(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】ダイナミックダンパ
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20220908BHJP
F16F 15/08 20060101ALI20220908BHJP
F16F 1/36 20060101ALI20220908BHJP
F16F 1/373 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
F16F15/02 C
F16F15/08 E
F16F1/36 Y
F16F1/373
(21)【出願番号】P 2019013989
(22)【出願日】2019-01-30
【審査請求日】2021-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】特許業務法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】谷口 竜徳
(72)【発明者】
【氏名】後藤 孝之
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-098515(JP,A)
【文献】特開2000-266096(JP,A)
【文献】実開昭61-079038(JP,U)
【文献】特開2010-216559(JP,A)
【文献】特開2010-215121(JP,A)
【文献】特開2007-263181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
F16F 15/08
F16F 1/36
F16F 1/373
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マス部材の両側が支持ゴム弾性体を介して制振対象に取り付けられることで該制振対象に対する副振動系を構成するダイナミックダンパであって、
前記支持ゴム弾性体の横断面が、前記制振対象に対する前記マス部材の弾性連結方向において該制振対象側から該マス部材側に向かって小さくされている
と共に、
該支持ゴム弾性体において、少なくとも制振すべき主たる振動の入力方向の両側面が、該制振対象側から該マス部材側に向かって互いに接近する傾斜面とされているダイナミックダンパ。
【請求項2】
前記支持ゴム弾性体が矩形の横断面形状を有しており、
該支持ゴム弾性体における4つの平面からなる外周面のうちで、少なくとも制振すべき主たる振動の入力方向で相互に対向する一対の面が、前記制振対象側から該マス部材側に向かって互いに接近する傾斜面とされている請求項
1に記載のダイナミックダンパ。
【請求項3】
マス部材の両側が支持ゴム弾性体を介して制振対象に取り付けられることで該制振対象に対する副振動系を構成するダイナミックダンパであって、
前記支持ゴム弾性体の横断面が、前記制振対象に対する前記マス部材の弾性連結方向において該制振対象側から該マス部材側に向かって小さくされている
と共に、
該支持ゴム弾性体において、少なくとも制振すべき主たる振動の入力方向に直交する両側面が、該制振対象側から該マス部材側に向かって互いに平行に延びる平行面とされているダイナミックダンパ。
【請求項4】
マス部材の両側が支持ゴム弾性体を介して制振対象に取り付けられることで該制振対象に対する副振動系を構成するダイナミックダンパであって、
前記支持ゴム弾性体の横断面が、前記制振対象に対する前記マス部材の弾性連結方向において該制振対象側から該マス部材側に向かって小さくされている
と共に、
該支持ゴム弾性体における該マス部材側と該制振対象側との少なくとも一方の側には取付ブラケットが固着されており、該取付ブラケットを介して、該支持ゴム弾性体が該マス部材又は該制振対象へ取り付けられるようになっているダイナミックダンパ。
【請求項5】
マス部材の両側が支持ゴム弾性体を介して制振対象に取り付けられることで該制振対象に対する副振動系を構成するダイナミックダンパであって、
前記支持ゴム弾性体の横断面が、前記制振対象に対する前記マス部材の弾性連結方向において該制振対象側から該マス部材側に向かって小さくされている
と共に、
該支持ゴム弾性体において、該制振対象側から該マス部材側に向かって横断面を小さくされた領域が、該制振対象と該マス部材の弾性連結方向における該支持ゴム弾性体の全長の60%以上の長さ寸法で設けられているダイナミックダンパ。
【請求項6】
マス部材の両側が支持ゴム弾性体を介して制振対象に取り付けられることで該制振対象に対する副振動系を構成するダイナミックダンパであって、
前記支持ゴム弾性体の横断面が、前記制振対象に対する前記マス部材の弾性連結方向において該制振対象側から該マス部材側に向かって小さくされている
と共に、
該支持ゴム弾性体において、該制振対象側から該マス部材側に向かって小さくされた横断面の単位長さ当たりの縮小変化割合が1%~5%の範囲内に設定されているダイナミックダンパ。
【請求項7】
マス部材の両側が支持ゴム弾性体を介して制振対象に取り付けられることで該制振対象に対する副振動系を構成するダイナミックダンパであって、
前記支持ゴム弾性体の横断面が、前記制振対象に対する前記マス部材の弾性連結方向において該制振対象側から該マス部材側に向かって小さくされて
おり、
該マス部材の両側において並列的に配置された複数の該支持ゴム弾性体が設けられていると共に、それら各支持ゴム弾性体の横断面が何れも該制振対象側から該マス部材側に向かって次第に小さくされているダイナミックダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振対象に対する副振動系を構成して、制振対象の振動を低減するダイナミックダンパに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、制振対象の振動を低減するダイナミックダンパが知られている。かかるダイナミックダンパの一種として、例えば、特開2008-014377号公報(特許文献1)にシートダンパとして示されているものがある。即ち、マス部材の両側を、バネ部材としての防振基体を介して制振対象(シート)に取り付けることで、制振対象に対する副振動系を構成している。
【0003】
そして、両側の防振基体による連結軸に略直交する方向に入力される振動に対して制振効果が発揮されるように、副振動系のマス質量や共振周波数がチューニングされて用いられることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者が検討したところ、特許文献1に開示されている如き従来構造のダイナミックダンパでは、制振性能と耐久性を両立して実現することが難しい場合のあることが明らかになった。特にダンパ配設スペースが制限されたり、制振対象が低周波振動の場合などでは、制振性能と耐久性の両立が一層難しくなる。
【0006】
例えば、所定のマス質量のもとで副振動系の共振周波数を低周波数域にチューニングするには、バネ系のばね定数を小さくする必要がある。ところが、バネ系を構成するゴム弾性体のばね定数を小さくするために、ゴム弾性体の断面積を小さくすると、ゴム弾性体の耐久性の確保が難しい。一方、ゴム弾性体の自由長を大きくすることでばね定数を小さくするには、ダイナミックダンパの大型化が避けられず、ダンパの配設スペースが問題となってしまう。
【0007】
本発明の解決課題は、優れた制振性能と耐久性をコンパクトな構造で実現することができる、新規な構造のダイナミックダンパを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0009】
第一の態様は、マス部材の両側が支持ゴム弾性体を介して制振対象に取り付けられることで該制振対象に対する副振動系を構成するダイナミックダンパであって、前記支持ゴム弾性体の横断面が、前記制振対象に対する前記マス部材の弾性連結方向において該制振対象側から該マス部材側に向かって小さくされていると共に、該支持ゴム弾性体において、少なくとも制振すべき主たる振動の入力方向の両側面が、該制振対象側から該マス部材側に向かって互いに接近する傾斜面とされているものである。
【0010】
本態様に従う構造とされたダイナミックダンパによれば、支持ゴム弾性体の横断面が、制振対象によって固定的に保持されて応力が集中し易くなる制振対象側において、マス部材側よりも大きくされていることにより、マス部材側への応力の分散化が図られる。それ故、特に支持ゴム弾性体の制振対象側において亀裂などが生じ難くなって、支持ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。
【0011】
本発明者は、実験と解析の結果、マス部材の両側が支持ゴム弾性体を介して制振対象に取り付けられる態様のダイナミックダンパでは、支持ゴム弾性体に発生する応力がマス部材側と制振対象側とで相違するとの新たな知見を得た。即ち、振動入力に際してマス部材が理想的な並進運動をする限りは、支持ゴム弾性体のマス部材側と制振対象側とに発生する応力に大きな差異が生じないこととなる。しかし、詳細に又はミクロ的に見ると、車両ボデー等の剛体からなる制振対象に比して、可動体であるマス部材は傾動等の自由変位が許容されることから、支持ゴム弾性体のマス部材側では過大な集中的応力の発生が緩和されるものと考えられる。
【0012】
このような知見に基づいて為された本態様では、支持ゴム弾性体の横断面が、マス部材側において制振対象側よりも小さくされていることにより、耐久性を確保しながら、支持ゴム弾性体のばね特性のチューニング自由度を大きく得ることができる。特に、制振対象側では大きな断面積をもって支持ゴム弾性体の耐久性を確保しつつ、発生応力が小さいマス部材側で横断面を小さくして支持ゴム弾性体のばね定数を小さく設定することで、ダイナミックダンパの共振周波数を低周波に設定することも可能となる。
【0014】
また、本態様に従う構造とされたダイナミックダンパによれば、支持ゴム弾性体において、主たる振動の入力時に応力集中が発生し易い主たる振動の入力方向の両側面が、互いに接近する傾斜面とされている。それ故、支持ゴム弾性体の横断面が、制振対象側からマス部材側に向かって主たる振動の入力方向で小さくなっている。これにより、支持ゴム弾性体の主たる振動の入力方向における横断面の幅寸法が比較的に大きくされた制振対象側において、耐久性の向上が効率的に図られる。更に、マス部材側において、支持ゴム弾性体の主たる振動の入力方向における横断面の幅寸法が比較的に小さくされることで、支持ゴム弾性体の主たる振動の入力方向におけるばね特性をより効率的に調節することも可能になる。
【0015】
第二の態様は、第一の態様に記載されたダイナミックダンパにおいて、前記支持ゴム弾性体が矩形の横断面形状を有しており、該支持ゴム弾性体における4つの平面からなる外周面のうちで、少なくとも制振すべき主たる振動の入力方向で相互に対向する一対の面が、前記制振対象側から該マス部材側に向かって互いに接近する傾斜面とされているものである。
【0016】
本態様に従う構造とされたダイナミックダンパによれば、支持ゴム弾性体の耐久性の向上とばね特性の設定自由度とを両立してそれぞれ効率的に実現することができる。
【0017】
第三の態様は、マス部材の両側が支持ゴム弾性体を介して制振対象に取り付けられることで該制振対象に対する副振動系を構成するダイナミックダンパであって、前記支持ゴム弾性体の横断面が、前記制振対象に対する前記マス部材の弾性連結方向において該制振対象側から該マス部材側に向かって小さくされていると共に、該支持ゴム弾性体において、少なくとも制振すべき主たる振動の入力方向に直交する両側面が、該制振対象側から該マス部材側に向かって互いに平行に延びる平行面とされているものである。
【0018】
本態様に従う構造とされたダイナミックダンパによれば、主たる振動の入力方向において支持ゴム弾性体のばね定数を小さく設定しながら、主たる振動の入力方向に直交する方向では、支持ゴム弾性体のばね定数を確保することができる。それ故、例えば、主たる振動の入力に対して、主たる振動の入力方向に対して直交する方向への振れや捩じれなどが抑えられて、マス部材の変位が安定する。その結果、支持ゴム弾性体の耐久性の向上や、制振作用の安定した発揮などが実現される。
【0019】
第四の態様は、マス部材の両側が支持ゴム弾性体を介して制振対象に取り付けられることで該制振対象に対する副振動系を構成するダイナミックダンパであって、前記支持ゴム弾性体の横断面が、前記制振対象に対する前記マス部材の弾性連結方向において該制振対象側から該マス部材側に向かって小さくされていると共に、該支持ゴム弾性体における該マス部材側と該制振対象側との少なくとも一方の側には取付ブラケットが固着されており、該取付ブラケットを介して、該支持ゴム弾性体が該マス部材又は該制振対象へ取り付けられるようになっているものである。
【0020】
本態様に従う構造とされたダイナミックダンパによれば、マス部材と制振対象の少なくとも一方を、取付ブラケットによって、支持ゴム弾性体に対して後から簡単に取り付けることができる。
【0021】
第五の態様は、マス部材の両側が支持ゴム弾性体を介して制振対象に取り付けられることで該制振対象に対する副振動系を構成するダイナミックダンパであって、前記支持ゴム弾性体の横断面が、前記制振対象に対する前記マス部材の弾性連結方向において該制振対象側から該マス部材側に向かって小さくされていると共に、該支持ゴム弾性体において、該制振対象側から該マス部材側に向かって横断面を小さくされた領域が、該制振対象と該マス部材の弾性連結方向における該支持ゴム弾性体の全長の60%以上の長さ寸法で設けられているものである。
【0022】
本態様に従う構造とされたダイナミックダンパによれば、支持ゴム弾性体の横断面が、広い領域に亘って、制振対象側からマス部材側に向かって小さくなっている。これにより、支持ゴム弾性体において、制振対象側からマス部材側に向かって横断面を急激に変化させることなく十分に縮小変化させることができる。それ故、支持ゴム弾性体において、応力分散による耐久性の向上と、ばね特性の調節自由度の向上とを、何れも有効に実現することができる。
【0023】
第六の態様は、マス部材の両側が支持ゴム弾性体を介して制振対象に取り付けられることで該制振対象に対する副振動系を構成するダイナミックダンパであって、前記支持ゴム弾性体の横断面が、前記制振対象に対する前記マス部材の弾性連結方向において該制振対象側から該マス部材側に向かって小さくされていると共に、該支持ゴム弾性体において、該制振対象側から該マス部材側に向かって小さくされた横断面の単位長さ当たりの縮小変化割合が1%~5%の範囲内に設定されているものである。
【0024】
本態様に従う構造とされたダイナミックダンパによれば、支持ゴム弾性体において、制振対象側からマス部材側に向かって、横断面の急激な変化を抑えながら縮小変化量を十分に得ることができる。それ故、支持ゴム弾性体において、応力分散による耐久性の向上と、ばね特性の調節自由度の向上とを、何れも有効に実現することができる。
【0025】
第七の態様は、マス部材の両側が支持ゴム弾性体を介して制振対象に取り付けられることで該制振対象に対する副振動系を構成するダイナミックダンパであって、前記支持ゴム弾性体の横断面が、前記制振対象に対する前記マス部材の弾性連結方向において該制振対象側から該マス部材側に向かって小さくされており、該マス部材の両側において並列的に配置された複数の該支持ゴム弾性体が設けられていると共に、それら各支持ゴム弾性体の横断面が何れも該制振対象側から該マス部材側に向かって次第に小さくされているものである。
【0026】
本態様に従う構造とされたダイナミックダンパによれば、マス部材の両側に各複数の支持ゴム弾性体が並列的に設けられることによって、それら支持ゴム弾性体によるばね特性の設定自由度がより大きくなり得る。しかも、それら各支持ゴム弾性体の横断面が何れも制振対象側からマス部材側に向かって次第に小さくされていることによって、各支持ゴム弾性体において、応力の分散化による耐久性の向上と、ばね特性の設定自由度の確保とが、両立して実現される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、優れた制振性能と耐久性をコンパクトな構造で両立して実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】本発明の第一の実施形態としてのダイナミックダンパを示す正面図。
【
図8】本発明に係るダイナミックダンパを構成する支持ゴム弾性体の解析結果を示す図であって、(a)が比較例としての支持ゴム弾性体の解析結果を、(b)が実施例としての支持ゴム弾性体の解析結果を、それぞれ示す。
【
図9】本発明の別の一実施形態としてのダイナミックダンパの要部を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0030】
図1~4には、本発明の第一の実施形態としてのダイナミックダンパ10が示されている。ダイナミックダンパ10は、マス部材12の両側にそれぞれ支持ゴム弾性体14が設けられた構造を有している。以下の説明において、原則として、上下方向とは
図1中の上下方向を、前後方向とは
図4中の左右方向を、左右方向とは
図1中の左右方向を、それぞれ言う。
【0031】
より詳細には、マス部材12は、鉄などの比重の大きい材料で形成されており、
図5~7にも示すように、略矩形ブロック状とされている。マス部材12は、上下方向の幅寸法が前後方向及び左右方向の幅寸法よりも小さい扁平な矩形板形状とされている。マス部材12は、前後方向よりも左右方向に長い長手板形状とされている。マス部材12の左右方向の両端部分には、
図6,7に示すように、上下方向に貫通するボルト孔16がそれぞれ形成されている。
【0032】
さらに、マス部材12の左右方向の中央部分には、
図5に示すように、上下及び前後の4面を覆うストッパゴム18が固着されている。ストッパゴム18は、薄肉のゴム層であって、複数の緩衝突起20が上下両面に突出して一体形成されている。緩衝突起20は、略円錐形状とされており、突出先端に向けて横断面が小さくなっている。
【0033】
支持ゴム弾性体14は、
図6,7に示すように、略矩形板状とされて、マス部材12の左右方向の端面に対応する略矩形の横断面(左右方向に対して直交する断面)形状を有している。これにより、支持ゴム弾性体14の外周面は、上下方向に対する交差方向に広がる上下両面と、前後方向に対する交差方向に広がる前後両面との4つの平面を備えている。
【0034】
また、支持ゴム弾性体14は、左右方向の内側端部に取付ブラケットとしてのマス側ブラケット22が固着されていると共に、左右方向の外側端部に取付ブラケットとしてのボデー側ブラケット24が固着されている。本実施形態の支持ゴム弾性体14は、ボデー側ブラケット24とマス側ブラケット22を備えた一体加硫成形品とされており、ボデー側ブラケット24とマス側ブラケット22が支持ゴム弾性体14の成形時に固着される。
【0035】
マス側ブラケット22は、金属などで形成された高剛性の部材であって、支持ゴム弾性体14が固着される側壁部26と、側壁部26の上端及び下端において左右方向の内側へ延び出す上壁部28及び下壁部30と、それら側壁部26と上壁部28と下壁部30との各後端につながる後壁部32とを、備えている。マス側ブラケット22は、側壁部26が左右方向に対して略直交して広がっていると共に、上壁部28及び下壁部30が上下方向に対して略直交して広がっており、更に後壁部32が前後方向に対して略直交して広がっている。
【0036】
ボデー側ブラケット24は、上金具34と下金具36によって構成されている。上金具34は、前後方向に延びる上下逆向きの溝形状とされている。上金具34は、溝形状の開口側の端部である下端部において、左右方向の外側へ延び出す上固定片38が設けられている。上金具34の左右方向の中央部分には、後方から下方へ延び出す中間支持片40が一体形成されている。
【0037】
下金具36は、上向きに開口する浅底の略矩形皿形状とされている。下金具36の開口側の端部である上端部には、略全周に亘って外周へ延び出す下固定片42が設けられている。下金具36の底壁部44には、植設ピン46が左右両端部分において下向きに突出するように植設されている。
【0038】
本実施形態では、上金具34の上固定片38と下金具36の下固定片42が上下方向で相互に重ね合わされる。また、下金具36の後端部に沿って左右方向に延びる棒状の後部押え部材48と、後部押え部材48の左右方向の両端部分から前方へ延び出す側部押え部材50,50とが、下固定片42に対して溶接などの手段で固定される。そして、
図4~6の示すように、上金具34の上固定片38,38が、下金具36の下固定片42と側部押え部材50,50との間で挟まれると共に、上金具34の中間支持片40が、下金具36の下固定片42と後部押え部材48との間で挟まれる。これらにより、上金具34と下金具36が相互に連結されている。
【0039】
なお、本実施形態では、後部押え部材48と側部押え部材50,50とが、下固定片42に予め固定されている。そして、上金具34の上固定片38と中間支持片40が、下金具36の下固定片42と後部押え部材48及び側部押え部材50,50との間に前方から差し入れられる。更に、上金具34の上固定片38と中間支持片40が、下金具36の下固定片42と後部押え部材48及び側部押え部材50,50との間に差し入れた状態で、前側の下固定片42に棒状の抜止部材52が溶接などの手段で固定されることにより、上金具34と下金具36の分離が防止される。また、棒状の後部押え部材48と側部押え部材50,50と抜止部材52とが下金具36に設けられることで、下金具36の変形剛性が高められている。
【0040】
また、ボデー側ブラケット24の左右方向の両端部分には、上金具34の上固定片38と下金具36の下固定片42とを上下方向に貫通する複数のボルト孔54が形成されている。それらボルト孔54に挿通される図示しない取付用ボルトが車両ボデー64(後述)に固定されることによって、上金具34と下金具36がより強固に固定される。尤も、上金具34と下金具36は、溶接や嵌合、係止等の各種公知の固定手段によって、相互に固定されていても良い。
【0041】
支持ゴム弾性体14は、
図7に示すように、前後方向で相互に対向する前後両面が、ボデー側ブラケット24側からマス側ブラケット22側に向かって互いに略平行に広がる平行面56とされている。平行面56は、それぞれ前後方向に対して直交して広がっており、支持ゴム弾性体14の弾性中心軸Lが延びる方向に対して略平行に延びる平面とされている。
【0042】
さらに、上下方向で相互に対向する支持ゴム弾性体14の上下両面は、ボデー側ブラケット24側からマス側ブラケット22側に向かって次第に上下方向の内側へ傾斜する傾斜面58,58とされている。換言すれば、支持ゴム弾性体14の上下両面は、ボデー側ブラケット24側からマス側ブラケット22側に向かって互いに接近する傾斜面58,58とされている。これにより、支持ゴム弾性体14は、弾性中心軸Lと直交する横断面が、弾性中心軸Lが延びる左右方向において、ボデー側ブラケット24側からマス側ブラケット22側に向かって小さくされている。本実施形態では、支持ゴム弾性体14の外周面において、前後両面が平行面56,56とされていると共に、上下両面が傾斜面58,58とされていることから、支持ゴム弾性体14の上下方向の幅寸法が、ボデー側ブラケット24側からマス側ブラケット22側に向かって小さくされている。
【0043】
傾斜面58,58の左右方向の長さ寸法は、支持ゴム弾性体14の上下両面の左右方向の全長に対して、例えば、60%以上、より好適には、80%以上とされている。このように、支持ゴム弾性体14の上下両面における広い範囲が傾斜面58,58で構成されることにより、左右方向において支持ゴム弾性体14の横断面がボデー側ブラケット24側からマス側ブラケット22側に向かって次第に小さくなる領域を広く確保できる。それ故、左右方向において支持ゴム弾性体14の横断面の面積の急激な変化を抑えつつ、支持ゴム弾性体14の横断面における最小面積と最大面積の差を大きくすることができる。
【0044】
また、左右方向で傾斜面58,58が形成された領域において、支持ゴム弾性体14の横断面は、ボデー側ブラケット24側からマス側ブラケット22側に向かって、単位長さ当たり1%~5%の縮小変化割合で小さくなっていることが望ましい。支持ゴム弾性体14の横断面の縮小変化割合が5%以下とされることにより、支持ゴム弾性体14の横断面の急激な面積変化が回避されて、応力の効果的な分散化が図られる。支持ゴム弾性体14の横断面の縮小変化割合が1%以上とされることにより、支持ゴム弾性体14の横断面における最小面積と最大面積の差を大きく確保できて、支持ゴム弾性体14のばね特性の設定自由度が大きくなる。
【0045】
かくの如き構造とされた支持ゴム弾性体14の一体加硫成形品は、マス側ブラケット22の上壁部28が、マス部材12に対して、マス固定ボルト60によって取り付けられている。これにより、支持ゴム弾性体14は、マス部材12とボデー側ブラケット24を左右方向で相互に連結して設けられている。マス側ブラケット22は、マス部材12の左右方向の両端部分にそれぞれ取り付けられている。これにより、マス部材12は、左右方向の両側において、支持ゴム弾性体14によってそれぞれ弾性支持されている。そして、マス部材12は、ボデー側ブラケット24に対して、支持ゴム弾性体14の弾性変形を伴う相対変位を許容されている。なお、マス固定ボルト60が挿通されるマス側ブラケット22のボルト孔62は、上壁部28と下壁部30の両方にそれぞれ形成されており、マス部材12の左右方向の両端部に取り付けられるマス側ブラケット22,22が互いに共通の構造とされている。
【0046】
マス部材12は、ボデー側ブラケット24に対して、上下、前後、左右の各方向で相対変位を許容される。支持ゴム弾性体14が左右方向に延びており、左右方向では圧縮ばね成分による硬いばね特性が発揮されることから、マス部材12の左右方向の変位が制限されている。更に、支持ゴム弾性体14は、前後方向の幅寸法が上下方向の幅寸法よりも大きくされており、前後方向のばね定数が上下方向のばね定数よりも大きくされていることから、マス部材12の前後方向の変位は上下方向の変位よりも制限されている。要するに、支持ゴム弾性体14によって弾性支持されたマス部材12は、ボデー側ブラケット24に対して、前後方向及び左右方向よりも上下方向に変位し易くなっている。
【0047】
また、マス部材12は、ボデー側ブラケット24の上金具34と下金具36の間に配されている。そして、マス部材12のボデー側ブラケット24に対する上下方向の相対変位量が、マス部材12と上金具34及び下金具36とがストッパゴム18を介して当接することで制限されている。なお、マス部材12と上金具34及び下金具36との間には、ストッパゴム18の緩衝突起20が設けられており、マス部材12と上金具34及び下金具36とがストッパゴム18を介して当接する際の打音が低減されている。
【0048】
このような本実施形態に従う構造のダイナミックダンパ10は、制振対象としての車両ボデー64のフロントヘッダ部分に設けられた内部スペース66に収容状態で配設されて、車両ボデー64に取り付けられている。より具体的には、ボデー側ブラケット24の植設ピン46が車両ボデー64に固定されると共に、上下の固定片38,42に設けられたボルト孔54に挿通される図示しない取付用ボルトによって、上下の固定片38,42が車両ボデー64に固定される。これらによって、支持ゴム弾性体14がボデー側ブラケット24を介して車両ボデー64に取り付けられて、ダイナミックダンパ10が車両ボデー64に取り付けられる。
【0049】
ダイナミックダンパ10の車両ボデー64への装着によって、マス部材12とマス側ブラケット22,22とマス固定ボルト60,60とをマス成分とし、支持ゴム弾性体14,14をばね成分とする副振動系が、車両ボデー64に対して設けられる。副振動系のマス成分は、車両ボデー64に対して、左右の支持ゴム弾性体14,14によって弾性連結されていることから、マス成分が車両ボデー64に対して相対変位可能に設けられている。なお、マス部材12を含むマス成分と、ボデー側ブラケット24が固定された車両ボデー64とが、支持ゴム弾性体14,14によって左右方向で弾性連結されている。また、ダイナミックダンパ10は、車両ボデー64に装着された静置状態において、各支持ゴム弾性体14の弾性中心軸Lがマス部材12の長手方向である左右方向に延びていると共に、弾性中心軸Lがマス部材12の重心Gを通っている(
図6,7参照)。
【0050】
車両ボデー64に装着されたダイナミックダンパ10に対して、車両ボデー64の主たる振動が上下方向に入力されると、副振動系のマス部材12がボデー側ブラケット24に対して振動することにより、副振動系が設けられた車両ボデー64の振動が低減される。なお、ダイナミックダンパ10によって構成される副振動系の共振周波数は、制振対象振動である車両ボデー64の主たる振動の周波数にチューニングされており、車両ボデー64の主たる振動に対して制振効果が有効に発揮される。
【0051】
ダイナミックダンパ10は、支持ゴム弾性体14の弾性中心軸Lが、マス部材12の重心Gを通っている。それ故、マス部材12が振動入力によって上下方向に変位する際に、マス部材12の変位姿勢の安定化が図られて、捻りやこじりなどの意図しない変位が防止されて、上下方向の平行移動が安定して生ぜしめられる。それ故、支持ゴム弾性体14に意図しない力が作用することによる支持ゴム弾性体14の耐久性の低下が防止されると共に、上下方向の振動に対して、ダイナミックダンパ10による制振作用がより効率的に発揮される。
【0052】
ダイナミックダンパ10は、支持ゴム弾性体14の横断面が、車両ボデー64への取付側であるボデー側ブラケット24側からマス部材12側に向かって、次第に小さくなっている。それ故、ボデー側ブラケット24側からマス部材12側に向かって略一定の横断面で延びる支持ゴム弾性体に比して、支持ゴム弾性体14のばね定数が小さくされている。従って、ダイナミックダンパ10によって構成される副振動系のチューニング周波数を、より低周波に設定することが可能とされて、制振対象振動の周波数が低い場合にも、ダイナミックダンパ10の制振効果を有効に発揮させることができる。
【0053】
ダイナミックダンパ10は、車両ボデー64の主たる振動の入力方向(上下方向)に対して交差方向に広がる支持ゴム弾性体14の上下両面が、それぞれ傾斜面58を有している。そして、支持ゴム弾性体14の横断面は、上下方向の幅寸法がボデー側ブラケット24側からマス部材12側に向けて次第に小さくなっている。それ故、支持ゴム弾性体14の上下方向のばね定数が特に小さくなっている。従って、上下方向の振動である車両ボデー64の主たる振動が入力される場合に、ダイナミックダンパ10によって構成される副振動系の共振周波数を特に低周波までチューニングすることが可能となる。
【0054】
また、支持ゴム弾性体14は、車両ボデー64に固定的に取り付けられるボデー側ブラケット24側において、横断面が比較的に大きくされている。それ故、ボデー側ブラケット24によって拘束されることで応力が集中し易い支持ゴム弾性体14のボデー側ブラケット24側において、支持ゴム弾性体14の耐久性の向上が図られる。
【0055】
このように、支持ゴム弾性体14の横断面が、ボデー側ブラケット24側からマス部材12側に向けて小さくなるように縮小変化していることにより、車両ボデー64によって拘束されることで亀裂などの損傷が生じ易いボデー側ブラケット24側では、横断面が大きくされて、耐久性の向上が図られる。一方、拘束による応力集中が生じ難いマス部材12側では、支持ゴム弾性体14の横断面を小さくしてばね定数を小さくすることで、ダイナミックダンパ10によって構成される副振動系の共振周波数をより低周波に設定可能となる。
【0056】
しかも、耐久性を確保するために支持ゴム弾性体14の左右方向の自由長を長くしたり、低周波チューニングを可能とするためにマス部材12を大きくしたりする必要がなく、優れた防振性能と耐久性を兼ね備えたダイナミックダンパ10を、軽量且つコンパクトに実現することができる。それ故、スペースが制限され易い車両ボデー64のフロントヘッダ部分の内部スペース66において、ダイナミックダンパ10を収容状態で装着することができる。
【0057】
また、支持ゴム弾性体14は、横断面において、前後方向の幅寸法が上下方向の幅寸法よりも大きくされている。更に、支持ゴム弾性体14の前後両面は相互に平行に広がる平行面56,56とされており、支持ゴム弾性体14の横断面の前後方向の幅寸法が、ボデー側ブラケット24側からマス部材12側に向けて略一定とされている。それ故、支持ゴム弾性体14は、前後方向のばね定数が上下方向のばね定数よりも大きくされており、マス部材12の前後方向の変位が生じ難くなっている。
【0058】
また、マス部材12が左右方向に変位する場合には、支持ゴム弾性体14,14の何れか一方が圧縮されることから、圧縮ばね成分による硬いばね特性が発揮される。それ故、マス部材12の左右方向の変位も生じ難くなっている。更に、弾性中心軸Lの回りでの回転方向のマス変位に対しても、支持ゴム弾性体14,14の前後方向の寸法が確保されていることにより断面二次極モーメントが大きくされて、捩じれ振動なども効率的に抑えられる。
【0059】
このように、マス部材12は、上下方向の変位が前後方向及び左右方向の変位よりも生じ易くなっており、マス部材12の前後方向或いは左右方向への振れが防止されて、マス部材12の上下方向の変位が安定する。従って、ダイナミックダンパ10によって構成される副振動系の共振周波数のチューニングが容易になり得る。
【0060】
なお、本発明に係る構造の支持ゴム弾性体14において、マス部材12の変位に伴う応力が分散して作用することは、
図8に示す解析結果によっても確認されている。出力された解析結果はカラー表示されているが、
図8ではグレースケールとされており、応力レベルの差異を識別し難いことから、以下に簡単な説明を加える。即ち、
図8のシミュレーション結果によれば、
図8の(a)に示す比較例としての従来構造の支持ゴム弾性体68に比して、(b)に示す実施例としての本発明に係る支持ゴム弾性体14は、車両ボデー(ボデー側ブラケット)側に作用する応力が小さくなると共に、よりマス部材(マス側ブラケット)に近い位置まで応力が分散して作用することが確認できた。シミュレーションの結果を示す
図8では、ひずみの大きさが色相によって示されており、ひずみが小さいほど青に近く且つひずみが大きいほど赤に近い色相で示されている。
【0061】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、ボデー側ブラケット24及びマス側ブラケット22の具体的な構造は、特に限定されない。例えば、ボデー側ブラケット24の具体的な構造は、車両ボデー64側の取付構造や、車両ボデー64のフロントヘッダ部分の内部スペース66などに応じて、適宜に変更される。
【0062】
マス側ブラケット22は必須ではなく、支持ゴム弾性体14の左右方向の内側端部がマス部材12に直接的に固着されていても良い。ボデー側ブラケット24は必須ではなく、例えば、車両ボデー64の構成部材に対して、支持ゴム弾性体14の左右方向の外側端部が直接的に固着され得る。また、支持ゴム弾性体14の左右方向の外面に板状の固定金具が固着されており、当該固定金具がボデー側ブラケット24に固定されるようにしても良い。要するに、支持ゴム弾性体14は、ボデー側ブラケット24やマス側ブラケット22に対して、他部材を介して間接的に固定され得る。
【0063】
前記実施形態の支持ゴム弾性体14は、マス部材12の左右方向の両側に各1つが設けられていたが、例えば、マス部材12の左右方向の両側に各複数の支持ゴム弾性体を設けることもできる。即ち、
図9に示すように、マス部材12とボデー側ブラケット24の左右方向の対向面間に、第一の支持ゴム弾性体70と、第二の支持ゴム弾性体72とが、前後方向で並んで並列的に設けられていても良い。
【0064】
図9中には明示されていないが、第一の支持ゴム弾性体70と第二の支持ゴム弾性体72は、上下方向(
図9中の紙面直交方向)に位置する各上下両面が、ボデー側ブラケット24側からマス部材12側に向かって、相互に接近する方向に傾斜している。これにより、第一の支持ゴム弾性体70と第二の支持ゴム弾性体72の各横断面は、何れも、ボデー側ブラケット24側からマス部材12側に向かって次第に縮小変化している。このように、マス部材12の左右両側に各複数の支持ゴム弾性体70,72を配置する場合には、各支持ゴム弾性体70,72の横断面がボデー側ブラケット24側からマス部材12側に向かって小さくされる。尤も、例えば、第一の支持ゴム弾性体70が、上下両面が傾斜面とされると共に前後両面が非傾斜の平行面とされる一方、第二の支持ゴム弾性体72の前後両面が傾斜面とされると共に上下両面が非傾斜の平行面とされていても良い。
【0065】
支持ゴム弾性体14は、必ずしもマス部材12の両側にだけ設けられるものではない。例えば、支持ゴム弾性体14は、マス部材12に対して、左右方向の両側だけでなく、前後方向の両側にも設けられ得る。
【0066】
支持ゴム弾性体14は、車両ボデー64に対するマス部材12の弾性連結方向において車両ボデー64側からマス部材12側に向かって横断面が小さくされていれば良く、必ずしも上下両面が傾斜面58,58とされた構造に限定されない。例えば、支持ゴム弾性体14は、上下何れか一方の面が弾性連結方向(弾性中心軸Lと略平行な方向)に対して傾斜していると共に、上下何れか他方の面が弾性連結方向に対して略平行に広がっていても良い。また、支持ゴム弾性体14は、車両ボデー64側からマス部材12側に向かって横断面が小さくされていれば良く、例えば上下方向の外寸が車両ボデー64側からマス部材12側に向かって小さくされる一方、左右歩行の外寸が車両ボデー64側からマス部材12側に向かって多少は大きくなる形状も採用可能である。
【0067】
支持ゴム弾性体14の前後両面がボデー側ブラケット24側からマス部材12側に向かって相互に接近する傾斜面とされていても良い。この場合に、支持ゴム弾性体14の上下両面は、傾斜面58であっても良いし、互いに略平行に広がる平行面であっても良い。
【0068】
傾斜面58は、前記実施形態のように略一定の変化率(傾き)で直線的に延びていても良いが、例えば、変化率が変化していても良く、変化率が徐々に変化する湾曲面や、変化率が段階的に変化する折れ面などでも構成され得る。
【0069】
マス部材12は、矩形板状に限定されず、各種の形状が採用され得る。具体的には、例えば、円柱形状や円板形状、立方体、球などの幾何学的な形状が何れも採用可能である他、異形であっても良い。
【0070】
本発明は、自動車用のダイナミックダンパにのみ適用されるものではなく、例えば、自動二輪車や鉄道、産業用車両、住宅、家電などに用いられるダイナミックダンパにも適用され得る。また、自動車用のダイナミックダンパに本発明を適用する場合において、ダイナミックダンパの装着部位は、必ずしも車両ボデーのフロントヘッダ部分に限定されない。
なお、本発明は、もともと以下(i)~(viii)に記載の各発明を何れも含むものであり、その構成および作用効果に関して、付記しておく。
本発明は、
(i) マス部材の両側が支持ゴム弾性体を介して制振対象に取り付けられることで該制振対象に対する副振動系を構成するダイナミックダンパであって、前記支持ゴム弾性体の横断面が、前記制振対象に対する前記マス部材の弾性連結方向において該制振対象側から該マス部材側に向かって小さくされているダイナミックダンパ、
(ii) 前記支持ゴム弾性体において、少なくとも制振すべき主たる振動の入力方向の両側面が、前記制振対象側から前記マス部材側に向かって互いに接近する傾斜面とされている(i)に記載のダイナミックダンパ、
(iii) 前記支持ゴム弾性体が矩形の横断面形状を有しており、該支持ゴム弾性体における4つの平面からなる外周面のうちで、少なくとも制振すべき主たる振動の入力方向で相互に対向する一対の面が、前記制振対象側から該マス部材側に向かって互いに接近する傾斜面とされている(ii)に記載のダイナミックダンパ、
(iv) 前記支持ゴム弾性体において、少なくとも制振すべき主たる振動の入力方向に直交する両側面が、前記制振対象側から前記マス部材側に向かって互いに平行に延びる平行面とされている(i)~(iii)の何れか一項に記載のダイナミックダンパ、
(v) 前記支持ゴム弾性体における前記マス部材側と前記制振対象側との少なくとも一方の側には取付ブラケットが固着されており、該取付ブラケットを介して、該支持ゴム弾性体が該マス部材又は該制振対象へ取り付けられるようになっている(i)~(iv)の何れか一項に記載のダイナミックダンパ、
(vi) 前記支持ゴム弾性体において、前記制振対象側から前記マス部材側に向かって横断面を小さくされた領域が、該制振対象と該マス部材の弾性連結方向における該支持ゴム弾性体の全長の60%以上の長さ寸法で設けられている(i)~(v)の何れか一項に記載のダイナミックダンパ、
(vii) 前記支持ゴム弾性体において、前記制振対象側から前記マス部材側に向かって小さくされた横断面の単位長さ当たりの縮小変化割合が1%~5%の範囲内に設定されている(i)~(vi)の何れか一項に記載のダイナミックダンパ、
(viii) 前記マス部材の両側において並列的に配置された複数の前記支持ゴム弾性体が設けられていると共に、それら各支持ゴム弾性体の横断面が何れも前記制振対象側から該マス部材側に向かって次第に小さくされている(i)~(vii)の何れか一項に記載のダイナミックダンパ、
に関する発明を含む。
上記(i)に記載の発明では、支持ゴム弾性体の横断面が、制振対象によって固定的に保持されて応力が集中し易くなる制振対象側において、マス部材側よりも大きくされていることにより、マス部材側への応力の分散化が図られる。それ故、特に支持ゴム弾性体の制振対象側において亀裂などが生じ難くなって、支持ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。本発明者は、実験と解析の結果、マス部材の両側が支持ゴム弾性体を介して制振対象に取り付けられる態様のダイナミックダンパでは、支持ゴム弾性体に発生する応力がマス部材側と制振対象側とで相違するとの新たな知見を得た。即ち、振動入力に際してマス部材が理想的な並進運動をする限りは、支持ゴム弾性体のマス部材側と制振対象側とに発生する応力に大きな差異が生じないこととなる。しかし、詳細に又はミクロ的に見ると、車両ボデー等の剛体からなる制振対象に比して、可動体であるマス部材は傾動等の自由変位が許容されることから、支持ゴム弾性体のマス部材側では過大な集中的応力の発生が緩和されるものと考えられる。このような知見に基づいて為された本態様では、支持ゴム弾性体の横断面が、マス部材側において制振対象側よりも小さくされていることにより、耐久性を確保しながら、支持ゴム弾性体のばね特性のチューニング自由度を大きく得ることができる。特に、制振対象側では大きな断面積をもって支持ゴム弾性体の耐久性を確保しつつ、発生応力が小さいマス部材側で横断面を小さくして支持ゴム弾性体のばね定数を小さく設定することで、ダイナミックダンパの共振周波数を低周波に設定することも可能となる。
上記(ii)に記載の発明では、支持ゴム弾性体において、主たる振動の入力時に応力集中が発生し易い主たる振動の入力方向の両側面が、互いに接近する傾斜面とされている。それ故、支持ゴム弾性体の横断面が、制振対象側からマス部材側に向かって主たる振動の入力方向で小さくなっている。これにより、支持ゴム弾性体の主たる振動の入力方向における横断面の幅寸法が比較的に大きくされた制振対象側において、耐久性の向上が効率的に図られる。更に、マス部材側において、支持ゴム弾性体の主たる振動の入力方向における横断面の幅寸法が比較的に小さくされることで、支持ゴム弾性体の主たる振動の入力方向におけるばね特性をより効率的に調節することも可能になる。
上記(iii)に記載の発明では、支持ゴム弾性体の耐久性の向上とばね特性の設定自由度とを両立してそれぞれ効率的に実現することができる。
上記(iv)に記載の発明では、主たる振動の入力方向において支持ゴム弾性体のばね定数を小さく設定しながら、主たる振動の入力方向に直交する方向では、支持ゴム弾性体のばね定数を確保することができる。それ故、例えば、主たる振動の入力に対して、主たる振動の入力方向に対して直交する方向への振れや捩じれなどが抑えられて、マス部材の変位が安定する。その結果、支持ゴム弾性体の耐久性の向上や、制振作用の安定した発揮などが実現される。
上記(v)に記載の発明では、マス部材と制振対象の少なくとも一方を、取付ブラケットによって、支持ゴム弾性体に対して後から簡単に取り付けることができる。
上記(vi)に記載の発明では、支持ゴム弾性体の横断面が、広い領域に亘って、制振対象側からマス部材側に向かって小さくなっている。これにより、支持ゴム弾性体において、制振対象側からマス部材側に向かって横断面を急激に変化させることなく十分に縮小変化させることができる。それ故、支持ゴム弾性体において、応力分散による耐久性の向上と、ばね特性の調節自由度の向上とを、何れも有効に実現することができる。
上記(vii)に記載の発明では、支持ゴム弾性体において、制振対象側からマス部材側に向かって、横断面の急激な変化を抑えながら縮小変化量を十分に得ることができる。それ故、支持ゴム弾性体において、応力分散による耐久性の向上と、ばね特性の調節自由度の向上とを、何れも有効に実現することができる。
上記(viii)に記載の発明では、マス部材の両側に各複数の支持ゴム弾性体が並列的に設けられることによって、それら支持ゴム弾性体によるばね特性の設定自由度がより大きくなり得る。しかも、それら各支持ゴム弾性体の横断面が何れも制振対象側からマス部材側に向かって次第に小さくされていることによって、各支持ゴム弾性体において、応力の分散化による耐久性の向上と、ばね特性の設定自由度の確保とが、両立して実現される。
【符号の説明】
【0071】
10:ダイナミックダンパ、12:マス部材、14:支持ゴム弾性体、22:マス側ブラケット(取付ブラケット)、24:ボデー側ブラケット(取付ブラケット)、56:平行面、58:傾斜面、64:車両ボデー、70:第一の支持ゴム弾性体(支持ゴム弾性体)、72:第二の支持ゴム弾性体(支持ゴム弾性体)