(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】ネジ鉄筋固定材およびこの鉄筋固定材を用いたネジ鉄筋の接続方法
(51)【国際特許分類】
E04C 5/18 20060101AFI20220908BHJP
E04C 5/02 20060101ALI20220908BHJP
E04G 21/12 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
E04C5/18 102
E04C5/02
E04G21/12 105E
(21)【出願番号】P 2018126926
(22)【出願日】2018-07-03
【審査請求日】2021-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】399009642
【氏名又は名称】JFE条鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】山田 直人
(72)【発明者】
【氏名】萩原 浩
【審査官】齋藤 卓司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0031607(US,A1)
【文献】特開2016-156163(JP,A)
【文献】特開2015-140539(JP,A)
【文献】特開2001-271452(JP,A)
【文献】特開昭58-222249(JP,A)
【文献】特開2018-059387(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/00-5/20
E04G 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填材を第1保護層および第2保護層で被覆しつつシート状に形成し、
前記第1保護層あるいは前記第2保護層の外面に粘着層を備え、当該粘着層のさらに外面に前記粘着層の利用に際して取り外す第3保護層が備えられたネジ鉄筋固定材。
【請求項2】
前記充填材が、互いに仕切層で分離された主剤および硬化剤を備えている請求項1に記載のネジ鉄筋固定材。
【請求項3】
前記第1保護層および前記第2保護層の夫々の平面に沿う方向において引張強度が最小となる方向として、前記第1保護層が第1方向を有し、前記第2保護層が第2方向を有し、
前記平面に垂直な方向視において、前記第1方向と前記第2方向とのなす角度が予め設定した角度以内である請求項1または2に記載のネジ鉄筋固定材。
【請求項4】
表面に雄ネジ部を有するネジ鉄筋の端部を、前記雄ネジ部と螺合する雌ネジ部を備えた受け部材に挿入して前記ネジ鉄筋と前記受け部材とを接続する際に、
充填材が第1保護層および第2保護層で被覆されつつシート状に形成され、前記第1保護層あるいは前記第2保護層の外面に粘着層および第3保護層を備えた鉄筋固定材を、前記第3保護層を取り外したのち前記ネジ鉄筋の外面に巻き付け、
前記ネジ鉄筋を前記受け部材に螺合させつつ前記第1保護層および前記第2保護層を破断させて前記充填材を硬化させるネジ鉄筋の接続方法。
【請求項5】
前記充填材が、主剤および硬化剤を有すると共に、前記主剤および前記硬化剤が仕切層によって分離されつつ層状に重ねられ、前記主剤が
前記第1保護層で被覆され、前記硬化剤が
前記第2保護層で被覆されたものであり、
前記ネジ鉄筋を前記
受け部材に螺合させることで、前記第1保護層および前記第2保護層および前記仕切層を破断させて前記主剤と前記硬化剤とを混合して硬化させる請求項4に記載のネジ鉄筋の接続方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造(RC構造)の建築物における鉄筋どうしの接続部に用いられる充填材含浸テープジョイント、および、充填材含浸テープジョイントを用いた鉄筋どうしの接続方法に関する。
【背景技術】
【0002】
RC構造の建築物においては、柱や梁に埋設する鉄筋を接続する際に、接続する二本の鉄筋の端部を筒形状の受け部材の内部に挿入し、鉄筋と受け部材との隙間にモルタルを充填して鉄筋どうしを固着させる技術がある。従来からそのような鉄筋の接続作業を効率化する技術が提案されており、例えば、特許文献1に示された技術もその一つである。
【0003】
特許文献1に記載された技術は、受け部材に挿入する鉄筋を容易に仮固定するために、鉄筋に係合する金具を受け部材の内部に予め設けておくものである。この金具は、バネ弾性の強い鋼材などで形成され、鉄筋を周方向に取り囲む帯状の基片と、この基片から鉄筋の長手方向に沿って突出する短舌片と長舌片とを備えている。
【0004】
このうち短舌片は、受け部材の内面に係合して、当該金具を受け部材に固定するものである。一方の長舌片は、挿入される鉄筋の外表面に周方向に沿った複数の個所で係合し、鉄筋の抜け出しを防止する。つまり、受け部材の内部に予め設置した略環状の金具に鉄筋を挿入することで、長舌片が鉄筋の外面に噛み込み、戻り防止の機能を発揮して、鉄筋の位置を固定する。鉄筋が受け部材に固定されたのち、受け部材の側面に設けた孔部からモルタルが充填され、鉄筋の本固定が行われる。
【0005】
このような金具を用いることで、鉄筋を受け部材の定位置に素早く配置することができ、鉄筋接続作業の効率が向上するとのことである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記従来の方法では、受け部材の側面に設けた孔部から受け部材の内部にモルタルを充填する必要があるなど、鉄筋の接続作業は未だ煩雑なままである。また、受け部材の内部に形状保持性の高い金具が存在することで、モルタルが鉄筋あるいは受け部材の内面と接触せず、モルタルの接着効果が損なわれる可能性もある。
【0008】
このような実情に鑑み、従来から、より作業効率の高い鉄筋と受け部材との充填材を用いた接続技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(特徴構成)
本発明に係るネジ鉄筋固定材は、充填材を第1保護層および第2保護層で被覆しつつシート状に形成し、前記第1保護層あるいは前記第2保護層の外面に粘着層を備え、当該粘着層のさらに外面に前記粘着層の利用に際して取り外す第3保護層が備えられた点に特徴を有する。
【0010】
(効果)
本構成のネジ鉄筋固定材は、例えば、鉄筋コンクリート構造物の柱や梁に配設するネジ鉄筋を樹脂モルタルなどの充填材を用いて接続する箇所に用いることができる。ネジ鉄筋の接続に際しては、例えば、互いに接続する二本のネジ鉄筋を一つの受け部材の内部に挿入し、ネジ鉄筋と受け部材との隙間に充填材を満たす必要がある。そのために、本構成のネジ鉄筋固定材をネジ鉄筋の端部に巻き付けるなど仮固定し、これらを受け部材の内部に挿入することで、充填材の充填作業が容易になる。
【0011】
また、充填材はシート状に伸ばされ、第1保護層と第2保護層とで被覆されているため、例えば、ネジ鉄筋が受け部材の内部に挿入されて第1保護層あるいは第2保護層が破損するまでは外部の空気との接触が遮断される。よって、ネジ鉄筋の接続作業に至るまでのあいだネジ鉄筋固定材の保存が可能となり、ネジ鉄筋接続の作業性を向上させることができる。
さらに、本構成のように粘着層を備えることで、充填材の充填作業を行う対象物にネジ鉄筋固定材を予め貼り付けておくことができる。よって、ネジ鉄筋など接続作業を行う対象物の姿勢が任意となり、充填材の配設作業がさらに容易なものとなる。
【0012】
(特徴構成)
本発明に係るネジ鉄筋固定材にあっては、前記充填材を、互いに仕切層で分離された主剤および硬化剤とすることができる。
【0013】
(効果)
本構成では、充填材を主剤と硬化剤との二成分を備えて構成し、主剤と硬化剤とを仕切層で分離してある。さらに、主剤および硬化剤は、夫々、第1保護層と第2保護層とによって外部から遮断されている。ネジ鉄筋は所定の重量を有するから、ネジ鉄筋を受け部材に挿入する際にはネジ鉄筋と受け部材とが強く当接する。これによってネジ鉄筋固定材が破け、主剤と硬化剤とが効率よく混合される。
【0014】
このように、本構成のネジ鉄筋固定材は、互いに接続する例えばネジ鉄筋と受け部材との間に二液性の充填材を簡単に配置し、効率的に混合することができる。例えばネジ鉄筋の接続箇所など、ネジ鉄筋の配置方向が様々で、また、高所での接続が必要になるなど作業者の手が届き難い場所での接続作業が極めて容易となる。
【0015】
さらに、充填材を二成分で構成すると、充填材の硬化開始時期をより正確に設定できるうえ、ネジ鉄筋固定材の長期保存も可能となり、ネジ鉄筋の接続作業の効率をさらに高めることができる。
【0016】
(削除)
【0017】
(削除)
【0018】
(削除)
【0019】
(削除)
【0020】
(特徴構成)
本発明に係るネジ鉄筋固定材にあっては、前記第1保護層および前記第2保護層の夫々の平面に沿う方向において引張強度が最小となる方向として、前記第1保護層が第1方向を有し、前記第2保護層が第2方向を有し、前記平面に垂直な方向視において、前記第1方向と前記第2方向とのなす角度が予め設定した角度以内であると好適である。
【0021】
(効果)
本構成では、第1保護層および第2保護層の夫々につき、引張強度が最小となる方向を近い方向に揃えてある。これにより、例えば、ネジ鉄筋および受け部材のうちネジ鉄筋固定材を取り付けた一方の部材を他方の部材に当接する場合に、最小の引張強度となる方向を部材どうしの当接方向に近付けておくことで二つの層が同時に破れ易くなる。このため主剤と硬化剤とを確実に混合することができる。
【0022】
(特徴手段)
本発明に係るネジ鉄筋の接続方法にあっては、表面に雄ネジ部を有するネジ鉄筋の端部を、前記雄ネジ部と螺合する雌ネジ部を備えた受け部材に挿入して前記ネジ鉄筋と前記受け部材とを接続する際に、充填材が第1保護層および第2保護層で被覆されつつシート状に形成され、前記第1保護層あるいは前記第2保護層の外面に粘着層および第3保護層を備えた鉄筋固定材を、前記第3保護層を取り外したのち前記ネジ鉄筋の外面に巻き付け、
前記ネジ鉄筋を前記受け部材に螺合させつつ前記第1保護層および前記第2保護層を破断させて前記充填材を硬化させる点に特徴を有する。
【0023】
(効果)
本方法であれば、ネジ鉄筋あるいは受け部材にネジ鉄筋固定材を巻き付けるなど仮固定した状態で両者を接続するから、ネジ鉄筋と受け部材との隙間に対する充填材の充填作業が極めて容易となる。また、充填材は保護層で被覆されているため、例えば、ネジ鉄筋が受け部材の内部に挿入されて保護層が破損するまでは外部の空気との接触が遮断される。よって、ネジ鉄筋の接続作業に至るまでのあいだネジ鉄筋固定材の保存が可能となり、鉄筋接続の作業性を向上させることができる。
また、ネジ鉄筋と受け部材とを互いに羅合するものであれば、ネジ鉄筋の雄ネジ部と受け部材の雌ネジ部との摺動距離が長くなるため、ネジ鉄筋固定材が確実に破断して主剤と硬化剤との混合度合いが高まる。さらに、雄ネジ部と雌ネジ部との間にはほぼ一定形状の隙間が螺旋状に形成されるから、ネジ鉄筋固定材が当該隙間に沿って移動し易い。このため、雄ネジ部と雌ネジ部との螺合領域の全長に亘って充填材を確実に充填することができ、強度の高い接続部を得ることができる。
さらに、本方法のように粘着層を備えることで、充填材の充填作業を行う対象物にネジ鉄筋固定材を予め貼り付けておくことができる。よって、ネジ鉄筋など接続作業を行う対象物の姿勢が任意となり、充填材の配設作業がさらに容易なものとなる。
【0024】
(特徴手段)
本発明に係るネジ鉄筋の接続方法にあっては、前記充填材が、主剤および硬化剤を有すると共に、前記主剤および前記硬化剤が仕切層によって分離されつつ層状に重ねられ、前記主剤が前記第1保護層で被覆され、前記硬化剤が前記第2保護層で被覆されたものであり、前記ネジ鉄筋を前記受け部材に螺合させることで、前記第1保護層および前記第2保護層および前記仕切層を破断させて前記主剤と前記硬化剤とを混合して硬化させることも可能である。
【0025】
(効果)
本方法であれば、ネジ鉄筋の接続作業を行うまでは、主剤と硬化剤とを分離した状態に維持できるためネジ鉄筋固定材の長期保存が可能となり、ネジ鉄筋固定材の取扱性が向上する。また、主剤と硬化剤とを分離状態に保護する第1保護層などはネジ鉄筋と受け部材との当接によって破断するから、主剤と硬化剤との混合作業も容易である。
【0026】
(削除)
【0027】
(削除)
【0028】
(削除)
【0029】
(削除)
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】第1実施形態に係る鉄筋固定材および鉄筋の接続態様を示す説明図
【
図2】第1実施形態に係る鉄筋固定材の構成を示す説明図
【
図3】第1実施形態に係る鉄筋の接続態様を示す斜視図
【
図4】第1実施形態に係る鉄筋の接続部を示す断面図
【
図5】第2実施形態に係る鉄筋固定材の構成を示す説明図
【
図7】第4実施形態に係る鉄筋の接続態様を示す説明図
【
図8】第5実施形態に係る鉄筋の接続態様を示す説明図
【
図9】第6実施形態に係る鉄筋固定材の巻き付け態様を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0031】
〔第1実施形態〕
(概要)
本発明に係る鉄筋固定材3および当該鉄筋固定材3を用いた鉄筋1aの接続方法につき、図面を参照しながら説明する。
図1には、受け部材2に対し、ネジ鉄筋1の端部どうしを接続する例を示す。実際のRC構造物における柱や梁には、この図で示すネジ鉄筋1の複数本が埋設される。よって、ネジ鉄筋1の設置姿勢は、
図1のように水平方向に限らず任意である。また、二本の別のネジ鉄筋1どうしを接続することもあれば、環状に成形した一本のネジ鉄筋1の端部どうしを接続することもある。
【0032】
本実施形態においては、受け部材2の孔部22に形成された雌ネジ部21に、ネジ鉄筋1の表面に形成された雄ネジ部11が螺合される。その際、
図1に示すように、ネジ鉄筋1の端部に充填材Jを保持したシート状の鉄筋固定材3を巻き付ける。雄ネジ部11と雌ネジ部21との間には一定形状の隙間が螺旋状に形成されるから、ネジ鉄筋1を雌ネジ部21に螺合する際には、鉄筋固定材3が当該隙間に沿って移動し易い。よって、雄ネジ部11と雌ネジ部21との螺合領域の全長に亘って充填材Jを確実に充填することができ、強度の高い接続部を得ることができる。
【0033】
(充填材)
図2(a)には、鉄筋固定材3の構成を示す。この鉄筋固定材3は一液タイプの充填材Jを備えている。充填材Jは、二枚の保護層で被覆され、全体がシート状に形成されている。具体的には、一方の第1保護層31の表面に例えば流動性のある充填材Jが薄く塗布される。その上からもう一方の第2保護層32を被せ、充填材Jの周囲に沿って例えば熱融着や粘着によって第1保護層31と第2保護層32を張り合わせ、
図2(b)に示すように封止部35を形成する。これにより、充填材Jが密封された鉄筋固定材3が得られる。
【0034】
用いる充填材Jとしては、例えば、一液性の無機グラウト材がある。このような無機グラウト材としては、例えば、JFE条鋼製の「ネジグラウトタイプM3」がある。このグラウト材は、例えば、粉末状のグラウト材と水とを50:12の質量比に混合して生成される。このグラウト材は、空気と触れることで次第に硬化する。よって、混合作業が終了し、流動性を有している状態で、グラウト材を第1保護層31に塗布し、さらに、第2保護層32で被覆して鉄筋固定材3を形成する。
【0035】
(保護層)
第1保護層31および第2保護層32は、充填材Jの硬化を遅延させるために気密性を有すると共に、ネジ鉄筋1の螺合時には容易に破断する必要がある。これら両方の特性は相反するものであるが、特に破断の容易性を考慮することで好適な鉄筋固定材3を得ることができる。
【0036】
例えば破断容易な樹脂膜を形成するには、特定方向の引張強さを下げることが考えられる。そのような第1の材料としては、アイオノマー樹脂を押し出し製造する際に、長手方向に延伸を加えて製造したフィルムがある。このような延伸によって炭化水素鎖が延伸方向に配向する一方で、幅方向には結合力の弱い金属イオンによる結合が生じる。この結果、幅方向に裂けやすいフィルムになる。
【0037】
第2の材料は、低分子量の高密度ポリエチレンを低速で押し出し、幅方向の膨張度を高めつつ膨らませるインフレーションを行なうことで、幅方向に延伸を加えたフィルムである。こうして得られたフィルムは幅方向に破断し易くなる。
【0038】
第3の材料は、例えばメルトマスフローレート(MFR)が10以上の高密度ポリエチレンがある。これによるフィルムは脆くなり裂け易くなる。因みに、MFRは、シリンダーの中に樹脂を入れ、190℃に加熱した状態で2.16kgの荷重を掛けたとき、細孔から10分間に流出する樹脂の重さ(g)を意味する。
【0039】
本実施形態の鉄筋固定材3にあっては、第1保護層31および第2保護層32は、例えば、自身の平面に沿う非平行な二つの方向において異なる引張強度を備えている。第1保護層31および第2保護層32の夫々において、最小の引張強度が得られる方向を鉄筋固定材3の一辺と平行なX方向に一致させる。
【0040】
ただし、
図2(b)に示すように、第1保護層31における最小引張強度方向X1と、第2保護層32における最小引張強度方向X2とは、厳密に一致する必要はない。互いの方向の角度差が予め設定した許容角度α以内であれば、第1保護層31と第2保護層32とは実質的に同時に破断することとなる。因みに、当該許容角度αは、例えば15度である。
【0041】
これらの最小引張強度方向X1およびX2は、例えば、鉄筋固定材3をネジ鉄筋1に巻き付ける際に、ネジ鉄筋1の雄ネジ部11のネジ溝の延出方向に対して交差する方向に設定しておく。そうすることで、ネジ鉄筋1を回転させる際に、鉄筋固定材3は双方のネジ溝の隙間の形状に沿うように変形して最小引張強度方向X1およびX2に引き伸ばされ、鉄筋固定材3の破断が促進されて、充填材Jが素早く放出される。
【0042】
このような材料を用いて形成する保護層の厚みは、例えば、数十ミクロンである。これに充填材Jを含めて全体の厚みは0.5mm程度かそれよりも薄く形成される。尚、後述する粘着層Nが付加される場合には、さらに数十ミクロンの厚みが付加される。
【0043】
(粘着層)
第1保護層31あるいは第2保護層32の表面には粘着層Nを設けておくと便利である。その場合、粘着層Nの表面は、鉄筋固定材3の使用に際して取り外し可能な第3保護層33で被覆しておく。粘着層Nを備えることで、鉄筋固定材3を例えばネジ鉄筋1や受け部材2の表面に仮止めすることができ、ネジ鉄筋1の姿勢が任意となり、充填材Jの配設作業が容易となる。
【0044】
(施工方法)
図1に示すように、鉄筋固定材3は、通常は、ネジ鉄筋1の周囲に一層巻き付ける。鉄筋固定材3を巻き付けたとき、鉄筋固定材3の端部どうしが互いに届かずネジ鉄筋1の表面が見える場合には、充填材Jがネジ鉄筋1の全周に配設されず、所期の接続強度が得られない場合がある。一方、鉄筋固定材3が多層に重なる状態に巻き付けられた場合には、ネジ鉄筋1を受け部材2に螺合する際に鉄筋固定材3の一部が受け部材2の外部に取り残されるおそれがある。鉄筋固定材3は、ちょうど一層だけ巻き付けるのが理想であるが、その場合には充填材Jの総量が規定される。よって、接続するネジ鉄筋1と受け部材2との隙間寸法などを勘案して鉄筋固定材3に保持させる充填材Jの分量を調節するのが望ましい。
【0045】
鉄筋固定材3の寸法のうち、ネジ鉄筋1の長手方向に沿う寸法は、ネジ鉄筋1が受け部材2の内部に挿入される長さか、それよりも少し長めに設定しておく。これにより、適量の充填材Jが両者の隙間に充填される。尚、充填材Jの硬化に際して充填材Jの膨張率が大きい場合には、ネジ鉄筋1の長手方向に沿う鉄筋固定材3の長さはネジ鉄筋1の挿入長さよりも短くてよい。また、
図1に示すように、ネジ鉄筋1の表面に巻き付けた鉄筋固定材3の端部のうちネジ鉄筋1の端部から遠い側の端部3aの位置を、ネジ鉄筋1の表面に付した挿入深さを示すマーク12に合わせておくとネジ鉄筋1の挿入深さが正確となる。
【0046】
図3に示すように鉄筋固定材3を巻き付けたネジ鉄筋1は、受け部材2に羅合させる。既に一方のネジ鉄筋1が所定位置に設置されている場合には、当該ネジ鉄筋1に対して受け部材2を羅合させ、さらに別のネジ鉄筋1を螺合させる。
図4は、二本のネジ鉄筋1の接続が終了した状態である。
【0047】
(通気孔)
本実施形態の場合、充填材Jはネジ鉄筋1の螺合と同時に受け部材2の内部に充填される。よって、従来の受け部材2のように、ネジ鉄筋1を螺合させた後に充填材Jを注入する充填孔を受け部材2の側面に設ける必要はない。ただし、受け部材2の内部の空気を排出する通気孔23を設けておくのが好ましい。即ち、本実施形態の場合、ネジ鉄筋1を受け部材2に螺合させ始めると直ちに雄ネジ部11と雌ネジ部21との隙間が鉄筋固定材3で密封され、受け部材2の内部の空間が閉じた空間となる。その場合、ネジ鉄筋1の螺合に伴って受け部材2の内部の圧力が高まり、充填材Jが押し戻される可能性がある。
【0048】
よって、
図1および
図3、
図4に示すように、受け部材2の長手方向の中間位置に、雌ネジ部21と外部とを連通する少なくとも一つの通気孔23を設けておくとよい。この通気孔23は、従来の充填材Jを注入する孔を利用するものであっても良いし、それよりも小径の孔であってもよい。
【0049】
このように本実施形態の鉄筋固定材3を用いることで、互いに接続するネジ鉄筋1と受け部材2との間に充填材Jを効率よく配置することができる。よって、ネジ鉄筋1の接続箇所や接続方向が様々であっても、また、ネジ鉄筋1の先端部が作業者の位置に比べて高所に位置するなど作業者の手が届き難い場所であっても接続作業が極めて容易となる。
【0050】
〔第2実施形態〕
図5(a)に示すように、鉄筋固定材3の充填材Jを主剤J1と硬化剤J2とで構成することもできる。この場合、第1保護層31と第2保護層32との間に仕切層34を設ける。即ち、主剤J1を仕切層34と第1保護層31との間に配置し、硬化剤J2を仕切層34と第2保護層32との間に配置する。
図5(b)に示すように、鉄筋固定材3の周囲には、融着や粘着などによって各層が互いに接合された封止部35が形成される。
【0051】
第1保護層31および第2保護層32、仕切層34の厚みは、第1実施形態と同様に夫々数十ミクロンである。主剤J1の体積と硬化剤J2の体積とが異なる場合があるものの、主剤J1および硬化剤J2を含めて全体の厚みは0.5mm程度かそれよりも薄く形成される。尚、粘着層Nが付加される場合には、さらに数十ミクロンの厚みが付加される。
【0052】
また、第1保護層31および第2保護層32、仕切層34の最小引張強度方向は、原則として一致させる。その方が、ネジ鉄筋1の螺合時に各層が同時に破断し易くなり、主剤J1と硬化剤J2との混合が確実に行われるからである。ただし、
図5(b)に示すように、第1保護層31における最小引張強度方向X1と、第2保護層32における最小引張強度方向X2と、仕切層34における最小引張強度方向X3とは、厳密に一致する必要はない。互いの方向の角度差が予め設定した許容角度α以内であれば、各層は実質的に同時に破断する。因みに、当該許容角度αは、例えば15度である。
【0053】
さらに、
図5(a)に示すように、例えば、第2保護層32の表面に粘着層Nを設けておくと便利である。勿論、第1保護層31の表面であっても良い。粘着層Nの表面には、粘着層Nの利用に際して取り外し可能な第3保護層33を設けておく。このように粘着層Nを設けることで、鉄筋固定材3を予めネジ鉄筋1に貼り付けておくことができ、ネジ鉄筋1の接続作業の姿勢が任意となり、充填材Jの充填作業が容易となる。
【0054】
用いる充填材Jとしては、例えば、JFE条鋼製の二液性有機グラウト材である「ネジグラウトタイプY」がある。この有機グラウト材は、主剤J1と硬化剤J2とを2:1の体積比率で混合する。二液性であれば、ネジ鉄筋1の接続作業が終了した後に硬化が開始するから、鉄筋固定材3の長期管理が容易となる。
【0055】
尚、この有機グラウト材は、第1保護層31等が破断され主剤J1が空気に触れることで徐々に硬化が始まる。よって、この有機グラウト材の場合、硬化剤J2は硬化時間の調節に利用可能である。また、この有機グラウト材は、主剤J1および硬化剤J2が硬化時に膨張する。よって、ネジ鉄筋1と受け部材2との隙間が確実に充填され、強固な接続部を得ることができる。
【0056】
本実施形態の鉄筋固定材3を用いることで、互いに接続するネジ鉄筋1と受け部材2との間に二液性の充填材Jを簡単に配置し、効率的に混合することができる。よって、ネジ鉄筋1の接続箇所など、ネジ鉄筋1の配置方向が様々で、また、高所での接続が必要になるなど作業者の手が届き難い場所での接続作業が極めて容易となる。
【0057】
〔第3実施形態〕
図6(a)(b)に示すように、二液性の充填材Jを用いる場合には、鉄筋固定材3を一枚の共通保護層31aを用いて構成することもできる。つまり、主剤J1および硬化剤J2を包持する部材として、上述の第1保護層31および仕切層34、第2保護層32の代わりに、一枚の共通保護層31aを折り重ね、その間に主剤J1と硬化剤J2とを挟むものとする。
【0058】
作製においては、
図6(a)に示すように、まず、所定長さの共通保護層31aを伸ばした状態とし、一方の端部近傍の所定の領域に主剤J1を塗布する。続いて、共通保護層31aを主剤J1の上に折り返し、主剤J1を挟み込む。さらに、共通保護層31aの表面に対し、主剤J1を塗布した領域と重なる状態に硬化剤J2を塗布したのち、硬化剤J2の表面を覆うように共通保護層31aを折り返す。最後に、主剤J1および硬化剤J2の周囲の領域につき、重なった共通保護層31aどうしを融着や粘着によって密封し、封止部35を形成する。
【0059】
図6(b)に示すように、共通保護層31aの最小引張強度方向X4を、例えば、共通保護層31aの折曲線36に沿うX方向に設定することで、形成された3層の夫々における最小引張強度方向X4が上手く一致する。勿論、最小引張強度方向X4は、
図6におけるX方向と垂直なY方向に沿わせるものでもよい。
【0060】
本構成であれば、充填材Jを保護すべき部材の部品数が削減され、鉄筋固定材3の構成が簡略化される。また、ネジ鉄筋1の螺合に際して破断し易い鉄筋固定材3を容易に得ることができる。
【0061】
〔第4実施形態〕
図7に示すように、二本のネジ鉄筋1を接続できる受け部材2としては、中央位置に壁部24を設けておいても良い。本構成であれば、夫々のネジ鉄筋1を壁部24に当接するまで螺入させせることができ、ネジ鉄筋1の螺合深さが簡単に決定できる。
【0062】
図7に示すように、夫々の雌ネジ部21においては壁部24の近傍に通気孔23を設けておくと良い。また、他の構成としては、壁部24に第2通気孔23aを設けておいても良い。この場合には、通気孔23の一方は省略可能である。ただし、ネジ鉄筋1の接続に際しては、通気孔23を設けていない側の雌ネジ部21から接続作業を行うと、まず、当該側の雌ネジ部21の空気が第2通気孔23aを介して排出され、続く他方の雌ネジ部21の接続に際しては、通気孔23を介して排気が円滑に行える。
【0063】
ただし、このような通気孔23および第2通気孔23aは必須の構成ではない。仮に鉄筋固定材3が雄ネジ部11と雌ネジ部21との隙間を密封し、受け部材2の内部に空気が閉じ込められた場合でも、硬化前の充填材Jは所定の流動性を有する。よって、ネジ鉄筋1を引き続き螺合させることで、圧力の上昇した空気の一部が充填材Jを押しのけて外部に排出される。
【0064】
〔第5実施形態〕
図8に示すように、受け部材2に対するネジ鉄筋1の螺合に先立ち、鉄筋固定材3を受け部材2の内部に挿入して、雌ネジ部21に向けて押し付けておいてもよい。
図8は、天井スラブ4に埋設された受け部材2にネジ鉄筋1を接続する様子を示している。
図8(a)(b)に示すように、雌ネジ部21の内部に鉄筋固定材3のみを配置し、雌ネジ部21の内径よりも小さな外径を有する押え棒5を用いて鉄筋固定材3を雌ネジ部21に押し付けるのが好ましい。
【0065】
ただし、このような押え棒5を用いなくても、鉄筋固定材3を雌ネジ部21の内部に挿入したあと、少なくとも雌ネジ部21の開口端部21aにおいて雄ネジ部11と雌ネジ部21とで鉄筋固定材3を挟む状態にすると、その後の雄ネジ部11の螺合によって鉄筋固定材3は、順次、雄ネジ部11と雌ネジ部21との隙間に充填される。しかしながら、鉄筋固定材3が雄ネジ部11と雌ネジ部21との隙間にうまく充填されず、鉄筋固定材3の形状が乱れてネジ鉄筋1の端部に押され、雌ネジ部21の底部に押し込まれる場合もある。この場合には、さらにネジ鉄筋1を螺入することで、鉄筋固定材3は雄ネジ部11の先端で押しつぶされ、充填材Jが雄ネジ部11と雌ネジ部21との隙間を介して雌ネジ部21の開口端部21aに向けて押し出される。このように、雌ネジ部21の内部に予め鉄筋固定材3を配置しておくことで、
図8(c)に示すように、充填材Jを雄ネジ部11と雌ネジ部21との隙間に確実に充填することができる。
【0066】
尚、
図8の受け部材2は、ネジ鉄筋1を下方から羅合させる際には既に天井スラブ4に埋設されている。よって、この受け部材2には通気孔23を設けていない。鉄筋固定材3が、仮に受け部材2の内部に空気を閉じ込めた場合でも、硬化前の充填材Jは空気を逃がすように流動可能であり、ネジ鉄筋1の螺合は特に問題なく実施可能である。
【0067】
〔第6実施形態〕
図9に示すように、鉄筋固定材3をロール状に構成しておいてもよい。この鉄筋固定材3は使用に際してネジ鉄筋1の外面に巻き付ける。鉄筋固定材3の巻き付け方向、あるいは、巻き付けピッチは、鉄筋固定材3に用いた各保護層の引裂き特性に応じて決定すればよい。例えば、鉄筋固定材3の引裂き強度の弱い方向を鉄筋固定材3の幅方向に設定している場合には、鉄筋固定材3は、概ね雄ネジ部11のネジ溝の方向に沿って螺旋状に巻き付けるのが良い。こうすることで、雄ネジ部11を雌ネジ部21に羅合する際に、鉄筋固定材3は双方のネジ溝の隙間の形状に沿うように変形して幅方向に引き伸ばされ、鉄筋固定材3の破断が促進される。
【0068】
尚、この他にも、雄ネジ部11および雌ネジ部21のピッチやネジ溝深さなどの形状、さらには、鉄筋固定材3の引裂き特性等に応じて、鉄筋固定材3の巻き付け態様を変更すると良い。
【0069】
また、鉄筋固定材3は、雄ネジ部11に螺旋状に巻き付けるものでも良いし、鉄筋固定材3の長手方向をネジ鉄筋1の長手方向に直交させて、鉄筋固定材3の幅単位で複数箇所に巻き付けるものでもよい。何れの場合も、隣接するピッチの鉄筋固定材3の側縁部どうしが重ならないようにすると、充填材Jが雄ネジ部11と雌ネジ部21との隙間に充填され易くなって好ましい。
【0070】
〔その他の実施形態〕
接続する鉄筋1aとしては、ネジ鉄筋1の他に通常の節を有する鉄筋1aを用いることもできる。この場合、受け部材2の内部には、充填材Jの係合機能を高めるために雌ネジ部21ではなく何らかの凹凸形状を設けておくのが良い。その場合には、使用する充填材Jの膨張率や強度を高めておくと鉄筋1aの抜け出し防止機能が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の鉄筋固定材および当該鉄筋固定材を用いた鉄筋の接続方法は、鉄筋を受け部材に挿入し、充填材で固定する鉄筋の接続部に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 ネジ鉄筋
1a 鉄筋
11 雄ネジ部
2 受け部材
21 雌ネジ部
22 孔部
3 鉄筋固定材
31 第1保護層
32 第2保護層
33 第3保護層
J 充填材
J1 主剤
J2 硬化剤
N 粘着層
X1 第1方向
X2 第2方向