停止が起きた4.8μmにおいても安定してレーザ発振動作が続き、さらに、側面105の高さが7.5μmになっても安定したレーザ発振動作が確認された。この側面105の高さが7.5μmというのは、上述した図7Dの分離溝650の深さが、n側の第1半導体層110とバッファ層102との界面にまで達する長さである。
【0194】
このように、本実施の形態における半導体レーザ装置1の構造にすることで、横方向の光閉じ込めの非常に弱い(作り付けの屈折率差ΔNが非常に小さい)レーザ構造であっても、共振器長方向に直交し且つ基板101の主面と水平な方向(横方向)に漏れ出る光が、本来発振させたい共振器長方向の光によって形成される導波モードに影響を及ぼすことを抑制することができる。
【0195】
ここで、比較例2の半導体レーザ装置が側面105の高さによってレーザ発振動作が突然停止するメカニズムについて、図19A及び図19Bを用いて説明する。図19A及び図19Bは、レーザ発振動作が側面105の高さに依存して停止してしまった比較例2の半導体レーザ装置1Yにおける光分布状態を模式的に示す図である。図19Aは、分離溝の深さが浅くて側面105の高さが小さい場合を示しており、図19Bは、分離溝の深さが深くて側面105の高さが大きい場合を示している。
【0196】
図19Aに示すように、側面105の高さが小さくて分離溝の下端が第1導電側半導体層100のn側の第2半導体層120の途中に形成されている場合、本来発振させたい共振器長方向の光分布を形成する導波モード1から漏れ出た漏洩光のうち、共振器長方向と直交し且つ基板101の主面と平行な方向(横方向)に漏洩した光(漏洩光)は、一対の側面105の方向に伝播していくが、積層方向の光分布の最大強度がn側の第2半導体層120に存在しているので、活性層300への閉じ込めが弱い構造である。このため、基板101の法線方向と平行に形成された一対の側面105のうちn側の第2半導体層120の側面で反射される漏洩光が少ないため、図19Bに示されるような、本来発振させたくない漏洩光と一対の側面105と活性層300とを介した導波モード2が形成されない。このため、本来発振させたい共振器長方向に形成された光分布である導波モード1が優位になり、マルチ横モードで安定したレーザ発振動作となる。
【0197】
しかし、図19Bに示すように、側面105の高さが大きく、分離溝の下端が第2半導体層120と第1半導体層110との境界にまで達すると、比較例2の半導体レーザ装置1Yの積層方向の光分布の最大強度位置がn側の第2半導体層120に位置にあって活性層300への閉じ込めが弱い構造であったとしても、一対の側面105で反射する反射光が多くなり、本来発振させたくない漏洩光と一対の側面105と活性層300とを介した導波モード2が形成されてしまうことになる。これにより、本来発振させたい共振器長方向に形成された光分布である導波モード1と発振させたくない導波モード2とが競合し、本来発振させたい共振器長方向の導波モード1が安定化せず、安定した発振導波モードが形成できずにレーザ発振自体ができなくなる。
【0198】
このように、光損失のうちの導波損失αiを低損失化した積層方向の光分布の最大強度位置が第2半導体層120に存在する構造においては、漏洩光の減衰機構がなくなった時点で、発振させたくない漏洩光と一対の側面105と活性層300とを介した導波モード2が発振しやすくなるため、漏洩光の減衰の手段が極めて重要にある。
【0199】
次に、本実施の形態における半導体レーザ装置1の側面105の高さを変化させたときに、側面105の高さが小さい場合であっても、側面105の高さがバッファ層102まで到達する大きい場合であっても、安定したマルチ横モードで発振するメカニズムを、図20を用いて説明する。図20は、実施の形態1に係る半導体レーザ装置1のレーザ発振動作状態における光分布状態を模式的に示す図である。
【0200】
図20において、(a)は、側面105の高さが小さく、分離溝の下端が第1導電側半導体層100のn側の第2半導体層120の途中に形成されている場合についてのレーザ発振動作状態を示しており、(b)は、側面105の高さが大きく、側面105の下端がn側の第2半導体層120とn側の第1半導体層110との境界に形成されている場合についてのレーザ発振動作状態を示している。
【0201】
図20の(a)に示すように、一対の側面105の高さが小さい場合(つまり分離溝深さ1が浅い場合)、本来発振させたい共振器長方向の光分布152を形成する導波モードから漏れ出た光のうち、共振器長方向と直交し且つ基板101の主面と平行な方向に漏洩する漏洩光157は、一対の側面105を含む積層構造体の側面方向に伝播していく。
【0202】
このとき、本実施の形態における半導体レーザ装置1では、積層方向の光分布の最大強度位置がn側の第2半導体層120に存在しているため、活性層300への閉じ込めが弱い構造になっているが、第1導電側半導体層100の一部であるn側の第2半導体層120の一部には、活性層300側の幅が狭くなる方向に傾斜した側面105(以下、傾斜面とも記載する)が形成されているので、漏洩光157は、n側の第2半導体層120の傾斜面で反射した一次反射光158となって方向を変え、光の漏洩元である光分布152の方向とは逆方向に伝播するため、一次反射光158自体が減衰する。そのため、光の漏洩元である光分布152内の活性層300領域へ帰還する成分が低下する。この結果、光分布152から横方向に漏れた漏洩光157が活性層300にフィードバックすることを抑制されるので、本来発振させたくない漏洩光と一対の側面105と活性層300とを介した導波モードが形成されずに、本来発振させたい共振器長方向に形成された光分布152における導波モードが優位となり、電流注入量を大きくしてもマルチ横モードで安定動作する。
【0203】
また、図20の(b)に示すように、一対の側面105の高さが大きい場合(つまり分離溝深さ2が深い場合)、本来発振させたい共振器長方向の光分布152を形成する導波モードから漏れ出た光のうち、共振器長方向と直交し且つ基板101の主面と平行な方向に漏洩する漏洩光157は、一対の側面105の方向に伝播していく。
【0204】
このとき、本実施の形態における半導体レーザ装置1では、積層方向の光分布の最大強度位置がn側の第2半導体層120に存在しているため、活性層300への閉じ込めが弱い構造になっているが、傾斜する側面105は、第1導電側半導体層100のすべての層の側面を傾斜させるように高く形成されているので、漏洩光157は、n側の第2半導体層120の傾斜面で反射した一次反射光158となって方向を変え、光の漏洩元である光分布152の方向へと戻ることになる。その際、一次反射光158は、第1半導体層110と第2半導体層120との界面にて、第1半導体層110と第2半導体層120との屈折率差により反射した二次反射光159となり、光の漏洩元である光分布152の方向へ戻る可能性がある。
【0205】
このように、一対の側面105の高さが大きい場合でも、一対の側面105が傾斜面となっているので、光分布152から横方向に漏れた漏洩光157が活性層300にフィードバックすることを抑制することはできるが、一部の漏洩光157は、光分布152にフィードバックする可能性がある。
【0206】
そこで、側面105の傾斜角θ(側面105と基板101の主面とのなす角度)について、以下詳細に検討を行った。この点について、図21A及び図21Bを用いて説明する。図21A及び図21Bは、実施の形態1に係る半導体レーザ装置1の要部拡大図である。なお、図21A及び図21Bにおいて、誘電体膜106は省略している。
【0207】
本来発振させたい共振器長方向の光分布152から横方向に漏れ出た漏洩光157が側面105(傾斜面)で反射して一次反射光158となって漏洩元の光分布152に戻ってくるときの側面105の傾斜角θの境界角度は、図21A及び図21Bに示すように、傾斜角θが45°を境界とし二通りに分けられる。
【0208】
図21Aは、傾斜角θが45°以下の場合(θ≦45°)を示している。この場合、光分布152から横方向に漏れ出た漏洩光157は、第1導電側半導体層100の一部が傾斜した側面105(傾斜面)で反射して一次反射光158となって方向を変えるが、この一次反射光158は、漏洩光157の元となった光分布152に対して遠ざかる方向に伝播し、やがて減衰していく。
【0209】
図21Bは、傾斜角θが45°よりも大きい場合(θ>45°)を示している。この場合、光分布152から横方向に漏れ出た漏洩光157の一部は、第2半導体層120の側面105(傾斜面)で反射して一次反射光158となって方向を変える。そして、一次反射光158は、さらに、n側の第1半導体層110とバッファ層102との界面にて、n側の第1半導体層110とバッファ層102との屈折率差により反射して二次反射光159となり、光の漏洩元である光分布152の方向へ戻る。
【0210】
そこで、図21Bを用いて、漏洩光157が側面105で反射した点から二次反射光159が光分布152の活性層300へ戻るまでの距離を内部反射距離として見積もりを行った。
【0211】
内部反射距離は、傾斜角θ(°)を用いて表すと、内部反射距離が最大になる距離は、第1導電側半導体層100の最上部にあるn側の第2半導体層120と活性層300との界面において側面105の傾斜が開始している場合である。そこで、この傾斜が開始する点を傾斜開始点Aとし、傾斜開始点Aから下で反射した一次反射光158が、基板101の主面と平行な界面で反射する二次反射光159を作り出し、二次反射光159が活性層300に到達したときの二次反射光159と活性層300との交点B(不図示)とすると、傾斜開始点Aから交点Bまでの距離が内部反射距離になる。
【0212】
ここで、活性層300から二次反射光159の開始点となる界面までの距離をdとすると内部反射距離は、以下の(式1)で表される。
【0213】
【数2】
【0214】
傾斜角θを変化させたときの内部反射距離を、界面までの距離dで見積もった結果を図22に示す。図22では、傾斜角θが45°以上のときの内部反射距離の見積もり結果を示している。また、図22では、活性層300から二次反射光159が発生する界面までの膜厚を変化させたとき(つまり、距離dを変化させたとき)に、横軸を傾斜角θとし、縦軸を内部反射距離としたときの活性層300から二次反射光159が発生する界面までの膜厚の依存性を示している。
【0215】
図22に示すように、活性層300から界面までの膜厚が大きくなるにしたがって、内部反射距離が長くなることが分かる。
【0216】
図22の結果をもとに検討したところ、内部反射距離内に漏洩元の光分布152内の活性層300を配置しなければ、光分布152から漏洩した漏洩光157と側面105の傾斜面と光分布152の活性層300とを介した本来発振させたくない導波モードを抑制できないのではないかと考え、さらに二次反射光159の詳細な検討を行った。
【0217】
半導体レーザ装置1において、二次反射光159を発生させる界面は、第1導電側半導体層100内のn側の第1半導体層110とn側の第2半導体層120との界面である。この場合、本実施の形態では、活性層300からn側の第2半導体層120とn側の第1半導体層110との界面までの膜厚は、0.6μmである。
【0218】
活性層300からn側の第2半導体層120とn側の第1半導体層110との界面までの膜厚が0.6μmである場合、図22の見積もり結果に当てはめると、二次反射光159による内部反射距離は、傾斜角θが50°で1μm以下となり、傾斜角θが87°で11.4μm程度となり、傾斜角θが89°で約35μm程度に拡がることが分かる。
【0219】
次に、光分布152は、光出射端面から観察されるニアフィールドの光強度分布のことであるが、積層構造体を導波する光における光分布152の光分布幅は、ニアフィールドの光分布強度の最大強度を1としたときに、1/e2の強度の幅として定義される。つまり、1/e2強度の幅は、光分布152の大部分を占める。ここで、基板101の主面の水平方向に拡がった光分布152の1/e2強度の幅(光分布幅)をNw[μm]とする。
【0220】
図23は、実施の形態1に係る半導体レーザ装置1と同じ積層構造体のうち、電流ブロック層240の開口部241について、基板101の主面と水平な方向で且つ共振器長方向と垂直な方向における開口部241の開口幅Ws(電流開口幅)を変化させたときの光分布幅Nwの変化を示す図である。なお、図23では、横軸を開口幅Wsとし、縦軸を、光分布幅Nwから開口幅Wsを引いた差分(=Nw-Ws)としている。この差分は、光分布152が開口部241の開口幅よりも外に広がった領域を表している。
【0221】
図23に示すように、開口幅Wsが75μm以上に広くなると、開口部241よりも外に広がった光分布152の長さが約13μmとなり、開口幅Wsを変化させてもほぼ一定であることが分かる。これは、開口幅Wsが十分に大きい場合、作り付けの屈折率分布が小さく積層方向の光分布の最大強度位置と光分布の大部分とがn側の第2半導体層120内にあり、活性層300が薄膜である量子井戸構造から形成されているため、開口幅Wsが十分に広くて電流ブロック層240の下部にある活性層300まで電流が流れる際に、基板101の主面と水平な方向で且つ共振器長方向と垂直な方向に拡がる拡散電流の広がりが左右同じになり、光分布幅Nw-開口幅Wsの差分は一定の値になるからであると考えられる。
【0222】
図23に示す結果から、開口幅Wsと光分布幅Nwと内部反射距離との関係は、半導体レーザ装置1が安定したマルチ横モードでレーザ発振する条件として、内部反射距離よりも光分布152を内側に入れることが必要であることが分かる。
【0223】
具体的には、半導体レーザ装置1におけるn側の第2半導体層120の膜厚が0.6μmであるため、図22をもとに極端な場合として傾斜角θが89°で内部反射距離が35μmのときよりも光分布152が内側にくるようにすればよく、二次反射光159が最も光分布152側に近づくn側の第2半導体層120の側面105(傾斜面)の積層方向の位置は、活性層300と第2半導体層120との界面になる。
【0224】
図21Bのθ>45°の場合に、第1導電側半導体層100の傾斜面とn側の第2半導体層120及び活性層300の界面とが交わる点を傾斜開始点Aとすると、電流ブロック層240の開口部241の境界から傾斜開始点Aまでの距離をXとすると、距離Xは「(内部反射距離)+(光分布幅Nw-開口幅Ws)/2」よりも大きくなればよい。
【0225】
以上より、内部反射距離を示す(式1)を含めて一般化すると、安定したマルチ横モードを実現するためには、距離Xは、以下の(式2)の関係を満たす必要がある。
【0226】
【数3】
【0227】
(式2)において、Nw[μm]は、光分布152の幅(光分布幅)を示しており、Ws[μm]は、電流ブロック層240の開口部241の開口幅を示している。d[μm]は、活性層300から二次反射光159の開始点となる界面までの距離を示している。また、半導体レーザ装置1において、二次反射光159を最も多く発生させる界面は、n側の第1半導体層110とn側の第2半導体層120との界面である。
【0228】
したがって、距離Xは、極端な場合として傾斜角θが89°のときは、(式2)より、X>41.5μmであれば、二次反射光159の影響を受けることなく、マルチ横モードでレーザ発振させることが可能である。この結果から、本実施の形態における半導体レーザ装置1では、X>41.5μmとした。
【0229】
以上より、図18で示したように、本実施の形態における半導体レーザ装置1は、側面105の高さがいずれの大きさであっても、安定したマルチ横モードでレーザ発振し、光分布152からの漏洩光の影響を受けることなく安定動作することができる。
【0230】
ここで、上記の(式2)を傾斜角θで一般式に変形する。傾斜角θは、角度であるため、ラジアン表記から角度表記にて式変形を行うと、下記式(3)が導出される。
【0231】
【数4】
【0232】
また、傾斜角θの取りうる範囲は、0°より大きいため、傾斜角θは、以下の(式4)の関係を満たす。
【0233】
【数5】
【0234】
ただし、(式4)は、以下の(式5)に示す通り逆三角関数の範囲をとるものとする。
【0235】
【数6】
【0236】
このように、X、d、Nw、Wsに対して、(式4)及び(式5)を満たす傾斜角θとなるように側面105を形成することで、光分布152から横方向に進行する漏洩光157の影響を受けることなく安定して動作させることができる。
【0237】
次に、半導体レーザ装置1の積層構造体の側面105のうち活性層300より上部側の第2の側面105bの形状について、再び図2を用いて説明する。
【0238】
図2に示すように、第1の側面105aの法線方向D1と基板101の主面の法線方向D0とのなす角を第1の角θ1とし、第2の側面105bの法線方向D2と基板101の主面の法線方向D0とのなす角を第2の角θ2とすると、θ2>θ1、且つ、θ2>90°の関係を満たすとよい。
【0239】
このような関係を満たすことで、第2電極104の横幅を拡大することができ、第2電極104とp側の第3半導体層230における第2コンタクト層232との接触面積を拡大させることができる。これにより、半導体レーザ装置1のレーザ動作時に発生する活性層300の領域及び各層を電流が流れたときの抵抗成分に基づく発熱に対して、放熱経路を拡大することができる。この点について、図24を用いて説明する。図24は、実施の形態1に係る半導体レーザ装置1の積層構造体における活性層300より上部側において熱が拡散の様子を模式的に示している。
【0240】
図24に示すように、θ2>θ1、且つ、θ2>90°とすることで、積層構造体におけるp側の第3半導体層230よりも上部を逆メサ形状にできる。
【0241】
これにより、レーザ動作時に発生する熱を斜め外方向に拡散させることができるので、積層構造体で発生した熱を効率良く放熱させることができる。さらに、逆メサ形状にすることで、p側の第3半導体層230よりも上側の層間の接触面積を拡大させることができるので、コンタクト抵抗を低減することもできる。
【0242】
なお、放熱性を上げるために、p側の第1半導体層210よりも上側にある層は、熱伝導性に優れた材料によって構成されていることが望ましく、例えばAlGaAs系材料であれば、極力Al組成が低い方が望ましい。特に、Alを含まない方がさらに好ましい。また、電気抵抗の観点からも、Al組成が低い方が低抵抗化できる。本実施の形態における半導体レーザ装置1では、以上のことを鑑みて、p側の第2半導体層220よりも上側にある層は、Alを含まないGaAs材料にて構成した。
【0243】
[まとめ]
以上説明したように、本実施の形態における半導体レーザ装置1では、積層方向の光分布の最大強度を第1導電側半導体層100内(本実施の形態ではn側の第2半導体層120)に位置させるとともに、光分布の大部分を第1導電側半導体層100内(本実施の形態ではn側の第2半導体層120)に存在させて、活性層300が量子井戸構造で且つSQW構造による優位性を示しながら、半導体レーザ装置1で形成される電流ブロック層240の開口部241の開口幅に対する光分布(ニアフィールド)の大きさと、光分布から共振器長方向に直交し且つ基板101の主面に水平な方向(横方向)に漏れ出した漏洩光に対して、積層構造体の一対の側面105の傾斜角に対して詳細に検討し、本来発振させたくない漏洩光と積層構造体の一対の側面105と光分布内の活性層300とを介した導波モードを抑制し、本来発振させたい共振器長方向の安定したマルチ横モードで動作させるために、傾斜する一対の側面105の傾斜角と、一対の側面105から光分布までの距離等について詳細に検討した。このような検討は文献を含めて過去に例が無く、今回初めてこの点に注目して詳細に検討し、本開示の技術を構築した。
【0244】
また、1エミッタ当たり10W級の光出力を実現するためには同時に放熱性を高める必要があるが、今回の検討と同時に、熱拡散経路を拡大する構造を新たに見出し、漏洩光の抑制と高い放熱性とを兼ね備えた技術を初めて構築し、実現した。
【0245】
具体的には、本実施の形態における半導体レーザ装置1では、積層構造体における第1電側半導体層100の一部から第2導電側半導体層200までの部分に一対の側面105が形成され、活性層300は、電流ブロック層240の開口部241の第1の幅より広い第2の幅を有し、第1導電側半導体層100の少なくとも一部における一対の側面105は、基板101の主面に対して傾斜しており、積層構造体を導波する光について、基板101の主面の法線方向における光分布の最大強度位置は、第1導電側半導体層100内にある。
【0246】
これにより、光導波路(光分布)から横方向に漏れた光が活性層300にフィードバックすることを抑制し、電流注入量を大きくしてもマルチ横モードでレーザ光を安定して出力させることができる。したがって、大出力で長期信頼性に優れた半導体レーザ装置1を実現できる。
【0247】
なお、本実施の形態における半導体レーザ装置1において、第1反射膜410は、前端面1aの反射率R1を低下させ、第2反射膜420は、後端面1bの反射率R2を増加させることができれば、第1反射膜410及び第2反射膜420の材料としては、Al23、SiO2及びTa25に組み合わせに限らず、ZrO2、TiO2、SiN、BN、AlN及びAlxyN(x>y)を任意に組み合わせたものであってもよい。
【0248】
また、本実施の形態における半導体レーザ装置1において、n側の第1半導体層110は、n-Al0.15Ga0.85Asからなるn型の第1クラッド層111と、n-Al0.335Ga0.665Asからなるn型の第2クラッド層112と、n-Al0.335Ga0.665Asからなるn型の第3クラッド層113との三層構造とし、光閉じ込め構造と自由キャリア吸収の低減とを行うために、Al組成と不純物ドーピング濃度とを積層方向の光分布に合わせて増減させているが、n側の第1半導体層110は、多層構造であっても単層構造であってもよい。n側の第1半導体層110が単層構造であっても、同様の効果を奏することができる。
【0249】
また、本実施の形態における半導体レーザ装置1において、n側の第2半導体層120は、n-Al0.27Ga0.73Asからなるn型の第1光導波路層121と、n-Al0.27Ga0.73Asからなるn型の第2光導波路層122と、n-Al0.25Ga0.75Asからなるn型の第3光導波路層123との三層構造として、積層方向における光分布中心が存在するガイド層構造にするとともに高精度で光分布を制御して自由キャリア吸収の低減を行うためにAl組成と不純物ドーピング濃度とを積層方向の光分布に合わせて増減させているが、n側の第2半導体層120は、多層構造であっても単層構造であってもよい。n側の第2半導体層120が単層構造であっても、同様の効果を奏することができる。
【0250】
また、本実施の形態における半導体レーザ装置1において、活性層300は、un-Al0.25Ga0.75Asからなる第1障壁層310と、un-In0.17Ga0.83Asからなる井戸層320と、un-Al0.25Ga0.75Asからなる第2障壁層330とを積層した単一量子井戸構造として、効果が最大になるように形成したが、活性層300は、2個以上の量子井戸層を含む多重量子井戸構造であっても同様の効果を奏することができる。
【0251】
また、本実施の形態における半導体レーザ装置1は、基板101に[011]方向に0.2°オフした(100)面基板を用いて図1に示すとおり一対の側面105(傾斜面)がほぼ対称形状にて作製したが、基板101の主面(100)に対して[011]オフ方向に0.2°~10°オフした(100)面の基板を用いることができる。この場合、一対の側面105(傾斜面)が左右非対称の形状になり、この場合オフ角度をφとすると、一対の側面105aの(傾斜面)形状は[011]方向側の側面105aの傾斜面は急斜面(0.2°オフ基板に対してオフ角度分プラスの傾斜:θ1+φの傾斜角)になり、もう一方の側面105aの(傾斜面)形状は緩斜面形状(0.2°オフ基板に対してオフ角度分マイナスの傾斜:θ1-φの傾斜角)になるが、(式4)及び(式5)の関係を満たす範囲であれば同様の効果を奏することができる。また、この場合一対の側面105bの(傾斜面)形状は[011]方向側の側面105bの傾斜面はθ2+φの傾斜角になり、もう一方の側面105bの(傾斜面)形状はθ2-φの傾斜角になる。
【0252】
また、本実施の形態における半導体レーザ装置1では、p側の第2半導体層220は、p-Al0.65Ga0.35Asからなるp型の第1クラッド層221と、p-Al0.65Ga0.35Asからなるp型の第2クラッド層222と、p-Al0.15Ga0.85Asからなるp型の第3クラッド層223との三層構造として、屈折率の高精度制御によって積層方向の光最大強度と光分布の大部分をn側の第2半導体層120(n側光ガイド層)に存在させることで超低損失化(光導波損失αi=0.5cm-1)された光導波路を実現したが、p側の第2半導体層220は、多層構造であっても単層構造であってもよい。p側の第2半導体層220が単層構造であっても、同様の効果を奏することができる。
【0253】
また、本実施の形態における半導体レーザ装置1は、複数のエミッタを有するマルチエミッタ構造の半導体レーザ装置としても同様の効果を奏することができる。例えば、図25A及び図25Bに示すように、半導体レーザ装置1を複数並べることで複数のエミッタを有するマルチエミッタ構造の半導体レーザ装置とすることができる。この場合、マルチエミッタ構造の半導体レーザ装置は、電流ブロック層240の開口部241を複数有しており、複数の開口部241の各々は、第1導電側半導体層100の一部から第2導電側半導体層200にわたって形成された分離溝により分離されている。なお、図25Bは、図25AのB-B’線における断面図である。
【0254】
また、本実施の形態における半導体レーザ装置1では、基板101としてGaAs基板を用いて、GaAs基板上に、GaAs、AlGaAs及びInGaAsのGaAs系半導体材料によって積層構造体の各層を形成したが、半導体レーザ装置1を構成する積層構造体の材料は、これに限定されない。
【0255】
例えば、基板101としてGaN基板を用いて、GaN基板上に、GaN、AlGaN、InGaN又はAlGaInNなどの窒化物系半導体材料によって積層構造体の各層を形成してもよい。一例として、AlxGa1-x-yInyN(0≦x≦1、0≦y≦1)系の材料を用いた半導体レーザ装置1Aについて、図26及び図27を用いて説明する。図26は、実施の形態1の変形例に係る半導体レーザ装置1Aの断面図である。図27は、図26に示す半導体レーザ装置1Aにおける光導波路内の積層方向の屈折率分布と光分布とを示す図である。
【0256】
図26に示すように、半導体レーザ装置1Aは、第1導電側半導体層100Aと、活性層300Aと、第2導電側半導体層200Aとが順に積層された積層構造体を備える端面出射型のレーザ素子であり、横モード多モードで発振してレーザ光を出射する。
【0257】
具体的には、半導体レーザ装置1Aは、基板101Aと、基板101Aの上面に形成されたバッファ層102Aと、バッファ層102A上に形成された第1導電側半導体層100Aと、第1導電側半導体層100A上に形成された活性層300Aと、活性層300A上に形成された第2導電側半導体層200Aと、基板101Aの下面に形成された第1電極103Aと、第2導電側半導体層200A上に形成された第2電極104Aとを備える。
【0258】
本変形例において、基板101Aは、n-GaN基板である。バッファ層102Aは、例えば、膜厚1μmのn-GaN層である。
【0259】
第1導電側半導体層100A(n側半導体層)は、バッファ層102A上に形成されたn側の第1半導体層110Aと、n側の第1半導体層110A上に形成されたn側の第2半導体層120Aとを有する。
【0260】
n側の第1半導体層110Aは、膜厚3.7μmのn-Al0.026Ga0.974Nからなるn型のクラッド層である。
【0261】
n側の第2半導体層120Aは、n側光ガイド層である第1光ガイド層(総膜厚1.04μm)であって、un-In0.02Ga0.98Nからなるアンドープの第1光導波路層121A(膜厚0.5μm)と、n-Al0.026Ga0.974Nからなるn型の第2光導波路層122A(膜厚0.03μm)と、n-GaNからなるn型の第3光導波路層123A(膜厚0.22μm)と、un-In0.008Ga0.992Nからなるアンドープの第4光導波路層124A(膜厚0.02μm)とが順に積層された積層膜である。
【0262】
活性層300A上の第2導電側半導体層200A(p側半導体層)は、p側の第1半導体層210Aと、p側の第2半導体層220Aと、p側の第3半導体層230Aと、電流ブロック層240Aとを有する。
【0263】
p側の第1半導体層210Aは、p側光ガイド層である第2光ガイド層であって、活性層300A上に形成される。p側の第1半導体層210Aは、アンドープ光ガイド層211A(膜厚0.0354μm)と、キャリアオーバーフロー抑制層212A(膜厚0.0539μm)とを有する。アンドープ光ガイド層211Aは、un-In0.008Ga0.992Nからなる第1光導波路層211Aa(膜厚0.017μm)と、un-In0.003Ga0.997Nからなるp型の第2光導波路層211Ab(膜厚0.0135μm)と、un-GaNからなるp型の第3光導波路層211Ac(膜厚0.0049μm)とが順に積層された積層膜である。キャリアオーバーフロー抑制層212Aは、p-GaNからなる第1キャリアオーバーフロー抑制層212Aa(膜厚0.0049μm)と、p-Al0.36Ga0.64Nからなる第2キャリアオーバーフロー抑制層212Ab(膜厚0.005μm)と、p-Al0.026Ga0.974Nからなる第3キャリアオーバーフロー抑制層212Ac(膜厚0.044μm)とが順に積層された積層膜である。
【0264】
p側の第2半導体層220Aは、p型のクラッド層であり、p側の第1半導体層210A上に形成される。p側の第2半導体層220A(総膜厚0.595μm)は、p-Al0.026Ga0.974Nからなるp型の第1クラッド層221A(膜厚0.505μm)と、高濃度ドーピングされたp-Al0.026Ga0.974Nからなるp型の第2クラッド層222A(膜厚0.09μm)とが順に積層された積層膜である。
【0265】
p側の第3半導体層230Aは、電流ブロック層240Aの開口部241Aを埋めるように、電流ブロック層240A上及びp側の第2半導体層220A上に形成される。p側の第3半導体層230Aは、p-GaNからなるp型のコンタクト層(膜厚0.05μm)である。
【0266】
電流ブロック層240Aは、膜厚0.15μmのn-Al0.15Ga0.85Nからなるp側の半導体層であり、p側の第2半導体層220A上に形成される。本変形例において、電流ブロック層240Aは、n型の電流ブロック層である。電流ブロック層240Aは、電流注入領域に対応する開口部241Aを有する。電流ブロック層240Aの開口部241Aは、例えば、図2に示される電流ブロック層240の開口部241と同様の形状である。
【0267】
活性層300Aは、un-In0.008Ga0.992Nからなる第1障壁層310A(膜厚0.019μm)と、un-In0.066Ga0.934Nからなる井戸層320A(膜厚0.0075μm)と、un-In0.008Ga0.992Nからなる第1障壁層310A(膜厚0.019μm)と、un-In0.066Ga0.934Nからなる井戸層320A(膜厚0.0075μm)と、n-In0.008Ga0.992Nからなる第2障壁層330A(膜厚0.019μm)とが順に積層された二重量子井戸構造の積層膜である。なお、活性層300Aの組成は、InxGa1-xN(0≦x≦1)であればよい。この場合、発光波長は、400nm~550nmである。
【0268】
また、第1電極103A(n側電極)及び第2電極104A(p側電極)は、図1に示される半導体レーザ装置1の第1電極103及び第2電極104と同様であり、第1電極103A及び第2電極104Aによって電流供給が行われる。
【0269】
また、本変形例でも、半導体レーザ装置1Aの積層構造体には一対の側面105が形成されている。一対の側面105は、上記実施の形態1における半導体レーザ装置1と同様に、第1導電側半導体層100Aの一部から第2導電側半導体層200Aまでの部分に傾斜面として形成されている。
【0270】
なお、図示しないが、半導体レーザ装置1Aを構成する積層構造体は、図2に示される半導体レーザ装置1と同様に、レーザ光の出射端面である前端面1aと、前端面1aと反対側の面である後端面1bと、前端面1aと後端面1bとを共振器反射ミラーとした光導波路とを備える。
【0271】
また、本変形例における半導体レーザ装置1Aでも、図2に示される半導体レーザ装置1と同様に、光導波路への電流注入領域の幅は、電流ブロック層240Aにより画定される。具体的には、電流注入領域は、電流ブロック層240Aの開口部241Aに対応している。つまり、本変形例でも、電流注入領域の幅は電流ブロック層240Aの開口部241Aの開口幅で画定される。
【0272】
図27に示すように、本変形例における半導体レーザ装置1Aでは、上記実施の形態1における半導体レーザ装置1と同様に、積層構造体における第1電側半導体層100Aの一部から第2導電側半導体層200Aまでの部分に一対の側面105が形成され、光分布の最大強度位置及び光分布の大部分がn側の第2半導体層120A(n側光ガイド層)に存在させている。
【0273】
このような構造にすることで、本変形例における半導体レーザ装置1Aにおいても、半導体レーザ装置1と同様のメカニズムで漏洩光等の影響を抑制することができる。これにより、低損失且つ安定したマルチ横モードで動作させることができる。
【0274】
以上、本変形例に係る半導体レーザ装置1Aによれば、上記実施の形態1に係る半導体レーザ装置1と同様の効果を奏することができる。
【0275】
なお、半導体レーザ装置1、1Aでは、基板101としてGaAs基板又はGaN基板を用いたが、これに限らない。例えば、基板101としてInP基板を用いて、InP基板上に、GaAs、AlGaAs、AlGaAsP、InAlGaAsP、InP、GaInP、GaP、AlGaP及びInGaAsPなどの半導体材料を任意に選択して積層構造体の各層を形成することで、半導体レーザ装置を構成しても同様の効果を奏することができる。
【0276】
また、本変形例の一つとして、半導体レーザ装置1をトンネルジャンクションを介して積層方向に複数積層した積層型レーザ構造にしてもよい。積層した下部又は上部に位置するそれぞれの半導体レーザ装置1における第1導電側半導体層100の一部を傾斜させることで上記実施の形態1に係る半導体レーザ装置1と同様の効果を奏することができる。
【0277】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2に係る半導体レーザモジュールについて、図28A及び図28Bを用いて説明する。図28Aは、実施の形態2に係る半導体レーザモジュール4の平面図であり、図28Bは、同半導体レーザモジュール4の側面図である。
【0278】
本実施の形態における半導体レーザモジュール4は、上記実施の形態1における半導体レーザ装置1を備える。具体的には、図28A及び図28Bに示すように、半導体レーザモジュール4は、金属基台41と、金属基台41上に配置された基台42と、基台42上に配置された半導体レーザ装置1と、半導体レーザ装置1から出射したレーザ光1Lの光路上に配置された第1光学素子43及び第2光学素子44とを備える。
【0279】
一般的に、半導体レーザ装置は、発熱によって活性層からのキャリア漏れが生じて熱飽和レベルが低下してしまう。また、半導体レーザ装置1は、外部応力の影響を受けやすく、外部から過度な応力を受けると、半導体材料の結晶性が劣化し、長期信頼性が低下してしまう。また、半導体レーザ装置の実装には通常金錫半田が使用されるので、半導体レーザ装置は、金錫半田が溶融する程度の高温状態で実装される。そのため、半導体レーザ装置を、半導体レーザ装置と熱膨張係数が大きく異なる材料に実装すると、加熱-冷却プロセスにより半導体レーザ装置には熱膨張係数差による実装応力が生じてしまう。
【0280】
本実施の形態では、これらのことを考慮し、高い放熱性を有する金属基台41上に、熱伝導率が高く且つ半導体レーザ装置1に用いられる半導体材料の格子定数に近い基台42を配置した上で、この基台42上に半導体レーザ装置1を実装している。
【0281】
金属基台41は、例えば銅によって構成されているとよい。また、基台42は、半導体レーザ装置1の格子定数に近い材料、例えば、銅及びタングステンからなる材料、銅、タングステン及びダイヤモンドからなる材料、又は、窒化アルミニウムからな材料によって構成されているとよい。また、金属基台41の内部に液体が循環するようなチャネルが形成されているとよい。これにより、チャネル内に冷却水を循環させることでさらに放熱性を高めることができるので、半導体レーザ装置1を高出力で動作させることができるとともに、半導体レーザ装置1への実装応力が低減されて長期信頼性を確保することができる。
【0282】
第1光学素子43は、半導体レーザ装置1から出射したレーザ光L1のうち縦方向の光のみを平行光に成形する。第2光学素子44は、第1光学素子43を通過して縦方向の光が平行光に成形されたレーザ光L1に対して横方向の光を平行光に成形する。この構成により、レーザ光L1の形状は半導体レーザ装置1からの距離に依存しなくなる。これにより、半導体レーザ装置1から出射するレーザ光L1を効率的に利用できる半導体レーザモジュール4を実現することができる。
【0283】
以上、本実施の形態における半導体レーザモジュール4は、実施の形態1における半導体レーザ装置1を備えているので、低電力動作が可能で高出力の半導体レーザモジュールを実現することができる。
【0284】
なお、本実施の形態では、実施の形態1における半導体レーザ装置1を用いたが、これに限らない。例えば、図26に示される半導体レーザ装置1Aを用いてもよいし、図25A及び図25Bに示されるマルチエミッタ構造の半導体レーザ装置を用いてもよい。マルチエミッタ構造の半導体レーザ装置を用いることで、半導体レーザモジュールの光出力をさらに高めることが可能となる。
【0285】
(実施の形態3)
次に、実施の形態3に係る溶接用レーザ光源システム5について、図29を用いて説明する。図29は、実施の形態3に係る溶接用レーザ光源システム5の構成を示す図である。
【0286】
図29に示すように、溶接用レーザ光源システム5は、発振器51と、ヘッド52と、発振器51とヘッド52との間に設けられた光路53と、発振器51を駆動するための駆動電源装置54と、発振器51を冷却するための冷却装置55とを備えている。
【0287】
発振器51は、第1半導体レーザモジュール56a、第2半導体レーザモジュール56b、第3半導体レーザモジュール56c、光合波器57、及び、第1~第3半導体レーザモジュール56a~56cと光合波器57との間に設けられた第1~第3光路58a~58cとを備える。第1~第3半導体レーザモジュール56a~56cは、例えば、実施の形態2における半導体レーザモジュール4である。したがって、溶接用レーザ光源システム5は、光源として、レーザ光を出射する半導体レーザ装置1を備える。
【0288】
ヘッド52は、光学素子59を備える。光学素子59は、例えば集光作用を有する凸レンズなどである。
【0289】
発振器51の第1~第3半導体レーザモジュール56a~56cは、駆動電源装置54により電力が供給され、平行光に成形されたレーザ光を出力する。
【0290】
第1~第3半導体レーザモジュール56a~56cから出力された3本のレーザ光は、それぞれ第1光路58a、第2光路58b及び第3光路58cを通り、光合波器57に導かれる。第1~第3光路58a~58cは、例えば、光ファイバや反射ミラーなどの光学素子で構成することができる。
【0291】
光合波器57は、第1~第3光路58a~58cによって導かれた3つのレーザ光を単一の光路となるように光を合波する機能を有する。光合波器57は、例えば、合波プリズムや回折格子などで構成することができる。この光合波器57によって、複数の半導体レーザモジュールを備えた場合においてもヘッド52への光路53を簡素化することができる。
【0292】
光路53は、第1~第3光路58a~58cと同様に、光ファイバや反射ミラーなどの光学素子で構成することができる。ヘッド52を固定して溶接用レーザ光源システム5を構成する場合は、反射ミラーなどの光学素子で光路53を構成するとよい。一方、ヘッド52を可動させて溶接用レーザ光源システム5を構成する場合は、光ファイバなどで光路53を構成するとよい。
【0293】
ヘッド52の光学素子59は、光路53を介して発振器51から導かれたレーザ光を一点に集光させる。これにより、第1~第3半導体レーザモジュール56a~56cに搭載された半導体レーザ装置からのレーザ光を、直接溶接対象物に高い光密度で照射することができる。さらに、半導体レーザ装置のレーザ光を直接利用することができるため、半導体レーザ装置を変更することで、利用するレーザ光の波長を容易に変更することができる。したがって、溶接対象物の光の吸収率に合わせた波長を選択することができ、溶接加工の効率を向上させることができる。
【0294】
以上、本実施の形態における溶接用レーザ光源システム5によれば、実施の形態1における半導体レーザ装置1が搭載された半導体レーザモジュールを備えているので、低電力動作が可能で高出力の溶接用レーザ光源システムを実現できる。
【0295】
なお、本実施の形態で用いた第1~第3半導体レーザモジュール56a~56cでは、実施の形態1における半導体レーザ装置1を搭載していたが、これに限らない。例えば、第1~第3半導体レーザモジュール56a~56cは、図26に示される半導体レーザ装置1Aを搭載してもよいし、図25A及び図25Bに示されるマルチエミッタ構造の半導体レーザ装置を搭載してもよい。
【0296】
また、本実施の形態における溶接用レーザ光源システムでは、半導体レーザモジュールを3つ搭載したが、これに限らない。この場合、半導体レーザモジュールの搭載数を増やすことで、より高い光出力を得ることが可能となる。
【0297】
また、本実施の形態における溶接用レーザ光源システム5は、レーザ溶接設備などのレーザ溶接装置として実現することもできる。
【0298】
また、本実施の形態において、光路53を光ファイバのコアに希土類を添加した増幅用光ファイバとし、増幅用光ファイバの両端に、増幅用光ファイバに光を閉じ込めるための機能を有したFBG(Fiber Bragg Grating)を設けることで、増幅用光ファイバで増幅した光を溶接用光源とするファイバレーザ溶接装置を実現することができる。
【0299】
(その他変形例)
以上、本開示に係る半導体レーザ装置等について、実施の形態に基づいて説明したが、本開示は、上記の実施の形態に限定されるものではない。
【0300】
例えば、上記実施の形態において、半導体レーザ装置は、積層方向の光分布におけるレーザ光の最大強度位置を第1導電側半導体層100内(具体的にはn側の第2半導体層120)に位置させることでn側半導体領域で光を導波させるn側導波レーザとしたが、これに限らない。つまり、積層方向の光分布におけるレーザ光の最大強度位置は、活性層300内又は第2導電側半導体層200内に存在してもよい。
【0301】
ただし、この場合、本来発振させたい共振器長方向の光分布を形成する導波モードから漏れ出た光のうち横方向の漏洩光が側面105で反射して光分布にフィードバックしないように、積層構造体の側面105を第1の側面105aと第2の側面105bとによって構成し、さらに、θ1<90°、且つ、θ2>90°にするとよい。
【0302】
また、上記実施の形態における半導体レーザ装置は、半導体レーザモジュール及び溶接用レーザ光源システムに用いることができる。
【0303】
この場合、半導体レーザモジュールは、例えば、金属基台と、金属基台上に配置された基台と、基台上に配置された半導体レーザ装置と、半導体レーザ装置から出射したレーザ光の光路上に配置された光学素子とによって構成することができる。このように、上記実施の形態における半導体レーザ装置を用いることで、低電力動作が可能で高出力の半導体レーザモジュールを実現することができる。
【0304】
また、溶接用レーザ光源システムとしては、例えば、上記半導体レーザモジュールを有する発振器と、発振器から導かれたレーザ光を一点に集光させるヘッドと、発振器を冷却するための冷却装置とによって構成することができる。このように、上記実施の形態における半導体レーザ装置を有する半導体レーザモジュールを用いることで、低電力動作が可能で高出力の溶接用レーザ光源システムを実現できる。
【0305】
その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素および機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0306】
本開示に係る半導体レーザ装置は、低電力動作且つ高出力でレーザ光を出射させることができるので、例えば溶接用光源、プロジェクタ光源、ディスプレイ用光源、照明用光源、又は、その他の電子装置や情報処理装置などに用いられる光源などとして有用である。
【符号の説明】
【0307】
1、1A、1X、1Y 半導体レーザ装置
1a 前端面
1b 後端面
4 半導体レーザモジュール
5 溶接用レーザ光源システム
41 金属基台
42 基台
43 第1光学素子
44 第2光学素子
46 樹脂
51 発振器
52 ヘッド
53 光路
54 駆動電源装置
55 冷却装置
56a 第1半導体レーザモジュール
56b 第2半導体レーザモジュール
56c 第3半導体レーザモジュール
57 光合波器
58a 第1光路
58b 第2光路
58c 第3光路
59 光学素子
100、100A 第1導電側半導体層
101、101A 基板
102、102A バッファ層
103、103A 第1電極
104、104A 第2電極
105 側面
105a 第1の側面
105b 第2の側面
106 誘電体膜
110、110A n側の第1半導体層
111 第1クラッド層
112 第2クラッド層
113 第3クラッド層
120、120A n側の第2半導体層
121、121A 第1光導波路層
122、122A 第2光導波路層
123、123A 第3光導波路層
124A 第4光導波路層
152 光分布
157 漏洩光
158 一次反射光
159 二次反射光
200、200A 第2導電側半導体層
210、210A 第1半導体層
211 p側の第1光導波路層
211A アンドープ光ガイド層
211Aa 第1光導波路層
211Ab 第2光導波路層
211Ac 第3光導波路層
212 第2光導波路層
212A キャリアオーバーフロー抑制層
212Aa 第1キャリアオーバーフロー抑制層
212Ab 第2キャリアオーバーフロー抑制層
212Ac 第3キャリアオーバーフロー抑制層
220、220A p側の第2半導体層
221、221A 第1クラッド層
222、222A 第2クラッド層
223 第3クラッド層
230、230A p側の第3半導体層
231 第1コンタクト層
232 第2コンタクト層
240、240A 電流ブロック層
241、241A 開口部
300、300A 活性層
310、310A 第1障壁層
320、320A 井戸層
330、330A 第2障壁層
410 第1反射膜
420 第2反射膜
510 第1空孔拡散領域
520 第2空孔拡散領域
601 マスク
602 マスク
650 分離溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図7D
図7E
図7F
図8A
図8B
図9A
図9B
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19A
図19B
図20
図21A
図21B
図22
図23
図24
図25A
図25B
図26
図27
図28A
図28B
図29
図30A
図30B
図31
図32