(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】ワイヤロープ
(51)【国際特許分類】
D07B 1/06 20060101AFI20220908BHJP
D07B 1/08 20060101ALI20220908BHJP
【FI】
D07B1/06 Z
D07B1/08
(21)【出願番号】P 2021540692
(86)(22)【出願日】2020-07-28
(86)【国際出願番号】 JP2020028833
(87)【国際公開番号】W WO2021033497
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2019152317
(32)【優先日】2019-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390030731
【氏名又は名称】朝日インテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】特許業務法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】篠原 悠
【審査官】大▲わき▼ 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-201688(JP,A)
【文献】特開平04-050388(JP,A)
【文献】特開2014-237908(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2016-0056273(KR,A)
【文献】特開昭48-077151(JP,A)
【文献】実開昭60-177995(JP,U)
【文献】特開2020-190050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D07B1/00-9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに撚り合わされた複数本のストランドを備え、前記複数本のストランドのそれぞれは、複数本の素線を互いに撚り合わせた構成を有する、ワイヤロープであって、
前記ワイヤロープの周方向に沿って互いに隣り合う2本の前記ストランドにより前記ワイヤロープの外周側に形成される凹所に配置された単線を備え、
前記ワイヤロープの横断面において、前記単線の一部が、前記2本のストランドのうちの一方のストランドの仮想外接円の内側に位置している、
ワイヤロープ。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤロープであって、
前記横断面において、
前記単線に対して前記ワイヤロープの径方向の内側に、前記2本のストランドのうちの前記一方のストランドの前記素線と他方のストランドの前記素線とが隣接配置されており、
前記単線の一部は、前記周方向において前記一方のストランドの前記素線と前記他方のストランドの前記素線との間に位置している、
ワイヤロープ。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のワイヤロープであって、
前記横断面において、
前記単線は、前記2本のストランドのうちの前記一方のストランドの前記素線と他方のストランドの前記素線とのそれぞれに接触している、
ワイヤロープ。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のワイヤロープであって、
前記横断面において、前記単線の断面積は、前記ストランドを構成する前記各素線の断面積より大きい、
ワイヤロープ。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のワイヤロープであって、
前記単線の抗張力は、前記ストランドを構成する前記各素線の抗張力より低い、
ワイヤロープ。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のワイヤロープであって、
前記単線の抗張力は、前記ストランドを構成する前記各素線の抗張力の±5%の範囲内である、
ワイヤロープ。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載のワイヤロープであって、
前記仮想外接円の面積は、前記一方のストランドを構成する全ての前記素線が正円であった場合の仮想ストランドの仮想外接円の面積より小さい、
ワイヤロープ。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれか一項に記載のワイヤロープであって、
前記横断面において、前記単線の仮想外接円の面積は、前記単線が正円であった場合の単線の面積より大きい、ワイヤロープ。
【請求項9】
請求項1に記載のワイヤロープであって、
前記単線は、互いに隣り合う第1の組の前記ストランドにより前記ワイヤロープの外周側に形成される凹所に配置される第1の単線と、互いに隣り合う第2の組の前記ストランドにより前記ワイヤロープの外周側に形成される凹所に配置される第2の単線と、を含み、
前記横断面において、前記第1の単線を前記周方向で挟むように位置する一対の前記素線間の距離は、前記第2の単線を前記周方向で挟むように位置する一対の前記素線間の距離より長く、かつ、前記第1の組の前記ストランドのうち、前記第1の単線と接触している前記素線の本数は、前記第2の組の前記ストランドのうち、前記第2の単線と接触している前記素線の本数より多い、
ワイヤロープ。
【請求項10】
請求項1に記載のワイヤロープであって、
前記単線は、互いに隣り合う第1の組の前記ストランドにより前記ワイヤロープの外周側に形成される凹所に配置される第1の単線を含み、
前記横断面において前記第1の単線を前記周方向で挟むように位置する一対の前記素線間の距離は、前記横断面とは別の横断面において前記第1の単線を前記周方向で挟むように位置する一対の前記素線間の距離より長く、かつ、前記第1の組のストランドのうち、前記横断面において前記第1の単線と接触している前記素線の本数は、前記別の横断面において前記第1の単線と接触している前記素線の本数より多い、
ワイヤロープ。
【請求項11】
請求項1に記載のワイヤロープであって、
前記単線は、互いに隣り合う第1の組の前記ストランドにより前記ワイヤロープの外周側に形成される凹所に配置される第1の単線と、互いに隣り合う第2の組の前記ストランドにより前記ワイヤロープの外周側に形成される凹所に配置される第2の単線と、を含み、
前記横断面において、前記第1の単線を前記周方向で挟むように位置する一対の前記素線間の距離は、前記第2の単線を前記周方向で挟むように位置する一対の前記素線間の距離より長く、かつ、前記第1の組の前記ストランドのうち、前記第1の単線と接触している前記素線の本数は、前記第2の組の前記ストランドのうち、前記第2の単線と接触している前記素線の本数より多く、
前記横断面において前記第1の単線を前記周方向で挟むように位置する一対の前記素線間の距離は、前記横断面とは別の横断面において前記第1の単線を前記周方向で挟むように位置する一対の前記素線間の距離より長く、かつ、前記第1の組のストランドのうち、前記横断面において前記第1の単線と接触している前記素線の本数は、前記別の横断面において前記第1の単線と接触している前記素線の本数より多い、
ワイヤロープ。
【請求項12】
請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載のワイヤロープであって、
前記素線の横断面の形状は、正円と楕円と長円形とのいずれとも異なる形状である、
ワイヤロープ。
【請求項13】
請求項1から請求項12までのいずれか一項に記載のワイヤロープであって、
前記単線の横断面の形状は、正円と楕円と長円形とのいずれとも異なる形状である、
ワイヤロープ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示される技術は、ワイヤロープに関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤロープの形態として、いわゆる単撚りと、いわゆる複撚りとがある。単撚りは、複数本の単線が、互いに撚り合わされた形態であり、複撚りは、互いに撚り合わされた複数本の素線から構成される複数本のストランドが、互いに撚り合わされた形態である。単撚りのワイヤロープは、複撚りのワイヤロープに比べて、剛性が高いため、ワイヤロープの耐伸び性が高く、例えば初期伸びが小さいというメリットがある。ここで、ワイヤロープの初期伸びとは、新品のワイヤロープを使用するときの初期の段階で生じる伸びである。ワイヤロープの初期伸びが大きいとワイヤロープの操作性が低下するおそれがあるため、ワイヤロープの初期伸びは小さいことが好ましい。一方、複撚りのワイヤロープは、単撚りのワイヤロープに比べて、剛性が低いが、その分だけ、形状変化の柔軟性が高いため、例えば、ワイヤロープを、湾曲したチューブに挿入して使用する場合、チューブ内におけるワイヤロープの摩擦抵抗が小さく摺動性が高い、というメリットがある。
【0003】
そこで、従来から、複撚りのワイヤロープにおける複数本のストランドのそれぞれの間に充填ワイヤやAgストランド(以下、「充填ワイヤ等」という)を配置する技術が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。これらの従来の技術では、互いに隣り合う2本のストランドの間に充填ワイヤ等が介在することによって、ワイヤロープの充填率(ワイヤロープの横断面における隙間の少なさ)が高くなることに起因して、ワイヤロープの耐伸び性が向上し得る。すなわち、これらの従来の技術によれば、形状変化の柔軟性を確保しつつ、ワイヤロープの耐伸び性が向上することが期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-138923号公報
【文献】米国特許第6049042号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の技術では、充填ワイヤ等が互いに隣り合う2本のストランドの間に単に撚り沿わされているだけなので、充填ワイヤ等とストランドを構成する素線との間に空洞が存在するため、ワイヤロープの充填率が不十分であり、ワイヤロープの耐伸び性を十分に向上させることができない。
【0006】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0008】
(1)本明細書に開示されるワイヤロープは、互いに撚り合わされた複数本のストランドを備え、前記複数本のストランドのそれぞれは、複数本の素線を互いに撚り合わせた構成を有する、ワイヤロープであって、前記ワイヤロープの周方向に沿って互いに隣り合う2本の前記ストランドにより前記ワイヤロープの外周側に形成される凹所に配置された単線を備え、前記ワイヤロープの横断面において、前記単線の一部が、前記2本のストランドのうちの一方のストランドの仮想外接円の内側に位置している。本ワイヤロープでは、単線が、互いに隣り合う2本のストランドによりワイヤロープの外周側に形成される凹所に配置されている。そして、その単線の一部が互いに隣り合う2本のストランドのうちの一方のストランドの仮想外接円の内側に位置するように、2本のストランドの間に存在する隙間が埋められている。従って、本ワイヤロープによれば、単線が互いに隣り合う2本のストランドの間に介在する構成や、単線が互いに隣り合う2本のストランドの仮想外接円の外側に位置している構成に比べて、ワイヤロープの充填率を高めることができ、これによりワイヤロープの耐伸び性の向上を図ることができる。
【0009】
(2)上記ワイヤロープにおいて、前記横断面において、前記単線に対して前記ワイヤロープの径方向の内側に、前記2本のストランドのうちの前記一方のストランドの前記素線と他方のストランドの前記素線とが隣接配置されており、前記単線の一部は、前記周方向において前記一方のストランドの素線と前記他方のストランドの素線との間に位置している構成としてもよい。本ワイヤロープでは、単線が、互いに隣り合う2本のストランドをそれぞれ構成し、かつ、互いに隣接配置された素線同士の間に位置するように、2本のストランドの間に存在する隙間が埋められている。従って、本ワイヤロープによれば、単線が互いに隣接配置された素線同士の間に位置しない構成に比べて、ワイヤロープの充填率を高めることができ、これによりワイヤロープの耐伸び性の向上を、より効果的に図ることができる。
【0010】
(3)上記ワイヤロープにおいて、前記横断面において、前記単線は、前記2本のストランドのうちの前記一方のストランドの前記素線と他方のストランドの前記素線とのそれぞれに接触している構成としてもよい。本ワイヤロープでは、単線が、互いに隣り合う2本のストランドをそれぞれ構成する素線に接触するように、2本のストランドの間に存在する隙間が埋められている。従って、本ワイヤロープによれば、単線がストランドの構成する素線から離間した構成に比べて、ワイヤロープの充填率を高めることができ、これによりワイヤロープの耐伸び性の向上を、より効果的に図ることができる。
【0011】
(4)上記ワイヤロープにおいて、前記横断面において、前記単線の断面積は、前記ストランドを構成する前記各素線の断面積より大きい構成としてもよい。本ワイヤロープでは、単線の断面積が、ストランドの各素線の断面積より小さい構成に比べて、単線によるワイヤロープの強度を向上させることができる。
【0012】
(5)上記ワイヤロープにおいて、前記単線の抗張力は、前記ストランドを構成する前記各素線の抗張力より低い構成としてもよい。本ワイヤロープによれば、単線の抗張力がストランドを構成する素線の抗張力以上である構成に比べて、単線が2本のストランドの素線の間に食い込みやすいため、ワイヤロープの耐伸び性の向上を、より効果的に図ることができる。
【0013】
(6)上記ワイヤロープにおいて、前記単線の抗張力は、前記ストランドを構成する前記各素線の抗張力の±5%の範囲内である構成としてもよい。本ワイヤロープによれば、ワイヤロープの全体としての抗張力の均一化を図ることができる。
【0014】
(7)上記ワイヤロープにおいて、前記仮想外接円の面積は、前記一方のストランドを構成する全ての前記素線が正円であった場合(前記素線の面積と同一の面積を有する正円であった場合)の仮想ストランドの仮想外接円の面積より小さい構成としてもよい。本ワイヤロープによれば、ストランドの仮想外接円の面積が、仮想ストランドの仮想外接円と同じである構成に比べて、ストランドの素線間の隙間が小さい分だけ、ワイヤロープの耐伸び性の向上を、より効果的に図ることができる。
【0015】
(8)上記ワイヤロープにおいて、前記横断面において、前記単線の仮想外接円の面積は、前記単線が正円であった場合(前記単線の面積と同一の面積を有する正円であった場合)の単線の面積(前記正円の面積)より大きい構成としてもよい。本ワイヤロープによれば、互いに隣り合う2本のストランドによりワイヤロープの外周側に形成される凹所(隙間)を単線よって効果的に埋める(塞ぐ)ことができる。このため、各側ストランド(各々の側ストランド)内部の複数本の素線間の隙間を、これら複数本の素線によって、より効果的に埋める(塞ぐ)ことが可能になる。従って、ワイヤロープの耐伸び性の向上を、より効果的に図ることができる。
【0016】
(9)上記ワイヤロープにおいて、前記単線は、互いに隣り合う第1の組の前記ストランドにより前記ワイヤロープの外周側に形成される凹所に配置される第1の単線と、互いに隣り合う第2の組の前記ストランドにより前記ワイヤロープの外周側に形成される凹所に配置される第2の単線と、を含み、前記横断面において、前記第1の単線を前記周方向で挟むように位置する一対の素線間の距離は、前記第2の単線を前記周方向で挟むように位置する一対の素線間の距離より長く、かつ、前記第1の組の前記ストランドのうち、前記第1の単線と接触している前記素線の本数は、前記第2の組の前記ストランドのうち、前記第2の単線と接触している前記素線の本数より多い構成としてもよい。本ワイヤロープによれば、単線を挟む一対の素線の距離が長いほど、該単線に接触している素線の本数が多い。これにより、互いに隣り合う2本のストランドの間に存在する隙間が大きいほど、単線が多くの素線と接触するように、2本のストランドの間に存在する隙間が埋められている。従って、本ワイヤロープによれば、2本のストランドの間に存在する隙間の大きさに関係なく、単線に接触している素線の本数が同じである構成に比べて、ワイヤロープの充填率を高めることができ、これによりワイヤロープの耐伸び性の向上を図ることができる。
【0017】
(10)上記ワイヤロープにおいて、前記単線は、互いに隣り合う第1の組の前記ストランドにより前記ワイヤロープの外周側に形成される凹所に配置される第1の単線を含み、前記横断面において前記第1の単線を前記周方向で挟むように位置する一対の前記素線間の距離は、前記横断面とは別の横断面において前記第1の単線を前記周方向で挟むように位置する一対の前記素線間の距離より長く、かつ、前記第1の組のストランドのうち、前記横断面において前記第1の単線と接触している前記素線の本数は、前記別の横断面において前記第1の単線と接触している前記素線の本数より多い構成としてもよい。本ワイヤロープによれば、共通の第1の組のストランドのうち、第1の単線を周方向で挟むように位置する一対の素線間の距離が、ワイヤロープの一の横断面と別の横断面とで異なっており、第1の単線を挟む一対の素線間の距離が長いほど、該第1の単線に接触している素線の本数が多い。これにより、共通の第1の組のストランドと第1の単線とについて、2本のストランドの間に存在する隙間が大きくなっている横断面ほど、第1の単線が多くの素線と接触するように、2本のストランドの間に存在する隙間が埋められている。従って、本ワイヤロープによれば、2本のストランドの間に存在する隙間がワイヤロープの軸方向の位置によって異なるにもかかわらず、単線と接触している素線の本数が同じである構成に比べて、ワイヤロープの充填率を高めることができ、これによりワイヤロープの耐伸び性の向上を図ることができる。
【0018】
(11)上記ワイヤロープにおいて、前記単線は、互いに隣り合う第1の組の前記ストランドにより前記ワイヤロープの外周側に形成される凹所に配置される第1の単線と、互いに隣り合う第2の組の前記ストランドにより前記ワイヤロープの外周側に形成される凹所に配置される第2の単線と、を含み、前記横断面において、前記第1の単線を前記周方向で挟むように位置する一対の前記素線間の距離は、前記第2の単線を前記周方向で挟むように位置する一対の前記素線間の距離より長く、かつ、前記第1の組の前記ストランドのうち、前記第1の単線と接触している前記素線の本数は、前記第2の組の前記ストランドのうち、前記第2の単線と接触している前記素線の本数より多く、前記横断面において前記第1の単線を前記周方向で挟むように位置する一対の前記素線間の距離は、前記横断面とは別の横断面において前記第1の単線を前記周方向で挟むように位置する一対の前記素線間の距離より長く、かつ、前記第1の組のストランドのうち、前記横断面において前記第1の単線と接触している前記素線の本数は、前記別の横断面において前記第1の単線と接触している前記素線の本数より多い構成としてもよい。本ワイヤロープによれば、ワイヤロープの充填率を高めることができ、これによりワイヤロープの耐伸び性の向上を図ることができる。
【0019】
(12)上記ワイヤロープにおいて、前記素線の横断面の形状は、正円と楕円と長円形とのいずれとも異なる形状である構成としてもよい。本ワイヤロープによれば、素線の横断面の形状が、正円と楕円と長円形とのいずれとも異なる形状であることによって、2本のストランドの間に存在する隙間が埋められており、これにより、ワイヤロープの耐伸び性の向上を図ることができる。
【0020】
(13)上記ワイヤロープにおいて、前記単線の横断面の形状は、正円と楕円と長円形とのいずれとも異なる形状である構成としてもよい。本ワイヤロープによれば、単線の横断面の形状が、正円と楕円と長円形とのいずれとも異なる形状であることによって、2本のストランドの間に存在する隙間が埋められており、これにより、ワイヤロープの耐伸び性の向上を図ることができる。
【0021】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、ワイヤロープ、ワイヤロープの製造方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態におけるワイヤロープ10の構成を概略的に示す断面斜視図
【
図2】実施形態におけるワイヤロープ10の横断面構成を示す説明図
【
図3】ワイヤロープ10の互いに異なる横断面構成を部分的に示す説明図
【
図4】側ストランド30と仮想ストランド30Pとの横断面構成を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0023】
A.実施形態:
A-1.ワイヤロープ10の構成:
図1は、本実施形態におけるワイヤロープ10の構成を概略的に示す断面斜視図であり、
図2は、本実施形態におけるワイヤロープ10の横断面構成を示す説明図である。本実施形態のワイヤロープ10は、種々の用途(例えば、自転車のブレーキ用、内視鏡操作用)に用いられ得る。
【0024】
図1および
図2に示すように、ワイヤロープ10は、芯材20と、複数本の(より具体的には6本の)側ストランド30と、複数本(より具体的には6本の)の単線40(40A~40F)と、を備えている。
【0025】
芯材20は、互いに撚り合わされた複数本の金属素線22を有している。より具体的には、芯材20は、1本の金属素線22の周りに6本の金属素線22が撚り合わされた構成を有している。芯材20を構成する各金属素線22は、例えば、ステンレス鋼(例えばSUS304)により形成されている。
【0026】
複数本の側ストランド30は、芯材20の周りに互いに撚り合わされている。すなわち、複数本の側ストランド30は、ワイヤロープ10の周方向(ワイヤロープ10(芯材20)の中心軸Q1を中心とする仮想円の周方向)に沿って並ぶように配置されている。なお、中心軸Q1は、芯材20の中心に位置する金属素線22の仮想外接円の中心とする。また、芯材20が1本の素線により構成されている場合、中心軸Q1は、その素線の横断面の仮想外接円の中心とする。各側ストランド30は、互いに撚り合わされた複数本の金属素線32を有している。より具体的には、各側ストランド30は、1本の金属素線32の周りに6本の金属素線32が撚り合わされた構成を有している。側ストランド30を構成する各金属素線32は、例えば、ステンレス鋼(例えばSUS304)により形成されている。側ストランド30は、特許請求の範囲におけるストランドの一例であり、側ストランド30を構成する各金属素線32は、特許請求の範囲における素線の一例である。
【0027】
複数本の単線40は、芯材20の周りに、側ストランド30と共に側ストランド30と同方向に撚り合わされている。ワイヤロープ10の周方向に沿って互いに隣り合う2本の側ストランド30によりワイヤロープ10の外周側に形成される凹所に単線40が配置されている。すなわち、ワイヤロープ10は、側ストランド30と同数の単線40を備えている。また、各単線40は、1本の金属素線により構成されている。各単線40は、例えば、ステンレス鋼(例えばSUS304)により形成されている。
【0028】
また、本実施形態では、ワイヤロープ10は6本の側ストランド30を備えるため、ワイヤロープ10の周方向に沿って互いに隣り合う2本の側ストランド30の組合せは6個存在する。本実施形態では、これら6個の組合せのそれぞれについて、1本の単線40が配置されている。また、本実施形態では、芯材20がZ撚りで形成され、各側ストランド30はS撚りで形成され、芯材20の周りの複数本の側ストランド30および単線40はZ撚りで形成されているが、各線の撚り方および撚り方向は、これらに限られない。なお、ワイヤロープ10の断面構成の詳細については次述する。
【0029】
A-2.ワイヤロープ10の断面構成の詳細:
(1本の単線40と1本の側ストランド30との関係)
本実施形態のワイヤロープ10は、1本の単線40と1本の側ストランド30とに関して、次の第1の要件を満たしている。
<第1の要件>
ワイヤロープ10の少なくとも1つの横断面(ワイヤロープ10の軸方向(ワイヤロープ10の中心軸Q1に沿った方向)に直交する断面)において、少なくとも1本の単線40の一部が、ワイヤロープ10の周方向に沿って互いに隣り合う2本の側ストランド30のうち、少なくとも一方の側ストランド30の第1の仮想外接円M1の内側に位置している。
ここで、第1の仮想外接円M1は、1本の側ストランド30を構成する全ての金属素線32を囲む正円のうち、半径が最も小さく、側ストランド30(該側ストランド30を構成する金属素線32の群)に外接する正円である。第1の要件は、1本の単線40が、1本の側ストランド30を構成する金属素線32同士の間に位置するように食い込んでいることを意味する。ワイヤロープ10では、第1の要件を満たすことにより、単線40の一部が側ストランド30の第1の仮想外接円M1の内側に位置するように、2本の側ストランド30の間に存在する隙間が埋められている。従って、本実施形態によれば、単線40が側ストランド30の第1の仮想外接円M1の外側に位置している構成に比べて、ワイヤロープ10の充填率を高めることができ、これによりワイヤロープ10の耐伸び性の向上(例えば初期伸びの低減)を図ることができる。
【0030】
なお、ワイヤロープ10の少なくとも1つの横断面において、1本の単線40の一部は、ワイヤロープ10の周方向に沿って互いに隣り合う2本の側ストランド30のそれぞれの第1の仮想外接円M1の内側に位置していることが好ましい。これは、1本の単線40が、互いに隣り合う2本の側ストランド30のそれぞれについて、各側ストランド30が有する金属素線32同士の間に位置するように食い込んでいることを意味する。これにより、互いに隣り合う2本の側ストランド30の間に存在する隙間がさらに埋められるため、ワイヤロープ10の充填率をさらに高めることができ、これによりワイヤロープ10の耐伸び性の向上を、より効果的に図ることができる。
【0031】
本実施形態のワイヤロープ10は、1本の単線40と1本の側ストランド30とに関して、さらに、次の第1の要件Aを満たしていることが好ましい。
<第1の要件A>
ワイヤロープ10の少なくとも1つの横断面において、少なくとも1本の単線40の一部は、1本の側ストランド30を構成する複数本の金属素線32のうち、該単線40の最も近くに位置する2本の金属素線32の両方に外接する第1の仮想外接線B1より、該側ストランド30の中心軸Q2側に位置している。
ここで、第1の仮想外接線B1は、単線40の最も近くに位置する2本の金属素線32の両方に跨がるように接する2本の仮想直線のうち、該単線40側に位置する仮想である。第1の要件Aは、上述した第1の要件に比べて、1本の側ストランド30に対する、1本の単線40の食い込み度合いが大きいことを意味する。ワイヤロープ10では、第1の要件Aを満たすことにより、互いに隣り合う2本の側ストランド30の間に存在する隙間がさらに埋められるため、ワイヤロープ10の充填率をさらに高めることができ、これによりワイヤロープ10の耐伸び性の向上を、より効果的に図ることができる。
【0032】
本実施形態のワイヤロープ10は、1本の単線40と1本の側ストランド30とに関して、さらに、次の第1の要件Bを満たしていることが好ましい。
<第1の要件B>
ワイヤロープ10の少なくとも1つの横断面において、少なくとも1本の単線40は、1本の側ストランド30を構成する複数本の金属素線32のうち、該単線40の最も近くに位置する2本の金属素線32の少なくとも一方に接触している。
ワイヤロープ10では、第1の要件Bを満たすことにより、互いに隣り合う2本の側ストランド30の間に存在する隙間がさらに埋められるため、ワイヤロープ10の充填率をさらに高めることができ、これによりワイヤロープ10の耐伸び性の向上を、より効果的に図ることができる。また、単線40と側ストランド30とが接触していることにより、単線40と側ストランド30との隙間からワイヤロープ10の内部に液体が浸入することが抑制されるため、ワイヤロープ10の耐浸水性を向上させることができる。また、単線40と側ストランド30とが接触していることにより、ワイヤロープ10の変形に伴う単線40と側ストランド30との、ワイヤロープ10の軸方向の位置ずれを抑制することができる。
【0033】
なお、1本の単線40は、該単線40の最も近くに位置する2本の金属素線32の両方に接触していることが好ましい。これにより、上述したワイヤロープ10の耐伸び性の向上、ワイヤロープ10の耐浸水性の向上や、単線40と側ストランド30との位置ずれの抑制を、より効果的に図ることができる。また、単線40は、金属素線32に点接触していてもよいが、金属素線32に互いに面接触していることが好ましい。ここで、本明細書において、面接触とは、ワイヤロープ10の横断面において、単線40が有する略直線状部分と素線(金属素線32等)が有する略直線状部分とが、部分的または全体的に線接触していることをいう。単線40と側ストランド30(金属素線32)とが面接触していることにより、互いに隣り合う2本の側ストランド30の間に存在する隙間がさらに埋められるため、上述したワイヤロープ10の耐伸び性の向上を、より効果的に得られると共に、単線40と側ストランド30(金属素線32)との接触面積が大きいため、ワイヤロープ10の耐浸水性の向上や単線40と側ストランド30との位置ずれの抑制を、より効果的に図ることができる。
【0034】
図2に示す例では、6本の単線40(40A~40F)のそれぞれの一部は、互いに隣り合う2本の側ストランド30のそれぞれの第1の仮想外接円M1の内側に位置しており、第1の要件を満たしている。詳細には、6本の単線40(40A~40F)のそれぞれの一部は、互いに隣り合う2本の側ストランド30のうち、一方の側ストランドの第1の仮想外接円M1の内側に位置しており、該単線40の別の一部は、互いに隣り合う2本の側ストランド30のうち、他方の側ストランド30の第1の仮想外接円M1の内側に位置しており、第1の要件を満たしている。また、少なくとも、単線40B~40Fは、上記第1の要件Aおよび第1の要件Bを満たしている。例えば、単線40Fの一部は、1本の側ストランド30における、単線40Fの最も近くに位置する2本の金属素線32(
図2中の金属素線32E,32F)の両方に外接する第1の仮想外接線B1より、該側ストランド30の中心軸Q2側に位置している(後述の
図3も参照)。単線40Fの最も近くに位置する2本の金属素線32(
図2中の金属素線32E,32F)は、単線40Fの隣に、他の素線を介さずに配置された2本の金属素線32(
図2中の金属素線32E,32F)である。なお、ワイヤロープ10が備える複数本の単線40のうち、50%以上の数の単線40が第1の要件(さらには第1の要件A、第1の要件B)を満たすことが好ましく、80%以上の数の単線40が第1の要件(さらには第1の要件A、第1の要件B)を満たすことが好ましい。
【0035】
(1本の単線40と2本の側ストランド30との関係)
本実施形態のワイヤロープ10は、1本の単線40と2本の側ストランド30とに関して、次の第2の要件を満たしていることが好ましい。
<第2の要件>
ワイヤロープ10の少なくとも1つの横断面において、1本の単線40に対してワイヤロープ10の径方向(ワイヤロープ10の中心軸Q1を中心とする円の半径方向)の内側に、1本の側ストランド30を構成する金属素線32(以下、「第1の金属素線32X」という)と別の1本の側ストランド30を構成する金属素線32(以下、「第2の金属素線32Y」という)とが隣接配置されている。また、単線40の一部は、ワイヤロープ10の周方向において第1の金属素線32Xと第2の金属素線32Yとの間に位置している。
ここで、単線40の一部が第1の金属素線32Xと第2の金属素線32Yとの間に位置しているとは、ワイヤロープ10の中心軸Q1を中心とし、第1の金属素線32Xと第2の金属素線32Yとの両方を囲み、かつ、第1の金属素線32Xと第2の金属素線32Yとの少なくとも一方に外接する第2の仮想外接円M2の内側に、単線40の一部が位置していることをいう(後述の
図3も参照)。ワイヤロープ10では、第2の要件を満たすことにより、単線40が、第1の金属素線32Xと第2の金属素線32Yとの間に位置するように食い込んでおり、2本の側ストランド30の間に存在する隙間が埋められている。従って、本実施形態によれば、単線40が第1の金属素線32Xと第2の金属素線32Yとの間に位置しない構成に比べて、ワイヤロープ10の充填率を高めることができ、これによりワイヤロープ10の耐伸び性の向上を、より効果的に図ることができる。
【0036】
本実施形態のワイヤロープ10は、1本の単線40と2本の側ストランド30とに関して、さらに、次の第2の要件Aを満たしていることが好ましい。
<第2の要件A>
ワイヤロープ10の少なくとも1つの横断面において、少なくとも1本の単線40の一部は、第1の金属素線32Xと第2の金属素線32Yとの両方に外接する第2の仮想外接線B2より、ワイヤロープ10の中心軸Q1側に位置している。
ここで、第2の仮想外接線B2は、第1の金属素線32Xと第2の金属素線32Yとの両方に跨がるように接する2本の仮想直線のうち、該単線40側に位置する仮想直線である。第2の要件Aは、上述した第2の要件に比べて、第1の金属素線32Xと第2の金属素線32Yとの間に対する、1本の単線40の食い込み度合いが大きいことを意味する。ワイヤロープ10では、第2の要件Aを満たすことにより、互いに隣り合う2本の側ストランド30の間に存在する隙間がさらに埋められるため、ワイヤロープ10の充填率をさらに高めることができ、これによりワイヤロープ10の耐伸び性の向上を、より効果的に図ることができる。
【0037】
本実施形態のワイヤロープ10は、1本の単線40と2本の側ストランド30とに関して、さらに、次の第2の要件Bを満たしていることが好ましい。
<第2の要件B>
ワイヤロープ10の少なくとも1つの横断面において、少なくとも1本の単線40は、第1の金属素線32Xと第2の金属素線32Yとの少なくとも一方に接触している。
ワイヤロープ10では、第2の要件Bを満たすことにより、互いに隣り合う2本の側ストランド30の間に存在する隙間がさらに埋められるため、ワイヤロープ10の充填率をさらに高めることができ、これによりワイヤロープ10の耐伸び性の向上を、より効果的に図ることができる。また、単線40と側ストランド30(金属素線32X,32Y)とが接触していることにより、単線40と側ストランド30との隙間からワイヤロープ10の内部に液体が浸入することが抑制されるため、ワイヤロープ10の耐浸水性を向上させることができる。また、単線40と側ストランド30とが接触していることにより、ワイヤロープ10の変形に伴う単線40と側ストランド30との、ワイヤロープ10の軸方向の位置ずれを抑制することができる。
【0038】
なお、1本の単線40は、第1の金属素線32Xと第2の金属素線32Yとの両方に接触していることが好ましい。これにより、上述したワイヤロープ10の耐伸び性の向上、ワイヤロープ10の耐浸水性の向上や、単線40と側ストランド30との位置ずれの抑制を、より効果的に図ることができる。また、単線40は、第1の金属素線32Xや第2の金属素線32Yに点接触していてもよいが、第1の金属素線32Xや第2の金属素線32Yに互いに面接触していることが好ましい。単線40と金属素線32X,32Yとが面接触していることにより、互いに隣り合う2本の側ストランド30の間に存在する隙間がさらに埋められるため、上述したワイヤロープ10の耐伸び性の向上を、より効果的に図ることができると共に、単線40と側ストランド30(金属素線32X,32Y)との接触面積が大きいため、ワイヤロープ10の耐浸水性の向上や単線40と側ストランド30との位置ずれの抑制を、より効果的に図ることができる。
【0039】
本実施形態のワイヤロープ10は、1本の単線40と2本の側ストランド30とに関して、さらに、次の第2の要件Cを満たしていることが好ましい。
<第2の要件C>
ワイヤロープ10の少なくとも1つの横断面において、第1の組の側ストランド30において第1の単線40を周方向で挟むように位置する一対の金属素線32間の距離L1は、第2の組の側ストランド30において第2の単線40を周方向で挟むように位置する一対の金属素線32間の距離L2より長い。また、第1の組の側ストランド30のうち、第1の単線40と接触している金属素線32の本数は、第2の組の側ストランド30のうち、第2の単線40と接触している金属素線32の本数より多い。ワイヤロープ10では、第2の要件Cを満たすことにより、単線40を挟む一対の金属素線32の距離が長いほど、該単線40に接触している金属素線32の本数が多い。これにより、互いに隣り合う2本の側ストランド30の間に存在する隙間が大きいほど、単線40が多くの金属素線32と接触するように、2本の側ストランド30の間に存在する隙間が埋められている。従って、本実施形態によれば、2本の側ストランド30の間に存在する隙間の大きさに関係なく、単線40に接触している金属素線32の本数が同じである構成に比べて、ワイヤロープ10の充填率を高めることができ、これによりワイヤロープ10の耐伸び性の向上を図ることができる。
【0040】
本実施形態のワイヤロープ10は、1本の単線40と2本の側ストランド30とに関して、さらに、次の第2の要件Dを満たしていることが好ましい。
<第2の要件D>
ワイヤロープの第1の横断面において、互いに隣り合う1組の側ストランド30のうち、単線40を周方向で挟むように位置する一対の金属素線32間の距離は、ワイヤロープ10の第2の横断面(第1の横断面とはワイヤロープ10の軸方向において異なる位置での横断面)において、当該1組の側ストランド30のうち、単線40を周方向で挟むように位置する一対の金属素線32間の距離より長い。また、第1の横断面において、1組の側ストランド30のうち、単線40と接触している金属素線32の本数は、第2の横断面において、1組の側ストランド30のうち、単線40と接触している金属素線32の本数より多い。ワイヤロープ10では、第2の要件Dを満たすことにより、共通の1組の側ストランド30のうち、単線40を周方向で挟むように位置する一対の金属素線32間の距離が、ワイヤロープ10の第1の横断面(請求項9の「前記横断面」の一例に相当する)と第2の横断面(請求項9の「前記横断面とは別の横断面」の一例に相当する)とで異なっており、単線40を挟む一対の金属素線32間の距離が長いほど、該単線40に接触している金属素線32の本数が多い。これにより、共通の2本の側ストランド30と単線40とについて、2本の側ストランド30の間に存在する隙間が大きくなっている横断面ほど、単線40が多くの金属素線32と接触するように、2本の側ストランド30の間に存在する隙間が埋められている。従って、本実施形態によれば、2本の側ストランド30の間に存在する隙間がワイヤロープ10の軸方向の位置によって異なるにもかかわらず、単線40と接触している金属素線32の本数が同じである構成に比べて、ワイヤロープ10の充填率を高めることができ、これによりワイヤロープ10の耐伸び性の向上を図ることができる。
【0041】
図2に示す例では、少なくとも、単線40B,40D,40Fのそれぞれの一部は、ワイヤロープ10の周方向において第1の金属素線32Xと第2の金属素線32Yとの間に位置しており、第2の要件を満たしている。また、少なくとも、単線40B,40D,40Fは、上記第2の要件Aおよび第2の要件Bを満たしている。例えば、単線40Bの一部は、第1の金属素線32Xと第2の金属素線32Yとの両方に外接する第2の仮想外接線B2より、ワイヤロープ10の中心軸Q1側に位置している(後述の
図3も参照)。
【0042】
また、第2の要件(第2の要件A)を満たす単線40(40B,40D,40F)と、第2の要件(第2の要件A)を満たさない単線40(40A,40C,40E)とが、ワイヤロープ10の周方向に沿って交互に並んでいる。これにより、第2の要件(第2の要件A)を満たす単線40と第2の要件(第2の要件A)を満たさない単線40とが偏在することに起因してワイヤロープ10の強度に偏りが生じることを抑制することができる。なお、ワイヤロープ10が備える複数本の単線40のうち、30%以上の数の単線40が第2の要件(さらには第2の要件A、第2の要件B)を満たすことが好ましく、50%以上の数の単線40が第2の要件(さらには第2の要件A、第2の要件B)を満たすことが好ましい。
【0043】
また、
図2に示す例では、第1の単線40Bを挟むように位置する一対の金属素線32間の距離L1は、第2の単線40Cを挟むように位置する一対の金属素線32間の距離L2より長い。また、第1の単線40Bと接触している金属素線32の本数は、第2の単線40Cと接触している金属素線32の本数より多い。なお、例えば、単線40Fと単線40Aや、単線40Dと単線40Eとについても同様の関係が成り立っている。このようにして、ワイヤロープ10では、複数本の側ストランド30が周方向に不均一に並んでおり、各組の側ストランド30の隙間の大きさも不均一であるが、その不均一な隙間を埋めるように、各組の側ストランド30の隙間に応じた形状の単線40が食い込むように位置している。その結果、ワイヤロープ10の充填率を高めることができ、これによりワイヤロープ10の耐伸び性の向上を図ることができる。
【0044】
図3は、ワイヤロープ10の互いに異なる横断面構成を部分的に示す説明図である。
図3(A)には、第1の横断面(
図2の横断面と同じ)における単線40B付近の横断面構成が示されており、
図3(B)には、第2の横断面(第1の断面とは、ワイヤロープ10の軸方向において異なる位置での横断面)における単線40B付近の横断面構成が示されている。
図3に示すように、第1の横断面において単線40Bを周方向で挟むように位置する一対の金属素線32間の距離L1は、第2の横断面において、単線40Bを周方向で挟むように位置する一対の金属素線32間の距離L3より長い。また、第1の横断面において、単線40Bと接触している金属素線32の本数は、第2の横断面において、単線40Bと接触している金属素線32の本数より多い。これにより、2本の側ストランド30の間に存在する隙間がワイヤロープ10の軸方向の位置によって異なるにもかかわらず、単線40Bと接触している金属素線32の本数が同じである構成に比べて、ワイヤロープ10の充填率を高めることができ、これによりワイヤロープ10の耐伸び性の向上を図ることができる。
【0045】
(単線40と側ストランド30を構成する金属素線32との構造の関係)
本実施形態のワイヤロープ10は、単線40と側ストランド30を構成する金属素線32との構造に関して、次の第3の要件を満たしていることが好ましい。
<第3の要件>
ワイヤロープ10の少なくとも1つの横断面において、1本の単線40の断面積は、1本の側ストランド30を構成する各金属素線32の断面積より大きい。
ワイヤロープ10では、第3の要件を満たすことにより、単線40の断面積が、側ストランド30を構成する金属素線32の断面積より小さい構成に比べて、単線40によるワイヤロープ10の強度を向上させることができる。また、例えばワイヤロープ10の形成時やワイヤロープ10の屈曲時に、単線40が金属素線32同士の間により食い込みやすく、ワイヤロープ10の充填率を高めることができ、これによりワイヤロープ10の耐伸び性の向上を、より効果的に図ることができる。
【0046】
なお、本実施形態では、1本の単線40の断面積は、2本分の金属素線32の断面積の合計値以下であることが好ましい。また、1本の単線40の仮想外接円の直径は、1本の金属素線32の仮想外接円の直径より大きいことが好ましい。但し、1本の単線40の外接円の直径は、1本の側ストランド30の第1の仮想外接円M1の直径より小さいことが好ましい。これにより、単線40の太さに起因してワイヤロープ10の柔軟性が低下することを抑制することができる。また、1本の金属素線32の仮想外接円の直径の2倍以下であることが好ましく、1本の金属素線32の仮想外接円の直径の1.5倍以下であることが、より好ましい。
【0047】
本実施形態のワイヤロープ10は、単線40と側ストランド30を構成する金属素線32との構造に関して、次の第3の要件Aを満たしていることが好ましい。
<第3の要件A>
少なくとも1本の単線40の抗張力(N/mm2)は、側ストランド30を構成する各金属素線32の抗張力と略同一である。
すなわち、単線40の硬度は、側ストランド30を構成する各金属素線32の硬度と略同一である。具体的には、単線40と金属素線32とのそれぞれの抗張力は、例えば、1500N/mm2以上、2500N/mm2以下である。単線40と金属素線32との抗張力が略同一であることは、両者の抗張力の差が、±5%以下であることをいう。なお、単線40と金属素線32とのそれぞれの抗張力は、例えば、1500N/mm2以上、2000N/N/mm2以下であってもよい。
【0048】
図2に示す例では、6本の単線40(40A~40F)のいずれの断面積も、1本の側ストランド30を構成する各金属素線32の断面積より大きく、第3の要件を満たしている。また、6本の単線40(40A~40F)のいずれの抗張力も、側ストランド30(金属素線32)の抗張力と略同一である。このため、単線40と金属素線32とは、互いに変形し、互いに隣り合う2本の側ストランド30の間に存在する隙間に食い込んでいることが分かる。
【0049】
(複数本の単線40の関係)
図2に示すように、複数本の側ストランド30は、いずれも凹凸を有する形状(正円と楕円と長円形とのいずれとも異なる形状)となっており、かつ、形状が互いに異なる。従って、互いに隣り合う2本の側ストランド30の間の隙間(凹所)の形状も互いに異なり、それぞれの隙間には、該隙間に対応した形状(正円と楕円と長円形とのいずれとも異なる形状)に変形した単線40が2本の側ストランド30の間に食い込むように配置されている。このように、本実施形態のワイヤロープ10では、複数本の側ストランド30が不均一に配置されており、かつ、複数本の側ストランド30の形状が互いに異なるため、複数本の単線40も、不均一に配置され、かつ、形状が互いに異なる。以下、具体的に説明する。
【0050】
本実施形態のワイヤロープ10は、複数本の単線40に関して、次の第4の要件を満たしていることが好ましい。
<第4の要件>
ワイヤロープ10の少なくとも1つの横断面において、少なくとも2本の単線40は、該単線40の第3の仮想外接円M3の直径が互いに異なっている。
<第4の要件A>
ワイヤロープ10の少なくとも1つの横断面において、1本の側ストランド30を挟んで位置する一対の単線40の周方向の距離(一対の単線40のワイヤロープ10の周方向の最短距離)と、別の1本の側ストランド30を挟んで位置する一対の単線40の周方向の距離とは異なっている。
【0051】
図2に示す例では、6本の単線40(40A~40F)の断面形状は互いに異なっている。また、少なくとも、単線40Aと単線40Cとは、第3の仮想外接円M3の直径が互いに異なっている。また、6本の単線40(40A~40F)の周方向の距離は互いにばらついている。このように、ワイヤロープ10では、不均一な形状および位置に配置された複数本の側ストランド30の間に、不均一な形状の単線40が食い込むように配置されていることにより、ワイヤロープ10の充填率を高めることができ、これによりワイヤロープ10の耐伸び性の向上を図ることができる。
【0052】
(各側ストランド30の関係)
本実施形態のワイヤロープ10は、側ストランド30に関して、次の第5の要件を満たしていることが好ましい。
<第5の要件>
ワイヤロープ10の周方向において単線40が間に介在する2本の側ストランド30の少なくとも一方の側ストランド30の第1の仮想外接円M1の面積は、該側ストランド30を構成する全ての金属素線32が正円であった場合の仮想ストランド30Pの第4の仮想外接円M4の面積より小さい。
ワイヤロープ10では、第5の要件を満たすことにより、側ストランド30の第1の仮想外接円M1の面積が、仮想ストランド30Pの第4の仮想外接円M4と同じである構成に比べて、側ストランド30の金属素線32の同士の間の隙間が狭い分だけ、ワイヤロープ10の耐伸び性の向上を、より効果的に図ることができる。
【0053】
なお、本実施形態では、複数本の側ストランド30が、ワイヤロープ10の周方向に沿って互いに接触しつつ全周に亘って配置されている。また、全ての側ストランド30は、芯材20に接触している。なお、側ストランド30同士の接触は、点接触でもよいが、面接触であることが好ましい。また、側ストランド30と芯材20との接触は、点接触でもよいが、面接触であることが好ましい。
【0054】
図4は、側ストランド30と仮想ストランド30Pとの横断面構成を示す説明図である。
図4(A)には、仮想ストランド30Pの横断面構成が示されており、
図4(B)には、側ストランド30の横断面構成が示されている。後述するように、側ストランド30は、ワイヤロープ10の製造工程において、加工前のワイヤロープ10に対して、側ストランド30を異形にするためのスウェージング加工や異形ダイスによる伸線加工といった二次加工を行うことにより、仮想ストランド30Pにおける各金属素線32Pがつぶれるように変形したものである。
図3に示すように、側ストランド30の第1の仮想外接円M1の面積(半径r1)は、仮想ストランド30Pの第4の仮想外接円M4の面積(半径r4)より小さく、第5の要件を満たす。
【0055】
図2に示す単線40の第3の仮想外接円M3の面積は、単線40が正円であった場合(単線40の面積と同一の面積を有する正円であった場合)の単線の面積(前記正円の面積)より大きい構成としてもよい。このような構成により、互いに隣り合う2本の側ストランド30によりワイヤロープ10の外周側に形成される凹所(隙間)を単線40よって効果的に埋める(塞ぐ)ことができる。このため、各側ストランド(各々の側ストランド)30内部の複数本の金属素線32間の隙間を、これら複数本の金属素線32によって、より効果的に埋める(塞ぐ)ことが可能になる。従って、ワイヤロープ10の耐伸び性の向上を、より効果的に図ることができる。また、単線40と側ストランド30との隙間、あるいは側ストランド30の隣接する金属素線32の隙間からワイヤロープ10の芯材20に液体が侵入することが抑制されるため、ワイヤロープ10の耐久性を向上させることができる。
【0056】
(単線40と芯材20との関係)
図2に示すように、ワイヤロープ10の少なくとも1つの横断面において、各単線40は、芯材20から離間している。具体的には、各単線40は、芯材20の第5の仮想外接円M5の外側に位置している。また、各単線40は、互いに隣り合う2本の側ストランド30の接触位置よりも、ワイヤロープ10の径方向の外側に位置している。また、芯材20を構成する1本の金属素線22は、該隣り合う2本の側ストランド30の接触位置を介して、1本の単線40と対向するように配置されている。このような構成により、単線40と側ストランド30との隙間からワイヤロープ10の芯材20に液体が浸入することが抑制されるため、ワイヤロープ10の耐浸水性を向上させることができる。
【0057】
なお、以上の各要件を満たすワイヤロープ10は、次のように製造することができる。ワイヤロープ10の周りに、複数本の側ストランド30と共に、複数本のワイヤロープ10を撚り合わせる。これにより、ワイヤロープ10の周りに、複数本の側ストランド30が並ぶように配置され、かつ、互いに隣り合う2本の側ストランド30によりワイヤロープ10の外周側に形成される凹所に単線40が配置された撚り線が作製される。この撚り線に対して、側ストランド30および単線40を異形にするためのスウェージング加工や異形ダイスによる伸線加工といった二次加工を行う。これにより、芯材20と側ストランド30と単線40とがワイヤロープ10の径方向の内側に向けて潰され、その結果、上述したワイヤロープ10が作製される。
【0058】
A-3.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態に係るワイヤロープ10では、複撚り線における複数本の側ストランド30のそれぞれの間に単線40が配置されている。そして、ワイヤロープ10の少なくとも1つの横断面において、少なくとも1本の単線40の一部が、ワイヤロープ10の周方向に沿って互いに隣り合う2本の側ストランド30の少なくとも一方の第1の仮想外接円M1の内側に位置している(上記第1の要件)。これにより、ワイヤロープ10の形状変化の柔軟性を確保しつつ、ワイヤロープ10の耐伸び性を向上させることができる。
【0059】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0060】
上記実施形態におけるワイヤロープ10の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態のワイヤロープ10における側ストランド30の本数や、側ストランド30や芯材20を構成する素線の本数や層数は、種々変形可能である。例えば、側ストランド30の本数を3本以上としてもよい。また、上記実施形態のワイヤロープ10は、芯材20を備えているが、芯材20を備えずに、複数本の側ストランド30と複数本の単線40とが互いに撚り合わされた構成であってもよい。また、上記実施形態では、芯材20は、複数本の素線がより合わされた撚り線であったが、1本の素線により構成された単線であってもよい。
【0061】
また、ワイヤロープ10は、上述した第1の要件A,B、第2の要件、第2の要件A~D、第3の要件、第3の要件A、第4の要件、第4の要件A、第5の要件のうちの少なくとも1つを満たさなくても良い。例えば、単線40の抗張力は、側ストランド30を構成する各金属素線32の抗張力より低くてもよいし、高くてもよい。単線40の抗張力が金属素線32の抗張力より低くければ、単線40の抗張力が金属素線32の抗張力以上である構成に比べて、単線40が2本の側ストランド30の金属素線32の間に食い込みやすいため、ワイヤロープ10の耐伸び性の向上を、より効果的に図ることができる。
【0062】
上記実施形態のワイヤロープ10における各部材の材料は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、芯材20、側ストランド30を構成する金属素線22,32や単線40は、ステンレス鋼以外の金属により形成されたものでもよいし、金属以外の材料(例えば樹脂)により形成されたものでもよい。
【符号の説明】
【0063】
10:ワイヤロープ 20:芯材 22,32(32E,32F,32P):金属素線 30:側ストランド 30P:仮想ストランド 32X:第1の金属素線 32Y:第2の金属素線 40(40A~40F):単線 B1:第1の仮想外接線 B2:第2の仮想外接線 M1:第1の仮想外接円 M2:第2の仮想外接円 M3:第3の仮想外接円 M4:第4の仮想外接円 M5:第5の仮想外接円 Q1:中心軸 Q2:中心軸