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特許7138256炭酸カルシウムの製造方法および二酸化炭素の固定化方法
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  • 特許-炭酸カルシウムの製造方法および二酸化炭素の固定化方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】炭酸カルシウムの製造方法および二酸化炭素の固定化方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 11/18 20060101AFI20220908BHJP
【FI】
C01F11/18 B
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022031457
(22)【出願日】2022-03-02
【審査請求日】2022-03-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000228660
【氏名又は名称】日本コンクリート工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092565
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100112449
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100062764
【弁理士】
【氏名又は名称】樺澤 襄
(72)【発明者】
【氏名】早川 康之
(72)【発明者】
【氏名】八木 利之
(72)【発明者】
【氏名】吉田 浩之
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 猛
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2018-0137206(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0108063(KR,A)
【文献】特開2018-153712(JP,A)
【文献】特開2015-150497(JP,A)
【文献】特開2016-077937(JP,A)
【文献】特開平09-168775(JP,A)
【文献】特開2014-189416(JP,A)
【文献】特開2009-279552(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水から水酸化マグネシウムを製造した後の廃海水に対して、アルカリ剤を加えてpを11より大きく13以下に調整し、二酸化炭素を含むガスを、前記アルカリ剤を加えた前記廃海水のpHが大きいほど長くなるように予め設定された時間、前記廃海水のカルシウム成分に反応させることで炭酸カルシウムを製造する
ことを特徴とする炭酸カルシウムの製造方法
【請求項2】
アルカリ剤は、石灰残渣を含む
ことを特徴とする請求項記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項3】
アルカリ剤は、コンクリートスラッジ水を含む
ことを特徴とする請求項1または2記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項4】
ガスは、火力発電所からの排ガスである
ことを特徴とする請求項1ないしいずれか一記載の炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項5】
海水から水酸化マグネシウムを製造した後の廃海水に対して、アルカリ剤を加えてpを11より大きく13以下に調整し、二酸化炭素を含むガスを、前記アルカリ剤を加えた前記廃海水のpHが大きいほど長くなるように予め設定された時間、前記廃海水に反応させる
ことを特徴とする二酸化炭素の固定化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海水を利用した炭酸カルシウムの製造方法および二酸化炭素の固定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
海水には、マグネシウム成分およびカルシウム成分が豊富に含まれている。例えば、マグネシウムは、約1200ppm含まれ、カルシウムは約400ppm含まれる。従来、海水に対し、ドロマイトなどを反応させることで水酸化マグネシウムを製造し、マグネシウムを分離回収する方法が知られている(例えば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平1-37415号公報
【文献】特開平2-275715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような方法によってマグネシウムを分離した後の廃海水には、カルシウム成分が豊富に残留しているため、この残留したカルシウム成分を有効に利活用することが求められる。また、近年、地球温暖化などの問題に伴い、二酸化炭素の排出量の削減が求められることから、廃海水を利用して二酸化炭素を効率よく固定することが求められている。
【0005】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、廃海水を利用して炭酸カルシウムを安価で容易に製造できる炭酸カルシウムの製造方法を提供することを第1の目的とし、廃海水を利用して二酸化炭素を安価で容易に、かつ効率よく固定できる二酸化炭素の固定化方法を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の炭酸カルシウムの製造方法は、海水から水酸化マグネシウムを製造した後の廃海水に対して、アルカリ剤を加えてpを11より大きく13以下に調整し、二酸化炭素を含むガスを、前記アルカリ剤を加えた前記廃海水のpHが大きいほど長くなるように予め設定された時間、前記廃海水のカルシウム成分に反応させることで炭酸カルシウムを製造するものである。
【0007】
求項記載の炭酸カルシウムの製造方法は、請求項記載の炭酸カルシウムの製造方法において、アルカリ剤は、石灰残渣を含むものである。
【0008】
請求項記載の炭酸カルシウムの製造方法は、請求項1または2記載の炭酸カルシウムの製造方法において、アルカリ剤は、コンクリートスラッジ水を含むものである。
【0009】
請求項記載の炭酸カルシウムの製造方法は、請求項1ないしいずれか一記載の炭酸カルシウムの製造方法において、ガスは、火力発電所からの排ガスであるものである。
【0010】
請求項記載の二酸化炭素の固定化方法は、海水から水酸化マグネシウムを製造した後の廃海水に対して、アルカリ剤を加えてpを11より大きく13以下に調整し、二酸化炭素を含むガスを、前記アルカリ剤を加えた前記廃海水のpHが大きいほど長くなるように予め設定された時間、前記廃海水に反応させるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、廃海水を利用して炭酸カルシウムを安価で容易に製造できる。また、本発明によれば、廃海水を利用して二酸化炭素を安価で容易に、かつ効率よく固定化できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施の形態の炭酸カルシウムの製造方法および二酸化炭素の固定化方法に用いる製造装置を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
図1において、1は製造装置であって、この製造装置1は、炭酸カルシウム(CaCO)2を廃海水3から製造する、炭酸カルシウム2の製造装置である。
【0015】
廃海水3は、海水から水酸化マグネシウム(Mg(OH))を製造した後のものである。この水酸化マグネシウムの製造の際には、海水に対しドロマイトあるいは石灰を反応させる。そのため、反応後の廃海水3には、カルシウム成分が卓越している。廃海水3の主成分の一例を表1に示す。
【0016】
【表1】
【0017】
当該廃海水3は、例えば、水酸化マグネシウム製造工場から排出される。なお、製造された水酸化マグネシウムは、例えば強酸使用時の中和剤として用いられる。
【0018】
製造装置1は、廃海水供給手段4により供給された廃海水3が貯留される反応槽5を備える。廃海水供給手段4は、配管、および、バルブなどを有する。
【0019】
また、反応槽5には、廃海水3のpHを調整するpH調整剤であるアルカリ剤6が、アルカリ剤供給手段7により供給される。アルカリ剤供給手段7は、配管、および、バルブなどを有する。
【0020】
アルカリ剤6は、廃海水3のpHを所定の範囲、例えば11より大きく13以下、好ましくは12~13の範囲に上昇させる。廃海水3のpHが11以下では、炭酸カルシウム2の製造時の反応効率が低下する。アルカリ剤6としては、石灰残渣、コンクリートスラッジ水、水酸化ナトリウムなどの薬品、生コンプラントの洗浄廃水、処理水、残コン、廃コン、あるいはそれらの任意の組み合わせなどが挙げられる。
【0021】
石灰残渣は、消和残渣と反応残渣との2種類があり、好ましくは反応残渣が用いられる。
【0022】
【表2】
【0023】
石灰残渣は、好ましくは、上記の水酸化マグネシウム製造工場から排出されるものが用いられる。
【0024】
コンクリートスラッジ水は、セメント固形分とコンクリート混練時に使用した加水とからなる。すなわち、コンクリートスラッジ水は、コンクリート二次製品の製造時に排出される排出物である。コンクリートスラッジ水のpHは、11より大きく13までが好ましい。コンクリートスラッジ水には、モルタルスラッジ水、セメントスラッジ水を含む。本実施の形態では、コンクリートスラッジ水として、セメントスラッジ水が好適に用いられる。
【0025】
反応槽5には、アルカリ剤6が添加された廃海水3に対して、二酸化炭素を含むガス8がガス供給手段9により供給される。ガス8は、二酸化炭素を6%~15%含む任意のものを利用できるが、例えばボイラー排ガス、あるいは、火力発電所からの排ガスなどが好適に用いられる。本実施の形態において、火力発電所とは、石油、石炭、液化天然ガス(LNG)などの化石燃料、あるいはバイオマスなど、被燃焼物を燃焼させることで二酸化炭素を含む排ガスを生じる、燃焼系の発電所をいう。好ましくは石炭火力発電所あるいはバイオマス発電所からの排ガスが用いられる。ガス8として利用される石炭火力発電所からの排ガスの一例を表3に示す。
【0026】
【表3】
【0027】
また、反応槽5には、沈澱槽10が接続されている。本実施の形態において、沈澱槽10は、例えば流れ沈澱槽である。沈澱槽10には、反応槽5においてガス8を所定時間反応させた後の廃海水3が導入手段11により導入され、その反応過程で生成される炭酸カルシウム2が澱物として分離されるようになっている。導入手段11は、配管、および、バルブなどを有する。沈澱槽10には、炭酸カルシウム2を排出する第一排出部12が底部などに接続されている。第一排出部12は、配管、および、バルブなどを有する。
【0028】
また、沈澱槽10からは、上記反応過程で生成される少量の炭酸マグネシウム(MgCO)13が流れ排出されるようになっている。つまり、沈澱槽10には、炭酸マグネシウム13を排出する第二排出部14が第一排出部12より上方にて、沈澱槽10の上側の側部などに接続されている。第二排出部14は、配管、および、バルブなどを有する。
【0029】
次に、本実施の形態の炭酸カルシウムの製造方法(二酸化炭素の固定化方法)について説明する。
【0030】
まず、所定量、例えば1000Lの廃海水3を廃海水供給手段4から反応槽5に投入する。このとき、アルカリ剤供給手段7からアルカリ剤6を反応槽5に投入する。アルカリ剤6としては、例えば石灰残渣10kg/1000Lを投入する。つまり、石灰残渣の添加率は1%とする。さらに、アルカリ剤6として、生コン工場からのコンクリートスラッジ水を10kg/1000L程度投入する。つまり、コンクリートスラッジ水の添加率は1%とする。これら石灰残渣およびコンクリートスラッジ水の添加率は、1%~5%とする。これは、反応槽5に導入される原水である廃海水3のpHに応じて設定される。アルカリ剤6の投入により、反応槽5内の廃海水3は、pHが12~13程度に上昇する。
【0031】
次いで、ガス供給手段9により、反応槽5内の廃海水3に対し、発電所の排ガスなどのガス8を導入し、所定時間バブリングして廃海水3に二酸化炭素を反応させる。このガス8は、例えば二酸化炭素を13%含む。バブリングの時間は、廃海水3のpHに応じて、pHが大きいほど長く設定される。例えば、バブリングの時間は5分~60分とする。この反応過程で、炭酸カルシウム2が形成される。
【0032】
さらに、炭酸カルシウム2が形成された廃海水3を導入手段11により沈澱槽10に導き、炭酸カルシウム2を澱物として沈澱槽10内に沈澱させて第一排出部12から回収する。この炭酸カルシウム2には、重量当たり44%の二酸化炭素が固定可能である。このときの炭酸カルシウム2の粒度分布は、7μm~30μmであり、その純度は85%である。
【0033】
また、この反応過程において、少量の炭酸マグネシウム13も形成される。炭酸マグネシウム13と炭酸カルシウム2との形成の比率は、1:9である。沈澱槽10では、炭酸カルシウム2が先に沈澱し、炭酸マグネシウム13は沈澱を待たず第二排出部14から流れ排出されて、炭酸マグネシウム13と炭酸カルシウム2とが5:95まで分離回収できる。このことによって、純度の高い炭酸カルシウム2を得ることができる。
【0034】
このように、本実施の形態によれば、海水から水酸化マグネシウムを製造した後の廃海水3に対して、アルカリ剤6を加えて所定のpH範囲に調整し、二酸化炭素を含むガス8を廃海水3のカルシウム成分に反応させることで炭酸カルシウム2を製造することにより、廃海水3を有効利用して、炭酸カルシウム2を安価で容易に製造できる。
【0035】
また、二酸化炭素を含むガス8は、廃海水3のカルシウム成分およびマグネシウム成分に反応させることで炭酸カルシウム2および炭酸マグネシウム13を製造することで二酸化炭素を固定できるので、廃海水3を有効利用して、二酸化炭素を安価で容易に、かつ効率よく固定できる。
【0036】
ガス8の反応時間を、アルカリ剤6を加えた廃海水3のpHに応じて設定することにより、効率よくガス8を反応させることができる。
【0037】
アルカリ剤6が石灰残渣を含むことにより、例えば廃海水3を排出する水酸化マグネシウム製造工場から排出される石灰残渣を有効に利用して、炭酸カルシウム2(および炭酸マグネシウム13)を安価で容易に製造できる。
【0038】
アルカリ剤6がコンクリートスラッジ水を含むことにより、例えばコンクリート二次製品を製造する工場から排出されるコンクリートスラッジ水を有効に利用して、炭酸カルシウム2(および炭酸マグネシウム13)を安価で容易に製造できる。
【0039】
また、ガス8の二酸化炭素濃度が6%~15%であるため、例えば発電所からの排ガスなどをガス8として利用することが可能になる。そこで、発電所からの排ガスをガス8として利用することにより、水酸化マグネシウム製造工場から排出される廃海水3と、発電所からの排ガスと、を利用して、安価で容易に炭酸カルシウム2を製造および二酸化炭素を固定でき、発電所からの排ガスに含まれる二酸化炭素の大気中への放出を低減できる。
【0040】
すなわち、本実施の形態によれば、上流側の動脈系フローで海水から水酸化マグネシウムを製造する水酸化マグネシウム製造工場に対する下流側静脈フローとして、その廃海水3と、そこから排出される石灰残渣と、発電所からの排ガスと、を無駄なく利活用することにより二酸化炭素を固定した炭酸カルシウム2(および炭酸マグネシウム13)が得られる。
【0041】
そして、本実施の形態により得られた炭酸カルシウム2は、軽質炭酸カルシウムであって、二酸化炭素を重量当たり44%以上固定した微粉体であり、コンクリートの混和材、清掃工場などの排煙脱硫剤、アスファルト舗装材のフィラー、トンネルなどの裏込注入材の副剤などとして好適に利用可能である。また、二酸化炭素を固定した固体である炭酸カルシウム2によって、二酸化炭素を安定的に取り扱うことができる。
【0042】
したがって、本実施の形態の製造方法は、廃海水3や石灰残渣、および、二酸化炭素を含む発電所の排ガスなどを利用して二酸化炭素を固定した炭酸カルシウム2を製造し、それを上記のような用途で使用可能とすることができ、カーボンニュートラル(二酸化炭素の総量削減)への貢献が大きく、工業的に有利である。
【0043】
また、本実施の形態により得られる炭酸マグネシウム13については、重量当たり二酸化炭素を52%吸着固定している。この炭酸マグネシウム13の固形物の有効利活用として、天然ゴムの増強剤、増量剤、耐火・断熱材料、運動用具の滑り止めなどとして好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
2 炭酸カルシウム
3 廃海水
6 アルカリ剤
8 ガス
【要約】
【課題】廃海水を利用して炭酸カルシウムを安価で容易に製造できる炭酸カルシウムの製造方法を提供する。
【解決手段】海水から水酸化マグネシウムを製造した後の廃海水3に対して、アルカリ剤6を加えて所定のpH範囲に調整し、二酸化炭素を含むガス8を反応させることで炭酸カルシウム2を製造する。
【選択図】図1
図1