(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】還元剤を添加することによるタンパク質溶液中のジスルフィド結合の形成の制御
(51)【国際特許分類】
C12P 21/08 20060101AFI20220908BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
C12P21/08
C07K16/00
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020079970
(22)【出願日】2020-04-30
(62)【分割の表示】P 2016569829の分割
【原出願日】2015-05-28
【審査請求日】2020-05-26
(32)【優先日】2014-05-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2015-03-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500034653
【氏名又は名称】ジェンザイム・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ラオ・コドゥリ
(72)【発明者】
【氏名】ケヴィン・ピー・ブラウァー
(72)【発明者】
【氏名】ヴィーナ・ワリクー
(72)【発明者】
【氏名】マルセラ・ユー
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー・ファン
(72)【発明者】
【氏名】コンスタンティン・コンスタンティノフ
(72)【発明者】
【氏名】ジン・イン
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/060867(WO,A2)
【文献】特表2010-522701(JP,A)
【文献】特表2008-520190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 21/08
C07K 16/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗体分子の集団を含む溶液中の半抗体分子の割合を制御する方法であって、
抗体分子の集団を含む溶液を調整溶液と接触させる工程であって、
調整溶液は酸化還元試薬を含み、ここで酸化還元試薬は2-メルカプトエチルアミン(2-MEA)であり、2-MEAの濃度は0.5mMから5mMの間である、前記工程と;
抗体分子を含む調整溶液をインキュベートする工程であって;
調整溶液との抗体分子のインキュベーションは、調整抗体溶液中の半抗体分子の割合を減少させる、前記工程と
を含む前記方法。
【請求項2】
抗体は
IgG抗体である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抗体は
、重鎖と軽鎖の間の鎖間ジスルフィド結合に関与しない部位から構成される抗体断片を除く抗体断片である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
抗体断片は
IgG抗体断片である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
調整抗体溶液中の半抗体分子の割合は30パーセント未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
調整抗体溶液中の半抗体分子の割合は15パーセント未満である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
抗体溶液はナタリズマブ、ゲムツズマブ、またはフレソリムマブを含む、請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、2015年3月25日に出願された米国特許出願第14/668,820号に対する優先権を主張し、2014年5月28日に出願された米国仮出願第62/004,175号の利益を主張し、それらの開示は明確に本明細書に参照によって組み入れる。
【0002】
技術分野
本発明は、組換えタンパク質および抗体のバイオテクノロジーおよびバイオ製造の方法に関する。
【背景技術】
【0003】
タンパク質のポリペプチド間のジスルフィド結合形成は適切なタンパク質集合および構造の重要な一側面である。タンパク質多量体化はポリペプチド(例えばポリペプチド単量体/多量体)間の十分なレベルのジスルフィド結合形成に依存し得る。抗体は特にジスルフィド結合形成に依存するタンパク質の1つのクラスを表す。
【0004】
抗体は一般に4つのポリペプチドである、2つの軽鎖および2つの重鎖(L:H:H:L)から構成される。ほとんどの抗体は4つのポリペプチド鎖間にジスルフィド結合を含有する。時折、重鎖ポリペプチド間のジスルフィド結合は形成されず、その結果、2対の重鎖と軽鎖の間に鎖間ジスルフィド結合を含まない抗体が形成される。概して、
図1を参照されたい。これらの抗体は半抗体と呼ばれている(本明細書では「Hab」と省略される)。
【0005】
免疫グロブリンG、サブクラス4(本明細書では「IgG4」と省略される)抗体などの特定の抗体のクラスおよび種類は半抗体をより形成しやすい。天然および組換えの両方の抗体の産生において、少なくとも35%に達する、かなりの割合のIgG4抗体が半抗体として産生される。(非特許文献1)。
【0006】
生理的状態下で、半抗体は、鎖間ジスルフィド結合が存在しないにもかかわらず、2つの重鎖-軽鎖抗体半分間の強力な非共有相互作用に起因して典型的に完全な機能的抗体として存在する。(非特許文献2)。半抗体形成は異常型タンパク質の形成に関連している(
図1を参照されたい)。例えば、IgG4抗体における半抗体形成は一次アミノ酸配列およびヒンジ領域の構造に起因する場合があり、その結果、2つの抗体が互いに組換えをお越して二重特異性抗体を形成できる、動的Fabアーム交換を行うIgG4抗体の能力が生じる。(例えば、特許文献1;特許文献2を参照されたい)。IgG4サブタイプのこの特徴は、環状鎖内ジスルフィド結合を形成することを容易にするヒンジ配列の増加した柔軟性により説明することができる。(非特許文献3;非特許文献4)。半抗体形成はまた、特定の骨髄腫によって産生される抗体の場合のように、重鎖定常ドメインにおける欠失に端を発する場合がある(非特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第4,470,925号
【文献】米国特許出願公開第2011/0086366号(A1)
【非特許文献】
【0008】
【文献】Miesagesら、2012、Biotechnol Bioeng.109(8):2048-58
【文献】Roseら、2011、Structure、19(9):1274-82
【文献】Bloomら、1997、Protein Sci.6(2):407-15
【文献】Schuurmanら、2001、Mol Immunol.38(1):1-8
【文献】Spiegelbergら、1975、Biochemistry 14(10):2157-63
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
半抗体は、現在、任意の異なる臨床症候群または毒性と関連していることは知られていない。しかしながら、半抗体のレベルは治療用IgG4抗体の産生および/または製造のための重要な品質特性である。最終医薬品における多量体タンパク質のポリペプチド間のジスルフィド結合の形成を制御するために、上流または下流の抗体処理条件をどの程度使用できるかは十分に理解されていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書に開示されるように本発明は、バイオプロセスによって産生されるタンパク質のポリペプチド間のジスルフィド結合の形成を制御するように開発された方法を包含する。一態様において、本発明は、バイオプロセスによって産生される多量体タンパク質のポリペプチド間のジスルフィド結合の数を制御する方法を含む。この態様の特定の実施形態は以下の工程を含む:(a)バイオプロセスの間の特定の時点にてポリペプチドを調整溶液(conditioned solution)と接触させる工程であって、調整溶液は1つまたはそれ以上の所定の溶液パラメーターを含む、工程、および(b)所定の温度にて所定の時間、ポリペプチドを含む調整溶液をインキュベートする工程であって、調整溶液とのポリペプチドのインキュベーションはタンパク質のポリペプチド間のジスルフィド結合の形成を制御する、工程。特定の実施形態において、開示された方法が適用される場合、タンパク質のポリペプチド間のジスルフィド結合の数は増加する。他の実施形態において、タンパク質のポリペプチド間のジスルフィド結合の数は減少する。さらに他の実施形態において、タンパク質のポリペプチド間のジスルフィド結合の数は維持される。
【0011】
開示された方法の特定の実施形態において、所定の溶液パラメーターは以下のうちの1つまたはそれ以上を含む:酸化還元試薬の種類、酸化還元試薬濃度、pH、気体の種類、溶解気体レベル、導電率、および生存細胞密度。
【0012】
開示された方法の特定の実施形態において、酸化還元試薬の種類は、2-メルカプトエチルアミン(2-MEA)、還元グルタチオン、酸化グルタチオン、2-メルカプトエタノール、ジチオスレイトール(DTT)、システイン、シスチン、ジチオブチルアミン、または亜硫酸ナトリウムである。これらの実施形態のいくつかにおいて、酸化還元試薬の種類は2-MEAである。これらの実施形態のいくつかにおいて、酸化還元試薬モル濃度対タンパク質モル濃度の比は少なくとも4:1、8:1、16:1、または32:1である。
【0013】
開示された方法の特定の実施形態において、インキュベーションの所定の温度は約2℃から約23℃の間である。他の実施形態において、インキュベーションの所定の温度は約23℃から約37℃またはそれ以上の間である。開示された方法のいくつかの実施形態において、多量体タンパク質のポリペプチドを含む調整溶液はインキュベーションの間、混
合される。
【0014】
いくつかの実施形態において、開示された方法のバイオプロセスは、バッチ、半連続、または連続バイオプロセスを含む。いくつかの実施形態において、多量体タンパク質のポリペプチドは、バイオプロセスにおけるバイオリアクター操作および/またはフェドバッチ細胞培養操作の後に行われるバイオプロセスの間の特定の時点にて調整溶液と接触する。
【0015】
特定の実施形態において、開示された方法は、バイオプロセスの間の特定の時点にてバイオプロセスからポリペプチドを抜き取る工程をさらに含む。これらの実施形態のいくつかにおいて、開示された方法は、インキュベーション後にポリペプチドをバイオプロセスに戻す工程をさらに含む。
【0016】
開示された方法の別の態様において、多量体タンパク質のポリペプチドは、そのポリペプチドが、複数の細胞を含む溶液中に存在する場合、バイオプロセスの間の特定の時点にて調整溶液と接触する。これらの実施形態のいくつかにおいて、特定の時点は、ポリペプチドが、複数の細胞を含むバイオリアクター、保持タンク、または非バイオリアクター単位操作容器に位置する時点である。
【0017】
開示された方法の別の態様において、多量体タンパク質のポリペプチドは、多量体タンパク質のポリペプチドが無細胞溶液中に存在する特定の時点にて調整溶液と接触する。これらの実施形態のいくつかにおいて、特定の時点は、ウイルス不活性化、調節、クロマトグラフィー、濾過、希釈、濃縮の工程、または無細胞である任意のバイオプロセス工程の間におけるものである。他の実施形態において、特定の時点は、バイオプロセスの清澄化段階、清澄化した採取物段階、捕捉段階、中間クロマトグラフィー(intermediate chromatography)段階、または仕上げクロマトグラフィー(polishing chromatography)段階の間におけるものである。これらの実施形態のいくつかにおいて、バイオプロセスの間の特定の時点はポリペプチドが保持タンク内に位置する時点を含む。特定の他の実施形態において、インキュベーション工程の後のポリペプチドを含む調整溶液のpHは約3.0から約5.0の間である。
【0018】
一実施形態において、多量体タンパク質のポリペプチドを含有する無細胞溶液はプロテインA溶出液を含む。別の実施形態において、多量体タンパク質のポリペプチドを含有する無細胞溶液は清澄化した採取物を含む。
【0019】
開示された方法のいくつかの実施形態において、多量体タンパク質のポリペプチドはタンパク質の単量体である。他の実施形態において、多量体タンパク質のポリペプチドはタンパク質の多量体である。
【0020】
別の態様において、開示された方法によって制御される多量体タンパク質は抗体である。これらの実施形態のいくつかにおいて、多量体タンパク質のポリペプチドは重鎖ポリペプチドを含む。他の実施形態において、多量体タンパク質のポリペプチドは軽鎖ポリペプチドを含む。さらに他の実施形態において、多量体タンパク質のポリペプチドは重鎖ポリペプチドおよび軽鎖ポリペプチドを含む。一実施形態において、開示された方法の抗体はIgG4抗体である。別の実施形態において、開示された方法の抗体は、ナタリズマブ、ゲムツズマブ、またはフレソリムマブである。
【0021】
別の態様において、開示された方法によって制御される多量体タンパク質は抗体断片である。これらの実施形態のいくつかにおいて、多量体タンパク質のポリペプチドは重鎖ポリペプチドを含む。他の実施形態において、多量体タンパク質のポリペプチドは軽鎖ポリ
ペプチドを含む。さらに他の実施形態において、多量体タンパク質のポリペプチドは重鎖ポリペプチドおよび軽鎖ポリペプチドを含む。一実施形態において、開示された方法の抗体断片はIgG4抗体断片である。
【0022】
さらに別の態様において、開示された方法によって制御される多量体タンパク質は非抗体タンパク質である。特定の実施形態において、非抗体タンパク質は酵素である。
【0023】
別の態様において、抗体分子の集団を含む溶液中の半抗体分子の割合を制御する方法が本明細書に開示される。この態様の特定の実施形態は以下の工程を含む:(a)抗体分子の集団を含む溶液を調整溶液と接触させる工程であって、調整溶液は所定の溶液パラメーターを含む、工程、および(b)所定の温度にて所定の時間、抗体分子を含む調整溶液をインキュベートする工程であって、調整溶液との抗体分子のインキュベーションは調整抗体溶液中の半抗体分子の割合を制御する、工程。この態様の特定の実施形態において、所定の溶液パラメーターは、酸化還元試薬選択、酸化還元試薬濃度、pH、気体選択、溶解気体レベル、導電率、生存細胞密度、および/またはタンパク質濃度を含む。
【0024】
いくつかの実施形態において、調整抗体溶液中の半抗体分子の割合は30パーセント(%)未満である。他の実施形態において、調整抗体溶液中の半抗体分子の割合は20パーセント(%)未満である。さらに他の実施形態において、調整抗体溶液中の半抗体分子の割合は15パーセント(%)未満である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】ジスルフィド結合形成を制御するためのバイオ製造法を適用することができる例示的な多量体タンパク質の概略図である。
図1Aは、タンパク質単量体サブユニット(太線)がジスルフィド結合(細線)および強い非共有相互作用(アスタリスク)によって互いに会合している、完全抗体(左)および半抗体(右)を示す。この例において、完全抗体は、2つのより長い重鎖サブユニットの間に鎖間ジスルフィドを含む、全ての多量体サブユニットの間にジスルフィド結合を含有する。半抗体において、鎖間ジスルフィド結合が存在する代わりに、鎖内ジスルフィド結合が存在しているので、重鎖サブユニットの間に共有結合は存在しない。しかしながら、強い非共有相互作用は2つの重鎖サブユニット間の強い会合を維持する。完全または半抗体は単一標的に対してまたは2つの異なる標的に対して特異性(二重特異性)を有することができる。
図1Bは、鎖間ジスルフィド結合(左)を介して互いに接続されているか、または断片内の鎖内ジスルフィド結合の場合、完全に互いから分離している(右)抗体断片を示す。この場合、タンパク質の特定のセグメントの不在に起因して、強い非共有相互作用は断片の間に存在せず、その結果、抗体断片は、鎖内ジスルフィド結合が存在する場合、互いに会合しない。これらの断片は同じ標的に対してまたは2つの異なる標的に対して特異性(二重特異性)を有することができる。
【
図2】開示された方法を実施するための、種々の時点を含むバイオプロセスの単位操作の概略図である。方法は、(1)バイオリアクターへの添加もしくはクロマトグラフィーカラムでの洗浄工程の包含などによる単位操作内、(2)バイオリアクターと採取物保持タンクとの間の移動の間などの単位操作の間、または(3)クロマトグラフィー溶出液もしくはバイオリアクター採取物などのプロセス中間体のための保持工程の間に実施される。バイオプロセス内の異なるまたは追加の単位操作の包含を含む、代替のバイオプロセススキームが可能である。代替の例としては、代替の清澄化操作(遠心分離および深層濾過以外)または追加のクロマトグラフィー工程の包含が含まれる。
【
図3】保持時間、温度、および開始生存細胞密度(VCD)を変化させた、細胞含有(清澄化していない採取物)保持研究を示す図である。
図3Aおよび3Cにおいて全ての抗体分子のうちの半抗体含有量(パーセント)を保持時間(日数)の関数として示す。
図3Aにおいて、半抗体含有量を3つの異なる温度:8℃/冷(丸)、21℃/周囲(四角)、または37℃/温(三角)にて保持時間の関数として測定した。
図3Cにおいて、半抗体含有量を混合サンプル(丸)または非混合低VCDサンプル(ダイヤモンド)のいずれかについて保持時間の関数として測定した。保持時間(日数)の関数として示した1mL当たり数百万の細胞(×10
6細胞/mL)での生存細胞密度を
図3Bおよび
図3Dに示す。
図3Bにおいて、半抗体含有量を3つの異なる温度:8℃/冷(丸)、21℃/周囲(四角)、または37℃/温(三角)にて保持時間の関数として測定した。
図3Dにおいて、半抗体含有量を混合サンプル(丸)または非混合低VCDサンプル(ダイヤモンド)のいずれかとして保持時間の関数として測定した。
【
図4】細胞含有(清澄化していない採取物)保持研究においてIgG4半抗体に対する混合の効果を示す図である。全ての抗体分子のうちの半抗体含有量(パーセント)を、穏やかな回転により混合した(点線を有する丸)、または混合していない(実線を有する丸)のいずれかの保持時間(日数)の関数として示す。サンプルは8℃に保持した。両方の条件についての開始細胞生存数は約2.5×10
6細胞/mLであった。
【
図5】細胞含有(清澄化していない採取物)保持研究における酸化還元試薬添加の効果を示す図である。全ての抗体分子のうちの半抗体含有量(パーセント)を、グルタチオン非添加(丸)、5mMの還元グルタチオン(GSH)および0.5mMの酸化グルタチオン(GSSG)の添加(四角)、または0.5mMのGSHおよび5mMのGSSGの添加(三角)の関数として保持時間(日数)の関数として示す。サンプルは8℃にて特定の時間保持した。全ての3つの条件についての開始細胞生存数は約2.5×10
6細胞/mLであった。
【
図6】高pH(7.1)および低pH(6.9)設定点の両方においてその作動の終了付近でのバイオリアクターへの0.5mMの2-MEA、2mMの2-MEA、および5mMの還元グルタチオン(GSH)酸化還元試薬の添加の効果を示す図である。全ての抗体分子のうちの半抗体含有量(パーセント)を、pH7.1(白四角)もしくはpH6.9(黒四角)にて2mMの2-MEA添加、pH(7.1)(白丸)もしくはpH6.9(黒丸)にて0.5mMの2-MEA添加、または5mMの還元グルタチオン(GSH)添加(黒ダイヤモンド)の条件で保持時間(時間)の関数として示す。白および黒四角についてのデータ系列は互いにほぼ重なっている。
【
図7】2-MEAで処理した半抗体の割合に対する2つの異なる開始細胞生存率の効果を示す図である。全ての抗体分子のうちの半抗体含有量(パーセント)を処理後の保持時間(時間)の関数として示す。サンプルはバイオリアクターから得、それは種々のパラメーターに関して特定のレベルまで制御された。研究した2つの異なる開始生存率は、フェドバッチ培養の12日目(D12)における70%生存率(丸)およびフェドバッチ培養の14日目(D14)における45%生存率(四角)であった。
【
図8】2-MEAで以前に処理したバイオリアクターから得た清澄化した採取物に対する温度およびpH条件の効果を示す図である。全ての抗体分子のうちの半抗体含有量(パーセント)を、0.1未満のpH増加(黒ダイヤモンド)もしくは0.5超のpH増加(白ダイヤモンド)で2~8℃、または0.1未満のpH増加(黒三角)もしくは0.5超のpH増加(白三角)で室温(21℃)における保持の関数として保持時間(時間)の関数として示す。
【
図9】室温(21℃)または8℃にてインキュベーション保持後の清澄化した採取物質における半抗体の割合に対する2-MEA処理の効果を示す図である。
図9は、2-MEAで処理したまたは処理していない最初の2時間にわたる各サンプルの半抗体の割合を示す。試験条件には、室温(21℃)、2-MEAを添加していない(丸)、室温(21℃)、2-MEAを添加した(ダイヤモンド)、8℃、2-MEAを添加していない(四角)、および8℃、2-MEAを添加していない(三角)が含まれた。
【
図10】室温(21℃)または8℃におけるインキュベーション保持後の清澄化した採取物質における半抗体の割合に対する2-MEA処理の効果を示す図である。
図10は、2-MEAで処理したまたは処理していない7日(168時間)にわたる各サンプルの半抗体の割合を示す。試験条件には、室温(21℃)、2-MEAを添加していない(丸)、室温(21℃)、2-MEAを添加した(ダイヤモンド)、8℃、2-MEAを添加していない(四角)、および8℃、2-MEAを添加していない(三角)が含まれた。
【
図11】バイオプロセス内に存在する半抗体の割合を制御するそれらの能力についての種々の酸化還元試薬の評価についての非還元ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)の結果を示す図である。酸化還元試薬をプロテインA溶出液に添加し、インキュベーションをpH4.8で室温にて2時間実施した。全てのサンプルをプロテインAカラムで再精製して存在する全ての酸化還元試薬を除去した。試験条件には、酸化還元試薬なし(レーン1)、:2mMの2-MEA(レーン2)、:3mMの2-MEA(レーン3)、2mMのMEA+2mMの酸化グルタチオン(GSSG)(レーン4)、2mMの還元グルタチオン(GSH)(レーン5)、2mMのGSH+2mMのGSSG(レーン6)、2mMのメルカプトエタノール(レーン7)、および2mMのジチオスレイトール(レーン8)が含まれた。
【
図12】IgG4抗体を分析するための非還元ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)画像を示す図である。SDS-PAGEにおけるものなどの変性条件下で、半抗体は完全抗体から離れた異なるバンドのように見える。レーン1:分子量マーカー、レーン10:半抗体制御方法による処理前のIgG4試験サンプル、レーン11:総半抗体を減少させるように設計した半抗体制御方法で処理したIgG4試験サンプル。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本開示は、バイオプロセスによって産生されるタンパク質のポリペプチド間のジスルフィド結合の形成を制御する方法を含む。ポリペプチド間のジスルフィド結合の形成(例えば数)を測定する1つの手段は抗体分子の集団を含む溶液中に存在する半抗体(Hab)分子の割合を測定することである。免疫グロブリンG、サブクラス4(IgG4)抗体溶液中に存在する半抗体のレベルに対する調整溶液の効果を測定することによって、ポリペプチド間のジスルフィド結合形成に対する調整溶液の効果を測定する。本明細書に開示されるように、ポリペプチド含有溶液の特定のパラメーターはポリペプチド間のジスルフィド結合の形成に対して予想外で有効な効果を有する。ポリペプチド間のジスルフィド結合形成のレベルを減少させるか、増加させるか、または維持するための戦略を含む、ジスルフィド結合形成を制御するための複数の方法が開示される。本明細書に詳細に開示されるように、これらの方法は、例えば、抗体タンパク質または抗体断片の産生を含む、タンパク質産生のために使用される典型的なバイオプロセス内の複数の時点にて適用することができる。(
図2)。
【0027】
IgG4は、それらを魅力的な治療候補およびポリペプチド間のジスルフィド結合形成を測定するための優れたモデルにするいくつかの性質を有する。例えば、IgG4は長い血清半減期ならびに低いFc機能および/またはエフェクター機能を有する。(Bruggemannら、1987、J Exp.Med.166(5):1351-61)。しかしながら、IgG4抗体はまた、in vivoで望ましくない異常な性質も有し:IgG4抗体はFabアーム交換に関わる不安定な動的分子である。投与された治療用IgG4抗体は望ましくない特異性を有する内因性IgG4抗体と交換する場合がある。このプロセスのランダム性は予測不可能性を発生させ、このことはヒトの免疫療法にとって非常に望ましくない。
【0028】
IgG4 Fabアーム交換の役割に関するこれらの不確実性および半抗体のin vivoでの影響により、最終治療用抗体組成物中に存在する半抗体のレベルを最小化することが望まれる。以前に、IgG4抗体ヒンジ領域のアミノ酸配列の、IgG1ヒンジ領域のアミノ酸配列への変異によってHabの割合は減少し、このことはIgG4重鎖間の共有ジスルフィド相互作用を著しく安定化させることが示されている(Angalら、1993、Mol.Immunol.30(1):105-8;Schuurmanら、2
001;米国特許出願公開第US2011/0086366(A1)号)。特に既に進行している臨床研究下での治療用抗体について、抗体のアミノ酸配列およびその結果生じるタンパク質構造を変化させることは科学的および規制上の両方の課題を提示する。結果として、この変異誘発戦略は、特定のレベルの半抗体を有する治療用IgG4による臨床およびさらに前臨床経験が重要である、多くの状況において適用することができない。したがって、治療用IgG4分子の後の臨床研究および商業化の間の全体を通して分子の一貫性を保証するために、半抗体レベルのレベルを制御するための戦略を確立しなければならない。
【0029】
本明細書に開示された方法は、バイオプロセスによって産生される多量体タンパク質のポリペプチド間のジスルフィド結合の形成を制御するための複数のプロセスを含む。本明細書に開示された方法は、酸化還元試薬の種類、酸化還元試薬濃度、pH、気体の種類、溶解気体レベル、導電率、および/または生存細胞密度を含む、所定の溶液パラメーターを含む調整溶液を適用する、細胞含有および無細胞方法を含む。これらの方法は、例えばIgG4抗体の重鎖間のジスルフィド結合などの多量体タンパク質のポリペプチド間のジスルフィド結合の形成を制御するか、減少させるか、増加させるか、または維持するためにバイオプロセス内の1つまたはそれ以上の時点で実施できる。ポリペプチド単量体および/または多量体の間のジスルフィド結合の形成の制御は、多量体タンパク質製品のライフサイクル内または多量体タンパク質のバイオ等価物もしくはバイオ後続品の型を産生するときの一貫した製品品質を達成するために必要とされる。
【0030】
調整溶液
一態様において、本明細書に提示された方法は、タンパク質のポリペプチドを、ポリペプチド間のジスルフィド結合の所望の形成または数を生じるように最適化されている「調整溶液」と接触させることを開示する。この調整溶液は要望通りにジスルフィド結合の形成を制御するように規定されている。特定の実施形態において、調整溶液はタンパク質のポリペプチド間のジスルフィド結合の数を減少させるように規定されている。他の実施形態において、調整溶液はタンパク質のポリペプチド間のジスルフィド結合の数を増加させるように規定されている。さらに他の実施形態において、調整溶液はタンパク質のポリペプチド間のジスルフィド結合の数を維持するように規定されている。ジスルフィド結合形成に対するインキュベーション条件および所定の条件パラメーターの効果は、タンパク質溶液中に存在するIgG4半抗体の割合を測定することによって実証することができる。開示された方法のいくつかの実施形態において、多量体タンパク質を含む溶液中の半抗体分子(Hab)の割合が決定される。半抗体分子の割合の決定は多量体タンパク質のポリペプチド間のジスルフィド結合形成を測定する方法として使用できる。
【0031】
開示された方法に従って使用される場合、「調整溶液」は1つまたはそれ以上の所定の溶液パラメーターを含む。特定の実施形態において、開示された方法を、タンパク質を産生するバイオプロセスに適用する前に、調整溶液のパラメーターが決定され、その後、方法が目的のタンパク質を産生するために使用されるバイオプロセスに適用される。方法の一態様において、調整溶液は細胞を含有している。別の態様において、調整溶液は無細胞である。これらの態様の各々に関するさらなる詳細は本明細書中のいずれかの場所に開示されている(以下を参照されたい)。
【0032】
ジスルフィド結合の形成または数の制御は、方法の適用のために選択される特定のポリペプチド、タンパク質、および/またはタンパク質クラスの性質によって影響を受ける場合がある。ジスルフィド結合の形成の制御はまた、例えばバイオプロセスの設計およびバイオプロセスを含む単位操作の性質を含む、目的のタンパク質を産生するために使用されるバイオプロセスの性質によって影響を受ける場合がある。したがって、選択されるタンパク質およびバイオプロセスで所望の結果を達成するように1つまたはそれ以上の調整溶
液パラメーターを最適化するために予備試験研究を実施することが必要であり得る。このような試験研究および実験の非限定的な例は本明細書に開示されている(以下の「実施例」の段落を参照されたい)。
【0033】
本明細書に開示された異なる所定の溶液条件は、独立して、または他の所定の溶液条件と組み合わせてのいずれかで適用することができる。例示的な研究について、表2(以下)を参照されたい。本明細書に開示された条件の各々は、開示された方法に従ってタンパク質ポリペプチド間のジスルフィド結合形成に対していくらかのレベルの制御を提供する。1つの所定の溶液条件は任意の所与の溶液中の他の所定の溶液条件の1つまたはそれ以上に影響を与える場合がある。いくつかの状況において、いくつかの所定の溶液条件は他の所定の溶液条件の1つまたはそれ以上に対して「相補的」であるため、あまり極端ではない条件を使用して所望のジスルフィド結合形成結果を生ずることが可能となるであろう。例えば、溶液中の特定の気体および気体圧力(例えば酸素)の使用する場合、その特定の気体が使用されていない溶液と同じ結果を達成するにはより低い濃度の酸化還元試薬が必要となる可能性がある。特定の実施形態において、所定の溶液条件の組合せの適用はジスルフィド結合の形成に対してさらなる効果を生じる。他の実施形態において、所定の溶液条件の組合せの適用はジスルフィド結合の形成に対して相乗効果を生じる。
【0034】
本明細書に使用される場合、「所定の溶液パラメーター」という用語は、1つまたはそれ以上のパラメーター、性質、品質、組成、含有量、および/または他の溶液の属性を指す。
【0035】
開示された方法のいくつかの適用において、溶液中のHab分子の割合が、所望のジスルフィド結合形成結果である。一態様において、開示された方法は抗体分子の集団を含む溶液中の半抗体分子の割合を制御するために使用される。これらの適用において、開示された方法はHabの形成に関与しているジスルフィド結合を制御するために使用される。方法はHab分子の所望の割合を有する調整抗体溶液を産生できる。
【0036】
いくつかの実施形態において、溶液中のHab分子の所望の割合は絶対量または絶対量の範囲として選択される。開示された方法を使用することによって、溶液中のHab分子の割合はHabの所望の絶対量または割合を標的とするように制御することができる。Habの割合を増加させるか、または減少させるかのいずれかのために開示された方法を使用することが可能である。特定の実施形態において、溶液中のHab分子の所望の割合は、5%未満、約5~10%、10~15%、15~20%、20~25%、25~30%、30~50%、または50%超である。
【0037】
他の実施形態において、溶液中のHab分子の所望の割合は、開示された方法の適用前の溶液と比較して、パーセントの変化またはパーセントの変化の範囲(パーセントの増加または減少など)として選択される。開示された方法を使用することによって、溶液中のHab分子の割合はHabの割合の所望のパーセントの変化を標的とするように制御することができる。
【0038】
いくつかの実施形態において、溶液中のHab分子の割合の所望の変化は、約1%、2%、5%、10%、15%、20%、25%、50%、またはそれ以上の減少である。特定の他の実施形態において、溶液中のHab分子の割合の所望の変化は、約1~5%、5~10%、10~15%、15~20%、20~25%、25~30%、30~50%、または50%超の減少である。さらに他の実施形態において、溶液中のHab分子の割合の所望の変化は約1~50%の減少である。
【0039】
他の実施形態において、溶液中のHab分子の割合の所望の変化は、約1%、2%、5
%、10%、15%、20%、25%、50%、またはそれ以上の増加である。特定の他の実施形態において、溶液中のHab分子の割合の所望の変化は、約1~5%、5~10%、10~15%、15~20%、20~25%、25~30%、30~50%、または50%超の増加である。さらに他の実施形態において、溶液中のHab分子の割合の所望の変化は約1~50%の増加である。
【0040】
酸化還元試薬
開示された方法の一態様において、所定の溶液パラメーターは調整溶液中に使用される酸化還元試薬の種類である。本明細書に使用される場合、「酸化還元試薬」という用語は、その還元型、その酸化型、またはその還元型とその酸化型の組合せを混合物中に含有する作用物質を指す。開示された方法によれば、酸化還元試薬は、特定のタンパク質および/またはバイオプロセスについての所望のジスルフィド結合形成結果に応じて、調整溶液中に存在していてもよいか、または存在していなくてもよい。酸化還元試薬が調整溶液中に存在する実施形態において、特定の酸化還元試薬を、調整溶液中に含めるために同定する。
【0041】
開示された方法に適した酸化還元試薬の非限定的な例には、2-メルカプトエチルアミン(2-MEA)、還元グルタチオン、酸化グルタチオン、2-メルカプトエタノール、ジチオスレイトール(DTT)、システイン、シスチン、ジチオブチルアミン、および亜硫酸ナトリウムが含まれる。特定の酸化還元試薬は特定のタンパク質および/または溶液に応じて優れた結果を生じることができる。当業者は、開示された方法に従ってどの酸化還元試薬を使用するかを決定するために特定のタンパク質溶液について異なる酸化還元試薬を同定し、選択し、試験することができる。(例えば、米国特許出願公開第US20130259882(A1)号を参照されたい)。特定の実施形態において、本明細書に開示された方法において使用される酸化還元試薬はメルカプトエチルアミン(2-MEA)である。2-MEAは特にIgG4のヒンジ領域ジスルフィド結合を減少させることが示されている。(Palmerら、1963、J Biol.Chem.、238(7):2393-2398)。
【0042】
酸化還元試薬の使用は異なる目的のために抗体分野において研究されている。例えば、2-メルカプトエチルアミン(2-MEA)のような酸化還元試薬が、Fabアーム交換を促進するために特に2つのFabアーム間の鎖間ジスルフィド結合を減少させるために使用されている。(Kingら、1992、Biochem J.281(2):317-23)。
【0043】
開示された方法の特定の実施形態において、1つの所定の溶液パラメーターは調整溶液中の酸化還元試薬濃度である。様々な濃度の選択される酸化還元試薬を開示された方法に従って使用することができる。酸化還元試薬が選択されると、酸化還元試薬濃度は、選択される酸化還元試薬、タンパク質、および/またはバイオプロセスに従って最適化されなければならない。酸化還元試薬が調整溶液中に存在する方法のいくつかの実施形態において、調整溶液中の酸化還元試薬の濃度を低くすると、タンパク質ポリペプチド間のジスルフィド結合の形成の増加が生じる。例えば、一実験において、調整溶液中により低い濃度の酸化還元試薬を使用すると、溶液中の抗体分子の集団において半抗体分子の割合の減少が生じる(表2)。
【0044】
酸化還元試薬が調整溶液中に存在する方法の他の実施形態において、調整溶液中の酸化還元試薬の濃度を高くすると、タンパク質ポリペプチド間のジスルフィド結合の形成または数の減少が生じる。例えば、一実験において、調整溶液中により高い濃度の酸化還元試薬を使用すると、溶液中の抗体分子の集団において半抗体分子の割合の増加が生じる。(表2)。
【0045】
特定の実施形態において、酸化還元試薬の最適濃度は、0.01、0.1、0.5、1、2、5、25、50mM、またはそれ以上を含む。
【0046】
酸化還元試薬の最適濃度はまた、溶液中のタンパク質またはポリペプチドの濃度によって影響を受ける場合がある。したがって、特定の実施形態において、酸化還元試薬濃度対タンパク質濃度の比は、調整溶液中の最適な酸化還元試薬パラメーターを決定するときに評価することができる。酸化還元試薬濃度対タンパク質濃度の比は、調整溶液についての酸化還元試薬濃度の決定に加えて、または代替として決定することができる。
【0047】
特定の実施形態において、酸化還元試薬モル濃度対タンパク質モル濃度の最適な比は、少なくとも2:1、4:1、8:1、16:1、32:1、64:1、72:1、88:1、100:1、またはそれ以上を含む。特定の無細胞タンパク質溶液などの方法の特定の実施形態において、酸化還元試薬モル濃度対タンパク質モル濃度の比は約4:1~約40:1を含む。
【0048】
インキュベーション時間
開示された方法の別の態様において、調整溶液は多量体タンパク質のポリペプチドと所定の時間、インキュベートされる。開示された方法の他の態様で見られるように、所定のインキュベーション時間は、タンパク質、バイオプロセス、および/または方法の適用のために選択される他の溶液条件の性質によって影響を受ける場合がある。調整溶液の所定の溶液パラメーターに応じて、インキュベーション時間は、1分もしくはそれ以下の短時間または1週間もしくはそれより長くてもよい。例えば、調整溶液中の酸化還元試薬の濃度が高い場合、インキュベーション時間はタンパク質に損傷を与えることを回避するように短くする必要があり得る。反対に、酸化還元試薬の濃度が低い場合、インキュベーション時間はジスルフィド結合の所望の制御を達成するようにより長くする必要があり得る。別の例示的な例として、特定のpHにて長期間、タンパク質をインキュベートする場合、タンパク質不安定性を生じる場合があり、同じタンパク質を短期間だけインキュベートする場合、同じ特定のpHにて安定なままであり得る。したがって、インキュベーション時間がタンパク質不安定性を最小化するために状況に応じて調整される場合、より極端なpH値がいくつかのタンパク質に適用される。このような試験研究および実験のさらなる非限定的な例は実施例2および
図3に開示される。
【0049】
インキュベーション温度
開示された方法の別の態様において、調整溶液は所定の温度にてポリペプチドとインキュベートされる。開示された方法の他の態様で見られるように、所定のインキュベーション温度は、タンパク質、バイオプロセス、および/または方法の適用のために選択される他の溶液条件の性質によって影響を受ける場合がある。さらに、異なるタンパク質は特定の温度にて異なる安定性を含む。例えば、所望の結果はインキュベーションの温度に応じてより速くまたはより遅く生じる場合がある。特定の実施形態において、温度はジスルフィド結合形成および半抗体の完全抗体への変換を促進するために減少させてもよい。他の実施形態において、温度は完全抗体の半抗体への変換を促進するために増加させてもよい。このような試験研究および実験のさらなる非限定的な例は実施例4および
図3に開示される。
【0050】
開示された方法の特定の実施形態において、調整溶液は約2℃~約40℃の所定の温度にてポリペプチドとインキュベートされる。
【0051】
pH
開示された方法の別の態様において、調整溶液の1つの所定の溶液パラメーターは調整
溶液のpHである。開示された方法の他の態様で見られるように、調整溶液の最適pHは、タンパク質、バイオプロセス、および/または方法の適用のために選択される他の溶液条件の性質によって影響を受ける場合がある。さらに、タンパク質が特定のpHでインキュベートされる期間もまた、最適化される。調整溶液のpHは典型的に、調整溶液とのインキュベーション後に得られるポリペプチド含有溶液の所望のpHに従って決定される。いくつかの実施形態において、pHは調整されず、ほぼ中性のpH(例えば6から8の間)で維持することが可能である。特定の他の実施形態において、ポリペプチド含有溶液のpHは約4.0から約4.8の間に調整される。他の実施形態において、ポリペプチド含有溶液のpHは約3.0から4.0の間に調整される。他の実施形態において、ポリペプチド含有溶液のpHは約2.5から4.8の間に調整される。さらに他の実施形態において、ポリペプチド含有溶液のpHは約2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、または約4.8に調整される。特定の他の実施形態において、ポリペプチド含有溶液のpHは約2.5またはそれ以下に調整される。さらに他の実施形態において、ポリペプチド含有溶液のpHは約4.8またはそれ以上に調整される。このような試験研究および実験のさらなる非限定的な例は実施例10および表3に開示される。
【0052】
気体の種類および溶解気体レベル
方法の別の態様において、1つの所定の溶液パラメーターは調整溶液に添加される気体の種類である。開示された方法によれば、気体は、特定のタンパク質および/またはバイオプロセスについての所望のジスルフィド結合形成結果に応じて、調整溶液中に存在していてもよいか、または存在していなくてもよい。気体が調整溶液中に存在する実施形態において、1つまたはそれ以上の特定の気体が調整溶液中に含まれるように選択される。選択される気体の例は、酸素(O2)、二酸化炭素(CO2)、窒素(N2)、および20%O2/10%CO2/70%空気または20%O2/5%CO2/75%空気などの異なる組成の混合気体である。
【0053】
気体が調整溶液中に存在する開示された方法の特定の実施形態において、別の所定の溶液パラメーターは調整溶液中の溶解気体レベルである。選択される気体(1つまたは複数を含む)の様々な溶解気体レベルを開示された方法に従って使用することができる。気体を選択すると、気体濃度は選択された気体、タンパク質、および/またはバイオプロセスに従って最適化されなければならない。
【0054】
導電率
方法の別の態様において、1つの所定の溶液パラメーターは調整溶液の導電率である。開示された方法によれば、導電率は、特定のタンパク質および/またはバイオプロセスについての所望のジスルフィド結合形成結果に応じて所望のレベルに設定される。導電率は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸アンモニウム、リン酸ナトリウムなどの塩、または溶液の導電率を変更することが当該分野において知られている他の化学物質の添加によって制御される。さらに、バイオプロセス内の特定の段階がそれらの典型的な導電率に従って半抗体制御点として選択される。例えば、細胞培養プロセスは典型的に生理的導電率(10~15mS/cm)で実施されるが、イオン交換充填材は典型的に導電率が低い(<10mS/cm)。
【0055】
生存細胞密度
方法の別の態様において、1つの所定の溶液パラメーターは調整溶液の生存細胞密度である。特定の実施形態において、バイオリアクター単位操作は指定した生存細胞密度に一致しているバイオリアクター運転の特定の日に終了する。開示された方法によれば、生存細胞は特定のタンパク質および/またはバイオプロセスについての所望のジスルフィド結
合形成結果に応じて、調整溶液中に存在していてもよいか、または存在していなくもよい。特定の実施形態において、生存細胞密度は少なくとも約2×106細胞/mLである。
【0056】
細胞含有方法
一態様において、開示された方法は、タンパク質またはポリペプチドが、複数の細胞を含む溶液(「細胞含有溶液」、「細胞含有懸濁液」、または「清澄化していない採取物」とも称される)中に存在する場合、バイオプロセスにおけるある時点にて適用される。タンパク質産生に使用される典型的なバイオプロセスに関して、目的のタンパク質はバイオプロセスの間の特定の時点にて複数の細胞を含む溶液中に存在する。これらの時点にて、タンパク質は、例えば複数の細胞を含むバイオリアクター、保持タンク、または非バイオリアクター単位操作容器を含む、いくつかの可能なバイオプロセス位置に存在してもよい。清澄化していない採取物は、フェドバッチ、バッチ、または灌流(連続)プロセスとしてこのようなバイオリアクタープロセスから得ることができる。いくつかの実施形態において、方法はバイオリアクターから分離した容器において適用することができる。さらに他の実施形態において、方法は、特定の調整溶液を使用して所望のジスルフィド結合形成を達成するように具体的に設計された単位操作容器内に適用することができる。例えば、単位操作容器は特定の条件下で半抗体の完全抗体への所望の変換を達成するように設計される。これらの分離容器の非限定的な例には、管型リアクター、連続撹拌型タンクリアクター(CSTR)、および再循環ループが含まれる。これらのバイオプロセス位置に関するさらなる情報は本明細書のいずれかの場所に提供されている。
【0057】
目的のタンパク質が複数の細胞を含む溶液中に存在する方法のいくつかの実施形態において、タンパク質は生存細胞の集団を含む調整溶液と接触する。特定のこれらの実施形態において、調整溶液はタンパク質および複数の細胞を含む同じ溶液であってもよい。例えば、開示された方法がバイオリアクター内に存在するタンパク質に適用される場合、バイオリアクター内の溶液(例えば培養培地)は生存細胞を含む調整溶液とみなされる。このように、この例示的な例において、所定の溶液パラメーターは目的のタンパク質を既に含有している溶液のパラメーターに対応する。他のこのような実施形態において、方法は、例えばフェドバッチまたはバッチバイオリアクター運転の終わりに得られる生存細胞を含む溶液などの、バイオプロセスから得られる調整溶液とタンパク質のインキュベーションを含む。いくつかの実施形態において、開示された方法は、フェドバッチまたはバッチバイオリアクター運転の終わりおよびタンパク質産生バイオプロセスの清澄化または捕捉段階の前に適用される。しかしながら、特定のタンパク質、バイオプロセス、および所望のジスルフィド結合形成結果に応じて、「保持」工程を、そのジスルフィド結合形成結果を達成するのに必要とされる時間、試薬のコスト、および/または実施の容易さなどの考慮に応じてタンパク質産生バイオプロセスの実質的に任意の段階にて実施することができる。
【0058】
特定の実施形態において、開示された方法は、タンパク質を含む細胞含有溶液が特定の所定の時間、「保持」を受ける工程を含む。この「保持」工程は典型的なタンパク質産生バイオプロセスにおいて慣例ではない工程である。実施例に例示されるように、試験条件および調整溶液パラメーターに応じて、細胞の存在下でバイオ治療用IgG4抗体を保持することは驚くべきことに、抗体集団に存在する半抗体の割合を減少させ、増加させ、またはほぼ維持できる(例えば、
図3および実施例1から7を参照されたい)。したがって、生存細胞を含む調整溶液をポリペプチドと所定の時間、インキュベートすることによって、ポリペプチド間のジスルフィド結合の形成を制御することができる。
【0059】
特定の実施形態において、「保持」工程の間、制御されていない供給が使用される。別の実施形態において、さらにより合理化されたプロセスに関して、バイオリアクター自体を保持容器として使用することができ、細胞生存率を維持することを意図する典型的なバ
イオリアクター制御または供給は止められる。保持工程がバイオリアクター内で行われる場合、制御された供給はインキュベーション保持時間の間、継続され、変化され、または停止される。特定の実施形態において、方法の「保持」工程の間の条件はモニターされず、バイオリアクターと同じほど厳密には調節されない。例えば、いくつかのこのような実施形態において、「保持された」抗体サンプルの酸素レベルおよびpHパラメーターは最小限のみであるか、または細胞生存率もしくは生産性を維持もしくは制御するように設計された様式でモニターされず、調節されない。
【0060】
他の実施形態において、方法の「保持」工程の間の条件は能動的にモニターされ、調節される。例えば、いくつかのこのような実施形態において、「保持された」抗体サンプルの酸素レベルおよびpHパラメーターは能動的およびしっかりとモニターされ、調節される。保持工程の間の調整溶液条件の能動的モニタリングおよび調節は、保持工程の継続時間の全て、保持工程の継続時間の一部の間に行われるか、または保持工程の持続時間の間には行われない。保持工程の間の調整溶液の能動的モニタリングおよび調節は、たとえこの能動的モニタリングおよび調節が所望のジスルフィド結合形成結果を達成するのに必要でなくても、抗体サンプルについての所望の結果の再現性を保証するために適用される。保持工程を含むこの方法は、本明細書に開示される種々の条件、溶液、および構成を使用して複数のスケールにて実証されている。多量体タンパク質を含有する溶液を保持する単位操作(例えば開示された方法の「保持」工程)は、少なくとも1つのリザーバーを使用して実施することができる。リザーバーの体積はタンパク質を産生させるために使用されるバイオプロセスに応じて幅広い範囲にわたって変化させることができる。例えば、この単位操作を達成するために使用されるリザーバーは商業的な産生バイオプロセスのように約1mL~約20,000Lの体積を有してもよい。リザーバーは、特定の産生設計実施形態において、約1分から3週間までまたはそれ以上に及ぶ幅広い範囲の期間の間、抗体を含有する流体を保持することができる。リザーバーは、抗体を含有する溶液を保持し、(例えば25℃未満、15℃未満、または10℃未満の温度にて)冷蔵するか、または保持し、(例えば25℃超、30℃超または35℃超の温度にて)加熱する両方のために使用される。リザーバーは、円柱、楕円柱、またはほぼ矩形の密封および非透過性のバッグを含む、任意の形状を有してもよい。
【0061】
清澄化していない採取物保持における異なるインキュベーション条件は異なる結果を導くことが示されている。一態様において、細胞含有タンパク質溶液についての最も重要な前調整溶液パラメーターには、保持時間、保持温度、(採取日によって制御された)採取時の細胞生存率、および撹拌が含まれる(
図3~4を参照されたい)。一つの例示的な実施形態において、細胞含有(清澄化していない)採取物は回収され、清澄化および捕捉の下流工程における後の処理前に10日またはそれ以上の日数の間、8℃に冷却される。
【0062】
さらに、上記に開示されるように、本明細書に提供される方法は、ポリペプチド間のジスルフィド結合の形成を加速させるために細胞含有タンパク質溶液への酸化還元試薬の添加を開示する。例えば、半抗体の完全抗体への変換によって観察されるように、酸化還元試薬を含む細胞含有タンパク質溶液は酸化還元試薬なしの清澄化していない採取物サンプルより速い速度および多くの程度までHabの割合を減少させることができる(
図5)。一実施形態において、半抗体のレベルを減少させるために、例えば0.5Mの還元グルタチオンおよび5mMの酸化グルタチオンなどの酸化還元試薬のカクテルが、下流の後の処理前に数週間の代わりに数日間、細胞含有採取物に加えられる。
【0063】
無細胞方法
別の態様において、開示された方法は、ポリペプチドが「無細胞」溶液中に存在する場合、バイオプロセス、バイオプロセス工程、または単位操作におけるある時点にて適用される。これらの無細胞溶液は目的のタンパク質を含むが、本質的に細胞は溶液中に存在し
ていない。これらの無細胞溶液中のより低いレベルの不均一性および複雑性は本明細書に開示された方法の適用にとって有益である。特定の実施形態において、無細胞溶液はプロテインA溶出液を含む。他の実施形態において、無細胞溶液は清澄化した採取物を含む。他の溶液、緩衝液、および/または溶出液を、本明細書に開示された方法に従って無細胞溶液中で使用することができる。
【0064】
タンパク質産生において使用される典型的なバイオプロセスに関して、目的のタンパク質は、バイオプロセス、バイオプロセス工程、または単位操作における特定の時点にて「無細胞」溶液中に存在する。特定の例示的な実施形態において、開示された方法は、ウイルス不活性化、調節、クロマトグラフィー、濾過、希釈、濃縮のバイオプロセス工程、または無細胞である任意の他のバイオプロセス工程の間の時点にて適用される。(
図2)。タンパク質溶液が無細胞であり得るバイオプロセスの間の工程のさらなる非限定的な例には、限定されないが、清澄化した採取物、捕捉溶出液、中間クロマトグラフィープロセス中間体、または仕上げクロマトグラフィープロセス中間体が含まれる。(
図2)。バイオプロセスの間の全てを通して、開示された方法を適用するための多くの機会が存在し、それらは典型的に、例えば、ウイルス不活性化を達成するためにpHが下げられる場合またはクロマトグラフィーカラム操作前もしくは後にpHもしくは導電率が調節される場合を含む、溶液相条件が能動的に操作される工程を含む。特定の実施形態において、開示された方法は清澄化した採取物段階にて適用される。特定の他の実施形態において、開示された方法は捕捉溶出段階にて適用される。いくつかの実施形態において、無細胞溶液は捕捉後溶液である。
【0065】
本明細書に開示されるように、無細胞溶液方法についての最適なインキュベーション条件および所定の条件パラメーターは目的の特定のタンパク質について最初に決定されるべきである。ジスルフィド結合形成に対するインキュベーション条件および所定の条件パラメーターの効果は、タンパク質溶液中に存在する半抗体(例えば、IgG4半抗体)の割合を測定することによって実証することができる。いくつかの実施形態において、多量体タンパク質のポリペプチド間のジスルフィド結合形成を急速に増加させるために、酸化還元試薬をプロセス中間体などの無細胞溶液に添加することができる。本明細書に開示された方法を使用して、無細胞タンパク質溶液中のIgG4半抗体の割合を測定することによって、ポリペプチド間のジスルフィド結合を、例えば2-MEAを含めた特定の酸化還元試薬を指定された濃度にて添加することにより効果的に制御することができる。例えば、半抗体を減少させるためにインキュベーション条件および所定の条件パラメーターを最適化する研究を実施して、酸化還元試薬のpH、時間、温度、濃度、およびIgG4抗体の濃度などの例示的な条件を評価した。例えば、実施例9から15を参照されたい。1つのこのような例示的な研究において、IgG4抗体を含む清澄化した採取物を、2~8℃にて酸化還元試薬2-メルカプトエチルアミン(2-MEA)とインキュベートし、プロテインAカラム上で精製して酸化還元試薬を除去すると、Habの割合は1時間以内および特定の条件下で早くて10分で約18%~約9%に減少した。(例えば
図9を参照されたい)。特定の実施形態において、開示された方法において使用される酸化還元試薬は2-MEAである。2-MEAは、試験した例示的な抗体溶液中のHab含有量を減少させるための最も効果的な酸化還元試薬であることが示された。特定の実施形態において、無細胞溶液中のポリペプチド間のジスルフィド結合の形成は調整溶液のpHに高度に依存している。
【0066】
定義
本明細書に使用される場合、名詞の前の「一つの(a)」という単語は1つまたはそれ以上の特定の名詞を表す。例えば、「抗体」という語句は「1つまたはそれ以上の抗体」を表す。
【0067】
本明細書に使用される場合、「抗体」という用語は、広義には、4つのポリペプチド鎖、2つの重(H)鎖および2つの軽(L)鎖、または本質的に免疫グロブリン(Ig)分子のエピトープ結合特性を保持している、それらの任意の機能的変異体、バリアント、もしくは誘導体から構成される任意の免疫グロブリン(Ig)分子を指す。大部分の抗体において、各重鎖は重鎖可変領域(本明細書においてHCVRまたはVHと短縮される)および重鎖定常領域から構成される。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2、およびCH3から構成される。各軽鎖は軽鎖可変領域(本明細書においてLCVRまたはVLと短縮される)および軽鎖定常領域から構成される。軽鎖定常領域は1つのドメイン、CLから構成される。VHおよびVL領域は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる、より保存されている領域が散在している、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる、超可変性の領域にさらに細分される。各VHおよびVLは、以下の順序:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4でアミノ末端からカルボキシ末端まで配列されている3つのCDRおよび4つのFRから構成される。抗体はまた、二重特異性抗体、三重特異性抗体、二量体抗体、三量体抗体、または多量体抗体であってもよい。(例えば、米国特許出願公開第US20120251541(A1)号を参照されたい)。
【0068】
本明細書に使用される場合、「抗体断片」という用語は、完全抗体の一部を指し、典型的には、Ig分子の必須のエピトープ結合特性、またはその任意の機能的変異体、バリアント、もしくは誘導体を保持している1つのポリペプチド鎖(重(H)鎖または軽(L)鎖のいずれか)である。抗体断片の例には、限定されないが、Fab、Fab’、F(ab’)2およびFv断片、機能的重鎖断片、機能的軽鎖断片、Affibodies(登録商標)、およびNanobodies(登録商標)が含まれる。
【0069】
「ヒト化抗体」は、重および軽鎖のフレームワークおよび定常ドメインにおける特定のアミノ酸が、ヒトにおける免疫反応を回避または抑止するように変異されている、非ヒト種に由来する抗体である。非ヒト(例えばマウス)抗体のヒト化型は非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有するキメラ抗体である。大部分に関して、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域由来の残基が、所望の特異性、親和性、および能力を有する、マウス、ラット、ウサギまたは非ヒト霊長類などの非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域由来の残基と置き換えられる、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。いくつかの場合、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)残基は対応する非ヒト残基と置き換えられる。さらに、ヒト化抗体はレシピエント抗体またはドナー抗体において見出されない残基を含むことができる。これらの修飾は抗体性能をさらに改良するために行われる。一般に、ヒト化抗体は、全てまたは実質的に全ての超可変ループが非ヒト免疫グロブリンのものに対応し、全てまたは実質的に全てのFR領域がヒト免疫グロブリン配列のものである、少なくとも1つ、および典型的に2つの可変ドメインの実質的に全てを含む。ヒト化抗体はまた、典型的には、免疫グロブリン定常領域(Fc)、典型的にヒト免疫グロブリンのものの少なくとも一部も含む。さらなる詳細に関しては、Jonesら、1986、Nature 321:522-525;Riechmannら、1988、Nature 332:323-329;Prestaら、1992、Curr.Op.Struct.Biol.2:593-596を参照されたい。
【0070】
治療用抗体の非限定的な例には、パニツムマブ、オマリズマブ、アバゴボマブ、アブシキシマブ、アクトクスマブ、アダリムマブ、アデカツムマブ、アフェリモマブ、アフツズマブ、アラシズマブ、アルツモマブ、アマツキシマブ、アナツモマブ、アポリズマブ、アチヌマブ、トシリズマブ、バシリジマブ(basilizimab)、ベクツモマブ、ベリムマブ、ベバシズマブ、ビシロマブ、カナキヌマブ、セツキシマブ、ダクリズマブ、デンスマブ(densumab)、エクリズマブ、エドレコロマブ、エファリズマブ、エファングマブ、エルツマキソマブ、エタラシズマブ、エタネルセプト、ゴリムマブ、インフ
リキシマブ、ナタリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ペルツズマブ、ラニビズマブ、リツキシマブ、トシリズマブ、およびトラスツズマブが含まれる。
【0071】
本明細書に使用される場合、「非抗体タンパク質」という用語は、以下の免疫グロブリン特異親和性相互作用のいずれか1つにより結合することができない任意のタンパク質である:Fc領域とのプロテインA結合、Fab領域とのプロテインG結合、Fc領域とのプロテインG結合、または免疫グロブリン軽鎖とのプロテインL結合。特定の実施形態において、非抗体タンパク質はバイオ治療用タンパク質である。バイオ治療用タンパク質は、例えば、操作されたタンパク質、酵素、ホルモン、血液学的因子、成長因子、または免疫学的因子であってもよい。「非抗体タンパク質」という用語は、精製段階の前、間、または後を含む、バイオプロセスの任意の段階におけるタンパク質産物を指すことができる。非抗体タンパク質は、非抗体タンパク質および他の成分を含む不均一溶液から精製および/または単離される組換えタンパク質である。このような成分の例は、液体培養培地に存在するか、または宿主細胞(例えば、哺乳動物、酵母、または細菌宿主細胞由来)および他の生物的夾雑物(例えば、ウイルスおよび細菌夾雑物)由来の夾雑タンパク質、脂質、および核酸である。
【0072】
「多量体タンパク質」という用語は、1つまたはそれ以上のジスルフィド結合によって会合、または結合している1つまたはそれ以上のポリペプチドを含むタンパク質を含むように本明細書において定義される。多量体タンパク質は、1つまたはそれ以上のジスルフィド結合によって各単量体サブユニットが1つまたはそれ以上の他の単量体サブユニットと会合している、1つより多いポリペプチド単量体サブユニットの複合体として存在することができる。多量体タンパク質は2つまたはそれ以上の同一のポリペプチド鎖を含むことができるが、異なるポリペプチド鎖を1つも含有していない(「ホモ多量体」)。「ホモ多量体」は同じポリペプチド鎖の2つまたはそれ以上のコピーからなる。同様に、「ホモ二量体」は同じポリペプチド鎖の2つのコピーからなり、「ホモ三量体」は同じポリペプチド鎖の3つのコピーからなる、などである。あるいは、多量体タンパク質は少なくとも2つの異なるポリペプチド鎖を含んでいてもよい。(「ヘテロ多量体」)。ヘテロ多量体が3つまたはそれ以上のポリペプチド鎖を有する場合、それらのいくつかは、少なくとも1つがその他と異なる限り、互いに対して同一であってもよい。「多量体」という用語は、多量体がいくつのポリペプチド鎖を含有しているかを指定する、「二量体」、「三量体」、または「四量体」などの用語を包含する。抗体は多量体タンパク質の例である。抗体様多量体タンパク質の例には、scFv、ダイアボディ(diabody)、およびトリボディ(tribody)もしくはトリアボディ(triabody)分子、またはFc融合タンパク質の多量体が含まれる。多量体タンパク質として存在することができる非抗体タンパク質の例には、フィブリノゲン、アポリポタンパク質ヘテロ二量体、血小板由来成長因子、リーリン、およびブタ顎下腺ムチンが含まれる。
【0073】
本明細書に使用される場合、「ポリペプチド」という用語は、少なくとももしくは約4個のアミノ酸、少なくとももしくは約5個のアミノ酸、少なくとももしくは約6個のアミノ酸、少なくとももしくは約7個のアミノ酸、少なくとももしくは約8個のアミノ酸、少なくとももしくは約9個のアミノ酸、少なくとももしくは約10個のアミノ酸、少なくとももしくは約11個のアミノ酸、少なくとももしくは約12個のアミノ酸、少なくとももしくは約13個のアミノ酸、少なくとももしくは約14個のアミノ酸、少なくとももしくは約15個のアミノ酸、少なくとももしくは約16個のアミノ酸、少なくとももしくは約17個のアミノ酸、少なくとももしくは約18個のアミノ酸、少なくとももしくは約19個のアミノ酸、または少なくとももしくは約20個のアミノ酸の長さ、または20個より多いアミノ酸の長さであるポリペプチド配列を意味する。本明細書に使用される場合、「ポリペプチド」の定義は、タンパク質の単量体型(例えば単量体)および多量体型(例えば二量体、三量体など)の両方を含む。フィブリノゲンは六量体タンパク質の一例である
。ポリペプチドの他の例には、重鎖および軽鎖抗体ペプチドが含まれる。
【0074】
「完全抗体」という用語は、重鎖間ジスルフィド結合が存在する抗体を含み、それにより完全抗体は、非還元ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動または非還元変性溶液条件を使用した他の分析技術を使用して、組み合わされた2つの軽鎖ポリペプチドおよび2つの重鎖ポリペプチドとして観察される。(例えば、
図11および
図12を参照されたい)。
【0075】
「半抗体」という用語は、重鎖間ジスルフィド結合が存在していない抗体(例えばIgG4抗体)を含み、それにより半抗体は、非還元ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動または非還元変性溶液条件を使用した他の分析技術を使用して、組み合わされた単一の軽鎖ポリペプチドおよび単一の重鎖ポリペプチドとして観察される。非変性条件下で、半抗体は、鎖間ジスルフィド結合の非存在下で依然として優勢である強い鎖間非共有相互作用に起因して検出することが難しい。(Taylorら、2006、Anal Biochem.353(2):204-208)。半抗体は
図1Aに例示され、サンプルを含有する半抗体の非還元ドデシル硫酸ナトリウム-ポリアクリルアミドゲル電気泳動分析の結果は
図12に含まれる。
【0076】
本明細書に使用される場合、「半抗体変換」または「半抗体の変換」という用語は、例えば、鎖間ジスルフィド結合の形成または改良によって半抗体が完全抗体になる、バイオ化学プロセスを指す。
【0077】
「活性」という用語は、1つまたはそれ以上の抗原、標的、またはリガンドに対する抗体または半抗体の結合特異性および親和性などの活性を含む。
【0078】
「IgG4」という用語は、二次免疫反応の間に産生され、血液中に最も一般的に見出されるIgG免疫グロブリンのサブクラスを含む。これらのIgG抗体は典型的にγ4重鎖を含有する。
【0079】
本明細書に開示された方法は、IgG4抗体、特に治療用IgG4抗体に対して有意な利点を提供する。本明細書に提供される方法によって産生されるIgG4抗体の非限定的な例には、ナタリズマブ(Tysabri(登録商標)、Biogen Idec)、ゲムツズマブ(Mylotarg(登録商標)、Pfizer)、およびフレソリムマブ(Genzyme)が含まれる。α4β1(VLA-4)およびα4β7インテグリンのα4サブユニットを対象とするナタリズマブ、ならびにCD33に特異的であるゲムツズマブは、ヒトでの使用のために以前に承認されている2つのヒト化IgG4抗体である。ナタリズマブは多発性硬化症(MS)の治療に効果的であり、細胞毒性カリケアマイシン誘導体にコンジュゲートしているゲムツズマブは、急性骨髄性白血病(AML)を治療するために使用される(Zohrenら、2008、Blood 111:3893-3895)。別のヒト化IgG4に基づいた治療であるTGN1412(CD28特異的)の開発は健常人において予想外の有害事象を引き起こした後に中断された。ナタリズマブもまた、有害事象、特に進行性多巣性白質脳症、JCポリオーマウイルスによる中枢神経系(CNS)感染に関連している。
【0080】
「半分子交換」という用語は、抗体重鎖および結合している軽鎖(半分子)が、別のIgG4分子由来の重-軽鎖対と交換している、IgG4などの抗体についてのタンパク質修飾の種類を指す。したがって、抗体分子は2つの異なる抗原を認識する2つの異なるFabアームを獲得する(二重特異性分子を生じる)ことができるが、それらのFcドメイン構造は未変化のままである。(Labrijnら、2013、Proc Natl Acad Sci USA.110(13):5145-50)。種間半分子交換はまた、
変化したFcドメイン構造を生じ、さらに2種の寄与体の各々由来のドメインを含むように行われる(Labrijnら、2009、Nature Biotechnol.27(8):767-771)。半分子交換はまた、「Fabアーム交換」とも称される。(Rispensら、2011、J Am Chem Soc.133(26):10302-10311)。
【0081】
「非還元」という用語は、ジスルフィド結合(例えばジスルフィド連結)が保存される条件を指し、特に、ジスルフィド結合がインタクトなままであり遊離スルフヒドリルに変換されない条件を指す。
【0082】
「実質的に含まない」という用語は、指定した物質を少なくともまたは約90%含まない(例えば、少なくとももしくは約95%、96%、97%、98%、または少なくとももしくは約99%含まない、または約100%含まない)組成物(例えば、液体培養培地)を意味する。
【0083】
「培養」または「細胞培養」という用語は、制御されたセットの物理的条件下での細胞の維持または増殖を意味する。
【0084】
「連続プロセス」という用語は、結果を連続して達成するか、または生じるプロセス(例えば、液体培養培地から治療用タンパク質医薬品を連続して産生するプロセス)を意味する。例えば、治療用抗体医薬品は、システムが作動している間に、連続して産生される(もちろん、抗体がシステムの中を通って出口まで移動している間の初期の遅延期を考慮に入れる)。(概して、Shulerら、1992.Bioprocess engineering:basic concepts.New York:Prentice-Hallを参照されたい。)1つの例示的な連続生物学的製造システムは国際特許出願第PCT/US2014/019909号に記載されている。
【0085】
「半連続プロセス」という用語は、概して、任意の単一のプロセス工程における流動物質の入力または出力が不連続または断続的である、標的分子を精製するための連続プロセスであるプロセスを意味する。例えば、プロセス工程(例えば、結合および溶出クロマトグラフィー工程)における入力は連続して充填される;しかしながら、出力は断続的に回収され、精製プロセスにおける他のプロセス工程は連続的である。したがって、いくつかの実施形態において、本明細書に記載されるプロセスは、それらが断続様式で操作される少なくとも1つの単位操作を含むが、プロセスまたはシステムにおける他の単位操作は連続様式で操作されるという点で「半連続的」である。
【0086】
「回収する」または「回収すること」という用語は、液体培養培地または希釈した液体培養培地に存在する1つまたはそれ以上の他の成分(例えば、培養培地タンパク質または哺乳動物細胞に存在するか、もしくはそれから分泌される1つもしくはそれ以上の他の成分(例えば、DNA、RNA、または他のタンパク質))から(例えば、重量で少なくとももしくは約5%、例えば少なくとももしくは約10%、15%、20%、25%、30%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、または少なくとももしくは約95%純粋な)タンパク質を部分的に精製または単離するために実施される工程を意味する。典型的に、捕捉は、(例えば、親和性クロマトグラフィーの使用により)タンパク質に結合する樹脂を使用して実施される。液体培養培地または希釈した液体培養培地からタンパク質を捕捉するための非限定的な方法は本明細書に記載されており、その他は当該分野において公知である。タンパク質はクロマトグラフィーカラムまたはクロマトグラフ膜(例えば、本明細書に記載されるクロマトグラフィーカラムまたはクロマトグラフ膜のいずれか)を使用して液体培養培地から回収される。
【0087】
「精製すること」という用語は、抗体を含有する流体中に存在する1つまたはそれ以上の他の成分(例えば、液体培養培地タンパク質または哺乳動物細胞に存在するか、もしくはそれから分泌される1つもしくはそれ以上の他の成分(例えば、DNA、RNA、または他のタンパク質))から抗体を単離するために実施される工程を意味する。例えば、精製は最初の捕捉工程の後に実施される。精製は、(例えば、親和性クロマトグラフィー、アニオンもしくはカチオン交換クロマトグラフィー、または分子篩クロマトグラフィーの使用により)抗体に結合する樹脂を使用して実施される。抗体は、クロマトグラフィーカラムまたはクロマトグラフ膜(例えば、本明細書に記載されるクロマトグラフィーカラムまたはクロマトグラフ膜のいずれか)を使用して、タンパク質を含有する流体から仕上げを施される。
【0088】
「溶出液」という用語は、当該分野の用語であり、検出可能な量の抗体を含有するクロマトグラフィーカラムまたはクロマトグラフ膜から放出される流体を意味する。1つの非限定的な例はプロテインA溶出液である。
【0089】
「濾過すること」という用語は、液体(例えば、本明細書に記載されるシステムまたはプロセスのいずれかに存在する液体培養培地または流体)からの望ましくない生物学的夾雑物(例えば、哺乳動物細胞、細菌、酵母細胞、ウイルス、またはマイコバクテリウム)および/または粒子状物質(例えば、沈殿タンパク質)の少なくとも一部(例えば、少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%、または99%)の除去を意味する。
【0090】
「清澄化すること」という用語は、液体(例えば液体培養培地)からの細胞、細胞残屑、および他の大きなバイオリアクターまたは細胞培養不純物の除去を意味する。タンパク質サンプルを清澄化するいくつかの方法は当該分野において公知である。清澄化方法の非限定的な例には、遠心分離、精密濾過、深層濾過、滅菌濾過、沈殿、凝集、および液液抽出が含まれる。清澄化工程の完了直後に得られた溶液は典型的に「清澄化採取物」と称される。清澄化手段に起因して、清澄化採取物は本質的に無細胞である。
【0091】
「調節工程」という用語は、酸化還元試薬濃度、pH、溶解気体レベル、導電率、および/または生存細胞密度などの、ポリペプチド含有流体のパラメーターを変化させるために、ポリペプチドを含有する1つの流体が1つまたはそれ以上のさらなる流体と組み合わされる、バイオプロセス内の工程を意味する。調節方法の非限定的な例には、pHを減少もしくは増加させるためのそれぞれ低もしくは高pH溶液の添加、導電率を増加させるための濃縮物もしくは酸化還元試薬濃縮物の添加、または細胞含有流体の無細胞流体への添加が含まれる。流体添加の方法には、タンクもしくはバッグなどの保持容器内への直接添加、または2つもしくはそれ以上の流体がプロセス流内で互いに組み合わされるインライン添加が含まれる。特定の実施形態において、調節工程は緩衝液調節リザーバーを使用して実施される。
【0092】
「灌流バイオリアクター」という用語は、第1の液体培養培地中に複数の細胞を含有するバイオリアクターであって、バイオリアクター内に存在する細胞の培養には、第1の液体培養培地の周期的または連続的抜き取り、および同時またはその直後の実質的に同じ体積の第2の液体培養培地のバイオリアクター内への添加が含まれる、バイオリアクターを意味する。いくつかの例において、培養期間の間の反復(incremental)期間(例えば、約24時間の期間、約1分から約24時間の間の期間、または24時間を超える期間)にわたって抜き取り、および添加される第1の液体培養培地の体積が反復的に変化(例えば増加または減少)(例えば、毎日、培養培地が再供給される割合)する。各日に抜き取られ、置き換えられる培地の割合は、培養される特定の細胞、開始播種密度、お
よび特定の時間における細胞密度に応じて変化させてもよい。「RV」または「リアクター体積」とは、培養プロセスの開始時に存在する培養培地の体積(例えば、播種後に存在する培養培地の全体積)を意味する。
【0093】
「フェドバッチバイオリアクター」という用語は、当該分野の用語であり、第1の液体培養培地中に複数の細胞を含有するバイオリアクターであって、バイオリアクター内に存在する細胞の培養には、細胞培養から第1の液体培養培地または第2の液体培養培地を実質的にまたは相当抜き取ることなしに、第1の液体培養培地に第2の液体培養培地を周期的または連続的に添加することが含まれる、バイオリアクターを意味する。第2の液体培養培地は第1の液体培養培地と同じであってもよい。フェドバッチ培養のいくつかの例において、第2の液体培養培地は第1の液体培養培地の濃縮形態である。フェドバッチ培養のいくつかの例において、第2の液体培養培地は乾燥粉末として添加される。
【0094】
本明細書に使用される場合、「バイオプロセス」という用語は、概して、開示された方法に従ってタンパク質に適用される任意のプロセスを指す。特定の実施形態において、バイオプロセスは、液体培養培地から治療用タンパク質医薬品を製造するプロセスにおいて実施することができる1つまたはそれ以上の機能的段階(「単位操作」)である。典型的なバイオプロセスの例を
図2に示す。バイオプロセスの非限定的な例には、濾過(例えば、抗体を含有する流体からの夾雑細菌、酵母ウイルス、もしくはマイコバクテリウム、および/または特定の物質の除去)、捕捉、エピトープ標識除去、精製、保持または保存、仕上げ、ウイルス不活性化、抗体を含有する流体のイオン濃度および/またはpHの調節、ならびに望ましくない塩の除去が含まれる。特定の実施形態において、バイオプロセスは、バイオリアクタープロセス、シードトレイン、捕捉クロマトグラフィー、中間クロマトグラフィー、濾過、遠心分離、沈殿、凝集、UV照射、および/またはウイルス不活性化である。特定の実施形態において、バイオプロセスはバイオリアクターまたはクロマトグラフィー装置内で行われる。
【0095】
いくつかの実施形態において、「モニタリング」という用語は、製品品質特性(半抗体レベルを含む)、pH、溶解酸素、培地成分、バイオプロセス単位操作、および流速などの特定のプロセスパラメーターまたはプロセス出力を測定する能力を指す。モニタリングは実験またはバイオプロセスの特定の設計に従って適用される。例えば、モニタリングは、バイオプロセス内の特定の工程もしくは期間について、またはバイオプロセスの持続時間についてのバイオプロセスにおける1つまたはそれ以上の特定の時点に適用される。
【0096】
いくつかの実施形態において、本明細書に使用される場合、「制御すること」という用語は、1つまたはそれ以上のインキュベーション条件および/または所定の溶液パラメーターを調節することによって多量体タンパク質のポリペプチド間のジスルフィド結合の形成または数を変化させる能力を指す。「制御すること」とはまた、バイオプロセスの特定の時点の間の多量体タンパク質のポリペプチド間のジスルフィド結合の形成または数を増加させ、減少させ、または維持する能力も指す。いくつかの実施形態において、「制御すること」という用語は、バイオプロセスまたは単位操作の特定の工程または段階内のIgG4抗体に存在する半抗体のレベルを変化させる能力を指す。調節することができるこのようなパラメーターの非限定的な例には、時間、温度、pH、酸化還元試薬の種類および濃度、気体の種類、溶解気体レベル、導電率、ならびに/または生存細胞密度が含まれる。
【0097】
本明細書に使用される場合、「CQA」とも称される「重要な品質特性」という用語は、所望の製品品質を保証するために適切な制限、範囲、または分布内であるべきである物理的、化学的、生物学的、または微生物学的性質または特性を意味する。CQAの一例は多量体タンパク質のポリペプチド間のジスルフィド結合の数である。CQAの別の例は抗
体溶液中の半抗体の割合である。CQAの他の非限定的な例には、製品純度、効力、荷電アイソフォームプロファイル、翻訳後修飾、酸化、還元、脱アミド、付加物形成、短縮型、酵素的切断、比活性、ペプチドマップ、二量体含有量、製品凝集、部位特異的グリコシル化、全グリカン、および/またはグリコシル化プロファイルが含まれる。開示された方法の特定の用途についての適切なCQAの選択および適切なアッセイは当業者の能力の範囲内である。
【0098】
特定の実施形態において、抗体のCQAは測定によって決定される。いくつかのこのような実施形態において、CQAは、ハイスループットおよび/または迅速分析技術を使用して測定される。特定の実施形態において、CQAは、以下の非限定的な例:高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、示差屈折率測定、蛍光、超高速液体クロマトグラフィー(UPLC)、マルチアングルレーザー光散乱分析(MALLS)、質量分析、タンデム質量分光法、等電点電気泳動法、SDS-PAGE、および/または示差走査熱量測定を含む分析技術を使用して測定される。さらに他の実施形態において、ハイスループットおよび/または迅速分析技術はロボットによって実施される。さらなる実施形態において、ロボットは液体処理ロボットである。
【0099】
クロマトグラフィー
本明細書に記載されるタンパク質産生バイオプロセスは、多くの場合、1つまたはそれ以上のクロマトグラフィーカラムの使用を含む。1つまたはそれ以上の異なる種類の緩衝液をクロマトグラフィーの間に利用することができる。当該分野において知られているように、本明細書に記載されるプロセスにおいて使用される1つまたはそれ以上の種類の緩衝液は、クロマトグラフィーカラムまたはクロマトグラフィーカラムのクロマトグラフ膜に存在する樹脂、目的のタンパク質、および単位操作によって決まる。例えば、本明細書に記載されるプロセスのいずれかにおけるクロマトグラフィーカラムの使用の間に利用される緩衝液の体積および種類は、1つもしくはそれ以上のCQAまたは1つもしくはそれ以上の以下のタンパク質の性質:タンパク質の全収率、タンパク質の活性、抗体の純度のレベル、およびタンパク質を含有する流体からの生物学的夾雑物の除去(例えば、活性ウイルス、マイコバクテリウム、酵母細菌、または哺乳動物細胞の不在)を最適化するために選択される。
【0100】
現在記載されているバイオプロセスにおいて実施される単位操作には、例えば、タンパク質の清澄化、タンパク質の捕捉、タンパク質を含有する流体中に存在するウイルスの不活性化、タンパク質の精製、タンパク質を含有する流体の保持、タンパク質および細胞を含有する流体の保持、タンパク質を含有する流体からの粒子状物質および/または細胞の濾過または除去、ならびにタンパク質を含有する流体のイオン濃度および/またはpHの調節が含まれる。
【0101】
回収の単位操作は、例えば、回収機構を利用するクロマトグラフィーカラムまたはクロマトグラフィー樹脂を使用して実施される。回収機構の非限定的な例には、プロテインA結合回収機構、タンパク質またはタンパク質断片結合回収機構、基質結合回収機構、アプタマー結合回収機構、標識結合回収機構(例えば、ポリ-His標識に基づいた回収機構)、および補因子結合回収機構が含まれる。捕捉はまた、カチオン交換もしくはアニオン交換クロマトグラフィー、または分子篩クロマトグラフィーを実施するために使用される樹脂を使用して実施される。タンパク質を回収するために使用される非限定的な樹脂は本明細書に記載されている。
【0102】
タンパク質の精製の単位操作は、例えば、回収システムを利用する樹脂を含有するクロマトグラフィーカラムまたはクロマトグラフ膜を使用して実施される。回収機構の非限定的な例には、プロテインA結合回収機構、タンパク質またはタンパク質画分結合回収機構
、基質結合回収機構、アプタマー結合回収機構、標識結合回収機構(例えば、ポリ-His標識に基づいた回収機構)、および補因子結合回収機構が含まれる。精製はまた、カチオン交換もしくはアニオン交換クロマトグラフィー、または分子篩クロマトグラフィーを実施するために使用される樹脂を使用して実施される。タンパク質を精製するために使用される非限定的な樹脂は本明細書に記載されている。
【0103】
タンパク質を含有する流体の濾過の単位操作は、フィルター、または分子篩樹脂を含有するクロマトグラフィーカラムもしくはクロマトグラフ膜を使用して実施される。当該分野において知られているように、任意の沈殿した物質および/または細胞(例えば、沈殿した、折り畳まれていないタンパク質;沈殿した、望ましくない宿主細胞タンパク質;沈殿した脂質;細菌;酵母細胞;真菌細胞;マイコバクテリウム;および/または哺乳動物細胞)を除去できる多種多様のサブミクロンフィルター(例えば、1μm未満、0.5μm未満、0.3μm未満、約0.2μm、0.2μm未満、100nm未満、80nm未満、60nm未満、40nm未満、20nm未満、または10nm未満の孔径を有するフィルター)が当該分野において利用可能である。約0.2μmまたは0.2μm未満の孔径を有するフィルターがタンパク質を含有する流体から細菌を効果的に除去するために知られている。分子篩樹脂を含有するクロマトグラフィーカラムまたはクロマトグラフ膜もまた、タンパク質を含有する流体の濾過の単位操作を実施するために使用される。
【0104】
培養方法
本明細書に記載されるプロセスのいくつかには、液体培養培地を含有するバイオリアクター(例えば、灌流またはフェドバッチバイオリアクター)内で多量体タンパク質または多量体タンパク質のポリペプチドサブユニットを産生する細胞を培養する工程であって、細胞を含有するか、または実質的に無細胞のいずれかである液体培養培地の体積がバイオリアクターから連続的または周期的に抜き取られる、工程がさらに含まれる。バイオリアクターは、例えば、約1Lから約10,000Lの間(例えば、約1Lから約50Lの間、約50Lから約500Lの間、約500Lから約1000Lの間、500Lから約5000Lの間、約500Lから約10,000Lの間、約5000Lから約10,000Lの間、約1Lから約10,000Lの間、約1Lから約8,000Lの間、約1Lから約6,000Lの間、約1Lから約5,000Lの間、約100Lから約5,000Lの間、約10Lから約100Lの間、約10Lから約4,000Lの間、約10Lから約3,000Lの間、約10Lから約2,000Lの間、または約10Lから約1,000Lの間)、またはそれ以上の体積を有してもよい。バイオリアクター内に存在する液体培養培地の量は、例えば、約0.5Lから約5,000Lの間(例えば、約0.5Lから約25Lの間、約25Lから約250Lの間、約250Lから約500Lの間、250Lから約2500Lの間、約250Lから約5,000Lの間、約2500Lから約5,000Lの間、約0.5Lから約5,000Lの間、約0.5Lから約4,000Lの間、約0.5Lから約3,000Lの間、約0.5Lから約2,500Lの間、約50Lから約2,500Lの間、約5Lから約50Lの間、約5Lから約2,000Lの間、約5Lから約1,500Lの間、約5Lから約1,000Lの間、または約5Lから約500Lの間)であってもよい。細胞の培養は、例えば、バッチフェドバイオリアクターまたは灌流バイオリアクターを使用して実施される。細胞の培養の非限定的な例および異なる態様は以下に記載されており、任意の組合せで使用することができる。
【0105】
細胞
本明細書に記載されるプロセスのいくつかにおいて培養される細胞は、細菌(例えば、グラム陰性細菌)、酵母(例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)、ハンセニュラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)、クルイベロミセス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、シゾサッ
カロミセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)、ヤロウイア・リポリティカ(Yarrowia lipolytica)、またはアルクスラ・アデニニボランス(Arxula adeninivorans)、または哺乳動物細胞であってもよい。哺乳動物細胞は懸濁液または接着細胞中で成長する細胞であってもよい。本明細書に記載されるプロセスのいずれかにおいて培養することができる哺乳動物細胞の非限定的な例には:チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(例えば、CHO DG44細胞またはCHO-K1s細胞)、Sp2.0、骨髄腫細胞(例えば、NS/0)、B細胞、ハイブリドーマ細胞、T細胞、ヒト胚腎臓(HEK)細胞(例えば、HEK 293EおよびHEK 293F)、アフリカミドリザル腎臓上皮細胞(Vero)細胞、およびメイディン・ダービー・イヌ(Cocker Spaniel)腎臓上皮細胞(MDCK)細胞が含まれる。接着細胞が培養されるいくつかの例において、培養はまた、複数のマイクロキャリア(例えば、1つまたはそれ以上の孔を含有するマイクロキャリア)を含有してもよい。本明細書に記載されるプロセスのいずれかにおいて培養することができるさらなる哺乳動物細胞は当該分野において公知である。
【0106】
哺乳動物細胞は、タンパク質をコードする組換え核酸(例えば、哺乳動物細胞のゲノム内に安定に組み込まれる核酸)を含有してもよい。例示的な抗体をコードする組換え核酸の非限定的な例は、本明細書に記載される方法を使用して産生することができる抗体と共に以下に記載されている。いくつかの場合、バイオリアクター(例えば、本明細書に記載されるバイオリアクターのいずれか)内で培養される哺乳動物細胞は大型培養に由来した。
【0107】
タンパク質をコードする核酸は、分子生物学および分子遺伝学において公知である多種多様の方法を使用して哺乳動物細胞内に組み込まれる。非限定的な例には、トランスフェクション(例えば、リポフェクション)、形質導入(例えば、レンチウイルス、アデノウイルス、またはレトロウイルス感染)、およびエレクトロポレーションが含まれる。いくつかの場合、タンパク質をコードする核酸は哺乳動物細胞の染色体内に安定に組み込まれない(一過性トランスフェクション)が、他の場合、核酸は組み込まれる。あるいはまたはさらに、タンパク質をコードする核酸はプラスミド内および/または哺乳動物人工染色体(例えば、ヒト人工染色体)内に存在してもよい。あるいはまたはさらに、核酸はウイルスベクター(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、またはアデノウイルスベクター)を使用して細胞内に組み込まれる。核酸はプロモーター配列(例えば、β-アクチンプロモーターおよびCMVプロモーターなどの強力なプロモーター、または誘導プロモーター)に作動可能に連結される。核酸を含有するベクターはまた、所望の場合、選択可能なマーカー(例えば、ハイグロマイシン、ピューロマイシン、またはネオマイシン耐性を哺乳動物細胞に与える遺伝子)も含有してもよい。
【0108】
いくつかの場合、タンパク質は分泌タンパク質であり、哺乳動物細胞によって細胞外培地(例えば、第1および/または第2の液体培養培地)内に放出される。例えば、可溶性タンパク質をコードする核酸配列はタンパク質のNまたはC末端において分泌シグナルペプチドをコードする配列を含有してもよく、それは哺乳動物細胞に存在する酵素によって切断され、その後、細胞外培地(例えば、第1および/または第2の液体培養培地)内に放出される。
【0109】
培養培地
液体培養培地(例えば、第1および/または第2の組織培養培地)に、哺乳動物血清(例えば、ウシ胎仔血清およびウシ血清)、および/または成長ホルモンもしくは成長因子(例えば、インスリン、トランスフェリン、および上皮成長因子)を補充してもよい。あるいはまたはさらに、液体培養培地(例えば、第1および/または第2の液体培養培地)は化学的に定義された液体培養培地、動物由来成分を含まない液体培養培地、無血清液体
培養培地、または血清含有液体培養培地であってもよい。化学的に定義された液体培養培地、動物由来の成分を含まない液体培養培地、無血清液体培養培地、および血清含有液体培養培地の非限定的な例は商業的に利用可能である。
【0110】
液体培養培地は典型的にエネルギー源(例えば、グルコースなどの炭水化物)、必須アミノ酸(例えば、20個のアミノ酸とシステインの基本セット)、低濃度で必要とされるビタミンおよび/もしくは他の有機化合物、遊離脂肪酸、ならびに/または微量元素を含有する。液体培養培地(例えば、第1および/または第2の液体培養培地)には、所望の場合、例えば、哺乳動物ホルモンもしくは成長因子(例えば、インスリン、トランスフェリン、または上皮成長因子)、塩および緩衝液(例えば、カルシウム、マグネシウム、およびリン酸塩)、ヌクレオシドおよび塩基(例えば、アデノシン、チミジン、およびヒポキサンチン)、タンパク質および組織加水分解物、ならびに/またはそれらの添加物の任意の組合せを補充してもよい。
【0111】
本明細書に記載される方法のいずれかにおいて細胞を培養するために使用することができる多種多様の異なる液体培養培地は当該分野において公知である。また、本プロセスにおいて有用であり得る培地成分には限定されないが、酸化還元試薬、化学的に定義された(CD)加水分解物、例えば、CDペプトン、CDポリペプチド(2つまたはそれ以上のアミノ酸)、およびCD成長因子が含まれる。液体組織培養培地および培地成分のさらなる例は当該分野において公知である。当業者は、本明細書に記載される第1の液体培養培地および第2の液体培養培地が同じ種類の培地であってもよいか、または異なる培地であってもよいことを理解するであろう。
【0112】
タンパク質産生において使用されるバイオプロセスに関して、目的のタンパク質(例えば多量体タンパク質)はバイオプロセスの間の特定の時点にて複数の細胞を含む溶液中に存在する。これらの時点の間、タンパク質は、例えば、複数の細胞を含むバイオリアクター、保持タンク、または非バイオリアクター単位操作溶液を含む、いくつかの可能な場所に存在していてもよい。
【0113】
フェドバッチバイオリアクター
タンパク質を有する溶液中に存在する複数の細胞を培養するために使用することができるバイオリアクターの1つの非限定的な例はフェドバッチバイオリアクターである。フェドバッチバイオリアクターにおける細胞の培養は、培養期間の大部分にわたる、第2の体積の第2の液体培養培地の第1の液体培養培地への添加(例えば、周期的または連続的添加)を含む。第2の液体培養培地の添加は、連続的に(例えば、任意の所与の期間にわたって(例えば、24時間の期間にわたって、約1時間から約24時間の反復期間にわたって、または24時間を超える反復期間にわたって)バイオリアクターの体積または第1の液体培養培地の体積の0.1%から300%の間(例えば、1%から250%の間、1%から100%の間、100%から200%の間、5%から150%の間、10%から50%の間、15%から40%の間、8%から80%の間、および4%から30%の間)の体積を添加する速度で)、もしくは周期的に(例えば、3日に1回、2日に1回、1日に1回、1日に2回、1日に3回、1日に4回、または1日に5回)、またはそれらの任意の組合せで実施される。周期的に実施される場合、(例えば、約24時間の期間内、約1時間から約24時間の反復期間内、または約24時間を超える漸進的期間内に)添加される体積は、例えば、バイオリアクターの体積または第1の液体培養培地の体積の0.1%から300%の間(例えば、1%から200%の間、1%から100%の間、100%から200%の間、5%から150%の間、10%から50%の間、15%から40%の間、8%から80%の間、および4%から30%の間)であってもよい。タンパク質産生のために細胞を培養するためのフェドバッチバイオリアクターの使用は当該分野において十分に記載されている。
【0114】
灌流バイオリアクター
本明細書に記載される培養工程は灌流バイオリアクターを使用して実施することができる。灌流バイオリアクターにおける細胞の培養は、第1の体積の第1の液体培養培地(例えば、任意の濃度の細胞、例えば、実質的に細胞を含まない第1の体積の第1の液体培養培地を含有する)のバイオリアクターからの抜き取り、および第2の体積の第2の液体培養培地の第1の液体培養培地への添加を含む。抜き取りおよび添加は同時もしくは連続的に、またはその2つの組合せで実施される。さらに、抜き取りおよび添加は連続的もしくは周期的に、またはそれらの任意の組合せで実施される。抜き取られる第1の体積の第1の液体培養培地および添加される第2の体積の第2の液体培養培地は、いくつかの場合、培養期間の全体または一部にわたって、ほぼ同様に各々24時間の期間(または代替として、約1時間から約24時間の反復期間、または24時間を超える反復期間)にわたって保持される。当該分野において公知のように、第1の体積の第1の液体培養培地が抜き取られる速度(体積/単位時間)および第2の体積の第2の液体培養培地が添加される速度(体積/単位時間)は変化させてもよい。第1の体積の第1の液体培養培地が抜き取られる速度(体積/単位時間)および第2の体積の第2の液体培養培地が添加される速度(体積/単位時間)はほぼ同じであってもよいか、または異なっていてもよい。タンパク質産生のために細胞を培養するための灌流バイオリアクターの使用は当該分野において十分に記載されている。
【0115】
本明細書に記載されるバイオリアクターのいずれかの内面は、少なくとも1つのコーティング(例えば、ゼラチン、コラーゲン、ポリ-L-オルニチン、ポリスチレン、およびラミニンのうちの少なくとも1つのコーティング)、ならびに当該分野で公知のように、O2、CO2、およびN2を液体培養培地内へ注入するための1つまたはそれ以上の注入口、ならびに液体培養培地を撹拌するための撹拌機構を有してもよい。バイオリアクターは、制御された加湿雰囲気中で(例えば、20%、30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、もしくは95%超の湿度、または100%の湿度にて)細胞培養物をインキュベートすることができる。バイオリアクターはまた、バイオリアクターからある体積の液体培養培地を抜き取ることができる機械装置、および場合により、バイオリアクターの外部へ液体培養培地を移動させるプロセスの間、液体培養培地から細胞を除去する機械装置内のフィルター(例えば、ATFシステム)を備えてもよい。
【0116】
特許請求された方法による溶液中のタンパク質の濃度は、約1.0mg/mL超、約1.5mg/mL超、約2.0mg/mL超、約2.5mg/mL超、約3.0mg/mL超、約3.5mg/mL超、約4.0mg/mL超、約4.5mg/mL超、約5.0mg/mL超、約5.5mg/mL超、約6.0mg/mL超、約6.5mg/mL超、約7.0mg/mL超、約7.5mg/mL超、約8.0mg/mL超、約8.5mg/mL超、約9.0mg/mL超、約10.0mg/mL超、約12.5mg/mL超、または約15.0mg/mL超であってもよい。特定の実施形態において、特許請求された方法の細胞含有溶液中のタンパク質の濃度は約0.01mg/mL~約20mg/mLである。他の実施形態において、特許請求された方法の無細胞溶液中のタンパク質の濃度は約0.1mg/mL~約100mg/mLである。
【0117】
概して、本発明の実施は、他に示されない限り、化学、分子生物学、組換えDNA技術、免疫学(特に、例えば、免疫グロブリン技術)、および電気泳動における標準的な技術の従来の技術を利用する。例えば、Sambrookら、1989、Molecular
Cloning:A Laboratory Manual、Cold Spring
Harbor Laboratory Press;Paul,S.(ed.)、1995、Antibody engineering protocols(Vol.51
).Humana Press;McCaffertyら(eds.)、1996、Antibody engineering:a practical approach、Practical Approach Series、169、IRL press;Harlowら(eds.)、1999、Using Antibodies:A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、NY;Ausubelら、2007、Current Protocols in Molecular Biology、John Wiley &
Sons、NY;Bousseら、2001、Anal.Chem.73:1207-1212;Knappら、2001、Proceedings of the μTAS
2001 Symposium、Micro Total Analysis Systems 2001、7-10、Kluwer Academic Publishers、Dordrecht、Netherlands;Mhatreら、1999、Rapid Commun Mass Spectrom.13(24):2503-10を参照されたい。これらの刊行物に開示されている技術はそれらの全体を参照によって組み入れる。
【0118】
他に定義されない限り、本明細書に使用される全ての技術および科学用語は、本発明が属する当業者により一般的に理解されているものと同じ意味を有する。科学技術および材料が本発明における使用のために本明細書に記載され;他の適切な技術および材料もまた、使用することができる。材料、技術、および例は例示のみであり、限定することを意図していない。本明細書に述べられている全ての刊行物、特許出願、特許、配列、データベース登録、および他の参考文献は、それらの全体を参照によって組み入れる。矛盾する場合、定義を含め、本明細書が優先される。
【0119】
以下の実施例は本発明の特定の実施形態の例示およびその種々の使用である。それらは、説明の目的のためだけに記載されており、決して本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【実施例1】
【0120】
Ig4半抗体の割合の制御:清澄化していない採取物の評価
全体の手法
IgG4半抗体のレベルを制御する能力を、細胞含有系である、清澄化していない細胞培養採取物において研究した。この実施例において、フェドバッチバイオリアクター運転の終了時に得た清澄化していない採取物を多くの実験条件に供し、IgG4集団に存在する半抗体(Hab)のパーセントについて、時間の関数としてモニターした。重要な実験条件には、清澄化していない採取物保持時間、保持温度、および採取時の細胞生存率(採取日まで制御した)が含まれた。半抗体レベルと共に、二次実験出力には、pH、生存細胞密度、および溶解気体などの多くの溶液相パラメーターが含まれた。
【0121】
材料、方法、および分析技術
半抗体含有量を測定するために、清澄化していない採取物サンプル精製を、0.2umの濾過、続いて、GE Life Sciencesから得たMabSelect SuRe樹脂を充填したPreDictor RoboColumns(200uL)を使用してFreedom EVO 150 Tecanリキッドハンドラーでの精製によって実施した。半抗体分析を非還元SDS-PAGEによって実施した。非還元条件下でのSDS-PAGEは標準的な技術(例えば、Sambrookら、1989;Ausubelら、2007を参照されたい)に従って実施した。ゲルの染色はSimply Blue SafeStain(Life Technologies、カタログ番号LC6065)を用いて実施した。半抗体のレベルを走査したゲル画像から測定し、濃度計によって定量化した。
【0122】
清澄化していない採取物サンプル製造および処理
約20mLの清澄化していない採取物を、最小のヘッドスペースを有する複数の20mLのPETGボトルに分配した。清澄化していない採取物を20mLのサンプルに分配するための手段を、清澄化していない採取物を、連続ピペット操作によってサンプルを得ながら、連続的に撹拌したスピナーフラスコに移すことによって各サンプルにおける均一性および無菌性を保証するために設計した。ボトルを分析および/または精製のために1回だけ開けた。清澄化していない採取物サンプルの分配の間、開始細胞密度を制御するために特別な注意を払った。指定した時点において、清澄化していない採取物サンプルを、pH、溶解気体、および生存細胞密度などの溶液相特性について試験し、続いて捕捉精製した。次いで精製したサンプルをHab含有量についてアッセイした。
【0123】
この実施例において提示した実験の結果をまた、使い捨てバッグを使用して回収した、2Lおよび5Lの清澄化していない採取物サンプルで確認した。したがって、本明細書に開示された方法は、抗体の商業的産生および/または製造のような抗体産生のより大きな体積にスケールアップできる。
【実施例2】
【0124】
保持時間:清澄化していない採取物
いくつかの重要な変数を、抗体サンプル内に存在するIgG4半抗体のレベルを制御する能力を実証するために一次実験研究において研究した。これらの重要な変数には、清澄化していない採取物保持時間、保持温度、および開始生存細胞密度(採取時の生存率によって制御した)が含まれた。
【0125】
各実験についてベースラインの半抗体の割合の値を確立するために、半抗体含有量を、0分の保持時間(例えば保持工程なし)からなり、本明細書に開示された方法に従う任意の他の条件を調節しなかった、従来のプロトコルを使用して製造した抗体サンプルにおいて測定した。この精製したサンプルの半抗体含有量は平均で約21%(非還元SDS PAGEによって測定した)であった。
【0126】
清澄化していない採取流体を治療用IgG4分子のフェドバッチ培養物から得た。細胞培養を、Delta Vコントロールを有する15LのBroadley Jamesガラス容器において実施した。清澄化していない採取物サンプル保持時間の全体を通して、Vi-Cell Cell Viability Analyzer(Beckman Coulter)を使用して生存細胞密度および生存パーセントを測定し、Blood Gas Analyzer(Siemens)を使用してpH、pCO2およびpO2を測定した。
【0127】
試験条件に応じて、細胞の存在下でのバイオ治療用IgG4の保持は、抗体集団内に存在する半抗体のレベルを減少させ、増加させ、またはほぼ維持することができた。これらの実験の結果を
図3に示す。
【実施例3】
【0128】
開始生存細胞密度:清澄化していない採取物
この研究において試験した第2の主要な実験変数または制御パラメーターは開始生存細胞密度であった(
図3Bおよび3D)。
【0129】
バイオリアクターサンプルを2つの異なる採取日に取り、それらは約70%および35%の細胞生存率を表した。この実験において、開始生存細胞密度を4.5×106細胞/mL(フェドバッチリアクターからの早い採取日)または2.5×106細胞/mL(フ
ェドバッチバイオリアクターからの遅い採取日)にて評価した。保持温度は2つの試験細胞密度条件の間で8℃にて一定に保持した。この実験において、半抗体レベルは、2.5×106細胞/mLの比較的低い開始生存細胞密度で8℃の試料については減少しなかった。
【0130】
より厳密な分析により、生存細胞密度測定が約2×10
6細胞/mLに減少すると、半抗体のさらなる減少がいずれの実験試験条件においても実現されなかったことが観察された(
図3)。この現象を、異なる開始生存細胞密度による両方のサンプルで観察した。生存細胞密度に対するHab変換の強い依存性を、データセットの全体にわたって観察し、
図3Bおよび3Dに提示した結果は代表的であることを意味する。
【実施例4】
【0131】
保持温度:清澄化していない採取物
清澄化していない採取物を3つの異なる温度:2~10℃(冷たい部屋)、20~22℃(周囲温度)、および37℃(温かい部屋)に保持した。
【0132】
いくつかの潜在的な制御パラメーターが実験結果の分析から現れた。半抗体含有量は、清澄化していない採取物中の生存細胞の存在により顕著に影響を受けることが見出された。
【0133】
図3Aにおいて、半抗体の最も劇的な減少を冷温(8℃)保持条件について観察し、それはこの研究において評価した最も高いレベルの生存細胞密度に対応した。温かい条件(37℃)における半抗体の傾向は、21%から19%までの即座の減少および最終的に約25%の最終半抗体レベルまでの増加の両方を含んでいた。37℃での半抗体進行の減少から増加への変化は、サンプル中に存在する細胞が全てもはや見ることができない点に直接対応し(
図3B)、これもまた、半抗体制御プロセスにおける生存細胞の重要な役割を示している。
【0134】
したがって、細胞含有(清澄化していない)採取物保持条件における上昇させた温度の影響により、半抗体のレベルを増加させ得る制御パラメーターが示された。
【実施例5】
【0135】
保持の間の撹拌:清澄化していない採取物
保持温度の変化に加えて、混合または撹拌の効果を、保持期間の間、回転子上に清澄化していない採取物の選択したサンプルを配置し、他のサンプルは保持の全体にわたって静止させた(静的な)ままにすることによって試験した。
【0136】
IgG4半抗体のレベルに対する細胞含有溶液を混合する効果もまた、研究した(
図4)。低い開始生存細胞密度サンプル(
図3Cから)を、(1)静的な混合していない条件、または(2)回転子を使用した連続的な混合のいずれかで保持した。清澄化していない採取物溶液の混合は半抗体の減少を顕著に加速でき、それらの同じ時間および温度条件で全く混合していない20%超の半抗体と比較して8℃における保持の2週間後に約13%の半抗体を達成した(
図4)。
【実施例6】
【0137】
細胞含有系への酸化還元試薬の添加:清澄化していない採取物の評価
半抗体の完全抗体への変換をさらに加速させるために、酸化還元試薬、具体的には還元および酸化グルタチオンを、細胞含有系である、清澄化していない採取物に直接添加し、続いて精製し、分析評価した。清澄化していない採取物サンプルは8℃に保持した。
【0138】
最初の実験において、清澄化していない採取物サンプルにおける開始細胞生存率は低く、たった2.5×10
6細胞/mLであった。この低い細胞生存条件はグルタチオンの非存在下で半抗体においていかなる変化も示さなかった(
図5、丸)が、5mMの酸化グルタチオンおよび0.5mMの還元グルタチオン(
図5、四角)であるか、0.5mMの酸化グルタチオンおよび5mMの還元グルタチオン(
図5、三角)であるかに関わらず、グルタチオンの添加は半抗体を顕著に減少させ、それは、研究した酸化還元試薬を含まない条件のいずれにおけるよりもはるかに急速であった。
【0139】
図5に示すように、達成した最も低い半抗体レベルは、8℃における細胞含有採取条件における約4日以内の保持の0.5mMの還元グルタチオンおよび5mMの酸化グルタチオンによる条件についてであった(
図5、三角)。低い半抗体含有量は4日より早い時間で達成した可能性がある。しかしながら、これらの条件についての最も早い時点の測定は4日であった。より高いレベルの還元グルタチオン(5mMの還元グルタチオン対5mMの酸化グルタチオンの比)による条件について、2週間のより長いインキュベーション期間の後においてのみではあったが顕著に減少した半抗体も観察した。(
図5、四角)。
【実施例7】
【0140】
細胞含有系への酸化還元試薬の添加:バイオリアクター操作の間
第2の実験において、別の酸化還元試薬である2-MEAを、バイオプロセス、バイオリアクター内に存在する異なる細胞含有系に2-MEAを直接添加することによって評価した。酸化還元試薬を使用した半抗体制御に対するバイオリアクターのpHの効果もまた、調査した。具体的には、0.5mMおよび2mMの2-MEAならびに5mMの還元グルタチオン(GSH)を、2つのレベルのpH(高いpH:7.1、低いpH6.9)と一緒に酸化還元試薬を添加することによってバイオリアクター培養物中で調査した。この研究の結果を
図6に示す。培養物のpHはHab変換およびHab安定性に対して影響を与えないことを決定し、酸化還元試薬の添加によるHab変換が、バイオリアクター細胞含有系内で試験した条件についてpHに対して頑健であることが示された。
【0141】
細胞含有バイオリアクター内の半抗体の割合のこれらの研究により、2-MEAが試験した最も効果的な酸化還元試薬であり、2mMの2-MEAの濃度が、バイオリアクターにおいて、少なくとも24時間、8~10%内までのHabの割合の制御において効果的であることが示された(
図6、四角および三角)。試験した条件の全てに関して、Habの割合は酸化還元試薬添加後の最も早い時間の間に顕著に減少し、条件の1つを除く全てについて10%未満に達した(
図6)。興味深いことに、2mMの2-MEAを除く全ての条件に関して、Habの割合はHabの開始レベル付近のレベルまで経時的に増加した。(
図6)。半抗体への回復は0.5mMの2-MEAについて最も急速であり、酸化還元試薬の濃度が抗体溶液中のHabの割合の制御において重要なパラメーターであり得ることが示された。
【0142】
Habの進行およびHabの割合の制御を達成する2-MEAの能力に対するバイオリアクター内の開始細胞生存率の潜在的効果を決定するためにさらなる実験も実施した。この研究において、2mMの2-MEAを、70%または45%(それぞれ12および14日)のいずれかの細胞生存率でフェドバッチバイオリアクター運転の作動の終わり付近で2つの別個のバイオリアクターに添加した。両方のバイオリアクターにおいて、2-MEAの添加は、ほぼ添加の直後Habの割合を10%未満まで減少させることができた。(
図7)。上記の細胞生存率と関連する観察と一致して、バイオリアクター内の時間の関数としてHabの割合は2-MEA添加時の開始細胞生存率に依存した。より低い開始生存率(45%)において、Habの割合は、バイオリアクターにおいて2-MEAに対する24時間の曝露後、8%から14%まで増加した(
図7、四角)。しかしながら、より高い開始生存率(70%)での培養により、バイオリアクターにおいて2-MEAに対する
24時間の曝露にわたって安定なHabプロファイルが生じた(
図7、丸)。これらの結果により、バイオリアクター内の培養物の生存細胞密度は完全抗体へのHab変換の安定性に影響を与え得ることが示された。
【実施例8】
【0143】
細胞含有系への酸化還元試薬の添加:細胞除去後の安定性の評価
細胞含有系における酸化還元試薬を使用した完全抗体へのHab変換の安定性もまた、清澄化していない採取物サンプルから細胞および細胞残屑を除去することによって、対応するサンプルの清澄化した採取物を得るために細胞を除去した後に評価した。この研究において、細胞含有系(バイオリアクター)を、24時間、2mMの2-MEAで処理した。清澄化していない採取物のサンプルを細胞含有系から得、次いで清澄化して細胞および細胞残屑を除去し、それにより清澄化した採取物を得た。Habの割合を、インキュベーターにおいて種々の条件下で保持した清澄化した採取物サンプルのアリコートにおいてモニターし、異なる大きさのpHでの2つの温度(2~8℃または21℃/室温のいずれか)はガスヘッドスペース操作により増加することが示された。結果を
図8に示す。
【0144】
これらの測定の結果により、温度は半抗体制御についての別のパラメーターとして役立ち得ることが示される。例えば、2-MEAで処理した場合、清澄化した採取物を2~8℃に保持し、Habの割合は保持時間の開始時(t=0)に測定して9~10%から、7日の間に6%まで減少した。(
図8、黒および白ダイヤモンド)。逆に、2-MEAで処理した清澄化した採取物におけるHabの割合は、室温(21℃)に保持した場合、7日の間に実際に増加した(
図8、黒および白三角)。
【0145】
ヘッドスペースなしで保存した清澄化した採取物サンプル(
図8、黒三角/ダイヤモンド)とヘッドスペースありで保存した採取物サンプルとの間の差異は観察されなかった。(
図8、白三角/ダイヤモンド)。この特定の実験の結果により、pHの動向が、研究した条件下で2-MEAで処理した清澄化した採取物のHabの割合に影響を与えなかったことが示された。
【0146】
これらの研究により、作動の終了付近の細胞含有バイオリアクターへの2-MEAおよびグルタチオンなどの酸化還元試薬の直接の添加を、プロセスに存在する半抗体の割合を制御するために使用することができることが実証される。さらに、酸化還元試薬を使用したこれらの研究により、酸化還元試薬の種類および濃度、pH、ならびに細胞生存率を含む、Habの割合の制御に対する選択したパラメーターの影響を評価した。
【実施例9】
【0147】
無細胞系におけるIgG4半抗体の割合の制御:清澄化した採取物への酸化還元試薬の添加の評価
無細胞サンプルである、清澄化した採取物質への直接的な2-MEAの添加をさらに評価するために研究を実施した。これらの実験において、清澄化したサンプルに2mMの2-MEAを与えるか、または酸化還元試薬を与えず、続いてインキュベーションを2~8℃または室温(21℃)のいずれかで保持した。Habの割合をインキュベーションの7日(168時間)にわたって決定した。最初の2時間の結果を
図9に示し、7日からの結果を
図10に示す。これらの結果により、2-MEAの添加、続いて8℃でのインキュベーションが、Habの割合を10%未満に顕著に減少させることができ(
図9、三角)、Habの割合は少なくとも7日間10%未満のままである(
図10、三角)ことが示される。室温(21℃)にてインキュベートした2-MEAを含有するサンプルに関して、Habの割合はまた、2-MEAの添加のほぼ直後に急速に減少した(
図9、ダイヤモンド)。しかしながら、Habのレベルは、最初の減少の後、すぐに増加し、インキュベーションの1~7日の間、一定レベルのほぼ11%のHabに到達した(
図10、ダイヤモン
ド)。対象サンプルにおいて、2-MEAを有さずに8℃または室温(21℃)のいずれかで保存した物質はHabの割合が変化しなかった(
図9、四角;
図10、丸)。
【0148】
この研究により、2-MEAのような酸化還元試薬を、清澄化した採取物などの無細胞系に直接添加して半抗体の制御を達成することができることが示される。また、この選択肢は、Habの割合を制御することができる、バイオプロセス内のさらなる段階となる。2-MEAで処理した清澄化した採取物に対する温度の影響も研究し、2-MEAをプロセスの早期に細胞含有系バイオリアクターに加えた場合の清澄化した採取物サンプルについての上記で観察した結果と一致することを見出した。プロセスにおける複数の時点にて2-MEAのような酸化還元試薬を使用してHabの割合を制御する能力は、Habの割合を十分に制御するバイオプロセスを設計する場合に柔軟性を提供する。
【実施例10】
【0149】
製品品質の確認
上記の実施例に従って2-MEA処理に供している清澄化したおよび清澄化していない採取物由来のいくつかのサンプルを、グリコシル化プロファイル、荷電したバリアント、質量分光光度プロファイル、およびゲル電気泳動による純度を含む、様々な製品品質特性について分析した。全ての場合で、サンプルに存在する半抗体のレベル以外、処理していないサンプルと処理したサンプルとの間で差異は観察されなかった(データは示さす)。
【実施例11】
【0150】
無細胞系におけるIgG4半抗体の割合の制御:捕捉後溶液の評価
全体の手法
無細胞系におけるIgG4半抗体のレベルを制御する能力を評価するために還元および酸化剤を研究した。本研究において、細胞培養採取物質から精製した捕捉プロテインA溶出液(捕捉後溶液)を使用して、半抗体のレベルに影響を与える制御パラメーターを研究した。2-メルカプトエチルアミン(2-MEA)などの還元剤が抗体サンプル中の半抗体含有量を減少させるのに効果的であり得ると仮定した。半抗体を減少させるための条件を最適化する研究を実施し、pH、時間、温度、2-MEAの濃度、およびIgG4の濃度などのインキュベーション条件を評価した。
【0151】
材料、方法および分析技術
実験手段:清澄化していない採取物質をIgG4抗体のフェドバッチ培養から回収し、濾過により清澄化し、次いでMabSelect Sure Protein A樹脂(GE Healthcare)を充填したカラムを使用して精製した。プロテインA溶出液を示した実験条件に調節し、インキュベートし、次いでMabSelect SuRe
Proteinを充填したPreDictor RoboColumns(200uL)を使用することによって再精製して、添加した還元または酸化試薬を全て除去した。非還元SDSゲル分析を、Invitrogenから得た4~20%のトリスグリシンゲルを使用することによってProtein A RoboColumnで再精製した溶出液で実施した。Simply Blue SafeStain(Life Technologies カタログ番号LC6065)を用いてゲルの染色を実施した。半抗体のレベルを走査したゲル画像から測定し、濃度計によって定量化した。ゲルの例を
図11に示す。
【実施例12】
【0152】
無細胞系への酸化還元試薬の添加:捕捉後溶液の評価
いくつかの還元および酸化試薬を、捕捉後溶液のIgG4集団に存在する半抗体のレベルを減少または増加させるそれらの能力について試験した。2-MEAは、2-メルカプトエタノール、および還元グルタチオン(GSH)を含む、試験した他の還元剤と比較し
てプロテインA溶出液(捕捉後溶液)中のIgG4半抗体のレベルを下げることに関して最も効果的であった。このスクリーニング研究の間、全ての酸化還元試薬試験条件についてpHを4.8にて一定に保持した。酸化還元試薬ジチオスレイトール(DTT)も試験したが、記載した方法による使用に適していないことが証明された。DTTは、インタクトなIgG4抗体を重および軽鎖断片に低減させ、また、半抗体のレベルを増加させたことを観察した(
図11、レーン8)。DTTサンプル中のHabのパーセントは重および軽鎖断片の存在に起因して正確に計算できなかった。結果を表1に示し、さらに
図11に示す。
【0153】
興味深いことに、プロテインA溶出液への酸化グルタチオン(GSSG)の添加は、2-MEAまたは還元グルタチオンのいずれかの存在下で観察された半抗体減少に対して測定可能な影響を与えなかった(表1)。
【0154】
【実施例13】
【0155】
半抗体の割合に対する酸化還元試薬2-MEAの濃度の効果
2-MEAは、Hab含有量を減少させるための、試験した最も効果的な還元剤であることが示されたので、さらなる実験のために選択した。製品品質に対する2-MEAの影響を評価するために、2-MEAを用いずに、および2-MEAを用いて(最適条件に)調節したプロテインA溶出液(約9~10mg/ml全抗体)を評価した。清澄化したサンプル中の半抗体のレベルに対する2-MEA濃度の効果を調査するためにこれらの実験を設計した。試験した2-MEAの濃度を表2に記載し、それらは0mM~50mMの範囲である。2-MEAの非存在下(0mM)で、Hab含有量は27%であることを観察した(表2)。しかしながら、0.5から5mMの間の2-MEAの濃度にて、サンプル
中のIgG4半抗体のレベルは減少した(表2、太字の列)。最も注目すべきことに、半抗体のレベルは1mMの2-MEAの存在下で27%から15.2%に減少した。より高い濃度の2-MEA(25mMおよび50mM)の結果、増加したレベルの半抗体(46および58%)が生じ、また、重および軽鎖断片が生成した(表2)。
【0156】
興味深いことに、半抗体レベルは2-MEA(pH4.8にて1、2および3mM)の存在下でほぼ30分以内に減少した。同様の大きさの減少を5、15および22時間のインキュベーションについて観察し、このことにより、平衡条件が急速に達成されたこと、および延長したインキュベーションが有益ではないことが示された(結果は示さず)。
【0157】
【実施例14】
【0158】
半抗体の割合に対するpHの効果
半抗体レベルに対する清澄化した抗体サンプルのpHの効果も研究した。0mMまたは2mMの濃度の2-MEAを含有する抗体サンプルを4.0、4.8、または7のpH値にて試験した。
【0159】
2mMにて2-MEAを含有する抗体サンプルに関して、半抗体のレベルの減少は、中性pH7.0より低いpH(4.0および4.8)にて非常に大きかった(表3)。pH4にて、半抗体レベルは2-MEAの非存在下(0mM)で27.1%から2mMの濃度の2-MEAを含む溶液中で20.8%まで減少した。(表3)。pH4.8にて、半抗体レベルは2-MEAの非存在下(0mM)で28.9%から2mMの濃度の2-MEAを含む溶液中で20.4%まで減少した。(表3)。しかしながら、pH7にて、半抗体レベルは2-MEAの非存在下(0mM)で27.4%から2mMの濃度の2-MEAを含む溶液中で24.5%までしか減少しなかった。(表3)。
【0160】
プロテインA溶出溶液に、40mMの濃度になるように塩化ナトリウムを添加しても、pH4.8または中性pH7.0にて2mMの2-MEAの存在下で半抗体減少のレベルに対する測定可能な影響はなかった(表3)。
【0161】
【0162】
半抗体レベルは2-MEA(pH4.8にて1、2および3mM)の存在下で30分以内に減少した。延長したインキュベーション時間(5、15および22時間)での同様の結果により、平衡条件が急速に達成されたことが示された(データは示さず)。
【実施例15】
【0163】
重要な因子の同定
2-MEAの存在下で清澄化したプロテインA溶出溶液中の半抗体レベルに影響を与える重要な因子を同定するために、完全2レベル要因実験を、5つの要因:pH、温度、インキュベーション時間、還元剤(2-MEA)の濃度およびIgG4の濃度で実施した。5つの要因についての低いおよび高い値を上記の実施例に開示した実験結果に基づいて選択し、同様に種々の他の範囲の測定および最適化実験を以前のように実施した。これらの実験において試験した値を以下の表4に示し、代表的なゲルを
図12に示す。
【0164】
【0165】
37個のサンプルを試験した。プロテインA溶出液(18.5%)中で測定した開始レベルの半抗体は低濃度の2-MEA(0.5および3mM)の存在下でpH3.4にて30分以内に8~9%に減少した。この特定の実施例において、温度、時間、2-MEA濃度、およびIgG4濃度を含む、研究したさらなる要因は、研究した範囲において、半抗体のレベルに対して統計的に有意な効果を有することは示されなかった。
【0166】
まとめると、これらの結果により、IgG4半抗体のレベルは、プロテインA溶出液な
どの捕捉後溶液への酸化還元試薬である2-MEAの添加によって効果的に制御することができることが示される。