IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ コベストロ、ドイチュラント、アクチエンゲゼルシャフトの特許一覧

特許7138105前駆体から物体を作製するための方法および積層造形法におけるラジカル架橋性樹脂の使用
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】前駆体から物体を作製するための方法および積層造形法におけるラジカル架橋性樹脂の使用
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/106 20170101AFI20220908BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20220908BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20220908BHJP
   C08G 18/80 20060101ALI20220908BHJP
   C08G 18/79 20060101ALI20220908BHJP
   C08G 18/02 20060101ALI20220908BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20220908BHJP
   C08G 18/67 20060101ALI20220908BHJP
   C08F 290/06 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
B29C64/106
B33Y10/00
B33Y70/00
C08G18/80
C08G18/79 080
C08G18/02 070
C08G18/32 003
C08G18/32 025
C08G18/67 010
C08F290/06
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2019529878
(86)(22)【出願日】2017-12-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-01-16
(86)【国際出願番号】 EP2017081365
(87)【国際公開番号】W WO2018104223
(87)【国際公開日】2018-06-14
【審査請求日】2020-12-01
(31)【優先権主張番号】16202219.8
(32)【優先日】2016-12-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515266223
【氏名又は名称】コベストロ、ドイチュラント、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】COVESTRO DEUTSCHLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(74)【代理人】
【識別番号】100129713
【弁理士】
【氏名又は名称】重森 一輝
(74)【代理人】
【識別番号】100137213
【弁理士】
【氏名又は名称】安藤 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100143823
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 英彦
(74)【代理人】
【識別番号】100151448
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 孝博
(74)【代理人】
【識別番号】100183519
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻田 芳恵
(74)【代理人】
【識別番号】100196483
【弁理士】
【氏名又は名称】川嵜 洋祐
(74)【代理人】
【識別番号】100203035
【弁理士】
【氏名又は名称】五味渕 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(74)【代理人】
【識別番号】100160749
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100160255
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100202267
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 正浩
(74)【代理人】
【識別番号】100146318
【弁理士】
【氏名又は名称】岩瀬 吉和
(74)【代理人】
【識別番号】100127812
【弁理士】
【氏名又は名称】城山 康文
(72)【発明者】
【氏名】アクテン,ディルク
(72)【発明者】
【氏名】バスゲン,トマス
(72)【発明者】
【氏名】ゴリング,フロリアン
(72)【発明者】
【氏名】ワグナー,ローランド
(72)【発明者】
【氏名】トムザック,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ティラック,ヨルグ
(72)【発明者】
【氏名】エガート,クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】ラース,ハンス-ヨーゼフ
(72)【発明者】
【氏名】シュテンプフル,フロリアン・ヨハネス
【審査官】神田 和輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-097019(JP,A)
【文献】国際公開第2016/037886(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/200179(WO,A1)
【文献】特表2006-510783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00-64/40
B33Y 10/00-99/00
C08G 18/00-18/87
C08G 71/00-71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前駆体から物体を作製するための方法であって、この方法は、
ステップI)担体の上面にフリーラジカル架橋型樹脂を配置することであって、前記担体に結合した造形材料の、前記前駆体の第1の選択された断面に対応する層を得るために配置することと、
ステップII)予め塗布された前記造形材料の層の上面に、フリーラジカル架橋型樹脂を配置することであって、前記前駆体のさらなる選択された断面に対応し、前記予め塗布された層に結合した前記造形材料のさらなる層を得るために配置することと、
ステップIII)前記前駆体が形成されるまで、ステップII)を繰り返すことと、
を含み、
少なくともステップII)におけるフリーラジカル架橋型樹脂を前記配置することは、フリーラジカル架橋性樹脂の、前記物体のそれぞれ前記選択された断面に対応する、選択された領域にエネルギーを導入することによりもたらされ、
前記フリーラジカル架橋性樹脂は、5mPas以上~100,000mPas以下の粘性(23℃、DIN EN ISO 2884-1)を有し、
前記フリーラジカル架橋性樹脂が、ブロック剤によりブロック化されたNCO基と、少なくとも2個のツェレウィチノフ活性水素原子を有する化合物と、オレフィン性C=C二重結合とを含む硬化性成分を含み、
前記ブロック剤はイソシアネートであるか、または前記ブロック剤は、前記NCO基の脱ブロック化の後に、前記ブロック剤が、遊離分子または他の分子もしくは部分の一部として放出されないように選択され(ここで、NCO基の脱ブロック化とは、NCO基を再び得ることを意味するか、又は、ブロック剤に由来する環構造の開裂により、ツェレウィチノフ活性水素原子を有する他の官能基と反応して共有結合を形成する官能基を形成することを意味する。)
ステップIII)の次に、さらなるステップIV)、すなわち
ステップIV)前記物体を得るために、ステップIII)の後に得られた前記前駆体を、前記得られた前駆体の前記フリーラジカル架橋型樹脂中に存在するNCO基を少なくとも部分的に脱ブロック化するに十分な条件下で、およびこのようにして得られた官能基を少なくとも2個のツェレウィチノフ活性水素原子を有する化合物と反応させるに十分な条件下で処理すること、
が続くことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ブロック剤が、有機イソシアネート、ラクタム、グリセロールカーボネート、一般式(I):
【化1】
の化合物、
式中Xは、電子吸引基であり、RとRは、互いに独立に、H、C~C20-(シクロ)アルキル、C~C24-アリール、C~C20-(シクロ)アルキルエステルもしくは-アミド、C~C24-アリールエステルもしくはアミドの基、1~24個の炭素原子を有し、また4~8員環の一部であってもよい脂肪族/芳香族の混在基を表し、nは0~5の整数である、
または、有機イソシアネート、ラクタム、グリセロールカーボネート、一般式(I)の化合物のうちの少なくとも2つの組合せからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記硬化性成分中の少なくとも2個のツェレウィチノフ活性水素原子を有する前記化合物が、ポリアミン、ポリオール、またはポリアミンとポリオールの組合せからなる群から選択される請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記硬化性成分が、前記ブロック剤によりブロック化されたNCO基とオレフィン性C=C二重結合とを含む硬化性化合物を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記フリーラジカル架橋性樹脂が、フリーラジカル開始剤をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記フリーラジカル開始剤が、α-ヒドロキシフェニルケトン、ベンジルジメチルケタール、ビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウムおよび/または2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、の群から選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記樹脂中の遊離NCO基のツェレウィチノフ活性水素原子に対するモル比が、0.05以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記得られた前駆体の前記フリーラジカル架橋型樹脂中に存在するNCO基を少なくとも部分的に脱ブロック化するに十分な条件下に、かつこのようにして得られた前記官能基を少なくとも2個のツェレウィチノフ活性水素原子を有する化合物と反応させるに十分な条件下に、ステップIV)において、ステップIII)の後に得られた前記前駆体を前記処理することが、60℃以上の温度まで立体を加熱することを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
ステップIII)の後に得られた前記前駆体の表面および/またはステップIV)の後に得られた前記物体の表面を、ツェレウィチノフ活性水素原子を含む化合物と接触させる方法であって、このときに、前記前駆体および/または前記物体の周囲の雰囲気中に自然界の大気湿度として発生する水を除去する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
-前記担体は、容器の内部に配列され、かつ前記担体は重力の方向に垂直に下げることができ、
-前記容器は、前記フリーラジカル架橋性樹脂を準備し、
-ステップII)における、それぞれのステップの前に、前記担体を、所定の距離だけ下げることにより、垂直方向から見て、前記造形材料の最上層の上に、前記フリーラジカル架橋性樹脂の層を形成し、
-ステップII)において、前記フリーラジカル架橋性樹脂の、前記物体のそれぞれ前記選択された断面に対応する、前記層の選択された領域を、エネルギービームが、露光および/または照射する、
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
-前記担体は、容器の内部に配列され、前記担体は重力と反対の方向に垂直に持ち上げることができ、
-前記容器は、前記フリーラジカル架橋性樹脂を準備し、
-ステップII)における、それぞれのステップの前に、前記担体を、所定の距離だけ持ち上げることにより、垂直方向から見て、前記造形材料の最下層の下に、前記フリーラジカル架橋性樹脂の層を形成し、
-ステップII)において、前記フリーラジカル架橋性樹脂の、前記物体のそれぞれ前記選択された断面に対応する、前記層の前記選択された領域を、複数のエネルギービームが、同時に、露光および/または照射する、
請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
ステップI)が、基板の上面に、前記物体の前記第1の選択された断面に対応する前記フリーラジカル架橋性樹脂を塗布することを含み、ステップII)が、予め塗布された前記造形材料の層の上面に、前記物体の前記さらなる選択された断面に対応する前記フリーラジカル架橋性樹脂を塗布することと、次いで、少なくとも前記フリーラジカル架橋性樹脂にエネルギーを導入することが続くことを含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
積層造形方法における5mPas以上~100,000mPas以下の粘性(23℃、DIN EN ISO 2884-1)を有するフリーラジカル架橋性樹脂の使用であって、
前記フリーラジカル架橋性樹脂が、ブロック剤によりブロック化されたNCO基と、少なくとも2個のツェレウィチノフ活性水素原子を有する化合物と、オレフィン性C=C二重結合とを含む硬化性成分を含み、
前記ブロック剤はイソシアネートであるか、または前記ブロック剤は、前記NCO基の脱ブロック化の後に、前記ブロック剤が、遊離分子または他の分子もしくは部分の一部として放出されないように選択されることを特徴とする使用(ここで、NCO基の脱ブロック化とは、NCO基を再び得ることを意味するか、又は、ブロック剤に由来する環構造の開裂により、ツェレウィチノフ活性水素原子を有する他の官能基と反応して共有結合を形成する官能基を形成することを意味する。)
【請求項14】
前記積層造形方法が、前記フリーラジカル架橋性樹脂の予め選択された領域または塗布された領域の露光および/または照射を含む、請求項13に記載の使用。
【請求項15】
5mPas以上~100,000mPas以下の粘性(23℃、DIN EN ISO 2884-1)を有するフリーラジカル架橋性樹脂の架橋から得ることができるポリマーであって、
前記フリーラジカル架橋性樹脂は、ブロック剤によりブロック化されたNCO基と、少なくとも2個のツェレウィチノフ活性水素原子を有する化合物と、オレフィン性C=C二重結合とを含む硬化性成分を含み、
前記ブロック剤はイソシアネートであるか、または前記ブロック剤は、前記NCO基の脱ブロック化の後に、前記ブロック剤が遊離分子または他の分子もしくは部分の一部として放出されないように選択されることを特徴とするポリマー(ここで、NCO基の脱ブロック化とは、NCO基を再び得ることを意味するか、又は、ブロック剤に由来する環構造の開裂により、ツェレウィチノフ活性水素原子を有する他の官能基と反応して共有結合を形成する官能基を形成することを意味する。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は前駆体から物体を作製するための方法であって、この方法は、
ステップI)担体に結合した造形材料の、前駆体の第1の選択された断面に対応する層を得るために、担体の上面にフリーラジカル架橋型樹脂を配置すること、
ステップII)予め塗布された層に結合した前記造形材料の、前駆体のさらなる選択された断面に対応する、さらなる層を得るために、予め塗布された造形材料の層の上面に、フリーラジカル架橋型樹脂を配置すること、
ステップIII)前駆体が形成されるまで、ステップII)を繰り返すこと
を含み、
少なくともステップII)におけるフリーラジカル架橋型樹脂を配置することが、物体のそれぞれ選択された断面に対応する、フリーラジカル架橋性樹脂の選択された領域にエネルギーを導入することによりもたらされ、
フリーラジカル架橋性樹脂が、5mPas以上~100,000mPas以下の粘性(23℃、DIN EN ISO 2884-1)を有する、方法に関する。
【0002】
本発明は、さらに、積層造形方法(additive manufacturing process)における5mPas以上~100,000mPas以下の粘性(23℃、DIN EN ISO 2884-1)を有するフリーラジカル架橋性樹脂の使用およびこのような樹脂の架橋から得られるポリマーに関する。
【背景技術】
【0003】
イソシアネート基の一時的な保護のために、ポリイソシアネートをブロック化することは、かなり以前から公知となっている作業方法であり、例えば、Houben-Weyl、Methoden der organischen Chemie XIV/2、61~70頁に記載されている。このブロック化には、また、2個のイソシアネート基が潜在的な形態にあるウレトジオン基を含有するポリイソシアネートも包含される。
【0004】
米国特許出願第2015/072293(A1)号明細書は、光硬化性ポリウレタン組成物が特に適切な材料として考えられる光硬化樹脂を用いる積層造形方法を開示している。このような組成物は、脂肪族ジイソシアネートに基づくポリウレタン、ポリ(ヘキサメチレンイソフタレートグリコール)を含有するが、1,4-ブタンジオールを含有してもよく、ならびに多官能性アクリル酸エステルと、光開始剤と、酸化防止剤とを含有する(米国特許第4,337,130号明細書)。光硬化性の熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、連鎖延長剤として光反応性ジアセチレンジオールを含有してもよい。
【0005】
米国特許出願第2016/136889(A1)号明細書および米国特許出願第2016/137838(A1)号明細書は同じく、光硬化樹脂を用いる積層造形方法に関する。ブロック化官能基と熱開裂性ブロック基とを含有する、二段階機構により硬化可能な重合性液体を用いてもよい。いくつかの実施形態において、ジイソシアネートのアミノ(メタ)アクリレートモノマーブロック剤、例えば、tert-ブチルアミノエチルメタクリレート(TBAEMA)、tert-ペンチルアミノエチルメタクリレート(TPAEMA)、tert-ヘキシルアミノエチルメタクリレート(THAEMA)、tert-ブチルアミノプロピルメタクリレート(TBAPMA)、それらのアクリレート類似体またはそれらの混合物、との反応により得られる反応性ブロック化プレポリマーが提示されている(米国特許出願公開第2013/0202392(A1)号明細書)。熱硬化の間に、これらのブロック剤が開裂して、上述のジイソシアネートプレポリマーが再び得られることが示唆される。このプレポリマーが、連鎖延長剤と、さらには、熱可塑性ポリウレタンもしくは熱硬化性ポリウレタンを形成するソフトセグメント、ポリ尿素、またはこれらのコポリマーと急速に反応する。これらの刊行物の中では、紫外線硬化性(メタ)アクリレートブロック化ポリウレタンは、「ABPU」と呼ばれている。
【0006】
開裂により解離される上述のブロック剤の欠点は、これらのブロック剤が揮発性有機化合物(VOC)として放出される場合があることであり、またはABPUの場合のように、重合により高分子網目構造に取り込まれることもあるが、この境界条件のために積層造形方法用の材料の選択の自由度が制限されることである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願第2015/072293(A1)号明細書
【文献】米国特許第4,337,130号明細書
【文献】米国特許出願第2016/136889(A1)号明細書
【文献】米国特許出願第2016/137838(A1)号明細書
【文献】米国特許出願公開第2013/0202392(A1)号明細書
【非特許文献】
【0008】
【文献】Houben-Weyl、Methoden der organischen Chemie XIV/2、61~70頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、従来技術の欠点の少なくとも1つを少なくとも部分的に解決することにある。本発明のさらなる課題は、作製された物体が、高解像度と同時に高強度を呈することができ、揮発性有機化合物を放出することのない積層造形方法を提供することにある。最終的には、上述の物体を、でき得る限り、費用効率が高い様式、および/または個別化した様式、および/または資源節約的な様式で作製可能とすることが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明において、上記の課題は、請求項1に記載の方法および請求項13に記載の使用により解決される。このようにして得られたポリマーが、請求項15の主題となる。有利な展開が、従属請求項において特定される。これらの請求項は、文脈上対立が明らかである場合を除き、所望に応じて、組み合わせることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明による、前駆体から物体を作製する方法は、
ステップI)前駆体の第1の選択された断面に対応する、担体に結合した造形材料の層を得るために、担体の上面にフリーラジカル架橋型樹脂を配置すること、
ステップII)前駆体のさらなる選択された断面に対応し、予め塗布された層に結合した造形材料のさらなる層を得るために、予め塗布された前記造形材料の層の上面に、フリーラジカル架橋型樹脂を配置すること、
ステップIII)前駆体が形成されるまで、ステップII)を繰り返すこと、
を含み、
少なくともステップII)におけるフリーラジカル架橋型樹脂を配置することが、物体のそれぞれ選択された断面に対応する、フリーラジカル架橋性樹脂の選択された領域にエネルギーを導入することによりもたらされ、
フリーラジカル架橋性樹脂は、5mPas以上~100,000mPas以下の粘性(23℃、DIN EN ISO 2884-1)を有する。
【0012】
フリーラジカル架橋性樹脂は、ブロック剤によりブロック化されたNCO基と、少なくとも2個のツェレウィチノフ活性水素原子を有する化合物と、オレフィン性C=C二重結合とを含む硬化性成分を含み、ブロック剤はイソシアネートであるか、またはブロック剤は、NCO基の脱ブロック化の後に、ブロック剤が、遊離分子または他の分子もしくは部分の一部として放出されないように選択される。
【0013】
本発明の方法においては、ステップIII)の次に、さらなるステップIV)、
IV)物体を得るために、ステップIII)の後に得られた前駆体を、得られた前駆体のフリーラジカル架橋型樹脂中に存在するNCO基を少なくとも部分的に脱ブロック化するのに十分な条件下、およびこのようにして得られた官能基を少なくとも2個のツェレウィチノフ活性水素原子を有する化合物と反応させるのに十分な条件下で処理すること、
が続く。
【0014】
本発明の方法において、物体は、このように2つの作製段階により得られる。第1の作製段階は、造形段階と考えることができる。この造形段階は、光造形法またはDLP(digital light processing)方法のような光線光学積層造形方法あるいは放射線架橋と組み合わせたインクジェット印刷方法によって実現することができ、ステップI)、II)およびIII)の主題を形成する。第2の作製段階は、硬化段階と考えることができ、ステップIV)の主題を形成する。ここで、造形段階後に得られた前駆体または中間物体が、その形状をさらに変化させることなく、機械的耐久性のより優れた物体に変換される。本発明の文脈では、積層造形方法において前駆体を得る元の材料を全般的に「造形材料」と呼ぶ。
【0015】
本方法のステップI)は、フリーラジカル架橋型樹脂を担体の上面に配置することを含む。このステップが、光造形法またはDLP方法における、通常、第1のステップである。この方法により、前駆体の第1の選択された断面に対応する、担体に結合した造形材料の層が得られる。
【0016】
ステップIII)の指示に従い、所望の前駆体が形成されるまで、ステップII)が繰り返される。ステップII)は、前駆体のさらなる選択された断面に対応し、予め塗布された層に結合した、さらなる造形材料の層を得るために、フリーラジカル架橋型樹脂を、造形材料の予め塗布された層の上面に配置することを含む。造形材料の予め塗布された層は、ステップI)の第1の層であってもよいし、ステップII)における前回の実行による層であってもよい。
【0017】
本発明において、少なくともステップII)における(好ましくはステップIにおいても)フリーラジカル架橋型樹脂を配置することは、物体の選択された断面それぞれに対応する、フリーラジカル架橋性樹脂の選択された領域の露光および/または照射によってもたらされる。本発明の文脈において、用語「フリーラジカル架橋性樹脂」と用語「フリーラジカル架橋型樹脂」が用いられる。本明細書においては、フリーラジカル架橋性樹脂は、フリーラジカル架橋反応を引き起こす露光および/または照射によってフリーラジカル架橋型樹脂に変換される。「露光」とは、本明細書の文脈においては、近赤外と近紫外光の間の領域(1400nm~315nmの波長)の光を導入することを意味すると理解すべきである。残りの、より短波長領域、例えば、遠紫外光、X線放射、ガンマ線放射およびまた電子線放射は、用語「照射」に含まれる。
【0018】
それぞれの断面を選択することは、作製される物体の模型を生成する、CADプログラムの手段により有利にもたらされる。この操作は、「スライシング」として公知であり、フリーラジカル架橋性樹脂の露光および/または照射を制御する基礎の役割をなす。
【0019】
フリーラジカル架橋性樹脂は、5mPas以上~100,000mPas以下の粘性(23℃、DIN EN ISO 2884-1)を有する。したがって、少なくとも積層造形の目的に関しては、このフリーラジカル架橋性樹脂は液体樹脂と考えることができる。粘性は、好ましくは、50mPas以上~20,000mPas以下であり、より好ましくは、200mPas以上~5000mPas以下である。
【0020】
本方法において、フリーラジカル架橋性樹脂は、さらに、ブロック剤によりブロック化されたNCO基と、少なくとも2個のツェレウィチノフ活性水素原子を有する化合物と、オレフィン性C=C二重結合とを含む硬化性成分を含み、ブロック剤はイソシアネートであるか、またはブロック剤はNCO基の脱ブロック化の後に、ブロック剤が、遊離分子または他の分子もしくは部分の一部として放出されないように選択される。
【0021】
前記硬化性成分のほかに、フリーラジカル架橋性樹脂は、例えば、安定剤、充填剤等を包含する非硬化性成分をも含む場合がある。硬化性成分中には、ブロック化されたNCO基とオレフィン性C=C二重結合が別々の分子に存在してもよいし、および/または共通の分子に存在してもよい。ブロック化されたNCO基とオレフィン性C=C二重結合が別々の分子に存在している場合、本発明の方法のステップIV)後に得られた立体(body)は、相互侵入高分子網目構造を呈する場合がある。
【0022】
本方法においてステップIII)の次に、さらにステップIV)が続く。このステップは、ステップIII)後に得られた前駆体を、得られた前駆体のフリーラジカル架橋型樹脂中に存在するNCO基を少なくとも部分的に脱ブロック化するのに十分な条件下で、および、このようにして得られた官能基を少なくとも2個のツェレウィチノフ活性水素原子を有する化合物と反応させて物体を得るのに十分な条件下で処理することを含む。したがって、本発明の文脈において、NCO基を脱ブロック化することは、必ずしもNCO基を再び得ることを意味する必要はない。むしろ、脱ブロック化により、ツェレウィチノフ活性水素原子を有する他の官能基と反応して共有結合を形成するアシルカチオン基のような官能基を生じてもよいことを意味し得る。
【0023】
反応を実施する際には、硬化性成分中に元々存在していたブロック化されたイソシアネート基の50%以下、好ましくは、30%以下、より好ましくは、20%以下が依然として存在していることが好ましい。これは、表面赤外分光法により決定できる。さらにステップIV)において、硬化性成分中の脱ブロック化されたNCO基の50%以上、60%以上、70%以上、または、80%以上が、少なくとも2個のツェレウィチノフ活性水素原子を有する化合物と反応することが好ましい。
【0024】
前駆体の造形材料の全体が、そのゲル化点に到達してから、ステップIV)を実施することが好ましい。ISO6721-10に準拠した平行平板振動式粘度計を用いた20℃での動的粘弾性測定(DMA)において、貯蔵弾性率G’のグラフと損失弾性率G’’のグラフが交差するときにゲル化点に到達したと考えられる。前駆体は、さらなる露光および/または放射を施されて、フリーラジカル架橋を完了してもよい。フリーラジカル架橋型樹脂は、10Pa以上の貯蔵弾性率G’(DMA、20℃でISO6721-10に準拠した平行平板振動式粘度計および1/sのせん断速度)を呈する場合がある。
【0025】
フリーラジカル架橋性樹脂は、さらに充填剤、紫外線安定剤、フリーラジカル抑制剤、酸化防止剤、離型剤、水捕捉剤、滑剤、消泡剤、流動化剤、レオロジー添加剤、難燃剤、および/または顔料のような添加剤を含有してもよい。これらの補助剤および添加剤は、充填剤と難燃剤を除き、フリーラジカル架橋性樹脂を基準として、典型的には、10wt%未満、好ましくは、5wt%未満、特に好ましくは、3wt%以下の量で存在する。難燃剤は、フリーラジカル架橋性樹脂の総重量を基準として、使用した難燃剤の全量として算出して、典型的には、70wt%以下、好ましくは50wt%以下、特に好ましくは、30wt%以下の量で存在する。
【0026】
適切な充填剤は、例えばカーボンブラック、シリカ、AlOH、CaCO、金属顔料、例えばTiOそしてさらに公知である通例の充填剤である。これらの充填剤は、フリーラジカル架橋性樹脂の総重量を基準とし、使用した充填剤の全量として算出して、好ましくは、70wt%以下、好ましくは、50wt%以下、特に好ましくは、30wt%以下の量で用いられる。
【0027】
適切な紫外線安定剤は、好ましくは、ピペリジン誘導体、例えば4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンゾイルオキシ-1,2,2,6,6-ペンタメチルピペリジン、セバシン酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピぺリジル)、セバシン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-1-4-ピぺリジニル)、スベリン酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピぺリジル)、ドデカン二酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピぺリジル);ベンゾフェノン誘導体、例えば、2,4-ジヒドロキシ-、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-、2-ヒドロキシ-4-オクトキシ-、2-ヒドロキシ-4-ドデシルオキシ-、または2,2’-ジヒドロキシ-4-ドデシルオキシベンゾフェノン;ベンゾトリアゾール誘導体、例えば、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ジ-tert-ペンチルフェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1,1-ジメチルエチル)-4-メチルフェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1-メチル-1-フェニルエチル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノール、イソオクチル3-(3-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-5-(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニルプロピオネート)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1,1-ジメチルエチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1,1-ジメチルエチル)フェノール;シュウ酸アニリド、例えば、2-エチル-2’-エトキシ-または4-メチル-4’-メトキシシュウ酸アニリド;サリチル酸エステル、例えば、サリチル酸フェニル、サリチル酸4-tert-ブチルフェニル、サリチル酸4-tert-オクチルフェニル;ケイ皮酸エステル誘導体、例えば、α-シアノ-β-メチル-4-メトキシケイ皮酸メチル、α-シアノ-β-メチル-4-メトキシケイ皮酸ブチル、α-シアノ-β-フェニルケイ皮酸エチル、α-シアノ-β-フェニルケイ皮酸イソオクチル;およびマロン酸エステル誘導体、例えば、4-メトキシベンジリデンマロン酸ジメチル、4-メトキシベンジリデンマロン酸ジエチル、4-ブトキシベンジリデンマロン酸ジメチル、からなる群から選択される。これらの好ましい光安定剤は個別に用いてもよいし、あるいは互いに望ましい、いずれかの組合せで用いてもよい。
【0028】
特に好ましい紫外線安定剤は、400nm未満の波長を有する放射線の大部分を吸収する紫外線安定剤である。これらの紫外線安定剤には、例えば、上述のベンゾトリアゾール誘導体が含まれる。ひときわ好ましい紫外線安定剤は、2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-(1,1-ジメチルエチル)-4-メチルフェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)フェノールおよび/または、2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1,1-ジメチルエチル)フェノールである。
【0029】
例示として上述した紫外線安定剤の1種以上を、フリーラジカル架橋性樹脂の総重量を基準とし、使用した紫外線安定剤の全量として算出して、好ましくは0.001~3.0wt%、特に好ましくは、0.005~2wt%の量でフリーラジカル架橋性樹脂に添加してもよい。
【0030】
適切な酸化防止剤は、好ましくは、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(イオノール)、ペンタエリトリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、トリエチレングリコールビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート、2,2’-チオビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、および2,2’-チオジエチルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]からなる群から好ましくは選択することができる立体障害型フェノールである。これらの酸化防止剤は、必要に応じて、個別に用いてもよいし、あるいは互いに望ましい、いずれかの組合せで用いてもよい。
【0031】
これらの酸化防止剤は、フリーラジカル架橋性樹脂の総重量を基準とし、使用した酸化防止剤の全量として算出して、好ましくは0.01~3.0wt%、特に好ましくは、0.02~2.0wt%の量で用いられる。
【0032】
本発明の実施形態およびさらなる態様を以下において説明する。これらの実施形態および態様は、文脈上対立が明らかな場合を除き、望むように互いに組み合わせてもよい。
【0033】
好適な実施形態において、ブロック剤は、有機イソシアネート、ラクタム、グリセロールカーボネート、一般式(I):
【化1】
【0034】
の化合物、式中Xは、電子吸引基であり、RとRは、互いに独立に、H、C~C20-(シクロ)アルキル、C~C24-アリール、C~C20-(シクロ)アルキルエステルもしくは-アミド、C~C24-アリールエステルもしくはアミドの基、1~24個の炭素原子を有し、4~8員環の一部であってもよい脂肪族/芳香族の混在基を表し、nは0~5の整数であり、
または有機イソシアネート、ラクタム、グリセロールカーボネート、一般式(I)の化合物のうちの少なくとも2つの組合せ、からなる群から選択される。
【0035】
電子吸引基Xは、α水素のCH酸度をもたらす、いずれかの置換基から選択してもよい。これらの置換基としては、例えば、エステル基、アミド基、スルホキシド基、スルホン基、ニトロ基、ホスホネート基、ニトリル基、イソニトリル基、ポリハロアルキル基、ハロゲン、例えば、フッ素、塩素、またはカルボニル基が挙げられる。ニトリル基とエステル基が好ましく、カルボン酸メチル基とカルボン酸エチル基が特に好ましい。また環は、ヘテロ原子、例えば酸素原子、硫黄原子、窒素原子を含有してもよい、一般式(I)の化合物が適切である。式(I)の環状ケトンは、活性化したときに、5(n=1)~6(n=2)の環の大きさを有することが好ましい。
【0036】
一般式(I)の化合物の好ましい化合物は、シクロペンタノン-2-カルボキシメチルエステルおよび-カルボキシエチルエステル、シクロペンタノン-2-カルボニトリル、シクロヘキサノン-2-カルボキシメチルエステルおよび-カルボキシエチルエステルまたはシクロペンタノン-2-カルボニルメチルである。シクロペンタノン-2-カルボキシメチルエステルおよび-カルボキシエチルエステルならびにシクロヘキサノン-2-カルボキシメチルエステルおよび-カルボキシエチルエステルが特に好ましい。シクロペンタノン系は、アジピン酸ジメチルまたはアジピン酸ジエチルのディークマン縮合により工業的に容易に得られる。シクロヘキサノン-2-カルボキシメチルエステルは、サリチル酸メチルの水素化により製造できる。
【0037】
(I)型の化合物の場合、NCO基のブロック化、脱ブロック化およびポリオールまたはポリアミンとの反応は以下の例示的スキーム:
【化2】
【0038】
に従って進行する。
【0039】
Aは、所望のいずれかの基、好ましくは水素またはアルキルを表す。X基は分子のアルケニル部分と分子の残余の部分とを結合し、具体的にはカルボニル基である。R基は、所望のさらなるいずれかの基を表す。例えば上記スキームの開始分子は、2-ヒドロキシアルキルメタクリレート(HEMA)のようなヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの1個の分子が、ジイソシアネートに、またはウレタン基を形成する二官能性NCO末端プレポリマーに、付加した生成物を意味すると理解することができる。一般式(I)のβジケトンにおいて、RとRは、Hを表し、Xは、そのC-H酸度C原子が遊離NCO基に付加してさらなるウレタン基を形成するC(O)OCHを表す。このようにして、ブロック化されたNCO基を有するフリーラジカル架橋性分子が得られる。C=C二重結合のフリーラジカル重合は、上記スキーム中では,図式化して「poly」として示された鎖のポリマーの形成をもたらす。次いで、NCO基を改めて脱ブロック化してもよい。この脱ブロック化は、シクロペンタノン環の開裂により達成され、こうして形式的にカルボアニオンとアシルカチオンが形成される。これは、角括弧内に示された中間体によって表される。nは2以上およびmは2以上であるポリオールY(OH)またはポリアミンZ(NH(もちろん、第二級アミンでもよい)は、それらのOH基またはアミノ基がアシルカチオンに形式付加し、さらにH原子はカルボアニオンであるC原子に移動する。容易に分かるように、ブロック剤は、ポリマー分子内において依然として共有結合している。
【0040】
NCO基のブロック化、それらの脱ブロック化および脱ブロック化の後に得られた官能基とグリセロールカーボネートに基づくポリオールまたはポリアミンとの反応を、例として、以下のスキームに示す。
【化3】
【0041】
上記スキームにおいても、Aは、所望のいずれかの基、好ましくは水素またはアルキルを表す。X基は分子のアルケニル部分と分子の残余の部分とを結合し、具体的にはカルボニル基である。R基は、所望のさらなるいずれかの基を表す。例えば上記スキームの開始分子は、2-ヒドロキシアルキルメタクリレート(HEMA)のようなヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの1個の分子が、ジイソシアネートに、またはウレタン基を形成する二官能性NCO末端プレポリマーに、付加した生成物を意味すると理解することができる。グリセロールカーボネートは、その遊離OH基が、遊離NCO基に付加してさらなるウレタン基を形成する。このようにして、ブロック化されたNCO基を有するフリーラジカル架橋性分子が得られる。C=C二重結合のフリーラジカル重合は、上記スキーム中では,図式化して「poly」として示された鎖のポリマーの形成をもたらす。次いで、NCO基を改めて脱ブロック化してもよい。この脱ブロック化は、環状カーボネート環の開裂により達成され、こうしてアルコキシドイオンとアシルカチオンが形式的に形成される。これは、角括弧内に示された中間体によって表される。nは2以上およびmは2以上であるアルコールY(OH)またはアミンZ(NH(もちろん、第二級アミンでもよい)は、それらのOH基またはアミノ基がアシルカチオンに形式付加し、プロトンはカルボアニオンであるC原子にさらに移動する。容易に分かるように、ブロック剤は、ポリマー分子内において依然として共有結合している。
【0042】
ラクタムの場合、ε-カプロラクタムが好ましい。ブロック化および脱ブロック化は、上に示した二つのスキームと類似の方法で進行する。ラクタムのN-H基は、遊離NCO基に付加して尿素基を形成する。C=C二重結合の重合後に、ラクタム環が開裂してもよい。この開裂が、アシルカチオンと負に帯電したN原子を形式的に再形成する。アルコールまたはアミンは、アシルカチオンに付加して、余剰のプロトンを負に帯電したN原子に移動させることができる。この際にも、ブロック剤は、ポリマー分子内において依然として共有結合している。
【0043】
ブロック剤が有機イソシアネートである場合が好ましい。このとき、ブロック化されるNCO基は、ブロック剤のNCO基と反応して、ウレトジオンを形成する。本方法のステップIV)の間の逆反応が、存在する連鎖延長剤と反応するNCO基の再形成をもたらす。ブロック剤とブロック化されるNCO基を有する化合物が同一である場合が特に好ましい。このとき、ブロック化は、関連する化合物の二量体化を含む。この反応経過とポリオールおよびポリアミンとの反応を、例示的に以下のスキームに示す。
【化4】
【0044】
AおよびA’は、所望のいずれかの基、好ましくは水素またはアルキルを表す。X基およびX’基は分子のアルケニル部分と分子の残余の部分とを結合し、具体的にはカルボニル基である。R基およびR’基は、所望のさらなるいずれかの基を表す。例えば上記スキームの単量体である開始分子は、2-ヒドロキシアルキルメタクリレート(HEMA)のようなヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートの1個の分子が、ジイソシアネートに、またはウレタン基を形成する二官能性NCO末端プレポリマーに、付加した生成物を意味すると理解することができる。上述において、より具体的に説明したブロック剤とは対照的に、NCO基の別のNCO基によるブロック化は、二量体化、すなわち4員環ウレトジオンの形成によりもたらされる。C=C二重結合のフリーラジカル重合の後に、交互の側でブロック化されたNCO基を有する二量体が、同一のポリマー鎖または2つの異なるポリマー鎖「poly」に組み込まれる。脱ブロック化がウレトジオン環の開裂をもたらし、2個のNCO基を再形成する。次いで、これらのNCO基は、アルコールまたはアミンと反応し得る。nは2以上およびmは2以上であるアルコールY(OH)またはアミンZ(NH(もちろん、第二級アミンでもよい)は、これらのNCO基に付加して、ウレタン基または尿素基を形成する。
【0045】
さらに好適な実施形態において、硬化性成分中の少なくとも2個のツェレウィチノフ活性水素原子を有する化合物は、ポリアミド、ポリオールまたはこれらの組合せからなる群から選択される。これらは、例えば、低分子量ジオール(例えば1,2-エタンジオール、1,3-または1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール)、トリオール(例えば、グリセロール、トリメチロールプロパン)およびテトラオール(例えば、ペンタエリトリトール)、短鎖ポリアミン、ならびに分子量のより大きいポリヒドロキシル化合物、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリシロキサンポリオール、ポリアミンおよびポリエーテルポリアミン、およびポリブタジエンポリオールであってもよい。
【0046】
さらに好適な実施形態において、硬化性成分は、ブロック剤によりブロック化されたNCO基およびオレフィン性C=C二重結合を含む硬化性化合物を含む。
【0047】
さらに好適な実施形態において、オレフィン性二重結合は、少なくとも一部が(メタ)アクリレート基の形態で硬化性化合物中に存在する。
【0048】
硬化性化合物は、好ましくは、ジイソシアネートの二量体化から得られる化合物であり、NCO末端ウレトジオンを生成後に、このNCO基とヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとが反応する。
【0049】
NCO末端ウレトジオンを生成するのに適切なジイソシアネートは、例えば、140~400g/molの範囲の分子量を有し、脂肪族、脂環式、アラリファチックおよび/または芳香族結合したイソシアネート基を有するジイソシアネートであり、例えば、1,4-ジイソシアナトブタン(BDI)、1,5-ジイソシアナトペンタン(PDI)、1,6-ジイソシアナトヘキサン(HDI)、2-メチル-1,5-ジイソシアナトペンタン、1,5-ジイソシアナト-2,2-ジメチルペンタン、2,2,4-または2,4,4-トリメチル-1,6-ジイソシアナトヘキサン、1,10-ジイソシアナトデカン、1,3-および1,4-ジイソシアナトシクロヘキサン、1,4-ジイソシアナト-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,3-ジイソシアナト-2-メチルシクロヘキサン、1,3-ジイソシアナト-4-メチルシクロヘキサン、1-イソシアナト-3,3,5-トリメチル-5-イソシアナトメチルシクロヘキサン(イソホロンジイソシアネート;IPDI)、1-イソシアナト-1-メチル-4(3)-イソシアナトメチルシクロヘキサン、2,4’-および4,4’-ジイソシアナトジシクロヘキシルメタン(H12MDI)、1,3-および1,4-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ビス(イソシアナトメチル)ノルボルナン(NBDI)、4,4’-ジイソシアナト-3,3’-ジメチルジシクロヘキシルメタン、4,4’-ジイソシアナト-3,3’,5,5’-テトラメチルジシクロヘキシルメタン、4,4’-ジイソシアナト-1,1’-ビ(シクロヘキシル)、4,4’-ジイソシアナト-3,3’-ジメチル-1,1’-ビ(シクロヘキシル)、4,4’-ジイソシアナト-2,2’,5,5’-テトラメチル-1,1’-ビ(シクロヘキシル))、1,8-ジイソシアナト-p-メンタン、1,3-ジイソシアナトアダマンタン、1,3-ジメチル-5,7-ジイソシアナトアダマンタン、1,3-および1,4-ビス(イソシアナトメチル)ベンゼン(キシリレンジイソシアネート;XDI)、1,3-および1,4-ビス(1-イソシアナト-1-メチルエチル)ベンゼン(TMXDI)およびビス(4-(1-イソシアナト-1-メチルエチル)フェニル)カーボネート、2,4-および2,6-ジイソシアナトトルエン(TDI)、2,4’-および4,4’-ジイソシアナトジフェニルメタン(MDI)、1,5-ジイソシアナトナフタレンならびに上述のジイソシアネートのいずれかの所望の混合物である。
【0050】
本発明においては、さらに脂肪族および/または芳香族イソシアネート末端基を有するプレポリマー、例えば、脂肪族または芳香族イソシアネート末端基を有するポリエーテル、ポリエステル、ポリアクリレート、ポリエポキシドまたはポリカーボネートプレポリマーをウレトジオン形成のための反応剤として用いることもできる。
【0051】
適切なヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートは、とりわけ、ヒドロキシアルキル基に2~12個の炭素原子を有するアルコキシアルキル(メタ)アクリレートである。好ましくは、2-ヒドロキシエチルアクリレート、酸化プロピレンのアクリル酸への付加中に形成される異性体混合物、または4-ヒドロキシルブチルアクリレートである。
【0052】
ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとNCO末端ウレトジオンとの反応は、DBTLのような通例のウレタン化触媒による触媒作用を受けることができる。得られる硬化性化合物は、200g/mol以上~5000g/mol以下の数平均分子量Mを有してもよい。この分子量は、好ましくは、300g/mol以上~4000g/mol以下、より好ましくは、400g/mol以上~3000g/mol以下である。
【0053】
1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、1,5-ペンタメチレンジイソシアネートまたはIPDIの二量体化から得られるNCO末端ウレトジオンと、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとの反応により得られる硬化性化合物が特に好ましい。この硬化性化合物は、400g/mol以上~3000g/mol以下の数平均分子量Mを有する。
【0054】
さらなる好適な実施形態において、フリーラジカル架橋性樹脂は、さらにフリーラジカル開始剤を含み、また触媒および/または阻害剤を含んでもよい。フリーラジカル架橋性樹脂の好ましくない粘性増加を防止するために、フリーラジカル開始剤を樹脂に添加できるのは、本発明の方法の開始直前のみである。
【0055】
考えられるフリーラジカル開始剤としては、熱フリーラジカル開始剤および/または光化学フリーラジカル開始剤(光開始剤)が挙げられる。熱フリーラジカル開始剤と光化学フリーラジカル開始剤を同時に用いることもできる。適切な熱フリーラジカル開始剤は、例えば、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、過酸化ジベンゾイル(DBPO)、ジ-tert-ブチルペルオキシドおよび/またはペルオキソ二硫酸塩のような無機過酸化物である。
【0056】
光開始剤は、原理的に、一分子タイプ(I)と二分子タイプ(II)の2つのタイプに分類される。適切なタイプ(I)系は、芳香族ケトン化合物であり、例えば、第三級アミンと組み合わせたベンゾフェノン、アルキルベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン(ミヒラーケトン)、アントロンおよびハロゲン化ベンゾフェノン、または上述したタイプの混合物である。また適切なタイプ(II)の開始剤は、例えば、ベンゾインおよびその誘導体、ベンジルケタール、アシルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビスアシルホスフィンオキシド、フェニルグリオキシル酸エステル、カンファーキノン、α-アミノアルキルフェノン、α,α-ジアルコキシアセトフェノンおよびα-ヒドロキシアルキルフェノンである。具体的な例は、Irgacur(登録商標)500(ベンゾフェノンと1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとの混合物、Ciba社製、Lampertheim、DE)、Irgacure(登録商標)819 DW(フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド、Ciba社製、Lampertheim、DE)またはEsacure(登録商標)KIP EM(オリゴ-[2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノン]、Lamberti社製、Aldizzate、イタリア)およびビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウムである。また、これらの化合物の混合物を使用してもよい。
【0057】
さらなる好適な実施形態において、フリーラジカル開始剤は、α-ヒドロキシフェニルケトン、ベンジルジメチルケタール、ビス(4-メトキシベンゾイル)ジエチルゲルマニウムおよび/または2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、の群から選択される。
【0058】
さらなる好適な実施形態において、樹脂中の遊離NCO基のツェレウィチノフ活性水素原子に対するモル比は、0.05以下(好ましくは、0.01以下、より好ましくは、0.005以下)である。遊離NCO基のツェレウィチノフ活性水素原子に対するモル比は、NCOインデックスまたはNCO指数(NCO coefficient)としても知られている。ツェレウィチノフ活性水素原子の担体として適切なものとしては、特に、O-H結合、N-H結合またはS-H結合を有する化合物が挙げられる。別法として、または追加として、この条件は、遊離NCO基を、樹脂の質量を基準として、20wt%以下(好ましくは、10wt%以下、より好ましくは、5wt%以下)の量で含む化合物を樹脂が含有することと具体的に表すことができる。
【0059】
さらなる好適な実施形態において、硬化性成分は、200g/mol以上~5000g/mol以下の数平均分子量Mを有してもよい。この分子量は、好ましくは、300g/mol以上~4000g/mol以下、より好ましくは、400g/mol以上~3000g/mol以下である。
【0060】
さらなる好適な実施形態において、得られた前駆体のフリーラジカル架橋型樹脂中に存在するNCO基を少なくとも部分的に脱ブロック化するのに十分な条件下、およびこのようにして得られた官能基と少なくとも2個のツェレウィチノフ活性水素原子を有する化合物を反応させるのに十分な条件下において、ステップIV)における、ステップIII)の後に得られた前駆体を処理することには、この立体を60℃以上の温度にまで加熱することが含まれる。この温度は、好ましくは、80℃以上~250℃以下、より好ましくは、90℃以上~190℃以下である。ステップIV)における選択された温度または選択された温度範囲は、例えば5分以上~48時間以下、好ましくは、15分以上~24時間以下、より好ましくは、1時間以上~12時間以下の間保持することができる。
【0061】
さらなる好適な実施形態において、ステップIII)の後に得られた前駆体の表面および/またはステップIV)の後に得られた物体の表面を、ツェレウィチノフ活性水素原子を含む化合物と接触させ、このときに、前駆体および/または物体の周囲の雰囲気中に自然界の大気湿度として発生する水は除去する。依然として存在するブロック化NCO基または脱ブロック化NCO基とこれらの化合物との反応において、表面の官能基化が達成される。ツェレウィチノフ活性水素原子を含む化合物を、例えば、液浸、噴霧散布または展着により前駆体の表面と接触させてもよい。さらなる可能性として、例えば、アンモニア蒸気または水蒸気の手段により、気相を通して接触させることがある。触媒により反応を加速してもよい。
【0062】
官能基化反応剤として適切な化合物の例として、アルコール、アミン、酸およびそれらの誘導体、エポキシドならびに、特に、ポリオール、例えば、糖、ポリアクリレートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリビニルアルコール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルカーボネートポリオールおよびポリエステルカーボネートポリオールが挙げられる。さらなる例としては、ポリアクリル酸、ポリアミド、ポリシロキサン、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルブチレート、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリアセタールおよびポリアミドが挙げられる。特定の尿素形成のためには、アミンを用いることができる。
【0063】
長鎖アルキルアルコール、長鎖(第二級)アルキルアミン、脂肪酸、エポキシ化脂肪酸エステル、(ペル)フルオロ化長鎖アルコールまたはこれらの混合物を用いるのが好ましい。本明細書においては、「長鎖」は、化合物の最長の鎖において、6個以上の炭素原子、好ましくは、8個以上の炭素原子、さらに好ましくは、10個以上の炭素原子が存在することを意味すると理解すべきである。修飾されたポリイソシアネートの製造は、原理的に公知であり、例えば、欧州特許出願公開第0206059号明細書および欧州特許出願公開第0540985号明細書に記載されている。この製造は、好ましくは、40℃~180℃の温度で実施される。
【0064】
さらなる好適な実施形態において、本方法は以下のさらなる特徴を有する。
【0065】
-担体は、容器の内部に配列され、重力の方向に垂直に下げることができる、
-容器は、フリーラジカル架橋性樹脂を含有し準備する、
-ステップII)のぞれぞれのステップの前に、担体は、所定の距離だけ下げられて、垂直方向から見て、造形材料の最上層の上に、フリーラジカル架橋性樹脂の層が形成される、
-ステップII)において、エネルギービームが、物体のそれぞれ選択された断面に対応する、フリーラジカル架橋性樹脂の層の選択された領域を露光および/または照射する。
【0066】
したがって、この実施形態は、光造形法(SLA)の積層造形方法を包含する。それぞれの場合において、担体は、例えば、1μm以上~500μm以下の所定の距離だけ下げることができる。
【0067】
さらなる好適な実施形態において、本方法は以下のさらなる特徴を有する。
【0068】
-担体は、容器の内部に配列され、重力とは反対の方向に垂直に持ち上げることができる、
-容器は、フリーラジカル架橋性樹脂を準備する、
-ステップII)のそれぞれのステップの前に、担体は、所定の距離だけ持ち上げられて、垂直方向から見て、造形材料の最下層の下に、フリーラジカル架橋性樹脂の層が形成される、
-ステップII)において、複数のエネルギービームが、同時に、物体のそれぞれ選択された断面に対応するフリーラジカル架橋性樹脂の層の選択された領域を露光および/または照射する。
【0069】
したがって、この実施形態は、複数のエネルギービームが、個別に制御可能なマイクロミラーの配列を経由して、露光および/または照射によって提供される画像を生成するとき、DLP技術の積層造形方法を包含する。それぞれの場合において、担体は、例えば、1μm以上~500μm以下の所定の距離だけ持ち上げることができる。
【0070】
さらなる好適な実施形態において、方法のステップI)は、基板の上面に、物体の第1の選択された断面に対応するフリーラジカル架橋性樹脂を塗布することを含み、ステップII)は、予め塗布された造形材料の層の上面に、物体のさらなる選択された断面に対応するフリーラジカル架橋性樹脂を塗布することを含む。次いで、少なくともフリーラジカル架橋性樹脂へのエネルギーの導入が続く。
【0071】
したがって、本実施形態は、インクジェット法の積層造形方法を包含する。すなわち、架橋性樹脂(触媒とは別個にでもよい)を1個以上の印刷ヘッドを経由して、選択的に塗布し、後続の露光および/または照射による硬化は、例えば、紫外線ランプによる非選択的であってもよい。架橋性造形材料の塗布のための1個以上の印刷ヘッドは、インクジェット印刷方法のための(改造された)印刷ヘッドでもよい。担体が、印刷ヘッドから移動できるように構成されてもよく、または印刷ヘッドが、担体から移動できるように構成されてもよい。担体と印刷ヘッドの間の間隔移動の増分は、例えば1μm以上~2000μm以下の範囲内でありうる。
【0072】
本発明はまた、積層造形方法における5mPas以上~100,000mPas以下の粘性(23℃、DIN EN ISO 2884-1)を有するフリーラジカル架橋性樹脂の使用であって、ブロック剤によりブロック化されたNCO基と、少なくとも2個のツェレウィチノフ活性水素原子を有する化合物と、オレフィン性C=C二重結合とを含む硬化性成分を前記フリーラジカル架橋性樹脂は含み、かつ前記ブロック剤は、イソシアネートであるか、または前記ブロック剤は前記NCO基の脱ブロック化の後に、前記ブロック剤が、遊離分子としてまたは他の分子もしくは部分の一部として放出されないように選択される、フリーラジカル架橋性樹脂の使用に関する。
【0073】
本使用の好適な実施形態において、樹脂は、フリーラジカル開始剤および/またはイソシアネート三量体化触媒をさらに含む。好ましくは、フリーラジカル開始剤は、α-ヒドロキシフェニルケトン、ベンジルジメチルケタール、および/もしくは2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシドの群から選択され、
ならびに/または
イソシアヌレート三量体化触媒は、酢酸カリウム、クラウンエーテルと組み合わせた酢酸カリウム、ポリエチレングリコールと組み合わせた酢酸カリウム、ポリプロピレングリコールと、オクタン酸スズと、トリオクチルホスフィンおよび/もしくは酸化トリブチルスズと組み合わせた酢酸カリウム、から選択される。
【0074】
硬化性化合物に関しては、本発明の方法に関して予め示唆されたと同一の考慮および好適な実施形態が、本発明の使用にも適用される。不要な反復を避けるため、それらを改めて述べることはしない。さらなる好適な実施形態において、オレフィン性二重結合は、少なくとも一部は、硬化性化合物中の(メタ)アクリレート基の形態の中に存在することと、さらなる好適な実施形態において、硬化性化合物は、NCO末端ポリイソシアネート、好ましくは、ポリイソシアヌレートと、遊離のNCO基を基準としたモル不足のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとの反応から得られることだけを付記しておく。
【0075】
本使用のさらなる好適な実施形態において、積層造形方法は、フリーラジカル架橋性樹脂の予め選択された領域または塗布された領域の露光および/または照射を含む。積層造形方法は、例えば、光造形法またはDLP(digital light processing)方法であってもよい。それは、同じく、インクジェット方法であってよい。「露光」は、本明細書の文脈においては、近赤外と近紫外光の間の領域(1400nm~315nmの波長)の光を導入することを意味すると理解すべきである。残りの、より短波長領域、例えば、遠紫外光、X線放射、ガンマ線放射およびまた電子線放射は、用語「照射」に含まれる。
【0076】
本発明はさらに、5mPas以上~100,000mPas以下の粘性(23℃、DIN EN ISO 2884-1)を有するフリーラジカル架橋性樹脂の架橋により得られるポリマーであって、ブロック剤によりブロック化されたNCO基と、少なくとも2個のツェレウィチノフ活性水素原子を有する化合物と、オレフィン性C=C二重結合とを含む硬化性成分を前記フリーラジカル架橋性樹脂は含み、かつ前記ブロック剤は、イソシアネートであるか、または前記ブロック剤は前記NCO基の脱ブロック化の後に、前記ブロック剤が、遊離分子としてまたは他の分子もしくは部分の一部として放出されないように選択される、ポリマーを提供する。不要な反復を避けるため、フリーラジカル架橋性樹脂、硬化性成分、ブロック剤、ポリイソシアネート、および少なくとも2個のツェレウィチノフ活性水素原子を有する化合物の詳細に関しては、上記の示唆を参照されたい。
【0077】
[実施例]
[実施例1]
ブロック化イソシアネートおよびアシル化官能基を有するプレポリマーの製造
ガラスのフラスコ中に、最初に、Covestro Deutschland AG社、ドイツ、から入手した線状ポリプロピレンエーテルポリオールであるDesmophen(登録商標)1111BD 130.0gを室温で仕込んだ。Sigma-Aldrich社、ドイツ、から入手したラウリン酸ジブチルスズ 0.043gを最初にポリオールに添加し、続いて、Covestro Deutschland AG社、ドイツ、から入手したヘキサメチレンジイソシアネート系ウレトジオンであるDesmodur(登録商標)XP 2730 101.9gを約30分の期間にわたって滴加した。次いで、理論NCO残基含有率である4.71%に到達するまで、温度制御式油浴を用いて、反応混合物を80℃に加熱した。この目的を達成するために、反応容器から一定間隔で試料を採取して、DIN EN ISO 11909に準拠した滴定分析を行った。
【0078】
理論NCO残基含有率に到達後に、阻害剤として、Sigma-Aldrich社、ドイツ、から入手したブチルヒドロキシトルエン 0.20gを添加し、混合物を15分間均質化した。次いで、50℃に冷却後、Sigma-Aldrich社、ドイツ、から入手したヒドロキシエチルメタクリレート 33.8gを滴加し、NCO残基含有率が0%になるまで、混合物をさらに撹拌した。次いで、Sigma-Aldrich社、ドイツ、から入手したイソボルニルアクリレート(IBOA)143.2gを添加し、混合物を室温になるまで冷却した。プレポリマーを金属缶に充填し、後刻使用するまで室温で保存した。
【0079】
架橋剤としてのアミンを添加せずに、実施例1のプレポリマーを比較実施例として用いた。
【0080】
以下の実施例で説明するように、前記プレポリマーをアミンと組み合わせ、本発明の樹脂の主成分として使用する。
【0081】
[実施例2]
IPDA架橋剤が20%を占めるフリーラジカル架橋性樹脂の製造
実施例1のプレポリマー 100.0gおよび光開始剤としてIGM Resins社製Omnirad(登録商標)1173 3.00gを蓋付きのプラスチックビーカー中に秤量した。仕込んだ材料を、室温で、約2分間、Thinky社製ARE250遊星型ミキサー中、2000回転毎分で混合した。次いで、Covestro Deutschland AG社、ドイツ、から入手した二官能性架橋剤であるイソホロンジアミン(IPDA)2.17gを添加し、スパチュラを用いて手動で混合した。混合物中におけるこれらの量はアミン基のウレトジオン基に対する比として、量論的に、1:5であった。
【0082】
[実施例3]
Jeffamine T403架橋剤が20%を占めるフリーラジカル架橋性樹脂の製造
実施例1のプレポリマー 100.0gおよび光開始剤としてOmnirad(登録商標)1173 3.00gを、実施例2と同様に、蓋付きのプラスチックビーカー中に秤量し、混合した。次いで、Sigma-Aldrich社、ドイツ、から入手した三官能性架橋剤Jeffamine(登録商標)T403 3.72gを添加し、スパチュラを用いて手動で混合した。混合物中におけるこれらの量はアミン基のウレトジオン基に対する比として、量論的に、1:5であった。
【0083】
[実施例4]
Jeffamine T403架橋剤が30%を占めるフリーラジカル架橋性樹脂の製造
実施例1のプレポリマー 100.0gおよび光開始剤としてOmnirad(登録商標)1173 3.00gを、実施例2と同様に、蓋付きのプラスチックビーカー中に秤量し、混合した。次いで、三官能性架橋剤Jeffamine(登録商標)T403 5.59gを添加し、スパチュラを用いて手動で混合した。混合物中におけるこれらの量はアミン基のウレトジオン基に対する比として、量論的に、3:10であった。
【0084】
[実施例5]
フリーラジカル架橋性樹脂の硬化
400μmのスリットを有するナイフコーターを用いて、実施例1~4のフリーラジカル硬化性樹脂で、ガラス板を被覆した。ガラス板は、予め1%大豆レシチン酢酸エチル溶液で処理し、乾燥しておいた。大豆レシチンは、硬化した膜を剥離でき、後になって基板を元の状態に戻す剥離剤として作用した。
【0085】
次いで、Superfici社の紫外線硬化プラントにおいて、水銀製放射線源およびガリウム製放射線源を用い、ベルト速度5m/minで、被覆したガラス基板を硬化した。このランプ出力およびベルト速度は、被覆された基板に1300mJ/cmの照射量の導入をもたらした。
【0086】
次いで、ガラス基板上の紫外線硬化膜に、120℃の乾燥炉中の空気雰囲気において、60分間の後硬化を施した。温度の影響を調べるために、膜のいくつかは、120℃ではなく150℃で、この硬化を実施した。
【0087】
室温まで冷却後、硬化した膜をガラス基板から慎重に剥がし、機械特性評価用および熱特性評価用の試験片を用意した。
【0088】
[実施例6]
架橋した樹脂の特性評価
機械特性評価のために、型抜き機を用いて、実施例5の自立型の硬化膜を、DIN EN ISO 527に準拠したタイプS2引張試験片として用意した。膜ごとに、それぞれ5個の試験片を、DIN EN ISO 527に準拠して調べた。破断伸び、引張強さ、および弾性率の結果の平均値を表1にまとめた。
【0089】
熱特性評価のために、約10mgの硬化膜の少量試料を、DIN EN ISO 11357-1に準拠し、示差走査熱量測定(DSC)を用いて調べた。また、実施例の膜のすべてのガラス転移温度(T)も、DSCにより決定し、表1にまとめた。膜ごとに、それぞれ2つのガラス転移温度をDSCにより決定したことを付記する。
【表1】
【0090】
本発明によらない実施例1に比較すると、本発明の実施例2~4は、引張強さおよび弾性率の顕著な上昇を示す一方、破断伸びは依然として同程度のままだった。
【0091】
[実施例7]
ウレトジオン開裂の赤外分光分析法による調査
炉硬化の間のウレトジオン環の開裂および脱ブロック化したイソシアネート基とアミン基との反応を調べるために、実施例2の膜を、炉硬化の前および炉硬化の後で、赤外分光分析法により調べた。分析には、Bruker社製フーリエ変換赤外分光器(Tensor II)を用いた。試料膜をプラチナ製ATRユニットに接触させた。試料の接触面積は、2×2mmであった。測定中、赤外線は、波数に依存して、試料中に3~4μmまで侵入した。次いで、試料からの吸収スペクトルを取得した。硬度の異なる試料の不均一な接触を補償するために、全スペクトルに対して、ベースライン補正および波数域2600~3200(CH2、CH3)における規格化を行った。波数域1786~1750cm-1(C=O振動)において、ウレトジオン基の補間を行った。ウレトジオン基の信号下面積の積分値を表2にまとめた。
【表2】
【0092】
ウレトジオンに相当する信号面積の減少は、開環によるイソシアネート基の脱ブロック化および脱ブロック化したイソシアネート基とアミンとの架橋反応に帰属できる。