(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】高速炉の燃料集合体および高速炉の炉心
(51)【国際特許分類】
G21C 3/28 20060101AFI20220908BHJP
G21C 5/20 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
G21C3/28 900
G21C5/20
(21)【出願番号】P 2019109296
(22)【出願日】2019-06-12
【審査請求日】2021-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】笹平 朗
(72)【発明者】
【氏名】藤村 幸治
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-032189(JP,A)
【文献】特開2014-010022(JP,A)
【文献】特開平07-120580(JP,A)
【文献】米国特許第04710343(US,A)
【文献】特開昭61-228382(JP,A)
【文献】特開2019-105542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21C 3/28
G21C 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の燃料要素を有し、
前記燃料要素は、燃料親物質を含む液体金属燃料が存在する第1燃料領域、前記第1燃料領域の上方に配置され、核分裂性物質及び燃料親物質を含む溶融塩燃料が存在する第2燃料領域、および前記第2燃料領域の上方に配置され、燃料親物質を含む核燃料物質が存在する第3燃料領域を有し、
前記第1燃料領域の上端が前記第2燃料領域の下端に接触しており、前記第2燃料領域の上端が前記第3燃料領域の下端に接触していることを特徴とする高速炉の燃料集合体。
【請求項2】
前記第3燃料領域に存在する前記核燃料物質が、前記燃料要素内に設けられた、複数の貫通孔を有する支持部材上に存在する請求項1に記載の高速炉の燃料集合体。
【請求項3】
吸着材が、前記第3燃料領域よりも上方で前記燃料要素内に配置されている請求項1または2に記載の高速炉の燃料集合体。
【請求項4】
前記液体金属燃料が前記燃料親物質以外に核分裂性物質を含んでおり、
前記液体金属燃料に含まれる前記核分裂性物質の富化度が、前記溶融塩燃料に含まれる前記核分裂性物質の富化度よりも小さい請求項1ないし3のいずれか1項に記載の高速炉の燃料集合体。
【請求項5】
前記第3燃料領域に存在する前記核燃料物質が、使用済燃料、天然ウラン及び劣化ウランのいずれかである請求項1ないし4のいずれか1項に記載の高速炉の燃料集合体。
【請求項6】
複数の燃料要素を有し、
前記燃料要素は、燃料親物質を含む液体金属燃料および核分裂性物質及び燃料親物質を含む溶融塩燃料が混合されて充填された核燃料物質充填領域、および前記核燃料物質充填領域の上方に配置され、燃料親物質を含む核燃料物質が存在する核燃料物質領域を有し、
前記核燃料物質充填領域の上端は前記核燃料物質領域の下端に接触していることを特徴とする高速炉の燃料集合体。
【請求項7】
前記核燃料物質領域に存在する前記核燃料物質が、前記燃料要素内に設けられた、複数の貫通孔を有する支持部材上に存在する請求項6に記載の高速炉の燃料集合体。
【請求項8】
吸着材が、前記核燃料物質領域よりも上方で前記燃料要素内に配置されている請求項6または7に記載の高速炉の燃料集合体。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の複数の燃料集合体が装荷されたことを特徴とする高速炉の炉心。
【請求項10】
前記複数の前記燃料集合体が配置された中央領域、及び燃料親物質を含む液体金属ブランケット燃料が存在する第4燃料領域、及び前記第4燃料領域の上方に配置され、燃料親物質を含む溶融塩ブランケット燃料が存在する第5燃料領域を含む複数のブランケット燃料要素を有する複数のブランケット燃料集合体が配置されて、前記中央領域を取り囲む外周領域を有し、
前記第4領域の上端が前記第5燃料領域の下端に接触している請求項9に記載の高速炉の炉心。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速炉の燃料集合体および高速炉の炉心に関する。
【背景技術】
【0002】
高速炉は、原子炉容器内に炉心を配置ており、原子炉容器内には冷却材である液体金属、例えば、液体ナトリウム等が充填されている。この炉心には、核分裂性プルトニウム(例えば、239Pu)等の核分裂性物質および劣化ウラン(U)等の燃料親物質が被覆管に封入された複数の燃料要素を有する複数の燃料集合体が装荷される。具体的には、その燃料集合体は、複数の燃料要素、ラッパ管およびエントランスノズルを有する。エントランスノズルは複数の燃料要素の下端部を支持する。各燃料要素の外面には燃料要素に取り付けられたワイヤスペーサが巻き付けられており、燃料要素相互間は、このワイヤスペーサによって所定の間隔に保持される。ラッパ管はエントランスノズルによって支持された複数の燃料要素の束を取り囲んでいる。ラッパ管の下端部は、エントランスノズルに取り付けられる。ラッパ管の上端部には、燃料要素の上方に位置する冷却材流出部が形成される。
【0003】
燃料要素に収納される核燃料物質としては、固体酸化物燃料および固体金属合金燃料が一般的に使用され、実績も豊富である。特開2018-71997号公報には、固体酸化物燃料であるウランとプルトニウムを混合した混合酸化物燃料(MOX燃料)を炉心燃料として用い、他の固体酸化物燃料であるウランとマイナーアクチニドを混合した他の混合酸化物燃料(MAOx燃料)を内部ブランケット燃料として用いた高速炉の炉心を記載している。
【0004】
しかし、核燃料物質として、液体金属合金および溶融塩のような液体燃料を使用する例も存在する。例えば、特開昭64-32189号公報には、プルトニウム(Pu)-ウラン(U)-ビスマス(Bi)合金等の液体金属燃料を被覆管内に封入し、核燃料物質を含まない溶融塩領域をその液体金属燃料領域の上方で被覆管内に配置した燃料要素が開示されている。また、特開2014-10022号公報には、トリウム(Th)および核分裂性物質(ウラン235(235U), プルトニウム239(239Pu)等)を含むフッ化物溶融塩を被覆管内に封入した燃料要素が開示されている。ただし、特開昭64-32189号公報および特開2014-10022号公報に記載されたこれらの燃料要素は、ブランケット燃料を有していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-71997号公報
【文献】特開昭64-32189号公報
【文献】特開2014-10022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高速炉の運転により、炉心燃料の主成分である核分裂性物質(239Pu等)は、核分裂反応(核燃料の燃焼)により消費される。一方、高速炉の炉心内の炉心燃料領域に存在する炉心燃料には、核分裂性物質以外に燃料親物質(238U等)も存在しており、炉心燃料に含まれる燃料親物質の中性子捕獲により核分裂性物質(239Pu等)が新たに生成される。また、炉心燃料領域の上部および下部または炉心燃料領域の周囲にブランケット領域が配置されている場合には、ブランケット領域内のブランケット燃料の主成分である燃料親物質(238U等)が炉心燃料領域から漏れてきた中性子を捕獲することにより、核分裂性物質(239Pu等)が生成される。
【0007】
ここで、ブランケット燃料とは、239Pu等の核分裂性物質をほとんど含まず、代わりに238U等の燃料親物質を多く含んだ核燃料である。燃料親物質(238U等)は、そのままでは高速炉の炉心内での核分裂に寄与しないが、中性子を捕獲する中性子捕獲反応により核分裂性物質(239Pu等)に変化することによって、高速炉の炉心内で核分裂に寄与する。
【0008】
高速炉における核分裂性物質の生成量の消費量に対する比は、しばしば転換比または増殖比と呼ばれる。ここでは、核分裂性物質である核分裂性Puについての転換比を以下の3通りに定義する。
【0009】
(1)炉心燃料の転換比
炉心燃料のPu生成量/炉心燃料のPu消費量
(2)ブランケット燃料の転換比
ブランケット燃料のPu生成量/炉心燃料のPu消費量
(3)炉心の転換比
炉心燃料の転換比とブランケット燃料の転換比の合計
一般に、高速炉では、炉心燃料の転換比<1であるが、ブランケット燃料の転換比を加えることにより、炉心全体で転換比≧1を実現すること(すなわち、燃料増殖)が可能である。この場合、核燃料の燃焼が進むと、ブランケット燃料を含めた炉心全体のPuの量は増加するが、炉心燃料に含まれるPuの量は次第に減少する。そのため、高速炉の炉心に装荷された燃料集合体は、所定の燃焼期間(運転サイクル長)経過後に燃焼度0GWd/tの新しい燃料集合体と交換される。炉心の燃料経済性を向上させるためには、燃料集合体の交換頻度が少なくて済む長寿命の燃料集合体が必要とされる。
【0010】
また、ブランケット燃料で生成されたPuを再利用するためには、所定の燃焼期間経過後に高速炉の炉心から使用済燃料集合体として取り出された、炉心燃料及びブランケット燃料を含む燃料集合体を再処理施設に搬送し、再処理施設においてその使用済燃料集合体内の核燃料からPuを回収し、さらに、回収した核燃料を炉心燃料に加工するといった一連のリサイクル処理が必要となる。
【0011】
特開昭64-32189号公報および特開2014-10022号公報に記載された各燃料要素は、ブランケット燃料を有していない。このため、それぞれの燃料要素を含む各燃料集合体を装荷した高速炉の炉心では、炉心燃料の転換比が1未満となるため、燃料交換を頻繁に行う必要がある。
【0012】
このため、発明者らは、燃料交換の頻度をさらに低減できる長寿命の燃料集合体の開発に取り組んだ。
【0013】
本発明の目的は、炉心に装荷される燃料集合体の交換頻度をさらに低減できる高速炉の燃料集合体および高速炉の炉心を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、
複数の燃料要素を有し、
その燃料要素は、燃料親物質を含む液体金属燃料が存在する第1燃料領域、第1燃料領域の上方に配置され、核分裂性物質及び燃料親物質を含む溶融塩燃料が存在する第2燃料領域、および第2燃料領域の上方に配置され、燃料親物質を含む核燃料物質が存在する第3燃料領域を有し、
第1燃料領域の上端が第2燃料領域の下端に接触しており、第2燃料領域の上端が第3燃料領域の下端に接触していることにある。
【0015】
高速炉の運転中では、燃料要素において、第2燃料領域内の燃料親物質が、第2燃料領域から、この第2燃料領域の下方に配置されて第2燃料領域に接触する第1燃料領域に供給され、第1燃料領域において、第2燃料領域から供給された燃料親物質が核分裂性物質に変換され、第1燃料領域で変換により生成されたこの核分裂性物質が第1燃料領域から第2燃料領域に供給され、さらに、第3燃料領域内の核燃料物質に含まれる燃料親物質が第2燃料領域を経て第1燃料領域に供給されて第1燃料領域において核分裂性物質に変換され、この核分裂性物質も第1燃料領域から第2燃料領域に供給されるので、その燃料要素を有する燃料集合体の寿命がさらに長くなり、それだけ、高速炉の炉心に装荷された燃料集合体の交換頻度がさらに低減される。
【0016】
上記した目的は、
複数の燃料要素を有し、
その燃料要素は、燃料親物質を含む液体金属燃料および核分裂性物質及び燃料親物質を含む溶融塩燃料が混合されて充填された核燃料物質充填領域、およびその核燃料物質充填領域の上方に配置され、燃料親物質を含む核燃料物質が存在する核燃料物質領域を有し、
その核燃料物質充填領域の上端はその核燃料物質領域の下端に接触していることによっても達成できる。
【0017】
高速炉の運転が開始されて燃料要素内の核燃料物質充填領域に混合されて充填された、燃料親物質を含む液体金属燃料および核分裂性物質及び燃料親物質を含む溶融塩燃料のそれぞれの燃料が溶融し、燃料要素内に、溶融した液体金属燃料が存在する第1燃料領域、およびこの第1燃料領域の上方に配置されて第1燃料領域に接触される、溶融した溶融塩燃料が存在する第2燃料領域が形成される。この結果、第2燃料領域内の燃料親物質が、第2燃料領域から、この第2燃料領域の下方に配置される第1燃料領域に供給され、第1燃料領域において、第2燃料領域から供給された燃料親物質が核分裂性物質に変換され、第1燃料領域で変換により生成されたこの核分裂性物質が第1燃料領域から第2燃料領域に供給され、さらに、核燃料物質領域内の核燃料物質に含まれる燃料親物質が第2燃料領域を経て第1燃料領域に供給されて第1燃料領域において核分裂性物質に変換され、この核分裂性物質も第1燃料領域から第2燃料領域に供給されるので、その燃料要素を有する燃料集合体の寿命がさらに長くなり、それだけ、高速炉の炉心に装荷された燃料集合体の交換頻度がさらに低減される。
【0018】
燃料集合体における核燃料物質の補給方法の好ましい構成を以下に述べる。
【0019】
(A)複数の燃料要素を有し、その燃料要素は、燃料親物質を含む液体金属燃料が存在する第1燃料領域、第1燃料領域の上方に配置され、核分裂性物質及び燃料親物質を含む溶融塩燃料が存在する第2燃料領域、および第2燃料領域の上方に配置され、燃料親物質を含む核燃料物質が存在する第3燃料領域を有し、第1燃料領域の上端が第2燃料領域の下端に接触しており、第2燃料領域の上端が第3燃料領域の下端に接触している高速炉の燃料集合体における核燃料物質の補給方法であって、
第3領域における核燃料物質が消滅したとき、高速炉の炉心に装荷されている燃料集合体を原子炉容器の外に取り出し、
取り出した燃料集合体に含まれている燃料要素の被覆管の上端部を封鎖している上部端栓を取り外し、
その後、被覆管の上端から被覆管内に、燃料親物質を含む核燃料物質を補給して、第2燃料領域の上方に位置する第3燃料領域を形成し、
被覆管の上端を上部端栓によって封鎖する高速炉の燃料集合体における核燃料物質の補給方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、炉心に装荷される燃料集合体の交換頻度をさらに低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の高速炉の燃料集合体に用いられる燃料要素の縦断面図である。
【
図2】
図1に示す複数の燃料要素を有する燃料集合体の横断面図である。
【
図3】
図2に示す複数の燃料集合体が装荷された高速炉の炉心の斜視図である。
【
図4】
図3に示す高速炉の炉心の、中心軸での縦断面図である。
【
図5】
図2に示す燃料集合体における核燃料物質の補給方法を示す説明図であり、(a)は高速炉の起動前における、燃料集合体に含まれる燃料要素の状態を、(b)はその燃料要素内で溶融塩燃料領域の上方に存在する使用済燃料がなくなった状態を、(c)は燃料要素の上部端栓を取り外して被覆管の上端から使用済燃料を被覆管内の補給する状態を、および(d)は使用済燃料の被覆管内への補給が終了した後に被覆管の上端を上部端栓で封鎖した状態を示す説明図である。
【
図6】本発明の好適な他の実施例である実施例2の、高速炉の燃焼度0GWd/tの燃料集合体に含まれる燃料要素の縦断面図である。
【
図7】本発明の先願である特願2017-238372号の高速炉の燃料集合体に含まれる燃料要素の縦断面図である。
【
図8】本発明の好適な他の実施例である実施例3の高速炉の燃料集合体に含まれる燃料要素の縦断面図である。
【
図9】
図8に示す複数の燃料要素を有する燃料集合体を装荷した高速炉の炉心の、中心軸での縦断面図である。
【
図10】本発明の好適な他の実施例である実施例4の高速炉の炉心における、炉心燃料領域を取り囲むブランケット領域に装荷されたブランケット燃料集合体に含まれるブランケット燃料要素の縦断面図である。
【
図11】
図10に示される実施例4の高速炉の炉心の、中心軸での縦断面図である。
【
図12】本発明の好適な他の実施例である実施例5の高速炉の燃料集合体に含まれる燃料要素の縦断面図である。
【
図13】
図1に示す複数の燃料要素を有する燃料集合体が装荷された高速炉の炉心の、中心軸での縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
燃料交換の頻度を低減する寿命の長い燃料集合体は、特願2017-238372号により提案されている。この燃料集合体の概要を、
図7を用いて以下に説明する。
【0023】
特願2017-238372号により提案された燃焼度0GWd/tの燃料集合体は、
図7に示す複数の燃料要素2Dの下端部をエントランスノズルによって支持し、エントランスノズルによって支持された複数の燃料要素2Dを筒状の構造物であるラッパ管で取り囲んで構成される。ラッパ管の下端部はエントランスノズルに取り付けられる。このような燃料集合体が、複数体、円柱状の高速炉の炉心に装荷され、円柱状の高速炉の炉心が形成される。
【0024】
燃料要素2Dは、上端部が上部端栓4で封鎖されて下端部が下部端栓5で封鎖された被覆管3内に、下端から上端に向かって、液体金属燃料領域7及び溶融塩燃料領域6が配置される。溶融塩燃料領域6は液体金属燃料領域7の上方に配置される。被覆管3内で、溶融塩燃料領域6の上方には、ガスプレナム13が形成されている。溶融塩燃料9、例えば、PuCl3,UCl3,NaClおよびMgCl2が、燃焼度0GWd/tの状態で核分裂性物質(例えば、239Pu等)および燃料親物質(例えば、238U)を含み、溶融塩燃料領域6に充填される。液体金属燃料10、例えば、U-Bi合金が液体金属燃料領域7に充填される。その液体金属燃料10はブランケット燃料である。液体金属燃料10は、燃焼度0GWd/tの状態で、核分裂性物質を含まず、燃料親物質(例えば、238U)を含む。
【0025】
高速炉の運転時において、燃料要素2Dの溶融塩燃料領域6では、溶融塩燃料9の主成分である核分裂性物質の239Pu等は、自らの核分裂反応(すなわち、核燃料の燃焼)により消費される。さらに、溶融塩燃料9に含まれる燃料親物質である238Uが239Puの核分裂反応で発生した中性子を捕獲する中性子捕獲反応により、溶融塩燃料領域6では核分裂性物質(239Pu等)が新たに生成される。
【0026】
さらに、燃料要素2Dの液体金属燃料領域7では、液体金属燃料10の主成分である燃料親物質の238Uが溶融塩燃料領域6から漏れてくる中性子を捕獲し、その中性子捕獲反応によって核分裂性物質(239Pu等)に核変換される。すなわち、燃料要素2Dの液体金属燃料領域7では、核分裂性物質(239Pu等)が生成される。
【0027】
ところで、溶融塩燃料領域6と液体金属燃料領域7との境界では、溶融塩燃料9と液体金属燃料10が溶融状態で互いに接触するため、溶融塩燃料9と液体金属燃料10が接触した領域では、後述の式(2)に示す化学反応により、溶融塩燃料9に含まれる塩化物の238Uは金属の238Uとなり、液体金属燃料10に含まれる金属の239Puは、塩化物の239Puとなる。
【0028】
以上のようにして生成された塩化物の239Puは、液体金属燃料10よりも比重が小さく、逆に、金属の238Uは、溶融塩燃料9よりも比重が大きい。このため、塩化物の239Puは溶融塩燃料領域6に存在する炉心燃料である溶融塩燃料9内に拡散し、金属の238Uは液体金属燃料領域7内に存在するブランケット燃料である液体金属燃料10内に拡散する。
【0029】
溶融塩燃料9と液体金属燃料10の境界で生じる式(2)の化学反応は、この化学反応に関わる各物質の濃度等が所定の平衡条件に達するまで継続して生じる。このため、式(2)の化学反応が継続する限り、燃料親物質である238Uが、溶融塩燃料(炉心燃料)9が存在する溶融塩燃料領域6から液体金属燃料(ブランケット燃料)10が存在する液体金属燃料領域7に継続して供給され、逆に、核分裂性物質である239Puが、液体金属燃料領域7から溶融塩燃料領域6に継続して供給される。
【0030】
その結果、本実施例では、炉心の実効的な転換比は、下記の式(1)のようにブランケット燃料10の転換比の分だけ大きくなる。
【0031】
(炉心の実効的な転換比)
=(炉心燃料の転換比)+(ブランケット燃料の転換比) …(1)
液体金属燃料領域7及びこの領域7の上方に配置されて液体金属燃料領域7と接触する溶融塩燃料領域6を有する複数の燃料要素2Dを含み、高速炉の炉心に装荷される燃料集合体は、各燃料要素2D内の溶融塩燃料領域6において核分裂性物質である239Puが燃焼されるが、溶融塩燃料領域6から液体金属燃料領域7への238Uの供給、および液体金属燃料領域7から溶融塩燃料領域6への核分裂性物質である239Puの供給が継続して行われるため、溶融塩燃料領域6での239Pu等の核分裂性物質を長期に亘って燃焼させることができる。このため、特願2017-238372号により提案された、複数の燃料要素2Dを有する燃料集合体の交換頻度を、低減できる。その結果、複数の燃料要素2Dを有する燃料集合体を装荷した高速炉の炉心における燃料の経済性を大きく向上させることができる。
【0032】
発明者らは、特願2017-238372号により提案された複数の燃料要素2Dを有する燃料集合体よりも交換頻度をさらに低減できる燃料集合体を実現するために、さらに、種々の検討を行った。この検討の結果、発明者らは、液体金属燃料領域の上方に液体金属燃料領域と接触する溶融塩燃料領域を配置し、燃料親物質を含む核燃料物質を、その溶融塩燃料領域と接触させて溶融塩燃料領域の上方に配置することによって、特願2017-238372号により提案された複数の燃料要素2Dを有する燃料集合体よりも交換頻度をさらに低減できることを見出した。
【0033】
溶融塩燃料領域と接触させて溶融塩燃料領域の上方に配置する、燃料親物質を含む核燃料物質として、使用済燃料、劣化ウラン及び天然ウランのいずれかが用いられる。
【0034】
上記した検討結果を反映した本発明の実施例を、以下に説明する。
【実施例1】
【0035】
本発明の好適な一実施例である実施例1の高速炉の燃料集合体を、
図1および
図2を用いて説明する。
【0036】
本実施例の燃料集合体24は、外面にワイヤスペーサ(図示せず)が巻き付けられた複数の燃料要素2の束を、横断面が正六角形の筒状の構造物であるラッパ管14内に配置している。複数の燃料要素2は、ラッパ管14内で正三角形格子状に配置される。それぞれの燃料要素2の下端部は、エントランスノズル(図示せず)によって支持される。ラッパ管14の下端部が、エントランスノズルに取り付けられる。巻き付けられたワイヤスペーサによって、隣り合う燃料要素2の相互間に所定幅の間隙が形成される。この間隙は、冷却材である液体金属が流れる冷却材通路である。
【0037】
燃料要素2は、
図7に示された特願2017-238372号により提案された燃料集合体の燃料要素2Dと同様に、溶融塩燃料領域(第2燃料領域)6および液体金属燃料領域(第1燃料領域)7を、上部端栓4及び下部端栓5で封鎖された被覆管3内に配置している。溶融塩燃料領域6は、液体金属燃料領域7の上端に接触しており、液体金属燃料領域7の上方に配置される。溶融塩燃料領域6に充填された溶融塩燃料9は、例えば、PuCl
3,UCl
3,NaClおよびMgCl
2であり、炉心燃料である。溶融塩燃料9は、燃焼度0GWd/tの燃料集合体24において、核分裂性物質(例えば、
239Pu、
241Pu等)および燃料親物質(例えば、
238U)を含んでいる。液体金属燃料領域7に充填された液体金属燃料10は、例えば、U-Bi合金であり、ブランケット燃料である。この液体金属燃料10は、燃焼度0GWd/tの燃料集合体24において、核分裂性物質を含んでいなく、燃料親物質(例えば、
238U)を含んでいる。
【0038】
溶融塩燃料9と液体金属燃料10は、溶融塩燃料領域6と液体金属燃料領域7の境界の位置で互いに接触している。
【0039】
溶融塩燃料9であるPuCl3,UCl3,NaClおよびMgCl2の融点は、837℃である。例えば、NaClおよびMgCl2のモル比を5:5~2:1の範囲にしてPuCl3およびUCl3のそれぞれの濃度を下げることにより、PuCl3,UCl3,NaClおよびMgCl2の融点を500℃以下にすることもできる。PuCl3,UCl3,NaClおよびMgCl2のそれぞれの量を調節することにより、PuCl3,UCl3,NaClおよびMgCl2の融点を望ましい融点にすることができる。また、液体金属燃料10であるU-Bi合金の融点は880℃~1200℃の範囲にあり、Biの割合を変えることによって880℃~1200℃の範囲でU-Bi合金の融点を望ましい融点にすることができる。
【0040】
燃料要素2は、燃料要素2Dと異なり、多数の貫通した孔が形成された支持部材(例えば、金網)12が溶融塩燃料領域6の上端の位置に配置されて被覆管3の内面に取り付けられ、さらに、被覆管3内で、燃料親物質(例えば、238U)を含む核燃料物質である使用済燃料11を含む使用済燃料領域(核燃料物質領域)(第3燃料領域)11Dをその支持部材12の上に形成している。使用済燃料11の比重が溶融塩燃料9および液体金属燃料10の比重よりも大きいので、支持部材12は、被覆管3内で、溶融塩燃料領域6の上方から下方に向かって使用済燃料11が落下しないように、使用済燃料11を支持している。ガスプレナム13が、被覆管3内で、使用済燃料領域11Dの上方に形成される。ガスプレナム13には、不活性ガスが充填される。
【0041】
なお、使用済燃料11の替りに、燃料親物質を含む核燃料物質である天然ウランまたは劣化ウランを用いてもよい。天然ウランまたは劣化ウランを用いた場合には、天然ウランまたは劣化ウランも被覆管3内設けた支持部材12の上に充填される。
【0042】
燃焼度0GWd/tの燃料集合体24において、燃料要素2の被覆管3内の液体金属燃料領域7には、ペレット状の多数の固体の液体金属燃料10が充填され、被覆管3内の溶融塩燃料領域6には、ペレット状の多数の固体の溶融塩燃料9が充填され、被覆管3内の使用済燃料領域11Dには、ペレット状の多数の固体の使用済燃料11が充填されている。使用済燃料11は、沸騰水型原子炉および加圧型原子炉等の軽水炉、および他の高速炉の炉心から取り出された使用済燃料集合体内の酸化物燃料である。
【0043】
燃料要素2内の液体金属燃料10、溶融塩燃料領域6および使用済燃料領域11Dが、核燃料物質充填領域8である。この核燃料物質充填領域8の軸方向の長さを燃料有効長という。燃料集合体24の燃料有効長は、燃料要素2の燃料有効長と同じである。炉心1に装荷された全ての燃料集合体24において、各燃料要素2内の液体金属燃料領域7と溶融塩燃料領域6の境界の、燃料有効長の下端からの位置は、同じ位置になっている。
【0044】
高速炉の原子炉容器(図示せず)内に配置された炉心1は、
図3に示すように、複数の燃料要素2を含む複数の燃料集合体24を有する。
図4に示す一点鎖線は、炉心1の中心軸を示す。
図4は、炉心1の、中心軸での縦断面を示している。複数の燃料要素2を含む複数の燃料集合体24が装荷された炉心1は、軸方向において、下端から上端に向かって液体金属燃料層7B、溶融塩燃料層6Bおよび核燃料物質層11Aを形成している。液体金属燃料層7Bには、炉心1に装荷された各燃料集合体24に含まれる各燃料要素2内の液体金属燃料領域7が配置されており、液体金属燃料層7Bは、これらの燃料要素2内の液体金属燃料領域7によって形成される。溶融塩燃料層6Bには、炉心1に装荷された各燃料集合体24に含まれる各燃料要素2内の溶融塩燃料領域6が配置されており、溶融塩燃料層6Bは、これらの燃料要素2内の溶融塩燃料領域6によって形成される。核燃料物質層11Aには、炉心1に装荷された各燃料集合体24に含まれる各燃料要素2内の、燃料親物質を含む燃料物質である使用済燃料11が充填された使用済燃料領域(核燃料物質領域)11Dが配置されており、核燃料物質層11Aは、これらの燃料要素2内の使用済燃料領域11Dによって形成される。
【0045】
炉心1内の一部の燃料集合体24は、燃焼度0GWd/tの燃料集合体である。高速炉の運転が開始される。原子炉容器内に存在する冷却材である液体金属(例えば、液体ナトリウム)が、燃料集合体24において、エントランスノズルからラッパ管内に供給され、燃料要素2の相互間に形成された冷却材通路内を上昇し、燃料集合体24の外部に放出される。
【0046】
高速炉の運転中において、燃料集合体24の各燃料要素2では、溶融塩燃料領域6内において、溶融塩燃料9の主成分である核分裂性物質の239Pu等は中性子の捕獲により核分裂し、熱を発生する。発生した熱は、燃料要素2相互間に形成された冷却材通路内を上昇する冷却材である液体金属に伝えられる。この液体金属は燃料要素2を冷却する。発生した熱によって温度が上昇した液体金属(冷却材)は、燃料集合体24の上端から原子炉容器内に放出される。その核分裂の進行によって、溶融塩燃料9に含まれる核分裂性物質の239Pu等は消費される。また、溶融塩燃料9に含まれる238Uが239Puの核分裂反応で発生した中性子を捕獲する中性子捕獲反応により、溶融塩燃料領域6では核分裂性物質(239Pu等)が新たに生成される。
【0047】
高速炉の運転が開始され、各燃料要素2内で239Pu等の核分裂性物質の核分裂が生じ、燃料要素2内の温度が溶融塩燃料9及び液体金属燃料10の融点よりも高くなったとき、溶融塩燃料9及び液体金属燃料10のそれぞれが溶融状態になる。このため、溶融塩燃料領域6と液体金属燃料領域7の境界では、溶融した溶融塩燃料9と溶融した液体金属燃料10が接触する。溶融した溶融塩燃料9の比重は溶融した液体金属燃料10の比重よりも小さいため、被覆管3内において、溶融した溶融塩燃料9は溶融した液体金属燃料10の上方に位置することになる。
【0048】
さらに、燃料要素2の液体金属燃料領域7では、液体金属燃料10の主成分である燃料親物質の238Uが溶融塩燃料領域6から漏れてくる中性子を捕獲し、その中性子捕獲反応によって核分裂性物質(239Pu等)に核変換される。すなわち、燃料要素2の液体金属燃料領域7でも、核分裂性物質(239Pu等)が新たに生成される。
【0049】
溶融塩燃料9と液体金属燃料10が溶融状態で互いに接触する溶融塩燃料領域6と液体金属燃料領域7との境界付近では、下記の式(2)に示す化学反応により、溶融塩燃料9に含まれる塩化物の238Uは金属の238Uとなり、液体金属燃料10に含まれる金属の239Puは、塩化物の239Puとなる。
【0050】
Pu(金属)+UCl3(塩化物)→PuCl3(塩化物)+U(金属) …(2)
式(2)で示す化学反応が起きるのは、UとPuでは、Puのほうが塩素(Cl)に結合し易いからである。
【0051】
塩化物の239Puは液体金属燃料10よりも比重が小さく、金属の238Uは、溶融塩燃料9よりも比重が大きいため、塩化物の239Puは溶融塩燃料領域6内に拡散し、金属の238Uは液体金属燃料領域7内に拡散する。式(2)の化学反応が継続する限り、金属の238Uが液体金属燃料領域7に継続して供給され、塩化物の239Puが溶融塩燃料領域6に継続して供給される。
【0052】
ところで、液体金属燃料領域7では、式(2)の化学反応の結果として、溶融塩燃料9と平衡する量の239Puが残る。そして、この液体金属燃料領域7内に残った239Puの核分裂反応や、わずかではあるが液体金属燃料領域7内の液体金属燃料10に含まれる238U等の核分裂反応も起きる。
【0053】
各燃料要素2の液体金属燃料領域7内での核分裂反応により生成された核分裂生成核種(以下、FP(Fission Products)核種という)のうち、白金族FP核種を除く大部分のFP核種は、液体金属燃料領域7内の液体金属燃料10よりも比重が小さい。そのため、生成されたFP核種は、溶融塩燃料領域6と液体金属燃料領域7の境界まで上昇し、さらに、溶融塩燃料領域6内の、液体金属燃料10と接触する溶融塩燃料9の溶融塩成分であるMgCl3(塩化物)との間で、下記に示す式(3)で表される化学反応を起こしてFP塩の形態で溶融塩燃料領域6に拡散する。
【0054】
FP(単体)+(3/2)MgCl3(塩化物)
→FPCl3(塩化物)+(3/2)Mg(金属) …(3)
つまり、使用済みの液体金属燃料10には、白金族FP核種を除き、FP核種はほとんど残らないことになる。したがって、使用済みの液体金属燃料10からFP核種を回収する処理はほとんど不要となる、すなわち、使用済みの液体金属燃料10の再処理において、FP核種を分離するプロセスがほぼ不要となる。よって、使用済みの燃料集合体24の再処理工程が大幅に簡素化される。
【0055】
本実施例の燃料集合体24では、各燃料要素2内に、溶融塩燃料領域6の上方に核燃料物質領域である、使用済燃料11を含む使用済燃料領域11Dが存在する。この使用済燃料領域11D内の使用済燃料11の作用を以下に説明する。
【0056】
高速炉の運転中では、溶融した溶融塩燃料9が、支持部材12の多数の貫通孔を通して支持部材12上の使用済燃料11と接触している。燃料要素2の溶融塩燃料領域6内のウラン濃度が高速炉の運転中に核反応により低下したとき、使用済燃料11は接触している溶融した溶融塩燃料9に溶け出す。このため、溶融塩燃料領域6内のウラン濃度が均一に保たれる。
【0057】
溶融した溶融塩燃料9に溶け出した使用済燃料11に含まれている燃料親物質である238U(金属)は、その溶融塩燃料9が存在する溶融塩燃料領域6内に拡散する。溶融塩燃料領域6内に拡散した238U(金属)の一部は、溶融塩燃料領域6において中性子を捕獲して核分裂性物質である239Puに変換される。この239Puは溶融塩燃料領域6内で塩化物の239Puとなる。
【0058】
また、溶融塩燃料領域6内に拡散した238U(金属)の大部分を占める238U(金属)の残りは、溶融塩燃料領域6内を238U(金属)のまま溶融した液体金属燃料10が存在する液体金属燃料領域7まで下降する。液体金属燃料領域7まで下降した238U(金属)は、液体金属燃料領域7において溶融塩燃料領域6から漏れてくる中性子を捕獲し、239Puに変換される。溶融塩燃料領域6と液体金属燃料領域7との境界付近では、前述の式(2)に示す化学反応により、支持部材12上の使用済燃料11から溶融塩燃料領域6内に拡散して液体金属燃料領域7まで下降した前述の238U(金属)から変換された239Puも、液体金属燃料領域7内で塩化物の239Puとなる。液体金属燃料領域7内で生成された塩化物の239Puは、液体金属燃料10よりも比重が小さいため、溶融塩燃料領域6内に拡散する。また、その化学反応により、溶融塩燃料9に含まれる塩化物の238Uは金属の238Uとなり、この238Uは液体金属燃料領域7内に拡散する。上記のように、液体金属燃料領域7内で、使用済燃料11に含まれている燃料親物質である238U(金属)から変換された239Puは、溶融塩燃料領域6に供給される。
【0059】
燃焼度0GWd/tの燃料集合体24において、支持部材12上の使用済燃料11は、燃料親物質以外に、核分裂性Pu(239Pu等)およびマイナーアクチニド(以下、MAという)を含んでいる。MAとしては、237Np,241Am,242MAm,243Am,243Cm,244Cm,245Cmおよび246Cm等がある。溶融した溶融塩燃料9に溶け出した使用済燃料11に含まれている核分裂性PuおよびMAは、溶融塩燃料領域6内に拡散する。溶融塩燃料領域6内に拡散したその核分裂性Puは、溶融塩燃料領域6内で中性子を捕獲して核分裂する。この核分裂により、使用済燃料11に含まれる核分裂性Puも消費される。溶融塩燃料領域6内に拡散したそのMAも、中性子を捕獲して核分裂する。この核分裂により、使用済燃料11に含まれるMAも溶融塩燃料領域6内で消費され、やがて消滅する。溶融塩燃料領域6における核分裂性物質(239Pu等)の核分裂に伴って生成されたMAも、中性子を捕獲して核分裂し、消滅する。
【0060】
燃料要素2内の使用済燃料11が充填された使用済燃料領域11Dに存在する238Uの一部は、溶融塩燃料領域6から漏れてくる中性子を捕獲して239Puに変換される。この変換によって生じた239Puも、溶融した溶融塩燃料9に溶け出した使用済燃料11に含まれている。使用済燃料領域11Dで生成されたその239Puも、溶融塩燃料領域6内で中性子を捕獲して核分裂する。
【0061】
本実施例は、液体金属燃料10が存在する液体金属燃料領域7及びこの領域7の上方に配置されて液体金属燃料領域7と接触し、溶融塩燃料9が存在する溶融塩燃料領域6を有する複数の燃料要素2を含み、高速炉の炉心1に装荷される燃料集合体は、各燃料要素2内の溶融塩燃料領域6において核分裂性物質である239Puが燃焼されるが、溶融塩燃料領域6から液体金属燃料領域7への燃料親物質(例えば、238U)の供給、および液体金属燃料領域7から溶融塩燃料領域6への核分裂性物質である239Puの供給が継続して行われるため、溶融塩燃料領域6での239Pu等の核分裂性物質を長期に亘って燃焼させることができる。このため、高速炉の炉心1に装荷された本実施例の燃料集合体24は、特願2017-238372号により提案された、複数の燃料要素2Dを有する燃料集合体と同様に、交換頻度を低減することができる。
【0062】
本実施例の燃料集合体24では、液体金属燃料領域7内の液体金属燃料10、すなわち、ブランケット燃料を再処理することなく、高速炉の運転中において、液体金属燃料領域7内で燃料親物質(例えば、238U)から変換されて生成された核分裂性物質(例えば、239Pu)を溶融塩燃料領域6へ継続して供給することができ、溶融塩燃料領域6での核分裂性物質の核分裂が長期に亘って持続される。
【0063】
本実施例では、燃料要素2内で溶融塩燃料領域6の上方に使用済燃料11が存在する使用済燃料領域11Dが形成されており、前述したように、その使用済燃料領域11D、溶融塩燃料領域6および液体金属燃料領域7のそれぞれにおいて、使用済燃料11に含まれる燃料親物質(例えば、238U)が中性子を捕獲して核分裂性物質(例えば、239Pu)に変換される。使用済燃料領域11D及び液体金属燃料領域7のそれぞれで使用済燃料11に含まれる燃料親物質(例えば、238U)から変換されたそれぞれの核分裂性物質(例えば、239Pu)は、溶融塩燃料領域6に供給され、溶融塩燃料領域6内で使用済燃料11に含まれる燃料親物質(例えば、238U)から変換された核分裂性物質(例えば、239Pu)と共に、溶融塩燃料領域6内での核分裂に貢献する。
【0064】
このように、本実施例の燃料集合体24では、使用済燃料11が存在する使用済燃料領域11Dを燃料要素2内に形成しているため、特願2017-238372号により提案されている燃料要素2Dを有する燃料集合体に比べて、燃料集合体24は、実質的に、その使用済燃料11に含まれる燃料親物質(例えば、238U)の量だけ、核分裂性物質(例えば、239Pu)の量を増大させることができる。このため、本実施例の燃料集合体24は、特願2017-238372号により提案されている燃料要素2Dを有する燃料集合体よりも寿命が長くなり、それだけ、燃料要素2Dを有する燃料集合体よりも交換頻度が低減される。本実施例は、高速炉の実効的な運転サイクルの長さを伸ばすことができる。燃料集合体24を装荷した高速炉の炉心1における燃料の経済性を、さらに向上させることができる。
【0065】
本実施例によれば、燃料集合体24に含まれる各燃料要素2内に使用済燃料11を充填しているため、この使用済燃料11の再処理を高速炉の運転中において燃料集合体24内で実施することができる。
【0066】
本実施例の燃料集合体24において、核燃料物質、すなわち、使用済燃料を各燃料要素2内に補給することによって、燃料集合体24の寿命をさらに延ばすことができる。燃料集合体24における核燃料物質の補給方法を、
図5を用いて具体的に説明する。
図5において、(a)は高速炉の起動前における、燃焼度0GWd/tの燃料集合体24に含まれる燃料要素2の状態を示し、(b)はその燃料要素2内で溶融塩燃料領域6の上方に存在する使用済燃料11が消滅した状態を示し、(c)は燃料要素2の上部端栓4を取り外して被覆管3の上端から使用済燃料11を被覆管3内の補給する状態を示し、および(d)は使用済燃料11の被覆管3内への補給が終了した後に被覆管3の上端を上部端栓4で封鎖した状態を示している。
【0067】
図5(a)に示す高速炉の起動前における、燃焼度0GWd/tの燃料集合体24に含まれる燃料要素2では、ペレット状の多数の固体の液体金属燃料10が液体金属燃料領域7に充填され、ペレット状の多数の固体の溶融塩燃料9が溶融塩燃料領域6に充填され、ペレット状の多数の固体の使用済燃料11が使用済燃料領域11Dに充填されている。溶融塩燃料9及び液体金属燃料10は有していない。
【0068】
高速炉の運転が開始されて燃料要素2内の核燃料物質の温度が溶融塩燃料9及び液体金属燃料10の融点よりも高くなったとき、燃料要素2において溶融塩燃料9及び液体金属燃料10が溶融する。溶融塩燃料9及び液体金属燃料10が溶融しても、燃料要素2内での溶融塩燃料領域6および液体金属燃料領域7の配置は、
図5(a)に示すように保たれる。高速炉の運転時間が経過すると、やがて、燃料集合体24の燃料要素2内に充填された使用済燃料11が溶融塩燃料領域6内の溶融塩燃料9に溶出することにより、その使用済燃料11が消滅する(
図5(b)参照)。
【0069】
燃料要素2内の使用済燃料11が消滅したとき、高速炉の運転が停止される。高速炉の炉心1に装荷されて燃料要素2内の使用済燃料11が消滅した燃料集合体24が、高速炉の原子炉容器の外部に取り出される。原子炉容器から取り出された燃料集合体24は、核燃料物質(例えば、使用済燃料11)の補給を実施する補給エリアまで搬送される。
【0070】
この補給エリアでは、燃料集合体24の解体工程が実施される。この工程において、燃料集合体24のラッパ管がエントランスノズルから取り外され、各燃料要素2の下部端栓5がエントランスノズルから取り外される。燃料要素2の被覆管3の外面に巻き付けられたワイヤスペーサが取り外される。上部端栓4を被覆管3の上端部から取り外す。上部端栓4の取り外し後、被覆管3の上端部に開口が形成される(
図5(c)参照)。
【0071】
燃料集合体24の解体工程が終了した後に、被覆管3内への使用済燃料11の補給工程が実施される。すなわち、被覆管3の上端部に形成された開口から、ペレット状の多数の固体の使用済燃料11が被覆管3内に充填される。充填された使用済燃料11の所定数のペレットが、溶融塩燃料領域6の上方に位置する支持部材(例えば、金網)12の上に置かれる。上部端栓4が被覆管3の上端部に取り付けられ、被覆管3が密封される(
図5(d)参照)。
【0072】
その後、補給エリアにおいて、燃料集合体24の再組み立て工程が実施される。すなわち、ワイヤスペーサの一端部が下部端栓5に取り付けられ、ワイヤスペーサが密封された被覆管3の外面にワイヤスペーサが巻き付けられて、ワイヤスペーサの他端部が上部端栓4に取り付けられる。各燃料要素2の下部端栓5がエントランスノズルに取り付けられ、燃料要素2の束がラッパ管内に挿入される。燃料要素2の束を取り囲むラッパ管の下端部がエントランスノズルに取り付けられる。
【0073】
燃料集合体24の解体工程、使用済燃料11の補給工程及び燃料集合体24の再組み立て工程は、補給エリア内の密封された領域で遠隔操作により行われる。
【0074】
なお、使用済燃料11の替りに燃料親物質を含む核燃料物質である天然ウランまたは劣化ウランを用いた場合には、上記の使用済燃料11の補給工程(核燃料物質の補給工程)では、被覆管3の上端部に形成された開口から、ペレット状の多数の固体の天然ウランまたは劣化ウランが被覆管3内に充填される。
【0075】
再組立てされた燃料集合体24は、高速炉の炉心1内に再度装荷される。そして、高速炉は、再起動される。再起動後、再装荷された燃料集合体24に含まれる各燃料要素2内の溶融塩燃料9及び液体金属燃料10は溶融する。燃料要素2内の補給された使用済燃料11が消滅するまで、燃料集合体24を炉心1に装荷した高速炉の運転が継続される。使用済燃料11を補給した燃料要素2を有する燃料集合体24の寿命はさらに伸び、燃料集合体24の交換頻度はさらに低減される。
【実施例2】
【0076】
本発明の好適な他の実施例である実施例2の高速炉の燃料集合体を、
図6を用いて説明する。
【0077】
実施例2の燃料集合体は、
図6に示す複数の燃料要素2Aを有する。燃料要素2Aでは、粒子状(または粉状)の溶融塩燃料9及び液体金属燃料10が、混合されて支持部材(例えば、金網)12よりも下方に充填される。燃料要素2Aの被覆管3内で、使用済燃料11が支持部材12の上方に充填される。燃料要素2Aにおいて、支持部材12よりも下方の、混合された粒子状(または粉状)の溶融塩燃料9及び液体金属燃料10が充填された領域を核燃料物質充填領域という。核燃料物質領域は使用済燃料11と接触している。
混合された被覆管3内における粒子状(または粉状)の溶融塩燃料9と粒子状(または粉状)の液体金属燃料10の混合割合は、実施例1の燃料集合体24の燃料要素2における溶融塩燃料領域6内の溶融塩燃料9と液体金属燃料領域7内の液体金属燃料10の割合と同じである。
【0078】
燃料要素2Aを有する燃焼度0GWd/tの燃料集合体では、燃料要素2A内の粒子状(または粉状)の溶融塩燃料9及び粒子状(または粉状)の液体金属燃料10は溶融していない。その燃料集合体が高速炉の炉心に装荷された後、高速炉の運転が開始される。燃料要素2A内の溶融塩燃料9に含まれている核分裂性物質(239Pu等)の核分裂によって燃料要素2Aの温度が溶融塩燃料9及び液体金属燃料10のそれぞれの融点よりも上昇したとき、溶融塩燃料9及び液体金属燃料10が溶融し、溶融した溶融塩燃料9と溶融した液体金属燃料10が支持部材12よりも下方で分離される。この結果、実施例1の燃料集合体24の燃料要素2と同様に、燃料要素2A内に、溶融塩燃料9が存在する溶融塩燃料領域6および液体金属燃料10が存在する液体金属燃料領域7が形成され、溶融塩燃料領域6が液体金属燃料領域7と接触して液体金属燃料領域7の上方に形成される。
【0079】
燃料要素2Aを有する本実施例の燃料集合体は、実施例1で得られる各効果を得ることができる。
【実施例3】
【0080】
本発明の好適な他の実施例である実施例2の高速炉の燃料集合体を、
図8および
図9を用いて説明する。
【0081】
本実施例の燃料集合体は、
図8に示す燃料要素2Bを複数本有する。燃料要素2Bは、実施例1で用いられる燃料要素2と、溶融塩燃料が存在する溶融塩燃料領域および液体金属燃料が存在する液体金属燃料領域が異なっているだけで、他の構成は燃料要素2と同じである。すなわち、燃料要素2Bは、溶融塩燃料9Aが存在する溶融塩燃料領域6Aおよび液体金属燃料10Aが存在する液体金属燃料領域7Aを有する。燃料要素2Bを有する、燃焼度0GWd/tの燃料集合体では、溶融塩燃料領域6Aに、高富化度の核分裂性Pu(例えば、
239Pu)を含む溶融塩燃料9Aが存在し、液体金属燃料領域7Aに、低富化度の核分裂性Pu(例えば、
239Pu)を含む液体金属燃料10Aが存在する。液体金属燃料10Aの核分裂性Puの富化度は、溶融塩燃料9Aの核分裂性Puの富化度よりも小さい。高富化度の核分裂性Puを含む溶融塩燃料9Aは、具体的には、PuCl
3,UCl
3,NaCl,MgCl
2を含んでいる。低富化度の核分裂性Puを含む液体金属燃料10Aは、具体的には、Pu-U-Bi合金を含んでいる。本実施例の燃料要素2Bが実施例1の燃料要素2と大きく異なる点は、燃料要素2Bの液体金属燃料領域に核分裂性Pu(例えば、
239Pu)が含まれていることである。
【0082】
燃料要素2Bの溶融塩燃料領域6Aには、ペレット状の多数の固体の液体金属燃料10が充填され、被覆管3内の溶融塩燃料領域6には、ペレット状の多数の固体の溶融塩燃料9が充填され、被覆管3内の使用済燃料領域11Dには、ペレット状の多数の固体の使用済燃料11が充填されている。
【0083】
溶融塩燃料9Aにおける核分裂性Puの富化度は、実施例1の燃料集合体24に含まれる燃料要素2内の溶融塩燃料9における核分裂性Puの富化度と同じであってもよい。
【0084】
本実施例の燃料要素2Bを有する複数の燃料集合体が装荷された高速炉の炉心1Aを、
図9を用いて説明する。複数の燃料要素2Bを含む複数の燃料集合体が装荷された炉心1Aは、軸方向において、下端から上端に向かって液体金属燃料層7C、溶融塩燃料層6Cおよび核燃料物質層11Aを形成している。液体金属燃料層7Cには、炉心1Aに装荷された各燃料集合体に含まれる各燃料要素2B内の液体金属燃料領域7Aが配置されており、液体金属燃料層7Cは、これらの燃料要素2B内の液体金属燃料領域7Aによって形成される。溶融塩燃料層6Cには、炉心1Aに装荷された各燃料集合体に含まれる各燃料要素2B内の溶融塩燃料領域6Aが配置されており、溶融塩燃料層6Cは、これらの燃料要素2B内の溶融塩燃料領域6Aによって形成される。核燃料物質層11Aは、炉心1の核燃料物質層11Aと同じである。
【0085】
本実施例の燃料集合体でも、燃料要素2B内において、実施例1の燃料集合体24における燃料要素2のように、溶融塩燃料領域6Aにおいて239Puの核分裂反応が生じ、液体金属燃料領域7Aにおいて238Uの中性子捕獲反応により239Puが生成される。
【0086】
さらには、溶融塩燃料領域6Aと液体金属燃料領域7Aの境界付近では、実施例1と同様に、式(2)で表される化学反応が生じる。このため、この化学反応によって、燃料要素2B内においても、塩化物となった239Puが液体金属燃料領域7Aから溶融塩燃料領域6A内に拡散し、金属となった238Uが溶融塩燃料領域6Aから液体金属燃料領域7A内に拡散する。
【0087】
燃料要素2B内で支持部材12の上に充填された使用済燃料11も、実施例1の燃料集合体24における燃料要素2内の使用済燃料11と同様に作用する。
【0088】
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。さらに、本実施例は、燃焼度0GWd/tの燃料集合体の燃料要素2Bにおいて、液体金属燃料領域7A内の液体金属燃料10Aが低富化度の核分裂性Puを含んでいるので、液体金属燃料領域7Aから溶融塩燃料領域6Aへの239Puの供給は、高速炉の運転開始後の早い時点で開始される。また、その供給される239Puの量は実施例1よりも多くなる。このため、本実施例における炉心の実効的な転換比は実施例1よりも大きくなる。
【0089】
また、本実施例では、液体金属燃料領域7Aに存在する、低富化度の核分裂Puを含む液体金属燃料10Aの再処理では、239Puを液体金属燃料10Aに残したまま、白金族FP核種のような少種類のFP核種だけを除去すればよい。すなわち、液体金属燃料10Aは、再処理ではなく、精製すればよいので、リサイクル工程が大きく簡素化される。
【実施例4】
【0090】
本発明の好適な他の実施例である、実施例4の高速炉の炉心を、
図10および
図11を用いて説明する。
【0091】
本実施例の高速炉の炉心である炉心1Bは、
図11に示すように、中央領域21および中央領域21を取り囲む環状の外周領域22を有する。この外周領域22はブランケット領域である。中央領域21には、実施例1で用いられる複数の燃料集合体24が装荷され、外周領域22には、
図10に示された複数のブランケット燃料要素16を有する複数のブランケット燃料集合体(図示せず)が装荷される。
【0092】
ブランケット燃料集合体は、外面にワイヤスペーサ(図示せず)が巻き付けられた複数のブランケット燃料要素16の束を、
図2のように、ラッパ管14内に配置している。複数のブランケット燃料要素16は、ラッパ管14内で正三角形格子状に配置される。それぞれのブランケット燃料要素16の下端部は、エントランスノズル(図示せず)によって支持される。ラッパ管14の下端部が、エントランスノズルに取り付けられる。巻き付けられたワイヤスペーサによって、隣り合う燃料要素2の相互間に、所定幅の間隙である、冷却材である液体金属が流れる冷却材通路が形成されるである。
【0093】
ブランケット燃料要素16は、上部端栓4及び下部端栓5で上下端部が密封された被覆管3内に、溶融塩ブランケット燃料19が存在する溶融塩ブランケット燃料領域17および液体金属ブランケット燃料20が存在する液体金属ブランケット燃料領域18が形成される。溶融塩ブランケット燃料領域17は、液体金属ブランケット燃料領域18の上方に配置されており、液体金属ブランケット燃料領域18の上端に接触している。溶融塩ブランケット燃料19はUCl3,NaClおよびMgCl2を含有する溶融塩ブランケット燃料である。液体金属ブランケット燃料20はU-Bi合金を含有する液体金属ブランケット燃料である。
【0094】
具体的には、ブランケット燃料要素16において、被覆管3内の溶融塩ブランケット燃料領域17には、ペレット状の多数の固体の溶融塩ブランケット燃料19が充填され、被覆管3内の液体金属ブランケット燃料領域18には、ペレット状の多数の固体の液体金属ブランケット燃料20が充填される。
【0095】
ブランケット燃料要素16では、溶融塩ブランケット燃料領域17および液体金属ブランケット燃料領域18が、核燃料物質充填領域8Aである。この核燃料物質充填領域8Aの軸方向の長さを燃料有効長という。ブランケット燃料要素16を有するブランケット燃料集合体の燃料有効長は、ブランケット燃料要素16の燃料有効長と同じである。炉心1Bに装荷された全てのブランケット燃料集合体において、各ブランケット燃料要素16内の溶融塩ブランケット燃料領域17と液体金属ブランケット燃料領域18の境界の、燃料有効長の下端からの位置は、同じ位置になっている。
【0096】
ブランケット燃料要素16を有する燃焼度0GWd/tのブランケット燃料集合体では、溶融塩ブランケット燃料領域17に充填される溶融塩ブランケット燃料19および液体金属ブランケット燃料領域18に充填される液体金属ブランケット燃料20は、共に、固体である。燃焼度0GWd/tの状態で、溶融塩ブランケット燃料19および液体金属ブランケット燃料20は、燃料親物質(238U等)を含んでいるが、核分裂性物質(239Pu等)を含んでいない。
【0097】
炉心1Bを有する高速炉の運転が開始されると、まず、中央領域21内に存在する燃料要素2の溶融塩燃料領域6内で、核分裂性物質(239Pu等)の核分裂反応が生じる。燃料集合体24の燃料要素2内の温度が、溶融塩燃料9及び液体金属燃料10の融点よりも高くなったとき、溶融塩燃料9及び液体金属燃料10のそれぞれが溶融状態になる。また、ブランケット燃料要素16内の温度が、溶融塩ブランケット燃料19および液体金属ブランケット燃料20の融点よりも高くなったとき、溶融塩ブランケット燃料19および液体金属ブランケット燃料20のそれぞれも溶融状態になる。
【0098】
溶融塩ブランケット燃料領域17と液体金属ブランケット燃料領域18の境界では、溶融した溶融塩ブランケット燃料19と溶融した液体金属ブランケット燃料20が接触する。溶融した溶融塩ブランケット燃料19の比重は溶融した液体金属ブランケット燃料20の比重よりも小さいため、被覆管3内において、溶融した溶融塩ブランケット燃料19は溶融した液体金属ブランケット燃料20の上方に位置することになる。
【0099】
中央領域21に装荷された各燃料集合体24では、実施例1で述べたように、金属の238Uの溶融塩燃料領域6から液体金属燃料領域7への供給、塩化物の239Puの液体金属燃料領域7から溶融塩燃料領域6への供給が行われ、さらに、使用済燃料領域11D内の使用済燃料11に含まれる238Uの、使用済燃料領域11D、溶融塩燃料領域6および液体金属燃料領域7での239Puへの変換が行われる。
【0100】
ブランケット燃料集合体の各ブランケット燃料要素16内においても、溶融塩ブランケット燃料領域17および液体金属ブランケット燃料領域18のそれぞれに存在する燃料親物質(238U等)も、燃料要素2の溶融塩燃料領域6から漏れてくる中性子を捕獲して、核分裂性物質(239Pu等)に核変換される。このようにして生成された核分裂性物質(239Pu等)は、溶融塩ブランケット燃料領域17および液体金属ブランケット燃料領域18内で核分裂することにより燃焼する。
【0101】
本実施例は、実施例1で生じる各効果を得ることができる。さらに、本実施例では、炉心1Bが中央領域21を外周領域22で取り囲んでいるため、炉心1Bの全体の転換比は、中央領域21における炉心燃料(溶融塩燃料9)の転換比、中央領域21におけるブランケット燃料(液体金属燃料10)の転換比、および外周領域22における溶融塩ブランケット燃料19および液体金属ブランケット燃料20のそれぞれの転換比を合計したものとなる。
【0102】
このため、本実施例では、実施例1に比べて炉心の実効的な転換比を大きく増大させることができ、さらには、燃料要素2を有する燃料集合体24を長寿命化させることができるので、高速炉の燃料経済性の向上させることができる。
【0103】
ブランケット燃料要素16でも、液体金属ブランケット燃料20における核分裂性物質(239Pu等)の核分裂反応により、多くの核分裂生成核種(FP核種)が生成される。これらのFP核種は、白金族FP核種を除き、液体金属ブランケット燃料20の比重よりも小さい。このため、白金族FP核種を除いたFP核種は、溶融塩ブランケット燃料領域17と液体金属ブランケット燃料領域18の境界まで上昇する。溶融塩ブランケット燃料領域17と液体金属ブランケット燃料領域18の境界まで上昇したFP核種は、溶融塩ブランケット燃料19との間で、式(3)で表された化学反応を生じ、FP塩となる。生成されたこのFP塩は、溶融塩ブランケット燃料領域17内に拡散していく。
【0104】
したがって、使用済みの液体金属ブランケット燃料20には、白金族FP核種を除き、FP核種はほとんど残らないことになる。したがって、使用済みの液体金属ブランケット燃料20からFP核種を回収する処理は、ほとんど不要となるため、使用済みの液体金属ブランケット燃料20の再処理工程が大幅に簡素化されることとなる。
【0105】
本実施例の炉心1Bの中央領域21には、実施例1の燃料集合体24の替りに、実施例2の燃料要素2Aを有する燃料集合体、実施例3の燃料要素2Bを有する燃料集合体、および後述の実施例5の燃料要素2Cを有する燃料集合体のいずれかを装荷してもよい。
【実施例5】
【0106】
本発明の好適な他の実施例である実施例5の高速炉の燃料集合体を、
図12および
図13を用いて説明する。
【0107】
実施例5の燃料集合体は、
図12に示す複数の燃料要素2Cを有する。燃料要素2Cは、実施例1の燃料集合体24に用いられる燃料要素2にFP核種を吸着する吸着材23を追加した構成を有する。この吸着材23は、燃料要素2Cの被覆管3の内面に設置されて使用済燃料領域11Dの上方に配置される。吸着材23は、具体的には、ガスプレナム13内に配置される。燃料要素2Cの他の構成は、燃料要素2と同じである。
【0108】
複数の燃料要素2Cを有する燃料集合体が装荷された高速炉の炉心1Cは、
図13に示すように、実施例1の燃料集合体24を装荷した高速炉の炉心1に吸着材層23Aを付加した構成を有する。炉心1Cの吸着材層23Aには、燃料集合体24に用いられる燃料要素2C内の吸着材23が配置されている。
【0109】
複数の燃料要素2Cを有する燃料集合体が炉心に装荷された高速炉の運転が開始されると、燃料要素2C内では、実施例1における燃料集合体24の燃料要素2内で生じる、金属の238Uの溶融塩燃料領域6から液体金属燃料領域7への供給、塩化物の239Puの液体金属燃料領域7から溶融塩燃料領域6への供給が行われ、さらに、使用済燃料領域11D内の使用済燃料11に含まれる238Uの、使用済燃料領域11D、溶融塩燃料領域6および液体金属燃料領域7での239Puへの変換が行われる。
【0110】
239Puの核分裂反応で生じたCs等のFP核種は、溶融塩燃料領域6からガスプレナム13に達する。ガスプレナム13内のCs等のFP核種は、吸着材23に吸着され除去される。
【0111】
本実施例で燃料要素2C内に設けられた吸着材23は、実施例2の燃料集合体に用いられる燃料要素2A、および実施例3の燃料集合体に用いられる燃料要素2Bのそれぞれに適用してもよい。
【0112】
本実施例は実施例1で生じる各効果を得ることができる。さらに、本実施例は、燃料要素2C内で使用済燃料領域11Dの上方に吸着材23が配置されているため、239Puの核分裂反応で生じたCs等のFP核種を吸着材23で吸着し除去することができるので、被覆管3内の圧力上昇を抑制することができる。
【符号の説明】
【0113】
1,1A,1B,1C…炉心、2,2A,2B,2C…燃料要素、3…被覆管、6,6A…溶融塩燃料領域、6B,6C…溶融塩燃料層、7,7A…液体金属燃料領域、7B,7C…液体金属燃料層、8,8A…核燃料物質充填領域、9,9A…溶融塩燃料、10,10A…液体金属燃料、11…使用済燃料、11A…核燃料物質層、11D…使用済燃料領域(核燃料物質領域)、12…支持部材、13…ガスプレナム、16…ブランケット燃料要素、17…溶融塩ブランケット燃料領域、18…液体金属ブランケット燃料領域、19…溶融塩ブランケット燃料、20…液体金属ブランケット燃料、21…中央領域、22…外周領域、23…吸着材、24…燃料集合体。