(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】ロボットシステム、ロボット制御方法、及びロボット教示方法
(51)【国際特許分類】
B25J 13/00 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
B25J13/00 Z
(21)【出願番号】P 2017200432
(22)【出願日】2017-10-16
【審査請求日】2020-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】久下 守正
(72)【発明者】
【氏名】切通 隆則
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀幸
【審査官】臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-231575(JP,A)
【文献】特開平08-323421(JP,A)
【文献】特開平11-138470(JP,A)
【文献】特開2002-082060(JP,A)
【文献】特開2010-052067(JP,A)
【文献】特開2014-205206(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0057257(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 9/06-13/08
G01B 11/22
G05B 15/00-19/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに対して当該ワークの形状に応じた作業を行うロボットと、
前記ワークの3次元データに構造解析を行うことで算出された当該ワークの自重による撓みを反映させた補正形状データに基づいて設定された教示点である補正教示点を記憶する教示データ記憶部と、
前記補正教示点に基づいて前記ロボットに作業を行わせる動作制御部と、
を備え
、
前記ロボットは、前記ワークを保持して作業装置に対して当該ワークを移動させることで作業を行い、
前記補正形状データには、作業時と同じ位置で前記ワークを保持した場合に生じる撓みが反映されていることを特徴とするロボットシステム。
【請求項2】
請求項
1に記載のロボットシステムであって、
前記補正形状データは、3つ以上の保持位置で保持された場合の前記ワークの撓みを反映させたデータであることを特徴とするロボットシステム。
【請求項3】
請求項
2に記載のロボットシステムであって、
前記教示データ記憶部には、形状が異なる複数の前記ワークに対応してそれぞれの前記補正形状データが記憶されており、少なくとも2つ以上の前記ワークについて、保持位置同士の位置関係が同じであることを特徴とするロボットシステム。
【請求項4】
請求項1から
3までの何れか一項に記載のロボットシステムであって、
前記ワークはガラス板であり、
前記ロボットは前記ガラス板について、厚み及び表面欠陥の少なくとも一方を検査する作業を行うことを特徴とするロボットシステム。
【請求項5】
ワークに対して当該ワークの形状に応じた作業を行うロボットを制御するロボット制御方法において、
前記ロボットは、前記ワークを保持して作業装置に対して当該ワークを移動させることで作業を行い、
前記ワークの3次元データに構造解析を行うことで算出された当該ワークの自重による撓みを反映させた補正形状データに基づいて設定された教示点である補正教示点を記憶しており、当該補正教示点に基づいて前記ロボットに作業を行わせ
、
前記補正形状データには、作業時と同じ位置で前記ワークを保持した場合に生じる撓みが反映されていることを特徴とするロボット制御方法。
【請求項6】
ワークに対して当該ワークの形状に応じた作業を行うロボットに対して教示を行うロボット教示方法において、
前記ロボットは、前記ワークを保持して作業装置に対して当該ワークを移動させることで作業を行い、
前記ワークの3次元データに構造解析を行うことで、当該ワークの自重による撓みを反映させた補正形状データを算出する補正形状データ算出処理と、
前記補正形状データに基づいて設定された教示点である補正教示点を算出する補正教示点算出処理と、
を含
み、
前記補正形状データには、作業時と同じ位置で前記ワークを保持した場合に生じる撓みが反映されていることを特徴とするロボット教示方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、3次元データを用いてロボットに教示が行われるロボットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、平板状かつ剛性が低い作業対象物(以下、ワーク)に対して作業を行う場合、ワークを載置面に置いて作業を行うことで、ワークの自重による撓みを防止しつつ、作業を行うことができる。しかし、例えば湾曲した板状のワークに対して作業を行う場合、ワークを載置面に置いた場合でも、ワークの剛性によっては、ワークが自重により撓むことがある。
【0003】
特許文献1には、ガラス板の設計データに基づいて、ガラス板を検査台に載置させたときの形状を示す仮想設計データを算出し、この仮想設計データによりガラス板の形状を検査する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来から、ロボットを用いてワークの検査を行わせる方法が知られている。この方法では、ロボットの動作手順を記述した3次元CADデータに基づくプログラムを作成する必要がある。上述のように検査時においてワークが撓む場合は、検査時のワークの形状と3次元CADデータ上のワークの形状とが異なるため、このプログラムの作成が困難となる。以上の事情により、撓みが生じるワークに対して形状に応じた処理(表面検査、塗装、及び洗浄等)をロボットに行わせるためにはロボットに直接教示する必要があり、採用する際の障害となっている。そのため、従来では、撓みが生じるワークに作業を行う場合は、人が目視で検査を行ったり、手作業で塗装等を行うことが一般的であった。また、特許文献1では、撓みを考慮してガラス板の形状を検査する方法を開示しているだけであり、撓みが生じたワーク(ガラス板)に対して、形状に応じた作業を行うことは開示されていない。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その主要な目的は、撓みが生じたワークに対しても、ワークの形状に応じた作業を直接教示することなしにロボットに行わせることが可能なロボットシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成のロボットシステムが提供される。即ち、このロボットシステムは、ロボットと、教示データ記憶部と、動作制御部と、を備える。前記ロボットは、ワークに対して当該ワークの形状に応じた作業を行う。前記教示データ記憶部は、前記ワークの3次元データに構造解析を行うことで算出された当該ワークの自重による撓みを反映させた補正形状データに基づいて設定された教示点である補正教示点を記憶する。前記動作制御部は、前記補正教示点に基づいて前記ロボットに作業を行わせる。前記ロボットは、前記ワークを保持して作業装置に対して当該ワークを移動させることで作業を行う。前記補正形状データには、作業時と同じ位置で前記ワークを保持した場合に生じる撓みが反映されている。
【0009】
本発明の第2の観点によれば、以下のロボット制御方法が提供される。即ち、このロボット制御方法では、ワークに対して当該ワークの形状に応じた作業を行うロボットを制御する。前記ロボットは、前記ワークを保持して作業装置に対して当該ワークを移動させることで作業を行う。また、このロボット制御方法では、前記ワークの3次元データに構造解析を行うことで算出された当該ワークの自重による撓みを反映させた補正形状データに基づいて設定された教示点である補正教示点を記憶しており、当該補正教示点に基づいて前記ロボットに作業を行わせる。前記補正形状データには、作業時と同じ位置で前記ワークを保持した場合に生じる撓みが反映されている。
【0010】
本発明の第3の観点によれば、以下のロボット教示方法が提供される。即ち、このロボット教示方法は、ワークに対して当該ワークの形状に応じた作業を行うロボットに対して教示を行う。前記ロボットは、前記ワークを保持して作業装置に対して当該ワークを移動させることで作業を行う。このロボット教示方法では、補正形状データ算出処理と、補正教示点算出処理と、を含む。前記補正形状データ算出処理では、前記ワークの3次元データに構造解析を行うことで、当該ワークの自重による撓みを反映させた補正形状データを算出する。前記補正教示点算出処理では、前記補正形状データに基づいて設定された教示点である補正教示点を算出する。前記補正形状データには、作業時と同じ位置で前記ワークを保持した場合に生じる撓みが反映されている。
【0011】
これにより、撓みを反映させた補正形状データに基づいて設定された教示点が用いられるため、撓みが生じたワークの形状に応じた適切な作業を直接教示することなしにロボットに行わせることができる。そのため、人に作業を行わせる場合と比較して、短時間で正確な作業を行わせることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、撓みが生じたワークに対しても、ワークの形状に応じた作業を直接教示することなしにロボットに行わせることが可能なロボットシステムを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係るロボットシステムの構成を示すブロック図。
【
図2】ロボットがワークを保持して作業を行う様子を示す斜視図。
【
図3】ロボットがワークを保持する場合における、3次元データ上のワークの形状と、実際のワークの形状と、が異なること示す模式図。
【
図4】撓みが生じるワークに対して3次元データを用いて教示を行う処理を示すフローチャート。
【
図5】3次元データを用いて作成された教示点と補正形状データを用いて作成された教示点とを比較する図。
【
図6】複数のワークについて保持位置の位置関係が同じであることを示す図。
【
図7】第2実施形態で行われる作業の様子を示す斜視図。
【
図8】ワークを作業台に置いた場合における、3次元データ上のワークの形状と、実際のワークの形状と、が異なること示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。初めに、
図1を参照して第1実施形態のロボットシステム1について説明する。
図1は、本発明の第1施形態に係るロボットシステム1の構成を示すブロック図である。
【0015】
ロボットシステム1は、ロボット10と、制御装置20と、教示装置30と、を備えている。ロボットシステム1は、教示装置30によりロボット10の教示を行って教示データを作成し、この教示データを用いて制御装置20がロボット10を制御することで、作業対象物であるワーク100に対して所定の作業が行われる。
【0016】
本発明においてロボット10が行う作業は、ワーク100の形状に応じてロボット10を動作させる必要がある作業である。この作業としては、例えばワーク100の検査(ワーク100の表面欠陥を調べる検査、ワーク100の厚みを調べる検査等)、塗装、及び洗浄等がある。
【0017】
本実施形態のロボットシステム1は、作業時においてワーク100の撓みの影響が無視できない場合に特に有効である。従って、ワーク100は、撓みが生じ易い形状(湾曲又は屈曲等が含まれる板状、3軸の立体座標系で表面形状を表したときに3軸全ての値が変化する部分を有する形状等)であることが好ましい。また、ワーク100の材料としては、ヤング率等の弾性率が小さいこと(即ち剛性が低い材料であること)が好ましい。以下では、一例として、ガラス板の表面欠陥を検査する作業について説明する。
【0018】
なお、本実施形態のロボットシステム1は、様々な用途のガラス板に対して検査を行うことが可能であるが、例えば自動車等の乗物用の窓ガラス(特にプロジェクタが照射した映像を表示するヘッドアップディスプレイに用いられるガラス)や、曲面形状の有機ELパネルや液晶パネルに用いられるガラスは、曲面形状かつ要求される品質が高いので、本実施形態の機能を特に有効に活用できる。
【0019】
ロボット10は、支持台11と、多関節アーム12と、エンドエフェクタ13と、を備える。支持台11は施設内の所定の位置に固定されている。多関節アーム12は、複数の関節を有しており、各関節にはアクチュエータが備えられている。これらのアクチュエータが制御装置20により制御されることで、多関節アーム12の姿勢(位置)及び速度が調整される。エンドエフェクタ13は、多関節アーム12の先端に取り付けられている。エンドエフェクタ13には、例えばワーク100を把持するためのツールが取り付けられる。
【0020】
制御装置20は、公知のコンピュータにより構成されており、演算装置(CPU等)と記憶装置(ROM、RAM、HDD等)を備えている。また、この記憶装置には、各種のプログラムが記憶されている。演算装置がこのプログラムをRAM等に読み出して実行することで制御装置20はロボット10に関する様々な制御を行う。これにより、制御装置20を動作制御部21として機能させることができる。動作制御部21は、上記の多関節アーム12及びエンドエフェクタ13を制御する。また、制御装置20は、教示装置30が作成した教示データを記憶する教示データ記憶部22を備える。
【0021】
教示装置30は、公知のコンピュータにロボット10の教示を行うためのソフトウェアがインストールされた構成である。従って、教示装置30も制御装置20と同様に演算装置及び記憶装置を備えている。教示装置30は、3次元データ読込み部31と、教示データ作成部33と、を備える。なお、これらが行う処理については後述する。
【0022】
また、
図1に示すように、教示装置30は、解析装置70からワーク100の3次元データを受信し、この3次元データに基づいて解析を行う。解析装置70は、公知のコンピュータに3次元データ等の解析を行うためのソフトウェアがインストールされた構成である。なお、解析装置70が備える補正形状データ算出部71が行う処理については後述する。
【0023】
ここで、本実施形態のロボットシステム1では、制御装置20と教示装置30とが異なるハードウェアから構成されているが、本発明の機能が発揮できるのであれば、ハードウェアの構成は任意である。例えば、制御装置20と教示装置30とが同じハードウェアであってもよいし、制御装置20と教示装置30に加えて別のハードウェアを更に備える構成であってもよい。また、本実施形態の教示装置30が有する機能の少なくとも一部を制御装置20に持たせてもよいし、制御装置20が有する機能の少なくとも一部を教示装置30に持たせてもよい。また、解析装置70の機能の少なくとも一部を制御装置20又は教示装置30に持たせてもよい。
【0024】
次に、ロボットシステム1を用いて行う検査の内容及び検査を行うための機器について、更に
図2を参照して説明する。
図2は、ロボット10がワーク100を保持して作業を行う様子を示す斜視図である。
【0025】
本実施形態のワーク100は板状であり、面積が大きい2つの面(厚み方向に略垂直な面)を主表面101と称する。また、2つの主表面を接続する面(厚み方向に略平行な面)を端面102と称する。また、端面102及びその近傍(即ち主表面101の縁部)を含む部分を端部と称する。本実施形態では、ワーク100の端部の表面欠陥(傷、欠け、異常形状等)の有無及び程度等を調べる検査を行う方法を説明する。
【0026】
この検査は、
図2に示す端部検査装置(作業装置)40を用いて行われる。端部検査装置40は、一例として3方が壁面で囲まれた検査領域を有しており、これらの3方の壁面には撮像孔41がそれぞれ形成されている。撮像孔41の内部にはCCD等の撮像装置が配置されている。この構成により、2つの主表面101の縁部及び端面102の画像がそれぞれ撮影される。この画像を解析することで、ワーク100の端部の表面欠陥を検査することができる。
【0027】
ロボット10は、エンドエフェクタ13によりワーク100を保持した状態で、当該ワーク100の端部を端部検査装置40の検査領域まで移動させることで、ワーク100の端部の検査を行う。また、ロボット10は、ワーク100が端部検査装置40等に当たらないように多関節アーム12の姿勢を変えつつエンドエフェクタ13を回転させることで、ワーク100の全ての端部(検査対象が一部の端部の場合は、当該一部の端部)について端部検査装置40による検査が行われる。また、端部検査装置40による検査結果は、ワーク100の検査等を管理する検査システム管理装置60に送信される。
【0028】
次に、ロボット10を教示する方法及びワーク100に生じる撓みの影響について
図3を参照して説明する。また、以下ではワーク100の自重による撓みを単に撓みと称することがある。
【0029】
ロボット10の教示は、ロボット10(エンドエフェクタ13)に行わせる動作の順序に応じて空間上の点(座標)を教示点として設定することで行われる。また、教示点には、空間上の位置だけでなく向き(x軸回りの回転角α、y軸回りの回転角β)についても設定が必要となる。
【0030】
ここで、本実施形態の教示装置30は、ロボット10を実際に動かすのではなく、コンピュータ上で構築される仮想空間においてロボット10、周辺装置、及びワーク100の3次元モデルを配置して教示を行う。特に、本実施形態の教示装置30は、ワーク100の3次元データを読込み可能であるとともに、教示点を自動的に作成する処理を行うことが可能である。具体的には、教示装置30は、ワーク100の3次元データを読み込むことで、教示装置30の図略のディスプレイにワーク100の形状を表示する。そして、作業者がワーク100の作業箇所、作業順序、作業内容、及び作業条件等を設定することで、教示装置30が教示点を作成する。そのため、作業者が仮想空間においてロボット10を動かしつつ教示点を作成する作業が不要となるため、教示に掛かる手間及び時間を大幅に低減できる。また、ロボット10に教示を行うことで作成したデータであって、ロボット10を制御するために用いられるデータ(教示点及び作業条件等が含まれたデータ)を教示データと称する。
【0031】
一般的には、教示装置30が読み込むワーク100の3次元データは、設計時等に作成した3次元のCADデータである。従って、撓みが生じていない状態のワーク100の形状に基づいて教示が行われる。しかし、実際の作業時においては、ガラス板のように剛性が低いワーク100は、エンドエフェクタ13によって中央近傍が保持されることで、
図3に示すように、ワーク100(特に端部)に自重による撓みが生じる。そのため、ワーク100の3次元データを用いて教示装置30が作成した教示データを用いてロボット10を制御する場合、ワーク100が端部検査装置40等の周辺機器に接触してしまう可能性がある。
【0032】
以上を考慮し、本実施形態では、撓みの影響を考慮してロボット10を教示する。以下、本実施形態のロボット10の教示方法について
図4のフローチャートを参照して説明する。
【0033】
初めに、解析装置70(補正形状データ算出部71)は、ワーク100の3次元データに構造解析(具体的には、有限要素法による解析、即ちFEM解析)を行って、撓み発生に伴う変形量等のデータを算出する(S101)。本実施形態の解析装置70は、ワーク100の形状及び向きだけでなく、ワーク100の材質、及び、ロボット10によるワーク100の保持位置等に基づいて、この構造解析を行う。解析装置70は、3次元データに含まれている情報からワーク100の材質を読み出す構成であってもよいし、ワーク100の剛性を示す物性値(ヤング率等の弾性率)の入力を作業者に要求する構成であってもよいし、作業者にワーク100の材料を指定させることで、解析装置70が有するデータベースに基づいてヤング率等の弾性率が読み出される構成であってもよい。また、保持位置は、作業者の指定に基づいて決定する構成であってもよいし、解析装置70が適切な保持位置を算出する構成であってもよい。また、ワーク100を複数点で保持する場合は、複数の保持位置が設定される。なお、ワーク100を安定的に保持するために、保持位置を3点以上含むことが好ましい。
【0034】
次に、解析装置70(補正形状データ算出部71)は、構造解析の結果に基づいて、撓みなしの3次元データから、撓みありの3次元データを作成する(S102)。以下の説明では、作業時のワーク100の条件において自重による撓みを反映させた後のワーク100の形状を示すデータを補正形状データと称することがある。また、設計時等に作成した撓みなしの3次元データを単に3次元データと称することがある。解析装置70は、作成した補正形状データを用いて、初めに読み込んだ3次元データを修正(上書き)してもよいし、初めに読み込んだ3次元データとは別に補正形状データを作成してもよい。これにより、教示用のワーク100の形状を示すデータが更新されることとなる。
【0035】
次に、教示装置30(3次元データ読込み部31)は、ワーク100の補正形状データを読み込む(S103)。次に、教示装置30は、作業者の入力等に基づいて、ワーク100の作業箇所、作業順序、作業内容、及び作業条件等を設定して補正教示データを作成する(S104)。ここで補正形状データに基づいて作成された教示点を補正教示点と称し、補正教示点等を含む教示データを補正教示データと称する。このように本実施形態では、教示装置30は、撓みが生じている状態のワーク100を用いて教示作業を行う。
【0036】
図5には、教示点の例が示されている。上述したように教示点には3次元上の位置と2つの回転角が設定される。
図5に示すように、補正形状データを用いて補正教示点を作成することで、ワーク100の撓みに基づいて教示点の3次元上の位置及び回転角を設定できる。また、撓みが生じる場合、
図3に示すようにワーク100の向きも変化する。ここで、ワーク100の端部が傾いた状態で端部検査装置40の検査領域に入った場合、適切な位置の画像を取得することが困難になる場合があるため、適切な検査を行うことができない場合がある。従って、3次元上の位置だけでなく向きについても補正を行うことで、ワーク100の撓みによる向きの変化にも対応することができる。
【0037】
このように本実施形態では、教示装置30がワーク100の補正形状データを受信し、この補正形状データに対して作業者が作業箇所及び作業順序を設定する構成である。これに代えて、作業者が撓みが生じていないワーク100の3次元データに対して作業箇所及び作業順序等を設定した後に、構造解析を行って教示点を補正して補正教示点を作成する構成であってもよい。
【0038】
また、一連の作業中においてワーク100の保持位置等が変化する場合は(例えば第1保持位置と第2保持位置が存在する場合は)、それぞれの保持位置について補正形状データを算出する必要がある。そして、一連の作業において第1保持位置で作業を行う間は第1保持位置の補正形状データを用い、第2保持位置で作業を行う場合は第2保持位置の補正形状データを用いて教示データの作成を行う必要がある。
【0039】
次に、教示装置30は、作成した補正教示データに基づいて、仮想空間上でロボット10を動作させるシミュレーションを行うことで、ロボット10の動作及び干渉等のチェックを行う(S105)。そして、干渉等が生じず、かつ、作業者が補正教示データが適切であると判断することで教示作業が完了し、補正教示データが保存される(S106)。教示装置30に保存された補正教示データは、有線通信又は無線通信により制御装置20へ送られるか、作業者が記憶媒体等を用いて制御装置20へ読み込ませる。以上により、ワーク100の撓みを考慮してロボット10に教示を行うことができる。
【0040】
そして、実際に作業を行う場合は、補正形状データの算出時と同様の保持位置でワーク100を保持できるようにロボット10が制御される。なお、エンドエフェクタ13が補正形状データの算出時と同様の保持位置でワーク100を保持できるように、ワーク100を正確な位置に置いておく必要がある。あるいは、エンドエフェクタ13にカメラ等のセンサを設けることでワーク100の位置を認識させて、補正形状データの算出時と同様の保持位置でワーク100を保持するように制御することもできる。
【0041】
また、制御装置20の教示データ記憶部22は、上記のようにして作成された補正教示データを記憶する。また、動作制御部21は、教示データ記憶部22に記憶されたこの補正教示データに基づいて、制御装置20の動作制御部21がロボット10を制御することで、ワーク100の撓みを考慮した動作をロボット10に行わせることができる。そのため、撓み易いワーク100に対して作業を行う場合であっても、ワーク100の端部検査装置40への衝突を防止したり、ワーク100の位置又は向きのズレに伴う端部検査装置40の検査ミスを防止したりすることができる。
【0042】
また、従来は人が行うことを余儀なくされていた作業をロボット10に行わせることができるので、作業のバラツキを防止したり、作業の信頼性を高めたりすることができる。また、撓みが生じるワーク100に対しても教示データを自動的に作成するソフトウェアを利用できるため、教示作業に掛かる時間を低減できる。また、人が作業を行った場合と異なり、作業の結果をデータとして残すことができる。従って、本実施形態のように検査を行う場合は、これらの検査結果を統計的に処理することで、ワーク100の品質を管理できる。検査システムの管理者は、例えば、ワーク100の品質が他と比べて低いロットがあった場合に、ワーク100の品質が低くなった原因を特定し、必要に応じて改善することができる。
【0043】
また、教示データ記憶部22は、複数の種類の作業について(特にワーク100が異なる作業について)補正教示データを記憶することができる。この場合、エンドエフェクタ13の位置の調整又は交換によるタイムロスを低減するために、形状が異なるワーク100に対しても、
図6(a)から
図6(c)に示すように、保持位置の位置関係(保持位置のレイアウト)が同じであることが好ましい。また、
図6(d)に示すように、他とは保持点の数が異なる保持位置が設定されていてもよい。なお、
図6(d)に示す例では、ワーク100が小さいため、ロボット10によるワーク100の保持位置が1つである。
【0044】
次に、第2実施形態について
図7及び
図8を参照して説明する。なお、以降の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0045】
第1実施形態では、ロボット10がワーク100を保持して移動させるが、第2実施形態では、
図7に示すように、ワーク100を作業台110に置いて作業を行う。この場合においても、
図8(a)及び
図8(b)に示すように、ワーク100が作業台110から自重の垂直抗力を受けることで、ワーク100に撓みが生じる。第2実施形態では、ロボット10に主表面検査装置(作業装置)50が設けられている。主表面検査装置50はカメラ等の撮像装置であり、主表面検査装置50が撮像した画像を解析することでワーク100の主表面101に生じている表面欠陥の有無及び程度等を検査できる。
【0046】
ロボット10は、置かれているワーク100と主表面検査装置50の距離が一定となるように、かつ、ワーク100と主表面検査装置50が垂直となるように多関節アーム12を動作させつつ、ワーク100の表面に沿って主表面検査装置50を移動させることで検査を行う。これにより、ワーク100の主表面101の全体の表面欠陥を検査できる。なお、ワーク100の主表面101の一部のみの検査を行う構成であってもよい。
【0047】
ここで、ワーク100に対する主表面検査装置50の位置又は向きが変化した場合、主表面検査装置50のカメラの焦点がズレたり、撮像される画像の大きさが変化したりするため、適切な検査を行うことができない。
【0048】
従って、第2実施形態でも、第1実施形態のステップS101及びS102と同様に、解析装置70は、検査時のワーク100を置く向き及び作業台110の形状等に基づいて、ワーク100の構造解析を行って補正形状データを算出する。そして、第1実施形態のステップS104と同様に、教示装置30は、ワーク100の補正形状データを用いて設定された、ワーク100の作業箇所、作業順序、作業内容、及び作業条件等に基づいて補正教示データを作成する。
【0049】
このように、ロボット10がワーク100を保持する場合だけでなく、ワーク100を作業台110に置く場合であっても、撓みの影響を考慮してロボット10の教示を行うことができる。
【0050】
また、第1実施形態及び第2実施形態では、ワーク100の表面欠陥を検査する構成であるが、ワーク100の厚みを検査する場合は、例えばレーザセンサを用いることができる。レーザセンサは、ワーク100にレーザを照射し、ワーク100の上側の主表面101で反射した反射光と、ワーク100の下側の主表面101で反射した反射光と、を受光素子で観測することでワーク100の厚みを計測する。
【0051】
以上に説明したように、このロボットシステム1は、ロボット10と、教示データ記憶部22と、動作制御部21と、を備える。また、制御装置20がロボット10を制御することでロボット制御方法が行われる。ロボット10は、ワーク100に対して当該ワーク100の形状に応じた作業を行う。教示データ記憶部22は、ワーク100の3次元データに構造解析を行うことで算出された当該ワーク100の自重による撓みを反映させた補正形状データに基づいて設定された教示点である補正教示点を記憶する。動作制御部21は、補正教示点に基づいてロボット10に作業を行わせる。
【0052】
これにより、撓みを反映させた補正形状データに基づいて設定された教示点が用いられるため、撓みが生じたワーク100の形状に応じた適切な作業をロボット10に行わせることができる。そのため、人に作業を行わせる場合と比較して、短時間で正確な作業を行わせることができる。
【0053】
また、上記実施形態のロボットシステム1において、ロボット10は、作業台110にワーク100を置いた状態で当該ワーク100に対して作業を行う。補正形状データには、ワーク100を作業時と同じ位置及び向きで作業台110に置いた場合に生じる撓みが反映されている。
【0054】
これにより、ワーク100を作業台110に置いて作業を行う場合において、撓みが生じたワーク100の形状に応じた適切な作業をロボット10に行わせることができる。
【0055】
また、上記実施形態のロボットシステム1において、ロボット10は、ワーク100を保持して作業装置(端部検査装置40、主表面検査装置50)に対して当該ワーク100を移動させることで作業を行う。補正形状データには、作業時と同じ位置でワーク100を保持した場合に生じる撓みが反映されている。
【0056】
これにより、ロボット10がワーク100を保持して作業を行う場合において、撓みが生じたワーク100の形状に応じた適切な作業をロボット10に行わせることができる。
【0057】
また、上記実施形態のロボットシステム1において、補正形状データは、3つ以上の保持位置で保持された場合のワーク100の撓みを反映させたデータである。
【0058】
これにより、ワーク100を保持する空間上の位置が特定できる。また、ワーク100を安定的に保持することができる。
【0059】
また、上記実施形態のロボットシステム1において、教示データ記憶部22には、形状が異なる複数のワーク100に対応してそれぞれの補正形状データが記憶されており、少なくとも2つ以上のワーク100について、保持位置同士の位置関係が同じである。
【0060】
これにより、複数のワーク100について保持位置同士の位置関係が同じであるため、ロボット10の保持部の交換又は調整を行うことなく、別のワーク100に対して作業を行うことができる。
【0061】
また、上記実施形態のロボットシステム1において、ワーク100はガラス板である。ロボット10はガラス板について、厚み及び表面欠陥の少なくとも一方を検査する作業を行う。
【0062】
これにより、撓みが生じ易く、用途によっては厚み及び傷等の影響が大きいガラス板に対して、ロボット10による検査作業を行うことができる。
【0063】
また、上記実施形態では、教示装置30及び解析装置70が以下の処理を行うことでロボット教示方法が行われる。ロボット教示方法では、教示装置30及び解析装置70は、補正形状データ算出処理と、補正教示点算出処理と、を含む処理を行う。補正形状データ算出処理では、解析装置70が、ワーク100の3次元データに構造解析を行うことで、当該ワーク100の自重による撓みを反映させた補正形状データを算出する。補正教示点算出処理では、教示装置30が、補正形状データに基づいて設定された教示点である補正教示点を算出する。
【0064】
これにより、撓みが生じるワーク100に対しても、撓みを反映させた形状に対して教示を行うことができる。
【0065】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0066】
上記実施形態では、教示装置30はワーク100の3次元データを読み込む構成であるが、教示装置30が実行するアプリケーション上で3次元データが作成される構成であってもよい。
【0067】
上述した検査装置は一例であり、例えば端部検査装置40は、3つではなく2つ以下又は4つ以上のCCDによりワーク100の端部の画像を撮像する構成であってもよい。
【0068】
上記実施形態では、補正形状データに基づいて補正教示データを新規に作成する処理を行う。これに代えて、初めにワーク100の3次元データに基づいて教示データを作成する。そして、その後にワーク100の3次元データと補正形状データの差異に基づいて教示データを補正することで、補正教示データを作成することもできる。
【符号の説明】
【0069】
1 ロボットシステム
10 ロボット
20 制御装置
21 動作制御部
22 教示データ記憶部
30 教示装置
40 端部検査装置(作業装置)
50 主表面検査装置(作業装置)
60 検査システム管理装置