(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
H01H 39/00 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
H01H39/00 C
(21)【出願番号】P 2018523972
(86)(22)【出願日】2017-06-14
(86)【国際出願番号】 JP2017021994
(87)【国際公開番号】W WO2017217464
(87)【国際公開日】2017-12-21
【審査請求日】2020-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2016120779
(32)【優先日】2016-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002901
【氏名又は名称】株式会社ダイセル
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】特許業務法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】升本 貴也
【審査官】内田 勝久
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-544451(JP,A)
【文献】特開2000-251599(JP,A)
【文献】特表2013-522834(JP,A)
【文献】特開2009-99559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01H 39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向に形成された貫通孔を有するアクチュエータ本体と、前記貫通孔内を摺動可能に配置された出力ピストン部と、を備え、該出力ピストン部を該アクチュエータ本体の出力面から突出させることで対象物に対して所定力を作用させるアクチュエータであって、
火薬が収容される第1空間を形成し、且つ該火薬を燃焼させると該第1空間の圧力が上昇することにより破壊されるように所定の剛性材料で形成された隔壁部材を有する点火装置と、
基部が前記点火装置側で固定され且つ前記点火装置を覆って前記アクチュエータ本体内の空間に配置されるケースであって、該ケースと該点火装置の前記隔壁部材との間に第2空間を画定するとともに、該点火装置での前記火薬の燃焼により生成される燃焼生成物を該第2空間内に封入するケースと、
を備え、
前記ケースは、
前記点火装置での火薬燃焼により前記第2空間内の圧力が上昇することで、前記ケースの一部が、前記出力ピストン部の端部であって前記出力面から突出する端部とは反対側の所定端部に近接するように、該近接方向に延伸する延伸部と、
前記ケースの一部に設けられ、前記延伸部の延伸により前記出力ピストン部の前記所定端部を押圧する押圧部と、
を有
し、
前記第2空間内に、燃焼によって所定ガスを生成するガス発生剤が収容され、
前記延伸部は、前記点火装置での火薬燃焼及び前記ガス発生剤の燃焼により前記第2空間内の圧力が上昇することで、前記ケースの一部が前記近接方向に延伸する、
アクチュエータ。
【請求項2】
軸方向に形成された貫通孔を有するアクチュエータ本体と、前記貫通孔内を摺動可能に配置された出力ピストン部と、を備え、該出力ピストン部を該アクチュエータ本体の出力面から突出させることで対象物に対して所定力を作用させるアクチュエータであって、
火薬が収容される第1空間を形成し、且つ該火薬を燃焼させると該第1空間の圧力が上昇することにより破壊されるように所定の剛性材料で形成された隔壁部材を有する点火装置と、
基部が前記点火装置側で固定され且つ前記点火装置を覆って前記アクチュエータ本体内
の空間に配置されるケースであって、該ケースと該点火装置の前記隔壁部材との間に第2空間を画定するとともに、該点火装置での前記火薬の燃焼により生成される燃焼生成物を該第2空間内に封入するケースと、
を備え、
前記ケースは、
前記点火装置での火薬燃焼により前記第2空間内の圧力が上昇することで、前記ケースの一部が、前記出力ピストン部の端部であって前記出力面から突出する端部とは反対側の所定端部に近接するように、該近接方向に延伸する延伸部と、
前記ケースの一部に設けられ、前記延伸部の延伸により前記出力ピストン部の前記所定端部を押圧する押圧部と、
を有し、
前記ケースの一部は、該ケースの先端側の端面であって、
前記ケースの先端側端面の面積は、前記出力ピストン部の前記所定端部の端面面積よりも大きく形成される、
アクチュエータ。
【請求項3】
軸方向に形成された貫通孔を有するアクチュエータ本体と、前記貫通孔内を摺動可能に配置された出力ピストン部と、を備え、該出力ピストン部を該アクチュエータ本体の出力面から突出させることで対象物に対して所定力を作用させるアクチュエータであって、
火薬が収容される第1空間を形成し、且つ該火薬を燃焼させると該第1空間の圧力が上昇することにより破壊されるように所定の剛性材料で形成された隔壁部材を有する点火装置と、
基部が前記点火装置側で固定され且つ前記点火装置を覆って前記アクチュエータ本体内の空間に配置されるケースであって、該ケースと該点火装置の前記隔壁部材との間に第2空間を画定するとともに、該点火装置での前記火薬の燃焼により生成される燃焼生成物を該第2空間内に封入するケースと、
を備え、
前記ケースは、
前記点火装置での火薬燃焼により前記第2空間内の圧力が上昇することで、前記ケースの一部が、前記出力ピストン部の端部であって前記出力面から突出する端部とは反対側の所定端部に近接するように、該近接方向に延伸する延伸部と、
前記ケースの一部に設けられ、前記延伸部の延伸により前記出力ピストン部の前記所定端部を押圧する押圧部と、
を有し、
前記点火装置での火薬燃焼により前記延伸部が最大限に延伸した状態において、前記ケースの一部と、前記アクチュエータ本体の内部空間を形成する内壁面であって、前記貫通孔の端部の近傍であり且つ該ケースの一部に対向する所定の内壁面との間に、所定の空隙が存在するように構成される、
アクチュエータ。
【請求項4】
軸方向に形成された貫通孔を有するアクチュエータ本体と、前記貫通孔内を摺動可能に配置された出力ピストン部と、を備え、該出力ピストン部を該アクチュエータ本体の出力面から突出させることで対象物に対して所定力を作用させるアクチュエータであって、
火薬が収容される第1空間を形成し、且つ該火薬を燃焼させると該第1空間の圧力が上昇することにより破壊されるように所定の剛性材料で形成された隔壁部材を有する点火装置と、
基部が前記点火装置側で固定され且つ前記点火装置を覆って前記アクチュエータ本体内の空間に配置されるケースであって、該ケースと該点火装置の前記隔壁部材との間に第2空間を画定するとともに、該点火装置での前記火薬の燃焼により生成される燃焼生成物を該第2空間内に封入するケースと、
を備え、
前記ケースは、
前記点火装置での火薬燃焼により前記第2空間内の圧力が上昇することで、前記ケースの一部が、前記出力ピストン部の端部であって前記出力面から突出する端部とは反対側の所定端部に近接するように、該近接方向に延伸する延伸部と、
前記ケースの一部に設けられ、前記延伸部の延伸により前記出力ピストン部の前記所定端部を押圧する押圧部と、
を有し、
前記アクチュエータ本体の内部空間を形成する内壁面であって、前記貫通孔の端面の近傍であり且つ前記ケースの一部に対向する所定の内壁面上に緩衝部材が設けられ、
前記点火装置での火薬燃焼により前記延伸部が延伸すると、前記緩衝部材に接触し、該延伸部の延伸が止められる、
アクチュエータ。
【請求項5】
軸方向に形成された貫通孔を有するアクチュエータ本体と、前記貫通孔内を摺動可能に配置された出力ピストン部と、を備え、該出力ピストン部を該アクチュエータ本体の出力面から突出させることで対象物に対して所定力を作用させるアクチュエータであって、
火薬が収容される第1空間を形成し、且つ該火薬を燃焼させると該第1空間の圧力が上昇することにより破壊されるように所定の剛性材料で形成された隔壁部材を有する点火装置と、
基部が前記点火装置側で固定され且つ前記点火装置を覆って前記アクチュエータ本体内の空間に配置されるケースであって、該ケースと該点火装置の前記隔壁部材との間に第2空間を画定するとともに、該点火装置での前記火薬の燃焼により生成される燃焼生成物を該第2空間内に封入するケースと、
を備え、
前記ケースは、
前記点火装置での火薬燃焼により前記第2空間内の圧力が上昇することで、前記ケースの一部が、前記出力ピストン部の端部であって前記出力面から突出する端部とは反対側の所定端部に近接するように、該近接方向に延伸する延伸部と、
前記ケースの一部に設けられ、前記延伸部の延伸により前記出力ピストン部の前記所定端部を押圧する押圧部と、
を有し、
前記ケースの一部において、該ケースの内部又は外部に所定の厚さを有する補強板が設けられる、
アクチュエータ。
【請求項6】
前記ケースの一部における厚さは、該一部以外の部分における該ケースの厚さよりも厚く形成される、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載のアクチュエータ。
【請求項7】
前記延伸部は、前記アクチュエータ本体の軸方向に延在する内壁面に対向する前記ケースの側壁部において、前記点火装置での火薬燃焼前の状態において蛇腹状に折り畳まれて形成され、且つ、該点火装置での火薬燃焼により該軸方向に延伸する、
請求項1
から請求項6の何れか1項に記載のアクチュエータ。
【請求項8】
前記点火装置での火薬燃焼前の状態において、前記押圧部は、前記出力ピストン部の前記所定端部に接触した状態となるように、前記ケースは前記アクチュエータ本体内に配置される、
請求項1から請求項
7の何れか1項に記載のアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、出力ピストン部を介して対象物に所定力を作用させるアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
電気回路には、その電気回路を構成する機器の異常時や、同電気回路が搭載されたシステムの異常時に作動することによって機器間の導通を遮断する遮断装置が設けられる場合がある。その一態様として、高圧ガスによって切断部材を高速で移動させて、機器間に介在された導電体を強制的に且つ物理的に切断する導通遮断装置が提案されている。例えば、特許文献1の技術では、ガス発生器によって発生された高圧ガスにより切断部材を駆動して、電気回路の一部をなす導電体の切断を行うとともに、当該切断によって生じた導電体での切断端部間で発生するアークの消弧を行う。これにより、より確実な導通遮断が図られる。
【0003】
また、火薬の燃焼エネルギーを用いた、加圧のためのアクチュエータも開発されている。このように火薬を利用する場合には点火器が使用されることが多い。一例として、特許文献2には、火薬の燃焼エネルギーを利用する点火器が開示されている。当該技術では、点火器の外殻を形成するカップの周壁部分が蛇腹状に形成され、点火器内の火薬が燃焼する前においては、その蛇腹状部分は、カップの軸方向に収縮された状態となっている。そして、点火薬が燃焼すると、点火器内の圧力の上昇に伴って蛇腹部分が延伸され、以てカップの先端部分の位置がカップ軸方向に推進される。このようなカップ先端部分の推進作用を、アクチュエータの出力部として利用する形態も、特許文献2には開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-49300号公報
【文献】米国特許第7063019号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
対象物に所定力を作用させるアクチュエータにおいて火薬の燃焼エネルギーを動力源として効率的に使用するためには、発生した燃焼エネルギーを効率的にアクチュエータの出力ピストン部に伝える必要がある。そのためには、火薬の燃焼によって生じた燃焼生成物を一定の閉空間に封入しその内部の圧力を高めることが重要となる。また、このように燃焼生成物を一定の閉空間に封入しておくことで、燃焼生成物による好ましくない影響を抑制することができる。
【0006】
一方で、従来技術のような点火器では、火薬の燃焼により生じた燃焼生成物をカップ内に封入しながら、カップ先端部分の推進作用を利用して加圧を行うことが可能である。しかし、点火薬の燃焼に起因する内部空間の圧力に応じて点火器のカップに設けられた蛇腹部分が延伸していくことになると、蛇腹部分の延伸により点火器の内部空間の容積が増加していくことになるため、火薬の燃焼速度に影響が及ぼされ、火薬の燃焼速度が緩慢となってしまう虞がある。したがって、従来技術の点火器をアクチュエータの動力源として採用したとしても、点火器の内部空間の圧力上昇も緩慢となり出力ピストン部の出力が低下し、効率的な所定力の作用が困難となり得る。
【0007】
そこで、本発明は、上記した問題に鑑み、火薬燃焼により駆動されるアクチュエータにおいて、効率的な所定力の作用を可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明は、アクチュエータが有する点火装置内の火薬は、圧力上昇により破壊される隔壁部材で形成される第1空間内に収容され、一方で、点火装置を収容するケースは、その内部の第2空間の圧力上昇によっても破壊されず、火薬の燃焼生成物は、その第2空間内に封入され続ける構成を採用した。その上で、ケースに延伸部が設けられることで、第2空間内の圧力上昇によりケースの一部を推進させ、火薬の燃焼エネルギーを出力ピストン部に伝達させる構成を採用した。
【0009】
具体的には、本発明は、軸方向に形成された貫通孔を有するアクチュエータ本体と、前記貫通孔内を摺動可能に配置された出力ピストン部と、を備え、該出力ピストン部を該アクチュエータ本体の出力面から突出させることで対象物に対して所定力を作用させるアクチュエータであって、火薬が収容される第1空間を形成し、且つ該火薬を燃焼させると該第1空間の圧力が上昇することにより破壊されるように所定の剛性材料で形成された隔壁部材を有する点火装置と、基部が前記点火装置側で固定され且つ前記点火装置を覆って前記アクチュエータ本体内の空間に配置されるケースであって、該ケースと該点火装置の前記隔壁部材との間に第2空間を画定するとともに、該点火装置での前記火薬の燃焼により生成される燃焼生成物を該第2空間内に封入するケースと、を備える。そして、前記ケースは、前記点火装置での火薬燃焼により前記第2空間内の圧力が上昇することで、前記ケースの一部が、前記出力ピストン部の端部であって前記出力面から突出する端部とは反対側の所定端部に近接するように、該近接方向に延伸する延伸部と、前記ケースの一部に設けられ、前記延伸部の延伸により前記出力ピストン部の前記所定端部を押圧する押圧部と、を有する。
【0010】
本発明に係るアクチュエータでは、点火装置での火薬燃焼で生じたエネルギーが出力ピストン部に伝って、該出力ピストン部が貫通孔内を摺動することになる。そして、出力ピストン部がアクチュエータ本体の出力面から突出することで、その突出した出力ピストン部の端部が、対象物に対して所定力を作用させることが可能となる。なお、火薬の燃焼によるエネルギーの出力ピストン部への伝達については、後述の通り、ケースを介して行われる。なお、本発明のアクチュエータでは、火薬の具体的な成分については、特定の成分に限定されるものではない。
【0011】
このような点火装置において火薬が燃焼すると、その燃焼生成物が隔壁部材によって形成された第1空間に拡散し、第1空間内の圧力が上昇する。ここで、隔壁部材は、第1空間の圧力が上昇すると破壊されるように所定の剛性材料で形成されており、そのため破壊されるまでの間は第1空間は実質的には変形しない。そのため、火薬が燃焼を開始してから第1空間内の圧力は速やかに上昇することが可能となる。なお、所定の剛性材料としては、好適には樹脂材料が採用できる。そして、第1空間内の圧力により隔壁部材が破壊されると、第2空間に火薬の燃焼生成物が拡散することになる。ここで、上記の通り、隔壁部材により第1空間内の圧力が速やかに上昇するため、火薬の燃焼は、途中で緩慢になることなく速やかに進行する。このことは、燃焼エネルギーを出力ピストン部へ速やかに伝達させることに資するものである。
【0012】
ここで、第2空間を形成するケースは、点火装置の隔壁部材とは異なり、第2空間の圧力が上昇しても破壊することはなく、火薬の燃焼生成物は、第2空間内に封入される。また、第2空間の圧力が上昇すると、ケースが有する延伸部が延伸し、ケースの一部が出力ピストン部の所定端部に近接し、当該ケースの一部に設けられた押圧部により当該所定端部が押圧されることになる。このようなケースの変形により、火薬の燃焼によるエネルギーが、出力ピストン部へ伝達されることになる。
【0013】
以上より、本発明のアクチュエータによれば、隔壁部材で形成される第1空間内で火薬が燃焼されることで、第1空間の圧力を速やかに上昇させることが容易となる。そして、火薬の燃焼により延伸部が延伸し押圧部による出力ピストン部の押圧が行われることで出力ピストン部が駆動される。このように、本願発明のアクチュエータでは、火薬の速やかな燃焼により、対象物への所定力の作用を効率的に実現し得る。また、この押圧部による押圧過程において、火薬の燃焼生成物は、第2空間内に封入された状態が維持される。そのため、燃焼残渣等の影響を回避することが可能となる。また、第2空間内への封入が維持されることで、火薬の燃焼により生じる騒音(燃焼騒音)が空間外部に漏れにくくなる。
【0014】
ここで上記のアクチュエータにおいて、前記第2空間内に、燃焼によって所定ガスを生成するガス発生剤が収容され、前記延伸部は、前記点火装置での火薬燃焼及び前記ガス発生剤の燃焼により前記第2空間内の圧力が上昇することで、前記ケースの一部が前記近接方向に延伸するように構成されてもよい。このような構成では、火薬の燃焼により第1空間内の圧力により隔壁部材が破壊されると、第2空間に収容されているガス発生剤が火薬の燃焼生成物に晒され、受熱することで、その燃焼が開始されることになる。ここで、隔壁部材により第1空間内の圧力が速やかに上昇するため、ガス発生剤の燃焼開始も速やかに行われる。このことは、燃焼エネルギーを出力ピストン部へ速やかに伝達させることに資するものである。
【0015】
そして、ガス発生剤が燃焼開始すると、生成された所定ガスは第2空間に拡散し、第2空間内の圧力が上昇することで、延伸部が延伸し押圧部により所定端部が押圧され、以て、火薬及びガス発生剤の燃焼によるエネルギーが、出力ピストン部へ伝達されることになる。このような構成でも、火薬の燃焼生成物とガス発生剤による所定ガスは、第2空間内に封入される。したがって、所定ガスの外部への放出を抑制でき、また、火薬及びガス発生剤の燃焼により生じる騒音(燃焼騒音)を抑制できる。なお、本発明のアクチュエータでは、ガス発生剤の具体的な成分については、特定の成分に限定されるものではない。
【0016】
ここで、上記のアクチュエータにおいて、前記延伸部は、前記アクチュエータ本体の軸方向に延在する内壁面に対向する前記ケースの側壁部において、前記点火装置での火薬燃焼前の状態において蛇腹状に折り畳まれて形成され、且つ、該点火装置での火薬燃焼により該軸方向に延伸するように構成されてもよい。このように延伸部が蛇腹状に形成されることで、第2空間の圧力上昇により折り畳まれた蛇腹部分が展開されて、ケースの一部に設けられた押圧部を出力ピストン部の所定端面に向けて近接、推進させることが可能となる。
【0017】
また、上述までのアクチュエータにおいて、前記ケースの一部は、該ケースの先端側の端面であって、前記ケースの先端側端面の面積は、前記出力ピストン部の前記所定端部の端面面積よりも大きく形成されてもよい。このような構成により、延伸部が延伸したときに、ケースの端面上に設けられた押圧部が、より確実に出力ピストン部の所定端部に接触し、火薬等の燃焼エネルギーを出力ピストン部に伝達することが可能となる。
【0018】
なお、上述までのように、延伸部の延伸により押圧部が出力ピストン部の所定端部を押圧する構成においては、火薬やガス発生剤の燃焼によって、押圧部が設けられているケースの一部には、比較的大きな圧力が掛かることになる。そこで、その圧力が掛かる部位の強度を高めるように、前記ケースの一部における厚さを、該一部以外の部分における該ケースの厚さよりも厚く形成してもよい。また、当該部位の補強の別法として、前記ケースの一部において、該ケースの内部又は外部に所定の厚さを有する補強板を設けてもよい。なお、補強板の所定の厚さは、ケースの一部に掛かる圧力を考慮し、押圧部による押圧が行われる際にケースが破壊されないようにするために十分な厚さとされる。
【0019】
ここで、上述までのアクチュエータにおいて、前記点火装置での火薬燃焼前の状態において、前記押圧部は、前記出力ピストン部の前記所定端部に接触した状態となるように、前記ケースは前記アクチュエータ本体内に配置されてもよい。このような配置により、第2空間の圧力が上昇し始めると、その圧力を速やかに出力ピストン部に伝達することが可能となる。
【0020】
また、上述までのアクチュエータは、前記点火装置での火薬燃焼により前記延伸部が最大限に延伸した状態において、前記ケースの一部と、前記アクチュエータ本体の内部空間を形成する内壁面であって、前記貫通孔の端部の近傍であり且つ該ケースの一部に対向する所定の内壁面との間に、所定の空隙が存在するように構成されてもよい。このような構成により、延伸部が最大限延伸したときであっても、ケースの一部が所定の内壁面に接触した状態となることを回避することができる。このことは、その最大延伸時に、ケースの一部に対して所定の内壁面から比較的大きな衝撃が掛かることを回避することができ、第2空間による燃焼生成物等の封入状態の維持に資するものである。また、別法として、上述までのアクチュエータにおいて、前記アクチュエータ本体の内部空間を形成する内壁面であって、前記貫通孔の端面の近傍であり且つ前記ケースの一部に対向する所定の内壁面上に緩衝部材が設けられてもよく、この場合、前記点火装置での火薬燃焼により前記延伸部が延伸すると、前記緩衝部材に接触し、該延伸部の延伸が止められることになる。このように緩衝部材を介して、ケースの一部が所定の内壁面に対して接触することで、その接触の際の衝撃を軽減することが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、火薬燃焼により駆動されるアクチュエータにおいて、効率的な所定力の作用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施例1に係るアクチュエータの概略構成を示す図である。
【
図2】
図1に示すアクチュエータに装着されるイニシエータ(点火装置)の概略構成を示す図である。
【
図3】
図1に示すアクチュエータにおいて、イニシエータでの火薬燃焼前の状態と燃焼後の状態(作動状態)を比較して示す図である。
【
図4】
図1に示すアクチュエータの変形例の概略構成を示す図である。
【
図5】本発明の実施例1に係るアクチュエータを適用した電気回路遮断装置の概略構成を示す図である。
【
図6】本発明の実施例2に係るアクチュエータにおいて、イニシエータでの火薬燃焼前の状態と燃焼後の状態(作動状態)を比較して示す図である。
【
図7】本発明の実施例3に係るアクチュエータの一部を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、図面を参照して本発明の実施形態に係るアクチュエータについて説明する。なお、以下の実施形態の構成は例示であり、本発明はこれらの実施の形態の構成に限定されるものではない。
【実施例1】
【0024】
図1はアクチュエータ1の断面図である。ここで、アクチュエータ1は、アクチュエータ本体2を有しており、アクチュエータ本体2の先端側が、アクチュエータ1による出力側、すなわち、所定力を作用する対象物が配置される側となる。ここで、アクチュエータ本体2の内部には、その軸方向に延在する内部空間である内部空間31が形成されており、更に、同じようにアクチュエータ本体2の軸方向に延在する内部空間である貫通孔32が形成されている。内部空間31と貫通孔32は、アクチュエータ本体2の内部において連続して配置される空間である。
【0025】
また、アクチュエータ本体2の先端側の面は、出力面2bを形成している。この出力面2bは、アクチュエータ1の使用時において、所定力が作用される対象物と対向する面となる。アクチュエータ本体2の先端側においては、貫通孔32の径が縮径されたストッパ部2cが設けられている。ここで、アクチュエータ本体2の貫通孔32には、金属製の出力ピストン6が配置され、出力ピストン6は、貫通孔32の軸方向に沿って延在する概ね軸状に形成され、貫通孔32内を摺動可能に保持されている。また、出力ピストン6は、内部空間31側の端部(以下、「第1端部」という)6aと、出力面2b側の端部、すなわち対象物に対して所定力を作用させる端部(以下、「第2端部」という)6bとを有し、また、出力ピストン6が貫通孔32内を円滑に摺動できるように出力ピストン6の周囲にOリング6cが配置されている。ここで、後述の点火装置であるイニシエータ20で火薬燃焼が行われる前の状態(以下、「燃焼前状態」という)において、第2端部6bの端面は、出力面2bと面一となるか、又は、出力面2bより貫通孔32内に入り込んだ位置に置かれる。そのため、後述の
図5に示すように、アクチュエータ1が使用される状態においては、所定力が作用される対象物に出力面2bを接触させて該アクチュエータ1を配置、固定する。
【0026】
ここで、アクチュエータ本体2の後方端部には点火装置であるイニシエータ20が配置されている。イニシエータ20の例について
図2に基づいて説明する。なお、
図2の上段(a)は、火薬燃焼が行われる前のイニシエータ20の状態(以下、「点火前状態」という)を表し、下段(b)は、火薬燃焼が終了したイニシエータ20の状態を表している。
【0027】
ここで、イニシエータ20は電気式の点火装置であり、表面が樹脂製の絶縁カバーで覆われたカップ21(本発明に係る隔壁部材に相当)によって、火薬22を配置するための空間29(本発明に係る第1空間に相当する)が該カップ21内に画定される。そして、その空間に金属ヘッダ24が配置され、その上面に筒状のチャージホルダ23が設けられている。該チャージホルダ23によって火薬22が保持される。この火薬22の底部には、片方の導電ピン28と金属ヘッダ24を電気的に接続したブリッジワイヤ26が配線されている。なお、二本の導電ピン28は非電圧印加時には互いが絶縁状態となるように、絶縁体25を介して金属ヘッダ24に固定される。さらに、絶縁体25で支持された二本の導電ピン28が延出するカップ21の開放口は、樹脂カラー27によって導電ピン28間の絶縁性を良好に維持した状態で保護されている。
【0028】
このように構成されるイニシエータ20においては、外部電源によって二本の導電ピン28間に電圧印加されるとブリッジワイヤ26に電流が流れ、それにより火薬22が燃焼する。ここで、カップ21と樹脂カラー27とにより形成された密閉空間である空間29に密封されている火薬22は、その燃焼の初期段階においては、空間29の密閉状態が維持されたまま燃焼される。ここで、カップ21は、樹脂材料で形成されており一定の剛性強度を有している。そのため、そして、空間29の圧力が所定の圧力に達するまではその形状は概ね維持されるが、当該圧力が所定の圧力を超えると、
図2(b)に示すようにカップ21の底面部(チャージホルダ23の開口部に対向する部位)が破壊される。すなわち、カップ21の底面部が、空間29と後述の燃焼室34とを連通するように開口する。このとき、火薬22の燃焼による燃焼生成物は、上述した破壊により生じたカップ21の開口部から燃焼室34に噴出されることになる。
【0029】
なお、アクチュエータ1において用いられる火薬22として、好ましくは、ジルコニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(ZPP)、水素化チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(THPP)、チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(TiPP)、アルミニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(APP)、アルミニウムと酸化ビスマスを含む火薬(ABO)、アルミニウムと酸化モリブデンを含む火薬(AMO)、アルミニウムと酸化銅を含む火薬(ACO)、アルミニウムと酸化鉄を含む火薬(AFO)、もしくはこれらの火薬のうちの複数の組合せからなる火薬が挙げられる。これらの火薬は、点火直後の燃焼時には高温高圧のプラズマを発生させるが、常温となり燃焼性生物が凝縮すると気体成分を含まないために発生圧力が急激に低下する特性を示す。なお、これら以外の火薬を点火薬として用いても構わない。
【0030】
また、
図1に戻ると、アクチュエータ1においてイニシエータ用キャップ14は、イニシエータ20の外表面に引っ掛かるように断面が鍔状に形成され、且つアクチュエータ本体2に対してネジ固定される。これにより、イニシエータ20は、イニシエータ用キャップ14によってアクチュエータ本体2に対して固定され、以てイニシエータ20での点火時に生じる圧力で、イニシエータ20自体がアクチュエータ本体2から脱落することを防止できる。
【0031】
ここで、出力ピストン6の第1端部6aに向かって延伸される延伸ケース8が、その鍔部8aでアクチュエータ本体2のイニシエータ20側の端部2aの端面に固定され、該延伸ケース8はイニシエータ20のカップ21を覆ってアクチュエータ本体2内の内部空間31に配置されている。そして、延伸ケース8とイニシエータ20のカップ21の外表面とによって密閉空間である燃焼室34(本発明に係る第2空間に相当する)が形成される。更に、燃焼室34内には、燃焼により所定ガスを生成するガス発生剤40が配置されている。ガス発生剤40の一例としては、ニトロセルロース98質量%、ジフェニルアミン0.8質量%、硫酸カリウム1.2質量%からなるシングルベース無煙火薬が挙げられる。また、エアバッグ用ガス発生器やシートベルトプリテンショナ用ガス発生器に使用されている各種ガス発生剤を用いることも可能である。
【0032】
ガス発生剤40は、イニシエータ20での火薬22の燃焼により、カップ21の開口部から燃焼室34内に流れ込んできたその燃焼生成物に晒されることで燃焼され、以て所定ガスが生成される。なお、延伸ケース8は、ガス発生剤40による燃焼室34内の圧力によっても破壊されない程度に十分な強度を有している。そのため、火薬22による燃焼生成物、及びガス発生剤40による所定ガスは、延伸ケース8内に封入された状態が維持される。このようなガス発生剤40は、燃焼時に発生した所定ガスは常温においても気体成分を含むため、発生圧力の低下率は小さい。さらに、ガス発生剤40の燃焼時の燃焼完了時間は、上記火薬22と比べて極めて長いが、燃焼室34内に配置されるときのガス発生剤40の寸法や大きさ、形状、特に表面形状を調整することで、ガス発生剤40の燃焼完了時間を変化させることが可能である。このようにガス発生剤40の量や形状、配置を調整することで、燃焼室34内での発生圧力を適宜調整できる。
【0033】
また、延伸ケース8は概ね中空柱状の形状を有しており、延伸ケース8の出力ピストン6側の底部(本発明に係る押圧部に相当し、以下、「押圧底部」という)8bは、イニシエータ20の点火前状態において、出力ピストン6の第1端部6aに接触した状態で、アクチュエータ本体2の内部に配置されている。更に、アクチュエータ本体2の内壁面、すなわち内部空間31の内壁面に対向する延伸ケース8の側壁部には、火薬22の燃焼時にカップ21の開口部から噴出される燃焼生成物、及びに当該燃焼物により燃焼されるガス発生剤40から発生する所定ガスに起因する、燃焼室34における圧力上昇により、出力ピストン6の第1端部6aに向かって延伸される、蛇腹部8c(本発明に係る延伸部に相当する)が設けられている。そして、点火前状態においては、蛇腹部8cは出力ピストン6の第1端部6aに向かって延伸可能に折りたたまれた状態で配置されている。なお、イニシエータ20での火薬燃焼による延伸ケース8の動作については後述する。また、延伸ケース8の側壁部であって蛇腹部8cが設けられていない部分、すなわち延伸しない部分については、非延伸部8dと称する。
【0034】
このように構成されるアクチュエータ1では、イニシエータ20において火薬22が燃焼されると燃焼生成物が生成されるとともにイニシエータ20内の圧力が上昇する。そして、当該圧力が上記の所定の圧力に到達すると、カップ21の底面部が破壊されて、燃焼生成物が延伸ケース8とカップ21との間に形成された燃焼室34内に放出されるとともに、その燃焼生成物に晒されたガス発生剤40が燃焼され、所定ガスが発生することになる。なお、燃焼生成物と所定ガスは燃焼室34内に封入されるため、所定ガスの発生に伴い、燃焼室34内の圧力が上昇することになる。これにより蛇腹部8cが延伸することで、押圧底部8bが出力ピストン6の第1端部6aを押圧することになる。この結果、燃焼室34の圧力エネルギーが出力ピストン6へと伝達され、出力ピストン6が貫通孔32内を摺動駆動され、その第2端部6bが出力面2bより突出することになる。
【0035】
イニシエータ20においては、カップ21が破壊されるまでは、従来技術のように火薬燃焼が行われる空間の容積が拡大することによって空間29内の圧力上昇が阻害されることがないため、カップ21の大きな変形はなく燃焼性生成物は空間29内に留まり、以てイニシエータ20内の圧力が速やかに所定の圧力まで上昇する。このことは、燃焼生成物を燃焼の起点とするガス発生剤40において、速やかな燃焼開始が可能であることを意味する。すなわち、イニシエータ20内の火薬燃焼及びガス発生剤40の燃焼を速やかに実行させることで、それらの燃焼エネルギーを出力ピストン6に効率的に伝達することが可能となる。
【0036】
ここで、イニシエータ20の火薬22の燃焼を起点として延伸ケース8の延伸動作により実行される、アクチュエータ1における出力ピストン6の突出動作について
図3に基づいて説明する。
図3は、上段に燃焼前状態のアクチュエータ1の構成を示し、下段には火薬22の燃焼により出力ピストン6が突出した作動状態のアクチュエータ1の構成を示している。
図3における燃焼前状態及び作動状態の比較においては、延伸ケース8の鍔部8aでのアクチュエータ本体2に固定される面に位置を揃えて、アクチュエータ1の軸方向に両状態を並べて表示している。
【0037】
更に、燃焼前状態においては、延伸ケース8の押圧底部8bの位置はX1で表示される。また、このときの出力ピストン6の第2端部6bの端面の位置はF1で表示されている。ここで、火薬22が燃焼し上述したようにカップ21が破壊されると、燃焼室34内に燃焼生成物が拡散しガス発生剤40が燃焼されることで、燃焼室34内の圧力が上昇する。上述したように延伸ケース8の蛇腹部8cは出力ピストン6の第1端部6aに向かって延伸可能に折りたたまれた状態で配置されている。そこで、燃焼室34内の圧力上昇によって該蛇腹部8cが出力ピストン6の第1端部6aに向かって延伸される。このとき、押圧底部8bが、出力ピストン6の第1端部6aを押圧する。したがって、押圧底部8bが接触する出力ピストン6の第1端部6aの端面は、火薬22及びガス発生剤40の燃焼エネルギーを受ける端面となる。なお、押圧底部8bの面積は、第1端部6aの面積より大きくなるように設計されている。このため、蛇腹部8cが延伸したときに、押圧底部8bが、より確実に出力ピストン6の第1端部6aに接触し、上記燃焼エネルギーを出力ピストン6に伝達することが可能となる。
【0038】
押圧底部8bの押圧により、出力ピストン6が貫通孔32内を摺動していくことになる。そして、出力ピストン6が摺動していくと、第2端部6bが出力面2bより突出していくことになる。ここで、第2端部6bの突出量が最大となった状態では、
図3の下段に示すように押圧底部8bが出力ピストン6の第1端部6aの端面と接触しているが、出力ピストン6の一部が、アクチュエータ本体2のストッパ部2cに当接しているため、出力ピストン6の摺動は制限されている。この状態における押圧底部8bの位置は作動位置X2で表示されており、第2端部6bの位置がF2で表示されている。
【0039】
このようにアクチュエータ1では、火薬22の燃焼の過程において、延伸ケース8の押圧底部8bは、燃焼前状態の始動位置X1から射出完了状態の作動位置X2へと移動することになる。この押圧底部8bの移動による移動距離(X2-X1)は、第2端部6bの移動距離、すなわち第2端部6bの突出量(F2-F1)に相当する。そして、この移動の過程において、延伸ケース8は火薬22の燃焼により生成された燃焼生成物及びガス発生剤40の燃焼により生成された所定ガスを燃焼室34に封入したまま、蛇腹部8cが延伸されて押圧底部8bが移動し、作動状態においても該燃焼生成物は燃焼室34に封入されている。このように延伸ケース8が燃焼生成物を封入し続けることによって、燃焼生成物等の外部への影響を抑制することができる。さらに、アクチュエータ1では、火薬22の燃焼、及びガス発生剤40の燃焼により発生する燃焼圧力は主に延伸ケース8を加振することになるので、アクチュエータ本体2が加振され難くなり、アクチュエータ本体2からの振動や騒音が低減される。
【0040】
また、延伸ケース8は、作動状態、すなわち、延伸ケース8が最大限延伸した状態においても、アクチュエータ本体2内の内部空間31を画定し貫通孔32の端部の近傍にある内壁面31aに対して所定の隙間ΔDを有するように構成される。なお、
図3において、内壁面31aの位置はX3で表され、所定の隙間ΔDは、作動状態での押圧底部8bの位置X2と内壁面31aの位置X3との間に存在する。すなわち、貫通孔32の軸方向における、燃焼前状態の押圧底部8bと前記内壁面における該押圧底部8bと対向する面である内壁面31aとの距離が、押圧底部8bの移動による移動距離(X2-X1)より大きくなるように設定される。その結果、延伸ケース8は内壁面31aに対して衝突することがなくなるので、該延伸ケース8が破損し難くなり、燃焼生成物等の好適な封入が図られる。また、延伸ケース8が内壁面31aに対して衝突することによるアクチュエータ本体2の加振が抑制されるので、アクチュエータ本体2からの振動や騒音が低減される。
【0041】
このように、本実施例に係るアクチュエータ1は、火薬の燃焼生成物等の外部への影響や騒音を抑制するとともに、火薬等の燃焼エネルギーを出力ピストン6へ効率的に伝達でき、出力ピストン6を介して対象物に好適な所定力を作用させることが可能となる。
【0042】
<変形例>
上記実施例では、燃焼前状態において、押圧底部8bが出力ピストン6の第1端部6aに接触した状態で、延伸ケース8がアクチュエータ本体2内に配置されているが、その態様に代えて、
図4に示すように、燃焼前状態において、押圧底部8bが出力ピストン6の第1端部6aからに離間した状態で、延伸ケース8がアクチュエータ本体2内に配置されてもよい。
図4に示す構成では、燃焼前状態における押圧底部8bと第1端部6aとの離間距離はΔLで表されている。このように離間距離ΔLが確保されている形態であっても、燃焼室34内の圧力上昇に伴う蛇腹部8cの延伸により、押圧底部8bは第1端部6aに接触しそれ以降は出力ピストン6を押圧することになる。このような場合でも、延伸ケース8が最大限延伸したときに、押圧底部8bは内壁面31aに接触しない状態であることが好ましい。
【0043】
また、上記実施例では、燃焼室34内にガス発生剤40が収容されているが、その態様に代えて燃焼室34内にガス発生剤40が収容されていない場合であっても、イニシエータ20においては、カップ21が破壊されるまでは、火薬燃焼が行われる空間の容積が拡大することによって空間29内の圧力上昇が阻害されることがないため、イニシエータ20内の圧力が速やかに所定の圧力まで上昇する。この結果、火薬22の燃焼エネルギーを効果的に発生させ、それを速やかに出力ピストン6に伝達でき、出力ピストン6を介して対象物に好適な所定力を作用させることが可能となる。また、同時に、延伸ケース8により燃焼生成物は封入され続けるため、燃焼生成物の外部への影響や燃焼騒音を抑制できる。
【0044】
(適用例)
ここで、
図5に、アクチュエータ1を適用した例として、電気回路遮断装置100を示す。電気回路遮断装置100は、ハウジング62を介して、アクチュエータ1が導体片50に対して固定されることで形成されている。
【0045】
導体片50は、電気回路遮断装置100を電気回路に取り付けたとき、電気回路の一部を形成するものであり、両端側の第1接続部51と、第2接続部52と、両接続部間の切断部53からなる板片である。第1接続部51と第2接続部52のそれぞれには、電気回路において他の導体(例えば、リードワイヤ)と接続するための接続穴51a、52aが設けられている。なお、
図5に示す導体片50は、第1接続部51及び第2接続部52と、切断部53とが段状になるように形成されているが、第1接続部51、第2接続部52、切断部53が概ね同一直線状に配置されるように形成されてもよい。そして、切断部53は、アクチュエータ1の出力面2bに接触するように固定されている。したがって、アクチュエータ1内の出力ピストン6の端面(第2端部6bの端面)は、切断部53と対向する状態となっている。このように形成される導体片50が、上記実施例における対象物であり、特に、切断部53がアクチュエータ1からの所定力が作用する、対象物上の部位となる。
【0046】
更に、ハウジング62において、切断部53を挟んでアクチュエータ1の反対側には、合成樹脂からなる箱形状の絶縁部60が形成され、その内部には絶縁空間61が形成されている。
【0047】
このように構成される電気回路遮断装置100では、何らかのトリガー信号によりイニシエータ20が作動し、又は手動によりイニシエータ20が作動すると、上述したように出力ピストン6が摺動し、その運動エネルギーにより切断部53に対してせん断力を作用させ、以て切断部53が切断される。これにより、電気回路遮断装置100が取り付けられた電気回路の一部を形成する導体片50において、第1接続部51と第2接続部52との間の導通が遮断されることになる。なお、出力ピストン6によって切断された切断部53の切断片は、絶縁部60内の絶縁空間61に収容されるため、上記導通遮断をより確かなものとすることができる。
【0048】
以上より、本発明に係るアクチュエータ1が適用された電気回路遮断装置100では、アクチュエータ1を効率よく駆動することができ、これは、必要時において確実な導通遮断を実現すべき電気回路遮断装置100において極めて有用である。また、アクチュエータ1の適用例としては、その他に、対象物に孔を開ける穿孔機等が例示できる。
【実施例2】
【0049】
本発明のアクチュエータ1の第2の実施例について、
図6に基づいて説明する。なお、
図6は、
図3と同様に、上段に燃焼前状態のアクチュエータ1の構成を示し、下段には作動状態のアクチュエータ1の構成を示している。なお、両状態の比較表示については、
図3と同様である。本実施例のアクチュエータ1では、内部空間31の内壁面31a上に、弾性材料で形成された緩衝部材41が設置されている。
【0050】
イニシエータ20での火薬22の燃焼、ガス発生剤40の燃焼が発生すると、蛇腹部8cが延伸する。これにより押圧底部8bが第1端部6aを介して出力ピストン6を押圧していく。ここで、蛇腹部8cが完全に延伸したときに、又は、完全に延伸する前に、押圧底部8bが緩衝部材41を介して内壁面31aに接触することで蛇腹部8cの延伸が阻害されることになる。これにより、延伸ケース8を介した出力ピストン6に対する押圧作用が停止されることになる。このような構成でも、上記の第1実施例と同様に、燃焼生成物及び所定ガスの外部への影響を抑制するとともに、効率的な出力ピストン6の駆動が可能となる。更に、押圧底部8bは、緩衝部材41に接触することにより、その接触時に内壁面31a側から受ける衝撃を軽減できるため、延伸ケース8が破損し難くなり、燃焼生成物等の好適な封入が図られるとともに、衝突することによるアクチュエータ本体2の加振が抑制されるので、アクチュエータ本体2からの振動や騒音が低減される。
【実施例3】
【0051】
本発明のアクチュエータ1の第3の実施例について説明する。上記の通り、本発明のアクチュエータ1では、延伸ケース8が延伸することで出力ピストン6が押圧される。そのため、燃焼室34内における火薬22の燃焼生成物及びガス発生剤40の所定ガスの封入状態を好適に維持するために、延伸ケース8の押圧底部8bにはピストンへの伝達エネルギーが作用することを考慮し、押圧底部8bの強度を高めることが好ましい。そこで、押圧底部8bのケース厚さを、延伸ケース8の側壁部のうち非延伸部8dのケース厚さより厚く形成してもよい。
【0052】
また、別法として、
図7に示すように、押圧底部8bの強度向上のために、押圧底部8bの外表面上に、また、内表面上に所定の厚さを有する補強板42を設けてもよい。補強板42は、延伸ケース8と同じ材料で形成されてもよく、補強に好適な別材料であってもよい。また、補強板42の所定の厚さは、延伸ケース8の破壊が抑制できる程度に補強板42に強度を付与する厚さとされる。
【符号の説明】
【0053】
1・・・・アクチュエータ
2・・・・アクチュエータ本体
6・・・・ピストン
6a・・・・第1端部
6b・・・・第2端部
8・・・・延伸ケース
8b・・・・押圧底部
8c・・・・蛇腹部
20・・・・イニシエータ
21・・・・カップ
22・・・・火薬
31・・・・内部空間
31a・・・・内壁面
32・・・・貫通孔
33・・・・収容室
34・・・・燃焼室
40・・・・ガス発生剤
41・・・・緩衝部材
42・・・・補強板