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特許7138066歳差電子回折データマッピングのために走査型透過電子顕微鏡を自動的にアライメントする方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】歳差電子回折データマッピングのために走査型透過電子顕微鏡を自動的にアライメントする方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/147 20060101AFI20220908BHJP
   H01J 37/28 20060101ALI20220908BHJP
   H01J 37/244 20060101ALN20220908BHJP
【FI】
H01J37/147 A
H01J37/28 C
H01J37/244
【請求項の数】 11
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019053692
(22)【出願日】2019-03-20
(65)【公開番号】P2019194975
(43)【公開日】2019-11-07
【審査請求日】2021-01-21
(31)【優先権主張番号】62/645,378
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519100745
【氏名又は名称】テスカン ブルノ エスアールオー
【氏名又は名称原語表記】TESCAN BRNO s.r.o.
(73)【特許権者】
【識別番号】519100756
【氏名又は名称】テスカン テンペ エルエルシー
【氏名又は名称原語表記】TESCAN TEMPE, LLC
(74)【代理人】
【識別番号】110000279
【氏名又は名称】特許業務法人ウィルフォート国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ペトラス, スタニスラブ
(72)【発明者】
【氏名】レンコヴァ, ボフミラ
(72)【発明者】
【氏名】ベンナー, ゲルド ルードヴィヒ
(72)【発明者】
【氏名】ワイス, ジョン カール
【審査官】後藤 大思
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-157079(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0309441(US,A1)
【文献】特開平03-233846(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/00-37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高空間分解能で、歳差電子回折(PED)マッピングデータを取得するために、走査型透過電子顕微鏡(STEM)を自動的にアライメントする方法であって、
前記STEMの光軸とアライメントされ、且つサンプルの領域に収束された入射電子ビームを生成することと、
前記サンプル領域の複数の離散場所のそれぞれに関連付けられた信号を少なくとも1つの電子検出器から取得しながら、
前記サンプル領域の前記複数の離散場所にわたり、前記入射電子ビームを走査すること、
によって、前記サンプル領域から非傾斜信号空間分布を取得することと、
を含み、
前記光軸に対して一定の傾斜角に前記入射電子ビームを傾斜させ傾斜入射電子ビームとすることと、
周期的方位角走査プロトコルを前記傾斜入射電子ビームに適用し、及び
各場所に関連付けられた信号を前記少なくとも1つの電子検出器から取得しながら、
前記複数の離散場所にわたり前記傾斜入射電子ビームを走査すること、
によって、前記サンプル領域から傾斜信号空間分布を取得することと、
前記非傾斜信号空間分布と前記傾斜信号空間分布とを比較することによって、方位角空間アライメント補正を決定することと、
によってさらに特徴付けられる、方法。
【請求項2】
前記周期的方位角走査プロトコルが、
各離散場所において、前記方位角を1つ又は複数のサイクルにわたり繰り返すことを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記周期的方位角走査プロトコルが、
各離散場所において、前記方位角を実質的に一定に維持することと、
前記複数の離散場所で維持された前記方位角が、1つの方位角サイクルを少なくとも実質的に完了するように、前記離散場所間で前記方位角を変更することと、
を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記方位角空間アライメント補正を決定することが、
前記取得した非傾斜信号空間分布に対して、適応した試験的方位角空間アライメント補正を適用することによって、傾斜信号空間分布を計算することと、
前記試験的方位角空間アライメント補正を系統的に変化させながら、前記計算した傾斜信号空間分布と前記取得した傾斜信号空間分布とを比較することと、
前記計算した傾斜信号空間分布と、前記取得した傾斜信号空間分布との間の差を最小限に抑える前記方位角空間アライメント補正を決定することと、
を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記方位角空間アライメント補正を決定することが、
前記傾斜入射電子ビームに対して、試験的方位角空間アライメント補正を適用することによって、補正された傾斜信号空間分布を取得することと、
前記試験的方位角空間アライメント補正を系統的に変化させながら、前記補正された傾斜信号空間分布を前記非傾斜信号空間分布と比較することと、
前記補正された傾斜信号空間分布と、前記非傾斜信号空間分布との間の差を最小限に抑える前記方位角空間アライメント補正を決定することと、
を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの電子検出器が、BF、ADF、HAADF、SE、又はBSE検出器からなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記複数の離散場所が、1つ又は複数の平行直線に沿って、均一に間隔を空けた、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記複数の離散場所が、前記平行直線と垂直な1つ又は複数の直線に沿って、均一に間隔を空けた、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
PEDマッピングデータを取得することをさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記PEDマッピングデータが、前記複数の離散場所の少なくとも一部から得られる、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記PEDマッピングデータの前記取得中に、BF、ADF、HAADF、SE、又はBSE検出器からなる群から選択され、且つ前記PEDマッピングデータの取得には使用されない少なくとも1つの電子検出器からの基準信号も、前記マッピングされた場所の少なくとも一部から取得することと、
前記取得した基準信号を使用して、前記PEDマッピングデータが取得された前記複数の離散場所の空間アライメントを検証することと、
をさらに含む、請求項9又は10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、透過電子回折に関し、特に、高空間分解能で、歳差電子回折(PED:precession electron diffraction)マッピングデータの取得のために、走査型透過電子顕微鏡(STEM:scanning transmission electron microscope)を自動的にアライメントする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
STEMでは、電子ビームは、1nm未満の直径にまで収束され、及び離散したサンプル場所間を、各場所で1つ又は複数の検出器信号を取得しながら走査されることが可能である。取得した信号は、形態学的情報、組成情報、及び構造情報を示す走査サンプルエリアの高度拡大像を生成するために使用することができる。
【0003】
適宜に構成された二次元電子検出器は、サンプルから散乱した電子の角度分布を取得することができる。このような電子回折(ED:electron diffraction)データを解析することによって、離散したサンプル場所において、局所構造(結晶相、結晶方位、ひずみ、結晶化度など)を決定することができる。しかし、弱散乱サンプルを除き、このような解析は、動的電子回折により、非常に複雑である。
【0004】
動的回折の影響は、入射ビームが、一般的に0.3~3度程度オフアクシスに傾き、及び軸方向の周りを回転して、理想的には、ある離散サンプル場所に固定された頂点(又は「ピボット点」)を持つ円錐を定義する、歳差電子回折(PED)を用いて抑制することができる。方位角回転によって平均化される入射ビームの傾斜は、観測可能な回折最大値の数を増加させながら、動的回折効果を抑制し、及びPEDデータが、比較的シンプルな運動学的モデルを用いて解析されることを可能にする。
【0005】
PEDデータを解析することができる相対的な容易さは、電子回折データからの構造決定が自動化されることを可能にし、及びPEDデータに基づいて、例えば結晶相及び方位を示すマップの生成を可能にした(NanoMEGAS SPRLに対する(特許文献1))。このようなPEDデータマッピングは、それ以来、広範囲の材料、特に、多結晶及び/又は多相材料に、及び結晶、多結晶、及び/又は多相材料におけるひずみをマッピングするために適用されている。
【0006】
しかし、PEDデータマッピングの取得は、軽度のミスアライメントによって生じる、理想的な歳差円錐からのほんの少しのずれが、有効サイズを大幅に増大させ、及びサンプル上の入射ビームの位置を変えることにより、その結果生じるPEDデータマップの分解能及び精度を低下させ得るので、機器性能に多大な要求を課す。長いアライメント手順も、PEDデータマッピングを非常に遅くし得る。
【0007】
(特許文献1)は、PEDデータマッピングのためにSTEM能力を備えたTEMをアライメントする手動及び自動手順を記載している。手動手順では、ユーザは、高度拡大TEM像で観測されるビームの不安定な動きを最小限に抑えるために、ビーム歳差を行わせる信号に経験的に導出された信号を加える(段12、行30~39)。自動手順では、入射ビームが歳差円錐の周りを回転する際に、TEMイメージングモードにおける拡大ビームの動きを最小限に抑えるために信号が加えられる(段12、行40~64)。
【0008】
しかし、光学収差により、最終検出器上で、TEMイメージングモードで観測されるサンプルに入射したビームの像は、必ずしも、サンプルにおける実際のビームと同じ形状又は場所を持たないので、サンプルに対するビームのイメージングに依存した(特許文献1)におけるアライメント手順は、本質的に制限されている。
【0009】
(非特許文献1)は、明視野収束ビームEDディスクにおける非常に目立つサンプルフィーチャの陰影像のユーザ観測に依存した、ピボット点がサンプルと一致することを確実にすることを目的とした、回折モードの高分解能PEDマッピングのために、従来のSTEM機器を手動でアライメントする方法を記載している(セクション3.1、頁81~82)。
【0010】
ミスアライメントに対する感度は、より大きな歳差チルト角、離散サンプル場所間のより速いスキャンレート、及びより小さな入射ビーム直径を利用可能にすることによって、PEDデータマッピングを用いたSTEM機器の能力が拡大するにつれ、初めて向上する。例えば、最近開発されたSTEM機器は、最大約2度の歳差角を適用し、1000点/秒を超えるレートで、離散場所間で入射ビームを走査し、及び入射ビームを約1nmの直径に収束させることが可能である(本明細書に参照により援用される、Tescan Brno及びTescan Tempeに対する(特許文献2)、(特許文献3)、(特許文献4)、及び(特許文献5)を参照)。別の例として、(特許文献6)(Integrated Dynamic Electron Solutions,Inc.)は、PED能力を実装していないにもかかわらず、短期間で回折データを取得するように構成されたSTEM対応機器を開示している。
【0011】
高空間分解能でのPEDマッピングデータの高速取得のためのPED対応STEMの自動アライメント方法を開発することが有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許第8,253,099号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3379557A1号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3379236A1号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3379556A1号明細書
【文献】欧州特許出願公開第3379558A1号明細書
【文献】国際公開第2017/087045Al号パンフレット
【非特許文献】
【0013】
【文献】Barnard et al., 174 Ultramicroscopy 79-88(2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の目的は、高空間分解能でPEDマッピングデータを取得するためにSTEMを自動的にアライメントする方法を提供することである。
【0015】
本発明の別の目的は、PEDマッピングデータを取得するためにSTEMをアライメントする上記方法の上述のデメリットを回避することである。
【0016】
本発明のさらなる目的は、先行技術の代替案を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
従って、上記の目的及び他の幾つかの目的は、PEDマッピングデータを取得するためにSTEMを自動的にアライメントする方法であって、STEMの光軸とアライメントされ、且つサンプルの領域に収束された入射電子ビームを生成することと、サンプル領域の複数の離散場所にわたり、アライメントされた入射ビームを走査すること、及び各場所に関連付けられた信号を少なくとも1つの電子検出器から取得することによって、サンプル領域から非傾斜信号空間分布を取得することと、を含む方法を提供することによって、本発明の第1の態様で得られることが意図される。本発明の第1の態様のこの方法は、光軸に対して一定の傾斜角に入射電子ビームを傾斜させることと、周期的方位角走査プロトコルを傾斜ビームに適用し、及び各場所に関連付けられた信号を少なくとも1つの電子検出器から取得しながら、複数の離散場所にわたり傾斜入射ビームを走査することによって、サンプル領域から傾斜信号空間分布を取得することと、非傾斜信号空間分布と傾斜信号空間分布とを比較することによって、方位角空間アライメント補正を決定することと、をさらに含む。
【0018】
STEM(又は走査型透過電子顕微鏡)は、歳差を付与するように適応した専用STEM機器、又はSTEMとして機能するように、及び歳差を付与するように適応したTEM機器である、1つ又は複数の検出器から透過電子の信号を取得しながら、複数のサンプル場所にわたり収束電子プローブを走査可能な電子光学機器を意味する。
【0019】
PEDマッピングデータは、結晶化度、相、方位、ひずみなどの、サンプル領域の特性の空間マップの生成に適したこのサンプル領域の複数の場所にわたり取得されたPEDパターンのセットから抽出されたデータを意味する。
【0020】
自動アライメントは、STEM機器のユーザによる介入が全くなく、又は最小限でアライメント方法を行うことを意味する。
【0021】
自動アライメントのメリットには、たとえ熟練したユーザによって行われるとしても、手動のアライメントと比較して、速度及び再現性の向上、及び熟練したユーザの解放時間及び高価なSTEM機器からより迅速により多くのPEDマッピングデータを取得することによるコストの低下が含まれる。
【0022】
サンプル上に収束された入射ビームは、実質的に円錐の頂点でサンプルと交差するように配置された逆円錐体の一般的形態を有する入射ビームを意味する。
【0023】
サンプル領域の複数の離散場所にわたり入射ビームを走査することは、少なくとも1つの電子検出器からの信号の取得を可能にするのに十分に長い期間、複数の離散場所のそれぞれにビームをアライメントさせることを意味する。入射ビームは、必要に応じてブランキング有りで、又はブランキングなしで、各離散場所間を移動してもよい。
【0024】
離散場所は、離れた、及び異なる場所を意味する。隣接する離散場所に衝突する入射ビームのトレースは、収束プローブ直径程度の高空間分解能でマッピングデータを生成する場合、特にビームが最初に傾斜する場合、及びアライメントの完了前などのある状況下では、部分的にオーバーラップし得る。
【0025】
各場所と関連付けられた信号を少なくとも1つの電子検出器から取得することは、入射ビームがその場所に位置する間に、少なくとも1つの電子検出器から信号を取得することを意味する。
【0026】
電子検出器からの信号は、入射電子ビームが所与の場所に位置する期間中に、検出器によって収集された散乱電子の数(場合によっては、所与の角度範囲内に入る収集電子の数に限定される)に関連付けられる値を生じさせる電子検出器によって測定された信号を意味する。測定された信号は、好ましくは、検出器によって収集された電子の数に線形的に関連する。
【0027】
非傾斜信号空間分布は、サンプル領域の複数の離散場所からの非傾斜入射ビームを用いて得られた信号の空間分布である。
【0028】
非傾斜入射ビームは、各離散場所において主軸が光軸と平行にサンプルに入射する円錐入射ビームを意味する。
【0029】
傾斜信号空間分布は、サンプル領域の複数の離散場所からの傾斜入射ビームを用いて得られた信号の空間分布である。
【0030】
傾斜入射ビームは、各離散場所において主軸がサンプルに入射し、及び光軸と平行ではない、円錐入射ビームを意味する。
【0031】
周期的方位角走査プロトコルは、複数の離散場所でサンプリングされた方位角の範囲が、少なくとも1つの方位角サイクルを少なくとも実質的に完了するように、入射ビームが、サンプル領域の複数の離散場所にわたり走査される間に適用される、入射ビームの方位角に対する連続的又は漸進的調節のセットを意味する。
【0032】
所与の傾斜角に対する方位角空間アライメント補正は、非傾斜ビームの位置から離れるサンプル表面の傾斜ビームの歳差中の変位を効果的に相殺する、又は少なくとも実質的に打ち消す、各方位角において適用される補正のセットを含む。所与の方位角において適用可能な方位角空間アライメント補正の成分は、サンプルの表面における方向及び大きさを表すベクトルに対応する。
【0033】
傾斜信号空間分布と非傾斜信号空間分布とを比較することによって、方位角空間アライメント補正を決定することは、適用される周期的方位角走査プロトコルに応じて異なる手順を伴い得る。
【0034】
検出器から取得された信号を比較するメリットは、PEDマッピングデータを取得する前に、アライメントの完了後に、試料の後ろのレンズの構成を変更する必要がないため、アライメント手順中のビームの場所が、後続のPEDマッピングデータの取得中に維持される点である。
【0035】
本発明の別の態様では、入射ビームが、複数の離散場所のそれぞれにおいて、歳差を受けるように、周期的方位角走査プロトコルが、各離散場所において、方位角を1つ又は複数のサイクルにわたり繰り返すことを含む。サイクル数は、整数であってもよい。
【0036】
本発明の別の態様では、周期的方位角走査プロトコルは、各離散場所において、方位角を実質的に一定に維持するが、複数の離散場所で維持された方位角が、共に、少なくとも1つの方位角サイクルを実質的に完了するように、離散場所間で方位角を変更することを含む。
【0037】
各離散場所で方位角を実質的に一定に維持することは、各離散場所において、1つ又は複数の検出器からのその方位角に特徴的な信号の収集を可能にするのに十分に長い間、方位角を十分に一定に維持することを意味する。
【0038】
本発明の別の態様では、方位角空間アライメント補正を決定することが、取得した非傾斜信号空間分布に対して、適宜に適応した試験的方位角空間アライメント補正を適用することによって、傾斜信号空間分布を計算することと、試験的方位角空間アライメント補正を系統的に変化させながら、計算した傾斜信号空間分布と取得した傾斜信号空間分布とを比較することと、計算した傾斜信号空間分布と、取得した傾斜信号空間分布との間の差を最小限に抑える方位角空間アライメント補正を決定することとを含む。
【0039】
適宜に適応した試験的方位角空間アライメント補正は、傾斜信号空間分布の計算を可能にするための取得された非傾斜信号空間分布に対する適用に適した候補方位角空間アライメント補正を意味する。適宜の適応を構築するものは、傾斜信号空間分布を取得するために適用された特定の周期的方位角走査プロトコルによる。
【0040】
系統的に変化させることは、計算した傾斜信号空間分布と、取得した傾斜信号空間分布との間で決定された差の大きさに従って、試験的方位角空間アライメント補正を反復的に変更することを含む。
【0041】
本発明の別の態様では、方位角空間アライメント補正を決定することは、傾斜ビームに対して、試験的方位角空間アライメント補正を適用することによって、補正された傾斜信号空間分布を取得することと、試験的方位角空間アライメント補正を系統的に変化させながら、補正された傾斜信号空間分布を非傾斜信号空間分布と比較することと、補正された傾斜信号空間分布と、非傾斜信号空間分布との間の差を最小限に抑える方位角空間アライメント補正を決定することとを含む。
【0042】
系統的に変化させることは、補正された傾斜信号空間分布と、非傾斜信号空間分布との間で決定された差の大きさに従って、試験的方位角空間アライメント補正を反復的に変更することを含む。
【0043】
本発明の別の態様では、少なくとも1つの電子検出器が、BF、ADF、HAADF、SE、又はBSE検出器からなる群から選択される。
【0044】
BF検出器は、最大で、一般的に約0.5度の所与の角度にまで、サンプルを透過し、及び散乱した電子を収集する明視野検出器を意味する。ADF検出器は、一般的に0.5~2度の散乱角の範囲内で透過電子を収集する環状暗視野検出器を意味する。HAADF検出器は、一般的に3~10度のより高い散乱角の範囲内で透過電子を収集する高角度環状暗視野検出器を意味する。SE検出器は、一般的に5~100eVのサンプルから放出された、より低いエネルギー電子を収集し、及び一般的に、電子源と同じサンプルの側に配置される二次電子検出器を意味する。BSE検出器は、一般的に弾性散乱電子、及び一般的に135~180度で散乱された、約100eVの低さのエネルギーを有する電子を収集し、及び電子源と同じサンプルの側に位置する後方散乱電子検出器を意味する。
【0045】
BF、ADF、HAADF、又はBSE検出器は、それぞれBF、ADF、HAADF、又はBSE検出器によって収集された散乱角の範囲に対応した二次元検出器のエリアからの信号を組み込むことによって、BF、ADF、HAADF、又はBSE検出器として機能するように構成された、適宜に配置された二次元検出器を含むことが意図される。
【0046】
本発明の他の態様では、複数の離散場所が、1つ又は複数の平行直線に沿って、均一に間隔を空け、又は平行直線と垂直な1つ又は複数の直線に沿って、均一に間隔を空ける。
【0047】
本発明の別の態様では、本方法は、アライメントに使用された複数の離散場所の少なくとも一部からを含んで、PEDマッピングデータを取得することをさらに含む。
【0048】
アライメント方法で使用されたのと同じ複数の離散場所の少なくとも一部からPEDマッピングデータを取得するメリットは、アライメントと、PEDマッピングデータの取得との間で、STEMイメージング条件が、最小限にのみ変化し、従って、PEDマッピングデータの取得中にアライメントが維持される可能性が増加する点である。
【0049】
本発明の別の態様では、本方法は、PEDマッピングデータの取得中に、BF、ADF、HAADF、SE、又はBSE検出器からなる群から選択され、且つPEDマッピングデータの取得には使用されない少なくとも1つの電子検出器からの基準信号も、マッピングされた場所の少なくとも一部から取得することと、取得した基準信号を使用して、PEDマッピングデータが取得された複数の離散場所の空間アライメントを検証することとをさらに含む。
【0050】
PEDマッピングデータと同時に基準信号を取得するメリットは、基準信号が、PEDマッピングデータの空間アライメントの検証を可能にする点である。
【0051】
図面が、本発明を実施する異なるやり方を示す限り、それらは、添付の請求項のセットの範囲に入る他の可能な実施形態に対する制限と見なされるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】PEDマッピングデータの取得に使用されるSTEM機器のレイアウトの模式図である。
図2】ピボット点が、(a)ミスアライメントされた状態にある、(b)ミスアライメントされた状態にある、サンプル領域上で歳差を受けている入射ビームの模式図である。
図3】歳差を受けている、ミスアライメントされた入射ビームのサンプル表面ジオメトリを示す模式図である。
図4】以下のPEDマッピングのアライメント方法の模式図である。(a)境界と交差する直線上で等間隔の離散場所にわたり走査された非傾斜入射ビームのサンプル表面上のトレースと、(b)同じ場所にわたり走査された、歳差を受けるミスアライメントされた入射ビームのトレースと、(c)非傾斜ビーム及び歳差を受けているビームを使用して取得されたSTEM信号強度のプロット
図5】平行線のセットに沿った等間隔の離散場所にわたり走査される際に、方位角の完全なサイクルをサンプリングする、ミスアライメントされた傾斜入射ビームのトレースを示す、PEDマッピングのアライメント方法の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
効果的なPEDマッピングは、サンプルの領域にわたり正確に分布した多数の離散場所のそれぞれにおいて、歳差を受けている入射ビームを効果的に静止状態に保つことを必要とする。収束ビームの直径が減少するにつれ、及び離散場所間の間隔及び離散場所の数が増加するにつれ、ミスアライメントに対する感度が向上するため、PEDマッピングを実施するSTEM機器を正確にアライメントする必要性のみが増大する。以下のアライメント方法は、(特許文献2)、(特許文献3)、(特許文献4)、及び(特許文献5)に記載されたタイプのSTEMに対して行われてもよいが、適宜のSTEM及び歳差能力を有した任意の他のTEM機器に対して行われてもよい。
【0054】
図1は、PEDマッピングデータの取得及び本明細書に記載のアライメント方法を行うことに適したSTEM機器のレイアウトの一部の模式図である。傾斜角及び散乱角、概念的電子経路、及びSTEMコンポーネント間のサイズ及び距離は、一定の縮尺ではなく、且つ、STEM機器の全てのコンポーネントが示されているわけではない。図1では、電子ビームは、サンプル10の上で垂直に発生して示されており、図示される、及び以下で説明されるコンポーネントは、サンプルの上及び下に配置される。しかし、一般事項として、STEMコラムは、電子ビームが、サンプルの下で垂直に発生するなどを含む、STEM機器において異なる物理的配向を取ってもよい。
【0055】
一般的に20~300keVのエネルギーを持つ、電子源(不図示)によって生成される電子ビームは、二次元(「2D」)検出器14に衝突する前に、プレフィールド(pre-field)対物レンズ11、サンプル10、ポストフィールド(post-field)対物レンズ13、及びプロジェクタレンズ15を通過する。サンプル10を透過した電子は、サンプルの局所構造の角度分布特性により散乱され、ポストフィールド対物レンズ13の後方焦点面18に電子回折(「ED」)パターンを形成する。プロジェクタレンズ15は、後方焦点面18に形成されたEDを二次元検出器14上に投影するように構成されて示されている。サンプルの欠陥のない結晶場所に入射した平行電子ビームの場合、第1の近似のために、EDパターンは、点状最大値で構成される。
【0056】
ADF/HAADF検出器12は、BF検出器(図1では不図示)と同様に、プロジェクタレンズ15と二次元検出器14との間に導入されてもよい。SE及びBSE検出器(図1では不図示)は、サンプル10の上に位置してもよい。
【0057】
図1は、それぞれ、入射ビームに歳差運動を付与し、及びサンプルを透過したビームから歳差運動を除去する、プレフィールド対物レンズ11の上に配置される歳差コイル6、及びポストフィールド対物レンズ13の下に配置される歳差解除コイル8も示す。入射ビーム9の傾斜及び方位角を制御するように構成された、同一平面内に、直交する対向ペアに配置された4つの歳差コイルが、模式図に示されている。例えば、二段偏向システムの一部を形成する時の歳差コイル6は、異なるサンプル場所にわたり入射ビームを走査するためにも使用することができ、又は他の機器構成においては、異なる場所にわたる走査は、走査コイルの別個のセット(不図示)を使用して実施されてもよい。同様に、歳差解除コイル8は、走査解除機能を行うことができ、又はその機能は、偏向コイルの別のセット(不図示)によって行われてもよい。
【0058】
図1では、頂点が歳差コイル6に隣接して配置された、逆円錐の表面で等しい方位角間隔で配置された4本の線によって示されるような、歳差を受けている入射ビーム9は、プレフィールド対物レンズ11によって、サンプル10上に収束され、歳差円錐の頂点又はピボット点3が理想的にサンプル10に隣接して形成された状態で、表面上で等しい方位角間隔で配置された4本の線で再び示される歳差円錐を形成する。しかし、ピボット点3が、サンプル10の下に位置するため、歳差円錐は、正しくアライメントされず、サンプル10の表面にリング形状トレース7を生じさせる(入射ビーム9が方位角サイクルを完了する際に実行される)。
【0059】
入射ビーム9の歳差運動の結果、後方焦点面18に形成される回折パターンは、歳差を受けていない、おおよそ平行なビームに特徴的な点状最大値、又は歳差を受けていない収束入射ビームに特徴的な円形最大値とは対照的に、リング形状17を描く。図1には図示されないが、PEDを構成する回折最大値は、傾斜角及び散乱角の相対的な大きさに応じて、オーバーラップするリング形状の形態を取ってもよい。
【0060】
サンプル10に対するピボット点3のミスアライメントにもかかわらず、歳差運動が、歳差解除コイル8によって、サンプル10を透過した電子から除去される限り、2D検出器14上にプロジェクタレンズ15によって形成されるPEDパターンは、再び、点状回折最大値を示す。
【0061】
図2は、サンプル表面で、歳差を受けている入射ビームの模式図である。図1と同様に、フィーチャの角度及び場所及びサイズは、一定の縮尺ではない。図2(a)は、歳差を受けているが、ピボット点31が、サンプル10の下に配置されるようにミスアライメントされた入射ビーム9を示す。その結果、入射ビーム9は、図1と同様に、サンプル10の表面上に、リング形状7を描く。図示されないが、ミスアライメントは、ピボット点31がサンプル10の上に配置されることも生じさせ得る。このようにミスアライメントされると、たとえ入射ビーム9が、完全対称の歳差円錐を実行し(歳差コイル6によって行われる)、及びサンプルを透過したビームが、歳差運動を全く持たない(歳差解除コイル(図1において8)によって除去される)としても、その結果生じるPEDマップの分解能は、サンプル10の表面にわたる入射ビームのリング形状の動きによって、やはり損なわれるだろう。
【0062】
図2(b)は、入射ビーム9が、歳差中にサンプル上の所与の場所に固定された状態を保つ一方で、PEDパターンが、その場所から収集され、及び歳差で収集されたマッピングデータの空間分解能が、各方位角サイクルの実行中に入射ビームの変位によって低下しないように、ピボット点32がサンプル10と一致する、正しい歳差アライメントを示す。
【0063】
図3は、歳差又は一定傾斜角θ(歳差中に、この角度分だけ、入射ビーム9は、光軸に対して傾斜する)、ある特定の瞬間の方位角φ、及び方位角空間アライメント補正の対応する成分である、歳差を受けているビームを歳差の実施がないビームの場所に戻すサンプル10の表面上のベクトルaを示す、歳差ミスアライメントのジオメトリを示す。一般的に約0.3~3度の傾斜角θは、明瞭にするために誇張されている。
【0064】
図3に示す理想歳差円錐ジオメトリからのずれは、入射ビームが、歳差サイクルの完了時に、所与の離散サンプル場所から離れ、及び1つ又は複数の歳差サイクルにわたり平均化された場合に、入射ビームの有効サイズを増大させることも生じさせ得る。それらが存在する限り、サンプル上の入射ビームの場所のこのようなずれも、本明細書に記載の歳差アライメント方法を用いて補正することができる。
【0065】
PEDマッピングデータの取得のためのSTEM機器のアライメントの初期段階として、入射電子ビームが、STEM機器の光軸に沿ってアライメントされ、及びサンプル領域に収束される。
【0066】
非傾斜信号空間分布は、サンプル領域の複数の離散場所のそれぞれと関連付けられた信号を少なくとも1つの電子検出器から取得しながら、サンプル領域の複数の離散場所にわたり、アライメントされた、及び非傾斜入射ビームを走査することによって、サンプル領域から取得される。
【0067】
入射ビームは、光軸に対して一定の傾斜角に傾斜され、傾斜角は、想定された特定のPEDマッピング適用例に適するように選択され、及び傾斜信号空間分布は、周期的方位角走査プロトコルを傾斜ビームに適用し、及び同じ複数の離散場所のそれぞれに関連付けられた信号を少なくとも1つの電子検出器から取得しながら、それらの複数の離散場所にわたり傾斜入射ビームを走査することによって、サンプル領域から取得される。
【0068】
傾斜又は非傾斜ビームが、複数の離散サンプル場所にわたり走査されるので、入射ビームは、離散場所外のサンプル領域からの信号を励起することを回避するために、ブランキングされてもよく、又は1つ又は複数の電子検出器は、入射ビームが離散場所間にある間は、信号を受け取らないように構成されてもよい。
【0069】
周期的方位角走査プロトコルは、入射ビームが複数の離散場所にわたり走査される際にサンプリングされた方位角の範囲が、少なくとも1つの方位角サイクルを少なくとも実質的に完了するように、入射ビームが、サンプル領域の複数の離散場所にわたり走査される間に適用される、入射ビームの方位角に対する連続的又は漸進的調節のセットである。
【0070】
図4は、入射ビームが、複数の離散場所のそれぞれにおいて歳差を受けるように、周期的方位角走査プロトコルが、各離散場所において、方位角を1つ又は複数の完全なサイクルにわたり繰り返すことを含む、本明細書に記載のアライメント方法の一例を模式的に示す。各離散場所で実行される完全なサイクルの数は、入射ビームの方位角速度及びドウェル時間(入射ビームが各場所に位置する時間間隔)に依存する。
【0071】
図4(a)は、アライメント手順のある段階中のサンプル表面のあるエリアの平面図の模式図であり、光軸とアライメントされるが傾斜していない入射ビームが、破線矢印で示される方向Dに伸びる直線に沿って等距離に間隔を空けた複数の離散サンプル場所に収束される時間系列を示す。直線は、その周囲とは異なる構造(例えば、PEDマッピングのために関心のあるサンプル内に分布したフィーチャのタイプを表す、異なる配向及び/又は位相)を持つサンプルの長方形部分44と交差する。もちろん、実際のサンプルにおけるこのようなフィーチャは、長方形である必要も、直線の境界線を有する必要もなく、及び入射ビームの経路は、図4(a)及び4(b)に示すように、上記境界線と法線入射で交差することを期待される必要はない。サンプルの離散場所(この場所から、少なくとも1つの電子検出器からの信号が取得される)を示す入射ビームのトレースは、41で始まり、43で終わる影付き円で示される。
【0072】
図4(b)は、アライメント手順のある段階中の同じサンプル表面エリアの平面図の模式図を示し、入射ビームが、再度、方向Dに伸びる直線に沿って等距離に間隔を空けた、概念上、図4(a)と同じ複数の離散サンプル場所に収束される時間系列を再度示す。しかし、ここでは、入射ビームは、一定角度分だけ傾斜しており、及び方位角が、複数の離散場所のそれぞれにおいて、1つ又は複数のサイクルを実行するように、周期的方位角走査プロトコルが適用される。周期的方位角走査プロトコルの適用の結果、及びサンプルから離れたピボット点のミスアライメントの結果、入射ビームのトレースが、45で始まり、及び47で終わる、一連の影付きオーバーラップリング形状で示されるように、拡大している。
【0073】
図4(c)は、方向Dに沿った距離の関数として、図4(a)及び図4(b)に示した条件下で、少なくとも1つの電子検出器から取得された信号の強度Iを任意単位で、縦軸に沿ってプロットする。周囲とは異なる構造を持つ部分44は、周囲よりも強い信号を生成するものとして示されている。点線と接続された正方形は、非傾斜ビームの強度をプロットし、これらは、入射ビームによってサンプリングされた円形場所が部分44に入った際に、強度の比較的急激な増加を示す。それに対して、破線で接続された三角形は、オーバーラップするリングが、部分44に入った際に、より緩やかな増加を示す。
【0074】
一般に、適用された周期的方位角走査プロトコルとは無関係に、単一線形走査は、アライメント手順中に走査される線から離れて生じるミスアライメントに対して感度が低い場合がある。例えば、サンプルの面法線が光軸と平行にアライメントされないが、走査直線がそれでも光軸と垂直である場合、走査直線の一方の側にあるサンプル場所は、走査線からの垂直距離に比例して、ピボット点の下に位置し、走査線の他方の側にあるサンプル場所は、走査線からの垂直距離に比例して、ピボット点の上に位置する。
【0075】
離散場所の単一線は、場合によっては、複数の離散場所が、サンプル領域に格子を形成するような一連の平行線を形成する、追加の離散場所にわたり走査することによって拡張されてもよい。格子を含む複数の離散場所が走査される順序も変えることができる。例えば、格子が、一定間隔の平行線に対応する場合、複数の離散場所は、ラスターパターンに従って走査されてもよい。
【0076】
一般に、適用された周期的方位角走査プロトコルとは無関係に、アライメントに使用される場所の数、相対的配置、及び空間的広がりは、サンプル及び想定したPEDマッピング適用例の具体的な要件に応じて変えることができる。複数の離散場所は、一定の間隔を空ける必要も、対称的な幾何学的形状を成す必要もない。
【0077】
いずれにせよ、非傾斜ビームを用いて複数の離散場所から取得された信号は、非傾斜信号空間分布に対応し、傾斜ビーム及び方位角空間アライメント補正を用いて取得された信号は、傾斜信号空間分布に対応する。
【0078】
適用された特定の周期的方位角走査プロトコル、及び以下に記載する傾斜空間分布と非傾斜空間分布とを比較するために使用される方法とは無関係に、本明細書に記載のアライメント方法のステップの全体的な順番は、変えることができる。例えば、傾斜信号空間分布は、非傾斜信号空間分布の前に取得されてもよい。全傾斜信号空間分布の取得と全非傾斜信号空間分布の取得との間に、入射ビームを傾斜させるのではなく、ビームを傾斜させ、及び複数の離散場所の所与のサブセットにおける周期的方位角走査プロトコルの関連部分を適用することによって、離散場所ごとに、非傾斜ビーム信号空間分布及び傾斜ビーム信号空間分布の少なくとも一部を取得することも可能である。
【0079】
本明細書に記載のPEDマッピングアライメント方法の目的である、非傾斜ビームの位置から離れたサンプル表面上の傾斜ビームの歳差中に、変位を効果的に相殺する、各方位角において適用される補正セットを含む方位角空間アライメント補正の決定は、様々な方法に従って、非傾斜信号空間分布と傾斜信号空間分布とを比較することを含んでもよい。
【0080】
アライメントは、方位角空間アライメント補正を含む方位角補正の成分の一部のみ(場合によっては、1つのみ)を決定し、残りの成分は、PEDマッピング中に、数値的に補間され、又は外挿されることによって、加速されてもよい。
【0081】
特定の方法においては、方位角空間アライメント補正を決定することは、傾斜信号空間分布を反復的に取得することを含んでもよく、各傾斜信号空間分布は、試験的方位角空間アライメント補正を適用することによって連続的に補正される。このような方法群においては、試験的方位角空間アライメント補正を系統的に変化させながら、各補正された傾斜信号空間分布を非傾斜信号空間分布と比較することによって、補正された傾斜信号空間分布と非傾斜信号空間分布との間の差を最小限に抑える方位角空間アライメント補正を決定することができる。
【0082】
これらの方法のバリエーションでは、方位角空間アライメント補正を決定することは、非傾斜信号空間分布を反復的に取得することを含んでもよく、各非傾斜信号空間分布は、試験的方位角空間アライメント補正を適用することによって連続的に逸脱する。試験的方位角空間アライメント補正を系統的に変化させながら、各逸脱した非傾斜信号空間分布を傾斜信号空間分布と比較することによって、逸脱した非傾斜信号空間分布と傾斜信号空間分布との間の差を最小限に抑える方位角空間アライメント補正を決定することができる。
【0083】
補正された試験的傾斜又は非傾斜信号空間分布の反復的取得に基づく上記方法は、異なる周期的方位角走査プロトコルを使用して実施されてもよい。
【0084】
他の方法は、取得した一対の信号空間分布(傾斜及び非傾斜)のみを、一方の信号空間分布を他方の信号空間分布に適宜に適用された試験的方位角空間アライメント補正を用いて連続的に計算することにより、比較することを含んでもよい。
【0085】
例えば、周期的方位角走査プロトコルが、複数の離散場所のそれぞれにおいて、入射ビームが1つ又は複数の方位角サイクルを実行する、図4に示すタイプのものである場合、傾斜信号空間分布
【数1】
は、カーネル関数:
【数2】
を用いて畳み込まれた非傾斜信号空間分布S(x,y)から計算することができ、式中、kは、畳み込みカーネル(アライメント補正に依存する)であり、及び*は、二次元の畳み込み演算を示す。畳み込みカーネルは、
k(r,φ)=δ(r-a(φ))
によって、動径座標で定義され、式中、δ(r)は、ディラックのデルタ関数であり、及びa(φ)は、方位角φにおける歳差ミスアライメントの大きさである。この方法によれば、方位角空間アライメント補正は、計算した傾斜信号空間分布と、取得した傾斜信号空間分布との間の差を最小限に抑える系統的変化により決定されてもよい。図4(c)を参照して、決定した方位角空間アライメント補正は、非傾斜信号空間分布の傾斜信号空間分布への変換をもたらすものであり、及び45から47へと伸びる図4(b)のリング形状トレースは、41から43へと伸びる図4(a)の円の場所及び見掛けの直径を有する。
【0086】
取得した一対の信号空間分布(傾斜及び非傾斜)のみを、一方を、他方に適用された試験的方位角空間アライメント補正を用いて連続的に計算することにより比較することに基づいた、方位角空間アライメント補正を決定するこれらの方法は、図4に示すタイプのもの以外の周期的方位角走査プロトコルを用いて実施されてもよい。
【0087】
図5は、周期的方位角走査プロトコルが、各離散場所において、方位角を実質的に一定に維持するが、複数の離散場所で維持された方位角が、共に、少なくとも1つの方位角サイクルを実質的に完了するように、離散場所間で方位角を変更することを含むPEDアライメント中のサンプルの平面図を模式的に示す。
【0088】
複数の離散場所は、平行線501、502、及び503と、垂線511、512、及び513との交点に位置し、及び直線等間隔格子パターンを形成する。明瞭にするために、非傾斜入射ビームのトレースは、図示されていない。図面右側の影付き円(例えば、51、52、及び53)は、周期的方位角走査プロトコルを適用しながらサンプル領域にわたり走査される際の傾斜入射ビームのトレースを表す。矢印は、各方位角において適用された方位角補正の成分を表す。
【0089】
周期的方位角走査プロトコルが、図5に示すタイプのものである場合、傾斜信号空間分布は、非傾斜分布と等しいが、傾斜信号空間分布における任意の位置の強度は、アライメント補正の負数によってシフトされた、傾斜信号空間分布における上記位置と等しい位置の非傾斜信号空間分布における強度と等しい。
【数3】
式中、a及びaは、位置(x,y)における電子ビームの方位角のアライメント補正ベクトルのx成分及びy成分である。アライメント補正を決定するために、試験的アライメント補正は、計算した(逸脱した非傾斜)信号空間分布と、取得した傾斜信号空間分布との間の差を最小限に抑えるように、系統的に変化させることができる。
【0090】
当業者は、方位角が各離散場所において実質的に一定に保たれる、自動化アライメント方法の実施形態の実施において、傾斜信号空間分布が、少なくともf≒1/d(dは、非傾斜ビームの収束プローブ径である)までの空間周波数fで特性情報を示す十分なコントラストを持つサンプル領域を利用することがどれほど有利となり得るかを認識するだろう。さらに、当業者は、傾斜信号空間分布が、サンプル領域内のサンプル表面上の実質的に全ての方向に、空間周波数fまでのコントラストを示すことがどれほど有利になり得るかを認識するだろう。
【0091】
方位角が、各離散場所において実質的に一定に保たれる自動化アライメント方法の実施形態において、非傾斜信号空間分布Iは、デジタル的に取得されてもよく、Iの強度は、二次元数値アレイ
【数4】
(式中、i及びjは、それぞれ、列インデックス及び行インデックスを表す)からなる。線Iごとに1つ又は複数の完全な方位角サイクルを持つ傾斜信号空間分布も、デジタル的に取得されてもよく、別の二次元数値アレイ
【数5】
(式中、i及びjは、それぞれ、列インデックス及び行インデックスを表す)に対応する。
【0092】
列インデックスi及び行インデックスjにおける傾斜信号空間分布の任意の位置において、ミスアライメントa(φ)は、非傾斜信号空間分布における同等の位置からの変位a(φij)において、ビームを試料と交差させる。例えば図5に示すように、各行に沿って一様に方位角が変化する限り、方位角は、列インデックスにのみ依存するので、φで表されてもよい。
【0093】
ミスアライメントa(φ)を決定するために、離散値a=(x,y)を有するモデルが選択されてもよく、式中、x及びyは、各φにおけるミスアライメントベクトルのx成分及びy成分を表す。モデルの品質を決定するために、信号空間分布又はi×jピクセルからなる画像Iが、
【数6】
のように、Iから計算されてもよい。
【0094】
ミスアライメント成分は、一般に、画像ピクセルの整数ではないので、一般に、最近傍、双線形、又は双三次スプライン補間などの、
【数7】
値の何らかの形の補間を使用することによって、各
【数8】
値を抽出することが必要となり得る。次いで、モデルの品質が、I値及びI値から、ある品質値(最も一般的には、自乗した差の和)を計算することによって、決定されてもよい。
【0095】
a(φ)に関する最良モデルを決定するために、I値とI値との間の差を最小限に抑える最良適合モデルを見つけるために、試験的モデルが、系統的に変化してもよい。これは、シンプレックス法又は準ニュートン法などの標準数値最適化法のいずれかによって行われてもよい。
【0096】
ミスアライメントの最良モデルが、このように決定されると、歳差を受けている入射ビームは、ミスアライメントを正確に相殺する、対応する方位角空間アライメント補正成分を適用することによって、アライメントさせることができる。
【0097】
各離散場所において、方位角を実質的に一定に維持するが、複数の離散場所で維持された方位角が、共に、少なくとも1つの方位角サイクルを実質的に完了するように、離散場所間で方位角を変更する、図5に示す周期的方位角走査プロトコルは、上記に記載した、補正試験的傾斜又は非傾斜信号空間分布を反復的に取得することに基づく方法にも使用することができる。
【0098】
非傾斜信号空間分布I及び傾斜信号空間分布Iが、取得されてもよい。次いで、Iが、Iと比較され、及び適宜の数値アルゴリズム(最も一般的には、自乗した差の和)を適用することによって、マッチングの品質が決定されてもよい。
【0099】
傾斜信号空間分布に適用される試験的方位角空間アライメント補正は、例えばシンプレックス法又は準ニュートン法を用いて、系統的に変化させてもよく、及び別の傾斜信号空間分布が取得されてもよく、及び非傾斜信号空間分布に対するマッチングの品質が計算されてもよい。方位角空間アライメント補正の系統的変化は、最良マッチングを生じさせる方位角空間アライメント補正が見つかるまで、反復的に継続されてもよい。
【0100】
当業者は、サンプルに対する非傾斜収束入射ビームの直径、傾斜角、及びPEDマッピングデータが得られる場所の領域のサイズ及び空間密度などの、特定のPEDマッピング適用例の要件に従って、アライメント手順中に入射ビームが走査される離散場所の数をどのように選択することができるかを認識するだろう。一般に、収束非傾斜入射ビームの直径が小さいほど、1つ又は複数の検出器からの信号が弱くなり、傾斜角が大きくなり、及びPEDマッピングデータが取得される領域が大きくなり、ミスアライメントに対するPEDマッピングの感度が大きくなる。
【0101】
サンプルにおける関心のある長さスケールに応じて、1nm程の間隔を空けた、1nm程のプローブ直径を使用して、PEDマッピングデータが得られてもよい。測定時間及び信号強度は、PEDマップが、例えば、256×256個の場所の格子を含み得ることを可能にする。
【0102】
適宜のデータ取得及び処理能力とつながれたSTEM機器を使用して、関心のあるサンプル領域が識別されると、上記の方法が、最小限のユーザ介入により自動的に実施されてもよい。一般に、デジタル形式の少なくとも1つの電子検出器から取得された、傾斜及び非傾斜信号空間分布が、例えば、本明細書に記載の反復的取得又は計算方法を使用して、方位角空間アライメント補正を導出するために、自動的に比較されてもよい。
【0103】
本明細書に記載のアライメント方法では、少なくとも1つの電子検出器が、BF、ADF、HAADF、SE、又はBSE検出器からなる群から選択されてもよい。図1は、2D検出器14の上、及びプロジェクタ15の下に配置された、検出される角度範囲に応じて、ADF又はHAADF検出器である、環状検出器12を示す。図1は、一般的にADF/HAADF検出器12と同じ一般領域に位置するBF検出器も、一般的にサンプル10に比較的近く、且つ一般的にサンプル10の上に位置するSE検出器も、サンプル10の上に位置するBSE検出器も示さない。BF、ADF/HAADF検出器は、2D検出器のフルフレームを使用するために、後退可能であってもよい。2D検出器14は、それぞれBF、ADF、又はHAADF検出器によって収集された散乱角の範囲に対応した二次元検出器のエリアからの信号を組み込むことによって、BF、ADF又はHAADF検出器として機能するように構成されてもよい。
【0104】
当業者は、特定の照明条件下で、特定のタイプのサンプルに関して、入射ビームが、同じ離散場所にとどまっているとしても、信号強度は、入射ビームの配向の関数として変化し得ることを認識し、及びチルト歳差角θによるビームの傾斜に関連するビーム配向だけにおける小さな変化、又は方位角φの変化に対して感度が低い検出器構成を選択する必要性を理解するだろう。
【0105】
PEDマッピングデータは、本明細書に記載のアライメント方法の完了後に、アライメントを行うために使用された複数の離散場所の全て又は一部から取得されてもよい。PEDマッピングデータは、アライメント方法で使用された複数の離散場所に加えて、離散場所から取得されてもよい。つまり、結果として得られるPEDデータマップは、アライメント方法が行われたエリアの一部を占めていてもよく、アライメントエリアのエッジを越えて延在してもよく、アライメントエリアとオーバーラップしてもよく、又はサンプルの隣接する非オーバーラップエリアを占めていてもよい。
【0106】
アライメント方法で使用された同じ複数の離散場所の少なくとも一部からPEDマッピングデータを取得するメリットは、アライメントと、PEDマッピングデータの取得との間で、STEMイメージング条件が、最小限にのみ変化し、従って、PEDマッピングデータの取得中にアライメントが維持される可能性が増す点である。
【0107】
例えば、アライメント手順及びPEDマッピングデータの取得の速度を増加させるために、PEDマッピングデータの取得中に、それに沿って入射ビームが走査される方向とサンプル場所をアライメントさせることが望ましい場合がある。PEDマッピングデータが、直線に沿って等しく間隔を空けた離散場所から取得される限り、アライメント手順において、方位角は、直線に沿って等しい増分で増大されてもよい。
【0108】
PEDマッピングデータを取得しながら、基準信号を同時に取得するために、特定の検出器構成が用いられてもよい。例えば、このような基準信号は、PEDデータを取得するために十分な電子が、2D検出器の検出器アニュラスを透過する限り、適宜に構成されたADF又はHAADF検出器から取得されてもよい。PEDデータを取得するために十分な透過電子を残しながら、ADF又はHAADFによって取得され得る角度範囲は、サンプルの構造及び入射電子波長を含む因子に依存する。2D検出器は、ADF又はHAADF検出器のアニュラス内からPEDデータを同時に収集しながら、ADF又はHAADF検出器に対応した角度範囲を収集するように構成されてもよい。透過電子を収集しないSE又はBSE検出器は、二次元検出器を用いて、PEDデータが離散場所から取得される間に、基準信号を取得するために使用することもできる。
【0109】
取得した基準信号を使用して、基準信号を使用して再構築されたサンプルの画像に対するPEDデータマップの登録を検証してもよい。PEDデータと同時に取得された基準信号の使用は、例えば、PEDマッピングデータの取得中の機器又はサンプルドリフトから生じたデータマップの登録に対する補正を可能にする。
【0110】
特定の実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、決して提示した例に限定されると解釈されるべきものではない。本発明の範囲は、添付の請求項のセットによって示される。請求項の文脈において、「含んでいる(comprising)」又は「含む(comprises)」という用語は、他の可能な要素又はステップを排除しない。また、「a」又は「an」などの参照の言及は、複数を排除すると解釈されるべきものではない。図面に示される要素に関する請求項における参照符号の使用も、本発明の範囲を限定するものと解釈されるものではない。さらに、異なる請求項で述べられる個々のフィーチャが、場合によっては、有利に組み合わせられることが可能であり、及び異なる請求項におけるこれらのフィーチャの言及が、フィーチャの組み合わせが可能であること、及び有利であることを除外しない。
【符号の説明】
【0111】
3 ピボット点
6 歳差コイル
7 リング形状
8 歳差解除コイル
9 入射ビーム
10 サンプル
11 プレフィールド対物レンズ
12 ADF/HAADF検出器
13 ポストフィールド対物レンズ
14 2D検出器
15 プロジェクタレンズ
17 リング形状
18 後方焦点面
31、32 ピボット点
41、43、51、52、53 影付き円
44 長方形部分
45、47 影付きオーバーラップリング形状
非傾斜信号空間分布
θ 一定傾斜角
傾斜信号空間分布
501、502、503 平行線
511、512、513 垂線
図1
図2
図3
図4
図5