(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】容器詰発酵飲料およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/04 20190101AFI20220908BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20220908BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20220908BHJP
A23L 2/56 20060101ALI20220908BHJP
A23L 2/60 20060101ALI20220908BHJP
C12C 5/02 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
C12G3/04
A23L2/00 B
A23L2/00 F
A23L2/56
A23L2/60
C12C5/02
(21)【出願番号】P 2018568566
(86)(22)【出願日】2018-02-14
(86)【国際出願番号】 JP2018005083
(87)【国際公開番号】W WO2018151154
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2020-08-05
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2017/005585
(32)【優先日】2017-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309007911
【氏名又は名称】サントリーホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】作山 智
【審査官】吉海 周
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-013150(JP,A)
【文献】特開2003-310240(JP,A)
【文献】特開2015-023871(JP,A)
【文献】特開2008-099677(JP,A)
【文献】特開2006-055074(JP,A)
【文献】特開2002-345433(JP,A)
【文献】特開2006-306800(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01431385(EP,A1)
【文献】斉藤絵里, 脂質代謝改善作用並びに糖質代謝改善作用から見たホップ成分「キサントフモール」の抗肥満作用,2016年,Vol.58,No.11,1-12
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G
C12C
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キサントフモールおよびイソキサントフモールからなる群から選ばれる一種以上と、甘味物質とを含有する容器詰発酵
ビールテイスト飲料であって、
キサントフモールの含有量が6質量ppm以上であるか、イソキサントフモールの含有量が16質量ppm以上であり、
キサントフモールとイソキサントフモールの含有量の合計が22~500質量ppmであり、
甘味物質由来の甘味度がショ糖換算で0.2~14である、容器詰発酵
ビールテイスト飲料。
【請求項2】
キサントフモールとイソキサントフモールの含有量の合計が24~200質量ppmである、請求項1に記載の容器詰発酵
ビールテイスト飲料。
【請求項3】
キサントフモールの含有量が24~200質量ppmである、請求項1または2に記載の容器詰発酵
ビールテイスト飲料。
【請求項4】
イソキサントフモールの含有量が24~200質量ppmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の容器詰発酵
ビールテイスト飲料。
【請求項5】
抗肥満用飲料である、請求項1~4のいずれか一項に記載の容器詰発酵
ビールテイスト飲料。
【請求項6】
脂肪蓄積抑制用飲料である、請求項1~5のいずれか一項に記載の容器詰発酵
ビールテイスト飲料。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の容器詰発酵
ビールテイスト飲料の製造方法であって、
容器詰発酵
ビールテイスト飲料中のキサントフモールおよびイソキサントフモールの含有量を調整する工程と、
容器詰発酵
ビールテイスト飲料中の甘味物質由来の甘味度を調整する工程と、
を含む、容器詰発酵
ビールテイスト飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キサントフモールおよびイソキサントフモールからなる群から選ばれる一種以上と、甘味物質とを含有する容器詰発酵飲料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キサントフモールは、ホップに由来するプレニルフラボノイドであり、ガン細胞の増殖抑制、抗酸化作用、骨分解抑制作用および抗菌作用などの種々の生理活性があることが知られている。最近では動物試験でキサントフモールに脂肪蓄積抑制作用があることがわかり(非特許文献1:Phytochemistry. 91 Jul. 2013 236および非特許文献2:Arch Biochem Biophys. 599 Jun. 2016 22)、脂肪の蓄積を抑制して肥満を予防または改善するなど、健康維持および改善に役立つ成分としても注目を集めている。キサントフモールを異性化して得られるイソキサントフモールについては、我々の研究により、抗肥満作用、脂肪蓄積抑制作用および体重上昇抑制作用を示すことが見出されている(特許文献1:特願2016-246974号明細書)。
ホップを原料とする麦芽発酵飲料等は、キサントフモールおよびイソキサントフモールを含有する。しかし、一般に、麦芽発酵飲料等におけるキサントフモールおよびイソキサントフモールの含有量は極わずかである。特にキサントフモールは醸造中に異性化してイソキサントフモールに変化するため、慣用の方法で製造した麦芽発酵飲料等におけるキサントフモールの含有量は通常0.2ppm未満程度である(特許文献2:特許第577041号明細書)。
キサントフモールおよびイソキサントフモールが持つ生理活性作用による健康維持および改善効果を期待して、各種飲料におけるこれらの成分の含有量を高める試みもなされている(特許文献3:特開2003-310240号公報および特許文献4:特開2002-345433号公報)。
しかし、キサントフモールおよびイソキサントフモールには、特有の後味の嫌な苦味があり、一定量を超えて添加すると、飲料本来の香味が損なわれるといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特願2016-246974号明細書
【文献】特許第577041号明細書
【文献】特開2003-310240号公報
【文献】特開2002-345433号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Phytochemistry. 91 Jul. 2013 236
【文献】Arch Biochem Biophys. 599 Jun. 2016 22
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような状況の下、キサントフモールおよびイソキサントフモールに特有の後味の嫌な苦味を抑え、飲料本来の香味を損なうことなく、キサントフモールおよびイソキサントフモールの含有量を高めた容器詰発酵飲料およびその製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者らは、上記課題にかんがみて鋭意検討した結果、甘味物質を適量用いることで、キサントフモールやイソキサントフモールの後味の嫌な苦味をマスキングすることができ、その飲料が本来持つ香味を損なうことなく、飲料中のキサントフモールおよびイソキサントフモールの含有量を高めることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明には以下に示す態様の発明が含まれる。
[1]キサントフモールおよびイソキサントフモールからなる群から選ばれる一種以上と、甘味物質とを含有する容器詰発酵飲料であって、
キサントフモールの含有量が6質量ppm以上であるか、イソキサントフモールの含有量が16質量ppm以上であり、
甘味物質由来の甘味度がショ糖換算で0.2~14である、容器詰発酵飲料。
[2]キサントフモールとイソキサントフモールの含有量の合計が16~500質量ppmである、[1]に記載の容器詰発酵飲料。
[3]キサントフモールとイソキサントフモールの含有量の合計が22~500質量ppmである、[1]に記載の容器詰発酵飲料。
[4]キサントフモールとイソキサントフモールの含有量の合計が24~200質量ppmである、[1]に記載の容器詰発酵飲料。
[5]キサントフモールの含有量が24~200質量ppmである、[1]~[4]のいずれか一項に記載の容器詰発酵飲料。
[6]イソキサントフモールの含有量が24~200質量ppmである、[1]~[4]のいずれか一項に記載の容器詰発酵飲料。
[7]抗肥満用飲料である、[1]~[6]のいずれか一項に記載の容器詰発酵飲料。
[8]脂肪蓄積抑制用飲料である、[1]~[7]のいずれか一項に記載の容器詰発酵飲料。
[9]ビールテイスト飲料である、[1]~[8]のいずれか一項に記載の容器詰発酵飲料。
[10][1]~[9]のいずれか一項に記載の容器詰発酵飲料の製造方法であって、
容器詰発酵飲料中のキサントフモールおよびイソキサントフモールの含有量を調整する工程と、
容器詰発酵飲料中の甘味物質由来の甘味度を調整する工程と、
を含む、容器詰発酵飲料の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、甘味物質由来の甘味度を所定の範囲に調整することで、キサントフモールおよびイソキサントフモールに特有の後味の嫌な苦味をマスキングすることができ、容器詰発酵飲料において、その飲料が本来持つ香味を損なうことなく、キサントフモールおよびイソキサントフモールの含有量を従来品よりも高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の容器詰発酵飲料およびその製造方法について詳細に説明する。
【0010】
1.容器詰発酵飲料
本発明の容器詰発酵飲料は、キサントフモールおよびイソキサントフモールからなる群から選ばれる一種以上と、甘味物質とを含有する容器詰発酵飲料であって、キサントフモールの含有量が6質量ppm以上であるか、イソキサントフモールの含有量が16質量ppm以上であり、甘味物質由来の甘味度がショ糖換算で0.2~14であることを特徴としている。
本発明の容器詰発酵飲料は、甘味物質由来の甘味度を所定の範囲に調整することで、キサントフモールおよびイソキサントフモールに特有の後味の嫌な苦味をマスキングすることができ、容器詰発酵飲料において、その飲料が本来持つ香味を損なうことなく、キサントフモールおよびイソキサントフモールの含有量を従来品よりも高めることができる。本発明の好ましい態様によれば、本発明の容器詰発酵飲料を飲み続けることで、キサントフモールおよびイソキサントフモールが持つ生理活性作用による健康維持および改善効果を期待することができる。
【0011】
キサントフモールは、ホップに由来する成分であり、ホップから溶媒を用いて抽出することで得られる。例えば、乾燥したホップを粉砕等してペレット状にしたものを、アルコールなどの有機溶媒に浸漬して抽出する。次いで、得られた抽出液を濃縮・乾燥した後、クロマトグラフィー等を用いて分離・精製することにより得ることができる。
イソキサントフモールは、キサントフモールをイソ化させることで得られる。例えば、キサントフモールを含水エタノール溶液に溶解し、100℃で12時間以上煮沸することでキサントフモールをイソ化させてイソキサントフモールを含む反応液を得る。反応終了後、得られた反応液を凍結乾燥することにより、粉体としてイソキサントフモールを得ることができる。または、キサントフモールをpH6のリン酸緩衝液に溶解し、100℃で3~4時間煮沸することでキサントフモールをイソ化させてイソキサントフモールを含む反応液を得る。得られた反応液に対してエーテルなどの有機溶媒を用いて抽出操作を行い、得られた抽出液を濃縮・乾燥した後、クロマトグラフィー等を用いて分離・精製することによりイソキサントフモールを得ることができる。
本発明に用いられるキサントフモールおよびイソキサントフモールとしてはホップに由来するものが好ましいが、有機合成で得たものを用いてもよい。なお、キサントフモールおよびイソキサントフモールは市販されている。
【0012】
本発明の容器詰発酵飲料の一実施態様において、キサントフモールの含有量は6質量ppm以上であり、好ましくは10質量ppm以上、より好ましくは16質量ppm以上、さらに好ましくは24質量ppm以上である。
また、本発明の容器詰発酵飲料の他の一実施態様において、イソキサントフモールの含有量は、16質量ppm以上であり、好ましくは24質量ppm以上である。
キサントフモールおよびイソキサントフモールの含有量がそれぞれ上記の範囲であることにより、容器詰発酵飲料において、キサントフモールおよびイソキサントフモールが持つ生理活性作用をより効果的に発揮することが期待される。キサントフモールおよびイソキサントフモールの含有量は多ければ多いほど、キサントフモールおよびイソキサントフモールが持つ生理活性作用の発揮を期待できるが、その飲料が本来持つ香味を維持する観点から、本発明の容器詰発酵飲料において、キサントフモールおよびイソキサントフモールの各含有量は500質量ppm以下が好ましく、より好ましくは200質量ppm以下である。
本発明の容器詰発酵飲料においては、キサントフモールおよびイソキサントフモールをそれぞれ単独で含有してもよいし、キサントフモールおよびイソキサントフモールの両方を含有してもよい。
本発明の容器詰発酵飲料がキサントフモールおよびイソキサントフモールの両方を含有する場合、本発明の容器詰発酵飲料において、キサントフモールおよびイソキサントフモールの含有量の合計は16質量ppm以上であることが好ましく、より好ましくは22質量ppm以上、さらに好ましくは24質量ppm以上である。また、本発明の容器詰発酵飲料において、キサントフモールおよびイソキサントフモールの含有量の合計は、500質量ppm以下が好ましく、より好ましくは200質量ppm以下である。
本発明の容器詰発酵飲料において、イソキサントフモールは、容器詰発酵飲料中に直接添加することで含有してもよいし、キサントフモールの一部がイソキサントフモールに変化することによって、含有してもよい。
なお、本明細書において「含有」というときは、容器詰発酵飲料中に溶解することによって含有する場合と懸濁することによって含有する場合の両方の場合が含まれる。
【0013】
キサントフモールおよびイソキサントフモールの好ましい含有量は、容器詰発酵飲料の種類や目的に応じて適宜調整することができる。
【0014】
本発明において、キサントフモールおよびイソキサントフモールの含有量は、キサントフモールおよびイソキサントフモールをそれぞれ容器詰発酵飲料に添加することにより調整することができる。本発明の容器詰発酵飲料のベースとなる発酵飲料が元来キサントフモールおよびイソキサントフモールのいずれか一種以上を含有する場合は、それらの成分との合計量が上記の範囲となるように調整すればよい。
【0015】
本発明に用いる甘味物質としては、飲料に使用でき、人に官能的な甘味を惹起できる物質であれば特に制限されない。例えば、甘味料、香料などを用いることができる。
本発明において特に好ましい甘味物質として、糖類や高甘味度甘味料等の甘味料を挙げることができる。甘味物質は一種で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの甘味物質は、天然の甘味物質であっても、人工の甘味物質であってもよく、また、発酵飲料に用いられる原料に含まれるものの持込であっても構わないし、別途、飲料に配合したものでもよい。
【0016】
糖類としては、例えば、砂糖(シュクロース)およびマルトースなどの二糖類、グルコースおよびフルクトースなどの単糖類、オリゴ糖、ソルビトール、キシリトール、マルチトールなどの糖アルコールなどを挙げることができる。中でも、ショ糖、グルコース、フルクトースが好ましい。
また、高果糖液糖、果糖ぶどう糖液糖、ぶどう糖果糖液糖、はちみつ、サトウキビ搾汁液(黒糖蜜)、羅漢果末、羅漢果抽出物、甘草末、甘草抽出物などの植物抽出物、メープルシロップ、モラセス(糖蜜)、水飴などの形で、糖類を飲料に配合することも可能である。
【0017】
本明細書において「高甘味度甘味料」とは、ショ糖に比べて強い甘味を有する天然甘味料および合成甘味料をいう。そのような高甘味度甘味料としては、
ペプチド系甘味料、例えばアスパルテーム、アリテーム、ネオテーム、グリチルリチン等;
配糖体系甘味料、例えばステビア甘味料(ステビア抽出物およびステビアを酵素処理してブドウ糖を付加した酵素処理ステビアおよびステビアの甘味成分の中で最も甘味質のよいレバウディオサイドAを含む)、カンゾウ抽出物等;
蔗糖誘導体、例えばスクラロース等;
合成甘味料、例えばアセスルファムK、サッカリン、ネオヘスペリジン-ジヒドロカルコン等が挙げられ、これらの一種または二種以上を適宜使用することができる。
【0018】
本発明の容器詰発酵飲料において、甘味物質由来の甘味度はショ糖換算で0.2~14の範囲である。本発明においては、甘味物質由来の甘味度がショ糖換算で0.2~14となる範囲で甘味物質を用いることにより、その発酵飲料が本来持つ設計品質機能を維持しつつ、キサントフモールおよびイソキサントフモールに特有の後味の嫌な苦味や渋みを抑えることができ、キサントフモールおよびイソキサントフモールの含有量を高めることができる。
【0019】
なお、本明細書において、甘味物質由来の甘味度とは、ショ糖の甘味を基準としたときの甘味の程度を意味しており、各甘味物質の甘味度は当業者に広く知られている。たとえば、ショ糖1重量%溶液の甘味度を1とした場合、アセスルファムK1重量%溶液の甘味度は約200であり、スクラロース1重量%溶液の甘味度は約600である。その他代表的な甘味物質の甘味度を表1に示す。本明細書において、容器詰発酵飲料の甘味度は、各甘味物質の甘味度の総計を指す。
【0020】
【0021】
本発明の容器詰発酵飲料のベースとなる発酵飲料としては、微生物による有機物の分解を生じる発酵工程を経て製造される飲料であって、キサントフモールおよびイソキサントフモールを配合できるものであれば特に制限されない。例えば、アルコール飲料であっても、ノンアルコール飲料であってもよい。
アルコール飲料に含まれるアルコールとしては、通常の酒類として飲用されるものであれば特に制限されない。例えば、ウイスキー、ウオッカ、ラム、焼酎、スピリッツ類などの蒸留酒、日本酒、ワイン、ビールなどの醸造酒、発泡酒、リキュールなどの混成酒などを使用することができる。単一種類のアルコールを用いてもよく、複数種類のアルコールを用いてもよい。アルコール飲料のアルコール濃度としては特に制限されないが、1~15容量%が好ましく、2~9容量%がより好ましい。
ノンアルコール飲料としては、エタノール含有量が1.00体積%未満の発酵飲料であれば特に制限されなく、例えば、乳酸菌飲料、ノンアルコールビールテイスト飲料、炭酸飲料、果汁飲料、清涼飲料、栄養ドリンクなどを使用することができる。
【0022】
本発明の容器詰発酵飲料において、キサントフモールおよびイソキサントフモールの含有量や甘味物質由来の甘味度は、容器詰発酵飲料の種類および目的に応じて適宜調整することができる。
例えば、本発明の容器詰発酵飲料が、ビールや発泡酒などの麦芽発酵飲料(ビールテイスト飲料)である場合、麦芽発酵飲料が本来持つ香味を損なわないためには、甘味物質由来の甘味度をショ糖換算で0.2~14の範囲、より好ましくは0.6~6の範囲に調整することが好ましい。
また、例えば、本発明の容器詰発酵飲料が、果実酒、リキュール、チューハイ、日本酒等、その飲料が本来持つ甘味度が比較的高い発酵飲料である場合、甘味物質由来の甘味度をショ糖換算で0.6~14の範囲、より好ましくは1~14の範囲に調整することが好ましい。
また、例えば、本発明の容器詰発酵飲料が、ウィスキー、ブランデー、焼酎、スピリッツ等、その飲料が本来持つ甘味度が比較的低い発酵飲料である場合、甘味物質由来の甘味度をショ糖換算で0.2~14の範囲、より好ましくは0.2~1の範囲に調整することが好ましい。
また、例えば、本発明の容器詰発酵飲料が、乳酸菌飲料、ノンアルコールビールテイスト飲料、炭酸飲料、果汁飲料、清涼飲料、栄養ドリンク等のノンアルコール飲料である場合、甘味物質由来の甘味度をショ糖換算で0.2~14の範囲、より好ましくは0.6~14の範囲に調整することが好ましい。
これらの容器詰発酵飲料において、キサントフモールおよびイソキサントフモールの含有量の合計は16質量ppm以上が好ましく、より好ましくは22質量ppm以上、さらに好ましくは24質量ppm以上であり、また、500質量ppm以下が好ましく、より好ましくは200質量ppm以下であり、容器詰発酵飲料の種類および目的に応じて適宜調整すればよい。
【0023】
本発明の一実施態様において、本発明の容器詰発酵飲料は、ビールや発泡酒などの、麦芽由来成分を含む麦芽発酵飲料であるビールテイスト飲料であることが好ましい。麦芽由来成分としては、例えば、麦汁などの、熱水等を用いて麦芽から抽出して得られたものを使用することができる。ビール等の製造工程で得られる麦芽抽出物や、麦芽を乾燥焙煎、粉砕したものを抽出、濃縮して得られるモルトエキスなどの食品添加物も含む。
【0024】
また、本発明の一実施態様において、本発明の容器詰発酵飲料は、炭酸ガスを含有させて炭酸飲料としてもよい。本発明を炭酸飲料に適用すると、苦味物質並びにクエン酸及び/又はリンゴ酸を含む飲料の呈味上の欠点の改善に加えて、炭酸ガスによる刺激感を適度に緩和することができるため、炭酸飲料は本発明のより好ましい態様の一つである。
【0025】
炭酸ガスは、当業者に通常知られる方法を用いて飲料中に提供することができる。例えば、これらに限定されないが、二酸化炭素を加圧下で飲料に溶解させてもよいし、ツーヘンハーゲン社のカーボネーターなどのミキサーを用いて配管中で二酸化炭素と飲料とを混合してもよい。また、二酸化炭素が充満したタンク中に飲料を噴霧することにより二酸化炭素を飲料に吸収させてもよいし、飲料と炭酸水とを混合してもよい。醸造酒などの発酵液を原料の一つとして用いると、発酵に伴う炭酸ガスを飲料に加えることができる。これらの手段を適宜用いて炭酸ガス圧を調節する。
【0026】
本発明の容器詰発酵飲料が炭酸飲料である場合、好ましくは1.0~3.5kg/cm2、より好ましくは1.2~2.5kg/cm2の炭酸ガス圧を有する。炭酸ガス圧は、京都電子工業製ガスボリューム測定装置GVA-500Aを用いて測定することができる。例えば、試料温度を20℃にし、前記ガスボリューム測定装置において容器内空気中のガス抜き(スニフト)、振とう後、炭酸ガス圧を測定する。
【0027】
本発明の容器詰発酵飲料は、各種生理活性を有するキサントフモールおよびイソキサントフモールの含有量が高く、それに伴う後味の嫌な苦味や渋みを抑えて発酵飲料本来の香味を損なうことがないため、無理なく飲み続けることができ、各種の効果が期待される。
特に、キサントフモールについては、脂肪蓄積抑制作用を有することが知られており(非特許文献1および2参照)、脂肪の蓄積を抑制することにより肥満を予防または改善する効果があることが知られている。また、イソキサントフモールについては、抗肥満作用、脂肪蓄積抑制作用および体重上昇抑制作用を有することが知られている(特許文献1参照)。したがって、本発明の好ましい態様によれば、本発明の容器詰発酵飲料は抗肥満用飲料、さらには脂肪蓄積抑制用飲料として用いることができる。本発明の容器詰発酵飲料を飲み続けることで、日々の食事により摂取される脂肪の体内での蓄積を抑制することができ、健康維持および改善効果が期待される。
【0028】
本発明の容器詰発酵飲料のpHは特に制限されないが、2~8の範囲であることが好ましい。
【0029】
本発明の容器詰発酵飲料は、本発明の効果を妨げない範囲で、必要に応じて、様々な添加物が添加されていてもよい。例えば、着色料、泡形成剤、香料、発酵促進剤、苦味料、酵母エキス、ペプチド含有物などのタンパク質系物質、アミノ酸などの調味料、アスコルビン酸などの酸化防止剤、各種酸味料などを本発明の効果を妨げない範囲で必要に応じて添加することができる。
【0030】
2.容器詰発酵飲料の製造方法
本発明の容器詰発酵飲料は、キサントフモールおよびイソキサントフモールの含有量と甘味物質由来の甘味度をそれぞれ所定の範囲に調整することにより製造することができる。すなわち、本発明の容器詰発酵飲料の製造方法は、容器詰発酵飲料中のキサントフモールおよびイソキサントフモールの含有量を調整する工程と、容器詰発酵飲料中の甘味物質由来の甘味度を調整する工程とを含む。
【0031】
本発明の製造方法において、キサントフモールおよびイソキサントフモールの含有量の調整はそれぞれ、容器詰発酵飲料の製造中または製造後のいずれのタイミングで行ってもよい。例えば、いずれかの製造工程の前、最中または後に行ってもよく、また、複数の工程の前、最中または後に行ってもよい。最終的な容器詰発酵飲料においてキサントフモールおよびイソキサントフモールの含有量がそれぞれ所定の範囲内となればよい。
【0032】
例えば、ビールや発泡酒などの麦芽発酵飲料であるビールテイスト飲料を製造する場合、麦芽を含む原料を糖化させる糖化工程と、糖化液を濾過して麦汁を得る濾過工程と、麦汁にホップを添加して煮沸する煮沸工程と、煮沸工程の後、熱麦汁からオリを分離する分離工程と、麦汁に酵母を添加して麦汁を発酵させる発酵工程と、発酵液を濾過する濾過工程とを含む。キサントフモールは96℃程度の熱を経験することによって異性化し、イソキサントフモールに変化するため、キサントフモールの含有量の調整は、煮沸工程より後に行うことが好ましい。一方、イソキサントフモールは熱に対して安定であるため、イソキサントフモールの含有量の調整は、いずれのタイミングで行ってもよい。
他の発酵飲料を製造する場合も同様であり、イソキサントフモールの含有量の調整はいずれのタイミングで行ってもよいが、キサントフモールの含有量の調整は、熱を伴う工程がある場合はその工程より後に行うことが好ましい。
なお、収率の観点からは、キサントフモールの含有量の調整およびイソキサントフモールの含有量の調整は、できるだけ後ろの工程で行うことが好ましい。
【0033】
本発明の製造方法は、甘味物質由来の甘味度がショ糖換算で0.2~14となるように容器詰飲料中の甘味物質の含有量を調整する工程を含む。
甘味物質由来の甘味度を調整するタイミングは、容器詰飲料の製造中または製造後のいずれのタイミングで行ってもよい。例えば、いずれかの製造工程の前、最中または後に行ってもよく、また、複数の工程の前、最中または後に行ってもよい。最終的な容器詰発酵飲料において甘味物質由来の甘味度が所定の範囲内となればよい。
【0034】
本発明の製造方法において、各調整工程の順序は特に制限されなく、各調整工程の二以上を同時に行ってもよい。
【0035】
本発明の容器詰発酵飲料の容器は特に制限されないが、例えば、ペットボトルなどの樹脂製容器、紙パックなどの紙容器、ガラス瓶などのガラス容器、アルミ缶やスチール缶などの金属製容器、アルミパウチなど、通常、飲料組成物に用いられる容器であればいずれも用いることができる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されない。
【0037】
<キサントフモールおよびイソキサントフモールの調製>
実施例1~27および比較例1~3の麦芽発酵飲料の調製に供したキサントフモールとしてはXanthopure(Hopsteiner社製)を用いた。
イソキサントフモールとしては、Xanthopure(Hopsteiner社製)を次の方法でイソキサントフモールに変換して用いた。
まず、Xanthopure(Hopsteiner社製)を含水エタノール(エタノール濃度5%)に溶解し、100℃に設定したオイルバスにおいて撹拌を行いながら、12時間以上加熱還流を行った。反応終了後、凍結乾燥により粉体としてイソキサントフモールを取得し、以下の調製に供した。なお、加熱に伴うキサントフモールからイソキサントフモールへの変換は、LC-MS/MSシステム(TSQ Quantiva、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用い、定性分析により確認を実施した。
【0038】
<麦芽発酵飲料の調製>
実施例1~27
麦芽発酵飲料を下記のように調製した。
麦芽20kgを適当な粒度に粉砕して仕込槽に入れ、これに80Lの温水を加え、約50℃のマッシュを作った。50℃で30分保持後、徐々に昇温して65~72℃で60分間、糖化を行った。糖化が完了したマッシュを77℃まで昇温後、麦汁濾過槽に移し濾過を行い、濾液を得た。得られた濾液に麦芽25重量%、糖液63%、食物繊維12重量%の組成になるように糖液と食物繊維を加え、さらにホップ100gを加えて100℃で70分煮沸を行い、エキス分14.75重量%の麦汁を得た。これにビール酵母を添加して定法により発酵させ、濾過を行った後、水、大麦スピリッツ、炭酸ガスを添加することによりエキス分2.3重量%でアルコール分が4.0容量%の麦芽発酵飲料を得た。その後、キサントフモール、イソキサントフモールおよび甘味物質を表2および3に記載の濃度となるように添加し、実施例1~27の麦芽発酵飲料(ビールテイスト飲料)を得た。なお、表中、飲料の甘味度については食物繊維の甘味度を0として算出した。
【0039】
【0040】
【0041】
比較例1~3
キサントフモール、イソキサントフモールおよび甘味物質を表4に記載の濃度となるように添加したことを除いて、実施例1~27と同様にして麦芽発酵飲料を得た。
【0042】
【0043】
得られた各麦芽発酵飲料について、専門パネリスト4名による官能評価(甘味の強さ、後味の嫌な苦味、香味改善効果、総合評価)を以下の評価基準をもとに実施し、評価点の平均点を算出した。結果を表2~4にそれぞれ示す。
(甘味の強さの評価)
1:弱い
2:やや弱い
3:良い
4:やや強い
5:強い
(後味の嫌な苦味の評価)
1:弱い
2:やや弱い
3:良い
4:やや強い
5:強い
(香味改善効果の評価)
1:なし
2:わずかにあり
3:ややあり
4:あり
5:とてもあり
(ビールテイスト飲料の総合評価)
1:おいしくない
2:ふつう
3:ややおいしい
4:おいしい
5:非常においしい
【0044】
表2および3に示すとおり、甘味物質由来の甘味度をショ糖換算で0.2~14の範囲に調整することにより、キサントフモールおよびイソキサントフモールの含有量を高めた場合であっても、後味の嫌な苦味を抑え、麦芽発酵飲料本来の自然な甘味を損なうことなく、麦芽発酵飲料の香味を改善することができた(実施例1~27)。
一方、表4に示すとおり、甘味物質由来の甘味度が所定の範囲に満たない場合、後味の嫌な苦味を十分にマスキングすることができず、麦芽発酵飲料の香味を改善することができなかった(比較例1、2)。また、甘味物質由来の甘味度が所定の範囲を超える場合、後味の嫌な苦味をマスキングすることができたが、甘味が強すぎて麦芽発酵飲料本来の自然な甘味を損なう結果となった(比較例3)。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、甘味物質由来の甘味度を所定の範囲に調整することにより、容器詰発酵飲料が本来持つ香味を損なうことなく、キサントフモールおよびイソキサントフモールの含有量を高めることができる。本発明の好ましい態様によれば、本発明の容器詰発酵飲料を飲み続けることで、キサントフモールおよびイソキサントフモールが持つ生理活性作用による健康維持および改善効果を期待できる。