(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】取付装置
(51)【国際特許分類】
A61B 17/86 20060101AFI20220908BHJP
F16B 39/10 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
A61B17/86
F16B39/10 B
(21)【出願番号】P 2018080423
(22)【出願日】2018-04-19
【審査請求日】2020-11-26
(73)【特許権者】
【識別番号】391006636
【氏名又は名称】ハードロック工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104444
【氏名又は名称】上羽 秀敏
(74)【代理人】
【識別番号】100107593
【氏名又は名称】村上 太郎
(72)【発明者】
【氏名】若林 克彦
【審査官】和田 将彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-086817(JP,A)
【文献】特許第6285600(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/86
F16B 39/00 - 39/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
球状の頭部と取付対象物にねじ込まれるネジ軸部とを有するネジと、該ネジによって前記取付対象物に対して取付固定される被取付部材と、前記ネジの頭部に被冠されるとともに前記被取付部材に螺着されるロック部材とを備え、
前記被取付部材は、上方に開口し且つ内周面に前記ロック部材が螺着される雌ネジが設けられた取付凹部と、該取付凹部の底部に設けられ且つ前記ネジの頭部の下部をその球面に沿って回転可能に支持する座面とを有し、
前記ロック部材は、その下面に前記ネジの頭部の上部が嵌合する球状凹面が設けられるとともに、その外周面に前記雌ネジに螺合する雄ネジが設けられており、
前記座面に支持された前記頭部に被冠された前記ロック部材を前記取付凹部に対して締め込むことによって周方向一部において前記頭部が前記球状凹面に圧接されるとともに、該圧接部分に対して直径方向反対側において前記頭部が前記座面に圧接されるように、前記座面に支持された前記頭部に対して前記球状凹面が偏心されて
おり、前記圧接部分に対して直径方向反対側においては前記頭部と前記球状凹面との間に隙間を有する、取付装置。
【請求項2】
請求項1に記載の取付装置において、
前記座面の軸心と前記雌ネジの軸心は同心状であり、前記球状凹面の軸心が前記雄ネジの軸心に対して偏心していることによって、前記座面に支持された前記頭部に対して前記球状凹面が偏心されている、取付装置。
【請求項3】
請求項1に記載の取付装置において、
前記球状凹面の軸心と前記雄ネジの軸心は同心状であり、前記座面の軸心に対して前記雌ネジの軸心が偏心していることによって、前記座面に支持された前記頭部に対して前記球状凹面が偏心されている、取付装置。
【請求項4】
前記取付対象物は人体の骨組織であり、前記取付装置はインプラント器具である、請求項1,2又は3に記載の取付器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取付対象物に対してネジを用いて取付固定される被取付部材を備える取付装置に関し、特に、人体の骨組織に対してタッピングネジを用いて取付固定される骨固定プレートを備えるインプラント器具に関する。
【背景技術】
【0002】
本願出願人は、従前より、偏心嵌合により強大な緩み止め作用を生じるハードロックナット(「ハードロック」は本願出願人の登録商標)の開発並びに製造販売を行っているとともに、かかるハードロックナットの原理を応用した各種用途向けの機械器具の開発を行っており、例えば下記の特許文献1にはタッピングネジの緩み止めを行い得るインプラント器具を開示している。
【0003】
特に、特許文献1の
図5~
図7には、骨の破面の方向に対応してタッピングネジを斜めにねじ込めるように、骨固定プレートに対して揺動可能に装着したネジ受けによってタッピングネジを保持する実施例を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、タッピングネジを骨組織に対してネジ込む際に、そのタッピングネジを受けるネジ受けが骨固定プレートに対して揺動するため、タッピングネジのねじ込み操作が困難となるという問題がある。
【0006】
そこで、本発明は、容易にタッピングネジなどのネジのねじ込み操作を行うことができるものでありながら、偏心嵌合による強大な緩み止め作用を生じ得る新たな取付構造を備える取付装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は、次の技術的手段を講じた。
【0008】
すなわち、本発明の取付装置は、球状の頭部と取付対象物にねじ込まれるネジ軸部とを有するネジと、該ネジによって前記取付対象物に対して取付固定される被取付部材と、前記ネジの頭部に被冠されるとともに前記被取付部材に螺着されるロック部材とを備えている。
【0009】
前記被取付部材は、上方に開口し且つ内周面に前記ロック部材が螺着される雌ネジが設けられた取付凹部と、該取付凹部の底面に設けられ且つ前記ネジの頭部の下部をその球面に沿って回転可能に支持する座面とを有する。
【0010】
前記ロック部材は、その下面に前記ネジの頭部の上部が嵌合する球状凹面が設けられるとともに、その外周面に前記雌ネジに螺合する雄ネジが設けられている。
【0011】
そして、前記座面に支持された前記頭部に被冠された前記ロック部材を前記取付凹部に対して締め込むことによって周方向一部において前記頭部が前記球状凹面に圧接されるとともに、該圧接部分に対して直径方向反対側において前記頭部が前記座面に圧接されるように、前記座面に支持された前記頭部に対して前記球状凹面が偏心されている。
【0012】
かかる本発明の取付装置によれば、偏心嵌合による緩み止め作用を生じさせるロック部材は、ネジのねじ込み後にタッピングネジの頭部に装着するものであるため、ネジを骨組織等の取付対象物にねじ込む作業を容易に行うことができ、骨の破面の状態や方向に応じて的確にネジをねじ込むことが可能となる。
【0013】
前記座面に支持された前記頭部に対して前記球状凹面を偏心させる方法は適宜のものであってよく、例えば、前記座面の軸心と前記雌ネジの軸心とを同心状として、前記球状凹面の軸心を前記雄ネジの軸心に対して偏心させることによって実現することもできるし、また、前記球状凹面の軸心と前記雄ネジの軸心とを同心状として、前記座面の軸心に対して前記雌ネジの軸心を偏心させることによって実現することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る外科用インプラント器具(取付装置)の取付状態の断面図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態に係る外科用インプラント器具(取付装置)の取付状態の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は本発明の第1の実施形態に係る取付装置としての外科用インプラント器具を示しており、該インプラント器具は、人体の骨組織1にねじ込まれるタッピングネジ2と、該ネジ2によって骨組織1に対して取付固定される骨固定プレート3(被取付部材)と、プレート3に対してタッピングネジ2を固定する固定キャップ4(ロック部材)とを備えている。
【0017】
タッピングネジ2は、チタン合金等の金属製であって、外周面にネジ山を有するネジ軸部22と、ネジ軸部22の上端(基端)に一体的に設けられた頭部21とを備えている。ネジ軸部22の長さはねじ込む骨組織の大きさや部位に応じて適宜であってよいが、通常は数cm程度である。図示例ではネジ軸部22の基端部近傍にはネジ山が設けられておらず、軸方向中途部から先端部にかけてネジ山が形成されている。ネジ軸部22の先端部にはタッピング用のタッピング溝が形成されている。頭部21は球状である。頭部21は完全な球体でなくてもよく、
図1(a)又は(c)に示すようにタッピングネジ2を斜めにねじ込んだときに矢印で示す圧接力が作用し得る範囲で適宜の部位に切欠きや凹部等が設けられていてもよい。頭部21の上端部にはドライバー等の回転工具を係合可能な工具係合部が設けられている。工具係合部の形状は適宜のものであってよい。
【0018】
プレート3は、チタン合金等の金属製であって、板厚は数mm程度とされている。プレート3の上面側には、適宜の部位に、上方に開口する取付凹部31が設けられている。取付凹部31の直径はネジ頭部21の直径よりも大きい。取付凹部31の内周面には、固定キャップ4が螺着される雌ネジが設けられている。雌ネジのピッチは、ネジ軸部22の外周のネジ山のピッチよりも大きくてもよいし、小さくてもよいし、同じでもよい。取付凹部31の深さはプレート3の板厚よりも小さい。
【0019】
取付凹部31の底部には、ネジ頭部21の下部をその球面に沿って回転可能に支持する球面状の座面32が設けられている。この座面32は、平面視円環状であって、その中央部にはネジ軸部22が挿通される挿通孔が形成されている。座面32の下端部における挿通孔の直径はネジ頭部21の直径よりも小さく、且つ、ネジ軸部22の最大径部位よりも大きい。ネジ軸部22の最大径部位は、ネジ軸部22の基端部の直径であってもよいし、ネジ山の最大径部分であってもよい。
【0020】
本実施形態では、取付凹部31の雌ネジの軸心と、座面32の軸心とが同心状となされている。
【0021】
固定キャップ4は、本実施形態では全体として半球状の部材であって、その下面にはネジ頭部21の上部が嵌合する球状凹面41が設けられている。この球状凹面41は、半球面状であり、その半球面の直径はネジ頭部21より僅かに大径となされている。また、キャップ4の外周面には、取付凹部31の雌ネジに螺合する雄ネジが設けられている。この雄ネジは、キャップ4の下端部から軸方向中途部まで設けられている。本実施形態では、球状凹面41の軸心は、キャップ4の外周面の雄ネジの軸心に対して偏心量aだけ僅かに偏心されている。かかる偏心によって、球状凹面41の偏心側のキャップ4の雄ネジ形成部位の肉厚d1は、偏心方向反対側のキャップ4の雄ネジ形成部位の肉厚d2よりも小さくなっている。
【0022】
また、偏心方向反対側のキャップ4の雄ネジ形成部位の肉厚d2は、座面32に支持されたネジ頭部21の外周面と取付凹部31の内周面との間の隙間と同等か若しくは僅かに大きくなされている。一方、偏心側のキャップ4の雄ネジ形成部位の肉厚d1は、座面32に支持されたネジ頭部21の外周面と取付凹部31の内周面との間の隙間よりも小さい。かかる構成によって、座面32に支持されたネジ頭部21に被冠されたキャップ4を取付凹部31に対して締め込むことで、上記偏心方向反対側の周方向一部においてネジ頭部21が球状凹面41に圧接されるとともに、該圧接部分に対して直径方向反対側においてネジ頭部21が座面32に圧接されるようになっている。
【0023】
なお、図示実施例では、キャップ4の上端部にドライバー等の回転工具が係合する工具係合部が設けられており、キャップ4はネジ頭部21全体を覆い隠すよう構成されている。本発明のロック部材はこのような構造のキャップ4に限定されるものではなく、キャップ4の上部が開口されていてもよい。
【0024】
本実施形態によれば、ネジ頭部21が球状に構成され、プレート3にネジ頭部21を回転可能に支持する球面状座面32を設けたので、タッピングネジ2をねじ込んでいく際には骨固定プレート3とタッピングネジ2以外の部材が存在せず、タッピングネジ2を容易かつ的確に骨組織1にねじ込んでいくことができる。また、
図1の(a)~(c)に示すように、骨の破面に応じてタッピングネジ2を骨組織1に対して斜めにねじ込んでも、タッピングネジ2の頭部を安定的に座面32で支持できる。なお、図示例では中心軸に対して30°の範囲内でネジ軸部22の軸心を傾斜可能な例を示したが、この最大傾斜角度は適宜設計できる。
【0025】
さらに、タッピングネジ2のねじ込み完了後、座面32に支持されたネジ頭部21に対してキャップ4を被冠して、該キャップ4を取付凹部31に螺着することで、偏心嵌合による強大な緩み止め作用をタッピングネジ2に生じさせることができる。
【0026】
図2は本発明の第2実施形態に係る外科用インプラント器具を示しており、上記第1実施形態と同様の構成については同符号を付して詳細説明を省略し、異なる構成、作用効果について説明する。
【0027】
本実施形態では、球状凹面41の軸心とキャップ4の外周面の雄ネジの軸心とが同心状である。したがって、キャップ4の雄ネジ形成部位の肉厚は全周にわたって同じである。一方、本実施形態では、取付凹部31の内周面の軸心(雌ネジの軸心)が、座面32の軸心に対して偏心量aだけ僅かに偏心されており、これによって、雌ネジの偏心側における取付凹部31の内周面と、座面32に支持されたネジ頭部21の外周面との間の隙間が、雌ネジの偏心方向反対側における取付凹部31の内周面と、座面32に支持されたネジ頭部21の外周面との間の隙間よりも大きくされている。そして、キャップ4の雄ネジ形成部位の肉厚が、雌ネジの偏心方向反対側における取付凹部31の内周面と座面32に支持されたネジ頭部21の外周面との間の隙間と同等若しくは僅かに大きくなされている。また、本実施形態では、ネジ軸部22は先端側に至るにしたがって小径となる円錐形状となされている。また、ネジ軸部22の全長にわたってネジ山が形成されている。また、キャップ4の工具係合部は上下方向に貫通する六角孔により構成され、六角レンチを係合可能になっている。
【0028】
本実施形態によれば、キャップ4を取付凹部31に螺着していく際に、キャップ4によって圧接されるキャップ4の外周面の周方向部位が一定(
図2における左端部)となるため、キャップ4を螺着する際にネジ頭部21が踊ってしまうことを回避できる。
【0029】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、適宜設計変更できる。例えば、上記実施形態では本発明をインプラント器具に適用した例を示したが、適宜の被取付部材を取付対象物にねじ止めするための種々の取付装置に適用できる。また、タッピングネジの緩み止めとして例示したが、タッピングネジ以外の各種ネジの緩み止め構造に適用できる。