(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】マグネシウム合金板材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 23/02 20060101AFI20220908BHJP
C22F 1/06 20060101ALI20220908BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20220908BHJP
【FI】
C22C23/02
C22F1/06
C22F1/00 623
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 640A
C22F1/00 681
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694A
C22F1/00 694B
(21)【出願番号】P 2021502621
(86)(22)【出願日】2018-12-03
(86)【国際出願番号】 KR2018015189
(87)【国際公開番号】W WO2020022584
(87)【国際公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-01-15
(31)【優先権主張番号】10-2018-0083533
(32)【優先日】2018-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(73)【特許権者】
【識別番号】592000705
【氏名又は名称】リサーチ インスティチュート オブ インダストリアル サイエンス アンド テクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】パク、 ジェ シン
(72)【発明者】
【氏名】イ、 テ グン
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 デ ファン
(72)【発明者】
【氏名】ソ、 べ ムン
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ヘ ジ
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ジョンゴル
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ヘ ジョン
(72)【発明者】
【氏名】オ、 ユンソク
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 ジェ オク
(72)【発明者】
【氏名】チュウ、 ドン キュン
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/117632(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 23/02
C22F 1/06
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
全体100重量%に対して、Al:3重量%超過および5重量%以下、Zn:0.5重量%~1.5重量%、Mn:0.1重量%~0.5重量%、B:0.001重量%~0.01重量%、Y:0.1重量%~0.5重量%、残部マグネシウムおよびその他不可避な不純物
からなる、マグネシウム合金板材。
【請求項2】
全体100重量%に対して、Al:5重量%超過および9重量%以下、Zn:0.5重量%~1.5重量%、Mn:0.1重量%~0.5重量%、B:0.001重量%~0.01重量%、Y:0.1重量%~0.5重量%、Ti:0.001重量%~
0.0016重量%、残部マグネシウムおよびその他不可避な不純物
からなる、マグネシウム合金板材。
【請求項3】
前記マグネシウム合金板材の表面には、MgO酸化層が位置し、
前記酸化層には、Ti成分を含む、請求項
2に記載のマグネシウム合金板材。
【請求項4】
前記マグネシウム合金板材は、Mg
17Al
12粒子相を含み、
前記粒子の平均粒径は、1μm以下である、請求項1~
3のいずれか一項に記載のマグネシウム合金板材。
【請求項5】
前記マグネシウム合金板材は、Mg
17Al
12粒子相を含み、
前記マグネシウム合金板材の100体積%に対して、前記粒子の体積分率は5%以下である、請求項1~
4のいずれか一項に記載のマグネシウム合金板材。
【請求項6】
全体100重量%に対して、Al:3重量%超過および5重量%以下、Zn:0.5重量%~1.5重量%、Mn:0.1重量%~0.5重量%、B:0.001重量%~0.01重量%、Y:0.1重量%~0.5重量%、残部マグネシウムおよびその他不可避な不純物
からなる合金溶湯を準備する段階;
前記合金溶湯を鋳造してインゴットを製造する段階;
前記インゴットを均質化熱処理する段階;および
前記均質化熱処理されたインゴットを圧延する段階
を含むマグネシウム合金板材の製造方法。
【請求項7】
全体100重量%に対して、Al:5重量%超過および9重量%以下、Zn:0.5重量%~1.5重量%、Mn:0.1重量%~0.5重量%、B:0.001重量%~0.01重量%、Y:0.1重量%~0.5重量%、Ti:0.001重量%~
0.0016重量%、残部マグネシウムおよびその他不可避な不純物
からなる合金溶湯を準備する段階;
前記合金溶湯を鋳造してインゴットを製造する段階;
前記インゴットを均質化熱処理する段階;および
前記均質化熱処理されたインゴットを圧延する段階
を含むマグネシウム合金板材の製造方法。
【請求項8】
前記インゴットを均質化熱処理する段階は、
380~420℃温度範囲で実施する、請求項
6または7に記載のマグネシウム合金板材の製造方法。
【請求項9】
前記インゴットを均質化熱処理する段階は、
12~24時間実施する、請求項
6~8のいずれか一項に記載のマグネシウム合金板材の製造方法。
【請求項10】
前記均質化熱処理されたインゴットを圧延する段階は、
275~325℃温度範囲で実施する、請求項
6~9のいずれか一項に記載のマグネシウム合金板材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、マグネシウム合金板材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金は、構造用金属素材のうち、最も軽く、比強度、比剛性、振動吸収能などに優れており、電子およびIT産業だけでなく、輸送機器用軽量素材として日々その重要性が増している。しかし、マグネシウムは、電気化学的に活性が大きい金属であって、腐食環境に露出される場合、速い速度で腐食が進行する短所があり、素材化適用に限界がある。したがって、マグネシウム合金の適用分野拡大のために劣悪な腐食環境に適用可能な新たな高耐食マグネシウム素材の開発が必須である。
【0003】
純粋マグネシウムは、電気化学的に標準水素電極電位が-2.38V程度に活性が非常に大きい金属であって、腐食環境に露出時に速い速度で腐食が進行する。大気中では表面に形成されるMgO被膜により中炭素鋼または一般のアルミニウム合金と対等な耐食性水準を示す反面、水分が存在したり、酸性または中性溶液内では表面被膜が不安定になって不動態を形成することができず、速い速度で腐食が進行する。室内および室外の大気露出時のMg腐食生成物を分析した結果、主にマグネシウムの水酸化物、炭酸塩、水分などで構成されることを確認することができる。一般に金属素材の腐食は、金属素材と周囲環境との電気化学的反応により金属素材が消滅して機能が低下したり、構造的に破損、破壊される現象を意味する。腐食は、金属製品の性能や寿命と直接的に関係する重要な現象であり、製品や構造物の破損を起こす原因になって大部分の使用環境ではこのような腐食を抑制するための多様な方法を適用している。
【0004】
しかし、バイオマテリアルのように金属の腐食現象を逆に利用して製品の機能性を差別化する場合もある。高耐食マグネシウム素材は、不純物、微細組織、表面状態、腐食環境などの多様な腐食因子を保有しており、合金製造時に不可避に混入される不純物の種類および含有量、特性向上のために人為的に添加する合金元素の種類と含有量、素材製造方法および工程条件などを制御して使用環境により適切な腐食特性を有するように設計および製造を行うようになる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
AZ系マグネシウム合金にB、Y、Ti、またはこれらの組み合わせを添加して、耐食性および機械的物性が同時に向上したマグネシウム合金を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態によるマグネシウム合金板材は、全体100重量%に対して、Al:3重量%超過および5重量%以下、Zn:0.5重量%~1.5重量%、Mn:0.1重量%~0.5重量%、B:0.001重量%~0.01重量%、Y:0.1重量%~0.5重量%、残部マグネシウムおよびその他不可避な不純物を含むことができる。
【0007】
前記マグネシウム合金板材は、Ti:0.001重量%~0.01重量%をさらに含んでもよい。
【0008】
本発明の他の一実施形態によるマグネシウム合金板材は、全体100重量%に対して、Al:5重量%超過および9重量%以下、Zn:0.5重量%~1.5重量%、Mn:0.1重量%~0.5重量%、B:0.001重量%~0.01重量%、Y:0.1重量%~0.5重量%、Ti:0.001重量%~0.01重量%、残部マグネシウムおよびその他不可避な不純物を含むことができる。
【0009】
前記マグネシウム合金板材の表面には、MgO酸化層が位置し、前記酸化層には、Ti成分を含んでもよい。
【0010】
前記マグネシウム合金板材は、Mg17Al12粒子相を含み、前記粒子の平均粒径は1μm以下であってもよい。
【0011】
前記マグネシウム合金板材は、Mg17Al12粒子相を含み、前記マグネシウム合金板材の100体積%に対して、前記粒子の体積分率は5%以下であってもよい。
【0012】
本発明の他の一実施形態によるマグネシウム合金板材の製造方法は、全体100重量%に対して、Al:3重量%超過および5重量%以下、Zn:0.5重量%~1.5重量%、Mn:0.1重量%~0.5重量%、B:0.001重量%~0.01重量%、Y:0.1重量%~0.5重量%、残部マグネシウムおよびその他不可避な不純物を含む合金溶湯を準備する段階、前記合金溶湯を鋳造してインゴットを製造する段階、前記インゴットを均質化熱処理する段階、および前記均質化熱処理されたインゴットを圧延する段階を含むことができる。
【0013】
前記合金溶湯を準備する段階において、前記合金溶湯は、Ti:0.001重量%~0.01重量%をさらに含んでもよい。
【0014】
本発明の他の一実施形態によるマグネシウム合金板材の製造方法は、全体100重量%に対して、Al:5重量%超過および9重量%以下、Zn:0.5重量%~1.5重量%、Mn:0.1重量%~0.5重量%、B:0.001重量%~0.01重量%、Y:0.1重量%~0.5重量%、Ti:0.001重量%~0.01重量%、残部マグネシウムおよびその他不可避な不純物を含む合金溶湯を準備する段階、前記合金溶湯を鋳造してインゴットを製造する段階、前記インゴットを均質化熱処理する段階、および前記均質化熱処理されたインゴットを圧延する段階を含むことができる。
【0015】
前記インゴットを均質化熱処理する段階は、380~420℃温度範囲で実施してもよい。
【0016】
具体的に、12~24時間実施してもよい。
【0017】
前記均質化熱処理されたインゴットを圧延する段階は、275~325℃温度範囲で実施してもよい。
【発明の効果】
【0018】
AZ系マグネシウム合金にB、Y、Ti、またはこれらの組み合わせを添加して、耐食性および機械的物性が同時に向上したマグネシウム合金を提供することができる。
【0019】
具体的に、Alの組成範囲によりB、Y、Tiまたはこれらの組み合わせを制御して耐食性に優れたマグネシウム合金を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例と比較例の腐食速度をグラフで示したものである。
【
図2】比較例6と実施例5の微細組織をSEMで観察した写真である。
【
図3】比較例6と実施例5の微細組織をTEMで観察した写真である。
【
図4】比較例6と実施例5の表面酸化被膜をSAMで分析した結果を示したものである。
【
図5】比較例6と実施例5の表面酸化被膜をTEMで分析した結果を示したものである。
【
図6】比較例6と実施例5の表面酸化被膜層の合金成分をSIMSで分析した結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。ただし、これは例示として提示されるものであり、本発明はこれによって制限されず、本発明は後述する特許請求の範囲の範疇のみによって定義される。
【0022】
本発明の一実施形態であるマグネシウム合金板材は、全体100重量%に対して、Al:3重量%超過および5重量%以下、Zn:0.5重量%~1.5重量%、Mn:0.1重量%~0.5重量%、B:0.001重量%~0.01重量%、Y:0.1重量%~0.5重量%、残部マグネシウムおよびその他不可避な不純物を含むことができる。
【0023】
具体的に、本発明の一実施形態によるAl含有量は、3重量%超過および5重量%以下であってもよい。より具体的には、3.2重量%以上および5.0重量%以下であってもよい。さらに具体的には、3.5重量%以上および5.0重量%以下であってもよい。
【0024】
後述するが、本発明の他の一実施形態によるAl含有量は、5重量%超過および9重量%以下であってもよい。
【0025】
まず、Al含有量が3重量%超過および5重量%以下であり、Zn:0.5重量%~1.5重量%含むマグネシウム合金の場合、ホウ素(B)とイットリウム(Y)を同時に添加する場合、効果的に腐食速度を低減することができる。
【0026】
これによって、Bは0.001~0.01重量%だけ含むことができる。
【0027】
具体的に、ホウ素を0.01重量%超えて添加する場合、粗大なAl-B二次相が形成されて耐食性が低下することがある。これによって、前記範囲で添加する場合、最も効果的に腐食速度を低減することができる。
【0028】
Yは、0.1~0.5重量%だけ含むことができる。
【0029】
具体的に、Yを0.1重量%未満含む場合、腐食速度低減効果が微小になることがある。0.5重量%を超えて含む場合、粗大なAl2YおよびAl3Y二次相が形成されて耐食性が低下することがある。
【0030】
前記マグネシウム合金板材は、Ti:0.001重量%~0.01重量%をさらに含むことができる。
【0031】
具体的に、Tiを0.01重量%超えて添加する場合、粗大なAl-Ti二次相が形成されて耐食性が低下することがある。
【0032】
これによって、Al含有量が3重量%超過および5重量%以下であり、Zn:0.5重量%~1.5重量%含むマグネシウム合金の場合、ホウ素とイットリウムを前述した範囲内で同時に添加する場合、耐食性に優れるようになり得る。
【0033】
具体的に、本発明の一実施形態による前記マグネシウム合金は、AZ系合金であり得、この時、アルミニウムおよび亜鉛の組成範囲は前記のとおりであり得る。
【0034】
本発明の他の一実施形態によるマグネシウム合金板材は、全体100重量%に対して、Al:5重量%超過および9重量%以下、Zn:0.5重量%~1.5重量%、Mn:0.1重量%~0.5重量%、B:0.001重量%~0.01重量%、Y:0.1重量%~0.5重量%、Ti:0.001重量%~0.01重量%、残部マグネシウムおよびその他不可避な不純物を含むことができる。
【0035】
具体的に、Al:5重量%超過および9重量%以下であり、Zn:0.5重量%~1.5重量%であるAZ系マグネシウム合金の場合、ホウ素(B)、イットリウム(Y)、およびチタニウム(Ti)を同時に添加する場合、効果的に腐食速度を低減することができる。
【0036】
より具体的に、アルミニウムの組成範囲が増加することによってMg基地に粗大なMg17Al12二次相が生成されて耐食性が低下することがある。
【0037】
したがって、Tiを添加することによってMg基地のAl固溶度が増加することができる。
【0038】
具体的に、Tiを添加することによって低温安定相であるMg17Al12相の核生成駆動力が増加して、Mg基地内ナノMg17Al12相の生成を促進することができる。
【0039】
つまり、Mg17Al12相の相分率と大きさが小さくなり、Mg基地と二次相間のミクロガルバニック腐食(Micro-galvanic corrosion)の減少に影響を与えることができる。
【0040】
以外の合金成分および組成範囲を限定した理由は前述したとおりである。
【0041】
これによって、前記マグネシウム合金表面には、MgO酸化層が位置し、前記酸化層には、Ti成分が含まれ得る。
【0042】
前記のようにチタニウムが含まれる場合、酸化層の安定性を誘導して耐食性を向上させることができる。
【0043】
これによって、25℃、3.5wt%NaCl溶液を利用した条件で塩水浸漬試験(Salt immersion test)方法で腐食速度を測定した結果、本発明の一実施形態または他の一実施形態によるマグネシウム合金板材の腐食速度は、1mm/y以下であり得る。これによって、耐食性に優れるようになり得る。
【0044】
前記マグネシウム合金板材は、Mg17Al12粒子相を含むことができる。
【0045】
この時、前記粒子の平均粒径は、1μm以下であり得る。具体的に、100nm~1μmであり得る。
【0046】
具体的に、マグネシウム合金板材の成分および組成を通じてMg17Al12粒子の平均粒径を小さく制御して、粗大なMg17Al12二次相によるMg基地とのミクロガルバニック腐食(Micro-galvanic corrosion)を最小化して耐食性を向上させることができる。
【0047】
前記マグネシウム合金板材は、Mg17Al12粒子相を含み、前記マグネシウム合金板材の100体積%に対して、前記粒子の体積分率は5%以下であり得る。
【0048】
具体的に、Ti含有量を0.001~0.01重量%に制御した結果、Mg17Al12粒子の分率を前記範囲のように小さく制御することができる。
【0049】
これによって、粗大なMg17Al12二次相によるMg基地とのミクロガルバニック腐食(Micro-galvanic corrosion)を最小化して耐食性を向上させることができる。
【0050】
本発明の他の一実施形態であるマグネシウム合金板材の製造方法は、全体100重量%に対して、Al:3重量%超過および5重量%以下、Zn:0.5重量%~1.5重量%、Mn:0.1重量%~0.5重量%、B:0.001重量%~0.01重量%、Y:0.1重量%~0.5重量%、残部マグネシウムおよびその他不可避な不純物を含む合金溶湯を準備する段階、前記合金溶湯を鋳造してインゴットを製造する段階、前記インゴットを均質化熱処理する段階、および前記均質化熱処理されたインゴットを圧延する段階を含むことができる。
【0051】
本発明のまた他の一実施形態によるマグネシウム合金板材の製造方法は、全体100重量%に対して、Al:5重量%超過および9重量%以下、Zn:0.5重量%~1.5重量%、Mn:0.1重量%~0.5重量%、B:0.001重量%~0.01重量%、Y:0.1重量%~0.5重量%、Ti:0.001重量%~0.01重量%、残部マグネシウムおよびその他不可避な不純物を含む合金溶湯を準備する段階、前記合金溶湯を鋳造してインゴットを製造する段階、前記インゴットを均質化熱処理する段階、および前記均質化熱処理されたインゴットを圧延する段階を含むことができる。
【0052】
この時、前記合金溶湯の成分および組成を限定した理由は、前述のマグネシウム合金板材の成分および組成を限定した理由と同一であるため省略する。
【0053】
具体的に、前記合金溶湯を準備する段階は、純粋マグネシウム(99.5%Mg)を低炭素鋼ルツボに装入し、保護ガス雰囲気下で710~730℃に昇温して、前記純粋マグネシウムを溶解することができる。
【0054】
その後、前記純粋マグネシウムが完全溶解された時、融点が高い母合金から前記純粋マグネシウムに添加することができる。融点が高い合金の順序は、Al-Ti、Al-B、Al-Mn、Al、Mg-Y、Znのとおりである。
【0055】
その後、前記母合金と純粋マグネシウムが均一に混合されるように10分~20分間攪拌することができる。
【0056】
その後、その他不可避な不純物または介在物が沈降することができるように、5分~15分間前記合金溶湯を攪拌しないまま維持した。
【0057】
その結果、前記成分および組成範囲の合金溶湯を準備することができる。
【0058】
その後、前記合金溶湯を鋳造してインゴットを製造する段階を実施することができる。この時、前記溶湯を予熱された低炭素鋼モールドに出湯してインゴットとして製造することができる。ただし、これに制限されるのではない。
【0059】
その後、前記インゴットを均質化熱処理する段階を実施することができる。
【0060】
この時、前記インゴットを380~420℃温度範囲で均質化熱処理することができる。
【0061】
前記インゴットを12~24時間維持して均質化熱処理することができる。
【0062】
前記条件で均質化熱処理することによって、鋳造時に発生した応力を解消することができる。
【0063】
最後に、前記均質化熱処理されたインゴットを圧延する段階を実施することができる。前記熱処理されたインゴットを275~325℃温度範囲で圧延することができる。
【0064】
具体的に、前記インゴットを圧延1回当たり10~20%の圧下率で圧延することができる。前記のように圧延することによって、目的とする厚さのマグネシウム合金板材を得ることができる。
【0065】
以下、本明細書で圧下率とは、圧延時に圧延ロールを通過する前の材料の厚さと圧延ロールを通過した後の材料の厚さとの差を圧延ロールを通過する前の材料の厚さで割った後、100を掛けたものを意味する。
【実施例】
【0066】
以下、本発明の好ましい実施例および比較例を記載する。しかし、下記の実施例は本発明の好ましい一実施例に過ぎず、本発明は下記の実施例に限定されるのではない。
【0067】
(実施例)
純粋マグネシウム(99.5%Mg)を低炭素鋼ルツボに装入し、保護ガス雰囲気下で720℃に昇温して前記純粋マグネシウムを溶解した。その後、前記純粋マグネシウムが完全溶解された時、融点が高い母合金から前記純粋マグネシウムに添加した。この時、合金元素が十分に混合されるように前記合金溶湯を10分程度攪拌した。その後、前記合金溶湯内介在物を沈降させるために10分程度維持して合金溶湯を準備した。
【0068】
その後、予熱された低炭素鋼モールドに前記合金溶湯を出湯してインゴットを鋳造した。
【0069】
前記鋳造されたインゴットは400℃で10時間均質化熱処理した。
【0070】
前記均質化熱処理されたインゴットは300℃で圧延した。この時、圧延1パス当たり、15%圧下率で圧延した。その結果、1mm厚さのマグネシウム合金板材を得た。
【0071】
(比較例)
比較例1は常用のAZ31系マグネシウム合金を準備した。
【0072】
その他の比較例は、実施例と比較して合金組成だけを下記表1および2に開示されたとおりに異にした。
【0073】
(実験例)
(腐食速度の評価方法)
前記実施例と比較例の腐食速度を測定して耐食性を評価した。
【0074】
具体的に、25℃、3.5wt%NaCl溶液を利用して塩水浸漬試験(Salt immersion test)方法で腐食速度を測定した。
【0075】
【0076】
表1に開示したとおり、AZ31にBまたはYを単独添加した場合(比較例2および3)、比較例1に比べて耐食性が小幅向上したことを確認することができる。
【0077】
ただし、AZ31にBおよびYを同時に添加した場合(比較例4)の耐食性が比較例1~3よりさらに優れていた。
【0078】
ただし、BおよびYの添加効果は、実施例からより明確に確認することができる。
【0079】
具体的に、比較例1~4に比べてアルミニウム含有量がより高い実施例1および2にBおよびYを同時に添加した結果、腐食速度が1mm/y以下で優れることが分かる。
【0080】
より具体的に、本願実施例にチタニウムをさらに添加する場合(実施例3および4)にも腐食速度が小幅上昇したが、依然として1mm/y以下で優れることが分かる。
【0081】
ただし、比較例5の場合、チタニウムをさらに添加した結果、そうではない場合(比較例4)より腐食速度が増加して耐食性が低下した結果を確認することができる。
【0082】
【0083】
一方、アルミニウム含有量が5重量%を超える場合には、BおよびYを同時添加しても耐食性が劣位であることが分かる。
【0084】
具体的に、比較例6および7の腐食速度が2.27mm/yと4.71mm/yで耐食性が非常に劣位である結果を確認することができる。
【0085】
一方、B、Y、およびTiを複合添加した結果、実施例5および6のように腐食速度が1mm/y以下で非常に優れることが分かる。
【0086】
(機械的物性の評価方法)
機械的物性は、ASTM E8規格によりGage length 25mm板状試片を利用して10-3/sの変形率速度条件で常温引張試験を実施して降伏強度、引張強度および延伸率を測定した。
【0087】
【0088】
前記表3に開示されたとおり、実施例5の場合、延伸率の大きい減少なく降伏強度および引張強度が顕著に高い結果を確認することができる。
【0089】
前記表1および2に開示された結果は、本願図面を通じても確認することができる。
【0090】
図1は実施例と比較例の腐食速度をグラフで示したものである。
【0091】
図2は比較例6と実施例5の微細組織をSEMで観察した写真である。
【0092】
図2に示されているように、Tiを添加した実施例5の場合、比較例6に比べて相対的にMg
17Al
12粒子の大きさがより微細になったことを確認することができる。それだけでなく、前記粒子の相分率も低くなったことが分かる。
【0093】
前記結果は本願
図3を通じても確認することができる。
【0094】
図3は比較例6と実施例5の微細組織をTEMで観察した写真である。
【0095】
図3に示されているように、Tiを添加した実施例5の場合、Tiを添加しない比較例6に比べて微細な大きさのMg
17Al
12相がより多く形成されたことが分かる。
【0096】
図4は比較例6と実施例5の表面酸化被膜をSAMで分析した結果を示したものである。
【0097】
具体的に、SAM(Scanning Auger Microscopy)分析装置を利用してアルゴンイオンビーム(Ar ion beam)を試片表面に走査した後、深さ方向に成分のデプスプロファイル(depth profile)を得る方法で合金表面の酸化被膜のデプスプロファイルを分析した。
【0098】
デプスプロファイルは、スパッタ時間が0~10分区間では2.5nm/min、10~30分区間では6.4nm/min、30分以上区間では16.1nm/minの速度で測定した。
【0099】
その結果、実施例5および比較例6の表面にMgO酸化被膜以外にもAl2O3酸化被膜が複合的に形成されたことを確認することができる。
【0100】
しかし、実施例5の場合、比較例6に比べて相対的にAl2O3酸化膜層がより厚く形成されたことを観察することができる。これは実施例5の場合、Ti添加によりMg基地内にAl固溶度が微細に増加してAl2O3酸化層形成を促進したと導出することができる。
【0101】
MgO酸化被膜の場合、緻密でない構造により腐食抵抗性を有さないが、不動態特性があるAl2O3酸化膜層がさらに存在する場合、MgO単一酸化膜層に比べて腐食環境に露出される時、MgO酸化膜層の成長を抑制して耐食性が向上する効果がある。
【0102】
【0103】
図5は比較例6と実施例5の表面酸化被膜をTEMで分析した結果を示したものである。
【0104】
具体的に、塩水浸漬試験(Salt immersion test)の1時間経過後、表面の酸化被膜安定性をTEMで観察した結果を示したものである。試片表面の白色層はTEM分析のためにAuをコーティングした部分である。
【0105】
その結果、Tiを添加した実施例5の場合、比較例6に比べて相対的に表面のMgO酸化膜層の不均一な成長が少なく発生して表面酸化被膜がより安定的であることを確認することができる。
【0106】
一方、比較例6の場合、1時間塩水浸漬後、MgO表面酸化層が局部的に成長した部位が比較的に多く観察された。
【0107】
つまり、実施例5の場合、相対的に酸化層成長部位が少なく観察されてより安定したことが分かる。
【0108】
図6は比較例6と実施例5の表面酸化被膜層の合金成分をSIMSで分析した結果を示したものである。
【0109】
具体的に、SIMS(Secondary Ion Mass Spectroscopy)分析装置を利用してCs
+
イオンを試料表面に走査して深さ方向に成分プロファイルを分析した。これはppb単位まで検出が可能であるため、半導体分析などに多く使用される分析方法である。
【0110】
その結果、実施例5の場合、表面酸化被膜層(MgO)にTi成分が比較例6に比べて多く検出されたことを確認することができる。具体的に、比較例6の表面部に検出されるTi成分はバックグラウンドピーク(background peak)によるものであり、相対比較を通じて実施例5の表面にTi成分がより多く検出されることを確認することができる。
【0111】
そのために、表面酸化被膜層に存在するTi成分がMgO酸化被膜層の安定性を誘導して耐食性を向上させたと導出することができる。
【0112】
本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、互いに異なる多様な形態で製造可能であり、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者は本発明の技術的な思想や必須の特徴を変更せずに他の具体的な形態に実施することができることを理解できるはずである。したがって、以上で記述した実施例は全ての面で例示的なものであり、限定的なものではないことを理解しなければならない。