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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】気体センサの駆動方法及び気体検出装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
G01N27/12 A
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021514798
(86)(22)【出願日】2020-01-23
(86)【国際出願番号】 JP2020002233
(87)【国際公開番号】W WO2020213223
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2019078029
(32)【優先日】2019-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】520133916
【氏名又は名称】ヌヴォトンテクノロジージャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(74)【代理人】
【識別番号】100137235
【弁理士】
【氏名又は名称】寺谷 英作
(74)【代理人】
【識別番号】100131417
【弁理士】
【氏名又は名称】道坂 伸一
(72)【発明者】
【氏名】本間 運也
(72)【発明者】
【氏名】片山 幸治
(72)【発明者】
【氏名】村岡 俊作
(72)【発明者】
【氏名】河合 賢
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/123674(WO,A1)
【文献】特開2017-215312(JP,A)
【文献】特開2017-173307(JP,A)
【文献】特開2013-068567(JP,A)
【文献】特開2002-340830(JP,A)
【文献】特開2017-151091(JP,A)
【文献】特開2017-198661(JP,A)
【文献】特開2011-215105(JP,A)
【文献】国際公開第2018/123673(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面を有する第1電極と、
第2主面を有する第2電極と、
互いに対向して配置された前記第1主面と前記第2主面との間に挟まるように配置された金属酸化物層と、
前記第1電極、前記金属酸化物層および前記第2電極を被覆し、少なくとも前記第2電極における前記第2主面と反対側の第3主面の一部を露出する絶縁膜と、を備え、
前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加した状態で、前記第3主面の前記一部が水素原子を有する気体分子を含む気体に接すると、前記金属酸化物層の抵抗値が変化して水素検知する気体センサにおいて、
前記第1電極と前記第2電極との間に正電圧と負電圧とを繰り返し印加し、
前記繰り返し印加の期間中に、前記第1電極と前記第2電極との間に流れる電流値を読み出すことによって前記水素検知をする、気体センサの駆動方法。
【請求項2】
前記第3主面の前記一部に接する気体中における前記気体分子の存否に関わらず、前記正電圧と前記負電圧とを繰り返し印加することを常時行う、請求項1に記載の気体センサの駆動方法。
【請求項3】
前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加した状態で、前記第3主面における前記露出した一部が水素原子を有する気体分子を含む気体に接すると、前記金属酸化物層の抵抗値が低下する、請求項1又は2に記載の気体センサの駆動方法。
【請求項4】
前記正電圧の印加時には1つ以上の正電圧パルスを印加する、請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の気体センサの駆動方法。
【請求項5】
前記負電圧の印加時には1つ以上の負電圧パルスを印加する、請求項1から4のうちのいずれか1項に記載の気体センサの駆動方法。
【請求項6】
前記1つ以上の正電圧パルスを印加する時に、前記第1電極と前記第2電極との間に流れる電流値を読み出す、請求項4に記載の気体センサの駆動方法。
【請求項7】
前記正電圧の印加時における印加電圧の絶対値が、前記負電圧の印加時における印加電圧の絶対値よりも大きい、請求項1から6のうちのいずれか1項に記載の気体センサの駆動方法。
【請求項8】
前記正電圧の印加時とそれに続く前記負電圧の印加時との間、又は、前記負電圧の印加時とそれに続く前記正電圧の印加時との間に、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧が印加されていない状態が存在する、請求項1から7のうちのいずれか1項に記載の気体センサの駆動方法。
【請求項9】
前記正電圧の印加時には第1正電圧と第2正電圧とを印加し、前記第1正電圧の印加時における印加電圧の絶対値が、前記第2正電圧の印加時における印加電圧の絶対値よりも大きい、請求項1から8のうちのいずれか1項に記載の気体センサの駆動方法。
【請求項10】
前記第2正電圧の印加は、前記第1正電圧の印加後でそれに続く前記負電圧の印加前に行う、請求項9に記載の気体センサの駆動方法。
【請求項11】
前記第2正電圧の印加は、前記負電圧の印加後でそれに続く前記第1正電圧の印加前に行う、請求項9に記載の気体センサの駆動方法。
【請求項12】
前記第2正電圧の印加時における印加電圧の絶対値が、前記負電圧の印加時における印加電圧の絶対値よりも小さい、請求項9から11のうちのいずれか1項に記載の気体センサの駆動方法。
【請求項13】
第1主面を有する第1電極と、第2主面を有する第2電極と、互いに対向して配置された前記第1主面と前記第2主面との間に挟まるように配置された金属酸化物層と、前記第1電極、前記金属酸化物層および前記第2電極を被覆し、少なくとも前記第2電極における前記第2主面と反対側の第3主面の一部を露出する絶縁膜とを備える気体センサと、
前記気体センサの前記第1電極と前記第2電極との間に正電圧と負電圧とを繰り返し印加する電源回路と、
前記繰り返し印加の期間中に、前記第1電極と前記第2電極との間に流れる電流値を読み出すことによって気体を検出する測定回路と、を備える気体検出装置。
【請求項14】
前記電源回路は電圧パルス生成回路を有する、請求項13に記載の気体検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、気体センサの駆動方法及び気体検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、第1電極と金属酸化物層と第2電極とが積層された気体センサを用いて、水素原子を有する気体分子を含む気体(以下、水素含有ガスと言う)を検出する気体検出装置が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
特許文献1の気体検出装置は、第1電極と第2電極との間に電圧を印加した状態で、第2電極の一部が水素含有ガスに接したときに金属酸化物層の抵抗値が低下するという気体センサの性質を利用して、水素含有ガスを検出している。金属酸化物層の抵抗値は、第1電極と第2電極との間に所定の電圧を印加したときに流れる読み出し電流の値に基づいて測定される。
【0004】
水素含有ガスとの接触によって低下した金属酸化物層の抵抗値は、水素含有ガスが不在となった後も、水素含有ガスと接触する前の値に戻らないことがある。そこで、特許文献1の気体検出装置では、読み出し電流が所定のしきい値以上になった場合、第1電極と第2電極との間にリセット電圧を印加することによって、金属酸化物層の抵抗値を、水素含有ガスと接触する前の値にリセットしている。
【0005】
特許文献1の気体検出装置では、金属酸化物層の抵抗値を電気的にリセットすることで、水素含有ガスの安定した検出を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2018/123673号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の気体検出装置では、読み出し電流の電流値と所定のしきい値と比較判断を行い、判断結果に応じて金属酸化物層の抵抗値を電気的にリセットするため、リセットの手順が煩雑になりやすい。
【0008】
そこで、本開示は、簡素な手順で金属酸化物層の抵抗値をリセットできる気体センサの駆動方法および気体検出装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の一態様に係る気体センサの駆動方法は、第1主面を有する第1電極と、第2主面を有する第2電極と、互いに対向して配置された前記第1主面と前記第2主面との間に挟まるように配置された金属酸化物層と、前記第1電極、前記金属酸化物層および前記第2電極を被覆し、少なくとも前記第2電極における前記第2主面と反対側の第3主面の一部を露出する絶縁膜と、を備え、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加した状態で、前記第3主面の前記一部が水素原子を有する気体分子を含む気体に接すると、前記金属酸化物層の抵抗値が変化して水素検知する気体センサにおいて、前記第1電極と前記第2電極との間に正電圧と負電圧とを繰り返し印加し、前記繰り返し印加の期間中に、前記第1電極と前記第2電極との間に流れる電流値を読み出すことによって前記水素検知をする。
【0010】
本開示の一態様に係る気体検出装置は、第1主面を有する第1電極と、第2主面を有する第2電極と、互いに対向して配置された前記第1主面と前記第2主面との間に挟まるように配置された金属酸化物層と、前記第1電極、前記金属酸化物層および前記第2電極を被覆し、少なくとも前記第2電極における前記第2主面と反対側の第3主面の一部を露出する絶縁膜とを備える気体センサと、前記気体センサの前記第1電極と前記第2電極との間に正電圧と負電圧とを繰り返し印加する電源回路と、前記繰り返し印加の期間中に、前記第1電極と前記第2電極との間に流れる電流値を読み出すことによって気体を検出する測定回路と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本開示の一態様に係る気体センサの駆動方法および気体検出装置によれば、第1電極と第2電極との間に正電圧と負電圧とを繰り返し印加している。これにより、条件判断を要しない簡素な手順で、金属酸化物層の抵抗値の読み出しとリセットとを繰り返し行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A図1Aは、実施の形態に係る気体センサの構造の一例を示す断面図である。
図1B図1Bは、実施の形態に係る気体センサの構造の一例を示す上面図である。
図2図2は、実施の形態に係る気体センサの状態遷移の一例を示す図である。
図3図3は、実施の形態に係る気体センサの電流-電圧特性の一例を示す図である。
図4A図4Aは、実施の形態に係る気体センサの製造方法の一例を示す断面図である。
図4B図4Bは、実施の形態に係る気体センサの製造方法の一例を示す断面図である。
図4C図4Cは、実施の形態に係る気体センサの製造方法の一例を示す断面図である。
図4D図4Dは、実施の形態に係る気体センサの製造方法の一例を示す断面図である。
図4E図4Eは、実施の形態に係る気体センサの製造方法の一例を示す断面図である。
図4F図4Fは、実施の形態に係る気体センサの製造方法の一例を示す断面図である。
図4G図4Gは、実施の形態に係る気体センサの製造方法の一例を示す断面図である。
図5図5は、変形例に係る気体センサの構造の一例を示す断面図である。
図6図6は、参考例に係る気体検出装置の構成の一例を示す機能ブロック図である。
図7A図7Aは、参考例に係る気体センサの駆動方法の一例を示す図である。
図7B図7Bは、参考例の駆動方法による抵抗変化現象の一例を説明する概念図である。
図8図8は、参考例における読み出し電流の一例を示すグラフである。
図9図9は、第1実施例に係る気体検出装置の構成の一例を示す機能ブロック図である。
図10A図10Aは、第1実施例に係る気体センサの駆動方法の一例を示す図である。
図10B図10Bは、第1実施例の駆動方法による抵抗変化現象の一例を説明する概念図である。
図11図11は、第1実施例における読み出し電流の一例を示すグラフである。
図12図12は、第2実施例に係る気体検出装置の構成の一例を示す機能ブロック図である。
図13A図13Aは、第2実施例に係る気体センサの駆動方法の一例を示す図である。
図13B図13Bは、第2実施例の駆動方法による抵抗変化現象の一例を説明する概念図である。
図14図14は、第2実施例における読み出し電流の一例を示すグラフである。
図15A図15Aは、第3実施例に係る気体センサの駆動方法の一例を示す図である。
図15B図15Bは、第3実施例の駆動方法による抵抗変化現象の一例を説明する概念図である。
図16図16は、第3実施例における読み出し電流の一例を示すグラフである。
図17図17は、第4実施例に係る気体センサの駆動方法の一例を示す図である。
図18図18は、第5実施例に係る気体センサの駆動方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
【0014】
なお、図面において、実質的に同一の構成、動作、および効果を表す要素については、同一の符号を付し、説明を省略する。また、以下において記述される数値、材料、組成、形状、成膜方法、構成要素間の接続関係などは、すべて本開示の実施の形態を具体的に説明するための単なる例示であり、本開示はこれらに限定されない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0015】
[気体センサの構成]
実施形態に係る気体センサは、抵抗膜(金属酸化物層)と金属膜とが積層されてなる金属-絶縁膜-金属(MIM)構造の気体センサである。当該気体センサは、抵抗膜内に形成される局所領域での自己発熱と気体感応性とを利用することにより、ヒータで加熱することなく、水素含有ガスを検出することができる。ここで、水素含有ガスとは、水素原子を有する分子からなる気体の総称であり、一例として、水素、メタン、アルコールなどを含み得る。
【0016】
図1Aは、実施形態に係る気体センサ100の構造の一例を示す断面図である。
【0017】
図1Bは、実施形態に係る気体センサ100の構造の一例を示す上面図である。図1Aの断面は、図1Bの1A-1A’の切断線において矢印方向に見た断面に対応する。
【0018】
気体センサ100は、基板101、基板101上に形成された絶縁膜102、絶縁膜102の上方に形成された第1電極103、第2電極106、第1電極103と第2電極106とで挟まれた金属酸化物層104、絶縁膜107、ビア108、及び配線109を備えている。第1電極103の第1主面と第2電極106の第2主面とは対向して配置され、第1電極103の第1主面と第2電極106の第2主面との間に挟まるように金属酸化物層104が配置されている。
【0019】
絶縁膜107には、第2電極106を検査対象である気体に接触させるための開口107aが設けられている。言い換えると、絶縁膜107は、第1電極103、第2電極106及び金属酸化物層104を覆いつつ、第2電極106の第3主面(上記した第2主面に対向する他の主面)の少なくとも一部は絶縁膜107に覆われることなく露出している。
【0020】
金属酸化物層104は、第1電極103と第2電極106との間に介在する。金属酸化物層104の抵抗値は、第1電極103と第2電極106との間に与えられる電気的信号に基づいて可逆的に変化する。例えば、金属酸化物層104の抵抗状態は、第1電極103と第2電極106との間に与えられる電圧(電位差)に応じて高抵抗状態と低抵抗状態とを可逆的に遷移する。また、金属酸化物層104の抵抗状態は、第2電極106に接触した水素含有ガスに応じて、例えば、高抵抗状態から低抵抗状態に遷移する。
【0021】
ここで、金属酸化物層104は、内部に、第2電極106と接して配置され、第1電極103に接していない局所領域105を備えている。局所領域105の酸素不足度は、その周囲(すなわち金属酸化物層104のバルク領域)の酸素不足度よりも大きい。局所領域105の酸素不足度は、第1電極103と第2電極106との間への電気的信号の印加及び第2電極106が接触する気体中の水素含有ガスの有無に応じて可逆的に変化する。局所領域105は、酸素欠陥サイトから構成されるフィラメント(導電パス)を含む微小な領域である。
【0022】
絶縁膜107の第2電極106の上面を覆っている部分において、ビア108が絶縁膜107を貫通して第2電極106に接続されている。ビア108の上に配線109が配置されている。
【0023】
なお、本開示において、金属酸化物の「酸素不足度」とは、当該金属酸化物と同じ元素から構成される化学量論的組成の酸化物における酸素の量に対する、当該金属酸化物における酸素の不足量の割合をいう(ここで、酸素の不足量とは、化学量論的組成の金属酸化物における酸素の量から当該金属酸化物における酸素の量を引いた値である)。もし、当該金属酸化物と同じ元素から構成される化学量論的組成の金属酸化物が複数存在しうる場合、当該金属酸化物の酸素不足度は、それらの化学量論的組成の金属酸化物のうち最も高い抵抗値を有する1つに基づいて定義される。化学量論的組成の金属酸化物は、他の組成の金属酸化物と比べて、より安定でありかつより高い抵抗値を有している。
【0024】
例えば、金属がタンタル(Ta)の場合、上述の定義による化学量論的組成の酸化物はTaであるので、TaO2.5と表現できる。TaO2.5の酸素不足度は0%であり、TaO1.5の酸素不足度は(2.5-1.5)/2.5=40%となる。また、酸素過剰の金属酸化物は、酸素不足度が負の値となる。なお、本開示では、特に断りのない限り、酸素不足度は正の値、0、又は負の値をとり得る。
【0025】
酸素不足度の小さい酸化物は化学量論的組成の酸化物により近いため抵抗値が高く、酸素不足度の大きい酸化物は酸化物を構成する金属により近いため抵抗値が低い。
【0026】
「酸素含有率」とは、総原子数に占める酸素原子の比率である。例えば、Taの酸素含有率は、総原子数に占める酸素原子の比率(O/(Ta+O))であり、71.4atm%となる。従って、酸素不足型のタンタル酸化物は、酸素含有率は0より大きく、71.4atm%より小さいことになる。
【0027】
局所領域105は、第1電極103と第2電極106との間に初期ブレイク電圧を印加することによって、金属酸化物層104内に形成される。言い換えると、初期ブレイク電圧とは、局所領域105を形成するために、第1電極103と第2電極106との間に印加される電圧である。初期ブレイク電圧は、書き込み電圧より絶対値が大きい電圧であってもよい。書き込み電圧とは、金属酸化物層104を高抵抗状態と低抵抗状態とに可逆的に遷移させるために、第1電極103と第2電極106との間に印加される電圧である。あるいは、初期ブレイク電圧は、書き込み電圧より絶対値が小さい電圧であってもよい。この場合は、初期ブレイク電圧を繰り返し印加するか、または所定時間連続して印加してもよい。初期ブレイク電圧の印加により、図1Aに示すように、第2電極106と接し、第1電極103と接していない局所領域105が形成される。
【0028】
局所領域105は、酸素欠陥サイトから構成されるフィラメント(導電パス)を含むと考えられる。局所領域105の大きさは、電流を流すために必要なフィラメントに見合う微小な大きさである。局所領域105におけるフィラメントの形成は、パーコレーションモデルを用いて説明される。
【0029】
パーコレーションモデルとは、局所領域105中での酸素欠陥サイトのランダムな分布を仮定し、酸素欠陥サイトの密度がある閾値を越えると酸素欠陥サイトのつながりが形成される確率が増加するという理論に基づくモデルである。
【0030】
パーコレーションモデルによれば、フィラメントは、局所領域105中の複数の酸素欠陥サイトがつながることにより構成され、金属酸化物層104における抵抗変化は、局所領域105における酸素欠陥サイトの発生及び消失を通じて発現する。
【0031】
ここで、「酸素欠陥」とは、金属酸化物中で酸素が化学量論的組成から欠損していることを意味し、「酸素欠陥サイトの密度」は、酸素不足度とも対応している。つまり、酸素不足度が大きくなると、酸素欠陥サイトの密度も大きくなる。
【0032】
局所領域105は、気体センサ100の1つの金属酸化物層104に1ケ所のみ形成されてもよい。金属酸化物層104に形成されている局所領域105の数は、例えば、EBAC(Electron Beam Absorbed Current)解析によって確認することができる。
【0033】
金属酸化物層104内に局所領域105が存在する場合、第1電極103と第2電極106との間に電圧を印加した際、金属酸化物層104内の電流は局所領域105に集中的に流れる。
【0034】
局所領域105のサイズは小さい。そのため、局所領域105は、例えば、抵抗値を読み出すときに流れる数十μA程度の電流によって発熱し、この発熱がかなりの温度上昇を引き起こす。数十μA程度の電流が流れるとき、その消費電力は、一例として0.1mW未満である。
【0035】
そこで、第2電極106を触媒作用のある金属、例えば白金(Pt)、で構成し、局所領域105を第2電極106に接続して形成する。これらの構成によれば、局所領域105における発熱によって第2電極106が加熱され、水素含有ガスから水素原子が効率よく解離する。
【0036】
検査対象である気体中に水素含有ガスがあるとき、第2電極106において、水素含有ガスから水素原子が解離され、解離された水素原子は局所領域105内の酸素原子と結合し、その結果、局所領域105の抵抗値が低下する。
【0037】
このようにして、気体センサ100は、第2電極106が水素含有ガスに接すると第1電極103と第2電極106との間の抵抗値が低下する特性を有する。当該特性により、検査対象である気体が第2電極106に接したとき、第1電極103と第2電極106との間の抵抗値の低下を検出することによって、気体に含まれる水素含有ガスを検出することができる。
【0038】
なお、局所領域105が高抵抗状態及び低抵抗状態の何れの状態であっても、水素含有ガスが第2電極106に接することで抵抗値の低下が生じる。そのため、水素含有ガスの検出は、局所領域105が高抵抗状態及び低抵抗状態の何れの状態にある気体センサ100によっても可能である。ただし、抵抗値の低下をより明確に検出できるように、局所領域105をあらかじめ電気的に高抵抗状態に設定した気体センサ100を用いてもよい。
【0039】
以下では、安定的な抵抗変化特性を得るための気体センサ100の細部について説明する。
【0040】
金属酸化物層104は、酸素不足型の金属酸化物から構成される。当該金属の酸化物の母体金属は、タンタル、ハフニウム(Hf)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)等の遷移金属と、アルミニウム(Al)とから少なくとも1つ選択されてもよい。遷移金属は複数の酸化状態をとることができるため、異なる抵抗状態を酸化還元反応により実現することが可能である。
【0041】
ここで、酸素不足型の金属酸化物とは、同一の金属元素を含有する化学量論的組成の金属酸化物に比べて、酸素不足度が大きい金属酸化物である。化学量論的組成の金属酸化物が典型的に絶縁体であるのに対し、酸素不足型の金属酸化物は典型的に半導体的な特性を有する。酸素不足型の金属酸化物を金属酸化物層104に用いることで、気体センサ100は、再現性がよくかつ安定した抵抗変化動作を実現できる。
【0042】
例えば、金属酸化物層104を構成する金属酸化物としてハフニウム酸化物を用いる場合、その組成をHfOと表記した場合にxが1.6以上であるとき、金属酸化物層104の抵抗値を安定して変化させることができる。この場合、ハフニウム酸化物の膜厚は、3~4nmとしてもよい。
【0043】
また、金属酸化物層104を構成する金属酸化物としてジルコニウム酸化物を用いる場合、その組成をZrOと表記した場合にxが1.4以上であるとき、金属酸化物層104の抵抗値を安定して変化させることができる。この場合、ジルコニウム酸化物の膜厚は、1~5nmとしてもよい。
【0044】
また、金属酸化物層104を構成する金属酸化物としてタンタル酸化物を用いる場合、その組成をTaOと表記した場合にxが2.1以上であるとき、金属酸化物層104の抵抗値を安定して変化させることができる。
【0045】
以上の各金属酸化物層の組成についてはラザフォード後方散乱法を用いて測定できる。
【0046】
第1電極103および第2電極106の材料としては、例えば、白金、イリジウム(Ir)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、ニッケル、タングステン、銅(Cu)、アルミニウム、タンタル、チタン、窒化チタン(TiN)、窒化タンタル(TaN)および窒化チタンアルミニウム(TiAlN)などから選択される。
【0047】
具体的に、第2電極106は、例えば、白金、イリジウム、又はパラジウム、若しくは、これらのうちの少なくとも1つを含む合金など、水素原子を有する気体分子から水素原子を解離する触媒作用を有する材料で構成する。また、第1電極103は、例えば、タングステン、ニッケル、タンタル、チタン、アルミニウム、窒化タンタル、窒化チタンなど、金属酸化物を構成する金属と比べて標準電極電位が、より低い材料で構成してもよい。標準電極電位は、その値が高いほど酸化しにくい特性を表す。
【0048】
また、基板101としては、例えば、シリコン単結晶基板または半導体基板を用いることができるが、これらに限定されるわけではない。金属酸化物層104は比較的低い基板温度で形成することが可能であるため、例えば、樹脂材料などの上に金属酸化物層104を形成することもできる。
【0049】
また、気体センサ100は、金属酸化物層104に電気的に接続された負荷素子として、例えば固定抵抗、トランジスタ、またはダイオードをさらに備えてもよい。
【0050】
ここで、気体センサ100の電圧印加による抵抗変化特性について、サンプル素子による実測結果に基づいて説明する。なお、気体センサ100の水素含有ガスによる抵抗変化特性については、後述する。
【0051】
図2は、サンプル素子で実測された抵抗変化特性を示すグラフである。
【0052】
図2の測定結果が得られたサンプル素子である気体センサ100は、第1電極103および第2電極106並びに金属酸化物層104の大きさを0.5μm×0.5μm(面積0.25μm)としたものである。また、金属酸化物層104としてのタンタル酸化物の組成をTaOと表記したとき、y=2.47としている。さらに、金属酸化物層104の厚みを5nmとしている。このような気体センサ100に対して、第1電極103と第2電極106との間に読み出し用電圧(例えば0.4V)を印加した場合、初期抵抗値RIは約10~10Ωである。
【0053】
図2に示されるように、気体センサ100の抵抗値が初期抵抗値RI(高抵抗状態における抵抗値HRより高い値)である場合、初期ブレイク電圧を第1電極103と第2電極106との間に印加することにより、抵抗値が低抵抗値LRに変化する(S101)。その後、気体センサ100の第1電極103と第2電極106との間に、書き込み用電圧として、例えばパルス幅が100nsでかつ極性が異なる2種類の電圧パルス、すなわち正電圧パルスと負電圧パルスとを交互に印加すると、図2に示すように第1電極103と第2電極106との間の抵抗値が変化する。
【0054】
すなわち、書き込み用電圧として正電圧パルス(パルス幅100ns)を電極間に印加した場合、第1電極103と第2電極106との間の抵抗値が低抵抗値LRから高抵抗値HRへ増加する(S102)。他方、書き込み用電圧として負電圧パルス(パルス幅100ns)を電極間に印加した場合、第1電極103と第2電極106との間の抵抗値が高抵抗値HRから低抵抗値LRへ減少する(S103)。なお、電圧パルスの極性は、第1電極103の電位を基準として第2電極106の電位が高い場合が“正”であり、第1電極103の電位を基準として第2電極106の電位が低い場合が“負”である。
【0055】
図3は、気体センサ100の電流-電圧特性の一例を示す図である。図3では、気体センサ100の第1電極103と第2電極106との間に変動する電圧を印加しながら、気体センサに流れる電流を測定して得られた電流-電圧特性を示している。具体的に、気体センサ100をあらかじめ高抵抗状態に設定しておき、印加電圧を(1)まず、0から負の書き込み用電圧VLまで変化させ、(2)次に、負の書き込み用電圧VLから正の書き込み用電圧VHまで変化させ、(3)最後に、正の書き込み用電圧VHから0まで変化させた。ここで、電圧の正と負の定義は上述の通りである。
【0056】
印加電圧が所定の大きさの負電圧に達したとき、第1電極103と第2電極106との間の抵抗値が高抵抗値HRから低抵抗値LRへ減少(電流の絶対値が増加)する。一方、印加電圧が所定の大きさの正電圧に達したとき、第1電極103と第2電極106との間の抵抗値が低抵抗値LRから高抵抗値HRへ増加(電流の絶対値が減少)する。
【0057】
なお、気体検知への応用において、第1電極103と第2電極106との間の抵抗値は、電極間に読み出し用電圧VSを印加し、そのときに流れる検知電流ISに応じて測定される。
【0058】
[気体センサの製造方法と動作]
次に、図4A図4Gを参照しながら、気体センサ100の製造方法の一例について説明する。
【0059】
まず、図4Aに示すように、例えば単結晶シリコンである基板101上に、厚さ200nmの絶縁膜102を熱酸化法により形成する。そして、第1電極103として例えば厚さ100nmの白金の薄膜を、スパッタリング法により絶縁膜102上に形成する。なお、第1電極103と絶縁膜102との間にチタン、窒化チタンなどの密着層をスパッタリング法により形成することもできる。その後、第1電極103上に、金属酸化物層104となる酸素不足型の金属酸化物層を、例えばタンタルをターゲットに用いた反応性スパッタリング法で形成する。以上により金属酸化物層104が形成される。
【0060】
ここで、金属酸化物層104の厚みについては、厚すぎると初期抵抗値が高くなりすぎる等の不都合があり、薄すぎると安定した抵抗変化が得られないという不都合がある。以上の理由から、1nm以上8nm以下程度であってもよい。
【0061】
次に、金属酸化物層104上に、第2電極106として例えば厚さ150nmの白金の薄膜をスパッタリング法により形成する。
【0062】
次に、図4Bに示すように、フォトリソグラフィー工程によって、フォトレジストによるマスク300を形成する。その後、図4Cに示すように、マスク300を用いたドライエッチングによって、第1電極103、金属酸化物層104、及び第2電極106を素子の形状に形成する。
【0063】
その後、図4Dに示すように、絶縁膜102、第1電極103、金属酸化物層104、及び第2電極106を覆うように絶縁膜107を形成する。そして、エッチングによって、絶縁膜107に第2電極106の上面の一部に到達するビアホール107bを設ける。
【0064】
次に、図4Eに示すように、絶縁膜107の上面及びビアホール107bの内部を充填するように導体膜408を形成する。その後、図4Fに示すように、CMP(Chemical Mechanical Polishing)によって絶縁膜107上の導体膜408を除去してビアホール107b内にビア108を形成する。さらに新たな導体膜を絶縁膜107上に配置してパターニングすることによって、ビア108と接続する配線109を形成する。
【0065】
次に、図4Gに示すように、エッチングによって、絶縁膜107に第2電極106の上面の一部が露出する開口107aを設ける。
【0066】
その後、第1電極103と第2電極106との間に初期ブレイク電圧を印加することにより、金属酸化物層104内に図1Aに示す局所領域105を形成し、気体センサ100が完成する。
【0067】
[気体センサの変形例]
図5は、実施形態の変形例に係る気体センサの一構成例を示す断面図である。以下、実施形態の気体センサ100と異なる点について説明する。
【0068】
本変形例の気体センサ200は、金属酸化物層204が、第1電極103に接する第1金属酸化物層204aと第2電極106に接する第2金属酸化物層204bとの2層を積層して構成される点で、実施形態の気体センサ100と異なる。なお、金属酸化物層204は、2層に限らず3層以上の金属酸化物層を積層してもよい。
【0069】
第1金属酸化物層204a及び第2金属酸化物層204b内には、電気的パルスの印加及び水素含有ガスに応じて酸素不足度が可逆的に変化する局所領域105を備えている。局所領域105は、少なくとも第2金属酸化物層204bを貫通して第2電極106と接して形成される。
【0070】
言い換えると、金属酸化物層204は、第1金属酸化物を含む第1金属酸化物層204aと、第2金属酸化物を含む第2金属酸化物層204bとの積層構造を含む。そして、第1金属酸化物層204aは、第1電極103と第2金属酸化物層204bとの間に配置され、第2金属酸化物層204bは、第1金属酸化物層204aと第2電極106との間に配置されている。
【0071】
第2金属酸化物層204bの厚みは、第1金属酸化物層204aの厚みより薄くてもよい。この場合、局所領域105が第1電極103と接しない構造を容易に形成できる。第2金属酸化物層204bの酸素不足度は、第1金属酸化物層204aの酸素不足度より小さくてもよい。この場合、第2金属酸化物層204bの抵抗値は、第1金属酸化物層204aの抵抗値より高いため、金属酸化物層204に印加された電圧の多くは第2金属酸化物層204bに印加される。この構成は、例えば、初期ブレイク電圧を第2金属酸化物層204bに集中させ、局所領域105の形成に必要な初期ブレイク電圧を低減するために役立つ。
【0072】
また、本開示において、第1金属酸化物層204aと第2金属酸化物層204bを構成する金属が同一である場合に、「酸素不足度」に代えて「酸素含有率」という用語を用いることがある。「酸素含有率が高い」とは、「酸素不足度が小さい」ことに対応し、「酸素含有率が低い」とは「酸素不足度が大きい」ことに対応する。
【0073】
ただし、後述するように、本実施の形態に係る金属酸化物層204は、第1金属酸化物層204aと第2金属酸化物層204bとを構成する金属は同一である場合に限定されるものではなく、異なる金属であってもよい。すなわち、第1金属酸化物層204aと第2金属酸化物層204bとは異なる金属の酸化物であってもよい。
【0074】
第1金属酸化物層204aを構成する第1金属と、第2金属酸化物層204bを構成する第2金属とが同一である場合、酸素含有率は酸素不足度と対応関係にある。すなわち、第2金属酸化物の酸素含有率が第1金属酸化物の酸素含有率より大きいとき、第2金属酸化物の酸素不足度は第1金属酸化物の酸素不足度より小さい。
【0075】
金属酸化物層204は、第1金属酸化物層204aと第2金属酸化物層204bとの界面近傍に、局所領域105を備える。局所領域105の酸素不足度は、第2金属酸化物層204bの酸素不足度より大きく、第1金属酸化物層204aの酸素不足度と異なる。
【0076】
第1電極103と第2電極106との間に初期ブレイク電圧を印加することによって、局所領域105が金属酸化物層204内に形成される。初期ブレイク電圧により、第2電極106と接し、第2金属酸化物層204bを貫通して第1金属酸化物層204aに一部が侵入し、第1電極103と接していない局所領域105が形成される。
【0077】
[参考例に係る気体センサの駆動方法]
上述のように構成された気体センサの水素含有ガスによる基本的な抵抗変化現象について、参考例に係る気体センサの駆動方法に基づいて説明する。なお、以下では気体センサ200を例に挙げて説明するが、同様の説明は気体センサ100においても成り立つ。
【0078】
図6は、参考例に係る気体センサの駆動方法を実行するための気体検出装置の構成の一例を示す機能ブロック図である。図6に示されるように、気体検出装置800は、電源回路810と測定回路880とを備える。電源回路810は、電圧パルス生成回路820を有し、測定回路880は、気体センサ200および電流測定回路890を有する。電圧パルス生成回路820は、正電圧パルスを繰り返し生成する。
【0079】
図6では、さらに、ガス供給系900が示されている。ガス供給系900において、密閉容器910は、導入弁913、914を介して、水素ボンベ911、窒素ボンベ912にそれぞれ接続されるとともに、排気弁915を介して内部のガスを排出可能に構成されている。気体検出装置800の気体センサ200は、密閉容器910に格納される。
【0080】
図7Aは、参考例に係る気体センサ200の駆動方法の一例を示す図である。図7Aにおいて、印加電圧は、気体センサ200の第1電極103と第2電極106との間に印加される電圧の時間波形を示している。ここで、印加電圧の極性は、第1電極103の電位を基準として第2電極106の電位が高い場合が“正”であり、第1電極103の電位を基準として第2電極106の電位が低い場合が“負”である。読み出し電流は、正電圧の印加中に設けられる測定ポイントにおいて第1電極103と第2電極106との間に流れる電流値を時間軸方向につないだ波形を示している。
【0081】
図7Aに示されるように、参考例に係る駆動方法では、1.2Vの正電圧が繰り返し印加される(ステップS301)。1回の正電圧の印加時には1つの正電圧パルスが印加される。
【0082】
参考例に係る駆動方法に従って電圧を印加しながら読み出し電流を測定した。まず、密閉容器910内に導入した窒素ガス中に気体センサ200を置き、その後、密閉容器910内に水素ガスを導入し、さらに一定時間後に、導入ガスを水素ガスから窒素ガスに切り替えた。ここで水素ガスは、水素含有ガスの具体例である。
【0083】
図7Aの読み出し電流は、このときの結果を模式的に示しており、横軸に、先の窒素導入(ステップS201)、水素導入(ステップS202)、後の窒素導入(ステップS203)を行った3期間を示している。ステップS202の水素導入では、水素濃度が4%である場合と、1%である場合の2通りの条件を試行した。
【0084】
ステップS201の窒素導入の間、読み出し電流は所定の電流値であった。以下では、当該電流値をベース電流と言う。ステップS202で、導入ガスを窒素ガスから水素ガスに切り替えてから読み出し電流は増加し、水素ガスが検出された。その後、ステップS203で、導入ガスを水素ガスから窒素ガスに切り替えると、読み出し電流は、低下したが、ベース電流までは戻らなかった。
【0085】
この結果から、発明者は、参考例に係る駆動方法によって気体センサ200に生じる抵抗変化現象のメカニズムを以下のように推測する。
【0086】
図7Bは、参考例の駆動方法における抵抗変化現象を説明する概念図である。図7Bに示されるように、ステップS202で実行されるステップS301における正電圧の印加により、水素ガスに由来する水素原子501が金属酸化物層204中に拡散する。また、第2電極106と金属酸化物層204との界面に、水素原子と電子とで構成されるダイポール502が形成される。
【0087】
拡散した水素原子501によって形成される準位およびダイポール502のために第1電極103と第2電極106との間に電流が流れやすくなり、読み出し電流が増加(言い換えれば、金属酸化物層204の実効的な抵抗値が減少)する。
【0088】
正電圧のみを印加する参考例の駆動方法では、ステップS203での窒素導入により水素濃度が0%となった後も、拡散した水素原子501およびダイポール502は残ったままになる。その結果、ステップS203における読み出し電流の電流値は、ベース電流まで戻らなかったと考えられる。
【0089】
図8は、参考例に係る読み出し電流の実測結果の一例をより詳細に示すグラフである。図8には、ステップS301において、1.2V、1000n秒の正電圧パルスに続いて、1.2Vの読み出し用の正電圧を印加した場合に得られた読み出し電流の実測結果が示されている。図8の測定結果は、図7Aの読み出し電流の一具体例である。なお、参考例では、後述する実施例に係る駆動方法とは異なり、第1電極103と第2電極106との間への負電圧の印加は行っていない。
【0090】
ステップS203における読み出し電流がベース電流まで戻らないことは、水素含有ガスの安定的な検出の妨げになり得る。例えば、ステップS203での読み出し電流が、ステップS202において低濃度(例えば1%)の水素ガスが検出された場合に対応するしきい値以上の電流値で高止まりする場合、後続する低濃度の水素ガスの検出ができなくなる。
【0091】
そこで、本開示では、正電圧と負電圧とを繰り返し印加する気体センサの駆動方法を提案する。以下、本開示に係る気体センサの駆動方法について、複数の実施例を挙げて説明する。
【0092】
[第1実施例に係る気体センサの駆動方法]
図9は、第1実施例に係る気体センサの駆動方法を実行するための気体検出装置の構成の一例を示す機能ブロック図である。図9に示される気体検出装置801は、電源回路811と測定回路880とを備える。電源回路811は、電圧パルス生成回路820、821およびスイッチ回路830を有し、測定回路880は、気体センサ200および電流測定回路890を有する。
【0093】
図9では、さらに、図6と同様のガス供給系900が示されている。気体検出装置801の気体センサ200は、ガス供給系900の密閉容器910に格納される。先に説明した構成要素と実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0094】
電圧パルス生成回路820は正電圧パルスを生成し、電圧パルス生成回路821は負電圧パルスを生成する。スイッチ回路830は、電圧パルス生成回路820で生成された正電圧パルスおよび電圧パルス生成回路821で生成された負電圧パルスのうちの一方の電圧パルスを選択する。スイッチ回路830において選択された電圧パルスが、気体センサ200の第1電極103と第2電極106との間に印加される。
【0095】
図10Aは、第1実施例に係る気体センサ200の駆動方法の一例を示す図である。図10Aは、気体センサ200の第1電極103と第2電極106との間への印加電圧と読み出し電流とを、図7Aと同様の表記法により示している。
【0096】
図10Aに示されるように、第1実施例に係る駆動方法では、正電圧と負電圧とが繰り返し印加される(ステップS301、S302)。1回の正電圧の印加時には1つの正電圧パルスが印加され、1回の負電圧の印加時には1つの負電圧パルスが印加される。
【0097】
第1実施例に係る駆動方法に従って電圧を印加しながら、参考例と同様の状況下で、読み出し電流を測定した。図10Aの読み出し電流は、このときの結果を模式的に示している。
【0098】
ステップS201の窒素導入の間、読み出し電流の電流値はベース電流であった。ステップS202で、導入ガスを窒素ガスから水素ガスに切り替えてから読み出し電流は増加し、水素ガスが検出された。その後、ステップS203で、導入ガスを水素ガスから窒素ガスに切り替えると、読み出し電流は、ベース電流まで低下した。
【0099】
この結果から、発明者は、第1実施例の駆動方法によって気体センサ200に生じる抵抗変化現象のメカニズムを以下のように推測する。
【0100】
図10Bは、第1実施例に係る駆動方法における抵抗変化現象を説明する概念図である。参考例に係る駆動方法と同様、ステップS202で実行されるステップS301における正電圧(例えば1.2V)の印加により、水素ガスに由来する水素原子501が金属酸化物層204中に拡散する。また、第2電極106と金属酸化物層204との界面に、水素原子と電子とで構成されるダイポール502が形成される。
【0101】
拡散した水素原子501によって形成される準位およびダイポール502のために第1電極103と第2電極106との間に電流が流れやすくなり、読み出し電流が増加(言い換えれば、金属酸化物層204の実効的な抵抗値が減少)する。
【0102】
ステップS302において負電圧(例えば-0.9V)が印加されることにより、水素原子501は第2電極106へ移動し、金属酸化物層204中には残らない(点線円503)。また、ダイポール502も消失する(点線円504)。その結果、読み出し電流の電流値は、ベース電流に戻る。
【0103】
図11は、第1実施例に係る読み出し電流の実測結果の一例をより詳細に示すグラフである。図11には、ステップS301において、1.2V、1000n秒の正電圧パルスに続いて、1.2Vの読み出し用の正電圧を印加し、ステップS302において-0.9V、500n秒の負電圧パルスを印加した場合に得られた読み出し電流の実測結果が示されている。図11の測定結果は、図10Aの読み出し電流の一具体例である。
【0104】
第1実施例に係る駆動方法によれば、第1電極103と第2電極106との間に正電圧と負電圧とを繰り返し印加している。これにより、条件判断を要しない簡素な手順で、水素含有ガスの検出後の読み出し電流の電流値をベース電流に戻し、水素含有ガスの安定的な検出を繰り返し行うことができる。
【0105】
なお、上記の説明では、正電圧および負電圧を、一例として、それぞれ1.2Vおよび-0.9Vとしたが、この例には限定されない。正電圧には、正電圧の印加時における印加電圧の絶対値が、前述した初期ブレイク電圧の絶対値よりも小さく、かつ負電圧の印加時における印加電圧の絶対値より大きい適宜の電圧が用いられる。また、正電圧パルスおよび負電圧パルスには、矩形波には限らず適宜の波形が用いられる。これにより、前述した抵抗変化現象のメカニズムが働くので、同様の効果を得ることができる。また、第1実施例に係る駆動方法を実行する気体検出装置801においても、同様の効果が得られる。
【0106】
[第2実施例に係る気体センサの駆動方法]
図12は、第2実施例に係る気体センサの駆動方法を実行するための気体検出装置の構成の一例を示す機能ブロック図である。図12に示される気体検出装置802は、電源回路812と測定回路880とを備える。電源回路812は、電圧パルス生成回路820、821、定電圧生成回路822およびスイッチ回路831を有し、測定回路880は、気体センサ200および電流測定回路890を有する。
【0107】
図12では、さらに、図6と同様のガス供給系900が示されている。気体検出装置802の気体センサ200は、ガス供給系900の密閉容器910に格納される。先に説明した構成要素と実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0108】
定電圧生成回路822は、読み出し用の正電圧を生成する。以下では、電圧パルス生成回路820によって生成される正電圧パルスを第1正電圧と言い、定電圧生成回路822によって生成される正電圧を第2正電圧と言う。
【0109】
スイッチ回路831は、電圧パルス生成回路820で生成された正電圧パルス、電圧パルス生成回路821で生成された負電圧パルスおよび定電圧生成回路822で生成された読み出し用の正電圧を所定の順序で循環的に選択する。スイッチ回路831において選択された電圧パルスが、気体センサ200の第1電極103と第2電極106との間に印加される。
【0110】
図13Aは、第2実施例に係る気体センサ200の駆動方法の一例を示す図である。図13Aは、気体センサ200の第1電極103と第2電極106との間への印加電圧と読み出し電流とを、図7Aと同様の表記法により示している。
【0111】
図13Aに示されるように、第2実施例に係る駆動方法では、第1正電圧と第2正電圧と負電圧とがこの順に繰り返し印加される(ステップS303、S301、S302)。1回の第1正電圧の印加時には1つの正電圧パルスが印加され、1回の負電圧の印加時には1つの負電圧パルスが印加される。
【0112】
第2実施例に係る駆動方法に従って電圧を印加しながら、参考例と同様の状況下で、読み出し電流を測定した。図13Aの読み出し電流は、このときの結果を模式的に示している。
【0113】
ステップS201の窒素導入の間、読み出し電流の電流値はベース電流であった。ステップS202で、導入ガスを窒素ガスから水素ガスに切り替えてから読み出し電流は増加し、水素ガスが検出された。その後、ステップS203で、導入ガスを水素ガスから窒素ガスに切り替えると、読み出し電流は、ベース電流まで低下した。
【0114】
この結果から、発明者は、第2実施例の駆動方法によって気体センサ200に生じる抵抗変化現象のメカニズムを以下のように推測する。
【0115】
図13Bは、第2実施例に係る駆動方法における抵抗変化現象を説明する概念図である。参考例に係る駆動方法と同様、ステップS202で実行されるステップS303における第1正電圧(例えば1.2V)の印加により、水素ガスに由来する水素原子501が金属酸化物層204中に拡散する。また、第2電極106と金属酸化物層204との界面に、水素原子と電子とで構成されるダイポール502が形成される。
【0116】
拡散した水素原子501によって形成される準位およびダイポール502のために第1電極103と第2電極106との間に電流が流れやすくなり、読み出し電流が増加(言い換えれば金属酸化物層204の実効的な抵抗値が減少)する。
【0117】
ステップS301では、第2正電圧(例えば0.4V)の印加によって、水素原子501およびダイポール502が維持されることで、電流が流れやすい状態が持続する。
【0118】
ステップS302において負電圧(例えば-0.8V)が印加されることにより、水素原子501は第2電極106へ移動し、金属酸化物層204中には残らない(点線円503)。また、ダイポール502も消失する(点線円504)。その結果、読み出し電流の電流値は、ベース電流に戻る。
【0119】
図14は、第2実施例に係る読み出し電流の実測結果の一例をより詳細に示すグラフである。図14には、ステップS303において1.2V、1000n秒の正電圧パルスを印加し、ステップS301において0.4Vの読み出し用の正電圧を印加し、ステップS302において-0.8V、500n秒の負電圧パルスを印加した場合に得られた読み出し電流の実測結果が示されている。図14の測定結果は、図13Aの読み出し電流の一具体例である。
【0120】
第2実施例に係る駆動方法によれば、第1電極103と第2電極106との間に第1正電圧と第2正電圧と負電圧とをこの順に繰り返し印加している。これにより、条件判断を要しない簡素な手順で、水素含有ガスの検出後の読み出し電流の電流値をベース電流に戻し、水素含有ガスの安定的な検出を繰り返し行うことができる。また、第1正電圧より低い第2正電圧を用いて読み出し電流を測定するので、第1実施例に係る駆動方法と比べてより小さい消費電力での動作が可能となる。
【0121】
なお、上記の説明では、第1正電圧、第2正電圧および負電圧を、一例として、それぞれ1.2V、0.4Vおよび-0.8Vとしたが、この例には限定されない。第1正電圧には、第1正電圧の印加時における印加電圧の絶対値が、前述した初期ブレイク電圧の絶対値より小さく、かつ負電圧の印加時における印加電圧の絶対値より大きい適宜の電圧が用いられる。第2正電圧には、第2正電圧の印加時における印加電圧の絶対値が第1正電圧の印加時における印加電圧の絶対値より小さい適宜の電圧が用いられる。また、第1正電圧パルスおよび負電圧パルスには、矩形波には限らず適宜の波形が用いられる。これにより、前述した抵抗変化現象のメカニズムが働くので、同様の効果を得ることができる。また、第2実施例に係る駆動方法を実行する気体検出装置801においても、同様の効果が得られる。
【0122】
[第3実施例に係る気体センサの駆動方法]
第3実施例に係る気体センサ200の駆動方法は、図12に示される気体検出装置802において実行される。
【0123】
図15Aは、第3実施例に係る気体センサ200の駆動方法の一例を示す図である。図15Aは、気体センサ200の第1電極103と第2電極106との間への印加電圧と読み出し電流とを、図7Aと同様の表記法により示している。
【0124】
図15Aに示されるように、第3実施例に係る駆動方法では、第1正電圧と負電圧と第2正電圧とがこの順に繰り返し印加される(ステップS303、S302、S301)。1回の第1正電圧の印加時には1つの正電圧パルスが印加され、1回の負電圧の印加時には1つの負電圧パルスが印加される。
【0125】
第3実施例に係る駆動方法に従って電圧を印加しながら、参考例と同様の状況下で、読み出し電流を測定した。図15Aの読み出し電流は、このときの結果を模式的に示している。
【0126】
ステップS201の窒素導入の間、読み出し電流の電流値はベース電流であった。ステップS202で、導入ガスを窒素ガスから水素ガスに切り替えてから読み出し電流は増加し、水素ガスが検出された。その後、ステップS203で、導入ガスを水素ガスから窒素ガスに切り替えると、読み出し電流は、ベース電流まで低下した。
【0127】
この結果から、発明者は、第3実施例の駆動方法によって気体センサ200に生じる抵抗変化現象のメカニズムを以下のように推測する。
【0128】
図15Bは、第3実施例に係る駆動方法における抵抗変化現象を説明する概念図である。参考例に係る駆動方法と同様、ステップS202で実行されるステップS303における第1正電圧(例えば1.2V)の印加により、水素ガスに由来する水素原子501が金属酸化物層204中に拡散する。また、第2電極106と金属酸化物層204との界面に、水素原子と電子とで構成されるダイポール502が形成される。
【0129】
拡散した水素原子501によって形成される準位およびダイポール502のために第1電極103と第2電極106との間に電流が流れやすくなり、読み出し電流が増加(言い換えれば金属酸化物層204の実効的な抵抗値が減少)する。
【0130】
ステップS302において負電圧(例えば-0.8V)が印加されることにより、水素原子は第2電極106へ移動するが、一部の水素原子505は金属酸化物層204中に残る。また、一部のダイポール506が残る。残った水素原子505およびダイポール506のために、水素含有ガスの検出前と比べると、電流が流れやすい状態となる。
【0131】
ステップS301では、第2正電圧(例えば0.4V)が印加され、残った水素原子505およびダイポール506に対応する読み出し電流が流れることにより、水素含有ガスが検出される。
【0132】
図16は、第3実施例に係る読み出し電流の実測結果の一例をより詳細に示すグラフである。図16には、ステップS303において1.2V、1000n秒の正電圧パルスを印加し、ステップS302において-0.8V、500n秒の負電圧パルスを印加し、ステップS301において0.4Vの読み出し用の正電圧を印加した場合に得られた読み出し電流の実測結果が示されている。図16の測定結果は、図15Aの読み出し電流の一具体例である。図16の測定結果から、ステップS203における読み出し電流の電流値がベース電流に戻ることが分かる。
【0133】
第3実施例に係る駆動方法によれば、第1電極103と第2電極106との間に第1正電圧と負電圧と第2正電圧とをこの順に繰り返し印加している。これにより、条件判断を要しない簡素な手順で、水素含有ガスの検出後の読み出し電流の電流値をベース電流に戻し、水素含有ガスの安定的な検出を繰り返し行うことができる。また、第1正電圧より低い第2正電圧を用いて読み出し電流を測定するので、第1実施例に係る駆動方法と比べてより小さい消費電力での動作が可能となる。
【0134】
なお、上記の説明では、第1正電圧、負電圧および第2正電圧を、一例として、それぞれ1.2V、-0.8Vおよび0.4Vとしたが、この例には限定されない。第1正電圧には、第1正電圧の印加時における印加電圧の絶対値が、前述した初期ブレイク電圧の絶対値より小さく、かつ負電圧の印加時における印加電圧の絶対値より大きい適宜の電圧が用いられる。第2正電圧には、第2正電圧の印加時における印加電圧の絶対値が第1正電圧の印加時における印加電圧の絶対値より小さい適宜の電圧が用いられる。また、第1正電圧パルスおよび負電圧パルスには、矩形波には限らず適宜の波形が用いられる。これにより、前述した抵抗変化現象のメカニズムが働くので、同様の効果を得ることができる。また、第3実施例に係る駆動方法を実行する気体検出装置802においても、同様の効果が得られる。
【0135】
[第4実施例に係る気体センサの駆動方法]
第4実施例に係る気体センサ200の駆動方法は、図12に示される気体検出装置802において実行される。
【0136】
図17は、第4実施例に係る気体センサ200の駆動方法の一例を示す図である。図17は、気体センサ200の第1電極103と第2電極106との間への印加電圧と読み出し電流とを、図7Aと同様の表記法により示している。
【0137】
図17に示されるように、第4実施例に係る駆動方法では、第1正電圧と第2正電圧と負電圧とがこの順に繰り返し印加される(ステップS303、S301、S302)。第1正電圧の印加時とそれに続く第2正電圧の印加時との間に、電圧が印加されていない(つまり、第1電極103と前記第2電極106との間に印加される電圧が0Vである)状態が存在する(ステップS308)。また、第2正電圧の印加時とそれに続く負電圧の印加時との間に、電圧を印加しない状態が存在する(ステップS309)。1回の第1正電圧の印加時には1つの正電圧パルスが印加され、1回の負電圧の印加時には1つの負電圧パルスが印加される。
【0138】
第4実施例に係る駆動方法に従って電圧を印加しながら、参考例と同様の状況下で、読み出し電流を測定した。図17の読み出し電流は、このときの結果を模式的に示している。図17から、第4実施例の駆動方法によっても、条件判断を要しない簡素な手順で、水素含有ガスの検出後の読み出し電流の電流値をベース電流に戻し、水素含有ガスを安定的に検出できることが分かる。
【0139】
なお、上記の説明では、第1正電圧、第2正電圧および負電圧は、一例として、それぞれ1.2V、0.4Vおよび-0.8Vとしたが、この例には限定されない。第1正電圧には、第1正電圧の印加時における印加電圧の絶対値が、前述した初期ブレイク電圧の絶対値より小さく、かつ負電圧の印加時における印加電圧の絶対値より大きい適宜の電圧が用いられる。第2正電圧には、第2正電圧の印加時における印加電圧の絶対値が第1正電圧の印加時における印加電圧の絶対値より小さい適宜の電圧が用いられる。また、第1正電圧パルスおよび負電圧パルスには、矩形波には限らず適宜の波形が用いられる。これにより、前述した抵抗変化現象のメカニズムが働くので、同様の効果を得ることができる。また、第4実施例に係る駆動方法を実行する気体検出装置802においても、同様の効果が得られる。
【0140】
[第5実施例に係る気体センサの駆動方法]
第5実施例に係る気体センサ200の駆動方法は、図18に示される気体検出装置802において実行される。
【0141】
図18は、第5実施例に係る気体センサ200の駆動方法の一例を示す図である。図18は、気体センサ200の第1電極103と第2電極106との間への印加電圧と読み出し電流とを、図7Aと同様の表記法により示している。
【0142】
図18に示されるように、第5実施例に係る駆動方法では、第1正電圧と第2正電圧と負電圧とがこの順に繰り返し印加される(ステップS303a、S301、S302a)。1回の第1正電圧の印加時には2つの正電圧パルスが印加され、1回の負電圧の印加時には2つの負電圧パルスが印加される。第1正電圧の印加時とそれに続く第2正電圧の印加時との間に、電圧が印加されていない(つまり、第1電極103と前記第2電極106との間に印加される電圧が0Vである)状態が存在する(ステップS308)。また、第2正電圧の印加時とそれに続く負電圧の印加時との間に、電圧を印加しない状態が存在する(ステップS309)。
【0143】
第5実施例に係る駆動方法に従って電圧を印加しながら、参考例と同様の状況下で、読み出し電流を測定した。図18の読み出し電流は、このときの結果を模式的に示している。図18から、第5実施例の駆動方法によっても、条件判断を要しない簡素な手順で、水素含有ガスの検出後の読み出し電流の電流値をベース電流に戻し、水素含有ガスを安定的に検出できることが分かる。
【0144】
なお、上記の説明では、第1正電圧、第2正電圧および負電圧を、一例として、それぞれ1.2V、0.4Vおよび-0.8Vとしたが、この例には限定されない。第1正電圧には、第1正電圧の印加時における印加電圧の絶対値が、前述した初期ブレイク電圧の絶対値より小さく、かつ負電圧の印加時における印加電圧の絶対値より大きい適宜の電圧が用いられる。第2正電圧には、第2正電圧の印加時における印加電圧の絶対値が第1正電圧の印加時における印加電圧の絶対値より小さい適宜の電圧が用いられる。また、第1正電圧パルスおよび負電圧パルスには、矩形波には限らず適宜の波形が用いられる。1回の第1正電圧の印加時には3つ以上の正電圧パルスが印加されてもよく、1回の負電圧の印加時には3つ以上の負電圧パルスが印加されてもよい。これにより、前述した抵抗変化現象のメカニズムが働くので、同様の効果を得ることができる。また、第5実施例に係る駆動方法を実行する気体検出装置802においても、同様の効果が得られる。
【0145】
(実施形態のまとめ)
1つの態様に係る気体センサの駆動方法において、第1主面を有する第1電極と、第2主面を有する第2電極と、互いに対向して配置された前記第1主面と前記第2主面との間に挟まるように配置された金属酸化物層と、前記第1電極、前記金属酸化物層および前記第2電極を被覆し、少なくとも前記第2電極における前記第2主面と反対側の第3主面の一部を露出する絶縁膜と、を備え、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加した状態で、前記第3主面の前記一部が水素原子を有する気体分子を含む気体に接すると、前記金属酸化物層の抵抗値が変化して水素検知する気体センサにおいて、前記第1電極と前記第2電極との間に正電圧と負電圧とを繰り返し印加する。
【0146】
また、前記気体センサの駆動方法において、前記第3主面の前記一部に接する気体中における前記気体分子の存否に関わらず、前記正電圧と前記負電圧とを繰り返し印加することを常時行ってもよい。
【0147】
また、前記気体センサの駆動方法において、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧を印加した状態で、前記第3主面における前記露出した一部が水素原子を有する気体分子を含む気体に接すると、前記金属酸化物層の抵抗値が低下するとしてもよい。
【0148】
また、前記気体センサの駆動方法において、前記正電圧の印加時には1つ以上の正電圧パルスを印加してもよい。
【0149】
また、前記気体センサの駆動方法において、前記負電圧の印加時には1つ以上の負電圧パルスを印加してもよい。
【0150】
また、前記気体センサの駆動方法において、前記1つ以上の正電圧パルスを印加する時に、前記第1電極と前記第2電極との間に流れる電流値を読み出してもよい。
【0151】
また、前記気体センサの駆動方法において、前記正電圧の印加時における印加電圧の絶対値が、前記負電圧の印加時における印加電圧の絶対値よりも大きくてもよい。
【0152】
また、前記気体センサの駆動方法において、前記正電圧の印加時とそれに続く前記負電圧の印加時との間、又は、前記負電圧の印加時とそれに続く前記正電圧の印加時との間に、前記第1電極と前記第2電極との間に電圧が印加されていない状態が存在するとしてもよい。
【0153】
また、前記気体センサの駆動方法において、前記正電圧の印加時には第1正電圧と第2正電圧とを印加し、前記第1正電圧の印加時における印加電圧の絶対値が、前記第2正電圧の印加時における印加電圧の絶対値よりも大きいとしてもよい。
【0154】
また、前記気体センサの駆動方法において、前記第2正電圧の印加は、前記第1正電圧の印加後でそれに続く前記負電圧の印加前に行ってもよい。
【0155】
また、前記気体センサの駆動方法において、前記第2正電圧の印加は、前記負電圧の印加後でそれに続く前記第1正電圧の印加前に行ってもよい。
【0156】
また、前記気体センサの駆動方法において、前記第2正電圧の印加時における印加電圧の絶対値が、前記負電圧の印加時における印加電圧の絶対値よりも小さくてもよい。
【0157】
これにより、第1電極と第2電極との間に正電圧と負電圧とを繰り返し印加するという、条件判断を要しない簡素な手順で、金属酸化物層の抵抗値の読み出しとリセットとを繰り返し行うことができる気体センサの駆動方法が得られる。
【0158】
また、1つの態様に係る気体検出装置は、第1主面を有する第1電極と、第2主面を有する第2電極と、互いに対向して配置された前記第1主面と前記第2主面との間に挟まるように配置された金属酸化物層と、前記第1電極、前記金属酸化物層および前記第2電極を被覆し、少なくとも前記第2電極における前記第2主面と反対側の第3主面の一部を露出する絶縁膜とを備える気体センサと、前記気体センサの前記第1電極と前記第2電極との間に正電圧と負電圧とを繰り返し印加する電源回路と、を備える。
【0159】
また、前記電源回路は電圧パルス生成回路を有してもよい。
【0160】
また、前記気体検出装置は前記気体センサの抵抗値を測定する測定回路をさらに備えてもよい。
【0161】
これにより、第1電極と第2電極との間に正電圧と負電圧とを繰り返し印加するという、条件判断を要しない簡素な手順で、金属酸化物層の抵抗値の読み出しとリセットとを繰り返し行うことができる気体検出装置が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本開示に係る気体センサの駆動方法および気体検出装置は、例えば、水素含有ガスの漏洩の検知に広く利用できる。
【符号の説明】
【0163】
100、200 気体センサ
101 基板
102 絶縁膜
103 第1電極
104、204 金属酸化物層
105 局所領域
106 第2電極
107 絶縁膜
107a 開口
107b ビアホール
108 ビア
109 配線
204a 第1金属酸化物層
204b 第2金属酸化物層
300 マスク
408 導体膜
800、801、802 気体検出装置
810、811、812 電源回路
820、821 電圧パルス生成回路
822 定電圧生成回路
830、831 スイッチ回路
880 測定回路
890 電流測定回路
900 ガス供給系
910 密閉容器
911 水素ボンベ
912 窒素ボンベ
913、914 導入弁
915 排気弁
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12
図13A
図13B
図14
図15A
図15B
図16
図17
図18