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特許7137950樹脂組成物、樹脂付銅箔、プリント配線板、及び樹脂付銅箔の処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】樹脂組成物、樹脂付銅箔、プリント配線板、及び樹脂付銅箔の処理方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/02 20060101AFI20220908BHJP
   C08L 71/12 20060101ALI20220908BHJP
   C08K 5/5399 20060101ALI20220908BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20220908BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20220908BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
C08L25/02
C08L71/12
C08K5/5399
C08K3/36
B32B15/08 Q
H05K1/03 630H
H05K1/03 610H
H05K1/03 610Q
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018062270
(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公開番号】P2019172803
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2020-12-08
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【弁理士】
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】大澤 和弘
(72)【発明者】
【氏名】小川 国春
(72)【発明者】
【氏名】牧野 遥
【審査官】三宅 澄也
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-262191(JP,A)
【文献】特開2008-248001(JP,A)
【文献】特開2007-224162(JP,A)
【文献】特開2010-138364(JP,A)
【文献】国際公開第2012/128313(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
B32B 1/00- 43/00
B29B11/16
B29B15/08- 15/14
C08J 5/04- 5/10
C08J 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)スチレン系エラストマーであるエラストマーと、
(b)ポリフェニレンエーテルオリゴマーのスチレン誘導体、末端水酸基変性ポリフェニレンエーテルオリゴマー、末端メタクリル変性ポリフェニレンエーテルオリゴマー、及び末端グリシジルエーテル変性ポリフェニレンエーテルオリゴマーからなる群から選択される少なくとも1種である、ポリアリーレンエーテル化合物と、
(c)下記式(I):
【化1】
(式中、nは3又は4である)で表されるリン系化合物と、
(d)平均粒径D50が0.1~5μmである球状シリカ粒子と、
(e)メトキシ基及び/又はエトキシ基を分子中に合計3個有するシラン化合物からなるシランカップリング剤と、
を含み、前記シランカップリング剤の含有量が、前記シリカ粒子の重量に対する前記シランカップリング剤の重量百分率をxとし、かつ、前記シリカ粒子のBET比表面積をS(m/g)としたとき、0.1300≦x/S≦0.1800の関係を満たす量であり、
前記エラストマー、前記ポリアリーレンエーテル化合物及び前記リン系化合物の合計量を100重量部として、30~40重量部の前記エラストマーと、20~45重量部の前記ポリアリーレンエーテル化合物と、25~35重量部の前記リン系化合物と、30~240重量部の前記シリカ粒子とを含む、樹脂組成物。
【請求項2】
前記エラストマーが、水添スチレン-ブタジエン系エラストマーを含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記シリカ粒子の平均粒径D50が0.3~3μmである、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリアリーレンエーテル化合物が、下記式:
【化2】
(式中、R、R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~3のアルキル基であり、nは繰り返し数である)で表される骨格を分子中に含む化合物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
硬化後の周波数3GHzにおける誘電正接が0.0030未満である、請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
銅箔と、前記銅箔の少なくとも一方の面に設けられた請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物からなる樹脂層とを含み、前記樹脂層が硬化されている、樹脂付銅箔。
【請求項7】
前記銅箔が黒化処理に用いられるものである、請求項に記載の樹脂付銅箔。
【請求項8】
請求項に記載の樹脂付銅箔を備えたプリント配線板であって、前記銅箔が黒化処理部を有する、プリント配線板。
【請求項9】
請求項に記載の樹脂付銅箔を黒化処理液に浸漬して黒化処理を施すことを含む、樹脂付銅箔の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、樹脂付銅箔、プリント配線板、及び樹脂付銅箔の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板は携帯用電子機器等の電子機器に広く用いられている。特に、近年の携帯用電子機器等の高機能化に伴って信号の高周波化が進んでおり、こうした高周波用途に適したプリント配線板が求められるようになっている。この高周波用プリント配線板には、高周波信号の質を劣化させずに伝送可能とするために、伝送損失の低いものが望まれる。プリント配線板は配線パターンに加工された銅箔と絶縁樹脂基材とを備えたものであるが、伝送損失は、主として銅箔に起因する導体損失と、絶縁樹脂基材に起因する誘電体損失とからなる。したがって、高周波用途に適用する樹脂層付銅箔においては、樹脂層に起因する誘電体損失を抑制することが望ましい。このためには、樹脂層には優れた誘電特性、特に低い誘電正接が求められる。
【0003】
一方、誘電特性等に優れる様々な樹脂組成物がプリント配線板等の用途に提案されている。例えば、特許文献1(特開2007-262191号公報)には、多官能ビニル芳香族共重合体と、リン-窒素系難燃剤と、無機フィラーとを所定の配合割合で含む、難燃硬化性樹脂組成物が開示されている。特許文献2(特開2011-6683号公報)には、スチレン-無水マレイン酸系の共重合樹脂と、シアネート化合物と、リン系難燃剤とを含む、熱硬化性樹脂組成物が開示されている。特許文献3(国際公開第2013/061688号)には、エポキシ樹脂と、硬化剤と、特定の有機化合物で表面処理された無機フィラーとを含む、樹脂組成物が開示されている。特許文献1~3のいずれにおいても、無機フィラーとしてシリカを用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-262191号公報
【文献】特開2011-6683号公報
【文献】国際公開第2013/061688号
【発明の概要】
【0005】
ところで、プリント配線板用銅箔には、絶縁樹脂との密着性向上等の目的で黒化処理が施されることがある。この黒化処理は、例えば、次亜塩素酸及び水酸化ナトリウムを主成分とした黒化処理液に回路基板(例えば銅層及び絶縁樹脂層を含む積層板)を浸漬させることにより行われる。しかしながら、低誘電正接を有するシリカフィラー入りの樹脂付銅箔を用いた量産工程で黒化処理を行った場合、製品仕様書で規定される黒化処理液の処理能力(液負荷)の範囲内であっても、黒化処理液の劣化が早期に進行してしまい、黒化処理が阻害されやすかった。すなわち、量産工程で連続的に黒化処理を進めるにつれて、黒化処理された銅箔表面の明度が大幅に上昇してしまう(つまり黒化の度合いが大幅に低下してしまう)との問題があった。実際、大面積の樹脂付銅箔を処理した黒化処理液を用いて新たに樹脂付銅箔を処理した場合、得られた樹脂付銅箔表面の明度の目標値を達成できない場合があった。さらに、黒化処理液の劣化の変化点を見極めることも困難であった。したがって、シリカフィラー入り樹脂付銅箔を同一の黒化処理液を用いて連続的に黒化処理する量産工程において、黒化処理液の早期の劣化進行を抑制することが望まれている。
【0006】
本発明者らは、今般、エラストマー、ポリアリーレンエーテル化合物、所定のリン系化合物、シリカ粒子、及び所定量のシランカップリング剤を含む樹脂組成物が、低誘電正接、銅層との高い密着性、及び耐熱性を有しながらも、黒化処理を伴う量産工程に付された場合に、連続使用される黒化処理液の早期の劣化進行を効果的に抑制できるとの知見を得た。
【0007】
したがって、本発明の目的は、低誘電正接、銅層との高い密着性、及び耐熱性を有しながらも、黒化処理を伴う量産工程に付された場合に、連続使用される黒化処理液の早期の劣化進行を効果的に抑制可能なシリカフィラー入り樹脂組成物を提供することにある。
【0008】
本発明の一態様によれば、(a)エラストマーと、
(b)ポリアリーレンエーテル化合物と、
(c)下記式(I):
【化1】
(式中、nは3又は4である)で表されるリン系化合物と、
(d)シリカ粒子と、
(e)シランカップリング剤と、
を含み、前記シランカップリング剤の含有量が、前記シリカ粒子の重量に対する前記シランカップリング剤の重量百分率をxとし、かつ、前記シリカ粒子のBET比表面積をS(m/g)としたとき、0.0900≦x/S≦0.4000の関係を満たす量である、樹脂組成物が提供される。
【0009】
本発明の他の一態様によれば、銅箔と、前記銅箔の少なくとも一方の面に設けられた前記樹脂組成物からなる樹脂層とを含み、前記樹脂層が硬化されている、樹脂付銅箔が提供される。
【0010】
本発明の他の一態様によれば、前記樹脂付銅箔を備えたプリント配線板であって、前記銅箔が黒化処理部を有する、プリント配線板が提供される。
【0011】
本発明の他の一態様によれば、前記樹脂付銅箔を黒化処理液に浸漬して黒化処理を施すことを含む、樹脂付銅箔の処理方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態を以下に説明する。なお、本明細書において「X~Y」なる形式で表される数値範囲は「X以上Y以下」を意味するものとする。
【0013】
樹脂組成物
本発明の樹脂組成物は、エラストマーと、ポリアリーレンエーテル化合物と、上記式(I)で表されるリン系化合物と、シリカ粒子と、シランカップリング剤とを含む。そして、シランカップリング剤の含有量は、シリカ粒子の重量に対するシランカップリング剤の重量百分率をxとし、かつ、シリカ粒子のBET比表面積をS(m/g)としたとき、0.1395≦x/S≦0.6047の関係を満たす量である。このように、エラストマーと、ポリアリーレンエーテル化合物と、所定のリン系化合物と、シリカ粒子と、所定量のシランカップリング剤とを含む樹脂組成物によれば、低誘電正接、銅層との高い密着性、及び耐熱性を有しながらも、黒化処理を伴う量産工程に付された場合に、連続使用される黒化処理液の早期の劣化進行を効果的に抑制することができる。すなわち、本発明の樹脂組成物を用いて樹脂付銅箔を作製することで、低誘電正接、樹脂と銅層との高い密着性、及び耐熱性等の基板材料としての良好な特性を確保しながら、黒化処理液の早期の劣化進行を抑制することが可能となる。すなわち、特許文献1~3に開示されるような、プリント配線板用のシリカフィラー入り樹脂組成物は、低誘電正接、銅層との高い密着性等、基板材料として良好な特性を本来的に有するものであるが、黒化処理を伴う量産工程に付された場合に、連続使用される黒化処理液を早期に劣化させてしまう。その原因は必ずしも定かではないが、シリカフィラー(シリカ粒子)の成分が黒化処理液に溶出して銅箔の表面を覆うためではないかと推察される。この点、本発明の樹脂組成物によれば、黒化処理液の早期の劣化進行を効果的に抑制することができる。そのメカニズムは必ずしも定かではないが、シランカップリング剤の存在によりシリカフィラー(シリカ粒子)の成分が黒化処理液に溶出されにくくなり、その結果、銅箔の表面がシリカフィラー由来の成分で覆われにくくなるためではないかと推察される。
【0014】
上述のとおり、本発明の樹脂組成物は低誘電正接を有する。例えば、本発明の樹脂組成物は、硬化後の3GHzにおける誘電正接が、好ましくは0.0030未満、より好ましくは0.0025未満、さらに好ましくは0.0020未満である。誘電正接の下限値は特に限定されないが、典型的には0.0001以上である。
【0015】
(a)エラストマー
エラストマーは密着性等に寄与する。エラストマーは、様々な種類のエラストマーが使用可能であるが、熱可塑性エラストマーが好ましい。熱可塑性エラストマーの例としては、スチレン系エラストマー(TPS)、オレフィン系エラストマー(TPO)、塩化ビニル系エラストマー(TPVC)、ウレタン系エラストマー(TPU)、エステル系エラストマー(TPEE,TPC)、アミド系エラストマー(TPAE,TPA)、及びそれらの組合せが挙げられ、好ましくはスチレン系エラストマーである。スチレン系エラストマーは水添及び非水添のいずれであってもよい。すなわち、スチレン系エラストマーは、スチレン由来の部位を含む化合物であって、スチレン以外にもオレフィン等の重合可能な不飽和基を有する化合物由来の部位を含んでもよい重合体である。スチレン系エラストマーの重合可能な不飽和基を有する化合物由来の部位に二重結合が存在する場合、二重結合部は水添されているものであってもよいし、水添されていないものであってもよい。特に好ましいエラストマーは、水添スチレン-ブタジエン系エラストマーを含む。スチレン系エラストマーの例としては、JSR株式会社製TR、JSR株式会社製SIS、旭化成株式会社製タフテック(登録商標)、株式会社クラレ製セプトン(登録商標)、株式会社クラレ製ハイブラー(登録商標)等が挙げられる。
【0016】
樹脂組成物におけるエラストマーの含有量は、エラストマー、ポリアリーレンエーテル化合物及びリン系化合物の合計量100重量部に対して、10~60重量部が好ましく、より好ましくは20~50重量部、さらに好ましくは25~45重量部、特に好ましくは30~40重量部である。
【0017】
(b)ポリアリーレンエーテル化合物
ポリアリーレンエーテル化合物は、耐熱性等に寄与する。ポリアリーレンエーテル化合物は、好ましくはポリフェニレンエーテル化合物である。ポリアリーレンエーテル化合物ないしポリフェニレンエーテル化合物は下記式:
【化2】
(式中、R、R、R及びRはそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1~3の炭化水素基であり、nは繰り返し数であり、典型的には4~1000であり、より好ましくは5~50である)
で表される骨格を分子中に含む化合物であるのが好ましい。ポリフェニレンエーテル化合物の例としては、ポリフェニレンエーテルオリゴマーのスチレン誘導体、末端水酸基変性ポリフェニレンエーテルオリゴマー、末端メタクリル変性ポリフェニレンエーテルオリゴマー、末端グリシジルエーテル変性ポリフェニレンエーテルオリゴマー等が挙げられる。ポリフェニレンエーテルオリゴマーのスチレン誘導体の製品例としては、三菱ガス化学株式会社製OPE-2St-1200及びOPE-2St-2200が挙げられる。末端水酸基変性ポリフェニレンエーテルオリゴマーの製品例としては、SABIC社製SA-90及びSA-120が挙げられる。末端メタクリル変性ポリフェニレンエーテルオリゴマーの製品例としては、SABIC社製SA-9000が挙げられる。
【0018】
本発明の樹脂組成物におけるポリアリーレンエーテル化合物の含有量は、エラストマー、ポリアリーレンエーテル化合物及びリン系化合物の合計量100重量部に対して、10~50重量部が好ましく、より好ましくは20~45重量部、さらに好ましくは30~40重量部である。
【0019】
(c)リン系化合物
リン系化合物は、下記式(I):
【化3】
(式中、nは3~4である)
で表される環状シアノフェノキシホスファゼン化合物であり、難燃性に寄与する。リン系化合物は、上記式におけるn=3の化合物と、式(I)におけるn=4の化合物との混合物であってもよい。式(I)におけるn=3単独の化合物の製品例としては、株式会社伏見製薬所製FP-300が挙げられ、式(I)におけるn=3の化合物とn=4の化合物の混合物の製品例としては、株式会社伏見製薬所製FP-300Bが挙げられる。
【0020】
本発明の樹脂組成物におけるリン系化合物の含有量は、エラストマー、ポリアリーレンエーテル化合物及びリン系化合物の合計量を100重量部として、10~50重量部であるのが好ましく、より好ましくは20~40重量部、さらに好ましくは25~35重量部である。
【0021】
(d)シリカ粒子
シリカ粒子は、分散性及び誘電特性に優れたフィラーとして、低誘電正接、流動性等に寄与する。シリカ粒子の平均粒径D50は好ましくは0.1~5μm、より好ましくは0.3~3μm、さらに好ましくは0.5~1.5μmである。上記範囲内の平均粒径D50を有するシリカ粒子(例えば球状シリカ粒子)を用いることで、流動性及び加工性に優れた樹脂組成物を提供することができる。シリカ粒子は粉砕粒子、球状粒子、コアシェル粒子、中空粒子等、いかなる形態であってもよい。
【0022】
本発明の樹脂組成物におけるシリカ粒子の含有量は、任意の量であってよく特に限定されないが、シリカ粒子の含有量に依存するカップリング剤の添加量やフィラー分散の容易性、樹脂組成物の流動性等の観点から、エラストマー、ポリアリーレンエーテル化合物及びリン系化合物の合計量100重量部に対して、20~300重量部が好ましく、より好ましくは30~240重量部、さらに好ましくは40~180重量部、特に好ましくは50~160重量部である。このような含有量であると、樹脂組成物は誘電正接に優れながらも、樹脂付銅箔とした場合に樹脂組成物と銅箔との間の剥離強度の低下も回避可能である。
【0023】
(e)シランカップリング剤
シランカップリング剤は、シリカフィラー入りの樹脂の使用に伴う黒化処理液の劣化の抑制等に寄与する。本発明の樹脂組成物におけるシランカップリング剤の含有量は、シリカ粒子の重量に対するシランカップリング剤の重量百分率をx(重量%)とし、かつ、シリカ粒子のBET比表面積(すなわちBET法により測定される比表面積)をS(m/g)としたとき、0.0900≦x/S≦0.4000の関係を満たす量であり、好ましくは0.1100≦x/S≦0.2900、さらに好ましくは0.1300≦x/S≦0.1800を満たす量である。このような範囲内であると、黒化処理液の早期の劣化進行を効果的に抑制することができる。理論に縛られるものではないが、シリカ粒子が樹脂組成物から黒化処理液へ溶出して銅箔の表面を被覆して黒化処理を妨げるのを防ぐものと推察される。シランカップリング剤として、アミノ官能性シランカップリング剤、アクリル官能性シランカップリング剤、メタクリル官能性シランカップリング剤、エポキシ官能性シランカップリング剤、オレフィン官能性シランカップリング剤、メルカプト官能性シランカップリング剤、ビニル官能性シランカップリング剤等の種々のシランカップリング剤を用いることができる。特に、メトキシ基及び/又はエトキシ基を分子中に合計3個有するシラン化合物からなるシランカップリング剤が好ましく、そのようなシランカップリング剤の具体例としては、8-メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン、8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-8-アミノオクチルトリメトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、7-オクテニルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0024】
樹脂付銅箔
本発明の樹脂組成物は、樹脂付銅箔の形態で提供されるのが好ましい。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、銅箔と、銅箔の少なくとも一方の面に設けられた樹脂組成物からなる樹脂層とを含む、樹脂付銅箔が提供される。本発明の樹脂組成物を含む樹脂層を採用することで、樹脂層が高周波用途に適した優れた誘電特性(極めて低い誘電正接)を有しながらも、銅張積層板又はプリント配線板とされた場合に、優れた層間密着性及び耐熱性を発揮させることができる。このような銅箔及び樹脂層間での優れた密着性及び耐熱性は、銅張積層板又はプリント配線板の製造に用いられた際に、基板からの回路剥がれ等の不具合を防止して製品歩留まりの向上を実現することができる。また、低い誘電正接は誘電体損失の低下に寄与し、その結果、高周波用途における伝送損失の低下を実現することができる。したがって、本発明の樹脂付銅箔は、高周波向けのプリント配線板の絶縁層及び導体層として好ましく適用可能である。そのような例としては、(i)基地局内サーバー、ルーター等、(ii)企業内ネットワーク、(iii)高速携帯通信の基幹システム等が挙げられる。
【0025】
具体的には、本発明の樹脂付銅箔は、樹脂層が硬化された状態において、樹脂層が、周波数3GHzにおいて、0.0030未満の誘電正接を有するのが好ましく、より好ましくは0.0025未満、さらに好ましくは0.0020未満である。なお、この誘電正接は、典型的には0.0001以上の値を有するものとなる。また、本発明の樹脂付銅箔は、樹脂層が硬化された状態において、JIS C 6481-1996に準拠して測定される、樹脂層及び銅層間の剥離強度(実施例において後述する剥離強度)が0.4kgf/cm以上であるのが好ましく、より好ましくは0.5kgf/cm以上、さらに好ましくは0.6kgf/cm以上である。なお、この剥離強度は、一般に高いほど好ましいが、製品として典型的には3kgf/cm以下、より典型的には1.5kgf/cm以下の値を有するものとなる。
【0026】
樹脂層の厚さは特に限定されないが、0.1~150μmであるのが好ましく、より好ましくは20~70μmであり、さらに好ましくは25~65μmである。これらの範囲内の厚さであると樹脂組成物の塗布により樹脂層の形成がしやすいとともに、銅箔との間で十分な密着性を確保しやすい。
【0027】
樹脂層は、それ自体で銅張積層板やプリント配線板における絶縁層を構成するものであってよい。また、樹脂層は、銅張積層板やプリント配線板におけるプリプレグと張り合わせるためのプライマー層として銅箔表面に形成されるものであってもよい。この場合、樹脂付銅箔の樹脂層はプライマー層として、プリプレグと銅箔の密着性を向上することができる。したがって、本発明の樹脂付銅箔は、樹脂層上にプリプレグを備えていてもよい。なお、この樹脂層は、上述した樹脂組成物が硬化されたものであってもよく、又は、上述の樹脂組成物が、半硬化(Bステージ)状態である樹脂組成物層として提供され、後の工程として熱間プレスで接着硬化に供されるものであってもよい。この熱間プレスは、予め真空到達させた後、温度150~250℃、温度保持時間30~300分、圧力5~50kgf/cmの範囲の条件下で硬化される真空熱間プレス法が採用可能である。
【0028】
銅箔は、電解製箔又は圧延製箔されたままの金属箔(いわゆる生箔)であってもよいし、少なくともいずれか一方の面に表面処理が施された表面処理箔の形態であってもよい。表面処理は、金属箔の表面において何らかの性質(例えば防錆性、耐湿性、耐薬品性、耐酸性、耐熱性、及び基板との密着性)を向上ないし付与するために行われる各種の表面処理でありうる。表面処理は金属箔の少なくとも片面に行われてもよいし、金属箔の両面に行われてもよい。銅箔に対して行われる表面処理の例としては、防錆処理、シラン処理、粗化処理、バリア形成処理等が挙げられる。
【0029】
銅箔の樹脂層側の表面における、JIS B0601-2001に準拠して測定される十点平均粗さRzjisが2.0μm以下であるのが好ましく、より好ましくは1.5μm以下、さらに好ましくは1.0μm以下である。このような範囲内であると、高周波用途における伝送損失を望ましく低減できる。すなわち、高周波になるほど顕著に現れる銅箔の表皮効果によって増大しうる銅箔に起因する導体損失を低減して、伝送損失の更なる低減を実現することができる。銅箔の樹脂層側の表面における十点平均粗さRzjisの下限値は特に限定されないが、樹脂層との密着性向上の観点からRzjisは0.005μm以上が好ましく、より好ましくは0.01μm以上、さらに好ましくは0.05μm以上である。
【0030】
銅箔の樹脂層側の表面には、上記十点平均粗さRzjisの数値範囲を保つ範囲において樹脂層との耐熱密着性を格段に向上できる点で、粒子状突起が形成されているのが好ましい。この粒子状突起を構成する金属は、プリント配線板の高周波伝送損失を低減できる点で、銅であるのが好ましい。
【0031】
銅箔の厚さは特に限定されないが、0.1~100μmであるのが好ましく、より好ましくは0.15~40μmであり、さらに好ましくは0.2~30μmである。これらの範囲内の厚さであると、プリント配線板の配線形成の一般的なパターン形成方法である、MSAP(モディファイド・セミアディティブ)法、SAP(セミアディティブ)法、サブトラクティブ法等の工法が採用可能である。もっとも、銅箔の厚さが例えば10μm以下となる場合などは、本発明の樹脂付銅箔は、ハンドリング性向上のために剥離層及びキャリアを備えたキャリア付銅箔の銅箔表面に樹脂層を形成したものであってもよい。
【0032】
本発明の樹脂付銅箔において、銅箔は、黒化処理に用いられるものであるのが好ましい。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、樹脂付銅箔を黒化処理液に浸漬して黒化処理を施すことを含む、樹脂付銅箔の処理方法が提供される。銅箔が黒化処理されることで、絶縁樹脂との密着性の向上等を図ることができる。そして、前述したように、本発明の樹脂組成物によれば、黒化処理を伴う量産工程に付された場合に、連続使用される黒化処理液の早期の劣化進行を効果的に抑制することができる。黒化処理は公知の方法に従って行えばよく、例えば、次亜塩素酸及び水酸化ナトリウムを主成分とした黒化処理液に回路基板(例えば銅層及び絶縁樹脂層を含む積層板)を浸漬させることにより行われる。
【0033】
プリント配線板
本発明の樹脂組成物ないし樹脂付銅箔はプリント配線板の作製に用いられるのが好ましい。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、上記樹脂付銅箔を備えたプリント配線板、又は上記樹脂付銅箔を用いて得られたプリント配線板が提供される。この場合、上記樹脂付銅箔の樹脂層は硬化されている。本態様によるプリント配線板は、絶縁樹脂層と、銅層とがこの順に積層された層構成を含んでなる。また、絶縁樹脂層については銅張積層板に関して上述したとおりである。そして、銅箔ないし銅層は黒化処理部を有している、すなわち黒化処理されているのが好ましい。銅箔ないし銅層が黒化処理されることで、絶縁樹脂との密着性の向上等を図ることができる。いずれにしても、プリント配線板は公知の層構成が採用可能である。プリント配線板に関する具体例としては、プリプレグの片面又は両面に本発明の樹脂付銅箔を接着させ硬化した積層体とした上で回路形成した片面又は両面プリント配線板や、これらを多層化した多層プリント配線板等が挙げられる。また、他の具体例としては、樹脂フィルム上に本発明の樹脂付銅箔を形成して回路を形成するフレキシブルプリント配線板、COF、TABテープ、ビルドアップ多層配線板、半導体集積回路上へ樹脂付銅箔の積層と回路形成を交互に繰りかえすダイレクト・ビルドアップ・オン・ウェハー等が挙げられる。例えば、本発明の樹脂付銅箔は、高周波向けのプリント配線板の絶縁層及び導体層として好ましく適用可能である。そのような例としては、(i)基地局内サーバー、ルーター等、(ii)企業内ネットワーク、(iii)高速携帯通信の基幹システム等が挙げられる。
【実施例
【0034】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0035】
例1~10
樹脂組成物を含んでなる樹脂ワニスを調製し、この樹脂ワニスを用いて樹脂付銅箔を作製し、その評価を行った。具体的には以下のとおりである。
【0036】
(1)樹脂ワニスの調製
まず、樹脂ワニス用原料成分として、以下に示されるエラストマー、ポリアリーレンエーテル化合物、リン系化合物、シリカ粒子及びシランカップリング剤を用意した。
(a)エラストマー
MP-10:旭化成株式会社製、水添スチレン系エラストマー
(b)ポリアリーレンエーテル化合物
OPE-2St-1200:三菱ガス化学株式会社製、二官能ポリフェニレンエーテルオリゴマーのスチレン誘導体(数平均分子量約1200)
OPE-2St-2200:三菱ガス化学株式会社製、二官能ポリフェニレンエーテルオリゴマーのスチレン誘導体(数平均分子量約2200)
(c)リン系化合物
FP-300B:株式会社伏見製薬所製、環状シアノフェノキシホスファゼン化合物
(d)シリカ粒子
SO-C4:株式会社アドマテックス製、球状シリカ粒子(レーザー回折式粒度分布測定により測定された平均粒径D50:1.0μm、BET比表面積S:4.3m/g)
(e)シランカップリング剤
KBM-5803:信越化学工業株式会社製、8-メタクリロキシオクチルトリメトキシシラン
KBM-4803:信越化学工業株式会社製、8-グリシドキシオクチルトリメトキシシラン
KBM-6803:信越化学工業株式会社製、N-2-(アミノエチル)-8-アミノオクチルトリメトキシシラン
KBM-1403:信越化学工業株式会社製、p-スチリルトリメトキシシラン
KBM-1083:信越化学工業株式会社製、7-オクテニルトリメトキシシラン
KBM-403:信越化学工業株式会社製、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
KBM-903:信越化学工業株式会社製、3-アミノプロピルトリメトキシシラン
KBM-5103:信越化学工業株式会社製、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン
KBM-573:信越化学工業株式会社製、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン
【0037】
表1に示される各原料成分を表1に記載の固形分重量比で秤量し、固形分濃度が55%となるように有機溶媒を添加して、60℃にて分散機を用いて溶解分散した。こうして調整された樹脂溶液(ワニス)を得た。
【0038】
(2)半硬化状態(B-stage)の樹脂付銅箔の作製
得られた樹脂溶液を、電解銅箔(MWG箔、三井金属鉱業株式会社製、厚さ18μm)の表面に、コンマ塗工機を用いて、乾燥後の樹脂層の厚みが50μmとなるように塗布した。得られた塗布膜を150℃で3分間乾燥させることにより、樹脂組成物を半硬化させた。こうして半硬化状態(B-stage)の樹脂層を備えた樹脂付銅箔を作製した。
【0039】
(3)硬化状態(C-stage)の樹脂付銅箔を備えた基板の作製
得られた樹脂付銅箔をコア材(三菱ガス化学株式会社製、HL832NS)に樹脂層が当接するように積層し、プレス温度200℃、温度保持時間90分間、プレス圧力30kgf/cmの加熱加圧条件にて熱間真空プレス成形を施して、コア材層-樹脂層-銅層の順に積層された基板を作製した。
【0040】
(4)樹脂フィルム単体の作製
2枚の樹脂付銅箔をそれらの樹脂層同士が当接するように貼り合わせ、200℃、90分間、30kgf/cmの加熱加圧条件にて熱間真空プレス成形を施して、両面銅張積層板を作製した。得られた銅張積層板の両面の銅を全てエッチングにより除去して、単体としての樹脂フィルムを得た。
【0041】
(5)各種評価
上記(3)及び(4)で得られた基板、樹脂フィルム及び両面銅張積層板について、以下の各種評価を行った。
【0042】
<誘電特性>
上記(4)で得られた樹脂フィルムについて、摂動式空洞共振器法により、3GHzにおける誘電正接Dfを測定した。測定は、樹脂フィルム単体を共振器のサンプルサイズに合わせて切断した後、測定装置(KEYCOM株式会社製共振器及びKEYSIGHT社製ネットワークアナライザー)を用い、JIS R 1641に準拠して行った。結果は表1に示されるとおりであった。
【0043】
<剥離強度>
上記(3)で得られた基板について、銅層を回路形成した。具体的には、基板の両面にドライフィルムを張り合わせて、エッチングレジスト層を形成した。そして、その両面のエッチングレジスト層に、10mm幅の剥離強度測定試験用の回路を露光現像し、エッチングパターンを形成した。その後、銅エッチング液で回路エッチングを行い、エッチングレジストを剥離して回路を得た。こうして形成された回路を樹脂層から剥離して、回路及び樹脂層間の剥離強度(kgf/cm)をJIS C 6481-1996に準拠して測定した。測定回数3回の平均値を測定値とした。結果は表1に示されるとおりであった。
【0044】
<はんだ耐熱性>
上記(3)で得られた基板について、JIS C 6481-1996に準拠してはんだ耐熱性の評価を行った。具体的には、基板を260℃のはんだ浴に10分間浮かべる熱処理を1回行った後、外観変化を目視で観察し、膨れの発生の有無を確認した。この評価は4片の試料について実施した。確認結果を以下の基準に従い、3段階で評価した。結果は表1に示されるとおりであった。
‐評価A:4片の試料の全てにおいて膨れが発生しなかった。
‐評価B:4片の試料の一部に膨れが発生した。
‐評価C:4片の試料の全てのおいて膨れが発生した。
【0045】
<黒化処理液評価>
黒化処理液(ダウ・エレクトロニック・マテリアルズ製、PROBONDTM80)をメーカー仕様どおりに500mL建浴した。得られた黒化処理液に樹脂フィルム及び両面銅張積層板を同時に浸漬し、下記式:
液負荷率(%)={(実際の黒化処理面積)/(黒化処理液の処理可能面積)}×100
により定義される液負荷率が66%、その後93%に至るように黒化処理を行った。なお、上記式における「黒化処理液の処理可能面積」は、黒化処理液の製品仕様書に記載される液負荷の値に基づくものである。各液負荷率における両面銅張積層板の黒化処理面の明度、具体的にはL色空間(JIS Z 8781-4:2013)における明度Lを、TIME GROUP INC.製、TCD100を用いて測定した。各液負荷率における液劣化率を下記式:
液劣化率(%)={(各液負荷率における明度)/(初期における明度)}×100
により算出し、以下の基準に従って3段階で格付け評価した。結果は表1に示されるとおりであった。
‐評価A:液負荷率93%における液劣化率が200%未満
‐評価B:液負荷率93%における液劣化率が200%以上400%未満
‐評価C:液負荷率93%における液劣化率が400%以上
【0046】
例11(比較)
シランカップリング剤を用いなかったこと、及びシリカ粒子の添加量を150.0重量部としたこと以外は例1と同様にして、樹脂組成物等の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであった。
【0047】
例12(比較)
シランカップリング剤の添加量を0.50重量部としたこと、及びシリカ粒子の添加量を150.8重量部としたこと以外は例1と同様にして、樹脂組成物等の作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであった。
【0048】
【表1A】
【表1B】