IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ クレヴェクセル ファーマの特許一覧 ▶ アンスティチュ グスターヴ ルシーの特許一覧 ▶ ユニヴェルシテ パリ−サクレーの特許一覧

特許71381042-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの感熱性ゲル組成物およびその調製プロセス
<>
  • 特許-2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの感熱性ゲル組成物およびその調製プロセス 図1
  • 特許-2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの感熱性ゲル組成物およびその調製プロセス 図2
  • 特許-2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの感熱性ゲル組成物およびその調製プロセス 図3
  • 特許-2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの感熱性ゲル組成物およびその調製プロセス 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの感熱性ゲル組成物およびその調製プロセス
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/145 20060101AFI20220908BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20220908BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20220908BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20220908BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
A61K31/145
A61K9/06
A61K47/10
A61P1/02
A61P17/00
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019529868
(86)(22)【出願日】2017-11-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-12
(86)【国際出願番号】 EP2017080881
(87)【国際公開番号】W WO2018100008
(87)【国際公開日】2018-06-07
【審査請求日】2020-10-28
(31)【優先権主張番号】16306582.4
(32)【優先日】2016-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519194722
【氏名又は名称】クレヴェクセル ファーマ
【氏名又は名称原語表記】CLEVEXEL PHARMA
(73)【特許権者】
【識別番号】519194733
【氏名又は名称】アンスティチュ グスターヴ ルシー
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT GUSTAVE ROUSSY
(73)【特許権者】
【識別番号】520179305
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ パリ-サクレー
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS-SACLAY
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ワン-ジャン,シューピン
(72)【発明者】
【氏名】ピヴェッテ,ペリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ゴンザレス,キャリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ドイチュ,エリック
(72)【発明者】
【氏名】クレメンソン,セリーヌ
【審査官】篭島 福太郎
(56)【参考文献】
【文献】ソ連国特許発明第00670567(SU,A)
【文献】米国特許第06239119(US,B1)
【文献】特表2015-526505(JP,A)
【文献】特表2015-515282(JP,A)
【文献】特表2004-513957(JP,A)
【文献】Environ. Mol. Mutagen.,2009年,Vol.50,No.6,p.460-472
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/145
A61K 9/06
A61K 47/10
A61P 1/02
A61P 17/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
癌の治療に伴って損傷した粘膜組織または皮膚組織を治療または保護するために局所使用される、312.5 mg/mlまでの2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールを含む感熱性ゲル組成物。
【請求項2】
放射線療法および/または化学療法による癌の治療に伴って損傷した粘膜組織または皮膚組織を治療または保護するために使用される、請求項に記載の感熱性ゲル組成物。
【請求項3】
放射線誘発性口腔粘膜炎を治療するために使用される、請求項に記載の感熱性ゲル組成物。
【請求項4】
放射線誘発性皮膚紅斑を治療するために使用される、請求項に記載の感熱性ゲル組成物。
【請求項5】
少なくとも1つのポロキサマーを含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の感熱性ゲル組成物。
【請求項6】
ポロキサマー407、ポロキサマー188、またはそれらの混合物を含むことを特徴とする、請求項5に記載の感熱性ゲル組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の感熱性ゲル組成物の調製プロセスであって、賦形剤が添加されたまたはされていないものであり、
(a)アミホスチンの溶液と2.0以下のpKa値を有する強酸とを反応させて2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの溶液を得るステップと、
(b)賦形剤が添加されたまたはされていない2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの溶液を凍結乾燥するステップと、
を含む工程で調製する凍結乾燥物を水溶液で再構成するステップを含む、プロセス。
【請求項8】
前記強酸は、塩酸、硫酸、およびそれらの混合物からなる群から選択される、請求項に記載のプロセス。
【請求項9】
前記強酸は、塩酸である、請求項またはに記載のプロセス。
【請求項10】
前記ステップ(a)は、50℃~90℃の範囲で行われる、請求項7~9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
前記ステップ(a)は、30分~24時間行われる、請求項7~10のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記アミホスチンの濃度は、80mg/ml~500mg/mlの範囲にある、請求項7~11のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記酸のモル濃度は、1M~4Mの範囲にある、請求項7~12のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項14】
前記アミホスチンの量と前記酸の量とのモル比は、1:0.5~1:3の範囲にある、請求項7~13のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項15】
前記ステップ(a)の後且つ前記ステップ(b)の前に、前記賦形剤が添加されたまたはされていない2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの溶液を希釈するためのステップ(a1)をさらに含む、請求項7~14のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項16】
前記ステップ(a1)は、水または少なくとも1つのポロキサマーを含む水溶液を、2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの溶液に添加するステップを含む、請求項15に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの凍結乾燥製剤の調製プロセスと、当該プロセスによって得られるような凍結乾燥物(lyophilisate)の調製プロセスに関する。
【背景技術】
【0002】
アミホスチンは、アルカリホスファターゼの作用下で2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオール(アミノチオール)遊離活性に変換されるリン酸化プロドラッグである。現在、アミホスチンは静注投与されるが、その投与に起因した重篤な副作用(低血圧や吐き気等)を伴う。アミホスチンは、動物およびヒトへの経口投与による試験が行われてきたが、これらの研究により、アミホスチンとアミノチオールが主に消化管内で著しく分解されてほとんど吸収されないことが判明した(Kouvaris JR et al, Amifostine: the first selective-target and broad spectrum radioprotector. The Oncologist 2007; 12:738-747)。
【0003】
アミホスチンは、現在、エチオール(Ethyol)(登録商標)として各国で市販されており、以下の目的のための静脈内灌流剤の滅菌凍結乾燥粉末である。
・ 進行卵巣癌患者に対するシスプラチンの反復投与に伴う累積腎毒性の減少。
・ 頭頸部癌に対する術後放射線療法を受けている患者における中等度から重度の口腔乾燥の発生率の減少。この場合、放射線照射部位(radiation port)は、耳下腺の大部分を含む。
【0004】
米国特許第6,239,119号は、アミホスチンおよび関連化合物の局所的投与を用いて、放射線療法および/または化学療法による癌の治療に伴って損傷した粘膜組織を治療または保護する方法を開示している。また、アミホスチンおよび関連化合物の局所的投与を用いて、粘膜炎に伴う感染症を治療および予防する方法も開示している。
【0005】
しかしながら、現在まで、放射線誘発性口腔粘膜炎の治療に有効なアミホスチンまたはその誘導体を含む安定なサーモゲル製剤は開発されていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールを含み且つ粘膜組織または皮膚に付着する、化学放射線防護用の安定な局所用製剤を調製することである。
【0007】
本発明の別の目的は、賦形剤が添加されたまたはされていない、安定な凍結乾燥2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの調製プロセスを提供することである。
【0008】
本発明の別の目的は、放射線誘発性粘膜炎を治療するための感熱性ゲル中に配合されるまたは配合された安定な凍結乾燥2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールを提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、放射線誘発性皮膚紅斑を治療するための感熱性ゲル中に配合されるまたは配合された安定な凍結乾燥2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、賦形剤が添加されたまたはされていない、凍結乾燥2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの調製プロセスに関し、より詳細には、安定な凍結乾燥2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの調製プロセスに関し、当該プロセスは、以下のステップを含む。
【0011】
(a)アミホスチンの溶液と強酸とを反応させて2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの溶液を得るステップ。
【0012】
(b)賦形剤が添加されたまたはされていない2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの溶液を凍結乾燥するステップ。
【0013】
また、本発明は、賦形剤が添加されたまたはされていない2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの凍結乾燥製剤の調製プロセスにも関し、当該プロセスは、上述したステップを含む。
【発明の効果】
【0014】
本発明による調製プロセスは、得られた凍結乾燥2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの安定性を改善するという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】1回目の有効性試験におけるパーキンズスコアおよび体重の経時変化を示すグラフである。
図2】2回目の有効性試験におけるパーキンズスコアおよび体重の経時変化を示すグラフである。
図3】3回目の有効性試験におけるパーキンズスコアおよび体重の経時変化を示すグラフである。
図4】紅斑スコアの経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
好ましくは、得られた凍結乾燥2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールは、ICH(医薬品規制調和国際会議)のガイドラインに基づいて一定期間保管した場合、当該生成物の総重量に対して、好ましくは5重量%未満、より好ましくは2重量%未満、さらに好ましくは1重量%(面積%)未満のジスルフィド(または他の不純物)を含有する。
【0017】
好ましくは、凍結乾燥2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオール(またはアミノチオール)は、塩の形態をとる。以下に示すように、アミホスチンからアミノチオールへの変換に強酸を用いると、塩が得られる。
【0018】
より詳細には、塩酸を用いた場合の変換ステップを、次のように表すことができる。
【0019】
【0020】
本発明によれば、アミホスチンの溶液は、アミホスチンの酸性溶液を含む。
【0021】
本発明によれば、「強酸」という用語は、溶液中で完全にイオン化される酸を指す。本願の範囲におけるこの用語は、医薬分野で広く使用されている任意選択の酸を指す。好ましくは、本発明による強酸のpKaの値は、2.0以下である。
【0022】
好ましくは、強酸は、塩酸、リン酸、硫酸、およびそれらの混合物からなる群から選択される。最も好ましくは、強酸は、塩酸である。
【0023】
上記で定義されたステップ(a)の目的は、可能な限り少ない不純物を含み且つ可能な限り完全なアミノチオールへの変換を得ることである。得られたアミノチオールの溶液は、高純度である。
【0024】
好ましい実施形態によれば、上記で定義されたステップ(a)は、アミホスチンの溶液と塩酸とを反応させるステップを含む。
【0025】
好ましい実施形態によれば、ステップ(a)は、50℃~90℃の範囲で行われる。
【0026】
50℃未満では、変換プロセスは長くなりすぎて(24時間以上)、アミノチオールの収率は90%未満になる。90℃を超えると、変換プロセスは加速されるが、未知の不純物が新たに生成される。
【0027】
好ましくは、ステップ(a)は、50℃~70℃の範囲で行われ、最も好ましくは、60℃で行われる。
【0028】
好ましい実施形態によれば、ステップ(a)は、30分~24時間行われる。
【0029】
30分未満では、変換は完全ではなく、アミノチオールの収率は90%未満になる。24時間を超えると、未知の不純物が新たに生成される。
【0030】
好ましくは、ステップ(a)は、1時間行われる。
【0031】
好ましい実施形態によれば、アミホスチンの濃度は、80mg/ml~500mg/mlの範囲にある。
【0032】
アミホスチンの濃度が80mg/mlであると、希釈ステップを行うことが有利であり、より詳細には、以下で説明する希釈ステップ(a1)を行うことが有利である。
【0033】
アミホスチンは溶解性を有するため、アミホスチンの濃度が500mg/mlを超えると、このプロセスを行うことは困難になる。
【0034】
好ましくは、アミホスチンの濃度は、500mg/mlである。
【0035】
好ましい実施形態によれば、酸のモル濃度は、1M~4Mの範囲にある。
【0036】
酸のモル濃度が1M未満になると、変換プロセスは長くなりすぎる場合があり、アミノチオールの収率は90%未満になる。
【0037】
酸のモル濃度が4Mを超えると、得られたサーモゲルの最終pHは低くなりすぎる(pH≦4.0)ため、サーモゲルは投与に適さなくなる。したがって、pHを調整する別のステップを行う必要がある。
【0038】
好ましくは、酸のモル濃度は、4Mである。
【0039】
一実施形態によれば、アミホスチンの量と酸の量とのモル比は、1:0.5~1:3の範囲にあり、好ましくは、1:0.5~1:2の範囲にある。
【0040】
モル比が1:0.5未満になると、変換プロセスは長くなりすぎて、アミノチオールの収率は90%未満になる。
【0041】
モル比が1:3を超えると、得られたサーモゲルの最終pHは低くなりすぎる(pH≦4.0)ため、サーモゲルは投与に適さなくなる。したがって、pHを調整する別のステップを製造プロセスに追加する必要がある。
【0042】
ステップ(b)は、リオフィリゼーション(lyophilization)やクリオデシケーション(cryodesiccation)としても知られる凍結乾燥(freeze-drying)のステップである。このステップでは、賦形剤が添加されたまたはされていない2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの溶液を凍結させ、次に周囲の圧力を低下させて、材料中の凍結水を固相から気相に直接昇華させる。ここでいう賦形剤とは、浸透促進剤、芳香剤および甘味料などの矯味剤、粘膜付着剤、共溶媒、保湿剤、着色剤およびポロキサマーとしての他の機能性賦形剤を含む。
【0043】
好ましくは、凍結乾燥ステップでは、凍結速度、凍結時棚温度および一次乾燥時棚温度を含むいくつかのパラメータが考慮される。
【0044】
好ましい実施形態によれば、凍結速度は速い。好ましくは、当該ステップの40分間の凍結速度は、約1.6℃/分である。凍結速度が速いと、凍結中に氷マトリックスによって排除される高濃度の酸性溶質による凍結乾燥物の表面上への「皮膜(skin)」(または「殻(shell)」)の形成を回避することができる。
【0045】
好ましい実施形態によれば、凍結時棚温度は低い。好ましくは、昇華前にすべての酸性アミノチオールの溶液を凍結するために、凍結時棚温度は約-60℃である。
【0046】
好ましい実施形態によれば、一次乾燥の棚温度は低い。好ましくは、生成物の融解を回避するために、一次乾燥の棚温度は-40℃未満である。一次乾燥の初期段階において、生成物の温度はその生成物の融解温度より低い。
【0047】
本発明によるプロセスは、ステップ(a)の後且つステップ(b)の前に、賦形剤が添加されたまたはされていない2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの溶液を希釈するためのステップ(a1)をさらに含んでもよい。
【0048】
好ましくは、ステップ(a1)は、水または少なくとも1つのポロキサマーを含む水溶液を、2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの溶液に添加するステップを含む。
【0049】
好ましくは、ステップ(a1)は、少なくとも1つのポロキサマーを含む水溶液を、2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの溶液に添加するステップを含む。
【0050】
ポロキサマー(商品名:プルロニック(Pluronics(登録商標))、ルトロール(Lutrol(登録商標))、コリフォール(Kolliphor(登録商標)))は、プロピレンオキシド(PO)と、エチレンオキシド(EO)とを低分子量の水溶性プロピレングリコールに順次添加することで合成されたエチレンオキシドとプロピレンオキシドの非イオン性ブロックコポリマーである(Thermosensitive Self-Assembling Block Copolymers as Drug Delivery Systems. G. Bonacucina, M. Cespi, G. Mencarelli, G. Giorgiono and G. F. Palmieri. Polymers 2011, 3, 779-811)。
【0051】
【化1】
【0052】
好ましくは、本発明で使用されるポロキサマーは、ポロキサマー407、ポロキサマー188、およびそれらの混合物である。
【0053】
ポロキサマー407は、局所用医薬製剤において一般的に使用されるコポリマーである。
【0054】
ポロキサマー407とポロキサマー188の混合物は、その感熱性のために医薬用途に広く使用されている。この2つのグレードのポロキサマー407および188の組み合わせによって、ゾル-ゲル温度転移をターゲットとすることができる。
【0055】
一定のポロキサマー407の濃度でポロキサマー188の濃度を増加させると、まず最大値となるまでゾル-ゲル温度転移が徐々に増加して、その後減少する。
【0056】
また、本発明は、上記で定義されたプロセスによって得られる2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの凍結乾燥物に関し、より詳細には、安定な2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの凍結乾燥物に関する。
【0057】
また、本発明は、2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールのサーモゲル組成物の調製プロセスに関し、より詳細には、2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールの安定なサーモゲル組成物の調製プロセスに関し、上記で定義された凍結乾燥物を水溶液で再構成するステップを含む。
【0058】
本発明によれば、感熱性ゲル(thermosensitive gel: 本明細書では、サーモゲル(thermogel)ともいう。)は、投与前、例えば室温または5℃±3℃で液体であり、加熱条件に従ってゼリー化するin situ形成型のゲルである。冷却後、このゲルは再び液化する。
【0059】
この再構成ステップで使用される水溶液は、上記で定義された水および/またはポロキサマーを含み得る。
【0060】
好ましくは、上記で定義された、少なくとも1つのポロキサマーを含む溶液で希釈を行うステップ(a1)を含むプロセスによって凍結乾燥アミノチオールが調製された場合、当該水溶液は、水によって構成される。
【0061】
好ましくは、上記で定義された、水のみで希釈を行うステップ(a1)を含むプロセスによって凍結乾燥アミノチオールが調製された場合、当該水溶液は、少なくとも1つのポロキサマーを含む。
【0062】
好ましくは、この水溶液中に、例えばトランスキトール(Transcutol(登録商標))(ジエチレングリコールモノエチルエーテル)のような浸透促進剤、芳香剤および甘味料などの矯味剤、粘膜付着剤、共溶媒、保湿剤、着色剤および他の機能性賦形剤を含む賦形剤を添加することができるが、これに限定されない。
【0063】
好ましくは、再構成ステップで使用される水溶液は、ハッカおよび/または苦味抑制剤などの芳香剤、および/または浸透促進剤などの他の賦形剤をさらに含む。
【0064】
例えば、凍結乾燥アミノチオールの再構成ステップで使用される水溶液は、好ましくは、ハッカ、苦味抑制剤、および水をそれぞれ4重量%、0.05重量%、95.95重量%含有する。
【0065】
また、本発明は、上記で定義されたプロセスに従って得られる2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールのサーモゲル組成物に関する。
【0066】
また、本発明は、放射線誘発性口腔粘膜炎を治療するために使用される、上述した2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールのサーモゲル組成物に関する。
【0067】
また、本発明は、放射線誘発性皮膚紅斑を治療するために使用される、上述した2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールのサーモゲル組成物に関する。
【0068】
また、本発明は、抗癌療法、より詳細には、放射線療法および/または化学療法による癌の治療に伴って損傷した粘膜組織または皮膚組織を治療または保護するために使用される、上述した2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールのサーモゲル組成物に関する。
【0069】
また、本発明は、上記で定義されたサーモゲル組成物の適用によって、抗癌療法、より詳細には、放射線療法および/または化学療法による癌の治療に伴って損傷した粘膜組織または皮膚組織を治療または保護する方法に関する。
【0070】
放射線療法による癌の治療に伴う損傷としては、口腔粘膜炎(頭頸部癌に対する放射線療法の場合)、頸部上皮炎(頭頸部癌に対する放射線療法の場合)、食道炎(肺に対する放射線療法の場合)、皮膚紅斑(乳房に対する放射線療法の場合)、腸炎(腹部に対する照射の場合)、腟炎および腟乾燥(骨盤に対する照射の場合)、直腸炎(骨盤に対する照射の場合)、脱毛症(脳に対する照射の場合)が挙げられる。
【0071】
より詳細には、本発明は、頸部上皮炎、乳癌の場合の皮膚紅斑、および脳に対する照射の場合の脱毛症からなる群から選択される損傷を治療するために使用される、上述した2-[(3-アミノプロピル)アミノ]エタンチオールのサーモゲル組成物に関する。
【実施例
【0072】
A-溶液中のアミホスチンのアミノチオールへの変換
実施例A-1:1M塩酸またはリン酸における状態
350mg/mlのアミホスチンの溶液(原薬はShangai Boylechem Co., Ltd.から購入)を1M塩酸またはリン酸中で調製し、50℃の水浴中で24時間加熱した。24時間後、溶液の組成をHPLC法により分析した。アミホスチン、アミノチオールおよびジスルフィドの面積%を以下の表に示す。
【0073】
【表1】
【0074】
1Mリン酸におけるアミホスチンは、未知の不純物を生成することなく、またジスルフィドをわずかに生成して、完全に変換された(1M塩酸におけるアミホスチンは、わずかに残留しながら、ほぼ完全に変換された)。
【0075】
実施例A-2:4M塩酸における状態
500mg/mlのアミホスチンの溶液を4M塩酸中で調製し、50℃または60℃の水浴中で24時間加熱した。1時間後、3時間後、6時間後および24時間後、溶液の組成をHPLC法により分析した。アミホスチン、アミノチオールおよびジスルフィドの面積%を以下の表に示す。
【0076】
【表2】
【0077】
4M塩酸におけるアミホスチンは、未知の不純物を生成することなく、50℃では6時間後、60℃ではわずか1時間後に、完全に変換された。
【0078】
実施例A-3(比較例):クエン酸における状態
350mg/mlのアミホスチンの溶液を1Mクエン酸(弱酸)中で調製し、50℃の水浴中で24時間加熱した。24時間後、溶液の組成をHPLC法により分析した。アミホスチン、アミノチオールおよびジスルフィド(WR-33278)の面積%を以下の表に示す。
【0079】
【表3】
【0080】
クエン酸におけるアミホスチンは、完全に変換されたが、大量の未知の不純物が新たに生成されたため、適切ではない。
【0081】
この比較例は、アミホスチンのアミノチオールへの変換には、本発明による強酸ではないクエン酸の使用は適さないことを示している。
【0082】
実施例A-4(比較例):酢酸における状態
350mg/mlのアミホスチンの溶液を1M酢酸中で調製し、50℃の水浴中で24時間加熱した。24時間後、溶液の組成をHPLC法により分析した。アミホスチン、アミノチオールおよびジスルフィドの面積%を以下の表に示す。
【0083】
【表4】
【0084】
酢酸におけるアミホスチンは、完全に変換されることなく、未変換のアミホスチンが残留した。さらに、大量の未知の不純物が新たに生成された。
【0085】
この比較例は、アミホスチンのアミノチオールへの変換には、本発明による強酸ではない酢酸の使用は適さないことを示している。
【0086】
B-凍結乾燥の実施例
実施例B-1:マトリックスとして1M塩酸を用いた凍結乾燥
まず、実施例A-1に基づいて、アミホスチンの溶液を1M塩酸中でアミノチオールに変換させた。変換後、溶液を水で希釈して、アミノチオールとして示す50mg/mlの最終溶液を得た。2mlをガラスバイアルに分配して、凍結乾燥した。
【0087】
凍結乾燥法の一例:
【表5】
【0088】
凍結乾燥後に得られた固形物の外観は、良好であった。再構成のために、ポロキサマー407/188をそれぞれ19重量%/6重量%含有するプラセボゲルを2ml加え、50mg/mlのアミノチオールの最終感熱性ゲルを得た。このゲルのゲル化温度は、25℃~30℃の範囲にあった。
【0089】
実施例B-2:マトリックスとして4M塩酸およびポロキサマー21/4を用いた凍結乾燥
まず、(実施例A-2に基づいて)500mg/mlのアミホスチンの溶液を、60℃で1時間、4M塩酸中でアミノチオールに完全に変換させた。変換後、溶液をポロキサマーP407/P188(それぞれ21重量%/4重量%)で希釈して、アミノチオールとして示す50mg/mlの最終ゲルを得た。次に、2mlをガラスバイアルに分配して、凍結乾燥した。
【0090】
凍結乾燥法の一例:
【表6】
【0091】
凍結乾燥後に得られた固形物の外観は、良好であった。
【0092】
再構成のために、水を1.4ml加え、50mg/mlのWR-1065の最終感熱性ゲルを得た。このゲルのゲル化温度は、28℃~30℃の範囲にあった。
【0093】
実施例B-3:マトリックスとして4M塩酸およびポロキサマー18/6を用いた凍結乾燥
まず、(実施例A-2に基づいて)500mg/mlのアミホスチンの溶液を、60℃で1時間、4M塩酸中でアミノチオールに完全に変換させた。変換後、溶液をポロキサマーP407/P188(それぞれ18重量%/6重量%)で希釈して、アミノチオールとして示す50mg/mlの最終ゲルを得た。次に、2mlをガラスバイアルに分配して、凍結乾燥した。
【0094】
適用した凍結乾燥法は、実施例B-2で示したものと同じである。
【0095】
凍結乾燥後に得られた固形物の外観は、良好であった。
【0096】
再構成のために、水を1.4ml加え、50mg/mlのアミノチオールの最終感熱性ゲルを得た。このゲルのゲル化温度は、65℃~70℃の範囲にあった。
【0097】
実施例B-4:マトリックスとして1M塩酸およびポロキサマー20/4を用いた凍結乾燥
まず、350mg/mlのアミホスチンの溶液を、60℃で6時間、1M塩酸中でアミノチオールに完全に変換させた。変換後、溶液をポロキサマーP407/P188(それぞれ20重量%/4重量%)で希釈して、アミノチオールとして示す50mg/mlの最終ゲルを得た。次に、2mlをガラスバイアルに分配して、凍結乾燥した。
【0098】
適用した凍結乾燥法は、実施例B-2で示したものと同じである。
【0099】
凍結乾燥後に得られた固形物の外観は、良好であった。
【0100】
再構成のために、水を1.5ml加え、50mg/mlのWR-1065の最終感熱性ゲルを得た。このゲルのゲル化温度は、30℃~35℃の範囲にあった。
【0101】
実施例B-5:マトリックスとして1M塩酸およびポリソルベート80を用いた凍結乾燥
まず、実施例A-1に基づいて、アミホスチンの溶液を1M塩酸中でアミノチオールに変換させた。変換後、溶液を抗凍結剤である0.2%のポリソルベート80を含有する水で希釈して、アミノチオールとして示す50mg/mlの最終溶液を得た。2mlをガラスバイアルに分配して、凍結乾燥した。
【0102】
適用した凍結乾燥法は、実施例B-2で示したものと同じである。
【0103】
得られた固形物は、凍結乾燥中に崩壊して、融解したような外観を有した。再構成のために、ポロキサマー407/188をそれぞれ19重量%/6重量%含有するプラセボゲルを2ml加え、50mg/mlのアミノチオールの最終感熱性ゲルを得た。このゲルのゲル化温度は、25℃~30℃の範囲にあった。
【0104】
実施例B-6:マトリックスとして4M塩酸を用いた凍結乾燥
まず、実施例A-2に基づいて、アミホスチンの溶液を4M塩酸中でアミノチオールに完全に変換させた。変換後、溶液を水で希釈して、アミノチオールとして示す50mg/mlの最終溶液を得た。次に、2mlをガラスバイアルに分配して、凍結乾燥した。
【0105】
凍結乾燥法の一例:
【表7】
【0106】
得られた固形物は、凍結乾燥中に崩壊して、融解したような外観を有した。
【0107】
再構成のために、ポロキサマー407/188をそれぞれ19重量%/6重量%含有するプラセボゲルを2ml加え、50mg/mlのアミノチオールの最終感熱性ゲルを得た。このゲルのゲル化温度は、約30℃である。
【0108】
実施例B-7:マトリックスとして4M塩酸および水酸化ナトリウムを用いた凍結乾燥
まず、実施例A-2に基づいて、アミホスチンの溶液を4M塩酸中でアミノチオールに完全に変換させた。変換後、10M水酸化ナトリウムを加えて溶液のpHをpH>6.0となるよう調整した。次に、調整した溶液を水で希釈して、アミノチオールとして示す50mg/mlの最終溶液を得た。2mlをガラスバイアルに分配して、凍結乾燥した。
【0109】
適用した凍結乾燥法は、実施例B-1で示したものと同じである。
【0110】
得られた固形物は、凍結乾燥中にかなり崩壊して、融解したような外観を有した。再構成のために、ポロキサマー407/188をそれぞれ19重量%/6重量%含有するプラセボゲルを2ml加え、50mg/mlのアミノチオールの最終感熱性ゲルを得た。このゲルのゲル化温度は約30℃である。
【0111】
C-アミノチオールゲルの調製
実施例C-1:50mg/mlのアミノチオールゲルを得るための、ポロキサマーゲルによる凍結乾燥粉末の再構成
50mg/mlのアミノチオールゲルを調製するために、実施例B-1(凍結乾燥マトリックス中の1MHCl)または実施例B-5(凍結乾燥マトリックス中の1MHCl+PS80)に記載したようにして得られた凍結乾燥物に、P407/P188(それぞれ19重量%/6重量%)を2ml加えた。製剤化された最終ゲルのゲル化温度は、25℃~30℃の範囲にあった。
【0112】
実施例C-2:50mg/mlのアミノチオールゲルを得るための、ポロキサマーゲルによる凍結乾燥粉末の再構成
50mg/mlのアミノチオールゲルを調製するために、実施例B-6(凍結乾燥マトリックス中の4MHCl)または実施例B-7(凍結乾燥マトリックス中の4MHCl+NaOH)に記載したようにして得られた凍結乾燥物に、P407/P188(それぞれ19重量%/6重量%)を2ml加えた。製剤化された最終ゲルのゲル化温度は、約30℃である。
【0113】
実施例C-3:50mg/mlのアミノチオールゲルを得るための、水溶液による凍結乾燥粉末の再構成
50mg/mlのアミノチオールゲルを調製するために、実施例B-2に記載したようにして得られた凍結乾燥粉末に、例えば、ハッカ/苦味抑制剤/水をそれぞれ4重量%/0.05重量%/95.95重量%含有する溶液を1.4ml加えた。製剤化された最終ゲルのゲル化温度は、約27℃~29℃である。
【0114】
実施例C-4:50mg/mlのアミノチオールゲルを得るための、水溶液による凍結乾燥粉末の再構成
50mg/mlのアミノチオールゲルを調製するために、実施例B-4に記載したようにして得られた凍結乾燥粉末に、水を1.5ml加えた。製剤化された最終ゲルのゲル化温度は、約30℃~35℃である。
【0115】
実施例C-5:50mg/mlのアミノチオールゲルを得るための、水溶液による凍結乾燥粉末の再構成
50mg/mlのアミノチオールゲルを調製するために、実施例B-3に記載したようにして得られた凍結乾燥粉末に、水を1.4ml加えた。製剤化された最終ゲルのゲル化温度は、約65℃~70℃である。
【0116】
D-アミノチオール(WR-1065)の凍結乾燥粉末の安定性
以下の安定性を比較するために、安定性試験を行った。
・ 酸性条件下(1MHClまたは4MHCl)におけるアミホスチン(それぞれ350mg/mlまたは500mg/ml)を変換させ、水またはP407/P188の混合物で希釈した後に、(AおよびBの実施例に基づいて)凍結乾燥して得られたWR-1065。
・ WR-1065塩酸塩結晶粉末。
【0117】
安定性は、25℃/60%RHのアルゴン雰囲気下で保管された試料の分析を行うことで評価された。アルゴンである理由は、同じ安定性条件下で2つの材料を評価することができるためである。
【0118】
【表8】
【0119】
得られた安定性試験の結果は以下の通りである。
・ 25℃/60%RHで1ヶ月後、試験したすべてのアミノチオール製剤中で検出された不純物は2%未満であり、この値は安定したままであった。
・ 酸性条件下でのアミホスチンの変換から得られた凍結乾燥WR-1065およびWR-1065塩酸塩は、同じ安定性を示した。
【0120】
E-安定なアミホスチン活性代謝物ゲル治療法の開発の試み
実施例E-1:アミノチオールの安定化
まず、アミノチオールのサーモゲルを開発する可能性に関して評価を行い、冷蔵条件下で少なくとも6ヶ月間安定な且つ迅速に使用できる製剤を得た。
【0121】
アミノチオールゲル製剤は、5℃または室温で保管すると安定しない。アミノチオールは、保管中、酸化不純物(ジスルフィドWR-33278)中で著しく分解される。
【0122】
例えば、50mg/mlのアミノチオールゲルを5℃で15日間保管すると、ジスルフィド不純物が3.6%(面積%)から13.8%(面積%)へ増加した。
【0123】
溶液中のアミノチオールの安定性を改善するために、以下の様々なパラメータを試験した。
・ 酸化防止剤および/またはキレート剤のような防腐剤を含む添加剤(メタ重亜硫酸、EDTA、酒石酸、クエン酸、N-アセチルシステイン、α-リポ酸、塩酸システイン、アスコルビン酸、ジチオトレイトールDTT)。
・ 窒素不活化。
・ 薬物濃度(50mg/ml、220mg/ml)。
【0124】
例えば、安定性試験は、50mg/mlのアミノチオールゲルに対して5℃±3℃で1ヵ月後に行われた。まず、(実施例A-1に基づいて)1MHCl中で加熱した350mg/mlのアミホスチンの溶液を変換させて、アミノチオールの溶液を調製した。次に、溶液を(アミノチオールとして示す)様々な抗酸化溶液で50mg/mlに希釈して、5℃±3℃の安定下に置いた。
【0125】
【表9】
【0126】
試験した添加剤(酸化防止剤、キレート剤)が何であれ、アミノチオールの溶液は、5℃で十分に安定ではなく、ジスルフィド架橋の形成を回避することができなかった。さらに、N-アセチルシステインは、アミノチオールの分解を促進させて、重大な不純物を新たに生成させた。したがって、この選択は、アミノチオールを安定化するためには適切ではない。
【0127】
これらの中で最良の安定性は、0.5%のDTTを有する製剤によって得られた。本製剤は、5℃で少なくとも1ヵ月間安定であったが、0.5%のDTTは、今回の使用目的には適切ではない。
【0128】
実施例E-2:アミホスチンからアミノチオールへの迅速な変換
アミノチオールは安定でないので、本発明者らは、投与直前にアミノチオール(WR-1065)に変換されるアミホスチンのサーモゲルを開発する可能性に関して評価を行った。評価の目的は、商業的に適した生成物を開発するために、30分未満で完全(>90%)に変換される適切な条件を見出すことであった。
【0129】
以下の実験において、様々なプラセボゲルにアミホスチンの結晶粉末を添加して、アミノチオールWR-1065への変換率および収率を測定した。
【0130】
以下の様々なパラメータを試験した。
・ 酸(塩酸、酢酸、リン酸、クエン酸、硫酸、過塩素酸)。
・ アミホスチンの濃度(20mg/ml~80mg/ml)。
・ 温度(37℃または室温)。
【0131】
例えば、14重量%のポロキサマーP407と、26重量%のP188と、15体積%または30体積%の1MHClとの混合物を含有するプラセボゲル中に、40mg/mlの濃度でアミホスチン結晶性粉末を直接組み入れた。37℃で30分後、および室温で30分から3時間まで、変換をモニターした。
【0132】
【表10】
【0133】
試験したパラメータにかかわらず、室温または37℃で30分後のアミノチオールへの変換率は、非常に低かった(得られた最大値は約30%)。
【0134】
実施例E-3:ジスルフィドからアミノチオールへの迅速な変換
30分以内にアミホスチンをアミノチオールに変換させることは困難であるため、投与直前にジスルフィドWR-33278をアミノチオールWR-1065に変換させる別の製剤の選択肢に関して評価を行った。
【0135】
ジスルフィドからアミノチオールへの変換を、多量(37.7面積%)のジスルフィドを含有するゲル製剤で試験した。ジスルフィド結合を還元するために、強力な還元剤であるジチオトレイトール(DTT)を様々な濃度で試験した。
【0136】
まず、(実施例A-1に基づいて)1MHCl中で加熱した350mg/mlのアミホスチンの溶液を変換させて、アミノチオール溶液を調製した。次に、溶液を(アミノチオールと示す)水で50mg/mlに希釈し、室温で数日間保管して、分解によって多量のジスルフィドを生成させた。数日後、最終ゲルにDTTを加え、室温でDTTと共に30分間インキュベートした後に、分析した。
【0137】
【表11】
【0138】
DTTを用いると、室温で30分でジスルフィドをアミノチオールにかなり還元することができたが、DTTに必要な濃度は、毒性学的反応として認められる量よりも高かった。
【0139】
F-放射線関連口腔粘膜炎の予防のためのアミノチオールを含有する本発明によるサーモゲルの前臨床評価
実施例F-1:有効性試験のためのゲル製剤の調製
有効性試験には、以下の製剤を用いた。有効性試験の前日に製剤を調製し、5℃で保管して、投与日に分析した。
【0140】
使用したアミホスチンバッチの純度を考慮した。アミノチオール製剤のmg/ml単位の濃度は、等価のアミホスチン濃度として示す。分子比を用いると、80mg/mlのアミホスチンは、50mg/mlのアミノチオールに相当する。
【0141】
塗布状態をより良く視覚化するために、全てのゲル製剤をブリリアントブルーで着色した。
【0142】
【表12】
【0143】
ゲルNo.1は、本発明によるサーモゲル組成物と同じ組成を有する(本発明による再構成凍結乾燥物に相当)。
【0144】
実施例F-2:実施例F-1のゲル製剤の有効性試験
本実施例の目的は、アミホスチンを含有する実施例F-1のサーモゲル組成物の、in vivoでの放射線誘発性口腔粘膜炎に対する有効性を評価することであった。
【0145】
Janvier CERT(Le Genest St.Isle, France)から購入した雌のC57BL/6マウス(12週齢)を、7日間の馴化期間後に使用した。これらは、食物(SAFE reference R0340, Augy, France)と水を自由に摂取できる環境に置かれ、室温22±2℃および相対湿度55±15%で12時間の明暗サイクルで飼育された。
【0146】
Varian社のNDI-226X線管(200kV、15mA、0.2mmCu)を用いて、1.33Gy/分の線量率で局所的に照射を行い、身体の他の部分は鉛シールドで保護した。体重減少が24時間以上で初期体重の20%を超えた場合、または重篤な臨床徴候が認められた場合には、マウスを安楽死させた(倫理的評価項目)。
【0147】
以下の実験は、Mangoni Mangoni, M., Vozenin, M.C., Biti, G., and Deutsch, E. (2012). Normal tissues toxicities triggered by combined anti-angiogenic and radiation therapies: hurdles might be ahead.(British journal of cancer, 107, 308-314.)に記載されている口腔粘膜炎モデルを用いて行われた。
【0148】
体重とパーキンズスコアという2つのパラメータをモニターした。これは、肉眼的観察により評価された浮腫と紅斑について個別のスコアを有する、パーキンズらが考案した任意のスコアシステムである(Parkins, C.S., Fowler, J.F., and Yu, S. (1983). A murine model of lip epidermal/mucosal reactions to X-irradiation. Radiotherapy and oncology: Journal of the European Society for Therapeutic Radiology and Oncology 1, 159-165)。実際、高線量の照射では、照射から約5日後には口唇の表皮/粘膜の反応が観察され、照射から約10日~13日後にはピークに達した。主な反応は、浮腫と紅斑であった。パーキンズスコアは、浮腫のスコアと紅斑のスコアの合計を表す。
【0149】
パーキンズスコアは、次のように算出される:「パーキンズスコア」=浮腫スコア+紅斑スコア。
【0150】
【表13】
【0151】
【表14】
【0152】
実験
マウスの鼻に単回照射を行った。これは口唇の粘膜/表皮の反応を誘発し、その反応を肉眼的観察およびスコアリングによりモニターした。
【0153】
口腔粘膜炎の重症度および持続期間に対する活性物質を含有するまたは含有しないゲルの効果を明らかにするために、盲検試験を行った。プラセボゲル(ゲルNo.3)、80mg/mlのアミホスチンを含有するゲル(ゲルNo.2)、および50mg/mlのアミホスチンチオールを含有するゲル(ゲルNo.1)(80mg/mlのアミホスチンに相当)の3つのゲルに関して評価を行った。ゲル塗布の10分前に、マウスに麻酔をかけた(ケタミン75mg/kg+ドミター1mg/kgを腹腔内注射)。ゲルを口内(各頬に5μl)および口唇(40μl)に塗布した。したがって、総量50μlがマウスの粘膜を覆い、これは、マウス1匹あたり4mgのアミホスチンに相当する。ゲルの塗布から30分後に、20Gyの単一画分(線量率1.33Gy/分)をマウスの鼻に照射した。麻酔混合物の注射から1時間後に、アンチセダンを注射した。これらのマウスを、照射の30分前にアミホスチンの静注投与(IV)(マウス1匹当たり4mg、すなわち20mg/mlのアミホスチンの溶液の、200μlの静注投与に相当)を受けたマウス、および20Gyの局所的照射のみを受けた対照群のマウスと比較した。
【0154】
つまり、マウス30匹を以下の5つの群に分けて、照射を行った。
・ 対照群。
・ プラセボゲル群。
・ アミホスチンゲル(80mg/ml、アミホスチン4mg/マウス)群。
・ アミノチオールゲル(50mg/ml、アミホスチン80mg/mlまたはアミホスチン4mg/マウスに相当)群。
・ アミホスチン静注投与(IV)(20mg/ml、アミホスチン4mg/マウス)群。
【0155】
図1は、パーキンズスコアおよび体重の経時変化を示すグラフである。図1では、曲線(*)は対照群を示し、曲線(■)はプラセボゲル群を示し、曲線(◆)はアミホスチンゲル群を示し、曲線(▲)はアミホスチンチオールゲル群を示し、曲線(×)はアミホスチンIV群を示す。
【0156】
腹側位でマウスの鼻に20Gyの線量を照射したところ、著しい体重減少および全身の健康状態の悪化を特徴とする重篤な表現型が誘発された。すべての対照マウスは、14日目~20日目の間に殺処分された。プラセボゲル群では、マウスの表現型はさらに悪化する傾向を示したため、それより早めに殺処分された。生存期間中央値は、プラセボゲル群および対照群のそれぞれについて、16日および19日であった。
【0157】
ただし、この違いは統計的に重要ではないことに留意されたい(ログランク検定)。驚くべきことに、マウスは対照群のマウスと経時的に同様の表現型を示したため、ゲル中のアミホスチンの存在は粘膜炎の発生および強度に対して目に見える影響を及ぼさなかった。それどころか、アミホスチンの静注投与は、中程度の強度の粘膜反応をもたらした。浮腫および紅斑は、照射後20日目には完全に消失し、この群では、2回目のピーク(治癒期間)は観察されなかった(図1)。興味深いことに、アミホスチンチオールゲルを用いると、マウスは中間表現型を示した。たとえ粘膜炎が確認されたとしても、急性反応(10日目~15日目)の間に体重の減少はみられなかった。これらのマウスは、アミホスチンゲル群のマウスの運命とは明らかに対照的に、殺処分に至る評価項目に達することなく、すべて実験終了時に生存していた。
【0158】
アミホスチンゲル群およびアミホスチンチオールゲル群で観察された逆の表現型およびアミホスチンゲルの有効性の明らかな欠如は、アミホスチンがゲル中に含まれて鼻に塗布される場合、アミホスチンがアミホスチンチオールに変換されないか、または効率よく変換されないことを示唆している。したがって、放射線誘発性粘膜炎の発症を少なくとも部分的に予防するために、遊離活性化合物アミホスチンチオールを直接投与する必要がある。
【0159】
実施例F-3:2回目の有効性試験のためのゲル製剤の調製
有効性試験には、以下の製剤を用いた。有効性試験の前日に製剤を調製し、5℃で保管して、投与日に分析した。
【0160】
使用したアミホスチンバッチの純度を考慮した。mg/ml単位の濃度は、等価のアミホスチン濃度として示す。
【0161】
【表15】
【0162】
ゲルNo.4、5および6は、本発明によるサーモゲル組成物と同じ組成を有する(本発明による再構成凍結乾燥物に相当)。
【0163】
実施例F-4:実施例F-3のゲル製剤の有効性試験
2回目の有効性試験の目的は、放射線誘発性粘膜炎に対するアミホスチンチオールの影響に関する1回目の試験で得られた結果を確認することと、用量反応関係に関するデータを確立することであった。80mg/mlのアミホスチン(50mg/mlのアミホスチンチオールに相当)を含有するゲルで中間的な効果が観察されたことから、電離放射線に対する口腔粘膜保護をより根本的に改善できるかを判定するために、より高濃度のゲルを試験することは興味深いものであった。
【0164】
本実験は、20mg/ml、40mg/mlまたは80mg/mlのアミホスチン(それぞれ12.5mg/ml、25mg/mlまたは50mg/mlのアミホスチンチオールに相当)を含有するゲルを用いて行った。実験終了まですべてのマウスが生存するように、より低い線量(18Gyの単回照射)で鼻に照射を行った。
【0165】
様々な量の化合物をマウスに投与した(マウス1匹あたり1mg、2mgまたは4mg)。
【0166】
実施例F-2と同じ実験手順を用いた。簡単に説明すると、マウスに麻酔をかけ、群(ゲル塗布または静注投与)に応じて10分後にアミホスチンまたはアミホスチンチオールを投与または投与せず、アミホスチンまたはアミホスチンチオールの投与から30分後に背側位でマウスに18Gyの線量を照射して、20分後に覚醒させた。
【0167】
マウス40匹を以下の6つの群に分けた。
・ 対照群(n=マウス6匹)。
・ プラセボゲル群(n=マウス6匹)。
・ アミホスチンチオールゲル(20mg/ml、アミホスチン1mg/マウス)群(n=マウス6匹)。
・ アミホスチンチオールゲル(40mg/ml、アミホスチン2mg/マウス)群(n=マウス6匹)。
・ アミホスチンチオールゲル(80mg/ml、アミホスチン4mg/マウス)群(n=マウス6匹)。
・ アミホスチン静注投与(IV)(20mg/ml、アミホスチン4mg/マウス)群(n=マウス5匹)。
【0168】
各群について、口腔粘膜炎の発症を、群に応じて5匹または6匹のマウスで評価を行った。18Gyの線量の照射は、1回めの有効性試験で用いられた20Gyの線量の照射よりも軽度の表現型を誘発した。体重減少は調製可能であり、マウスはすべて実験終了時に生存していた。
【0169】
図2は、パーキンズスコアおよび体重の経時変化を示すグラフである。図2では、曲線(◆)は対照群を示し、曲線(*)はプラセボゲル群を示し、曲線(▲)はゲル群No.4を示し、曲線(■)はゲル群No.5を示し、曲線(×)はゲル群No.6を示し、曲線(●)はアミホスチンIV群を示す。
【0170】
予想されたように、照射は、図2に示すように13日目に対照群において粘膜反応のピークを誘発した。次に、実施例F-2でアミホスチンチオールゲル群において既に観察されたように、18日目から30日目まで治癒期間が続いた。アミホスチンIV群においても、粘膜反応の急性ピークは12日目に観察されたが、対照群のゲルで観察されたものより強度が低かった(それぞれのスコアは2.2、3.6)。実施例F-2で既に観察されたように、この群では治癒期間がほとんどなかった。他の群では、ピーク時のスコアは、プラセボゲル群および20mg/ml、40mg/mlならびに80mg/mlのアミホスチン(それぞれ12.5mg/ml、25mg/mlならびに50mg/mlのアミホスチンチオールに相当)ゲル群において、それぞれ4.1、3.2、2.8および2.4であった。治癒期間中、対照群、プラセボゲル群、20mg/kgおよび40mg/kgのアミホスチンチオールゲル群の曲線は、互いにほとんど差がなかった。20mg/kgのアミホスチンチオールゲルの塗布は、粘膜炎のピークの強度を変化させず、治癒期間中に記録されたスコアは、対照群のスコアに匹敵した。
【0171】
40mg/mlのアミホスチンチオールゲル群において、粘膜炎ピークの強度の減少が観察された。これは、80mg/mlのアミホスチンチオールゲルでさらに増強され、治癒期間中に記録されたスコアを減少させた。
【0172】
実施例F-5:3回目の有効性試験のための、水溶液による凍結乾燥粉末の再構成によるゲル製剤の調製
以下に説明する分画照射を用いた有効性試験のために、以下の製剤を用いた。有効性試験の前日に凍結乾燥サーモゲルを再構成し、5℃で保管して、投与日に分析した。
【0173】
使用したアミホスチンバッチの純度を考慮した。mg/ml単位の濃度は、等価のアミホスチン濃度として示す。
【0174】
【表16】
【0175】
再構成後、最終製剤ゲルNo.8および9は、本発明による凍結乾燥前の組成と同じ組成を有する。
【0176】
実施例F-6:実施例F-5のゲル製剤の有効性試験
3回目の有効性試験の目的は、分画照射レジメンの構築において再構成された凍結乾燥サーモゲルを用いた、放射線誘発性粘膜炎に対するアミホスチンチオールの影響に関する1回目の実験で得られた結果を確認することであった。
【0177】
本実験は、プラセボゲルおよび40mg/mlのアミホスチン(25mg/mlのアミホスチンチオールに相当)を含有するゲルを用いて行った。8Gyの4画分を4日間(0日目から3日目まで毎日、0日目は治療開始日に相当)連続して鼻に照射を行った。生物学的には、18Gyの1画分と同等であるため(生物学に有効な線量:BED~120Gy)、8Gyの4画分の分画スキームを選択した。各分画照射前に、同量の化合物(マウス1匹あたり2mgのアミホスチンに相当)をマウスに投与した。したがって、この化合物を4日間連続して4回投与した。
【0178】
各日について、実施例F-2と同じ実験手順を用いた。簡単に説明すると、マウスに麻酔をかけ、群(ゲル塗布または静注投与)に応じて10分後にアミホスチンまたはアミホスチンチオールを投与または投与せず、アミホスチンまたはアミホスチンチオールの投与から30分後に背側位でマウスに8Gyの線量を照射して、20分後に覚醒させた。同じ実験手順を4日間連続して繰り返した。
【0179】
マウス24匹を以下の4つの群に分けた。
・ ゲルなし照射の群(n=マウス6匹)。
・ アミホスチンチオールゲル(25mg/ml、2mgのアミホスチンまたは1.25mgのアミホスチンチオール/マウス/日に相当)で照射の群(n=マウス6匹)。
・ プラセボゲルで照射の群(n=マウス4匹)。
・ アミホスチン静注投与(IV)(アミホスチン2mg/マウス)で照射の群(n=マウス6匹)。
【0180】
各群について、口腔粘膜炎の発症および体重を、3日目から60日目まで毎日(6日/週)分析した。図3は、パーキンズスコアおよび体重の経時変化を示すグラフである。図3では、曲線(◆)は対照群を示し、曲線(*)はプラセボゲル群を示し、曲線(▲)はゲル群No.9を示し、曲線(■)はアミホスチンIV群を示す。
【0181】
単回照射後に既に観察されたように、粘膜反応のピークは、対照群において初回の照射から15日後に誘発された。治癒期間は照射後60日まで続いた。12日目~16日目に顕著な体重減少が観察され、粘膜炎のピークと相関していた。
【0182】
予想されたように、プラセボゲルは粘膜炎の発症、強度および持続期間に関して何ら影響を示さなかった。アミホスチンIV群においても、粘膜反応の急性ピークは15日目前後に観察されたが、強度は低く(スコアはアミホスチンIV群で2.6、対照群で6.4)、マウスは30日目までに粘膜炎から回復した。興味深いことに、アミホスチンIV群と同じ結果がアミホスチンチオールゲル群で観察された。すなわち、ピークのスコアは2.6であり、マウスは30日後には粘膜炎の徴候を全く示さなかった。したがって、アミホスチンチオールゲルを局所的に塗布することで、マウスを放射線誘発性粘膜炎から保護することができた。このゲルを用いると、粘膜炎の強度および持続期間がより低くなった。
【0183】
G-放射線関連皮膚紅斑の予防のためのアミノチオールを含有する本発明のサーモゲルの前臨床評価
実施例G-1:有効性試験のための、水溶液による凍結乾燥粉末の再構成によるゲル製剤の調製
以下に説明する分画照射を用いた有効性試験のために、以下の製剤を用いた。有効性試験の前日に凍結乾燥サーモゲルを再構成し、5℃で保管して、投与日に分析した。
【0184】
使用したアミホスチンバッチの純度を考慮した。mg/ml単位の濃度は、等価のアミホスチン濃度として示す。
【0185】
【表17】
【0186】
再構成後、最終製剤ゲルNo.10および11は、本発明による凍結乾燥前の組成と同じ組成を有する。
【0187】
実施例G-2:実施例G-1のゲル製剤の有効性試験
本実施例の目的は、アミホスチンを含有する実施例G-1のサーモゲル組成物の、in vivoでの放射線誘発性皮膚紅斑に対する有効性を評価することであった。
【0188】
Janvier CERT(Le Genest St.Isle, France)から購入した雌のC57BL/6マウス(12週齢)を、7日間の馴化期間後に使用した。これらは、食物(SAFE reference R0340, Augy, France)と水を自由に摂取できる環境に置かれ、室温22±2℃および相対湿度55±15%で12時間の明暗サイクルで飼育された。
【0189】
XRAD320のX線管(320kV、12.5mA)を用いて、1.08Gy/分の線量率で局所的に照射を行い、身体の他の部分は鉛シールドで保護した。マウスの背部の皮膚のみに照射を行った。重篤な臨床徴候が認められた場合、または実験終了時に体重減少が24時間以上で初期体重の20%を超えた場合には、マウスを安楽死させた(倫理的評価項目)。
【0190】
高線量の照射では、照射から約15日目から表皮反応(紅斑、落屑、潰瘍の形成など)が観察され、照射から約20日目にピークに達した。任意のスコアシステムを用いて、放射線誘発性皮膚紅斑の発症に関して評価を行った。
【0191】
【表18】
【0192】
実験
本有効性試験の目的は、分画照射レジメンの構築において再構成された凍結乾燥サーモゲルを用いた、放射線誘発性皮膚紅斑に対するアミホスチンチオールの影響に関する評価を行うことであった。
【0193】
本実験は、プラセボゲルおよび40mg/mlのアミホスチン(25mg/mlのアミホスチンチオールに相当)を含有するゲルを用いて行った。12Gyの4分画を4日間(1日目から4日目まで毎日、1日目は治療開始日に相当)連続してマウスの背部の皮膚に照射を行った。各分画照射前に、同量の化合物(マウス1匹あたり4mgのアミホスチンに相当)をマウスに投与した。したがって、この化合物を4日間連続で4回投与した。
【0194】
各日について、同様の実験手順を用いた。簡単に説明すると、マウスに麻酔をかけ、群に応じて10分後にアミホスチンチオールゲルまたはプラセボゲルをマウスの背部の脱毛した皮膚に直接塗布した(ゲルの最終容量=100μl)。1時間後、水に浸した湿布を用いてゲルを除去した。次に、マウスに12Gyの線量を照射して、10分後に覚醒させた。同じ実験手順を4日間連続して繰り返した。
【0195】
マウス10匹を以下の3つの群に分けた。
・ ゲルなし照射の群(n=マウス4匹)。
・ アミホスチンチオールゲル(ゲルNo.11)(25mg/ml、4mgのアミホスチンまたは2.5mgのアミホスチンチオール/マウス/日に相当)で照射の群(n=マウス3匹)。
・ プラセボゲル(ゲルNo.10)で照射の群(n=マウス3匹)。
【0196】
各群について、皮膚紅斑の発症および体重を、3日目から50日目まで毎日(6日/週)分析した。肉眼的観察およびスコアリングにより表皮反応をモニターした。図4は、紅斑スコアの経時変化を示すグラフである。対照群、プラセボゲル(ゲルNo.10)群、およびゲル群No.11を示す個々の曲線を、それぞれ図4A図4Cに示す。
【0197】
我々の実験において、マウスの皮膚に対する照射は、20日目前後の表皮反応のピークを伴う重篤な落屑を誘発した。落屑は、観察期間の終わりには横ばいでありながら依然として存在していた。実験期間中、体重減少は観察されなかった。予想されたように、プラセボゲルは表皮反応の発生、強度、持続期間に関して何ら影響を示さなかった。興味深いことに、アミホスチンチオールゲルで処置したマウスの群では、3匹中2匹で紅斑の発症が遅延し、そのうちの1匹が皮膚反応から治癒し、50日目までに紅斑から回復した(50日目でのスコアは0.5)。したがって、アミホスチンチオールゲルを局所的に投与することで、放射線誘発性紅斑からマウスを保護することができると考える。
図1
図2
図3
図4