(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】粒子状のフッ化ビニリデン系重合体、および粒子状のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 214/22 20060101AFI20220907BHJP
C08F 2/18 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
C08F214/22
C08F2/18
(21)【出願番号】P 2020531345
(86)(22)【出願日】2019-07-17
(86)【国際出願番号】 JP2019028117
(87)【国際公開番号】W WO2020017561
(87)【国際公開日】2020-01-23
【審査請求日】2020-12-24
(31)【優先権主張番号】P 2018137092
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018137094
(32)【優先日】2018-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】榊原 志太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 圭介
(72)【発明者】
【氏名】小林 正太
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-294131(JP,A)
【文献】特開2014-065911(JP,A)
【文献】国際公開第99/028916(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/043609(WO,A1)
【文献】特開平10-272744(JP,A)
【文献】国際公開第95/033782(WO,A1)
【文献】特開平03-056516(JP,A)
【文献】特表2013-514438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状のフッ化ビニリデン系重合体
の製造方法であって、
上記粒子状のフッ化ビニリデン重合体は、
粉体嵩密度が0.5g/mL以上であり、
円形度が0.8以下の粒子の含有率が50%以下であり、
上記フッ化ビニリデン系重合体中のフッ化ビニリデンに由来する構成単位が全構成単位の合計の90.00mol%以上であ
って、
ペンタデカフルオロオクタンニトリル、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-デカフルオロ-6-[(1,2,2-トリフルオロビニル)オキシ]ヘキサンニトリルおよび2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,-ドデカフルオロへプチルアクリレートから選択される少なくとも1つの化合物と、フッ化ビニリデンとを重合媒体に添加して懸濁重合することを特徴とする、粒子状のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法。
【請求項2】
上記粒子状のフッ化ビニリデン系重合体は、全体の70質量%以上の粒子が、イオン交換水に沈降することを特徴とする請求項1に記載の粒子状のフッ化ビニリデン系重合体
の製造方法。
【請求項3】
上記粒子状のフッ化ビニリデン系重合体は、水銀ポロシメータで測定した累積細孔容量が、0.5mL/g以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の粒子状のフッ化ビニリデン系重合体
の製造方法。
【請求項4】
さらに、アクリル酸系モノマーまたは含フッ素モノマー
を前記重合媒体に添加することを特徴とする請求項1~
3のいずれか1項に記載の粒子状のフッ化ビニリデン系重合体
の製造方法。
【請求項5】
上記フッ化ビニリデン系重合体中のフッ化ビニリデンに由来する構成単位が全構成単位の合計の99.95mol%以下であることを特徴とする請求項1~
4のいずれか1項に記載の粒子状のフッ化ビニリデン系重合体
の製造方法。
【請求項6】
上記重合媒体が水であることを特徴とする請求項
1~5のいずれか1項に記載の粒子状のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状のフッ化ビニリデン系重合体、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
懸濁重合によって製造されるフッ化ビニリデン系重合体の粒子内部は多孔質になりやすい。そのため、フッ化ビニリデン系重合体の嵩密度は低下しやすい。フッ化ビニリデン系重合体の嵩密度が低下すると、溶媒への溶解時にポリマーが浮き上がって撹拌不良が生じるため、溶解性が悪化する。また、保管時または輸送時に嵩が大きいことは生産コストの増大につながる。
【0003】
懸濁重合によって得られる粒子状のフッ化ビニリデン系重合体を高密度化させるための方法はこれまで複数考案されており、例えば、懸濁重合の後半においてフッ化ビニリデンを追加添加する方法がある。しかし、この方法は高圧ポンプなどの付帯設備が必要となるばかりでなく、重合系内でスケール付着(樹脂の付着)の増大などの問題がある。これに対し、特許文献1には、二次懸濁剤を添加して重合を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】日本国公開特許公報 特開2012-201866号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の二次懸濁剤を添加して重合を行う方法では、重合に要する時間が長くなるという問題がある。当該方法であっても、嵩密度が十分とはいえず、その結果、溶媒への溶解性も不十分であるという問題がある。
【0006】
よって、本発明の一態様は、溶解性に優れた粒子状のフッ化ビニリデン系重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る粒子状のフッ化ビニリデン系重合体は、粉体嵩密度が0.5g/mL以上であり、円形度0.8以下の粒子の含有率が50%以下である。
【0008】
また、上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る粒子状のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法は、以下の式(4)で示される化合物とフッ化ビニリデンとを重合媒体に添加して重合する構成を有する。
X-R・・・(4)
(ただし、式(4)において、Rは、水素原子、フッ素原子または極性官能基であり、式Xは、炭素数4以上であって(CF2)m (mは2以上の整数)のユニットを含む有機鎖である。)
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、溶解性に優れた粒子状のフッ化ビニリデン系重合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例3に係る、測定粒子の円形度の頻度を示すグラフである。
【
図2】実施例4に係る、測定粒子の円形度の頻度を示すグラフである。
【
図3】実施例5に係る、測定粒子の円形度の頻度を示すグラフである。
【
図4】実施例6に係る、測定粒子の円形度の頻度を示すグラフである。
【
図5】比較例3に係る、測定粒子の円形度の頻度を示すグラフである。
【
図6】比較例1に係る、測定粒子の円形度の頻度を示すグラフである。
【
図7】比較例2に係る、測定粒子の円形度の頻度を示すグラフである。
【
図8】比較例4に係る、測定粒子の円形度の頻度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態に係る粒子状のフッ化ビニリデン系重合体は、粉体嵩密度が0.5g/mL以上であり、円形度0.8以下の粒子の含有率が50%以下である。
【0012】
<1.フッ化ビニリデン系重合体>
本実施形態に係るフッ化ビニリデン系重合体は、粒子状のフッ化ビニリデン系重合体である。以下、粒子状のフッ化ビニリデン系重合体について、単に「フッ化ビニリデン系重合体」と記載する。
【0013】
本願発明のフッ化ビニリデン系重合体は、フッ化ビニリデンの単独重合体に限らず、フッ化ビニリデンに由来する構成単位と、当該フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーに由来する構成単位とを含むフッ化ビニリデン共重合体(以下、単に「共重合体」と称する。)であってもよい。
【0014】
フッ化ビニリデン系重合体が共重合体である場合、フッ化ビニリデン系重合体中のフッ化ビニリデンに由来する構成単位の含有率は、全構成単位の合計の80.00mol%以上99.95mol%以下であることが好ましく、85.00mol%以上99.95mol%以下であることがより好ましく、90.00mol%以上99.95mol%以下であることがさらに好ましい。
【0015】
〔フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマー〕
共重合体における、フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマー(以下、単に「コモノマー」と称する。)としては、粉体嵩密度が0.5g/mL以上であり、円形度0.8以下の粒子の含有率が50%以下となるフッ化ビニリデン共重合体を形成し得る限り特に制限はない。好適に用いられるコモノマーとしては、含フッ素モノマー、エチレンおよびプロピレンなどの炭化水素系モノマー、(メタ)アクリル酸アルキル化合物およびカルボキシ基含有アクリレート化合物などのアクリル酸系モノマー、マレイン酸、マレイン酸モノメチルおよびマレイン酸ジメチルなどの不飽和二塩基酸誘導体モノマー、カルボン酸無水物基含有モノマー、ならびに次の式(1)で示される構造の化合物が挙げられる。中でも、共重合性の観点からはアクリル酸系モノマーおよび含フッ素モノマーが好適に用いられる。また環境負荷への影響の観点からは式(1)で示される構造の化合物が好適に用いられる。
【0016】
【化1】
式(1)において、Rは水素原子、フッ素原子または極性官能基である。極性官能基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、エーテル基、およびエステル基などが挙げられ、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基またはアミノ基が好ましく、シアノ基またはアミノ基がより好ましく、シアノ基が特に好ましい。
【0017】
R1は、水素原子、フッ素原子、塩素原子または炭素数1~5のアルキル基である。R1としては、中でも、水素原子、フッ素原子、またはトリフルオロメチル基が好ましく、水素原子またはフッ素原子がより好ましい。R2およびR3は、それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子である。
【0018】
X1は炭素数4以上であって(CF2)n (nは2以上の整数)のユニットを含む有機鎖である。有機鎖はヘテロ原子を含むことが好ましい。ヘテロ原子としては、酸素原子、窒素原子、および硫黄原子などが挙げられ、中でも酸素原子が好ましい。nは3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、5以上であることがさらに好ましい。炭素数は、4以上であればよいが、5以上が好ましく、6以上がより好ましい。(CF2)nのユニットは1以上含まれていればよく、他の原子団を挟んで2以上存在していてもよい。
【0019】
なお、本明細書において、「(CF2)nのユニットが1以上含まれている」とは、(CF2)nを「1ユニット」としたときに、このユニットを1ユニット以上含んでいることを意図している。
【0020】
上述の式(1)で示される化合物は、より具体的には、以下の式(2)または(3)で示される化合物であることが好ましい。
【化2】
【0021】
【化3】
式(2)において、R、R
1、R
2およびR
3は、それぞれ式(1)における、R、R
1、R
2およびR
3と同じである。X
2は炭素数3以上であって(CF
2)
n (nは2以上の整数)のユニットを含む有機鎖である。炭素数は、3以上であればよいが、4以上が好ましく、5以上がより好ましい。
【0022】
式(3)において、R、R1、R2およびR3は、それぞれ式(1)におけるR、R1、R2およびR3と同じである。X3は炭素数4以上であって(CF2)n (nは2以上の整数)のユニットを含む有機鎖である。炭素数は、4以上であればよいが、5以上が好ましく、6以上がより好ましい。
【0023】
式(2)中のX2および(3)中のX3において、有機鎖は(CF2)n (nは4以上の整数)を含むことが好ましい。nは3以上であることが好ましく4以上であることがより好ましく、5以上であることがさらに好ましい。
【0024】
式(2)で示される化合物の好ましい例としては、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,-ドデカフルオロへプチルアクリレートが挙げられ、式(3)で示される化合物の好ましい例としては、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-デカフルオロ-6-[(1,2,2-トリフルオロビニル)オキシ]ヘキサンニトリルが挙げられる。
【0025】
コモノマーとして、上述の式(1)で示される化合物を用いた場合、フッ化ビニリデン共重合体中の式(1)で示される化合物に由来する構成単位の含有率は、全構成単位の合計の0.05mol%以上10.00mol%以下であることが好ましく、0.10mol%以上5.00mol%以下であることがより好ましく、0.15mol%以上2.00mol%以下であることがさらに好ましい。
【0026】
〔他のモノマー〕
フッ化ビニリデン系重合体が共重合体である場合、該共重合体は、上述の式(1)で示される化合物に由来する構成単位の他に、さらに他のフッ化ビニリデンと共重合可能なモノマー(以下、単に「他のモノマー」と称する。)に由来する構成単位を含んでいてもよい。具体的には、含フッ素モノマー、エチレンおよびプロピレンなどの炭化水素系モノマー、(メタ)アクリル酸アルキル化合物およびカルボキシ基含有アクリレート化合物などのアクリル酸系モノマー、マレイン酸、マレイン酸モノメチルおよびマレイン酸ジメチルなどの不飽和二塩基酸誘導体モノマー、ならびにカルボン酸無水物基含有モノマーが挙げられる。共重合性の観点からは、アクリル酸系モノマーおよび含フッ素モノマーが好ましい。なお、他のモノマーは、一種単独でも二種以上でもよい。
【0027】
含フッ素モノマーとしては、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、ペルフルオロメチルビニルエーテルに代表されるペルフルオロアルキルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0028】
不飽和二塩基酸誘導体モノマーとしては、マレイン酸、シトラコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸ジメチルおよびシトラコン酸モノメチルなどが挙げられる。
【0029】
(メタ)アクリル酸アルキル化合物としては(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸クロロメチル、(メタ)アクリル酸2-クロロエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5,6-ペンタヒドロキシヘキシル、(メタ)アクリル酸2,3,4,5-テトラヒドロキシペンチル、2-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、2-(ヒドロキシエチル)アクリル酸メチルなどが挙げられる。
【0030】
カルボキシ基含有アクリレート化合物としては、(メタ)アクリル酸、2-カルボキシエチルアクリレート、(メタ)アクリロイロキシプロピルコハク酸、(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2-ヒドロキシエチルアクリレート、および、ヒドロキシプロピルアクリレートが含まれる。
【0031】
フッ化ビニリデン系重合体が共重合体であって、コモノマーとして、さらに上述の他のモノマーを含める場合、フッ化ビニリデン系重合体中の他のモノマーに由来する構成単位の含有率は、全構成単位の合計の0.01mol%以上10.00mol%以下であることが好ましく、0.01mol%以上5.00mol%以下であることがより好ましく、0.01mol%以上2.00mol%以下であることがさらに好ましい。
【0032】
<2.フッ化ビニリデン系重合体の特性>
本実施形態に係るフッ化ビニリデン系重合体は、粒子状である。本実施形態に係るフッ化ビニリデン系重合体の平均粒径としては、特に限定はないが、通常は1~1000μmである。好ましくは10μm以上であり、より好ましくは25μm以上、50μm以上、100μmまたは150μm以上である。また、フッ化ビニリデン系重合体の平均粒径は、好ましくは750μm以下であり、より好ましくは500μm以下である。
【0033】
また、本実施形態に係るフッ化ビニリデン系重合体のインヘレント粘度は、フッ化ビニリデン系重合体粒子の化学的安定性および機械的強度を十分に発現させる観点から、0.5~7.0dL/gの範囲内の値であることが好ましく、1.0~5.0dL/gの範囲内の値であることがより好ましく、1.0~4.0dL/gの範囲内の値であることがさらに好ましい。フッ化ビニリデン系重合体のインヘレント粘度は、樹脂4gを1リットルのN,N-ジメチルホルムアミドに溶解させた溶液の30℃における対数粘度として求めることができる。
【0034】
本実施形態に係るフッ化ビニリデン系重合体は、後述する懸濁重合により製造することが可能である。
【0035】
〔嵩密度〕
本実施形態に係るフッ化ビニリデン系重合体の粉体嵩密度は、0.50g/mL以上である。粉体嵩密度は高いことが好ましく、具体的には、0.60g/mL以上であることが好ましく、0.65g/mL以上であることがより好ましく、0.70g/mL以上であることがさらに好ましい。粉体嵩密度の上限に制限はないが、例えば、1.5g/mL以下であり得る。
【0036】
本明細書における「嵩密度」とは、JIS K 6721-3.3「かさ比重」の測定法に従って測定した値である。具体的には、嵩比重測定装置を用いて試料を受器に落として質量を量り、
S=(C-A)/B
S:嵩密度(g/cm3)
A:受器の質量(g)
B:受器の内容積(cm3)
C:試料の入った受器の質量(g)
の式によって求める。
【0037】
フッ化ビニリデン系重合体の嵩密度が高ければ、単位質量当たりの総粒子数は減少することになる。そのため、溶解時の粒子同士の衝突頻度を抑えることができる。これにより、溶媒に溶解しにくいママコ形成を抑制することができるため、溶媒への溶解性が向上する。さらに、嵩密度が高ければ、すなわち単位体積当たりの重量が大きければ、保管および輸送にかかるコストが抑えられる。
【0038】
〔円形度〕
本実施形態に係るフッ化ビニリデン系重合体は、円形度0.8以下の粒子の含有率が50%以下である。
【0039】
本明細書における「円形度」とは、本発明の実施形態に係るフッ化ビニリデン系重合体の粒子の実測される形状と、円形との相似度を示すパラメータである。すなわち、円形度は、粒子の形状がどれだけ円形に近い形状であるかを表す。円形度は、粒子の形状を定量的に表現する方法として用いられるものであり、粒子の凹凸のレベルを定量的に示す指標である。すなわち、円形度は、粒子の形状が円形と同一形状(合同)である場合に1を示し、円形との形状の相似性が小さくなるほど小さな値となる。
【0040】
円形度は、例えば、円形度算出装置を用いて算出することができる。円形度算出装置の一例としては、撮影部、画像解析処理部および円形度算出部を備えているものがあり、以下のようにして円形度を算出することができる。
【0041】
撮影部は、粒子を撮影可能であればよく、例えば、CCDカメラおよび光学顕微鏡などを挙げることができる。撮影部は後述する画像解析処理部および円形度算出部を備えた装置(例えば、コンピュータ)と一体であってもよいし、独立していてもよい。なお、撮影部において撮影する粒子の数は、5000個程度であることが好ましい。
【0042】
画像解析処理部は、撮影部において得られた撮影画像に基づいて、撮影された粒子が円形だったと仮定した場合の粒子の粒径を示すデータ(以下、粒径D)および周長を示すデータ(以下、周長C)を算出する。より具体的には、撮影画像における粒子それぞれの面積Sを算出し、式(D=2×(S/π)1/2)に算出した面積Sの値を代入することにより粒径Dを算出する。
【0043】
円形度算出部は、画像解析処理部において算出された粒径Dと周長Cに基づいて円形度を算出するものである。まず、円形度算出部は、撮影された各粒子の個別円形度を示すデータ(以下、個別円形度φ´)を算出する。個別円形度φ´は、粒径Dから求められる円周の値(粒子を円形と仮定した場合の粒子の周長の値)と、実測された周長Cとを比較した値である。すなわち、実際の粒子が円形であれば、仮想値である円周値と周長Cとは同値となる。円形度算出部は、粒径Dと周長Cを式(φ´=Dπ/C)に代入することにより、個別円形度φ´を算出する。
【0044】
算出した個別円形度φ´に基づいて、円形度の平均値を示すデータ(以下、円形度φ)を算出する。また、円形度算出部は、算出した個別円形度φ´それぞれの頻度を示すデータを頻度値として取得する。
【0045】
本実施形態に係るフッ化ビニリデン系重合体は、円形度0.8以下の粒子の含有率は小さいことが好ましい。具体的には、50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、10%以下であることがさらに好ましい。
【0046】
円形度が高くなると、粒子同士の二次粒子形成を抑制することができる。本実施形態のフッ化ビニリデン系重合体では、全体として円形度が高い粒子の割合が大きいため、二次粒子の形成が抑えられ、これにより巨大なママコ形成を抑制することができる。その結果、溶媒への溶解性が向上する。
【0047】
〔粒子沈降〕
本実施形態に係るフッ化ビニリデン系重合体は、イオン交換水に沈降するものであることが好ましい。なお、本明細書において、「イオン交換水に沈降する」とは、室温条件下で容器にイオン交換水とフッ化ビニリデン系重合体とを重量比20:1で投入後、撹拌し、5分間静置後、液高の1/2以下に存在することをいう。
【0048】
イオン交換水に沈降するフッ化ビニリデン系重合体の割合は、70質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
【0049】
沈降しない粒子の数が低減することで、浮き上がりによる撹拌不良を抑制され、巨大なママコ形成を抑制することができる。その結果、溶媒への溶解性が向上する。
【0050】
〔累積細孔容量〕
本実施形態に係るフッ化ビニリデン系重合体は、累積細孔容量が0.5mL/g以下であることが好ましく、0.35mL/g以下であることがより好ましく、0.25mL/g以下であることがさらに好ましい。
【0051】
本明細書における「累積細孔容量」は、水銀ポロシメータを使用し、水銀圧入法により求められ値である。水銀ポロシメータとしては、例えば、(MICROMERITICS製 オートポアIV9500)などを用いることができる。
【0052】
累積細孔容量が小さいことは、細孔が少ない、小さいまたはその両方であることを表す。したがって、累積細孔容量が小さければ、単位質量当たりの総粒子数が少なくなる。そのため、溶解時の粒子同士の衝突頻度を抑えることができる。また、累積細孔容量が小さければ、浮き上がりを防ぎ、浮き上がりによる撹拌不良を抑制することができる。以上の結果から、巨大なママコ形成を抑制することができ、溶媒への溶解性を高めることができる。
【0053】
<3.フッ化ビニリデン系重合体の製造>
上述の粉体嵩密度および円形度の条件を満たす本実施形態におけるフッ化ビニリデン系重合体は、懸濁重合によって得られるものであり、重合の際、次の式(4)で示される構造の化合物とフッ化ビニリデンとを重合媒体に添加することにより、得ることができる。
X-R ・・・(4)
式(4)において、Rは、水素原子、フッ素原子または極性官能基である。極性官能基としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、エーテル基およびエステル基などが挙げられ、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基またはアミノ基が好ましく、シアノ基またはアミノ基がより好ましく、シアノ基が特に好ましい。
【0054】
Xは、炭素数4以上であって(CF2)m (mは2以上の整数)のユニットを含む有機鎖である。mは3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、5以上であることがさらに好ましい。(CF2)mのユニットは1以上含まれていればよく、他の原子団を挟んで2以上存在していてもよい。
【0055】
また、Xで示される有機鎖には、酸素および窒素等のヘテロ原子が含まれていてもよい。ヘテロ原子はこの有機鎖の主鎖に含まれていてもよく、側鎖に含まれていてもよい。
【0056】
式(4)で示される化合物は、以下の式(1)または(5)で示される化合物であることが好ましい。
【化4】
X
4-R ・・・(5)
式(1)において、R、R
1、R
2、R
3およびX
1は、上述の通りである。Rは、式(4)におけるRとも同じである。また、式(1)で示される化合物は、すでに述べた式(2)または(3)で示される化合物であることが好ましい。なお、式(2)または(3)については、再度の記載を省略する。
【0057】
式(5)において、Rは、式(1)および(4)におけるRと同じである。X4は、炭素数4以上15以下であって(CF2)n (nは2以上の整数)のユニットを含むフッ素置換アルキル基である。nは3以上であることが好ましく、4以上であることがより好ましく、5以上であることがさらに好ましい。(CF2)nのユニットは1以上含まれていればよく、他の原子団を挟んで2以上存在していてもよい。具体的には、X4は、フッ素置換アルキル基であることが好ましく、パーフルオロアルキル基であることがより好ましい。
【0058】
上述の式(5)で示される化合物の好ましい例としては、パーフルオロアルキルニトリル、パーフルオロアルキルカルボン酸およびパーフルオロポリエーテル等が挙げられる。好ましくは、パーフルオロアルキルニトリルであり、具体的には、ペンタデカフルオロオクタンニトリル、ノナデカフルオロデカンニトリルが挙げられる。
【0059】
式(5)で示される化合物の重合媒体への添加量は、重合媒体全量を100質量部としたときには、0.1~20.0質量部であることが好ましく、0.2~10.0質量部であることがより好ましく、0.2~5.0質量部であることがより好ましい。また、重合に用いられるフッ化ビニリデン(任意で、他のモノマーをさらに含む混合物)の全量を100質量部としたときには、式(5)で示される化合物の添加量は、0.1~50.0質量部が好ましく、0.1~25.0質量部であることがより好ましく、0.1~2.0質量部であることが重合反応性、および環境負荷への影響の観点からより好ましい。
【0060】
〔懸濁剤〕
本実施形態におけるフッ化ビニリデン系重合体の製造方法では、懸濁剤を用いる。
【0061】
懸濁剤としては、特に限定はないが、メチルセルロース、メトキシ化メチルセルロース、プロポキシ化メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、ポリエチレンオキシド、ゼラチンなどを用いることができる。
【0062】
懸濁剤としてはセルロース誘導体を用いることが好ましく、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどが好ましい。
【0063】
懸濁剤の使用量としては、懸濁重合を行う際に使用する全主成分(式(1)で示される構造の化合物とフッ化ビニリデンとの混合物、または式(4)で示される構造の化合物とフッ化ビニリデンとの混合物を指し、いずれも任意で他のモノマーを含むが、懸濁剤は含まない。以下単に「主成分」と称する。)100質量部に対して0.02質量部以上、0.25質量部未満存在することが好ましく、0.03質量部以上、0.2質量部未満存在することがより好ましく、0.05質量部以上、0.1質量部以下存在することが特に好ましい。前記範囲内では、モノマーの懸濁粒子が安定であり、気泡の発生も少なく好ましい。
【0064】
〔重合媒体〕
本実施形態におけるフッ化ビニリデン系重合体の製造方法では、重合媒体中に主成分を分散させ、懸濁重合を行う。
【0065】
重合媒体としては、水または水と炭化水素との混合媒体である水性媒体が好ましい。水と炭化水素との混合媒体としては、水を70質量%以上とする、水と、1,1,2,2,3-ペンタフルオロ-1,3-ジクロロプロパン、1,1,1,2,2-ペンタフルオロ-3,3-ジクロロプロパン、モノヒドロペンタフルオロジクロロプロパンなどのハロゲン化炭化水素媒体との混合媒体などを用いることができる。水性媒体としては水が好ましく、水としては、イオン交換水、純水などの精製された水を用いることが好ましい。
【0066】
懸濁重合を行う際の水性媒体の使用量としては、全主成分100質量部に対して100~1000質量部であることが好ましく、より好ましくは200~500質量部である。
【0067】
〔懸濁重合〕
本実施形態におけるフッ化ビニリデン系重合体の製造方法は、主成分および懸濁剤を含む水性媒体中に分散し、懸濁重合を行う。
【0068】
懸濁重合においては、通常重合開始剤を用いるが、重合開始剤としては、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジノルマルプロピルペルオキシジカーボネート、ジノルマルヘプタフルオロプロピルペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、イソブチリルペルオキサイド、ジ(クロロフルオロアシル)ペルオキサイド、ジ(ペルフルオロアシル)ペルオキサイド、t-ブチルペルオキシピバレートなどが使用できる。その使用量は、懸濁重合に使用する全主成分を100質量部とすると、0.05~5質量部、好ましくは0.1~2質量部である。
【0069】
また、酢酸エチル、酢酸メチル、炭酸ジエチル、アセトン、エタノール、n-プロパノール、アセトアルデヒド、プロピルアルデヒド、プロピオン酸エチル、四塩化炭素などの連鎖移動剤を添加して、得られるフッ化ビニリデン系重合体の重合度を調節することも可能である。その使用量は、通常は、懸濁重合に使用する全主成分を100質量部とすると、0.1~5質量部、好ましくは0.4~3質量部である。
【0070】
また、懸濁重合における重合温度Tは、重合開始剤の10時間半減期温度T10に応じて適宜選択され、通常はT10-25℃≦T≦T10+25℃の範囲で選択される。例えば、t‐ブチルペルオキシピバレートおよびジイソプロピルペルオキシジカーボネートのT10はそれぞれ、54.6℃および40.5℃である。したがって、t‐ブチルペルオキシピバレートおよびジイソプロピルペルオキシジカーボネートを重合開始剤として用いた重合では、その重合温度Tはそれぞれ29.6℃≦T≦79.6℃および15.5℃≦T≦65.5℃の範囲で適宜選択される。重合時間は特に制限されないが、生産性などを考慮すると100時間以下であることが好ましい。重合時の圧力は通常加圧下で行われ、好ましくは2.0~8.0MPa‐Gである。
【0071】
式(4)で示される化合物として、式(1)で示される化合物を用いて懸濁重合を行った場合、得られるフッ化ビニリデン系重合体は、フッ化ビニリデンに由来する構成単位と式(1)で示される化合物に由来する構成単位とを含有する共重合体である。一方、式(4)で示される化合物として、式(5)で示される化合物を用いて懸濁重合を行った場合、得られるフッ化ビニリデン系重合体は、単独重合体であるか、または式(1)で示される化合物を用いた場合に得られる共重合体を除く共重合体である。
【0072】
<4.フッ化ビニリデン系重合体の利用>
本発明の製造方法で得られるフッ化ビニリデン系重合体としては、従来の製法により得られるフッ化ビニリデン系重合体が用いられる各種用途に用いることが可能である。すなわち、本発明の製造方法で得られるフッ化ビニリデン系重合体は、溶融成型して各種フィルムおよび成形品を製造するための材料として用いてもよく、塗料またはバインダー樹脂として用いてもよい。
【0073】
また、このバインダー樹脂は、電極活物質を集電体に結着するために電極活性物質に塗布することで、電極として用いることができる。
【0074】
さらに、バインダー樹脂を塗布した電極は、リチウムイオン電池に代表される非水電解質二次電池に用いることができる。
<5.まとめ>
以上の説明から明らかなように、本発明は以下を包含する。
【0075】
粒子状のフッ化ビニリデン系重合体であって、粉体嵩密度が0.5g/mL以上であり、円形度0.8以下の粒子の含有率が50%以下である粒子状のフッ化ビニリデン系重合体。
【0076】
また、全体の70質量%以上の粒子が、イオン交換水に沈降する粒子状のフッ化ビニリデン系重合体。
【0077】
また、水銀ポロシメータで測定した累積細孔容量が0.5mL/g以下である粒子状のフッ化ビニリデン系重合体。
【0078】
また、フッ化ビニリデン系重合体が、フッ化ビニリデンと共重合可能なモノマーに由来する構成単位を含み、モノマーが、以下の式(1)で示される化合物を含む粒子状のフッ化ビニリデン系重合体。
【0079】
【化5】
ただし、式(1)において、Rは水素原子、フッ素原子または極性官能基であり、R
1は、水素原子、フッ素原子、または炭素数1~5のアルキル基であり、R
2およびR
3は、それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、X
1は、炭素数4以上であって(CF
2)
n (nは2以上の整数)のユニットを含む有機鎖である。
【0080】
また、式(1)で示される化合物が、以下の式(2)または(3)で示される化合物である粒子状のフッ化ビニリデン系重合体。
【0081】
【化6】
ただし、式(2)において、R、R
1、R
2およびR
3は、それぞれ式(1)におけるR、R
1、R
2およびR
3と同じであり、X
2は、炭素数3以上であって(CF
2)
n (nは2以上の整数)のユニットを含む有機鎖である。
【0082】
【化7】
ただし、式(3)において、R、R
1、R
2およびR
3は、それぞれ式(1)におけるR、R
1、R
2およびR
3と同じであり、X
3は、炭素数4以上であって(CF
2)
n (nは2以上の整数)のユニットを含む有機鎖である。
【0083】
また、有機鎖が(CF2)n (nは4以上の整数)を含む粒子状のフッ化ビニリデン系重合体。
【0084】
また、Rがヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基またはアミノ基である粒子状のフッ化ビニリデン系重合体。
【0085】
また、さらに、アクリル酸系モノマーまたは含フッ素モノマーに由来する構成単位を含む粒子状のフッ化ビニリデン系重合体。
【0086】
また、フッ化ビニリデン系重合体中のフッ化ビニリデンに由来する構成単位が全構成単位の合計の90.00mol%以上99.95mol%以下である粒子状のフッ化ビニリデン系重合体。
【0087】
また、以下の式(4)で示される化合物とフッ化ビニリデンとを重合媒体に添加して重合することを特徴とする粒子状のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法。
X-R ・・・(4)
ただし、式(4)において、Rは、水素原子、フッ素原子または極性官能基であり、式Xは、炭素数4以上であって(CF2)m (mは2以上の整数)のユニットを含む有機鎖である。
【0088】
また、式(4)で示される化合物が、以下の式(1)または(5)で示される化合物である粒子状のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法。
【0089】
【化8】
ただし、式(1)において、Rは(4)におけるRと同じであり、R
1は、水素原子、フッ素原子、または炭素数1~5のアルキル基であり、R
2およびR
3は、それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、X
1は、炭素数4以上であって(CF
2)
n (nは2以上の整数)のユニットを含む有機鎖である。
X
4-R ・・・(5)
ただし、式(5)において、Rは、式(4)におけるRと同じであり、X
4は、炭素数4以上15以下であって(CF
2)
n (nは2以上の整数)のユニットを含むフッ素置換アルキル基である。
【0090】
また、重合媒体が水である、粒子状のフッ化ビニリデン系重合体の製造方法。
【0091】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明は以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0092】
〔実施例1〕
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水を1240g、懸濁剤としてメトローズSM-100(信越化学工業(株)製)を0.4g、ペンタデカフルオロオクタンニトリル(東京化成製:以下、PFON)を4g、重合開始剤として50wt%ジ-i-プロピルペルオキシジカーボネート(IPP)-フロン225cb溶液を2.4g、フッ化ビニリデン(VDF)を370g仕込み、45℃まで昇温した。その後、45℃を維持した。重合は、昇温開始から合計8時間行った。重合終了後、重合体スラリーを95℃で60分熱処理した後、脱水、水洗し、さらに80℃で20時間乾燥してフッ化ビニリデン系重合体を得た。
【0093】
〔実施例2〕
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水を1240g、懸濁剤としてメトローズSM-100(信越化学工業(株)製)を0.4g、ペンタデカフルオロオクタンニトリル(東京化成製)を4g、アクリロイロキシエチルコハク酸(以下、AES)を0.4g、重合開始剤として50wt%ジ-i-プロピルペルオキシジカーボネート(IPP)-フロン225cb溶液を2.4g、フッ化ビニリデン(VDF)を370g仕込み、45℃まで昇温した。その後、45℃を維持し、4wt%AES水溶液を0.4g/分の速度で徐々に添加した。AESは初期に添加した量を含め、全量で4gを添加した。重合は、昇温開始から合計時間行った。重合終了後、重合体スラリーを95℃で60分熱処理した後、脱水、水洗し、さらに80℃で20時間乾燥してフッ化ビニリデン系重合体を得た。
【0094】
〔実施例3〕
仕込みの段階で、PFONに替えて、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6-デカフルオロ-6-[(1,2,2-トリフルオロビニル)オキシ]ヘキサンニトリル(東京化成製)(以下、3FO10FCN)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0095】
〔実施例4〕
仕込みの段階で、PFON 4gに替えて、3FO10FCN 2gを用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0096】
〔実施例5〕
仕込みの段階で、PFON 4gに替えて、3FO10FCN 3gを用い、アクリロイロキシエチルコハク酸(以下、AES)を0.4g添加したこと、また、45℃を維持している間に4wt%AES水溶液を0.4g/分の速度で添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。なお、AESは初期に添加した量を含め、全量で4gを添加した。
【0097】
〔実施例6〕
仕込みの段階で、PFONに替えて、2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,-ドデカフルオロへプチルアクリレート(東京化成製)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0098】
〔比較例1〕
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水を1050g、懸濁剤としてメトローズSM-100(信越化学工業(株)製)を0.2g、重合開始剤として50wt%ジ-i-プロピルペルオキシジカーボネート(IPP)-フロン225cb溶液を1.2g、連鎖移動剤として酢酸エチル(関東化学製)を1.8g、フッ化ビニリデン(VDF)を410g仕込み、26℃まで昇温した。その後、26℃を維持した。重合は、昇温開始から合計12時間行った。重合終了後、重合体スラリーを95℃で60分熱処理した後、脱水、水洗し、さらに80℃で20時間乾燥してフッ化ビニリデン系重合体を得た。
【0099】
〔比較例2〕
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水を1050g、AESを0.4g、懸濁剤としてメトローズSM-100(信越化学工業(株)製)を0.2g、重合開始剤として50wt%ジ-i-プロピルペルオキシジカーボネート(IPP)-フロン225cb溶液を3.3g、連鎖移動剤として酢酸エチル(関東化学製)を1.5g、フッ化ビニリデン(VDF)を410g仕込み、26℃まで昇温した。その後、26℃を維持し、5wt%AES水溶液を0.1g/分の速度で徐々に添加した。AESは初期に添加した量を含め、全量で4.1gを添加した。重合は、昇温開始から合計12時間行った。重合終了後、重合体スラリーを95℃で60分熱処理した後、脱水、水洗し、さらに80℃で20時間乾燥してフッ化ビニリデン系重合体を得た。
【0100】
〔比較例3〕
内容量2リットルのオートクレーブに、イオン交換水を1024g、懸濁剤としてメトローズSM-100(信越化学工業(株)製)を0.2g、添加剤としてソルビタントリオレエート(以下、span85)を0.4g、重合開始剤として50wt%ジ-i-プロピルペルオキシジカーボネート(IPP)-フロン225cb溶液を0.6g、連鎖移動剤として酢酸エチル(関東化学製)を1.8g、フッ化ビニリデン(VDF)を400g仕込み、26℃まで昇温した。その後、26℃を維持した。重合は、昇温開始から合計79時間行った。重合終了後、重合体スラリーを95℃で60分熱処理した後、脱水、水洗し、さらに80℃で20時間乾燥してフッ化ビニリデン系重合体を得た。
【0101】
〔比較例4〕
仕込みの段階で、PFONに替えて、ペルフルオロプロポキシエチレン(東京化成製)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0102】
各実施例および比較例の重合処方を表1に示す。
【0103】
【表1】
〔物性の測定〕
(嵩密度)
フッ化ビニリデン系重合体の嵩密度は、JIS K 6721-3.3「かさ比重」の測定法に従って測定した。具体的には、充分にかき混ぜた粉末試料をダンパー付漏斗に投入した後に速やかにダンパーを引抜き、試料を受器に落とした。受器から盛り上がった試料は、ガラス棒ですり落とした後、試料の入った受器の質量を量り、
S=(C-A)/B
S:嵩密度(g/cm
3)
A:受器の質量(g)
B:受器の内容積(cm
3)
C:試料の入った受器の質量(g)
の式によって求めた。結果を表2に示す。
【0104】
(粒子沈降)
フッ化ビニリデン系重合体の粒子沈降性は次のように測定した。
100mLビーカーにイオン交換水100mLを投入した後に、フッ化ビニリデン系重合体を5g投入し、撹拌した後に5分間静置した際に液高の1/2以下に存在する粒子の重量を測定した。結果を表2に示す。
【0105】
(円形度)
フッ化ビニリデン系重合体の円形度は、円形度算出装置(キーエンス製VHX-5000)を用いて次のように算出した。
【0106】
まず、フッ化ビニリデン系重合体粒子を3000個撮影し、撮影された各粒子が円形であったと仮定した場合の粒子の粒径を示すデータ(以下、粒径D)および周長を示すデータ(以下、周長C)を算出した。
【0107】
続いて撮影画像における各粒子の投影面積を示すデータ(以下、面積S)を取得して、そのデータに基づいて粒径Dを算出した。より具体的には、撮影画像における粒子それぞれの面積Sを算出し、式(D=2×(S/π)1/2)に算出した面積Sの値を代入することにより粒径Dを算出した。
【0108】
さらに、(粒径Dから求められる円周の値/周長C)から円形度φをそれぞれ算出した。具体的には、粒径Dと周長Cを式(φ=Dπ/C)に代入することにより算出した。
【0109】
測定粒子中の円形度φの頻度を示すグラフを得て、ここから円形度が0.8以下の粒子の割合を求めた。結果を表2に示す。また、測定粒子の円形度φの頻度を示すグラフをそれぞれ、
図1~
図8に示した。
図1~4は、それぞれ実施例3~6についてのグラフであり、
図5~8は、それぞれ比較例3、1、2および4についてのグラフである。横軸は円形度φを示し、縦軸は全測定粒子に対する粒子の割合を示す。
【0110】
(細孔容量)
水銀ポロシメータ(MICROMERITICS製オートポアIV9500製)を用いて細孔容量を測定した。測定法は以下のとおりである。
【0111】
フッ化ビニリデン系重合体粒子を試料容器に入れ、2.67Pa以下の圧力で30分間脱気する。次いで、水銀を試料容器内に導入し、徐々に加圧して水銀を粒子の細孔へ圧入する(最高圧力=414MPa)。このときの圧力と水銀の圧入量との関係から以下の各計算式を用いて粒子の細孔容積分布を測定する。具体的には、細孔直径89μmに相当する圧力(0.01MPa)から最高圧力(414MPa:細孔直径3nm相当)までに粒子に圧入された水銀の体積を測定する。細孔直径の算出は、直径(D)の円筒形の細孔に水銀を圧力(P)で圧入する場合、水銀の表面張力を「γ」とし、水銀と細孔壁との接触角を「θ」とすると、表面張力と細孔断面に働く圧力の釣り合いから、次式:-πDγcosθ=π(D/2)2・Pが成り立つ。従ってD=(-4γcosθ)/P となる。
【0112】
水銀の表面張力を484dyne/cmとし、水銀と炭素との接触角を130度とし、圧力PをMPaとし、そして細孔直径Dをμmで表示し、次式:D=1.27/P により圧力Pと細孔直径Dの関係を求めた。結果を表2に示す。
【0113】
(溶解性試験)
50ml容器にN-メチル-2-ピロリドン37.6gを投入し、50℃に加熱した。撹拌子によって撹拌しながらフッ化ビニリデン系重合体2.40gを投入し、50℃を保ったまま溶解に要した時間を測定した。結果を表2に示す。
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明は、フッ化ビニリデン重合体を材料として用いる技術分野に利用可能である。