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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】放射温度計
(51)【国際特許分類】
   G01J 5/60 20060101AFI20220908BHJP
   G01J 5/00 20220101ALI20220908BHJP
【FI】
G01J5/60 D
G01J5/00 101Z
G01J5/00 101C
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017235693
(22)【出願日】2017-12-08
(65)【公開番号】P2019100987
(43)【公開日】2019-06-24
【審査請求日】2020-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】592187534
【氏名又は名称】株式会社 堀場アドバンスドテクノ
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(72)【発明者】
【氏名】藤野 翔
(72)【発明者】
【氏名】大須賀 直博
【審査官】平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-005081(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0037135(US,A1)
【文献】特開2006-072898(JP,A)
【文献】特表平10-506712(JP,A)
【文献】特開2017-083443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 5/00- 5/90
G01J 1/00- 1/04
G01J 1/42
G01J 3/00- 3/51
G01K 13/00- 13/024
G01N 21/25- 21/27
G02B 5/20- 5/28
H01L 21/00- 21/02
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソプロピルアルコールから放出された赤外線を検出する赤外線検出素子を有し、前記赤外線検出素子により検出された赤外線の強度に基づいて前記イソプロピルアルコールの温度を測定する放射温度計であって、
前記赤外線検出素子に導かれる赤外線の光路上において互いに重なり合わされた状態で設けられた複数の赤外線フィルタからなるフィルタ群をさらに有し、
前記フィルタ群が、互いに重なり合わない少なくとも第1波長帯及び第2波長帯の赤外線を透過させるものであり、
前記赤外線検出素子が、熱型のものであり、
前記フィルタ群が、
少なくとも前記第1波長帯及び前記第2波長帯の赤外線を透過させるとともに、前記第1波長帯及び前記第2波長帯の間の波長帯の赤外線を透過させない第1赤外線フィルタと、
前記第1波長帯から前記第2波長帯までの連続波長帯の赤外線を透過させるとともに、前記連続波長帯以外の波長帯の赤外線を透過させない第2赤外線フィルタとを有しており、
前記第1波長帯が、6.8μm以上7.8μm以下であり、
前記第2波長帯が、8.6μm以上8.64μm以下であることを特徴とする放射温度計。
【請求項2】
前記第1波長帯及び前記第2波長帯の赤外線が、前記イソプロピルアルコールを透過しない請求項1記載の放射温度計。
【請求項3】
前記第2赤外線フィルタが、前記第1赤外線フィルタよりも前記赤外線検出素子側に配置されている請求項1又は2記載の放射温度計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射温度計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放射温度計は、特許文献1に示すように、測定対象から放出された赤外線を赤外線検出素子によって検出することで、その検出強度に基づいて測定対象の温度を測定できるように構成されている。
【0003】
上述した構成において、例えば測定対象の膜厚が薄い場合など、測定対象の放射温度計とは反対側にある部材から放出されている赤外線が測定対象を透過してしまうと、その赤外線が検出されて測定誤差が生じる。
【0004】
そこで、測定対象を透過する透過波長帯の赤外線をカットする赤外線フィルタを用いて、測定対象から放出される赤外線のうち、測定対象を透過しない波長帯の赤外線を赤外線検出素子に導くとともに、測定対象を透過する波長帯の赤外線をカットすることで、上述した測定誤差の低減を図れる。
【0005】
しかしながら、上述した方法では、測定対象を透過しない波長帯が狭い場合、赤外線検出素子に導かれる赤外線の光量が減少してしまい、検出強度が大幅に低下してしまう。
検出感度を向上させるために、大きいレンズを用いて赤外線検出素子に導く光量を増やす方法も考えられるが、この場合は放射温度計のサイズが大きくなり、例えば半導体製造プロセス等における放射温度計の大きさの制約に対応できないという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第2756648号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本願発明は、上述した問題を一挙に解決すべくなされたものであり、放射温度計のサイズを大きくすることなく、測定対象を透過しない波長帯が狭い場合であっても精度良く温度測定できるようにすることをその主たる課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち本発明に係る放射温度計は、測定対象から放出された赤外線を検出する赤外線検出素子を有し、前記赤外線検出素子により検出された赤外線の強度に基づいて前記測定対象の温度を測定する放射温度計であって、前記赤外線検出素子に導かれる赤外線の光路上に設けられた複数の赤外線フィルタからなるフィルタ群をさらに有し、前記フィルタ群が、互いに重なり合わない少なくとも第1波長帯及び第2波長帯の赤外線を透過させることを特徴とするものである。
【0009】
このように構成された放射温度計であれば、赤外線検出素子に導かれる赤外線の光路上に、互いに重複しない第1波長帯及び第2波長帯の赤外線を透過させるフィルタ群を設けているので、これらの波長帯の1つ1つが狭かったとしても、赤外線検出素子に導く赤外線の光量を増やすことができる。これにより、大きいレンズ等を用いることなく検出感度を向上させることができるので、放射温度計のサイズを大きくすることなく、測定対象を透過しない波長帯が狭い場合であっても精度良く温度測定することができる。
【0010】
測定対象の温度を精度良く測定するためには、前記第1波長帯及び前記第2波長帯の赤外線が、前記測定対象を透過しないことが好ましい。
なお、ここでいう「透過しない」とは、全く透過しないことのみならず、放射温度計の測定精度を担保できる程度であれば僅かに透過することも含む。
【0011】
前記フィルタ群の具体的な構成としては、少なくとも前記第1波長帯及び前記第2波長帯の赤外線を透過させるとともに、前記第1波長帯及び前記第2波長帯の間の波長帯の赤外線を透過させない第1赤外線フィルタと、前記第1波長帯から前記第2波長帯までの連続波長帯の赤外線を透過させるとともに、前記連続波長帯以外の波長帯の赤外線を透過させない第2赤外線フィルタとを有している構成が挙げられる。
【0012】
前記第2赤外線フィルタが、前記第1赤外線フィルタよりも前記赤外線検出素子側に配置されていることが好ましい。
このような構成であれば、例えば赤外線検出素子を収容するケーシングの内壁などから、上述した連続波長帯以外の波長の赤外線が放出したとしても、この赤外線を第1赤外線フィルタによりカットして赤外線検出素子によって検出されることを防ぐことができ、測定精度のさらなる向上を図れる。
【0013】
前記第1波長帯が、6.8μm以上7.8μm以下であり、前記第2波長帯が、8.6μm以上8.64μm以下であることが好ましく、かかる放射温度計を用いてイソプロピルアルコールの温度を測定すれば、本発明の作用効果が顕著に発揮される。
【発明の効果】
【0014】
このように構成した本発明によれば、放射温度計のサイズを大きくすることなく、例えばイソプロピルアルコール等といった測定対象を透過しない波長帯が狭い場合であっても精度良く温度測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態の放射温度計の使用状態を示す模式図。
図2】同実施形態の放射温度計の構成を示す模式図。
図3】同実施形態の測定対象の放射率スペクトル。
図4】同実施形態のフィルタ群を用いた実験結果。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に本発明に係る放射温度計の一実施形態について図面を参照して説明する。
【0017】
本実施形態の放射温度計100は、例えば半導体製造プロセスに使用される液体等の測定対象の温度測定に用いられるものであり、具体的には半導体の乾燥工程等に用いられるイソプロピルアルコール(以下、IPAという)の温度を測定するためのものである。ここでのIPAは、図1に示すように、回転するウエハの表面に垂らされて例えば厚さ100μm以下の薄膜状となっており、放射温度計100は、そのセンサ部が薄膜状のIPAと対向するようにウエハの上方に配置されている。なお、放射温度計100の演算処理等を行う図示しないアンプ部は、センサ部とは別体であり、電気ケーブル等によりセンサ部と接続されている。
【0018】
具体的に放射温度計100は、図2に示すように、ケーシング10と、ケーシング10内に収容された赤外線検出素子20と、赤外線検出素子20及び測定対象の間に配置されるレンズ30とを具備している。
【0019】
ケーシング10は、例えば筒状に形成されており、その内部の軸方向一端側に赤外線検出素子20が配置されるとともに、軸方向他端側に赤外線検出素子20と対向するようにレンズ30が配置されており、赤外線検出素子20とレンズ30との間には1又は複数の絞り40が設けられている。
【0020】
赤外線検出素子20は、測定対象から放出される赤外線を検出して、検出した赤外線のエネルギーに応じた強度信号を出力するものである。具体的に赤外線検出素子20は、例えば赤外波長帯の全波長帯の赤外線を検出するものであり、ここではサーモパイルなどの熱型のものである。なお、赤外線検出素子20としては、その他のタイプのもの、例えば、HgCdTe、InGaAs、InAsSb、PbSeなどの量子型光電素子を用いても構わない。
【0021】
レンズ30は、測定対象から放出される赤外線を赤外線検出素子20に集光するIRレンズ30であり、例えば平面視において直径10mm~22mm程度の略円形状をなすものである。なお、レンズ30の形状やサイズは上記のものに限らず適宜変更して構わない。
【0022】
ここで、ある波長の光が物体に当たった時、反射率、透過率、及び吸収率の和は1であり、キルヒホッフの法則によると吸収率は放射率と等しい。アルコールは、分子構造起因の振動モードを有し、各々の振動モードは赤外線を多く吸収する固有の波長帯、言い換えれば放射率の高い固有の波長帯を持つ。IPAは、振動モードとして対称CH3変角振動や2級アルコールのC-OH伸縮振動を有しており、これらの振動に起因してIPAの放射率スペクトルには、図3に示すように、放射率が高い波長帯、言い換えればIPAを透過しない波長帯(以下、非透過波長帯という)が存在している。本実施形態のIPAは、互いに重なり合わない少なくとも2つの非透過波長帯(以下、第1非透過波長帯Z1及び第2非透過波長帯Z2という)を有しており、第1非透過波長帯及び第2非透過波長帯は非連続な波長帯である。なお、非透過波長帯の赤外線は、フィルタ群50を全く透過しないことが好ましいが、放射温度計100の測定精度を担保できる程度であれば僅かに透過しても構わない。
【0023】
然して、本実施形態の放射温度計100は、図2に示すように、赤外線検出素子20とレンズ30との間に介在する複数の赤外線フィルタからなるフィルタ群50を備えており、このフィルタ群50が、上述した第1非透過波長帯Z1及び第2非透過波長帯Z2の赤外線を透過させるように構成されている。
【0024】
より具体的に説明すると、本実施形態のフィルタ群50は、透過波長帯が互いに異なる第1赤外線フィルタ51及び第2赤外線フィルタ52からなり、第1非透過波長帯Z1である6.8μm以上7.8μm以下の赤外線及び第2非透過波長帯Z2である8.6μm以上8.64μm以下の赤外線を透過させるものである。
【0025】
本実施形態では、第1赤外線フィルタ51は、例えばケーシング10内の絞り40に支持されており、第2赤外線フィルタ52よりもサイズの大きいものである。
一方、第2赤外線フィルタ52は、第1赤外線フィルタ51よりも赤外線検出素子20側に配置されており、ここでは赤外線検出素子20に近接配置されている。
【0026】
第1赤外線フィルタ51は、少なくとも第1非透過波長帯Z1及び第2非透過波長帯Z2の赤外線を透過させるとともに、第1非透過波長帯Z1及び第2非透過波長帯Z2の間の波長帯の赤外線を透過させないものである。
具体的にこの第1赤外線フィルタ51は、第1非透過波長帯Z1である6.8μm以上7.8μm以下の赤外線、及び、第2非透過波長帯Z2である8.6μm以上8.64μm以下の赤外線を透過させるとともに、7.8μmよりも長く8.6μmよりも短い波長の赤外線は透過させないものであり、バンドストップフィルタと称されるものである。なお、この第1赤外線フィルタ51は、第1非透過波長帯Z1よりも短い波長(6.8μmよりも短い波長)や第2非透過波長帯Z2よりも長い波長(8.64μmよりも長い波長)であっても透過させる波長を持つ。
【0027】
第2赤外線フィルタ52は、第1非透過波長帯Z1から第2非透過波長帯Z2までの連続波長帯の赤外線を透過させるとともに、連続波長帯以外の波長帯の赤外線を透過させないものである。ここでの連続波長帯は、第1非透過波長帯Z1の最も短い波長から第2非透過波長帯Z2の最も長い波長までの波長帯であり、第1非透過波長帯Z1及び第2非透過波長帯Z2の全波長帯を含んでいるが、第1非透過波長帯Z1の短波長側の一部や第2非透過波長帯Z2の長波長側の一部が含まれていなくても良い。
具体的にこの第2赤外線フィルタ52は、連続波長帯である6.8μm以上8.64μm以下の赤外線を透過させるとともに、それ以外の波長帯の赤外線を透過させない赤外線フィルタであり、ブロードバンドストップフィルタと称されるものである。
【0028】
そして、第1赤外線フィルタ51及び第2赤外線フィルタ52を重ね合わせることにより、本実施形態のフィルタ群50は、6.8μm以上7.8μm以下の赤外線及び8.6μm以上8.64μm以下の赤外線のみを透過させて、それ以外の波長帯の赤外線(すなわち、第1非透過波長帯Z1及び第2非透過波長帯Z2以外の赤外線)を透過させないものとなる。このフィルタ群50を赤外線検出素子20に導かれる赤外線の光路上に設けることにより、赤外線検出素子20では、6.8μm以上7.8μm以下の赤外線及び8.6μm以上8.64μm以下の赤外線のみが検出される。
【0029】
このように構成された本実施形態に係る放射温度計100によれば、第1赤外線フィルタ51及び第2赤外線フィルタ52によって、6.8μm以上7.8μm以下の赤外線及び8.6μm以上8.64μm以下の赤外線のみを赤外線検出素子20に導くことができるので、IPAを透過しない非透過波長帯の赤外線を検出することによってIPAの温度を測定することができる。これにより、例えばIPAの放射温度計100とは反対側にある部材から放出されてIPAを透過する赤外線は、フィルタ群50によってカットされるので、測定誤差を低減することができる。
【0030】
さらに、第1非透過波長帯Z1と第2非透過波長帯Z2との両方の波長帯を利用しているので、何れか一方の非透過波長帯のみを利用している場合に比べて、赤外線検出素子20に導く赤外線の光量(入射エネルギー)を増やすことができる。図は本実施形態のフィルタ群50を用いて第1非透過波長帯Z1及び第2非透過波長帯Z2の赤外線を検出した場合Aと、第2非透過波長帯Z2の赤外線を検出した場合Bとを比較した実験結果を示している。この実験結果から分かるように、本実施形態のフィルタ群50を用いた場合Aの方が、第2非透過波長帯Z2の赤外線を検出した場合Bに比べて、赤外線の光量(入射エネルギー)が低温域では約2.3倍、高温域では約3.0倍となっている。これにより、大きいレンズ30等を用いることなく検出感度を向上させることができるので、放射温度計100のサイズを大きくすることなく、例えば半導体製造プロセス等のように放射温度計の大きさに制約がある場合であっても、IPAの温度を精度良く測定することができる。
【0031】
また、第2赤外線フィルタ52を赤外線検出素子20に近接配置しているので、例えばケーシング10の内壁などから6.8μmより短い波長の赤外線や8.64μmよりも長い波長の赤外線が放出されたとしても、これらの赤外線を第2赤外線フィルタ52によりカットすることができ、測定精度のさらなる向上を図れる。
【0032】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0033】
例えば、前記実施形態のフィルタ群50は、第1非透過波長帯Z1及び第2非透過波長帯Z2の赤外線のみを透過させるように構成されていたが、第1非透過波長帯Z1及び第2非透過波長帯Z2とは別の第3非透過波長帯の赤外線をさらに透過させるように構成されていても良い。
【0034】
また、本発明に係る放射温度計100は、IPAの温度測定のみならず、例えば対称CH3変角振動や2級アルコールのC-OH伸縮振動を振動モードとして有する別のアルコール等、測定対象は前記実施形態に限定されるものではない。
【0035】
さらに、前記実施形態のフィルタ群50は、2枚の赤外線フィルタから構成されていたが、3枚以上の赤外線フィルタから構成されていても良い。
【0036】
加えて、第1赤外線フィルタ51及び第2赤外線フィルタ52の配置は前記実施形態に限らず、第1赤外線フィルタ52が、第2赤外線フィルタよりも赤外線検出素子20側に配置されていても良い。
【0037】
さらに加えて、フィルタ群50は、互いに重なり合わない少なくとも第1波長帯及び第2波長帯の赤外線を透過させることができれば、1枚の赤外線フィルタであっても良い。
【0038】
その他、本発明は前記実施形態に限られず、その趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【符号の説明】
【0039】
100・・・放射温度計
10 ・・・ケーシング
20 ・・・赤外線検出素子
30 ・・・レンズ
50 ・・・フィルタ群
51 ・・・第1赤外線フィルタ
52 ・・・第2赤外線フィルタ
Z1 ・・・第1非透過波長帯
Z2 ・・・第2非透過波長帯
図1
図2
図3
図4