IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ スンクワン メディカル ファウンデーションの特許一覧

特許7138234組み換え単純ヘルペスウイルス及びその製造方法
<>
  • 特許-組み換え単純ヘルペスウイルス及びその製造方法 図1
  • 特許-組み換え単純ヘルペスウイルス及びその製造方法 図2
  • 特許-組み換え単純ヘルペスウイルス及びその製造方法 図3
  • 特許-組み換え単純ヘルペスウイルス及びその製造方法 図4
  • 特許-組み換え単純ヘルペスウイルス及びその製造方法 図5
  • 特許-組み換え単純ヘルペスウイルス及びその製造方法 図6
  • 特許-組み換え単純ヘルペスウイルス及びその製造方法 図7
  • 特許-組み換え単純ヘルペスウイルス及びその製造方法 図8
  • 特許-組み換え単純ヘルペスウイルス及びその製造方法 図9
  • 特許-組み換え単純ヘルペスウイルス及びその製造方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】組み換え単純ヘルペスウイルス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/869 20060101AFI20220908BHJP
   C12N 7/01 20060101ALI20220908BHJP
   A61K 35/763 20150101ALI20220908BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
C12N15/869 Z
C12N7/01 ZNA
A61K35/763
A61P35/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021506935
(86)(22)【出願日】2019-08-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 KR2019010068
(87)【国際公開番号】W WO2020032680
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-02-22
(31)【優先権主張番号】10-2018-0094006
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】518018056
【氏名又は名称】スンクワン メディカル ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】特許業務法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョイ,キュン ジュ
(72)【発明者】
【氏名】キム,ジョ ハン
【審査官】池上 京子
(56)【参考文献】
【文献】Cancer Res,2009年,vol.69, no.8,p.3472-3481
【文献】Intervirology,1990年,vol.31,p.129-138
【文献】Virus Research,1996年,vol.40,p.17-31
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)のゲノム領域のうち、ICP6(infected-cell protein 6)が欠失され、UL(unique long)領域とUS(unique short)領域との間のIR(internal repeat)領域が欠失されたHSV-1ゲノムを有し、
UL56遺伝子の一部ヌクレオチド配列が追加して欠失されたものである、
組み換えHSV-1。
【請求項2】
前記組み換えHSV-1は、TRL(terminal repeat of long region)領域;UL1ないしUL38、及びUL40ないしUL56のうち1以上の遺伝子のヌクレオチド配列を含むUL領域;US1ないしUS12のうち1以上の遺伝子のヌクレオチド配列を含むUS領域;並びにTRS(terminal repeat of short region)領域からなる群から選択されるHSV-1の1以上のゲノム領域を含む、請求項1に記載の組み換えHSV-1。
【請求項3】
前記ICP6は、UL39遺伝子である、請求項1に記載の組み換えHSV-1。
【請求項4】
前記組み換えHSV-1のゲノムは、HSV-1のICP6遺伝子のヌクレオチド配列のうち、配列番号1のヌクレオチド配列が欠失されたものである、請求項1に記載の組み換えHSV-1。
【請求項5】
前記IR領域は、IRL(internal repeat of long region)領域及びIRS(internal repeat of short region)領域を含むものである、請求項1に記載の組み換えHSV-1。
【請求項6】
前記組み換えHSV-1のゲノムは、HSV-1のIR領域のヌクレオチド配列のうち、配列番号2のヌクレオチド配列が欠失されたものである、請求項1に記載の組み換えHSV-1。
【請求項7】
前記欠失されたUL56遺伝子の一部ヌクレオチド配列は、配列番号3のヌクレオチド配列である、請求項1に記載の組み換えHSV-1。
【請求項8】
前記組み換えHSV-1のゲノムは、配列番号4のヌクレオチド配列を含む、請求項1に記載の組み換えHSV-1。
【請求項9】
前記組み換えHSV-1は、癌細胞または腫瘍細胞の特異性を示すものである、請求項1に記載の組み換えHSV-1。
【請求項10】
請求項1ないし9のうちいずれか1項に記載の組み換えHSV-1のゲノムヌクレオチド配列を含む、組み換えHSV-1ベクター。
【請求項11】
外来遺伝子のヌクレオチド配列を追加して含むものである、請求項10に記載の組み換えHSV-1ベクター。
【請求項12】
ICP6、IRおよびUL56遺伝子の一部ヌクレオチド配列の領域が欠失されたHSV-1のゲノムヌクレオチド配列を含む組み換えHSV-1ベクターを製造する段階と、
前記ベクターを細胞に形質感染させ、組み換えHSV-1を得る段階と、
を含む、組み換えHSV-1を製造する方法。
【請求項13】
前記組み換えHSV-1ベクターは、TRL領域;UL1ないしUL38、及びUL40ないしUL56のうち1以上の遺伝子のヌクレオチド配列を含むUL領域;US1ないしUS12のうち1以上の遺伝子のヌクレオチド配列を含むUS領域;並びにTRS領域からなる群から選択されるHSV-1の1以上のゲノム領域のヌクレオチド配列を含むものである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
請求項1に記載の組み換えHSV-1、または請求項10に記載の組み換えHSV-1ベクターを含む癌予防用または治療用の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組み換え単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)、組み換えHSV-1ベクター及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
単純ヘルペスウイルス(HSV:herpes simplex virus:HSV)は、ヘルペスウイルス科に属するウイルスの一種であり、HSV-1型とHSV-2型とに区別され、それぞれヒトヘルペスウイルス1型及びヒトヘルペスウイルス2型としても知られている。核酸は、二本鎖、線状DNAであり、分子量は、96x10ダルトンである。
【0003】
2015年、米国FDA承認を受けたT-VECが、悪性黒色腫を対象に臨床に使用されることにより、ヘルペスウイルスを基にして、癌ウイルスの開発が進められている。しかし、現在開発されたほとんどの抗癌HSV-1は、ウイルス複製に必要な遺伝子が消失されることによってウイルス複製が制限され、その治療効能が低いという限界点がある。また、HSV-1の場合、152kbのサイズが大きいDNAウイルスであるために、遺伝子操作が容易ではないという問題点がある。
【0004】
従って、すぐれた癌治療効能を有しながらも、遺伝子操作が容易である組み換えHSV-1ベクターの開発が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一様相は、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)のゲノム領域のうち、ICP6及びIR領域が欠失されたHSV-1ゲノムを有する組み換えHSV-1を提供することである。
【0006】
他の様相は、前記一様相による組み換えHSV-1のゲノムヌクレオチド配列を含む組み換えHSV-1ベクターを提供することである。
【0007】
他の様相は、前記一様相による組み換えHSV-1を製造する方法を提供することである。
【0008】
他の様相は、前記組み換えHSV-1または組み換えHSV-1ベクターを含む癌予防用または治療用の薬学的組成物を提供することである。
【0009】
他の様相は、前記組み換えHSV-1または組み換えHSV-1ベクターの有効量をそれを必要とする個体に投与する段階を含む、癌を予防したり治療したりする方法を提供することである。
【0010】
他の様相は、癌の予防用薬剤または治療用薬剤の製造のための、前記組み換えHSV-1または組み換えHSV-1ベクターの用途を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一様相は、組み換え単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1:herpes simplex virus type 1)を提供する。
【0012】
本発明の一様相による組み換えHSV-1は、HSV-1のゲノム領域のうち、ICP6(infected-cell protein6)が欠失され、UL(unique long)領域とUS(unique short)領域との間のIR(internal repeat)領域が欠失されたHSV-1ゲノムを有する。HSV-1のゲノム領域のうち、ICP6及びIR領域が同時に消失されたベクター構造は、これまでのところ報告されていないので、本発明の一様相による組み換えHSV-1は、新規構造の組み換えウイルスである。ICP6及びIR領域が欠失されることにより、約20kbの遺伝子が消失されたことになるので、比較的大サイズの外来遺伝子の挿入、または1種以上の多様な外来遺伝子の同時挿入が可能である。リボヌクレオチド還元酵素(ribonucleotide reductase)であるICP6は、HSV-1のDNA生合成に関与する酵素であり、正常細胞への感染時、ウイルスのDNA複製に必要な酵素である。最近、リボヌクレオチド還元酵素は、多様な癌細胞に過発現されていると知られている。従って、ICP6遺伝子を除去する場合、正常細胞においては、ウイルスの複製が制限される一方、癌細胞においては、ウイルスが活発に複製が可能であるウイルスを作製することができる。また、HSV-1には、ICP0、ICP34.5、ICP4が2コピー(copy)ずつ存在し、1コピーだけでもウイルスの複製が可能である。従って、IR領域にあるICP0、ICP34.5、ICP4の1コピーを除去する場合、ウイルス複製に何の影響もなしに、多様な大きさと種類との治療遺伝子挿入が可能になる。それだけではなく、HSV-1は、IR領域があり、総4個のアイソタイプ(isotype)のウイルスを作ることになるが、IR領域を除去する場合、ただ1個のHSV-1アイソタイプであるさらに安定したウイルスを作ることができる。すなわち、HSV-1ゲノム領域のうち、ICP6遺伝子を除去することにより、癌細胞選択性を付与することができ、HSV-1ゲノム領域のうち、IR領域を除去することにより、HSV-1抗癌ウイルスの構造的安定性と共に、治療遺伝子を挿入することができる空間確保が可能になる。
【0013】
用語「欠失(deletion)」は、ウイルスゲノム上に存在する遺伝子を除去することを意味する。例えば、制限酵素を使用し、遺伝子を除去することができる。制限酵素を使用する遺伝子クローニング方法により、全体遺伝子を除去するか、あるいは遺伝子ヌクレオチド配列の一部を除去することもできる。前記遺伝子欠失により、遺伝子の機能的蛋白質の発現が起きないか、あるいは阻害される。約20kbの大きさに該当するICP6及びIR領域を欠失させることにより、ヌクレオチド配列の長さが長い外来遺伝子の挿入が可能である。
【0014】
「単純ヘルペスウイルス(HSV:herpes simplex virus)」は、ヘルペスウイルス科ビリデ(Herpesviridae)に属するウイルスであり、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1:herpes simplex virus type 1)及び単純ヘルペスウイルス2型(HSV-2:herpes simplex virus type 2)に区分される。HSV-1は、ヒトヘルペスウイルス1型(HHV-1:human herpes virus type 1:)とも言う。HSV-1の核酸は、二本鎖線形DNAである。従って、HSV-1のゲノムは、二本鎖線形DNAによって構成されたものでもある。HSV-1のゲノム配列は、公知されたHSV-1菌株(strain)のゲノム配列であるならば、その種類を制限するものではない。HSV-1ゲノムの例示的な配列は、NCBI GenBank Accession No.JQ673480.1に記載されている。本願において、何の指示もない限り、「HSV-1」は、「野生型HSV-1」と相互交換的に使用され、前記一様相による「組み換えHSV-1」と区別される。
【0015】
HSV-1ゲノム領域は、TRL(terminal repeat of long region)領域、UL(unique long)領域、IRL(internal repeat of long region)領域、IRS(internal repeat of short region)領域、US(unique short)領域及びTRS(terminal repeat of short region)を含むものでもある。前記UL領域は、UL1遺伝子ないしUL56遺伝子のヌクレオチド配列を含むものでもある。前記US領域は、US1遺伝子ないしUS12遺伝子のヌクレオチド配列を含むものでもある。また、HSV-1ゲノム領域は、TRL領域及びTRS領域を含まないのでもある。例えば、HSV-1ゲノム領域は、UL領域、IRL領域、IRS領域及びUS領域を含むものでもある。
【0016】
一具体例において、前記組み換えHSV-1は、TRL領域;UL1ないしUL38、及びUL40ないしUL56のうち1以上の遺伝子のヌクレオチド配列を含むUL領域;US1ないしUS12のうち1以上の遺伝子のヌクレオチド配列を含むUS領域;並びにTRS領域からなる群から選択されるHSV-1の1以上のゲノム領域を含むものでもある。他の具体例において、前記組み換えHSV-1は、TRL領域;UL1ないしUL38、及びUL40ないしUL56のうち1以上の遺伝子のヌクレオチド配列を含むUL領域;US1ないしUS12のうち1以上の遺伝子のヌクレオチド配列を含むUS領域;並びにTRS領域からなる群から選択されるHSV-1のゲノム領域の任意の組み合わせを含むものでもある。他の具体例において、前記組み換えHSV-1は、TRL領域;UL1遺伝子ないしUL38遺伝子、及びUL40遺伝子ないしUL56遺伝子のヌクレオチド配列を含むUL領域;US1遺伝子ないしUS12遺伝子のヌクレオチド配列を含むUS領域;並びにTRS領域をいずれも含んでもよい。
【0017】
前記「TRL領域」は、約9.2kbの大きさを有することができる。
前記「UL領域」は、約108kbの大きさを有することができる。HSV-1のUL領域は、UL1遺伝子ないしUL56遺伝子のヌクレオチド配列を含むものでもある。本発明の一様相による組み換えHSV-1は、UL領域を含み、前記UL領域は、UL1ないしUL38、及びUL40ないしUL56のうち1以上の遺伝子のヌクレオチド配列を含むものでもある。
【0018】
前記「ICP6」は、UL39遺伝子でもある。前記ICP6のヌクレオチド配列は、約4.8kbの大きさを有することができる。ICP6遺伝子の例示的なヌクレオチド配列は、NCBI GenBank Accession No.JQ673480.1に記載されたHSV-1ゲノム配列のうち、86,364ないし89,777番目ヌクレオチド配列でもある。一具体例において、前記組み換えHSV-1のゲノムは、ICP6遺伝子の全部または一部が欠失されたものでもある。他の具体例において、前記組み換えHSV-1のゲノムは、野生型HSV-1ゲノム配列において、86,901ないし89,578番目ヌクレオチドが欠失されたものでもある。例えば、前記組み換えHSV-1のゲノムは、HSV-1のICP6遺伝子のヌクレオチド配列のうち、配列番号1のヌクレオチド配列が欠失されたものでもある。ICP6蛋白質の例示的なアミノ酸配列は、NCBI GenBank Accession No.AFE62867.1に記載されている。
【0019】
一具体例において、前記欠失されたIR領域は、IRL領域及びIRS領域のうち1以上の領域を含むものでもある。他の具体例において、前記欠失されたIR領域は、IRL領域及びIRS領域のいずれも含むものでもある。前記「IRL領域」は、約9.2kbの大きさを有することができる。前記「IRS領域」は、約6.6kbの大きさを有することができる。IRL領域の例示的なヌクレオチド配列は、NCBI GenBank Accession No.JQ673480.1に記載されたHSV-1ゲノム配列のうち、117,080ないし125,845番目ヌクレオチド配列でもある。IRS領域の例示的なヌクレオチド配列は、NCBI GenBank Accession No.JQ673480.1に記載されたHSV-1ゲノム配列のうち、126,241ないし132,463番目ヌクレオチド配列でもある。一具体例において、前記組み換えHSV-1のゲノムは、IR領域の全部または一部が欠失されたものでもある。他の具体例において、前記組み換えHSV-1のゲノムは、野生型HSV-1ゲノム配列において、117,080ないし131,261番目ヌクレオチドが欠失されたものでもある。例えば、前記組み換えHSV-1のゲノムは、HSV-1のIR領域のヌクレオチド配列のうち、配列番号2のヌクレオチド配列が欠失されたものでもある。
【0020】
一具体例において、前記組み換えHSV-1は、IR領域の全部または一部の欠失と共に、UL56遺伝子の一部ヌクレオチド配列が追加して欠失されたものでもある。UL56遺伝子の例示的なヌクレオチド配列は、NCBI GenBank Accession No.JQ673480.1に記載されたHSV-1ゲノム配列のうち、116,142ないし116,846番目ヌクレオチド配列でもある。他の具体例において、前記組み換えHSV-1のゲノムは、野生型HSV-1ゲノム配列において、116,200ないし116,846番目ヌクレオチドが欠失されたものでもある。例えば、前記欠失されたUL56遺伝子の一部ヌクレオチド配列は、配列番号3のヌクレオチド配列でもある。他の具体例において、前記組み換えHSV-1のゲノムは、野生型HSV-1ゲノム配列において、116,200ないし131,261番目ヌクレオチドが欠失されたものでもある。
【0021】
前記「US領域」は、約13kbの大きさを有することができる。HSV-1のUS領域は、US1遺伝子ないしUS12遺伝子のヌクレオチド配列を含むものでもある。本発明の一様相による組み換えHSV-1は、US領域を含み、前記US領域は、US1ないしUS12のうち1以上の遺伝子のヌクレオチド配列を含むものでもある。
【0022】
前記「TRS領域」は、約4kbの大きさを有することができる。
【0023】
前記組み換えHSV-1のゲノムは、配列番号4のヌクレオチド配列を含むものでもある。
【0024】
前記組み換えHSV-1は、癌殺傷ウイルス(oncolytic virus)でもある。用語「癌殺傷ウイルス」は、「癌溶解ウイルス」、「抗癌ウイルス」と相互交換的に使用される。前記癌殺傷ウイルスは、癌細胞または腫瘍細胞を特異的に死滅させることにより、癌細胞の抗原を露出させ、免疫細胞を活性化させることができる。従って、癌殺傷ウイルスは、それ自体で抗癌用途に使用することができ、他の抗癌剤と併用し、抗癌効果を増進させることもできる。また、癌殺傷ウイルスベクターに多様な治療遺伝子を挿入し、抗癌効果を増進させることができる。
【0025】
前記遺伝子配列は、実質的な同一性(substantial identity)、または実質的な類似性(substantial similarity)を示す遺伝子配列も含むものであると解釈される。前述の実質的な同一性は、前述の本発明の配列、と任意の他の配列とを最大限対応させるように整列し、当業界で一般的に利用されるアルゴリズムを利用して整列された配列を分析した場合、最小80%の相同性、さらに望ましくは、90%の相同性、最も望ましくは、95%の相同性を示す配列を意味する。前述の実質的な類似性は、1以上の塩基の欠損または挿入のような遺伝子配列の変化が、組み換えウイルスベクターとの相同性組み換えを最小化させる本発明の目的に影響を及ぼさない変化を総称する。
【0026】
他の様相は、前記一様相による組み換えHSV-1のゲノムヌクレオチド配列を含む組み換えHSV-1ベクターを提供する。
【0027】
具体的には、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)のゲノムヌクレオチド配列を含む組み換えHSV-1ベクターにおいて、前記HSV-1のゲノムヌクレオチド配列は、ICP6が欠失され、UL領域とUS領域との間のヌクレオチド配列が欠失されたものである組み換えHSV-1ベクターを提供する。
【0028】
用語「ウイルスベクター」は、外来または異種の遺伝情報を宿主に伝達することができるウイルス由来ベクターを意味する。
【0029】
前述のHSV-1、組み換えHSV-1、ICP6、IR領域及び欠失は、前述の通りである。
【0030】
一具体例において、前記ベクターは、TRL領域;UL1ないしUL38、及びUL40ないしUL56のうち1以上の遺伝子のヌクレオチド配列を含むUL領域;US1ないしUS12のうち1以上の遺伝子のヌクレオチド配列を含むUS領域;並びにTRS領域からなる群から選択されるHSV-1の1以上のゲノム領域のヌクレオチド配列を含むものでもある。他の具体例において、前記ベクターは、TRL領域;UL1遺伝子ないしUL38遺伝子、及びUL40遺伝子ないしUL56遺伝子のヌクレオチド配列を含むUL領域;US1遺伝子ないしUS12遺伝子のヌクレオチド配列を含むUS領域;並びにTRS領域をいずれも含んでもよい。
【0031】
前記組み換えHSV-1ベクターは、外来遺伝子のヌクレオチド配列を追加して含んでもよい。一具体例において、外来遺伝子のヌクレオチド配列は、欠失されたICP6またはIR領域にも挿入される。他の具体例において、挿入する外来遺伝子が一つを超える場合、各外来遺伝子のヌクレオチド配列は、ICP6及びIR領域にそれぞれ挿入されうるが、それに限定されるものではない。前記ベクターによって運搬されうる外来遺伝子は、いかなるヌクレオチド配列も可能である。例えば、前記ベクターによって運搬されうる外来遺伝子は、抗癌効果を有する遺伝子でもあるが、それに限定されるものではない。
【0032】
前記組み換えHSV-1ベクターは、順に、TRL領域、UL領域、US領域及びTRS領域のヌクレオチド配列を含み、ICP6及びIR領域が欠失されたことを特徴とする。一具体例において、前記組み換えHSV-1ベクターは、図1Cの遺伝子地図を有する。ICP6及びIR領域のヌクレオチド配列が欠失されたHSV-1のゲノムヌクレオチド配列を含む前記一様相による組み換えHSV-1ベクターは、「ΔICP6ΔIR HSV-1ベクター」と命名された。
【0033】
前記組み換えHSV-1ベクターは、ウイルスベクターに一般的に含まれる構成を追加して含んでもよい。例えば、前記組み換えHSV-1ベクターは、外来遺伝子に作動可能に連結されたプローモーターを含むものでもある。前記プローモーターの種類は、当該技術分野に公知されたものであるならば、いずれも使用することができ、その種類を限定するものではない。
【0034】
他の様相は、前記一様相による組み換えHSV-1を製造する方法を提供する。
【0035】
具体的には、前記方法は、ICP6及びIR領域が欠失されたHSV-1のゲノムヌクレオチド配列を含む組み換えHSV-1ベクターを製造する段階と、前記ベクターを細胞に形質感染させ、組み換えHSV-1を得る段階と、を含む。
【0036】
前記組み換えHSV-1ベクターは、前述の通りである。
【0037】
前記ベクターを細胞に形質感染させる方法は、当業界に公知された多様な方法を介して遂行することができる。例えば、微細注入法(Capecchi, M. R., Cell, 22: 479 (1980)、並びにHarland及びWeintraub, J. Cell Biol. 101: 1094-1099 (1985))、リン酸カルシウム沈澱法(Graham, F. L. et al., Virology, 52: 456 (1973)、並びにChen及びOkayama, Mol. Cell. Biol. 7: 2745-2752 (1987))、電気穿孔法(Neumann, E. et al., EMBO J., 1: 841 (1982)、及びTur-Kaspa et al., Mol. Cell Biol., 6: 716-718 (1986))、リポソーム媒介形質感染法(Wong, T. K. et al., Gene, 10: 87 (1980),Nicolau及びSene, Biochim. Biophys. Acta, 721: 185-190 (1982)、並びにNicolau et al., Methods Enzymol., 149: 157-176 (1987))、DEAE・デキストラン処理法(Gopal, Mol. Cell Biol., 5: 1188-1190 (1985))、そして遺伝子bombardment法(Yang et al., Proc. Natl. Acad. Sci., 87: 9568-9572 (1990))の技法により、ベクターを細胞に形質感染させることができる。
【0038】
他の様相は、前記組み換えHSV-1または組み換えHSV-1ベクターを含む薬学的組成物を提供する。
【0039】
他の様相は、組み換えHSV-1または組み換えHSV-1ベクターの有効量をそれを必要とする個体に投与する段階を含む、癌を予防したり治療したりする方法を提供する。
【0040】
他の様相は、癌の予防用薬剤または治療用薬剤の製造のための組み換えHSV-1または組み換えHSV-1ベクターの用途を提供する。
【0041】
前記組み換えHSV-1及び組み換えHSV-1ベクターは、前述の通りである。
【0042】
前記薬学的組成物は、抗癌用薬学的組成物でもある。
【0043】
前記疾病は、癌または腫瘍でもある。
【0044】
前記「癌」は、細胞が正常な成長限界を無視して分裂及び成長する攻撃的(aggressive)特性、周囲組織に侵透する浸透的(invasive)特性、及び体内外の他部位に広がる転移的(metastatic)特性を有する細胞による疾病を総称する。前記癌は、悪性腫瘍(malignant tumor)または腫瘍(tumor)と同一意味に使用され、固体腫瘍及び血液腫瘍(blood born tumor)を含むものでもある。前記癌は、その種類を限定するものではない。
【0045】
前記薬学的組成物は、既存の癌治療物質(例:抗癌剤)と併用され、癌の治療効能を向上させることができる。前記抗癌剤は、代謝拮抗剤、アルキル化剤、トポイソメラーゼ拮抗剤、微細小管拮抗剤、抗癌抗生物質、植物由来アルカロイド、抗体抗癌剤または分子標的抗癌剤でもあり、さらに具体的には、タキソール、ナイトロジェンマスタード、イマチニブ、オキサリプラチン、リツキクシマブ、エロチニブ、トラスツズマブ、ゲフィチニブ、ボルテゾミブ、スニチニブ、カルボプラチン、ソラフェニブ、ベバシズマブ、シスプラチン、セツキシマブ、ビスクムアルブム、アスパラギナーゼ、トレチノイン、ヒドロキシカルバミド、ダサチニブ、エストラムスチン、ゲムツズマブオゾガマイシン、イブリツモマブチウキセタン、ヘプタプラチン、メチルアミノレブリン酸、アムサクリン、アレムツズマブ、プロカルバジン、アルプロスタジル、硝酸ホルミウムキトサン、ゲムシタビン、ドキシフルリジン、ペメトレキセド、テガフール、カペシタビン、ギメラシル、オテラシル、アザシチジン、メトトレキセート、ウラシル、シタラビン、フルオロウラシル、フルダラビン、エノシタビン、デシタビン、メルカプトプリン、チオグアニン、クラドリビン、カルモファー、ラルチトレキセド、ドセタキセル、パクリタキセル、イリノテカン、ベロテカン、トポテカン、ビノレルビン、エトポシド、ビンクリスチン、ビンブラスチン、テニポシド、ドキソルビン、イダルビシン、エピルビシン、ミトキサントロン、ミトマイシン、ブレオマイシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、ピラルビシン、アクラルビシン、ペプロマイシン、テモゾロマイド、ブスルファン、イホスファミド、シクロホスファミド、メルファラン、アルトレタミン、ダカバジン、チオテパ、ニムスチン、クロラムブシル、ミトラクトル、ロムスチン及びカルムスチン、イマチニブ、ゲフィチニブ、エルトチニブ、トリスツズマブ、ロシレチニブ、ネシツムマブ、エベロリムス、ラムシルマブ、ダコミチニブ、フォレチニブ、ペムブロリズマブ、イピリムマブ、ニボルマブ、ダブラペニブ、ベリパリブ、セリチニブ、カルムスチン、シクロホスファミド、イホスファミド、イクサベピロン、メルファラン、メルカプトプリン、ミトサントロン、またはTS-1でもあるが、それらに限定されるものではない。
【0046】
前記組成物は、免疫関門抑制剤(immune checkpoint inhibitor)と同時に、別途にまたは順次にも併用投与される。前記「免疫関門」は、免疫細胞表面において、免疫反応の刺激または抑制信号を誘発するのに関与する蛋白質を総称し、癌細胞は、そのような免疫関門を介し、免疫反応の刺激、及びそれによる癌細胞の抑制が正しく進められないように操作し、免疫体系の監視網を回避することになり、すなわち、抗腫瘍免疫反応を無力化させる。前記免疫関門抑制剤は、PD-1(programmed cell death-1)、PD-L1(programmed cell death-ligand 1)、PD-L2(programmed cell death-ligand 2)、CD27(cluster of differentiation 27)、CD28(cluster of differentiation 28)、CD70(cluster of differentiation 70)、CD80(cluster of differentiation 80;B7-1としても知られている)、CD86(cluster of differentiation 86;B7-2としても知られている)、CD137(cluster of differentiation 137)、CD276(cluster of differentiation 276)、KIRs(killer-cell immunoglobulin-like receptors)、LAG3(lymphocyte-activation gene 3)、TNFRSF4(tumor necrosis factor receptor superfamily member 4;CD134としても知られている)、GITR(glucocorticoid-induced TNFR-related protein)、GITRL(glucocorticoid-induced TNFR-related protein ligand)、4-1BBL(4-1BB ligand)及びCTLA-4(cytolytic T lymphocyte associated antigen-4)の拮抗剤のうち1以上を含んでもよいが、それらに限定されるものではない。
【0047】
前記薬学的組成物は、薬学的に許容可能な担体または希釈剤をさらに含んでもよい。薬学的に許容可能な担体または希釈剤は、当業界に知られたものでもある。前記担体または前記希釈剤は、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、澱粉、アカシアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微細結晶性セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、水(例えば、食塩水及び滅菌水)、シロップ、メチルセルロース、メチルヒドロキシベンゾエート、プロピルヒドロキシベンゾエート、滑石、ステアリン酸マグネシウム、ミネラルオイル、リンゲル液、緩衝剤、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、デキストラン、アルブミン、またはそれらの任意の組み合わせでもある。前記薬学的組成物は、潤滑剤、湿潤剤、甘味剤、香味剤、乳化剤、懸濁液剤または保存剤をさらに含んでもよい。
【0048】
前記薬学的組成物は、当業者に知られた方法により、薬剤学的に許容される担体及び/または賦形剤を利用して製剤化させることにより、単位用量形態に製造されるか、あるいは多用量容器内に内入させても製造される。このとき、剤形は、オイル中または水性溶媒中の溶液、懸濁液、シロップ剤または乳化液形態であるかエキス剤、散剤、粉末剤、顆粒剤、錠剤またはカプセル剤の形態でもあり、分散剤または安定化剤を追加して含んでもよい。前記水性溶媒は、生理食塩水またはPBSを含むものでもある。一具体例による前記薬学的組成物は、経口または非経口の投与形態、望ましくは、非経口投与形態にも製剤化される。筋肉内、腹腔内、皮下及び静脈内への投与形態の場合、一般的に、活性成分の滅菌溶液を製造し、溶液のpHを適するように調節することができる緩衝剤を含み、静脈内投与の場合、製剤に等張性が付与されるように等張化剤を含むものでもある。
【0049】
前記薬学的組成物の投与量(有効量)は、製剤化方法、投与方式、患者の年齢・体重・性別・病的状態、食物、投与時間、投与経路、排泄速度及び反応感応性のような要因によっても多様に処方され、当業者であるならば、そのような要因を考慮し、投与量を適切に調節することができるであろう。可能な投与経路には、非経口(例えば、皮下、筋肉内、動脈内、腹腔内、硬膜内または静脈内)、局所(経皮含む)及び注射、あるいは移植性装置または物質挿入を含むのでもある。一具体例による治療の対象動物としては、ヒト、及びそれ以外の目的とする哺乳動物を例として挙げることができ、具体的には、ヒト、猿、マウス、ラット、兎、羊、牛、犬、馬、豚などが含まれる。
【0050】
他の様相は、個体に、前記組み換えHSV-1または組み換えHSV-1ベクター、または前記組み換えHSV-1または組み換えHSV-1ベクターを含む薬学的組成物の有効量を投与する段階を含む癌細胞または腫瘍細胞の生存能を阻害する方法を提供する。 前記方法は、癌治療方法でもある。
【0051】
用語「治療」は、疾患、障害または病態、またはその1以上の症状の軽減、進行抑制または予防を称するか、あるいはそれを含み、「有効成分」または「薬剤学的有効量」は、疾患、障害または病態、またはその1以上の症状の軽減、進行抑制または予防に十分な、本願で提供される発明を実施する過程で利用される組成物の任意量を意味しうる。
【0052】
用語である「投与する」、「注入する」及び「移植する」は、相互交換的に使用され、一具体例による組成物の所望部位への少なくとも部分的局所化をもたらす方法または経路による、個体内への一具体例による組成物の配置を意味しうる。一具体例による組成物の有効成分を、生存する個体内における所望位置に伝達する任意の適切な経路によっても投与される。個体投与後、細胞の生存期間は、短ければ数時間、例えば、24時間ないし数日、あるいは長ければ、数年でもある。
【0053】
用語である「対象体」、「個体」及び「患者」は、脊椎動物、望ましくは、哺乳動物、さらに望ましくは、ヒトを指称するために、本願において相互交換可能に使用される。該哺乳動物は、ネズミ科、猿、ヒト、農場動物、スポーツ動物及びペットを含むが、それらに限定されるものではない。生体内で得られたり、試験管内で培養されたりする生物学的エンティティ(entity)の組織、細胞、及びそれらの子孫もまた含まれる。
【0054】
用語である「有効量」または「治療的有効量」は、有利であるか、あるいは要望される結果を引き起こすのに十分な作用剤の量を称する。該治療的有効量は、治療される対象体及び病態、対象体の体重及び年齢、病態の重症度、投与方式などのうち1以上によっても異なり、それは、当業者によって容易に決定されるであろう。また、前記用語は、本願に記述された映像化方法のうち任意のものによる検出のためのイメージを提供する用量に適用される。特定用量は、選択された特定作用剤、続く投与療法、それらが他の化合物と併用して投与されるか否かということ、投与時期、映像化される組織、及びそれを運搬する身体伝達システムのうち1以上によっても異なる。
【発明の効果】
【0055】
一様相による組み換えHSV-1は、ICP6及びIR領域が同時に欠失されることにより、比較的大サイズの外来遺伝子を挿入するか、あるいは多様な外来遺伝子を同時に挿入することができ、遺伝子操作が容易である。また、安全でありながらも、癌細胞殺傷効果にすぐれる抗癌ウイルスとして、癌治療分野に多様に活用されうる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
図1図1Aは、野生型HSV-1のゲノム模式図である。図1Bは、ICP6が欠失された(ΔICP6)HSV-1ゲノム模式図である。図1Cは、ICP6及びIR領域が欠失された(ΔICP6ΔIR)HSV-1ゲノム模式図である。
図2】rpsL-neo遺伝子と、UL56-rpsL-neoプライマー及びUsIR-rpsL-neoプライマーとの位置を示した模式図である。
図3】ΔICP6-ΔIR-rpsL-neoの模式図である。
図4】UL55 SプライマーとUsIR-rpsL neo ASプライマーとでもってPCRを行い、rpsL-neoの挿入いかんを確認したPCR遂行結果である。陰性対照群として、HSV-1WTを使用し、陽性対照群として、ΔICP6-rpsL-neoを使用した。
図5】rpsL neo Sプライマー及びrpsL neo ASプライマーでPCRを行い、rpsL-neoの挿入いかんを確認したPCR遂行結果である。陰性対照群として、HSV-1 WTを使用し、陽性対照群として、ΔICP6-rpsL-neoを使用した。
図6】糖蛋白質Cを検出するgC Sプライマー及びgC ASプライマーでPCRを行い、rpsL-neoの挿入いかんを確認したPCR遂行結果である。陰性対照群として、HSV-1 WTを使用し、陽性対照群として、ΔICP6-rpsL-neoを使用した。
図7】UL55 Sプライマー及びΔIR ASプライマーでPCRを行い、ΔICP6ΔIRウイルスにおいて、IRが十分に除去されたか否かということを確認したPCR遂行結果である。陽性対照群として、ΔIRウイルスを使用した。
図8】rpsL-neo Sプライマー及びrpsL-neo ASプライマーでPCRを行い、ICP6ΔIRウイルスにおいて、外来遺伝子rpsL-neoが十分に除去されたか否かということを確認したPCR遂行結果である。対照群として、ΔICP6-ΔIR-rpsL-neoを使用した。
図9】UL55 Sプライマー及びrpsL-neo S ASプライマーでPCRを行い、ICP6ΔIRウイルスにおいて、IR及びrpsL-neoが十分に除去されたか否かということを確認したPCR遂行結果である。対照群として、ΔICP6-ΔIR-rpsL-neoを使用した。
図10】ΔICP6ΔIRウイルスの抗癌効果及び安全性を確認したグラフであり、aは、A549細胞で確認した結果であり、bは、U251N細胞で確認した結果であり、cは、VERO細胞で確認した結果であり、dは、HswC細胞で確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0057】
以下、本発明について、実施例を介してさらに詳細に説明する。しかし、それら実施例は、本発明について例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲は、それら実施例に限定されるものではない。
【0058】
実施例1:ICP6及びIR領域が欠失された組み換えHSV-1(ΔICP6ΔIR HSV-1)の作製
図1Aは、野生型HSV-1のゲノム模式図である。HSV-1ゲノムは、大きく見て、UL領域とUS領域とに分けられる。UL領域は、1つの複製原点と、TR(terminal repeat)とIR(internal repeat)とによって構成されたa及びbが5’に存在し、逆方向のa及びbが3’に存在する。US領域は、2つの複製原点と、逆方向のc配列とが5’に存在し、裏側に正方向のcが反復され、3’終端には、a配列がさらに一度反復される。
【0059】
まず、野生型のHSV-1 WTウイルスゲノム配列において、ICP6一部領域が欠損されたΔICP6 HSV-1ウイルスを作製した。野生型HSV-1ゲノム配列において、86,364から89,777番目ヌクレオチドは、ICP6遺伝子をコーディングする配列である。該遺伝子のうち一部領域である86,901ないし89,578番目ヌクレオチドを当業界に公知された方法で欠損させ、それをΔICP6 HSV-1ウイルスと命名した。
【0060】
図1Bは、ICP6が欠失された(ΔICP6)HSV-1ゲノム模式図である。
【0061】
次に、前記ΔICP6 HSV-1ウイルスをテンプレートにし、ICP6及びIR領域が欠損されたΔICP6ΔIRウイルスを作製した。野生型HSV-1ゲノム配列において、116,141ないし116,846番目ヌクレオチドは、UL56配列であり、IR領域は、大きく見て、b’(117,080ないし125,845)、a’(125,846ないし126,240)、c’(126,241ないし132,463)で構成されている。この領域において、UL56遺伝子の一部領域からIR領域の一部領域までに該当する116,200ないし131,261番目ヌクレオチドを、当業界に公知された方法で欠損させた。それを、ΔICP6ΔIR HSV-1ウイルスと命名した。図1Cは、ICP6及びIR領域が欠失された(ΔICP6ΔIR)HSV-1ゲノム模式図である。
【0062】
実施例2:外来遺伝子rpsL-neoが挿入されたΔICP6-ΔIR-rpsL-neoの作製
ICP6遺伝子とIR遺伝子とが同時に消失された前記実施例1のΔICP6ΔIR HSV-1に、外来遺伝子であるrpsL-neo遺伝子1319bpを挿入してウイルスを作製し、外来遺伝子挿入いかんを検証した。
【0063】
具体的には、下記表1のように、UL56とrpsL-neoにと相補的な配列を有するUL56-rpsL-neoプライマーと、UsIRとrpsL-neoとに相補的な配列を有するUsIR-rpsL-neoプライマーと、を作製した。rpsL-neo遺伝子200ngをテンプレートに、10pmolのUL56-rpsL-neoプライマー、UsIR-rpsL-neoプライマー及び2X green master mix(thermo scientific)反応酵素を使用し、PCRを行った。PCR産物を、前記実施例1のΔICP6トータルベクターと共に、DH10b大腸菌に形質転換(transformation)させ、相同組み換え(homologous recombination)を誘導し、rpsL-neoを発現するΔICP6-ΔIR-rpsL-neoを作製した。
【0064】
図2は、rpsL-neo遺伝子と、UL56-rpsL-neoプライマー及びUsIR-rpsL-neoプライマーとの位置を示した模式図である。
【0065】
図3は、ΔICP6-ΔIR-rpsL-neoの模式図である。
【0066】
【表1】
前記相同組み換えの生成いかんを検証するために、下記表2のPCRプライマーを使用し、PCRを行った。それぞれPCRの条件は、次の3通りである。200ngをテンプレートにし、10pmolのUL55 Sプライマー及びUsIR-rpsL neo ASプライマーに、2X green master mix(thermo scientific)反応酵素を添加した後、PCR機器(Bio-rad)により、変性(denature)95℃ 30秒、アニーリング(annealing)58℃ 30秒、伸長(extend)72℃ 2分の条件でPCRを行った。rpsL-neo及び糖蛋白質Cを確認するためには、前述のところと同一混合物比率で、変性95℃ 30秒、アニーリング58℃ 30秒、伸長72℃ 30秒の条件でPCRを行った。
【0067】
【表2】
図4は、UL55 SプライマーとUsIR-rpsL neo ASプライマーとでPCRを行い、rpsL-neoの挿入いかんを確認したPCR遂行結果である。陰性対照群として、HSV-1 WTを使用し、陽性対照群として、ΔICP6-rpsL-neoを使用した。ΔICP6-rpsL-neoは、200ngをテンプレートにし、10pmolのICP6R-rpsL-neo Sプライマー及びICP6R-rpsL-neo ASprimerプライマーと、2X green master mix(thermo scientific)反応酵素とを添加した後、PCR機器(Bio-rad)により、変性95℃ 30秒、アニーリング58℃ 30秒、伸長72℃ 1分30秒の条件でPCRを行った。rpsL-neoのPCR産物を、野生型HSV-1トータルベクターと共に、DH10b大腸菌に形質転換させて相同組み換えを誘導し、ΔICP6-rpsL-neoを作製した。その結果、作製されたΔICP6-ΔIR-rpsL-neoにおいて、陽性対照群と同一2300bpのバンドを確認したので、相同組み換えが成功に至ったことを確認した。図5は、rpsL neo Sプライマー及びrpsL neo ASプライマーでPCRを行い、rpsL-neoの挿入いかんを確認したPCR遂行結果である。陰性対照群として、HSV-1 WTを使用し、陽性対照群として、ΔICP6-rpsL-neoを使用した。その結果、作製されたΔICP6-ΔIR-rpsL-neoにおいて、陽性対照群と同一534bpのバンドを確認したので、相同組み換えが成功に至ったことを確認した。
【0068】
図6は、糖蛋白質Cを検出するgC Sプライマー及びgC ASプライマーでPCRを行い、rpsL-neoの挿入いかんを確認したPCR遂行結果である。陰性対照群として、HSV-1 WTを使用し、陽性対照群として、ΔICP6-rpsL-neoを使用した。その結果、作製されたΔICP6-ΔIR-rpsL-neoにおいて、陽性対照群と同一512bpのバンドを確認したので、相同組み換えが成功に至ったことを確認した。
【0069】
従って、ΔICP6ΔIRウイルスに、外来遺伝子であるrpsL-neo遺伝子が成功に至るべく挿入されたことを確認した。
【0070】
実施例3:ΔICP6ΔIRウイルスの作製
前記実施例2で作製されたΔICP6-ΔIR-rpsL-neoにおいて、外来遺伝子rpsL-neoを除去し、ΔICP6ΔIRウイルスを作製した。
【0071】
具体的には、下記表3のプライマーを作製した後、徐冷復元法(primer annealing)を遂行し、相補的配列が結合した二本鎖オリゴマーを作製した。作製したオリゴマーを、前記実施例2のΔICP6-ΔIR-rpsL-neoトータルベクターと共に、DH10b大腸菌に形質転換させて相同組み換えを誘導し、dICP6-dIRを作製した。
【0072】
【表3】
前記外来遺伝子が除去されたΔICP6ΔIRウイルスが成功に至るべく作製されたか否かということを確認するために、前述のPCRプライマーを使用し、PCRを行った。200ngをテンプレートにし、10pmolのUL55 Sプライマー及びΔIR ASプライマーに、2X green master mix(thermo scientific)反応酵素を添加した後、PCR機器(Bio-rad)により、変性95℃ 30秒、アニーリング58℃ 30秒、伸長72℃ 1分の条件でPCRを行った。rpsL-neoを確認するためには、前述のところと同一混合物の比率で、伸長95℃ 30秒、アニーリング58℃ 30秒、伸長72℃ 30秒の条件でPCRを行った。図7は、UL55 Sプライマー及びΔIR ASプライマーでPCRを行い、ΔICP6ΔIRウイルスにおいて、IRが十分に除去されたか否かということを確認したPCR遂行結果である。陽性対照群として、ΔIRウイルスを使用した。ΔIRウイルスは、200ngをテンプレートにし、10pmolのUL56-rpsL-neoプライマー及びUsIR-rpsL-neoプライマーに、2X green master mix(thermo scientific)反応酵素を添加した後、PCR機器(Bio-rad)により、変性95℃ 30秒、アニーリング58℃ 30秒、伸長72℃ 1分の条件でPCRを行った。rpsL-neoのPCR産物を、野生型HSV-1トータルベクターと共に、DH10b大腸菌に形質転換させて相同組み換えを誘導し、ΔIR-rpsL-neoウイルスを作製した。その後、プライマーΔIRSとΔIR ASとに対し、徐冷復元法遂行した後、ΔIR-rpsL-neoトータルベクターと共に、DH10b大腸菌に形質転換させて相同組み換えを誘導し、ΔIRウイルスを作製した。
【0073】
その結果、作製されたΔICP6ΔIRウイルスにおいて、陽性対照群と同一1kbサイズのバンドを確認したので、IRが成功に至るべく除去されたことを確認した。
【0074】
図8は、rpsL-neo Sプライマー及びrpsL-neo ASプライマーでPCRを行い、ICP6ΔIRウイルスにおいて、外来遺伝子rpsL-neoが十分に除去されたか否かということを確認したPCR遂行結果である。対照群として、前記実施例2で作製されたΔICP6-ΔIR-rpsL-neoを使用した。その結果、対照群であるΔICP6-ΔIR-rpsL-neoは、約500bpのバンドを示すところと異なり、ΔICP6ΔIRウイルスは、バンドが生成されなかったので、外来遺伝子rpsL-neoが成功に至るべく除去されたことを確認した。
【0075】
図9は、UL55 Sプライマー及びrpsL-neo S ASプライマーでPCRを行い、ICP6ΔIRウイルスにおいて、IR及びrpsL-neoが十分に除去されたか否かということを確認したPCR遂行結果である。対照群として、前記実施例2で作製されたΔICP6-ΔIR-rpsL-neoを使用した。その結果、対照群であるΔICP6-ΔIR-rpsL-neoは、約1700bpのバンドを生成したところと異なり、ΔICP6ΔIRウイルスは、バンドが生成されなかったので、IR及び外来遺伝子が成功に至るべく除去されたことを確認した。
【0076】
従って、外来遺伝子が除去されたΔICP6ΔIRウイルスが成功に至るべく作製されたことを確認した。
【0077】
実験例1:実施例3のΔICP6ΔIRウイルスの抗癌効果及び安全性確認
6-ウェルプレートに、A549(human lung cancer、ATCCR CRM-CCL-185TM)、U251N(human glioma、ATCCR)及びVERO(monkey normal kidney、ATCCR CCL-81TM)細胞を、3.5X10セル/ウェルに分注し、HswC(iXcells、10HU-188)細胞は、3X10セル/ウェルに分注し、24時間後、野生型HSV-1、ICP6のみ欠損されたΔICP6、IRのみ欠損されたΔIR、及びICP6とIRとがいずれも欠損されたΔICP6ΔIRウイルス、それぞれを0.1 MOIで感染(infection)させた。
【0078】
24,48,72,120時間後、細胞と上澄み液とをいずれも収去し、4℃で3000rpmで10分間遠心分離した。得られたペレットと上澄み液とを分離し、上澄み液は、4℃保管し、ペレットは、冷凍(freezing)/解凍(thawing)を3回反復した後、上澄み液と合わせ、さらに一度、4℃で3000rpmで10分間遠心分離した。その後、上澄み液だけ分離し、次のようにプラーク分析(plaque assay)を行った。
【0079】
12-ウェルプレートに、1.5X10で分注されたVERO細胞に、前述の方法で獲得した上澄み液を順次に感染させた後、8時間後、1%メチルセルロースを1ml添加した。感染させてから3日後、1%クリスタルバイオレット染色溶液(crystal violet staining solution)で染色し、プラーク数を数えた。
【0080】
その結果、ΔICP6ΔIRは、野生型ウイルスHSV-1と類似した癌細胞殺傷能を示し、ΔICP6またはΔIRと比較し、さらに高い癌細胞殺傷能を示すことを確認した。また、HswC細胞において、低い力価の子ウイルス(progeny virus)が生産され、人体に安全なベクターの特徴を示した。
以下、本発明の実施形態を示す。
(1)単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)のゲノム領域のうち、ICP6(infected-cell protein 6)が欠失され、UL(unique long)領域とUS(unique short)領域との間のIR(internal repeat)領域が欠失されたHSV-1ゲノムを有する、組み換えHSV-1。
(2)前記組み換えHSV-1は、TRL(terminal repeat of long region)領域;UL1ないしUL38、及びUL40ないしUL56のうち1以上の遺伝子のヌクレオチド配列を含むUL領域;US1ないしUS12のうち1以上の遺伝子のヌクレオチド配列を含むUS領域;並びにTRS(terminal repeat of short region)領域からなる群から選択されるHSV-1の1以上のゲノム領域を含む、(1)に記載の組み換えHSV-1。
(3)前記ICP6は、UL39遺伝子である、(1)に記載の組み換えHSV-1。
(4)前記組み換えHSV-1のゲノムは、HSV-1のICP6遺伝子のヌクレオチド配列のうち、配列番号1のヌクレオチド配列が欠失されたものである、(1)に記載の組み換えHSV-1。
(5)前記IR領域は、IRL(internal repeat of long region)領域及びIRS(internal repeat of short region)領域を含むものである、(1)に記載の組み換えHSV-1。
(6)前記組み換えHSV-1のゲノムは、HSV-1のIR領域のヌクレオチド配列のうち、配列番号2のヌクレオチド配列が欠失されたものである、(1)に記載の組み換えHSV-1。
(7)UL56遺伝子の一部ヌクレオチド配列が追加して欠失されたものである、(1)に記載の組み換えHSV-1。
(8)前記欠失されたUL56遺伝子の一部ヌクレオチド配列は、配列番号3のヌクレオチド配列である、(7)に記載の組み換えHSV-1。
(9)前記組み換えHSV-1のゲノムは、配列番号4のヌクレオチド配列を含む、(1)に記載の組み換えHSV-1。
(10)前記組み換えHSV-1は、癌細胞または腫瘍細胞の特異性を示すものである、(1)に記載の組み換えHSV-1。
(11)(1)ないし(10)のうちいずれか1に記載の組み換えHSV-1のゲノムヌクレオチド配列を含む、組み換えHSV-1ベクター。
(12)外来遺伝子のヌクレオチド配列を追加して含むものである、(11)に記載の組み換えHSV-1ベクター。
(13)ICP6及びIR領域が欠失されたHSV-1のゲノムヌクレオチド配列を含む組み換えHSV-1ベクターを製造する段階と、
前記ベクターを細胞に形質感染させ、組み換えHSV-1を得る段階と、を含む、組み換えHSV-1を製造する方法。
(14)前記組み換えHSV-1ベクターは、TRL領域;UL1ないしUL38、及びUL40ないしUL56のうち1以上の遺伝子のヌクレオチド配列を含むUL領域;US1ないしUS12のうち1以上の遺伝子のヌクレオチド配列を含むUS領域;並びにTRS領域からなる群から選択されるHSV-1の1以上のゲノム領域のヌクレオチド配列を含むものである、(13)に記載の方法。
(15)(1)に記載の組み換えHSV-1、または(11)に記載の組み換えHSV-1ベクターを含む癌予防用または治療用の薬学的組成物。
(16)(1)に記載の組み換えHSV-1、または(11)に記載の組み換えHSV-1ベクターの有効量を、それを必要とする個体に投与する段階を含む、癌を予防したり治療したりする方法。
(17)癌の予防用薬剤または治療用薬剤の製造のための(1)に記載の組み換えHSV-1、または(11)に記載の組み換えHSV-1ベクターの用途。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【配列表】
0007138234000001.app