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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】レーザスポット溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/22 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
B23K26/22
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018168826
(22)【出願日】2018-09-10
(65)【公開番号】P2020040087
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】萩原 宰
(72)【発明者】
【氏名】澤部 修平
【審査官】梶本 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-224134(JP,A)
【文献】特開2015-221446(JP,A)
【文献】特表2018-537289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/21-26/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数重ねた金属板に対して所定領域にレーザ光軸を固定的に設定した状態で、第1の照射径でレーザの照射を開始して第2の照射径まで漸次または段階的に照射径を拡大しながらレーザを照射し、前記第2の照射径にてレーザ照射を終了するレーザスポット溶接方法であって、
前記第1照射径が溶接工程中の最小照射径であり、前記第1の照射径での前記レーザ照射により前記複数重ねた金属板を貫通する溶融部が形成され、前記第2の照射径がスポット径を与える前記溶接工程中の最大照射径であり、前記照射径の拡大はデフォーカス量の増加によって与えられ、前記照射径の拡大とともに前記溶融部が前記第2の照射径の範囲まで拡大される、レーザスポット溶接方法。
【請求項2】
複数重ねた金属板に対して所定領域にレーザ光軸を固定的に設定した状態で、第1の照射径でレーザの照射を開始して第2の照射径まで漸次または段階的に照射径を縮小しながらレーザを照射し、前記第2の照射径にてレーザ照射を終了するレーザスポット溶接方法であって、
前記第1照射径がスポット径を与える溶接工程中の最照射径であり、前記第2の照射径が前記溶接工程中の最照射径であり、前記照射径の縮小はデフォーカス量の減少によって与えられる、レーザスポット溶接方法。
【請求項3】
前記溶接工程中は、レーザ出力は実質的に一定である、請求項1または2記載のレーザスポット溶接方法。
【請求項4】
前記複数重ねた金属板は、照射側の板厚以下の間隙を許容して複数重ねられた鋼板であり、前記間隙は、間隔調整された間隙または間隔調整されていない間隙である、請求項1または2記載のレーザスポット溶接方法。
【請求項5】
前記複数重ねた金属板は、照射側の板厚以下の間隙を許容して3枚以上重ねられた金属板であり、前記間隙は、間隔調整された間隙または間隔調整されていない間隙である、請求項1または2記載のレーザスポット溶接方法。
【請求項6】
前記複数重ねた金属板は、板厚0.6~2.0mmの薄鋼板であり、合計板厚4.2mm以下で、照射側の板厚以下の間隙を許容して重ねられており、前記間隙は、間隔調整された間隙または間隔調整されていない間隙である、請求項1または2記載のレーザスポット溶接方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザスポット溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワークにレーザを照射しその光エネルギーによって照射部位の材料を加熱溶融するレーザ溶接は、非接触で高速溶接が行える利点があり、アーク溶接や抵抗スポット溶接からの代替が進んでいる。抵抗スポット溶接の代替としてのレーザスポット溶接は、例えば特許文献1に記載されるように、スポット領域内でレーザビームを円形状や渦巻状に走査することで接合強度を得ている。
【0003】
しかし、このような溶接方法は、スポット領域内でビーム走査を行うための俊敏なスキャナ操作が必要であり、制御動作が煩雑であるうえ、ビーム走査の分だけタクトタイムが長くなる問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-115876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、簡潔な動作で安定的に接合強度が得られ、制御の複雑化やタクトタイムの増加を回避できるレーザスポット溶接方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係るレーザスポット溶接方法は、
複数重ねた金属板に対して所定領域にレーザ光軸を設定した状態で、第1の照射径と第2の照射径の間で漸次または段階的に照射径を変化させながらレーザを照射するステップを含み、
前記第1および第2の照射径の一方が前記ステップ中の最小照射径であり、他方がスポット径を与える前記ステップ中の最大照射径であり、前記照射径の変化はデフォーカス量の変化によって与えられる。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係るレーザスポット溶接方法は、上記のように、レーザ光軸を固定した状態でレーザ照射径を変化させるので、最小照射径側のレーザ照射により溶け込み深さが確保され、最大照射径側のレーザ照射によりスポット径が確保され、レーザ光軸の走査を伴わない簡潔な動作でありなら、所望の接合強度が得られ、制御の複雑化やタクトタイムの増加を回避でき、生産性向上に有利であることに加えて、金属板が隙間を有して重ね合されている場合における隙間の許容範囲が格段に向上する利点がある。
【0008】
上記本発明において、第1の照射径がステップ中の最小照射径であり、第2の照射径がステップ中の最大照射径であり、最小照射径と最大照射径の間で漸次または段階的に照射径を拡大しながらレーザを照射することを含む態様では、第1の照射径によって複数重ねた金属板が溶融して接合され、第1の照射径から最大照射径まで照射径を拡大しながらレーザを照射することで、溶融部が所望のスポット径まで拡大されるので、隙間に対する許容度の高いスポット溶接を安定的に行える。
【0009】
上記本発明において、第1の照射径がステップ中の最大照射径であり、第2の照射径がステップ中の最小照射径であり、最大照射径と最小照射径の間で漸次または段階的に照射径を縮小しながらレーザを照射することを含む態様では、第1の照射径によって最表面側から所望のスポット径に対応する溶融部が形成され、第1の照射径から最小照射径まで照射径を縮小しながらレーザを照射することで、最下面側への熱伝達が促進されるとともに、溶融部の中央に所望の溶け込みが得られる。特に、最表面側の隙間が大きい場合に、先ず、最表面の金属板に最大照射径のレーザ照射がなされることで、貫通以前に最大範囲の熱変形による接合が進行し、2枚目以下への熱伝導が促進され、許容度の高いスポット溶接を安定的に行える利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明第1実施形態に係るレーザスポット溶接を示す側断面図(a)、平面図(b)、照射径の変化を模式的な示すグラフ(c)である。
図2】(a)は比較例のレーザスポット溶接における照射径の変化を示すグラフ、(b)~(d)は本発明第1実施形態の第1~第3実施例に係るレーザスポット溶接における照射径の変化を示すグラフ、(e)は比較例(a)のレーザスポット溶接における上下間隙と溶接可能範囲を示すグラフ、(f)~(h)は第1~第3実施例のレーザスポット溶接における上下間隙と溶接可能範囲を示すグラフである。
図3】(a)(b)は本発明第1実施形態の第4~第5実施例に係るレーザスポット溶接における照射径の変化を示すグラフ、(c)(d)は上下間隙と溶接可能範囲を示すグラフである。
図4】(a)は本発明第2実施形態に係る実施例6のレーザスポット溶接における照射径の変化を示すグラフ、(b)は上下間隙と溶接可能範囲を示すグラフである。
図5】本発明第1実施形態に係るレーザスポット溶接における溶接部を示す拡大断面図である。
図6】本発明第2実施形態に係るレーザスポット溶接を示す側断面図(a)、平面図(b)、照射径の変化を模式的な示すグラフ(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
(第1実施形態)
図1(a)~(c)は、3枚の金属板11,12,13に対する本発明の第1実施形態に係るレーザスポット溶接10を示しており、図1(a)において、板厚t1,t2,t3の3枚の金属板11,12,13は、間隙ga,gbを有して重ねられている。
【0013】
それぞれの間隙ga,gbは,金属板11,12,13の何れか(通常は隙間ga,gbの下側の金属板12,13)に予め突起部(エンボス、不図示)をプレス加工しておき、突起部を介して重ね合されるか、または、金属板の間に挿入された不図示のスペーサを介して重ね合され、必要に応じてクランプなどの治具で保持されることによる間隔調整された隙間、および/または、プレス加工品のフランジ部などにスプリングバックで生じる間隔調整されていない隙間である。
【0014】
金属板11,12,13は、特に限定されるものではないが、板厚0.6~2.0mmの薄鋼板を想定しており、板厚t1,t2,t3は、後述する実験では、0.6mm、0.8mm、1.2mmの鋼板を使用している。接合面に、亜鉛めっき層のような低融点金属の表面処理層が存在する場合は、金属蒸気を排出するために上記のような間隔調整された隙間が意図的に設けられるが、低融点金属の表面処理層が存在しない場合には、隙間ga,gbを有さずに直接重ね合されても良い。
【0015】
レーザスポット溶接10の実施に際しては、先ず、最表面に位置した金属板11の上方にレーザ加工ヘッドを位置させ、光軸を固定した状態で、デフォーカス量d1(最小照射径φ1)にて一定出力でレーザ照射L1を行い、スポットS1にて3枚の金属板11,12,13を貫通する溶接部W1(この時点では溶融部)を形成する。
【0016】
このスポットS1が1回の溶接工程中で最小面積(最大エネルギー密度)の照射領域であり、必要最小限のレーザ出力で溶接すべき3枚の金属板11,12,13のうち最表面側の2枚の金属板11,12を貫通し、最下の金属板13に対しても充分な溶け込み深さが得られる。
【0017】
次いで、光軸を固定したまま、レーザ溶接機の光学系にて焦点制御を行い、図1(c)に符号Wsで示すように、デフォーカス量をd1からd2まで漸次増大させ、レーザ照射径をφ2まで漸次拡大しながら一定出力でレーザ照射(L1~L2)を行い、溶融部をW2まで拡大してスポットS2にてレーザ照射L2を終了する。
【0018】
このスポットS2が1回の溶接工程中で最大面積(最小エネルギー密度)の照射領域であり、レーザ照射径がφ1からφ2に拡大し、照射領域がS1からS2まで拡大する過程で、レーザ照射のエネルギー密度は漸次低下するものの、中心部から周辺部に向けての熱伝達を伴うことで、照射領域S2内での安定的な溶融が促され、レーザ照射径φ2に対応する最終的な溶接部W2が得られる。
【0019】
なお、金属板11,12,13に低融点金属の表面処理層が存在する場合に、溶融部とその周辺で発生する金属蒸気は、上記のような中心部から周辺部に向かう熱伝達と、レーザ照射径の拡大とともに、間隙ga,gbを通じて拡散され排出される。
【0020】
以上述べたように、レーザスポット溶接10は、レーザ光軸を固定した状態でレーザ照射径を変化させることで、最小照射径φ1のレーザ照射L1により中心部(S1,W1)で充分な溶け込み深さが確保され、最大照射径φ2のレーザ照射L2により所望のスポット径(S2、W2)が確保されるので、レーザ光軸の走査を伴わない簡潔な動作にて所望の接合強度が得られることに加えて、金属板11,12,13間の隙間ga,gbに対する許容範囲が格段に向上する利点がある。
【0021】
(第1実施形態に係る実施例と比較例)
次に、第1実施形態に係るレーザスポット溶接10の効果を検証するために、レーザ照射径の変化パターンの異なる各場合について、金属板11,12,13間の間隙ga,gbおよびそれらの組合せを変えてレーザスポット溶接し、間隙の許容範囲を比較する実験を行った。実験では、金属板11,12,13として、最表面側(レーザ照射側)から、板厚t1=0.6mm、t2=1.2mm、t3=0.8mmの鋼板を使用し、レーザ出力6kWとして、デフォーカス量を30~90mm、レーザ照射径をφ1.8~5.0mmの間で変化させて0.4秒間のレーザ照射を行った。
【0022】
(比較例)
先ず、比較例として、図2(a)に示すように、デフォーカス量d1=30mmで0.2秒のレーザ照射を行った後、デフォーカス量をd2=90mmに増加させて0.15秒のレーザ照射を行うレーザスポット溶接を、金属板間の間隙ga,gbおよびそれらの組合せを変えて実施し、間隙の許容範囲を調べた。
図2(e)はその結果を示しており、図中において、ハッチングが付されている組合せでは良好な溶接結果が得られ、間隙の許容範囲を示している。上側の間隙gaが0の場合には、下側の間隙gb=1.0mmまで許容されているが、両方の間隙ga,gbがある組合せでは、概ね間隙の合計が0.9mm程度であった。いくつかの組合せではレーザ照射を延長することで改善が見られたが、図中太線で示された実施例1(後述)の間隙許容範囲と比較すると、下側の間隙gbが大きい範囲に差があることが分かる。
【0023】
(実施例1)
次に、本発明の第1実施形態に係る実施例1として、図2(b)に示すように、デフォーカス量をd1=30mmからd2=90mmまで一定の比率で増加させながら、0.4秒のレーザ照射を行うレーザスポット溶接を、金属板間の間隙ga,gbおよびそれらの組合せを変えて実施し、間隙の許容範囲を調べた。
図2(f)に実施例1の結果を示す。上述したように、比較例と比較すると、下側の間隙gbが大きい範囲で1.0~1.1mmまで許容されており、上下合計の間隙は1.2~1.3mmまで許容範囲が拡大している。
【0024】
(実施例2)
次に、本発明の第1実施形態に係る実施例2として、図2(c)に示すように、デフォーカス量をd1=30mmから0.2秒間に40mmまで相対的に緩やかな比率で増加させた後、次の0.2秒間にデフォーカス量をd2=90mmまで相対的に急な比率で増加させながら、合計0.4秒のレーザ照射を行うレーザスポット溶接を、金属板間の間隙ga,gbおよびそれらの組合せを変えて実施し、間隙の許容範囲を調べた。
図2(g)に実施例2の結果を示す。先述の比較例に対しては間隙許容範囲が拡大しているものの、上述した実施例1と比較すると、下側の間隙gbが大きい範囲で0.2mm程度許容範囲が狭くなっている。
【0025】
(実施例3)
次に、本発明の第1実施形態に係る実施例3として、図2(d)に示すように、デフォーカス量をd1=30mmから0.1秒間に50mmまで相対的に急な比率で増加させた後、次の0.3秒間にデフォーカス量をd2=90mmまで相対的に緩やかな比率で増加させながら、合計0.4秒のレーザ照射を行うレーザスポット溶接を、金属板間の間隙ga,gbおよびそれらの組合せを変えて実施し、間隙の許容範囲を調べた。
図2(h)に実施例3の結果を示す。上述の実施例2とは逆に、上下合計の間隙が大きい領域で僅かながら実施例1を上回る結果が得られた。
【0026】
以上の実施例1~3および比較例の結果から、上下に間隙のある溶接では、最小照射径(φ1)のレーザ照射L1は極短期間に終了し、照射径を漸次拡大した方が間隙の許容範囲を大きくし良好な溶接スポットを安定的に形成するうえで有利なことが分かる。特に、実施例2と実施例3の比較から、溶接工程の前半では照射径を相対的に急に拡大し、溶接工程の後半では照射径を相対的に緩やかに拡大する方が良好な結果が得られることが示唆された。そこで、この傾向を検証するために、さらにレーザ照射径の変化パターンのみを変更してレーザスポット溶接を行い、間隙の許容範囲を比較する追加実験を行った。
【0027】
(実施例4)
先ず、本発明の第1実施形態に係る実施例4として、図3(a)に示すように、デフォーカス量をd1=30mmから0.1秒間に60mmまで実施例3よりも急な比率で増加させた後、次の0.3秒間にデフォーカス量をd2=90mmまで実施例3よりも緩やかな比率で増加させながら、合計0.4秒のレーザ照射を行うレーザスポット溶接を、金属板間の間隙ga,gbおよびそれらの組合せを変えて実施し、間隙の許容範囲を調べた。
図3(c)に実施例4の結果を示す。上述した実施例3と比較して、上側の間隙gaが0.3mm、下側の間隙gbが0.9~1.0mmの組合せが不良になったが、上側の間隙gaが0.2mm以下の場合には下側の間隙gbの許容範囲が1.3~1.4mmにまで拡大され、下側の間隙gbが大きい場合に有利であることが確認された。
【0028】
(実施例5)
次に、本発明の第1実施形態に係る実施例5として、図3(b)に示すように、デフォーカス量をd1=30mmから0.1秒間に70mmまで実施例5よりも急な比率で増加させた後、次の0.3秒間にデフォーカス量をd2=90mmまで実施例5よりも緩やかな比率で増加させながら、合計0.4秒のレーザ照射を行うレーザスポット溶接を、金属板間の間隙ga,gbおよびそれらの組合せを変えて実施し、間隙の許容範囲を調べた。
図3(d)に実施例5の結果を示す。上述した実施例4と同様に、上側の間隙gaが0.3mm、下側の間隙gbが0.9~1.0mmの組合せは不良であったが、上側の間隙gaが0.6~0.7mmの場合に許容範囲の拡大が認められ、さらに、上側の間隙gaが0.2mm以下の場合には下側の間隙gbの許容範囲が1.3~1.5mmにまで拡大され、下側の間隙gbが大きい場合に有利であることが確認された。
【0029】
(第1実施形態に係る溶接部の実施例)
図5は、3枚の金属板51,52,53をレーザスポット溶接した溶接部を示す断面図である。金属板51,52,53の板厚は0.8mm,1.2mm,0.6mm、上側の間隙は0.5mm、下側の間隙は1.6mmであり、デフォーカス量d1=10mm/0.2秒、20mm/0.05秒、40mm/0.2秒、そしてデフォーカス量d2=90mmまで漸次段階的に増加させながらレーザ照射し、続けて0.8秒間レーザ照射を行ったところ、有効なスポット径の溶接部50Wが得られた。この実施例は下側の間隙が板厚よりも大きい特殊な場合であるが、このような場合でも隙間を有したまま溶接できることが確認できた。
【0030】
なお、この実施例は、隙間の条件が厳しいこともあり、デフォーカス量(照射径)を段階的に増加させる制御を行ったが、先述した実施例のように0.2~0.4秒で終了する実用的なレベルのレーザスポット溶接では、中間的なデフォーカス量(照射径)を設定して段階的に増加させる制御と、デフォーカス量(照射径)を連続的に増加させる制御とは、設定上の差であって、溶接結果に有意な差は生じない。また、レーザ溶接機(加工機)の仕様によっては、デフォーカス量を変更する際に極短時間レーザ照射が中断する場合もあるが、この場合にも溶接結果に有意な差は生じないことが確認されている。
【0031】
(第2実施形態)
次に、図6(a)~(c)は、3枚の金属板11,12,13に対する本発明の第2実施形態に係るレーザスポット溶接20を示している。図3(c)に示すレーザ照射径の変化パターンのみが第1実施形態と異なり、金属板11,12,13の材質や板厚t1,t2,t3、間隙ga,gbなど、基本的な構成は第1実施形態と同様である。
【0032】
レーザスポット溶接20の実施に際しては、先ず、最表面に位置した金属板11の上方にレーザ加工ヘッドを位置させ、所定領域に光軸を設定した状態で、デフォーカス量d1(最大照射径φ1)にて一定出力でレーザ照射L1を行うことで、最終的なスポット径に対応するスポットS1において最表面の金属板11が加熱溶融されて垂下し、下側の金属板12と接合される。金属板11における溶融金属が金属板12と接合することで、スポットS1の領域全体での熱伝導が促され、金属板11と接合した下側の金属板12も軟化し、溶融部W1が形成される。
【0033】
次いで、光軸を固定したまま、レーザ溶接機の光学系にて焦点制御を行い、図6(c)に符号Wsで示すように、デフォーカス量をd1からd2まで漸次減少させ、レーザ照射径をφ2(スポットS2)まで漸次縮小しながら一定出力でレーザ照射(L1~L2)を行い、溶融部W1の中央をさらに下側の金属板13に溶け込ませてレーザ照射L2を終了することで、3枚の金属板11,12,13を貫通する溶接部W2が形成される。
【0034】
この第2実施形態のレーザスポット溶接20では、レーザ光軸を固定した状態で最終的なスポット径(S1,W1)に対応する最大照射径φ1のレーザ照射L1を行った後、レーザ照射径を最小照射径φ2まで絞り込むことでエネルギー密度を上昇させ中心部(S2,W2)に充分な溶け込み深さが確保される。それにより、第1実施形態と同様に、レーザ光軸の走査を伴わない簡潔な動作にて所望の接合強度が得られ、かつ、金属板11,12,13間の隙間ga,gbに対する許容範囲が向上する利点がある。
【0035】
(第2実施形態に係る実施例)
次に、第2実施形態に係るレーザスポット溶接20の効果を検証するために、第1実施形態と同じ条件で、図4(a)に示すように、デフォーカス量d1=90mmで0.1秒のレーザ照射を行った後、0.2秒間にデフォーカス量をd2=20mmまで一定の比率で減少させ、さらに0.1秒のレーザ照射を行うレーザスポット溶接を、金属板11,12,13間の間隙ga,gbおよびそれらの組合せを変えて実施し、間隙の許容範囲を比較する実験を行った。
【0036】
図4(b)に実施例6の結果を示す。先述した比較例(図2(e))と比較して上下何れの側でも間隙の許容範囲が拡大していることは明らかであるが、第1実施形態の実施例1~5(図2(f)~(h)、図3(c)(d))と比較すると、上側の間隙gaが大きい範囲で0.7mmまで許容されている点に特徴があり、上下合計の間隙許容範囲は1.4~1.5mmまで拡大している。
【0037】
なお、上記第2実施形態のレーザスポット溶接20における照射径(デフォーカス量)の変化に続けて先述した第1実施形態のレーザスポット溶接10における照射径(デフォーカス量)の変化を実施することもできる。
【0038】
すなわち、デフォーカス量をd1からd2まで漸次減少(レーザ照射径をφ2(スポットS2)まで漸次縮小)させた後に、デフォーカス量をd1(またはそれ以上/それ以下)まで漸次増加(レーザ照射径をφ1(またはそれ以上/それ以下)まで漸次拡大)させてからレーザ照射を終了することもできる。
【0039】
逆に、先述した第1実施形態のレーザスポット溶接10における照射径(デフォーカス量)の増加を行った後に、上記第2実施形態のレーザスポット溶接20における照射径(デフォーカス量)の減少を行ってからレーザ照射を終了することもできる。
【0040】
また、上記各実施形態では、レーザ光学系の制御によりデフォーカス量d1~d2を変化させる場合について述べたが、レーザ加工ヘッドの位置を機械的に上下動(直線移動)させることでデフォーカス量を変化させることもできる。
【0041】
また、上記各実施形態では、2枚ないし3枚の金属板を重ねてレーザスポット溶接する場合を示したが、4枚以上の金属板を重ねてレーザスポット溶接することも可能である。実験では合計板厚4.2mmまで確認しているが、レーザ出力などの条件によりそれ以上の溶接も可能と思われる。
【0042】
また、上記各実施形態では、最表面の金属板11に対して垂直上方からレーザ照射する場合を示したが、照射角度40度までは同程度の加工性が得られる。また、水平面以外の任意の角度で傾斜配置された金属板に対しても溶接可能である。
【0043】
以上、本発明のいくつかの実施の形態について述べたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいてさらに各種の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0044】
10,20 レーザスポット溶接
11,12,13 金属板
d1,d2 デフォーカス量
ga,gb 隙間
L1,L2 レーザ照射
S1,S2 スポット
φ1,φ2 レーザ照射径
W1,W2 溶接部
図1
図2
図3
図4
図5
図6