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特許7137739植物における水疱症の抑制方法、植物の生産方法及び植物における水疱症の抑制装置
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  • 特許-植物における水疱症の抑制方法、植物の生産方法及び植物における水疱症の抑制装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】植物における水疱症の抑制方法、植物の生産方法及び植物における水疱症の抑制装置
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20220908BHJP
   A01G 22/05 20180101ALI20220908BHJP
【FI】
A01G7/00 601C
A01G22/05 Z
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019046774
(22)【出願日】2019-03-14
(65)【公開番号】P2020145975
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2020-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】390028130
【氏名又は名称】タキイ種苗株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003557
【氏名又は名称】弁理士法人レクシード・テック
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【弁理士】
【氏名又は名称】森 博
(72)【発明者】
【氏名】松井 美穂子
(72)【発明者】
【氏名】奥田 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】木村 健太郎
【審査官】田辺 義拓
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-155436(JP,A)
【文献】特開2018-121589(JP,A)
【文献】特開2016-202050(JP,A)
【文献】特開2010-259374(JP,A)
【文献】国際公開第2007/105599(WO,A1)
【文献】特開2018-166442(JP,A)
【文献】特開2004-081110(JP,A)
【文献】特開2017-169509(JP,A)
【文献】登録実用新案第3198211(JP,U)
【文献】特開2013-121331(JP,A)
【文献】国際公開第2017/208906(WO,A1)
【文献】最先端種苗産業確立のための野菜苗生産技術の実証研究マニュアル,福島県農業総合センター,2018年03月31日,p.1-47,インターネット<URL:https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/272402.pdf>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
A01G 22/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物の苗に光を照射する第1の照射工程を含み、
前記光は、青色光、緑色光及び赤色光を含み、
前記青色光、緑色光及び赤色光は、LEDに由来する光であり、
前記青色光の波長は、400nm以上、500nm未満であり、
前記緑色光の波長は、500nm以上、600nm未満であり、
前記赤色光の波長は、600nm以上、700nm未満であり、
前記光の光量子束密度(L )は、160~280μmol m -2 -1 の範囲であり、
前記青色光の光量子束密度(L )は、45~110μmol m -2 -1 であり、
前記赤色光の光量子束密度(L )は、60~100μmol m -2 -1 であり、
赤色光の光量子束密度(L)と青色光の光量子束密度(L)との比(L/L)は0.6≦L/L≦2の範囲を満たし、
前記第1の照射工程において、紫外線を照射せず、
前記紫外線の波長は、400nm未満である、植物における水疱症の抑制方法。
【請求項2】
前記L/Lは、1≦L/L≦1.4の範囲を満たす、請求項1記載の抑制方法。
【請求項3】
前記第1の照射工程において、前記緑色光の光量子束密度(L)は、60μmol m-2-1以上である、請求項1又は2記載の抑制方法。
【請求項4】
前記第1の照射工程において、前記光の光量子束密度(L)は、180230μmol m-2-1の範囲である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の抑制方法。
【請求項5】
前記赤色光の光量子束密度(L)と緑色光の光量子束密度(L)との比(L/L)は、0.6≦L/L≦1.6の範囲を満たす、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の抑制方法。
【請求項6】
前記第1の照射工程の照射時間(T)は、12~20時間である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の抑制方法。
【請求項7】
前記第1の照射工程後、前記植物に青色光を照射する第2の照射工程を含む、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の抑制方法。
【請求項8】
前記第2の照射工程の照射時間(T)と前記第1の照射工程の照射時間(T)との比(T/T)は、0.1≦T/T≦0.3の範囲である、請求項7記載の抑制方法。
【請求項9】
前記第2の照射工程の照射時間(T)は、1~5時間である、請求項7又は8記載の抑制方法。
【請求項10】
前記植物に光を照射しない非照射工程を含む、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の抑制方法。
【請求項11】
前記植物は、トマト植物である、請求項1乃至10のいずれか一項に記載の抑制方法。
【請求項12】
植物の苗に光を照射し、生育させる生育工程を含み、
前記生育工程は、請求項1乃至11のいずれか一項に記載の抑制方法により実施される、植物の生産方法。
【請求項13】
請求項1乃至11のいずれか一項に記載の植物における水疱症の抑制方法に使用するための装置であって、
植物に青色光を照射可能な第1の照射ユニットと、
植物に緑色光を照射可能な第2の照射ユニットと、
植物に赤色光が照射可能な第3の照射ユニットと、
前記第1の照射ユニット、前記第2の照射ユニット、及び前記第3の照射ユニットによる照射を制御する制御ユニットとを含み、
前記第1の照射ユニット、前記第2の照射ユニット、及び前記第3の照射ユニットは、光源として、LEDを備え、
前記青色光の波長は、400nm以上、500nm未満であり、
前記緑色光の波長は、500nm以上、600nm未満であり、
前記赤色光の波長は、600nm以上、700nm未満であり、
前記制御ユニットは、前記第1の照射ユニット、前記第2の照射ユニット、及び前記第3の照射ユニットによる照射時に、前記第3の照射ユニットから照射される赤色光の光量子束密度(L)と前記第1の照射ユニットから照射される青色光の光量子束密度(L)との比(L/L)が、0.6≦L/L≦2の範囲を満たすように、前記第1の照射ユニット及び前記第3の照射ユニットの照射を制御し、
前記第1の照射ユニット、前記第2の照射ユニット、及び前記第3の照射ユニットは、紫外線を照射せず、
前記紫外線の波長は、400nm未満である、植物における水疱症の抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物における水疱症の抑制方法、植物の生産方法及び植物における水疱症の抑制装置に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の種子の販売で、販売する種子の品質管理が行なわれている。具体的には、一部の種子を抜き出し、育苗することで、発芽率を検討する(非特許文献1及び2)。また、前記種子から得られた苗の草姿及び色味の検査を目視により実施する(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】農林水産省、「種苗法施行規則の規定に基づき発芽率の表示の方法等を定める件」、1989年
【文献】農林水産省、「指定種苗の生産などに関する基準」、2002年
【文献】深澤郁男、「農業技術体系 野菜編 『苗の診断と追肥・灌水の判断』」、1997年、基+271~基+276
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、前記種子から苗の育苗に使用する光源を蛍光灯からLED(light emitting diode)灯に変更したところ、得られた苗、特に、トマト植物において、水疱症が発生することを見出した。また、紫外線を照射することにより、水疱症の発生を抑制できたが、紫外線は、人体に悪影響を与える。
【0005】
そこで、本発明は、LED灯を用いた際にも、緑色光を含むことで目視による品質検査が可能であり、かつ水疱症の発症を抑制可能な植物における水疱症の抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の植物における水疱症の抑制方法(以下、「抑制方法」ともいう)は、植物に光を照射する第1の照射工程を含み、
前記光は、青色光、緑色光及び赤色光を含み、
赤色光の光量子束密度(L)と青色光の光量子束密度(L)との比(L/L)は0.6≦L/L≦2の範囲を満たす。
【0007】
本発明の植物の生産方法(以下、「生産方法」ともいう)は、植物に光を照射し、生育させる生育工程を含み、
前記生育工程は、前記本発明の抑制方法により実施される。
【0008】
本発明の植物における水疱症の抑制装置(以下、「抑制装置」ともいう)は、植物に青色光を照射可能な第1の照射ユニットと、
植物に緑色光を照射可能な第2の照射ユニットと、
植物に赤色光が照射可能な第3の照射ユニットと、
前記第1の照射ユニット、前記第2の照射ユニット、及び前記第3の照射ユニットによる照射を制御する制御ユニットとを含み、
前記制御ユニットは、前記第1の照射ユニット、前記第2の照射ユニット、及び前記第3の照射ユニットによる照射時に、前記第3の照射ユニットから照射される赤色光の光量子束密度(L)と前記第1の照射ユニットから照射される青色光の光量子束密度(L)との比(L/L)が、0.6≦L/L≦2の範囲を満たすように、前記第1の照射ユニット及び前記第3の照射ユニットの照射を制御する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、LED灯を用いた際にも、緑色光を含むことで目視による品質検査が可能であり、かつ水疱症の発症を抑制可能である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の抑制装置の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<水疱症の抑制方法>
本発明の植物における水疱症の抑制方法は、前述のように、植物に光を照射する第1の照射工程を含み、前記光は、青色光、緑色光及び赤色光を含み、赤色光の光量子束密度(L)と青色光の光量子束密度(L)との比(L/L)は0.6≦L/L≦2の範囲を満たす。本発明の抑制方法は、L/Lが、0.6≦L/L≦2を満たすことが特徴であり、その他の工程及び条件は、特に制限されない。
【0012】
本発明者らは、鋭意研究の結果、緑色光を含むLED灯を用いた場合においても、メカニズムは不明であるが、赤色光の光量子束密度(L)と青色光の光量子束密度(L)との比を一定の範囲にすること、すなわち、L/Lを、0.6≦L/L≦2を満たす範囲とすることにより、植物の生育時、特に、育苗時の水疱症の発生を抑制できることを見出して、本発明を確立するに至った。本発明では、前記植物への照射光の成分として、前記緑色光を含むため、前記緑色光と併せて照射される前記青色光及び前記赤色光とにより白色調の光色となる。このため、本発明によれば、目視による品質検査が可能となり、かつ植物における水疱症の発生を抑制できる。また、本発明によれば、L/Lを、0.6≦L/L≦2とすることにより、例えば、健全な苗姿を有する植物を育成可能である。さらに、本発明によれば、L/Lを制御することにより、水疱症の発生を抑制できるため、例えば、紫外線の照射が不要である。このため、本発明によれば、例えば、紫外線を使用しない安全な環境下で植物を生育できる。
【0013】
本発明の抑制方法によれば、例えば、植物の種子から育苗する際又は苗から成体を生育させる際に、水疱症の発生を抑制できる。このため、本発明の抑制方法は、水疱症の発生が抑制された育苗方法、又は水疱症の発生が抑制された植物の生育方法ということもできる。
【0014】
本発明において、「健全な苗姿」は、例えば、下記(1)~(4)のいずれかを満たす植物の苗を意味し、好ましくは、全てを満たす苗である。
(1)軟弱徒長しておらず、胚軸、子葉及び本葉が適度に硬い
(2)子葉及び本葉は広く展開している
(3)葉色は濃緑色でやや光沢がある
(4)子葉葉及び本葉は厚みがあり、葉脈がハッキリしている
【0015】
本発明において、前記植物は、特に制限されず、例えば、農業又は園芸に利用される植物があげられ、例えば、農芸植物ということもできる。前記農芸植物は、例えば、園芸的分類における、野菜類又は花卉類があげられる。本発明の抑制方法は、例えば、前記水疱症を効果的に抑制できることから、前記植物としては、トマト植物(トマト)が好ましい。
【0016】
前記野菜類は、例えば、果菜類、葉茎類、根菜類等があげられる。前記果菜類は、トウモロコシ等の穀物類;アズキ、インゲンマメ、エンドウ、エダマメ、ササゲ、シカクマメ、ソラマメ、ダイズ、ナタマメ、ラッカセイ、レンズマメ、ゴマ等のマメ類;ナス、ペピーノ、トマト、ミニトマト、タマリロ、タカノツメ、トウガラシ、シシトウガラシ、ハバネロ、ピーマン、パプリカ、カラーピーマン、カボチャ、ズッキーニ、キュウリ、ツノニガウリ、シロウリ、ゴーヤ、トウガン、ハヤトウリ、ヘチマ、ユウガオ、オクラ、イチゴ、スイカ、メロン、マクワウリ;等があげられる。前記葉茎類は、例えば、アイスプラント、アシタバ、カラシナ、キャベツ、クレソン、ケール、コマツナ、サラダナ、サニーレタス、サイシン、サンチュ、山東菜、シソ、シュンギク、ジュンサイ、シロナ、セリ、セロリ、タアサイ、ダイコンナ(スズシロ)、タカナ、チシャ、チンゲンサイ、ツケナ、菜の花、野沢菜、白菜、パセリ、ハルナ、フダンソウ、ホウレンソウ、ホトケノザ、ミズナ、ミドリハコベ、コハコベ、ウシハコベ、ミブナ、ミツバ、メキャベツ、モロヘイヤ、リーフレタス、ルッコラ、レタス、ワサビナ等の葉菜類;ネギ、細ネギ、アサツキ、ニラ、アスパラガス、ウド、コールラビ、ザーサイ、タケノコ、ニンニク、ヨウサイ、ネギ、ワケギ、タマネギ等の茎菜類;アーティチョーク、ブロッコリー、カリフラワー、食用菊、なばな、フキノトウ、ミョウガ等の花菜類;スプラウト、モヤシ、かいわれ大根等の発芽野菜;等があげられる。前記根菜類は、例えば、サツマイモ、サトイモ、ジャガイモ、ナガイモ(大和芋)、ヤマノイモ(山芋、自然薯)等のイモ類;カブ、ダイコン、ハツカダイコン、ワサビ、ホースラディッシュ、ゴボウ、チョロギ、ショウガ、ニンジン、ラッキョウ、レンコン、ユリ根;等があげられる。
【0017】
前記花卉類は、例えば、ホリホック、ブーバルジア、ゴデチア、ツキミソウ、ストック、ハボタン、ルナリア、アシダンセラ、イリス、グラジオラス、ハナビシソウ、ペペロミア、カルセオラリア、キンギョソウ、トレニア、サクラソウ、シクラメン、マツバギク、アンスリウム、カラー、カラジウム、ショウブ、シンゴニウム、スパシフィルム、ディーフェンバキア、フィロデンドロン、サボテン類、アジュガ、カクトラノオ、サルビア、ベゴニア、クルクマ、スイレン、ポーチュラカ、スミレ、ホワイトレースフラワー、セトクレアセア、ムラサキオモト、ムラサキツユクサ、ホウセンカ、ツノナス、ペチュニア、ホオズキ、カーネーション、ナデシコ、セキチク、カスミソウ、宿根カスミソウ、ムシトリナデシコ、グズマニア、ストレリチア、シバザクラ、フロックス、オイランソウ、キョウカノコ、アマクリナム、アマリリス、キク、マーガレット、クンシラン、キルタンサス、スイセン、スノーフレーク、タマスダレ、ネリネ、ハマオモト、ユーチャリス、リコリス、リュウゼツラン、ケイトウ、センニチコウ、アサガオ、エボルブルス、クレオメ、ゼラニウム、カランコエ、スカビオサ、スイートピー、ルピナス、ルリジオ、ワスレナグサ、アスチルベ、ユキノシタ、アガパンサス、アマドコロ、アロエ、オーニソガルム、オモト、オリズルラン、ギボウシ、クロユリ、グロリオーサ、コルチカム、サンセベリア、サンダーソニア、ジャノヒゲ、チューリップ、ツルバキア、ドイツスズラン、ドラセナ、トリテレイア、ナルコユリ、ニューサイラン、バイモ、ヒアシンス、ホトトギス、ヤブカンゾウ、ヤブラン、ユリ、アルストロメリア、ルスカス、アツモリソウ、エビネ、オンシジウム、カトレア、コルマナラ、シラン、シンビジウム、セロジネ、デンドリビウム、ドリテノプシス、ナゴラン、パフィオペディルム、バンダ、ビルステケラ、ファレノプシス、ブラウナウ、ミルトニア、エキザカム、トルコギキョウ、リンドウ、ランタナ、バラ、サクラ、ガーベ等があげられる。前記花卉類は、例えば、葉を観賞するために用いられる植物でもよく、具体例として、サカキ、ソテツ、シダ、ドラセナ、ハラン、モンステラ、ポトス、コンパクター、ポリシャス、ジャングルブッシュ、リキュウソウ、ベアグラス、ピトスポラム等があげられる。
【0018】
本発明において、前記植物の生育段階は、特に制限されず、例えば、種子、種子が発芽した発芽種子、前記発芽種子が生育した苗、前記苗が生育した成体等があげられる。本発明の抑制方法は、例えば、前記水疱症を効果的に抑制できることから、前記植物の生育段階としては、前記種子から苗の間が好ましく、前記発芽種子から苗の間がより好ましい。前記苗は、例えば、発芽播種後から、定植前の植物を意味する。
【0019】
本発明において、前記光は、その成分として可視光を含むが、さらに、不可視光線、すなわち、紫外線及び赤外線の少なくとも一方を含んでもよい。前記赤外線は、例えば、近赤外線及び遠赤外線があげられる。本発明において、前記「紫外線」は、例えば、波長が、400nm未満である光を意味する。前記「青色光」は、例えば、波長が、400nm以上、500nm未満である光を意味する。前記「緑色光」は、例えば、波長が、500nm以上、600nm未満である光を意味する。前記「赤色光」は、例えば、波長が、600nm以上、700nm未満である光を意味する。前記「近赤外線」は、例えば、波長が、700nm以上、780nm未満である光を意味する。前記「遠赤外線」は、例えば、波長が、780nm以上である光を意味する。
【0020】
本発明において、「水疱症」は、例えば、非病原性のこぶ状突起が葉や茎などに発生する生理障害を意味する。植物が水疱症に罹患した場合、前記植物では、例えば、葉の組織内に水疱のようなこぶができ、葉緑体が抜けることで光合成速度の低下、成長阻害や枯死につながる。
【0021】
本発明において、「水疱症の抑制」は、例えば、水疱症の発生(発症)の抑制又は防止、及び水疱症の症状の進展の抑制又は停止のいずれの意味で用いてもよい。
【0022】
前記第1の照射工程は、前記植物に光を照射する工程である。前記第1の照射工程は、例えば、1回実施してもよいし、複数回実施してもよい。前記第1の照射工程では、前記植物に光を連続または非連続的に照射するが、前者が、好ましい。前記連続的な照射は、例えば、継続的な照射ということもできる。前記非連続的な照射は、例えば、間欠的な照射ということもできる。
【0023】
前記第1の照射工程は、例えば、光源を用いて、前記光源から発する光を前記植物に向かって照射することにより実施できる。具体例として、前記第1の照射工程は、例えば、前記植物の上方に光の投射方向を下方に向けて設置された光源の光を、前記植物に照射することにより実施できる。
【0024】
前記光源は、例えば、前記青色光、前記緑色光及び前記赤色光のいずれか1つ又は2つ以上の光を発することが可能な光源があげられる。前記光源は、例えば、1又は複数である。前記光源が1つの場合、前記光源が前記青色光、前記緑色光及び前記赤色光を発し、かつ前記青色光及び前記赤色光が、前述のL/Lを満たす。他方、前記光源が複数の場合、前記光源は、例えば、前記青色光、前記緑色光又は前記赤色光を発する光源を組み合せて用いてもよいし、前記青色光、前記緑色光及び前記赤色光のうちいずれか1つ以上を発する光源を複数組み合わせてもよい。具体例として、前記光源は、前記青色光、前記緑色及び前記赤色光を発する光源と、前記青色光を発する光源と、前記赤色光を発する光源との組合せ、白色光の光源と、前記青色光を発する光源と、前記赤色光を発する光源の組合せ等があげられる。
【0025】
前記各色を発する光源は、例えば、各光の波長領域の一部又は全体に波長分布を有するが、前記水疱症を効果的に抑制できることから、その波長領域全体に波長分布を有することが好ましい。
【0026】
前記光源は、例えば、LED、蛍光管、メタルハライドランプ、ナトリウムランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、ネオン管、無機エレクトロルミネッセンス、有機エレクトロルミネッセンス、ケミルミネッセンス(化学発光)、レーザー等が使用できるが、好ましくは、LEDである。また、前記光源は、所望の光を照射するため、分光フィルターを透過させて使用してもよい。また、前記光源は、異なる発光手段を組み合わせてもよい。
【0027】
前記植物は、例えば、単離された植物でもよいし、前記栽培容器内に植えられた植物又はその種子でもよいし、田若しくは畑等の農地に定植された植物又はその種子でもよい。
【0028】
前記光の光量子束密度(L)は、前記青色光の光量子束密度(L)と、前記緑色光の光量子束密度(L)と、前記赤色光の光量子束密度(L)との総和を意味する。前記第1の照射工程において、前記光の光量子束密度(L)は、特に制限されず、例えば、160~280μmol m-2-1であり、好ましくは、180~230μmol m-2-1である。
【0029】
前記第1の照射工程において、前記青色光の光量子束密度(L)は、特に制限されない。前記Lの下限は、特に制限されず、例えば、45μmol m-2-1である。前記Lの上限は、特に制限されず、例えば、120μmol m-2-1であり、前記水疱症を効果的に抑制でき、健全な植物に育苗できることから、好ましくは、100μmol m-2-1、80μmol m-2-1であり、より好ましくは、60μmol m-2-1である。前記Lの範囲は、例えば、45~120μmol m-2-1であり、前記水疱症を効果的に抑制でき、健全な植物に育苗できることから、好ましくは、45~100μmol m-2-1であり、より好ましくは、45~80μmol m-2-1または45~60μmol m-2-1である。
【0030】
前記第1の照射工程において、前記緑色光の光量子束密度(L)は、特に制限されない。前記Lの下限は、特に制限されず、例えば、60μmol m-2-1であり、好ましくは、65μmol m-2-1である。前記Lの上限は、特に制限されず、例えば、90μmol m-2-1であり、前記水疱症を効果的に抑制でき、健全な植物に育苗できることから、好ましくは、80μmol m-2-1である。前記Lの範囲は、例えば、60~90μmol m-2-1であり、好ましくは、65~80μmol m-2-1である。
【0031】
前記第1の照射工程において、前記赤色光の光量子束密度(L)は、特に制限されない。前記Lの下限は、特に制限されず、例えば、60μmol m-2-1である。前記Lの上限は、特に制限されず、例えば、110μmol m-2-1であり、前記水疱症を効果的に抑制でき、健全な植物に育苗できることから、好ましくは、80μmol m-2-1である。前記Lの上限は、例えば、60~110μmol m-2-1であり、前記水疱症を効果的に抑制できることから、好ましくは、60~80μmol m-2-1である。
【0032】
本発明において、光量子束密度は、光量子束密度の計測機器を用いて測定できる。前記計測機器は、ライトアナライザー(型番:LA105、株式会社日本医化器械製作所)を使用できる。前記光量子束密度は、前記計測機器の受光面を栽培地面の反対方向(光の照射方向)に向けて、栽培地面上(例えば、培養容器上)の中心に配置し、測定することで取得できる。前記受光面は、例えば、前記栽培地面を基準として、2~2.5cmの高さに配置される。前記計測機器は、ライトアナライザー以外の測定機器を用いてもよい。この場合、本発明における光量子束密度は、他の計測機器の測定値を、前記ライトアナライザーの測定値に換算した値となる。
【0033】
前記第1の照射工程において、前記LとLとの比(L/L)は、0.6≦L/L≦2の範囲であり、より広い品種に対して水疱症を効果的に抑制でき、健全な植物に育苗できることから、より好ましくは、0.8≦L/L≦1.6の範囲であり、さらに広い品種に対して水疱症をより効果的に抑制でき、健全な植物に育苗できることから、さらに好ましくは、1≦L/L≦1.4の範囲である。
【0034】
前記第1の照射工程において、前記LとLとの比(L/L)は、特に制限されず、例えば、0.6≦L/L≦1.6の範囲であり、前記水疱症を効果的に抑制でき、植物の徒長が抑制できることから、より好ましくは、0.8≦L/L≦1.4の範囲であり、より広い品種に対して水疱症をより効果的に抑制でき、健全な植物に育苗できることから、0.9≦L/L≦1.1の範囲である。
【0035】
前記第1の照射工程における照射時間(T)は、特に制限されず、例えば、1日の周期の時間に応じて適宜設定できる。前記Tは、例えば、12~20時間であり、好ましくは、14~18時間又は15~17時間である。前記1日の周期が24時間の場合、前記Tは、例えば、12~20時間であり、好ましくは、14~18時間又は15~17時間である。
【0036】
本発明の抑制方法は、例えば、前記植物に光を照射しない非照射工程を含んでもよい。前記1日の周期において、前記非照射工程は、例えば、前記第1の照射工程以外の工程ということもできる。前記非照射工程は、例えば、前記第1の照射工程において使用する光源から光が発せられないようにすることにより実施できる。前記非照射工程の時間(T)は、前記第1の照射工程の照射時間に応じて、適宜設定できる。
【0037】
本発明の抑制方法は、前記第1の照射工程後、前記植物に青色光を照射する第2の照射工程を含むことが好ましい。本発明の抑制方法は、前記第2の照射工程を含むことにより、前記水疱症をより効果的に抑制でき、植物の徒長が抑制できる。前記第2の照射工程は、例えば、1回実施してもよいし、複数回実施してもよい。前記第2の照射工程では、前記植物に光を連続または非連続的に照射するが、前者が、好ましい。
【0038】
前記第2の照射工程は、例えば、青色光の光源を用いて、前記光源から発する青色光を前記植物に向かって照射することにより実施できる。具体例として、前記第2の照射工程は、例えば、前記植物の上方に光の投射方向を下方に向けて設置された光源の青い光を、前記植物に照射することにより実施できる。前記第2の照射工程で用いる光源は、前記第1の照射工程で用いる光源と同じでもよいし、異なってもよい。
【0039】
前記第2の照射工程において、前記青色光の光量子束密度(L)は、特に制限されない。前記Lの下限は、特に制限されず、例えば、20μmol m-2-1であり、好ましくは、30μmol m-2-1である。前記Lの上限は、特に制限されず、例えば、60μmol m-2-1であり、好ましくは、50μmol m-2-1である。前記Lの範囲は、例えば、20~60μmol m-2-1であり、前記水疱症を効果的に抑制でき、健全な植物に育苗できることから、好ましくは、30~50μmol m-2-1である。
【0040】
前記第2の照射工程における照射時間(T)は、特に制限されず、例えば、1日の周期の時間に応じて適宜設定できる。前記Tは、例えば、1~5時間であり、前記水疱症を効果的に抑制でき、健全な植物に育苗できることから、好ましくは、3~5時間である。
【0041】
前記Tと前記Tとの比(T/T)は、特に制限されず、例えば、0.1≦T/T≦0.3の範囲であり、好ましくは、0.2≦T/T≦0.3の範囲である。
【0042】
本発明の抑制方法が前記第2の照射工程を含む場合、本発明の抑制方法は、前記非照射工程を含むことが好ましい。この場合、前記1日の周期において、前記非照射工程は、例えば、前記第1の照射工程及び前記第2の照射工程以外の工程ということもできる。本発明の抑制方法が前記第2の照射工程及び前記非照射工程を含む場合、本発明の抑制方法は、前記水疱症を効果的に抑制でき、健全な植物に育苗できることから、前記第1の照射工程と、前記第2の照射工程と、前記非照射工程とをこの順序で実施することが好ましい。
【0043】
本発明の抑制方法が前記第1の照射工程と、前記第2の照射工程と、前記非照射工程とを含む場合、本発明の抑制方法は、例えば、前記第1の照射工程と、前記第2の照射工程と、前記非照射工程とを1セットとし、これらの工程を、複数セット実施することが好ましい。前記複数は、特に制限されず、例えば、前記植物が所望の生育段階に生長するまでの期間に応じて適宜設定できる。具体例として、前記第1の照射工程と前記第2の照射工程と前記非照射工程の1セットの時間が24時間、すなわち、1日であり、かつ植物を種子から苗まで育苗する場合、前記第1の照射工程と前記第2の照射工程と前記非照射工程とは、例えば、10~20セット(10~20日)、好ましくは、14~16セット(14~16日)実施される。
【0044】
本発明の抑制方法が前記第1の照射工程と、前記第2の照射工程と、前記非照射工程とを複数セット実施する場合、各セット間には、前記第1の照射工程、前記第2の照射工程及び前記非照射工程以外の他の工程を含んでもよい。前記他の工程は、例えば、前記第1の照射工程及び前記第2の照射工程とは異なる条件で、植物に光を照射する工程があげられる。
【0045】
本発明の抑制方法において、各工程における植物の栽培方法及び栽培条件は、特に制限されず、前記植物の種類に応じて適宜決定できる。具体例として、栽培温度は、例えば、10~35℃、15~30℃があげられる。栽培時の湿度は、例えば、10~90%、30~80%、50~80%である。前記湿度は、例えば、前記植物を栽培している場所の湿度でもよいし、前記植物の株元の湿度でもよい。灌水の頻度は、例えば、1~5日に1回、1~3日に1回である。前記植物の栽培に用いる培養土は、特に制限されず、前記植物の種類に応じて適宜決定できる。
【0046】
<植物の生産方法>
本発明の植物の生産方法は、前述のように、植物に光を照射し、生育させる生育工程を含み、前記生育工程は、前記本発明の抑制方法により実施される。本発明の生産方法は、前記生育工程が、前記本発明の抑制方法により実施されることが特徴であり、その他の工程及び条件は特に制限されない。本発明の生産方法によれば、水疱症の発生が抑制された苗を生産できる。また、本発明の生産方法によれば、生育時の水疱症の発生を抑制できるため、定植に利用できる苗を効率よく生産できる。本発明の生産方法は、前記本発明の抑制方法の説明を援用できる。
【0047】
前記植物の生育段階は、特に制限されず、例えば、前述の説明を援用でき、好ましくは、植物苗である。前記植物苗は、例えば、植物の苗を意味し、自根苗でもよいし、接ぎ木苗でもよい。前記植物苗は、前記本発明の抑制方法の説明を援用できる。
【0048】
前記生育工程は、例えば、前記植物が所望の生育段階になるまで実施する。
【0049】
<抑制装置>
本発明の植物における水疱症の抑制装置は、前述のように、植物に青色光を照射可能な第1の照射ユニットと、植物に緑色光を照射可能な第2の照射ユニットと、植物に赤色光が照射可能な第3の照射ユニットと、前記第1の照射ユニット、前記第2の照射ユニット、及び前記第3の照射ユニットによる照射を制御する制御ユニットとを含み、前記制御ユニットは、前記第1の照射ユニット、前記第2の照射ユニット、及び前記第3の照射ユニットによる照射時に、前記第3の照射ユニットから照射される赤色光の光量子束密度(L)と前記第1の照射ユニットから照射される青色光の光量子束密度(L)との比(L/L)が、0.6≦L/L≦2の範囲を満たすように、前記第1の照射ユニット及び前記第3の照射ユニットの照射を制御する。本発明の抑制装置は、前記制御ユニットが、前記第1の照射ユニット、前記第2の照射ユニット、及び前記第3の照射ユニットによる照射時に、L/Lが、0.6≦L/L≦2の範囲を満たすように、前記第1の照射ユニット及び前記第3の照射ユニットの照射を制御することが特徴であり、その他の構成及び条件は、特に制限されない。本発明の抑制装置は、前記本発明の抑制方法及び生産方法の説明を援用できる。
【0050】
次に、本発明の抑制装置の例について、図面を用いて説明する。
【0051】
図1に、本発明の抑制装置の一例を示す。図1に示すとおり、抑制装置10は、第1の照射ユニット11と、第2の照射ユニット12と、第3の照射ユニット13と、制御ユニット14とを備える。図1に示すように、抑制装置10は、植物Pの上方に配置され、抑制装置10の第1の照射ユニット11と、第2の照射ユニット12と、第3の照射ユニット13とが、それぞれ、青色光、緑色光及び赤色光を照射する。第1の照射ユニット11、第2の照射ユニット12及び第3の照射ユニット13は、それぞれ、青色光、緑色光及び赤色光の光源を備える。制御ユニット14は、第1の照射ユニット11、第2の照射ユニット12及び第3の照射ユニット13と接続され、各照射ユニットの光源のON/OFFの制御、照明時間及び各光の強度を制御する。制御ユニット14は、マイコン等でもよいし、CPU等の演算装置を備えるパーソナルコンピュータ等と同様の構成としてもよい。制御ユニット14は、本発明の抑制方法を実行するプログラムにしたがって、前述のように、各照射ユニットを制御する。図1において、第1の照射ユニット11、第2の照射ユニット12及び第3の照射ユニット13は、別部材で構成されているが、いずれか2つ以上が一体として構成されてもよく、全部が一体として構成されてもよい。また、制御ユニット14は、第1の照射ユニット11、第2の照射ユニット12及び第3の照射ユニット13と別部材として構成されているが、いずれかの照射ユニットと一体として構成されてもよい、すなわち、照射ユニットの内部に組込まれてもよい。抑制装置10は、前記本発明の抑制方法と同様の方法になるように、制御ユニット14により、各照射ユニットを制御することで使用する。
【実施例
【0052】
つぎに、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例により限定及び制限されない。
【0053】
[実施例1]
本発明の抑制方法により、水疱症の発症が抑制できることを確認した。
【0054】
200穴を備える播種トレイに、床土(含水セル培土初期肥効型、タキイ種苗株式会社製)を導入後、トマト植物の種子(桃太郎ピース、Bバリア又はTTM-079、いずれもタキイ種苗株式会社製)を床土上に播種した。つぎに、前記播種トレイに覆土(含水セル培土初期肥効型)を導入した。そして、播種トレイを十分に灌水した後、本葉2枚が展開するまで(播種後14~16日間)栽培した。栽培条件及び光の照射条件は、下記の通りとした。第2の照射工程を行なわないサンプルについては、非照射工程を8時間実施した。他方、第2の照射工程を4時間行なうサンプルについては、非照射工程を4時間実施した。植物における光量子束密度は、前述の測定機器を、播種トレイの中心にその受光面を光源側に向けて配置し、測定した。
【0055】
(栽培条件)
1日の周期:24時間
湿度(栽培室):60%
湿度(株元):80%
灌水:3日に1回底面灌水
【0056】
(光の照射条件)
:16時間
:0又は4時間
:8又は4時間
第1の照射工程における各光の光量子束密度:下記表1のとおり
第2の照射工程における青色光の光量子束密度:40μmol m-2-1
【0057】
前記培養後、各植物について、下記水疱症の評価基準及び徒長の評価基準に基づき評価した。なお、徒長は、培土より上の胚軸の長さ(L)を測定し、評価した。これらの結果を下記表1に示す。
【0058】
(水疱症の評価基準)
◎:発症無し
○:予兆あり、又は極軽度の発症
×:発症
【0059】
(徒長の評価基準)
◎:L<4.0(cm)
○:4.0≦L<5.0(cm)
×:5.0≦L(cm)
【0060】
【表1】
【0061】
前記表1に示すように、L/L=0.5又は2.4である比較例1A及び1Bにおいて、いずれも水疱症が発生した。他方、0.6≦L/L≦2を満たす実施例1A~Iは、いずれも水疱症の発症が抑制された。特に、0.8≦L/L≦2.0を満たす実施例1A~Gでは、より広い品種に対して水疱症を効果的に抑制できた。さらに、1.0≦L/L≦1.4を満たし、かつ0.9≦L/L≦1.1を満たす実施例1D、E及びGでは、より広い品種に対して水疱症を効果的に抑制でき、かつ苗の徒長を抑制できた。そして、1.0≦L/L≦1.4を満たし、かつ0.9≦L/L≦1.1を満たす実施例1D、E及びGでは、前記(1)~(4)の条件を満たしており、健全な苗姿の植物の苗が育苗できた。
【0062】
以上のことから、本発明の抑制方法により、水疱症の発症が抑制できることがわかった。
【0063】
[実施例2]
本発明の抑制方法により、水疱症の発症が抑制できることを確認した。
【0064】
前記表1に示す第1の照射工程における各光の光量子束密度に代えて、下記表2に示す第1の照射工程における各光の光量子束密度を用いた以外は、実施例1と同様にして、水疱症及び徒長を評価した。これらの結果を下記表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
前記表2に示すように、0.6≦L/L≦2を満たす実施例2A~Jは、いずれも水疱症の発症が抑制された。また、1.0≦L/L≦1.4を満たし、かつ0.9≦L/L≦1.1を満たす実施例2D~Gでは、より広い品種に対して水疱症を効果的に抑制でき、かつ苗の徒長を抑制できた。そして、1.0≦L/L≦1.4を満たし、かつ0.9≦L/L≦1.1を満たす実施例2D~Gでは、前記(1)~(4)の条件を満たしており、健全な苗姿の植物の苗が育苗できた。さらに、実施例2A及び2Bの桃太郎ピースの結果から明らかなように、第2の照射工程を含むことで、効果的に徒長を抑制できた。そして、実施例2Hおよび2Iの桃太郎ピースの結果から明らかなように、第2の照射工程を含むことで、水疱症の発症が抑制された。
【0067】
以上のことから、本発明の抑制方法により、水疱症の発症が抑制できることがわかった。
【0068】
[実施例3]
異なるトマト品種に対して、本発明の抑制方法により、水疱症の発症が抑制でき、かつ育苗において植物の徒長が抑制できることを確認した。
【0069】
植物の種子として、桃太郎ピース、Bバリア、TTM-079に代えて、下記表3のトマトの種子を用い、下記の照射条件とした以外は、前記実施例1と同様にして、水疱症及び徒長を評価した。これらの結果を下記表3に示す。
【0070】
・品種1~10の照射条件
:16時間
:4時間
:4時間
第1の照射工程における各光の光量子束密度:
:L:L=75:90:55(μmol m-2-1
/L=1.8
/L=1.2
第2の照射工程における青色光の光量子束密度:30μmol m-2-1
・品種11~25の照射条件
:16時間
:4時間
:4時間
第1の照射工程における各光の光量子束密度:
:L:L=75:60:45(μmol m-2-1
/L=1.3
/L=0.8
第2の照射工程における青色光の光量子束密度:30μmol m-2-1
【0071】
【表3】
【0072】
前記表3に示すように、いずれの品種においても、水疱症が抑制され、かつ徒長が抑制されていた。
【0073】
以上のことから、本発明の抑制方法により、異なるトマト品種の水疱症の発生を抑制でき、かつ育苗において植物の徒長が抑制できることを確認した。
【0074】
以上、実施形態及び実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態及び実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【0075】
<付記>
上記の実施形態及び実施例の一部又は全部は、以下の付記のように記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
植物に光を照射する第1の照射工程を含み、
前記光は、青色光、緑色光及び赤色光を含み、
赤色光の光量子束密度(L)と青色光の光量子束密度(L)との比(L/L)は0.6≦L/L≦2の範囲を満たす、植物における水疱症の抑制方法。
(付記2)
前記L/Lは、1≦L/L≦1.4の範囲を満たす、付記1記載の抑制方法。
(付記3)
前記第1の照射工程において、前記緑色光の光量子束密度(L)は、60μmol m-2-1以上である、付記1又は2記載の抑制方法。
(付記4)
前記第1の照射工程において、前記光の光量子束密度(L)は、160~280μmol m-2-1の範囲である、付記1乃至3のいずれかに記載の抑制方法。
(付記5)
赤色光の光量子束密度(L)と緑色光の光量子束密度(L)との比(L/L)は、0.6≦L/L≦1.6の範囲を満たす、付記1乃至4のいずれかに記載の抑制方法。
(付記6)
前記第1の照射工程の照射時間(T)は、12~20時間である、付記1乃至5のいずれかに記載の抑制方法。
(付記7)
前記第1の照射工程後、前記植物に青色光を照射する第2の照射工程を含む、付記1乃至6のいずれかに記載の抑制方法。
(付記8)
前記第2の照射工程の照射時間(T)と前記第1の照射工程の照射時間(T)との比(T/T)は、0.1≦T/T≦0.3の範囲である、付記7記載の抑制方法。
(付記9)
前記第2の照射工程の照射時間(T)は、1~5時間である、付記7又は8記載の抑制方法。
(付記10)
前記植物に光を照射しない非照射工程を含む、付記1乃至9のいずれかに記載の抑制方法。
(付記11)
前記光は、LEDに由来する、付記1乃至10のいずれかに記載の抑制方法。
(付記12)
前記植物は、トマト植物である、付記1乃至11のいずれかに記載の抑制方法。
(付記13)
植物苗に光を照射し、育苗する育苗工程を含み、
前記育苗工程は、付記1乃至12のいずれかに記載の抑制方法により実施される、植物苗の生産方法。
(付記14)
植物に青色光を照射可能な第1の照射ユニットと、
植物に緑色光を照射可能な第2の照射ユニットと、
植物に赤色光が照射可能な第3の照射ユニットと、
前記第1の照射ユニット、前記第2の照射ユニット、及び前記第3の照射ユニットによる照射を制御する制御ユニットとを含み、
前記制御ユニットは、前記第1の照射ユニット、前記第2の照射ユニット、及び前記第3の照射ユニットによる照射時に、前記第3の照射ユニットから照射される赤色光の光量子束密度(L)と前記第1の照射ユニットから照射される青色光の光量子束密度(L)との比(L/L)が、0.6≦L/L≦2の範囲を満たすように、前記第1の照射ユニット及び前記第3の照射ユニットの照射を制御する、植物における水疱症の抑制装置。
(付記15)
前記制御ユニットは、前記第1の照射ユニット及び前記第3の照射ユニットを、L/Lが、1≦L/L≦1.4の範囲を満たすように制御する、付記14記載の抑制装置。
(付記16)
前記制御ユニットは、前記第2の照射ユニットを、前記緑色光の光量子束密度(L)が、60μmol m-2-1以上となるように制御する、付記14又は15記載の抑制装置。
(付記17)
前記制御ユニットは、前記第1の照射ユニット、前記第2の照射ユニット、及び前記第3の照射ユニットを、前記青色光、前記緑色光及び前記赤色光を含む光の光量子束密度(L)は、160~280μmol m-2-1の範囲となるように制御する、付記14乃至16のいずれかに記載の抑制装置。
(付記18)
前記制御ユニットは、前記第2の照射ユニット及び前記第3の照射ユニットを、赤色光の光量子束密度(L)と緑色光の光量子束密度(L)との比(L/L)が、0.6≦L/L≦1.6の範囲を満たすように制御する、付記14乃至17のいずれかに記載の抑制装置。
(付記19)
前記制御ユニットは、前記第1の照射ユニット、前記第2の照射ユニット、及び前記第3の照射ユニットによる照射時間(T)は、12~20時間となるように制御する、付記14乃至18のいずれかに記載の抑制装置。
(付記20)
前記制御ユニットは、前記第1の照射ユニット、前記第2の照射ユニット、及び前記第3の照射ユニットによる照射後、前記第1の照射ユニットにより前記植物に青色光を照射するように制御する、付記14乃至19のいずれかに記載の抑制装置。
(付記21)
前記制御ユニットは、前記第1の照射ユニット、前記第2の照射ユニット、及び前記第3の照射ユニットを、前記第1の照射ユニットによる照射時間(T)と、前記照射時間(T)との比(T/T)が、0.1≦T/T≦0.3の範囲となるように制御する、付記20記載の抑制装置。
(付記22)
前記制御ユニットは、前記第1の照射ユニットを、前記第1の照射ユニットによる照射時間(T)が、1~5時間となるように制御する付記20又は21記載の抑制装置。
(付記23)
前記制御ユニットは、前記第1の照射ユニット、前記第2の照射ユニット、及び前記第3の照射ユニットによる照射を実施しないように制御する、付記14乃至22のいずれかに記載の抑制装置。
(付記24)
前記第1の照射ユニット、前記第2の照射ユニット、及び前記第3の照射ユニットは、光源として、LEDを備える、付記14乃至23のいずれかに記載の抑制装置。
(付記25)
前記植物は、トマト植物である、付記14乃至24のいずれかに記載の抑制装置。
(付記26)
付記1から12のいずれかに記載の抑制方法に用いる、付記14から25のいずれかに記載の抑制装置。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上説明したように、本発明によれば、LED灯を用いた際にも、緑色光を含むことで目視による品質検査が可能であり、水疱症の発症を抑制可能である。また、本発明によれば、L/Lを、0.6≦L/L≦2とすることにより、例えば、健全な苗姿を有する植物を育成可能である。さらに、本発明によれば、L/Lを制御することにより、水疱症の発生を抑制できるため、例えば、紫外線の照射が不要である。このため、本発明によれば、例えば、紫外線を使用しない安全な環境下で植物を生育できる。したがって、本発明は、例えば、種子の品質管理、植物工場等における育苗等の農芸分野において極めて有用である。
【符号の説明】
【0077】
10 抑制装置
11 第1の照射ユニット
12 第2の照射ユニット
13 第3の照射ユニット
14 制御ユニット
図1