(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】抗GARP抗体
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20220907BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20220907BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20220907BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20220907BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20220907BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20220907BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20220907BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20220907BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20220907BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20220907BHJP
A61P 35/02 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
C12P21/08
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 T
A61K39/395 U
A61P35/00
A61P35/02
(21)【出願番号】P 2021075739
(22)【出願日】2021-04-28
(62)【分割の表示】P 2017540925の分割
【原出願日】2016-09-23
【審査請求日】2021-05-27
(31)【優先権主張番号】P 2015187488
(32)【優先日】2015-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100146581
【氏名又は名称】石橋 公樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113583
【氏名又は名称】北野 範子
(74)【代理人】
【識別番号】100161160
【氏名又は名称】竹元 利泰
(74)【代理人】
【識別番号】100167678
【氏名又は名称】西田 直浩
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 一紀
(72)【発明者】
【氏名】平原 一樹
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 一郎
(72)【発明者】
【氏名】天野 正人
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-141434(JP,A)
【文献】国際公開第2015/015003(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/147713(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/061277(WO,A1)
【文献】Science Translational Medicine,2015年04月,Vol.7, No.284,284ra56, pp.1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C07K 1/00-19/00
C12P 1/00-41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体と他の薬剤とが結合した、抗体―薬剤イムノコンジュゲートであって、
抗体が、以下の特性を有することを特徴とする抗体である、
イムノコンジュゲート;
(1)Glycoprotein-A Repetitions Predominant (GARP)に特異的に結合する
(2)制御性T細胞の免疫抑制機能に対する阻害活性を有する、
(3)抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性を有する、及び
(4)in vivoで抗腫瘍活性を有する。
【請求項2】
GARPが配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる分子である、請求項1に記載の
イムノコンジュゲート。
【請求項3】
前記抗体が、
(1)配列番号1においてアミノ酸番号366乃至377、407乃至445及び456乃至470に記載のアミノ酸配列、
(2)配列番号1においてアミノ酸番号54乃至112及び366乃至392に記載のアミノ酸配列
、
(3)配列番号1においてアミノ酸番号352乃至392に記載のアミノ酸配列、又は
(4)配列番号1においてアミノ酸番号18乃至112に記載のアミノ酸配列、
に結合する、請求項1又は2に記載のイ
ムノコンジュゲート。
【請求項4】
前記抗体が、GARPへの結合に対して、
(1)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号3に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、
(2)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号5に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、
(3)配列番号25に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号27に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、又は
(4)配列番号29に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号31に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、
を有する抗体と競合阻害活性を有する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の
イムノコンジュゲート。
【請求項5】
腫瘍が癌である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の
イムノコンジュゲート。
【請求項6】
癌が肺癌、腎癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、多形神経膠芽腫、卵巣癌、膵癌、乳癌、メラノーマ、肝癌、膀胱癌、胃癌、食道癌、又は血液癌である、請求項5に記載の
イムノコンジュゲート。
【請求項7】
前記抗体が、
(1)配列番号2においてアミノ酸番号26乃至35に記載のアミノ酸配列からなるCDRH1、
配列番号2においてアミノ酸番号50乃至66に記載のアミノ酸配列からなるCDRH2及び配列
番号2においてアミノ酸番号99乃至107に記載のアミノ酸配列からなるCDRH3、並びに配列番号3においてアミノ酸番号23乃至36に記載のアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号3
においてアミノ酸番号52乃至58に記載のアミノ酸配列からなるCDRL2及び配列番号3にお
いてアミノ酸番号91乃至101に記載のアミノ酸配列からなるCDRL3、
(2)配列番号4においてアミノ酸番号26乃至35に記載のアミノ酸配列からなるCDRH1、
配列番号4においてアミノ酸番号50乃至66に記載のアミノ酸配列からなるCDRH2及び配列
番号4においてアミノ酸番号99乃至112に記載のアミノ酸配列からなるCDRH3、並びに配列番号5においてアミノ酸番号23乃至36に記載のアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号5
においてアミノ酸番号52乃至58に記載のアミノ酸配列からなるCDRL2及び配列番号5にお
いてアミノ酸番号91乃至100に記載のアミノ酸配列からなるCDRL3、
(3)配列番号25においてアミノ酸番号45乃至54に記載のアミノ酸配列からなるCDRH1、
配列番号25においてアミノ酸番号69乃至78に記載のアミノ酸配列からなるCDRH2及び配列
番号25においてアミノ酸番号118乃至125に記載のアミノ酸配列からなるCDRH3、並びに配
列番号27においてアミノ酸番号44乃至54に記載のアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号27においてアミノ酸番号70乃至76に記載のアミノ酸配列からなるCDRL2及び配列番号27においてアミノ酸番号109乃至117に記載のアミノ酸配列からなるCDRL3、又は
(4)配列番号29においてアミノ酸番号45乃至54に記載のアミノ酸配列からなるCDRH1、
配列番号29においてアミノ酸番号69乃至77に記載のアミノ酸配列からなるCDRH2及び配列
番号29においてアミノ酸番号117乃至128に記載のアミノ酸配列からなるCDRH3、並びに配
列番号31においてアミノ酸番号44乃至54に記載のアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号31においてアミノ酸番号70乃至76に記載のアミノ酸配列からなるCDRL2及び配列番号31においてアミノ酸番号109乃至117に記載のアミノ酸配列からなるCDRL3、
を有する、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の
イムノコンジュゲート。
【請求項8】
前記抗体が、
(1)配列番号2においてアミノ酸番号1乃至118に記載のアミノ酸配列からなる重鎖可
変領域及び配列番号3においてアミノ酸番号1乃至112に記載のアミノ酸配列からなる軽
鎖可変領域、
(2)配列番号4においてアミノ酸番号1乃至123に記載のアミノ酸配列からなる重鎖可
変領域及び配列番号5においてアミノ酸番号1乃至111に記載のアミノ酸配列からなる軽
鎖可変領域、
(3)配列番号25においてアミノ酸番号20乃至136に記載のアミノ酸配列からなる重鎖可
変領域及び配列番号27においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽
鎖可変領域、又は
(4)配列番号29においてアミノ酸番号20乃至139に記載のアミノ酸配列からなる重鎖可
変領域及び配列番号31においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽
鎖可変領域、
を有する、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の
イムノコンジュゲート。
【請求項9】
前記抗体の定常領域がヒト由来定常領域である、請求項1乃至8のいずれか1項に記載
の
イムノコンジュゲート。
【請求項10】
前記抗体が、
(1)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号3に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、
(2)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号5に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、
(3)配列番号25においてアミノ酸番号20乃至466に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及
び配列番号27においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、又は
(4)配列番号29においてアミノ酸番号20乃至469に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及
び配列番号31においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、
を有する、請求項1乃至9のいずれか1項に記載の
イムノコンジュゲート。
【請求項11】
前記抗体がヒト化されている、請求項1乃至10のいずれか1項に記載の
イムノコンジュゲート。
【請求項12】
前記抗体が、
(a)配列番号33においてアミノ酸番号20乃至136に記載のアミノ酸配列、
(b)配列番号35においてアミノ酸番号20乃至136に記載のアミノ酸配列、
(c)配列番号41においてアミノ酸番号20乃至139に記載のアミノ酸配列、
(d)(a)乃至(c)の配列において各CDR 配列以外のフレームワーク領域の配列に対して少なくとも95%以上の
同一性を有するアミノ酸配列、及び
(e)(a)乃至(c)の配列における各CDR 配列以外のフレームワーク領域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列、からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる重鎖の可変領域、並びに
(f)配列番号37においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列、
(g)配列番号39においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列、
(h)配列番号43においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列、
(i)(f)乃至(h)の配列において各CDR 配列以外のフレームワーク領域の配列に対して少なくとも95%以上の
同一性を有するアミノ酸配列、及び
(j)(f)乃至(h)の配列における各CDR 配列以外のフレームワーク領域の配列にお
いて1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列、からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる軽鎖の可変領域、
を有する、請求項11に記載の
イムノコンジュゲート。
【請求項13】
前記抗体が、
(1)配列番号33においてアミノ酸番号20乃至136に記載のアミノ酸配列からなる重鎖可
変領域及び配列番号37においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽
鎖可変領域、
(2)配列番号35においてアミノ酸番号20乃至136に記載のアミノ酸配列からなる重鎖可
変領域及び配列番号39においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽
鎖可変領域、又は
(3)配列番号41においてアミノ酸番号20乃至139に記載のアミノ酸配列からなる重鎖可
変領域及び配列番号43においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽
鎖可変領域、
を有する、請求項11又は12に記載の
イムノコンジュゲート。
【請求項14】
前記抗体が、
(1)配列番号33においてアミノ酸番号20乃至466に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、
配列番号35においてアミノ酸番号20乃至466に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、及び配
列番号41においてアミノ酸番号20乃至469に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、からなる
群から選択される重鎖、並びに
(2)配列番号37においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖、
配列番号39においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖、及び配
列番号43においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖、からなる
群から選択される軽鎖、
を有する、請求項11乃至13のいずれか1項に記載の
イムノコンジュゲート。
【請求項15】
前記抗体が、
(1)配列番号33においてアミノ酸番号20乃至466に記載のアミノ酸配列を有する重鎖及
び配列番号37においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖、
(2)配列番号35においてアミノ酸番号20乃至466に記載のアミノ酸配列を有する重鎖及
び配列番号39においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖、又は
(3)配列番号41においてアミノ酸番号20乃至469に記載のアミノ酸配列を有する重鎖及
び配列番号43においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖、
を有する、請求項11乃至14のいずれか1項に記載の
イムノコンジュゲート。
【請求項16】
前記抗体が、N-結合への糖鎖付加、O-結合への糖鎖付加、N末のプロセッシング、C末のプロセッシング、脱アミド化、アスパラギン酸の異性化、メチオニンの酸化、N末にメチオニン残基の付加、プロリン残基のアミド化及びカルボキシル末端において1つ又は2つのアミノ酸が欠失した重鎖からなる群より選択される1又は2以上の修飾を含む、請求項1乃至15のいずれか1項に記載の
イムノコンジュゲート。
【請求項17】
重鎖のカルボキシル末端において1つ又は2つのアミノ酸が欠失している、請求項
16に記載の
イムノコンジュゲート。
【請求項18】
2本の重鎖の双方でカルボキシル末端において1つのアミノ酸が欠失している、請求項
17に記載の
イムノコンジュゲート。
【請求項19】
重鎖のカルボキシル末端のプロリン残基が更にアミド化されている、請求項
16乃至
18のいずれか1項に記載の
イムノコンジュゲート。
【請求項20】
抗体依存性細胞傷害活性を増強させるために糖鎖修飾が調節されている、請求項1乃至
19のいずれか1項に記載の
イムノコンジュゲート。
【請求項21】
薬剤が、放射性物質又は薬理作用を有する化合物である、請求項1乃至20のいずれか1
項に記載のイムノコンジュゲート。
【請求項22】
放射性物質が、インジウム(
111
In)、テクネチウム(
99m
Tc)、イットリウム(
90
Y)、又はヨード(
131
I)である、請求項21に記載のイムノコンジュゲート。
【請求項23】
請求項1乃至
22に記載の
イムノコンジュゲートの少なくとも一つを含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項24】
腫瘍治療用である請求項
23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
腫瘍が癌である請求項
24に記載の医薬組成物。
【請求項26】
癌が肺癌、腎癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、多形神経膠芽腫、卵巣癌、膵癌、乳癌、メラノーマ、肝癌、膀胱癌、胃癌、食道癌、又は血液癌である請求項
25に記載の医薬
組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍の治療剤として有用なGARPに結合する抗体、及び当該抗体を用いた腫瘍の治療法に関する。
【背景技術】
【0002】
制御性T細胞(Treg)は、癌患者の腫瘍域で認められる免疫寛容をもたらす主たる原因細胞である。即ち、癌患者では、腫瘍により活性化されたTregによって、本来働くべき抗腫瘍免疫細胞群が抑制されている状態にあり、このことが腫瘍の悪性化につながる[非特許文献1]。
Glycoprotein-A Repetitions Predominant(GARP)は、1回膜貫通構造を有する蛋白質であり[非特許文献2]、活性化したTregの細胞表面に発現し、latent TGF-β(免疫寛容誘導の重要分子であるTGF-βの前駆体)との複合体を形成する[非特許文献3]。
Tregと、Tregが免疫抑制をもたらす標的細胞との、細胞-細胞間相互作用により、GARPを介してTregの細胞表面に留められているlatent TGF-βから成熟化TGF-βが分泌され、TGF-βの免疫抑制シグナルが標的細胞へ直接伝達される[非特許文献4、5]。このTGF-βの成熟化にはGARPの細胞膜上での発現が必要であることが示されている[非特許文献5]が、一方で膜貫通領域を欠損した可溶性GARPをCD4陽性T細胞に直接添加した場合にもCD4陽性T細胞の増殖が抑制される[非特許文献6]ことから、細胞膜上でのTGF-β成熟化機構を介さない、GARPによる免疫抑制メカニズムの存在も否定できない。
GARPは、末梢血由来活性化Tregに発現が認められる他に、臨床的には癌患者の腫瘍患部へ浸潤したT細胞(Tumor Infiltrating Tcells)中に存在するTreg[非特許文献7]、及び腹水中に存在するTreg[非特許文献8]、又は患者末梢血中に存在するTregでの発現が認められる[非特許文献9]。
GARPの発現を抑制した際のTreg機能への影響を検討した報告として、GARPに対するsiRNAを導入したTregでは、ヘルパーT細胞に対する増殖抑制機能の阻害が認められたが、当該阻害効果は部分的であった[非特許文献10]。
一方、TGF-β成熟化の阻害能を指標に獲得された抗GARP抗体(MHG-8、LHG-10)は、ヘモクロマトーシス患者から樹立したTreg A1細胞株[非特許文献11]の、ヘルパーT細胞に対する増殖抑制機能を阻害した[特許文献1、非特許文献12]。しかしながら、当該抗体が腫瘍微小環境下のTregに対して当該阻害効果を有効に示すか否かは不明であり、またこれまでにそのような効果を有する抗GARP抗体の報告はない。なおGARP及びTGF-βの両者を認識する抗体も知られている[特許文献2]。
Tregについては、腫瘍の他にも、マラリア、HIV感染症の各患者でのTregの過剰な存在と活性化がそれら病勢との相関関係を示すこと[非特許文献13、14]、及びマウス病態モデルではTregの除去が病状の寛解をもたらすこと[非特許文献15、16]が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】WO2015/015003
【文献】WO2016/125017
【非特許文献】
【0004】
【文献】Int J Cancer. 2010 Aug 15;127(4):759-67.
【文献】PLoS One. 2008;3(7):e2705.
【文献】Proc Natl Acad Sci U S A. 2009;106(32):13445-50.
【文献】Eur J Immunol. 2009;39(12):3315-22.
【文献】Mol Biol Cell. 2012;23(6):1129-39.
【文献】Blood. 2013;122(7):1182-91.
【文献】Eur J Immunol. 2012 Jul;42(7):1876-85.
【文献】Clin Immunol. 2013 Oct;149(1):97-110.
【文献】Cancer Res. 2013;73:2435.
【文献】Proc Natl Acad Sci U S A. 2009 Aug 11;106(32):13445-50.
【文献】Eur J Immunol. 2009;39(12):869-82.
【文献】Sci Transl Med. 2015 Apr 22;7(284)
【文献】PLoS One. 2008 Apr 30;3(4):e2027.
【文献】Clin Exp Immunol. 2014 Jun;176(3):401-9.
【文献】J Immunol. 2012 Jun 1;188(11):5467-77.
【文献】PLoS Pathog. 2013;9(12):e1003798.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、腫瘍におけるTregの機能を阻害することで、治療効果を有する医薬品となる抗体、及び当該抗体を用いた腫瘍の治療方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行ったところ、GARPに特異的に結合し、抗体依存性細胞傷害活性を介してTregの機能を阻害する活性を示す抗体を見出して本発明を完成させた。即ち、本発明は以下の発明を包含する。
(1)以下の特性を有することを特徴とする抗体;
(a)Glycoprotein-A Repetitions Predominant (GARP)に特異的に結合する
(b)制御性T細胞の免疫抑制機能に対する阻害活性を有する、
(c)抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性を有する、及び
(d)in vivoで抗腫瘍活性を有する。
(2)GARPが配列番号1に記載のアミノ酸配列からなる分子である上記(1)に記載の抗体。
(3)(a)配列番号1においてアミノ酸番号366乃至377、407乃至445及び456乃至470のアミノ酸配列部分
(b)配列番号1においてアミノ酸番号54乃至112及び366乃至392のアミノ酸配列部分
(c)配列番号1においてアミノ酸番号352乃至392のアミノ酸配列部分、又は
(d)配列番号1においてアミノ酸番号18乃至112のアミノ酸配列部分
に結合する上記(1)又は(2)に記載の抗体。
(4)GARPへの結合に対して、
(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号3に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、
(b)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号5に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、
(c)配列番号25に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号27に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、又は
(d)配列番号29に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号31に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、
を有する抗体と競合阻害活性を有する上記(1)乃至(3)のいずれか一項に記載の抗体。
(5)腫瘍が癌である上記(1)乃至(4)のいずれか1項に記載の抗体。
(6)癌が肺癌、腎癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、多形神経膠芽腫、卵巣癌、膵癌、乳癌、メラノーマ、肝癌、膀胱癌、胃癌、食道癌、又は血液癌である上記(5)に記載の抗体。
(7)(a)配列番号2においてアミノ酸番号26乃至35に記載のアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号2においてアミノ酸番号50乃至66に記載のアミノ酸配列からなるCDRH2及び配列番号2においてアミノ酸番号99乃至107に記載のアミノ酸配列からなるCDRH3、並びに配列番号3においてアミノ酸番号23乃至36に記載のアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号3においてアミノ酸番号52乃至58に記載のアミノ酸配列からなるCDRL2及び配列番号3においてアミノ酸番号91乃至101に記載のアミノ酸配列からなるCDRL3、
(b)配列番号4においてアミノ酸番号26乃至35に記載のアミノ酸配列からなるCDRH1、
配列番号4においてアミノ酸番号50乃至66に記載のアミノ酸配列からなるCDRH2及び配列
番号4においてアミノ酸番号99乃至112に記載のアミノ酸配列からなるCDRH3、並びに配列番号5においてアミノ酸番号23乃至36に記載のアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号5
においてアミノ酸番号52乃至58に記載のアミノ酸配列からなるCDRL2及び配列番号5にお
いてアミノ酸番号91乃至100に記載のアミノ酸配列からなるCDRL3、
(c)配列番号25においてアミノ酸番号45乃至54に記載のアミノ酸配列からなるCDRH1、
配列番号25においてアミノ酸番号69乃至78に記載のアミノ酸配列からなるCDRH2及び配列
番号25においてアミノ酸番号118乃至125に記載のアミノ酸配列からなるCDRH3、並びに配
列番号27においてアミノ酸番号44乃至54に記載のアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号27においてアミノ酸番号70乃至76に記載のアミノ酸配列からなるCDRL2及び配列番号27においてアミノ酸番号109乃至117に記載のアミノ酸配列からなるCDRL3、又は
(d)配列番号29においてアミノ酸番号45乃至54に記載のアミノ酸配列からなるCDRH1、
配列番号29においてアミノ酸番号69乃至77に記載のアミノ酸配列からなるCDRH2及び配列
番号29においてアミノ酸番号117乃至128に記載のアミノ酸配列からなるCDRH3、並びに配
列番号31においてアミノ酸番号44乃至54に記載のアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号31においてアミノ酸番号70乃至76に記載のアミノ酸配列からなるCDRL2及び配列番号31においてアミノ酸番号109乃至117に記載のアミノ酸配列からなるCDRL3、
を有する上記(1)乃至(6)のいずれか1項に記載の抗体。
(8)(a)配列番号2においてアミノ酸番号1乃至118に記載のアミノ酸配列からなる
重鎖可変領域及び配列番号3においてアミノ酸番号1乃至112に記載のアミノ酸配列から
なる軽鎖可変領域、
(b)配列番号4においてアミノ酸番号1乃至123に記載のアミノ酸配列からなる重鎖可
変領域及び配列番号5においてアミノ酸番号1乃至111に記載のアミノ酸配列からなる軽
鎖可変領域、
(c)配列番号25においてアミノ酸番号20乃至136に記載のアミノ酸配列からなる重鎖可
変領域及び配列番号27においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽
鎖可変領域、又は
(d)配列番号29においてアミノ酸番号20乃至139に記載のアミノ酸配列からなる重鎖可
変領域及び配列番号31においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽
鎖可変領域、
を有する上記(1)乃至(7)のいずれか1項に記載の抗体。
(9)定常領域がヒト由来定常領域である上記(1)乃至(8)のいずれか1項に記載の抗体。
(10)(a)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号3に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、
(b)配列番号4に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号5に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、
(c)配列番号25においてアミノ酸番号20乃至466に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及
び配列番号27においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、又は
(d)配列番号29においてアミノ酸番号20乃至469に記載のアミノ酸配列からなる重鎖及
び配列番号31においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖、を有
する上記(1)乃至(9)のいずれか1項に記載の抗体。
【0007】
(11)ヒト化されている上記(1)乃至(10)のいずれか1項に記載の抗体。
(12)(a)配列番号33においてアミノ酸番号20乃至136に記載のアミノ酸配列、
(b)配列番号35においてアミノ酸番号20乃至136に記載のアミノ酸配列、
(c)配列番号41においてアミノ酸番号20乃至139に記載のアミノ酸配列、
(d)(a)乃至(c)の配列において各CDR 配列以外のフレームワーク領域の配列に対して少なくとも95%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び
(e)(a)乃至(c)の配列における各CDR 配列以外のフレームワーク領域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列、からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる重鎖の可変領域、並びに
(f)配列番号37においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列、
(g)配列番号39においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列、
(h)配列番号43においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列、
(i)(f)乃至(h)の配列において各CDR 配列以外のフレームワーク領域の配列に対して少なくとも95%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び
(j)(f)乃至(h)の配列における各CDR 配列以外のフレームワーク領域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列、からなる群から選択されるアミノ酸配列からなる軽鎖の可変領域、
を有する(11)に記載の抗体。
(13)(a)配列番号33においてアミノ酸番号20乃至136に記載のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び配列番号37においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域、
(b)配列番号35においてアミノ酸番号20乃至136に記載のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び配列番号39においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域、又は
(c)配列番号41においてアミノ酸番号20乃至139に記載のアミノ酸配列からなる重鎖可変領域及び配列番号43においてアミノ酸番号21乃至129に記載のアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域、
を有する上記(11)又は(12)に記載の抗体。
(14)(a)配列番号33においてアミノ酸番号20乃至466に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、配列番号35においてアミノ酸番号20乃至466に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、及び配列番号41においてアミノ酸番号20乃至469に記載のアミノ酸配列を有する重鎖、からなる群から選択される重鎖、並びに
(b)配列番号37においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖、配列番号39においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖、及び配列番号43においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖、からなる群から選択される軽鎖、
を有する上記(11)乃至(13)のいずれか1項に記載の抗体。
(15)(a)配列番号33においてアミノ酸番号20乃至466に記載のアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号37においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖、
(b)配列番号35においてアミノ酸番号20乃至466に記載のアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号39においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖、又は
(c)配列番号41においてアミノ酸番号20乃至469に記載のアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号43においてアミノ酸番号21乃至234に記載のアミノ酸配列を有する軽鎖、を有する上記(11)乃至(14)のいずれか1項に記載の抗体。
(16)上記(1)乃至(15)のいずれか1項に記載の抗体をコードするポリヌクレオチド
。
【0008】
(17)(a)配列番号6においてヌクレオチド番号76乃至105に記載のヌクレオチド配列からなるCDRH1のポリヌクレオチド、配列番号6においてヌクレオチド番号148乃至198に記載のヌクレオチド配列からなるCDRH2のポリヌクレオチド及び配列番号6においてヌクレオチド番号295乃至321に記載のヌクレオチド配列からなるCDRH3のポリヌクレオチド、
並びに配列番号7においてヌクレオチド番号67乃至108に記載のヌクレオチド配列からなるCDRL1のポリヌクレオチド、配列番号7においてヌクレオチド番号154乃至174に記載のヌクレオチド配列からなるCDRL2のポリヌクレオチド、及び配列番号7においてヌクレオチド番号271乃至303に記載のヌクレオチド配列からなるCDRL3のポリヌクレオチド、
(b)配列番号8においてヌクレオチド番号76乃至105に記載のヌクレオチド配列からなるCDRH1のポリヌクレオチド、配列番号8においてヌクレオチド番号148乃至198に記載のヌクレオチド配列からなるCDRH2のポリヌクレオチド及び配列番号8においてヌクレオチド番号295乃至336に記載のヌクレオチド配列からなるCDRH3のポリヌクレオチド、並びに配列番号9においてヌクレオチド番号67乃至108に記載のヌクレオチド配列からなるCDRL1のポリヌクレオチド、配列番号9においてヌクレオチド番号154乃至174に記載のヌクレオチド配列からなるCDRL2のポリヌクレオチド及び配列番号9においてヌクレオチド番号271乃至300に記載のヌクレオチド配列からなるCDRL3のポリヌクレオチド、
(c)配列番号24においてヌクレオチド番号133乃至162に記載のヌクレオチド配列からなるCDRH1のポリヌクレオチド、配列番号24においてヌクレオチド番号205乃至234に記載のヌクレオチド配列からなるCDRH2のポリヌクレオチド及び配列番号24においてヌクレオチド番号352乃至375に記載のヌクレオチド配列からなるCDRH3のポリヌクレオチド、並びに配列番号26においてヌクレオチド番号130乃至162に記載のヌクレオチド配列からなるCDRL1のポリヌクレオチド、配列番号26においてヌクレオチド番号208乃至228に記載のヌクレオチド配列からなるCDRL2のポリヌクレオチド及び配列番号26においてヌクレオチド番号325乃至351に記載のヌクレオチド配列からなるCDRL3のポリヌクレオチド、又は
(d)配列番号28においてヌクレオチド番号133乃至162に記載のヌクレオチド配列からなるCDRH1のポリヌクレオチド、配列番号28においてヌクレオチド番号205乃至231に記載のヌクレオチド配列からなるCDRH2のポリヌクレオチド及び配列番号28においてヌクレオチド番号349乃至384に記載のヌクレオチド配列からなるCDRH3のポリヌクレオチド、並びに配列番号30においてヌクレオチド番号130乃至162に記載のヌクレオチド配列からなるCDRL1のポリヌクレオチド、配列番号30においてヌクレオチド番号208乃至228に記載のヌクレオチド配列からなるCDRL2のポリヌクレオチド及び配列番号30においてヌクレオチド番号325乃至351に記載のヌクレオチド配列からなるCDRL3のポリヌクレオチド、
を有する上記(16)に記載のポリヌクレオチド。
(18)(a)配列番号6においてヌクレオチド番号1乃至354に記載のヌクレオチド配列からなる重鎖可変領域のポリヌクレオチド及び配列番号7においてヌクレオチド番号1乃至336に記載のヌクレオチド配列からなる軽鎖可変領域のポリヌクレオチド、
(b)配列番号8においてヌクレオチド番号1乃至369に記載のヌクレオチド配列からなる重鎖可変領域のポリヌクレオチド及び配列番号9においてヌクレオチド配列番号1乃至333に記載のヌクレオチド配列からなる軽鎖可変領域のポリヌクレオチド、
(c)配列番号24においてヌクレオチド番号58乃至408に記載のヌクレオチド配列からなる重鎖可変領域のポリヌクレオチド及び配列番号26においてヌクレオチド番号61乃至387に記載のヌクレオチド配列からなる軽鎖可変領域のポリヌクレオチド、又は
(d)配列番号28においてヌクレオチド番号58乃至417に記載のヌクレオチド配列からなる重鎖可変領域のポリヌクレオチド及び配列番号30においてヌクレオチド番号61乃至387に記載のヌクレオチド配列からなる軽鎖可変領域のポリヌクレオチド、を有する上記(16)又は(17)に記載のポリヌクレオチド。
(19)(a)配列番号6に記載のヌクレオチド配列からなる重鎖のポリヌクレオチド及び配列番号7に記載のヌクレオチド配列からなる軽鎖のポリヌクレオチド、
(b)配列番号8に記載のヌクレオチド配列からなる重鎖のポリヌクレオチド及び配列番号9に記載のヌクレオチド配列からなる軽鎖のポリヌクレオチド
(c)配列番号24においてヌクレオチド番号58乃至1398に記載のヌクレオチド配列からなる重鎖のポリヌクレオチド及び配列番号26においてヌクレオチド番号61乃至702に記載のヌクレオチド配列からなる軽鎖のポリヌクレオチド、又は
(d)配列番号28においてヌクレオチド番号58乃至1407に記載のヌクレオチド配列からな
る重鎖のポリヌクレオチド及び配列番号30においてヌクレオチド番号61乃至702に記載のヌクレオチド配列からなる軽鎖のポリヌクレオチド、
を有する上記(16)乃至(18)のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
(20)(a)配列番号32においてヌクレオチド番号58乃至408に記載のヌクレオチド配列からなる重鎖可変領域のポリヌクレオチド、配列番号34においてヌクレオチド番号58乃至408に記載のヌクレオチド配列からなる重鎖可変領域のポリヌクレオチド、及び配列番号40においてヌクレオチド番号58乃至417に記載のヌクレオチド配列からなる重鎖可変領域のポリヌクレオチド、からなる群から選択される重鎖可変領域のポリヌクレオチド、並びに
(b)配列番号36においてヌクレオチド番号61乃至387に記載のヌクレオチド配列からなる軽鎖可変領域のポリヌクレオチド、配列番号38においてヌクレオチド番号61乃至387に記載のヌクレオチド配列からなる軽鎖可変領域のポリヌクレオチド、及び配列番号42においてヌクレオチド番号61乃至387に記載のヌクレオチド配列からなる軽鎖可変領域のポリヌクレオチド、からなる群から選択される軽鎖可変領域のポリヌクレオチド、
を有する上記(16)又は(17)に記載のポリヌクレオチド。
【0009】
(21)(a)配列番号32においてヌクレオチド番号58乃至408に記載のヌクレオチド配列からなる重鎖可変領域のポリヌクレオチド及び配列番号36においてヌクレオチド番号61乃至387に記載のヌクレオチド配列からなる軽鎖可変領域のポリヌクレオチド、
(b)配列番号34においてヌクレオチド番号58乃至408に記載のヌクレオチド配列からなる重鎖可変領域のポリヌクレオチド及び配列番号38においてヌクレオチド番号61乃至387に記載のヌクレオチド配列からなる軽鎖可変領域のポリヌクレオチド、又は
(c)配列番号40においてヌクレオチド番号58乃至417に記載のヌクレオチド配列からなる重鎖可変領域のポリヌクレオチド及び配列番号42においてヌクレオチド番号61乃至387に記載のヌクレオチド配列からなる軽鎖可変領域のポリヌクレオチド、
を有する上記(16)、(17)又は(20)に記載のポリヌクレオチド。
(22)(a)配列番号32においてヌクレオチド番号58乃至1398に記載のヌクレオチド配列からなる重鎖のポリヌクレオチド、配列番号34においてヌクレオチド番号58乃至1398に記載のヌクレオチド配列からなる重鎖のポリヌクレオチド、及び配列番号40においてヌクレオチド番号58乃至1407に記載のヌクレオチド配列からなる重鎖のポリヌクレオチド、からなる群から選択される重鎖のポリヌクレオチド、並びに
(b)配列番号36においてヌクレオチド番号61乃至702に記載のヌクレオチド配列からなる軽鎖のポリヌクレオチド、配列番号38においてヌクレオチド番号61乃至702に記載のヌクレオチド配列からなる軽鎖のポリヌクレオチド、及び配列番号42においてヌクレオチド番号61乃至702に記載のヌクレオチド配列からなる軽鎖のポリヌクレオチド、からなる群から選択される軽鎖のポリヌクレオチド、
を有する上記(16)、(17)、(20)又は(21)に記載のポリヌクレオチド。
(23)(a)配列番号32においてヌクレオチド番号58乃至1398に記載のヌクレオチド配列からなる重鎖のポリヌクレオチド、及び配列番号36においてヌクレオチド番号61乃至702に記載のヌクレオチド配列からなる軽鎖のポリヌクレオチド、
(b)配列番号34においてヌクレオチド番号58乃至1398に記載のヌクレオチド配列からなる重鎖のポリヌクレオチド、及び配列番号38においてヌクレオチド番号61乃至702に記載のヌクレオチド配列からなる軽鎖のポリヌクレオチド、又は
(c)配列番号40においてヌクレオチド番号58乃至1407に記載のヌクレオチド配列からなる重鎖のポリヌクレオチド、及び配列番号42においてヌクレオチド番号61乃至702に記載のヌクレオチド配列からなる軽鎖のポリヌクレオチド、
を有する上記(16)、(17)及び(20)乃至(22)のいずれか1項に記載のポリヌクレオチド。
(24)上記(16)乃至(23)のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドを含有する発現ベクター。
(25)上記(24)に記載の発現ベクターにより形質転換された宿主細胞。
(26)上記(25)に記載の宿主細胞を培養する工程、及び当該工程で得られた培養物から目的の抗体を採取する工程を含むことを特徴とする当該抗体又は当該断片の製造方法。
(27)上記(26)の製造方法により得られることを特徴とする抗体。
(28)N-結合への糖鎖付加、O-結合への糖鎖付加、N末のプロセッシング、C末のプロセッシング、脱アミド化、アスパラギン酸の異性化、メチオニンの酸化、N末にメチオニン残基の付加、プロリン残基のアミド化及びカルボキシル末端において1つ又は2つのアミノ酸が欠失した重鎖からなる群より選択される1又は2以上の修飾を含む上記(1)乃至(15)及び(27)のいずれか1項に記載の抗体。
(29)重鎖のカルボキシル末端において1つ又は2つのアミノ酸が欠失している上記(28)に記載の抗体。
【0010】
(30)2本の重鎖の双方でカルボキシル末端において1つのアミノ酸が欠失している上記(29)に記載の抗体。
(31)重鎖のカルボキシル末端のプロリン残基が更にアミド化されている上記(28)乃至(30)のいずれか1項に記載の抗体。
(32)抗体依存性細胞傷害活性を増強させるために糖鎖修飾が調節されている上記(1)乃至(15)及び(27)乃至(31)のいずれか1項に記載の抗体。
(33)上記(1)乃至(15)及び(27)乃至(32)に記載の抗体の少なくとも一つを含有することを特徴とする医薬組成物。
(34)腫瘍治療用である上記(33)に記載の医薬組成物。
(35)腫瘍が癌である上記(34)に記載の医薬組成物。
(36)癌が肺癌、腎癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、多形神経膠芽腫、卵巣癌、膵癌、乳癌、メラノーマ、肝癌、膀胱癌、胃癌、食道癌、又は血液癌である上記(35)に記載の医薬組成物。
(37)上記(1)乃至(15)及び(27)乃至(32)に記載の抗体の少なくとも一つを個体に投与することを特徴とする腫瘍の治療方法。
(38)腫瘍が癌である上記(37)に記載の治療方法。
(39)癌が肺癌、腎癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、多形神経膠芽腫、卵巣癌、膵癌、乳癌、メラノーマ、肝癌、膀胱癌、胃癌、食道癌、又は血液癌である上記(38)に記載の治療方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、GARPに結合し、ADCC活性を介したTreg抑制効果による、抗腫瘍活性を有する抗体を含有する癌の治療剤等を得ることができる。また、マラリア及びHIV感染症の各患者でのTregの過剰な存在と活性化がそれら病勢との相関関係を示すこと及びマウス病態モデルではTregの除去が病状の寛解をもたらすことから、Treg機能の効果的な阻害は、マラリア及びHIV等の難治性感染症においても治療効果を期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、GARPのアミノ酸配列(配列番号1)を示す図である。
【
図2】
図2は、105F抗体重鎖のアミノ酸配列(配列番号2)を示す図である。
【
図3】
図3は、105F抗体軽鎖のアミノ酸配列(配列番号3)を示す図である。
【
図4】
図4は、110F抗体重鎖のアミノ酸配列(配列番号4)を示す図である。
【
図5】
図5は、110F抗体軽鎖のアミノ酸配列(配列番号5)を示す図である。
【
図6】
図6は、105F抗体重鎖のヌクレオチド配列(配列番号6)を示す図である。
【
図7】
図7は、105F抗体軽鎖のヌクレオチド配列(配列番号7)を示す図である。
【
図8】
図8は、110F抗体重鎖のヌクレオチド配列(配列番号8)を示す図である。
【
図9】
図9は、110F抗体軽鎖のヌクレオチド配列(配列番号9)を示す図である。
【
図10】
図10は、抗体のGARPへの結合を示す図である。105F抗体及び110F抗体は、ELISA法でGARPへの結合を示した。
【
図11】
図11は、抗体のGARP特異的結合を示す図である。105F抗体は、ベクターのみを導入したHEK293T細胞へは結合せず、HEK293T細胞へGARPを一過性発現させた細胞へのみ結合を示した。
【
図12】
図12は、抗体のGARP特異的結合を示す図である。105F抗体は、内因性にGARPを発現するL428細胞への結合活性を示した。
【
図13】
図13は、抗体のGARP特異的結合を示す図である。105F抗体は、活性化したTregに結合活性を示した。
【
図14】
図14は、抗体のADCC能を示す図である。内因性にGARPを発現するL428細胞を標的とした際に、105F抗体の抗体濃度依存的にADCC活性の増強を認めた。
【
図15】
図15は、抗体のTreg機能阻害能を示す図である。105F抗体(50μg/mL)は、TregによるヘルパーT細胞に対する増殖抑制機能を阻害した。
【
図16】
図16は、抗体のTreg機能阻害能を示す図である。105F抗体(10μg/mL)は、TregによるヘルパーT細胞に対する増殖抑制機能を阻害した。一方、MHG-8、LHG-10抗体は、ヘルパーT細胞に対する増殖抑制機能への効果を示さなかった。
【
図17】
図17は、c151D抗体重鎖のアミノ酸配列(配列番号25)を示す図である。
【
図18】
図18は、c151D抗体軽鎖のアミノ酸配列(配列番号27)を示す図である。
【
図19】
図19は、c198D抗体重鎖のアミノ酸配列(配列番号29)を示す図である。
【
図20】
図20は、c198D抗体軽鎖のアミノ酸配列(配列番号31)を示す図である。
【
図21】
図21は、h151D-H1重鎖のアミノ酸配列(配列番号33)を示す図である。
【
図22】
図22は、h151D-L1軽鎖のアミノ酸配列(配列番号37)を示す図である。
【
図23】
図23は、h151D-H4重鎖のアミノ酸配列(配列番号35)を示す図である。
【
図24】
図24は、h151D-L4軽鎖のアミノ酸配列(配列番号39)を示す図である。
【
図25】
図25は、h198D-H3重鎖のアミノ酸配列(配列番号41)を示す図である。
【
図26】
図26は、h198D-L4軽鎖のアミノ酸配列(配列番号43)を示す図である。
【
図27】
図27は、c151D抗体重鎖のヌクレオチド配列(配列番号24)を示す図である。
【
図28】
図28は、c151D抗体軽鎖のヌクレオチド配列(配列番号26)を示す図である。
【
図29】
図29は、c198D抗体重鎖のヌクレオチド配列(配列番号28)を示す図である。
【
図30】
図30は、c198D抗体軽鎖のヌクレオチド配列(配列番号30)を示す図である。
【
図31】
図31は、h151D-H1重鎖のヌクレオチド配列(配列番号32)を示す図である。
【
図32】
図32は、h151D-L1軽鎖のヌクレオチド配列(配列番号36)を示す図である。
【
図33】
図33は、h151D-H4重鎖のヌクレオチド配列(配列番号34)を示す図である。
【
図34】
図34は、h151D-L4軽鎖のヌクレオチド配列(配列番号38)を示す図である。
【
図35】
図35は、h198D-H3重鎖のヌクレオチド配列(配列番号40)を示す図である。
【
図36】
図36は、h198D-L4軽鎖のヌクレオチド配列(配列番号42)を示す図である。
【
図37】
図37は、各抗体のGARP発現細胞への結合を示す図である。h151D-H1L1、h151D-H4L4及びh198D-H3L4は、GARPに対して特異的な結合活性を示した。
【
図38】
図38は、各抗体のGARP-TGFβ1共発現細胞への結合を示す図である。105F、h151D-H1L1、h151D-H4L4及びh198D-H3L4の各抗体は、TGFβ1と共発現したGARP及びGARP変異体の両方に結合することが示され、公知抗体であるMHG8及びLHG10の各抗体とは、GARPにおいて異なった領域への結合活性を示した。
【
図39】
図39は、各抗体のL428細胞への結合を示す図である。h151D-H1L1、h151D-H4L4及びh198D-H3L4の各抗体は内因性に発現しているGARPに対して結合活性を示した。
【
図40】
図40は、各抗体のTregへの結合を示す図である。h151D-H1L1、h151D-H4L4及びh198D-H3L4の各抗体は、FoxP3陽性Tregに対して結合活性を示した。
【
図41】
図41は、各抗体のADCC活性を示す図である。h151D-H1L1、h151D-H4L4及びh198D-H3L4の各抗体はADCC活性を示した。
【
図42】
図42は、各抗体のTreg機能阻害活性を示す図である。h151D-H1L1、h151D-H4L4及びh198D-H3L4の各抗体は、Treg機能阻害活性を示した。
【
図43】
図43は、TregによるCTLの標的細胞溶解活性の抑制を示す図である。
【
図44】
図44は、各抗体による抗腫瘍活性の増強を示す図である。105F、h151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D-H3L4の各抗体は、CTL細胞活性のTregによる抑制を阻害して、抗腫瘍活性を増強させた。
【
図45】
図45は、各抗体のin vivo抗腫瘍活性を示す図である。105F、h151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D-H3L4の各抗体は、in vivoモデルにおいて抗腫瘍活性を示した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書中において、「癌」と「腫瘍」は同じ意味に用いている。
【0014】
本明細書中において、「遺伝子」という語には、DNAのみならずそのmRNA、cDNA及びそのcRNAも含まれる。
【0015】
本明細書中において、「ポリヌクレオチド」という語は核酸と同じ意味で用いており、DNA、RNA、プローブ、オリゴヌクレオチド、及びプライマーも含まれる。
【0016】
本明細中においては、「ポリペプチド」と「蛋白質」は区別せずに用いている。
【0017】
本明細書中において、「細胞」には、動物個体内の細胞、培養細胞も含んでいる。
【0018】
本明細書中において、「GARP」は、GARP蛋白質と同じ意味で用いている。
【0019】
本明細書中における、「細胞傷害」とは、何らかの形で、細胞に病理的な変化をもたらすことをいい、直接的な外傷にとどまらず、DNAの切断や塩基の二量体の形成、染色体の切断、細胞分裂装置の損傷、各種酵素活性の低下などあらゆる細胞の構造や機能上の損傷をいう。
【0020】
本明細書中における「細胞傷害活性」とは上記細胞傷害を引き起こすことをいう。
本明細書中における「抗体依存性細胞傷害活性」とは、「antibody dependent cellular cytotoxicity(ADCC)活性」のことであり、NK細胞が抗体を介して腫瘍細胞等の標的細胞を傷害する作用活性を意味する。
【0021】
本明細書における、「エピトープ」とは、特定の抗GARP抗体の結合するGARPの部分ペプチド又は部分立体構造を意味する。前記のGARPの部分ペプチドであるエピトープは、免疫アッセイ法等当業者によく知られている方法、例えば以下の方法によって決定することができる。まず、抗原の様々な部分構造を作製する。部分構造の作製にあたっては、公知のオリゴペプチド合成技術を用いることが出来る。例えば、GARPのC末端あるいはN末端から適当な長さで順次短くした一連のポリペプチドを当業者に周知の遺伝子組み換え技術を用いて作製した後、それらに対する抗体の反応性を検討し、大まかな認識部位を決定した後に、さらに短いペプチドを合成してそれらのペプチドとの反応性を検討することによって、エピトープを決定することができる。また、特定の抗体の結合する抗原の部分立体構造であるエピトープは、X線構造解析によって前記の抗体と隣接する抗原のアミノ酸残基を特定することによって決定することができる。
本明細書における「同一のエピトープに結合する抗体」とは、共通のエピトープに結合する異なる抗体を意味している。第一の抗体の結合する部分ペプチド又は部分立体構造に第二の抗体が結合すれば、第一の抗体と第二の抗体が同一のエピトープに結合すると判定することができる。また、第一の抗体の抗原に対する結合に対して第二の抗体が競合する(即ち、第二の抗体が第一の抗体と抗原の結合を妨げる)ことを確認することによって、具体的なエピトープの配列又は構造が決定されていなくても、第一の抗体と第二の抗体が同一のエピトープに結合すると判定することができる。さらに、第一の抗体と第二の抗体が同一のエピトープに結合し、かつ第一の抗体が抗腫瘍活性等の特殊な効果を有する場合、第二の抗体も同様の活性を有することが期待できる。従って、第一の抗GARP抗体の結合する部分ペプチドに第二の抗GARP抗体が結合すれば、第一の抗体と第二の抗体がGARPの同一のエピトープに結合すると判定することができる。また、第一の抗GARP抗体のGARPに対する結合に対して第二の抗GARP抗体が競合することを確認することによって、第一の抗体と第二の抗体がGARPの同一のエピトープに結合する抗体と判定することができる。
【0022】
本明細書における「CDR」とは、相補性決定領域(Complemetarity deterring region)を意味する。抗体分子の重鎖及び軽鎖にはそれぞれ3箇所のCDRがあることが知られている。CDRは、超可変領域(hypervariable domain)とも呼ばれ、抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域内にあって、一次構造の変異性が特に高い部位であり、重鎖及び軽鎖のポリペプチド鎖の一次構造上において、それぞれ3ヶ所に分離している。本明細書中においては、抗体のCDRについて、重鎖のCDRを重鎖アミノ酸配列のアミノ末端側からCDRH1、CDRH2、CDRH3と表記し、軽鎖のCDRを軽鎖アミノ酸配列のアミノ末端側からCDRL1、CDRL2、CDRL3と表記する。これらの部位は立体構造の上で相互に近接し、結合する抗原に対する特異性を決定している。
【0023】
本発明において、「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」とは、市販のハイブリダイゼーション溶液ExpressHyb Hybridization Solution(クロンテック社製)中、68℃でハイブリダイズすること、又は、DNAを固定したフィルターを用いて0.7-1.0MのNaCl存在下68℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1-2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度SSCとは150mM NaCl、15mM クエン酸ナトリウムからなる)を用い、68℃で洗浄することにより同定することができる条件又はそれと同等の条件でハイブリダイズすることをいう。
【0024】
1.GARP
本発明で用いるGARPは、ヒト、非ヒト哺乳動物(ラット、マウス等)のGARP発現細胞から直接精製して使用するか、あるいは当該細胞の細胞膜画分を調製して使用することができ、また、GARPをin vitroにて合成する、あるいは遺伝子操作により宿主細胞に産生させることによって得ることができる。遺伝子操作では、具体的には、GARP cDNAを発現可能なベクターに組み込んだ後、転写と翻訳に必要な酵素、基質及びエネルギー物質を含む溶液中で合成する、あるいは他の原核生物、又は真核生物の宿主細胞を形質転換させることによってGARPを発現させることにより、当該蛋白質を得ることができる。
ヒトGARPのアミノ酸配列は配列表の配列番号1に記載されている。また、配列番号1の配列は
図1に記載されている。
また、上記GARPのアミノ酸配列において、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列からなり、当該蛋白質と同等の生物活性を有する蛋白質もGARPに含まれる。
【0025】
シグナル配列が除かれた成熟ヒトGARPは、配列番号1に示されるアミノ酸配列の20番目から662番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に相当する。
【0026】
また、配列表の配列番号1に示されるアミノ酸配列、又はこれらの配列からシグナル配列が除かれたアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つGARPと同等の生物活性を有する蛋白質もGARPに含まれる。さらに、ヒトGARP遺伝子座から転写されるスプライシングバリアントにコードされるアミノ酸配列又は当該アミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、又は付加されたアミノ酸配列からなり、且つGARPと同等の生物活性を有する蛋白質もGARPに含まれる。
【0027】
2.抗GARP抗体の製造
本発明のGARPに対する抗体としては、抗GARPヒト抗体を挙げることができ、抗GARPヒト
抗体とは、ヒト染色体由来の抗体の遺伝子配列のみを有するヒト抗体を意味する。
抗GARPヒト抗体は、ヒト抗体の重鎖と軽鎖の遺伝子を含むヒト染色体断片を有するヒト抗体産生マウスを用いた方法(Tomizuka,K.et al.,Nature Genetics(1997)16,p.133-143,;Kuroiwa,Y.et.al.,Nucl.Acids Res.(1998)26,p.3447-3448;Yoshida,H.et.al.,Animal Cell Technology:Basic and Applied Aspects vol.10,p.69-73(Kitagawa,Y.,Matsuda,T.and Iijima,S.eds.),Kluwer Academic Publishers,1999.;Tomizuka,K.et.al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(2000)97,p.722-727等を参照)によって取得することができる。
【0028】
このようなヒト抗体産生マウスは、具体的には、内在性免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の遺伝子座が破壊され、代わりに酵母人工染色体(Yeast artificial chromosome,YAC)ベクターなどを介してヒト免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の遺伝子座が導入された遺伝子組み換え動物を、ノックアウト動物及びトランスジェニック動物の作製、及びこれらの動物同士を掛け合わせることにより作り出すことができる。
【0029】
また、遺伝子組換え技術により、そのようなヒト抗体の重鎖及び軽鎖の各々をコードするcDNA、好ましくは当該cDNAを含むベクターにより真核細胞を形質転換し、遺伝子組換えヒトモノクローナル抗体を産生する形質転換細胞を培養することにより、当該抗体を培養上清中から得ることもできる。宿主細胞としては例えば真核細胞、好ましくはCHO細胞、リンパ球やミエローマ等の哺乳動物細胞を用いることができる。
また、ヒト抗体ライブラリーより選別したファージディスプレイ由来のヒト抗体を取得する方法(Wormstone,I.M.et.al,Investigative Ophthalmology & Visual Science.(2002)43(7),p.2301-2308;Carmen,S.et.al.,Briefings in Functional Genomics and Proteomics(2002),1(2),p.189-203;Siriwardena,D.et.al.,Ophthalmology(2002)109(3),p.427-431等参照。)により得ることができる。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージ表面に発現させて、抗原に結合するファージを選択するファージディスプレイ法(Nature Biotechnology(2005),23,(9),p.1105-1116)を用いることができる。
【0030】
抗原に結合することで選択されたファージの遺伝子を解析することによって、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、抗体の定常領域のDNA配列を連結することにより、当該配列を有するIgG発現ベクターを作製し、適当な宿主に導入して発現させることによりヒト抗体を取得することができる(WO92/01047、WO92/20791、WO93/06213、WO93/11236、WO93/19172、WO95/01438、WO95/15388、Annu.Rev.Immunol(1994)12,p.433-455、Nature Biotechnology(2005)23(9),p.1105-1116)。
【0031】
また、本発明のGARPに対する抗体は、常法を用いて、GARP又はGARPのアミノ酸配列から選択される任意のポリペプチドを動物に免疫し、生体内に産生される抗体を採取、精製することによって得ることができる。抗原となるGARPの生物種はヒトに限定されず、マウス、ラット等のヒト以外の動物に由来するGARPを動物に免疫することもできる。この場合には、取得された異種GARPに結合する抗体とヒトGARPとの交差性を試験することによって、ヒトの疾患に適用可能な抗体を選別できる。
【0032】
また、公知の方法(例えば、Kohler and Milstein,Nature(1975)256,p.495-497, Kennet, R.ed.,Monoclonal Antibodies,p.365-367, Plenum Press,N.Y.(1980))に従って、GARPに対する抗体を産生する抗体産生細胞とミエローマ細胞とを融合させることによりハイブリドーマを樹立し、モノクローナル抗体を得ることもできる。
【0033】
なお、抗原となるGARPはGARP遺伝子を遺伝子操作により宿主細胞に産生させることによ
って得ることができる。
【0034】
具体的には、GARP遺伝子を発現可能なベクターを作製し、これを宿主細胞に導入して該遺伝子を発現させ、発現したGARPを精製すればよい。以下、具体的にGARPに対する抗体の取得方法を説明する。
【0035】
(1)抗原の調製
抗GARP抗体を作製するための抗原としては、GARP又はその少なくとも6個の連続した部分アミノ酸配列からなるポリペプチド、あるいはこれらに任意のアミノ酸配列や担体が付加された誘導体を挙げることができる。
【0036】
GARPは、ヒトの腫瘍組織あるいは腫瘍細胞から直接精製して使用することができ、また、GARPをin Vitroにて合成する、あるいは遺伝子操作により宿主細胞に産生させることによって得ることができる。
【0037】
遺伝子操作では、具体的には、GARPのcDNAを発現可能なベクターに組み込んだ後、転写と翻訳に必要な酵素、基質及びエネルギー物質を含む溶液中で合成する、あるいは他の原核生物、又は真核生物の宿主細胞を形質転換させることによってGARPを発現させることにより、抗原を得ることができる。
【0038】
また、膜蛋白質であるGARPの細胞外領域と抗体の定常領域とを連結した融合蛋白質を適切な宿主・ベクター系において発現させることによって、分泌蛋白質として抗原を得ることも可能である。
【0039】
GARPのcDNAは例えば、GARPのcDNAを発現しているcDNAライブラリーを鋳型として、GARP
cDNAを特異的に増幅するプライマーを用いてポリメラーゼ連鎖反応(以下「PCR」という)(Saiki, R. K., et al.Science (1988) 239,p.487-489参照)を行なう、所謂PCR法により取得することができる。
【0040】
ポリペプチドのイン・ビトロ(in Vitro)合成としては、例えばロシュ・ダイアグノスティックス社製のラピッドトランスレーションシステム(RTS)を挙げることができるが、これに限定されない。
【0041】
原核細胞の宿主としては、例えば、大腸菌(Escherichia coli)や枯草菌(Bacillus subtilis)等を挙げることができる。目的の遺伝子をこれらの宿主細胞内で形質転換させるには、宿主と適合し得る種由来のレプリコンすなわち複製起点と、調節配列を含んでいるプラスミドベクターで宿主細胞を形質転換させる。また、ベクターとしては、形質転換細胞に表現形質(表現型)の選択性を付与することができる配列を有するものが好ましい。
【0042】
真核細胞の宿主細胞には、脊椎動物、昆虫、酵母などの細胞が含まれ、脊椎動物細胞としては、例えば、サルの細胞であるCOS細胞(Gluzman,Y.Cell(1981)23,p.175-182,
ATCC CRL-1650)、マウス線維芽細胞NIH3T3(ATCC No.CRL-1658)やチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO細胞、ATCC CCL-61)のジヒドロ葉酸還元酵素欠損株(Urlaub,G.and Chasin, L.A.Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1980)77,p.4126-4220)等がよく用いられているが、これらに限定されない。
【0043】
上記のようにして得られる形質転換体は、常法に従い培養することができ、該培養により細胞内、又は細胞外に目的のポリペプチドが産生される。
【0044】
該培養に用いられる培地としては、採用した宿主細胞に応じて慣用される各種のものを適宜選択でき、大腸菌であれば、例えば、LB培地に必要に応じて、アンピシリン等の抗生物質やIPMGを添加して用いることができる。
【0045】
上記培養により、形質転換体の細胞内又は細胞外に産生される組換え蛋白質は、該蛋白質の物理的性質や化学的性質などを利用した各種の公知の分離操作法により分離・精製することができる。
【0046】
該方法としては、具体的には例えば、通常の蛋白質沈殿剤による処理、限外濾過、分子ふるいクロマトグラフィー(ゲル濾過)、吸着クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどの各種液体クロマトグラフィー、透析法、これらの組合せなどを例示できる。
【0047】
また、発現させる組換え蛋白質に6残基からなるヒスチジンタグを繋げることにより、ニッケルアフィニティーカラムで効率的に精製することができる。あるいは、発現させる組換え蛋白質にIgGのFc領域を繋げることにより、プロテインAカラムで効率的に精製することができる。
【0048】
上記方法を組合せることにより容易に高収率、高純度で目的とするポリペプチドを大量に製造できる。
【0049】
(2)抗GARPモノクローナル抗体の製造
GARPと特異的に結合する抗体の例として、GARPと特異的に結合するモノクローナル抗体を挙げることができるが、その取得方法は、以下に記載する通りである。
【0050】
モノクローナル抗体の製造にあたっては、一般に下記のような作業工程が必要である。すなわち、
(a)抗原として使用する生体高分子の精製、
(b)抗原を動物に注射することにより免疫した後、血液を採取しその抗体価を検定して脾臓摘出の時期を決定してから、抗体産生細胞を調製する工程、
(c)骨髄腫細胞(以下「ミエローマ」という)の調製、
(d)抗体産生細胞とミエローマとの細胞融合、
(e)目的とする抗体を産生するハイブリドーマ群の選別、
(f)単一細胞クローンへの分割(クローニング)、
(g)場合によっては、モノクローナル抗体を大量に製造するためのハイブリドーマの培養、又はハイブリドーマを移植した動物の飼育、
(h)このようにして製造されたモノクローナル抗体の生理活性、及びその結合特異性の検討、あるいは標識試薬としての特性の検定、等である。
【0051】
以下、モノクローナル抗体の作製法を上記工程に沿って詳述するが、該抗体の作製法はこれに制限されず、例えば脾細胞以外の抗体産生細胞及びミエローマを使用することもできる。
【0052】
(a)抗原の精製
抗原としては、前記したような方法で調製したGARP又はその一部を使用することができる。
【0053】
また、GARP発現組換え体細胞より調製した膜画分、又はGARP発現組換え体細胞自身、さらに、当業者に周知の方法を用いて、化学合成した本発明の蛋白質の部分ペプチドを抗原として使用することもできる。
【0054】
(b)抗体産生細胞の調製
工程(a)で得られた抗原と、フロインドの完全又は不完全アジュバント、又はカリミョウバンのような助剤とを混合し、免疫原として実験動物に免疫する。実験動物は公知のハイブリドーマ作製法に用いられる動物を支障なく使用することができる。具体的には、たとえばマウス、ラット、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ウマ等を使用することができる。ただし、摘出した抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞の入手容易性等の観点から、マウス又はラットを被免疫動物とするのが好ましい。
【0055】
また、実際に使用するマウス及びラットの系統には特に制限はなく、マウスの場合には、たとえば各系統 A、AKR、BALB/c、BDP、BA、CE、C3H、57BL、C57BL、C57L、DBA、FL、HTH、HT1、LP、NZB、NZW、RF、R III、SJL、SWR、WB、129等が、またラットの場合には、たとえば、Wistar、Low、Lewis、Sprague、Dawley、ACI、BN、Fischer等を用いることができる。
これらのマウス及びラットは例えば日本クレア、日本チャ-ルスリバー、等実験動物飼育販売業者より入手することができる。
【0056】
このうち、後述のミエローマ細胞との融合適合性を勘案すれば、マウスではBALB/c系統が、ラットではWistar及びLow系統が被免疫動物として特に好ましい。
【0057】
また、抗原のヒトとマウスでの相同性を考慮し、自己抗体を除去する生体機構を低下させたマウス、すなわち自己免疫疾患マウスを用いることも好ましい。
【0058】
なお、これらマウス又はラットの免疫時の週齢は、好ましくは5~12週齢、さらに好ましくは6~8週齢である。
【0059】
GARP又はこの組換え体によって動物を免疫するには、例えば、Weir,D.M.,Handbook
of Experimental Immunology, Vol.I.II.III.,Blackwell Scientific Publications,Oxford(1987)、Kabat,E.A.and Mayer,M.M.,Experimental Immunochemistry,Charles C Thomas Publisher Springfield,Illinois(1964)等に詳しく記載されている公知の方法を用いることができる。
これらの免疫法のうち、本発明において好適な方法を具体的に示せば、たとえば以下のとおりである。
【0060】
すなわち、まず、抗原である膜蛋白質画分、もしくは抗原を発現させた細胞を動物の皮内又は腹腔内に投与する。
【0061】
ただし、免疫効率を高めるためには両者の併用が好ましく、前半は皮内投与を行い、後半又は最終回のみ腹腔内投与を行うと、特に免疫効率を高めることができる。
【0062】
抗原の投与スケジュールは、被免疫動物の種類、個体差等により異なるが、一般には、抗原投与回数3~6回、投与間隔2~6週間が好ましく、投与回数3~4回、投与間隔2~4週間がさらに好ましい。
【0063】
また、抗原の投与量は、動物の種類、個体差等により異なるが、一般には0.05~5mg、好ましくは0.1~0.5mg程度とする。
【0064】
追加免疫は、以上の通りの抗原投与の1~6週間後、好ましくは2~4週間後、更に好ましくは2~3週間後に行う。
【0065】
なお、追加免疫を行う際の抗原投与量は、動物の種類、大きさ等により異なるが、一般に、例えばマウスの場合には0.05~5mg、好ましくは0.1~0.5mg、更に好ましくは0.1~0.2mg程度とする。
【0066】
上記追加免疫から1~10日後、好ましくは2~5日後、さらに好ましくは2~3日後に被免疫動物から抗体産生細胞を含む脾臓細胞又はリンパ球を無菌的に取り出す。その際に抗体価を測定し、抗体価が十分高くなった動物を抗体産生細胞の供給源として用いれば、以後の操作の効率を高めることができる。
【0067】
ここで用いられる抗体価の測定法としては、例えば、RIA法又はELISA法を挙げることができるがこれらの方法に制限されない。
【0068】
本発明における抗体価の測定は、例えばELISA法によれば、以下に記載するような手順により行うことができる。
【0069】
まず、精製又は部分精製した抗原をELISA用96穴プレート等の固相表面に吸着させ、さらに抗原が吸着していない固相表面を抗原と無関係な蛋白質、例えばウシ血清アルブミン(以下「BSA」という)により覆い、該表面を洗浄後、第一抗体として段階希釈した試料(例えばマウス血清)に接触させ、上記抗原に試料中の抗体を結合させる。
【0070】
さらに第二抗体として酵素標識されたマウス抗体に対する抗体を加えてマウス抗体に結合させ、洗浄後該酵素の基質を加え、基質分解に基づく発色による吸光度の変化等を測定することにより、抗体価を算出する。
【0071】
被免疫動物の脾臓細胞又はリンパ球からの抗体産生細胞の分離は、公知の方法(例えば、Kohler et al.,Nature(1975)256,p.495,;Kohler et al.,Eur.J.Immunol.(1977)6,p.511,;Milstein et al.,Nature(1977),266,p.550,;Walsh,Nature,(1977)266,p.495)に従って行うことができる。例えば、脾臓細胞の場合には、脾臓を細切して細胞をステンレスメッシュで濾過した後、イーグル最小必須培地(MEM)に浮遊させて抗体産生細胞を分離する一般的方法を採用することができる。
【0072】
(c)骨髄腫細胞(以下、「ミエローマ」という)の調製
細胞融合に用いるミエローマ細胞には特段の制限はなく、公知の細胞株から適宜選択して用いることができる。ただし、融合細胞からハイブリドーマを選択する際の利便性を考慮して、その選択手続が確立しているHGPRT(Hypoxanthine-GUANINE phosphoribosyl transferase)欠損株を用いるのが好ましい。
【0073】
すなわち、マウス由来のX63-Ag8(X63)、NS1-ANS/1(NS1)、P3X63-Ag8.U1(P3U1)、X63-Ag8.653(X63.653)、SP2/0-Ag14(SP2/0)、MPC11-45.6TG1.7(45.6TG)、FO、S149/5XXO、BU.1等、ラット由来の210.RSY3.Ag.1.2.3(Y3)など、人由来のU266AR(SKO-007)、GM1500・GTG-A12(GM1500)、UC729-6、LICR-LOW-HMy2(HMy2)、8226AR/NIP4-1(NP41)等である。これらのHGPRT欠損株は例えば、American Type Culture Collection (ATCC)等から入手することができる。
【0074】
これらの細胞株は、適当な培地、例えば8-アザグアニン培地[RPMI-1640培地にグルタミン、2-メルカプトエタノール、ゲンタマイシン、及びウシ胎児血清(以下「FCS」という)を加えた培地に8-アザグアニンを加えた培地]、イスコフ改変ダルベッコ培地(Iscove’s Modified Dulbecco’s Medium;以下「IMDM」という)、又はダルベッコ改変イーグル培地(Dulbecco’s Modified Eagle Medium;以下「DMEM」という)で継代培養するが、細胞融合の3乃至4日前に正常培地[例えば、10% FCSを含むASF104培地(味
の素(株)社製)]で継代培養し、融合当日に2×107以上の細胞数を確保しておく。
【0075】
(d)細胞融合
抗体産生細胞とミエローマ細胞との融合は、公知の方法(Weir,D.M.,Handbookof Experimental Immunology, Vol.I.II.III.,Blackwell Scientific Publications,Oxford(1987)、Kabat,E.A.and Mayer,M.M.,Experimental Immunochemistry,Charles C Thomas Publisher Springfield,Illinois(1964)等)に従い、細胞の生存率を極度に低下させない程度の条件下で適宜実施することができる。
【0076】
そのような方法は、例えば、ポリエチレングリコール等の高濃度ポリマー溶液中で抗体産生細胞とミエローマ細胞とを混合する化学的方法、電気的刺激を利用する物理的方法等を用いることができる。このうち、上記化学的方法の具体例を示せば以下のとおりである。
すなわち、高濃度ポリマー溶液としてポリエチレングリコールを用いる場合には、分子量1500~6000、好ましくは2000~4000のポリエチレングリコール溶液中で、30~40℃、好ましくは35~38℃の温度で抗体産生細胞とミエローマ細胞とを1~10分間、好ましくは5~8分間混合する。
【0077】
(e)ハイブリドーマ群の選択
上記細胞融合により得られるハイブリドーマの選択方法は特に制限はないが、通常HAT(ヒポキサンチン・アミノプテリン・チミジン)選択法(Kohler et al.,Nature(1975)256,p.495;Milstein et al.,Nature(1977)266,p.550)が用いられる。
【0078】
この方法は、アミノプテリンで生存し得ないHGPRT欠損株のミエローマ細胞を用いてハイブリドーマを得る場合に有効である。
【0079】
すなわち、未融合細胞及びハイブリドーマをHAT培地で培養することにより、アミノプテリンに対する耐性を持ち合わせたハイブリドーマのみを選択的に残存させ、かつ増殖させることができる。
【0080】
(f)単一細胞クローンへの分割(クローニング)
ハイブリドーマのクローニング法としては、例えばメチルセルロース法、軟アガロース法、限界希釈法等の公知の方法を用いることができる(例えばBarbara,B.M.and Stanley,M.S.:Selected Methods in Cellular Immunology,W.H.Freeman and Company,San Francisco(1980)参照)。これらの方法のうち、特にメチルセルロース法などの三次元培養法が好適である。例えば、細胞融合により形成されたハイブリドーマ群をClonaCell-HY Selection Medium D(StemCell Technologies社製、#03804)等のメチルセルロース培地に懸濁して培養し、形成されたハイブリドーマコロニーを回収することでモノクローンハイブリドーマの取得が可能である。回収された各ハイブリドーマコロニーを培養し、得られたハイブリドーマ培養上清中に安定して抗体価の認められたものをGARPモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ株として選択する。
【0081】
このようにして樹立されたハイブリドーマ株の例としては、GARPハイブリドーマ151D及び198Dを挙げることができる。なお、本明細書中においては、GARPハイブリドーマ151D及び198Dが産生する抗体を、「151D抗体」若しくは「198D抗体」又は単に「151D」若しくは「198D」と記載する。
151D抗体の重鎖可変領域は、配列表の配列番号15に示されるアミノ酸配列を有する。また、151D抗体の軽鎖可変領域は、配列表の配列番号17に示されるアミノ酸配列を有する。なお、配列表の配列番号15に示される重鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列表の配列番号14に示されるヌクレオチド配列によってコードされている。また、配列表の配列番号17に
示される軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列表の配列番号16に示されるヌクレオチド配列によってコードされている。
198D抗体の重鎖可変領域は、配列表の配列番号19に示されるアミノ酸配列を有する。また、198D抗体の軽鎖可変領域は、配列表の配列番号21に示されるアミノ酸配列を有する。なお、配列表の配列番号19に示される重鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列表の配列番号18に示されるヌクレオチド配列によってコードされている。また、配列表の配列番号21に示される軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列表の配列番号20に示されるヌクレオチド配列によってコードされている。
【0082】
(g)ハイブリドーマの培養によるモノクローナル抗体の調製
このようにして選択されたハイブリドーマは、これを培養することにより、モノクローナル抗体を効率よく得ることができるが、培養に先立ち、目的とするモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングすることが望ましい。
【0083】
このスクリーニングにはそれ自体既知の方法が採用できる。
【0084】
本発明における抗体価の測定は、例えば上記(b)の項目で説明したELISA法により行うことができる。
【0085】
以上の方法によって得たハイブリドーマは、液体窒素中又は-80℃以下の冷凍庫中に凍結状態で保存することができる。
【0086】
クローニングを完了したハイブリドーマは、培地をHT培地から正常培地に換えて培養される。
【0087】
大量培養は、大型培養瓶を用いた回転培養、あるいはスピナー培養で行われる。この大量培養における上清から、ゲル濾過等、当業者に周知の方法を用いて精製することにより、本発明の蛋白質に特異的に結合するモノクローナル抗体を得ることができる。
【0088】
また、同系統のマウス(例えば、上記のBALB/c)、あるいはNu/Nuマウスの腹腔内にハイブリドーマを注射し、該ハイブリド-マを増殖させることにより、本発明のモノクローナル抗体を大量に含む腹水を得ることができる。
【0089】
腹腔内に投与する場合には、事前(3~7日前)に2,6,10,14-テトラメチルペンタデカン(2,6,10,14-tetramethyl pentadecane)(プリスタン)等の鉱物油を投与すると、より多量の腹水が得られる。
【0090】
たとえば、ハイブリドーマと同系統のマウスの腹腔内に予め免疫抑制剤を注射し、T細胞を不活性化した後、20日後に106~107個のハイブリドーマ・クローン細胞を、血清を含まない培地中に浮遊(0.5ml)させて腹腔内に投与し、通常腹部が膨満し、腹水がたまったところでマウスより腹水を採取する。この方法により、培養液中に比べて約100倍以上の濃度のモノクローナル抗体が得られる。
【0091】
上記方法により得たモノクローナル抗体は、例えばWeir,D.M.:Handbook of Experimental Immunology,Vol.I,II,III,Blackwell Scientific Publications,Oxford(1978)に記載されている方法で精製することができる。
【0092】
かくして得られるモノクローナル抗体は、GARPに対して高い抗原特異性を有する。
【0093】
(h)モノクローナル抗体の検定
得られたモノクローナル抗体のアイソタイプ及びサブクラスの決定は以下のように行うことができる。
【0094】
先ず、同定法としてはオクテルロニー(Ouchterlony)法、ELISA法、又はRIA法を挙げることができる。
【0095】
オクテルロニー法は簡便ではあるが、モノクローナル抗体の濃度が低い場合には濃縮操作が必要である。
【0096】
一方、ELISA法又はRIA法を用いた場合は、培養上清をそのまま抗原吸着固相と反応させ、さらに第二次抗体として各種イムノグロブリンアイソタイプ、サブクラスに対応する抗体を用いることにより、モノクローナル抗体のアイソタイプ、サブクラスを同定することが可能である。
【0097】
また、さらに簡便な方法として、市販の同定用のキット(例えば、マウスタイパーキット;バイオラッド社製)等を利用することもできる。
【0098】
更に、蛋白質の定量は、フォーリンロウリー法、及び280nmにおける吸光度[1.4(OD280)=イムノグロブリン1mg/ml]より算出する方法により行うことができる。
【0099】
更に、(2)の(a)乃至(h)の工程を再度実施して別途に独立してモノクローナル抗体を取得した場合においても、105F抗体、110F抗体、151D由来抗体(ヒト化151D抗体)及び198D由来抗体(ヒト化198D抗体)と同等の特性を有する抗体を取得することが可能である。このような抗体の一例として、上記各抗体と同一のエピトープに結合する抗体を挙げることができる。105F抗体はGARPのアミノ酸配列(配列番号1) においてアミノ酸番号366乃至377、407乃至445及び456乃至470を認識し、110F抗体は当該配列においてアミノ酸番号54乃至112及び366乃至392を認識し、151D由来抗体(ヒト化151D抗体)は当該配列においてアミノ酸番号352乃至392を認識し、及び198D由来抗体(ヒト化98D抗体)は当該配列においてアミノ酸番号18乃至112を認識して結合するので、特に当該エピトープとしてはGARPのアミノ酸配列における当該領域をエピトープとして挙げることができる。
新たに作製されたモノクローナル抗体が、上記105F抗体等の結合する部分ペプチド又は部分立体構造に結合すれば、当該モノクローナル抗体が上記105F抗体等の抗体と同一のエピトープに結合すると判定することができる。また、上記105F抗体等の抗体のGARPに対する結合に対して当該モノクローナル抗体が競合する(即ち、当該モノクローナル抗体が、上記105F抗体等の抗体とGARPの結合を妨げる)ことを確認することによって、具体的なエピトープの配列又は構造が決定されていなくても、当該モノクローナル抗体が上記105F抗体等の抗体と同一のエピトープに結合すると判定することができる。エピトープが同一であることが確認された場合、当該モノクローナル抗体が上記105F抗体等の抗体と同等の特性を有していることが強く期待される。
【0100】
(3)その他の抗体
本発明の抗体には、上記GARPに対するモノクローナル抗体に加え、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト化(Humanized)抗体、及び上記のヒト抗体等も含まれる。これらの抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
【0101】
得られた抗体は、均一にまで精製することができる。抗体の分離、精製は通常の蛋白質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えばカラムクロマトグラフィー、フィルター濾過、限外濾過、塩析、透析、調製用ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組み合わせれば、抗体を分離、精製することができる(Strate
gies for Protein Purification and Characterization:A Laboratory Course Manual,Daniel R.Marshak et al.eds.,Cold Spring Harbor Laboratory Press(1996);Antibodies:A Laboratory Manual.Ed Harlow and David Lane,Cold Spring Harbor Laboratory(1988))が、これらに限定されるものではない。
【0102】
クロマトグラフィーとしては、アフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等を挙げることができる。
これらのクロマトグラフィーは、HPLCやFPLC等の液体クロマトグラフィーを用いて行うことができる。
【0103】
アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、プロテインAカラム、プロテインGカラムを挙げることができる。例えばプロテインAカラムを用いたカラムとして、Hyper D,POROS,Sepharose F.F.(ファルマシア)等を挙げることができる。
また抗原を固定化した担体を用いて、抗原への結合性を利用して抗体を精製することも可能である。
得られた抗体は、後述の実施例に示された方法等によって抗原に対する結合性を評価し、好適な抗体を選抜することができる。
【0104】
抗体の性質を比較する際の指標としては、抗体の安定性を挙げることができる。示差走査カロリメーター(DSC)は、蛋白の相対的構造安定性の良い指標となる熱変性中点(Tm)を素早く、また正確に測定することができる装置である。DSCを用いてTm値を測定し、その値を比較することによって、熱安定性の違いを比較することができる。抗体の保存安定性は、抗体の熱安定性とある程度の相関を示すことが知られており(Lori Burton,et.al.,Pharmaceutical Development and Technology(2007)12,p.265-273)、熱安定性を指標に、好適な抗体を選抜することができる。抗体を選抜するための他の指標としては、適切な宿主細胞における収量が高いこと、及び水溶液中での凝集性が低いことを挙げることができる。例えば収量の最も高い抗体が最も高い熱安定性を示すとは限らないので、以上に述べた指標に基づいて総合的に判断して、ヒトへの投与に最も適した抗体を選抜する必要がある。
【0105】
本発明の抗GARPヒト抗体としては、上記ファージディスプレイ法により得られる抗体を挙げることができ、好ましくは下記の構造を有する105F抗体及び110F抗体を挙げることができる。
【0106】
105F抗体の重鎖は、配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する。配列表の配列番号2に示される重鎖アミノ酸配列中で、1乃至118番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は可変領域であり、119乃至448番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は定常領域である。当該可変領域は、配列表の配列番号2において、26乃至35に記載のアミノ酸配列からなるCDRH1、50乃至66に記載のアミノ酸配列からなるCDRH2及び99乃至107に記載のアミノ酸配列からなるCDRH3を有する。また、配列番号2の配列は
図2に記載されている。
【0107】
105F抗体の軽鎖は、配列表の配列番号3に示されるアミノ酸配列を有する。配列表の配列番号3に示される軽鎖アミノ酸配列中で、1乃至112番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は可変領域であり、113乃至217番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は定常領域である。当該可変領域は、配列表の配列番号3において、23乃至36に記載のアミノ酸配列からなるCDRL1、52乃至58に記載のアミノ酸配列からなるCDRL2及び91乃至101に記載のアミノ酸配列からなるCDRL3を有する。また、配列番号3の配列は
図3に記載されている。
【0108】
110F抗体の重鎖は、配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列を有する。配列表の配列番号4に示される重鎖アミノ酸配列中で、1乃至123番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は可変領域であり、124乃至453番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は定常領域である。当該可変領域は、配列表の配列番号4において、26乃至35に記載のアミノ酸配列からなるCDRH1、50乃至66に記載のアミノ酸配列からなるCDRH2及び99乃至112に記載のアミノ酸配列からなるCDRH3を有する。また、配列番号4の配列は
図4に記載されている。
【0109】
110F抗体の軽鎖は、配列表の配列番号5に示されるアミノ酸配列を有する。配列表の配列番号5に示される軽鎖アミノ酸配列中で、1乃至111番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は可変領域であり、112乃至216番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は定常領域である。当該可変領域は、配列表の配列番号5において、23乃至36に記載のアミノ酸配列からなるCDRL1、52乃至58に記載のアミノ酸配列からなるCDRL2及び91乃至100に記載のアミノ酸配列からなるCDRL3を有する。また、配列番号5の配列は
図5に記載されている。
【0110】
配列表の配列番号2に示される105F抗体重鎖アミノ酸配列は、配列表の配列番号6に示されるヌクレオチド配列によってコードされている。配列表の配列番号6に示されるヌクレオチド配列の1乃至354番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は105F抗体の重鎖可変領域をコードしており、そして355乃至1344番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は105F抗体の重鎖定常領域をコードしている。当該可変領域をコードするヌクレオチド配列は、配列番号6において、CDRH1をコードするヌクレオチド番号76乃至105に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、CDRH2をコードするヌクレオチド番号148乃至198に記載のヌクレオチド配列からなるのポリヌクレオチド、及びCDRH3をコードするヌクレオチド番号295乃至321に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを有する。また、配列番号6の配列は
図6に記載されている。
【0111】
配列表の配列番号3に示される105F抗体軽鎖アミノ酸配列は、配列表の配列番号7示されるヌクレオチド配列によってコードされている。配列表の配列番号7に示されるヌクレオチド配列の1乃至336番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は105F抗体の軽鎖可変領域をコードしており、そして337乃至651番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は105F抗体の軽鎖定常領域をコードしている。当該可変領域をコードするヌクレオチド配列は、配列番号7において、CDRL1をコードするヌクレオチド番号67乃至108に記載のヌクレオチド配列からなるのポリヌクレオチド、CDRL2をコードするヌクレオチド番号154乃至174に記載のヌクレオチド配列からなるのポリヌクレオチド、及びCDRL3をコードするヌクレオチド番号271乃至303に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを有する。また、配列番号7の配列は
図7に記載されている。
【0112】
配列表の配列番号4に示される110F抗体重鎖アミノ酸配列は、配列表の配列番号8に示されるヌクレオチド配列によってコードされている。配列表の配列番号8に示されるヌクレオチド配列の1乃至369番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は110F抗体の重鎖可変領域をコードしており、そして370乃至1359番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は110F抗体の重鎖定常領域をコードしている。当該可変領域をコードするヌクレオチド配列は、配列番号8において、CDRH1をコードするヌクレオチド番号76乃至105に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、CDRH2をコードするヌクレオチド番号148乃至198に記載のヌクレオチド配列からなるのポリヌクレオチド、及びCDRH3をコードするヌクレオチド番号295乃至336に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを有する。また、配列番号8の配列は
図8に記載されている。
【0113】
配列表の配列番号5に示される110F抗体軽鎖アミノ酸配列は、配列表の配列番号9示されるヌクレオチド配列によってコードされている。配列表の配列番号9に示されるヌクレオチド配列の1乃至333番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は110F抗体の軽鎖可変領域をコードしており、そして334乃至648番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は110F抗体の軽鎖定常領域をコードしている。当該可変領域をコードするヌクレオチド配列は、配列番号9において、CDRL1をコードするヌクレオチド番号67乃至108に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド、CDRL2をコードするヌクレオチド番号154乃至174に記載のヌクレオチド配列からなるのポリヌクレオチド、及びCDRL3をコードするヌクレオチド番号271乃至300に記載のヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチドを有する。また、配列番号9の配列は
図9に記載されている。
【0114】
本発明の抗体には、上記抗GARPヒト抗体に加え、上記の抗体取得方法以外の方法により、別途に独立して抗体を取得した場合においても、105F抗体又は110F抗体と同等の細胞傷害活性を有する抗体を取得することが可能である。このような抗体の一例として、105F抗体又は110F抗体と同一のエピトープに結合する抗体を挙げることができる。
新たに作製された抗体が、105F抗体又は110F抗体の結合する部分ペプチド又は部分立体構造に結合すれば、当該抗体が105F抗体又は110F抗体と同一のエピトープに結合すると判定することができる。また、105F抗体又は110F抗体のGARPに対する結合に対して当該抗体が競合する(即ち、当該抗体が、105F抗体又は110F抗体とGARPの結合を妨げる)ことを確認することによって、具体的なエピトープの配列又は構造が決定されていなくても、当該抗体が105F抗体又は110F抗体と同一のエピトープに結合すると判定することができる。エピトープが同一であることが確認された場合、当該抗体が105F抗体又は110F抗体と同等の細胞傷害活性を有していることが強く期待される。
【0115】
更に、本発明の抗体には、人為的に改変した遺伝子組換え型抗体も含まれる。これらの抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。当該抗体としては、少なくとも上記105F抗体又は110F抗体の各重鎖及び軽鎖の6種全てのCDRを有し、ADCC活性及びTregの免疫抑制機能に対する阻害活性を有する抗体であることが好ましく、当該特性を有する限り、特定の抗体に限定されない。更に好ましくは上記105F抗体又は110F抗体の各重鎖可変領域及び軽鎖可変領域を有する抗体である。
【0116】
また、105F抗体又は110F抗体の各重鎖アミノ酸配列及び軽鎖アミノ酸配列と高い相同性を示す配列を組み合わせることによって、当該抗体と同等の活性を有する抗体を選択することが可能である。このような相同性は、一般的には80%以上の相同性であり、好ましくは90%以上の相同性であり、より好ましくは95%以上の相同性であり、最も好ましくは99%以上の相同性である(但し、各CDRは上記の各抗体と同一である)。また、上記重鎖又は軽鎖のアミノ酸配列(但し、各CDRの部位を除く)に1乃至数個のアミノ酸残基が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列を組み合わせることによっても、上記の各抗体と同等の活性を有する抗体を選択することが可能である。
また本発明に係る抗GARP抗体としては、下記のキメラ抗体及びヒト化抗体を挙げることができる。
【0117】
キメラ抗体としては、抗体の可変領域と定常領域が互いに異種である抗体、例えばマウス又はラット由来抗体の可変領域をヒト由来の定常領域に接合したキメラ抗体を挙げることができる(Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,81,6851-6855,(1984)参照)。
【0118】
ラット抗ヒトGARP抗体151D由来のキメラ抗体は、配列番号15の1乃至117番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖及び配列番号17の1乃至109番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖からなる抗体であり、任意のヒト由来の定常領域を有していて良い。
また、ラット抗ヒトGARP抗体198D由来のキメラ抗体は、配列番号19の1乃至120番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む重鎖及び配列番号21の1乃至109番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を含む軽鎖からなる抗体であり、任意のヒト由来の定常領域を有していて良い。
【0119】
このようなキメラ抗体の例として、配列表の配列番号25の20乃至466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号27の21乃至234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有する軽鎖からなる抗体、及び配列表の配列番号29の20乃至469番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号31の21乃至234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有する軽鎖からなる抗体を挙げることができる。
なお、配列表の配列番号25に示される重鎖配列中で、1乃至19番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列はシグナル配列であり、20乃至136番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は可変領域であり、137乃至466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は定常領域である。
【0120】
また、配列表の配列番号27に示される軽鎖配列中で、1乃至20番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列はシグナル配列であり、21乃至129番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は可変領域であり、130乃至234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は定常領域である。
更に、配列表の配列番号29に示される重鎖配列中で、1乃至19番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列はシグナル配列であり、20乃至139番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は可変領域であり、140乃至469番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は定常領域である。
また、配列表の配列番号31に示される軽鎖配列中で、1乃至20番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列はシグナル配列であり、21乃至129番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は可変領域であり、130乃至234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は定常領域である。
【0121】
配列表の配列番号25に示されるc151D抗体の重鎖アミノ酸配列は、配列表の配列番号24に示されるヌクレオチド配列によってコードされている。配列表の配列番号24に示されるヌクレオチド配列の1乃至57番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はc151D抗体の重鎖シグナル配列をコードしており、58乃至408番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はc151D抗体の重鎖可変領域をコードしており、そして409乃至1398番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はc151D抗体の重鎖定常領域をコードしている。
また、配列表の配列番号27に示されるc151D抗体の軽鎖アミノ酸配列は、配列表の配列番号26に示されるヌクレオチド配列によってコードされている。配列表の配列番号26に示されるヌクレオチド配列の1乃至60番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はc151D抗体の軽鎖シグナル配列をコードしており、61乃至387番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はc151D抗体の軽鎖可変領域をコードしており、そして388乃至702番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はc151D抗体の軽鎖定常領域をコードしている。
【0122】
更に、配列表の配列番号29に示されるc198D抗体の重鎖アミノ酸配列は、配列表の配列番号28に示されるヌクレオチド配列によってコードされている。配列表の配列番号28に示されるヌクレオチド配列の1乃至57番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はc198D抗体の重鎖シグナル配列をコードしており、58乃至417番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はc198D抗体の重鎖可変領域をコードしており、そして418乃至1407番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はc198D抗体の重鎖定常領域をコードしている。
また、配列表の配列番号31に示されるc198D抗体の軽鎖アミノ酸配列は、配列表の配列番号30に示されるヌクレオチド配列によってコードされている。配列表の配列番号30に示されるヌクレオチド配列の1乃至60番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はc198
D抗体の軽鎖シグナル配列をコードしており、61乃至387番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はc198D抗体の軽鎖可変領域をコードしており、そして388乃至702番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はc198D抗体の軽鎖定常領域をコードしている。
【0123】
ヒト化抗体としては、相補性決定領域(CDR;complementarity determining region)のみをヒト由来の抗体に組み込んだ抗体(Nature(1986)321,p.522-525参照)、CDR移植法によって、CDRの配列に加え一部のフレームワークのアミノ酸残基もヒト抗体に移植した抗体(国際公開パンフレットWO90/07861)を挙げることができる。
【0124】
但し、151D抗体由来のヒト化抗体としては、151D抗体の6種全てのCDR配列を保持し、抗腫瘍活性を有する限り、特定のヒト化抗体に限定されない。
なお、151D抗体の重鎖可変領域は、配列表の配列番号15においてアミノ酸番号26乃至35のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなるCDRH1(GFTFSNYYMA)、配列番号15においてアミノ酸番号50乃至59のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなるCDRH2(SIGTVGGNTY)、及び配列番号15においてアミノ酸番号99乃至106のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなるCDRH3(EDYGGFPH)を保有している。
また、151D抗体の軽鎖可変領域は、配列表の配列番号17においてアミノ酸番号24乃至34のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなるCDRL1(KASQNVGTNVD)、配列番号17においてアミノ酸番号50乃至56のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなるCDRL2(GASNRYT)、及び配列番号17においてアミノ酸番号89乃至97のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなるCDRL3(LQYKYNPYT)を保有している。
更に、198D抗体の重鎖可変領域は、配列表の配列番号19においてアミノ酸番号26乃至35のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなるCDRH1(GFSLTSFHVS)、配列番号19においてアミノ酸番号50乃至58のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなるCDRH2(TISSGGGTY)、及び配列番号19においてアミノ酸番号98乃至109のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなるCDRH3(ISGWGHYYVMDV)を保有している。
また、198D抗体の軽鎖可変領域は、配列表の配列番号21においてアミノ酸番号24乃至34のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなるCDRL1(QASEDIYSGLA)、配列番号21においてアミノ酸番号50乃至56のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなるCDRL2(GAGSLQD)、及び配列番号21においてアミノ酸番号89乃至97のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなるCDRL3(QQGLKFPLT)を保有している。
【0125】
ラット抗体151Dのヒト化抗体の実例としては、(1)配列表の配列番号33(h151D-H1)又は35(h151D-H4)の20乃至136番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列、(2)上記(1)の配列において各CDR 配列以外のフレームワーク領域の配列に対して少なくとも95%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び(3)上記(1)の配列における各CDR 配列以外のフレームワーク領域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列のいずれか一つからなる重鎖可変領域を含む重鎖、並びに(4)配列番号37(h151D-L1)又は39(h151D-L4)の21乃至129番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列、(5)上記(4)の配列において各CDR 配列以外のフレームワーク領域の配列に対して少なくとも95%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び(6)上記(4)の配列における各CDR 配列以外のフレームワーク領域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列のいずれか一つからなる軽鎖可変領域を含む軽鎖の任意の組合せを挙げることができる。
また、ラット抗体198Dのヒト化抗体の実例としては、(1)配列表の配列番号41(h198D-H3)の20乃至139番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列、(2)上記(1)の配列において各CDR 配列以外のフレームワーク領域の配列に対して少なくとも95%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び(3)上記(1)の配列における各CDR 配列以外のフレームワーク領域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列のいずれか一つからなる重鎖可変領域を含む重鎖、並びに(4)配列番号43(h198D-L4)の21乃至129番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列、(5)上記(4)の配列において各CDR 配列以外のフレームワーク領域の配列に対して少なくとも95%以上の相同性を有するアミノ酸配列、及び(6)上記(4)の配列における各CDR 配列以外のフレームワーク領域の配列において1又は数個のアミノ酸が欠失、置換又は付加されたアミノ酸配列のいずれか一つからなる軽鎖可変領域を含む軽鎖の任意の組合せを挙げることができる。
【0126】
ヒト化151D抗体の重鎖及び軽鎖の好適な組合せとしては、配列番号33の20乃至136番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を有する重鎖及び配列番号37の21乃至129番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有する軽鎖からなる抗体、並びに配列番号35の20乃至136番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を有する重鎖及び配列番号39の21乃至129番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有する軽鎖からなる抗体を挙げることができる。
【0127】
更に好適な組合せとしては、配列番号33のアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号37のアミノ酸配列を有する軽鎖からなる抗体(h151D-H1L1)、並びに配列番号35のアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号39のアミノ酸配列を有する軽鎖からなる抗体(h151D-H4L4)を挙げることができる。
【0128】
ヒト化198D抗体の重鎖及び軽鎖の好適な組合せとしては、配列番号41の20乃至139番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を有する重鎖及び配列番号43の21乃至129番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域を有する軽鎖からなる抗体を挙げることができる。
【0129】
更に好適な組合せとしては、配列番号41のアミノ酸配列を有する重鎖及び配列番号43のアミノ酸配列を有する軽鎖からなる抗体(h198D-H3L4)を挙げることができる。
【0130】
上記の重鎖アミノ酸配列及び軽鎖アミノ酸配列と高い相同性を示す配列を組み合わせることによって、上記の各抗体と同等の細胞傷害性活性を有する抗体を選択することが可能である。このような相同性は、一般的には80%以上の相同性であり、好ましくは90%以上の相同性であり、より好ましくは95%以上の相同性であり、最も好ましくは99%以上の相同性である。また、重鎖又は軽鎖のアミノ酸配列に1乃至数個のアミノ酸残基が置換、欠失又は付加されたアミノ酸配列を組み合わせることによっても、上記の各抗体と同等の細胞傷害性活性を有する抗体を選択することが可能である。
なお、本明細書中における「数個」とは、1乃至10個、1乃至9個、1乃至8個、1乃至7個、1乃至6個、1乃至5個、1乃至4個、1乃至3個、又は1若しくは2個を意味する。
【0131】
また、本明細書中におけるアミノ酸の置換としては保存的アミノ酸置換が好ましい。保存的アミノ酸置換とは、アミノ酸側鎖に関連のあるアミノ酸グループ内で生じる置換である。好適なアミノ酸グループは、以下のとおりである:酸性グループ=アスパギン酸、グルタミン酸;塩基性グループ=リジン、アルギニン、ヒスチジン;非極性グループ=アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン;及び非帯電極性グループ=グリシン、アスパラギン、グルタミン、システイン、セリン、スレオニン、チロシン。他の好適なアミノ酸グループは次のとおりである:脂肪族ヒドロキシグループ=セリン及びスレオニン;アミド含有グループ=アスパラギ及びグルタミン;脂肪族グループ=アラニン、バリン、ロイシン及びイソロイシン;並びに芳香族グループ=フェニルアラニン、トリプトファン及びチロシン。かかるアミノ酸置換は元のアミノ酸配列を有する物質の特性を低下させない範囲で行うのが好ましい。
【0132】
二種類のアミノ酸配列間の相同性は、Blast algorithm version 2.2.2(Altschul, Stephen F.,Thomas L.Madden,Alejandro A.Schaffer, Jinghui Zhang, Zheng Zhang, Webb Miller, and David J.Lipman(1997),「Gapped BLAST and PSI-BLAST:a new generation of protein database search programs」,Nucleic Acids Res.25:3389-3402)のデフォルトパラメーターを使用することによって決定することができる。Blast algorithmは、インターネットでwww.ncbi.nlm.nih.gov/blastにアクセスすることによっても使用することができる。なお、本発明の抗体に係るヌクレオチド配列と他の抗体のヌクレオチド配列との間の相同性についてもBlast algorithmによって決定することができる。
【0133】
なお、ヒト化151D抗体に係る配列表の配列番号33又は35に示される重鎖アミノ酸配列中で、1乃至19番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列はシグナル配列であり、20乃至136番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は可変領域であり、137乃至466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は定常領域である。
また、ヒト化151D抗体に係る配列表の配列番号37又は39に示される軽鎖アミノ酸配列中で、1乃至20番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列はシグナル配列であり、21乃至129番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は可変領域であり、130乃至234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は定常領域である。
【0134】
更に、ヒト化198D抗体に係る配列表の配列番号41に示される重鎖アミノ酸配列中で、1乃至19番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列はシグナル配列であり、20乃至139番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は可変領域であり、140乃至469番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は定常領域である。
また、ヒト化198D抗体に係る配列表の配列番号43に示される軽鎖アミノ酸配列中で、1乃至20番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列はシグナル配列であり、21乃至129番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は可変領域であり、130乃至234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は定常領域である。
【0135】
ヒト化151D抗体に係る配列表の配列番号33又は35に示される重鎖アミノ酸配列は、各々配列表の配列番号32又は34に示されるヌクレオチド配列によってコードされている。また、配列番号33の配列は
図21に、配列番号35の配列は
図23に、配列番号32の配列は
図31、及び配列番号34の配列は
図33に各々記載されている。
各ヌクレオチド配列の1乃至57番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はヒト化151D抗体の重鎖シグナル配列をコードしており、58乃至408番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はヒト化151D抗体の重鎖可変領域をコードしており、そして409乃至1398番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はヒト化151D抗体の重鎖定常領域をコードしている。
【0136】
ヒト化198D抗体に係る配列表の配列番号41に示される重鎖アミノ酸配列は、配列表の配列番号40に示されるヌクレオチド配列によってコードされている。また、配列番号41の配列は
図25に、配列番号40の配列は
図35に記載されている。
ヌクレオチド配列の1乃至57番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はヒト化198D抗体の重鎖シグナル配列をコードしており、58乃至417番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はヒト化198D抗体の重鎖可変領域をコードしており、そして418乃至1407番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はヒト化198D抗体の重鎖定常領域をコードしている。
【0137】
ヒト化151D抗体に係る配列表の配列番号37又は39に示される軽鎖アミノ酸配列は、各々配列表の配列番号36又は38に示されるヌクレオチド配列によってコードされている。また
、配列番号37の配列は
図22に、配列番号39の配列は
図24に、配列番号36の配列は
図32に、及び配列番号38の配列は
図34に各々記載されている。
各ヌクレオチド配列の1乃至60番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はヒト化151D抗体の軽鎖シグナル配列をコードしており、61乃至387番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はヒト化151D抗体の軽鎖可変領域をコードしており、そして388乃至702番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はヒト化151D抗体の軽鎖定常領域をコードしている。
【0138】
ヒト化198D抗体に係る配列表の配列番号43に示される軽鎖アミノ酸配列は、配列表の配列番号42に示されるヌクレオチド配列によってコードされている。また、配列番号43の配列は
図26に、配列番号42の配列は
図36に記載されている。
ヌクレオチド配列の1乃至60番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はヒト化198D抗体の軽鎖シグナル配列をコードしており、61乃至387番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はヒト化198D抗体の軽鎖可変領域をコードしており、そして388乃至702番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はヒト化198D抗体の軽鎖定常領域をコードしている。
【0139】
これらのヌクレオチド配列と他の抗体のヌクレオチド配列との間の相同性についてもBlast algorithmによって決定することができる。
【0140】
本発明の抗体としては、更にヒト化151D抗体又はヒト化198D抗体と同一のエピトープに結合する、ヒト抗体を挙げることができる。抗GARPヒト抗体とは、ヒト染色体由来の抗体の遺伝子配列のみを有するヒト抗体を意味する。抗GARPヒト抗体は、前述の方法で取得することができる。
【0141】
新たに作製されたヒト抗体が、ヒト化151D抗体又はヒト化198D抗体の結合する部分ペプチド又は部分立体構造に結合すれば、当該ヒト抗体がヒト化151D抗体又はヒト化198D抗体と同一のエピトープに結合すると判定することができる。また、ヒト化151D抗体又はヒト化198D抗体のGARPに対する結合に対して当該ヒト抗体が競合する(即ち、当該ヒト抗体がヒト化151D抗体又はヒト化198D抗体とGARPの結合を妨げる)ことを確認することによって、具体的なエピトープの配列又は構造が決定されていなくても、当該ヒト抗体がヒト化151D抗体又はヒト化198D抗体と同一のエピトープに結合すると判定することができる。エピトープが同一であることが確認された場合、当該ヒト抗体がヒト化151D抗体又はヒト化198D抗体と同等の細胞傷害活性を有していることが強く期待される。
【0142】
以上の方法によって得られたキメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体は、後述の実施例に示された方法等によって抗原に対する結合性を評価し、好適な抗体を選抜することができる。
【0143】
本発明には抗体の修飾体も含まれる。当該修飾体とは、本発明の抗体に化学的又は生物学的な修飾が施されてなるものを意味する。化学的な修飾体には、アミノ酸骨格への化学部分の結合、N-結合又はO-結合炭水化物鎖の化学修飾体等が含まれる。生物学的な修飾体には、翻訳後修飾(例えば、N-結合又はO-結合への糖鎖付加、N末又はC末のプロセッシング、脱アミド化、アスパラギン酸の異性化、メチオニンの酸化)されたもの、原核生物宿主細胞を用いて発現させることによりN末にメチオニン残基が付加したもの等が含まれる。また、本発明の抗体又は抗原の検出又は単離を可能にするために標識されたもの、例えば、酵素標識体、蛍光標識体、アフィニティ標識体もかかる修飾物の意味に含まれる。このような本発明の抗体の修飾物は、元の本発明の抗体の安定性及び血中滞留性の改善、抗原性の低減、かかる抗体又は抗原の検出又は単離等に有用である。
また、本発明の抗体に結合している糖鎖修飾を調節すること(グリコシル化、脱フコー
ス化等)によって、抗体依存性細胞傷害活性を増強することが可能である。抗体の糖鎖修飾の調節技術としては、WO99/54342、WO00/61739、WO02/31140等が知られているが、これらに限定されるものではない。本発明の抗体には当該糖鎖修飾を調節された抗体も含まれる。
【0144】
抗体遺伝子を一旦単離した後、適当な宿主に導入して抗体を作製する場合には、適当な宿主と発現ベクターの組み合わせを使用することができる。抗体遺伝子の具体例としては、本明細書に記載された抗体の重鎖配列をコードする遺伝子、及び軽鎖配列をコードする遺伝子を組み合わせたものを挙げることができる。宿主細胞を形質転換する際には、重鎖配列遺伝子と軽鎖配列遺伝子は、同一の発現ベクターに挿入されていることが可能であり、又別々の発現ベクターに挿入されていることも可能である。
真核細胞を宿主として使用する場合、動物細胞、植物細胞、真核微生物を用いることができる。特に動物細胞としては、哺乳類細胞、例えば、サルの細胞であるCOS細胞(Gluzman,Y.Cell(1981)23,p.175-182、ATCC CRL-1650)、マウス線維芽細胞NIH3T3(ATCC:No.CRL-1658)やチャイニーズ・ハムスター卵巣細胞(CHO細胞、ATCC CCL-61)のジヒドロ葉酸還元酵素欠損株(Urlaub,G.and Chasin,L.A.Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1980)77,p.4126-4220)を挙げることができる。
【0145】
原核細胞を使用する場合は、例えば、大腸菌、枯草菌を挙げることができる。
これらの細胞に目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。当該培養においては抗体の配列によって収量が異なる場合があり、同等な結合活性を持つ抗体の中から収量を指標に医薬としての生産が容易なものを選別することが可能である。よって、本発明の抗体には、上記形質転換された宿主細胞を培養する工程、及び当該工程で得られた培養物から目的の抗体を採取する工程を含むことを特徴とする当該抗体の製造方法により得られる抗体も含まれる。
なお、哺乳類培養細胞で生産される抗体の重鎖のカルボキシル末端のリジン残基が欠失することが知られており(Journal of Chromatography A,705:129-134(1995))、また、同じく重鎖カルボキシル末端のグリシン、リジンの2アミノ酸残基が欠失し、新たにカルボキシル末端に位置するプロリン残基がアミド化されることが知られている(Analytical Biochemistry,360:75-83(2007))。しかし、これらの重鎖配列の欠失及び修飾は、抗体の抗原結合能及びエフェクター機能(補体の活性化や抗体依存性細胞障害作用など)には影響を及ぼさない。従って、本発明には当該修飾を受けた抗体も含まれ、重鎖カルボキシル末端において1又は2つのアミノ酸が欠失した欠失体、及びアミド化された当該欠失体(例えば、カルボキシル末端部位のプロリン残基がアミド化された重鎖)等を挙げることができる。但し、抗原結合能及びエフェクター機能が保たれている限り、本発明に係る抗体の重鎖のカルボキシル末端の欠失体は上記の種類に限定されない。本発明に係る抗体を構成する2本の重鎖は、完全長及び上記の欠失体からなる群から選択される重鎖のいずれか一種であっても良いし、いずれか二種を組み合わせたものであっても良い。各欠失体の量比は本発明に係る抗体を産生する哺乳類培養細胞の種類及び培養条件に影響を受け得るが、本発明に係る抗体の主成分としては2本の重鎖の双方でカルボキシル末端の1つのアミノ酸残基が欠失している場合を挙げることができる。
【0146】
本発明の抗体のアイソタイプとしては、例えばIgG(IgG1、IgG2、IgG3、IgG4)等を挙げることができるが、好ましくはIgG1又はIgG2を挙げることができる。
抗体の機能としては、一般的には抗原結合活性、抗原の活性を中和する活性、抗原の活性を増強する活性、ADCC活性、抗体依存性細胞媒介食作用(ADCP)活性及び補体依存性細胞傷害(CDC)活性等を挙げることができるが、本発明に係る抗体が有する機能は、GARPに対する結合活性であり、好ましくはADCC活性であり、より好ましくはADCC活性を介したTreg機能阻害活性による細胞傷害活性(抗腫瘍活性)である。更に、本発明の抗体は、ADCC活性に加えて、ADCP活性及び/又はCDC活性を併せ持っていても良い。特に既存の抗腫瘍抗体を含有する医薬については、腫瘍細胞に直接的に働きかけ増殖シグナルを遮断すること、腫瘍細胞に直接的に働きかけ細胞死シグナルを誘導すること、血管新生を抑制すること、NK細胞を介してADCC活性を起こすこと、及び補体を介してCDC活性を誘導することにより腫瘍細胞の増殖を抑制することが報告されているが(J Clin Oncol 28:4390-4399.(2010)、Clin Cancer Res; 16(1);11-20.(2010))、本願発明に係る抗GARP抗体が有するADCP活性については、既存の抗腫瘍抗体を含有する医薬の活性として報告されていることを少なくとも本発明者らは知らない。
【0147】
本発明の抗体は、多量化して抗原に対する親和性を高めたものであってもよい。多量化する抗体としては、1種類の抗体であっても、同一の抗原の複数のエピトープを認識する複数の抗体であってもよい。抗体を多量化する方法としては、IgG CH3ドメインと2つのscFv(一本鎖抗体)との結合、ストレプトアビジンとの結合、へリックスーターン-へリックスモチーフの導入等を挙げることができる。
本発明の抗体は、アミノ酸配列が異なる複数種類の抗GARP抗体の混合物である、ポリクローナル抗体であってもよい。ポリクローナル抗体の一例としては、CDRが異なる複数種類の抗体の混合物を挙げることができる。そのようなポリクローナル抗体としては、異なる抗体を産生する細胞の混合物を培養し、当該培養物から精製された抗体を用いることが出来る(WO2004/061104号参照)。
【0148】
抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。
【0149】
本発明の抗体は、更にこれらの抗体と他の薬剤がコンジュゲートを形成しているもの(Immunoconjugate)でもよい。このような抗体の例としては、該抗体が放射性物質や薬理作用を有する化合物と結合している物を挙げることができ(Nature Biotechnology(2005)23,p.1137-1146)、例えば、インジウム(111In)カプロマブ ペンデチド(Indium(111In)Capromab pendetide)、テクネチウム(99mTc)ノフェツモマブ メルペンタン(Technetium(99mTc)Nofetumomab merpentan)、インジウム(111In)イブリツモマブ(Indium(111In)Ibritumomab)、イットリウム(90Y)イブリツモマブ(Yttrium(90Y)Ibritumomab)、ヨード(131I)トシツモマブ(Iodine(131I)Tositumomab)等を挙げることができる。
【0150】
3.抗GARP抗体を含有する医薬
上述の「2.抗GARP抗体の製造」の項に記載された方法で得られる抗体は、Tregに対して細胞傷害活性を示すことから、医薬として、特に癌及び感染症(特にマラリア及びHIV感染症)に対する治療剤として用いることができる。
【0151】
in vitroでの抗体による殺細胞活性は、細胞の増殖の抑制活性で測定することができる。
【0152】
例えば、GARPを過剰発現している癌細胞株を培養し、培養系に種々の濃度で抗体を添加し、フォーカス形成、コロニー形成及びスフェロイド増殖に対する抑制活性を測定することができる。
【0153】
in vivoでの実験動物を利用した抗体の癌に対する治療効果は、例えば、GARPを高発現している腫瘍細胞株を移植したヌードマウスに抗体を投与し、癌細胞の変化を測定することができる。
【0154】
癌の種類としては、肺癌、腎癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、多形神経膠芽腫、卵巣癌、膵癌、乳癌、メラノーマ、肝癌、膀胱癌、胃癌、食道癌、血液癌等を挙げることが
できるが、治療対象となる癌細胞がGARPを発現している限りこれらに限定されない。
【0155】
本発明の医薬組成物において許容される製剤に用いる物質としては投与量や投与濃度において、医薬組成物を投与される者に対して非毒性のものが好ましい。
【0156】
本発明の医薬組成物は、pH、浸透圧、粘度、透明度、色、等張性、無菌性、安定性、溶解率、徐放率、吸収率、浸透率を変えたり、保持したりするための製剤用の物質を含むことができる。製剤用の物質として以下のものを挙げることができるが、これらに制限されない:グリシン、アラニン、グルタミン、アスパラギン、アルギニン又はリジン等のアミノ酸類、抗菌剤、アスコルビン酸、硫酸ナトリウム又は亜硫酸水素ナトリウム等の抗酸化剤、リン酸、クエン酸、ホウ酸バッファー、炭酸水素ナトリウム、トリス-塩酸(Tris-Hcl)溶液等の緩衝剤、マンニトールやグリシン等の充填剤、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)等のキレート剤、カフェイン、ポリビニルピロリジン、β-シクロデキストリンやヒドロキシプロピル-β-シクロデキストリン等の錯化剤、グルコース、マンノース又はデキストリン等の増量剤、単糖類、二糖類等の他の炭水化物、着色剤、香味剤、希釈剤、乳化剤やポリビニルピロリジン等の親水ポリマー、低分子量ポリペプチド、塩形成対イオン、塩化ベンズアルコニウム、安息香酸、サリチル酸、チメロサール、フェネチルアルコール、メチルパラベン、プロピルパラベン、クロルヘキシジン、ソルビン酸又は過酸化水素等の防腐剤、グリセリン、プロピレン・グリコール又はポリエチレングリコール等の溶媒、マンニトール又はソルビトール等の糖アルコール、懸濁剤、ソルビタンエステル、ポリソルベート20やポリソルベート80等のポリソルベート、トリトン(triton)、トロメタミン(tromethamine)、レシチン又はコレステロール等の界面活性剤、スクロースやソルビトール等の安定化増強剤、塩化ナトリウム、塩化カリウムやマンニトール・ソルビトール等の弾性増強剤、輸送剤、賦形剤、及び/又は薬学上の補助剤。これらの製剤用の物質の添加量は、抗GARP抗体の重量に対して0.001~100倍、特に0.1~10倍添加するのが好ましい。製剤中の好適な医薬組成物の組成は当業者によって、適用疾患、適用投与経路などに応じて適宜決定することができる。
【0157】
医薬組成物中の賦形剤や担体は液体でも固体でもよい。適当な賦形剤や担体は注射用の水や生理食塩水、人工脳脊髄液や非経口投与に通常用いられている他の物質でもよい。中性の生理食塩水や血清アルブミンを含む生理食塩水を担体に用いることもできる。医薬組成物にはpH7.0-8.5のTrisバッファー、pH4.0-5.5の酢酸バッファー、pH3.0-6.2のクエン酸バッファーを含むことができる。 また、これらのバッファーにソルビトールや他の化合物を含むこともできる。
【0158】
本発明の医薬組成物には抗GARP抗体を含む医薬組成物、並びに抗GARP抗体及び少なくとも一つの癌治療剤を含む医薬組成物を挙げることができ、本発明の医薬組成物は選択された組成と必要な純度を持つ薬剤として、凍結乾燥品あるいは液体として準備される。抗GARP抗体を含む医薬組成物、並びに抗GARP抗体及び少なくとも一つの癌治療薬剤を含む医薬組成物はスクロースのような適当な賦形剤を用いた凍結乾燥品として成型されることもできる。
【0159】
上記の医薬組成物において、抗GARP抗体と共に含まれる癌治療剤は、抗GARP抗体と同時に、別々に、あるいは連続して個体に投与されても良いし、それぞれの投与間隔を変えて投与しても良い。このような癌治療剤として、abraxane、carboplatin、cisplatin、gemcitabine、irinotecan(CPT-11)、paclitaxel、pemetrexed、sorafenib、vinblastin又は国際公開第WO2003/038043号パンフレットに記載の薬剤、更にLH-RHアナログ(リュープロレリン、ゴセレリン等)、エストラムスチン・フォスフェイト、エストロジェン拮抗薬(タモキシフェン、ラロキシフェン等)、アロマターゼ阻害剤(アナストロゾール、レトロゾール、エキセメスタン等)等を挙げることができるが、抗腫瘍活性を有する薬剤であれば、上記の薬剤に限定されない。
投与対象となる個体としては、特に限定されるものではないが、好ましくは哺乳動物、さらに好ましくはヒトを挙げることができる。
【0160】
本発明の医薬組成物は非経口投与用に調製することもできるし、経口による消化管吸収用に調製することもできる。製剤の組成及び濃度は投与方法によって決定することができるし、本発明の医薬組成物に含まれる、抗GARP抗体のGARPに対する親和性、即ち、GARPに対する解離定数(Kd値)に対し、親和性が高い(Kd値が低い)ほど、ヒトへの投与量を少なくしても薬効を発揮することができるので、この結果に基づいて本発明の医薬組成物の人に対する投与量を決定することもできる。投与量は、ヒト型抗GARP抗体をヒトに対して投与する際には、約0.001~100mg/kgを1回あるいは1~180日間に1回の間隔で複数回投与すればよい。本発明の医薬組成物の形態としては、点滴を含む注射剤、坐剤、経鼻剤、舌下剤、経皮吸収剤などを挙げることができる。
【0161】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0162】
下記実施例において遺伝子操作に関する各操作は特に明示がない限り、「モレキュラークローニング(Molecular Cloning)」(Sambrook,J.,Fritsch,E.F.及びManiatis,T.著,Cold SpringHarbor Laboratory Pressより1989年発刊)に記載の方法及びその他の当業者が使用する実験書に記載の方法により行うか、又は市販の試薬やキットを用いる場合には市販品の指示書に従って行った。
【0163】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0164】
実施例1:抗体の取得
1)-1 Phage displayにおけるパニングによる抗GARP Fabの分離
n-CoDeR Fab phage library (BioInvent社)をGARPに結合するFabの分離に用いた。EZ-Link NHS-Chomogenic-Biotin試薬 (Thermo Scientific社)を用いて、GARP(R&D Systems社)をビオチン化した。液相パニングは、Dynabeads Streptavidin M-280 (Life Technologies社)にビオチン化GARPを固相化後、ファージを添加し、結合しないファージをマグネットスタンド(DynaMag-2、Life Technologies社)を用いた洗浄操作により除去した。その後、GARPに結合したファージをトリプシン(Sigma-Aldrich社)処理により回収し、大腸菌を用いてファージを増幅した。計3回のパニングを実施し、ポリクローナルなファージミドから、FabをコードするDNA断片を制限酵素で切り出し、大腸菌用の発現ベクターに載せ換えた後、大腸菌TOP10F‘(Life Technologies社)を形質転換し、IPTG(Sigma-Aldrich社)存在下でFabを発現させ、ELISAによるスクリーニングに供した。
【0165】
1)-2 ELISAによるGARP結合Fabのスクリーニング
384ウエルMaxi-sorp plate (Black、Nunc社)にPBS(0.138 M塩化ナトリウム、0.0027 M塩化カリウムを含有する0.01 M リン酸緩衝生理食塩水(pH 7.4)、Sigma-Aldrich社)で2μg/mLに希釈したGARPを50μLずつ添加し、4℃で一晩静置し固相化した。又は、384ウエルMaxi-sorp plateにPBSで1μg/mLに希釈したNeutrAvidin(Life Technologies社)を50μLずつ添加することで固相化(4℃、一晩静置)した後、ELISAバッファー(0.05% Tween-20(Bio-RAD社)を含むPBS(Sigma-Aldrich社))で3回洗浄後、ビオチン化GARPを添加(1pmol/50μL PBS/ウエル)して1時間室温で振とうした。ELISAバッファーで3回洗浄後、Blocker Casein(Thermo Scientific社)を用いてブロッキングし、さらにELISAバッファーで3回洗浄した。その後、Fabを発現させた大腸菌の培養液を添加し、室温にて1時間振とう反応させた。ELISAバッファーで3回洗浄後、2500倍希釈したHorseradish peroxidase(HRP)標識抗ヒトF(ab’)2抗体(R&D Systems社)を50μL添加し、さらに室温で1時間振とう反応させた。ELISAバッファーで3回洗浄後、SuperSignal Pico ELISA Chemiluminescent substrate(Thermo Scientific社)を添加し、10分後の化学発光をプレートリーダー(Envision 2104 Multilabel Reader、Perkin Elmer)で測定し、GARP結合Fabを分離した。
【0166】
1)-3 ELISA陽性クローンのヌクレオチド配列の決定
ELISA陽性クローン(105F、110F)の重鎖及び軽鎖可変領域のヌクレオチド配列の解析は、Dye Terminator法(BigDye(登録商標)Terminator v3.1、Life Technologies社)で実施した。配列解析に用いた主要なプライマーの配列は、以下の通りである。
【0167】
Primer A: 5’-GAA ACA GCT ATG AAA TAC CTA TTG C-3’(配列番号10)
Primer B: 5’-GCC TGA GCA GTG GAA GTC C-3’(配列番号11)
Primer C: 5' -TAG GTA TTT CAT TAT GAC TGT CTC-3’(配列番号12)
Primer D: 5’-CCC AGT CAC GAC GTT GTA AAA CG-3’(配列番号13)
【0168】
上記解析により、105F抗体及び110F抗体遺伝子の可変領域のヌクレオチド配列を決定した。
105F抗体の重鎖可変領域のヌクレオチド配列は配列表の配列番号6に示されるヌクレオチド配列の1乃至354番目のヌクレオチドからなる配列であり、軽鎖可変領域のヌクレオチド配列は配列表の配列番号7に示されるヌクレオチド配列の1乃至336番目のヌクレオチドからなる配列であった。
110F抗体の重鎖可変領域のヌクレオチド配列は配列表の配列番号8に示されるヌクレオチド配列の1乃至369番目のヌクレオチドからなる配列であり、軽鎖可変領域のヌクレオチド配列は配列表の配列番号9に示されるヌクレオチド配列の1乃至333番目のヌクレオチドからなる配列であった。
【0169】
1)-4:完全長IgG化とIgGの発現精製
105F及び110Fを含むELISA陽性クローンの完全長IgG化は以下の方法で実施した。
Fabをコードするヌクレオチド配列を決定後、上記1)-3で特定した各抗体の重鎖及び軽鎖の可変領域に相当するヌクレオチド配列を特定した。
常法により上記重鎖の可変領域のヌクレオチド配列をヒトIgG1の重鎖の定常領域(CH1
+ Fc領域:配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列の119乃至448番目のアミノ酸配列)をコードするヌクレオチド配列と連結し、また、上記軽鎖の可変領域のヌクレオチド配列をヒトIgG1の軽鎖の定常領域(CL:配列表の配列番号3に示されるアミノ酸配列の113乃至217番目のアミノ酸配列)をコードするヌクレオチド配列と連結後、pcDNA3.3(Invitrogen)等の動物細胞用発現ベクターに挿入し、動物細胞用IgG発現ベクターを構築した。
構築したIgG発現ベクターの塩基配列を再解析し、105F抗体の重鎖全長のヌクレオチド配列は配列表の配列番号6に示されるヌクレオチド配列であり、軽鎖全長のヌクレオチド配列は配列表の配列番号7に示されるヌクレオチド配列であることを確認した。
また、110F抗体の重鎖全長のヌクレオチド配列は配列表の配列番号8に示されるヌクレオチド配列であり、軽鎖全長のヌクレオチド配列は配列表の配列番号9に示されるヌクレオチド配列であることを確認した。
また、上記ヌクレオチド配列から、当該配列がコードする105F抗体の重鎖及び軽鎖全長のアミノ酸配列、並びに110F抗体の重鎖及び軽鎖全長のアミノ酸配列を決定した。
105F抗体の重鎖のアミノ酸配列は配列表の配列番号2に示されるアミノ酸配列であり、軽鎖のアミノ酸配列は配列表の配列番号3に示されるアミノ酸配列であった。
110F抗体の重鎖のアミノ酸配列は配列表の配列番号4に示されるアミノ酸配列であり、
軽鎖のアミノ酸配列は配列表の配列番号5に示されるアミノ酸配列であった。
【0170】
105F抗体又は110F抗体のIgGは、FreeStyle 293F細胞(Life Technologies社)に上記の動物細胞用IgG発現ベクターを挿入することにより一過性発現させ、必要に応じてProtein A
Affinityカラム (HiTrap Mab Select SuRe、GE Healthcare社)で精製後、vivaspin 20 (7k MWCO、GE Healthcare社)により、IgGが溶解している緩衝液をPBSに置換し、以下の工程「1)-5」に供した。
【0171】
1)-5 精製IgGを用いたELISAによるGARPへの結合確認
96ウエルMaxi-sorp plate (Black、Nunc社)にPBSで1μg/mLに希釈したヒトGARP(R&D
Systems社、型番:6055-LR)を100μLずつ添加し、4℃で一晩静置し固相化した。
ELISAバッファーで3回洗浄後、Blocker Caseinを用いて1時間室温でブロッキングし、さらにELISAバッファーで3回洗浄後、50 nMの105F抗体、50 nMの110F抗体、50 nMのヒトIgG(Jackson Immuno Research社)、50 nMのマウス抗GARP抗体(Plato-1、ENZO Life Science社)及び50 nMのマウスIgG(Jackson Immuno Research社)を100μLずつ添加し、1時間室温で振とう反応させた。
ELISAバッファーで3回洗浄後、105F抗体、110F抗体及びヒトIgG添加群には、PBSで5000倍希釈したHRP標識抗ヒトFc抗体(R&D Systems社)を、マウス抗GARP抗体とマウスIgG添加群には、PBSで5000倍希釈したHRP標識抗マウスFc抗体(R&D Systems社)を100μLずつ添加し、室温で1時間振とう反応させた。
ELISAバッファーで5回洗浄後、SuperSignal Pico ELISA Chemiluminescent substrateを0.1 mL添加し、10分後の化学発光をプレートリーダー(Envision 2104 Multilabel Reader、Perkin Elmer)で測定した。
その結果、105F抗体と110F抗体は、市販の抗GARP抗体同様に、GARPに結合することが示された(
図10)。
【0172】
実施例2:抗原遺伝子発現細胞への結合
GARP発現ベクターは、ヒトGARPのcDNAクローン(Origene社製)を購入し、常法に従いpcDNA3.1(+)ベクター(Invitrogen社)へクローニングして塩基配列を確認した。
HEK-293T細胞(ATCC:CRL-11268)へ、GARP発現ベクター及びコントロールとしてpcDNA3.1ベクターをLipofectamin2000(Invitrogen社)を用いて遺伝子導入した。10%ウシ胎児血清(FBS、Hyclone社)含有DMEM培地(Invitrogen社)中で5% CO
2の条件下37℃で一晩培養した後、TrypLE Express(Invitrogen社)処理により細胞をプレートから回収し、MACSバッファー(0.5%BSA、2mM EDTA、含有PBS、Miltenyi Biotec社)で2回洗浄後、同溶液に懸濁した。得られた細胞懸濁液へ105F抗体及びコントロールヒトIgG(ENZO Life Science社)を添加し、15分間4℃で静置した。MACSバッファーで2回洗浄後、Fluorescein isothiocyanate(FITC)標識抗IgG抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories社)を加えて懸濁し、さらに15分間4℃で静置した。再びMACSバッファーで2回洗浄後、1% PFA(Paraformaldehyde 32% 溶液(ELECTRON MICROSCOPY SCIENCES社)より調製)で細胞を固定し、フローサイトメーター(Facs Canto II:Becton Dickinson社)を用いて検出を行った。データ解析はFlowjo(TreeStar社)で行い、Horizon FVS450(Becton Dickinson社)を用いて死細胞をゲートで除外した後、生細胞のFITC蛍光強度のヒストグラムを作成した。
ベクターのみを導入したHEK-293T細胞では、105F抗体はコントロールIgG同様の蛍光強度ヒストグラムを示した。一方、GARP発現HEK-293T細胞では、コントロールIgGの蛍光強度ヒストグラムに対して105F抗体のヒストグラムが強蛍光強度側にシフトしていることを確認した(
図11)。以上の結果から、105F抗体がHEK-293T細胞に発現させたGARPに特異的に結合することが明らかになった。
【0173】
実施例3:内因性GARP発現細胞への結合
3)-1 L428細胞を用いたフローサイトメトリー解析
Alexa Fluor 647 Monoclonal antibody labeling kit (Invitrogen社)を用いて105F抗体の蛍光ラベル体を作製した。L428細胞(DSMZより入手)をMACSバッファーで2回洗浄後、同溶液に懸濁し、ラベル化105F抗体を添加して30分間4℃で静置した。MACSバッファーで2回洗浄し、1% PFAで細胞固定後にフローサイトメーター(Facs Canto II、Becton Dickinson社)を用いて検出を行った。データ解析はFlowjo(TreeStar社)で行い、Horizon FVS450を用いて死細胞をゲートで除外した後、生細胞のFITC蛍光強度のヒストグラムを作成した。L428細胞の蛍光強度ヒストグラムに対して、105F抗体を加えたヒストグラムの強蛍光強度側へのシフトを認め、105F抗体が内因性に細胞に発現しているGARPに結合することを確認した(
図12)。
【0174】
3)-2 ヒトTregを用いたフローサイトメトリー解析
健常人の末梢血単核球(PBMC)はFicoll-Paque PLUS (GE Healthcare社)を用いて 分離し、10% FBSを添加したRPMI1640培地(Invitrogen社)(以下、RP-F10培地という)を用いて、低付着性24ウエルプレート(Costar社)を用いて2×10
6 cells/mLで播種した。抗CD3抗体(BD Pharmingen社)と抗CD28抗体(BD Pharmingen社)を添加して20時間培養後、細胞をFACSバッファー(10 mM Hepes(Invtrogen社)、2 mM EDTA(Invitrogen社)、2%FBSを添加したHBSS(Invitrogen社))に懸濁し、3)-1で調製したラベル化105F抗体及びAlexa Fluor 647標識抗GARP抗体(G14D9、eBioscience社)を添加して、30分間氷中に静置した。再びFACSバッファーで細胞を洗浄後、Fixsation/Permeabilization working solution(eBioscience社)を添加しさらに30分間氷中で静置し、Permeabilization buffer(eBioscience社)を用いて細胞を洗浄後、2%ラット血清(eBioscience社)を添加した。室温にて15分間の静置後、PE標識抗Foxp3抗体(eBioscience社)を添加してさらに室温で30分間静置した。細胞洗浄後、4% Paraformaldehyde phosphate buffer solution(和光純薬社)をD-PBS(Invitrogen社)で2倍に希釈した組織固定液を添加して15分以上4℃にて静置した。FACSバッファーで細胞を洗浄後、フローサイトメーター(Facs Canto II:Becton Dickinson社)を用いて測定し、FlowJo(Tree Star社)にて解析した。その結果、105F抗体は、市販の抗GARP抗体同様に、FoxP3陽性Tregに結合することが示された(
図13)。
【0175】
実施例4.抗GARP抗体の性質
4)-1 ADCC活性
4)-1-1 エフェクター細胞の調製
健常人の新鮮末梢血よりPBMCを上記3)-2の方法により分離した。PBMCよりNK細胞をNK cell isolation kit(Miltenyi Biotec社)を用いて精製した。得られたNK細胞を100 IU/mL rhIL-2(Novartis社)を含むRP-F10培地(Invitrogen社)中で一晩馴化培養した。生細胞数をトリパンブルー色素排除試験にて計測し、生細胞密度で2×105細胞/mLになるようRP-F10培地で再懸濁しエフェクター細胞とした。
【0176】
4)-1-2 標的細胞の調製
実施例3)-1に記載したL428細胞を、10% FBS含有RPMI1640培地(Invitrogen社)中に0.6×106個に対して、Chromium-51(51Cr)を30μL(1110kBq)混合し、37℃、5%
CO2の条件下で2時間培養することで細胞をラベルした。ラベルした細胞を10% FBS含有RPMI1640培地(Invitrogen社)で3回洗浄し、RP-F10培地で4×104細胞/mLになるよう再懸濁し標的細胞とした。
【0177】
4)-1-3 51Crリリースアッセイ
アッセイ終濃度が1、10、100、1000ng/mLとなるようRP-F10培地で希釈調製した105F抗体を96ウエルU底マイクロプレート(Costar社)へ50μL/ウェルずつ分注し、標的細胞を添加(50μL/ウェル)して30分4℃にて静置した。次いで、エフェクター細胞を添
加(100μL/ウエル)し、5% CO2の条件下で4時間37℃にて培養したのち、上清50μL/ウェルをLumaPlate(PerkinElmer社)に回収し、ガンマカウンターで放出されたガンマ線量を測定した。ADCC活性による細胞溶解率は次式で算出した。
【0178】
細胞溶解率(%)=(A-B)/(C-B)×100
A:サンプルウェルのカウント
B:自然放出(抗体・エフェクター細胞非添加ウェル)カウントの平均値(n=3)。抗体添加時とエフェクター細胞添加時にそれぞれRP-F10培地を50μL、100μL添加した。それ以外はサンプルウェルと同様の操作を行った。
【0179】
C:最大放出(標的細胞を界面活性剤で溶解させたウェル)カウントの平均値(n=3)。抗体添加時にRP-F10培地を50μL、エフェクター細胞添加時にTriton-X100(Sigma社)を2%(v/v)含むRP-F10培地を100μL添加した。それ以外はサンプルウェルと同様の操作を行った。
測定結果を
図14に示す。105F抗体は、L428細胞に対して抗体濃度依存的に細胞溶解活性を示した。一方コントロールヒトIgGについては細胞溶解活性を認めなかった。このことから、105F抗体は内因性GARPを発現しているL428細胞に対してADCC活性を有することが示された。なお、特許文献1に記載の配列情報に基づき作製したヒトIgG1抗GARP抗体(MHG8及びLHG10)にはADCC活性は認められなかった。
【0180】
4)-2 Treg機能阻害活性
4)-2-1 Treg、Teff(エフェクターT細胞:CD4陽性CD25陰性ヘルパーT細胞)及びアクセサリー細胞の調製
4)-1-1同様に調製したPBMCより、CD4 T cell ISOLATION Kit(Miltenyi Biotec社)を用いてCD4陽性T細胞を分離し、FITC標識抗CD4抗体(Miltenyi Biotec社)及びAPC標識抗CD25抗体(Miltenyi Biotec社)を添加して30分間4℃で静置した。細胞洗浄後、MACSバッファーで懸濁し、FACS Aria IIu(Becton Dickinson社)を用いてCD4陽性CD25陰性細胞(Teff)及びCD4陽性CD25強陽性細胞(Treg)を分離した。
一方、PBMCからCD3 Microbeads(Miltenyi Biotec社)を用いてCD3陽性細胞を除去後、X線照射装置(日立メディコ社)を用いて照射線量1 C/kg(吸収線量38.76 Gy/kg(3876 Rad/kg))のX線を照射してアクセサリー細胞を調製した。
【0181】
4)-2-2 共培養方法とTreg機能阻害アッセイ
培養培地には、Penicillin Streptomycin(Invitrogen社)、1× MEM NEAA(Invitrogen社)、1× Sodium pyruvate(Invitrogen社)、5mM Hepes及び5% Human male AB serum(Sigma社)を含有するRPMI1640培地(Invitrogen社)を用いた。96ウエルU底マイクロプレートの各ウエルに、Teff(2000 cells/well)とアクセサリー細胞(20000 cells/well)を混合し、さらにTregを500 cells/wellとなるように添加播種した。また、Tregを添加しない群も調製した。抗CD3抗体及び抗CD28抗体、並びに105F抗体を終濃度50又は10 μg/mLで添加し、37℃、5% CO2の条件下で5日間培養した。その後、[3H]-thymidine(PerkinElmer社)を18.5 kBq/mLに調製し20 μL/ウエルずつ添加し、さらに18時間培養を継続した。セルハーベスター(Mach II、Tomtech社)を用いて細胞をFiltermat A(PerkinElmer社)に回収し、シンチレーションカウンター(MicroBeta、PerkinElmer社)を用いて各ウェルの[3H]-thymidineの細胞内取込値を1分間あたりの補正計数値(CCPM、 corrected count per minute)として計測した。
【0182】
特許文献1に記載の配列情報に基づき作製したヒトIgG1抗GARP抗体(MHG8及びLHG10)についても同様に本試験系に供した。
【0183】
4)-2-3 阻害活性の算出
各共培養条件の3ウェルの平均値を算出し、Teffのみ増殖活性値に比べて、Tregを加えた共培養系で減じられたTeff増殖活性値を「TregによるTeffに対する増殖抑制率」(=1-[共培養のCCPM/TeffのみのCCPM])とした。
抗体非添加時のTregによる抑制率に対して、それぞれの抗体を添加した際に阻害された抑制率(=[抗体非添加時の抑制率]-[各抗体添加時の抑制率])を各抗体のTreg機能の阻害活性とした。なお、当該阻害活性は、各実験に供与された検体毎に算出される結果である。
105F抗体50μg/mLのTreg機能阻害結果(阻害率72.6%)を
図15に、105F抗体、MHG-8及びLHG-10抗体の10μg/mLの結果を
図16に示す。MHG-8、LHG-10抗体にはTreg機能阻害活性が認められない(阻害率0.8%、0.0%)が、105F抗体は顕著にTreg機能を阻害(阻害率65.8%)することが示された。なお、[非特許文献10]に記載のある、GARPに対するsiRNAを導入したTregによる上記阻害率を
図5AのCD4+CD25-(Teff):Tregが4:1のグラフ値を計測して概算すると、15%程度であった。
【0184】
実施例5:ラット抗体の作製
5)-1 GARP発現ベクターの調製
GARP発現ベクターは実施例2に記載した発現ベクターを用い、大量調製には、EndoFree
Plasmid Giga Kit(QIAGEN社)を用いた。
【0185】
5)-2 ラット免疫
免疫にはWKY/Izmラットの雌 (日本エスエルシー社) を使用した。まずラット両足下腿部をHyaluronidase (SIGMA-ALDRICH社) にて前処理後、同部位にGARP発現ベクターを筋注した。続けて、ECM830 (BTX社) を使用し、2ニードル電極を用いて、同部位にインビボエレクトロポレーションを実施した。二週間に一度、同様のインビボエレクトロポーレーションを繰り返した後、ラットのリンパ節又は脾臓を採取しハイブリドーマ作製に用いた。
【0186】
5) -3 ハイブリドーマの作製
リンパ節若しくは脾臓細胞とマウスミエローマSP2/0-ag14細胞 (ATCC, No.CRL-1581) とをLF301 Cell Fusion Unit (BEX社) を用いて電気細胞融合し、ClonaCell-HY Selection Medium D (StemCell Technologies社) に希釈して培養した。出現したハイブリドーマコロニーを回収することでモノクローンハイブリドーマを作製した。回収された各ハイブリドーマコロニーを培養し、得られたハイブリドーマ培養上清を用いて抗GARP抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングを行った。
【0187】
5)-4 Cell-ELISA法による抗体スクリーニング
5)-4-1 Cell-ELISA用抗原遺伝子発現細胞の調製
293α細胞 (インテグリンαv及びインテグリンβ3を発現するHEK-293細胞(ATCC:CRL-1573)由来の安定発現細胞株) を10% FBS含有DMEM培地(Invitrogen社)中7.5×105細胞/mLになるよう調製した。それに対し、Lipofectamine 2000 (Life Technologies社) を用いた形質移入手順に従い、GARP発現ベクター又は陰性コントロールとしてpcDNA3.1(+)ベクターを導入し、96-Half area well plate (Corning社) に50 μlずつ分注し、10% FBS含有DMEM培地中で37°C、5% CO2の条件下で24から27時間培養した。得られた導入細胞を接着状態のまま、Cell-ELISAに使用した。
【0188】
5)-4-2 Cell-ELISA
実施例5)-4-1で調製した発現ベクター導入293α細胞の培養上清を除去後、GARP発現ベクター又はpcDNA3.1(+)ベクター導入293α細胞のそれぞれに対しハイブリドーマ培養上清を添加し、4°Cで1時間静置した。well中の細胞を5% FBS含有PBS (+) で1回洗浄後、5% FBS含有PBS (+) で500倍に希釈したAnti-Rat IgG-Peroxidase antibody produced in rabbit (SIGMA社) を加えて、4°Cで1時間静置した。well中の細胞を5% FBS含有PBS (+) で3回洗浄した後、OPD発色液 (OPD溶解液 (0.05 M クエン酸3ナトリウム、0.1M リン酸水素2ナトリウム・12水 pH4.5) にo-フェニレンジアミン二塩酸塩 (和光純薬社)、H2O2をそれぞれ0.4mg/ml、0.6% (v/v) になるように溶解) を50μl/wellで添加した。時々攪拌しながら発色反応を行い、1M HClを50μl/wellで添加して発色反応を停止させた後、プレートリーダー (ENVISION:PerkinElmer社) で490nmの吸光度を測定した。細胞膜表面上に発現するヒトGARPに特異的に結合する抗体を産生するハイブリドーマを選択するため、コントロールのpcDNA3.1(+)導入293α細胞と比較しGARP発現ベクター導入293α細胞の方でより高い吸光度を示す培養上清を産生するハイブリドーマを抗ヒトGARP抗体産生陽性として選択した。
【0189】
5)-5 フローサイトメトリー法による抗体スクリーニング
5)-5-1 フローサイトメトリー解析用抗原遺伝子発現細胞の調製
HEK-293T細胞(ATCCより入手)を5×104細胞/cm2になるよう225 cm2フラスコ (住友ベークライト社) に播種し、10% FBS含有DMEM培地中で37°C、5% CO2の条件下で一晩培養した。翌日、GARP発現ベクター、陰性コントロールとしてpcDNA3.1(+)ベクターをそれぞれHEK-293T細胞にLipofectamine 2000を用いて導入し、37°C、5% CO2の条件下でさらに一晩培養した。翌日、発現ベクター導入HEK-293T細胞をTrypLE Express (Life Technologies社) で処理し、10% FBS含有DMEM培地で細胞を洗浄した後、5% FBS含有PBSに懸濁した。得られた細胞懸濁液をフローサイトメトリー解析に使用した。
【0190】
5)-5-2 フローサイトメトリー解析
実施例5)-4-2のCell-ELISAで陽性と判定されたハイブリドーマが産生する抗体のヒトGARPに対する結合特異性をフローサイトメトリー解析によりさらに確認した。
実施例5)-5-1で調製した一過性発現HEK-293T細胞の懸濁液を遠心し、上清を除去した後、それぞれに対しハイブリドーマ培養上清を加えて懸濁し、4°Cで1時間静置した。5% FBS含有PBSで2回洗浄した後、5% FBS含有PBSで500倍に希釈したAnti-Rat IgG FITC conjugate (SIGMA社製) を加えて懸濁し、4°Cで1時間静置した。5% FBS含有PBSで2回洗浄した後、2μg/ml 7-aminoactinomycin D (Molecular Probes社) を含む5% FBS含有PBSに再懸濁し、フローサイトメーター (FC500:BeckmanCoulter社製) で検出を行った。データ解析はFlowjo (TreeStar社製) で行った。7-aminoactinomycin D陽性の死細胞をゲートで除外した後、生細胞のFITC蛍光強度のヒストグラムを作成した。コントロールであるpcDNA3.1ベクター導入HEK-293T細胞の蛍光強度ヒストグラムに対しGARP発現ベクター導入HEK-293T細胞のヒストグラムが強蛍光強度側にシフトしている抗体を産生するハイブリドーマをヒトGARPに結合する抗体産生ハイブリドーマとして(113クローン)選択した。
【0191】
5)-6 モノクローナル抗体の調製
5)-6-1 ハイブリドーマ151D、198Dの培養
5) -5-2で取得されたラット抗ヒトGARP抗体産生ハイブリドーマの中から、ヒトGARPに強く結合することが示唆された151D、198Dを選抜した。
ラット抗GARPモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ培養上清から精製した。
まず、ラット抗GARPモノクローナル抗体産生ハイブリドーマをClonaCell-HY Selection
Medium Eで十分量まで増殖させ、Ultra Low IgG FBS (Life Technologies社) を20%添加したHybridoma SFM (Life Technologies社) に培地交換した後、8~9×107細胞のハイブリドーマを1272 cm2フラスコ (Corning社) に播種し7日間培養した。本培養上清を遠心により回収し0.8 μmのフィルターを通した後、さらに0.45μmのフィルター(Corning社) を通して滅菌した。
【0192】
5)-6-2 モノクローナル抗体の精製
実施例5)-6-1で調製したハイブリドーマの培養上清から抗体をProtein Gアフィニティークロマトグラフィーで精製した。Protein Gカラム (GE Healthcare Bioscience社)
に抗体を吸着させ、PBSでカラムを洗浄後に0.1M グリシン/塩酸水溶液 (pH2.7) で溶出した。溶出液に1M Tris-HCl (pH9.0) を加えてpH7.0~7.5に調整した後に、透析 (Thermo
Scientific社、Slide-A-Lyzer Dialysis Cassette) によりPBSへのバッファー置換を行った。Centrifugal UF Filter Device VIVASPIN20 (分画分子量UF30K、Sartorius社) で抗体を濃縮し、抗体濃度を0.7mg/mL 以上に調製した。最後にMinisart-Plus filter (Sartorius社) でろ過し、精製サンプルとした。
【0193】
実施例6 ラット抗体のクローニングとヒトキメラ 抗体の作製
6)-1 ラット抗体151DのcDNAのクローニングと配列の決定
6) -1-1 151D産生ハイブリドーマからのtotal RNAの調製
151Dの可変領域を含むcDNAを増幅するため、151D産生ハイブリドーマよりTRIzol Reagent (Ambion社) を用いてtotal RNAを調製した。
【0194】
6)-1-2 5’-RACE PCRによる151Dの重鎖可変領域を含むcDNAの増幅と配列の決定
重鎖可変領域を含むcDNAの増幅は、実施例6)-1-1で調製したtotal RNAの約1μgとSMARTer RACE cDNA Amplification Kit (Clontech社) を用いて実施した。
151Dの重鎖遺伝子の可変領域のcDNAをPCRで増幅するためのプライマーとして、UPM (Universal Primer A Mix:SMARTer RACE cDNA Amplification Kitに付属)、及び公知のラット重鎖の定常領域の配列から設計したプライマーを用いた。
5’-RACE PCRで増幅した重鎖の可変領域を含むcDNAをプラスミドにクローニングし、次に重鎖の可変領域のcDNAのヌクレオチド配列のシークエンス解析を実施した。
決定された151Dの重鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号14に示し、アミノ酸配列を配列番号15に示した。
【0195】
6)-1-3 5’-RACE PCRによる151Dの軽鎖可変領域を含むcDNAの増幅と配列の決定
実施例6)-1-2と同様の方法で実施した。ただし、151Dの軽鎖遺伝子の可変領域のcDNAをPCRで増幅するためのプライマーとして、UPM (Universal Primer A Mix:SMARTer RACE cDNA Amplification Kitに付属)、及び公知のラット軽鎖の定常領域の配列から設計したプライマーを用いた。
決定された151Dの軽鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号16に示し、アミノ酸配列を配列番号17に示した。
【0196】
6)-2 ラット抗体198DのcDNAのクローニングと配列の決定
実施例6-1と同様の方法で配列を決定した。
決定された198Dの重鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号18に示し、アミノ酸配列を配列番号19に示した。軽鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列を配列番号20に示し、アミノ酸配列を配列番号21に示した。
【0197】
6)-3 ヒトキメラ抗体発現ベクターの作製
6)-3-1 ヒトキメラ軽鎖発現ベクターpCMA-LKの構築
プラスミドpcDNA3.3-TOPO/LacZ (Invitrogen社) を制限酵素XbaI及びPmeIで消化して得られる約5.4kbのフラグメントと、配列番号22に示すヒト軽鎖シグナル配列及びヒトκ鎖定常領域をコードするDNA配列を含むDNA断片をIn-Fusion Advantage PCRクローニングキット (CLONTECH社) を用いて結合して、pcDNA3.3/LKを作製した。
pcDNA3.3/LKからネオマイシン発現ユニットを除去することによりpCMA-LKを構築した。
【0198】
6)-3-2 ヒトキメラIgG1タイプ重鎖発現ベクターpCMA-G1の構築
pCMA-LKをXbaI及びPmeIで消化して軽鎖シグナル配列及びヒトκ鎖定常領域を取り除いたDNA断片と、配列番号23で示されるヒト重鎖シグナル配列及びヒトIgG1定常領域のアミノ酸をコードするDNA配列を含むDNA断片をIn-Fusion Advantage PCRクローニングキット
(CLONTECH社) を用いて結合して、pCMA-G1を構築した。
【0199】
6)-3-3 ヒトキメラ151D重鎖発現ベクターの構築
実施例6-1で得られたラット抗体151D重鎖の可変領域をコードするcDNAをテンプレートとして、In-fusionクローニング用に設計したプライマーでPCRを行うことにより重鎖の可変領域をコードするcDNAを含むDNA断片を増幅した。pCMA-G1を制限酵素BIpIで切断した箇所に、In-Fusion HD PCRクローニングキット (Clontech社) を用いて、増幅したDNA断片を挿入することによりヒトキメラ151D重鎖発現ベクターを構築した。
ヒトキメラ151D重鎖のヌクレオチド配列及び該重鎖のアミノ酸配列を、配列番号24及び配列番号25にそれぞれ示す。
【0200】
6)-3-4 ヒトキメラ151D軽鎖発現ベクターの構築
実施例6)-1で得られた151軽鎖の可変領域をコードするcDNAをテンプレートとして、In-fusionクローニング用に設計したプライマーでPCRを行うことにより軽鎖の可変領域をコードするcDNAを含むDNA断片を増幅した。pCMA-LKを制限酵素BsiWIで切断した箇所に、In-Fusion HD PCRクローニングキット (Clontech社) を用いて、増幅したDNA断片を挿入することによりヒトキメラ151D軽鎖発現ベクターを構築した。
ヒトキメラ151D軽鎖のヌクレオチド配列及び該軽鎖のアミノ酸配列を、配列番号26及び配列番号27にそれぞれ示す。
【0201】
6)-3-5 ヒトキメラ198D重鎖発現ベクターの構築
実施例6)-2で得られたラット抗体198D重鎖の可変領域をコードするcDNAをテンプレートとして、実施例6)-3-3と同様の方法でヒトキメラ198D重鎖発現ベクターを構築した。
ヒトキメラ198D重鎖のヌクレオチド配列及び該重鎖のアミノ酸配列を、配列番号28及び配列番号29にそれぞれ示す。
【0202】
6)-3-6 ヒトキメラ198D軽鎖発現ベクターの構築
実施例6)-2で得られた198D軽鎖の可変領域をコードするcDNAをテンプレートとして、実施例6)-3-4と同様の方法でヒトキメラ198D軽鎖発現ベクターを構築した。
ヒトキメラ198D軽鎖のヌクレオチド配列及び該軽鎖のアミノ酸配列を、配列番号30及び配列番号31にそれぞれ示す。
【0203】
6)-4 ヒトキメラ抗体の調製
6)-4-1 ヒトキメラ抗体の生産
FreeStyle 293F細胞 (Invitrogen社) はマニュアルに従い、継代、培養をおこなった。対数増殖期の1×108個のFreeStyle 293F細胞 (Invitrogen社) を250 mL Fernbach Erlenmeyer Flask (CORNING社) に播種し、FreeStyle293 expression medium (Invitrogen社) で希釈して2.0×106細胞/mLに調製した。
5 mLのOpti-Pro SFM培地 (Invitrogen社) に20μgの重鎖発現ベクターと30μgの軽鎖発現ベクターと150μgのPolyethyleneimine (Polyscience #24765) を加えて穏やかに攪拌し、さらに5分間放置した後にFreeStyle 293F細胞に添加した。
37℃、8% CO2インキュベーターで4時間、125rpmで振とう培養後に50mLのEX-CELL VPRO培地 (SAFC Biosciences社)、0.36mLのGlutaMAX I (GIBCO社)、及び2.5mLのYeastolate Ultrafiltrate (GIBCO社) を添加し、37℃、8%CO2インキュベーターで7日間、125rpmで振とう培養して得られた培養上清を250mL Filter System (CORNING社 #431096) でろ過した。
ヒトキメラ151D重鎖発現ベクターとヒトキメラ151D軽鎖発現ベクターの組み合わせで取得されたヒトキメラ151D抗体を「c151D」 と命名し、ヒトキメラ198D重鎖発現ベクターとヒトキメラ198D軽鎖発現ベクターの組み合わせで取得されたヒトキメラ198D抗体を「c198
D」と命名した。
【0204】
6)-4-2 キメラ抗体の精製
実施例6)-4-1で得られた培養上清をrProtein Aアフィニティークロマトグラフィーの1段階工程で精製した。培養上清をPBSで平衡化したMabSelectSuReが充填されたカラム (GE Healthcare Bioscience社製) にアプライしたのちに、カラム容量の2倍以上のPBSでカラムを洗浄した。次に2Mアルギニン塩酸塩溶液 (pH4.0) で溶出し、抗体の含まれる画分を集めた。当該画分をCentrifugal UF Filter Device VIVASPIN20 (分画分子量UF30K、Sartorius社) にてPBSへのバッファー置換を行うとともに抗体の濃縮を行い、抗体濃度を1 mg/mL 以上に調製した。最後にMinisart-Plus filter (Sartorius社) でろ過し、精製サンプルとした。
【0205】
6)-5 ヒトキメラ抗体のヒトGARPに対する結合性評価
実施例6)-4で作製したc151D及びc198DとヒトGARPとの解離定数測定は、Biacore T200 (GE Healthcare Bioscience社製) を使用し、固定化したProtein Aに抗体をリガンドとして捕捉 (キャプチャー) し、抗原(リコンビナントヒトGARP:R&D Systems社)をアナライトとして測定するキャプチャー法にて行った。ランニングバッファーとしてHBS-EP+ (GE Healthcare Bioscience社製)、センサーチップとしてProtein Aセンサーチップ(GEヘルスケアバイオサイエンス (株) ) を用いた。
チップ上に1μg/mLのヒトキメラ化抗体を10μL/minで20秒間添加した後、抗原の希釈系列溶液 (8~128nM) を流速30μl/分で120秒間添加し、引き続き480秒間の解離相をモニターした。再生溶液として、Glycine 1.5 (GE Healthcare Bioscience社製) を流速20μl/分で30秒間添加した。
データの解析には1:1結合モデルを用いて、結合速度定数ka、解離速度定数kd及び解離定数(KD;KD=kd/ka) を算出した。
結果を表1に示す。
【0206】
表1 c151D及びc198DとヒトGARPとの解離定数
【0207】
【0208】
実施例7 ヒト化抗体の作製
7)-1 c151D抗体の可変領域の分子モデリング
c151D抗体の可変領域の分子モデリングは、相同性モデリングとして一般的に公知の方法 (Methods in Enzymology,203,121-153,(1991)) によって実行された。
Protein Data Bank (Nuc.Acid Res.28,235-242 (2000) ) に登録されるヒト免疫グロブリンの可変領域の1次配列 (X線結晶構造から誘導される三次元構造が入手可能である) を、c151D抗体の可変領域と比較した。
可変領域の三次元構造は、c151D抗体の重鎖及び軽鎖並びにそれら界面に対して高い配列相同性を有するモデルの座標を組み合わせ、「フレームワークモデル」を得ることによって作製された。
次いで、それぞれのCDRについての代表的なコンホメーションがフレームワークモデルに組み込まれた。
最後に、エネルギーの点で不利な原子間接触を除くためのエネルギー最小化計算を行った。上記手順は、Discovery Studio (ダッソー・システムズ(株)) を使用して行った。
【0209】
7)-2 ヒト化151D抗体に対するアミノ酸配列の設計
ヒト化151D抗体の構築を、CDRグラフティング (Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,10029-10033 (1989) ) として一般的に公知の方法によって行った。アクセプター抗体は、フレームワーク領域内のアミノ酸相同性に基づいて選択された。
c151D抗体のフレームワーク領域の配列を、ヒトのサブグループ・コンセンサス配列のフレームワーク領域と比較した。結果として、KABAT et al. (Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service National Institutes of Health, Bethesda,MD. (1991) ) において既定されたヒトγ鎖サブグループ3のコンセンサス配列とヒトκ鎖サブグループ1及びヒトκ鎖サブグループ4のコンセンサス配列が、そのフレームワーク領域において高い配列相同性に有することに起因して、アクセプターとして選択された。
ヒトγ鎖サブグループ3のコンセンサス配列とヒトκ鎖サブグループ1及びヒトκ鎖サブグループ4のコンセンサス配列についてのフレームワーク領域のアミノ酸残基を、c151D抗体についてのアミノ酸残基と整列させ、異なるアミノ酸が使用される位置を同定した。これらの残基の位置は、上記7)-1で構築されたc151D抗体の三次元モデルを使用して分析され、そしてアクセプター上にグラフティングされるべきドナー残基が、Queen et al. (Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,10029-10033 (1989) ) によって与えられる基準によって選択された。
選択された幾つかのドナー残基をアクセプター抗体に移入することによって、ヒト化h151Dの配列を以下の実施例に記載されるように構築した。
【0210】
7)-3ヒト化151D重鎖h151D-Hの設計
7)-3-1h151D-H1タイプ重鎖
配列表の配列番号25に示されるc151D重鎖のアミノ酸番号35番目のアルギニン残基をグリシン残基に、37番目のリシン残基をロイシン残基に、38番目のリシン残基をアルギニン残基に、42番目のセリン残基をアラニン残基に、61番目のトレオニン残基をグリシン残基に、62番目のグルタミン残基をリシン残基に、68番目のアラニン残基をセリン残基に、80番目のアルギニン残基をアラニン残基に、94番目のアラニン残基をセリン残基に、96番目のセリン残基をアスパラギン残基に、103番目のアスパラギン酸残基をアスパラギン残基に、107番目のセリン残基をアラニン残基に、112番目のトレオニン残基をバリン残基に、130番目のバリン残基をトレオニン残基に、131番目のメチオニン残基をロイシン残基に置き換えることを伴い設計されたヒト化151D重鎖を「h151D-H1タイプ重鎖」と命名した。
h151D-H1タイプ重鎖をコードするヌクレオチド配列(配列番号32)において、シグナル配列が切除された成熟重鎖をコードするのはヌクレオチド番号58乃至1398からなるヌクレオチド配列であり、可変領域をコードするのはヌクレオチド番号58乃至408からなるヌクレオチド配列であり、定常領域をコードするのはヌクレオチド番号409乃至1398からなるヌクレオチド配列である。当該可変領域は、配列表の配列番号32において、CDRH1をコードするヌクレオチド番号133乃至162からなるヌクレオチド配列、CDRH2をコードするヌクレオチド番号205乃至234からなるヌクレオチド配列及びCDRH3をコードするヌクレオチド番号352乃至375からなるヌクレオチド配列を有する。
また、h151D-H1タイプ重鎖のアミノ酸配列(配列番号33)において、シグナル配列が切除された成熟重鎖はアミノ酸番号20乃至466からなるアミノ酸配列であり、可変領域はアミノ酸番号20乃至136からなるアミノ酸配列であり、定常領域はアミノ酸番号137乃至466からなるアミノ酸配列である。当該可変領域は、配列表の配列番号33において、アミノ酸番号45乃至54に記載のアミノ酸配列からなるCDRH1、アミノ酸番号69乃至78に記載のアミノ酸配列からなるCDRH2及びアミノ酸番号118乃至125に記載のアミノ酸配列からなるCDRH3を有する。
更に、配列番号32及び33の配列は、それぞれ
図31及び21にも記載されている。
【0211】
7)-3-2 h151D_H4タイプ重鎖
配列表の配列番号25に示されるc151D重鎖のアミノ酸番号35番目のアルギニン残基をグリシン残基に、37番目のリシン残基をロイシン残基に、38番目のリシン残基をアルギニン残基に、42番目のセリン残基をアラニン残基に、61番目のトレオニン残基をグリシン残基に、62番目のグルタミン残基をリシン残基に、94番目のアラニン残基をセリン残基に、103番目のアスパラギン酸残基をアスパラギン残基に、107番目のセリン残基をアラニン残基に、112番目のトレオニン残基をバリン残基に、130番目のバリン残基をトレオニン残基に、131番目のメチオニン残基をロイシン残基に置き換えることを伴い設計されたヒト化151D重鎖を「h151D_H4タイプ重鎖」と命名した。
h151D-H4タイプ重鎖をコードするヌクレオチド配列(配列番号34)において、シグナル配列が切除された成熟重鎖をコードするのはヌクレオチド番号58乃至1398からなるヌクレオチド配列であり、可変領域をコードするのはヌクレオチド番号58乃至408からなるヌクレオチド配列であり、定常領域をコードするのはヌクレオチド番号409乃至1398からなるヌクレオチド配列である。当該可変領域は、配列表の配列番号34において、CDRH1をコードするヌクレオチド番号133乃至162からなるヌクレオチド配列、CDRH2をコードするヌクレオチド番号205乃至234からなるヌクレオチド配列及びCDRH3をコードするヌクレオチド番号352乃至375からなるヌクレオチド配列を有する。
また、h151D-H4タイプ重鎖のアミノ酸配列(配列番号35)において、シグナル配列が切除された成熟重鎖はアミノ酸番号20乃至466からなるアミノ酸配列であり、可変領域はアミノ酸番号20乃至136からなるアミノ酸配列であり、定常領域はアミノ酸番号137乃至466からなるアミノ酸配列である。当該可変領域は、配列表の配列番号35において、アミノ酸番号45乃至54に記載のアミノ酸配列からなるCDRH1、アミノ酸番号69乃至78に記載のアミノ酸配列からなるCDRH2及びアミノ酸番号118乃至125に記載のアミノ酸配列からなるCDRH3を有する。
更に、配列番号34及び35の配列は、それぞれ
図33及び23にも記載されている。
【0212】
7)-4ヒト化151D軽鎖h151D_Lの設計
7)-4-1h151D-L1タイプ軽鎖
配列表の配列番号27に示されるc151D軽鎖のアミノ酸番号29番目のトレオニン残基をアスパラギン酸残基に、31番目のメチオニン残基をロイシン残基に、32番目のフェニルアラニン残基をアラニン残基に、33番目のイソロイシン残基をバリン残基に、35番目のバリン残基をロイシン残基に、37番目のアスパラギン酸残基をグルタミン酸残基に、39番目のバリン残基をアラニン残基に、41番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に、60番目のトレオニン残基をプロリン残基に、83番目のトレオニン残基をセリン残基に、97番目のアスパラギン残基をセリン残基に、98番目のメチオニン残基をロイシン残基に、103番目のロイシン残基をバリン残基に、120番目のトレオニン残基をグルタミン残基に、124番目のロイシン残基をバリン残基に、126番目のロイシン残基をイソロイシン残基に、127番目のアスパラギン残基をリシン残基に、129番目のアラニン残基をトレオニン残基に置き換えることを伴い設計されたヒト化151D軽鎖を「h151D_L1タイプ軽鎖」と命名した。
h151D-L1タイプ軽鎖をコードするヌクレオチド配列(配列番号36)において、シグナル配列が切除された成熟軽鎖をコードするのはヌクレオチド番号61乃至702からなるヌクレオチド配列であり、可変領域をコードするのはヌクレオチド番号61乃至387からなるヌクレオチド配列であり、定常領域をコードするのはヌクレオチド番号388乃至702からなるヌクレオチド配列である。当該可変領域は、配列表の配列番号36において、CDRL1をコードするヌクレオチド番号130乃至162からなるヌクレオチド配列、CDRL2をコードするヌクレオチド番号208乃至228からなるヌクレオチド配列及びCDRL3をコードするヌクレオチド番号325乃至351からなるヌクレオチド配列を有する。
また、h151D_L1タイプ軽鎖のアミノ酸配列(配列番号37)において、シグナル配列が切
除された成熟軽鎖はアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列であり、可変領域はアミノ酸番号21乃至129からなるアミノ酸配列であり、定常領域はアミノ酸番号130乃至234からなるアミノ酸配列である。当該可変領域は、配列表の配列番号37において、アミノ酸番号44乃至54に記載のアミノ酸配列からなるCDRL1、アミノ酸番号70乃至76に記載のアミノ酸配列からなるCDRL2及びアミノ酸番号109乃至117に記載のアミノ酸配列からなるCDRL3を有する。
更に、配列番号36及び37の配列は、それぞれ
図32及び22にも記載されている。
【0213】
7)-4-2h151D-L4タイプ軽鎖:
配列表の配列番号27に示されるc151D軽鎖のアミノ酸番号29番目のトレオニン残基をセリン残基に、31番目のメチオニン残基をロイシン残基に、32番目のフェニルアラニン残基をセリン残基に、33番目のイソロイシン残基をアラニン残基に、41番目のメチオニン残基をイソロイシン残基に、60番目のトレオニン残基をプロリン残基に、62番目のグルタミン残基をリシン残基に、83番目のトレオニン残基をセリン残基に、97番目のアスパラギン残基をセリン残基に、98番目のメチオニン残基をロイシン残基に、100番目のアラニン残基をプロリン残基に、103番目のロイシン残基をフェニルアラニン残基に、105番目のバリン残基をトレオニン残基に、120番目のトレオニン残基をグルタミン残基に、124番目のロイシン残基をバリン残基に、126番目のロイシン残基をイソロイシン残基に、127番目のアスパラギン残基をリシン残基に、129番目のアラニン残基をトレオニン残基に置き換えることを伴い設計されたヒト化151D軽鎖を「h151D-L4タイプ軽鎖」と命名した。
【0214】
h151D-L4タイプ軽鎖をコードするヌクレオチド配列(配列番号38)において、シグナル配列が切除された成熟軽鎖をコードするのはヌクレオチド番号61乃至702からなるヌクレオチド配列であり、可変領域をコードするのはヌクレオチド番号61乃至387からなるヌクレオチド配列であり、定常領域をコードするのはヌクレオチド番号388乃至702からなるヌクレオチド配列である。当該可変領域は、配列表の配列番号38において、CDRL1をコードするヌクレオチド番号130乃至162からなるヌクレオチド配列、CDRL2をコードするヌクレオチド番号208乃至228からなるヌクレオチド配列及びCDRL3をコードするヌクレオチド番号325乃至351からなるヌクレオチド配列を有する。
また、h151D-L4タイプ軽鎖のアミノ酸配列(配列番号39)において、シグナル配列が切除された成熟軽鎖はアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列であり、可変領域はアミノ酸番号21乃至129からなるアミノ酸配列であり、定常領域はアミノ酸番号130乃至234からなるアミノ酸配列である。当該可変領域は、配列表の配列番号39において、アミノ酸番号44乃至54に記載のアミノ酸配列からなるCDRL1、アミノ酸番号70乃至76に記載のアミノ酸配列からなるCDRL2及びアミノ酸番号109乃至117に記載のアミノ酸配列からなるCDRL3を有する。
更に、配列番号38及び39の配列は、それぞれ
図34及び24にも記載されている。
【0215】
7)-5c198Dの可変領域の分子モデリング
c198D抗体の可変領域の分子モデリングは、相同性モデリングとして一般的に公知の方法 (Methods in Enzymology,203,121-153, (1991) ) によって実行された。Protein Data Bank (Nuc.Acid Res.28,235-242 (2000) ) に登録されるヒト免疫グロブリンの可変領域の1次配列 (X線結晶構造から誘導される三次元構造が入手可能である) を、c198D抗体の可変領域と比較した。
可変領域の三次元構造は、c198D抗体の重鎖及び軽鎖並びにそれら界面に対して高い配列相同性を有するモデルの座標を組み合わせ、「フレームワークモデル」を得ることによって作製された。
次いで、それぞれのCDRについての代表的なコンホメーションがフレームワークモデルに組み込まれた。
最後に、エネルギーの点で不利な原子間接触を除くためのエネルギー最小化計算を行っ
た。上記手順は、Discovery Studio (ダッソー・システムズ (株)) を使用して行った。
【0216】
7)-6 ヒト化198Dに対するアミノ酸配列の設計
ヒト化198D抗体の構築を、CDRグラフティング (Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,10029-10033 (1989) ) として一般的に公知の方法によって行った。アクセプター抗体は、フレームワーク領域内のアミノ酸相同性に基づいて選択された。
c198D抗体のフレームワーク領域の配列を、ヒトのサブグループ・コンセンサス配列のフレームワーク領域と比較した。結果として、KABAT et al. (Sequences of Proteins of
Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service National Institutes of Health, Bethesda,MD. (1991)) において既定されたヒトγ鎖サブグループ2のコンセンサス配列とヒトκ鎖サブグループ1のコンセンサス配列が、そのフレームワーク領域において高い配列相同性に有することに起因して、アクセプターとして選択された。また、重鎖の一部の残基には、ヒトγ鎖サブグループ3のコンセンサス配列の残基を移入した。
一部ヒトγ鎖サブグループ3のコンセンサス配列を含むヒトγ鎖サブグループ2のコンセンサス配列とヒトκ鎖サブグループ1のコンセンサス配列についてのフレームワーク領域のアミノ酸残基を、c198D抗体についてのアミノ酸残基と整列させ、異なるアミノ酸が使用される位置を同定した。これらの残基の位置は、上記7)-5で構築されたc198D抗体の三次元モデルを使用して分析され、そしてアクセプター上にグラフティングされるべきドナー残基が、Queen et al. (Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,10029-10033 (1989) ) によって与えられる基準によって選択された。
選択された幾つかのドナー残基をアクセプター抗体に移入することによって、ヒト化h198Dの配列を以下の実施例に記載されるように構築した。
【0217】
7)-7ヒト化198D重鎖h198D-Hの設計
7)-7-1h198D-H3タイプ重鎖
配列表の配列番号29に示されるc198D重鎖のアミノ酸番号20番目のグルタミン残基をグルタミン酸残基に、24番目のアルギニン残基をバリン残基に、28番目のプロリン残基をグリシン残基に、32番目のグルタミン残基をリシン残基に、61番目のグルタミン酸残基をグリシン残基に、80番目のセリン残基をプロリン残基に、81番目のアラニン残基をセリン残基に、86番目のロイシン残基をバリン残基に、87番目のセリン残基をトレオニン残基に、95番目のセリン残基をアスパラギン残基に、98番目のフェニルアラニン残基をセリン残基に、101番目のメチオニン残基をロイシン残基に、103番目のトレオニン残基をセリン残基に、104番目のロイシン残基をバリン残基に、105番目のグルタミン残基をトレオニン残基に、106番目のトレオニン残基をアラニン残基に、107番目のグルタミン酸残基をアラニン残基に、111番目のメチオニン残基をバリン残基に、113番目のフェニルアラニン残基をチロシン残基に、133番目のアラニン残基をトレオニン残基に、134番目のセリン残基をロイシン残基に置き換えることを伴い設計されたヒト化198D重鎖を「h198D_H3タイプ重鎖」と命名した。
【0218】
h198D-H3タイプ重鎖をコードするヌクレオチド配列(配列番号40)において、シグナル配列が切除された成熟重鎖をコードするのはヌクレオチド番号58乃至1407からなるヌクレオチド配列であり、可変領域をコードするのはヌクレオチド番号58乃至417からなるヌクレオチド配列であり、定常領域をコードするのはヌクレオチド番号418乃至1407からなるヌクレオチド配列である。当該可変領域は、配列表の配列番号40において、CDRH1をコードするヌクレオチド番号130乃至162からなるヌクレオチド配列、CDRH2をコードするヌクレオチド番号205乃至231からなるヌクレオチド配列及びCDRH3をコードするヌクレオチド番号349乃至384からなるヌクレオチド配列を有する。
また、h198D-H3タイプ重鎖のアミノ酸配列(配列番号41)において、シグナル配列が切除された成熟重鎖はアミノ酸番号20乃至469からなるアミノ酸配列であり、可変領域はアミノ酸番号20乃至139からなるアミノ酸配列であり、定常領域はアミノ酸番号140乃至469
からなるアミノ酸配列である。
更に、配列番号40及び41の配列は、それぞれ
図35及び25にも記載されている。
【0219】
7)-8ヒト化198D軽鎖h198D-Lの設計
7)-8-1h198D-L4タイプ軽鎖
配列表の配列番号31に示されるc198D軽鎖のアミノ酸番号29番目のアラニン残基をセリン残基に、33番目のグリシン残基をアラニン残基に、35番目のロイシン残基をバリン残基に、37番目のグルタミン酸残基をアスパラギン酸残基に、38番目のトレオニン残基をアルギニン残基に、42番目のグルタミン残基をトレオニン残基に、65番目のグルタミン残基をリシン残基に、85番目のグリシン残基をセリン残基に、92番目のセリン残基をトレオニン残基に、94番目のリシン残基をトレオニン残基に、98番目のメチオニン残基をロイシン残基に、100番目のトレオニン残基をプロリン残基に、103番目のグルタミン酸残基をフェニルアラニン残基に、104番目のグリシン残基をアラニン残基に、105番目のバリン残基をトレオニン残基に、120番目のセリン残基をグルタミン残基に、124番目のロイシン残基をバリン残基に、129番目のアラニン残基をトレオニン残基に置き換えることを伴い設計されたヒト化198D軽鎖を「h198D-L4タイプ軽鎖」と命名した。
【0220】
h198D-L4タイプ軽鎖をコードするヌクレオチド配列(配列番号42)において、シグナル配列が切除された成熟軽鎖をコードするのはヌクレオチド番号61乃至702からなるヌクレ
オチド配列であり、可変領域をコードするのはヌクレオチド番号61乃至387からなるヌク
レオチド配列であり、定常領域をコードするのはヌクレオチド番号388乃至702からなるヌクレオチド配列である。当該可変領域は、配列表の配列番号42において、CDR
L1をコード
するヌクレオチド番号130乃至162からなるヌクレオチド配列、CDR
L2をコードするヌクレ
オチド番号208乃至228からなるヌクレオチド配列及びCDR
L3をコードするヌクレオチド番
号325乃至351からなるヌクレオチド配列を有する。
また、h198D_L4タイプ軽鎖のアミノ酸配列(配列番号43]において、シグナル配列が切
除された成熟軽鎖はアミノ酸番号21乃至234からなるアミノ酸配列であり、可変領域はア
ミノ酸番号21乃至129からなるアミノ酸配列であり、定常領域はアミノ酸番号130乃至234
からなるアミノ酸配列である。
更に、配列番号42及び43の配列は、それぞれ
図36及び26にも記載されている。
【0221】
7)-9 ヒト化抗体の発現ベクターの構築
7)-9-1 ヒト化抗ヒトGARP抗体h151D-H1L1発現ベクターの構築
配列表の配列番号32に示されるh151D-H1タイプ重鎖のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号58乃至1398に示されるh151D-H1タイプ重鎖をコードする配列を含むDNA断片を合成した (GENEART社 人工遺伝子合成サービス)。合成したDNA断片を用い、BioWa社及びLonza社のPotelligent(登録商標) CHOK1SV Technologyのプロトコールに準じてh151D-H1タイプ重鎖発現ベクターを構築した。構築した発現ベクターを「GSV-h151D-H1」と命名した。
次に、配列表の配列番号36に示されるh151D-L1タイプ軽鎖のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号61乃至702に示されるh151D-L1タイプ軽鎖をコードする配列を含むDNA断片を合成した (GENEART社 人工遺伝子合成サービス)。
合成したDNA断片をBioWa社及びLonza社のPotelligent(登録商標) CHOK1SV Technologyのプロトコールに準じて、h151D-L1タイプ軽鎖発現ベクターを構築した。構築した発現ベクターを「GSV-h151D-L1」と命名した。
次に、構築した発現ベクター「GSV-h151D-H1」及び「GSV-h151D-L1」から、BioWa社及
びLonza社のPotelligent(登録商標) CHOK1SV Technologyのプロトコールに準じて、MACA-1511a発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「DGV-h151D-H1L1-GS」と命名した。
【0222】
7)-9-2 ヒト化抗ヒトGARP抗体h151D_H4L4発現ベクターの構築
実施例7)-9-1と同様に、配列表の配列番号34に示されるh151D-H4タイプ重鎖のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号58乃至1398に示されるh151D-H4タイプ重鎖をコードする配列を含むDNA断片と配列表の配列番号38に示されるh151D-L4タイプ軽鎖のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号61乃至702に示されるh151D-L4タイプ軽鎖をコードする配列を含むDNA断片を合成した (GENEART社 人工遺伝子合成サービス)。
合成したDNA断片を用い、BioWa社及びLonza社のPotelligent(登録商標) CHOK1SV Technologyのプロトコールに準じて、MACA-1514a発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「DGV-h151D-H4L4-GS」と命名した。
【0223】
7)-9-3 ヒト化抗ヒトGARP抗体h198D_H3L4発現ベクターの構築
実施例7)-9-1と同様に、配列表の配列番号40に示されるh198D-_H3タイプ重鎖のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号58乃至1407に示されるh198D-H3タイプ重鎖をコードする配列を含むDNA断片と配列表の配列番号42に示されるh198D-L4タイプ軽鎖のヌクレオチ
ド配列のヌクレオチド番号61乃至702に示されるh198D-L4タイプ軽鎖をコードする配列を
含むDNA断片を合成した (GENEART社 人工遺伝子合成サービス)。
合成したDNA断片を用い、BioWa社及びLonza社のPotelligent(R) CHOK1SV Technologyのプロトコールに準じて、MACA-1983a発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターを「DGV-h198D-H3L4-GS」と命名した。
【0224】
7)-10 ヒト化抗ヒトGARP抗体の調製
7)-10-1 ヒト化抗ヒトGARP抗体生産細胞の作製
7)-10-1-1 ヒト化抗ヒトGARP抗体h151D-H1L1生産細胞の作製
BioWa社及びLonza社のPotelligent(登録商標) CHOK1SV Technologyのプロトコールに準じて、実施例7)-9-1で構築したヒト化抗ヒトGARP抗体h151D-H1L1発現ベクター、DGV-h151D-H1L1-GSをPotelligent CHOK1SV細胞 (BioWa社及びLonza社) にトランスフェクションし、ヒト化抗ヒトGARP抗体h151D-H1L1生産株を構築した。得られた生産株を「MAC1-1」と命名した。
【0225】
7)-10-1-2 ヒト化抗ヒトGARP抗体h151D-H4L4生産細胞の作製
実施例7)-10-1-1と同様に、実施例7)-9-2で構築したヒト化抗ヒトGARP抗体h151D-H4L4発現ベクター、DGV-h151D-H4L4-GSをPotelligent CHOK1SV細胞 (BioWa社及びLonza社) にトランスフェクションし、ヒト化抗ヒトGARP抗体h151D-H4L4生産株を構築した。得られた生産株を「MAC2-1」と命名した。
【0226】
7)-10-1-3 ヒト化抗ヒトGARP抗体h198D-H3L4生産細胞の作製
実施例7)-10-1-1と同様に、実施例7)-9-3で構築したヒト化抗ヒトGARP抗体h198D_H3L4発現ベクター、DGV-h198D_H3L4-GSをPotelligent CHOK1SV細胞 (BioWa社及
びLonza社) にトランスフェクションし、ヒト化抗ヒトGARP抗体h198D-H3L4生産株を構築
した。得られた生産株を「MAC3-1」と命名した。
【0227】
7)-10-2 ヒト化抗ヒトGARP抗体生産細胞の培養
7)-10-2-1 ヒト化抗ヒトGARP抗体h151D-H1L1生産細胞の培養
実施例7)-10-1-1で作製したヒト化抗ヒトGARP抗体h151D-H1L1生産株「MAC1-1」の培養は、培養装置Wave reactor (GEヘルスケア・ジャパン社) を用いて実施した。生産株「MAC1-1」をDsp04B (JXエネルギー社) 培地を用いて解凍し、37℃、5% CO2インキュベーター内にて120rpmで培養した。得られた培養液をC36 (JXエネルギー社) 培地で希釈し、37℃、5% CO2インキュベーター内にて120rpmで拡大培養した。
得られた培養液を細胞密度30×104cells/mLとなるようにC36培地で希釈してWAVE CELLBAG (GE Healthcare Bioscience社) に仕込み、37℃、5% CO2、エアー供給量0.3L/分、揺動18-24rpm、角度6-8°で13日間培養した。
培養開始3日目よりFM4Ae2培地 (自家調製) を1日あたり、仕込み量の6%分を毎日添加した。得られた培養液をデプスフィルターMillistak MC0HC054H1 (Merck Millipore社) で粗ろ過後、Flexboy Bagsに付属の0.22μmフィルター (Sartorius社) でろ過した。このろ過液を「MACA-1511a 培養上清」と命名した。
【0228】
7)-10-2-2 ヒト化抗ヒトGARP抗体h151D_H4L4生産細胞の培養
実施例7)-10-2-1と同様に、実施例7)-10-1-2で作製したヒト化抗ヒトGARP抗体h151D-H4L4生産株「MAC2-1」を培養、拡大し、培養装置Wave reactor (GEヘルスケア・ジャパン社) を用いてフェッドバッチ培養を実施した。細胞密度30×104cells/mLとなるようにC36培地で希釈してWAVE CELLBAG (GE Healthcare Bioscience社) に仕込み、13日間培養した。得られた培養液をろ過し、このろ過液を「MACA-1514a 培養上清」と命名した。
【0229】
7)-10-2-3 ヒト化抗ヒトGARP抗体h198D-H3L4生産細胞の培養
実施例7)-10-2-1と同様に、実施例7)-10-1-3で作製したヒト化抗ヒトGARP抗体h198D-H3L4生産株「MAC3-1」を培養、拡大し、培養装置Wave reactor (GEヘルスケア・ジャパン社) を用いてフェッドバッチ培養を実施した。細胞密度30×104cells/mLとなるようにC36培地で希釈してWAVE CELLBAG (GE Healthcare Bioscience社) に仕込み、13日間培養した。得られた培養液をろ過し、このろ過液を「MACA-1983a 培養上清」と命名した。
【0230】
7)-10-3 ヒト化抗ヒトGARP抗体の精製
7)-10-3-1 ヒト化抗ヒトGARP抗体h151D-H1L1の精製
実施例7)-10-2-1で得られた「MACA-1511a 培養上清」を、rProteinAアフィニティークロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィーの三段階工程で精製した。
最初に、培養上清を、PBSで平衡化したrProteinAアフィニティークロマト樹脂にアプライした。培養液がカラムに全て入ったのち、PBS、アルギニンを含む緩衝液、PBSでカラムを洗浄した。次に、酢酸緩衝液で溶出し、280nmの吸収ピークを回収した。回収液をTris緩衝液で中和し、グラスファイバーフィルター AP20 (Merck Millipore社) で粗ろ過後、0.22μmフィルターであるステリカップ-GV (Merck Millipore社) でろ過したものをrProteinA精製プールとした。
【0231】
次に、rProteinA精製プールを、PBSで平衡化した陰イオン交換クロマト樹脂にアプライした。アプライ液がカラムに全て入ったのち、PBSを通液した。素通り画分及びPBS通液時における280nmの吸収ピークを回収した。回収液を酢酸でpH調整し、グラスファイバーフィルター AP20 (Merck Millipore社) で粗ろ過後、0.22μmフィルターであるステリカップ-GV (Merck Millipore社) でろ過したものをAEX精製プールとした。
次に、AEX精製プールを、酢酸緩衝液で平衡化した陽イオン交換クロマト樹脂にアプライした。アプライ液がカラムに全て入ったのち、酢酸緩衝液でカラムを洗浄した。次に高濃度のNaClを含む酢酸緩衝液を用いて溶出し、280nmの吸収ピークを回収した。回収液をグラスファイバーフィルター AP20 (Merck Millipore社) で粗ろ過後、0.22μmフィルターであるステリカップ-GV (Merck Millipore社) でろ過したものをCEX精製プールとした。
CEX精製プールを、Pellicon 3 Cassette 30kDa (Merck Millipore社) にて抗体濃度25mg/mLに濃縮した後、ヒスチジンバッファー(25mM Histidine、5% Sorbitor、pH6.0) に置換した。最後にグラスファイバーフィルター AP20 (Merck Millipore社) で粗ろ過後、0.22μmフィルターであるステリカップ-GV (Merck Millipore社) でろ過したものを精製サンプルとした。精製サンプルを「h151D-H1L1」と命名した。
【0232】
7)-10-3-2 ヒト化抗ヒトGARP抗体h151D-H4L4の精製
実施例7)-10-3-1と同様に、実施例7)-10-2-2で得られた「MACA-1514a
培養上清」を、rProteinAアフィニティークロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィーの三段階工程で精製した。精製サンプルを「h151D-H4L4」と命名した。
【0233】
7)-10-3-3 ヒト化抗ヒトGARP抗体h198D-H3L4の精製
実施例7)-10-3-1と同様に、実施例7)-10-2-3で得られた「MACA-1983a
培養上清」を、rProteinAアフィニティークロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー、陽イオン交換クロマトグラフィーの三段階工程で精製した。精製サンプルを「h198D-H3L4」と命名した。
【0234】
7)-11 ヒト化抗ヒトGARP抗体のヒトGARPに対する結合性評価
実施例7)-10で作製したヒト化抗ヒトGARP抗体h151D-H1L1、h151D-H4L4及びh198D-H3L4とGARPとの解離定数測定は、Biacore T200 (GEヘルスケアバイオサイエンス (株)) を使用し、固定化したProtein Aに抗体をリガンドとして捕捉 (キャプチャー) し、抗原をアナライトとして測定するキャプチャー法にて行った。ランニングバッファーとしてHBS-EP+ (GEヘルスケアバイオサイエンス (株) )、センサーチップとしてProtein Aセンサーチップ(GEヘルスケアバイオサイエンス (株)) を用いた。
チップ上に1μg/mLのヒトキメラ化抗体を10μL/minで20秒間添加した後、抗原の希釈系列溶液 (8~128nM) を流速30μl/分で120秒間添加し、引き続き480秒間の解離相をモニターした。再生溶液として、Glycine 1.5 (GEヘルスケアバイオサイエンス (株)) を流速20μl/分で30秒間添加した。
データの解析には1:1結合モデルを用いて、結合速度定数ka、解離速度定数kd及び解離定数(KD;KD=kd/ka) を算出した。
【0235】
結果を表2に示す。
【0236】
表2 ヒト化抗ヒトGARP抗体の解離定数
【0237】
【0238】
実施例8:抗原遺伝子発現細胞への結合
8)-1 GARPへの結合
実施例2に記載した方法により、ヒトGARP発現ベクター及びコントロールベクターを導入したHEK-293T細胞懸濁液を調製した。得られた細胞懸濁液へh151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D-H3L4、ならびにコントロールヒトIgG(human IgG: Eureka Therapeutics社)を添加し、15分間4℃で静置した。
FACSバッファー(3% FBS含有PBS(Invitrogen社))で2回洗浄後、R-Phycoerythrin(PE)標識抗IgG抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories社)及びHorizon FVS450(Becton Dickinson社)を加えて懸濁し、さらに15分間4℃で静置した。以降のフローサイトメーター解析方法は実施例2に記載した内容と同様に実施し、PE蛍光強度のヒストグラムを作成した(
図37)。
コントロールベクターを導入したHEK-293T細胞では、h151DH-1L1、h151D-H4L4、及びh198D-_H3L4はコントロールIgG同様の蛍光強度ヒストグラムを示した(図中にはMock vector-transfected HEK293Tと表記)。
一方、GARP発現HEK-293T細胞(図中にはhGARP-transfected HEK293Tと表記)では、コントロールhuman IgGの蛍光強度ヒストグラムに対してh151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D_H3L4のそれぞれのヒストグラムが強蛍光強度側にシフトしていることを確認した。
以上の結果から、h151D-H1L1、h151D-H4L4及びh198D-H3L4は、GARPに特異的に結合することが明らかになった。
【0239】
8)-2 GARP-TGFβ1への結合
8)-2-1 ヒトGARP変異体発現ベクターの構築
ヒトGARP発現ベクター(Origene社)を鋳型として、プライマーF(cacggcaacctgctggagcggctgctgggggagg)(配列番号44)、プライマーR(caggctgttcccagacaggtccag)(配列番号45)、及びKOD-Plus-Mutagenesis Kit(Toyobo社)を用いて、ヒトGARPアミノ酸配列(配列番号:1)のアミノ酸配列番号137-139のYSGをHGNに変換した、ヒトGARP変異体発現ベクターを構築して塩基配列を確認した。
【0240】
8)-2-2 GARP-TGFβ1の共発現
ヒトTGFβ1発現ベクター(Sino Biological社)を、ヒトGARP発現ベクター又はヒトGARP変異体発現ベクターと共に、HEK-293T細胞へLipofectamin2000(Invitrogen社)を用いて遺伝子導入した。
10%FBS含有DMEM培地(Invitrogen社)中で5% CO
2の条件下37℃で一晩培養した後、TrypLE Express(Invitrogen社)処理により細胞をプレートから回収し、FACSバッファーで2回洗浄後、同溶液に懸濁した。
得られた細胞懸濁液へ本願発明に係る105F、h151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D-H3L4、ならびに公知抗体(特許文献1に記載の配列情報に基づき作製したヒトIgG1抗GARP抗体:MHG8、及びLHG10)の各抗体、及びコントロールヒトIgG(Eureka Therapeutics社)を添加し、15分間4℃で静置した。
FACSバッファーで2回洗浄後、PE標識抗IgG抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories社)及びHorizon FVS450(Becton Dickinson社)を加えて懸濁し、さらに15分間4℃で静置した。以降のフローサイトメーター解析方法は実施例2に記載した内容と同様に実施し、PE蛍光強度のヒストグラムを作成した(
図38)。
TGFβ1とGARPを共導入したHEK-293T細胞では、全ての抗体がコントロールIgGの蛍光強度ヒストグラムに対して強蛍光強度側にシフトしていることを確認した(
図38)。
一方、TGFβ1とGARP変異体を共導入したHEK-293T細胞では、105F、h151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D-H3L4の各抗体では同様な強蛍光強度側へのシフトが認められたが、MHG8、及びLHG10についてはコントロールIgGと同様の蛍光強度ヒストグラムとなり、[非特許文献12]に記載のとおりGARP変異体には結合しないことが示された。
以上の結果から、105F、h151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D-H3L4の各抗体は、TGFβ1と共発現したGARP及びGARP変異体の両方に結合することが示され、MHG8及びLHG10抗体とは、GARPにおいて異なった領域に結合することが明らかになった。
【0241】
実施例9:内因性GARP発現細胞への結合
9)-1 L428細胞を用いたフローサイトメトリー解析
L428細胞をFACSバッファーで2回洗浄後、同溶液に懸濁し、h151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D_H3L4、ならびにコントロールヒトIgG(human IgG: Eureka Therapeutics社)をそれぞれ添加して15分間4℃で静置した。FACSバッファーで2回洗浄後、PE標識抗IgG抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories社)を加えて懸濁し、さらに15分間4℃で静
置した。以降のフローサイトメーターでの解析方法は実施例3に記載した内容と同様に実施し、PE蛍光強度のヒストグラムを作成した。
コントロールIgGを添加したL428細胞の蛍光強度ヒストグラムに比べて、h151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D_H3L4の各抗体を添加したヒストグラムは強蛍光強度側へシフトしていることが認められ、h151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D-H3L4が内因性に発現しているGARPに結合することが確認された(
図39)。
【0242】
9)-2 ヒトTregを用いたフローサイトメトリー解析
PBMCは、凍結ヒトPBMC(Cellular Technology社)をプロトコールに従って解凍し、10% FBS含有RPMI1640(Invitrogen社)を用いて24ウエルプレート(住友ベークライト社)に2×10
6cells/mLで播種した。
Dynabeads Human T-Activator CD3/CD28(Life technologies社)を添加して48時間培養後、細胞をFACSバッファーに懸濁し、h151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D-H3L4の各抗体、ならびにコントロールヒトIgG(human IgG:Eureka Therapeutics社)をAPC標識抗CD4抗体(Becton Dickinson社)と共に添加して、10分間4℃に静置した。
FACSバッファーで細胞を洗浄後、FITC標識抗IgG抗体(Jackson ImmunoResearch Laboratories社)及びHorizon FVS450(Becton Dickinson社)を加えて懸濁し、さらに15分間4℃で静置した。
再びFACSバッファーで細胞を洗浄後、FoxP3 Staining Buffer Set(Miltenyi Biotec社)を用いて細胞を調製した後、PE標識抗Foxp3抗体(Miltenyi Biotec社)を添加して4℃で30分間静置した。
細胞洗浄後、フローサイトメーター(Facs Canto II:Becton Dickinson社)を用いて測定し、Horizon FVS450により死細胞を除去したCD4陽性細胞について、FlowJo(Tree Star社)で解析した。
その結果、h151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D-H3L4の各抗体は、FoxP3陽性Tregに結合することが示された(
図40)。
【0243】
実施例10:抗GARP抗体の性質
10)-1 ADCC活性
h151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D-H3L4、ならびに公知抗体(特許文献1に記載の配列情報に基づき作製したヒトIgG1抗GARP抗体:MHG8、及びLHG10)の各抗体、及びコントロールヒトIgG(Sigma社)の各抗体のADCC活性を実施例4に記載の方法により測定した。
h151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D-H3L4抗体は、L428細胞に対して抗体濃度依存的に細胞溶解活性を示した(
図41A)。
一方、MHG8及びLHG10は、実施例4に記載したとおり、コントロールヒトIgG同様に細胞溶解活性を認めなかった(
図41B)。
以上のことから、h151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D-H3L4の各抗体はADCC活性を有することが示された。
【0244】
10)-2 Treg機能阻害活性
h151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D-H3L4の各抗体のTreg機能阻害活性を実施例4に記載の方法により測定した。h151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D-H3L4の終濃度1μg/mLのTreg機能阻害活性(h151D-H1L1阻害率81.5%、h151D-H4L4阻害率80.4%、h198D-H3L4阻害率70.8%)を
図42に示す。
h151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D-H3L4抗体は、Treg機能阻害活性を有することが示された。
【0245】
10)-3 抗腫瘍活性(in vitro)
10)-3-1 Cytotoxic T lymphocyte (CTL) の調製
NY-ESO-1特異的なT細胞受容体を有するCTL細胞(MU28 CD8B35 Clone #7:三重大学より
入手)を三重大学のプロトコールに従い、3×105細胞/25 cm2フラスコ (住友ベークライト社)で抗CD3抗体(OKT3:Imgenex社)、IL-2(Novartis社)、ならびにフィーダー細胞群の存在下で、10% Human male AB serum(Sigma社)含有RPMI1640培地(Invitrogen社)中で7日間培養した。
フィーダー細胞群は、凍結ヒトPBMC(Cellular Technology社)をプロトコールに従って解凍したPBMCからCD8 MicroBeads(Miltenyi Biotech社)を用いてCD8陽性細胞を除去したCD8-depleted PBMC(7.5×106細胞/25 cm2フラスコ)、ならびに103-LCL細胞(理化学研究所バイオリソースセンターより入手)(1.5×106細胞/25 cm2フラスコ)にX線照射装置(日立メディコ社)を用いてX-線照射を施したものを使用した。
実施例4)-2-1に示した方法で得たTregを本培養開始時に添加(1.5×105細胞/25 cm2フラスコ)することで、CTL細胞活性のTregによる抑制効果を評価した。また、同法で得たTreg(7.5×104細胞/25 cm2フラスコ)と、105F、h151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D-H3L4、ならびにヒトIgG1(Enzo社)の各抗体を本培養開始時に添加(10μg/ml)することで、各抗体の抗腫瘍活性を評価した。
各培養後、CD8+ T Cell Isolation Kit(Miltenyi Biotech社)を用いてCD8陽性細胞を精製分離することでCTL細胞を調製し、活性評価に用いた。
【0246】
10)-3-2 標的細胞の調製
ヒトメラノーマ細胞株でNY-ESO-1を発現するSK-MEL-52細胞(三重大学より入手:Proc Natl Acad Sci U S A. 1980 Jul; 77(7): 4260-4)は10%FBS含有RPMI1640培地(Invitrogen社)を用いて培養し、51Crによるラベル化については、実施例4)-1-2と同様の方法で実施し、2×104細胞/mLに調製して標的細胞とした。
【0247】
10)-3-3
51Crリリースアッセイ
96ウエルU底マイクロプレート(Costar社)へ標的細胞を分注(50μL/ウェル)した。
次いで、CTL細胞数が標的細胞の16、8、4、2倍(CTL細胞:標的細胞=16:1、8:1、4:1、2:1)になるように、CTL細胞を添加(100μL/ウエル)し、5%CO
2の条件下で4時間37℃にて培養した。以降は実施例4)-1-3の方法に従った。なお、当該阻害活性は、各実験に供与された検体毎に算出される結果である。また、当該CTL細胞はNY-ESO-1を発現しない細胞に対しては細胞溶解を示さないことを確認している。
測定結果を
図43、44に示す。
SK-MEL-52に対するCTL細胞の細胞溶解活性は、Tregにより抑制された(
図43)。
一方、105F、h151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D-H3L4の各抗体を添加したCTL細胞では、CTL細胞数の増加に伴ってSK-MEL-52細胞に対する細胞溶解率の上昇が見られ、かつ、その効果はコントロールIgGを添加した各細胞比での溶解率に比べて明らかに高かった(
図44)。
従って105F、h151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D-H3L4の各抗体は、CTL細胞活性のTregによる抑制を阻害して、抗腫瘍活性を増強させることが示された。
【0248】
10)-4 抗腫瘍活性(in vivo)
L428細胞を移植したNOD/Shi-scid, IL-2Rγnull (NOG)マウスへヒトPBMCを移入することで、ADCC活性を有するキメラ抗体の抗腫瘍効果を評価可能であることが知られている(J Immunol. 2009 Oct 1;183(7):4782-91)。
RPMI1640培地(Invitrogen社)とマトリゲル(Becton Dickinson社)1:1の混液にて1x107cells/mLに懸濁したL428細胞(DSMZ)をNOGマウス(雌性、In vivo science社)の腋窩部皮下に0.1 mL移植し、移植した日をDay0とした。Day6に腫瘍体積値を用いて群分けを行い(各群n=6)、次の投与群を設定した。
【0249】
PBSコントロール1:Day6, 10, 14, 18, 22, 26に投与、Day6, 14, 22にヒトPBMC(Lot:
20140707)投与
105F抗体:Day6, 10, 14, 18, 22, 26に5mg/kg投与、Day6, 14, 22にヒトPBMC(Lot:20140707)投与
PBSコントロール2:Day6, 10, 14, 18, 22に投与、Day6, 14, 22にヒトPBMC(Lot:20150924)投与
h151D-H1L1抗体:Day6, 10, 14, 18, 22に1mg/kg投与、Day6, 14, 22にヒトPBMC(Lot:20150924)投与
h151D-H4L4抗体:Day0, 6, 10, 14, 18, 22に1mg/kg投与、Day6, 14, 22にヒトPBMC(Lot:20150924)投与
h198D-H3L4抗体:Day0, 6, 10, 14, 18, 22に1mg/kg投与、Day6, 14, 22にヒトPBMC(Lot:20150924)投与
【0250】
各抗体はPBS(Invitrogen社)で希釈調製し、尾静脈内より投与(10 mL/kg)した。
ヒトPBMCは、凍結ヒトPBMC(Cellular Technology社)をプロトコールに従って解凍したものを1x10
7 cells/mLに調製して0.2 mLを尾静脈内より投与した。
経時的に腫瘍の長径(mm)及び短径(mm)を電子デジタルノギス(株式会社ミツトヨ製)で計測し、以下に示す計算式により腫瘍体積を算出した。
腫瘍体積(mm3)=1/2×[腫瘍長径]×[腫瘍短径]×[腫瘍短径]
各群の腫瘍体積の平均値±標準誤差(SE)の変化を
図45に示す。
105F、h151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D-H3L4の各抗体は、PBMCのみを投与したコントロール群に比べて、L428細胞に対する抗腫瘍活性を示し、コントロール群に対する有意差(105F:t検定、h151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D-H3L4:Dunnett型多重比較検定)が認められた。各投与群の測定最終日(105F:Day31、h151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D-H3L4:Day25)における有意差検定結果(P値)を図中に併記する。
従って、105F、h151D-H1L1、h151D-H4L4、及びh198D-H3L4の各抗体は、in vivoモデルにおいても抗腫瘍活性を示すことが明らかになった。
【0251】
実施例11 抗GARP抗体のエピトープ解析
抗ヒトGARP抗体(105F、110F、h151D-H1L1、及びh198D-H3L4)のエピトープは、水素重水素交換質量分析法により解析された。
7 mg/mLの抗ヒトGARP抗体と3mg/mLのヒトGARP(R&D Systems社)又はブランク緩衝液を等量混合し、この溶液に9等量の軽水又は重水を添加した。30秒、480秒、6000秒後、又は一晩後、試料に100mM リン酸、4M Gdn・HCl、150 mM TCEP、pH 2.5を等量加えて重水素置換させた。重水素置換した試料は冷却下でHPLCへと注入され、0.1%TFA溶液で固定化ペプシンカラムへと送液された。
ペプシンカラム内でヒトGARPが消化されることで得られたペプチド断片は、C18トラップカラムに保持され、続いて0.1%ギ酸及び0.025%TFAを添加した水及びアセトニトリルのリニアグラジエント勾配によって溶出されてC18分析カラムで分離された。分離されたペプチド断片は、飛行時間型質量分析計によって質量分析された。
各ペプチドの質量から重水素置換率が算出され、抗ヒトGARP抗体の添加により重水素置換率の顕著な低下が認められたペプチド断片をエピトープ断片として同定した。
105Fでは配列番号1に示されるヒトGARPの366-377、407-445、456-470残基で重水素置換率の抑制が認められ、エピトープとして同定された。
110Fでは配列番号1に示されるヒトGARPの54-112、366-392残基で重水素置換率の抑制が認められ、エピトープとして同定された。
h151D-H1L1では配列番号1に示されるヒトGARPの352-392残基で重水素置換率の抑制が認められ、エピトープとして同定された。
h198D-H3L4では配列番号1に示されるヒトGARPの18-112残基で重水素置換率の抑制が認められ、エピトープとして同定された。
【産業上の利用可能性】
【0252】
本発明の抗GARP抗体はADCC活性を介したTreg機能阻害活性による抗腫瘍活性を有し、当該抗GARP抗体を含む医薬組成物は抗癌剤となり得る。
【0253】
また、マラリア及びHIV感染症の各患者でのTregの過剰な存在と活性化がそれら病勢との相関関係を示すこと及びマウス病態モデルではTregの除去が病状の寛解をもたらすことから、Treg機能の効果的な阻害はマラリア及びHIV等の難治性感染症においても治療効果を期待できる。
【配列表フリーテキスト】
【0254】
配列番号1 - GARPのアミノ酸配列
配列番号2 - 105F抗体重鎖のアミノ酸配列
配列番号3 - 105F抗体軽鎖のアミノ酸配列
配列番号4 - 110F抗体重鎖のアミノ酸配列
配列番号5 - 110F抗体軽鎖のアミノ酸配列
配列番号6 - 105F抗体重鎖のヌクレオチド配列
配列番号7 - 105F抗体軽鎖のヌクレオチド配列
配列番号8 - 110F抗体重鎖のヌクレオチド配列
配列番号9 - 110F抗体軽鎖のヌクレオチド配列
配列番号10 - プライマーA
配列番号11 - プライマーB
配列番号12 - プライマーC
配列番号13 - プライマーD
配列番号14 - 151Dの重鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列
配列番号15 - 151Dの重鎖の可変領域のアミノ酸配列
配列番号16 - 151Dの軽鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列
配列番号17 - 151Dの軽鎖の可変領域のアミノ酸配列
配列番号18 - 198Dの重鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列
配列番号19 - 198Dの重鎖の可変領域のアミノ酸配列
配列番号20 - 198Dの軽鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列
配列番号21 - 198Dの軽鎖の可変領域のアミノ酸配列
配列番号22 - ヒト軽鎖シグナル配列及びヒトκ鎖定常領域のアミノ酸をコードする配列を含むDNA断片のヌクレオチド配列
配列番号23 - ヒト重鎖シグナル配列及びヒトIgG1定常領域のアミノ酸をコードする配列を含むDNA断片のヌクレオチド配列
配列番号24 - ヒトキメラ抗体c151D重鎖のヌクレオチド配列
配列番号25 - ヒトキメラ抗体c151D重鎖のアミノ酸配列
配列番号26 - ヒトキメラ抗体c151D軽鎖のヌクレオチド配列
配列番号27 - ヒトキメラ抗体c151D軽鎖のアミノ酸配列
配列番号28 - ヒトキメラ抗体c198D重鎖のヌクレオチド配列
配列番号29 - ヒトキメラ抗体c198D重鎖のアミノ酸配列
配列番号30 - ヒトキメラ抗体c198D軽鎖のヌクレオチド配列
配列番号31 - ヒトキメラ抗体c198D軽鎖のアミノ酸配列
配列番号32 - ヒト化抗体h151D-H1のヌクレオチド配列
配列番号33 - ヒト化抗体h151D-H1のアミノ酸配列
配列番号34 - ヒト化抗体h151D-H4のヌクレオチド配列
配列番号35 - ヒト化抗体h151D-H4のアミノ酸配列
配列番号36 - ヒト化抗体h151D-L1のヌクレオチド配列
配列番号37 - ヒト化抗体h151D-L1のアミノ酸配列
配列番号38 - ヒト化抗体h151D-L4のヌクレオチド配列
配列番号39 - ヒト化抗体h151D-L4のアミノ酸配列
配列番号40 - ヒト化抗体h198D-H3のヌクレオチド配列
配列番号41 - ヒト化抗体h198D-H3のアミノ酸配列
配列番号42 - ヒト化抗体h198D-L4のヌクレオチド配列
配列番号43 - ヒト化抗体h198D-L4のアミノ酸配列
配列番号44 - プライマーF
配列番号45 - プライマーR
【配列表】