(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】内視鏡装置、プログラム、内視鏡装置の制御方法及び処理装置
(51)【国際特許分類】
A61B 1/06 20060101AFI20220907BHJP
A61B 1/045 20060101ALI20220907BHJP
A61B 1/00 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
A61B1/06 610
A61B1/045 618
A61B1/045 622
A61B1/045 614
A61B1/00 553
(21)【出願番号】P 2021501424
(86)(22)【出願日】2019-02-26
(86)【国際出願番号】 JP2019007270
(87)【国際公開番号】W WO2020174572
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-08-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000000376
【氏名又は名称】オリンパス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【氏名又は名称】井上 一
(74)【代理人】
【識別番号】100166523
【氏名又は名称】西河 宏晃
(72)【発明者】
【氏名】矢部 雄亮
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/180250(WO,A1)
【文献】特開2012-000160(JP,A)
【文献】国際公開第2014/125724(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00-1/32
G02B 23/24-23/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
照明光の照明特性を変更して、表示用照明光と支援用照明光とを出射可能な光源部と、
前記表示用照明光が出射されたときの画像信号に基づいて表示画像を生成し、前記支援用照明光が出射されたときの前記画像信号に基づいて支援情報を生成する処理部と、
を含み、
前記光源部は、
前記表示用照明光と前記支援用照明光とを時分割で出射し、
前記処理部は、
前記照明特性が第1照明特性であるとき、前記画像信号に基づいて第1支援情報を生成し、
前記第1支援情報に基づく第1表示内容を前記表示画像に重畳し、
更に、前記第1支援情報が所定条件を満たしたと判断したとき、前記支援用照明光の照明特性を前記第1照明特性から第2照明特性に切り替え、
前記照明特性が前記第2照明特性であるとき、前記画像信号に基づいて
、前記第1支援情報とは診断又は処置の内容が異なる第2支援情報を生成し、
前記第2支援情報に基づく第2表示内容を前記表示画像に重畳する、
ことを特徴とする内視鏡装置。
【請求項2】
請求項
1において、
前記処理部は、
前記支援情報の生成処理における判断モードが第1判断モードであるとき、前記第1照明特性を設定し、前記第1支援情報を生成し、
前記第1支援情報に基づいて、前記判断モードを第2判断モードに切り替え、
前記第2判断モードにおいて、前記第2照明特性を設定し、前記第2支援情報を生成することを特徴とする内視鏡装置。
【請求項3】
請求項
2において、
前記第1判断モードは、被写体に含まれる病変候補の存在を診断する存在診断モードであり、
前記第1支援情報は、前記病変候補の存在を示す情報であり、
前記第2判断モードは、前記病変候補の状態を診断する質的診断モードであり、
前記第2支援情報は、前記病変候補の状態を示す情報であることを特徴とする内視鏡装置。
【請求項4】
請求項
3において、
前記処理部は、
前記第1支援情報に含まれる前記病変候補の面積が所定値以上であること、又は、撮像部の観察倍率が所定値以上であることという前記所定条件を、前記第1支援情報が満たすか否かの判断を行い、
前記第1支援情報が前記所定条件を満たしたと判断したとき、前記第1判断モードから前記第2判断モードに切り替えることを特徴とする内視鏡装置。
【請求項5】
請求項
3において、
前記病変候補は、腫瘍候補であることを特徴とする内視鏡装置。
【請求項6】
請求項
2において、
前記第1判断モードにおいて、前記第1照明特性の前記照明光は、複数色の光のうち少なくとも1つの光である第1グループの光を含み、
前記第2判断モードにおいて、前記第2照明特性の前記照明光は、前記複数色の光のうち少なくとも1つの光であり且つ前記第1グループとは異なる第2グループの光を、含むことを特徴とする内視鏡装置。
【請求項7】
請求項
6において、
前記複数色の光は、紫色光及びアンバー光、緑色光を含むことを特徴とする内視鏡装置。
【請求項8】
請求項
2において、
前記第1判断モードは、被写体に含まれる病変候補の存在を診断する存在診断モード
であり、
前記第2判断モードは、前記病変候補の状態を診断する質的診断モード
であり、
更に、第3判断モードとして、処置を支援する処置支援モード
を有することを特徴とする内視鏡装置。
【請求項9】
請求項
8において、
前記質的診断モードにおける前記照明光は、前記存在診断モードにおける前記照明光に含まれない、炎症又は中層血管、深層血管観察用の光を含む、
又は、前記存在診断モードにおける前記照明光は、紫色光とアンバー光を含む、
又は、前記質的診断モードにおける前記照明光は、紫色光と緑色光、又は緑色光とアンバー光と赤色光、又は測距用照明光を含むことを特徴とする内視鏡装置。
【請求項10】
請求項
8において、
前記処置支援モードにおける前記照明光は、
前記支援情報の生成処理において病変範囲の抽出又は出血点の抽出に用いられる光として、狭帯域光である紫色光及びアンバー光と、測距用照明光とを含み、
又は、赤色光と狭帯域光であるアンバー光とを含むことを特徴とする内視鏡装置。
【請求項11】
請求項
1において、
前記第1表示内容は、前記第1支援情報が示す注目部位の位置及び輪郭の少なくとも一方であることを特徴とする内視鏡装置。
【請求項12】
請求項
1において、
前記表示用照明光は、白色光であり、
前記支援用照明光は、紫色光及びアンバー光、緑色光のうち少なくとも1つを含むことを特徴とする内視鏡装置。
【請求項13】
請求項
1において、
学習済みモデルの情報を記憶する記憶部を、含み、
前記学習済みモデルは、前記画像信号に対して前記支援情報を出力するように学習されたモデルであり、
前記処理部は、
前記学習済みモデルに基づく処理により、前記画像信号から前記支援情報を生成することを特徴とする内視鏡装置。
【請求項14】
請求項
13において、
前記記憶部は、
第1学習済みモデルと第2学習済みモデルの前記情報を記憶し、
前記第1学習済みモデルは、前記照明特性が前記第1照明特性であるときの前記画像信号に対して前記第1支援情報を出力するように学習されたモデルであり、
前記第2学習済みモデルは、前記照明特性が前記第2照明特性であるときの前記画像信号に対して前記第2支援情報を出力するように学習されたモデルであり、
前記処理部は、
前記照明特性が前記第1照明特性であるとき、前記第1学習済みモデルに基づく処理により前記第1支援情報を生成し、
前記照明特性が前記第2照明特性であるとき、前記第2学習済みモデルに基づく処理により前記第2支援情報を生成することを特徴とする内視鏡装置。
【請求項15】
表示用照明光と支援用照明光とを時分割で光源部から出射させ、
前記表示用照明光が出射されたときの画像信号に基づいて表示画像を生成し、
前記支援用照明光の照明特性が第1照明特性であるときに、前記画像信号に基づいて第1支援情報を生成し、
前記第1支援情報に基づく第1表示内容を前記表示画像に重畳し、
更に、前記第1支援情報が所定条件を満たしたと判断したときに、前記支援用照明光の照明特性を前記第1照明特性から第2照明特性に切り替え、
前記照明特性が前記第2照明特性であるとき、前記画像信号に基づいて
、前記第1支援情報とは診断又は処置の内容が異なる第2支援情報を生成し、
前記第2支援情報に基づく第2表示内容を前記表示画像に重畳する、
ステップをコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項16】
請求項
15において、
前記照明特性が前記第1照明特性であるとき、第1学習済みモデルに基づく処理により前記第1支援情報を生成し、
前記第1支援情報に基づいて、前記照明特性を前記第2照明特性に変更し、
前記照明特性が前記第2照明特性であるとき、第2学習済みモデルに基づく処理により前記第2支援情報を生成するステップを、
前記コンピュータに実行させ、
前記第1学習済みモデルは、前記照明特性が前記第1照明特性であるときの前記画像信号に対して前記第1支援情報を出力するように学習されたモデルであり、
前記第2学習済みモデルは、前記照明特性が前記第2照明特性であるときの前記画像信号に対して前記第2支援情報を出力するように学習されたモデルであることを特徴とするプログラム。
【請求項17】
光源部が、表示用照明光と支援用照明光とを時分割で出射するステップと、
処理部が、前記表示用照明光が出射されたときの画像信号に基づいて表示画像を生成するステップと、
前記処理部が、前記支援用照明光の照明特性が第1照明特性であるときに、前記画像信号に基づいて第1支援情報を生成するステップと、
前記処理部が、前記第1支援情報に基づく第1表示内容を前記表示画像に重畳するステップと、
前記処理部が、更に、前記第1支援情報が所定条件を満たしたと判断したときに、前記支援用照明光の照明特性を前記第1照明特性から第2照明特性に切り替えるステップと、
前記処理部が、前記照明特性が前記第2照明特性であるとき、前記画像信号に基づいて
、前記第1支援情報とは診断又は処置の内容が異なる第2支援情報を生成するステップと、
前記処理部が、前記第2支援情報に基づく第2表示内容を前記表示画像に重畳するステップと、
を含むことを特徴とする内視鏡装置の制御方法。
【請求項18】
プロセッサを含み、
前記プロセッサは、
照明光を、表示用照明光と、支援用照明光と、に時分割で切り替えるよう光源を制御し、
前記照明光をもとに取得された画像信号から表示画像を生成し、
前記画像信号から被検体に関する診断または処置に関する支援情報を生成し、
さらに、
前記支援用照明光が第1照明特性であるときに取得された前記画像信号に基づいて、第1支援情報を生成し、
前記支援用照明光が第2照明特性であるときに取得された前記画像信号に基づいて、
前記第1支援情報とは診断又は処置の内容が異なる第2支援情報を生成し、
前記第1支援情報が所定の条件を満たしたときに、前記支援用照明光を前記第1照明特性から前記第2照明特性へ切り替え、
前記表示画像に対して、前記第1支援情報と、前記第2支援情報と、の少なくとも一方に基づく画像情報を重畳表示する、
ように構成されることを特徴とする処理装置。
【請求項19】
照明光を、表示用照明光と、支援用照明光と、に時分割で切り替えるよう光源を制御する光源制御回路と、
前記照明光をもとに取得された画像信号から表示画像を生成する画像処理回路と、
前記画像信号から被検体に関する診断または処置に関する支援情報を生成する支援情報生成回路と、
を含み、
前記支援情報生成回路は、
前記支援用照明光が第1照明特性であるときに取得された前記画像信号に基づいて、第1支援情報を生成し、
前記支援用照明光が第2照明特性であるときに取得された前記画像信号に基づいて、
前記第1支援情報とは診断又は処置の内容が異なる第2支援情報を生成し、
前記光源制御回路は、
前記第1支援情報が所定の条件を満たしたときに、前記支援用照明光を前記第1照明特性から前記第2照明特性へ切り替え、
前記画像処理回路は、
前記表示画像に対して、前記第1支援情報と、前記第2支援情報と、の少なくとも一方に基づく画像情報を重畳表示する、
ことを特徴とする処理装置。
【請求項20】
請求項
18において、
撮像素子からの前記画像信号が入力される入力端子と、
前記表示画像をモニタへ出力する出力端子と、
を含むことを特徴とする処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡装置、プログラム、内視鏡装置の制御方法及び処理装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用内視鏡分野において、AI技術の適用が検討されている。例えば、病変の発見又は診断に役立つ観察支援情報をAI技術により抽出し、その観察支援情報を内視鏡モニターに表示する。このような技術は、例えば特許文献1に開示されている。特許文献1では、蛍光観察モードにおいて診断支援モードがオンに設定されている場合に、基準領域と注目領域における蛍光発光の状態を可視化し、その状態をモニター表示し、そのモニター表示された状態の経時変化によって診断支援をする。
【0003】
また内視鏡装置において目的に合った画像が撮像できるように光源を制御する技術が知られている。このような技術は、例えば特許文献2、3に開示されている。特許文献2では、液晶レンズにより照明光の配光角を変化させることで、酸素飽和度等の生体機能情報を得る際の誤差を減少させる。特許文献3では、撮像光学系の瞳近傍に分光透過率分布を備えており、その分光透過率分布は、被写体からの戻り光のうち強調したい波長帯に対して瞳の面積が大きくなるような分布となっている。これにより、所望の深部組織情報をコントラスト良く観察できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/084504号
【文献】特開2006-181387号公報
【文献】特開2003-215469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した診断支援を行う内視鏡装置において、画像情報に基づいてAI支援情報を精度よく又は適切に表示するという課題がある。例えば、内視鏡の観察目的は、病変の存在診断又は質的診断、範囲診断、処置支援など多岐にわたる。画像情報に基づいて、適切な照明に制御することで、内視鏡の観察目的により適したAI支援情報の生成を可能とすることが望ましい。特許文献1などの従来技術では、支援情報をモニター表示することが開示されているが、画像情報に基づいて支援情報を最適化することは開示されていない。
【0006】
本発明の幾つかの態様によれば、画像情報に基づいて照明光を最適化することで、診断支援情報の精度を向上できる、又は適切な診断支援情報を提示できる内視鏡装置及びプログラム等を提供できる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、出射する照明光の分光特性及び光量、配光特性、照射タイミングのうち少なくとも1つを含む照明特性を変更可能な光源部と、前記照明光により照明された被写体を撮像し、画像信号を出力する撮像部と、診断又は処置を支援する支援情報に基づいて前記照明特性を設定する処理部と、を含み、前記処理部は、前記照明特性が第1照明特性であるとき、前記画像信号に基づいて生成された第1支援情報に基づいて、前記照明特性を第2照明特性に変更する内視鏡装置に関係する。
【0008】
また本発明の他の態様は、照明光の分光特性及び光量、配光特性、照射タイミングのうち少なくとも1つを含む照明特性が第1照明特性であるとき、前記照明光により照明された被写体が撮像された画像信号に基づいて生成された、診断又は処置を支援する第1支援情報を取得し、前記第1支援情報に基づいて、前記照明特性を第2照明特性に変更するステップを、コンピュータに実行させるプログラムに関係する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】存在診断モードにおける発光シーケンス及び撮像シーケンスを示す図。
【
図4】NBIモードにおける発光シーケンス及び撮像シーケンスを示す図。
【
図5】疑似染色モードにおける発光シーケンス及び撮像シーケンスを示す図。
【
図6】存在診断モードから質的診断モードに切り替える際に処理部が行う処理の手順を示すフローチャート。
【
図7】存在診断モードから質的診断モードに移行するか否かを判断する手法を説明する図。
【
図9】UC炎症診断モードにおける発光シーケンス及び撮像シーケンスを示す図。
【
図10】UC炎症診断モードにおける支援情報の表示例。
【
図11】範囲診断モードにおける発光シーケンス及び撮像シーケンスを示す図。
【
図13】出血点認識モードにおける発光シーケンス及び撮像シーケンスを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本実施形態について説明する。なお、以下に説明する本実施形態は、請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また本実施形態で説明される構成の全てが、本発明の必須構成要件であるとは限らない。例えば本明細書では消化器用内視鏡について説明するが、本明細書に開示される手法の適用対象はこれに限定されない。即ち、本明細書で言う内視鏡装置とは、様々な観察対象物の凹部内面を観察するための挿入部を備える機器一般を言うものとする。例えば、内視鏡装置には、腹腔又は関節等の外科手術に用いられる外科用内視鏡が含まれる。
【0011】
1.内視鏡装置
図1は、本実施形態における内視鏡装置10の構成例である。内視鏡装置10は、制御装置100とスコープ部200と表示部300と操作部600とを含む。なお、制御装置100を本体部とも呼ぶ。またスコープ部200をスコープ、撮像部、撮像装置とも呼ぶ。また表示部300をディスプレイ、表示装置とも呼ぶ。また操作部600を操作パネル、操作装置とも呼ぶ。
【0012】
まず内視鏡装置10の構成について説明する。その後、観察目的に応じて照明光を最適化する手法を説明する。
【0013】
スコープ部200は、挿入部210とコネクタ240とにより構成されている。挿入部210は、可撓性を有しており、生体の体腔内に挿入可能である。生体の体腔は、本実施形態における被写体である。コネクタ240は、スコープ部200の一端に設けられており、制御装置100とスコープ部200を着脱可能にする。
【0014】
挿入部210の先端には、照明光を被写体に向けて出射する照明レンズ211と、被写体の表面から反射又は散乱された照明光を受光することで画像を撮像する撮像部213と、挿入部210の先端から被写体までの距離を測定する測距センサ215と、が配置されている。また挿入部210は、光源部140から出射される照明光を照明レンズ211まで導光するライトガイド214を、含む。
【0015】
照明レンズ211は、ライトガイド214により導光された照明光を所望の放射角となるように広げる。なお
図1では挿入部210の先端に1つの照明レンズが設けられているが、挿入部210の先端に複数の照明レンズが設けられてもよい。ライトガイド214は、例えば光ファイバ束である。撮像部213は、撮像光学系と撮像素子を有している。撮像素子は例えば原色型又は補色型のCMOSイメージャである。測距センサ215は、例えばTOF(Time Of Flight)方式の測距センサ、或いは超音波測距センサ等である。なお、測距センサの代わりに、撮像部213をステレオ光学系とすることで距離を測定してもよい。TOF方式の測距センサを用いる場合、赤外光等の長波長の光を用いる場合がある。
【0016】
なお、挿入部210には、図示を省略した種々の機能又は機構を搭載できる。例えば、挿入部210には、スコープ部200を操作するためのスコープ操作部、又は、先端部を湾曲させるための湾曲機構、又は、鉗子等を挿入可能な鉗子孔、又は、処置に用いられる電気メス等の処置具、又は、液体及び気体を噴出及び吸引可能にするための送気送水管等を搭載できる。また、挿入部210に含まれる構成要素の一部が省略されてもよい。例えば、測距機能が用いられない実施形態においては、測距センサ215が省略されてもよい。
【0017】
制御装置100は、内視鏡装置10の各部を制御したり、スコープ部200によって撮像された画像に対する画像処理を行ったりする。制御装置100は、光源部140と処理部110と記憶部160とを含む。
【0018】
光源部140は、照明光を生成し、その照明光をライトガイド214に入射させる。光源部140は、種々の分光特性を有する照明光を発生可能である。具体的には、光源部140は、赤色光を出射する光源LDRと、アンバー光を出射する光源LDAと、緑色光を出射する光源LDGと、青色光を出射する光源LDBと、紫色光を出射する光源LDVと、レンズLN1~LN6と、ダイクロイックミラーDC1~DC4と、光センサSS1~SS5と、光源駆動部141と、フィルタ部142と、を含む。なお光源部140の構成は
図1に限定されない。例えば光センサが省略されてもよい。或いは、ダイクロイックミラーDC1~DC4の代わりに、光ファイバによる光合波部が設けられてもよい。
【0019】
光源LDR、LDA、LDG、LDB、LDVは、例えばLED(Light Emitting Diode)又は半導体レーザである。光源LDRが出射する赤色光は、ピーク波長635nmである。光源LDAが出射するアンバー光は、ピーク波長600nmである。光源LDGが出射する緑色光は、ピーク波長532nmである。光源LDBが出射する青色光は、ピーク波長445nmである。光源LDVが出射する紫色光は、ピーク波長405nmである。これらの光は、例えば半値幅が数10nmの狭帯域光である。なお、各光源が出射する光はこれに限定されない。即ち、赤色光は波長領域615nm~680nmにピーク波長を有していればよく、アンバー光は波長領域586nm~615nmにピーク波長を有していればよく、緑色光は波長領域495nm~585nmにピーク波長を有していればよく、青色光は波長領域440nm~495nmにピーク波長を有していればよく、紫色光は波長領域400nm~440nmにピーク波長を有していればよい。また、各光はブロード光であってもよい。
【0020】
レンズLN1は、光源LDRが出射した光を、ダイクロイックミラーDC1に入射させる。同様に、レンズLN2、LN3、LN4、LN5は、光源LDA、LDG、LDB、LDVが出射した光を、ダイクロイックミラーDC1、DC2、DC3、DC4に入射させる。
【0021】
ダイクロイックミラーDC1は、光源LDRが出射した光を通過させ、光源LDAが出射した光を反射する。同様に、ダイクロイックミラーDC2、DC3、DC4は、ダイクロイックミラーDC1、DC2、DC3からの光を通過させ、光源LDG、LDB、LDVが出射した光を反射する。
【0022】
フィルタ部142は、フィルタと通過部分が切り替え可能な構成となっている。フィルタは複数設けられてもよい。通過部分は、ダイクロイックミラーDC4からの光を、分光特性を変えずにそのまま通過させる。フィルタは分光透過率特性を有しており、ダイクロイックミラーDC4からの光のうち、分光透過率特性に対応した波長領域を通過させる。光源LDR、LDA、LDG、LDB、LDVは、それらのうち任意の1又は複数の光源が発光可能なように構成されている。これら5光源のうち発光させる光源が選択されること、及びフィルタ部142のフィルタが選択されることによって、所望の分光特性を有する照明光が実現される。
【0023】
レンズLN6は、フィルタ部142を通過した光を、ライトガイド214に入射させる。
【0024】
光源駆動部141は、光源制御部151により制御され、その制御に基づいて光源LDR、LDA、LDG、LDB、LDVを駆動する。光源制御部151については後述する。例えば光源LDR、LDA、LDG、LDB、LDVがLED又は半導体レーザである場合、光源駆動部141は、各光源に駆動電流を出力することで各光源を発光させる。
【0025】
光センサSS1、SS2、SS3、SS4、SS5は、それぞれ光源LDR、LDA、LDG、LDB、LDVからの漏れ光を検出できる位置に配置されている。漏れ光とは、レンズLN1~LN5に入射する光路でない部分に出射された光のことである。
【0026】
処理部110は、画像生成部111と支援情報生成部121と光源制御部151とを含む。処理部110を実現するハードウェアは種々想定できる。例えば、画像生成部111と支援情報生成部121と光源制御部151は1つのプロセッサ又はASIC(Application Specific Integrated Circuit)で構成されてもよいし、各々が個別のプロセッサ又はASICで構成されてもよい。或いは、画像生成部111と支援情報生成部121など、2つの構成要素が1つのプロセッサ又はASICで構成されてもよい。
【0027】
画像生成部111は、撮像部213からの画像信号に基づいて表示画像を生成する。具体的には、光源部140は、表示画像を撮像するための表示用照明光と、支援情報を生成するための支援用照明光と、を時分割に出射する。画像生成部111は、表示用照明光が被写体に照射されたときに撮像された画像信号から表示画像を生成する。画像生成部111は、例えば画像信号を補間処理してRGB画像を生成する処理、又はホワイトバランス処理、又は階調変換処理等の画像処理を行う。また画像生成部111は、支援情報生成部121が生成した支援情報に基づく表示内容を表示画像にスーパーインポーズし、その表示画像を表示部300に出力する。
【0028】
表示部300は、例えば液晶ディスプレイ等の表示装置である。表示部300は、画像生成部111が出力した表示画像を表示する。これにより、表示用照明光によって撮像された画像と、それにスーパーインポーズされた支援情報とが、内視鏡装置10のユーザーに提示される。
【0029】
支援情報生成部121は、支援用照明光が被写体に照射されたときに撮像された画像信号から支援情報を生成する。支援情報は、内視鏡装置10を用いる医師が行う診断又は処置を支援するための情報である。支援情報生成部121は、AI(Artificial Intelligence)による推論処理を行う。即ち、支援情報生成部121は、入力された画像信号から推論処理により支援情報を抽出する。AIとしては、種々の画像認識手法又は機械学習手法を採用できる。機械学習は、学習結果に基づいて種々の推論を行う処理である。代表的なAIとしてニューラルネットワークがあるが、これに限定されず、本実施形態におけるAIとして既知の様々な機械学習の手法を採用できる。
【0030】
記憶部160は、例えば半導体メモリ、或いはハードディスクドライブ等の記憶装置である。記憶部160は、学習済みモデルの情報を記憶している。支援情報生成部121は、学習済みモデルに基づいて上記AIによる推論処理を行う。推論処理を実行する支援情報生成部121のハードウェアとしては種々想定できる。例えば、支援情報生成部121はCPU等の汎用プロセッサである。この場合、記憶部160は、推論アルゴリズムが記述されたプログラムと、その推論アルゴリズムに用いられるパラメータと、を学習済みモデルの情報として記憶する。或いは、支援情報生成部121は、推論アルゴリズムがハードウェア化された専用プロセッサであってもよい。この場合、記憶部160は、推論アルゴリズムに用いられるパラメータを学習済みモデルの情報として記憶する。
【0031】
推論アルゴリズムはニューラルネットワークである。ニューラルネットワークは、データを入力する入力層と、入力層を通じて入力されたデータに対し演算処理を行う中間層と、中間層から出力される演算結果に基づいてデータを出力する出力層と、を備えている。入力層に含まれるノードと中間層に含まれるノードが接続されており、中間層に含まれるノードと出力層に含まれるノードが接続されている。このノード間接続の重み係数が、上記のパラメータに相当する。
【0032】
光源制御部151は照明光の分光特性を制御する。即ち、光源制御部151は、光源駆動部141に対して制御信号を出力することで、各光源を発光又は消灯させ、或いは各光源の発光量を制御する。また光源制御部151はフィルタ部142を制御することで、照明光の分光特性を制御する。また光源制御部151は所定の発光シーケンスに従って、各光源の発光タイミングを制御する。また光源制御部151は、光センサSS1~SS5の出力信号に基づいて、光源LDR、LDA、LDG、LDB、LDVの発光量が所望値となるようにフィードバック制御する。
【0033】
光源制御部151は、上記制御により光源部140に表示用照明光と支援用照明光とを時分割に発光させる。内視鏡装置10は、存在診断モードと質的診断モードと処置支援モードとを有する。各モードの詳細は後述する。存在診断モードと質的診断モードと処置支援モードでは、支援用照明光の分光特性が異なっている。即ち、光源制御部151は、設定されたモードに対応した分光特性の支援用照明光を発生させるように光源部140を制御する。光源制御部151はモード判定部152を含み、モード判定部152は、支援情報生成部121が生成した支援情報に基づいて判断モードの切り替えを行う。なお
図1ではモード判定部152が光源制御部151に含まれるが、モード判定部152は光源制御部151の外に設けられてもよい。或いは、操作部600から入力された情報に基づいて判断モードが切り替えられてもよい。操作部600は、医師等のユーザーが内視鏡装置10を操作するための装置である。例えば、操作部600は、ボタン、又はダイヤル、フットスイッチ、タッチパネル等である。
【0034】
判断モードは、支援情報生成部121が支援情報を生成する際の判断基準に対応したモードである。即ち、第1判断モードの支援情報生成部121は、第1判断基準によって支援情報を生成し、第1判断モードと異なる第2判断モードの支援情報生成部121は、第1判断基準とは異なる第2判断基準によって支援情報を生成する。各判断モードの判断基準は、その判断モードの観察目的に対応したものであればよい。即ち、提示が求められる支援情報は観察目的によって異なるが、その観察目的に応じた支援情報が画像情報から抽出される判断基準を、採用すればよい。例えば、処理部110が、画像情報に基づいて判断モードを推測し、その推測した判断モードを設定してもよい。判断モードが設定されることで、支援情報を生成する際の判断基準が設定される。以下、第1判断モードが存在診断モードであり、第2判断モードが質的診断モードである場合を例に説明する。但し、存在診断モードや質的診断は、内視鏡の観察時にドクターの観察モードに応じて、設定された判断モードの例であるが、他の予め定められた判断モードでもよい。また、以下では各判断モードに対応した学習済みモデルが用いられるが、これに限定されず、判断モードに応じて判断基準が異なる処理になっていればよい。
【0035】
支援情報は、各判断モードに対応した学習済みモデルによって生成される。即ち、記憶部160は、存在診断モードに対応した学習済みモデルの情報と、質的診断モードに対応した学習済みモデルの情報と、処置支援モードに対応した学習済みモデルの情報と、を記憶している。そして支援情報生成部121は、設定された判断モードに対応した学習済みモデルに基づく推論処理により、画像信号から支援情報を生成する。各判断モードの学習済みモデルは、例えば下記のようにして学習されている。以下、存在診断モードを例に説明するが、質的診断モード、処置支援モードについても同様な手法で学習される。
【0036】
教師データは、存在診断モードの支援用照明光で撮影された画像と、その画像に対して医師等のエキスパートが付したアノテーション情報である。アノテーション情報は、支援情報として表示させたい情報であり、存在診断モードにおいては例えば病変部の位置又は輪郭を示す情報等である。画像とアノテーション情報のセットが複数用意され、それらが教師データとなる。教師データのうち画像が推論アルゴリズムに入力され、推論アルゴリズムが画像から支援情報を推論する。そして、支援情報とアノテーション情報が近づくように、推論アルゴリズムのパラメータに対してフィードバックを行う。画像とアノテーション情報の複数のセットを用いて、上記フィードバックを繰り返すことで学習が行われる。
【0037】
学習処理を実行する環境は種々想定できる。例えば内視鏡装置10の処理部110が学習処理を実行し、それによって生成された学習済みモデルの情報が記憶部160に書き込まれてもよい。或いは、PC(Personal Computer)等の情報処理装置が学習処理を実行し、それによって生成された学習済みモデルの情報が内視鏡装置10の記憶部160に書き込まれてもよい。
【0038】
なお本明細書において「病変」とは、病変の可能性があると支援情報生成部121により検出された部位のことであり、実際に病変であるか否かは医師が判断する。即ち、支援情報生成部121が検出した「病変」は病変候補のことである。本明細書において、病変候補を単に病変又は病変部とも記載している。
【0039】
2.第1実施形態
以下、観察目的に応じて照明光を最適化する手法を説明する。第1実施形態では、支援情報に基づいて存在診断モードから質的診断モードに自動的に切り替えが行われる。上述したように表示用照明光と支援用照明光とが時分割に出射されるが、存在診断モードと質的診断モードの各々において、支援用照明光が最適な分光特性に設定される。
【0040】
まず各モードにおける発光シーケンス及び撮像シーケンスについて説明する。また支援情報の内容と支援情報の表示手法等について説明する。
【0041】
図2は、存在診断モードにおける発光シーケンス及び撮像シーケンスを示す図である。撮像素子の駆動シーケンスにおいて、画像信号が読み出される読み出し期間Trdと、被写体が撮像される露出期間TEとが繰り返される。フレームレート60Hzで表示画像を表示させる場合、期間Trd、TEの繰り返しレートは120Hzである。
【0042】
光源制御部151は、露出期間TEに対応した期間TH、TAIにおいて光源部140から照明光を出射させる。期間THにおいて、光源制御部151は、表示用照明光として白色光Wを光源部140から出射させる。白色光は表示用照明光である。期間TAIにおいて、光源制御部151は、支援用照明光としてアンバー光A及び紫色光Vを光源部140から出射させる。光源制御部151は、白色光と、アンバー光A及び紫色光Vとを、交互に光源部140から出射させる。
【0043】
紫色光は、粘膜の表層血管又は腺管構造の特徴を取得するのに適した光である。アンバー光は、粘膜の深部血管又は発赤、炎症等の特徴を取得するのに適した光である。即ち、支援情報生成部121は、粘膜の表層血管又は腺管構造の特徴に基づいて検出可能な病変、或いは、粘膜の深部血管又は発赤、炎症等の特徴に基づいて検出可能な病変を、支援情報として検出する。存在診断モードでは、紫色光及びアンバー光を用いることで、癌及び炎症性疾患等、幅広い病変の存在を検出することが可能となっている。
【0044】
図3は、表示画像の生成処理を説明する図である。画像生成部111は、
図2の期間THにおいて撮像された画像信号から通常画像を生成する。通常画像は白色光画像である。
【0045】
また画像生成部111は、
図2の期間TAIにおいて撮像された画像信号から支援用画像を生成する。支援用画像は、アンバー光及び紫色光で照明された被写体が撮像された画像である。支援情報生成部121は、支援用画像から支援情報を生成する。
図3において、支援用画像の左下に示すハッチング部分が病変であり、その輪郭が支援情報として検出される。
図3では病変の輪郭を点線で示している。なお画像生成部111が支援用画像を生成せずに、期間TAIにおいて撮像された画像信号が直接に支援情報生成部121に入力されてもよい。
【0046】
画像生成部111は、通常画像を表示画像とし、更に病変の輪郭を示す表示を表示画像にスーパーインポーズする。この支援情報が加えられた表示画像が表示部300に表示される。内視鏡装置10を用いる医師等は、この表示画像を見ることで、病変候補の位置又は輪郭等を認識することができる。医師等は、通常画像において病変がどのように見えるのかを経験又は学習によって習得している。このため、通常画像を表示画像とし、それに支援情報を加えることによって、医師が病変を観察及び診断しやすくなる。
【0047】
次に質的診断モードにおける発光シーケンス等を説明する。質的診断モードとして複数の診断モードを設けることが可能である。第1実施形態では、NBI(Narrow Band Imaging)モードと疑似染色モードが設けられている。
【0048】
図4は、NBIモードにおける発光シーケンス及び撮像シーケンスを示す図である。なお
図2と同じ内容について説明を省略する。
【0049】
NBIモードでは、期間TAIにおいて光源制御部151は紫色光V及び緑色光Gを光源部140から出射させる。紫色光Vと緑色光Gの組み合わせはNBIに用いられるものである。但し、紫色光Vと緑色光Gの光量比は、AIによる推論処理にとって適切なものであればよく、通常のNBIにおける光量比である必要はない。
【0050】
NBIモード等の質的診断モードにおける支援情報は、存在診断モードにおいて検出された病変に関する質的な支援情報である。質的な支援情報は、例えば病変の進行度、又は症状の程度、病変の範囲、又は病変と正常部位の境界等、病変の診断に用いられる種々の情報を想定できる。例えば、学会等が策定した分類基準に沿った分類を学習済みモデルに学習させ、その学習済みモデルによる分類結果を支援情報としてもよい。
【0051】
NBIモードでは、支援情報生成部121は、NBIモードに対応した学習済みモデルに基づく処理により質的な支援情報を生成する。NBIモードにおける質的な支援情報は、各種のNBI分類基準に従って分類された分類結果である。NBI分類基準としては、例えば胃の病変分類基準であるVSclassification、又は大腸の病変分類基準であるJNET、NICE分類、EC分類等がある。
【0052】
図5は、疑似染色モードにおける発光シーケンス及び撮像シーケンスを示す図である。なお
図2等と同じ内容について説明を省略する。
【0053】
疑似染色モードでは、期間TAIにおいて処理部110が測距センサ215を用いて被写体を測距する。具体的には、処理部110は、測距により被写体表面の凹凸情報を取得する。凹凸情報は例えば深度マップ等である。支援情報生成部121は、測距結果に基づいて支援情報を生成する。支援情報は、疑似染色を示す情報であり、例えば各画素における染色の濃淡を示す情報である。薬剤散布による染色では、被写体表面の凹部が濃く染色される。支援情報生成部121は、薬剤散布による染色を再現するような疑似染色の支援情報を生成する。
【0054】
画像生成部111は、表示用照明光を用いて撮像された通常画像を、支援情報に基づいて染色処理することで、表示画像を生成する。即ち、画像生成部111は、支援情報が示す各画素の濃淡に従って、各画素に色を加算する。例えばインジゴカルミンの疑似染色では、インジゴカルミンを模した青色により疑似染色を行う。
【0055】
支援情報生成部121は、支援情報に基づいて染色処理された表示画像から、質的な支援情報を生成する。疑似染色モードに対応した学習済みモデルは、染色処理された画像と、その画像に対して医師等のエキスパートが付したアノテーション情報とを教師データとして、学習されている。支援情報生成部121は、その学習済みモデルを用いて疑似染色画像から支援情報を生成する。アノテーションに際しては、色素散布による染色を用いた種々の分類基準を用いることができる。支援情報生成部121が生成する支援情報は、学習に用いられた分類基準に沿った分類結果である。
【0056】
次に、支援情報に基づいて存在診断モードから質的診断モードに自動的に切り替える手法を説明する。
図6は、存在診断モードから質的診断モードに切り替える際に処理部110が行う処理の手順を示すフローチャートである。
【0057】
ステップS1において、モード判定部152は存在診断モードを設定する。光源制御部151は、白色光と、アンバー光A及び紫色光Vとを、時分割に光源部140から出射させる。支援情報生成部121は、存在診断モードに対応した学習済みモデルに基づく処理により支援情報を生成する。
【0058】
次にステップS2において、モード判定部152は、支援情報が示す病変が注目エリア内において所定面積以上であるか否かを判断する。病変が所定面積以上である場合には、ステップS3においてモード判定部152は質的診断モードのうちNBIモードを設定する。病変が所定面積以上でない場合には、ステップS1に戻る。
【0059】
図7は、存在診断モードから質的診断モードに移行するか否かを判断する手法を説明する図である。IMGは存在診断モードにおいて撮像された画像であり、その画像内のハッチングは管腔状の被写体を模式的に示すものである。IMG内の右上が管腔の奥であり、左下に行くほど壁面と撮像部の距離が近くなっている。支援情報生成部121が、IMGの下部、即ち管腔の壁面に病変BYHを検出したとする。実線の楕円は、支援情報生成部121が生成した支援情報であり、ここでは病変BYHの輪郭である。
【0060】
ATAは注目エリアである。例えば、内視鏡装置10を操作する医師が操作部600を用いて注目エリアを設定してもよい。注目エリアATAは画像IMG内において任意の位置及び面積に設定可能である。
図7では画像IMGの下部領域に注目エリアATAが設定されている。モード判定部152は、注目エリアATA内において病変BYHの面積を求め、その面積が所定値以上であるか否かを判断する。例えば、モード判定部152は、注目エリアATAと病変BYHとが重なっている部分の画素数をカウントする。モード判定部152は、その画素数が所定値以上であるか否かを判断する。或いは、モード判定部152は、カウントした画素数と、注目エリアATAの画素数との比を求め、その比が所定値以上であるか否かを判断する。モード判定部152は、病変BYHの面積が所定値以上であると判断したとき、存在診断モードから質的診断モードのNBIモードに移行させる。例えば、内視鏡装置10を操作する医師が操作部600を用いて、面積判定のための所定値を設定してもよい。
【0061】
ステップS3のNBIモードにおいて、光源制御部151は、白色光Wと、紫色光V及び緑色光Gとを、時分割に光源部140から出射させる。支援情報生成部121は、NBIモードに対応した学習済みモデルに基づく処理により支援情報を生成する。支援情報生成部121は、存在診断モードにおいて検出した病変に関する質的な支援情報を生成する。
【0062】
次にステップS4において、モード判定部152は、支援情報生成部121が生成した質的な支援情報に基づいて、更に精査が必要か否かを判断する。精査が必要でないと判断された場合、ステップS2に戻る。精査が必要であると判断された場合、ステップS5においてモード判定部152は質的診断モードのうち疑似染色モードを設定する。
【0063】
疑似染色モードにおいて、白色光Wによる照明と測距とが、時分割に行われる。支援情報生成部121は、疑似染色モードに対応した学習済みモデルに基づく処理により支援情報を生成する。画像生成部111は、支援情報に基づいて表示画像に染色処理を行う。支援情報生成部121は、支援情報に基づいて染色処理された表示画像から、質的な支援情報を生成する。即ち、染色を用いた分類基準に沿った病変の分類結果が、支援情報として生成される。
【0064】
次にステップS6において、ステップS5で検出された病変が注目エリア内において所定面積以上であるか否かを判断する。判断手法はステップS2と同じである。病変が所定面積以上である場合には、ステップS5に戻る。病変が所定面積以上でない場合には、ステップS1に戻る。
【0065】
図8は、質的診断モードにおける自動分類の一例を示す。
図8には、JNET分類基準を用いた自動分類のフローを示す。このフローは
図6のステップS3~S5において実行される。
【0066】
学習段階においては、JNETに基づいて医師が画像に分類結果をタグ付けする。即ち、医師等は、ポインティングデバイス等を用いて、画像に含まれる病変部分を囲む等することで、病変の位置又は輪郭と、その病変の分類とをタグ付けする。そして、そのタグ情報と画像とを教師データとして学習済みモデルが生成される。内視鏡装置を用いた診断時には、上記学習済みモデルにより推論処理が行われることで以下の自動分類が実現される。即ち、推論処理によって、病変の位置又は輪郭と、その病変の分類とが支援情報として生成される。
【0067】
図8に示すように、NBIモードにおいて、支援情報生成部121は、存在診断モードにおいて検出された病変をType1、Type2A、Type2B、Type3に分類する。これらのTypeは粘膜の血管パターン及び粘膜の表面構造によって特徴付けられた分類である。支援情報生成部121は、病変がType1である確率と、病変がType2Aである確率と、病変がType2Bである確率と、病変がType3である確率と、を出力する。なお、最終的な分類結果だけでなく、この段階における分類結果を文字等で表示画像に表示させるようにしてもよい。
【0068】
支援情報生成部121は、NBIモードにおける分類結果に基づいて、病変の判別が困難であるか否かを判断する。
【0069】
即ち、Type1、Type2Aである確率が同程度である場合、支援情報生成部121は、判別困難であると判断する。この場合、モード判定部152は、インジゴカルミン染色を疑似的に再現する疑似染色モードを設定する。この疑似染色モードにおいて、支援情報生成部121は疑似染色画像に基づいて病変を過形成性ポリープ又は低異型度粘膜内腫瘍に分類する。これらの分類は、インジゴカルミン染色画像におけるピットパターンによって特徴付けられた分類である。一方、Type1である確率がしきい値以上である場合には、支援情報生成部121は病変を過形成性ポリープに分類し、モード判定部152は疑似染色モードに移行させない。またType2Aである確率がしきい値以上である場合には、支援情報生成部121は病変を過形成性ポリープに分類し、モード判定部152は疑似染色モードに移行させない。
【0070】
Type2A、Type2Bである確率が同程度である場合、支援情報生成部121は、判別困難であると判断する。この場合、モード判定部152は、クリスタルバイオレット染色を疑似的に再現する疑似染色モードを設定する。この疑似染色モードにおいて、支援情報生成部121は疑似染色画像に基づいて病変を低異型度粘膜内腫瘍又は高異型度粘膜内腫瘍又は粘膜下層軽度浸潤癌に分類する。これらの分類は、クリスタルバイオレット染色画像におけるピットパターンによって特徴付けられた分類である。
【0071】
以下、詳細は省略するが、Type2Bと判断された場合には、クリスタルバイオレット染色を疑似的に再現する疑似染色モードが設定され、病変が高異型度粘膜内腫瘍又は粘膜下層軽度浸潤癌に分類される。Type2B、Type3が判別困難である場合には、クリスタルバイオレット染色を疑似的に再現する疑似染色モードが設定され、病変が高異型度粘膜内腫瘍又は粘膜下層軽度浸潤癌又は粘膜下層深部浸潤癌に分類される。Type2Bと判断された場合には、病変が粘膜下層深部浸潤癌に分類され、疑似染色モードに設定に移行されない。
【0072】
画像生成部111は、上記分類結果と、検出された病変の位置又は輪郭を支援情報として表示画像に加え、その表示画像を表示部300に表示させる。
【0073】
なお第1実施形態ではモードに応じて支援用照明光の分光特性を変化させているが、これに限定されず、モードに応じて支援用照明光の光量又は配光特性、照射タイミングを変化させてもよい。例えば存在診断モードにおいて検出された病変部が適切な明るさで検出されるように、診断支援モードにおいて光量を設定してもよい。或いは、存在診断モードにおいて検出された病変部が適切に照明されるように、診断支援モードにおいて配光特性を設定してもよい。例えばスコープ部200の先端に複数の照明レンズを設け、各照明レンズから射出される光量を制御することで、配光を変化させることができる。照射タイミングを変化させる例は、例えば第2実施形態の
図9で後述する。
図9では、支援用照明光が期間TAI1、TAI2の2つのタイミングで出射される。
【0074】
以上に説明した実施形態の内視鏡装置10は、光源部140と撮像部213と処理部110とを含む。光源部140は、出射する照明光の分光特性及び光量、配光特性、照射タイミングのうち少なくとも1つを含む照明特性を変更可能である。撮像部213は、照明光により照明された被写体を撮像し、画像信号を出力する。処理部110は、診断又は処置を支援する支援情報に基づいて照明特性を設定する。処理部110は、照明特性が第1照明特性であるとき、画像信号に基づいて生成された第1支援情報に基づいて、照明特性を第2照明特性に変更する。
【0075】
これにより、AIの推論処理にとって最適な照明特性となるように、照明光を最適化することができので、支援情報を高精度に推定できるようになり、その高精度な支援情報を医師等に提示できる。具体的には、観察目的に対して必要な支援情報を出力するAIを用いることが想定される。このとき、そのAIの推論処理にとって最適な照明光を、光源部140から出射させることができる。これにより、観察目的に応じた支援情報を高精度に推定できる。
【0076】
なお、第1実施形態においては、第1照明特性は存在診断モードにおけるアンバー光A及び紫色光Vであり、第2照明特性はNBIモードにおける紫色光V及び緑色光Gであり、第1支援情報は存在診断モードにおいて検出された病変の位置又は輪郭であり、第2支援情報はNBIモードにおける病変の分類結果である。
【0077】
また本実施形態では、処理部110は、画像信号に基づいて支援情報を生成する。即ち、処理部110は、照明特性が第1照明特性であるとき、画像信号に基づいて第1支援情報を生成し、照明特性が第2照明特性であるとき、画像信号に基づいて、第1支援情報とは診断又は処置の内容が異なる第2支援情報を生成する。
【0078】
但し、
図15に示すように、支援情報を生成する支援情報生成部を内視鏡装置10の外部に設けてもよい。
図15の内視鏡装置システムは、内視鏡装置10と情報処理システム400とを含む。
図15では内視鏡装置10の処理部110が支援情報生成部121を含んでおらず、内視鏡装置10がインターフェース170を更に含んでいる。情報処理システム400はインターフェース470と記憶部460と処理部410とを含み、処理部410は支援情報生成部421を含む。
【0079】
支援情報生成部421と記憶部460は
図1の支援情報生成部121と記憶部160に対応する。即ち、インターフェース170とインターフェース470を介して撮像部213から画像信号が支援情報生成部421に入力される。支援情報生成部421は、記憶部460に記憶された学習済みモデルに基づく推論処理を行うことで、画像信号から支援情報を生成する。支援情報は、インターフェース470とインターフェース170を介して、モード判定部152に入力される。モード判定部152が支援情報に基づいて判断モードを切り替え、その判断モードの情報がインターフェース170とインターフェース470を介して支援情報生成部421に入力される。
【0080】
インターフェース170、470としては、種々の通信インターフェースを想定できる。例えばインターフェース170、470は、LAN又はWAN等によるネットワーク接続を行うためのインターフェースであってもよい。或いは、インターフェース170、470は、USB等の有線通信を行うためのインターフェース、或いは近接無線通信等の無線通信を行うためのインターフェースであってもよい。情報処理システム400は、例えば、PC又はサーバー等の情報処理装置であってもよい。或いは、情報処理システム400は、ネットワークにより接続された複数の情報処理装置が情報処理を行うクラウドシステムであってもよい。この場合、クラウドシステムに含まれる複数の情報処理装置が行う情報処理によって、処理部410の機能が実現される。
【0081】
また本実施形態では、処理部110は、支援情報の生成処理における判断モードが第1判断モードであるとき、第1照明特性を設定し、第1支援情報を生成する。処理部110は、第1支援情報に基づいて、判断モードを第2判断モードに切り替える。処理部110は、第2判断モードにおいて、第2照明特性を設定し、第2支援情報を生成する。
【0082】
これにより、第1支援情報に基づいて、自動的に、第1判断モードから第2判断モードに移行させ、それに伴って各判断モードに対応した照明特性の照明光を出射できる。このようにすれば、各判断モードに最適な照明特性の照明光を出射することが可能となり、各判断モードにおいて高精度又は最適な支援情報を生成し、その支援情報を医師等に提示できるようになる。
【0083】
また本実施形態では、処理部110は、第1支援情報が所定条件を満たすか否かの判断を行う。処理部110は、第1支援情報が所定条件を満たしたと判断したとき、第1判断モードから第2判断モードに切り替える。
【0084】
これにより、第1判断モードにおいて第1支援情報が所定条件を満たしたとき、自動的に、第1判断モードから第2判断モードに移行させることができる。
【0085】
また本実施形態では、第1判断モードは、被写体に含まれる病変候補の存在を診断する存在診断モードである。第1支援情報は、病変候補の存在を示す情報である。第2判断モードは、病変候補の状態を診断する質的診断モードである。第2支援情報は、病変候補の状態を示す情報である。
【0086】
これにより、存在診断モードにおいて第1支援情報に基づいて、自動的に、存在診断モードから質的診断モードに移行させることができる。存在診断モードから質的診断モードに自動的に移行させることで、病変の存在だけでなく、その病変の質的な情報を自動的に医師等に提示できるようになる。これにより、医師が病変を診断する際に有用な質的な支援情報を自動的にモニター表示できる。
【0087】
また本実施形態では、処理部110は、第1支援情報に含まれる病変候補の面積が所定値以上であること、又は、撮像部の観察倍率が所定値以上であることという所定条件を、第1支援情報が満たすか否かの判断を行う。処理部110は、第1支援情報が所定条件を満たしたと判断したとき、第1判断モードから第2判断モードに切り替える。
【0088】
医師が病変に着目してスコープ部200を病変に近づけた場合、病変候補の面積が所定値以上になると想定できる。又は、医師が病変を観察しようとしたとき拡大観察を行う。このため、病変候補の面積が所定値以上である場合、又は撮像部の観察倍率が所定値以上である場合に、診断支援モードに移行させることで、医師が着目する病変に関する質的な支援情報を医師に提供できる。
【0089】
また本実施形態では、病変候補は、腫瘍候補である。
【0090】
本実施形態によれば、存在診断モードにおいて腫瘍候補が検出され、その腫瘍候補が上記所定条件を満たしたときに質的診断モードに移行できる。これにより、例えば腫瘍の種類等、腫瘍候補の質的な支援情報を医師に提示できる。なお病変は腫瘍に限定されず、生体において非正常な領域であればよい。例えば病変は、炎症又は出血領域等であってもよい。
【0091】
第1判断モードにおいて、第1照明特性の照明光は、複数色の光のうち少なくとも1つの光である第1グループの光を含む。第2判断モードにおいて、第2照明特性の照明光は、複数色の光のうち少なくとも1つの光であり且つ第1グループとは異なる第2グループの光を、含む。
【0092】
このようにすれば、第1判断モードにおける照明光の分光特性と、第2判断モードにおける照明光の分光特性とを、異ならせることができる。これにより、各判断モードにおいて最適な分光特性の照明光を用いて、支援情報を生成できる。なお、グループは、1色の光である場合も含む。また、第1グループの光と、第2グループの光は、一部が異なっていればよく、重複部分があってもよい。例えば
図2と
図4の例では、第1グループがA、Vであり、第2グループがV、Gである。この例では、Vが重複しているが、色の組み合わせが異なっている。
【0093】
また本実施形態では、複数色の光は、紫色光及びアンバー光、緑色光を含む。
【0094】
このようにすれば、紫色光又は緑色光により粘膜表層血管の情報が得られ、その情報から支援情報を抽出できる。但し、紫色光は緑色光に比べてより浅い血管の情報を取得可能である。またアンバー光により粘膜深層血管の情報、又は血だまり等におけるヘモグロビン濃度の情報が得られ、それらの情報から支援情報を抽出できる。
【0095】
また本実施形態では、判断モードは、被写体に含まれる病変候補の存在を診断する存在診断モード、又は病変候補の状態を診断する質的診断モードである。又は、判断モードは、処置を支援する処置支援モードであってもよい。処置支援モードについては、後述の実施形態において説明する。
【0096】
質的診断モードにおける照明光は、存在診断モードにおける照明光に含まれない、炎症又は中層血管、深層血管観察用の光を含む。この照明光は、存在診断モードにおける照明光よりも長波長の光を含む。具体的には、存在診断モードにおける照明光は、紫色光とアンバー光を含む。質的診断モードにおける照明光は、紫色光と緑色光を含む。又は、後述の実施形態において説明するように、質的診断モードにおける照明光は、緑色光とアンバー光と赤色光、又は測距用照明光を含んでもよい。
【0097】
このようにすれば、紫色光又は緑色光を用いることで、粘膜表層の血管をコントラスト良く撮影可能である。またアンバー光を用いることで、粘膜深部の血管、或いは出血領域における血液の濃淡などを、コントラスト良く撮影可能である。存在診断モードにおいて紫色光とアンバー光を用いることで、様々なタイプの病変候補を抽出できる。また質的診断モードにおいて紫色光と緑色光を組み合わせることで、NBI診断に沿った支援情報を得ることができる。また質的診断モードにおいて緑色光とアンバー光と赤色光を組み合わせることで、表層血管と深層血管の情報から、例えば潰瘍性大腸炎等の炎症性疾患に関する支援情報を得ることができる。また質的診断モードにおいて測距用照明光を用いることで、粘膜の形状又は構造の情報から例えば粘膜の状態或いは癌等の病変に関する支援情報を得ることができる。
【0098】
また、後述の実施形態において説明するように、処置支援モードにおける照明光は、支援情報の生成処理において病変範囲の抽出又は出血点の抽出に用いられる光を含んでもよい。具体的には、処置支援モードにおける照明光は、狭帯域光である紫色光及びアンバー光と測距用照明光とを含んでもよい。又は、処置支援モードにおける照明光は、赤色光と狭帯域光であるアンバー光とを含んでもよい。
【0099】
処置支援モードにおいて紫色光とアンバー光と測距用照明光を組み合わせることで、表層血管と深層血管の情報及び粘膜の形状又は構造の情報から病変範囲を支援情報として抽出できる。これにより、病変範囲を医師等に提示することが可能となり、例えば病変切除等の処置を支援することが可能となる。また処置支援モードにおいて赤色光とアンバー光とを組み合わせることで、ヘモグロビンの濃淡情報から血だまり等における出血点の情報を得ることができる。
【0100】
また本実施形態では、内視鏡装置10は、表示画像を表示する表示部300を含む。光源部140は、表示画像の生成に用いられる表示用照明光と、表示用照明光とは照明特性が異なる支援用照明光と、を時分割で照射する。処理部110は、表示用照明光が出射されたときの画像信号に基づいて、表示画像を生成する。処理部110は、支援用照明光が出射されたときの画像信号に基づいて、支援情報を生成する。そして処理部110は、支援情報に基づく表示内容を、表示画像に加える画像処理を行う。
【0101】
支援用照明光はAIによる推論処理に最適化されているので、必ずしも観察に適していない。本実施形態では、表示画像は支援用照明光とは異なる表示用照明光により撮像されているので、観察に適した表示画像を医師に提示できる。また、本実施形態によれば、支援情報生成部121が生成した支援情報に基づいて、その支援情報に対応した表示内容が表示部300に表示される。観察目的に応じて照明特性が最適化されているので、その照明光で撮像された画像から生成された高精度な支援情報を、医師に提示し、診断又は処置を支援できる。
【0102】
また本実施形態では、支援情報に基づく表示内容は、支援情報が示す注目部位の位置及び輪郭の少なくとも一方である。
【0103】
これにより、支援情報生成部121により検出された注目部位の位置及び輪郭の少なくとも一方を、表示部300に表示できる。例えば存在診断モードにおいて、位置及び輪郭の少なくとも一方を表示部300に表示させることで、病変候補の存在を医師に提示できる。
【0104】
また本実施形態では、処理部110は、支援用照明光の照明特性が第1照明特性であるとき、第1支援情報を生成し、第1支援情報に基づいて第1表示内容を表示画像に加える画像処理を行う。処理部110は、第1支援情報に基づいて、支援用照明光の照明特性を第2照明特性に変更し、第2支援情報を生成する。処理部110は、第2支援情報に基づいて、第1表示内容とは異なる第2表示内容を表示画像に加える画像処理を行う。
【0105】
これにより、照明特性が最適化された照明光によって得られる高精度な支援情報を、表示用照明光によって撮像された表示画像に表示させることができる。また、各照明特性に応じて異なる内容の支援情報が得られ、その支援情報を表示画像に表示させることができる。これにより、観察目的に応じた様々な支援情報を、観察に適した表示画像に重畳して、医師に提示できる。
【0106】
また本実施形態では、表示用照明光は、白色光である。支援用照明光は、紫色光及びアンバー光、緑色光のうち少なくとも1つを含む。
【0107】
このようにすれば、白色光画像を表示画像として表示部300に表示させ、その白色光画像に支援情報を加えて医師に提示できる。また、支援用照明光が紫色光及びアンバー光、緑色光のうち少なくとも1つを含むことで、観察目的に応じた照明特性を実現できる。即ち、紫色光又は緑色光を用いることで、粘膜表層の血管をコントラスト良く撮影可能である。またアンバー光を用いることで、粘膜深部の血管、或いは出血領域における血液の濃淡などを、コントラスト良く撮影可能である。或いは、観察目的に応じて、これらの光を組み合わせることが考えられる。例えば、NBI診断に沿った支援情報を得たい場合には、紫色光と緑色光を組み合わせればよい。
【0108】
また本実施形態では、内視鏡装置10は、学習済みモデルの情報を記憶する記憶部160を含む。学習済みモデルは、画像信号に対して支援情報を出力するように学習されたモデルである。処理部110は、学習済みモデルに基づく処理により、画像信号から支援情報を生成する。
【0109】
これにより、AIの推論処理により画像信号から支援情報を生成できる。医師等のエキスパートが作成した教師データにより学習済みモデルを学習させておくことで、エキスパートの知見を反映させた学習済みモデルを生成できる。このような学習済みモデルを用いることで、エキスパートの知見に基づく支援情報を、内視鏡装置10のユーザーに提供できる。
【0110】
上述したように、学習済みモデルはニューラルネットワークを含むことができる。ニューラルネットワークとして、公知の様々なAI(Artificial Intelligence)技術を採用できる。ニューラルネットワークを利用するためには、学習や推論アルゴリズムを実行するためのソフトウェア開発を行う必要があるが、市販化、無償公開されたソフトウェアパッケージも現在複数入手可能であり、それらを利用することもできる。また、ニューラルネットワークにおける機械学習のアルゴリズムとして、公知の種々な学習アルゴリズムを採用でき、例えば誤差逆伝播法を用いた教師有り学習アルゴリズムを採用できる。
【0111】
また本実施形態では、記憶部160は、第1学習済みモデルと第2学習済みモデルの情報を記憶する。第1学習済みモデルは、照明特性が第1照明特性であるときの画像信号に対して第1支援情報を出力するように学習されたモデルである。第2学習済みモデルは、照明特性が第2照明特性であるときの画像信号に対して第2支援情報を出力するように学習されたモデルである。処理部110は、照明特性が第1照明特性であるとき、第1学習済みモデルに基づく処理により第1支援情報を生成する。処理部110は、照明特性が第2照明特性であるとき、第2学習済みモデルに基づく処理により第2支援情報を生成する。
【0112】
本実施形態によれば、各照明特性に対応した学習済みモデルを用意しておくことで、観察目的に応じた学習済みモデルを用いて支援情報を生成できる。即ち、照明特性だけでなく、AIも観察目的に応じて最適化されている。これにより、観察目的に応じた高精度な支援情報を医師に提示できる。
【0113】
以上に説明した内視鏡装置10の機能及び動作は、プログラムにより実現されてもよい。即ち、内視鏡装置10の機能及び動作が記述されたプログラムがメモリに記憶されており、そのプログラムをコンピュータが実行することで、内視鏡装置10の機能及び動作が実現されてもよい。コンピュータは、入力装置、及び処理部、記憶部、出力部を備える装置であり、例えばPC等の情報処理装置である。プログラムは、照明特性が第1照明特性であるときに撮像された画像信号に基づいて第1支援情報を生成し、第1支援情報に基づいて照明特性を第2照明特性に変更し、照明特性が第2照明特性であるときに撮像された画像信号に基づいて第2支援情報を生成するステップを、コンピュータに実行させる。
【0114】
また、本実施形態のプログラムは情報記憶媒体に記憶されてもよい。情報記憶媒体は、コンピュータにより読み取り可能な媒体である。情報記憶媒体としては、DVD又はCD等の光ディスク、ハードディスク、不揮発性メモリ又はROM等の半導体メモリなど、種々の記憶媒体を想定できる。コンピュータは、情報記憶媒体に格納されるプログラムとデータに基づいて本実施形態における種々の処理を行う。即ち情報記憶媒体には、本実施形態の内視鏡装置10としてコンピュータを機能させるためのプログラムが記憶される。
【0115】
3.第2実施形態
第2実施形態では、質的診断モードはUC炎症診断モードである。UCは潰瘍性大腸炎のことである。存在診断モードから質的診断モードへの移行手法は第1実施形態と同様であるため、以下ではUC炎症診断モードについて説明する。
【0116】
図9は、UC炎症診断モードにおける発光シーケンス及び撮像シーケンスを示す図である。なお
図2等と同じ内容について説明を省略する。
【0117】
光源制御部151は、期間TEにおいて白色光を光源部140から出射させる。UC炎症診断モードにおいて、支援用照明光は赤色光R及び緑色光G、アンバー光Aである。光源制御部151は、期間TAI1において赤色光R及び緑色光Gを光源部140から出射させ、期間TAI2においてアンバー光Aを光源部140から出射させる。期間TE、TAI1、TAI2が繰り返されることで、上記照明光が時分割に出射される。なお、赤色光Rとアンバー光Aは共に赤色領域に属しており、例えば原色ベイヤ型イメージャにおいて赤色フィルタを通過する。このため、赤色光Rとアンバー光Aが時分割に出射される。赤色光Rとアンバー光Aの出射順は逆でもよい。
【0118】
赤色光R及び緑色光G、アンバー光Aの組み合わせは、粘膜深層の血管を撮像するのに適した照明光である。UC炎症診断モードにおける質的な支援情報は、深層血管視認性に基づく診断結果又は分類結果である。なお、視認性は実際に人が見ることを意味せず、例えば画像における深層血管のコントラスト等のことである。例えば、支援情報生成部121は、深層血管のコントラストを数値化した炎症度を支援情報として生成する。
【0119】
図10は、UC炎症診断モードにおける支援情報の表示例である。画像生成部111は、白色光により撮像された通常画像IMG2に、支援情報生成部121が生成した炎症度の情報SJHをスーパーインポーズする。例えば、炎症度の数値が50である場合、画像生成部111は、「炎症度50」の文字を通常画像IMG2の下部に表示させる。支援情報生成部121が判定した数値に応じて、炎症度の数値が変化する。医師等は、表示された通常画像と炎症度の数値を参考にして、UCの炎症度を診断できる。
【0120】
4.第3実施形態
第3実施形態では、処置支援モードを設定可能である。第3実施形態における処置支援モードは、病変の切除範囲を推定する範囲診断モードである。例えば、操作部600からの入力に基づいて範囲診断モードが選択される。或いは、第1実施形態における存在診断モードから質的診断モードへの自動移行と同様の手法により、存在診断モードから範囲診断モードに移行させてもよい。或いは、質的診断モードから範囲診断モードへ移行させてもよい。例えば
図6のステップS6において病変面積が所定値以上であると判断されたときに範囲診断モードへ移行するようにしてもよい。
【0121】
図11は、範囲診断モードにおける発光シーケンス及び撮像シーケンスを示す図である。なお
図2等と同じ内容について説明を省略する。
【0122】
期間TAIにおいて、光源制御部151はアンバー光A及び紫色光Vを光源部140から出射させる。また期間TAIにおいて、処理部110は測距センサ215を用いて被写体を測距する。即ち、処理部110は、被写体表面の凹凸情報を示す深度マップ等を生成する。
【0123】
支援用照明光であるアンバー光A及び紫色光Vは、存在診断モードにおける支援用照明光と同じである。支援情報生成部121は、存在診断モードと同様な学習済みモデルを用いて、病変の位置又は輪郭を検出する。
【0124】
図12は、範囲診断モードにおける表示画像の例である。画像生成部111は、支援情報生成部121が検出した病変BYHの位置又は輪郭を、表示画像IMG3に表示させる。
【0125】
また、支援情報生成部121は、測距により得られた被写体表面の凹凸情報と、上記で検出された病変BYHの位置又は輪郭に基づいて、病変の切除範囲SJHを推定する。この推定には、切除範囲を学習した学習済みモデルが用いられる。即ち、学習済みモデルは、病変が撮像された画像と、その画像に医師等のエキスパートが切除範囲をアノテーションしたアノテーション情報と、を教師データとして学習されている。画像生成部111は、支援情報生成部121が推定した切除範囲SJHを表示画像IMG3に表示させる。以上のように、病変BYHの位置又は輪郭と、切除範囲SJHとが、支援情報として表示画像IMG3に表示される。
【0126】
内視鏡装置10を用いる医師等は、病変BYH及び切除範囲SJHが表示された表示画像IMG3を参考にして、切除範囲SJHを決定できる。内視鏡を用いた病変切除の手法として、例えば内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic Submucosal Dissection)を想定できる。この手法では、切除範囲の外周にマーキングを行うが、そのマーキングの際に、表示画像IMG3に表示された切除範囲SJHを参考にできる。
【0127】
5.第4実施形態
第4実施形態では、処置支援モードは、出血点を自動認識する出血点認識モードである。出血点認識モードは、止血処置の際に用いられる。例えば、操作部600からの入力に基づいて出血点認識モードが選択される。或いは、存在診断モードから出血点認識モードへ自動移行させてもよい。例えば、存在診断モードで用いられる学習済みモデルに対して、血だまり等の出血領域が存在する画像を学習させておく。上述したESDにおいて粘膜下層を剥離した際に、剥離後の凹部に血だまりが発生する。そのような画像を教師データとして学習を実行しておいてもよい。これにより、ESDにおいて画像内に血だまりが発生したときに存在診断モードから出血点認識モードへ自動移行させてもよい。
【0128】
図13は、出血点認識モードにおける発光シーケンス及び撮像シーケンスを示す図である。なお
図2等と同じ内容について説明を省略する。
【0129】
期間TAI1において、光源制御部151は赤色光Rを光源部140から出射させ、期間TAI2において、光源制御部151はアンバー光Aを光源部140から出射させる。赤色光Rとアンバー光Aの出射順は逆でもよい。
【0130】
図14は、出血点認識モードにおける表示画像の例である。白色光画像である通常画像において血だまりは赤色又は暗い赤色等に見える。ハッチング部分が血だまりを示す。出血点は血だまりの底に存在している。送気送水管からの送水によって血と水が混ざった状態では、出血点付近でヘモグロビン濃度が濃くなっているが、白色光ではヘモグロビン濃淡のコントラストが見えにくいため、通常画像において出血点を視認しにくい。
【0131】
赤色光R及びアンバー光Aにより撮像された支援用画像では、血だまりはオレンジ色等である。赤色光Rの波長領域ではヘモグロビンにほとんど吸光されないが、600nm付近のアンバー光Aはある程度ヘモグロビンに吸光される。このため、支援用画像では、ヘモグロビン濃淡のコントラストが出やすくなっている。出血点からの出血フローではヘモグロビン濃度が濃くなっており、その部分は周囲に比べてオレンジ色が濃くなる。
図14では、オレンジ色が濃くなった領域をSKTで示している。この領域SKTから出血点を推定することが可能である。
【0132】
出血点認識モードにおける学習済みモデルは、赤色光R及びアンバー光Aにより撮像された出血領域の画像と、その画像に対して医師等のエキスパートが出血点をアノテーションしたアノテーション情報と、を教師データとして学習されている。支援情報生成部121は、上記学習済みモデルを用いることで、血だまり及び上記の領域SKTが撮影された支援用画像から出血点の位置を検出する。この出血点の位置が、出血点認識モードにおける支援情報である。画像生成部111は、検出された出血点の位置を例えば矢印JYS等によって表示画像に表示させる。内視鏡装置10を用いる医師等は、表示画像に表示された矢印JYS等を参考にして、出血点を特定できる。
【0133】
以上、本発明を適用した実施形態およびその変形例について説明したが、本発明は、各実施形態やその変形例そのままに限定されるものではなく、実施段階では、発明の要旨を逸脱しない範囲内で構成要素を変形して具体化することができる。また、上記した各実施形態や変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって、種々の発明を形成することができる。例えば、各実施形態や変形例に記載した全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施の形態や変形例で説明した構成要素を適宜組み合わせてもよい。このように、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々の変形や応用が可能である。また、明細書又は図面において、少なくとも一度、より広義または同義な異なる用語と共に記載された用語は、明細書又は図面のいかなる箇所においても、その異なる用語に置き換えることができる。
【符号の説明】
【0134】
10 内視鏡装置、100 制御装置、110 処理部、111 画像生成部、121 支援情報生成部、140 光源部、141 光源駆動部、142 フィルタ部、151 光源制御部、152 モード判定部、160 記憶部、170 インターフェース、200 スコープ部、210 挿入部、211 照明レンズ、213 撮像部、214 ライトガイド、215 測距センサ、240 コネクタ、300 表示部、400 情報処理システム、410 処理部、421 支援情報生成部、記憶部 460、600 操作部、ATA 注目エリア、BYH 病変、DC1~DC4 ダイクロイックミラー、LDA,LDB,LDG,LDR,LDV 光源、LN1~LN6 レンズ、SS1~SS5 光センサ