(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】球面レンズの肉厚測定方法
(51)【国際特許分類】
G01B 11/02 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
G01B11/02 Z
(21)【出願番号】P 2018231849
(22)【出願日】2018-12-11
【審査請求日】2021-10-01
(73)【特許権者】
【識別番号】390000778
【氏名又は名称】株式会社春近精密
(74)【代理人】
【識別番号】100090170
【氏名又は名称】横沢 志郎
(72)【発明者】
【氏名】酒井 篤美
【審査官】山▲崎▼ 和子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-174430(JP,A)
【文献】特開2000-337835(JP,A)
【文献】特開2009-258098(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
21/00-21/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1曲率半径R1の第1レンズ球面と、第2曲率半径R2の第2レンズ球面とを備えた球面レンズの肉厚測定方法であって、
レンズ載置台に設けた円形開口縁に、レンズ肉厚tが既知のマスターレンズを、その第2レンズ球面が接する向きで載せ、前記円形開口縁の中心を通る前記レンズ載置台の回転中心線上に、前記マスターレンズの前記第2レンズ球面の球心位置P2が位置する状態を形成するマスターレンズ載置工程と、
前記マスターレンズの前記第1レンズ球面から、前記回転中心線に沿った方向に所定の距離だけ離れた高さ位置S5に配置した距離計を用いて、前記回転中心線周りに回転する前記マスターレンズの前記第1レンズ球面から前記高さ位置S5まで距離を測定するマスターレンズ測定工程と、
前記マスターレンズ測定工程において、前記高さ位置S5を維持した状態で、前記距離計を、前記回転中心線を通り当該回転中心線に直交する直交方向に走査し、前記第1レンズ球面における測定値が変化しない位置を前記回転中心線上の中心点として抽出し、前記中心点を中心とし、所定の測定径Dを直径とする円周上の各測定点において得られる測定値から、最大測定値Maxと最小測定値Minを抽出するマスターレンズ測定値抽出工程と、
前記回転中心線と、前記最小測定値Minが得られる測定点S1と、前記最大測定値Maxが得られる測定点S2とを含む平面PL上において、前記第2レンズ球面の球心位置P2および前記高さ位置S5を基準とする、前記測定点S1、S2、前記第1レンズ球面の球心位置P1の間の幾何学的位置関係に基づき、前記測定径D、前記最大測定値Max、前記最小測定値Min、前記第1曲率半径R1、前記第2曲率半径R2、および前記レンズ肉厚tを用いて、前記回転中心線に沿った方向における前記第2レンズ球面の球心位置P2から前記距離計の前記高さ位置S5までの距離を、オフセット値OFFSETとして求めるオフセット値算出工程と、
前記マスターレンズに代えて、測定対象の球面レンズを前記レンズ載置台の前記円形開口縁に載せて、当該レンズ載置台の回転中心線上に、前記円形開口縁に接する前記球面レンズの前記第2レンズ球面の球心が位置する状態を形成する対象レンズ載置工程と、
前記球面レンズの前記第2レンズ球面の球心位置P2(1)から、前記回転中心線に沿った方向に、前記オフセット値OFFSETだけ離れた高さ位置S5(1)に配置されている前記距離計を用いて、前記回転中心線周りに回転する前記球面レンズの前記第1レンズ球面から前記高さ位置S5までの距離を測定する対象レンズ測定工程と、
前記対象レンズ測定工程において、前記高さ位置S5(1)を維持した状態で、前記距離計を、前記回転中心線を通り当該回転中心線に直交する直交方向に走査し、前記第1レンズ球面における測定値が変化しない位置を前記回転中心線上の中心点として抽出し、前記中心点を中心とし所定の測定径D(1)を直径とする円周上の各測定点において得られる測定値から、最大測定値Max(1)と最小測定値Min(1)を抽出する対象レンズ測定値抽出工程と、
前記回転中心線と、前記最小測定値Min(1)が得られる測定点S1(1)と、前記最大測定値Max(1)が得られる測定点S2(1)とを含む平面PL(1)上において、前記第2レンズ球面の球心位置P2(1)および前記高さ位置S5(1)を基準として、前記測定点S1(1)、S2(1)、前記第1レンズ球面の球心位置P1(1)の間の幾何学的位置関係に基づき、前記測定径D(1)、前記最大測定値Max(1)、前記最小測定値Min(1)、前記第1曲率半径R1、前記第2曲率半径R2、および前記オフセット値OFFSETを用いて、前記球面レンズのレンズ光軸位置におけるレンズ肉厚t(1)を求める肉厚算出工程と
を行うことを特徴とする球面レンズの肉厚測定方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記オフセット値算出工程では、
前記平面PL上において、前記最小測定値Minが得られる前記測定点S1から、前記測定点S2の側に向けて、前記回転中心線に直交する直交方向に前記測定径Dだけ離れた点を位置S3とし、前記第1レンズ球面の球心P1の位置から回転中心線に引いた垂線が当該回転中心線と交差する点を交点S4とし、前記測定点S1と前記測定点S2とを結ぶ線分の中点を中点P3とし、前記測定点S1と前記位置S3とを結ぶ線分の中点を中点P4とすると、
前記測定点
S2と前記位置S3の間の距離を、前記最小測定値Minと前記最大測定値Maxの差分εとして求め、
前記中点P3と前記中点P4の間の距離δを、式δ=ε/2により求め、
前記球心位置P1と前記球心位置P2の間の距離Lを、式L=R1-R2+tにより求め、
前記測定点S1、前記測定点S2および前記位置S3を頂点とする直角三角形を想定し、前記測定点S1と前記位置S3の間の辺長である前記測定径Dと、前記測定点S2と前記位置S3の間の辺長である前記差分εとを用いて、前記測定点S1、S2の間の辺長hを算出し、
前記測定点S1、前記中点P3および前記第1レンズ球面の球心位置P1を頂点とする直角三角形を想定し、前記球心位置P1から前記中点P3までの辺長Aを算出し、
前記測定点S1、S2および前記位置S3を頂点とする直角三角形と、前記第1レンズ球面の球心位置P1、前記交点S4および前記中点
P3を頂点
とする直角三角形との間の相似関係に基づき、前記球心位置P1から前記交点S4までの辺長Xを算出し、
前記球心位置P1、前記中点P3および前記交点S4を頂点とする直角三角形を想定し、前記辺長Aと前記辺長Xを用いて、前記
交点S4から前記中点P3までの辺長Bを算出し、
前記球心位置P1、前記球心位置P2および前記交点S4を頂点とする直角三角形を想定し、前記球心位置P1、P2の間の辺長である距離Lと辺長Xを用いて、前記球心位置P2から前記交点S4までの辺長Yを算出し、
前記回転中心線に沿った方向における、前記球心位置P2から前記測定点S1までの間の距離Cを、式C=B-Y-ε/2により算出し、
前記オフセット値OFFSETを、式OFFSET=C-Minにより算出する球面レンズの肉厚測定方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記肉厚算出工程では、
前記平面PL(1)上において、前記測定点S1(1)から、前記測定点S2(1)の側に向けて前記回転中心線に直交する直交方向に、前記測定径D(1)だけ離れた点を位置S3(1)とし、前記第1レンズ球面の球心位置P1(1)から回転中心線に引いた垂線が当該回転中心線と交差する点を交点S4(1)とし、前記測定点S1(1)と前記測定点S2(1)とを結ぶ線分の中点を中点P3(1)とし、前記測定点S1(1)と前記位置S3(1)とを結ぶ線分の中点を中点P4(1)とすると、
前記測定点S2(1)と前記位置S3(1)の間の距離を、前記最小測定値Min(1)と前記最大測定値Max(1)の差分ε(1)を求め、
前記中点P3(1)と前記中点P4(1)の間の距離δ(1)を、式δ(1)=ε(1)/2により求め、
前記測定点S1(1)、前記測定点S2(1)および位置S3(1)を頂点とする直角三角形を想定し、前記測定点S1(1)と位置S3(1)の間の辺長である前記測定径D(1)と、前記測定点S2(1)と位置S3(1)との間の辺長である前記差分ε(1)とを用いて、前記測定点S1(1)、S2(1)の間の辺長h(1)を算出し、
前記測定点S1(1)、前記中点P3(1)および前記第1レンズ球面の球心位置P1(1)を頂点とする直角三角形を想定し、前記球心位置P1(1)から前記中点P3(1)までの辺長A(1)を算出し、
前記測定点S1(1)、S2(1)および前記位置S3(1)を頂点とする直角三角形と、前記球心位置P1(1)、前記交点S4(1)および前記中点
P3(1)を頂点
とする直角三角形との間の相似関係に基づき、前記球心位置P1(1)から前記交点S4(1)までの辺長X(1)を、式X(1)=A(1)×ε(1)/h(1)により算出し、
前記球心位置P1(1)、前記中点P3(1)および前記交点S4(1)を頂点とする直角三角形を想定し、辺長A(1)と辺長X(1)を用いて、前記
交点S4(1)から前記中点P3(1)までの辺長B(1)を算出し、
前記回転中心線に沿った方向における、前記球心位置P2(1)から、前記測定点S1(1)までの間の距離C(1)を、前記オフセット値OFFSETを用いて、式C(1)=Min(1)+OFFSETにより算出し、
前記交点S4(1)から前記球心位置P2(1)までの距離Y(1)を、辺長B(1)、距離C(1)および差分ε(1)を用いて、
式Y(1)=B(1)-C(1)-ε(1)/2により算出し、
前記球心位置P1(1)、前記球心位置P2(1)および前記交点S4(1)を頂点とする直角三角形を想定し、前記球心位置P1(1)から前記球心位置P2(1)までの辺長L(1)を、辺長X(1)、Y(1)を用いて算出し、
前記球面レンズのレンズ光軸位置でのレンズ肉厚t(1)を、式t(1)=L(1)-R1+R2により算出する球面レンズの肉厚測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は球面レンズの肉厚測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レンズの研削工程等においては、切削工具の摩耗補償を行うために、研削後にレンズの肉厚測定を行っている。従来におけるレンズの肉厚測定には、ダイヤルゲージを用いた肉厚測定装置が一般的に使用されている。
図4に示すように、ダイヤルゲージ201を用いた肉厚測定装置200では、測定対象のレンズ202を、そのレンズ光軸に一致するように、上下から一対の測定針203、204で挟持する。この状態で、ダイヤルゲージ201によりレンズ肉厚を測定する。測定に当たっては、測定員が手作業により、レンズセッティング等の操作を行っている。このような肉厚測定装置は、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レンズの肉厚測定を精度良く、かつ、効率的に行うには、測定対象のレンズを肉厚測定装置にセットする作業を、人手に頼らずに、ローダー等を用いて自動的に行うことが望ましい。この場合には、例えば、レンズ外径を基準にして、測定対象のレンズを肉厚測定装置にセッティングして、その光軸と測定針とを一致させる。レンズには、外径にバラツキがある場合、偏心が生じている場合等がある。このような場合には、測定対象のレンズの光軸とダイヤルゲージの測定針とが合致しなくなり、精度良く、自動的に肉厚測定を行うことが困難である。
【0005】
本発明の目的は、このような点に鑑みて、測定対象の球面レンズの光軸(中心点)を正確に探すことなく、精度良く肉厚を測定可能な球面レンズの肉厚測定方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の球面レンズの肉厚測定方法では、予め振れが無いように加工されたレンズ載置台の円形開口縁(カップリング)に、測定対象の球面レンズを載せる。円形開口縁は、レンズ載置台の回転中心線上の位置を中心とする円によって規定される。また、円形開口縁は、回転中心線に直交する平面上に位置する。これにより、レンズ載置台の円形開口縁に載せた球面レンズにおいては、円形開口縁に接する側のレンズ球面の球心位置が、レンズ載置台の回転中心線上に位置する。この球心位置を肉厚測定のための基準位置として用いる。
【0007】
肉厚測定には、レーザー測定器などの距離計を用いる。距離計は、レンズ載置台に載せた測定対象の球面レンズの回転中心から回転中心線に直交する方向に離れ、かつ、レンズ載置台に載せた球面レンズから回転中心線の方向に離れた位置に配置する。レンズ載置台の円形開口縁に載せた球面レンズを回転させながら、そのレンズ球面上における回転中心を中心とする所定の直径(測定径)を有する円周上の各測定点において、距離計により、距離を測定する。測定値から、最大測定値および最小測定値を抽出する。測定においては、距離計を、回転中心線の方向における所定の高さ位置に固定し、この高さ位置において測定を行う。
【0008】
測定対象の球面レンズを測定する本測定動作に先立って、肉厚が既知のマスターレンズを測定する予備測定動作を行う。予備測定動作における測定径と、得られた最大測定値および最小測定値と、マスターレンズの既知の肉厚および各レンズ球面の曲率半径とを用いて、回転中心線上のレンズ球面の球心位置を基準とする各部位の幾何学的な位置関係に基づき、回転中心線に沿った方向における、距離計の高さ位置と、回転中心線上に位置するレンズ球面の球心の位置との間の距離を算出する。すなわち、距離計から球心位置までの距離を、オフセット値OFFSETとして算出する。
【0009】
本測定動作においては、レンズ載置台の円形開口縁に、測定対象の球面レンズを載せる。球面レンズにおける円形開口縁に接する側のレンズ球面の球心位置は、回転中心線上において、距離計からオフセット値OFFSETだけ離れた位置となる。本測定動作における測定径と、測定対象の球面レンズの測定によって得られた最大測定値および最小測定値と、各レンズ球面の曲率半径と、予備測定動作において算出されているオフセット値OFFSETとを用いて、回転中心線上の球心位置を基準とする各部位の幾何学的な位置関係に基づき、測定対象の球面レンズのレンズ光軸上の肉厚を算出する。
【0010】
本発明の方法によれば、レンズ載置台に載せた測定対象の球面レンズのレンズ光軸が、回転中心線に一致していなくても(回転に伴って球面レンズに振れが生じる状態でも)、精度良く、自動的に肉厚を測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明を適用した球面レンズの肉厚測定装置の概略構成図である。
【
図2】
図1の肉厚測定装置による予備測定動作におけるオフセット値算出手順を示す説明図である。
【
図3】
図1の肉厚測定装置による本測定動作における肉厚算出手順を示す説明図である。
【
図4】従来のダイヤルゲージ式の肉厚測定装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、図面を参照して本発明を適用した球面レンズの肉厚測定方法を説明する。
【0013】
[肉厚測定装置の全体構成]
図1は、本発明の肉厚測定方法に基づき球面レンズの肉厚測定を行う肉厚測定装置の一例を示す概略構成図である。肉厚測定装置1は、測定対象の球面レンズ2を載せるレンズ載置台3と、レンズ載置台3を回転させる回転機構4と、レンズ載置台3に載せた球面レンズ2の肉厚を測定するための測定機構5と、肉厚測定のための演算処理および各部の制御を司る制御盤6とを備えている。
【0014】
本例の測定対象の球面レンズ2は凸メニスカスのレンズであり、第1曲率半径R1の第1レンズ球面21と、第2曲率半径R2の第2レンズ球面22とを備えている。これらのレンズ球面21、22の中心を通るレンズ光軸を符号2aで示してある。
【0015】
レンズ載置台3は、円筒状カップ31と、この円筒状カップ31の底面から同軸に延びている回転軸32とを備えている。円筒状カップ31は円形開口縁33(カップリング)を備えており、円形開口縁33に測定対象の球面レンズ2を載せる。回転軸32は軸受34を介して不図示の装置ハウジングなどの固定側の部材によって回転自在の状態で支持されている。回転機構4は、モーター41およびベルト・プーリなどの回転伝達機構42を備えている。モーター41からの回転が、回転伝達機構42を介して、レンズ載置台3の回転軸32に伝達される。
【0016】
レンズ載置台3は、回転機構4によって、回転中心線3aを中心として回転する。円形開口縁33は、回転中心線3a上に中心が位置する円によって規定されている。また、円形開口縁33は、回転中心線3aに直交する平面上に位置するように形成されている。したがって、円形開口縁33に載せた球面レンズ2の一方のレンズ球面の球心は、球面レンズ2の載置状態に関わりなく、常に、回転中心線3a上に位置する。図示の場合には、円形開口縁33に接する側の第2レンズ球面22の球心位置P2が回転中心線3a上に位置する。
【0017】
測定機構5は、レンズ載置台3に対して、その円形開口縁33に対峙する側に配置されている。測定機構5は、距離計としてレーザー測定器50を備えている。レーザー測定器50以外の非接触型の距離計を用いることもできる。また、測定機構5は、レーザー測定器50を回転中心線3aに直交する直交方向3bに往復移動させる第1アクチュエータ51と、第1アクチュエータ51を回転中心線3aの方向に往復移動させる第2アクチュエータ52とを備えている。レーザー測定器50は、第1アクチュエータ51によって、レンズ載置台3の円形開口縁33の直径方向である直交方向3bに向けて、その中心を含む半径寸法以上のストロークで往復移動可能である。
【0018】
第1アクチュエータ51には、第1測長ユニット53が付設されている。第1測長ユニット53によって、第1アクチュエータ51によるレーザー測定器50の直交方向3bの位置が検出される。これにより、レーザー測定器50の直交方向3bの移動位置の再現性が保障される。同様に、第2アクチュエータ52には、第2測長ユニット54が付設されている。第2測長ユニット54によって、第2アクチュエータ52によるレーザー測定器50の回転中心線3aの方向の位置が検出される。これにより、レーザー測定器50の回転中心線3aの方向の移動位置の再現性が保障される。
【0019】
制御盤6は、操作部61、制御部62および表示部63を備えている。制御部62は、コンピュータを中心に構成されており、予めインストールされている制御プログラムに従って、操作部61からの入力等に基づき、各部の駆動を制御して、球面レンズ2の肉厚測定動作を行う。また、制御部62には、測定値に基づき、肉厚演算処理を行う演算処理部64が備わっている。
【0020】
[肉厚測定動作]
肉厚測定装置1の肉厚測定動作には、球面レンズ2のマスターレンズの測定を行う予備測定動作と、測定対象の球面レンズ2の測定を行う本測定動作とが含まれている。マスターレンズの第1曲率半径、第2曲率半径、レンズ光軸位置での肉厚は事前に測定されており既知である。
【0021】
(予備測定動作)
図2は、マスターレンズを測定する予備測定動作を説明するための説明図である。予備測定動作には以下の工程が含まれている。
【0022】
<マスターレンズ載置工程>
マスターレンズ載置工程では、肉厚tが既知のマスターレンズ102を、振れが少ないように、レンズ載置台3の円形開口縁33に載せる。レンズ載置台3に設けた円形開口縁33に、マスターレンズ102の第2レンズ球面122が接する向きで載せる。これにより、円形開口縁33の中心を通るレンズ載置台3の回転中心線3a上に、マスターレンズ102の第2レンズ球面122の球心位置P2が位置する状態になる。
【0023】
<マスターレンズ測定工程>
マスターレンズ102の第1レンズ球面121から、回転中心線3aに沿った方向に所定の距離だけ離れた高さ位置S5に配置したレーザー測定器50(距離計)を用いて、回転中心線3a周りに回転するマスターレンズ102の第1レンズ球面121からの距離を測定する。
【0024】
<マスターレンズ測定値抽出工程>
前記の測定工程において、高さ位置S5を維持した状態で、レーザー測定器50を、回転中心線3aを通り当該回転中心線3aに直交する直交方向3bに走査し、回転している第1レンズ球面121における測定値が変化しない位置を回転中心線3a上の中心点として抽出する。また、中心点を中心とする所定の測定径Dを直径とする円周上の各測定点において得られる測定値から、最大測定値Maxと最小測定値Minを抽出する。
【0025】
マスターレンズ測定工程と、これと平行して行われるマスターレンズ測定値抽出工程では、第1アクチュエータ51により、レーザー測定器50を、直交方向3bに、回転中心線3aから出来る限り離れた位置に移動させ、そこに位置決めする。回転機構4を駆動して、レンズ載置台3に載せたマスターレンズ102を回転させる。マスターレンズ102を回転させながら、その第1レンズ球面121からレーザー測定器50の高さ位置S5までの距離を測定する。
【0026】
測定に当たっては、まず、レーザー測定器50を、その高さ位置S5に維持した状態で、第1アクチュエータ51によって、直交方向3bに走査する。レーザー測定器50の数値変化が零となる点(第1レンズ球面121における測定値が変化しない点)を、回転中心線3a上の中心点として抽出する。この中心点から、
図2に示すレーザー測定器50の待機位置までの移動距離の2倍の値を、測定径Dとして設定する。
【0027】
第1レンズ球面121上において、その中心点を中心とする直径が測定径Dの円周上の各測定点において測定を行う。得られた測定値から、最大測定値Maxと最小測定値Minを抽出する。
【0028】
<オフセット量算出工程>
測定値を用いて、オフセット値OFFSETを演算するオフセット値算出工程では、回転中心線3aと、最小測定値Minおよび最大測定値Maxが得られる測定点S1、S2とを含む平面PLを想定する。平面PL上において、第2レンズ球面122の球心位置P2を基準とする測定点S1、S2、高さ位置S5、第1レンズ球面の球心位置P1の幾何学的位置関係に基づき、測定径D、最大測定値Max、最小測定値Min、第1曲率半径R1、第2曲率半径R2、およびレンズ肉厚tを用いて、回転中心線3aに沿った方向における第2レンズ球面122の球心位置P2からレーザー測定器50の高さ位置S5までの距離を、オフセット値OFFSETとして計算により求める。
【0029】
オフセット値算出工程における計算手順を以下に、具体的に説明する。
図2に示す平面PL上において、最小測定値Minが得られる測定点S1から、測定点S2の側に向けて、直交方向3bに測定径Dだけ離れた点を位置S3とする。第1レンズ球面121の球心位置P1から回転中心線3aに引いた垂線が当該回転中心線3aと交差する点を交点S4とする。測定点S1と測定点S2とを結ぶ線分の中点を中点P3とし、測定点S1と位置S3とを結ぶ線分の中点を中点P4とする。
【0030】
まず、測定点S2と位置S3の間の距離は、最小測定値Minと最大測定値Maxの差分εとして求まる。
ε=Max-Min
中点P3と中点P4との間の距離δは、中点同士を結ぶ線分の長さであるから差分εの1/2である。
δ=ε/2
球心位置P1と球心位置P2の間の距離Lは、肉厚tを用いて、次式により求まる。
L=R1-R2+t
【0031】
測定点S1、測定点S2および位置S3を頂点とする直角三角形を想定する。測定点S1と位置S3の間の辺長である測定径Dと、測定点S2と位置S3の間の辺長である差分εとを用いて、ピタゴラスの定理により、測定点S1、S2の間の辺長hは次式により算出される。
【0032】
測定点S1、中点P3および第1レンズ球面121の球心位置P1を頂点とする直角三角形を想定し、算出した辺長hおよび第1曲率半径R1を用いて、球心位置P1から中点P3までの辺長Aを次式により算出する。
【0033】
測定点S1、S2および位置S3を頂点とする直角三角形と、第1レンズ球面121の球心位置P1、交点S4および中点P3を頂点とする直角三角形とは相似である。よって、球心位置P1から交点S4までの辺長Xは、次式により算出できる。
A:X=h:ε
X=A×ε/h
【0034】
球心位置P1、中点P3および交点S4を頂点とする直角三角形を想定し、辺長Aと辺長Xを用いて、
交点S4から中点P3までの辺長Bを、次式により算出する。
【0035】
球心位置P1、P2および交点S4を頂点とする直角三角形を想定し、球心位置P1、P2の間の辺長である距離Lと辺長Xを用いて、球心位置P2から交点S4までの辺長Yを、次式により算出する。
【0036】
回転中心線3aに沿った方向における、球心位置P2から測定点S1(中点P4)までの間の距離Cを、次式により算出する。
C=B-Y-ε/2
【0037】
よって、回転中心線3aに沿った方向における、球心位置P2からレーザー測定器50の高さ位置S5までの間の距離であるオフセット値OFFSETは、次式により求まる。
OFFSET=C-Min
【0038】
(本測定動作)
図3は、測定対象の球面レンズ2の肉厚を測定する本測定動作を示す説明図である。本測定動作は次の各工程が含まれている。対象レンズ載置工程、対象レンズ測定工程、対象レンズ測定値抽出工程は、基本的に、予備測定動作における対応する工程と同一である。
【0039】
<対象レンズ載置工程>
マスターレンズ102に代えて、測定対象の球面レンズ2をレンズ載置台3の円形開口縁33に載せる。レンズ載置台3の回転中心線3a上に、円形開口縁33に接する球面レンズ2の第2レンズ球面22の球心位置P2が位置する状態が形成される。
【0040】
<対象レンズ測定工程>
球面レンズ2の第2レンズ球面22の球心位置P2(1)から、回転中心線3aに沿った方向に、オフセット値OFFSETだけ離れた高さ位置S5に配置されているレーザー測定器50を用いて、回転中心線3a周りに回転する球面レンズ2の第1レンズ球面21からの距離を測定する。
【0041】
<対象レンズ測定値抽出工程>
測定動作において、高さ位置S5を維持した状態で、レーザー測定器50を、回転中心線3aを通り当該回転中心線3aに直交する直交方向3bに走査し、回転している第1レンズ球面21における測定値が変化しない位置を回転中心線3a上の中心点として抽出する。また、中心点を中心とする直径が測定径D(1)の円周上の各測定点において得られる測定値から、最大測定値Max(1)と最小測定値Min(1)を抽出する。
【0042】
<肉厚算出工程>
回転中心線3aと、最小測定値Min(1)および最大測定値Max(1)が得られる測定点S1(1)、S2(1)とを含む平面PL(1)を想定する。平面PL(1)上において、第2レンズ球面22の球心位置P2(1)および高さ位置S5を基準とする測定点S1(1)、S2(1)および第1レンズ球面21の球心位置P1(1)の幾何学的位置関係に基づき、測定径D(1)、最大測定値Max(1)、最小測定値Min(1)、第1曲率半径R1、第2曲率半径R2、およびオフセット値OFFSETを用いて、球面レンズ2のレンズ光軸位置におけるレンズ肉厚t(1)を計算により求める。
【0043】
肉厚算出工程を、
図3を参照して具体的に以下に説明する。
図3に示す平面PL(1)上において、最小測定値Min(1)が得られる測定点S1(1)から、測定点S2(1)の側に向けて、回転中心線3aに直交する直交方向3bに測定径D(1)だけ離れた点を位置S3(1)とする。第1レンズ球面21の球心P1から回転中心線3aに引いた垂線が当該回転中心線3aと交差する点を交点S4(1)とする。測定点S1(1)と測定点S2(1)とを結ぶ線分の中点を中点P3(1)とし、測定点S1(1)と位置S3(1)とを結ぶ線分の中点を中点P4(1)とする。
【0044】
まず、測定点S2(1)と位置S3(1)の間の距離を、最小測定値Min(1)と最大測定値Max(1)の差分ε(1)として求める。
ε(1)=Max(1)-Min(1)
中点P3(1)と中点P4(1)の間の距離δ(1)を、次式により求める。
δ(1)=ε(1)/2
【0045】
第1測定点S1(1)、第2測定点S2(1)および位置S3(1)を頂点とする直角三角形を想定し、第1測定点S1(1)と位置S3(1)の間の辺長である測定径D(1)と、第2測定点S2(1)と位置S3(1)との間の辺長である差分ε(1)とを用いて、第1、第2測定点S1(1)、S2(1)の間の辺長h(1)を、次式により算出する。
【0046】
第1測定点S1(1)、中点P3(1)および第1レンズ球面21の球心位置P1(1)を頂点とする直角三角形を想定し、球心位置P1(1)から中点P3(1)までの辺長A(1)を、次式により算出する。
【0047】
第1、第2測定点S1(1)、S2(1)および位置S3(1)を頂点とする直角三角形と、球心位置P1(1)、交点S4(1)および中点P3(1)を頂点とする直角三角形との間の相似関係に基づき、球心位置P1(1)から交点S4(1)までの辺長X(1)を、次式により算出する。
A(1):X(1)=h(1):ε
X(1)=A(1)×ε(1)/h(1)
【0048】
球心位置P1、中点P3(1)および交点S4(1)を頂点とする直角三角形を想定し、辺長A(1)と辺長X(1)を用いて、
交点S4(1)から中点P3(1)までの辺長B(1)を、次式により算出する。
【0049】
回転中心線3aに沿った方向における、球心位置P2(1)から、第1測定点S1(1)までの間の距離C(1)を、予備測定動作によって算出したオフセット値OFFSETを用いて、次式により算出する。
C(1)=Min(1)+OFFSET
【0050】
交点S4(1)から球心位置P2(1)までの距離Y(1)を、辺長B(1)、距離C(1)および差分ε(1)を用いて、次式により算出する。
Y(1)=B(1)-C(1)-ε(1)/2
【0051】
球心位置P1、球心位置P2および交点S4(1)を頂点とする直角三角形を想定し、球心位置P1から球心位置P2までの辺長L(1)を、辺長X(1)、Y(1)を用いて、次式により算出する。
【0052】
よって、球面レンズ2のレンズ光軸2aの位置でのレンズ肉厚t(1)は、次式により求まる。なお、球心位置P1と球心位置P2が、レンズ光軸2aに沿った方向において、逆の位置関係となる場合には、符号を入れ替える。
t(1)=L(1)-R1+R2
【0053】
(その他の実施の形態)
なお、本発明の肉厚測定方法により、球面レンズの光軸ズレ(偏心量)の算出も可能である。この場合には、芯取り後の球面レンズ2を、振れないように、レンズ載置台3の円形開口縁33に載せる(球面レンズ2を、そのレンズ光軸2aが回転中心線3aに一致するように載せる)。この状態で測定を行い、
図3における距離X(1)と、距離L(1)から、光軸ズレを算出できる。
【符号の説明】
【0054】
1 肉厚測定装置
2 球面レンズ
2a レンズ光軸
3 レンズ載置台
3a 回転中心線
3b 直交方向
4 回転機構
5 測定機構
6 制御盤
21 第1レンズ球面
22 第2レンズ球面
31 円筒状カップ
32 回転軸
33 円形開口縁
34 軸受
41 モーター
42 回転伝達機構
50 レーザー測定器
51 第1アクチュエータ
52 第2アクチュエータ
53 第1測長ユニット
54 第2測長ユニット
61 操作部
62 制御部
63 表示部
64 演算処理部
102 マスターレンズ
121 第1レンズ球面
122 第2レンズ球面