(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】光学物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02C 7/10 20060101AFI20220908BHJP
G02B 5/23 20060101ALI20220908BHJP
A42B 3/22 20060101ALI20220908BHJP
A42B 1/18 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
G02C7/10
G02B5/23
A42B3/22
A42B1/18
(21)【出願番号】P 2020511145
(86)(22)【出願日】2019-03-29
(86)【国際出願番号】 JP2019014248
(87)【国際公開番号】W WO2019189855
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2020-03-27
(31)【優先権主張番号】P 2018068999
(32)【優先日】2018-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100113343
【氏名又は名称】大塚 武史
(72)【発明者】
【氏名】島田 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】濱本 輝文
(72)【発明者】
【氏名】沓掛 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】山下 照夫
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 強
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/011967(WO,A1)
【文献】特開2008-058932(JP,A)
【文献】特表2010-524726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02C 7/10
G02B 5/23
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、少なくとも、フォトクロミック色素および樹脂成分を含有する調光層と保護層をこの順に有する光学物品の製造方法であって、
前記保護層は、ポリマー保護層、ハードコート膜、及び反射防止膜を含み、
前記調光層の膜厚方向内部でのインデンテーション硬さは、0.1~10mgf/μm
2の範囲であり、且つ、
前記保護層における膜厚方向内部でのインデンテーション硬さ×膜厚で定義される値が、前記調光層における膜厚方向内部でのインデンテーション硬さ×膜厚で定義される値の5倍以上9000倍以下であり、
前記基材の一方の面上に、調光層塗膜を形成する工程と、
前記調光層塗膜に対して、前記基材側から光を照射し、硬化させることにより調光層を形成する工程と、
前記調光層の面上に、光硬化性成分を含むポリマー保護層コーティング液を塗布した塗膜を形成する工程と、
前記ポリマー保護層コーティング液の塗膜に対して表面側から光を照射して硬化させることにより、ポリマー保護層を形成する工程と、を有する、
ことを特徴とする光学物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック性を有する調光層を備えた眼鏡レンズ等の光学物品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機フォトクロミック色素の持つフォトクロミック性がプラスチック製眼鏡レンズにおいて利用されている。これは、有機フォトクロミック染料が、明るい屋外では太陽光等の紫外線を含む光に反応して発色し、紫外線が無い状態下、例えば室内に移動すると元の色(無色状態)に戻り高い透過率を回復するという可逆性の作用を利用するものである。この作用は、フォトクロミック性と呼ばれている。また、このようなフォトクロミック性により、太陽光の眩しさを低減することができる。
【0003】
このフォトクロミック性を有する眼鏡レンズの製法としては、例えば、レンズ表面に、フォトクロミック化合物を含むフォトクロミック膜を塗布により形成する方法、フォトクロミック性を有しないレンズ表面にフォトクロミック化合物を含浸させる方法、レンズモノマーにフォトクロミック化合物を溶解させ、それを重合させることにより、直接フォトクロミックレンズを得る方法、などがある。特に、レンズ表面にフォトクロミック膜を塗布により形成する方法、即ちコーティング法は、様々な既存のプラスチックレンズに応用可能であることから有効な手段である(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2003/011967号公報
【文献】特開2008-58932号公報
【文献】国際公開第2008/001578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のフォトクロミック膜には、所定の光が入射するとすばやく応答して高濃度で発色し、かつ所定の光がない環境下におかれると速やかに退色することが求められる。従来、フォトクロミック膜の発退色の反応速度および発色濃度は、分子構造に起因するフォトクロミック色素固有の特性に依存すると考えられていた。そのため、特定の分子構造を有するフォトクロミック色素を使用することにより、フォトクロミック膜の光に対する応答性(反応速度および発色濃度)を改善することが検討されてきた。
【0006】
しかし、従来のフォトクロミック膜の光に対する応答性(反応速度および発色濃度)は満足のいくものではなく、光応答性の更なる改善が求められていた。
【0007】
また、特許文献2には、フォトクロミック膜を完全に硬化させずに柔軟性(流動性)を持たせれば、膜中で色素が動きやすくなり、発退色の反応速度および発色濃度が大きく向上することや、フォトクロミックレンズにおける光応答性は、主として光が入射する物体側(入射面側)表層部において発現されるため、少なくともフォトクロミック膜の物体側表層部に存在する色素を動きやすい状態としておけば、高い光応答性が得られることが記載されている。
【0008】
また、特許文献3には、フォトクロミック膜の表面硬度を柔らかくすることで、光応答性を向上させることが開示されている。
【0009】
しかし、この特許文献2や特許文献3に開示されている方法では、フォトクロミック膜を柔らかくして光応答性を向上できるものの、フォトクロミック膜の硬度が柔らかいために十分な膜強度が得られず、耐擦傷性や密着性が劣化してしまうという問題がある。すなわち、従来技術では、フォトクロミック膜の光応答性の向上と強度を両立させることができなかった。
【0010】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、フォトクロミック性を有する調光層の光応答性の向上(特に退色速度の向上)と強度を両立させた眼鏡レンズ等に代表される光学物品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した。フォトクロミック膜(調光層)の組成等の改善による光応答性の向上には限界があり、調光層の光応答性をよりいっそう向上させるためには、どうしても調光層を柔らかくして層中での色素が動きやすくなるようにする必要がある。そして、このような柔らかい調光層に対しては、その上層に硬い保護層を導入することで、調光層と保護層の層全体で強度を確保すればよいとの結論に至った。また、調光層の光応答性の向上、特に退色速度の向上と強度を両立させるためには、各層の膜厚をも考慮した三次元硬度という指標を用いて、調光層と保護層の硬度比が所定の範囲内であることが好ましいことも見出した。
本発明は、以上の知見に基づきなされたものである。すなわち、上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を有する。
【0012】
(構成1)
基材上に、少なくとも、フォトクロミック色素および樹脂成分を含有する調光層と保護層をこの順に有する光学物品であって、前記調光層の膜厚方向内部でのインデンテーション硬さは、0.1~10mgf/μm2の範囲であり、且つ、前記保護層における膜厚方向内部でのインデンテーション硬さ×膜厚で定義される値が、前記調光層における膜厚方向内部でのインデンテーション硬さ×膜厚で定義される値の5倍以上9000倍以下であることを特徴とする光学物品。
【0013】
(構成2)
前記調光層における膜厚方向内部でのインデンテーション硬さ×膜厚で定義される値が、1~500mgf/μmの範囲であることを特徴とする構成1に記載の光学物品。
(構成3)
前記調光層の膜厚は、10μm~50μmの範囲であることを特徴とする構成1又は2に記載の光学物品。
【0014】
(構成4)
前記保護層の膜厚方向内部でのインデンテーション硬さは、10~200mgf/μm2の範囲であることを特徴とする構成1乃至3のいずれかに記載の光学物品。
(構成5)
前記保護層の膜厚は、3μm~45μmの範囲であることを特徴とする構成1乃至4のいずれかに記載の光学物品。
【0015】
(構成6)
前記保護層における膜厚方向内部でのインデンテーション硬さ×膜厚で定義される値が、30~9000mgf/μmの範囲であることを特徴とする構成1乃至5のいずれかに記載の光学物品。
(構成7)
前記保護層は、ポリマー保護層及びハードコート膜及び/又は反射防止膜であることを特徴とする構成1乃至6のいずれかに記載の光学物品。
【0016】
(構成8)
前記調光層の樹脂成分は、紫外線硬化性成分が硬化することにより形成された硬化樹脂および未硬化の硬化性成分を含むことを特徴とする構成1乃至7のいずれかに記載の光学物品。
(構成9)
前記硬化性成分は、高硬度モノマーと低硬度モノマーを含むことを特徴とする構成8に記載の光学物品。
【0017】
(構成10)
前記光学物品は、度数がついている眼鏡レンズまたは度数がついていない眼鏡レンズであることを特徴とする構成1乃至9のいずれかに記載の光学物品。
(構成11)
前記光学物品は、ゴーグル用レンズであることを特徴とする構成1乃至9のいずれかに記載の光学物品。
【0018】
(構成12)
前記光学物品は、サンバイザーのバイザー(ひさし)部分であることを特徴とする構成1乃至9のいずれかに記載の光学物品。
(構成13)
前記光学物品は、ヘルメットのシールド部材であることを特徴とする構成1乃至9のいずれかに記載の光学物品。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、レンズ基材上に、少なくとも、フォトクロミック色素および樹脂成分を含有する調光層と保護層をこの順に有する光学物品であって、前記調光層の膜厚方向内部でのインデンテーション硬さは、0.1~10mgf/μm2の範囲であり、且つ、前記保護層における膜厚方向内部でのインデンテーション硬さ×膜厚で定義される値が、前記調光層における膜厚方向内部でのインデンテーション硬さ×膜厚で定義される値の5倍以上9000倍以下であることにより、フォトクロミック性を有する調光層の光応答性の向上(特に退色速度の向上)と強度を両立させた眼鏡レンズ等に代表される光学物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明に係る眼鏡レンズの一実施形態を示す断面図である。
【
図2】本発明におけるインデンテーション硬さの測定法を説明するための模式図である。
【
図3】本発明におけるインデンテーション硬さの測定法を説明するための模式図である。
【
図4】本発明におけるインデンテーション硬さの測定法を説明するための模式図である。
【
図5】レンズサンプルにおける膜厚方向の深さごとの断面インデンテーション硬さをプロットしたプロファイルの一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳述する。なお、以下の実施の形態では、本発明の光学物品の代表例として眼鏡レンズ(度付き、度なし)の構成に適用した場合を中心に説明する。
図1は、本発明に係る眼鏡レンズの一実施形態を示す断面図である。
図1に示す眼鏡レンズは、レンズ基材10上に、少なくとも、フォトクロミック色素および樹脂成分を含有する調光層20と保護層30をこの順に積層した構成を有する。本発明では、上記保護層30は、ポリマー保護層及び/又はハードコート膜及び/又は反射防止膜である。なお、本明細書では、本発明に係る眼鏡レンズを「調光レンズ」と呼ぶ場合もある。
【0022】
本発明に係る眼鏡レンズは、たとえば次のようにして製造することができるが、勿論以下の製造方法に限定するものではない。
まず、レンズ基材10の一方の面上に、スピンコート法等により、少なくともフォトクロミック色素および光硬化性成分を含む調光層コーティング液を塗布して調光層塗膜を形成する。次いで、この調光層塗膜に対して、少なくともレンズ基材を介して、つまりレンズ基材側から光を照射し、上記光硬化性成分の少なくとも一部を硬化させることにより、所定の硬さを有する調光層20を形成する。
【0023】
次に、レンズ基材10上に形成された上記調光層20の面上に、スピンコート法等により、少なくとも光硬化性成分を含む保護層(ポリマー保護層)コーティング液を塗布して保護層塗膜を形成する。次いで、この保護層塗膜に対して、表面側から光を照射し、上記光硬化性成分を硬化させることにより、所定の硬さを有する保護層30(ポリマー保護層)を形成する。
【0024】
上記の調光層コーティング液および保護層コーティング液の成分の詳細は後述する。
また、眼鏡レンズの用途によっては、上記ポリマー保護層の上にさらにハードコート膜や反射防止膜等を設けることができる。
【0025】
本発明に係る眼鏡レンズは、上記構成1の発明にあるとおり、レンズ基材上に、少なくとも、フォトクロミック色素および樹脂成分を含有する調光層と保護層をこの順に有する眼鏡レンズであって、前記調光層の膜厚方向内部でのインデンテーション硬さは、0.1~10mgf/μm2の範囲であり、且つ、前記保護層における膜厚方向内部でのインデンテーション硬さ×膜厚で定義される値が、前記調光層における膜厚方向内部でのインデンテーション硬さ×膜厚で定義される値の5倍以上9000倍以下であることを特徴とするものである。
【0026】
ここでいうインデンテーション硬さとは、測定圧子の負荷から除荷までの変位-荷重曲線から求められる値であって、ISO 14577に規定されている。
【0027】
次に、本発明におけるインデンテーション硬さの測定法について
図2、
図3及び
図4を参照して説明する。
図2、
図3及び
図4は、いずれも本発明におけるインデンテーション硬さの測定法を説明するための模式図である。
【0028】
1.測定用サンプルの準備
図2に示す調光レンズ(眼鏡レンズ)100は、レンズ基材10上に、調光層20と保護層30をこの順に積層した構成を有するものである。実際の調光レンズは、上面が凸面形状であるが、ここでは模式的に示している。
図2に示すように、この調光レンズ100を、スライス治具を用いて5mmの厚さにスライスし、必要に応じてスライス面を平滑に加工して、測定用サンプル50を作製する。このようにして作製した測定用サンプル50には、レンズの断面、すなわちレンズ基材10上に調光層20と保護層30を有する構成が表れている。そして、この測定用サンプル50を、その断面が上に向くように、接着剤等で試料台40上に貼り付けて固定する。
【0029】
2.サンプル断面観察
測定用サンプル50の各層断面の膜厚をたとえば走査型電子顕微鏡(SEM)もしくは透過型電子顕微鏡(TEM)にて測長する。なお、用いる測長手段は、これらSEMやTEMに限定される必要はない。断面観察時に市販のUVライトを照射し着色領域を確認することで、調光層と保護層およびその境界面を判断する。その境界面とレンズ基材の間を調光層、境界面より表面側を保護層とそれぞれ定義する。
【0030】
3.硬さ測定
測定用サンプル50の各層の膜厚方向(深さ方向)でのインデンテーション硬さを測定する。
本発明では、エリオニクス社製超微小押し込み硬さ試験機ENT-2100を用いて、測定箇所における負荷開始から除荷までの全過程にわたって押し込み荷重P(mgf)に対応する押し込み深さh(nm)を連続的に測定し、P-h曲線を作成する。作成されたP-h曲線からインデンテーション硬さHを、下記式により求めることができる。
H(mgf/μm2)= Pmax/A
(ここで、Pmax:最大荷重(mgf)、A:圧子投影面積(μm2))
【0031】
以上のようにして測定されるインデンテーション硬さは、膜厚方向(深さ方向)の測定箇所(測定点)での単位面積(μm
2)当たりの硬さ(硬度)である(
図3参照)。本明細書では、この膜厚方向(断面方向)で測定される単位面積(μm
2)当たりのインデンテーション硬さのことを、説明の便宜上、「断面硬度」とも言う。
【0032】
測定箇所(測定点)に関しては、本発明では、
図4に示すように、レンズ表面を「0(ゼロ)」とし、レンズ基材側を深さ方向とし、レンズ表面側もしくはレンズ基材側から5μm刻みで1点ずつ、上述の硬さ測定方法で、全ての層に相当する点数以上の測定点でインデンテーション硬さ、すなわち断面硬度を測定する。同様の測定を別の箇所で20回測定し、得られた20点のデータのうち上4点と下4点を除外して、残り12点で各深さの平均値を算出する。
【0033】
4.断面硬度プロファイル作成
上記のようにして算出された断面硬度の平均値を深さ(エッジ(レンズ表面)からの距離)ごとにプロットし、断面硬度プロファイルを取得する。ここで、上記2.で測定した膜厚データと比較し、レンズ基材側より各プロットと各層の関連付けを行う。このとき、膜厚が薄く(5μm未満)測定点が出ないなどで関連付けできない層は除外する。
図5は、レンズサンプルにおける膜厚方向の深さごとの断面硬度をプロットしたプロファイルの一例を示す。なお、このプロファイルは一例であって、
図2の測定用サンプル50の測定結果と対応するというわけではない。
【0034】
5.平均断面硬度規定
上記のようにして作成した断面硬度プロファイルにおいて、各層におけるプロット点数(N)によって以下のように平均断面硬度を算出する。
N=1の場合、すなわち、その層におけるプロットが1点の場合は、その測定値をその層における断面硬度とする。
N=2の場合、2点の平均値を平均断面硬度とする。
N=3の場合、3点の平均値を平均断面硬度とする。
N>4(偶数)の場合、中心前後2点の平均値を平均断面硬度とする。
N>5(奇数)の場合、中心値含む3点の平均値を平均断面硬度とする。
【0035】
図5のプロファイルでは、例えば調光層の場合は、中心前後2点の平均値を平均断面硬度としており、保護膜の場合は、その層におけるプロットが1点であるから、その測定値を断面硬度としている。
本発明では、上記の平均断面硬度の値をもって、その層における断面硬度とする。
【0036】
6.三次元硬度規定
本発明では、例えば調光層における膜厚方向でのインデンテーション硬さ×膜厚で定義される値を硬さの指標の一つとして用いているが、上記の平均断面硬度×膜厚で規定することができる。この各層における膜厚方向でのインデンテーション硬さ×膜厚で定義される値のことを、説明の便宜上、「三次元硬度」とも言う。このように定義される三次元硬度とは、謂わば単位面積(μm
2)当たりの層全体の硬度を意味している。
たとえば、
図5のプロファイルにおいて、各層(膜)の平均断面硬度と膜厚のデータから、各層(膜)の三次元硬度を求めることができる。
図5のプロファイルを持つ調光レンズの場合、調光層の平均断面硬度は、10.86mgf/μm
2、膜厚は45μm、三次元硬度は、488.7mgf/μm、である。また、保護膜の平均断面硬度は、85.24mgf/μm
2、膜厚は5.5μm、三次元硬度は、468.8mgf/μm、である。また、保護膜と調光層の三次元硬度比(保護膜の三次元硬度/調光層の三次元硬度)は、0.96である。
【0037】
本発明では、上記調光層の膜厚方向内部でのインデンテーション硬さ(断面硬度)は、0.1~10mgf/μm2の範囲であることが重要である。
これによって、調光層は、層内での色素が動きやすくなる柔軟性(柔らかさ)を有することになり、フォトクロミック性を有する調光層の光応答性の向上、特に退色速度をよりいっそう向上させることができる。
上記調光層の膜厚方向内部でのインデンテーション硬さ(断面硬度)のさらに好ましくは、0.1~3.0mgf/μm2の範囲である。
【0038】
なお、調光層の断面硬度が10mgf/μm2を超えると、柔軟性が低下して光応答性の向上効果が得られ難い。一方、調光層の断面硬度が0.1mgf/μm2未満であると、液状の膜となり上層の保護層形成プロセスに異常が生じ、上層に保護層を設けても、調光層と保護層の層全体で十分な強度を確保することができない。
【0039】
また、本発明では、上記保護層における膜厚方向内部でのインデンテーション硬さ×膜厚で定義される値(三次元硬度)が、上記調光層における膜厚方向内部でのインデンテーション硬さ×膜厚で定義される値(三次元硬度)の5倍以上9000倍以下であることが重要である。
【0040】
このように、各層の膜厚をも考慮した三次元硬度という指標を用いて、調光層と保護層の硬度比が上記の範囲内であることにより、調光層の光応答性の向上、特に退色速度の向上と強度を両立させることができるようになる。
【0041】
なお、上記の硬度比が9000倍よりも大きいと、調光層の三次元硬度が著しく弱く、密着性が劣化する。一方、上記の硬度比が5倍よりも小さいと、調光層の三次元硬度と保護層の三次元硬度とのバランスが悪く、密着性や耐擦傷性において問題が生じる。
【0042】
また、本発明では、上記調光層における膜厚方向内部でのインデンテーション硬さ×膜厚で定義される値(三次元硬度)が、1~500mgf/μmの範囲であることが好ましい。
上記調光層の三次元硬度が上記の範囲内であることにより、層内での色素が動きやすくなる柔軟性(柔らかさ)を有することになり、フォトクロミック性を有する調光層の光応答性の向上、特に退色速度をよりいっそう向上させることができる。
上記調光層の三次元硬度のさらに好ましくは、2~135mgf/μmの範囲である。
【0043】
また、本発明では、上記調光層の膜厚は、10μm~50μmの範囲であることが好ましい。調光層の膜厚が50μmよりも厚いと、膜の強度と屈折率変化、透過率が小さすぎる(着色濃度が濃すぎる)ため好ましくない。他方、調光層の膜厚が10μmよりも薄いと、着色時の透過率を確保し難くなるため好ましくない。上記調光層の膜厚は、20μm~45μmの範囲がさらに好ましい。
【0044】
また、本発明では、上記保護層の膜厚方向内部でのインデンテーション硬さ(断面硬度)は、10~200mgf/μm2の範囲であることが好ましい。
上記保護層の断面硬度が上記の範囲内であることにより、調光層を柔らかくしても、調光層と保護層の層全体で十分な強度を確保することができる。
また、上記保護層における膜厚方向内部でのインデンテーション硬さ×膜厚で定義される値(三次元硬度)は、30~9000mgf/μmの範囲であることが好ましい。
【0045】
また、本発明では、上記保護層の膜厚は、3μm~45μmの範囲であることが好ましい。保護層の膜厚が45μmよりも厚いと、屈折率が変化し、レンズの光学特性に影響してくる。他方、保護層の膜厚が3μmよりも薄いと、調光層の上に保護層を設けることによる強度を確保できず、保護層の機能を有しない。
【0046】
本発明の調光レンズにおける硬さ(硬度)に関する特徴は以上説明したとおりであるが、調光レンズを構成する各要素について以下に詳述する。
[調光層]
調光層は、フォトクロミック色素と硬化性成分を含む調光層コーティング液(調光層形成用塗布液ともいう。)をレンズ基材上に塗布し、この塗膜に対して硬化処理を施すことによって形成することができる。
調光層の硬さ(柔軟性)は、調光層の硬化状態を調整することによって制御できる。調光層の硬化状態は、調光層コーティング液の組成、硬化処理条件、調光層の厚さなどによって制御できる。以下、順次説明する。
【0047】
1.調光層コーティング液
調光層コーティング液は、硬化性成分、フォトクロミック色素、重合開始剤、その他添加剤を含有する。
【0048】
(1)硬化性成分
調光層形成のために使用可能な硬化性成分は、特に限定されず、(メタ)アクリロイル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ビニル基、アリル基、スチリル基等のラジカル重合性基を有する公知の光重合性モノマーやオリゴマー、それらのプレポリマーを用いることができる。これらの中でも、入手のしやすさ、硬化性の良さから、(メタ)アクリロイル基または(メタ)アクリロイルオキシ基をラジカル重合性基として有する化合物が好ましい。なお、(メタ)アクリロイルは、アクリロイルとメタクリロイルの両方を示す。
【0049】
調光層とレンズ基材との界面での混ざり合い防止、硬度調整の容易さ、膜形成後の耐溶剤性や硬度、耐熱性等の硬化体特性、または発色濃度や退色速度等のフォトクロミック特性を良好なものとするため、ラジカル重合性単量体としては、単独重合体のLスケールロックウェル硬度が60以上を示すもの(以下、高硬度モノマーと呼ぶ場合がある。)と、同じく単独重合体のLスケールロックウェル硬度が40以下を示すもの(以下、低硬度モノマーと呼ぶ場合がある。)を併用することが好ましい。
Lスケールロックウェル硬度とは、JIS-B7726に従って測定される硬度を意味する。
【0050】
高硬度モノマーは、硬化後の硬化体の耐溶剤性、硬度、耐熱性等を向上させる効果を有する。このような高硬度モノマーは、通常2~15個、好ましくは2~6個のラジカル重合性基を有する化合物であり、好ましい具体例としては、下記一般式(1)~(5)で表される化合物が挙げられる。
【0051】
【化1】
式中、R
13は水素原子又はメチル基であり、R
14は水素原子、メチル基又はエチル基であり、R
15は3~6価の有機基であり、fは0~3の範囲の整数、f’は0~3の範囲の整数、gは3~6の範囲の整数である。
【0052】
【化2】
式中、R
16は水素原子又はメチル基であり、Bは3価の有機基であり、Dは2価の有機基であり、hは1~10の範囲の整数である。
【0053】
【化3】
式中、R
17は水素原子又はメチル基であり、R
18は水素原子、メチル基、エチル基又はヒドロキシル基であり、Eは環状の基を含む2価の有機基であり、i及びjは、i+jの平均値が0~6となる正の整数である。
【0054】
【化4】
式中、R
19は水素原子又はメチル基であり、Fは側鎖を有していてもよい主鎖炭素数2~9のアルキレン基である。
【0055】
【化5】
式中、R
20は水素原子、メチル基又はエチル基であり、kは1~6の範囲の整数である。
【0056】
前記一般式(1)~(4)におけるR13~R19は、いずれも水素原子又はメチル基であるため、一般式(1)~(4)で示される化合物は2~6個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する化合物である。
【0057】
前記一般式(1)で示される高硬度モノマーの具体例としては、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートテトラメチロールメタンテトラメタアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリメタクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリト-ルトリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ウレタンオリゴマーテトラアクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサメタクリレート、ウレタンオリゴマーヘキサアクリレート、ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート等が挙げられる。
【0058】
前記一般式(2)で示される高硬度モノマーの具体例としては、分子量2,500~3,500の4官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユービーシー社、EB80等)、分子量6,000~8,000の4官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユービーシー社、EB450等)、分子量45,000~55,000の6官能ポリエステルオリゴマー(ダイセルユービーシー社、EB1830等)、分子量10,000の4官能ポリエステルオリゴマー(第一工業製薬社、GX8488B等)等が挙げられる。
【0059】
前記一般式(3)で示される高硬度モノマーの具体例としては、ビスフェノールAジメタクリレート、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジブロモー4-メタクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン等が挙げられる。
【0060】
前記一般式(4)で示される高硬度モノマーの具体例としては、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、1,9-ノニレングリコールジメタクリレート、ネオペンチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチレングリコールジアクリレート等が挙げられる。
【0061】
前記一般式(5)で示される高硬度モノマーの具体例としては、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、テトラプロピレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。
【0062】
なお、前記一般式(1)~(5)で示されない高硬度モノマーもあり、その代表的化合物としては、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、ビスフェノールAジグリシジルメタクリレート、エチレングリコールビスグリシジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等が挙げられる。
【0063】
また、前記低硬度モノマーは、硬化体を強靭なものとし、またフォトクロミック化合物の退色速度を向上させる効果を有する。
このような低硬度モノマーとしては、下記一般式(6)または一般式(7)で示される2官能モノマーや、下記一般式(8)または一般式(9)で示される単官能モノマーが例示される。
【0064】
【化6】
式中、R
23は水素原子又はメチル基であり、R
24及びR
25は、それぞれ独立に水素原子、メチル基又はエチル基であり、Zは酸素原子又は硫黄原子であり、mはR23が水素原子の場合は1~70の整数であり、R
23がメチル基の場合は7~70の整数であり、m'は0~70の範囲の整数である。
【0065】
【化7】
式中、R
26は水素原子又はメチル基であり、R
27及びR
28は、それぞれ独立に水素原子、メチル基、エチル基又はヒドロキシル基であり、Iは環状の基を含む2価の有機基であり、i'及びj'は、i'+j'の平均値が8~40となる整数である。
【0066】
【化8】
式中、R
29は水素原子又はメチル基であり、R
30及びR
31は、それぞれ独立に水素原子、メチル基又はエチル基であり、R
32は水素原子、炭素数1~25のアルキル基、アルケニル基、アルコキシアルキル基もしくはハロアルキル基、炭素数6~25のアリール基、又は炭素数2~25の(メタ)アクリロイル基以外のアシル基であり、Zは酸素原子又は硫黄原子であり、m''はR29が水素原子の場合は1~70の整数であり、R29がメチル基の場合は4~70の整数であり、m'''は0~70の範囲の整数である。
【0067】
【化9】
式中、R
33は水素原子又はメチル基であり、R
34はR
33が水素原子の場合には炭素数1~20のアルキル基であり、R
33がメチル基の場合には炭素数8~40のアルキル基である。
【0068】
前記一般式(6)~(9)において、R23、R26、R29及びR33は水素原子又はメチル基である。すなわち、低硬度モノマーは重合性基として、通常2個以下の(メタ)アクリロイルオキシ基又は(メタ)アクリロイルチオ基を有する。
【0069】
前記一般式(6)で示される低硬度モノマーの具体例としては、トリアルキレングリコールジアクリレート、テトラアルキレングリコールジアクリレート、ノニルアルキレングリコールジアクリレート、ノニルアルキレングリコールジメタクリレート等のアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類が挙げられる。
【0070】
前記一般式(7)で示される低硬度モノマーの具体例としては、平均分子量776の2,2-ビス(4-アクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン等が挙げられる。
【0071】
前記一般式(8)で示される低硬度モノマーの具体例としては、平均分子量526のポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量360のポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量475のメチルエチルポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量1,000のメチルエーテルポリエチレングリコールメタアクリレート、平均分子量375のポリプロピレングリコールメタアクリレート、平均分子量430のポリプロピレンメタアクリレート、平均分子量622のポリプロピレンメタアクリレート、平均分子量620のメチルエーテルポリプロピレングリコールメタアクリレート、平均分子量566のポリテトラメチレングリコールメタアクリレート、平均分子量2,034のオクチルフェニルエーテルポリエチレングリコールメタクリレート、平均分子量610のノニルエーテルポリエチレングリコールメタクリレート、平均分子量640のメチルエーテルポリエチレンチオグリコールメタクリレート、平均分子量498のパーフルオロヘブチルエチレングリコールメタクリレート等のポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート等が挙げられる。一般式(8)で示される低硬度モノマーの平均分子量の好ましい範囲は200~2500、より好ましくは300~700である。なお、本発明における平均分子量は質量平均分子量である。
【0072】
前記一般式(9)で示される低硬度モノマーの具体例としては、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタアクリレート、エチルヘキシルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ラウリルアクリレート等が挙げられる。
【0073】
これら一般式(6)~(9)で示される低硬度モノマーの中でも、平均分子量475のメチルエチルポリエチレングリコールメタクリレート、平均分子量1,000のメチルエーテルポリエチレングリコールメタクリレート、トリアルキレングリコールジアクリレート、テトラアルキレングリコールジアクリレート、ノニルアルキレングリコールジアクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ラウリルアクリレートが特に好ましい。
【0074】
前記高硬度モノマーでも低硬度モノマーでもないモノマー、すなわち、単独重合体のLスケールロックウェル硬度が40を超え60未満を示すモノマー(中硬度モノマーと呼ぶ場合がある。)として、例えば、平均分子量650のポリテトラメチレングリコールジメタクリレート、平均分子量1,400のポリテトラメチレングリコールジメタクリレート、ビス(2-メタクリロイルオキシエチルチオエチル)スルフィド等の2官能(メタ)アクリレート、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、酒石酸ジアリル、エポキシ琥珀酸ジアリル、ジアリルフマレート、クロレンド酸ジアリル、ヘキサフタル酸ジアリル、アリルジグリコールカーボネート等の多価アリル化合物、1,2-ビス(メタクリロイルチオ)エタン、ビス(2-アクリロイルチオエチル)エーテル、1,4-ビス(メタクリロイルチオメチル)ベンゼン等の多価チオアクリル酸及び多価チオメタクリル酸エステル化合物、アクリル酸、メタクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、メタクリル酸ビフェニル等のアクリル酸及びメタクリル酸エステル化合物、フマル酸ジエチル、フマル酸ジフェニル等のフマル酸エステル化合物、メチルチオアクリレート、ベンジルチオアクリレート、ベンジルチオメタクリレート等のチオアクリル酸及びチオメタクリル酸エステル化合物、スチレン、クロロスチレン、メチルスチレン、ビニルナフタレン、α-メチルスチレンダイマー、ブロモスチレン、ジビニルベンゼン、ビニルピロリドン等のビニル化合物、オレイルメタクリレート、ネロールメタクリレート、ゲラニオールメタクリレート、リナロールメタクリレート、ファルネソールメタクリレート等の分子中に不飽和結合を有する炭化水素鎖の炭素数が6~25の(メタ)アクリレートなどのラジカル重合性単官能単量体等が挙げられる。
【0075】
これら中硬度モノマーを前記高硬度モノマー、低硬度モノマーと適宜混合して使用できる。硬化体の耐溶剤性や硬度、耐熱性等の硬化体特性、あるいは発色濃度や退色速度等のフォトクロミック特性のバランスを良好なものとするため、ラジカル重合性単量体中、低硬度モノマーは5~70質量%、高硬度モノマーは5~95質量%であることが好ましい。
また、硬化性成分として、上記成分に加えて、分子中に少なくともエポキシ基とラジカル重合性基を有するラジカル重合性単量体、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルオキシポリエチレングリコールメタアクリレート等が配合されていることも好ましい。
【0076】
(2)フォトクロミック色素
フォトクロミック色素としては、公知のものを使用することができ、例えば、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物等のフォトクロミック化合物が挙げられ、本発明では、これらのフォトクロミック化合物を特に制限なく使用することができる。
前記フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物及びクロメン化合物としては、例えば、特開平2-28154号公報、特開昭62-288830号公報、WO94/22850号明細書、WO96/14596号明細書などに記載されている化合物が好適に使用できる。
【0077】
また、優れたフォトクロミック性を有する化合物として、例えば、特開2001-114775号公報、特開2001-031670号公報、特開2001-011067号公報、特開2001-011066号公報、特開2000-347346号公報、特開2000-34476号公報、特開2000-3044761号公報、特開2000-327676号公報、特開2000-327675号公報、特開2000-256347号公報、特開2000-229976号公報、特開2000-229975号公報、特開2000-229974号公報、特開2000-229973号公報、特開2000-229972号公報、特開2000-219687号公報、特開2000-219686号公報、特開2000-219685号公報、特開平11-322739号公報、特開平11-286484号公報、特開平11-279171号公報、特開平10-298176号公報、特開平09-218301号公報、特開平09-124645号公報、特開平08-295690号公報、特開平08-176139号公報、特開平08-157467号公報等に開示された化合物も好適に使用することができる。上記公報の全記載は、ここに特に開示として援用される。
【0078】
これらフォトクロミック化合物の中でも、クロメン系フォトクロミック化合物は、発色濃度や退色速度のフォトクロミック特性の向上が特に大きく好適に使用することができる。
さらに、その発色濃度、退色速度、耐久性等の各種フォトクロミック特性が特に良好なクロメン化合物としては、下記一般式(10)で示されるものが好ましい。
【0079】
【0080】
【化11】
で示される基は、置換もしくは非置換の芳香族炭化水素基、または置換もしくは非置換の不飽和複素環基であり、R
43、R
44及びR
45は、それぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アラルコキシ基、アミノ基、置換アミノ基、シアノ基、置換もしくは非置換のアリール基、ハロゲン原子、アラルキル基、ヒドロキシル基、置換もしくは非置換のアルキニル基、窒素原子をヘテロ原子として有し該窒素原子とピラン環もしくは下記一般式(13)で示される基の環とが結合する置換もしくは非置換の複素環基、又は該複素環基に芳香族炭化水素環もしくは芳香族複素環が縮合した縮合複素環基であり、oは0~6の範囲の整数である。
また、R
41及びR
42は、それぞれ独立に、下記一般式(12):
【0081】
【化12】
(式中、R
46は、置換もしくは非置換のアリール基、または置換もしくは非置換のヘテロアリール基であり、R
47は、水素原子、アルキル基又はハロゲン原子であり、pは1~3の整数である。)で示される基、下記一般式(13):
【0082】
【化13】
(式中、R
48は、置換もしくは非置換のアリール基、又は置換もしくは非置換のヘテロアリール基であり、p'は1~3の整数である。)で示される基、置換もしくは非置換のアリール基、置換もしくは非置換のヘテロアリール基、又はアルキル基であるか、あるいはR
41とR
42とが一緒になって脂肪族炭化水素環もしくは芳香族炭化水素環を構成してもよい。
【0083】
なお、上記一般式(12)、(13)、前記R41及びR42にて説明した置換アリール基および置換ヘテロアリール基における置換基としては、前記R43、R44と同様の基が挙げられる。
【0084】
前記一般式(10)で示されるクロメン化合物のなかでも、発色濃度、退色速度等のフォトクロミック特性の点から、下記一般式(14)~(19)で示される化合物が特に好適である。
【0085】
【化14】
式中、R
49及びR
50は、それぞれ前記一般式(10)のR
41及びR
42と同様であり、R
51及びR
52は、それぞれ前記一般式(10)のR
45と同様であり、q及びq'はそれぞれ1又は2である。
【0086】
【化15】
式中、R
53及びR
54は、それぞれ前記一般式(10)のR
41及びR
42と同様であり、R
55及びR
56は、それぞれ前記一般式(10)のR
45と同様であり、Lは下記式:
【0087】
【化16】
(式中、Pは酸素原子又は硫黄原子であり、R
57は炭素数1~6のアルキレン基であり、s、s'及びs''は1~4の整数である。)で示されるいずれかの基であり、r及びr'はそれぞれ1又は2である。
【0088】
【化17】
式中、R
58及びR
59は、それぞれ前記式(10)のR
41及びR
42と同様であり、R
60、R
61及びR
62は、それぞれ前記式(10)のR
45と同様であり、vは1又は2である。
【0089】
【化18】
式中、R
63及びR
64は、それぞれ前記式(10)のR
41及びR
42と同様であり、R
65及びR
66は、それぞれ前記式(10)のR
45と同様であり、w及びw'はそれぞれ1又は2である。
【0090】
【化19】
式中、R
67及びR
68は、それぞれ前記式(10)のR
41及びR
42と同様であり、R
69、R
70、R
71及びR
72は、それぞれ前記式(10)のR
45と同様であり、x及びx’はそれぞれ1又は2である。
【0091】
【化20】
式中、R
73及びR
74は、それぞれ前記式(10)のR
41及びR
42と同様であり、R
75、R
76及びR
77は、それぞれ前記式(10)のR
45と同様であり、
【0092】
【化21】
は、少なくとも1つの置換基を有してもよい脂肪族炭化水素環であり、y、y’及びy’’はそれぞれ1又は2である。
【0093】
上記一般式(14)~(19)で示されるクロメン化合物の中でも、下記構造のクロメン化合物(例示化合物(A)~(F))が特に好ましい。
【0094】
【0095】
これらフォトクロミック化合物は適切な発色色調を発現させるため、複数の種類のものを適宜混合して使用することができる。
【0096】
(3)重合開始剤
調光層コーティング液に添加する重合開始剤は、重合方法に応じて、公知の光重合開始剤または熱重合開始剤から適宜選択して用いることができる。光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾフェノール、アセトフェノン、4,4-ジクロロベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。また、熱重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、p-クロロベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート類、2,2-アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等が挙げられる。
【0097】
(4)その他添加剤
また、調光層コーティング液には、フォトクロミック色素の耐久性の向上、発色速度の向上、退色速度の向上や成形性の向上のために、さらに界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、顔料、香料、可塑剤等の添加剤を適宜選択して添加してもよい。これら添加剤としては、公知の化合物が特に制約なく使用できる。例えば、ヒンダードアミン光安定剤、ヒンダードフェノール酸化防止剤、フェノール系ラジカル補足剤、イオウ系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物等を好適に使用できる。
【0098】
2.硬化処理条件
調光層の硬化状態を調節することによって、硬化性成分が硬化することによって形成された硬化樹脂と未硬化の硬化性成分を含む調光層を得ることができる。硬化性成分に対する硬化処理条件、例えば光照射条件によって、調光層の硬化状態を調節することができる。具体的には、光源波長、光照射量(照射エネルギー、照射時間など)を適宜調節することが好適である。
【0099】
3.調光層の厚さ
調光層の硬化状態は、調光層の厚さによっても調整することができる。調光層の厚さが過度に薄いと、膜全体の重合が進行するため、調光層に適度な柔軟性を付与することが困難となり、また色素が動きにくくなるので、フォトクロミック性能の向上が困難となる。また、調光層の厚さによっても前述の調光層の三次元硬度を調節することができる。以上の点から、調光層の厚さは、10μm以上であることが好ましく、20~45μmであることが特に好ましい。
【0100】
また、上記調光層のレンズ基材に対する密着性を向上させる目的で、レンズ基材と調光層の間にプライマー層を設けることができる。このようなプライマー層としては、レンズ基材と調光層の各材質によっても異なるが、一般にウレタン系樹脂等が用いられる。
【0101】
[ポリマー保護層]
ポリマー保護層は、少なくとも硬化性成分を主成分として含むポリマー保護層コーティング液(ポリマー保護層形成用塗布液ともいう。)を調光層の面上に塗布し、この塗膜に対して硬化処理を施すことによって形成することができる。
ポリマー保護層の硬さ(硬度)は、ポリマー保護層の硬化状態を調整することによって制御できる。ポリマー保護層の硬化状態は、ポリマー保護層コーティング液に含まれる硬化性成分の組成、硬化処理条件、保護層の厚さなどによって制御できる。
【0102】
本発明においては、上記調光層を柔らかくして、かつ調光層と保護層の全体で十分な強度を確保する観点から、保護層は十分な硬さ(特に断面硬度)を有することが求められる。そのためには、ポリマー保護層コーティング液に含まれる硬化性成分としては、前述した調光層コーティング液に含まれる硬化性成分と同様のものを用いることができ、前記の高硬度モノマー、低硬度モノマー、中硬度モノマーを適宜混合して用いることができるが、特に高硬度モノマーの配合割合が高いことが好ましい。
【0103】
調光層の場合と同様に、硬化性成分に対する硬化処理条件、例えば光照射条件によって、ポリマー保護層の硬化状態を調節することができる。具体的には、光源波長、光照射量(照射エネルギー、照射時間など)を適宜調節することが好適である。
また、ポリマー保護層の硬化状態は、ポリマー保護層の厚さによっても調整することができるが、ポリマー保護層の厚さによって前述の保護層の三次元硬度も調整することができる。以上の点から、保護層(ポリマー保護層とハードコート膜と反射防止膜を含む)の厚さは、3~45μmの範囲であることが好ましく、10~40μmであることがさらに好ましい。
【0104】
[レンズ基材]
本発明の眼鏡レンズ(調光レンズ)におけるレンズ基材は、通常プラスチックレンズとして使用される種々の基材を用いることができる。レンズ基材は、レンズ形成鋳型内にレンズモノマーを注入して、硬化処理を施すことによって製造することができる。
レンズモノマーとしては、特に限定されず、プラスチックレンズの製造に通常使用される各種のモノマーを用いることができる。例えば、分子中にベンゼン環、ナフタレン環、エステル結合、カーボネート結合、ウレタン結合を有するものなどが使用できる。また、硫黄、ハロゲン元素を含む化合物も使用でき、特に核ハロゲン置換芳香環を有する化合物も使用できる。上記官能基を有する単量体を1種または2種以上用いることによりレンズモノマーを製造できる。例えば、スチレン、ジビニルベンゼン、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート、ジアリル(イソ)フタレート、ジベンジルイタコネート、ジベンジルフマレート、クロロスチレン、核ハロゲン置換スチレン、核ハロゲン置換フェニル(メタ)アクリレート、核ハロゲン置換ベンジル(メタ)アクリレート、テトラブロモビスフェノールA誘導体の(ジ)(メタ)アクリレート、テトラブロモビスフェノールA誘導体のジアリルカーボネート、ジオルトクロロベンジルイタコネート、ジオルトクロロベンジルフマレート、ジエチレングリコールビス(オルトクロロベンジル)フマレート、(ジ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリシジルメタクリレート、キシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートなどの多官能イソシアネートの反応物、核ハロゲン置換フェノール誘導体のモノヒドロキシアクリレートと多官能イソシアネートの反応物、核ハロゲン置換ビフェニル誘導体のモノヒドロキシアクリレートと多官能イソシアネートの反応物、キシレンジイソシアネートと多官能メルカプタンの反応物、グリシジルメタクリレートと多官能メタクリレートの反応物等、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0105】
また、上記レンズ基材として、プラスチック内部に偏光フィルムが挟まれた種々の基材を用いることもできる。
また、上記レンズ基材は、度数のついているレンズ基材であっても、あるいは度数のついていないレンズ基材であってもよい。つまり、本発明は、目の屈折異常を矯正する度数がついている眼鏡レンズはもちろんのこと、たとえばサングラスのような度数のついていない眼鏡レンズに適用してもよいことはいうまでもない。
【0106】
本発明の眼鏡レンズ(調光レンズ)には、さらに、耐衝撃、耐摩耗、反射防止、撥水処理等の目的で、ハードコート、反射防止膜、撥水処理等の表面処理を行うことができる。
ハードコート層は、プラスチックレンズに耐衝撃性を付与することができ、上記保護層に加えて、あるいは上記保護層の代わりに設けることができる。また、一般的にプラスチックレンズに対する反射防止層の密着性は良くないため、プラスチックレンズと反射防止層の間に介在させて反射防止層の密着性を良好にして剥離を防止する働きを、ハードコート層が担うこともできる。
【0107】
ハードコート層の形成方法としては、硬化性組成物を、スピンコート法等により、プラスチックレンズの表面に塗布し、塗膜を硬化せる方法が一般的である。硬化処理は、硬化性組成物の種類に応じて、加熱、光照射等により行われる。このような硬化性組成物としては、例えば、紫外線の照射によりシラノール基を生成するシリコーン化合物とシラノール基と縮合反応するハロゲン原子やアミノ基等の反応基を有するオルガノポリシロキサンとを主成分とする光硬化性シリコーン組成物、アクリル系紫外線硬化型モノマー組成物、SiO2、TiO2などの無機微粒子を、ビニル基、アリル基、アクリル基またはメタクリル基などの重合性基とメトキシ基などの加水分解性基とを有するシラン化合物やシランカップリング剤中に分散させた無機微粒子含有熱硬化性組成物などが挙げられる。
【0108】
また、反射防止層は、無機被膜、有機被膜の単層または多層で構成される。無機被膜の材質としては、SiO2、SiO、ZrO2、TiO2、TiO、Ti2O3、Ti2O5、Al2O3、Ta2O5、CeO2、MgO、Y2O3、SnO2、MgF2、WO3などの無機物が挙げられ、これらを単独または2種以上を併用して用いることができる。プラスチックレンズの場合は、低温で真空蒸着が可能なSiO2、ZrO2、TiO2、Ta2O5が好ましい。また、多層膜構成とした場合は、最表層はSiO2とすることが好ましい。
無機被膜の成膜方法としては、例えば、真空蒸着、イオンプレーティング法、スパッタリング法、CVD法、飽和溶液中での化学反応により析出させる方法などを採用することができる。
【0109】
以上は、本発明の光学物品を眼鏡レンズ(度付き、度なし)の構成に適用した場合を中心に説明したが、本発明はこの実施形態に限定されるわけではない。たとえば、本発明の構成は、通常は左右2枚のレンズを1枚のレンズにより構成し、目の回りを覆ういわゆるゴーグルのように構成した場合のゴーグル用レンズに適用することも可能である。また、本発明の構成は、通常の眼鏡レンズにおけるレンズ形状とは異なるが、いわゆるサンバイザーのバイザー(ひさし)部分にフォトクロミック性を持たせた場合の、バイザー(ひさし)部分の部材の構成に適用することも可能である。また、本発明の構成は、ヘルメットのシールド部材の構成に適用することも可能である。バイザー部分の部材やシールド部材はプラスチック基材からなり、ポリカーボネートであってもよい。
【実施例】
【0110】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
(実施例1)
(1)レンズ基材
プラスチックレンズ基材として、HOYA株式会社製 商品名EYAS(中心肉厚2.0mm厚、半径75mm、S-4.00)レンズを使用した。このレンズ基材を60℃、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液にて5分間浸漬処理して十分に純水洗浄、乾燥を行った。
(2)プライマー層の形成
プライマーコーティング液として、水系ポリウレタン樹脂液(ポリカーボネートポリオール系ポリウレタンエマルジョン、粘度100CPS、固形分濃度38%)を使用した。
そして、(1)のレンズ基材の凸面側に、スピンコートによりプライマーコーティング液を成膜した。その後、25℃、50%RH雰囲気下で15分間自然乾燥により、プライマー層を形成した。プライマー層の膜厚は4.7μmであった。
【0111】
(3)調光層コーティング液の調製
プラスチック製容器に、トリメチロールプロパントリメタクリレート20質量部、BPEオリゴマー(2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン)35質量部、EB6A(ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート)10質量部、平均分子量532のポリエチレングリコールジアクリレート10質量部、グリシジルメタクリレート10質量部からなるラジカル重合性組成物を調製した。このラジカル重合性組成物100質量部に対し、フォトクロミック色素として、前出の例示クロメン化合物(A)を3質量部、光安定化剤LS765(ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート)を5質量部、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(チバスペシャリティケミカルズ製イルガキュア245)を5質量部、紫外線重合開始剤としてCGI-1870(チバスペシャリティケミカルズ製)0.6質量部を添加して十分に攪拌混合を行った組成物に、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製KBM503)を攪拌しながら6質量部滴下した。その後、自転公転方式攪拌脱泡装置にて2分間脱泡することで、フォトクロミック性を有する硬化性組成物を得た。この基本硬化性組成物に対して平均分子量708のポリエチレングリコールジアクリレート40質量部を追加調整し、フォトクロミック性を有する硬化性組成物(遅硬性組成物)を得た。
【0112】
(4)調光層の形成
レンズ基材上のプライマー層の上に、上記(3)で調製された硬化性組成物を、スピンコート法でコーティングした。スピンコートは、特開2005-218994号公報に記載された方法(レンズ材料を保持するスピンホルダ及びコーティング液を供給するディスペンサを備えた塗布装置を使用した方法)で行った。
その後、このレンズを窒素雰囲気中(酸素濃度500ppm以下)にて、フュージョン製UVランプ(Dバルブ)波長405nmの紫外線積算光量で2.2J/cm2(220mW/cm2、10秒)照射し、調光層を形成した。調光層の膜厚は40.2μmであった。
【0113】
(5)ポリマー保護層コーティング液の調製
プラスチック製容器に、DCP(トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート)68質量部、NPG(ネオペンチルグリコールジメタクリレート)20質量部、TMPT(トリメチロールプロパントリメタクリレート)12質量部からなるラジカル重合性組成物を調製した。このラジカル重合性組成物100質量部に対し、紫外線重合開始剤としてIRGACURE819(BASF製)0.3質量部を添加して十分に攪拌混合を行った組成物に、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製TSL8370)を6質量部滴下した。その後、自転公転方式攪拌脱泡装置にて2分間脱泡することで、速硬性組成物を得た。
【0114】
(6)ポリマー保護層の形成
上記(4)で形成した調光層上に、上記(5)で調製したコーティング液をスピンコート法でコーティングした。その後、上記(4)と同様の雰囲気中で波長405nmの紫外線積算光量で1.1J/cm2(220mW/cm2、5秒)照射し、さらに、83℃、60分間の熱処理を行い、ポリマー保護層を形成した。ポリマー保護層の膜厚は40.6μmとした。
【0115】
(7)ハードコーティング液の調製
5℃雰囲気下、変性酸化第二スズ-酸化ジルコニウム-酸化タングステン-酸化珪素複合体メタノールゾル45質量部とγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン15質量部およびテトラエトキシシラン3質量部とを混合し、1時間攪拌した。その後、0.001モル/L濃度の塩酸4.5質量部を添加し、50時間攪拌した。その後、溶媒としてプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)25質量部、ダイアセトンアルコール(DAA)9質量部および(C)成分であるアルミニウムトリスアセチルアセトネート(AL-AA)1.8質量部、過塩素酸アルミニウム0.05質量部を順次添加し、150時間攪拌した。得られた溶液を0.5μmのフィルターでろ過したものをコーティング組成物とした。
【0116】
(8)ハードコート膜の形成
上記(6)で形成したプラスチックレンズレンズを60℃、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液にて5分間浸漬処理して十分に純水洗浄/乾燥を行った後、上記(7)で調製したハードコーティング組成物を用いて、ディッピング法(引き上げ速度20cm/分)でコーティングを行い、100℃、60分加熱硬化することで、厚さ4.9μmのハードコート膜を形成した。
【0117】
(9)反射防止膜の形成
上記(8)にてハードコート膜を形成したプラスチックレンズを蒸着装置に入れ、排気しながら85℃に加熱し、2.7mPa(2×10-5torr)まで排気した後、電子ビーム加熱法にて蒸着原料を蒸着させて、SiO2からなる膜厚0.6λの下地層、この下地層の上にTa2O5、ZrO2、Y2O3からなる混合層(nd=2.05、nλ=0.075λ)とSiO2層(nd=1.46、nλ=0.056λ)からなる第一屈折層、Ta2O5、ZrO2、Y2O3からからなる混合層(nd=2.05、nλ=0.075λ)とSiO2層からなる第2低屈折率層(nd=1.46、nλ=0.25λ)を形成して、膜厚0.5μmの反射防止膜を形成した。
以上の工程により、レンズ基材の凸面上に調光層およびポリマー保護層等をこの順に有する調光レンズを得た。
【0118】
(実施例2)
実施例1の(3)において、市販のフォトクロミック材料Transhade-SC(株式会社トクヤマ製TRANSHADE(登録商標))を、フォトクロミック性を有する硬化性組成物とし、平均分子量708のポリエチレングリコールジアクリレート40質量部を追加調整し、フォトクロミック性を有する硬化性組成物を得た。それ以外は実施例1と同様の方法で調光層を形成し、調光レンズを得た。
【0119】
(実施例3)
実施例1の(3)において、市販のフォトクロミック材料Transhade-SC(株式会社トクヤマ製TRANSHADE(登録商標))を、フォトクロミック性を有する硬化性組成物とし、平均分子量708のポリエチレングリコールジアクリレート40質量部を追加調整し、フォトクロミック性を有する硬化性組成物を得た。また、実施例1の(4)において、波長405nmの紫外線積算光量で13.2J/cm2(220mW/cm2、60秒)照射し、調光層を形成した。それ以外は実施例1と同様の方法で調光層を形成し、調光レンズを得た。
【0120】
(実施例4)
実施例2において、調光層の膜厚を20.6μm、ポリマー保護層の膜厚を30.4μmとしたこと以外は、実施例2と同様の方法で調光レンズを得た。
【0121】
(比較例1)
調光層の上にポリマー保護層は形成しなかった(ポリマー保護層を省いた)こと以外は、実施例1と同様の方法で調光レンズを得た。なお、各層(膜)の膜厚は表2に示した。
【0122】
(比較例2)
比較例1と同様、調光層の上にポリマー保護層は形成しなかった(ポリマー保護層を省いた)こと以外は、実施例1と同様の方法で調光レンズを得た。なお、各層(膜)の膜厚は表2に示した。
【0123】
(比較例3)
実施例1の(3)において、上記フォトクロミック材料Transhade-SCを、フォトクロミック性を有する硬化性組成物とし、実施例1の(4)において、波長405nmの紫外線積算光量で2.2J/cm2(220mW/cm2、60秒)照射し、さらに、83℃、60分間熱硬化を行い、調光層を形成した。それ以外は実施例1と同様の方法で調光層を形成し、調光レンズを得た。
【0124】
以上のようにして得られた実施例および比較例の各調光レンズにおける、調光層の膜厚方向でのインデンテーション硬さ(断面硬度)、および、調光層の膜厚方向でのインデンテーション硬さ×膜厚で定義される値(三次元硬度)に対する保護層の膜厚方向でのインデンテーション硬さ×膜厚で定義される値(三次元硬度)の比(調光層と保護層との三次元硬度比)については、前述の
図2~
図5に基づき説明した測定法により測定した。
【0125】
また、以上のようにして得られた実施例および比較例の各調光レンズに対して、以下のフォトクロミック性能を評価した。
[フォトクロミック性能評価]
<退色速度>
JIS T7333に準じた以下の方法によってフォトクロミック性の評価を行った。
実施例および比較例で得られた各調光レンズ上の調光層に対し、キセノンランプを用い、エアロマスフィルターを介して15分間(900秒)、調光層表面(レンズ基材と対向する面とは反対の面)に対して光照射し、調光層を発色させた。この時の発色濃度について大塚電子工業製の分光光度計により550nmの透過率を測定した。上記光照射は、JIS T7333に規定されているように放射照度および放射照度の許容差が下記表1に示す値となるように行った。退色速度は上記のように15分間(900秒)光照射し、照射を止めた時点からの透過率(550nm)変化を測定することにより求めた。退色速度、つまり時間と共に透過率が元に戻る時間(速度)が速いほど、フォトクロミック性が優れている。
【0126】
【0127】
また、以上のようにして得られた実施例および比較例の各調光レンズに対して、以下の耐擦傷性試験および密着性試験を行い、強度等を評価した。
[耐擦傷性試験]
調光レンズの表面に、スチールウール(規格#0000、日本スチールウール社製)にて1kgf/cm2で押し当てながらレンズ表面を擦って、傷のつき難さを目視にて判定した。判定基準は以下の通りとした。
UA:傷がほとんどない。
A:薄い傷数本、または深いが細い傷が2本程度。
B:薄い傷20本程度、または細いが深い傷が10本程度。
C:深い(太さは問わない)傷が多数発生し曇りに近い状態、または傷は浅いがコートが無い状態(膜弱)。
【0128】
[密着性試験(クロスハッチ試験)]
調光レンズの表面を1mm間隔で100目クロスカットし、市販の粘着テープを強く貼り付け、直上に急速に剥がし、硬化被膜の剥離の有無を調べた。
全く剥がれないものは100/100として、全て剥がれたものは0/100として、表記した。
以上の評価結果を纏めて以下の表2に示した。
【0129】
【0130】
上記表2の結果から明らかなように、調光層の断面硬度および調光層と保護層との三次元硬度比がいずれも本発明の範囲内にあれば、フォトクロミック性を有する調光層の光応答性の向上、特に退色速度の向上と強度を両立させた調光レンズ(眼鏡レンズ)を提供することができる。これに対し、比較例1では退色速度が本発明実施例よりも遅く、比較例2では耐擦傷性と密着性が著しく劣化し、比較例3では退色速度が本発明実施例よりも遅く、密着性もやや悪い。つまり、これら比較例では、調光層の光応答性の向上、特に退色速度の向上と強度を両立させた調光レンズ(眼鏡レンズ)を提供することができない。
【符号の説明】
【0131】
10 レンズ基材
20 調光層
30 保護層
40 試料台
50 測定用サンプル
100 調光レンズ(眼鏡レンズ)