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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-06
(45)【発行日】2022-09-14
(54)【発明の名称】樹脂改質剤
(51)【国際特許分類】
   C08F 8/46 20060101AFI20220907BHJP
   C08F 210/16 20060101ALI20220907BHJP
   C08L 23/02 20060101ALI20220907BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20220907BHJP
【FI】
C08F8/46
C08F210/16
C08L23/02
C08L23/26
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021509080
(86)(22)【出願日】2020-03-16
(86)【国際出願番号】 JP2020011364
(87)【国際公開番号】W WO2020196007
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-08-27
(31)【優先権主張番号】P 2019057526
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002288
【氏名又は名称】三洋化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】中田 陽介
(72)【発明者】
【氏名】樋口 晋太郎
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-117888(JP,A)
【文献】特表2013-507479(JP,A)
【文献】特開2004-307675(JP,A)
【文献】特開2003-201322(JP,A)
【文献】特開2015-108128(JP,A)
【文献】特開2015-083662(JP,A)
【文献】特開2014-028941(JP,A)
【文献】特開2017-197651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン(A)と不飽和カルボン酸(B)とを構成単位として含む酸変性ポリオレフィン(X)を含有してなり、前記ポリオレフィン(A)の構成単量体であるエチレンと炭素数3~8のα-オレフィンとの重量比[エチレン/炭素数3~8のα-オレフィン]が9/91~50/50であって、前記不飽和カルボン酸(B)は、不飽和モノカルボン酸、不飽和ポリカルボン酸、及び/又は不飽和ポリカルボン酸無水物であり、前記酸変性ポリオレフィン(X)が下記要件(1)~(3)のいずれも満たす樹脂改質剤(K):
(1)酸価が、1~100mgKOH/g;
(2)数平均分子量(Mn)が1,000~60,000;
(3)α-オレフィン部分のアイソタクティシティーが1~50%。
【請求項2】
前記ポリオレフィン(A)の数平均分子量が800~50,000である請求項1記載の樹脂改質剤(K)。
【請求項3】
前記ポリオレフィン(A)が、炭素数1,000個当たり0.5~20個の二重結合を有する請求項1又は2記載の樹脂改質剤(K)。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂改質剤(K)を含有してなるプラスチック成形品用プライマー。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂改質剤(K)と、ポリオレフィン樹脂(D)とを含有してなる熱可塑性樹脂組成物(Y)。
【請求項6】
前記樹脂改質剤(K)とポリオレフィン樹脂(D)との重量比[樹脂改質剤(K)/ポリオレフィン樹脂(D)]が0.1/99.9~50/50である請求項5記載の熱可塑性樹脂組成物(Y)。
【請求項7】
請求項5又は6記載の熱可塑性樹脂組成物(Y)を成形してなる成形品。
【請求項8】
請求項7記載の成形品に塗装及び/又は印刷を施してなる成形物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂改質剤に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂、例えば、ポリオレフィン樹脂は、成形性、剛性、耐熱性、耐薬品性、軽量性及び電気絶縁性等に優れ、フィルム、繊維、中空糸膜、その他さまざまな形状の成形品として幅広く使用されている。
一方で、例えば、ポリオレフィン樹脂は、接着性や塗装性等に課題があり、例えば、塗料、印刷インキ及び接着剤等に対する密着性が悪く、後加工の表面処理無しでは適用できない等の問題があった。
従来、密着性を向上する方法としては、熱可塑性樹脂、例えばポリオレフィン樹脂成形品の表面にコロナ処理又はプラズマ処理を施す方法(例えば特許文献1参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-319426号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記技術では、処理が煩雑であり、密着性についても十分に満足できるとは言えなかった。
本発明の目的は、熱可塑性樹脂に、塗料、印刷インキ及び接着剤等に対する優れた密着性を与える樹脂改質剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、本発明に到達した。すなわち、本発明は、ポリオレフィン(A)と不飽和カルボン酸(B)とを構成単位として含む酸変性ポリオレフィン(X)を含有してなり、前記ポリオレフィン(A)の構成単量体であるエチレンと炭素数3~8のα-オレフィンとの重量比[エチレン/炭素数3~8のα-オレフィン]が2/98~50/50であって、前記不飽和カルボン酸(B)は、不飽和モノカルボン酸、不飽和ポリカルボン酸、及び/又は不飽和ポリカルボン酸無水物であり、前記酸変性ポリオレフィン(X)が下記要件(1)~(3)のいずれも満たす樹脂改質剤(K);前記樹脂改質剤(K)を含有してなるプラスチック成形品用プライマー;前記樹脂改質剤(K)と、ポリオレフィン樹脂(D)とを含有してなる熱可塑性樹脂組成物(Y);前記熱可塑性樹脂組成物(Y)を成形してなる成形品;並びに前記成形品に塗装及び/又は印刷を施してなる成形物品である。
(1)酸価が、1~100mgKOH/g;
(2)数平均分子量(Mn)が1,000~60,000;
(3)α-オレフィン部分のアイソタクティシティーが1~50%。
【発明の効果】
【0006】
本発明の樹脂改質剤(K)は、以下の効果を奏する。
(1)基材密着性に優れる。
(2)溶剤溶解性に優れる。
(3)樹脂改質剤(K)を含む樹脂組成物の成形品に、優れた機械的強度(耐衝撃性、曲げ弾性等)を与える。
(4)樹脂改質剤(K)を含む樹脂組成物の成形品に、改質効果(濡れ性と、その持続性)を与える。
【発明を実施するための形態】
【0007】
<ポリオレフィン(A)>
本発明の樹脂改質剤(K)におけるポリオレフィン(A)は、エチレンと炭素数3~8のα-オレフィンとを構成単量体として含む。以下では、「炭素数3~8のα-オレフィン」を「α-オレフィン」と記載する。
上記α-オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテンが挙げられる。
なお、α-オレフィンは1種、2種又はそれ以上を併用してもよいが、1種が好ましい。
上記α-オレフィンのうち、成形品の機械的強度及び工業上の観点から、好ましいのはプロピレンである。
【0008】
ポリオレフィン(A)の構成単量体であるエチレンとα-オレフィンとの重量比[エチレン/α-オレフィン]は、2/98~50/50であり、好ましくは5/95~40/60であり、より好ましくは10/90~30/70である。
重量比[エチレン/α-オレフィン]が、2/98未満の場合、樹脂改質剤(K)が基材密着性に劣り、50/50を超えると成形品の機械的強度が劣る。
上記重量比[エチレン/α-オレフィン]は、例えば、H-MNR(核磁気共鳴分光法)により算出できる。
【0009】
上記ポリオレフィン(A)は、エチレン、α-オレフィン以外にその他の単量体を構成単量体としてもよい。その場合、ポリオレフィン(A)を構成する全単量体の重量に基づいて、その他の単量体の重量は、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下である。
上記その他の単量体としては、例えば、2-ブテン、イソブテン、炭素数(Cと略記することがある)9~30のα-オレフィン(1-デセン、1-ドデセン等)、α-オレフィン以外のC4~30の不飽和単量体(例えば、酢酸ビニル)が挙げられる。
【0010】
ポリオレフィン(A)の数平均分子量(Mn)は、成形品の機械的強度、樹脂改質剤(K)の基材密着性及び溶剤溶解性の観点から、好ましくは800~50,000であり、より好ましくは1,500~40,000、さらに好ましくは2,000~30,000である。
【0011】
本発明において、ポリオレフィン(A)のMnは、GPC(ゲルパーミエイションクロマトグラフィー)で測定することができる。
本発明におけるGPCによるMnの測定条件は以下のとおりである。
装置 :高温ゲルパーミエイションクロマトグラフ[「Alliance GPC V2000」、Waters(株)製]
検出装置 :屈折率検出器
溶媒 :オルトジクロロベンゼン
基準物質 :ポリスチレン
サンプル濃度:3mg/ml
カラム固定相:PLgel 10μm、MIXED-B 2本直列[ポリマーラボラトリーズ(株)製]
カラム温度 :135℃
【0012】
ポリオレフィン(A)の炭素数1,000個当たりの二重結合数[ポリオレフィン(A)の分子末端及び/又は分子鎖中の炭素-炭素の二重結合数]は、後述の不飽和カルボン酸(B)との反応性及び生産性の観点から、好ましくは0.5~20個であり、より好ましくは1.0~18個であり、さらに好ましくは1.5~15個である。
ここにおいて、該二重結合数は、ポリオレフィン(A)のH-NMRのスペクトルから求めることができる。すなわち、該スペクトル中のピークを帰属し、ポリオレフィン(A)の4.5~6ppmにおける二重結合由来の積分値及びポリオレフィン(A)由来の積分値から、ポリオレフィン(A)の二重結合数とポリオレフィン(A)の炭素数の相対値を求め、ポリオレフィン(A)の炭素1,000個当たりの該分子末端及び/又は分子鎖中の二重結合数を算出する。後述の実施例における二重結合数は該方法に従った。
【0013】
ポリオレフィン(A)のα-オレフィン部分のアイソタクティシティーは、樹脂改質剤(K)の基材密着性及び溶剤溶解性の観点から、好ましくは1~50%であり、より好ましくは5~45%であり、さらに好ましくは10~40%である。
上記ポリオレフィン(A)のα-オレフィン部分のアイソタクティシティーは、後述の酸変性ポリオレフィン(X)のα-オレフィン部分のアイソタクティシティーに、そのまま反映される傾向がある。
【0014】
上記アイソタクティシティーは、例えば、13C-NMR(核磁気共鳴分光法)を用いて算出することができる。一般的に、側鎖メチル基は、両隣(三連子、トリアッド)、その三連子の両隣(五連子、ペンタッド)、更にその五連子の両隣(七連子、ヘプタッド)程度までのメチル基との立体配置(メソ又はラセモ)の影響を受け、異なる化学シフトにピークが観測されることが知られている。そのため、立体規則性の評価はペンタッドについて行うことが一般的であり、本発明におけるアイソタクティシティーも、ペンタッドの評価に基づいて算出する。
即ち、α-オレフィンがプロピレンの場合、13C-NMRで得られるプロピレン中の側鎖メチル基由来の炭素ピークについて、ポリオレフィン(A)のα-オレフィン部分のペンタッド各ピーク(H)、ペンタッドがメソ構造のみで形成されるアイソタクティックのプロピレン中のメチル基由来のピーク(Ha)とした場合、アイソタクティシティーは、以下の式で算出される。
アイソタクティシティー(%)=[(Ha)/Σ(H)]×100 (1)
但し、式中、Haはアイソタクティック(ペンタッドがメソ構造のみで形成される)の信号のピーク高さ、Hはペンタッドの各ピーク高さである。
なお、後述の酸変性ポリオレフィン(X)のα-オレフィン部分のアイソタクティシティーについても上記同様に測定できる。
【0015】
本発明におけるポリオレフィン(A)の製造方法は、例えば、高分子量(好ましくはMnが60,000~400,000、より好ましくはMnが80,000~250,000)ポリオレフィン(A0)を熱減成する方法が挙げられる。
【0016】
熱減成法には、上記高分子量ポリオレフィン(A0)を(1)有機過酸化物不存在下、例えば300~450℃で0.5~10時間、加熱する方法、及び(2)有機過酸化物[例えば2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン]存在下、通常180~300℃で0.5~10時間、加熱する方法等が含まれる。
これらのうち工業的な観点及び樹脂改質剤(K)の改質特性の観点から、分子末端及び/又は分子鎖中の二重結合数のより多いものが得やすい(1)の方法が好ましい。
【0017】
上記ポリオレフィン(A)を構成する単量体であるエチレンとα-オレフィンとの重量比[エチレン/α-オレフィン]は、高分子量ポリオレフィン(A0)中のこれらの単量体の重量比[エチレン/α-オレフィン]が、そのまま維持される傾向がある。
また、熱減成温度が高い、又は熱減成時間が長いほど、炭素数1,000個当たりの二重結合数は、多くなる傾向がある。
さらに、高分子量ポリオレフィン(A0)のMnが大きい、熱減成温度が高い、又は熱減成時間が長いほど、ポリオレフィン(A)のMnは小さくなる傾向がある。
また、高分子量ポリオレフィン(A0)のアイソタクティシティーが大きいほど、ポリオレフィン(A)のアイソタクティシティーが大きい傾向がある。
ポリオレフィン(A)は、1種単独でも、2種以上併用してもよい。
【0018】
<不飽和カルボン酸(B)>
本発明の樹脂改質剤(K)における不飽和カルボン酸(B)は、不飽和モノカルボン酸、不飽和ポリカルボン酸及び/又は不飽和ポリカルボン酸無水物を意味する。
上記不飽和カルボン酸(B)は、重合性不飽和基を1個有するC3~24のモノカルボン酸、重合性不飽和基を1個有するC4~24のポリカルボン酸及び/又は重合性不飽和基を1個有するC4~24のポリカルボン酸無水物であることが好ましい。
該不飽和カルボン酸(B)のうち、不飽和モノカルボン酸としては、脂肪族モノカルボン酸(C3~24、例えばアクリル酸、メタクリル酸、α-エチルアクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸)、脂環含有モノカルボン酸(C6~24、例えばシクロヘキセンカルボン酸);不飽和ポリ(2~3又はそれ以上)カルボン酸又はその酸無水物としては、不飽和ジカルボン酸又はその酸無水物[脂肪族ジカルボン酸又はその酸無水物(C4~24、例えばマレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、及びこれらの酸無水物)、脂環含有ジカルボン酸又はその酸無水物(C8~24、例えばシクロへキセンジカルボン酸、シクロヘプテンジカルボン酸、ビシクロヘプテンジカルボン酸、メチルテトラヒドロフタル酸、及びこれらの酸無水物)等]等が挙げられる。不飽和カルボン酸(B)は1種単独でも、2種以上併用してもいずれでもよい。
上記不飽和カルボン酸(B)のうち、ポリオレフィン(A)との反応性及び後述の樹脂改質剤(K)の改質特性の点から好ましいのは、不飽和ジカルボン酸無水物、より好ましいのは無水マレイン酸である。
【0019】
<酸変性ポリオレフィン(X)>
本発明における酸変性ポリオレフィン(X)は、上記ポリオレフィン(A)と不飽和カルボン酸(B)とを構成単位として含む。
酸変性ポリオレフィン(X)におけるポリオレフィン(A)と不飽和カルボン酸(B)との重量比[ポリオレフィン(A)/不飽和カルボン酸(B)]は、成形品の機械的強度及び後述の樹脂改質剤(K)の改質効果と基材密着性のバランスの観点から、好ましくは80/20~99.5/0.5、より好ましくは90/10~99/1である。
【0020】
好ましくは、酸変性ポリオレフィン(X)は、上記ポリオレフィン(A)と不飽和カルボン酸(B)とを、ラジカル開始剤(C)の不存在下又は存在下で反応させてなる。
酸変性ポリオレフィン(X)は、より好ましくは、ラジカル開始剤(C)の存在下で、上記ポリオレフィン(A)及び不飽和カルボン酸(B)に、必要により適当な有機溶媒[例えばC3~18の炭化水素(ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ドデカン、ベンゼン、トルエン、キシレン等)、C3~18のハロゲン化炭化水素(ジ-、トリ-、又はテトラクロロエタン、ジクロロブタン等)、C3~18のケトン(アセトン、メチルエチルケトン、ジ-t-ブチルケトン等)、C3~18のエーテル(エチル-n-プロピルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、ジ-t-ブチルエーテル、ジオキサン等)]を加え反応させて製造することができる。
【0021】
なお、上記ラジカル開始剤(C)は、公知のもの、例えば、アゾ開始剤(アゾビスイソブチロニトリル、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)等)、過酸化物開始剤(ジクミルパーオキサイド等)が挙げられる。
上記ラジカル開始剤(C)のうち、過酸化物開始剤が好ましい。
【0022】
反応温度は、ポリオレフィン(A)、不飽和カルボン酸(B)の反応性及び生産性の観点から好ましくは100~270℃、より好ましくは120~250℃、さらに好ましくは130~240℃である。
【0023】
上記酸変性ポリオレフィン(X)は、下記要件(1)~(3)のいずれも満たす。
(1)酸価が、1~100mgKOH/g
(2)数平均分子量(Mn)が1,000~60,000
(3)α-オレフィン部分のアイソタクティシティーが1~50%
【0024】
要件(1):
酸変性ポリオレフィン(X)の酸価は、1~100mgKOH/g(以下数値のみを示す)、好ましくは3~75、より好ましくは5~50である。ここにおける酸価はJIS K0070に準じて測定される値である。酸価が1未満では樹脂改質剤(K)の改質特性が劣り、100を超えると酸変性ポリオレフィン(X)の生産性が劣る。
また、上記酸価は、ポリオレフィン(A)の有する二重結合数、ポリオレフィン(A)の重量、不飽和カルボン酸(B)の種類、重量で適宜、調整可能である。
【0025】
要件(2):
酸変性ポリオレフィン(X)のMnは、1,000~60,000、好ましくは2,000~50,000、より好ましくは3,000~40,000である。Mnが1,000未満では成形品の機械的強度が劣り、60,000を超えると樹脂改質剤(K)の改質特性が劣る。酸変性ポリオレフィン(X)のMnは、上述のポリオレフィン(A)のMnと同様にGPCで測定することができる。
また、上記酸変性ポリオレフィン(X)のMnは、ポリオレフィン(A)のMn、不飽和カルボン酸(B)の種類、量、ポリオレフィン(A)と不飽和カルボン酸(B)との反応の制御により、適宜、調整可能である。
【0026】
要件(3):
酸変性ポリオレフィン(X)のα-オレフィン部分のアイソタクティシティーは、1~50%であり、好ましくは5~45%、より好ましくは10~40%である。アイソタクティシティーが1%未満では基材密着性が劣り、50%を超えると溶剤溶解性が劣る。
また、酸変性ポリオレフィン(X)のα-オレフィン部分のアイソタクティシティーは、上記のとおり、ポリオレフィン(A)、高分子量ポリオレフィン(A0)のアイソタクティシティーにより、適宜、調整可能である。
【0027】
<樹脂改質剤(K)>
本発明の樹脂改質剤(K)は、上記酸変性ポリオレフィン(X)を含有してなる。該樹脂改質剤(K)は、種々の熱可塑性樹脂、とりわけ後述するポリオレフィン樹脂(D)用の改質剤として、好適に用いられる。
樹脂改質剤(K)は、基材密着性及び溶剤溶解性に優れるため、種々の用途に用いることができ、プラスチック成形品用プライマー、後述の熱可塑性樹脂組成物(Y)の成形品等に、優れた機械的強度、改質効果等を与える。樹脂改質剤(K)は、1種単独でも、2種以上併用してもよい。
樹脂改質剤(K)における上記酸変性ポリオレフィン(X)の含有量は、好ましくは50~100重量%、より好ましくは90~100重量%である。
【0028】
<プラスチック成形品用プライマー>
本発明のプラスチック成形品用プライマー[以下、プライマーと略記することがある]は、上記樹脂改質剤(K)を含有してなる。プラスチック成形品用プライマーは、好ましくは上記樹脂改質剤(K)と溶剤(S)とを含有してなる。溶剤(S)としては、公知の溶剤が挙げられるが、好ましくは芳香族炭化水素(トルエン、キシレン等)である。
溶剤(S)を含有する場合、該樹脂改質剤(K)と該溶剤(S)との重量比[樹脂改質剤(K)/溶剤(S)]は、好ましくは10/90~50/50、より好ましくは20/80~40/60である。
上記プラスチック成形品用プライマーにおける上記樹脂改質剤(K)の含有量は、好ましくは10~50重量%である。
また、該プライマーには、必要により、ポリオレフィン樹脂(D)やポリオレフィン樹脂(D)以外の樹脂を加えてもよい。
【0029】
<熱可塑性樹脂組成物(Y)>
本発明の熱可塑性樹脂組成物(Y)は、上記樹脂改質剤(K)と、ポリオレフィン樹脂(D)とを含有してなる。
ポリオレフィン樹脂(D)には、例えば、エチレン単位含有(プロピレン単位非含有)(共)重合体、プロピレン単位含有(エチレン単位非含有)(共)重合体、エチレン/プロピレン共重合体及びC4以上のオレフィンの(共)重合体等が含まれる。
【0030】
ポリオレフィン樹脂(D)と樹脂改質剤(K)の組合せとしては、ポリオレフィン樹脂(D)の構成単位と樹脂改質剤(K)を構成するポリオレフィン(A)の構成単位が同じか類似していることが、ポリオレフィン樹脂(D)と樹脂改質剤(K)との相溶性の観点から好ましい。このため、ポリオレフィン樹脂(D)としてはプロピレン単位含有(共)重合体が好ましく、とくにエチレン/プロピレン共重合体が好ましい。
【0031】
ポリオレフィン樹脂(D)のMnは、後述する本発明の成形品の機械的強度及び上記樹脂改質剤(K)との相溶性の観点から好ましくは10,000~500,000、より好ましくは20,000~400,000、さらに好ましくは80,000~300,000である。
【0032】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(Y)には、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要によりさらに種々の添加剤(F)を含有させることができる。
添加剤(F)としては、着色剤(F1)、難燃剤(F2)、充填剤(F3)、滑剤(F4)、帯電防止剤(F5)、分散剤(F6)、酸化防止剤(F7)、離型剤(F8)、抗菌剤(F9)、相溶化剤(F10)及び紫外線吸収剤(F11)からなる群から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0033】
着色剤(F1)としては、無機顔料[白色顔料、コバルト化合物、鉄化合物、硫化物等]、有機顔料[アゾ顔料、多環式顔料等]、染料[アゾ系、インジゴイド系、硫化系、アリザリン系、アクリジン系、チアゾール系、ニトロ系、アニリン系等]等が挙げられる。
【0034】
難燃剤(F2)としては、ハロゲン含有難燃剤、窒素含有難燃剤、硫黄含有難燃剤、珪素含有難燃剤、リン含有難燃剤等が挙げられる。
【0035】
充填剤(F3)としては、例えば無機充填剤(炭酸カルシウム、タルク、クレイ等)及び有機充填剤(尿素、ステアリン酸カルシウム等)等が挙げられる。
【0036】
滑剤(F4)としては、例えばステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ブチル、オレイン酸アミド、ポリオレフィンワックス、パラフィンワックス等が挙げられる。
【0037】
帯電防止剤(F5)としては、下記並びに米国特許第3,929,678及び4,331,447号明細書に記載の、非イオン性、カチオン性、アニオン性又は両性の界面活性剤が挙げられる。
(1)非イオン性界面活性剤
アルキレンオキサイド(AO)付加型ノニオニックス、例えば疎水性基(C8~24又はそれ以上)を有する活性水素原子含有化合物[飽和及び不飽和の、高級アルコール(C8~18)、高級脂肪族アミン(C8~24)及び高級脂肪酸(C8~24)等]の(ポリ)オキシアルキレン誘導体(AO付加物及びポリアルキレングリコールの高級脂肪酸モノ-又はジ-エステル);多価アルコール(C3~60)の高級脂肪酸(C8~24)エステルの(ポリ)オキシアルキレン誘導体(ツイーン型ノニオニックス等);高級脂肪酸(上記)の(アルカノール)アミドの(ポリ)オキシアルキレン誘導体;多価アルコール(上記)アルキル(C3~60)エーテルの(ポリ)オキシアルキレン誘導体;ポリオキシプロピレンポリオール[多価アルコール及びポリアミン(C2~10)のポリオキシプロピレン誘導体(プルロニック型及びテトロニック型ノニオニックス)];多価アルコール(上記)型ノニオニックス(例えば多価アルコールの脂肪酸エステル、多価アルコールアルキル(C3~60)エーテル及び脂肪酸アルカノールアミド);並びに、アミンオキシド型ノニオニックス[例えば(ヒドロキシ)アルキル(C10~18)ジ(ヒドロキシ)アルキル(C1~3)アミンオキシド]等。
【0038】
(2)カチオン性界面活性剤
第4級アンモニウム塩型カチオニックス[テトラアルキルアンモニウム塩(C11~100)、アルキル(C8~18)トリメチルアンモニウム塩及びジアルキル(C8~18)ジメチルアンモニウム塩等];トリアルキルベンジルアンモニウム塩(C17~80)(ラウリルジメチルベンジルアンモニウム塩等);アルキル(C8~60)ピリジニウム塩(セチルピリジニウム塩等);(ポリ)オキシアルキレン(C2~4)トリアルキルアンモニウム塩(C12~100)(ポリオキシエチレンラウリルジメチルアンモニウム塩等);及びアシル(C8~18)アミノアルキル(C2~4)若しくはアシル(C8~18)オキシアルキル(C2~4)トリ[(ヒドロキシ)アルキル(C1~4)]アンモニウム塩(サパミン型4級アンモニウム塩)[これらの塩としては、例えばハライド(クロライド及びブロマイド等)、アルキルサルフェート(メトサルフェート等)及び有機酸(C2~22)の塩が挙げられる];並びにアミン塩型カチオニックス:1~3級アミン〔例えば高級脂肪族アミン(C12~60)、脂肪族アミン(メチルアミン及びジエチルアミン等)のポリオキシアルキレン誘導体(EO[エチレンオキサイド]付加物等)及びアシルアミノアルキル若しくはアシルオキシアルキル(上記)ジ(ヒドロキシ)アルキル(上記)アミン(ステアロイロキシエチルジヒドロキシエチルアミン、ステアラミドエチルジエチルアミン等)〕の、無機酸(塩酸、硫酸、硝酸及びリン酸等)塩及び有機酸(上記)塩等。
【0039】
(3)アニオン性界面活性剤
高級脂肪酸(上記)塩(ラウリル酸ナトリウム等)、エーテルカルボン酸[EO(1~10モル)付加物のカルボキシメチル化物等]及びそれらの塩;硫酸エステル塩(アルキル及びアルキルエーテルサルフェート等)、硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステル及び硫酸化オレフィン;スルホン酸塩[アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、スルホコハク酸ジアルキルエステル型、α-オレフィン(C12~18)スルホン酸塩、N-アシル-N-メチルタウリン(イゲポンT型等)等];並びにリン酸エステル塩等(アルキル、アルキルエーテル及びアルキルフェニルエーテルホスフェート等)。
【0040】
(4)両性界面活性剤:
カルボン酸(塩)型アンフォテリックス[アミノ酸型アンフォテリックス(ラウリルアミノプロピオン酸(塩)等)及びベタイン型アンフォテリックス(アルキルジメチルベタイン及びアルキルジヒドロキシエチルベタイン等)等];硫酸エステル(塩)型アンフォテリックス[ラウリルアミンの硫酸エステル(塩)、ヒドロキシエチルイミダゾリン硫酸エステル(塩)等];スルホン酸(塩)型アンフォテリックス[ペンタデシルスルホタウリン及びイミダゾリンスルホン酸(塩)等];並びにリン酸エステル(塩)型アンフォテリックス等[グリセリンラウリル酸エステルのリン酸エステル(塩)等]。
【0041】
上記のアニオン性及び両性界面活性剤における塩としては、金属塩、例えばアルカリ金属(リチウム、ナトリウム及びカリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム及びマグネシウム等)及びIIB族金属(亜鉛等)の塩;アンモニウム塩;並びにアミン塩及び4級アンモニウム塩が挙げられる。
【0042】
分散剤(F6)としては、Mn1,000~20,000のポリマー、例えばビニル樹脂であり、上記ポリオレフィン(A)以外のビニル樹脂〔ポリハロゲン化ビニル[ポリ塩化ビニル及びポリ臭化ビニル等]、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメチルビニルエーテル、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル[ポリ(メタ)アクリル酸メチル等]及びスチレン樹脂[ポリスチレン、アクリロニトリル/スチレン(AS)樹脂等〕等〕;ポリエステル樹脂[ポリエチレンテレフタレート等]、ポリアミド樹脂[6,6-ナイロン及び12-ナイロン等]、ポリエーテル樹脂[ポリエーテルサルフォン等]、ポリカーボネート樹脂[ビスフェノールAとホスゲンの重縮合物等]及びそれらのブロック共重合体等が挙げられる。
【0043】
酸化防止剤(F7)としては、フェノール化合物〔単環フェノール(2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール等)、ビスフェノール[2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)等]、多環フェノール[1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン等]等〕、硫黄化合物(ジラウリル3,3’-チオジプロピオネート等)、リン化合物(トリフェニルホスファイト等)、アミン化合物(オクチル化ジフェニルアミン等)等が挙げられる。
【0044】
離型剤(F8)としては、脂肪酸(C8~24)の低級(C1~4)アルコールエステル(ステアリン酸ブチル等)、脂肪酸(C2~24)の多価(2価~4価又はそれ以上)アルコールエステル(硬化ヒマシ油等)、脂肪酸(C2~24)のグリコール(C2~8)エステル(エチレングリコールモノステアレート等)、流動パラフィン等が挙げられる。
【0045】
抗菌剤(F9)としては、安息香酸、ソルビン酸、ハロゲン化フェノール、有機ヨウ素、ニトリル(2,4,5,6-テトラクロロイソフタロニトリル等)、チオシアノ(メチレンビスチアノシアネート)、N-ハロアルキルチオイミド、銅剤(8-オキシキノリン銅等)、ベンズイミダゾール、ベンゾチアゾール、トリハロアリル、トリアゾール、有機窒素硫黄化合物(スラオフ39等)、4級アンモニウム化合物、ピリジン系化合物等が挙げられる。
【0046】
相溶化剤(F10)としては、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、ヒドロキシル基及びポリオキシアルキレン基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基(極性基)を有する変性ビニル重合体等:例えば、特開平3-258850号公報に記載の重合体、また、特開平6-345927号公報に記載のスルホン酸基を有する変性ビニル重合体、ポリオレフィン部分と芳香族ビニル重合体部分とを有するブロック重合体等が挙げられる。
【0047】
紫外線吸収剤(F11)としては、ベンゾトリアゾール[2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等]、ベンゾフェノン[2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン等]、サリチレート[フェニルサリチレート等]、アクリレート[2-エチルヘキシル-2-シアノ-3,3-ジフェニルアクリレート等]等が挙げられる。
【0048】
熱可塑性樹脂組成物(Y)中の添加剤(F)全体の含有量は、該熱可塑性樹脂組成物(Y)の全重量に基づいて、例えば20重量%以下が好ましく、各添加剤(F)の機能発現及び工業上の観点からより好ましくは0.05~10重量%、さらに好ましくは0.1~5重量%である。
該熱可塑性樹脂組成物(Y)の全重量に基づく各添加剤の使用量は、(F1)は、例えば5重量%以下、好ましくは0.1~3重量%;(F2)は、例えば8%重量以下、好ましくは1~3重量%;(F3)は、例えば5重量%以下、好ましくは0.1~1重量%;(F4)は、例えば8重量%以下、好ましくは1~5重量%;(F5)は、例えば8重量%以下、好ましくは1~3重量%;(F6)は、例えば1%重量以下、好ましくは0.1~0.5重量%;(F7)は、例えば2重量%以下、好ましくは0.05~0.5重量%;(F8)は、例えば5重量%以下、好ましくは0.01~3重量%;(F9)は、例えば25重量%以下、好ましくは0.5~20重量%;(F10)は、例えば15重量%以下、好ましくは0.5~10重量%;(F11)は、例えば2重量%以下、好ましくは0.05~0.5重量%である。
【0049】
上記(F1)~(F11)の間で化合物が同一で重複する場合は、それぞれの化合物が該当する添加効果を奏する量をそのまま使用するのではなく、他の添加剤としての効果も同時に得られることをも考慮し、使用目的に応じて使用量を調整するものとする。
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(Y)の製造方法としては、
(1)上記ポリオレフィン樹脂(D)及び樹脂改質剤(K)の全量並びに必要により(F)を一括混合して樹脂組成物とする方法(一括法);
(2)ポリオレフィン樹脂(D)の一部、樹脂改質剤(K)の全量、及び必要により添加剤(F)の一部もしくは全量を混合して高濃度の樹脂改質剤(K)を含有するマスターバッチ樹脂組成物を一旦作成し、その後残りのポリオレフィン樹脂(D)及び必要により添加剤(F)の残りを加えて混合して樹脂組成物とする方法(マスターバッチ法)が挙げられる。
樹脂改質剤(K)の混合効率の観点から、好ましいのは(2)の方法である。
【0051】
本発明の熱可塑性樹脂組成物(Y)中の樹脂改質剤(K)とポリオレフィン樹脂(D)との重量比[樹脂改質剤(K)/ポリオレフィン樹脂(D)]は、樹脂改質剤(K)の改質特性及び後述する成形品の機械的強度の観点から好ましくは0.1/99.9~50/50、より好ましくは1/99~40/60である。
【0052】
上記の熱可塑性樹脂組成物(Y)の製造方法における具体的な混合方法としては、
(i)混合する各成分を、例えば粉体混合機〔「ヘンシェルミキサー」[商品名「ヘンシェルミキサーFM150L/B」、三井鉱山(株)、社名変更後は日本コークス工業(株)製]、「ナウタミキサ」[商品名「ナウタミキサDBX3000RX」、ホソカワミクロン(株)製]、「バンバリーミキサー」[商品名「MIXTRON BB-16MIXER」、神戸製鋼(株)製]等〕で混合した後、溶融混練装置[バッチ混練機、連続混練機(単軸混練機、二軸混練機等)等]を使用して通常120~220℃で2~30分間混練する方法;(ii)混合する各成分をあらかじめ粉体混合することなく、上記と同様の溶融混練装置を使用して同様の条件で直接混練する方法が挙げられる。
これらの方法のうち混合効率の観点から(i)の方法が好ましい。
【0053】
[成形品、成形物品]
本発明の成形品は、上記熱可塑性樹脂組成物(Y)の成形物である。すなわち本発明の成形品は、上記熱可塑性樹脂組成物(Y)を成形したものである。
成形方法としては、射出成形、圧縮成形、カレンダ成形、スラッシュ成形、回転成形、押出成形、ブロー成形、フィルム成形(キャスト法、テンター法、インフレーション法等)等が挙げられ、目的に応じて単層成形、多層成形あるいは発泡成形等の手段も取り入れた任意の方法で成形できる。成形品の形態としては、板状、シート状、フィルム、繊維(不織布等も含む)等が挙げられる。
本発明の成形品は、上記カルボキシル基等を有する樹脂改質剤(K)を含有することから、改質効果により、極性の比較的高い塗料、インキ等との親和性にも優れる。
【0054】
本発明の成形品は、優れた機械的強度を有すると共に、良好な塗装性及び印刷性を有し、成形品に塗装及び/又は印刷を施すことにより成形物品が得られる。
該成形品を塗装する方法としては、例えばエアスプレー塗装、エアレススプレー塗装、静電スプレー塗装、浸漬塗装、ローラー塗装、刷毛塗り等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
塗料としては、例えば、ポリエステルメラミン樹脂塗料、エポキシメラミン樹脂塗料、アクリルメラミン樹脂塗料、アクリルウレタン樹脂塗料等のプラスチックの塗装に一般に用いられる塗料が挙げられ、これらのいわゆる極性の比較的高い塗料でも、また極性の低い塗料(オレフィン系等)でも使用することができる。
塗装膜厚(乾燥膜厚)は、目的に応じて適宜選択することができるが、通常10~50μmである。
【0055】
また、該成形品又は成形品に塗装を施した上にさらに印刷する方法としては、一般的にプラスチックの印刷に用いられている印刷法であればいずれも用いることができ、例えばグラビア印刷、フレキソ印刷、スクリーン印刷、パッド印刷、ドライオフセット印刷及びオフセット印刷等が挙げられる。
印刷インキとしてはプラスチックの印刷に通常用いられるもの、例えばグラビアインキ、フレキソインキ、スクリーンインキ、パッドインキ、ドライオフセットインキ及びオフセットインキが使用できる。
【実施例
【0056】
以下実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。実施例中の部は重量部を表す。実施例において、数平均分子量(Mn)、ポリオレフィンの二重結合数、アイソタクティシティー、酸価は、上記の方法で測定した。
【0057】
<製造例1>
反応容器に、高分子量ポリオレフィン(A0-1)[商品名「Vistamaxx6202」、Exxonmobil社製、以下同じ。]1,000gを仕込み、液相に窒素通気しながら、マントルヒーターにて加熱溶融し、撹拌しながら380℃で40分間の条件で、熱減成を行い、ポリオレフィン(A-1)を得た。
ポリオレフィン(A-1)のMnは5,800、炭素1,000個当たりの分子末端及び/又は分子鎖中の二重結合数は5.4個、アイソタクティシティーは18%であった。
【0058】
<製造例2~8、比較製造例1~2>
表1に従って高分子量ポリオレフィン(A0)、温度、時間を変更した以外は、製造例1と同様に熱減成を行い、ポリオレフィン(A-2)~(A-8)、(比A-1)~(比A-2)を得た。結果を表1に示す。
【0059】
<実施例1>
反応容器にポリオレフィン(A-1)100部、無水マレイン酸(B-1)2部を仕込み、窒素置換後、窒素通気下に180℃まで加熱昇温して均一に溶解させた。ここにラジカル開始剤[ジクミルパーオキサイド、商品名「パークミルD」、日油(株)製](C-1)0.5部をキシレン5部に溶解させた溶液を5分間で滴下した後、キシレン還流下1時間撹拌を続けた。その後、減圧下(1.5kPa、以下同じ。)で未反応の無水マレイン酸を留去して、酸変性ポリオレフィン(X-1)を含有してなる樹脂改質剤(K-1)を得た。
なお、酸変性ポリオレフィン(X-1)は、酸価は11、Mnは7,000、アイソタクティシティーは16%であった。
【0060】
<実施例2>
反応容器にポリオレフィン(A-1)100部と無水マレイン酸(B-1)3部を仕込み、窒素通気下、200℃まで加熱昇温して10時間撹拌を続けた。その後、減圧下(1.5kPa、以下同じ。)で未反応の無水マレイン酸を留去して、酸変性ポリオレフィン(X-2)を含有してなる樹脂改質剤(K-2)を得た。
なお、酸変性ポリオレフィン(X-2)は、酸価は16、Mnは6,000、アイソタクティシティーは18%であった。
【0061】
<実施例3~13、比較例1~2>
表2に従って、各使用原料を用いた以外は、実施例1と同様に反応を行い、各酸変性ポリオレフィン(X)を含有してなる各樹脂改質剤(K-3)~(K-13)、(比K-1)~(比K-2)を得た。
得られた各樹脂改質剤について、下記の方法で評価を行った。結果を表2に示す。
【0062】
<評価方法>
<1>溶剤溶解性
実施例1~13及び比較例1~2で得られた各樹脂改質剤30gと、キシレン70gとを各々容器に入れ、40℃で3時間、撹拌した後、常温(25℃)で3時間、静置した。さらに、25℃、1日経過させた容器の中身の性状を観察して、以下の<評価基準>にて溶剤溶解性を評価した。
<評価基準>
◎:溶液が透明であり、流動性がある。
○:溶液がわずかにかすみ、流動性がある。
△:溶液のかすみがあり、流動性がない。
×:ほとんど溶解しない。
【0063】
<2>基材密着性
上記<1>の評価後の試験液90部と、エポキシ溶液[商品名「デナコールEX-612」、ナガセケムテックス社製]10部を混合したプライマー溶液を、スプレー機[商品名「EBG-115EXB」、アネスト岩田(株)製]を用いて、ポリオレフィン樹脂基材[商品名「PP1300」、ポリプロピレン、タキン(株)製]表面にスプレー塗布し、80℃にて10分間乾燥(乾燥後膜厚80μm)した。
次に、ポリウレタン塗料[商品名「ユーコートUX‐150」三洋化成工業(株)製]を同様のスプレー機を用いてスプレー塗布し、80℃にて10分間乾燥後(乾燥後のウレタン塗料膜厚100μm)の塗装面について、JIS K5400に準拠した碁盤目テープ法による付着性試験(碁盤目試験)を行い、以下の評価基準で、密着性を評価した。
碁盤目100のうち、塗膜が剥離しなかった部分の数を0~100で表し、数値が大きいほど基材と塗膜との密着性が良好であることが示される。
なお、上記<1>において評価が△又は×のものは、スプレーできないため、基材密着性の評価を行わなかった。
【0064】
<評価基準>
◎:99~100
〇:95~98
△:90~94
×:90未満
【0065】
【表1】
【0066】
製造例で使用した表1に記載の原料を以下に示す。
A0-1:プロピレン85%、エチレン15%を構成単位とするポリオレフィン、商品名「Vistamaxx6202」、Exxonmobil社製、Mn76,000、アイソタクティシティー20%
A0-2:プロピレン91%、エチレン9%を構成単位とするポリオレフィン、商品名「Vistamaxx3980」、Exxonmobil社製、Mn113,000、アイソタクティシティー50%
A0-3:プロピレン84%、エチレン16%を構成単位とするポリオレフィン、商品名「Vistamaxx6102」、Exxonmobil社製、Mn70,000、アイソタクティシティー29%
比A0-1:プロピレン98%、エチレン2%を構成単位とするポリオレフィン、商品名「サンアロマーPZA20A」、サンアロマー(株)製、Mn100,000、アイソタクティシティー90%
比A0-2:プロピレン27%、エチレン73%を構成単位とするポリオレフィン、商品名「タフマーP0280」、三井化学社製、Mn40,000、アイソタクティシティー3%
【0067】
【表2】
【0068】
実施例で使用した表2に記載の原料を以下に示す。
B-1:無水マレイン酸
B-2:イタコン酸
C-1:ジクミルパーオキサイド
C-2:1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)[商品名「V-40」、富士フイルム和光純薬(株)製]
【0069】
<実施例14~33、比較例3~7>
上記で得られた各樹脂改質剤、市販のポリプロピレン(D-1)[商品名「サンアロマーPL500A」、サンアロマー(株)製、Mn300,000]、市販のポリエチレン(D-2)[商品名「ノバテックHJ490」、日本ポリエチレン(株)製、Mn300,000]、市販のエチレン/プロピレン共重合体(D-3)[商品名「サンアロマーPB222A」、サンアロマー(株)製、Mn350,000]を、表3の配合組成(部)に従って、それぞれヘンシェルミキサーで3分間ブレンドした後、ベント付き2軸押出機にて、180℃、100rpm、滞留時間5分の条件で溶融混練して各熱可塑性樹脂組成物を得た。
各熱可塑性樹脂組成物について射出成形機[商品名「PS40E5ASE」、日精樹脂工業(株)]を用い、シリンダー温度240℃、金型温度60℃で成形して所定の試験片を作成後、後述の評価方法に従って評価した。結果を表3に示す。
【0070】
<評価方法>
1.耐衝撃性(単位:kJ/m
アイゾット衝撃値をJIS K7110に準拠して測定した。
2.曲げ弾性率(単位:MPa)
JIS K7171に準拠して測定し、曲げ弾性の評価を行った。
3.濡れ性(単位:°)
濡れ性の評価をJIS R2357に準拠して水接触角の測定を行った。水接触角が小さいほど濡れ性が良好であることを示す。
4.濡れ性の持続性(単位:°)
上記フィルムを水に浸し綿布で表面を洗った後、減圧乾燥(1kPa、80℃、1時間)した。
この試験片を温調(23℃、50RH%、24時間)し、上記3.と同様に水接触角を測定した。
【0071】
【表3】
【0072】
表1~3の結果から、本発明の樹脂改質剤(K)は、比較例のものと比べて、基材密着性、溶剤溶解性に優れていた。また、熱可塑性樹脂組成物の成形品に、優れた機械的強度(耐衝撃性、曲げ弾性等)、改質効果(濡れ性、その持続性)を与えることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の樹脂改質剤(K)は、種々の用途、好ましくは樹脂用改質剤、塩素化ポリプロピレン用原料、ポリウレタン用原料、硬化樹脂原料、接着剤原料、粘着剤原料、エマルション原料、粘着剤用途に好適に使用でき、また、熱可塑性樹脂の成形品の機械強度や良好な外観を損なうことなく、成形品に優れた濡れ性(特に持続する濡れ性)、接着性、密着性(塗装性)及びこれらの持続性を付与できる。
プラスチック成形品用プライマー、濡れ性改質剤、塗装性向上剤として特に有用である。また、濡れ性が向上することから、電池のセパレータ用PPの液濡れ性向上、水処理膜のPEやPVDFの液濡れ性向上、繊維強化用短繊維ポリオレフィンの液濡れ性向上、ビニールハウス(プラスチックハウス)の液濡れ性向上や食品包装フィルムの液濡れ性向上にも好適である。
本発明の熱可塑性樹脂組成物(Y)は、良好な塗装性及び印刷性を有するため、各種成形法[射出成形、圧縮成形、カレンダ成形、スラッシュ成形、回転成形、押出成形、ブロー成形、発泡成形及びフィルム成形(キャスト法、テンター法及びインフレーション法)等]で成形されるハウジング製品(家電・OA機器、ゲーム機器及び事務機器用等)、プラスチック容器材[クリーンルームで使用されるトレー(ICトレー等)及びその他容器等]、各種緩衝材、被覆材(包材用フィルム及び保護フィルム等)、床材用シート、人工芝、マット、テープ基材(半導体製造プロセス用等)及び各種成形品(自動車部品等)用材料として幅広く用いることができ、極めて有用である。