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特許7138038合材層材料の製造方法、及び二次電池の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】合材層材料の製造方法、及び二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20220908BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20220908BHJP
   H01M 4/02 20060101ALN20220908BHJP
   H01M 4/62 20060101ALN20220908BHJP
   H01M 4/131 20100101ALN20220908BHJP
【FI】
H01M4/04 A
H01M4/1391
H01M4/02 Z
H01M4/62 Z
H01M4/131
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018239158
(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公開番号】P2020102337
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2021-07-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊勢田 泰助
【審査官】石井 徹
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第107394150(CN,A)
【文献】特開2002-319400(JP,A)
【文献】国際公開第2015/102091(WO,A1)
【文献】特開平06-052848(JP,A)
【文献】特開平05-082128(JP,A)
【文献】特開平04-249862(JP,A)
【文献】特開2005-285707(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M4/00-4/62
H01M10/05-10/0587
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二次電池の極板の合材層を構成する合材層材料の製造方法であって、
ハロゲン化銅と有機溶剤とを少なくとも含む酸化溶解液に前記合材層材料を浸漬する浸漬工程と、
前記酸化溶解液から前記合材層材料を分離する分離工程とを有し、
前記合材層材料は、リチウム金属複合酸化物を含む、合材層材料の製造方法。
【請求項2】
前記酸化溶解液から分離された前記合材層材料を洗浄する洗浄工程をさらに有する、請求項1に記載の合材層材料の製造方法。
【請求項3】
前記酸化溶解液は、ハロゲン化アルカリ金属、ハロゲン化アルカリ土類金属、及びコハク酸イミド化合物から選択される少なくとも1種以上の錯化剤をさらに含む、請求項1又は2に記載の合材層材料の製造方法。
【請求項4】
前記錯化剤は、KBr、KCl、LiBr、LiCl、及びコハク酸イミドから選択される少なくとも1種以上の化合物を含む、請求項に記載の合材層材料の製造方法。
【請求項5】
前記ハロゲン化は、CuBr、CuBr、CuCl、及びCuClから選択される少なくとも1種以上の化合物を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の合材層材料の製造方法。
【請求項6】
前記有機溶剤は、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジメチルアセトアミド、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、及び炭酸プロピレンから選択される少なくとも1種以上の有機溶媒を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の合材層材料の製造方法。
【請求項7】
前記浸漬工程において、前記酸化溶解液の温度は25℃~150℃である、請求項1~のいずれか1項に記載の合材層材料の製造方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法で製造された合材層材料を用いて、前記極板の前記合材層を形成する、二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、合材層材料の製造方法、及び二次電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池の極板の製造工程において正極活物質に鉄、ニッケル、銅、コバルト、亜鉛といった遷移金属単体が不純物として混入すると、これら遷移金属単体が正極電位で溶解して負極上にデンドライド状に析出することから内部短絡の原因となる可能性がある。特許文献1には、正極の製造工程の途中に磁石を設置することによって、磁性を有する金属不純物を除去する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-261407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に開示された方法では、正極活物質に混入する可能性のある銅、亜鉛などの非磁性体の金属不純物を除去できないという問題がある。本開示の目的は、合材層材料に混入した金属不純物を効率的に除去する方法を提供し、信頼性の高い二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の一態様である合材層材料の製造方法は、二次電池の極板の合材層を構成する合材層材料の製造方法であって、酸化還元電位が金属銅より貴である化合物と有機溶剤とを少なくとも含む酸化溶解液に前記合材層材料を浸漬する浸漬工程と、前記酸化溶解液から前記合材層材料を分離する分離工程とを有することを特徴とする。
【0006】
本開示の一態様である二次電池は、芯体と、芯体の少なくとも一方の表面に設けられた合材層とを有する極板を備え、合材層を構成する少なくとも1つの合材層材料の表面には2価の酸化銅が含まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示の一態様によれば、合材層材料に混入した金属不純物を効率的に除去することができて、信頼性の高い二次電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施形態の一例である二次電池の斜視図である。
図2】実施形態の一例である電極体を示す斜視図及び断面図である。
図3】実施形態の一例である正極活物質中の銅の状態を示すXPSスペクトルである。
図4】実施形態の一例である正極活物質中のニッケル、コバルト、マンガンの状態を示すXPSスペクトルである。
図5】実施形態の一例である正極活物質中の炭酸リチウムの状態を示すXPSスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
二次電池の製造ラインでは、耐食性や加工性の面から、ステンレス鋼や真鋳等の合金を使用した製造装置を設置していることがある。そのため、機械稼動による磨耗や、腐蝕によって製造工程に混入する金属不純物は、必ずしも磁性を有しているとは言えず、非磁性の銅、亜鉛などの金属不純物も混入する可能性がある。また、磁性材料であっても製造ラインの状況によっては磁石でも取り逃がす可能性もあり、事実上全ての磁性材料を磁石のみで回収することは難しい。
【0010】
また、二次電池の構成部材、例えば極板の合材層を構成する合材層材料に金属不純物が含有されている可能性もある。ここで本願において、金属不純物とは、遷移金属単体、又は遷移金属を含む合金を意味する。
【0011】
一方、二次電池の極板の製造工程において合材層材料に金属不純物が混入すると、内部短絡が発生する可能性がある。例えば、正極合材層に金属不純物が混入した場合には、金属不純物は充電時に正極から溶け出して負極上にデンドライド状に析出してセパレータを突き破り内部短絡を引き起こすことがある。また、負極合材層に金属不純物が混入した場合には、金属不純物がある程度大きいとセパレータを直接破って内部短絡を引き起こす可能性もある。
【0012】
本発明者らは、酸化還元電位が金属銅より貴である化合物と有機溶剤とを少なくとも含む酸化溶解液に合材層材料を浸漬することで、合材層材料に混入した金属不純物を溶解して除去できることを見出した。酸化還元電位が金属銅より貴である化合物は極めて酸化力が強いので、遷移金属単体、又は遷移金属を含む合金を一定条件の下で溶解することができる一方、酸化物、炭素材料、あるいは樹脂材料はハロゲン化遷移金属化合物によってほとんど影響を受けないので、金属不純物のみを選択的に除去することができる。酸化溶解液に浸漬する工程を経た合材層材料を用いて極板の合材層を形成すれば、信頼性の高い二次電池を作製することができる。酸化還元電位が金属銅より貴である化合物としては、ハロゲン化遷移金属化合物が好ましい。
【0013】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態の一例について詳説するが、本開示は以下で説明する実施形態に限定されない。
【0014】
本開示の実施形態の一例である二次電池の製造方法によって製造される二次電池として、ラミネートシート11a、11bで構成された外装体11を備えるラミネート電池(二次電池10)を例示する。但し、本開示に係る二次電池は、円筒形状の電池ケースを備えた円筒形電池、角形の電池ケースを備えた角形電池等であってもよく、電池の形態は特に限定されない。本開示に係る二次電池は、例えば、リチウムイオン電池である。
【0015】
図1は、二次電池10の斜視図である。二次電池10は、電極体14と、電解質とを備え、これらは外装体11の収容部12に収容されている。ラミネートシート11a、11bには、金属層と樹脂層が積層されてなるシートが用いられる。ラミネートシート11a、11bは、例えば金属層を挟む2つの樹脂層を有し、一方の樹脂層が熱圧着可能な樹脂で構成されている。金属層の例としては、アルミニウム層が挙げられる。
【0016】
電解質は、溶媒と、溶媒に溶解した電解質塩とを含む。溶媒は、非水溶媒及び水溶媒のいずれも使用できる。非水溶媒を使用した場合には、電解質は非水電解質となる。非水溶媒には、例えばカーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、アミド類、およびこれらの2種以上の混合溶媒等を用いてもよい。カーボネート類としては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネート類;ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等の鎖状カーボネート類が挙げられる。非水溶媒は、上記の溶媒の水素の少なくとも一部をフッ素等のハロゲン原子で置換したハロゲン置換体を含有していてもよい。なお、電解質は液体電解質に限定されず、ゲル状ポリマー等を用いた固体電解質であってもよい。電解質塩には、LiPF等のリチウム塩が使用される。
【0017】
外装体11は、例えば平面視略矩形形状を有する。外装体11にはラミネートシート11a、11b同士を接合して封止部13が形成され、これにより電極体14が収容された収容部12が密閉される。封止部13は、外装体11の端縁に沿って略同じ幅で枠状に形成されている。封止部13に囲まれた平面視略矩形状の部分が収容部12である。収容部12は、ラミネートシート11a、11bの少なくとも一方に電極体14を収容可能な窪みを形成することで設けられる。本実施形態では、当該窪みがラミネートシート11aに形成されている。
【0018】
二次電池10は、電極体14に接続された一対の電極リード(正極リード15及び負極リード16)を備える。各電極リードは、外装体11の内部から外部に引き出される。図1に示す例では、各電極リードが外装体11の同じ端辺から互いに略平行に引き出されている。正極リード15及び負極リード16はいずれも導電性の薄板であり、例えば正極リード15がアルミニウムを主成分とする金属で構成され、負極リード16が銅又はニッケルを主成分とする金属で構成される。
【0019】
図2は、電極体14の斜視図及び断面(AA線断面)の一部を示す図である。図2に例示するように、電極体14は、長尺状の正極20と、長尺状の負極30と、正極20と負極30の間に介在するセパレータ40とを有する。電極体14は、セパレータ40を介して正極20と負極30が巻回されてなる。負極30は、リチウムの析出を抑制するために、正極20よりも一回り大きな寸法で形成される。なお、電極体は、複数の正極と複数の負極がセパレータを介して積層されてなる積層型であってもよい。
【0020】
以下、電極体14を構成する正極20、負極30、及びセパレータ40について、特に酸化溶解液による両極板の合材層材料の製造方法について詳説する。
【0021】
[正極]
図2に例示するように、正極20は、正極芯体21と、正極芯体21上に設けられた正極合材層22とを有する。正極芯体21には、アルミニウム、アルミニウム合金など正極20の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。正極合材層22は、正極活物質、導電材、及び結着材(いずれも図示せず)を含み、主成分は正極活物質である。正極合材層22は、正極芯体21の両面に設けられることが好ましい。
【0022】
正極活物質は、ニッケル、コバルト、マンガン、鉄、及びリンから選択される少なくとも1種以上の元素を含むリチウム金属複合酸化物であることが好ましい。リチウム金属複合酸化物は、例えば、一般式LiMe(0.8≦x≦1.2、0.7≦y≦1.3)で表される複合酸化物である。式中、MeはNi、Co、及びMnの少なくとも1種を含む金属元素である。好適なリチウム金属複合酸化物の一例は、Ni、Co、Mnの少なくとも1種を含有する複合酸化物であって、例えばNi、Co、Mnを含有するリチウム金属複合酸化物、Ni、Co、Alを含有するリチウム金属複合酸化物である。なお、リチウム金属複合酸化物の粒子表面には、酸化タングステン、酸化アルミニウム、ランタノイド含有化合物等の無機物粒子などが固着していてもよい。
【0023】
リチウム金属複合酸化物に含有される元素は、Ni、Co、Mnに限定されず、他の元素を含んでいてもよい。他の元素としては、Li以外のアルカリ金属元素、Mn、Ni、Co以外の遷移金属元素、アルカリ土類金属元素、第12族元素、第13族元素、及び第14族元素が挙げられる。具体例としては、Al、B、Na、K、Ba、Ca、Mg、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Ga、Sr、Zr、Nb、In、Sn、Ta、W等が挙げられる。Zrを含有する場合、一般的に、リチウム金属複合酸化物の結晶構造が安定化され、正極活物質の高温での耐久性、及びサイクル特性が向上する。
【0024】
正極合材層22に含まれる導電材としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が例示できる。正極合材層22における導電材の含有量は、正極合材層22の総質量に対して0.5質量%~5質量%が好ましく、1質量%~3質量%がより好ましい。
【0025】
正極合材層22に含まれる結着材としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)等のフッ素樹脂、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリイミド樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂などが例示できる。これらの樹脂と、カルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩等のセルロース誘導体、ポリエチレンオキシド(PEO)などが併用されてもよい。正極合材層22における結着材の含有量は、正極合材層22の総質量に対して1質量%~7質量%が好ましく、2質量%~4質量%がより好ましい。
【0026】
[正極の合材層材料の製造方法]
次に、本開示の一態様である合材層材料の製造方法について説明する。本開示の一態様である合材層材料の製造方法は、二次電池の極板の合材層を構成する合材層材料の製造方法であって、(1)ハロゲン化遷移金属化合物と有機溶剤とを少なくとも含む酸化溶解液に合材層材料を浸漬する浸漬工程と、(2)酸化溶解液から合材層材料を分離する分離工程と、を有する。
【0027】
正極活物質、導電材、及び結着材から選択される少なくとも1種以上の合材層材料は、上記の製造方法により製造されるのが好ましい。酸化溶解液は金属を酸化してイオン化させるが正極活物質に含まれる酸化物や、導電材に含まれる炭素材料や、結着材に含まれる樹脂材料にはほとんど影響を与えないため、酸化溶解液は金属不純物を含む合材層材料から金属不純物のみを除去するには好適である。正極合材層22への金属不純物の混入を避けることで、充電中に金属不純物の結晶が負極上にデンドライド状に析出するのを抑制することができるので、二次電池の信頼性を高めることができる。
【0028】
本開示の一態様である合材層材料の製造方法は、(3)酸化溶解液から分離された合材層材料を洗浄する洗浄工程をさらに有することが、合材層材料の表面の清浄化の観点から好ましい。洗浄工程を実施した場合には、洗浄工程を経た合材層材料が正極合材層の材料に用いられ、洗浄工程を実施しない場合には、分離工程を経た合材層材料が正極合材層の材料に用いられる。
【0029】
合材層材料は、リチウム金属複合酸化物を含むことが好ましい。換言すれば、上記の製造方法で製造される合材層材料は、正極活物質であることが好ましい。正極合材層22の主成分は正極活物質なので、正極活物質が上記の製造方法により製造されることにより電池の信頼性を高めることができる。
【0030】
酸化溶解液に含まれるハロゲン化遷移金属化合物は、例えば、それぞれ1価又は2価のフッ化銅、塩化銅、臭化銅、又はヨウ化銅である。ハロゲン化遷移金属化合物は、CuBr、CuBr、CuCl、及びCuClから選択される少なくとも1種以上のハロゲン化銅を含むことが好ましい。ハロゲン化遷移金属化合物は、酸化溶解液中で酸化剤として機能する。例えばCuBrを含む酸化溶解液において、Cu2+とBrは、合材層材料に混入したCuを以下の化学反応式のように溶解する。
Cu+Cu2++4Br→2[CuBr
【0031】
酸化溶解液に含まれるハロゲン化遷移金属化合物の量は、合材層材料に含まれる金属不純物と反応し得る量、換言すれば金属不純物が全て酸化溶解液に溶解するに足りる量であればよい。金属不純物が酸化溶解液に溶解した時のイオン価数によって必要なハロゲン化遷移金属化合物の量は異なるが、例えば、合材層材料に含まれると想定される金属不純物のモル量と等モル量以上になるような量のハロゲン化遷移金属化合物を含む酸化溶解液を使用するのが好ましい。より好ましくは、合材層材料に含まれると想定される金属不純物のモル量に対して3倍以上になるようなモル量のハロゲン化遷移金属化合物を含む酸化溶解液を使用する。さらに好ましくは、合材層材料に含まれると想定される金属不純物のモル量に対して10倍以上になるようなモル量のハロゲン化遷移金属化合物を含む酸化溶解液を使用する。合材層材料に含まれると想定される金属不純物のモル量よりも大きいモル量のハロゲン化遷移金属化合物を含む酸化溶解液を使用することで、金属不純物の溶解に要する時間を短くすることができる。また、使用中の酸化溶解液に適宜ハロゲン化遷移金属化合物を添加してもよい。
【0032】
酸化溶解液に含まれる有機溶剤は、上記反応式が進行し、反応により生じる銅、亜鉛等の金属錯体イオンが溶解し得るものであれば特に限定されない。有機溶剤は、非プロトン性であることが好ましい。非プロトン性の極性有機溶媒の例としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルアセトアミド、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、炭酸プロピレンなどが挙げられる。有機溶剤は、2種類以上の混合であってもよい。
【0033】
酸化溶解液は、ハロゲン化アルカリ金属、ハロゲン化アルカリ土類金属、及びコハク酸イミド化合物から選択される少なくとも1種以上の錯化剤をさらに含むことが好ましい。酸化溶解液が錯化剤を含むことで、酸化溶解液中での金属不純物の溶解速度及び溶解量を増大させることができる。酸化溶解液中において、ハロゲン化遷移金属化合物に対する錯化剤の濃度比は、0.5倍~10倍が好ましく、2倍~5倍がより好ましい。
【0034】
錯化剤は、ハロゲン化アルカリ金属及びコハク酸イミド化合物から選択される少なくとも1種以上の化合物を含むことがさらに好ましい。ハロゲン化アルカリ金属又はハロゲン化アルカリ土類金属に含まれるハロゲンとしては、酸化溶解液に含まれるハロゲン化遷移金属化合物と同じハロゲンであることが好ましい。ハロゲン化アルカリ金属は、ハロゲン化カリウム又はハロゲン化リチウムが好ましく、KBr、KCl、LiBr、LiClがより好ましい。コハク酸イミド化合物は、任意の置換基を有するコハク酸イミド(スクシンイミド)、及び公知のコハク酸イミド誘導体を含み、コハク酸イミドが好ましい。例えば、酸化溶解液中での金属不純物の溶解促進の観点から、酸化溶解液に含まれるハロゲン化遷移金属化合物がCuBrの場合にはコハク酸イミド化合物を用いることが好ましく、ハロゲン化銅がCuBrの場合にはKBr又はLiBrを用いることが好ましい。
【0035】
浸漬工程において、金属不純物の溶解速度及び溶解量を増大させるために、酸化溶解液の温度を高くすることができる。酸化溶解液の温度が高いほど金属不純物の溶解反応は促進される。一方、安全の観点から、酸化溶解液の温度は、有機溶剤の沸点以下とするのが好ましい。浸漬温度は、例えば25℃~150℃であり、好ましくは50℃~100℃である。
【0036】
浸漬工程において、合材層材料は酸化物や樹脂を主成分とするため酸化溶解液によってほとんど変質することはないので、合材層材料を酸化溶解液に浸漬する浸漬時間は特に限定されない。金属不純物の溶解量を増大させるために、浸漬時間を長くすることができる。浸漬時間は、例えば30分~48時間であり、好ましくは1時間~24時間の範囲で設定することができる。
【0037】
上記の浸漬工程の後に、分離工程が実施される。浸漬工程後の酸化溶解液中から合材層材料を取り出す方法は、固体と液体を分離できる方法であれば特に限定されないが、例えば、ろ過、デカンテーションを用いることができる。ろ過を用いる場合には、例えば、プレフィルター、メンブレンフィルター等を使用することができる。また、吸引しても自然にろ過してもよい。分離工程の際の酸化溶解液の温度も特に限定されないが、例えば室温で実施することができる。
【0038】
上記の分離工程の後に、洗浄工程を実施してもよい。取り出された合材層材料の表面には、金属錯体イオン等が付着している可能性があるため、洗浄液で洗浄を行うことが好ましい。浸漬処理を経た合材層材料の表面をより清浄化するために複数回洗浄してもよい。洗浄液としては、金属錯体イオンを溶解できるものであればよく、特に限定されないが、非プロトン性であることが好ましい。非プロトン性の極性有機溶媒の例としては、酸化溶解液中の有機溶剤と同様にN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が挙げられ、2種類以上の混合であってもよい。
【0039】
正極20の合材層を構成する少なくとも1つの合材層材料の表面には、2価の酸化銅が含まれてもよい。合材層材料が表面近傍に2価の酸化銅を含むことがあるが、2価の酸化銅は充電あるいは放電過程においてイオンとなって電解液中に溶出することはないので内部短絡の原因にはならず、表面近傍に存在しても特に問題はない。
【0040】
正極20は、例えば正極芯体21上に、正極活物質、導電材、結着材等を含む正極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して正極合材層22を正極芯体21の両面に設けることにより作製できる。正極合材スラリーに含まれる正極活物質、導電材、結着材のいずれか1種以上の化合物は、浸漬工程を経たものを用いることができる。
【0041】
[負極]
負極30は、負極芯体31と、負極芯体31上に設けられた負極合材層32とを有する。負極芯体31には、銅、銅合金など負極30の電位範囲で安定な金属の箔、当該金属を表層に配置したフィルム等を用いることができる。負極合材層32は、負極活物質、及びスチレンブタジエンゴム(SBR)等の結着材、及びカルボキシメチルセルロース(CMC)等の増粘材を含み、負極芯体31の両面に設けられることが好ましい。
【0042】
負極合材層32は、負極活物質として、鱗片状黒鉛、塊状黒鉛、土状黒鉛等の天然黒鉛、塊状人造黒鉛、黒鉛化メソフェーズカーボンマイクロビーズ等の人造黒鉛などの黒鉛を含むことが好ましい。また、負極活物質として、非晶質炭素を用いてもよい。負極合材層32には、黒鉛以外の負極活物質が混在していてもよい。黒鉛以外の負極活物質としては、Si、Sn等のリチウムと合金化する金属、当該金属を含有する合金、当該金属を含有する化合物等が挙げられる。中でも、SiO(0.5≦x≦1.6)で表される酸化ケイ素等のSiを含有するケイ素化合物が好ましい。
【0043】
負極活物質、結着材、及び増粘剤から選択される少なくとも1種以上の合材層材料の製造方法は、(1)ハロゲン化遷移金属化合物と有機溶剤とを少なくとも含む酸化溶解液に
合材層材料を浸漬する浸漬工程と、(2)酸化溶解液から合材層材料を分離する分離工程と、を有する。なお、(3)酸化溶解液から分離した合材層材料を洗浄する洗浄工程をさらに有することが好ましい。浸漬工程、分離工程、及び洗浄工程は、上述の正極20の合材層材料の製造方法と同様のものを用いることができる。
【0044】
負極30の合材層を構成する少なくとも1つの合材層材料の表面には、2価の酸化銅が含まれてもよい。上記洗浄後において、合材層材料が表面近傍に2価の酸化銅を含むことがあるが、2価の酸化銅は充電あるいは放電過程においてイオンとなって電解液中に溶出することはなく、還元されるとしても元々存在していた箇所にて還元されるため、デンドライト状に金属が析出することはなく、内部短絡の原因にはならず、表面近傍に存在しても特に問題はない。
【0045】
上記の製造方法で製造される合材層材料は、負極活物質であることが特に好ましい。負極合材層32の主成分は負極活物質なので、負極活物質が上記の製造方法により製造されることにより電池の信頼性を高めることができる。酸化溶解液は金属を酸化してイオン化するが負極活物質に含まれる炭素材料や、結着材、増粘材に含まれる樹脂材料にはほとんど影響を与えないため、酸化溶解液は合材層材料から金属不純物のみを除去するには好適である。負極合材層32への金属不純物の混入を避けることで、金属不純物によってセパレータ40が破れることを抑制できる。
【0046】
負極30は、負極芯体31上に負極活物質、及び結着材等を含む負極合材スラリーを塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧縮して負極合材層32を負極芯体31の両面に設けることにより作製できる。負極合材スラリーに含まれる負極活物質、結着材及び増粘剤のいずれか1種以上の化合物は、浸漬工程を経たものを用いることができる。
【0047】
[セパレータ]
セパレータ40には、イオン透過性及び絶縁性を有する多孔性シートが用いられる。多孔性シートの具体例としては、微多孔薄膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータ40の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、セルロースなどが好適である。セパレータ40は、単層構造、積層構造のいずれであってもよい。セパレータ40の表面には、耐熱層などが形成されていてもよい。
【実施例
【0048】
以下、実施例により本開示をさらに説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
<実施例1>
[正極活物質粒子の製造方法]
合材層材料としてLiNi1/3Co1/3Mn1/3で表されるリチウム金属複合酸化物粒子に銅粉(高純度化学社製、品番:CUE11PB、粒度:目開き75μmのメッシュパス品)を100ppm混合したものを用意した。別途、大気中で1.0LのDMSOに、CuBr44.6g(200mmol)、KBr23.8g(200mmol)を溶解させた酸化溶解液を作製した。合材層材料135g(1400mmol)を70℃の酸化溶解液に15時間浸漬した。次に、酸化溶解液を、室温に戻し、メンブレンフィルター(ADVANTEC社製、素材:ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポアサイズ:0.2μm)で吸引ろ過した後、フィルター上の合材層材料を、DMSOで洗浄して正極活物質粒子を得た。
【0050】
[正極の作製]
上記の製造方法により得られた合材層材料としての正極活物質粒子と、PVdFと、アセチレンブラックとを、87:3:10の固形分質量比で混合し、NMPを適量加えて、正極合材スラリーを調製した。次に、正極合材スラリーを厚み15μmのアルミニウム箔からなる正極芯体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた。ローラを用いて乾燥した塗膜を圧縮した後、所定の電極サイズに切断し、方形状の正極芯体の両面に正極合材層が形成された正極を作製した。正極合材層が形成された部分の大きさを電池の設計容量が100mAhとなるように調整し、正極の端部に正極芯体露出部を設けた。
【0051】
[負極の作製]
黒鉛と、SBRと、CMCとを、98:1:1の固形分質量比で混合し、水を適量加えて、負極合材スラリーを調製した。次に、当該負極合材スラリーを厚み10μmの銅箔からなる負極芯体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた。ローラを用いて乾燥した塗膜を圧縮した後、所定の電極サイズに切断し、方形状の負極芯体の両面に負極合材層が形成された負極を作製した。負極合材層が形成された部分の大きさを電池の設計容量が100mAhとなるように調整し、負極の端部に負極芯体露出部を設けた。
【0052】
[電極体の作製]
上記正極及び上記負極を、厚み20μmのポリプロピレン(PP)/ポリエチレン(PE)/ポリプロピレン(PP)の三層構造のセパレータを介して積層し、電極体を作製した。正極芯体露出部に正極リードを、負極芯体露出部に負極リードをそれぞれ溶接した。
【0053】
[電解質の調製]
エチレンカーボネート(EC)と、エチルメチルカーボネート(EMC)と、ジエチルカーボネート(DEC)とを、35:30:35の体積比(25℃、1気圧)で混合した。当該混合溶媒にLiPFを1mol/Lの濃度で溶解させて電解質を調製した。
【0054】
[二次電池の作製]
正極リード及び負極リードが袋状のラミネート外装体から外側に突出するようにして上記電極体及び上記電解質を外装体に収容し、外装体の開口部を封止して二次電池を作製した。
【0055】
<実施例2>
浸漬工程前の合材層材料に含まれる銅粉を亜鉛粉(高純度化学社製、品番:ZNE03PB、粒度:目開き150μmのメッシュパス品)に変更したこと以外は実施例1と同様に行った。
【0056】
<比較例1>
浸漬工程、分離工程、及び洗浄工程を経ていない合材層材料を用いて正極合材スラリーを調製したこと以外は実施例1と同様に行った。
【0057】
<比較例2>
浸漬工程、分離工程、及び洗浄工程を経ていない合材層材料を用いて正極合材スラリーを調製したこと以外は実施例2と同様に行った。
【0058】
<参考例1>
合材層材料は銅粉を添加せずにリチウム金属複合酸化物粒子のみとしたこと以外は実施例1と同様に行った。
【0059】
各実施例、比較例、及び参考例で作製した二次電池について、以下の充放電工程a~dが終了毎に電池用テスターで電池電圧を測定し、結果を表1に示した。
【0060】
[充放電工程]
(1)充放電工程a
作製した2次電池を25℃条件下、20mAで30分間定電流充電し、24時間放置した。
(2)充放電工程b
充放電工程a後の二次電池を25℃条件下、50mAで48分間定電流充電し、24時間放置した。
(3)充放電工程c
充放電工程b後の二次電池を75℃条件下で10時間放置し、その後25℃で24時間放置した。
(4)充放電工程d
充放電工程c後の二次電池を25℃条件下、50mAで4.20Vまで定電流充電した後、電流値が5mAになるまで4.20Vで定電圧充電した。次に、10分放置した後に2.50Vまで100mAで放電した。放電後、24時間放置した。
【0061】
【表1】
【0062】
比較例1、比較例2では、充放電工程a後で電圧不良が発生し、電池電圧が参考例と比較して大幅に低下した。充放電工程a後の比較例1、比較例2の二次電池を解体しセパレータを確認したところ内部短絡痕が見られ、負極上に混合した銅、亜鉛が析出していた。比較例1、比較例2は充放電工程a後で電圧不良が発生したため、以降の充放電工程は行わなかった。一方、実施例1、実施例2では、各充放電工程後において電池電圧は参考例1と同等の値が得られ、電圧低下は確認されなかった。充放電工程d後の実施例1、実施例2の二次電池を解体してセパレータを確認したところ、内部短絡痕は見られなかった。したがって、ハロゲン化遷移金属化合物と有機溶剤とを少なくとも含む酸化溶解液に合材層材料を浸漬することで、合材層材料に混入した金属不純物を効率的に除去することができるので、信頼性の高い二次電池を提供できる。
【0063】
<参考例2>
合材層材料は銅粉を添加せずにリチウム金属複合酸化物粒子のみとしたこと以外は実施例1と同様にして、正極活物質粒子を得た。
【0064】
<参考例3>
実施例1で用いたリチウム金属複合酸化物粒子と同じもので、浸漬工程、分離工程、及び洗浄工程を経ていない正極活物質粒子を使用した。
【0065】
[元素分析]
参考例2及び参考例3で得られた正極活物質粒子について、エネルギー分散型X線分析(Energy dispersive X-ray spectrometry;EDX)を用いて、ニッケル、コバルト、マンガン、銅の元素の定量分析を行った。表2に分析結果を示す。
【0066】
【表2】
【0067】
[表面分析]
参考例2及び参考例3で得られた正極活物質の表面のXPS測定を下記の条件で行った。XPS測定により得られたXPSスペクトルから求めた測定元素の原子濃度を表3に示す。また、XPSスペクトルを図3図5に示す。
装置:ULVAC PHI,Inc.製 PHI Quantera SXM
X線源:A1-mono(1486eV 正極20kV/100W)
光電子取り出し角:45°
中和条件:電子+フローティングイオン中和
測定元素:Li、C、O、K、Mn、Co、Ni、Cu
【0068】
【表3】
【0069】
表2から、本開示の一態様に係る浸漬工程を経ることで、正極活物質粒子に銅が含まれ、銅の含有量はニッケル、コバルト、マンガン、銅の原子数総和に対して、1.4At%であった。また、表3に示すように正極活物質粒子の表面に6At%の銅の存在が確認された。しかし、図3(a)、(b)から正極活物質粒子の表面の銅は2価の酸化銅であることがわかった。2価の酸化銅は正極活物質粒子に含まれていても充電時に酸化、溶出しないため、電圧不良、換言すれば内部短絡の問題は生じない。なお、上記の条件によるXPS測定で検出される元素は表面から深さ方向5nm以下に存在する元素である。一方、図4(a)~(d)から浸漬処理によっても正極活物質粒子の表面のニッケル、コバルト、マンガンの価数状態に変化はなかった。また、表3から、浸漬処理により正極活物質粒子の表面のリチウムの含有量が減少したことがわかるが、図5に示す炭酸リチウム由来のピーク(290eV)が低くなっていたことから、正極活物質粒子の表面にあった抵抗成分である炭酸リチウムが浸漬処理によって除去されていることがわかった。
【符号の説明】
【0070】
10 二次電池、11 外装体、11a、11b ラミネートシート、12 収容部、13 封止部、14 電極体、15 正極リード、16 負極リード、20 正極、21 正極芯体、22 正極合材層、30 負極、31 負極芯体、32 負極合材層、40 セパレータ
図1
図2
図3
図4
図5