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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】真空ポンプとその冷却部品
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
F04D19/04 G
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020522443
(86)(22)【出願日】2018-05-30
(86)【国際出願番号】 JP2018020671
(87)【国際公開番号】W WO2019229863
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2021-04-23
(73)【特許権者】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100069431
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 成則
(72)【発明者】
【氏名】三輪田 透
(72)【発明者】
【氏名】高井 慶行
(72)【発明者】
【氏名】坂口 祐幸
【審査官】嘉村 泰光
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-038764(JP,A)
【文献】実開平05-000989(JP,U)
【文献】国際公開第2005/015026(WO,A1)
【文献】特開2000-303949(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転体の回転によってガスを吸気し排気する真空ポンプであって、
前記回転体を収容する外装筐体と、
前記外装筐体の外周に配置された冷却部品と、を有し、
前記冷却部品は、
第1及び第2のポートからなる複数のポート対と、
前記複数のポート対の前記各ポートに連通する冷媒の流路と、
前記複数のポート対の使用形態を設定する設定手段と、を備え、
前記複数のポート対は、前記外装筐体の周方向に沿って設けられていること、
前記各ポート対を構成する前記第1及び第2のポート間では、前記流路は、非連通の流路欠損部となっていること、
及び、
前記設定手段は、前記複数のポート対のうち、いずれか選択された一つのポート対については、これを構成する前記第1及び第2のポートが、外部から前記流路への冷媒の供給と該流路から外部への冷媒の排出を可能とすることで、冷媒IN・OUTポートとして機能するように設定する一方、それ以外の選択されていない他のポート対については、これを構成する前記第1及び第2のポートを連通接続することで、そのポート間の前記流路欠損部を補い、前記流路の一部として機能するように設定すること
を特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記設定手段として、接続管を採用し、
前記接続管は、前記複数のポート対のうち、いずれか選択された一のポート対を使用して外部から前記流路内への冷媒の供給および前記流路内から外部への冷媒の排出を行う場合に、選択されていない他のポート対に装着されることで、前記他のポート対を構成する前記第1のポートと前記第2のポートとを連通接続させること
を特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記設定手段として、中間流路、並びに、第1および第2の栓を採用し、
前記中間流路は、前記第1の栓を挿入するための栓挿入穴部を有し、かつ、前記複数のポート対を構成する前記第1のポートと前記第2のポートとを連通接続するように構成され、
前記第1の栓は、前記中間流路の前記栓挿入穴部に所定量挿入されることにより、その挿入量に応じて、前記栓挿入穴部からの冷媒の流出を防止しつつ前記中間流路内における冷媒の流れを遮断する手段としての機能、および、前記栓挿入穴部からの冷媒の流出を防止しつつ前記中間流路内における冷媒の流れを維持する手段としての機能を具備し、
前記第2の栓は、前記複数のポート対を構成する前記第1、第2のポートに着脱可能に装着され、その装着時には前記第1、第2のポートを介する冷媒の出入を禁止する手段として機能すること
を特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
真空ポンプの外装筐体外周に配置される、真空ポンプの冷却部品であって、
第1及び第2のポートからなる複数のポート対と、
前記複数のポート対の各ポートに連通する冷媒の流路と、
前記複数のポート対の使用形態を設定する設定手段と、を備え、
前記複数のポート対は、前記外装筐体の周方向に沿って設けられていること、
前記各ポート対を構成する前記第1及び第2のポート間では、前記流路は、非連通の流路欠損部となっていること、
及び、
前記設定手段は、前記複数のポート対のうち、いずれか選択された一つのポート対については、これを構成する前記第1及び第2のポートが、外部から前記流路への冷媒の供給と該流路から外部への冷媒の排出を可能とすることで、冷媒IN・OUTポートとして機能するように設定する一方、それ以外の選択されていない他のポート対については、これを構成する前記第1及び第2のポートを連通接続することで、そのポート間の前記流路欠損部を補い、前記流路の一部として機能するように設定すること
を特徴とする真空ポンプの冷却部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造プロセス装置、フラット・パネル・ディスプレイ製造装置、ソーラー・パネル製造装置におけるプロセスチャンバ、その他の真空チャンバのガス排気手段として利用される真空ポンプに関し、特に、ポンプメンテナンスの必要性を正確に判断するのに好適なものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の真空ポンプとしては、例えば特許文献1に記載の真空ポンプが知られている。この真空ポンプ(以下「従来の真空ポンプ」という)は、外筒(127)やベース部(129)等からなる外装筐体の内側に回転体(103)が収容されていて、その回転体(103)の回転によってガスを吸気し排気する構造になっている。
【0003】
また、従来の真空ポンプでは、外装筐体を構成するベース部(129)に対して冷却部品として水冷管(149)を設置することで、真空ポンプの冷却を行っている。
【0004】
しかし、従来の真空ポンプによると、水冷管(149)はベース部(129)に埋設されており、水冷管(149)に対して冷却水を供給したり水冷管(149)から冷却水を排出したりする冷却水供給・排出用ポートは所定の位置に固定されている。このため、所定の現場に真空ポンプを設置した状態において、その冷却水供給・排出用ポートの位置が現場の冷却配管レイアウトに対応しない場合もあり、この場合、現場での冷却水供給・排出用ポートに対する冷却配管の接続作業が困難になる等、現場の冷却配管レイアウトに応じて迅速に真空ポンプの冷却部品に対する冷却配管の接続作業を行うことができず、使い勝手が悪いという問題点を有している。
【0005】
以上の説明において、カッコ内の符号は特許文献1で用いられている符号である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO 2012/053270
【文献】特開2017-194040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、真空ポンプを設置する現場の冷却配管レイアウトに応じて迅速に、真空ポンプの冷却部品に対する冷却配管の接続作業を行うことができ、使い勝手の良い真空ポンプとその冷却部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、回転体の回転によってガスを吸気し排気する真空ポンプであって、前記回転体を収容する外装筐体と、前記外装筐体の外周に配置された冷却部品と、を有し、前記冷却部品は、第1及び第2のポートからなる複数のポート対と、前記複数のポート対の前記各ポートに連通する冷媒の流路と、前記複数のポート対の使用形態を設定する設定手段と、を備え、前記複数のポート対は、前記外装筐体の周方向に沿って設けられていること、前記各ポート対を構成する前記第1及び第2のポート間では、前記流路は、非連通の流路欠損部となっていること、及び、前記設定手段は、前記複数のポート対のうち、いずれか選択された一つのポート対については、これを構成する前記第1及び第2のポートが、外部から前記流路への冷媒の供給と該流路から外部への冷媒の排出を可能とすることで、冷媒IN・OUTポートとして機能するように設定する一方、それ以外の選択されていない他のポート対については、これを構成する前記第1及び第2のポートを連通接続することで、そのポート間の前記流路欠損部を補い、前記流路の一部として機能するように設定することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、真空ポンプの外装筐体外周に配置される、真空ポンプの冷却部品であって、第1及び第2のポートからなる複数のポート対と、前記複数のポート対の各ポートに連通する冷媒の流路と、前記複数のポート対の使用形態を設定する設定手段と、を備え、前記複数のポート対は、前記外装筐体の周方向に沿って設けられていること、前記各ポート対を構成する前記第1及び第2のポート間では、前記流路は、非連通の流路欠損部となっていること、及び、前記設定手段は、前記複数のポート対のうち、いずれか選択された一つのポート対については、これを構成する前記第1及び第2のポートが、外部から前記流路への冷媒の供給と該流路から外部への冷媒の排出を可能とすることで、冷媒IN・OUTポートとして機能するように設定する一方、それ以外の選択されていない他のポート対については、これを構成する前記第1及び第2のポートを連通接続することで、そのポート間の前記流路欠損部を補い、前記流路の一部として機能するように設定することを特徴とする。
【0010】
前記本発明において、前記設定手段として、接続管を採用し、前記接続管は、前記複数のポート対のうち、選択された一のポート対を使用して外部から前記流路内への冷媒の供給および前記流路内から外部への冷媒の排出を行う場合に、選択されていない他のポート対に装着されることで、前記他のポート対を構成する前記第1のポートと前記第2のポートとを連通接続させることを特徴としてもよい。
【0011】
前記本発明において、前記設定手段として、中間流路、並びに、第1および第2の栓を採用し、前記中間流路は、前記第1の栓を挿入するための栓挿入穴部を有し、かつ、前記複数のポート対を構成する前記第1のポートと前記第2のポートとを連通接続するように構成され、前記第1の栓は、前記中間流路の前記栓挿入穴部に所定量挿入されることにより、その挿入量に応じて、前記栓挿入穴部からの冷媒の流出を防止しつつ前記中間流路内における冷媒の流れを遮断する手段としての機能、および、前記栓挿入穴部からの冷媒の流出を防止しつつ前記中間流路内における冷媒の流れを維持する手段としての機能を具備し、前記第2の栓は、前記複数のポート対を構成する前記第1、第2のポートに着脱可能に装着され、その装着時には前記第1、第2のポートを介する冷媒の出入を禁止する手段として機能することを特徴としてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、真空ポンプとその冷却部品の具体的な構成として、前述の通り、ポート対が外装筐体の周方向に沿って複数設けられているという構成を採用した。このため、真空ポンプを設置する現場において、複数のポート対の中から現場の冷却配管レイアウトに対応する一つのポート対を選択し、選択したポート対に対して対応する冷却配管を接続すればよいから、現場の冷却配管レイアウトに応じて迅速に、真空ポンプの冷却部品に対する冷却配管の接続作業を行うことができ、使い勝手の良い真空ポンプとその冷却部品を提供し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明を適用した真空ポンプの断面図。
図2図1の真空ポンプで採用した冷却部品の第1の概念図。
図3図2の冷却部品において、真空ポンプを設置する現場の冷却配管レイアウトに応じて使用するポート対を変更した例の説明図。
図4図2の真空ポンプで採用した冷却部品の第2の概念図
図5図4の冷却部品において、真空ポンプを設置する現場の冷却配管レイアウトに応じて使用するポート対を変更した例の説明図。
図6】止め栓又は埋め栓として機能する第1の栓の一部断面模式図(埋め栓として機能している状態)。
図7図6に示した第1の栓の動作説明図(止め栓として機能している状態)。
図8】本発明を適用した他の真空ポンプの断面図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、添付した図面を参照しながら詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明を適用した真空ポンプの断面図、図2は、図1の真空ポンプで採用した冷却部品の第1の概念図である。
【0016】
図1の真空ポンプP1は、外装筐体1と、外装筐体1内に収容された回転体2と、回転体2を回転可能に支持する支持手段3と、回転体2を回転駆動する駆動手段4と、回転体2の回転によりガスを吸気するための吸気口5と、吸気口5から吸気したガスを排気するための排気口6と、吸気口5から排気口6に向かって移行するガスの流路7(以下「ガス流路」という)と、外装筐体1の外周に配置された冷却部品8と、を備え、かつ、回転体2の回転によってガスを吸気し排気する構造になっている。
【0017】
外装筐体1はポンプベース1Bとその上に位置する筒状のポンプケース1Aとを有し、ポンプケース1Aの上端部側は前記吸気口5として開口している。吸気口5は、真空雰囲気中で所定のプロセスを実行する装置、例えば半導体製造装置のプロセスチャンバ等のように高真空となる真空チャンバ(図示省略)に接続される。
【0018】
ポンプベース1Bの下端部側面には排気ポート9が設けられており、排気ポート9の一端は前記ガス流路7に連通し、同排気ポート9の他端は前記排気口として開口した形態になっている。排気口6は図示しない補助ポンプに連通接続される。
【0019】
ポンプケース1A内の中央部にはステータコラム10が設けられている。このステータコラム10は、ポンプベース1Bから吸気口5の方向に向けて立ち上がった構造になっている。このような構造のステータコラム10には各種電装部品(後述の駆動モータ15などを参照)が取付けられている。図1の真空ポンプでは、ステータコラム10とポンプベース1Bとが一部品として一体化した構造を採用しているが、これに限定されることはない。例えば、図示は省略するが、ステータコラム10とポンプベース1Bは別部品として構成してもよい。
【0020】
ステータコラム10の外側には前記回転体2が設けられている。つまり、ステータコラム10は回転体2の内側に位置するように構成されており、回転体2は、ポンプケース1Aおよびポンプベース1Bに内包され、かつ、ステータコラム10の外周を囲む円筒形状になっている。
【0021】
ステータコラム10の内側には回転軸12が設けられている。回転軸12は、その上端部側が吸気口5の方向を向くように配置されている。また、この回転軸12は、磁気軸受(具体的には、公知の2組のラジアル磁気軸受13と1組のアキシャル磁気軸受14)により回転可能に支持されている。さらに、ステータコラム10の内側には駆動モータ15が設けられており、この駆動モータ15により回転軸12はその軸心周りに回転駆動される。
【0022】
回転軸12の上端部はステータコラム10の円筒上端面から上方に突出しており、この突出した回転軸12の上端部に対して回転体2の上端側がボルト等の締結手段で一体に固定されている。したがって、回転体2は、回転軸12を介して、磁気軸受(ラジアル磁気軸受13、アキシャル磁気軸受14)で回転可能に支持されており、この支持状態で駆動モータ15を起動することにより、回転体2は、回転軸12と一体にその軸心周りに回転することができる。要するに、図1の真空ポンプP1では、磁気軸受が回転体2を回転可能に支持する支持手段として機能し、また、駆動モータ15が回転体2を回転駆動する駆動手段として機能する。
【0023】
そして、図1の真空ポンプP1は、吸気口5から排気口6までの間に、ガス分子を排気する手段として機能する複数の翼排気段16を備えている。
【0024】
さらに、図1の真空ポンプP1は、複数の翼排気段16の下流部、具体的には複数の翼排気段16のうち最下段の翼排気段16(16-n)から排気口6までの間に、ネジ溝ポンプ段17を備えている。
【0025】
《翼排気段16の詳細》
図1の真空ポンプP1では、回転体2の略中間より上流が複数の翼排気段16として機能する。以下、複数の翼排気段16を詳細に説明する。
【0026】
回転体2の略中間より上流の回転体2外周面には、回転体2と一体に回転する回転翼18が複数設けられており、これらの回転翼18は、翼排気段16(16-1、16-2、…16-n)ごとに、回転体2の回転中心軸(具体的には回転軸12の軸心)若しくは外装筐体1の軸心(以下「ポンプ軸心」という)を中心として放射状に所定間隔で配置されている。なお、回転翼18は、その構造上、回転体2と一体に回転するので、回転体2を構成する要素であり、以下、回転体2と言うときは回転翼18を含むものとする。
【0027】
一方、外装筐体1内(具体的には、ポンプケース1Aの内周側)には、複数の固定翼19が設けられており、各固定翼19のポンプ径方向およびポンプ軸心方向の位置は、ポンプベース1B上に多段に積層された複数の固定翼スペーサ20によって位置決め固定されている。これらの固定翼19もまた、回転翼18と同じく、翼排気段16(16-1、16-2、…16-n)ごとに、ポンプ軸心を中心として放射状に所定間隔で配置されている。
【0028】
つまり、各翼排気段16(16-1、16-2、…16-n)は、吸気口5から排気口6までの間に多段に設けられるとともに、翼排気段16(16-1、16-2、…16-n)ごとに放射状に所定間隔で配置された複数の回転翼18と固定翼19とを備え、これらの回転翼18と固定翼19とでガス分子を排気する構造になっている。
【0029】
いずれの回転翼18も、回転体2の外径加工部と一体的に切削加工で切り出し形成したブレード状の切削加工品であって、ガス分子の排気に最適な角度で傾斜している。いずれの固定翼19もまた、ガス分子の排気に最適な角度で傾斜している。
【0030】
《複数の翼排気段16での排気動作の説明》
以上の構成からなる複数の翼排気段16において、最上段の翼排気段16(16-1)では、駆動モータ15の起動により、回転軸12および回転体2と一体に複数の回転翼18が高速で回転し、回転翼18の回転方向前面かつ下向き(吸気口5から排気口6に向かう方向、以降下向きと略する)の傾斜面により吸気口5から入射したガス分子に下向き方向かつ接線方向の運動量を付与する。このような下向き方向の運動量を有するガス分子が、固定翼19に設けられている回転翼18と回転方向に逆向きの下向きの傾斜面によって、次の翼排気段16(16-2)へ送り込まれる。
【0031】
次の翼排気段16(16-2)およびそれ以降の翼排気段16でも、最上段の翼排気段16(16-1)と同じく、回転翼18が回転し、前記のような回転翼18によるガス分子への運動量の付与と固定翼19によるガス分子の送り込み動作とが行なわれることで、吸気口5付近のガス分子は、回転体2の下流に向かって順次移行するように排気される。
【0032】
以上のような複数の翼排気段16でのガス分子の排気動作からも分かるように、複数の翼排気段16では、回転翼18と固定翼19との間に設定された隙間がガスを排気するための流路(以下「ブレード間排気流路7A」という)になっている。
【0033】
《ネジ溝ポンプ段17の詳細》
図1の真空ポンプP1は、回転体2の略中間より下流がネジ溝ポンプ段17として機能する。以下、ネジ溝ポンプ段17を詳細に説明する。
【0034】
ネジ溝ポンプ段17は、回転体2の外周側(具体的には、回転体2の略中間より下流の回転体2部分の外周側)にネジ溝排気流路7Bを形成する手段として、ネジ溝排気部ステータ21を有している。ネジ溝排気部ステータ21の具体的な構成例として、図1の真空ポンプP1では、かかるネジ溝排気部ステータ21は、真空ポンプP1の固定部品としてポンプベース1Bとポンプケース1Aの間に介在させることで、外装筐体1の一部を構成しているが、このような構成例に限定されることはない。例えば、ポンプベース1Bとポンプケース1Aをボルトなどの締結手段で連結した構造では、ポンプケース1Aの内側にネジ溝排気部ステータ21を配置してもよい。
【0035】
ネジ溝排気部ステータ21は、その内周面が回転体2の外周面に対向するように配置された円筒形の固定部材であって、回転体2の略中間より下流の回転体2部分を囲むように配置してある。
【0036】
そして、回転体2の略中間より下流の回転体2部分は、ネジ溝ポンプ段17の回転部品として回転する部分であって、ネジ溝排気部ステータ21の内側に、所定のギャップを介して挿入・収容されている。
【0037】
ネジ溝排気部ステータ21の内周部には、深さが下方に向けて小径化したテーパコーン形状に変化するネジ溝22を形成してある。このネジ溝22はネジ溝排気部ステータ21の上端から下端にかけて螺旋状に刻設してある。
【0038】
前記のようなネジ溝22を備えたネジ溝排気部ステータ21により、回転体2の外周側には、ガスを排気するためのネジ溝排気流路7Bが形成される。図示は省略するが、先に説明したネジ溝22を回転体2の外周面に形成することで、前記のようなネジ溝排気流路7Bが設けられるように構成してもよい。
【0039】
ネジ溝ポンプ段17では、ネジ溝22と回転体2の外周面でのドラック効果によりガスを圧縮しながら移送するため、かかるネジ溝22の深さは、ネジ溝排気流路7Bの上流入口側(吸気口5に近い方の流路開口端)で最も深く、その下流出口側(排気口6に近い方の流路開口端)で最も浅くなるように設定してある。
【0040】
ネジ溝排気流路7Bの入口(上流開口端)は、先に説明したブレード間排気流路7Aの出口、具体的には、最下段の翼排気段16-nを構成する固定翼19とネジ溝排気部ステータ21との間の隙間(以下「最終隙間GE」という)に向って開口し、また、同ネジ溝排気流路7Bの出口(下流開口端)は、ポンプ内排気口側流路7Cを通じて排気口6に連通している。
【0041】
ポンプ内排気口側流路7Cは、回転体2やネジ溝排気部ステータ21の下端部とポンプベース1Bの内底部との間に所定の隙間(図1の真空ポンプP1では、ステータコラム10の下部外周を一周する形態の隙間)を設けることによって、ネジ溝排気流路7Bの出口から排気口6に連通するように形成してある。
【0042】
《ネジ溝ポンプ段17での排気動作の説明》
先に説明した複数の翼排気段16での排気動作による移送によって最終隙間GE(ブレード間排気流路7Aの出口)に到達したガス分子は、ネジ溝排気流路7Bに移行する。移行したガス分子は、回転体2の回転によって生じるドラッグ効果によって、遷移流から粘性流に圧縮されながらポンプ内排気口側流路7Cに向かって移行する。そして、ポンプ内排気口側流路7Cに到達したガス分子は排気口6に流入し、図示しない補助ポンプを通じて外装筐体1の外へ排気される。
【0043】
《真空ポンプP1内におけるガス流路7の説明》
以上の説明から分かるように、図1の真空ポンプP1では、ガス流路7は、ブレード間排気流路7A、最終隙間GE、ネジ溝排気流路7B、および、ポンプ内排気口側流路7Cを含んで構成され、このガス流路7を通ってガスは吸気口5から排気口6に向かって移行する。
【0044】
《冷却部品8の説明》
回転体2(複数の回転翼18を含む)の熱は、固定翼19や固定翼スペーサ20側に放射され、最下段の固定翼スペーサ20E(20)からネジ溝排気部ステータ21の方向に移行する。このため、図1の真空ポンプP1では、ネジ溝排気部ステータ21の一部に冷却部品8を組み込んでいる。
【0045】
図2を参照すると、冷却部品8は、第1及び第2のポートからなる複数のポート対81と、複数のポート対81の各ポート81A、81Bに連通する冷媒の流路82(以下「冷媒流路82」という)と、複数のポート対81の使用形態を設定する設定手段83と、を備えている。
【0046】
複数のポート対81は、外装筐体1の周方向C1に沿って設けられている。図2の例では、ポート対81を2つ設けているが、ポート対81の数は2つに限定されず、必要に応じて適宜増やすことができる。
【0047】
また、図2の例では、2つのポート対81は真空ポンプP1のポンプ軸心からポンプ径方向に沿って放射状に配置するとともに、2つのポート対81のうち、一のポート対81-1からポンプ軸心周りで外装筐体1の周方向に沿って90度ずれた位置に、他のポート対81-2を配置しているが、このようなポート対81の配置角度構成は必要に応じて適宜変更することができる。このことは、ポート対81を3つ以上備える場合も同様である。
【0048】
各ポート対81を構成する第1および第2のポート81A、81Bの先端は、冷媒の出入口(IN、OUT)として利用できるように開口している。
【0049】
冷媒流路82の具体的な構成として、図2の冷却部品8では、一のポート対81-1を構成する第1のポート81Aと他のポート対81-2を構成する第1のポート81Aとを第1の管体82-1で接続する構造、および、一のポート対81-1を構成する第2のポート81Bと他のポート対81-2を構成する第2のポート81Bとを第2の管体82-2で接続する構造、並びに、その第1および第2の管体82-1、82-2内を冷媒流路82として利用する構成を採用している。
【0050】
設定手段83は、複数のポート対81のうち、選択された一つのポート対81-1について、その第1のポート81Aを使用した外部から冷媒流路82内への冷媒の供給と、その第2のポート81Bを使用した冷媒流路82内から外部への冷媒の排出を行うように設定する手段、および、それ以外の他のポート対81-2について、その第1のポート81Aを使用した外部から冷媒流路82内への冷媒の供給と、その第2のポート81Bを使用した冷媒流路82内から外部への冷媒の排出を共に禁止するように設定する手段として機能する。
【0051】
《設定手段83の具体的な構成例(その1)》
図2は、図1の真空ポンプで採用した冷却部品の第1の概念図である。
【0052】
図2を参照すると、先に説明した設定手段83の機能を実現するための具体的な構成例として、図2の冷却部品8では、接続管84を採用している。なお、図2は、真空ポンプP1を設置する現場の冷却配管レイアウトに応じて使用するポート対として、一のポート対81-1を選択して使用する例である。
【0053】
接続管84は、複数のポート対81のうち、選択された一のポート対81-1(以下「選択ポート対81-1」という)を使用して外部から冷媒流路82内への冷媒の供給および冷媒流路内から外部への冷媒の排出を行う場合に、選択されていない他のポート対81-2(以下「非選択ポート対81-2」という)に装着されることで、非選択ポート対81-2を構成する第1のポート81Aと第2のポート81Bとを連通接続させる。
【0054】
これにより、選択ポート対81-1を構成する第1のポート81Aから第2のポート82Bまでの間は、非選択ポート対81-2を構成する第1および第2のポート81A、81B並びに接続管84を介して、第1および第2の管体81-1、81-2で連通した状態となる。
【0055】
接続管84は、第1のポート81Aと第2のポート81Bとを連結するための管継手としての機能を有している。したがって、非選択ポート対81-2に対して接続管84を装着する作業は、接続管84の一端を第1のポート81Aに接続し、かつ、同接続管84の他端を第2のポート81Bに接続すればよい。
【0056】
そして、選択ポート対81-1を構成する第1及び第2のポート81A、81Bに対して管継手(図8の符号CNを参照)等を介して外部配管を接続し、接続した外部配管から例えばその第1のポート81Aに対して冷媒を供給すると、供給された冷媒は、第1の管体82-1、非選択ポート対81-2を構成する第1のポート81A、接続管84、非選択ポート対81-2を構成する第2のポート81B、並びに第2の管体82-2を流れ、最終的に、選択ポート対81-1を構成する第2のポート81Bから排出される。
【0057】
このとき、非選択ポート81-2に対して接続管84が装着されたことにより、非選択ポート81-2を構成する第1のポート81Aを使用した外部から冷媒流路82内への冷媒の供給と、その第2のポート81Bを使用した冷媒流路82内から外部への冷媒の排出は、共に禁止されている。
【0058】
接続管84の形状は図2に示されたU字形状に限定されることはなく、また、接続管84の材質は金属でもよいしゴム等の弾性部材でもよい。接続管84の形状や材質は必要に応じて適宜変更することができる。
【0059】
図3は、図2の冷却部品8において、真空ポンプP1を設置する現場の冷却配管レイアウトに応じて使用するポート対を変更した例の説明図である。つまり、図3は、使用するポート対として、図2の例で選択した一のポート対81-1とは異なる他のポート対81-2を選択して使用するものである。
【0060】
図2の例から図3の例のように選択・使用するポート対を変更する場合は、図2の非選択ポート対81-2から接続管84を取り外し、取り外した接続管84を図2の選択ポート対81-1に装着すればよい。この場合、図2の非選択ポート対81-2は図3では選択ポート対81-1となり、また、図2の選択ポート対81-1は図3では非選択ポート対81-2となる。
【0061】
《設定手段83の具体的な構成例(その2)》
図4は、図2の真空ポンプで採用した冷却部品の第2の概念図、図6は、止め栓又は埋め栓として機能する第1の栓の一部断面模式図(埋め栓として機能している状態)、図7は、図6に示した第1の栓の動作説明図(止め栓として機能している状態)である。
【0062】
図4を参照すると、先に説明した設定手段83の機能を実現するための具体的な構成例として、図4の冷却部品8では、中間流路85、並びに、第1および第2の栓86-1、86-2を採用している。
【0063】
図6および図7を参照すると、中間流路85は、その流路内に向って第1の栓86-1を挿入するための栓挿入穴部85Aを有し、かつ、ポート対81を構成する第1のポート81Aと第2のポート82Bとに連通する構造になっている。
【0064】
第1の栓86-1は、栓挿入穴部85Aにおいて中間流路85内に向って所定量挿入されることにより、その挿入量に応じて2つの機能、具体的には、栓挿入穴部85Aからの冷媒の流出を防止しつつ中間流路85内における冷媒の流れを止める手段(以下「止め栓」という)としての機能(図7を参照)、および、栓挿入穴部85Aからの冷媒の流出を防止しつつ中間流路85内における冷媒の流れを許容する手段(以下「第1の埋め栓」という)としての機能(図6を参照)を有する。
【0065】
第2の栓86-2は、ポート対81を構成する第1、第2のポート81A、81Bに着脱可能に装着されるとともに、その装着時には第1、第2のポート81A、81Bを介する冷媒の出入を禁止する手段(以下「第2の埋め栓」という)として機能するように構成してある。
【0066】
図4を参照すると、図4の冷却部品8では、真空ポンプP1を設置する現場の冷却配管レイアウトに応じて使用するポート対として、一のポート対81-1を選択している。この場合、選択ポート対81-1では、第1の栓86-1は前述の
“止め栓”として機能している(図7を参照)。この一方、非選択ポート対81-2では、第1の栓86-1は前述の“第1の埋め栓”として機能し(図6を参照)、第2の栓86-2は前述の“第2の埋め栓”として機能している(図6を参照)。
【0067】
したがって、選択ポート対81-1を構成する第1及び第2のポート81A、81Bに対して管継手等を介して外部配管を接続し、接続した外部配管から例えばその第1のポート81Aに対して冷媒を供給すると、供給された冷媒は、第1の管体82-1、非選択ポート対81-2を構成する第1および第2のポート81A、81Bとこれらを連通接続する中間流路85、並びに、第2の管体82-2を流れ、最終的に、選択ポート対81-1を構成する第2のポート81Bから排出される。
【0068】
このとき、非選択ポート81-2では、これを構成する各ポート81A、81Bに対して第2の栓86-2が装着されたこと、および、中間流路85の栓挿入穴部85Aに挿入されている第1の栓86-1が埋め栓として機能することにより、非選択ポート81-2を構成する第1のポート81Aを使用した外部から冷媒流路82内への冷媒の供給と、その第2のポート81Bを使用した冷媒流路82内から外部への冷媒の排出、並びに、栓挿入穴部85Aからの冷媒の出入は、いずれも禁止されている。
【0069】
図5は、図4の冷却部品8において、真空ポンプP1を設置する現場の冷却配管レイアウトに応じて使用するポート対を変更した例の説明図である。つまり、図5は、使用するポート対として、図4の例で選択した一のポート対81-1とは異なる他のポート対81-2を選択して使用する例である。
【0070】
図4の例から図5の例のように選択・使用するポート対を変更する場合には、下記《手順1》と《手順2》に従って作業を行えばよい。
【0071】
《手順1》
図4の非選択ポート対81-2において、現に”第2の埋め栓”として機能している第2の栓86-2を第1および第2のポート81A、81Bから取り外す(図5を参照)。そして、その取り外した第2の栓86-2または別に用意した第2の栓86-2を図4の選択ポート対81-1を構成する第1および第2のポート81A、81Bに取り付ける(図5を参照)。
【0072】
《手順2》
図4の非選択ポート対81-2において、現に“第1の埋め栓”として機能している第1の栓86-1を“止め栓”として機能するように設定する(図5を参照)。そして、図4の選択ポート対81-1において、現に”止め栓”として機能している第1の栓86-1を”第1の埋め栓”として機能するように設定する(図5を参照)。
【0073】
《冷却部品8の組込み方式》
ネジ溝排気部ステータ21に対する冷却部品8の具体的な組み込み方式として、図1の真空ポンプP1では、冷却部品8の特定構成要素(図2の例では、ポート対81と冷媒流路82、図4の例ではポート対81、冷媒流路82、および、中間流路85とその栓挿入穴部85A)をネジ溝排気部ステータ21内に埋設する方式を採用しているが、この方式に限定されることはない。ネジ溝排気部ステータ21に対する冷却部品8の具体的な組み込み方式については、必要に応じて適宜変更することができる。
【0074】
例えば、図8に示した真空ポンプP1のように、ネジ溝排気部ステータ21の一部を別部品(冷媒ジャケット30)として構成し、その別部品(冷媒ジャケット30)に設けた溝部30Aに前記のような冷却部品8の特定構成要素を設置する方式を採用してもよい。
【0075】
《作用効果》
以上説明した実施形態の真空ポンプとその冷却部品にあっては、ポート対が外装筐体の周方向に沿って複数設けられているという構成を採用した。このため、真空ポンプを設置する現場において、複数のポート対の中から現場の冷却配管レイアウトに対応する一のポート対を選択し、選択したポート対に対して対応する冷却配管を接続すればよいから、現場の冷却配管レイアウトに応じて迅速に、真空ポンプの冷却部品に対する冷却配管の接続作業を行うことができる点で、使い勝手に優れている。
【0076】
本発明は、以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で当分野において通常の知識を有する者により多くの変形が可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 外装筐体
1A ポンプケース
1B ポンプベース
2 回転体
3 支持手段
4 駆動手段
5 吸気口
6 排気口
7 ガスの流路
7A ブレード間排気流路
7B ネジ溝排気流路
7C ポンプ内排気口側流路
8 冷却部品
81 ポート対
81A 第1のポート
81B 第2のポート
82 流路(冷媒流路)
82-1 第1の管体
82-2 第2の管体
83 設定手段
9 排気ポート
10 ステータコラム
12 回転軸
13 ラジアル磁気軸受
14 アキシャル磁気軸受
15 駆動モータ
16 翼排気段
16-1 最上段の翼排気段
16-n 最下段の翼排気段
17 ネジ溝ポンプ段
18 回転翼
19 固定翼
20 固定翼スペーサ
20E 最下段の固定翼スペーサ
21 ネジ溝排気部ステータ
22 ネジ溝
30 冷媒ジャケット
30A 溝部
C1 外装筐体の周方向
CN 管継手
GE 最終隙間
1 真空ポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8