(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】ゴムの粘着試験方法及びゴムの粘着試験システム
(51)【国際特許分類】
G01N 19/04 20060101AFI20220908BHJP
G01N 19/02 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
G01N19/04 D
G01N19/02 B
(21)【出願番号】P 2018222253
(22)【出願日】2018-11-28
【審査請求日】2021-09-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】諫山 直生
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-170138(JP,A)
【文献】特開2017-067453(JP,A)
【文献】特開2007-218746(JP,A)
【文献】特開昭59-079144(JP,A)
【文献】国際公開第2018/050531(WO,A1)
【文献】特開2004-037286(JP,A)
【文献】特開2017-096766(JP,A)
【文献】特開平04-072546(JP,A)
【文献】特開2007-103757(JP,A)
【文献】特開2009-188278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 19/04
G01N 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム試験部材を第1の路面に所定荷重にて押し付けた状態で路面方向に沿って移動させることにより、前記ゴム試験部材の少なくとも一つの平坦面を摩擦処理するステップと、
摩擦処理直後の前記平坦面の温度である摩擦後温度を計測するステップと、
摩擦処理直後から経時的に低下した前記平坦面の温度を前記摩擦後温度に温度調節するステップと、
温度調節した前記平坦面を第2の路面に対して所定の接触時間押し付けてから引き剥がし、引き剥がし時に作用する引力を計測し、計測した引力データに基づき、引力に対応する粘着力を特定するステップと、を有するゴムの粘着試験方法。
【請求項2】
前記摩擦後温度は、非接触の温度計測器により計測される、請求項1に記載の粘着試験方法。
【請求項3】
前記平坦面の温度は、前記平坦面に非接触の温度調節器により温度調節される、請求項1又は2に記載の粘着試験方法。
【請求項4】
前記引力の計測は、摩擦処理直後から2時間以内に実行される、請求項1~3の何れかに記載の粘着試験方法。
【請求項5】
前記接触時間は、0.5~1.5秒である、請求項1~4の何れかに記載の粘着試験方法。
【請求項6】
ゴム試験部材を第1の路面に所定荷重にて押し付けた状態で路面方向に沿って移動させることにより、前記ゴム試験部材の少なくとも一つの平坦面を摩擦処理するように、ゴム試験装置を制御する駆動制御部と、
摩擦処理直後の前記平坦面の温度である摩擦後温度を計測する温度計測器と、
摩擦処理直後から経時的に低下した前記平坦面の温度を前記摩擦後温度に温度調節する温度調節器と、
温度調節した前記平坦面を第2の路面に対して所定の接触時間押し付けてから引き剥がし、引き剥がし時に作用する引力を計測するように、前記駆動制御部により前記ゴム試験装置が制御され、計測した引力データに基づき、引力に対応する粘着力を特定する粘着力特定部と、を有する、ゴムの粘着試験システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムの粘着試験方法、及びゴムの粘着試験システムに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤなどに用いられるゴムの摩擦は、凝着(粘着)摩擦(アドヒージョン)と変形損失摩擦(ヒステリシスロス)に主に分類される。変形損失摩擦は、路面との接触に起因するゴムの変形によるエネルギー損失であり、tanδで評価可能である。凝着摩擦力は、ゴムと路面が接触することで結合し、それを引きはがすために必要なせん断力であり、真実接触面積と、粘着力とに依存すると考えられる。摩擦性能を向上するためには、ゴムのヒステリシスロスだけでなく、凝着摩擦を適切に評価することが必要である。
【0003】
ゴムの凝着摩擦を評価する方法として、特許文献1には、試験対象のゴム試験部材の表面に対して小さな接触子を押しつけ引きはがし、引きはがすときの最大引力を測定し、最大引力を単位面積当たりの粘着力に換算して、粘着力を凝着摩擦の評価値として算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、発熱性の高いゴムは、同じ路面で摩擦された場合であっても、発熱性の低いゴムより表面温度が高くなると考えられるが、これまでは一定の温度条件下で粘着力の測定が行われており、ゴムの配合毎の発熱性は特に考慮されていなかった。
【0006】
本発明は、このような課題に着目してなされたものであって、その目的では、発熱性を考慮した粘着力の評価が可能なゴムの粘着試験方法、及びゴムの粘着試験システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために、次のような手段を講じている。
【0008】
すなわち、本発明のゴムの粘着試験方法は、ゴム試験部材を第1の路面に所定荷重にて押し付けた状態で路面方向に沿って移動させることにより、前記ゴム試験部材の少なくとも一つの平坦面を摩擦処理するステップと、
摩擦処理直後の前記平坦面の温度である摩擦後温度を計測するステップと、
摩擦処理直後から経時的に低下した前記平坦面の温度を前記摩擦後温度に温度調節するステップと、
温度調節した前記平坦面を第2の路面に対して所定の接触時間押し付けてから引き剥がし、引き剥がし時に作用する引力を計測し、計測した引力データに基づき、引力に対応する粘着力を特定するステップと、を有する。
【0009】
これにより、摩擦処理直後の平坦面の温度である摩擦後温度を計測し、平坦面の温度を摩擦後温度に温度調節してから粘着力を特定することで、発熱性を考慮した、より実条件に近い粘着力を評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明のゴム粘着試験方法及び粘着試験システムを示す概念図。
【
図2】本発明のゴム粘着試験方法を示すフローチャート。
【
図3】ゴム試験部材の押し付け及び引き剥がし時に計測される圧力を示す図。
【
図4A】引力の最大値と接触時間との関係を示す図。
【
図4B】引力の時間積分値と接触時間との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
【0012】
ゴム粘着試験方法は、ゴム試験装置を使用する。ゴム試験装置1は、ブロック状のゴム試験部材2と、平板状の模擬路面と、を少なくとも2方向(X方向、Z方向)に相対移動可能に構成されている。そのために、ゴム試験部材2を第1の路面10に押し付けた状態で路面方向(X方向)に沿ってスライド移動させる摩擦動作、及び、ゴム試験部材2を第2の路面12に押し付けてから引き離す粘着計測動作を実行することが可能である。ゴム試験部材2は、プレート11に取り付けられており、プレート11には3方向の力を検出するためのロードセル等の圧力センサが取り付けられている。本実施形態では、模擬路面(第1の路面10又は第2の路面12)が固定され、プレート11が動作するように構成されているが、逆に模擬路面が動作するようにしてもよい。
【0013】
本実施形態のゴムの粘着試験システムは、上記ゴム試験装置1と、温度センサ21(温度計測器の一例)と、伝熱板22(温度調節器の一例)、ゴム試験装置1による計測結果を記憶する測定結果記憶部14と、計測結果から粘着力を特定する粘着力特定部15と、粘着力と接触時間との関係式を算出する関係式算出部16と、を有する。ゴム試験装置1を制御するコントローラは、ゴム試験装置1の駆動を制御する駆動制御部13が設けられている。本実施形態では、コントローラに、測定結果記憶部14と、粘着力特定部15と、関係式算出部16とを設けているが、これに限定されない。測定結果記憶部14、粘着力特定部15、及び関係式算出部16のうちの少なくとも1つが別の装置に実装されていてもよい。なお、本実施形態では、システム化しているが、人がゴム試験装置1を操作して引力を計測し、粘着力特定部15及び関係式算出部16が実行する処理を人が行ってもよい。
【0014】
上記システムを用いたゴム粘着試験方法の一例について、
図1及び
図2を参照しつつ説明する。
【0015】
まず、ステップST1において、ゴム試験装置1が摩擦工程を実行する。摩擦工程は、ゴム試験部材2を第1の路面10に所定荷重にて押し付けた状態で路面方向(X方向)に沿って所定回数スライド移動させることにより、ゴム試験部材2の平坦面2a(ここでは下面)を摩擦処理する。本実施形態では第1の路面10はドライであるが、ウエット路面にて摩擦を行っても良く、評価対象とする路面状態を再現することが好ましい。第1の路面10にてゴム試験部材2を摩擦することで、熱によりゴム試験部材2の接触面が性状変化し、粘着層が形成され、粘着力が向上する。本実施形態では、ゴム試験装置1が、ゴム試験部材2をドライの第1の路面10に300kPaにて押し付けた状態で15回スライド移動させた。荷重やスライド移動させる回数は適宜変更可能である。第1の路面10としては、実路面、試験路面、平板、凹凸に加工された路面等が挙げられる。
【0016】
次のステップST2において、表面温度計測工程を実行する。表面温度計測工程は、摩擦処理直後のゴム試験部材2の平坦面2aの温度(摩擦後温度t1と称する)を計測する。摩擦処理直後とは、摩擦処理終了後10秒以内、好ましくは3秒以内とする。
【0017】
表面温度計測工程において、摩擦後温度t1は、非接触の温度計測器により計測されることが好ましい。本実施形態では、非接触の温度センサ21により計測される。
【0018】
次のステップST3において、温調工程を実行する。温調工程は、摩擦処理直後から経時的に低下したゴム試験部材2の平坦面2aの温度を摩擦後温度t1に温度調節する。
【0019】
温調工程において、平坦面2aの温度は、平坦面2aに非接触の温度調節器により温度調節されることが好ましい。本実施形態では、温度制御が可能な伝熱板22をゴム試験部材2の側面に押し当てて加熱することで、平坦面2aを温度調節しているが、これに限定されない。伝熱板22をプレート11に押し当ててゴム試験部材2を間接的に加熱することで、平坦面2aを温度調節してもよい。また、温度制御が可能なチャンバー(図示していない)を併設し、ゴム試験部材2全体をチャンバー内で温度調節することで、平坦面2aを温度調節してもよい。温調工程は、例えば前述の温度センサ21で平坦面2aの温度を計測しながら実行される。
【0020】
次のステップST4において、ゴム試験装置1が粘着計測工程を実行する。粘着計測工程は、ゴム試験部材2の平坦面2aを第2の路面12に対して所定の接触時間押し付けてから引き剥がし、引き剥がし時に作用する引力を計測する。第2の路面12としては、実路面、試験路面、平板、凹凸に加工された路面等が挙げられる。本実施形態では、第2の路面12として、表面粗さRaが3~7μmの平滑面を有する硬質砂岩を用いた。路面の条件としては、ドライ又はウエットのどちらも設定可能である。なお、粘着計測工程で用いる第2の路面12と、摩擦工程で用いる第1の路面10とは同一でも異なっていてもよい。
【0021】
次のステップST5において、計測した引力データに基づき、引力に対応する粘着力を特定する。例えば、
図3に示すように、引き剥がし時に作用する引力の最大値Fmaxを粘着力としてもよい。このようにすれば、簡素な処理で粘着力を算出可能となる。
【0022】
また、同図にて斜線で示すように、引き剥がし時に作用する引力を時間積分した値を粘着力としてもよい。計測した引力の値を0軸を基準に時間積分する。時間積分した値は図中にて斜線で示す面積に相当する。このようにすれば、引力の最大値Fmaxだけではなく、時間変化も含まれるので、ノイズの影響を受けにくくなり精度が向上する。なお、ゴム試験部材2を第2の路面12に押し付ける方向をZ方向としており、検出された力Fzが正である場合には押圧力であり、検出された力Fzが負である場合には引力となる。
【0023】
ステップST5の引力の計測は、接触時間を異ならせて複数回(N回)実行するのが好ましい。Nは2以上の自然数であればよいが、多い方が好ましい。また、本実施形態では、接触時間を0~10秒としているが、接触時間は0.5~1.5秒とするのが好ましい。0.5~1.5秒とすることで、ゴムの緩和現象を抑えることができる。これにより、接触時間が長くなるほど緩和による面積の変化などのゴム粘弾性の要因が入ることを避けることができる。なお、ステップST5の粘着力の特定は、引力を計測する毎に行ってもよいし、全ての計測が終了した後に一括して実行してもよい。
【0024】
全ての計測が終了した後(ステップST6:YES)、ステップST7において、複数の計測結果に基づき、引力に対応する粘着力と接触時間との関係式を算出する。具体的には、
図4A及び
図4Bに示すように、一つの計測結果を、粘着力をy軸、接触時間をx軸としてプロットし、プロットされた各点を近似式を用いて近似することで、関係式を算出する。本実施形態では、対数近似して得られた近似式を関係式とし、y=αln(x)-βである。α、βは係数である。近似方法としては、最小二乗法を用いている。粘着力は接触時間に応じて対数的に変化するので、対数近似が好ましい。しかし、対数近似に限定されず、例えば線形や多項式で近似してもよい。
【0025】
図4Aは、引力の最大値Fmaxを粘着力とし、粘着力と接触時間との関係を示す図である。図中の丸印が或る配合ゴムの計測結果であり、図中の菱形が別の配合ゴムの計測結果である。図中の線は対数近似式を示す。
図4Bは、引力の時間積分値を粘着力とし、粘着力と接触時間との関係を示す図である。
図4Aと同じ傾向を示していることがわかる。
【0026】
上記実施形態では、ゴム試験部材2を第2の路面12に押し付けるとき、及び引き剥がすときの速度が全ての計測にて同一にしているが、これを種々変更してもよい。ゴム試験部材2を押し付けるときの速度及び、引き剥がすときの速度を異ならせて引力の計測を複数回実行すれば、ゴムの接触時間を異ならせるのと同様の評価が可能となる。
【0027】
以上のように、本実施形態のゴムの粘着試験方法は、ゴム試験部材2を第1の路面10に所定荷重にて押し付けた状態で路面方向に沿って移動させることにより、ゴム試験部材2の少なくとも一つの平坦面2aを摩擦処理するステップ(ST1)と、摩擦処理直後の平坦面2aの温度である摩擦後温度t1を計測するステップ(ST2)と、摩擦処理直後から経時的に低下した平坦面2aの温度を摩擦後温度t1に温度調節するステップ(ST3)と、温度調節した平坦面2aを第2の路面12に対して所定の接触時間押し付けてから引き剥がし、引き剥がし時に作用する引力を計測し、計測した引力データに基づき、引力に対応する粘着力を特定するステップ(ST4、ST5)と、を有する。
これにより、摩擦処理直後の平坦面2aの温度である摩擦後温度t1を計測し、平坦面2aの温度を摩擦後温度t1に温度調節してから引力を測定し、計測した引力データに基づき、引力に対応する粘着力を特定することで、発熱性を考慮した、より実条件に近い粘着力を評価することができる。
【0028】
本実施形態では、摩擦後温度t1は、非接触の温度計測器により計測される。
これにより、温度計測器が平坦面2aに形成された粘着層に接触することなく摩擦後温度t1を計測できるため、より精度よく粘着力を評価することができる。
【0029】
本実施形態では、平坦面2aの温度は、平坦面2aに非接触の温度調節器により温度調節される。
これにより、温度調節器が平坦面2aに形成された粘着層に接触することなく平坦面2aの温度を調節できるため、より精度よく粘着力を評価することができる。
【0030】
本実施形態では、引力の計測は、摩擦処理直後から2時間以内に実行される。
粘着力は時間の経過とともに低下するため、摩擦処理直後から2時間を超えると粘着力の評価精度が低下するおそれがある。
【0031】
本実施形態では、接触時間は、0.5~1.5秒である。
ゴムは緩和現象により、時間の経過とともに応力(接地圧力)が減少するため、接触時間が長くなると粘着力の評価精度が低下するおそれがある。
【0032】
本実施形態のゴムの粘着試験システムは、ゴム試験部材2を第1の路面10に所定荷重にて押し付けた状態で路面方向に沿って移動させることにより、ゴム試験部材2の少なくとも一つの平坦面2aを摩擦処理するように、ゴム試験装置1を制御する駆動制御部13と、摩擦処理直後の平坦面2aの温度である摩擦後温度t1を計測する温度計測器と、摩擦処理直後から経時的に低下した平坦面2aの温度を摩擦後温度t1に温度調節する温度調節器と、温度調節した平坦面2aを第2の路面12に対して所定の接触時間押し付けてから引き剥がし、引き剥がし時に作用する引力を計測するように、駆動制御部13によりゴム試験装置1が制御され、計測した引力データに基づき、引力に対応する粘着力を特定する粘着力特定部15と、を有する。
このシステムを使用することによっても、上記方法の奏する作用効果を得ることが可能となる。
【0033】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものでないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明だけではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【0034】
上記の各実施形態で採用している構造を他の任意の実施形態に採用することは可能である。各部の具体的な構成は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0035】
1…ゴム試験装置
2…ゴム試験部材
2a…平坦面
10…第1の路面
12…第2の路面
13…駆動制御部
15…粘着力特定部