(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】末梢神経障害性疼痛の治療に用いる少なくともアミトリプチリンを含む局所医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/135 20060101AFI20220907BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20220907BHJP
A61P 25/02 20060101ALI20220907BHJP
A61K 9/107 20060101ALI20220907BHJP
A61K 47/44 20170101ALI20220907BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20220907BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20220907BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20220907BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20220907BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20220907BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20220907BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20220907BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20220907BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20220907BHJP
【FI】
A61K31/135 ZMD
A61P29/00
A61P25/02
A61K9/107
A61K47/44
A61K47/26
A61K47/32
A61K47/14
A61K47/12
A61K47/34
A61K47/38
A61K47/36
A61K47/02
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2020510149
(86)(22)【出願日】2018-04-18
(86)【国際出願番号】 EP2018059948
(87)【国際公開番号】W WO2018197307
(87)【国際公開日】2018-11-01
【審査請求日】2021-02-05
(32)【優先日】2017-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】519382570
【氏名又は名称】アルゴセラピューティクス
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100196405
【氏名又は名称】小松 邦光
(72)【発明者】
【氏名】グレコ セリーヌ
【審査官】六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-501844(JP,A)
【文献】PAIN PRACTICE,2011年,12(2),pp.148 - 153,http://dx.doi.org/10.1111/j.1533-2500.2011.00477.x
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/327
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬組成物であって、局所適用に好適な薬学的に許容可能な担体に、前記組成物の全質量に対して10質量%~30質量%の
アミトリプチリン又はその薬学的に許容可能な塩を含み、化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛の局所治療において使用するための組成物。
【請求項2】
末梢部(手及び足)に適用することにより、化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛の治療において使用するための、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物の全質量に対して10質量%~20質量%、好ましくは10質量%超から15質量%のアミトリプチリン又はその薬学的に許容可能な塩を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
神経障害性疼痛を治療する唯一の薬剤として前記アミトリプチリンを含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛を低減又は予防さえする目的のため、化学療法治療前に予防的に使用するための、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
複数の化学療法セッションを含む癌治療で使用するためのものであって、化学療法誘発性であり得る神経障害性疼痛を治療又は予防するために前記化学療法セッション間に投与される、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
複数の化学療法セッションを含む癌治療で使用するためのものであって、前記化学療法セッション前、次に化学療法レジメン中及び化学療法レジメン間に予防的に投与され、前記神経障害性疼痛の状態に応じて必要であれば前記化学療法治療後に継続する、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項8】
水中油型エマルション状であり、少なくとも脂肪性物質、1種以上の水和活性剤、及び非イオン性界面活性剤を含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
好ましくは合成、動物、鉱物又は植物の油、シリコーン油、脂肪酸、脂肪アルコール、ろう、ゴム、及びこれらの化合物の混合物から選択され、より優先的には鉱物油、脂肪酸、ろう、及びこれらの化合物の混合物から選択される1種以上の脂肪性物質を含み、特に1種以上の鉱物油、1種以上の脂肪酸、及び1種以上のろうの混合物を含むことを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
ソルビタンエステル類、グリセロールエステル類、及びこれらの化合物の混合物から選択される1種以上の非イオン性界面活性剤を含むことを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
好ましくはカルボキシビニル重合体、セルロース系誘導体、キサンタンガム類、植物ゴム類、ケイ酸アルミニウム/マグネシウム、グアーガム類、ポリアクリルアミド重合体、アクリレート共重合体、加工デンプン、及びこれらの化合物の混合物から選択され、より優先的にはカルボキシビニル重合体から選択される、1種以上のゲル化剤を含むことを特徴とする、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
・10質量%~30質量%、好ましくは10質量%~20質量%、より優先的には10質量%超~15質量%のアミトリプチリン又はその薬学的に許容可能な塩と、
・2質量%~8質量%の1種以上の界面活性剤と、
・15質量%~25質量%の1種以上の脂肪性物質と、
・0.1質量%~4質量%の1種以上のゲル化剤と、
・7質量%~15質量%の1種以上の水和活性剤と、
・任意に0~3質量%の1種以上の防腐剤と、
・任意に0~1質量%の1種以上のpH調整剤と、
・水と
を含むことを特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
・10質量%~30質量%、好ましくは10質量%~20質量%、より優先的には10.5質量%~15質量%のアミトリプチリン又はその薬学的に許容可能な塩と、
・2質量%~8質量%のソルビタンエステル類、グリセロールエステル類、及びこれらの化合物の混合物から選択される1種以上の界面活性剤と、
・15質量%~25質量%の鉱物油、脂肪酸、ろう、及びこれらの化合物の混合物から選択される1種以上の脂肪性物質と、
・0.1質量%~4質量%のカルボキシビニル重合体から選択される1種以上のゲル化剤と、
・7質量%~15質量%の1種以上の水和活性剤と、
・任意に0~3質量%の1種以上の防腐剤と、
・任意に0~1質量%の1種以上のpH調整剤と、
・水と
を含むことを特徴とする、請求項12に記載の組成物。
【請求項14】
・10質量%~30質量%、好ましくは10質量%~20質量%、より優先的には10.5質量%~15質量%のアミトリプチリン又はその薬学的に許容可能な塩と、
・2質量%~8質量%の1種以上のソルビタンエステル類及び1種以上のグリセロールエステル類の混合物と、
・15質量%~25質量%の1種以上の鉱物油、1種以上の脂肪酸、及び1種以上のろうの混合物と、
・0.1質量%~4質量%の1種以上のカルボキシビニル重合体と、
・7質量%~15質量%のグリセロールと、
・任意に0~3質量%の1種以上の防腐剤と、
・任意に0~1質量%の1種以上のpH調整剤と、
・水と
を含むことを特徴とする、請求項12又は13に記載の組成物。
【請求項15】
クリームの形状であることを特徴とする、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全質量に対し10~30質量%のアミトリプチリン又はその薬学的に許容可能な塩を含み、化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛の局所治療で使用される医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
末梢神経障害性疼痛は、末梢神経終末又は侵害受容器など、神経構造の損傷により引き起こされ、刺激に極端に敏感になり、刺激が無くてもパルスを生成することができる。
この損傷は、外傷、糖尿病、帯状疱疹及び進行癌などの疾患、化学療法あるいは化学火傷等、多くの理由により生じ得る。末梢神経の病変は、持続性自発痛の存在を特徴とする病理状態をもたらす場合があり、この持続性自発痛は、臨床検査の結果として、感覚減退又は反対に痛覚過敏(有害な刺激に対する反応亢進)、異痛(痛みのない刺激により誘発される疼痛)、あるいは痛覚異常鋭敏症(正常な非侵害受容性反復刺激中の持続性疼痛)を伴う表在痛(痛みを伴う灼熱感又は冷覚)あるいは深部痛(加圧又は圧迫感)、発作性疼痛(放電、刺すような痛み)である。神経障害は、知覚異常、無感覚、掻痒症など感覚兆候を伴う場合もある。
【0003】
化学的に誘発される神経障害は特に頻繁に発症する。日常生活に支障を来し、治療が困難であり、用量依存的である。末梢神経損傷は、化学療法毒性と関係する神経損傷の大多数に相当する。軸索に対する直接の中毒性損傷又は脱髄の結果であり、血液毒性後、最も頻度の高い制限因子となる。
従って、化学的に誘発される神経障害が起こる前に、化学療法投与量を低減するか、又は治療を停止する場合さえあるため、患者の治療の機会を実際に低減させる。
【0004】
従って、小径線維損傷を引き起こすことが多いアルカロイド(ビンクリスチン、ビンブラスチン、ビノレルビン)、白金誘導体(オキサリプラチン、シスプラチン、カルボプラチン)、抗トポイソメラーゼ(VP16)、プロテアソーム阻害剤(ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ)、レナリドミドなどのサリドマイド誘導体、大径線維に作用するタクソール又はタキソテールなどのタキサン類を用いた治療後に神経障害を観察することができる。例えば抗CD20、抗CD30、抗CD38などの免疫療法による治療後の神経障害もある。
【0005】
この化学的に誘発される疼痛の機構はほとんど解明されていない。従って、ある著者は、例えば、感覚軸索に対する直接の毒性効果、脱髄、あるいはパクリタキセル及びビンクリスチンの作用部位であるミトコンドリアの損傷に関係するカルシウム代謝障害によるものであると考えている。
【0006】
このように、タキサン類は脊髄神経節、微小管、ミトコンドリア及び神経終末、白金塩はミエリン及びイオンチャネル、アルカロイドはミエリン及び微小管に介入することが知られている。
【0007】
この神経障害性疼痛は、通常の鎮痛治療では効果がないことが多く、投与量を減少させるか、又は化学療法の中断さえ引き起こす。現在では、抗鬱剤(アミトリプチリン、デュロキセチン、ベンラファキシン等)及び/又は抗てんかん薬(ガバペンチン、プレガバリン)を含む経口治療が行われている。残念ながら、これらの全身治療は主な副作用(眩暈、眠気、記憶喪失、口腔乾燥又は尿閉、吐気等)を誘発し、治療遵守が不十分で、疼痛コントロールはあまり満足のできるものではない。
【0008】
この疼痛は主に四肢に影響し、機能性インポテンス患者の生活の質を著しく損なわせる。歩行不能、把持困難、睡眠障害、抑鬱症候群の発症又は自殺傾向まで及ぶ場合があり、社会及び職業生活への影響は非常に著しいものにもなり得る。
【0009】
疼痛強度については、視覚アナログスケール(0~10で等級分けされる疼痛)で7/10を超える疼痛の患者では重度とされることが多い。
【0010】
上記の通り、化学療法誘発性神経障害性疼痛は本質的に毒性によるものであるが、帯状疱疹後神経障害は、一般的に以前に帯状疱疹ウイルスに感染したことによる神経損傷に関係する。損傷した神経はもはや皮膚から脳に正しく信号を送ることができない。三環系抗鬱剤は、1950年代の初めに発見された化合物であり、様々な精神疾患、特に鬱病、パニック障害、強迫性障害、小児遺尿症、双極性障害、及び活動過剰を治療するために広く用いられ、鎮痛剤としても使用される。
これらの化合物は一般的に経口投与される。
【0011】
アミトリプチリンは1960年に発見された三環系抗鬱剤であり、大鬱病、外傷後ストレス障害(PTSD)、全般性不安障害(GAD)、対人恐怖症(SP)、パニック障害、線維筋痛症、慢性筋骨格痛、パーキンソン病における無動症、脱力発作、片頭痛、パーキンソン病、更年期の血管運動症状、夜尿症、月経前不快気分障害(PMDD)、双極性障害、過食症、強迫性障害(OCD)及び神経障害性疼痛の第一選択治療として推奨されることが多い。
【0012】
従来、疼痛を軽減するため、一般的に患者は鎮痛剤の投与による治療を受け、経口経路は広く好まれていた。
しかし、すべての三環系抗鬱剤について、アミトリプチリンの経口投与は、抗コリン作用(低血圧、洞性頻拍又は上室性頻拍症のリスク、珍しい症例では、AVB、視朦、口腔乾燥、皮膚潮紅、急性尿閉又は輸送遅滞)、抗αアドレナリン作用(鎮静作用、低血圧、インポテンスのリスク)、交感神経反射性中枢抑制剤、或いは膜安定化作用(催不整脈(pro-arythmogenic)作用)に関する多くの副作用を有する。特に、アミトリプチリンの困難で、恐ろしい作用の1つはQT延長であり、正しく監視されていなければ、患者に死を招く場合がある。
【0013】
特に、糖尿病性神経障害性疼痛の治療にアミトリプチリンを経口投与する間、鎮静作用、起立性低血圧、及び抗コリン作用の症例が報告されている(特に、Kiani et al,Iran J Pharm.Res.2015 Fall;14(4):1263-8を参照)。長期的には、患者は記憶障害、集中困難を報告しており、労働の質又は日常生活にかなりの影響を及ぼす。
更に、経口投与されたアミトリプチリンの効能は遅く(製品の効能を評価するには5~7日間の治療が必要である)、患者によって変動し、不完全である。結果として、こうした欠点を克服するためには、鎮痛剤を併用する必要があることが多い。
また、様々な精神障害で使用されるため、三環系抗鬱剤の経口摂取は、患者からの評判が良くないことが多い。
【0014】
経口治療の問題を考慮し、局所治療が試みられている。神経障害性疼痛について局所的に投与されるアミトリプチリンの効能は明らかになっていない。特に、Thompsonらによる論文「Systematic review of topical amitriptyline for the treatment of neuropathic pain」、J.Clin.Pharm.Therm.2015,40,496-503は、比較臨床試験により局所的なアミトリプチリンが神経障害性疼痛の治療に有効でないことが明らかにされていると結論を出している。使用される最大投与量は多発性硬化症を患い、神経障害性疼痛を示す患者で5%である。同様に、文献「A phase III randomized,placebo-controlled study of topical amitriptyline and ketamine for chemotherapy-induced peripheral neuropathy」、Support Care Center,2014 July;22(7):1807-1814は、ケタミン2質量%及びアミトリプチリン4質量%を含む局所組成物が、化学療法後神経障害性疼痛の治療に有効でないと結論づけた。
【0015】
従って、化学療法誘発性神経障害性疼痛に満足のできる治療はない。更に、ケタミン及びアミトリプチリンを併用する治療は、帯状疱疹後神経痛又は糖尿病性の神経障害性疼痛を患う患者に効果があったようであるが、上記第III相臨床研究で示すように、化学療法誘発性神経障害性疼痛を克服することはできなかった。
更に、この疼痛が日常生活に支障を来すにも関わらず、想定される投与量は、経口でも局所でも5%を超えることはなかった。
更に、四肢(足及び手)の神経障害を患う患者は、傷んだ又はひび割れた及び乾燥した皮膚であることが多い。
【発明の概要】
【0016】
従って、本発明の主題は、末梢神経障害、特に化学療法誘発性神経障害の治療において皮膚に適用すると有効であるアミトリプチリンに基づく組成物を提供することである。
【0017】
また、本発明の主題は、神経障害性疼痛の克服に加えて、より健康でより水分を保持した皮膚に戻すことができるアミトリプチリンに基づく組成物である。
【0018】
本発明の他の主題は、下記説明及び実施例により明らかになるであろう。
【0019】
驚くべきことに、局所適用に好適な薬学的に許容可能な担体に、少なくとも10質量%のアミトリプチリン又はその薬学的に許容可能な塩を含み、局所的に投与される局所適用用の医薬組成物は、化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛(又は化学療法誘発性末梢神経障害(CIPN))を効果的に治療することができることが発見されている。
【0020】
従って、本発明の主題は、局所適用に好適な薬学的に許容可能な担体に、全質量に対し10~30質量%のアミトリプチリン又はその薬学的に許容可能な塩を含み、化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛の局所治療で使用される医薬組成物である。
【0021】
本発明による組成物の局所適用は、化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛の有効な治療である。
【0022】
更に、本発明による組成物の局所適用は、副作用をほとんど又は全く示さない。特に、組成物の適用部位に皮膚炎は観察されない。
【0023】
アミトリプチリンは下記式(I)を有する。
【0024】
【0025】
本発明の範疇では、「薬学的に許容可能なアミトリプチリン塩」という用語は、医薬組成物に適合する、つまりヒトに投与されるアミトリプチリンの塩を意味する。特に、「薬学的に許容可能なアミトリプチリン塩」という用語は、アミトリプチリンの水和物、溶媒和物、塩酸塩などの酸性塩、及びクラスレートを意味する。
アミトリプチリン塩酸塩は、特に好ましいアミトリプチリン塩として用いられる。
【0026】
上記のように、本発明による組成物の局所適用は、化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛の有効な治療である。
化学療法誘発性神経障害性疼痛の治療において、本発明による組成物を適用することは、以前に得られた結果に対して、特に目覚ましい結果を得ることができる。従って、患者に応じて4/10~7/10の単純な数値スケールにより分類される疼痛を、治療1か月後、患者全員について実質ゼロの値にまで低減することができる。
【0027】
化学療法誘発性神経障害性疼痛の治療において、本発明による組成物を使用することで、重度の神経障害性疼痛により中断するか、延期しなければならないことが多い化学療法治療を継続することができる。
【0028】
従って、本発明の主題は、化学療法、及び化学療法誘発性の場合がある神経障害性疼痛の治療を組み合わせた癌治療において、本発明による組成物を使用することでもある。従って、本発明による組成物は化学療法レジメン間に投与してよく、これにより治療を継続することができる。
【0029】
更に、本発明による組成物は化学療法治療前に予防的に適用することができ、驚くべきことに神経保護作用を有し、これが化学療法誘発性神経障害性疼痛を低減又は予防することができることを本発明者は発見している。
従って、本発明による組成物は、化学療法治療を開始する前に適用することもできる。本発明による組成物の投与は、化学療法レジメン中及び化学療法レジメン間に継続され、必要であれば神経障害性疼痛の状態に応じて治療後も継続される。
【0030】
本発明による組成物は、組成物の全質量に対し10~30質量%、好ましくは10~20%、特に10超~15質量%のアミトリプチリン、又はその薬学的に許容可能な塩を含む。
アミトリプチリンは、本発明による組成物の唯一の医薬活性剤であることが特に好ましい。
【0031】
一つの好ましい形態において、組成物は特に、例えばリドカイン、ガバペンチン、プレガバリン、バクロフェン、カプサイシン、ケタミンなど、神経障害性疼痛の治療に推奨されることもある任意の他の鎮痛剤又は抗鬱剤又は抗てんかん薬を使用することなく、唯一の疼痛治療剤として上記の割合でアミトリプチリンを含有する。
これは、先行技術とは逆に、少なくとも10質量%の含有量でアミトリプチリンのみを含むと、化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛の治療に優れた効果を示すため、本発明に照らして特に有利である。
【0032】
また、生体外モデルの皮膚体外培養片に組成物を適用すると、血流への通過が組成物に存在するアミトリプチリンの量に対して0.1%未満となることが記載されている。血流への通過が非常に低いため、先行技術で神経障害に適用する治療について記載された副作用を避けることができる。特に、ノルトリプチンへの生物変換は少ない。
【0033】
本発明による医薬組成物は、一般的に水中油型エマルション状である。
これらの組成物は必須成分として、少なくとも脂肪性物質、1つ又は複数の水和活性剤、非イオン性界面活性剤を含有する。
【0034】
本発明による組成物の油性相は、1つ又は複数の脂肪性物質を含む。
「脂肪性物質」という用語は、周囲温度(25℃)、大気圧(1.013×105Pa)で水に不溶性(5質量%未満、好ましくは1質量%未満、更により優先的には0.1質量%未満の溶解度)である有機化合物を意味する。脂肪性物質はその構造中に、少なくとも6個の炭素原子及び/又は少なくとも2つの連続するシロキサン基を含む少なくとも1つの炭化水素鎖を有する。また、脂肪性物質は、一般的に同じ温度及び圧力条件下で、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、エタノール、ベンゼン、トルエン、テトラヒドロフラン(THF)、液化石油ゼリー又はデカメチルシクロペンタシロキサンなどの有機溶媒に可溶性である。
脂肪性物質は、合成、動物、鉱物又は植物油、シリコーン油、脂肪酸、脂肪アルコール、ろう、ゴム及びこれらの化合物の混合物から選択されるのが好ましい。
【0035】
鉱物油の例として、様々な粘度の流動パラフィンに言及することができる。
植物油として、特にスイートアーモンドオイル、ヤシ油、大豆油、ゴマ油及びヒマワリ油に言及することができる。
動物油として、特にラノリン、スクアレン、魚油及びミンク油に言及することができる。
合成油として、特にイソノナン酸セテアリル、パルミチン酸イソプロピル、及びカプリル酸/カプリン酸トリグリセリドなど、アルコール及び脂肪酸のエステル類に言及することができる。
シリコーン油の例として、特にジメチコーン及びシクロメチコーンに言及することができる。
脂肪酸の例として、特にステアリン酸及びパルミチン酸に言及することができる。
脂肪アルコールの例として、特にステアリルアルコール、セトステアリルアルコール及びセチルアルコールに言及することができる。
ろうとして、特に蜜ろう(又はセラアルバ)、カルナウバロウ及びキャンデリラロウに言及することができる。
ゴムとして、特にシリコーンゴムに言及することができる。
【0036】
本発明による組成物の脂肪性物質は、鉱物油、脂肪酸、ろう及びこれらの化合物の混合物から選択されるのが特に好ましい。
本発明による組成物は、1つ又は複数の鉱物油、1つ又は複数の脂肪酸及び1つ又は複数のろうの混合物を含むことが最も特に好ましい。
脂肪性物質は、組成物の全質量に対し15~25質量%、特に組成物の全質量に対し20~25質量%であるのが好ましい。
【0037】
本発明による組成物は、好ましくは非イオン性であり、オキシエチレン化されていてもされていなくてもよい、1つ又は複数の界面活性剤を含んでもよい。
本発明による組成物は、1つ又は複数のオキシエチレン化されていない非イオン性界面活性剤を含むのが特に好ましい。
【0038】
本発明による組成物は、グルコリピド自己乳化系を含有してもよく、例えば脂肪アルコール、及び炭素数10~16のアルキルグリコシドの混合物、特にセチルステアリルアルコール及びセテアリルグルコシドの混合物である。
【0039】
有利には、非イオン性界面活性剤は、ソルビタンエステル類、グリセロールエステル類、及びこれらの化合物の混合物、ポラキサマー類から選択することができる。
ソルビタンエステルとして、特にステアリン酸ソルビタン又はオレイン酸ソルビタンに言及することができる。
グリセロールエステルとして、特にステアリン酸グリセリルに言及することができる。
本発明による組成物は、1つ又は複数のソルビタンエステル類及び1つ又は複数のグリセロールエステル類の混合物を含むのが好ましい。
本発明による組成物に用いることができる界面活性剤は、含まれる場合、組成物の全質量に対し2~8%、好ましくは2~5質量%であるのが有利である。
【0040】
本発明による組成物は、1つ又は複数のゲル化剤を含んでもよい。
本発明によれば、ゲル化剤は組成物に添加された際に、該組成物の粘度を高める任意の化合物である。ゲル化剤は組成物の全質量に対し0.01~4質量%、好ましくは0.01~1質量%である。
本発明による組成物の粘度を高めることにより、該組成物は経時的により安定する。
【0041】
本発明による組成物に用いることができるゲル化剤は、カルボキシビニル重合体(カルボマー)、セルロース系誘導体、キサンタンガム類、植物ゴム類、ケイ酸アルミニウム/マグネシウム、グアーガム類、ポリアクリルアミド重合体、アクリレート共重合体、加工デンプン及びこれらの化合物の混合物から選択されるのが好ましい。
カルボキシビニル重合体(カルボマー)として、特にルーブリゾールにより販売されるCarbopo l981、Carbopol ETD 2020、Carbopol 980、Carbopol Ultrez 10 NF及びPemulen TR1に言及することができる。
セルロース系誘導体として、特にヒドロキシプロピルメチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロースに言及することができる。
ケイ酸アルミニウム/マグネシウムとして、特にヴァンダービルトから販売されるVeegum K及びVeegum Ultraに言及することができる。
ポリアクリルアミド重合体として、特に例えばSepigel 305の商標名でセピックにより販売されるポリアクリルアミド/C13-14イソパラフィン/ラウレス-7混合物に言及することができる。
加工デンプンとして、特にアクゾノーベルにより販売されるStructure Solanaceに言及することができる。
本発明によれば、本発明により用いることができるゲル化剤は、カルボキシビニル重合体(カルボマー)から選択されるのが好ましい。
本発明による組成物に用いることができるゲル化剤は、含まれる場合、好ましくは組成物の全質量に対し0.1~4質量%である。
【0042】
本発明による組成物は水を含むのが有利である。
一つの好ましい実施形態において、本発明による組成物は1つ又は複数の水和活性剤を含む。
水和活性剤は、表皮の乾燥状態を低減することができる活性剤である。
このように、「水和活性剤」という用語は、一般的に角質層の水和を維持する目的のため、バリア機能に作用する化合物、又は吸蔵化合物を意味する。
特に、セラミド類、スフィンゴイド系化合物、レシチン類、スフィンゴ糖脂質、リン脂質、コレステロール及びその誘導体、植物ステロール類(スチグマステロール、β-シトステロール、カンペステロール)、1,2-ジアシルグリセロール、4-クロマノン、5員環トリテルペン類、グリコサミノグリカン類、糖類、多糖類、尿素並びにグリセロールに言及することができる。
水和活性剤はグリセロールであるのが好ましい。
有利には、本発明による組成物に用いることができる水和活性剤は、含まれる場合、組成物の全質量に対して7~15質量%である。
【0043】
本発明による組成物は、防腐剤、安定剤、風味増強剤、及びpH調整剤から選択される1つ又は複数の添加剤又は添加剤の組合せを含んでもよい。
防腐剤として、特にフェノキシエタノールに言及することができる。
当然当業者は、想定された添加により、本発明による組成物と本質的に関連する性質が損なわれない、又はほとんど損なわれないことに大いに注意しながら、様々な添加剤又は添加剤の組合せを選択する。
添加剤が本発明による組成物に含まれる場合、一般的にそれぞれ組成物の全質量に対し0.001~20質量%である。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の一つの好ましい実施形態において、本組成物は、
・10~30%、好ましくは10~20質量%、より優先的には10超~15質量%のアミトリプチリン又はその薬学的に許容可能な塩と、
・2~8質量%の1つ又は複数の非イオン性界面活性剤と、
・15~25質量%の1つ又は複数の脂肪性物質と、
・0.1~4質量%の1つ又は複数のゲル化剤と、
・7~15質量%の1つ又は複数の水和活性剤と、
・任意に0~3質量%の1つ又は複数の防腐剤と、
・7付近、特に6.5~7.5のpHを維持するため、任意に0~1質量%の1つ又は複数のpH調整剤と、
・水と、を含む。
【0045】
これらの組成物は、疼痛を効果的に治療することができるだけでなく、痛みのある四肢で頻繁にみられる乾燥した皮膚を回復させることができるため、化学療法誘発性神経障害性疼痛の治療に特に有効である。
【0046】
好ましくは、界面活性剤、脂肪性物質、ゲル化剤、水和活性剤及び防腐剤は、上記で定義される通りである。
【0047】
本実施形態において特に好ましくは、本発明による組成物は、
・10~30%、好ましくは10~20質量%、より優先的には10.5~15質量%のアミトリプチリン又はその薬学的に許容可能な塩と、
・2~8質量%のソルビタンエステル類、グリセロールエステル類、及びこれらの化合物の混合物から選択される1つ又は複数の界面活性剤、或いは製剤を安定化させる他の界面活性剤と、
・15~25質量%の鉱物油、脂肪酸、ろう及びこれらの化合物の混合物を含む1つ又は複数の脂肪性物質と、
・0.1~4質量%のカルボキシビニル重合体を含む1つ又は複数のゲル化剤と;
・7~15質量%の1つ又は複数の水和活性剤と、
・任意に0~3質量%の1つ又は複数の防腐剤と、
・任意に0~1質量%の1つ又は複数のpH調整剤と、
・水と、を含む。
【0048】
本実施形態において最も特に好ましくは、本発明による組成物は、
・10~30%、好ましくは10~20質量%、より優先的には10.5~15質量%のアミトリプチリン又はその薬学的に許容可能な塩と、
・2~8質量%の1つ又は複数のソルビタンエステル類及び1つ又は複数のグリセロールエステル類を含む複数の非イオン性界面活性剤の混合物と、
・15~25質量%の1つ又は複数の鉱物油、1つ又は複数の脂肪酸、及び1つ又は複数のろうの混合物と、
・0.1~4質量%の1つ又は複数のカルボキシビニル重合体(カルボマー)と、
・7~15質量%のグリセロールと、
・任意に0~3質量%の1つ又は複数の防腐剤と、
・任意に0~1質量%の1つ又は複数のpH調整剤と、
・水と、を含む。
【0049】
特に、この実施形態は、アミトリプチリンの吸収に関係する副作用、特に組成物の適用部位における皮膚炎を低減又は排除することができる。
また、この実施形態は、周囲温度だけでなく、より高い保存温度(例えば45℃)でも本発明による組成物の経時的に優れた安定性を得ることができる。
最後に、この実施形態は血流へ通過することなく、皮膚を通したアミトリプチリンの浸透を有利に促進することができる。アミトリプチリンの大半は、真皮で濃縮される。従って、優れた治療効果が優れた耐性で得られる。
【0050】
本発明による組成物のpHは好ましくは5~8であり、NaOH又はトリエタノールアミン型の塩基を用いて調整される。
【0051】
本発明による組成物は局所組成物である。
【0052】
本発明による組成物は液体、ペースト又は固体状でよく、より具体的には膏薬、クリーム、乳剤、軟膏状でよい。好ましくは、本発明による組成物は軽く、滑らかなクリーム状である。
【0053】
以下の例は本発明による組成物及びこの組成物の利点を説明するが、本発明をいかなる意味にも限定するものではなく、本発明を説明するにすぎない。
【実施例1】
【0054】
水中油型エマルション状の組成物
アミトリプチリン 10mg
ステアリン酸グリセリル 1mg
他の界面活性剤 1mg
流動パラフィン 12mg
パルミチン酸 1mg
ステアリン酸 1mg
蜜ろう(セラアルバ) 1mg
カルボマー 0.1mg
グリセロール 10mg
pH調整剤 適量 pH6.9
防腐剤 適量
水 適量 100mg
【0055】
このようにして得られたクリーム剤を、化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛を患う患者31名の痛みのある領域に朝晩1回適用した。手及び足に適用した。
【0056】
神経障害性疼痛の継続期間により、治療を受ける患者を3つの群に分けた。
GR1群(患者11名)は、神経障害性疼痛の発生から1か月以内に治療を受けた。これらの患者は、放電、火傷、痺れといった中程度(視覚アナログスケールVAS=4/10)の神経障害性疼痛を感じている。この消耗性の疼痛発生により、化学療法投与量は大半の症例で減少させなければならず、患者2名では化学療法を停止しなければならなかった。3~5日間を超えてアミトリプチリンクリーム剤を適用すると、100%で有効であり、疼痛を完全に低減させる(VAS0/10)。1か月後、再発することなく、治療が停止され、化学療法を再開するか、又は投与量を再度増加することができる。
【0057】
GR2群の患者(13名)は、患部に火傷、放電、痺れ、「浮腫」感といった中程度から重度(VAS5~7/10)の四肢の神経障害性疼痛を感じている。10%のアミトリプチリンクリーム剤を適用すると、治療15日後に効果がみられる(VAS2~3/10)。1か月後、患者全員で疼痛が消失した(VAS0/10)。化学療法誘発性神経障害のために治療を受ける患者は、予防策として化学療法レジメンを通して治療を継続する。
【0058】
GR3群の患者(7名)は、患部に火傷、放電、刺すような痛み、痺れ、「浮腫」感といった重度(VAS7超/10)の神経障害性疼痛を感じている。機能的な影響は大きく(手が影響を受ける場合は把持困難、足が影響を受ける場合は歩行困難、靴を履くことができない、患部に着衣困難)、患者は神経障害性疼痛に伴う抑鬱症候群を示す。後者の患者群については、10%アミトリプチリンクリーム剤は、治療1か月から効果が出始める(VASが3ポイント減少)。この治療を3か月間継続する(VAS2/10未満)。
【実施例2】
【0059】
水中油型エマルション状の組成物
アミトリプチリン 15mg
ステアリン酸グリセリル 1mg
他の界面活性剤 1mg
流動パラフィン 12mg
パルミチン酸 1mg
ステアリン酸 1mg
蜜ろう(セラアルバ) 1mg
カルボマー 0.1mg
グリセロール 10mg
pH調整剤 適量 pH6.9
防腐剤 適量
水 適量 100mg
【0060】
クリーム状組成物を、患部に火傷、放電、刺すような痛み、痺れ、「浮腫」感といった重度(VAS7/10超)の神経障害性疼痛を経験している患者に投与した。クリーム剤の投与により、1か月の治療において非常に優れた疼痛コントロールを提供する(VAS0~2/10)。
【実施例3】
【0061】
帯状疱疹後末梢神経痛を経験している患者5名の痛みのある領域に、実施例1のクリーム剤を朝晩1回適用した。
【0062】
これらの患者は、患部に火傷、放電、痺れ、「浮腫」感といった中程度から重度(VAS6~8/10)の四肢の神経障害性疼痛を感じている。胸部(4名)及び大腿部(1名)に実施例1のクリーム剤を適用すると、治療15日後に効果がみられる(VAS2~3/10)。1か月後、患者全員で疼痛が消失した(VAS0/10)。治療を受けた患者は治療を停止することができる。
【実施例4】
【0063】
以下のクリーム剤を水中油型エマルション状に調製した。
アミトリプチリン 10mg
ステアリン酸グリセリル 2mg
ステアリン酸ソルビタン 1mg
流動パラフィン 8mg
エチルヘキサン酸セテアリル 5mg
パルミチン酸 1mg
ステアリン酸 1mg
蜜ろう(セラアルバ) 2mg
カルボマー 0.2mg
ヒドロキシエチルアクリレート/
アクリロイルジメチルタウリン
ナトリウムコポリマー 0.1mg
グリセロール 10mg
pH調整剤 適量 pH6.9
防腐剤 適量
水 適量 100mg
【0064】
糖尿病性末梢神経障害性疼痛を経験している患者の痛みのある領域に、クリーム剤を朝晩1回適用した。
患者は、患部に火傷、放電、刺すような痛み、痺れ、「浮腫」感といった重度(VAS7超/10)の神経障害性疼痛を感じている。機能的影響は大きい(手が影響を受ける場合は把持困難、足が影響を受ける場合は歩行困難、靴を履くことができない、患部に着衣困難)。10%アミトリプチリンクリーム剤は、治療1か月から効果が出始める(VASが3ポイント減少)。この治療を3か月間継続する(VAS2未満/10)。
【実施例5】
【0065】
結腸がんを患い、化学療法としてR-CHOP治療レジメンを行い、最初の治療レジメン後、手に痺れ、非常に強い痛みのある冷覚といった重度の神経障害VAS7~8/10を感じている患者2名に治療を行った。神経障害の強さに直面し、2回目のR-CHOP治療レジメンを延期した。
2回目の治療レジメンの7日前、患者は10%アミトリプチリンクリーム剤を手に適用し、神経障害に悩まされることなく(痛みを伴う冷覚は無くVASは1~2/10)、化学療法レジメン後の7日間適用を継続した。
【実施例6】
【0066】
アミトリプチリンの経皮吸収及び薬理活性代謝物ノルトリプチンの存在に関する体外研究。
10質量%のアミトリプチリン塩酸塩を含有するクリーム状組成物をヒトの皮膚サンプルに適用した。3名の異なるドナーから3つの皮膚サンプル、つまり9サンプルを用いて、実験を3回繰り返した。皮膚サンプルをフランツ細胞に据え、32℃+1℃の表面温度とする。
10質量%のアミトリプチリン塩酸塩を含有する製剤を、5mg/皮膚cm2に相当する細胞1個当たり10mgの割合で、各皮膚サンプルにスパチュラを用いて均一に広げることにより適用した。
適用後、皮膚サンプルを16時間すすぐ。
各皮膚サンプルをピンセットで(真皮を下に向けて)吸収紙に置いた。
角質層を粘着テープで除去する。
角質層の除去後、サンプルに穴を開ける。その後、表皮を真皮から分離する。それぞれを別々のバイアルに入れる。
その後、様々なサンプルを抽出した。
【0067】
これらの試験により、肌表面に90.6~98%のアミトリプチリンが残存することを示すことができた。表皮の26%と比較して、真皮には約74%のアミトリプチリンが存在する。
アミトリプチリンのバイオアベイラビリティは22.5μgである。
血流への通過は0.1%未満であり、ノルトリプチンへのアミトリプチリンの生物変換は約25ngと非常に低いことが観察された。
本発明のまた別の態様は、以下のとおりであってもよい。
〔1〕医薬組成物であって、局所適用に好適な薬学的に許容可能な担体に、前記組成物の全質量に対して10質量%~30質量%のアミトリプチリン、アミトリプチリン又はその薬学的に許容可能な塩を含み、化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛の局所治療において使用するための組成物。
〔2〕末梢部(手及び足)に適用することにより、化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛の治療において使用するための、前記〔1〕に記載の組成物。
〔3〕前記組成物の全質量に対して10質量%~20質量%、好ましくは10質量%超から15質量%のアミトリプチリン又はその薬学的に許容可能な塩を含むことを特徴とする、前記〔1〕又は〔2〕に記載の組成物。
〔4〕神経障害性疼痛を治療する唯一の薬剤として前記アミトリプチリンを含有する、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔5〕化学療法誘発性末梢神経障害性疼痛を低減又は予防さえする目的のため、化学療法治療前に予防的に使用するための、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔6〕複数の化学療法セッションを含む癌治療で使用するためのものであって、化学療法誘発性であり得る神経障害性疼痛を治療又は予防するために前記化学療法セッション間に投与される、前記〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔7〕複数の化学療法セッションを含む癌治療で使用するためのものであって、前記化学療法セッション前、次に化学療法レジメン中及び化学療法レジメン間に予防的に投与され、前記神経障害性疼痛の状態に応じて必要であれば前記化学療法治療後に継続する、前記〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔8〕水中油型エマルション状であり、少なくとも脂肪性物質、1種以上の水和活性剤、及び非イオン性界面活性剤を含む、前記〔1〕~〔7〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔9〕好ましくは合成、動物、鉱物又は植物の油、シリコーン油、脂肪酸、脂肪アルコール、ろう、ゴム、及びこれらの化合物の混合物から選択され、より優先的には鉱物油、脂肪酸、ろう、及びこれらの化合物の混合物から選択される1種以上の脂肪性物質を含み、特に1種以上の鉱物油、1種以上の脂肪酸、及び1種以上のろうの混合物を含むことを特徴とする、前記〔1〕~〔8〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔10〕ソルビタンエステル類、グリセロールエステル類、及びこれらの化合物の混合物から選択される1種以上の非イオン性界面活性剤を含むことを特徴とする、前記〔1〕~〔9〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔11〕好ましくはカルボキシビニル重合体、セルロース系誘導体、キサンタンガム類、植物ゴム類、ケイ酸アルミニウム/マグネシウム、グアーガム類、ポリアクリルアミド重合体、アクリレート共重合体、加工デンプン、及びこれらの化合物の混合物から選択され、より優先的にはカルボキシビニル重合体から選択される、1種以上のゲル化剤を含むことを特徴とする、前記〔1〕~〔10〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔12〕・10質量%~30質量%、好ましくは10質量%~20質量%、より優先的には10質量%超~15質量%のアミトリプチリン又はその薬学的に許容可能な塩と、
・2質量%~8質量%の1種以上の界面活性剤と、
・15質量%~25質量%の1種以上の脂肪性物質と、
・0.1質量%~4質量%の1種以上のゲル化剤と、
・7質量%~15質量%の1種以上の水和活性剤と、
・任意に0~3質量%の1種以上の防腐剤と、
・任意に0~1質量%の1種以上のpH調整剤と、
・水と
を含むことを特徴とする、前記〔1〕~〔11〕のいずれか一項に記載の組成物。
〔13〕・10質量%~30質量%、好ましくは10質量%~20質量%、より優先的には10.5質量%~15質量%のアミトリプチリン又はその薬学的に許容可能な塩と、
・2質量%~8質量%のソルビタンエステル類、グリセロールエステル類、及びこれらの化合物の混合物から選択される1種以上の界面活性剤と、
・15質量%~25質量%の鉱物油、脂肪酸、ろう、及びこれらの化合物の混合物から選択される1種以上の脂肪性物質と、
・0.1質量%~4質量%のカルボキシビニル重合体から選択される1種以上のゲル化剤と、
・7質量%~15質量%の1種以上の水和活性剤と、
・任意に0~3質量%の1種以上の防腐剤と、
・任意に0~1質量%の1種以上のpH調整剤と、
・水と
を含むことを特徴とする、前記〔12〕に記載の組成物。
〔14〕・10質量%~30質量%、好ましくは10質量%~20質量%、より優先的には10.5質量%~15質量%のアミトリプチリン又はその薬学的に許容可能な塩と、
・2質量%~8質量%の1種以上のソルビタンエステル類及び1種以上のグリセロールエステル類の混合物と、
・15質量%~25質量%の1種以上の鉱物油、1種以上の脂肪酸、及び1種以上のろうの混合物と、
・0.1質量%~4質量%の1種以上のカルボキシビニル重合体と、
・7質量%~15質量%のグリセロールと、
・任意に0~3質量%の1種以上の防腐剤と、
・任意に0~1質量%の1種以上のpH調整剤と、
・水と
を含むことを特徴とする、前記〔12〕又は〔13〕に記載の組成物。
〔15〕クリームの形状であることを特徴とする、前記〔1〕~〔14〕のいずれか一項に記載の組成物。