(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
F04D19/04 E
F04D19/04 D
(21)【出願番号】P 2017220870
(22)【出願日】2017-11-16
【審査請求日】2020-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091225
【氏名又は名称】仲野 均
(74)【代理人】
【識別番号】100096655
【氏名又は名称】川井 隆
(72)【発明者】
【氏名】吉原 菜穂子
(72)【発明者】
【氏名】坂口 祐幸
(72)【発明者】
【氏名】三輪田 透
【審査官】田谷 宗隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-089582(JP,A)
【文献】特開2011-080407(JP,A)
【文献】特開2014-095315(JP,A)
【文献】特開2015-148151(JP,A)
【文献】特開2003-148341(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸気口が形成された外装体と、
排気口と、
ベース部と、
前記外装体および前記ベース部に内包され、回転自在に支持された回転部と、
前記ベース部と前記回転部との間に配置された略円筒状のねじ溝ステータと、
前記回転部の外周面または前記ねじ溝ステータの内周面の少なくとも何れか一方に刻設されたねじ溝と、
を備え、
前記回転部を高速回転させることにより、前記吸気口側から吸気した気体を前記排気口側へ移送する真空ポンプであって、
前記ねじ溝ステータの外周に配置され、ステンレス材で形成された円筒形状の昇温ステータと、
前記昇温ステータの温度を測定する温度センサを更に備え、
前記昇温ステータには、複数の加熱手段が当該昇温ステータの周方向に等間隔に配設され、
前記温度センサは、前記複数の加熱手段のうちいずれか2つの加熱手段の中央に配置されていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記加熱手段はカートリッジヒータであることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記カートリッジヒータは、
前記ベース部の外周面に沿って90度に曲げられた設置導線部を有し、
前記設置導線部を固定用プレートで押さえ、当該固定用プレートと前記ベース部とをボルトで締結することで、前記ベース部に固定されることを特徴とする請求項2に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記ねじ溝ステータが、強度を上げる調質処理がなされていないアルミニウム材からなることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3に記載の真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプに関する。
詳しくは、内部の適所を高温化し一定以上の温度に保つ真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
配設される真空室内の真空排気処理を行うための真空ポンプには、回転体とねじ溝排気要素(ねじ溝型排気機構/ねじ溝ポンプ部)を備えているものがある。当該ねじ溝排気要素を備えた真空ポンプは、回転体における回転翼が配設された下側に、回転翼のない回転円筒体(回転翼円筒部)を設け、回転翼外側のねじ溝排気要素内のガスを圧縮する構成になっている。こうした構成において、ねじ溝排気要素は、回転する回転翼円筒部から熱を受け取って一様な温度となり、一様に膨張する。
また、真空ポンプが半導体製造用に使用される場合などは、半導体の製造工程で様々なプロセスガスを半導体の基板に作用させる工程が数多くあり、真空ポンプはチャンバ(反応装置)内を真空にするのみならず、これらのプロセスガスをチャンバ内から排気するのにも使用される。これらのプロセスガスは、排気される際に圧力が高い場合だけではなく、冷却されてある温度になると固体になり、排気系に生成物を析出する場合がある。
この種のプロセスガスが真空ポンプ内で低温となって固体状になり、真空ポンプ内部に付着して堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、真空ポンプの性能を低下させる原因になる虞がある。
この状態を防ぐために、アルミニウム材で形成されたベース部に温度制御加熱装置(ヒータ)と温度センサを埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つように、加熱手段であるヒータによる加熱制御(TMS;Temperature Management System)が行われている。
また、真空ポンプの排気口においては、排気されるガスが固化して形成されてしまう反応生成物対策として、ラバーヒータなどの配管専用ヒータを排気口部材(排気口円筒部/排気口の配管部)に巻きつけて高温化している。
なお、一般的に、ヒータは発熱体2個で構成され、当該ベース部に対称に配置される。
【0003】
図10は、従来の真空ポンプ1000を説明するための図である。
図10(a)に示したように、従来、アルミニウム材で形成されたベース部(ベーススペーサ60)を一定温度に保温する目的で、2個の発熱体で構成されるヒータ1100(TMSヒータ)をベース部に配設していた。なお、従来の構成においては、アルミニウム材であるベース部を保温する目的であれば、ヒータ1100は2個で充分であった。
なお、従来の構成における制御温度は最大100℃程度である。この場合、ねじ溝排気要素20は、回転体(回転翼円筒部10など)から熱を受け取るため、温度は一様に保たれていた。そのため、熱変形も一様を呈していた。
【0004】
図10(b)は、
図10(a)におけるX部(排気口6付近)の拡大図である。
図10(b)に示したように、従来、排気口6付近では、排気口6は低温となるステータベース3との接触はなく、断熱スペーサ1200を介してベース部に締結していた。この場合、シールは、ベーススペーサ60と断熱スペーサ1200、および、断熱スペーサ1200と排気口部材1600のフランジ部分の2箇所において、それぞれOリング1070、1075を用いて行われていた。
【0005】
図10(c)は、
図10(a)におけるY部(ヒータ1100の取付部)を側面から見た拡大図である。
図10(c)に示したように、ヒータ1100(内蔵されているため不図示)としてカートリッジヒータ(インサート型のヒータ)を用いた場合、設置部と固定部は同一部品であった。より詳しくは、従来のヒータ1100の固定方法は、ベーススペーサ60の外周面にヒータ1100に対して挿込軸方向と直角となる平面を設け、かつ、ヒータ1100には溶接結合したフランジ部(カートリッジヒータフランジ1120)を設けて、当該フランジ部を先述したベーススペーサ60の平面に、締結ボルト1130で固定していた。そこからヒータリードピン部1110が出ていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-89582号
【文献】特開平9-72293号
【文献】WO2011/021428号
【文献】特開2015-151932号
【文献】特開2015-194116号
【0007】
特許文献1には、真空ポンプにおいて、正常に運転させながらガスの固化を抑制することを目的として、断熱手段としてのスペーサと、当該スペーサに収容される加熱手段としてのカートリッジヒータとを備える技術について記載されている。
なお、特許文献1では、カートリッジヒータの個数については限定されていない。
特許文献2には、ターボ分子ポンプにおいて、ねじ溝ポンプ段のガス流路をガスの昇華温度以上に加熱可能にすることを目的として、ねじ溝ポンプ段のガス流路に放熱板を設け、当該放熱板と加熱部(ターボ分子ポンプの外部)とを熱の良導体で連結する技術について記載されている。
特許文献3には、真空ポンプにおいて、配設される温度センサの数よりも少ない数の加熱装置もしくは冷却装置を用いて温度制御を可能にすること目的として、ベース部の外周に加熱装置を配設する技術について記載されている。
なお、特許文献2および特許文献3では、ベース部の外周に加熱装置を設置する構成であるため、外部に熱が逃げやすく、高温化が難しい。
特許文献4には、真空ポンプにおいて、ねじ溝部内でのガスの固化を抑制することを目的として、ステンレス製の断熱スペーサを配設する技術について記載されている。なお、断熱スペーサはベース部と部分的に接触している。
なお、特許文献4では、ベース部には加熱装置のみならず、電装部品を冷却するための水冷管も配設されている。したがって、加熱したいねじ部品や排気口だけのためにベース部の温度を高温化することは難しい。
特許文献5には、真空ポンプにおいて、排気口全体の温度を効率よく上げることを目的として、排気口部品の外周面に断熱スペーサを配設する技術について記載されている。
なお、特許文献5では、ベース部は水冷管によって一定温度に管理されているため、排気口内部の温度が下がってしまう虞がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したように、ねじ溝排気要素(ねじ溝ステータ)をロータ部(回転部)の温度以上の温度に維持するためには、外気に放熱されて温度が下がりやすい傾向があるベース部と当該ねじ溝排気要素との間を断熱する必要があった(特許文献1、特許文献2、特許文献3)。
また、排気口に堆積する反応生成物対策として、排気口を高温化する目的で、排気口部品(排気口円筒部)に排気口専用ヒータを取り付けたり、断熱スペーサを配設することが一般的である(特許文献4、特許文献5)が、排気口専用ヒータや断熱スペーサを取り付けても、低温となるベース部に排気口を締結すると、熱はベース部へ逃げてしまうため、効率よく排気口を高温化することができなかった。
また、排気口専用ヒータは高額であるため、取り付けることで真空ポンプの製作コストが増大してしまっていた。
【0009】
そこで、本発明は、ねじ溝排気要素および排気口を従来よりも高温化し、且つ、一定温度以上に保つことが可能な真空ポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1記載の本願発明では、吸気口が形成された外装体と、排気口と、ベース部と、前記外装体および前記ベース部に内包され、回転自在に支持された回転部と、前記ベース部と前記回転部との間に配置された略円筒状のねじ溝ステータと、前記回転部の外周面または前記ねじ溝ステータの内周面の少なくとも何れか一方に刻設されたねじ溝と、を備え、前記回転部を高速回転させることにより、前記吸気口側から吸気した気体を前記排気口側へ移送する真空ポンプであって、前記ねじ溝ステータの外周に配置され、ステンレス材で形成された円筒形状の昇温ステータと、前記昇温ステータの温度を測定する温度センサを更に備え、前記昇温ステータには、複数の加熱手段が当該昇温ステータの周方向に等間隔に配設され、前記温度センサは、前記複数の加熱手段のうちいずれか2つの加熱手段の中央に配置されていることを特徴とする真空ポンプを提供する。
請求項2記載の本願発明では、前記加熱手段はカートリッジヒータであることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプを提供する。
請求項3記載の本願発明では、前記カートリッジヒータは、前記ベース部の外周面に沿って90度に曲げられた設置導線部を有し、前記設置導線部を固定用プレートで押さえ、当該固定用プレートと前記ベース部とをボルトで締結することで、前記ベース部に固定されることを特徴とする請求項2に記載の真空ポンプを提供する。
請求項4記載の本願発明では、前記ねじ溝ステータが、強度を上げる調質処理がなされていないアルミニウム材からなることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3に記載の真空ポンプを提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、昇温ステータを配設して当該昇温ステータに複数の発熱体を均等に(すなわち、等間隔で)配置する。
これにより、ねじ溝排気要素および排気口を従来よりも高温化し、且つ、一定温度以上に保つことができる。
その結果、反応生成物の対策が可能になる。また、ねじ溝排気要素の熱変形の位相差を最小限にすることができるので、ねじ溝排気要素とロータ部(回転部)との接触リスクを回避し、排気性能を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る真空ポンプの概略構成例を示した図である。
【
図2】アルミ材の各温度における耐力の比較を示した図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る昇温ステータを説明するための図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る昇温ステータに配設する発熱体について説明するための断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る昇温ステータに配設する発熱体の個数の違いに関する設計検証(解析値)について説明するための図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る昇温ステータおよび排気口部材を説明するための図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る昇温ステータを配設した排気口付近の温度変化に関する設計検証(実機評価結果)を説明するための図である。
【
図8】本発明の実施形態に係るヒータの取付部を説明するための図である。
【
図9】本発明の実施形態に係るヒータコネクタの位置を説明するための図である。
【
図10】従来の真空ポンプを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(i)実施形態の概要
本発明の実施形態に係る真空ポンプでは、ねじ溝排気要素とステータベースとの間に、熱伝導率が低く、高温でも強度が落ちにくいステンレス材で形成された円筒形状(リング状)の昇温ステータが配設される。さらに、この昇温ステータに、複数の発熱体が昇温ステータの周方向に等間隔に配設される。
また、排気口部材を昇温ステータに接触させて配設する。
この構成により、ねじ溝排気要素および排気口を従来よりも高温化し、且つ、一定温度以上に保つことができる。
【0014】
(ii)実施形態の詳細
以下、本発明の好適な実施の形態について、
図1から
図9を参照して詳細に説明する。
(真空ポンプ1の構成)
図1は、本発明の第1実施形態に係る真空ポンプ1の概略構成例を示した図であり、真空ポンプ1の軸線方向の断面図を示している。
なお、本発明の実施形態では、便宜上、回転翼の直径方向を「径(直径・半径)方向」、回転翼の直径方向と垂直な方向を「軸線方向(または軸方向)」として説明する。
真空ポンプ1の外装体を形成するケーシング(外筒/筐体)2は、略円筒状の形状をしており、ケーシング2の下部(排気口6側)に設けられたベース部(ベーススペーサ60、ステータベース3など)と共に真空ポンプ1の筐体を構成している。そして、この筐体の内部には、真空ポンプ1に排気機能を発揮させる構造物である気体移送機構が収納されている。
本実施形態では、この気体移送機構は、回転自在に支持された回転体(回転翼9/回転翼円筒部10など)と、筐体に対して固定された固定部(固定翼30/ねじ溝排気要素20など)から構成されている。
また、図示しないが、真空ポンプ1の外装体の外部には、真空ポンプ1の動作を制御する制御装置が専用線を介して接続されている。
【0015】
ケーシング2の端部には、当該真空ポンプ1へ気体を導入するための吸気口4が形成されている。また、ケーシング2の吸気口4側の端面には、外周側へ張り出したフランジ部5が形成されている。
また、真空ポンプ1の下流側には、当該真空ポンプ1から気体を排気するための排気口6が形成されている。
【0016】
回転体は、回転軸であるシャフト7、このシャフト7に配設されたロータ8、ロータ8に設けられた複数枚の回転翼9、排気口6側に設けられた回転翼円筒部(スカート部)10を備える。
各回転翼9は、シャフト7の軸線に対して垂直に放射状に伸びた円板形状の円板部材により構成される。
また、回転翼円筒部10は、ロータ8の回転軸線と同心の円筒形状をした円筒部材により構成される。
【0017】
ステータコラム内には、詳細は図示しないが、シャフト7の軸線方向中程には、シャフト7を高速回転させるためのモータ部が設けられている。また、当該モータ部に対して吸気口4側と排気口6側には、シャフト7をラジアル方向(径方向)に非接触で支持するための径方向磁気軸受装置が設けられている。さらに、シャフト7の下端には、シャフト7を軸線方向(アキシャル方向)に非接触で支持するための軸方向磁気軸受装置が設けられている。
【0018】
筐体(ケーシング2)の内周側には、固定翼30が形成されている。そして、固定翼30は円筒形状をした固定翼スペーサ35により互いに隔てられて固定されている。
なお、回転翼9と固定翼30は互い違いに配置され、軸線方向に複数段形成されるが、真空ポンプ1に要求される排出性能を満たすために、必要に応じて任意の数のロータ部品およびステータ部品を設けることができる。
そして、本実施形態では、高速回転によって発熱する部材を冷却させるために、固定翼30下部に水冷管40、45が配置された水冷スペーサ50を設けてある。水冷スペーサ50には温度センサ(不図示)を配設し、水冷水流路に設けた電磁バルブの開閉制御により水冷スペーサ50を所定の温度に保つように構成されている。これにより、回転翼9は冷却されて排気性能を向上させることができる。
【0019】
本実施形態に係る真空ポンプ1では、排気口6側にねじ溝排気要素20(ねじ溝型排気機構)が配設される。ねじ溝排気要素20の回転翼円筒部10との対向面には、ねじ溝(らせん溝)が形成されている。あるいは、回転翼円筒部10のねじ溝排気要素20との対向面にねじ溝が形成される構成であってもよい。
ねじ溝排気要素20における回転翼円筒部10との対向面側(すなわち、真空ポンプ1の軸線に平行な内周面)は、所定のクリアランスを隔てて回転翼円筒部10の外周面と対面しており、回転翼円筒部10が高速回転すると、真空ポンプ1で圧縮されたガスが回転翼円筒部10の回転に伴ってねじ溝にガイドされながら排気口6側へ送出されるようになっている。すなわち、ねじ溝は、ガスを輸送する流路となっている。
このように、ねじ溝排気要素20における回転翼円筒部10との対向面と、回転翼円筒部10とが、所定のクリアランスを隔てて対向することにより、ねじ溝排気要素20の軸線方向側内周面に形成されたねじ溝でガスを移送する気体移送機構を構成している。
なお、ガスが吸気口4側へ逆流する力を低減させるために、このクリアランスは小さければ小さいほど好ましい。
また、ねじ溝排気要素20に形成されたらせん溝の方向は、らせん溝内をロータ8の回転方向にガスが輸送された場合、排気口6に向かう方向である。
そして、らせん溝の深さは、排気口6に近づくにつれて次第に浅くなるようになっており、らせん溝を輸送されるガスは排気口6に近づくにつれて徐々に圧縮されるようになっている。
本実施形態では、このねじ溝排気要素20とベーススペーサ60の間に昇温ステータ80、高温ステータ90が設けられている。昇温ステータ80の、吸気口4側は水冷スペーサ50と上側Oリング70でシールされ、排気口6側はベーススペーサ60と下側Oリング75でシールされる。さらに、本実施形態では、この昇温ステータ80にヒータ100が埋め込まれて配置される。なお、本実施形態では、ヒータ100はカートリッジヒータを使用する。
なお、昇温ステータ80については後述する。
また、
図1に点線で記載したZ部についても後述する。
上述した構成により、真空ポンプ1は、当該真空ポンプ1に配設される真空室(図示しない)内の真空排気処理を行うことができる。
【0020】
(昇温ステータ80の構成)
上述した真空ポンプ1に備わる昇温ステータ80について、
図3を用いて詳細に説明する。
図3は、本実施形態の昇温ステータ80を説明するための図である。
図3に示したように、本実施形態の真空ポンプ1は、ねじ溝排気要素20とベーススペーサ60との間に昇温ステータ80が配設されている。なお、昇温ステータ80は、熱伝導率が低い、高温でも強度が落ちにくいステンレス材で形成された円筒形状(リング状)のステータである。この昇温ステータ80は、ねじ溝排気要素20を取り囲む形で配設されている。さらに、本実施形態では、この昇温ステータ80にヒータ100が埋め込まれて配設されている。
つまり、本実施形態では、ねじ溝排気要素20は、ステータベース3と接しているため低温になりやすいベーススペーサ60ではなく、ヒータ100が配設されて温度が高温に保たれる昇温ステータ80に配設される構成となる。
この構成により、本実施形態では、水冷されて低温となっている水冷スペーサ50やステータベース3からねじ溝排気要素20を断熱することが可能になる。また、ヒータ100により昇温ステータ80の温度は高温で一定に保たれるので、ねじ溝排気要素20も一定温度以上(約155℃)の高温に保つことができる。
【0021】
本実施形態では、ねじ溝排気要素20と高温ステータ90を構成するアルミニウム材は、熱処理などの調質処理を施さずに使用する。
本実施形態では、発熱体をより高温で制御するため、発熱体の設置部となる昇温スペーサ80には、ステンレス材を用いる必要がある。一方、ねじ溝排気要素20は、加工性、熱伝導性が優れたアルミ材が望ましい。
しかしながら、熱処理、加工硬化により強度を上げたアルミ材は高温度下で強度低下、変形によるリスクが存在する。
そのため、強度を上げる調質処理がなされていないアルミ材を使用する。以下、その理由を説明する。
まず、アルミニウム合金の特徴について説明する。
アルミニウム合金を熱処理した場合、残留応力は、材料の収縮などで発生した応力が冷却後もそのまま残る。また、加工硬化による残留応力は、加工によって材料内部にひずみエネルギーとして蓄積される。
そして、残留応力は調質処理により大方が取り除かれた状態となるが、素材から加工して使用する際に、調質処理で均一化していた応力の釣り合いは部分的に崩れる。そこに熱が加わると、残った残留応力が開放され、部品が変形してしまう可能性がある。
そのため、硬化処理されたアルミ材は、高温化でその効果は徐々に失われ、強度が低下してしまう。さらに、アルミ材は温度が上昇するに従って、耐力が低下する。
図2は、アルミ材の各温度における耐力の比較を示した図である。
この
図2に示されているように、熱処理・加工硬化により強度を上げたアルミ材((b)は、熱処理材、(d)は、加工硬化処理材)の耐力は、強度をあげる調質処理はなされていないアルミ材(a)、(c)に比べて、150℃以上で急激に低下する。
よって、部品変形や締結ボルトの緩みが懸念されるので、本実施形態では、強度を上げる調質処理がなされていないアルミ材を使用する。
この構成により、アルミニウム材を熱伝導率が高い方が良いねじ溝排気要素20と高温ステータ90に使うことができる。
【0022】
ここで、本実施形態では、ねじ溝排気要素20は昇温スペーサ80に配設されるため、ねじ溝排気要素20は昇温スペーサ80を介してヒータ100の発熱体から熱を受け取る。そのため、ねじ溝排気要素20の温度および熱変形量は、ヒータ100に配設される発熱体の位相が基準となり、この位相による温度差を小さくする必要が生じる。
【0023】
上述した昇温ステータ80に配設する発熱体(ヒータ100を構成する発熱体)の配置と、その配置方法によって異なる位相による温度差について、
図4を用いて詳細に説明する。
図4は、
図1に示した本実施形態に係る真空ポンプ1のA-A’断面図(軸方向断面図)であり、昇温ステータ80に配設する発熱体101~108および位相差による温度差を説明するための図である。
なお、発熱体101~108を特に区別しない場合は、単に発熱体(ヒータ100)と称して説明する。
図4(a)には、昇温ステータ80に8個の発熱体101~108が配設された状態が示されている。
図4(a)に示したように、本実施形態では、ヒータ100を構成する発熱体の位相による温度変化を小さくするために、昇温ステータ80に、当該昇温ステータ80の周方向に対して等間隔に複数の発熱体を配設する構成にしている。なお、本実施形態では、一例として、8個の発熱体を配設している。好ましくは、2個より多い発熱体を昇温ステータ80の周方向に均等配置させると良い。
さらに、温度センサ200を、各発熱体(101~108)のうちいずれか2つの発熱体の中央の位相に配置させる。この温度センサ200により、ヒータ100の温度制御装置(不図示)が一定値になるように各発熱体を温度制御する。
【0024】
このように、昇温ステータ80に発熱体を周方向に等間隔に配置させることで、ねじ溝排気要素20の温度をほぼ一定の高温(本実施形態では155℃以上)に保つことができる。すなわち、ねじ溝排気要素20の温度ムラをなくすことができる。
そのため、ねじ溝排気要素20は周方向に一様に膨張するので、ねじ溝排気要素20と回転翼円筒部10とのクリアランス(隙間)はほぼ均等に保たれる。
その結果、本実施形態では、ねじ溝排気要素20に歪みが生じる可能性を少なくすることができ、ねじ溝排気要素20と回転翼円筒部10とが接触してしまうリスクを低減させることができるため、安定した性能を保つことができる。
また、ねじ溝排気要素20を155℃以上の高温に保つので、流れてくるガスが固化しにくくなり、反応生成物を生じにくくすることができる。
【0025】
次に、2個の発熱体(101、102)を昇温ステータ80に対称配置させる場合について説明する。
図4(b)には、昇温ステータ80に2個の発熱体101、102が配設された状態が示されている。
図4(b)に示したように、発熱体が2個の場合、発熱体の配設付近と温度センサ200の配設付近において、温度差による熱膨張量の差が生じ、ねじ溝排気要素20に歪みが生じやすくなる。
ねじ溝排気要素20に歪みが生じると、回転翼円筒部10とのクリアランスが減少する場所(各発熱体の配設場所から最も離れた場所付近;a点)が生じ、ねじ溝排気要素20と回転翼円筒部10とが接触してしまうリスクが高まる。
あるいは、ねじ溝排気要素20と回転翼円筒部10とのクリアランスが拡大する場所(発熱体の配設付近;b点)が生じ、適正なクリアランス(ガスの流路)を保てなくなり、排気性能が低下してしまうリスクが高まる。
【0026】
なお、本実施形態では、昇温ステータ80に配設する発熱体の数は8個としたが、この構成に限られることはない。
本実施形態に係る真空ポンプ1は直径250mm~300mmを想定しており、その場合、多くて8個ほどが好ましい。しかしながら、真空ポンプ1の直径やヒータ100(カートリッジヒータ)にかかるコストを鑑み、適宜、配設する発熱体の個数は変更可能である。
【0027】
図5は、昇温ステータ80に配設する発熱体の個数の違いに関する設計検証(解析値)について説明するための図である。
図5(a)には、昇温ステータ80に8個の発熱体(101~108)を配設した場合と、比較のために2個の発熱体(101、102)を配設した場合の、ねじ溝排気要素20の温度の平均値が示されている。
図5(b)には、縦軸にねじ溝排気要素20と回転翼円筒部10とのクリアランス量(L)をとり、横軸にガスの流量をとって、クリアランスLの変化を示した図である。
図5(a)に示したように、8個の発熱体を昇温ステータ80に等間隔に配設した場合、発熱体が配置された場所(発熱体位相:d点)の温度は、温度センサ200が配置された場所(センサ位相:c点)の温度に比べ、1℃(155℃→156℃)しか温度変化(温度上昇)がみられない結果となった。つまり、ほぼ均一の温度分布となっている。
一方、2個の発熱体を昇温ステータ80に対称配設した場合、発熱体が配置された場所(発熱体位相:d点)の温度は、温度センサ200が配置された場所(センサ位相:c点)の温度に比べ、25℃(155℃→180℃)も温度変化がみられた結果となった。
つまり、温度センサ200が配置された場所の温度を、所定の温度(本実施形態では155℃以上)とする為に、発熱体付近の温度が高くなっていることが分かる。
【0028】
このように、昇温ステータ80を備え、かつ、当該昇温ステータ80に複数の発熱体(101~108)を等間隔に配置させたヒータ100を備えた真空ポンプ1は、ねじ溝排気要素20を均一な温度分布で、一定温度以上に保つことができるので、ガス流路における反応生成物の対策が可能になる。
また、ねじ溝排気要素20の熱変形の位相差を最小限にすることができるので、ねじ溝排気要素20と回転翼円筒部10との接触リスクを回避することが可能になる。
その結果、真空ポンプ1の排気性能を安定させることができる。
なお、複数の発熱体を周方向に等間隔に配置するとしたが、厳密な等間隔を意味するのではなく、温度分布がほぼ一定となる程度の間隔となっていれば良い。
【0029】
図6は、本発明の実施形態に係る昇温ステータ80および排気口部材600を説明するための図である。
本実施形態では、
図6に示したように、排気口部材600は昇温ステータ80に接触させて配設する。好ましくは、排気口部材600は昇温ステータ80にのみ熱的に接触させて配設する。かつ、排気口部材600の取付部610は、ベーススペーサ60よりも真空ポンプ1の内側に入り込むように配設する。
つまり、発熱体(ヒータ100)が配設された昇温ステータ80は、ベーススペーサ60とは断熱され、高温が保たれている。その昇温ステータ80に排気口部材600の一部(すなわち、排気口6側ではない方の取付部610)を接触させ、排気口部材600から排気口6にかけて熱が伝わる構成にする。
より具体的には、ベーススペーサ60に排気口部材600を挿入可能な貫通孔を開け、当該貫通孔に排気口部材600を嵌入し、嵌入した先に配設されている昇温ステータ80に排気口部材600の取付部610を接触させて固定(締結)する。なお、この構成の場合、昇温ステータ80は、軸方向の高さとして、排気口部材600の締結面(すなわち、取付部610の断面)以上の高さが必要となる。
このように、本実施形態では、排気口部材600の締結は、排気口部材600のフランジ部分を含む取付部610を昇温ステータ80と接触させて締結する。
【0030】
図7は、本発明の実施形態に係る昇温ステータ80を配設した排気口6付近の温度変化に関する設計検証(実機評価結果)を説明するための図である。
なお、比較のために、昇温ステータ80が配置されていない構成(従来の構成)の結果も併記している(
図7(b))。
図7中のeは、ベーススペーサ60付近の温度を示している。
図7中のfは、昇温ステータ80付近の温度を示している。
図7中のg1は、排気口6(排気口部材600取付部610)付近の、排気口ヒータ300が配設されていない温度を示している。
図7中のg2は、排気口6(排気口部材600取付部610)付近の、排気口ヒータ300が配設されている場合の温度を示している。
図7の(a)に示したように、本実施形態では、ベーススペーサ60の温度が70℃と低温であるのに対し、排気口6の特に取付部610付近の温度は130℃と高い温度を保つという結果が得られた(g1)。これは、昇温ステータ80が配置されていない構成((b)従来)と比較すると、45℃程度温度を高く保つことができることを示している。
さらに、排気口ヒータ300を用いれば、排気口6の特に取付部610付近の温度は145℃と、さらに高い温度を保つという結果が得られた(g2)。これは、昇温ステータ80が配置されていない構成((b)従来)と比較すると、40℃程度温度を高く保つことができることを示している。
また、昇温ステータ80に接触させれば、排気口ヒータ300が無くても、排気口6の温度を充分高温に保てることがわかる。
ちなみに、本実施形態では、排気口ヒータ300は150℃に制御されているものとする。
【0031】
この排気口部材600の取付部610を昇温ステータ80に接触させて配設する構成により、排気口部材600は、低温となるステータベース3と断熱することができる。
その結果、排気口部材600から逃げてしまう熱を少量化することができるので、例えば排気口ヒータ300を取り付けなくても、効率よく排気口6を高温化することができる。
さらに、本実施形態では、昇温ステータ80と接触させて高温化した高温ステータ90をステータベース3との間に配設させるので(
図7(a))、排気口6の低温下をより効率よく防止することができる。
【0032】
図8は、本発明の実施形態に係るヒータ100の取付部を説明するための図である。
なお、
図8は、
図1に示した真空ポンプ1におけるZ部を側面から見た拡大図である。
図8に示したように、本実施形態では、カートリッジヒータであるヒータ100の設置部(加熱手段設置部)と固定部は、異なる部品で構成される。つまり、ヒータ100には締結ボルト130を通すためのフランジ部(
図10(c)、カートリッジヒータフランジ1120)は設けられていない。
より詳しくは、本実施形態では、ベーススペーサ60外周面に、ヒータ100(内蔵されているため、不図示)が挿入される挿入軸方向と直角となる平面を設ける。
そして、ヒータ100には、導線として、ベーススペーサ60の外周面に沿って90度に曲げられたリードピン部110(設置部)を設ける。なお、本実施形態では、リードピン部110として、耐久性に優れたニッケル合金を使用する。
そのリードピン部110を固定用のプレート(固定部)であるヒータ固定プレート120で押さえ、ベーススペーサ60の平面に締結ボルト130で固定する。
このようにして、ヒータ100は昇温ステータ80を挟んでベーススペーサ60に固定される。
【0033】
この構成により、リードピン部110の曲げには多少の柔軟性があるため、リードピン部110を固定することでヒータ100自体に大きな軸力がかかるのを防止することができる。
【0034】
図9は、本発明の実施形態に係る真空ポンプ1のヒータコネクタ150の位置を説明するための図である。
なお、
図9(a)は、本発明の実施形態に係る真空ポンプ1の外周面を示した図であり、
図9(b)は、以下に説明する内部結線を説明するための図であり、
図9(c)は、
図9(a)と比較するために示した従来の真空ポンプ1000の外周面を示した図である。
従来は、
図9(c)に示したように、真空ポンプ1000の外周部から出たヒータケーブル1150の先にコネクタ(プラグ1140)を設けていた。
本実施形態では、
図9(a)に示したように、従来のヒータケーブル1150に相当する構成はなく、真空ポンプ1の外周部にヒータコネクタ150を設ける。
より詳しくは、
図9(b)に示したように、複数のヒータ100(カートリッジヒータ)は最小限のリード線160で結線し、リード線端部に安価なコネクタ155を配設する。このコネクタ155は、たとえば、ファストン端子などが好ましい。
そして、真空ポンプ1の外周部にヒータコネクタ150(レセプタクルコネクタ)を配設する。ヒータコネクタ150には、端部にヒータ100と接続するコネクタを設けたリード線(ヒータコネクタケーブル;不図示)を結線する。
さらに、ヒータ100とヒータコネクタケーブルは真空ポンプ1の外周部に設けたヒータカバー140の内側で接続する構成にする。
【0035】
このヒータコネクタ150を、真空ポンプ1本体付けにする構成により、真空ポンプ1を真空装置に取り付ける際や、真空ポンプ1をメンテナンスする際に、ケーブルがないことで作業性をよくすることができる。
また、ヒータコネクタケーブルは電材専門のメーカで製作することで、コストダウンに繋げることができる。
【0036】
なお、本発明の実施形態および各変形例は、必要に応じて各々を組み合わせる構成にしてもよい。
【0037】
また、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変をなすことができる。そして、本発明が当該改変されたものに及ぶことは当然である。
【符号の説明】
【0038】
1 真空ポンプ
2 ケーシング(外筒)
3 ステータベース
4 吸気口
5 フランジ部
6 排気口
7 シャフト
8 ロータ
9 回転翼
10 回転翼円筒部
20 ねじ溝排気要素(ねじ溝ステータ)
30 固定翼
35 固定翼スペーサ
40 水冷管
45 水冷管
50 水冷スペーサ
60 ベーススペーサ
70 上側Oリング
75 下側Oリング
80 昇温ステータ
90 高温ステータ
100 ヒータ
101 発熱体
102 発熱体
103 発熱体
104 発熱体
105 発熱体
106 発熱体
107 発熱体
108 発熱体
110 リードピン部
120 ヒータ固定プレート
130 締結ボルト
140 ヒータカバー
150 ヒータコネクタ
155 コネクタ(リード線端部)
160 リード線
200 温度センサ
300 排気口ヒータ
600 排気口部材
610 取付部
700 ステータコラム
1000 従来の真空ポンプ
1070 従来のOリング
1075 従来のOリング
1100 従来のヒータ
1110 ヒータリードピン部(従来)
1120 カートリッジヒータフランジ(従来)
1130 締結ボルト(従来)
1140 プラグ(従来)
1150 ヒータケーブル(従来)
1200 断熱スペーサ(従来)
1600 排気口部材(従来)