(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】水分散紙
(51)【国際特許分類】
D21H 13/04 20060101AFI20220908BHJP
D21H 27/00 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
D21H13/04
D21H27/00 Z
(21)【出願番号】P 2019508766
(86)(22)【出願日】2018-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2018005936
(87)【国際公開番号】W WO2018180011
(87)【国際公開日】2018-10-04
【審査請求日】2021-01-14
(31)【優先権主張番号】P 2017066934
(32)【優先日】2017-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000176637
【氏名又は名称】日本製紙パピリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110249
【氏名又は名称】下田 昭
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】岸本 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】石野 良明
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-254122(JP,A)
【文献】特開平10-323818(JP,A)
【文献】特開平09-049198(JP,A)
【文献】特公昭40-000968(JP,B1)
【文献】米国特許第03431166(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B1/00-1/38
D21C1/00-11/14
D21D1/00-99/00
D21F1/00-13/12
D21G1/00-9/00
D21H11/00-27/42
D21J1/00-7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状カルボキシアルキルセルロースと製紙用繊維とを含有する基紙から成る水分散紙であって、
該繊維状カルボキシアルキルセルロースは、天然セルロース繊維をカルボキシアルキル化したものであり、該繊維状カルボキシアルキルセルロースのエーテル化度(DS)は0.40~0.63であり、ルンケル比は0.5~3.5であり、該基紙中の繊維状カルボキシアルキルセルロースの含有量が25~80質量%であり、該繊維状カルボキシアルキルセルロースがアルカリ化された、水分散紙。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の水分散紙により形成された特定形状の物品を、海水に浸漬し又は海水で洗い流すことから成る、該物品の形状を破壊し又は該物品を除去する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、海水に対する水溶性に優れた水分散紙に関する。
【背景技術】
【0002】
水や海水に速やかに分散する水分散紙(又は、水解紙又は水溶性紙ともいう)は、たばこのフィルター巻取り紙、機密文書用紙、釣撒餌袋などの用途に広く用いられており、その主な成分として、アルカリ化したカルボキシアルキルセルロースが用いられている(特許文献1~4等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特公昭40-968
【文献】特開平3-8897
【文献】特開平6-192991
【文献】特開平9-172929
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のアルカリ化したカルボキシアルキルセルロースを用いた水分散紙は、そのエーテル化度やカルボキシアルキルセルロースと木材パルプとの配合比等を検討したものであるが(特許文献1~4等)、水や海水に分散させたときに、水中でカルボキシアルキルセルロースの一部は溶解するものの、大部分は繊維形態やゲル状塊(以下、これらを「残渣」という。)となって分散し、そのため、分散繊維やゲル状塊により用水フィルター等の目詰まりや海水への分散溶解不良が発生するという問題があった(例えば、後記の比較例1、
図1B)。
そのため、本願発明は、海水への分散性を改善した水分散紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは、上記課題を鋭意検討した結果、特定のエーテル化度(DS)とルンケル比とを有するアルカリ化カルボキシアルキルセルロースを用いることにより、海水への分散溶解性が優れ、残渣によるフィルター等の目詰まりが少ない水分散紙とすることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、繊維状カルボキシアルキルセルロースと製紙用繊維とを含有する基紙から成る水分散紙であって、該基紙中の繊維状カルボキシアルキルセルロースの含有量が25~75質量%であり、該繊維状カルボキシアルキルセルロースがアルカリ化され、該繊維状カルボキシアルキルセルロースのエーテル化度(DS)が0.40~0.63であり、ルンケル比が0.5~3.5である水分散紙を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】水溶性シートの海水分散液を10メッシュの標準篩上に流し入れた後のメッシュ上の残渣の様子を示す図である。試験条件については、実施例の3)海水に対する分散性を参照されたい。Aは実施例1のもの、Bは比較例1のものを示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の水分散紙は、繊維状カルボキシアルキルセルロース及び製紙用繊維から成る紙基材(以下「基紙」ともいう。)から成る。
基紙中の繊維状カルボキシアルキルセルロースの含有量は25~80質量%、好ましくは35~75重量%である。
本発明で用いるこの繊維状カルボキシアルキルセルロースは、天然セルロース繊維、再生セルロース繊維、精製セルロース繊維を公知の方法でカルボキシアルキル化したものであり、水不溶性である。この具体例として、繊維状カルボキシメチルセルロース、繊維状カルボキシエチルセルロース等が挙げられる。
本発明で用いる繊維状カルボキシアルキルセルロースのエーテル化度(DS、カルボキシアルキル基の置換度)は0.40~0.63、好ましくは0.45~0.60である。
また本発明で用いる繊維状カルボキシアルキルセルロースの原料セルロース繊維のルンケル比は0.5~3.5、好ましくは0.8~3.2である。ルンケル比とは、繊維の壁膜の厚さの2倍を繊維のルーメン幅で除した値をいう。
【0008】
本発明において、繊維状カルボキシアルキルセルロースはアルカリ化剤を用いてアルカリ化される。基紙をアルカリ化することにより、基紙中の水不溶性繊維状カルボキシアルキルセルロースは中和反応により水溶性の繊維状カルボキシアルキルセルロース塩に変換され、基紙は水中で繊維が膨潤、離解し易くなり、水分散性となる。
このアルカリ化剤はアルカリ性化合物の水溶液であり、具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属の炭酸塩並びに炭酸水素塩、リン酸水素ナトリウム等のアルカリ金属のリン酸塩、リン酸水素塩、酢酸ナトリウム等のアルカリ金属の有機酸塩、水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物、アンモニア及びアンモニウム塩、エタノールアミン等のアミン類、分子量1000以下のポリエチレンイミン等の水溶液を挙げることができる。これらの中で、アルカリ性化合物としては、アルカリ金属の水酸化物又は塩が好ましい。
【0009】
このアルカリ化は、基紙の抄紙時にアルカリ化剤を紙料液に混合することにより行ってもよいし、抄紙後に、アルカリ化剤を、噴霧器により噴霧、塗工機を用いて塗工、又はフェルト等に付着させて紙料に転移させるなどして行ってもよく、適宜好適な方法によって行うことができる。
【0010】
塗工機を用いて基紙にアルカリ化剤を塗工する場合、アルカリ化剤は、上記アルカリ性化合物の水溶液又は該水溶液と相溶性のある水性有機溶媒との混合液として、公知のエアナイフコーター、バーコーター、ロールコーター、ブレードコーター、カーテンコーター、チャンプレックスコーター、グラビアコーター等の塗工機を用いて塗工される。
また、使用する塗工機に適した粘度に調整したり、乾燥後にアルカリ性化合物が脱落するのを防ぐために、上記アルカリ性化合物の水溶液の中に、該水溶液と相溶性のある水溶性高分子を配合してもよい。この水溶性高分子として、澱粉及び澱粉誘導体類、カルボキシアルキルセルロース塩やヒドロキシアルキルセルロース等のセルロース誘導体、アルギン酸塩、ポリアクリル酸塩等が挙げられる。
【0011】
これらのアルカリ性化合物の塗工量は、基紙中の繊維状カルボキシアルキルセルロースの好ましくは中和当量以上、より好ましくは中和当量の1~3倍量である。アルカリ性化合物の量が中和当量に満たない場合、水不溶性の繊維状カルボキシアルキルセルロースが残るため、十分な水分散性を得ることが困難となる上、経時でカルボキシアルキルセルロース同士が結合し溶解性が大きく低下する。また、アルカリ性化合物の量が中和当量の3倍を越えると、基紙中に残留するアルカリ性化合物の影響で、基紙の変色、強度低下等の外観、材質変化が起こるため好ましくない。
【0012】
アルカリ性化合物の配合量は、基紙の坪量、繊維状カルボキシアルキルセルロースの置換度及び配合率、使用するアルカリ性化合物の種類等により異なるため適宜調整することが望ましい。アルカリ性化合物の配合量は、一般に、基紙100重量部に対して0.2~70重量部の範囲である。更に、アルカリ性化合物が炭酸ナトリウムの場合、アルカリ性化合物の配合量は、好ましくは基紙100重量部に対して0.3~67重量部、より好ましくは2.5~20重量部、水酸化ナトリウムの場合は基紙100重量部に対して、好ましくは0.2~51重量部、より好ましくは1.9~15重量部である。
【0013】
本発明で用いる製紙用繊維としては、一般に製紙用に用いられている木材パルプ繊維又は非木材系パルプ繊維、例えば、針葉樹クラフトパルプ、広葉樹クラフトパルプ、溶解パルプ、マーセル化パルプ等の木材パルプ繊維、亜麻パルプ、マニラ麻パルプ、ケナフパルプ等の非木材系パルプ繊維、リヨセル等の精製セルロース繊維等を挙げることができる。製紙用水分散性繊維の平均繊維長としては、0.1~5mm、好ましくは0.5~3mm、さらに好ましくは0.8~2mmである。
この製紙用繊維のカナダ標準ろ水度は、400~700mlCSF、好ましくは550~650mlCSFである。このカナダ標準ろ水度は、JIS P8121-2 2012に従って測定されたものである(以下同様)。叩解が進む(ろ水度は低くなる)と、繊維のフィブリル化、切断、内部膨潤が多くなり、基紙の密度、強度、平滑度が高くなる一方で、水分散性は下がる。
また本発明で用いる製紙用繊維のルンケル比は、特に限定は無いが、好ましくは0.5~3.5、より好ましくは0.8~3.2である。
【0014】
本発明の水分散紙は、繊維状カルボキシアルキルセルロースと製紙用繊維からなる紙料から公知の抄紙技術によって製造することができる。抄紙に用いる抄紙機は、円網式抄紙機、傾斜短網式抄紙機、長網式抄紙機、ツインワイヤー式抄紙機等何れでもよく、要求される強度、水分散性に応じて使い分けることができる。例えば、円網式抄紙機を用いた場合には、強度異方性が大きく、縦方向より横方向の強度が弱くなるため、水中で容易に横方向に千切れる基紙を製造することができる。
基紙は、単層のシートとして抄紙するほか、同じ紙料から2基以上の抄網をもつ抄紙機で複数の湿紙を製造し抄き合わせることにより、坪量の大きいシートの製造も可能であり、異種の紙料のシートとの抄合わせ紙を製造することも可能である。
なお、本発明の基紙の坪量は、特に制限はなく、用途によって異なるが、通常10~200g/m2、好ましくは30~160g/m2、より好ましくは60~140g/m2の範囲である。
【0015】
本発明の水分散紙により特定形状の物品を形成し、この物品を、海水に浸漬し又は海水で洗い流すことにより、物品の形状を破壊し又はこの物品を除去することができる。
本発明の水分散紙は、その用途に特に限定は無いが、タングステン-不活性ガス溶接用ガス封止材、水中投棄用梱包材、水溶性紙ラベル等に使用できる。
【実施例】
【0016】
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。実施例1
広葉樹晒クラフトパルプ(ルンケル比は0.99)をカナダろ水度620mlCSFまで叩解したもの50重量%と、繊維状カルボキシメチルセルロース(以下「CMC」という。)(エーテル化度(DS)0.57、原料パルプのルンケル比は2.60)50重量%を配合した抄紙原料を用いて110g/m2の単層シートの手抄き紙を作製した。この手抄き紙に、炭酸ナトリウムの8.5重量%水溶液をサイズプレス方式で塗工して水溶性シートを作製した。
実施例2
実施例1で用いた広葉樹晒クラフトパルプ50重量%と繊維状CMC(エーテル化度0.57、原料パルプのルンケル比は1.37)50重量%を配合した抄紙原料とする以外は、実施例1と同様にして水溶性シートを作製した。
【0017】
実施例3
実施例1で用いた広葉樹晒クラフトパルプ30重量%と、実施例1で用いた繊維状CMC70重量%を配合した抄紙原料とする以外は、実施例1と同様にして水溶性シートを作製した。
実施例4
実施例1で用いた広葉樹晒クラフトパルプ70重量%と、実施例1で用いた繊維状CMC30重量%を配合した抄紙原料とする以外は、実施例1と同様にして水溶性シートを作製した。
実施例5
実施例1で用いた広葉樹晒クラフトパルプ30重量%と繊維状CMC(エーテル化度0.43、原料パルプのルンケル比は3.30)70重量%を配合した抄紙原料とする以外は、実施例1と同様にして水溶性シートを作製した。
【0018】
比較例1
実施例1で用いた広葉樹晒クラフトパルプ50重量%と繊維状CMC(エーテル化度0.57、原料パルプのルンケル比は0.47)50重量%を配合した抄紙原料とする以外は、実施例1と同様にして水溶性シートを作製した。
比較例2
実施例1で用いた広葉樹晒クラフトパルプ50重量%と繊維状CMC(エーテル化度0.35、原料パルプのルンケル比は2.57)50重量%を配合した抄紙原料とする以外は、実施例1と同様にして水溶性シートを作製した。
比較例3
実施例1で用いた広葉樹晒クラフトパルプ50重量%と繊維状CMC(エーテル化度0.65、原料パルプのルンケル比は1.67)50重量%を配合した抄紙原料とする以外は、実施例1と同様にして水溶性シートを作製した。
【0019】
比較例4
実施例1で用いた広葉樹晒クラフトパルプ50重量%と繊維状CMC(エーテル化度0.20、原料パルプのルンケル比は2.90)50重量%を配合した抄紙原料とする以外は、実施例1と同様にして水溶性シートを作製した。
比較例5
実施例1で用いた広葉樹晒クラフトパルプ10重量%と、実施例1で用いた繊維状CMC90重量%を配合した抄紙原料とする以外は、実施例1と同様にして水溶性シートを作製した。
比較例6
実施例1で用いた広葉樹晒クラフトパルプ95重量%と、実施例1で用いた繊維状CMC5重量%を配合した抄紙原料とする以外は、実施例1と同様にして水溶性シートを作製した。
【0020】
以上で得られた水溶性シートについて下記評価を行った。
1)抄紙性
水溶性シートの抄紙性は、JIS P8222に規定されている標準手すき紙による方法に従って手抄きシートを作製し、その際ワイヤー上で抄紙原料から湿紙を形成後、湿紙をワイヤーからろ紙へ転移することについて、下記の基準で評価した。
○:ワイヤーからろ紙への転移可能
×:湿紙がワイヤーに貼り付くため、ろ紙への転移不可能
【0021】
2)水に対する分散性
i)分散時間
23℃、50%RHの雰囲気で24時間以上調和させた試料から3cm各の試験片5枚を作製した。次に300mlビーカーに脱イオン水300mlを入れてスターラーで650rpmに撹拌しながら上記試験片1枚を投入した。試験片が2つ以上に千切れる時間をストップウォッチで求め、5回の測定の平均値を分散時間(秒)とした。分散時間が短いほど分散性は優れており、分散時間が20秒以内であれば分散性優秀、分散時間が20秒を超え40秒以内であれば分散性良好、分散時間が60秒を超えた場合は分散性不良と評価される。分散時間が40秒以内であれば実用上問題はない。
【0022】
ii)メッシュ上残渣量
23℃、50%RHの雰囲気で24時間以上調和させた試料から絶乾500mgの試験片を作製した。300mlビーカーに脱イオン水300mlを入れてスターラーで650rpmに撹拌しながら試験片を投入し、20分間撹拌し分散液を得た。得られた分散液を10メッシュの標準篩上に15ml/sで流し入れた。その標準篩上の残渣の絶乾重量を求め、残渣量(mg)とした。
【0023】
3)海水に対する分散性
擬似海水(配合:塩化ナトリウム固形分2.71重量%、塩化マグネシウム固形分3.81重量%、硫酸マグネシウム固形分1.66重量%、硫酸カルシウム固形分1.26重量%)を調製した。
次に、脱イオン水をこの擬似海水に代えて、上記水に対する分散性とメッシュ上残渣量と同じ評価を行った。なお、メッシュ上残渣量については擬似海水の成分も標準篩上の残渣として含まれていることから、標準篩上にある海水成分を除いた絶乾重量を求め、残渣量(mg)とした。また、実施例1と比較例1の残差量を
図1に示す。
【0024】
評価結果を下表に示す。表中、配合比は重量%で表す。
【表1】