(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】潜熱蓄熱材組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 5/06 20060101AFI20220907BHJP
【FI】
C09K5/06 D
(21)【出願番号】P 2021038991
(22)【出願日】2021-03-11
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000221834
【氏名又は名称】東邦瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 洸平
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-124197(JP,A)
【文献】特開2020-012084(JP,A)
【文献】特開2001-227887(JP,A)
【文献】特開昭59-022986(JP,A)
【文献】特開平09-061078(JP,A)
【文献】特開2009-073985(JP,A)
【文献】特開2017-002212(JP,A)
【文献】特開2006-284031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸ナトリウム三水和物(CH
3COONa・3H
2O)を主成分とする潜熱蓄熱材と、該潜熱蓄熱材の融点を調整する融点調整剤を含み、該融点調整剤として、第1の添加剤である尿素が含有され
ていると共に、第2の添加剤として、糖アルコールに属する物質が含有された潜熱蓄熱材組成物において
、
前記潜熱蓄熱材の結晶化の誘起を促す過冷却防止剤を含み、前記過冷却防止剤は、ヒスチジン(C
6H
9N
3O
2
)であること、
を特徴とする潜熱蓄熱材組成物。
【請求項2】
請求項
1に記載する潜熱蓄熱材組成物において、
前記糖アルコールに属する物質は、エリスリトール(C
4H
10O
4)であること、
を特徴とする潜熱蓄熱材組成物。
【請求項3】
請求項
1または請求項2に記載する潜熱蓄熱材組成物において
、
前記潜熱蓄熱材の融点を二十度台に調整したものであること、
を特徴とする潜熱蓄熱材組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して、蓄熱またはその放熱を行う潜熱蓄熱材と、この潜熱蓄熱材の物性を調整する添加剤を配合した潜熱蓄熱材組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
潜熱蓄熱材(PCM:Phase Change Material)は、相変化に伴う潜熱の出入りを利用して蓄熱または放熱を行う物性を有し、熱供給源から提供された熱を一時的に蓄えた後、熱需要先で、蓄えた熱を必要に応じて取り出すことで、エネルギが無駄なく有効に活用できる。潜熱蓄熱材は、パラフィンを代表とする有機化合物系の蓄熱材と、酢酸ナトリウム三水和物(CH3COONa・3H2O)等の無機塩水和物系の蓄熱材に大別され、何れの系の蓄熱材も良く知られている。
【0003】
ところで、近年、潜熱蓄熱材に蓄熱した熱エネルギを積極的に活用する技術開発に、産業界は、多くの関心を寄せている。例えば、融点を20℃台の温度帯とした潜熱蓄熱材が使用される場合、潜熱蓄熱材を壁や床等に用いて省エネルギ化対策を施した住宅では、昼間、太陽光による熱を潜熱蓄熱材に蓄熱することにより、室温の上昇が抑制できる。一方で、その潜熱を夜間、放熱すると、室温の下降を抑制することが可能になる。そのため、人にとって快適な室温20℃台の居住空間が、潜熱蓄熱材によって提供できるようになる。
【0004】
このように、住宅向けに潜熱蓄熱材を用いようとする場合、潜熱蓄熱材には、これまで融点20℃台のパラフィンが検討されてきた。しかしながら、パラフィンは引火性を有している。そのため、不燃性または難燃焼性の潜熱蓄熱材が、求められている。そこで、本出願人は、この要望に応えることができそうな潜熱蓄熱材として、酢酸ナトリウム三水和物(CH3COONa・3H2O)(融点58℃)を主成分とする潜熱蓄熱材組成物に着眼した。
【0005】
酢酸ナトリウム三水和物を主成分とした潜熱蓄熱材組成物は、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1は、酢酸ナトリウム三水和物のほか、エリスリトール等の潜熱蓄熱材を主成分に、その融点調整剤として、尿素を含有させた潜熱蓄熱材組成物である。特許文献1によると、微細結晶生成作用を有した尿素の添加により、潜熱蓄熱材組成物は、凝固にあたり、大きな塊や、大小不揃いの塊による集合体にならず、柔軟性や流動性を有した微細な粒子の集合体になり得る。そして、尿素は、比較的少量の添加で、潜熱蓄熱材の融点を効果的に調整できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、融点58℃の酢酸ナトリウム三水和物を主成分に含む潜熱蓄熱材組成物に対し、その融点を、どの程度まで低く調整できるかについては、凝固点温度以上(50℃)と凝固点温度以下(30℃)の記載以外に、何ら言及されていない。前述した住宅向けの用途では、融点20℃台の潜熱蓄熱材を用いることが好ましいため、特許文献1の潜熱蓄熱材組成物は、パラフィンの代替となる蓄熱材として使用できない。
【0008】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、潜熱蓄熱材である酢酸ナトリウム三水和物を主成分とする場合でも、融点を、20℃台まで降下させることができている潜熱蓄熱材組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物は、以下の構成を有する。
(1)酢酸ナトリウム三水和物(CH3COONa・3H2O)を主成分とする潜熱蓄熱材と、該潜熱蓄熱材の融点を調整する融点調整剤を含み、該融点調整剤として、第1の添加剤である尿素が含有された潜熱蓄熱材組成物において、前記融点調整剤には、前記第1の添加剤と共に、第2の添加剤として、糖アルコールに属する物質が含有されていること、前記潜熱蓄熱材の結晶化の誘起を促す過冷却防止剤を含み、前記過冷却防止剤は、ヒスチジン(C6H9N3O2)または、金属イオンを含むリン酸塩水和物の少なくともいずれか一方であること、を特徴とする。
(2)(1)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、前記リン酸塩水和物は、リン酸水素二ナトリウム十二水和物(Na2HPO4・12H2O)であること、を特徴とする。
(3)(1)または(2)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、前記糖アルコールに属する物質は、エリスリトール(C4H10O4)であること、を特徴とする。
(4)(3)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、前記過冷却防止剤は、ヒスチジンまたはリン酸水素二ナトリウム十二水和物であり、前記潜熱蓄熱材の融点を二十度台に調整したものであること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
上記構成を有する本発明に係る潜熱蓄熱材組成物の作用・効果について説明する。
(1),(2)酢酸ナトリウム三水和物(CH3COONa・3H2O)を主成分とする潜熱蓄熱材と、該潜熱蓄熱材の融点を調整する融点調整剤を含み、該融点調整剤として、第1の添加剤である尿素が含有された潜熱蓄熱材組成物において、融点調整剤には、第1の添加剤と共に、第2の添加剤として、糖アルコールに属する物質が含有されていること、潜熱蓄熱材の結晶化の誘起を促す過冷却防止剤を含み、過冷却防止剤は、ヒスチジン(C6H9N3O2)または、例えば、リン酸水素二ナトリウム十二水和物(Na2HPO4・12H2O)等、金属イオンを含むリン酸塩水和物の少なくともいずれか一方であること、を特徴とする。
【0011】
この特徴により、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物では、潜熱蓄熱材である酢酸ナトリウム三水和物が主成分に含有されていても、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物を、潜熱蓄熱材の融点58℃より、例えば、30℃以上降下した融点にすることができる。加えて、酢酸ナトリウム三水和物は、無機塩水和物による潜熱蓄熱材の中でも、特に過冷却現象を生じ易い潜熱蓄熱材であるが、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物では、過冷却現象の発現が、過冷却防止剤により、効果的に抑止できている。
【0012】
従って、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物によれば、酢酸ナトリウム三水和物を主成分とした潜熱蓄熱材の融点を、20℃台まで降下させることができる、という優れた効果を奏する。
【0013】
(3)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、糖アルコールに属する物質は、エリスリトール(C4H10O4)であること、を特徴とする。
【0014】
この特徴により、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物の融点は、主成分となる酢酸ナトリウム三水和物の融点58℃よりも、一例として30℃程低くなり、エリスリトールは、このような大幅な融点降下に適す融点調整剤となる。
【0015】
(4)に記載する潜熱蓄熱材組成物において、過冷却防止剤は、ヒスチジンまたはリン酸水素二ナトリウム十二水和物であり、潜熱蓄熱材の融点を二十度台に調整したものであること、を特徴とする。
【0016】
この特徴により、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物を、例えば、省エネルギ化対策を施した住宅向けの壁や床等に配設した場合、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物が、昼間、太陽光による熱を蓄熱することにより、室温の上昇を抑制することができるようになる。その一方で、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物に蓄えた潜熱を夜間、放熱することにより、室温の下降を抑制することができるようになる。従って、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物は、人にとって快適な室温20℃台の居住空間を提供することに貢献することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態の実施例1,2に係る潜熱蓄熱材組成物の構成成分を模式的に示す図である。
【
図2】実施例1,2とその比較例1,2に対し、潜熱蓄熱材組成物の構成成分の含有割合と、DSCによる融点及び蓄熱量の測定結果をまとめて掲載した表である。
【
図3】検証試験1の結果であり、実施例1,2とその比較例1,2に係る潜熱蓄熱材組成物の状態変化について、まとめて示すグラフである。
【
図4】実施例1に係る潜熱蓄熱材組成物に対し、その融点ピーク及び蓄熱量を示すグラフであり、過冷却防止剤を、ヒスチジンとした場合の実験結果を示すグラフである。
【
図5】実施例2に係る潜熱蓄熱材組成物に対し、その融点ピーク及び蓄熱量を示すグラフであり、過冷却防止剤を、リン酸水素二ナトリウム十二水和物とした場合の実験結果を示すグラフである。
【
図6】比較例1に係る潜熱蓄熱材に対し、その融点ピーク及び蓄熱量を示すグラフであり、融点調整剤と過冷却防止剤を添加していない場合の実験結果を示すグラフである。
【
図7】過冷却防止剤をアミノ酸とした潜熱蓄熱材組成物の相状態を、目視により、過冷却防止剤をなす物質毎に、それぞれ確認した調査試験の結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物について、実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0019】
本発明に係る潜熱蓄熱材組成物は、先に例示したように、住宅の省エネルギ化対策として、壁内や床下等、建屋内に配設され、昼間、太陽光による熱を蓄熱する一方で、その潜熱を夜間、室内に放熱することにより、室内を快適な温度に調整する使途等、潜熱蓄熱材に蓄熱した潜熱による熱エネルギを、需要先で積極的に活用する目的で使用される。本発明に係る潜熱蓄熱材組成物は、袋やカプセル状の容器(図示せず)毎に小分けして、容器に漏れのない態様で、液密かつ気密に充填される。潜熱蓄熱材組成物は、液相と固相との相変化に伴った潜熱の出入りを利用して、蓄えた熱を必要に応じて取り出すことができ、蓄熱とその放熱のサイクルを複数回繰り返す。
【0020】
はじめに、潜熱蓄熱材組成物1について、説明する。
図1は、実施形態の実施例1,2に係る潜熱蓄熱材組成物の構成成分を模式的に示す図である。
図1に示すように、本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物1は、蓄熱または放熱を行う潜熱蓄熱材10として、酢酸ナトリウム三水和物(CH
3COONa・3H
2O)を主成分に、その融点を調整する融点調整剤2種(第1の添加剤20、第2の添加剤30)と、過冷却防止剤40を配合してなる。過冷却防止剤40は、潜熱蓄熱材10の結晶化の誘起を促す添加剤である。
【0021】
酢酸ナトリウム三水和物単体は、水和数3、分子量[g/mol]136.08、融点58℃、蓄熱量約276kJ/kg(400kJ/L)、融点より低い温度では、水に易溶な固体の状態であるが、過冷却現象を著しく生じ易い。
【0022】
第1の添加剤20(第1の融点調整剤)は、尿素(CH4N2O)である。尿素の物性は、分子量[g/mol]60.06、融点133~135℃、不燃性で無臭、水に易溶、結晶状の白い固体で、人体にとって安全な物質である。尿素は、水との溶解で、負の溶解熱を発生する物性を有している。すなわち、潜熱蓄熱材組成物1では、潜熱蓄熱材10は、酢酸ナトリウム三水和物であり、尿素が、酢酸ナトリウム三水和物の水に溶解するとき、この尿素において、外部から熱を吸収して吸熱反応が生じる。
【0023】
第2の添加剤30(第2の融点調整剤)は、糖アルコールに属する物質であり、本実施形態では、エリスリトール(C4H10O4)である。エリスリトールは、糖アルコールの一種である天然由来の物質で、食品添加物等としても使用されている程、人体にとっても安全性の高い物質である。エリスリトール単体は、分子量[g/mol]122.12、液相と固相との間で相変化を行う物性を有し、融点121℃より低い温度では、水に易溶な固体である一方、融点より高い温度では、液体である。
【0024】
過冷却防止剤40は、アミノ酸の一種であるヒスチジン(過冷却防止剤40A)である。あるいは、過冷却防止剤40は、金属イオンを含むリン酸塩水和物であり、本実施形態では、リン酸水素二ナトリウム十二水和物(Na2HPO4・12H2O)(過冷却防止剤40B)である。
【0025】
ヒスチジンは、塩基性アミノ酸の一種で、分子量[g/mol]155.16、人体にとって安全な物質であり、L-ヒスチジンは、水に可溶、無色の結晶である。
【0026】
また、リン酸水素二ナトリウム十二水和物単体の物性は、水和数12、分子量[g/mol]358.19、不燃性で無臭、水に可溶、人体にとって安全な物質で、白い結晶性の固体であり、融点は約35℃である。
【0027】
次に、潜熱蓄熱材組成物1に対し、相変化による凝固の挙動を確認するための実験として、実施例1,2に係る潜熱蓄熱材組成物と、その比較例1に係る潜熱蓄熱材と、比較例2に係る潜熱蓄熱材組成物の各試料を用いて、その凝固に関する3種の検証試験を行った。
図2は、実施例1,2とその比較例1,2に対し、潜熱蓄熱材組成物の構成成分の含有割合と、DSCによる融点及び蓄熱量の測定結果をまとめて掲載した表である。
【0028】
(実施例1)
実施例1に係る潜熱蓄熱材組成物1A(1)は、
図2に示すように、主成分である酢酸ナトリウム三水和物(潜熱蓄熱材10)45.6wt%に、第1の融点調整剤である尿素(第1の添加剤20)30.4wt%と、第2の融点調整剤であるエリスリトール(第2の添加剤30)19.0wt%と、ヒスチジン(過冷却防止剤40A)5.0wt%を添加してなる。
【0029】
(実施例2)
実施例2に係る潜熱蓄熱材組成物1B(1)は、主成分である酢酸ナトリウム三水和物(潜熱蓄熱材10)43.2wt%に、第1の融点調整剤である尿素(第1の添加剤20)28.8wt%と、第2の融点調整剤であるエリスリトール(第2の添加剤30)18.0wt%と、リン酸水素二ナトリウム十二水和物(過冷却防止剤40B)10.0wt%を添加してなる。
【0030】
(比較例1)
比較例1に係る潜熱蓄熱材は、酢酸ナトリウム三水和物単体(100wt%)である。
【0031】
(比較例2)
比較例2に係る潜熱蓄熱材組成物は、主成分である酢酸ナトリウム三水和物48.0wt%に、第1の融点調整剤である尿素32.0wt%と、第2の融点調整剤であるエリスリトール20.0wt%を添加してなる。
【0032】
<検証試験1>
はじめに、検証試験1について、説明する。検証試験1では、実施例1,2に係る潜熱蓄熱材組成物と、その比較例1に係る潜熱蓄熱材と、比較例2に係る潜熱蓄熱材組成物に対し、その試料を、潜熱蓄熱材組成物毎にそれぞれ総重量50gずつ作製。具体的には、試料の総重量が50gとなるよう、試料の構成成分である全種の原料を、秤量後に、容器であるアルミパック(縦12.5cm×横8.5cmの長方形)に収容し、収容した原料同士をアルミパック内で混合。次に、原料を収容した状態のアルミパックを、ウォーターバスに浸漬して60℃で加熱し、比較例1に係る潜熱蓄熱材を除き、アルミパック内の収容物(試料)を、完全に融解させた。比較例1に係る潜熱蓄熱材については、完全融解すると過冷却現象を起こしてしまうため、アルミパック内で、僅かに融け残りがある状態にして加熱を停止した。
【0033】
次に、アルミパック内の試料を凝固させるのにあたり、試料の入ったアルミパックを、恒温槽内にセットした後、恒温槽内で0℃まで冷却。次に、試料を、0℃から40℃になるまで、10℃/hourの昇温速度で加熱した。その後、試料を、40℃の温度で6時間保持することにより、試料に蓄熱を行った。そして、試料の保温開始から6時間経過後、40℃に保温されていた試料を、0℃になるまで、10℃/hourの降温速度で冷却し、試料から放熱する挙動を観察した。なお、試料の入ったアルミパックの表面に貼付した熱電対により、試料の温度を計測した。
【0034】
<検証試験1の結果>
図3は、検証試験1の結果であり、実施例1,2とその比較例1,2に係る潜熱蓄熱材組成物の状態変化について、まとめて示すグラフである。
図3に示すように、実施例1,2では、昇温時20℃付近で、試料の温度上昇が、比較例1,2に比べて緩やかになり、試料で融解が開始する挙動が観察された。その一方で、実施例1では、降温時12℃付近で、試料の温度低下が、比較例1,2に比べて鈍くなり、試料で凝固が開始する挙動が観察された。また、実施例2でも、降温時15℃付近で、試料の温度低下が、比較例1,2に比べて鈍くなり、試料で凝固が開始する挙動が観察された。
【0035】
これに対し、比較例1では、潜熱蓄熱材(酢酸ナトリウム三水和物)は常時、固相の状態であるため、相変化を示唆する温度変化は、観察されていない。また、比較例2でも、昇温時、降温時とも、相変化を示唆する温度変化は、観察されていない。なお、比較例2の結果について、試料の入ったアルミパックが、恒温槽内で0℃に冷却された状態であっても、試料が完全に凝固していなかったことが一因にあると考えられる。
【0036】
<検証試験2>
次に、検証試験2について、説明する。検証試験2では、実施例1,2に係る潜熱蓄熱材組成物1A,1Bを対象に、双方ともそれぞれ、総重量30gに秤量した試料を、容量50mlのポリプロピレン製瓶内に投入。次に、試料を収容した状態の瓶を、恒温槽内にセットした上で、恒温槽内を設定温度40℃で保持することにより、ポリプロピレン製瓶内の試料を完全に融解させた。
【0037】
次に、実施例1,2の双方とも、ポリプロピレン製瓶内の試料が完全に融解していることを確認した後、20℃に設定された恒温槽内で、試料の入ったポリプロピレン製瓶を、3時間保持させた。3時間経過した後、ポリプロピレン製瓶内の試料が凝固しているか否かを、目視で確認を行った。すなわち、試料が20℃の状態で凝固しているかを観察した。
【0038】
このとき、試料が凝固していない場合、恒温槽内の設定温度を、20℃(先の設定温度)から1℃下げて19℃(次の設定温度)に調節した後、試料が19℃の状態で凝固しているかを観察した。検証試験2では、試料の凝固を確認できるまで、このように、恒温槽内の温度を、先の設定温度から1℃下げて次の設定温度に調節する操作と、試料の状態確認とを繰り返し行って、試料の凝固が確認できた時点で、検証試験2を終了した。
【0039】
<検証試験2の結果>
実施例1では、恒温槽内の設定温度が18℃の条件下で、試料は完全に凝固した。また、実施例2では、恒温槽内の設定温度が15℃の条件下で、試料は完全に凝固した。
【0040】
ここで、実施例1に係る潜熱蓄熱材組成物1Aに含有する過冷却防止剤40A(ヒスチジン)のように、アミノ酸に属する複数種の物質のうち、本発明に係る潜熱蓄熱材組成物の過冷却防止剤として適す物質の存在を把握するため、検証試験2以外にも、ヒスチジンを含む全8種の物質を対象に、予め過冷却防止剤の適否を判断する調査試験を行った。
【0041】
調査試験では、主成分である酢酸ナトリウム三水和物(潜熱蓄熱材10)と、第1の過冷却防止剤である尿素(第1の添加剤20)と、第2の過冷却防止剤であるエリスリトール(第2の添加剤30)を含む潜熱蓄熱材組成物とした。その上で、アミノ酸に属する物質の中から、全8種の物質を選択し、過冷却防止剤として用いた。選択した物質は、ヒスチジン(試験1)、グルタミン(試験2)、システイン塩酸一水和物(試験3)、グルタミン酸(試験4)、アスパラギン酸(試験5)、アスパラギン一水和物(試験6)、アラニン(試験7)、及びアルギニン(試験8)の全8種である。これらの物質毎に8種の潜熱蓄熱材組成物を作製して、その試料を用いた試験1~8を行った。
【0042】
<試験方法>
調査試験では、前述したアミノ酸物質毎に作製した全8種の潜熱蓄熱材組成物を対象に、いずれも総重量20gに秤量した試料を、容量50mlのポリプロピレン製瓶内に投入。次に、試料を収容した状態の瓶を、恒温槽内にセットした上で、恒温槽内を設定温度40℃で保持することにより、ポリプロピレン製瓶内の試料を完全に融解させた。
【0043】
次に、ポリプロピレン製瓶内の試料が完全に融解していることを確認した後、20℃に設定された恒温槽内で、試料の入ったポリプロピレン製瓶を、3時間保持させた。3時間経過した後、恒温槽内の設定温度20℃で、ポリプロピレン製瓶内の試料が凝固しているか否かを、目視で確認した。さらに、恒温槽内の設定温度20℃から順に1℃ずつ下げた19℃と、18℃の条件の下でも、ポリプロピレン製瓶内の試料が凝固しているか否かを、目視で確認した。
【0044】
<調査試験の条件>
・潜熱蓄熱材10;酢酸ナトリウム三水和物
・第1の添加剤20;尿素(第1の融点調整剤)
・第2の添加剤30;エリスリトール(第2の融点調整剤)
・潜熱蓄熱材10と、第1の添加剤20と、第2の添加剤30と、過冷却防止剤の配合割合(wt%)
酢酸ナトリウム三水和物:尿素:エリスリトール:過冷却防止剤=45.6:30.4:19.0:5.0
・過冷却防止剤;ヒスチジン(試験1)、グルタミン(試験2)、システイン塩酸一水和物(試験3)、グルタミン酸(試験4)、アスパラギン酸(試験5)、アスパラギン一水和物(試験6)、アラニン(試験7)、及びアルギニン(試験8)
【0045】
<調査試験の結果>
図7は、過冷却防止剤をアミノ酸とした潜熱蓄熱材組成物の相状態を、目視により、過冷却防止剤をなす物質毎に、それぞれ確認した調査試験の結果を示す表であり、
図7中、「〇」印は融液から凝固したことを表し、「×」印は凝固せず融液のままの状態を表す。ヒスチジンの場合、検証試験2で前述した実施例1の結果のほか、
図7に示すように、恒温槽内の設定温度が20℃、19℃の条件下で、ポリプロピレン製瓶内での試料の凝固は確認できなかったが、設定温度18℃の条件下では、試料の凝固が確認できた。
【0046】
他方、グルタミン、システイン塩酸一水和物、グルタミン酸、アスパラギン酸、アスパラギン一水和物、アラニン、アルギニンと、ヒスチジン以外の物質の場合、恒温槽内の設定温度が20℃、19℃、18℃のいずれの温度でも、試料の凝固は確認できなかった。
【0047】
<検証試験3>
次に、検証試験3について、説明する。検証試験3では、実施例1,2に係る潜熱蓄熱材組成物1A,1Bと、その比較例1に係る潜熱蓄熱材と、比較例2に係る潜熱蓄熱材組成物に対し、それぞれの蓄熱材から、試料約10mgを採取した上で、周知の示差走査熱量測定装置(DSC:Differential scanning calorimetry)により、その試料台に載せた試料約10mgに窒素50ml/min.の雰囲気ガスを晒し、密閉した状態にある条件下で、試料の融点と、試料に蓄えた潜熱の熱量を測定した。
【0048】
具体的には、実施例1,2では、潜熱蓄熱材組成物1(1A,1B)の試料が完全に凝固した状態の下で、DSCによる測定を行うにあたり、試料を、20℃から0℃になるまで2℃/min.の降温速度で冷却して、試料を40分間、0℃で保持した。その後、試料を、0℃から40℃になるまで2℃/min.の昇温速度で加熱して、試料を20分間、40℃で保持した。次に、試料の保温開始から20分経過後、40℃に保温されていた試料を、0℃になるまで2℃/min.の降温速度で冷却して、試料を40分間、0℃の温度に保持させた。このような一連のプロセスを1サイクルとして、実施例1,2では、一連のプロセスを複数回繰り返し実施。
【0049】
また、比較例1では、試料を、30℃から70℃になるまで2℃/min.の昇温速度で加熱し、昇温している間に、試料の融点と蓄熱量を測定した。なお、比較例1は、酢酸ナトリウム三水和物(融点58℃)単体からなる試料であるため、実施例1,2と異なり、酢酸ナトリウム三水和物で過冷却現象が発現し易いことから、比較例1では、試料を、70℃から降温させていない。
【0050】
比較例2でも、実施例1,2と同様、試料が完全に凝固した状態の下で、DSCによる測定を実施しようと、比較例2に係る潜熱蓄熱材組成物の試料を、20℃から0℃になるまで2℃/min.の降温速度で冷却した。しかしながら、比較例2の試料は、0℃の状態になっても凝固しなかったため、DSCによる試料の融点、蓄熱量の測定を断念した。
【0051】
<検証試験3の結果>
図4は、実施例1に係る潜熱蓄熱材組成物に対し、その融点ピーク及び蓄熱量を示すグラフであり、過冷却防止剤を、ヒスチジンとした場合の実験結果を示すグラフである。
図5は、実施例2に係る潜熱蓄熱材組成物に対し、その融点ピーク及び蓄熱量を示すグラフであり、過冷却防止剤を、リン酸水素二ナトリウム十二水和物とした場合の実験結果を示すグラフである。なお、実施例1,2の場合、
図4及び
図5には、最初のサイクルで、試料を0℃から40℃に昇温している間に測定された融点、蓄熱量の結果が示されている。
図6は、比較例1に係る潜熱蓄熱材に対し、その融点ピーク及び蓄熱量を示すグラフであり、融点調整剤と過冷却防止剤を添加していない場合の実験結果を示すグラフである。
【0052】
図4~
図6に示すグラフでは、縦軸左側の目盛りが、試料の温度を示す。縦軸右側の目盛りが、単位時間に試料で蓄熱または放熱した熱量を示しており、この目盛りの「負」の領域は、試料に吸熱される熱量を示し、「正」の領域は、試料から放熱される熱量を示す。また、時間経過と共に推移する熱量の線図の中で、「負」の領域において、熱量の絶対値が一時的に大きくなり、最大値(ピークトップ)に達した時刻tに対応する試料の温度T(融点と定義)となったとき、単位時間あたりの吸熱量が最大になる。試料の融解潜熱は、熱量の線図の中で、吸熱量のピーク(融解ピーク)の開始時間と終了時間との間で、熱量を積算して得られるピーク面積S(
図4等の図中、斜線の部分)の大きさで示されている。
【0053】
その反対に、時間経過と共に推移する熱量の線図の中で、「正」の領域において、熱量の絶対値が一時的に大きくなり、最大値(ピークトップ)に達した時刻tに対応する試料の温度T(凝固点と定義)となったとき、単位時間あたりの放熱量が最大になる。試料の凝固潜熱は、熱量の線図の中で、放熱量のピーク(凝固ピーク)の開始時間と終了時間との間で、熱量を積算して得られるピーク面積Sの大きさで示される。なお、熱量の単位は〔W/g〕で、試料の質量の単位は〔mg〕であるが、単位換算を行った上で、蓄熱量の単位は、〔kJ/kg〕としている。また、
図4~
図6に示すグラフには、凝固ピークと放熱量を図示していない。
【0054】
次に、検証試験3の結果について、説明する。実施例1に係る潜熱蓄熱材組成物1Aでは、
図4に示すように、融解ピークの時刻t1に対応する温度Taは24.9℃で、蓄熱量Saは153kJ/kgであった。
【0055】
また、実施例2に係る潜熱蓄熱材組成物1Bでは、
図5に示すように、融解ピークの時刻t1に対応する温度Tbは22.4℃で、蓄熱量Sbは169kJ/kgであった。
【0056】
一方、比較例1に係る潜熱蓄熱材では、
図6に示すように、融解ピークの時刻t1に対応する温度Tcは61.3℃で、蓄熱量Scは284kJ/kgであった。
【0057】
<考察>
比較例1の場合、融点調整剤と過冷却防止剤は添加されておらず、潜熱蓄熱材の融解ピークは、周知の酢酸ナトリウム三水和物単体の融点58℃と概ね一致した61.3℃となっている。
【0058】
これに対し、実施例1では、潜熱蓄熱材組成物1Aの融解ピークは、比較例1より36.4℃も低い24.9℃であった。このように、融解ピークが36.4℃も低下できている理由として、第1の添加剤20である尿素(第1の融点調整剤)と、第2の添加剤30であるエリスリトール(第2の融点調整剤)とが、酢酸ナトリウム三水和物(潜熱蓄熱材10)共に添加されているためだと推察される。加えて、潜熱蓄熱材組成物1Aには、ヒスチジン(過冷却防止剤40A)が添加されているため、酢酸ナトリウム三水和物に対し、過冷却現象の発現が効果的に抑えられており、潜熱蓄熱材組成物1Aでは、液相から固相への相変化により、潜熱が蓄熱できていると考えられる。
【0059】
また、実施例2では、潜熱蓄熱材組成物1Bの融解ピークは、比較例1より38.9℃も低い22.4℃であった。このように、融解ピークが38.9℃も低下できている理由として、第1の添加剤20である尿素(第1の融点調整剤)と、第2の添加剤30であるエリスリトール(第2の融点調整剤)とが、酢酸ナトリウム三水和物(潜熱蓄熱材10)共に添加されているためだと推察される。加えて、潜熱蓄熱材組成物1Bには、リン酸水素二ナトリウム十二水和物(過冷却防止剤40B)が添加されているため、酢酸ナトリウム三水和物に対し、過冷却現象の発現が効果的に抑えられており、潜熱蓄熱材組成物1Bでは、液相から固相への相変化により、潜熱が蓄熱できていると考えられる。
【0060】
次に、本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物1の作用・効果について説明する。
【0061】
本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物1は、酢酸ナトリウム三水和物を主成分とする潜熱蓄熱材10と、該潜熱蓄熱材10の融点を調整する融点調整剤を含み、該融点調整剤として、第1の添加剤20である尿素が含有された潜熱蓄熱材組成物において、融点調整剤には、第1の添加剤20と共に、第2の添加剤30として、糖アルコールに属する物質が含有されていること、潜熱蓄熱材10の結晶化の誘起を促す過冷却防止剤40を含み、過冷却防止剤40は、ヒスチジン(過冷却防止剤40A)または、例えば、リン酸水素二ナトリウム十二水和物(過冷却防止剤40B)等、金属イオンを含むリン酸塩水和物の少なくともいずれか一方であること、を特徴とする。
【0062】
この特徴により、潜熱蓄熱材組成物1では、潜熱蓄熱材10である酢酸ナトリウム三水和物が主成分に含有されていても、潜熱蓄熱材組成物1を、潜熱蓄熱材10の融点58℃より、例えば、30℃以上降下した融点にすることができる。加えて、酢酸ナトリウム三水和物は、無機塩水和物による潜熱蓄熱材の中でも、特に過冷却現象を生じ易い潜熱蓄熱材であるが、潜熱蓄熱材組成物1では、過冷却現象の発現が、過冷却防止剤40A、40Bにより、効果的に抑止できている。しかも、検証試験3の実施例1,2のように、潜熱蓄熱材組成物1(1A,1B)に対し、完全に凝固する温度と、完全に融解する温度との間で、昇温操作と降温操作による一連のプロセスを複数回繰り返し行っても、液相と固相との間の相変化が、より確実に生じている。
【0063】
従って、本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物1によれば、潜熱蓄熱材10である酢酸ナトリウム三水和物を主成分とする場合でも、融点を、20℃台まで降下させることができている、という優れた効果を奏する。
【0064】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物1では、糖アルコールに属する物質(第2の添加剤30)は、エリスリトールであること、を特徴とする。
【0065】
この特徴により、潜熱蓄熱材組成物1の融点は、主成分となる酢酸ナトリウム三水和物の融点58℃よりも、一例として30℃程低くなり、エリスリトールは、このような大幅な融点降下に適す融点調整剤となる。しかも、エリスリトール自体が、熱を蓄熱し、それを放熱する蓄放熱性能を具備し、蓄熱材の物性としても優れているため、第2の添加剤30の添加により、潜熱蓄熱材組成物1全体の重量に占める潜熱蓄熱材10の配合比率が、潜熱蓄熱材10単体に比べ、半減しても、潜熱蓄熱材組成物1は、大幅な低下を効果的に抑制した蓄熱量となっている。
【0066】
また、本実施形態に係る潜熱蓄熱材組成物1では、過冷却防止剤40は、ヒスチジン(過冷却防止剤40A)、またはリン酸水素二ナトリウム十二水和物(過冷却防止剤40B)であり、潜熱蓄熱材10の融点を二十度台に調整したものであること、を特徴とする。
【0067】
この特徴により、潜熱蓄熱材組成物1を、例えば、省エネルギ化対策を施した住宅向けの壁や床等に配設した場合、昼間、太陽光による熱を潜熱蓄熱材組成物1に蓄熱することにより、室温の上昇を抑制することができるようになると共に、蓄えた潜熱を夜間、放熱することにより、室温の下降を抑制することができるようになる。そのため、潜熱蓄熱材組成物1は、人にとって快適な室温20℃台の居住空間の提供に貢献することができる。
【0068】
他方、潜熱蓄熱材がパラフィン系の場合、潜熱蓄熱材の蓄熱量は物質毎に異なるため、一概に比較はできないが、体積当たりの蓄熱量は、概ね100~200kJ/kgである。潜熱蓄熱材組成物1の蓄熱量は、
図2に示すように、150~170kJ/kg程で、同体積比で、パラフィン系の潜熱蓄熱材と同程度であるものの、パラフィン系の潜熱蓄熱材と異なり、潜熱蓄熱材組成物1自体に引火性がなく、火気に関する安全対策を採る必要もないため、潜熱蓄熱材組成物1の使い勝手は良い。
【0069】
しかも、潜熱蓄熱材組成物1は、酢酸ナトリウム三水和物(潜熱蓄熱材10)、尿素(第1の添加剤20)、エリスリトール等、糖アルコールに属する物質(第2の添加剤30)をはじめ、構成成分全体を、主として食品添加物等にも用いられている安全性の高い物質で構成されているため、安全性の高い蓄熱材となっている。
【0070】
以上において、本発明を実施形態の実施例1,2、及び比較例1,2に即して説明したが、本発明は上記実施形態の実施例1,2に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できる。
【0071】
例えば、実施形態では、過冷却防止剤40にヒスチジンを用いた実施例1の場合、酢酸ナトリウム三水和物と、尿素と、エリスリトールと、ヒスチジンとの配合割合(wt%)を、45.6:30.4:19.0:5.0とすることにより、潜熱蓄熱材組成物1Aの融点を25℃近傍に調整した。しかしながら、酢酸ナトリウム三水和物と、尿素と、エリスリトールと、ヒスチジンとの配合割合は、実施例1に限定されるものではなく、潜熱蓄熱材組成物の融点に対し、例えば、20~35℃の範囲内で調整したい所望温度に合わせて、適宜変更可能である。
【0072】
また、実施形態では、過冷却防止剤40にリン酸水素二ナトリウム十二水和物を用いた実施例2の場合、酢酸ナトリウム三水和物と、尿素と、エリスリトールと、リン酸水素二ナトリウム十二水和物との配合割合(wt%)を、43.2:28.8:18.0:10.0とすることにより、潜熱蓄熱材組成物1Bの融点を22℃近傍に調整した。しかしながら、酢酸ナトリウム三水和物と、尿素と、エリスリトールと、リン酸水素二ナトリウム十二水和物との配合割合は、実施例2に限定されるものではなく、潜熱蓄熱材組成物の融点に対し、例えば、20~35℃の範囲内で調整したい所望温度に合わせて、適宜変更可能である。
【0073】
また、実施形態では、潜熱蓄熱材10に、第1の添加剤20と、第2の添加剤30と、過冷却防止剤40を添加した潜熱蓄熱材組成物1を挙げたが、潜熱蓄熱材組成物は、これらの他にも、必要に応じて、増粘剤、着色剤等の添加剤をも加えた組成物であっても良い。
【符号の説明】
【0074】
1,1A,1B 潜熱蓄熱材組成物
10 潜熱蓄熱材
20 第1の添加剤(尿素、第1の融点調整剤)
30 第2の添加剤(エリスリトール、第2の融点調整剤)
40,40A,40B 過冷却防止剤
【要約】
【課題】潜熱蓄熱材である酢酸ナトリウム三水和物を主成分とする場合でも、融点を、20℃台まで降下させることができている潜熱蓄熱材組成物を提供する。
【解決手段】潜熱蓄熱材組成物1は、酢酸ナトリウム三水和物を主成分とする潜熱蓄熱材10と、潜熱蓄熱材10の融点を調整する融点調整剤を含み、融点調整剤として、第1の添加剤20である尿素が含有された潜熱蓄熱材組成物において、融点調整剤には、第1の添加剤20と共に、第2の添加剤30として、糖アルコールに属する物質が含有されていること、潜熱蓄熱材10の結晶化の誘起を促す過冷却防止剤を含み、過冷却防止剤は、ヒスチジン(過冷却防止剤40A)である。
【選択図】
図1