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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】端子付き電線
(51)【国際特許分類】
   H01R 4/50 20060101AFI20220908BHJP
   H01R 13/03 20060101ALI20220908BHJP
   H01R 4/18 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
H01R4/50 Z
H01R13/03 D
H01R4/18 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019147258
(22)【出願日】2019-08-09
(65)【公開番号】P2021028882
(43)【公開日】2021-02-25
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】城 崇人
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 寧
(72)【発明者】
【氏名】坂田 知之
(72)【発明者】
【氏名】田端 正明
(72)【発明者】
【氏名】原 照雄
(72)【発明者】
【氏名】竹内 竣哉
(72)【発明者】
【氏名】松永 英樹
(72)【発明者】
【氏名】寺本 圭佑
【審査官】藤島 孝太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第4413872(US,A)
【文献】特開2016-71951(JP,A)
【文献】特開2018-190533(JP,A)
【文献】特開2012-28057(JP,A)
【文献】独国実用新案第202016104726(DE,U1)
【文献】特開2014-187015(JP,A)
【文献】国際公開第2018/074255(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 4/18
4/50
13/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体を有する電線と、
前記導体に接続される端子と、
前記端子に取り付けられるシェルと、を備え、
前記端子は、前記導体を挟み込むグリップ部を有し、
前記シェルは、前記グリップ部の少なくとも一部を前記導体の側に押圧する加圧部を有し、
前記グリップ部は、Sn-Ni合金層を備え、
前記Sn-Ni合金層は、局所的に突出する凸部を備え、
前記凸部は、前記導体に食い込んでいる、
端子付き電線。
【請求項2】
前記Sn-Ni合金層は、NiSnを含む請求項1に記載の端子付き電線。
【請求項3】
前記導体は単芯線である請求項1又は請求項2に記載の端子付き電線。
【請求項4】
前記導体は、Cu-Sn合金、又はCu-Ag合金である請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の端子付き電線。
【請求項5】
前記シェルは、
前記グリップ部を内部に収納する筒状部と、
前記筒状部に形成される前記加圧部とを備える請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の端子付き電線。
【請求項6】
前記グリップ部は、前記導体を挟んで互いに向き合う第一板状片と第二板状片とで構成されており、
前記加圧部は、前記筒状部の内周側に突出する第一凸部と第二凸部とで構成され、
前記第一凸部は、前記第一板状片を前記第二板状片の側に押圧し、
前記第二凸部は、前記第二板状片を前記第一板状片の側に押圧する請求項5に記載の端子付き電線。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、端子付き電線に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの移動体において、信号の伝送を行う端子付き電線が用いられている。端子付き電線は、導体を有する電線と、導体に電気的に接続される端子と、を備える。
【0003】
電線の導体と端子との接続は、圧着により行われることが多い。例えば、特許文献1に記載の端子は、導体に圧着されるオープンバレル状の圧着部(ワイヤバレル)を備える。この構成では、ワイヤバレルの内部に導体が配置され、ワイヤバレルがかしめられることで、導体と端子とが機械的・電気的に接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-21405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の自動車の電装化に伴い、自動車に搭載される端子付き電線の数が増加する傾向にある。そのため、複数の端子付き電線を一つにまとめたコネクタが大型化する傾向にある。コネクタの搭載スペースには限りがあるため、コネクタをなるべく小型化したいというニーズがある。
【0006】
コネクタを小型化するために端子付き電線の電線径を小さくすることが検討されている。この場合、電線の導体と端子との接続強度を確保することが重要になる。特に、自動車などでは、電線の導体と端子との接続箇所に振動が加わるからである。
【0007】
そこで、本開示は、電線の導体と端子との接続強度に優れる端子付き電線を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の端子付き電線は、
導体を有する電線と、
前記導体に接続される端子と、
前記端子に取り付けられるシェルと、を備え、
前記端子は、前記導体を挟み込むグリップ部を有し、
前記シェルは、前記グリップ部の少なくとも一部を前記導体の側に押圧する加圧部を有し、
前記グリップ部は、Sn-Ni合金層を備え、
前記Sn-Ni合金層は、局所的に突出する凸部を備え、
前記凸部は、前記導体に食い込んでいる。
【発明の効果】
【0009】
本開示の端子付き電線は、電線の導体と端子との接続強度に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態1に記載されるコネクタアセンブリの概略構成図である。
図2図2は、実施形態1に記載されるコネクタアセンブリに備わるコネクタの分解斜視図である。
図3図3は、実施形態1に記載される端子とシェルの組物の概略斜視図である。
図4図4は、実施形態1に記載される端子の概略斜視図である。
図5図5は、実施形態1に記載されるシェルの概略斜視図である。
図6図6は、実施形態1に記載される端子付き電線の部分縦断面図である。
図7図7は、図6の端子付き電線における加圧部近傍の模式図である。
図8図8は、実施形態1に記載される端子付き電線における導体の保持力を測定する装置の模式図である。
図9図9は、実施形態1に記載される端子付き電線における合金化のメカニズムを説明する説明図である。
図10図10は、試験例1-1の試験結果を表にまとめた図である。
図11図11は、試験例2-1の試験結果を表にまとめた図である。
図12図12は、試験例2-2に記載される試験装置の模式図である。
図13図13は、試験例2-2の試験結果をまとめた表である。
図14図14は、試験例3に記載される端子の断面のSEM画像を示す図である。
図15図15は、試験例3に記載される作製直後の試料の断面のSEM画像を示す図である。
図16図16は、試験例3に記載される高温で短期間保持された試料の断面のSEM画像を示す図である。
図17図17は、試験例3に記載される高温で長期間保持された試料の断面のSEM画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
本発明者らは、電線の導体と端子との接続強度が向上する構成を鋭意検討した。その結果、導体を常に強い力で挟み込み続けられる構成とすることで、単に導体を挟み込むだけでは得られない接続強度が得られることが分かった。また、端子における導体と接触する部分に、凸部を有するSn-Ni合金層が設けられていることで、導体と端子との接続強度が向上することが分かった。この知見に基づいて、本発明者らは、本開示の端子付き電線を完成させた。最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0012】
<1>実施形態に係る端子付き電線は、
導体を有する電線と、
前記導体に接続される端子と、
前記端子に取り付けられるシェルと、を備え、
前記端子は、前記導体を挟み込むグリップ部を有し、
前記シェルは、前記グリップ部の少なくとも一部を前記導体の側に押圧する加圧部を有し、
前記グリップ部は、Sn-Ni合金層を備え、
前記Sn-Ni合金層は、局所的に突出する凸部を備え、
前記凸部は、前記導体に食い込んでいる。
【0013】
上記構成では、シェルの加圧部に押圧された端子のグリップ部が導体に押し付けられ続ける。従って、グリップ部が導体を強い力で挟み込み続ける。更に、上記構成では、端子のグリップ部に、凸部を有するSn-Ni合金層が形成されている。Sn-Ni合金層は非常に硬いため、シェルによってグリップ部が端子に強く押し付けられると、Sn-Ni合金層の凸部が導体に食い込む。その結果、実施形態に係る端子付き電線に備わる電線が引っ張られても、端子から導体が容易に脱落しない。この実施形態に係る端子付き電線における導体を保持する力(保持力)は、ワイヤバレルによって電線を掴む従来の端子付き電線における保持力よりも大きい。
【0014】
<2>実施形態に係る端子付き電線の一形態として、
前記Sn-Ni合金層は、NiSnを含む形態が挙げられる。
【0015】
NiSnは非常に硬度が高い。この硬度は、電線の導体として一般的に使用される材料(例えばCu合金など)の硬度よりも高い。従って、NiSnを含むSn-Ni合金層の凸部が、導体に食い込み易くなる。その結果、端子付き電線における導体の保持力が向上する。
【0016】
<3>実施形態に係る端子付き電線の一形態として、
前記導体は単芯線である形態が挙げられる。
【0017】
複数の芯線からなる導体では、グリップ部によって挟み込まれた際、各芯線が移動し易い。一方、単芯線によって構成される導体は、グリップ部によって挟み込まれる際、移動し難い。従って、単芯線によって構成される導体は、グリップ部によってしっかりと挟み込まれる。
【0018】
<4>実施形態に係る端子付き電線の一形態として、
前記導体は、Cu-Sn合金、又はCu-Ag合金である形態が挙げられる。
【0019】
Cu-Sn合金は、端子との固着力に優れる。Cu-Ag合金は、強度に優れ、車両での取り扱いに優れる。
【0020】
<5>実施形態に係る端子付き電線の一形態として、
前記シェルは、
前記グリップ部を内部に収納する筒状部と、
前記筒状部に形成される前記加圧部とを備える形態が挙げられる。
【0021】
筒状に形成されるシェルは変形し難い。従って、筒状のシェルによって、端子のグリップ部によって導体を挟む力が、長期間にわたって維持され易い。
【0022】
<6>上記<5>に係る端子付き電線の一形態として、
前記グリップ部は、前記導体を挟んで互いに向き合う第一板状片と第二板状片とで構成されており、
前記加圧部は、前記筒状部の内周側に突出する第一凸部と第二凸部とで構成され、
前記第一凸部は、前記第一板状片を前記第二板状片の側に押圧し、
前記第二凸部は、前記第二板状片を前記第一板状片の側に押圧する形態が挙げられる。
【0023】
上記構成では、導体の外周面における導体の中心を挟んで対称となる位置が、グリップ部を構成する第一板状片と第二板状片とで挟み込まれる。グリップ部における導体の位置が変化し難くなるため、グリップ部による導体の保持力が大きく向上する。また、上記構成では、第一凸部と第二凸部とがそれぞれ、第一板状片と第二板状片を押圧する構成となっている。そのため、第一板状片が導体を押圧する力と、第二板状片が導体を押圧する力とが釣り合い易い。この構成も、グリップ部による導体の保持力が大きく向上する理由である。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、図面に基づいて、本開示の実施形態に係る端子付き電線の具体例を説明する。図中の同一符号は、同一名称物を示す。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0025】
<実施形態1>
実施形態1では、図1に示されるコネクタアセンブリ1を例にして、本例の端子付き電線10を説明する。コネクタアセンブリ1は、複数の端子付き電線10と、一つのコネクタ3と、を備える。説明の便宜上、図1では端子付き電線10は一本しか図示されていない。この端子付き電線10は、電線2と、電線2の先端に取り付けられる端子4(図6)とを備える。本例に示す端子4は雌端子である。従って、本例のコネクタ3は雌コネクタである。本例とは異なり、端子4は雄端子でも良い。
【0026】
≪コネクタ≫
コネクタ3には、図示しない雄コネクタが嵌合される。コネクタ3は、図2に示されるように、フロントハウジング3Aとリアカバー3Bとを機械的に組み合わせて構成される。フロントハウジング3Aは、図示しない雄コネクタの雄端子の先端が挿入される複数の挿入孔30を備える。また、フロントハウジング3Aにおける挿入孔30と反対側には、隔壁33によって区画された複数のキャビティ34が形成されている。各キャビティ34は、各挿入孔30に繋がっている。
【0027】
リアカバー3Bは、図示しない後端部に電線2が貫通される電線挿入孔が形成されている。リアカバー3Bにおけるフロントハウジング3A側の内周面には、複数のスライド溝35が配置されている。スライド溝35には、フロントハウジング3Aの隔壁33がスライド嵌合される。
【0028】
本例のフロントハウジング3Aとリアカバー3Bは、二段階のスナップフィット構造によって係合される。スナップフィット構造は、フロントハウジング3Aの幅方向の両端部に形成されるハウジング側係合部31と、リアカバー3Bの幅方向の両端部に形成されるカバー側係合部32とで構成される。ハウジング側係合部31は、フロントハウジング3Aの幅方向の両端に設けられる板状部材である。板状部材は、その外方側の面に第一突起31fと第二突起31sとを備える。第一突起31fは、第二突起31sよりもフロントハウジング3Aの後端側に配置されている。一方、カバー側係合部32は門型の係合片である。従って、フロントハウジング3Aにリアカバー3Bが嵌め込まれる際、まずカバー側係合部32の貫通孔に第一突起31fが係合する。更にリアカバー3Bがフロントハウジング3Aに押し込まれると、カバー側係合部32は第一突起31fを乗り越え、カバー側係合部32の貫通孔に第二突起31sが係合する。
【0029】
≪電線≫
電線2は、図6に示されるように、導体20と、導体20の外周に形成される絶縁層21とを備える。電線2の端部では絶縁層21が剥がされて、導体20が露出している。露出した導体20は、後述する端子4に機械的・電気的に接続される。
【0030】
導体20は、単芯線でも良いし、より線でも良い。本例の導体20は単芯線である。単芯線の公称断面積は、特に限定されないが、例えば0.13mm以下である。更に細い単芯線として、公称断面積が0.05mmの単芯線が挙げられる。本開示の実施形態に係る端子付き電線10は、従来の端子付き電線に比べて細径の導体20を採用している。このような細径の導体20であっても、実施形態に係る端子付き電線10の構造によれば、端子4にしっかりと保持される。後述するように、端子4に備わるグリップ部のSn-Ni合金層に形成される凸部が導体20に食い込んでいるからである。
【0031】
端子4に接続される前の導体20は、少なくとも銅(Cu)を含む部分を有する。例えば、導体20の材質としては、Cu又はCu合金が挙げられる。Cu合金としては、Cu-Ag合金、Cu-Sn合金、又はCu-Fe合金などが挙げられる。Cu-Sn合金は、端子との固着力に優れる。Cu-Ag合金は、強度に優れ、車両での取り扱いに優れる。端子4に接続される前の導体20の最表面にはスズ(Sn)層が形成されていても良い。一方、絶縁層21は、例えばポリ塩化ビニル又はポリエチレンなどの絶縁性樹脂によって構成されている。
【0032】
≪端子≫
端子4は、端子4に取り付けられるシェル5とセットで用いられる(図3)。本例の端子4は、一枚の板材をプレス成形することで得られる。導体20の公称断面積が0.13mmである場合、板材の厚さは0.05mm以上0.20mm以下であることが好ましい。板材の厚さが0.05mm以上であれば、端子4の機械的強度を確保できる。板材の厚さが0.20mm以下であれば、端子4の大型化が回避される。更に好ましい板材の厚さは、0.1mm以上0.15mm以下である。
【0033】
導体20に接続される前の端子4は、導電性に優れる母材と、母材の最表面に形成されるSn層とを備える。母材としては、例えばCu又はCu合金などが挙げられる。また、最表面のめっきとしては、Sn又はAgなどが挙げられる。めっきの下地として、Ni(ニッケル)又はNi合金などをめっきしても良い。
【0034】
端子4は、図4に示されるように、筒状に形成される端子接続部4Aと、端子接続部4Aの後端部に一体化されたグリップ部4Bとを備える。グリップ部4Bは、端子4における導体20と電気的に接続される部分である。
【0035】
端子接続部4Aはその先端に挿入孔40を備える。端子4は、コネクタ3のキャビティ34の内部に配置される。従って、端子4の挿入孔40は、コネクタ3の挿入孔30にほぼ同軸に配置される。
【0036】
端子接続部4Aは、その長さ方向の中間部に貫通窓46を備える。貫通窓46は、端子接続部4Aの上半分が切り欠かれることで形成されている。この貫通窓46は、コネクタ3の貫通窓36に対応する位置にある。従って、端子4をコネクタ3のキャビティ34に挿入し、端子4の前端がキャビティ34の内部の段差に当て止めされたときに、端子4の貫通窓46は、コネクタ3の貫通窓36の内部に露出する。これら貫通窓36,46は、端子4に導体20が挿入されているかどうかをコネクタ3の外部から目視にて確認するためのものである。
【0037】
端子接続部4Aにおけるグリップ部4B寄りの側面には端子側係合部45が形成されている。図4では、一方の側面に形成される端子側係合部45のみ図視されているが、紙面奥側に隠れる他方の側面にも端子側係合部45が形成されている。本例の端子側係合部45は、後述するシェル5のシェル側係合部55に係合する突起である。
【0038】
本例のグリップ部4Bは、導体20を挟んで互いに向き合う第一板状片41と第二板状片42とを備える。第一板状片41は、端子接続部4Aの上面部に一体に形成されている。第二板状片42は、端子接続部4Aの下面部に一体に形成されている。
【0039】
第一板状片41は、図6に示されるように、第一薄肉部410と第一厚肉部411とを備える。第一板状片41において、第一薄肉部410は第一板状片41の先端側(紙面右側)、第一厚肉部411は根元側(紙面左側)に配置されている。本例では、端子4を構成する板材が重ねられることで第一厚肉部411が形成されている(図7参照)。つまり、第一厚肉部411の厚さは第一薄肉部410の厚さの約2倍になっている。
【0040】
第二板状片42は、第二薄肉部420と第二厚肉部421とを備える。第二板状片42において、第二薄肉部420は根元側、第二厚肉部421は先端側に配置されている。第二厚肉部421は、端子4を構成する板材が折り畳まれて重ねられることで形成されている。従って、第二厚肉部421の厚さは、第一厚肉部411の厚さにほぼ等しく、第二薄肉部420の厚さは、第一薄肉部410の厚さにほぼ等しい。
【0041】
第一薄肉部410の表面(第二板状片42側の面)と、第二厚肉部421の表面(第一板状片41側の面)には、導体20の外周形状に沿った凹みが設けられている。その凹みには、図4に示されるように、溝状のセレーション44が形成されている。セレーション44の形状及び数は適宜選択される。本例のセレーション44は、断面V字状の溝である。セレーション44の数は3つである。
【0042】
図6に示されるように、第一厚肉部411と第二厚肉部421とは、端子4の軸方向(紙面左右方向)に重複することなくずれている。従って、第一板状片41と第二板状片42とで挟み込まれる導体20は、第一厚肉部411と第二厚肉部421とが長手方向に離隔する箇所で屈曲する。
【0043】
≪シェル≫
シェル5は、端子4のグリップ部4Bを導体20側に押圧する部材である(図3)。本例のシェル5は、端子4の後端側に嵌め込まれる筒状部50を備える。筒状部50は、その内部に端子4のグリップ部4Bを収納する。この筒状部50には、グリップ部4Bを導体20側に押圧する加圧部50Cが形成されている。本例の加圧部50Cは、図6に示されるように、第一凸部51と第二凸部52とを備える。両凸部51,52は、筒状部50の内部に突出する。本例の第一凸部51は、筒状部50の上面部の一部が筒状部50の内部に凹むことで構成されている。この第一凸部51は、第一板状片41を第二板状片42側に押圧する。一方、第二凸部52は、筒状部50の下面部の一部が筒状部50の内部に凹むことで構成されている。第二凸部52は、第二板状片42を第一板状片41側に押圧する。第一凸部51と第二凸部52とは互いに向きあっている。
【0044】
筒状部50によってグリップ部4Bをその外周側から取り囲むことで、第一板状片41と第二板状片42とで導体20を挟み込む力を発揮できる。この機能に鑑み、シェル5は、高強度の材料で構成されることが好ましい。例えばシェル5は、SUS又は鋼などで構成される。その他、シェル5は高強度プラスチックによって構成されていても良い。
【0045】
筒状部50は、図5に示されるように、その先端側における上方側の部分が外方側に張り出すことで形成される段差部50dを備える。段差部50dは、シェル5を端子4が取り付けられる際に、コネクタ3のリアカバー3Bに押圧される部分である。
【0046】
筒状部50の側面にはシェル側係合部55が形成されている。シェル側係合部55は、第一係合部55fと第二係合部55sとで構成されている。本例の第一係合部55fと第二係合部55sは、筒状部50を内外に貫通する矩形状の貫通孔である。第一係合部55fは、筒状部50の先端側に形成され、第二係合部55sは、筒状部50の中間部に形成されている。従って、端子4にシェル5が取り付けられる際、端子4に備わる端子側係合部45は、最初に第一係合部55fに係合する。この係合状態では、端子4のグリップ部4Bと、シェル5の加圧部50Cとが、端子4の長さ方向にずれている。更にシェル5が端子4側に押し込まれると、端子側係合部45は第一係合部55fから外れ、第二係合部55sに係合する。この係合状態では、加圧部50Cが、端子4の長さ方向にグリップ部4Bに重なる位置に配置され、加圧部50Cによってグリップ部4Bが押圧される。
【0047】
筒状部50の後端側の側壁にはガイド部53が形成されている。ガイド部53は、筒状部50の側壁の一部を筒状部50の内周側に凹ませることで構成されている。ガイド部53は、図6に示されるように、導体20をシェル5の幅方向(図6の紙面奥行方向)から挟み込む。従って、ガイド部53によって、導体20がシェル5の幅方向の中央、即ち端子4の幅方向の中央に配置される。
【0048】
本例と異なる構造を備えるシェルとして、例えば、端子4を個別に内部に収納するコネクタモジュールが挙げられる。コネクタモジュールは、端子4を一つだけ収納できるモジュールハウジングと、モジュールハウジングの開口部に蓋をするモジュールカバーとで構成される。この場合、モジュールハウジングとモジュールカバーとにそれぞれ加圧部を形成すれば良い。
【0049】
≪組み立て手順≫
上記構成を備えるコネクタアセンブリ1の組み立て手順の一例を説明する。まず、端子4の後端部からシェル5を取り付け、端子側係合部45と、シェル側係合部55の第一係合部55fとを係合させる。この段階では、端子4のグリップ部4Bとシェル5の加圧部50Cとが端子4の長さ方向にずれており、グリップ部4Bは加圧部50Cに押圧されない。この端子4とシェル5の組物を、コネクタ3のフロントハウジング3Aのキャビティ34に挿入し、フロントハウジング3Aの後端部からリアカバー3Bを取り付け、ハウジング側係合部31と、カバー側係合部32の第一突起31fとを係合させる。このとき、シェル5の段差部50dがリアカバー3Bに押され、シェル5に押された端子4がコネクタ3内の所定位置に配置される。
【0050】
次いで、リアカバー3Bの後端側から電線2を挿入する。その際、フロントハウジング3Aの貫通窓36から導体20を確認できるまで電線2を挿入する。貫通窓36から導体20が確認できたら、リアカバー3Bをフロントハウジング3A側に押し込んで、カバー側係合部32を第二突起31sに係合させる。その際、シェル5の段差部50dがリアカバー3Bに押され、端子側係合部45が、第一係合部55fから第二係合部55sに掛け変わる。その結果、シェル5の第一凸部51と第二凸部52とがそれぞれ、端子4の第一板状片41と第二板状片42の位置に配置され、導体20が第一板状片41と第二板状片42とで挟み込まれた状態になる。シェル5は変形し難い筒状体であるため、両板状片41,42は継続的に導体20に強い力で押し付けられる。
【0051】
≪圧縮率≫
上記構成によれば、図7に示されるように、加圧部50C(凸部51,52)によってグリップ部4B(板状片41,42)と導体20が圧縮される。加圧部50Cによって圧縮されたグリップ部4Bと導体20との合計圧縮率は5%以上50%以下であることが好ましい。合計圧縮率は、端子付き電線10の縦断面における(Y-X)/Y×100によって求められる。Xは、加圧部50Cによって圧縮変形された部分の厚み、Yは、加圧部50Cに圧縮されていない部分の厚みである。圧縮変形された部分には、グリップ部4Bと導体20との双方が含まれる。図7に示される例では、第一凸部51と第二凸部52との間の距離が、圧縮変形された厚みXに相当する。一方、加圧部50Cに圧縮されていない部分の厚みYは、第一凸部51と第二凸部52とで挟まれていない部分の合計厚みである。例えば、厚みYは、第一厚肉部411の厚さY1と、導体20の直径Y2と、第二薄肉部420の厚さY3との合計値である。合計圧縮率が大き過ぎると端子と導体20が傷み易い。合計圧縮率が小さ過ぎると、端子4による導体20を保持する力(保持力)が低くなる恐れがある。より好ましい合計圧縮率は、10%以上30%以下である。
【0052】
≪保持力≫
本例の端子付き電線10では、端子4のグリップ部4Bによる導体20を保持する力(保持力)が非常に大きくなる。保持力は、図8の試験装置7によって評価することができる。試験装置7は、シェル5の後端面に当接する押さえ部材70と、電線2の外周を掴むチャック71とを備える。押さえ部材70は不動に固定されている。チャック71は、電線2の軸方向における端子4から離れる側(白抜き矢印の側)に移動可能に構成されている。このような試験装置7を用いて、押さえ部材70によって端子4を固定し、チャック71によって50mm/分の引抜き速度で電線2を引っ張ったときの最大荷重が保持力である。最大荷重は、チャック71を定速で移動させるための荷重を継続的に測定することで求められる。本例の端子付き電線10であれば、この保持力が20N以上となる。
【0053】
≪導体と端子との接合界面の状態≫
本例の端子付き電線10では、電線2の導体20と、端子4のグリップ部4Bとの間に合金層が形成される。合金層は、導体20及び端子4の少なくとも一方に含まれるCu及びSnが合金化したCu-Sn合金を含む。導体20とグリップ部4Bとの間に合金層が形成されるのは、グリップ部4Bが継続的に導体20に強く押し付けられているからである。以下、合金層が形成されるメカニズムを図9に基づいて説明する。図9には、白抜き矢印で示される時間の経過に伴う導体20とグリップ部4Bとの接合界面の状態変化を示している。
【0054】
図9に示される例では、導体20と端子4のグリップ部4Bとが矩形状に簡略化されている。図9の左図には接合前の導体20とグリップ部4Bが示され、中図には導体20とグリップ部4Bとが接合された直後の状態が示されている。図9の右図には導体20とグリップ部4Bとが接合されてから所定時間が経過した状態が示されている。左図に示される導体20はCu-Ag合金で構成され、グリップ部4BはNi母材の表面にSn層4bが形成されたものである。Sn層4bは、Snめっき後にリフロー処理されたリフローSnめっきである。Sn層4bの表面には、Snが自然酸化することで形成される酸化被膜4cが形成される。また、リフロー処理を行うことで、Sn層4bの内部に、Sn層4bのSnとNiとが合金化したSn-Ni合金層4aが形成される。Sn-Ni合金層4aの表面は、局所的に突出した凸部4pを有する凹凸形状となる。Sn-Ni合金は、例えばNiSnなどである。NiSnの硬度は、導体20を構成するCu合金の硬度よりも高い。
【0055】
図9の中図に示されるように、導体20とグリップ部4Bとを強い力で押し付けあうと、Sn層4bの表面に形成されるSnの酸化被膜4cが破壊され、酸化被膜4cの表面にSnが溢れ出す。その結果、Snが導体20の表面に凝着する凝着部9が形成され、導体20とグリップ部4Bとが接合される。また、高硬度のSn-Ni合金層4aに形成される凸部4pが導体20に食い込む。
【0056】
図9の右図に示されるように、接合から時間が経過すると、導体20とグリップ部4Bとの間に合金層6が形成される。本例の合金層6は、導体20の表面に形成されるCu-Sn合金層60と、混在層61とを備える。Cu-Sn合金層60は、接合時に導体20の表面に凝着したSnが導体20のCuに拡散することで形成される。混在層61は、導体20の表面に形成されるCu-Sn合金層60と、グリップ部4Bの表面に形成されるSn-Ni合金層4aとの間に形成される。本例の混在層61は、Cu-Sn合金とSn-Ni合金を含む。Cu-Sn合金は、例えば、CuSn及びCuSnなどである。
【0057】
<試験例1-1>
試験例1-1では、図8に示す試験装置7によって実施形態1に示す端子付き電線10における導体20を保持する力(保持力)を測定した。
【0058】
まず、電線2の導体20として、Cu-Ag合金の単芯線、及びSnのめっき層を有するCu-Ag合金の単芯線をそれぞれ複数用意した。導体20の公称断面積は0.13mmであった。また、Ni母材の表面にSnめっきを施した端子4と、SUS製のシェル5とをそれぞれ複数用意した。端子4を構成する板材の厚みは0.1mmであった。これらの導体20と端子4とシェル5とを組み合わせた端子付き電線10の試料を複数作製した。そして、作製直後の試料、室温で24時間放置した試料、室温で120時間放置した試料、室温で168時間放置した試料、及び120℃で120時間保持した試料の保持力を測定した。120℃×120時間の熱処理は加速試験と考えて良い。
【0059】
まず、作製直後の試料における端子付き電線10の縦断面を観察した。当該縦断面は図7の模式図に示す状態となっていた。当該縦断面における圧縮されていないグリップ部4Bの厚み(Y1+Y3)、圧縮されていない導体20の直径Y2、及び加圧部50Cによって圧縮された部分の厚みXを測定した。その結果、厚みY1+Y3、直径Y2、及び厚みXはそれぞれ、315μm、250μm、及び485μmであった。従って、本例の圧縮率は、{(565-485)/565}×100=14.2%であった。
【0060】
次に、図8の試験装置7のチャック71を50mm/分の引き抜き速度で引っ張り、チャック71を定速で動かすために必要な荷重(N)を測定した。この荷重が、上記保持力と考えて良い。その結果を、図10の表にまとめた。表内のグラフの横軸はチャックの変位量(mm)、縦軸は保持力(N)である。この表内のグラフに示すように、いずれの試料においても、変位量が0.3mm付近で保持力がピークを示し、ピーク位置から4mm前後まで比較的高い保持力が維持された後、保持力がゼロになった。保持力がピークを示すまでのチャック71の変位量は、導体20の伸びに起因しており、端子4に対して導体20が引き抜かれていなかった。従って、ピークを示す保持力は静止摩擦力に相当し、ピーク以後の保持力は動摩擦力に相当するものと考えられる。変位量が3mmから4mm前後のときに保持力が一段階下がるのは、導体20の先端が図7の第一厚肉部411の位置を抜けたからであり、最終的に保持力がゼロになったのは、端子4から導体20が抜けたからである。
【0061】
各試料の保持力のピークはいずれも20N以上となっていた。なお、市場に流通するコネクタアセンブリが、作製直後に使用されることはないので、シェル5による導体20の締め付け直後の試料の保持力は、実用上無視してかまわない。
【0062】
図10に示されるように、試料の作製からの経過時間が長くなるほど、保持力のピークが高くなる傾向にあることが分かった。この結果から、時間の経過に伴い、保持力を上昇させる何らかの変化が導体20と端子4のグリップ部4Bとの接合界面で生じていると推察される。この点については、後述する試験例2-1にて調査した。
【0063】
また、導体20の表面にSnのめっき層を有する試料(以下、めっき有り試料)の方が、導体20の表面にSnのめっき層を有さない試料(以下、めっき無し試料)よりも、ピーク後の保持力が低い傾向にあることが分かった。めっき有り試料に比べてめっき無し試料では、導体20とグリップ部4Bとの間の純Sn量が少ない。純Snは、潤滑効果を有し、導体20とグリップ部4Bとの間の動摩擦力を小さくすると考えられる。従って、めっき無し試料のピーク後の保持力が、めっき有り試料のピーク後の保持力よりも高くなったと推察される。
【0064】
<試験例1-2>
試験例1-2では、めっき層を有さないCu-Sn合金の導体20を用いて、試験1-1と同様の試験を行った。端子4とシェル5は、試験例1-1で使用したものと同じものであった。Cu-Sn合金は、試験例1-1のCu-Ag合金よりも柔らかい。保持力の測定については、作製直後の試料、及び120℃で120時間保持した試料について行った。
【0065】
試験の結果、作製直後の試料における保持力は30.3N、加速試験を行った試料における保持力は32.1Nであった。Cu-Sn合金からなる柔らかい導体20を用いた端子付き電線10においても、導体20を強い力で締め付けることで導体20の保持力が上昇することが分かった。試験例1-1,1-2の端子付き電線10は、上記保持力に優れるため、電気的接続の信頼性に優れることが確認された。
【0066】
<試験例2-1>
試験例1-1、1-2において、試料の静止摩擦力が時間の経過と共に上昇する原因を探るべく、以下のことを行った。まず、試験例1-1で用いた導体20と端子4とシェル5とで端子付き電線10を作製した。導体20は、めっき層を有さないCu-Ag合金であった。次いで、端子付き電線10の作製から所定時間経過後、端子付き電線10を解体し、導体20の表面をSEM(Scanning Electron Microscope)によって観察した。観察した試料は、グリップ部4Bによる導体20の締め付け直後の試料、室温で120時間放置した試料、及び120℃で120時間保持した試料であった。観察結果を図11の表に示す。各試料の導体20の表面には付着物が確認された。この付着物は、端子4のSn層4bに由来するSnの凝着部9(図9参照)と推察される。
【0067】
SEMの結果を受け、EDX(Energy dispersive X-ray spectrometry)によって、導体20の表面における元素の分布を調べた。その結果を図11の表に示す。表の上から一行目はSEM画像、二行目は導体の表面に付着したSn分布、三行目は導体の表面のCu分布である。
【0068】
図11に示されるように、時間の経過に伴い、導体20の表面におけるSn分布が広がっていることが分かった。端子4に備わるSn層4bの表面には自然酸化によって生じる酸化被膜4cが形成されるため、単に端子4を導体20にかしめただけでは、Sn層のSnが導体20の表面にほとんど付着しない。一方、本例の試料では、端子4の第一板状片41と第二板状片42とで導体20が強い力で挟み込まれ続けている。そのため、本例の試料における導体20の表面に付着したSnは、板状片41,42のSn層4bに含まれるSnの一部が酸化被膜4cを貫通して、導体20の表面に溢れ出してなる凝着部9と考えられる。また、時間の経過に伴ってSnの分布が広がっていることから、Snの凝着部9の面積の増加が、試験1-1,1-2における静止摩擦力を向上させているものと推察される。
【0069】
次いで、導体20の表面における凝着部9の面積を計算により求めた。具体的には、図11に示すSEM画像から導体20の直径を求めると共に、Cu分布を示す画像からCuが検出される視野幅(直径と同じ方向の長さ)を求めた。本例では、上記直径が267μm、上記視野幅が248μmであった。Cuが検出される視野幅が、EDXによって元素を分析できる幅である。つまり、導体20の表面の93%の領域で元素を分析できる。分析できない部分は、導体20の端の部分であり、Sn層4bを有する板状片41,42が接触していない部分である。そのため、EDXによって分析した導体20のSn分布が、導体20全体におけるSn分布とみなせる。そこで、その視野幅に占めるSnの面積を画像解析によって求めた。その結果、作製直後の試料、室温で120時間放置した試料、及び120℃×120時間保持した試料におけるSnの凝着部9の面積はそれぞれ、0.058mm、0.074mm、及び0.119mmであった。これらの測定した面積は、導体20の片側における面積である。導体20の両側を含めた各試料における凝着部9の総面積は、上記測定した面積の約2倍となる。本明細書には示していないが、導体20における図11に示す側と反対側でも、図11に示す側と同程度の凝着部9が形成されていた。すなわち、二つの板状片41,42で導体20を強い力で挟み続ける構成において、導体20の表面におけるSnの凝着部9の面積は0.100mm以上であった。
【0070】
<試験例2-2>
試験例2-1に示されるように、グリップ部4Bによる導体20の保持力の上昇は、Snの凝着によって生じると推察される。保持力とSnの凝着との因果関係を確認すべく、図12に示される試験装置8を用いた試験を行った。試験は室温で行った。
【0071】
試験装置8を用いた試験では、まず、Snからなる板材82と、Snからなる摺動部材84を用意した。次いで、台座80上に板材82を載置し、板材82に摺動部材84のエンボス84eを押し当てた。エンボス84eの半径は1mmであった。摺動部材84に加えられる垂直荷重は、1N、2N、又は4Nであった。エンボス84eを押し付ける時間は、1分、16時間、又は64時間とした。摺動部材84に垂直荷重をかける時間が長くなると、板材82のSnがエンボス84eに凝着する量が増加する。
【0072】
所定時間経過後、摺動部材84に垂直荷重をかけながら、摺動部材84を水平方向に動かした。摺動部材84を水平方向に移動させる力(N)を摩擦力として測定し、摩擦力を垂直荷重で除した摩擦係数を求めた。摺動部材84の水平方向の変位量(mm)と摩擦係数との関係を示すグラフを表にまとめて図13に示す。グラフの横軸は変位量、縦軸は摩擦係数である。
【0073】
図13に示されるように、垂直荷重をかける時間の増加に伴い、摺動部材84の摩擦係数のピークが大きくなることがわかった。摩擦係数のピークは、静止摩擦係数である。試験は室温にて行われているので、摩擦係数の増加は、Snの凝着量の増加に由来すると考えられる。
【0074】
また、図13に示されるように、垂直荷重が大きくなるほど、摺動部材84の摩擦係数のピークが大きくなることがわかった。つまり、図6に示される端子付き電線10において、十分な保持力を得るためには、グリップ部4Bを導体20に強い力で押し付け続ける必要があることが分かった。単にグリップ部4Bで導体20を挟んでいるだけでは、十分な保持力を得ることはできない。
【0075】
<試験例3>
次に、試験例1-1の試料における板状片41,42(グリップ部4B)と導体20との接合界面の状態をSEM画像にて確認した。また、接合界面の組成をEDXによって調べた。
【0076】
図14は、導体20と接続する前における端子4のグリップ部4Bの断面写真である。この端子4は、Ni母材の表面にSn層4bを形成したものである。紙面上側がグリップ部4Bの表面である。紙面下側の濃い灰色部分はNi母材であり、Ni母材の上に形成される二番目に濃い灰色部分はSn-Ni合金層4aである。Sn-Ni合金は、NiSnである。Sn-Ni合金層4aの表面は、局所的に突出した凸部4pを有する凹凸形状となっている。本例ではSn層4bを形成した後にリフロー処理を行っており、このリフロー処理によってSn-Ni合金層4aの凸部4pが形成される。Sn-Ni合金層4aの上に形成される薄い灰色部分はSn層4bである。Sn層4bの表面には、Snが自然酸化してなる酸化被膜4cが形成されている。
【0077】
図15は、導体20とグリップ部4Bとを接合した直後における接合界面の断面写真である。紙面上側の灰色部分は導体20である。本例の導体20はSnめっきを備えないCu-Ag合金の導体20である。本例では、グリップ部4Bによって導体20を強い力で挟み込んでいるため、Sn層4bが平面方向に流動し、Sn層4bが薄くなっている。その際、Sn層4bの酸化被膜4c(図9)が破れ、Sn層4bに含まれるSnが、導体20に溢れ出して導体20に凝着する。導体20に凝着するSn(図9の凝着部9)は、既に述べたように導体20の保持力を向上させることに寄与する。また、Sn-Ni合金層4aの凸部4pが、薄くなったSn層4bを貫通し、導体20の表面に食い込んでいる。この食い込みは、機械的な引っ掛かりとなる。従って、この食い込みも、導体20の保持力の向上に寄与しているものと推察される。
【0078】
図16は、作製後に120℃×20時間保持する加速試験を行った試料の断面写真である。この断面写真では、導体20の表面に薄い灰色の部分が形成されている。この薄い灰色部分は、Cu-Sn合金層60である。Cu-Sn合金層60は、導体20の表面に凝着したSnが、導体20に含まれるCuと反応することで形成されたものである。また、Cu-Sn合金層60とSn-Ni合金層4aとの間には、未反応のSnと、Cu-Sn合金と、Sn-Ni合金とが混在する混在層61が形成されていた。
【0079】
図17は、作製後に120℃×120時間保持する加速試験を行った試料の断面写真である。この断面写真では、Cu-Sn合金層60とSn-Ni合金層4aとの間に混在層61が形成され、未反応のSnがなくなっていた。混在層61のうち、導体20側の色の濃い部分は、CuSn合金、グリップ部4B側の色の薄い部分はCuSnである。
【0080】
以上の結果から、グリップ部4Bから導体20の表面に凝着したSnが、時間の経過に伴い合金化することが分かった。
【符号の説明】
【0081】
1 コネクタアセンブリ
10 端子付き電線
2 電線
20 導体、21 絶縁層
3 コネクタ
3A フロントハウジング、3B リアカバー
30 挿入孔、31 ハウジング側係合部、32 カバー側係合部
31f 第一突起、31s 第二突起
33 隔壁、34 キャビティ、35 スライド溝、36 貫通窓
4 端子
4a Sn-Ni合金層、4b Sn層、4c 酸化被膜、4p 凸部
4A 端子接続部、4B グリップ部、
40 挿入孔、41 第一板状片、42 第二板状片、44 セレーション
45 端子側係合部、46 貫通窓
410 第一薄肉部、411 第一厚肉部
420 第二薄肉部、421 第二厚肉部
5 シェル
50 筒状部、50C 加圧部、50d 段差部
51 第一凸部、52 第二凸部、53 ガイド部
55 シェル側係合部、55f 第一係合部、55s 第二係合部
6 合金層
60 Cu-Sn合金層、61 混在層
7 試験装置
70 押さえ部材、71 チャック
8 試験装置
80 台座、82 板材、84 摺動部材、84e エンボス
9 凝着部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17