(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-09-07
(45)【発行日】2022-09-15
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極、並びにこれを用いた非水電解質二次電池、電池モジュール、及び電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20220908BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20220908BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20220908BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20220908BHJP
H01M 4/36 20060101ALN20220908BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/62 Z
H01M4/58
H01M4/136
H01M4/36 A
(21)【出願番号】P 2022048179
(22)【出願日】2022-03-24
【審査請求日】2022-06-10
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】吉川 輝
(72)【発明者】
【氏名】秋池 純之介
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-35746(JP,A)
【文献】特開2009-129889(JP,A)
【文献】特開2010-15904(JP,A)
【文献】特開2010-123331(JP,A)
【文献】特表2015-532519(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、前記集電体上に存在する、正極活物質粒子を含む正極活物質層と、を有し、
前記正極活物質層に含まれる結着材のZ平均分子量(Mz)が40万以上140万以下、
前記正極活物質層の総質量に対して前記結着材の含有量が0.1質量%以上1.5質量%以下、
前記正極活物質層が導電性炭素を含み、前記正極活物質層の総質量に対して前記導電性炭素の含有量が0.5質量%以上3.0質量%未満である、非水電解質二次電池用正極。
【請求項2】
前記集電体に対する前記正極活物質層の剥離強度は、10mN/cm以上1000mN/cm以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項3】
前記正極活物質層は多孔質層であり、前記正極活物質層の細孔比表面積が5.0m
2/g以上10m
2/g以下、前記正極活物質層の細孔の平均細孔径(D50)が0.070μm以上0.150μm以下である、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項4】
前記正極活物質粒子が、一般式LiFe
xM
(1-x)PO
4(式中、0≦x≦1、MはCo、Ni、Mn、Al、Ti又はZrである。)で表される化合物を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項5】
前記正極活物質層が導電助剤を含まない、請求項1~4のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の非水電解質二次電池用正極、負極、及び前記非水電解質二次電池用正極と負極との間に存在する非水電解質を備える、非水電解質二次電池。
【請求項7】
請求項6に記載の非水電解質二次電池の複数個を備える、電池モジュール又は電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極、並びにこれを用いた非水電解質二次電池、電池モジュール、及び電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、一般的に、正極、非水電解質、負極、及び正極と負極との間に設置される分離膜(セパレータ)により構成される。
非水電解質二次電池の正極としては、リチウムイオンを含む正極活物質、導電助剤、及び結着材からなる組成物を、金属箔(集電体)の表面にプレスして固着させ、正極活物質層を形成したものが知られている。
リチウムイオンを含む正極活物質としては、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)等のリチウム遷移金属複合酸化物や、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)等のリチウムリン酸化合物が実用化されている。
【0003】
特許文献1には、活物質粒子の小粒子化およびそれに伴う導電助剤の増加は、正極内において結着材の増量を必要とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非水電解質二次電池では、結着材を増やした場合には全抵抗値が増加し、容量に寄与しない結着材の質量が増加し、高エネルギー密度化や高出力化が難しいという課題がある。また、特許文献1では、活物質の結着性を向上するためには、重量平均分子量が35万以上の変性処理したフッ素系ポリマーを用いて正極活物質層を構成することが好ましいと記載されている。一方、特許文献1には、非水電解質二次電池の耐久性を維持したまま、エネルギー密度を高めるために適した結着材の状態や正極の構成などは記載されていない。また、平均分子量の高いバインダーは結着性に優れ、添加量を少なくしても、集電体と正極活物質層との間に十分な結着力が得られる。一方、活物質粒子を含む正極製造用組成物の固有粘度も高くなるため、活物質粒子や導電助剤の凝集が発生しやすく、正極活物質層の細孔の平均細孔径が小さくなり、電解液の保持が不十分となるため、非水電解質二次電池の充放電特性が低下する。
【0006】
上記のような高出力化を目的とした活物質粒子の小粒子径化およびそれに伴う導電剤量の増加は、正極内において結着材の増量を必要とする。また、活物質粒子の小粒子径化は、集電体に対する活物質粒子のアンカー効果を低減させる。このため、活物質粒子と集電体との結合は、結着材による化学的結合に一層依存するようになり、結着材の必要量は増加する。活物質の小粒子径化や導電剤量の調整によって反応抵抗や電子抵抗を低下させても、結着材量の増加により反応抵抗や拡散抵抗などが増加し、非水電解質二次電池の全抵抗値が増加する。
【0007】
また、極めて少ない量の結着材で正極を作製した場合、集電体と正極活物質層との間の結着力は極めて弱く、電解液の含浸や充放電に伴う活物質粒子の膨張収縮などによる集電体と正極活物質層との剥離が容易に発生する。正極活物質層の集電体からの剥離は、電子の流れを切断することになり、電気抵抗が増加しやすい状況となる。このような正極を用いることは、長い期間に亘って抵抗の増加を抑制し、高い入出力特性を発現させる必要がある電池の用途、例えば、自動車用電池用途において要求される耐久性を満足しないという問題が生じうる。
【0008】
本発明は、正極活物質粒子の十分な結着性を有し、エネルギー密度が高く、かつサイクル特性に優れる非水電解質二次電池を実現する非水電解質二次電池用正極を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、鋭意検討した結果、以下の知見を得た。
Z平均分子量(Mz)の高い結着材は結着性に優れるため、正極活物質層における結着材の含有量を少なくしても、集電体に対する正極活物質層の十分な剥離強度が得られる。一方、結着材のZ平均分子量(Mz)が高いと、結着材の固有粘度も高くなるため、正極活物質粒子や導電助剤の凝集が発生しやすく、正極活物質層の細孔の平均細孔径が大きくなり、正極活物質層内に空隙が発生し、導電パスが悪くなり、充放電特性が低下する。また、導電助剤も凝集しやすくなり、導電助剤の偏在が起きることで正極内部において局所的な抵抗差が発生する。その結果、大電流充放電時には、導電助剤に過剰な電流が流れやすく、電解液の副反応を起こす劣化の起点となりやすい。
本発明では、正極活物質層における導電助剤の含有量が少ない、または正極活物質層が導電助剤を含まない構成を採用することにより、上記不具合を回避して、エネルギー密度が高く、かつサイクル特性に優れる非水電解質二次電池を提供することができる。
本発明は以下の態様を有する。
[1]集電体と、前記集電体上に存在する、正極活物質粒子を含む正極活物質層と、を有し、
前記正極活物質層に含まれる結着材のZ平均分子量(Mz)が40万以上140万以下、
前記正極活物質層の総質量に対して前記結着材の含有量が0.1質量%以上1.5質量%以下、
前記正極活物質層が導電性炭素を含み、前記正極活物質層の総質量に対して前記導電性炭素の含有量が0.5質量%以上3.0質量%未満である、非水電解質二次電池用正極。
[2]前記集電体に対する前記正極活物質層の剥離強度は、10mN/cm以上1000mN/cm以下である、[1]に記載の非水電解質二次電池用正極。
[3]前記正極活物質層は多孔質層であり、前記正極活物質層の細孔比表面積が5.0m2/g以上10m2/g以下、前記正極活物質層の細孔の平均細孔径(D50)が0.070μm以上0.150μm以下である、[1]または[2]に記載の非水電解質二次電池用正極。
[4]前記正極活物質粒子が、一般式LiFexM(1-x)PO4(式中、0≦x≦1、MはCo、Ni、Mn、Al、Ti又はZrである。)で表される化合物を含む、[1]~[3]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極。
[5]前記正極活物質層が導電助剤を含まない、[1]~[4]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極。
[6][1]~[5]のいずれかに記載の非水電解質二次電池用正極、負極、及び前記非水電解質二次電池用正極と負極との間に存在する非水電解質を備える、非水電解質二次電池。
[7][6]に記載の非水電解質二次電池の複数個を備える、電池モジュール又は電池システム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、正極活物質粒子の十分な結着性を有し、エネルギー密度が高く、かつサイクル特性に優れる非水電解質二次電池を実現する非水電解質二次電池用正極が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る非水電解質二次電池用正極の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明に係る非水電解質二次電池の一例を模式的に示す断面図である。
【
図3】正極活物質層の剥離強度の測定方法を説明するための工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書及び特許請求の範囲において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載した数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
図1は、本発明の非水電解質二次電池用正極の一実施形態を示す模式断面図であり、
図2は本発明の非水電解質二次電池の一実施形態を示す模式断面図である。
なお、
図1、2は、その構成をわかりやすく説明するための模式図であり、各構成要素の寸法比率等は、実際とは異なる場合もある。
【0013】
<非水電解質二次電池用正極>
本実施形態の非水電解質二次電池用正極(単に「正極」ともいう。)1は、集電体(以下「正極集電体」という。)11と、正極活物質層12とを有する。
正極活物質層12は正極集電体11の少なくとも一面上に存在する。正極集電体11の両面上に正極活物質層12が存在してもよい。
図1の例において、正極集電体11は、正極活物質層12側の表面に集電体被覆層15が存在する。すなわち、正極集電体11は、正極集電体本体14と、正極集電体本体14の正極活物質層12側の表面を被覆する集電体被覆層15とを有する。正極集電体本体14のみを正極集電体11としてもよい。
【0014】
[正極活物質層]
正極活物質層12は正極活物質粒子を含む。
正極活物質層12は、さらに結着材を含むことが好ましい。
正極活物質層12は、さらに導電助剤を含んでもよい。本明細書において、「導電助剤」という用語は、正極活物質層を形成するにあたって正極活物質粒子と混合する、粒状、繊維状などの形状を有する導電材料であって、正極活物質粒子を繋ぐ形で正極活物質層中に存在させる導電材料を指す。
正極活物質層12は、さらに分散剤を含んでもよい。
正極活物質層12の総質量に対して、正極活物質粒子の含有量は80.0~99.9質量%が好ましく、90~99.5質量%がより好ましい。
【0015】
正極活物質層12の厚み(正極集電体11の両面上に正極活物質層12が存在する場合、両面の合計)は30~500μmであることが好ましく、40~400μmであることがより好ましく、50~300μmであることが特に好ましい。正極活物質層12の厚みが上記範囲の下限値以上であると、正極を組み込んだ電池のエネルギー密度が高くなりやすく、上記範囲の上限値以下であると、正極活物質層12の剥離強度が高く、充放電時に剥がれを抑制できる。
【0016】
正極集電体11に対する正極活物質層12の剥離強度は、10mN/cm以上1000mN/cm以下であることが好ましく、100mN/cm以上900mN/cm以下であることがより好ましく、200mN/cm以上800mN/cm以下であることが特に好ましい。正極活物質層12の剥離強度が前記下限値以上であると、充放電を繰り返しても、正極集電体11から正極活物質層12が剥離し難くなる。正極活物質層12の剥離強度が前記上限値以下であると、必要なバインダー量が適切であり、電池のエネルギー密度を高める事ができる。
【0017】
正極集電体11に対する正極活物質層12の剥離強度は、後述の実施例に記載の測定方法で得られる180°剥離強度である。
【0018】
正極活物質層12は多孔質層であり、正極活物質層12は多数の細孔を有する。正極活物質層12の細孔比表面積は、5.0m2/g以上10m2/g以下であることが好ましく、5.5m2/g以上9.5m2/g以下であることがより好ましく、6.0m2/g以上9.0m2/g以下であることが特に好ましい。正極活物質層12の細孔比表面積が上記範囲の下限値以上であると、電解液と反応する十分な面積が確保できるためサイクル特性が向上し、特に急速充放電サイクルで高い効果が得られる。正極活物質層12の細孔比表面積が上記範囲の上限値以下であると、反応性の高い小粒子な活物質や導電助剤の量が少ない状態となり、電解液との副反応を抑制することができるため、特に大電流での急速充放電サイクルにおいて高い効果が得られる。
【0019】
≪細孔比表面積の測定方法≫
本明細書において、正極活物質層12の細孔比表面積は、公知のガス吸着法または水銀圧入法により測定できる。
【0020】
正極活物質層12の細孔の平均細孔径(D50)は、0.070μm以上0.150μmであることが好ましく、0.75μm以上0.145μm以下であることがより好ましく、0.80μm以上0.140μm以下であることが特に好ましい。正極活物質層12の細孔の平均細孔径(D50)が上記範囲の下限値以上であると、電解液を十分に保持できる容積が担保されるため充放電サイクル特性が良化し、特に急速充放電サイクルを実施した際に電解液中のリチウムイオンが急速に移動する効果が得られる。正極活物質層12の細孔の平均細孔径(D50)が上記範囲の上限値以下であると、隣接する粒子との距離が遠すぎず、良好な導電パスが形成されるため、充放電サイクル特性が良化し、特に急速充放電サイクルを実施した際に電子伝導が高まり、大電流の充放電時に副反応を抑えることが出来るためより効果が得られる。
【0021】
≪細孔の平均細孔径(D50)の測定方法≫
本明細書において、正極活物質層12の細孔の平均細孔径(D50)は、公知のガス吸着法または水銀圧入法により測定できる。
【0022】
[正極活物質粒子]
正極活物質粒子は、正極活物質を含む。正極活物質粒子の少なくとも一部は、被覆粒子である。
被覆粒子において、正極活物質粒子の表面には、導電材料を含む被覆部(以下、「活物質被覆部」ともいう。)が存在する。正極活物質粒子は、活物質被覆部を有することで、電池容量、サイクル特性をより高められる。
例えば、活物質被覆部は、予め正極活物質粒子の表面に形成されており、かつ正極活物質層中において、正極活物質粒子の表面に存在する。すなわち、本稿における活物質被覆部は、正極製造用組成物の調製段階以降の工程で新たに形成されるものではない。加えて、活物質被覆部は、正極製造用組成物の調製段階以降の工程で欠落するものではない。
例えば、正極製造用組成物を調製する際に、被覆粒子を溶媒と共にミキサー等で混合しても、活物質被覆部は正極活物質の表面を被覆している。また、仮に、正極から正極活物質層を剥がし、これを溶媒に投入して正極活物質層中の結着材を溶媒に溶解させた場合にも、活物質被覆部は正極活物質の表面を被覆している。また、仮に、正極活物質層中の粒子の粒度分布をレーザー回折・散乱法により測定する際に、凝集した粒子をほぐす操作を行った場合にも活物質被覆部は正極活物質の表面を被覆している。
活物質被覆部は、正極活物質粒子の外表面全体の面積の50%以上に存在することが好ましく、70%以上に存在することが好ましく、90%以上に存在することが好ましい。
すなわち、被覆粒子は、正極活物質である芯部と、前記芯部の表面を覆う活物質被覆部とを有し、芯部の表面積に対する活物質被覆部の面積(被覆率)は、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましい。
【0023】
被覆粒子の製造方法としては、例えば、焼結法、蒸着法等が挙げられる。
焼結法としては、正極活物質の粒子と有機物とを含む活物質製造用組成物(例えば、スラリー)を、大気圧下、500~1000℃、1~100時間で焼成する方法が挙げられる。活物質製造用組成物に添加する有機物としては、サリチル酸、カテコール、ヒドロキノン、レゾルシノール、ピロガロール、フロログルシノール、ヘキサヒドロキシベンゼン、安息香酸、フタル酸、テレフタル酸、フェニルアラニン、水分散型フェノール樹脂等、スクロース、グルコース、ラクトース等の糖類、リンゴ酸、クエン酸などのカルボン酸、アリルアルコール、プロパルギルアルコール等の不飽和一価アルコール、アスコルビン酸、ポリビニルアルコール等が挙げられる。この焼結法によれば、活物質製造用組成物を焼成することで、有機物中の炭素を正極活物質の表面に焼結して、活物質被覆部を形成する。
また、他の焼結法としては、いわゆる衝撃焼結被覆法が挙げられる。
【0024】
衝撃焼結被覆法は、例えば、衝撃焼結被覆装置において燃料の炭化水素と酸素の混合ガスを用いてバーナに点火し燃焼室で燃焼させてフレームを発生させ、その際、酸素量を燃料に対して完全燃焼の当量以下にしてフレーム温度を下げ、その後方に粉末供給用ノズルを設置し、そのノズルから被覆する有機物と溶媒を用いて溶かしスラリー状にしたものと燃焼ガスからなる固体―液体―気体三相混合物を粉末供給ノズルから噴射させ、室温に保持された燃焼ガス量を増して、噴射微粉末の温度を下げて、粉末材料の変態温度、昇華温度、蒸発温度以下で加速し、衝撃により瞬時焼結させて、正極活物質の粒子を被覆する。
蒸着法としては、物理気相成長法(PVD)、化学気相成長法(CVD)等の気相堆積法、メッキ等の液相堆積法等が挙げられる。
【0025】
前記被覆率は次の様な方法により測定することができる。 まず、正極活物質層中の粒子を、透過電子顕微鏡を用いたエネルギー分散型X線分光法(TEM-EDX)により分析する。具体的には、TEM画像における正極活物質粒子の外周部をEDXで元素分析する。元素分析は炭素について行い、正極活物質粒子を被覆している炭素を特定する。炭素の被覆部が1nm以上の厚さである箇所を被覆部分とし、観察した正極活物質粒子の全周に対して被覆部分の割合を求め、これを被覆率とすることができる。測定は例えば、10個の正極活物質粒子について行い、これらの平均値とすることができる。
また、前記活物質被覆部は、正極活物質のみから構成される粒子(以下、「芯部」と称することもある。)の表面上に直接形成された厚み1nm~100nm、好ましくは5nm~50nmの層であり、この厚みは上述した被覆率の測定に用いるTEM-EDXによって確認することができる。
【0026】
本発明において、被覆粒子は、芯部の表面積に対する活物質被覆部の面積は、100%が特に好ましい。
なお、この被覆率(%)は、正極活物質層中に存在する正極活物質粒子全体についての平均値であり、この平均値が上記下限値以上となる限り、活物質被覆部を有しない正極活物質粒子が微量に存在することを排除するものではない。活物質被覆部を有しない正極活物質粒子(単一粒子)が正極活物質層中に存在する場合、その量は、正極活物質層中に存在する正極活物質粒子全体の量に対して、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは20質量%以下であり、特に好ましくは10質量%以下である。
【0027】
活物質被覆部の導電材料は、炭素(導電性炭素)を含むことが好ましい。炭素のみからなる導電材料でもよく、炭素と炭素以外の他の元素とを含む導電性有機化合物でもよい。
他の元素としては、窒素、水素、酸素等が例示できる。前記導電性有機化合物において、他の元素は10原子%以下が好ましく、5原子%以下がより好ましい。
活物質被覆部を構成する導電材料は、炭素のみからなることがさらに好ましい。
活物質被覆部を有する正極活物質粒子の総質量に対して、導電材料の含有量は0.1~4.0質量%が好ましく、0.5~3.0質量%がより好ましく、0.7~2.5質量%がさらに好ましい。多すぎる場合は正極活物質粒子の表面から導電材料が剥がれ、独立した導電助剤粒子として残留する可能性があるため、好ましくない。
【0028】
正極活物質粒子は、オリビン型結晶構造を有する化合物を含むことが好ましい。
オリビン型結晶構造を有する化合物は、一般式LiFexM(1-x)PO4(以下「一般式(I)」ともいう。)で表される化合物が好ましい。一般式(I)において0≦x≦1である。MはCo、Ni、Mn、Al、Ti又はZrである。物性値に変化がない程度に微小量の、FeおよびM(Co、Ni、Mn、Al、Ti又はZr)の一部を他の元素に置換することもできる。一般式(I)で表される化合物は、微量の金属不純物が含まれていても本発明の効果が損なわれるものではない。
【0029】
一般式(I)で表される化合物は、LiFePO4で表されるリン酸鉄リチウム(以下、単に「リン酸鉄リチウム」ともいう。)が好ましい。
正極活物質粒子として、表面の少なくとも一部に導電材料を含む活物質被覆部が存在するリン酸鉄リチウム粒子(以下「被覆リン酸鉄リチウム粒子」ともいう。)がより好ましい。電池容量、サイクル特性により優れる点から、リン酸鉄リチウム粒子の表面全体が導電材料で被覆されていることがさらに好ましい。
被覆リン酸鉄リチウム粒子は公知の方法で製造できる。
例えば、特許第5098146号公報に記載の方法を用いてリン酸鉄リチウム粉末を作製し、GS Yuasa Technical Report、2008年6月、第5巻、第1号、第27~31頁等に記載の方法を用いて、リン酸鉄リチウム粉末の表面の少なくとも一部を炭素で被覆できる。
具体的には、まず、シュウ酸鉄二水和物、リン酸二水素アンモニウム、及び炭酸リチウムを、特定のモル比で計り、これらを不活性雰囲気下で粉砕及び混合する。次に、得られた混合物を窒素雰囲気下で加熱処理することによってリン酸鉄リチウム粉末を作製する。
次いで、リン酸鉄リチウム粉末をロータリーキルンに入れ、窒素をキャリアガスとしたメタノール蒸気を供給しながら加熱処理することによって、表面の少なくとも一部を炭素で被覆したリン酸鉄リチウム粒子を得る。
例えば、粉砕工程における粉砕時間によってリン酸鉄リチウム粒子の粒子径を調整できる。メタノール蒸気を供給しながら加熱処理する工程における加熱時間及び温度等によって、リン酸鉄リチウム粒子を被覆する炭素の量を調整できる。被覆されなかった炭素粒子はその後の分級や洗浄などの工程などにより取り除くことが望ましい。
【0030】
正極活物質粒子は、オリビン型結晶構造を有する化合物以外の他の正極活物質を含む他の正極活物質粒子を1種以上含んでもよい。
他の正極活物質は、リチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム(LiNixCoyAlzO2、ただしx+y+z=1)、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム(LiNixCoyMnzO2、ただしx+y+z=1)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、コバルトマンガン酸リチウム(LiMnCoO4)、クロム酸マンガンリチウム(LiMnCrO4)、バナジウムニッケル酸リチウム(LiNiVO4)、ニッケル置換マンガン酸リチウム(例えば、LiMn1.5Ni0.5O4)、及びバナジウムコバルト酸リチウム(LiCoVO4)、これらの化合物の一部を金属元素で置換した非化学量論的化合物等が挙げられる。前記金属元素としては、Mn、Mg、Ni、Co、Cu、Zn及びGeからなる群から選択される1種以上が挙げられる。
他の正極活物質粒子の表面の少なくとも一部に、前記活物質被覆部が存在してもよい。
【0031】
正極活物質粒子の総質量(活物質被覆部を有する場合は活物質被覆部の質量も含む)に対して、オリビン型結晶構造を有する化合物の含有量は50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。100質量%でもよい。
被覆リン酸鉄リチウム粒子を用いる場合、正極活物質粒子の総質量に対して、被覆リン酸鉄リチウム粒子の含有量は50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。100質量%でもよい。
【0032】
正極活物質粒子の活物質被覆部の厚さは、1~100nmが好ましい。
正極活物質粒子の活物質被覆部の厚さは、正極活物質粒子の透過電子顕微鏡(TEM)像における活物質被覆部の厚さを計測する方法で測定できる。正極活物質粒子の表面に存在する活物質被覆部の厚さは均一でなくてもよい。正極活物質粒子の表面の少なくとも一部に厚さ1nm以上の活物質被覆部が存在し、活物質被覆部の厚さの最大値が100nm以下であることが好ましい。
【0033】
正極活物質粒子の平均粒子径(活物質被覆部を有する場合は活物質被覆部の厚さも含む)は、0.1~20.0μmが好ましく、0.5~15.0μmがより好ましい。正極活物質粒子を2種以上用いる場合、それぞれの平均粒子径が上記の範囲内であればよい。
前記平均粒子径が上記範囲の下限値以上であると、比表面積(単位:m2/g)が適度に大きくなり、充放電で反応する面積を確保しやすい。その結果、電池として抵抗が低くなり、急速充電特性が低下し難くなる。一方、上記範囲の上限値以下であると比表面積が適度に小さくなり、正極製造用組成物における分散性が良くなりやすく、また、凝集物が発生し難くなりやすい。その結果、粒子間の導電パスが正極活物質層12内部で均一となり、急速充電特性が向上しやすい。
本明細書における正極活物質粒子の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定器を用いて測定した体積基準のメジアン径である。
【0034】
[結着材]
正極活物質層12に含まれる結着材は有機物であり、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸リチウム、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、スチレンブタジエンゴム、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルニトリル、ポリイミド等が挙げられる。結着材は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0035】
結着材のZ平均分子量(Mz)が40万以上140万以下であり、50万以上120万以下であることが好ましく、60万以上100万以下であることがより好ましい。結着材のZ平均分子量(Mz)が前記下限値以上であると、結着材は結着性に優れ、正極活物質層12における結着材の含有量を少なくしても、正極集電体11に対する正極活物質層12の十分な剥離強度が得られる。結着材のZ平均分子量(Mz)が前記上限値以下であると、結着性が強すぎる事による活物質や導電助剤の意図しない凝集を避けることが出来るため、正極活物質層12内で良好な導電パスが形成され、急速充放電サイクル特性をたかめることができる。
結着材のZ平均分子量(Mz)は、ゲル浸透クロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)を用いた測定方法により測定することができる。
【0036】
正極活物質層12における結着材の含有量が少ない方が、電池の体積エネルギー密度(Wh/L)が高くなる。
正極活物質層12の総質量に対して、結着材の含有量は0.1質量%以上1.5質量%以下であり、0.3質量%以上1.3質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上1.1質量%以下であることがより好ましい。結着材の含有量が前記下限値以上であると、正極集電体11に対する正極活物質層12の十分な剥離強度が得られる。結着材の含有量が前記上限値以下であると、電池の体積エネルギー密度(Wh/L)が高くなる。
【0037】
[導電助剤]
正極活物質層12に含まれる導電助剤としては、例えば、グラファイト、グラフェン、ハードカーボン、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)等の炭素材料が挙げられる。導電助剤は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
正極活物質層12における導電助剤の含有量は、例えば、正極活物質の総質量100質量部に対して、4質量部以下が好ましく、3質量部以下がより好ましく、1質量部以下がさらに好ましく、導電助剤を含まないことが特に好ましく、独立した導電助剤粒子(例えば、独立した炭素粒子)が存在しない状態が望ましい。
正極活物質層12に導電助剤を配合する場合、導電助剤の含有量の下限値は、導電助剤の種類に応じて適宜決定され、例えば、正極活物質層12の総質量に対して0.1質量%超とされる。
なお、正極活物質層12が「導電助剤を含まない」とは、実質的に含まないことを意味し、本発明の効果に影響を及ぼさない程度に含むものを排除するものではない。例えば、導電助剤の含有量が正極活物質層12の総質量に対して0.1質量%以下であれば、実質的に含まれないと判断できる。
【0038】
[分散剤]
正極活物質層12に含まれる分散剤は有機物であり、例えば、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリビニルホルマール(PVF)等が挙げられる。分散剤は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
分散剤は正極活物質層12内の粒子の凝集を避け、良好な導電パス形成に寄与する。一方、分散剤の含有量が多すぎると抵抗が増大して入力特性が低下しやすい。
正極活物質層12の総質量に対して、分散剤の含有量は0.5質量%以下が好ましく、0.2質量%以下がより好ましい。
正極活物質層12が分散剤を含有する場合、分散剤の含有量の下限値は、正極活物質層12の総質量に対して0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましい。
【0039】
[正極集電体本体]
正極集電体本体14は金属材料からなる。金属材料としては、銅、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼等の導電性を有する金属が例示できる。
正極集電体本体14の厚みは、例えば、8~40μmが好ましく、10~25μmがより好ましい。
正極集電体本体14の厚み及び正極集電体11の厚みは、マイクロメータを用いて測定できる。測定器の一例としては、ミツトヨ社製品名「MDH-25M」が挙げられる。
【0040】
[集電体被覆層]
正極集電体本体14の表面の少なくとも一部に集電体被覆層15が存在することが好ましい。集電体被覆層15は導電材料を含む。
ここで、「表面の少なくとも一部」とは、正極集電体本体14の表面の面積の10~100%、好ましくは30~100%、より好ましくは50~100%を意味する。
集電体被覆層15中の導電材料は、炭素(導電性炭素)を含むことが好ましい。炭素のみからなる導電材料がより好ましい。
集電体被覆層15は、例えばカーボンブラック等の炭素粒子と結着材を含むコーティング層が好ましい。集電体被覆層15の結着材は、正極活物質層12の結着材と同様のものを例示できる。
正極集電体本体14の表面を集電体被覆層15で被覆した正極集電体11は、例えば、導電材料、結着材、及び溶媒を含むスラリーを、グラビア法等の公知の塗工方法を用いて正極集電体本体14の表面に塗工し、乾燥して溶媒を除去する方法で製造できる。
【0041】
集電体被覆層15の厚さは、0.1~4.0μmが好ましい。
集電体被覆層15の厚さは、集電体被覆層15の断面の透過電子顕微鏡(TEM)像又は走査型電子顕微鏡(SEM)像における被覆層の厚さを計測する方法で測定できる。集電体被覆層の厚さは均一でなくてもよい。正極集電体本体14の表面の少なくとも一部に厚さ0.1μm以上の集電体被覆層15が存在し、集電体被覆層15の厚さの最大値が4.0μm以下であることが好ましい。
【0042】
[導電性炭素含有量]
本実施形態において、正極活物質層12が導電性炭素を含むことが好ましい。正極活物質層が導電性炭素を含む態様としては、下記態様1~3が挙げられる。
態様1:正極活物質層が導電助剤を含み、導電助剤が導電性炭素を含む態様。
態様2:正極活物質層が導電助剤を含み、かつ正極活物質粒子の表面の少なくとも一部に、導電材料を含む活物質被覆部が存在し、前記活物質被覆部の導電材料及び前記導電助剤の一方又は両方が導電性炭素を含む態様。
態様3:正極活物質層が導電助剤を含まず、正極活物質粒子の表面の少なくとも一部に、導電材料を含む活物質被覆部が存在し、前記活物質被覆部の導電材料が導電性炭素を含む態様。
正極活物質層の正極活物質の重量比を高めて、電池のエネルギー密度を高める点では態様3がより好ましい。
【0043】
正極活物質層12の総質量に対して、導電性炭素の含有量は0.5質量%以上3.0質量%未満が好ましく、1.0~2.8質量%がより好ましく、1.2~2.6質量%がさらに好ましい。
正極活物質層12中の導電性炭素の含有量が、上記範囲の下限値以上であると正極活物質層12での導電パス形成に十分な量となり、上限値以下であると分散性向上に優れる。
【0044】
正極活物質層12の総質量に対する導電性炭素の含有量は、正極から正極活物質層12を剥がして120℃環境で真空乾燥した乾燥物(粉体)を測定対象物として、下記≪導電性炭素含有量の測定方法≫で測定できる。
例えば、正極活物質層12の最表面の、深さ数μmの部分をスパチュラ等で剥がした粉体を120℃環境で真空乾燥させて測定対象物とすることができる。
下記≪導電性炭素含有量の測定方法≫で測定した導電性炭素の含有量は、活物質被覆部中の炭素と、導電助剤中の炭素を含む。結着材中の炭素は含まれない。分散剤中の炭素は含まれない。
【0045】
≪導電性炭素含有量の測定方法≫
[測定方法A]
測定対象物を均一に混合して試料(質量w1)を量りとり、下記の工程A1、工程A2の手順で熱重量示唆熱(TG-DTA)測定を行い、TG曲線を得る。得られたTG曲線から下記第1の重量減少量M1(単位:質量%)及び第2の重量減少量M2(単位:質量%)を求める。M2からM1を減算して導電性炭素の含有量(単位:質量%)を得る。
工程A1:300mL/分のアルゴン気流中において、10℃/分の昇温速度で30℃から600℃まで昇温し、600℃で10分間保持したときの質量w2から、下記式(a1)により第1の重量減少量M1を求める。
M1=(w1-w2)/w1×100 ・・・(a1)
工程A2:前記工程A1の直後に600℃から10℃/分の降温速度で降温し、200℃で10分間保持した後に、測定ガスをアルゴンから酸素へ完全に置換し、100mL/分の酸素気流中において、10℃/分の昇温速度で200℃から1000℃まで昇温し、1000℃にて10分間保持したときの質量w3から、下記式(a2)により第2の重量減少量M2(単位:質量%)を求める。
M2=(w1-w3)/w1×100 ・・・(a2)
【0046】
[測定方法B]
測定対象物を均一に混合して試料を0.0001mg精秤し、下記の燃焼条件で試料を燃焼し、発生した二酸化炭素をCHN元素分析装置により定量し、試料に含まれる全炭素量M3(単位:質量%)を測定する。また、前記測定方法Aの工程A1の手順で第1の重量減少量M1を求める。M3からM1を減算して導電性炭素の含有量(単位:質量%)を得る。
[燃焼条件]
燃焼炉:1150℃
還元炉:850℃
ヘリウム流量:200mL/分
酸素流量:25~30mL/分
【0047】
[測定方法C]
上記測定方法Bと同様にして、試料に含まれる全炭素量M3(単位:質量%)を測定する。また、下記の方法で結着材由来の炭素の含有量M4(単位:質量%)を求める。M3からM4を減算して導電性炭素の含有量(単位:質量%)を得る。
結着材がポリフッ化ビニリデン(PVDF:モノマー(CH2CF2)の分子量64)である場合は、管状式燃焼法による燃焼イオンクロマトグラフィーにより測定されたフッ化物イオン(F-)の含有量(単位:質量%)、PVDFを構成するモノマーのフッ素の原子量(19)、及びPVDFを構成する炭素の原子量(12)から以下の式で計算することができる。
PVDFの含有量(単位:質量%)=フッ化物イオンの含有量(単位:質量%)×64/38
PVDF由来の炭素の含有量M4(単位:質量%)=フッ化物イオンの含有量(単位:
質量%)×12/19
結着材がポリフッ化ビニリデンであることは、試料、又は試料をN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)溶媒により抽出した液体をフーリエ変換赤外スペクトル(FT-IR)測定し、C-F結合由来の吸収を確認する方法で確かめることができる。同様に19F-NMR測定でも確かめることができる。
結着材がPVDF以外と同定された場合は、その分子量に相当する結着材の含有量(単位:質量%)および炭素の含有量(単位:質量%)を求めることで、結着材由来の炭素量M4を算出できる。
分散剤が含まれる場合は、前記M3からM4を減算し、さらに分散剤由来の炭素量を減算して導電性炭素の含有量(単位:質量%)を得ることができる。
これらの手法は下記複数の公知文献に記載されている。
東レリサーチセンター The TRC News No.117 (Sep.2013)第34~37頁、[2021年2月10日検索]、インターネット<https://www.toray-research.co.jp/technical-info/trcnews/pdf/TRC117(34-37).pdf>
東ソー分析センター 技術レポート No.T1019 2017.09.20、[2021年2月10日検索]、インターネット<http://www.tosoh-arc.co.jp/techrepo/files/tarc00522/T1719N.pdf>
【0048】
≪導電性炭素の分析方法≫
正極活物質の活物質被覆部を構成する導電性炭素と、導電助剤である導電性炭素は、以下の分析方法で区別できる。
例えば、正極活物質層中の粒子を透過電子顕微鏡電子エネルギー損失分光法(TEM-EELS)により分析し、粒子表面近傍にのみ290eV付近の炭素由来のピークが存在する粒子は正極活物質であり、粒子内部にまで炭素由来のピークが存在する粒子は導電助剤と判定することができる。ここで「粒子表面近傍」とは、粒子表面からの深さが、約100nmまでの領域を意味し、「粒子内部」とは前記粒子表面近傍よりも内側の領域を意味する。
他の方法としては、正極活物質層中の粒子をラマン分光によりマッピング解析し、炭素由来のG-bandとD-band、及び正極活物質由来の酸化物結晶のピークが同時に観測された粒子は正極活物質であり、G-bandとD-bandのみが観測された粒子は導電助剤と判定することができる。
さらに他の方法としては、広がり抵抗顕微鏡(SSRM:Scanning Spread Resistance Microscope)により、正極活物質層の断面を観察し、粒子表面に粒子内部より抵抗が低い部分が存在する場合、抵抗が低い部分は活物質被覆部に存在する導電性炭素であると判定できる。そのような粒子以外に独立して存在し、かつ抵抗が低い部分は導電助剤であると判定することができる。
なお、不純物として考えられる微量な炭素や、製造時に正極活物質の表面から意図せず剥がれた微量な炭素などは、導電助剤と判定しない。
これらの方法を用いて、炭素材料からなる導電助剤が正極活物質層に含まれるか否かを確認することができる。
【0049】
[正極活物質層の体積密度]
本実施形態において、正極活物質層12の体積密度は2.10~2.70g/cm3が好ましく、2.25~2.50g/cm3がより好ましい。
正極活物質層12の体積密度は、例えば、以下の測定方法により測定できる。
正極1及び正極集電体11の厚みをそれぞれマイクロゲージで測定し、これらの差から正極活物質層12の厚みを算出する。正極1及び正極集電体11の厚みは、それぞれ任意の5点以上で測定した値の平均値とする。正極集電体11の厚みとして、後述の正極集電体露出部13の厚みを用いてよい。
正極1を所定の面積となるように打ち抜いた測定試料の質量を測定し、予め測定した正極集電体11の質量を差し引いて、正極活物質層12の質量を算出する。
下記式(1)に基づいて、正極活物質層12の体積密度を算出する。
体積密度(単位:g/cm3)=正極活物質層の質量(単位:g)/[(正極活物質層の厚み(単位:cm)×測定試料の面積(単位:cm2)]・・・(1)
【0050】
正極活物質層12の体積密度が上記範囲の下限値以上であると、非水電解質二次電池において優れた入力特性が得られやすい。上限値以下であると、プレス荷重によるクラックが正極活物質層12に発生し難く、優れた導電パスを形成できる。
正極活物質層12の体積密度は、例えば、正極活物質の含有量、正極活物質の粒子径、正極活物質層12の厚み等によって調整できる。正極活物質層12が導電助剤を有する場合は、導電助剤の種類(比表面積、比重)、導電助剤の含有量、導電助剤の粒子径によっても調整できる。
また、正極活物質層12を構成している粒子群における粒子の凝集が少ないと、正極活物質層12が加圧プレスされたときに、正極活物質層12の厚みが小さくなりやすく体積密度が高くなりやすい。加えて、粒子の凝集が少ないと分散性が向上しやすく、正極活物質層12の良好な導電パスが形成できるため、レート特性が向上する。
【0051】
<正極の製造方法>
本実施形態の正極1の製造方法は、正極活物質を含む正極製造用組成物を調製する組成物調製工程と、正極製造用組成物を正極集電体11上に塗工する塗工工程を有する。
例えば、正極活物質及び溶媒を含む正極製造用組成物を、正極集電体11上に塗工し、乾燥し溶媒を除去して正極活物質層12を形成する方法で正極1を製造できる。正極製造用組成物は導電助剤を含んでもよい。正極製造用組成物は結着材を含んでもよい。正極製造用組成物は分散剤を含んでもよい。
正極集電体11上に正極活物質層12を形成した積層物を、2枚の平板状冶具の間に挟み、厚み方向に均一に加圧する方法で、正極活物質層12の厚みを調整できる。例えば、ロールプレス機を用いて加圧する方法を使用できる。
【0052】
正極製造用組成物の溶媒は非水系溶媒が好ましい。例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等のアルコール;N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド等の鎖状又は環状アミド;アセトン等のケトンが挙げられる。溶媒は1種でもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
<非水電解質二次電池>
図2に示す本実施形態の非水電解質二次電池10は、本実施形態の非水電解質二次電池用正極1と、負極3と、非水電解質とを備える。さらにセパレータ2を備えてもよい。図中、符号5は外装体である。
本実施形態において、正極1は、板状の正極集電体11と、その両面上に設けられた正極活物質層12と有する。正極活物質層12は正極集電体11の表面の一部に存在する。
正極集電体11の表面の縁部は、正極活物質層12が存在しない正極集電体露出部13である。正極集電体露出部13の任意の箇所に、図示しない端子用タブが電気的に接続する。
負極3は、板状の負極集電体31と、その両面上に設けられた負極活物質層32とを有する。負極活物質層32は負極集電体31の表面の一部に存在する。負極集電体31の表面の縁部は、負極活物質層32が存在しない負極集電体露出部33である。負極集電体露出部33の任意の箇所に、図示しない端子用タブが電気的に接続する。
正極1、負極3およびセパレータ2の形状は特に限定されない。例えば、平面視矩形状でもよい。
本実施形態の非水電解質二次電池10は、例えば、正極1と負極3を、セパレータ2を介して交互に積層した電極積層体を作製し、電極積層体をアルミラミネート袋等の外装体(筐体)5に封入し、非水電解質(図示せず)を注入して密閉する方法で製造できる。
図2では、代表的に、負極/セパレータ/正極/セパレータ/負極の順に積層した構造を示しているが、電極の数は適宜変更できる。正極1は1枚以上あればよく、得ようとする電池容量に応じて任意の数の正極1を用いることができる。負極3及びセパレータ2は、正極1の数より1枚多く用い、最外層が負極3となるように積層する。
【0054】
[負極]
負極活物質層32は負極活物質を含む。さらに結着材を含んでもよい。さらに導電助剤を含んでもよい。負極活物質の形状は、粒子状が好ましい。
負極3は、例えば、負極活物質、結着材、及び溶媒を含む負極製造用組成物を調製し、これを負極集電体31上に塗工し、乾燥し溶媒を除去して負極活物質層32を形成する方法で製造できる。負極製造用組成物は導電助剤を含んでもよい。
【0055】
負極活物質及び導電助剤としては、例えば、炭素材料、チタン酸リチウム(LTO)、シリコン、一酸化シリコン等が挙げられる。炭素材料としては、グラファイト、グラフェン、ハードカーボン、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ(CNT)等が挙げられる。負極活物質及び導電助剤は、それぞれ1種でもよく2種以上を併用してもよい。
【0056】
負極集電体31の材料は、上記した正極集電体11の材料と同様のものを例示できる。
負極製造用組成物中の結着材としては、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアクリル酸リチウム(PAALi)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニリデン-六フッ化プロピレン共重合体(PVDF-HFP)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリエチレングリコール(PEG)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリルニトリル(PAN)、ポリイミド(PI)等が例示できる。結着材は1種でもよく2種以上を併用してもよい。
負極製造用組成物中の溶媒としては、水、有機溶媒が例示できる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等のアルコール;N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等の鎖状又は環状アミド;アセトン等のケトンが例示できる。溶媒は1種でもよく2種以上を併用してもよい。
【0057】
負極活物質層32の総質量に対して、負極活物質及び導電助剤の合計の含有量は80.0~99.9質量%が好ましく、85.0~98.0質量%がより好ましい。
【0058】
[セパレータ]
セパレータ2を負極3と正極1との間に配置して短絡等を防止する。セパレータ2は、後述する非水電解質を保持してもよい。
セパレータ2としては、特に限定されず、多孔性の高分子膜、不織布、ガラスファイバー等が例示できる。
セパレータ2の一方又は両方の表面上に絶縁層を設けてもよい。絶縁層は、絶縁性微粒子を絶縁層用結着材で結着した多孔質構造を有する層が好ましい。
【0059】
セパレータ2は、各種可塑剤、酸化防止剤、難燃剤を含んでもよい。
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、モノフェノール系酸化防止剤、ビスフェノール系酸化防止剤、ポリフェノール系酸化防止剤等のフェノール系酸化防止剤;ヒンダードアミン系酸化防止剤;リン系酸化防止剤;イオウ系酸化防止剤;ベンゾトリアゾール系酸化防止剤;ベンゾフェノン系酸化防止剤;トリアジン系酸化防止剤;サルチル酸エステル系酸化防止剤等が例示できる。フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が好ましい。
【0060】
[非水電解質]
非水電解質は、正極1と負極3との間を満たす。例えば、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ等において公知の非水電解質を使用できる。
非水電解質として、有機溶媒に電解質塩を溶解した非水電解液が好ましい。
【0061】
有機溶媒は、高電圧に対する耐性を有するものが好ましい。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、γ-ブチロラクトン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトロヒドラフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジオキソラン、メチルアセテート等の極性溶媒、又はこれら極性溶媒の2種類以上の混合物が挙げられる。
【0062】
電解質塩は、特に限定されず、例えば、LiClO4、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF6、LiCF3CO2、LiPF6SO3、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF3)2、Li(SO2CF2CF3)2、LiN(COCF3)2、LiN(COCF2CF3)2等のリチウムを含む塩、又はこれら塩の2種以上の混合物が挙げられる。
【0063】
本実施形態の非水電解質二次電池は、産業用、民生用、自動車用、住宅用等、各種用途のリチウムイオン二次電池として使用できる。
本実施形態の非水電解質二次電池の使用形態は特に限定されない。例えば、複数個の非水電解質二次電池を直列又は並列に接続して構成した電池モジュール、電気的に接続した複数個の電池モジュールと電池制御システムとを備える電池システム等に用いることができる。
電池システムの例としては、電池パック、定置用蓄電池システム、自動車の動力用蓄電池システム、自動車の補機用蓄電池システム、非常電源用蓄電池システム等が挙げられる。
【実施例】
【0064】
以下に実施例および比較例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0065】
<測定方法>
[結着材のZ平均分子量(Mz)の測定方法]
上記の方法で結着材のZ平均分子量(Mz)を測定した。
【0066】
[正極活物質層の細孔比表面積と平均細孔径(D50)の測定方法]
細孔径分布測定装置(製品名:オートポアV9620、マイクロメリティックス社製)を用い、前処理した試料を測定セルに入れ、下記の条件で、細孔径分布を測定し、得られた細孔径分布に基づいて細孔比表面積および平均細孔径(D50)を求めた。
細孔比表面積は、試料から正極集電体11を除いた残部(正極活物質層12)の単位質量当たりの細孔表面積(単位:m2/g)として算出した。
平均細孔径(D50)として、細孔径分布の細孔径0.003~1.000μmの範囲におけるメジアン径(単位:μm)を求めた。
(測定条件)
試料の前処理:正極シートを、110℃で12時間真空乾燥した後、約1.6gの短冊状(約25mm×約12.5mm)に切断した。
測定セルの容積:5mL。
初期圧:7.3kPa。
水銀パラメータ:水銀接触角130.0°、水銀表面張力485.0dyn/cm。
【0067】
[正極活物質層の剥離強度の測定方法]
正極活物質層12の剥離強度は、オートグラフを用いて以下の方法により測定することができる。
図3は、正極活物質層の剥離強度の測定方法の工程図である。
図3に示す工程(S1)~(S7)を順に説明する。
図3は、その構成をわかりやすく説明するための模式図であり、各構成要素の寸法比率等は、実際とは異なる場合もある。
(S1)先ず、幅25mm、長さ120mmの長方形の両面テープ50を準備する。両面テープ50は粘着層50aの両面に剥離紙50b、50cが積層されている。両面テープ50としては、日東電工社製品名「No.5015、25mm幅」を用いた。
(S2)両面テープ50の片面の離型紙50cを剥がし、粘着層50aの表面(以下、「糊面」ともいう。)が露出した粘着体55とする。粘着体55において、長さ方向の一端部55aからの距離が約10mmのところに折り曲げ位置51を設ける。
(S3)前記折り曲げ位置51より一端部55a側を、糊面と糊面とが接着するように折り曲げる。
(S4)粘着体55の糊面と、正極シート60の正極活物質層12とが接触するように、粘着体55と正極シート60とを貼り合わせる。
(S5)粘着体55の外縁に沿って正極シート60を切り出し、長さ方向に圧着ローラーを2往復させる方法で、粘着体55と正極シート60とを圧着させて複合体65を得る。
(S6)ステンレス板70の一面に、複合体65の粘着体55側の外面を接触させ、折り曲げ位置51とは反対側の他端部65bを、メンディングテープ80でステンレス板70に固定する。メンディングテープ80としては、3M社製品名「スコッチテープメンディングテープ18mm×30小巻810-1-18D」を用いた。メンディングテープ80の長さは約30mmとし、ステンレス板70の端部から複合体65の他端部65bまでの距離Aは約5mm、メンディングテープ80の一端部80aから複合体65の他端部65bまでの距離Bは5mmとする。メンディングテープ80の他端部80bはステンレス板70の他面に貼り付ける。
(S7)複合体65の折り曲げ位置51側の端部において、粘着体55から正極シート60を、長さ方向に対して平行にゆっくりと剥がす。メンディングテープ80で固定されていない正極シート60の端部(以下、「剥離端」という)60aが、ステンレス板70からはみ出す程度までゆっくりと剥がす。
次いで、複合体65が固定されたステンレス板70を、図示しない引っ張り試験機(島津製作所製品名「EZ-LX」)に設置し、粘着体55の折り曲げ位置51側の端部を固定し、正極シート60の剥離端60aを折り曲げ位置51とは反対方向(折り曲げ位置51に対して180°方向)に、引っ張り速度60mm/分、試験力50000mN、ストローク70mmで引っ張って剥離強度を測定する。ストローク20~50mmにおける剥離強度の平均値を、正極活物質層12の剥離強度とする。
【0068】
<測定方法>
[エネルギー密度]
エネルギー密度の評価は、下記(1)~(3)の手順に沿って行った。
(1)定格容量が1Ahとなるようにセルを作製し、セルの質量(単位:Kg)を測定した。
(2)得られたセルに対して、25℃(常温)環境下で0.2Cレート(すなわち、200mA)で一定電流にて終止電圧3.6Vで充電を行った後、一定電圧にて前記充電電流の1/10を終止電流(すなわち、20mA)として充電を行った後に30分間、開回路状態で休止した。
(3)放電を0.2Cレートで一定電流にて終止電圧2.5Vで行った。このときに放電開始から放電終了までに測定された合計の放電電力(単位:Wh)を(1)にて測定したセルの質量(単位:Kg)で除する事で重量エネルギー密度(単位:Wh/Kg)を算出した。
【0069】
[サイクル容量維持率]
サイクル容量維持率の評価は、下記(1)~(7)の手順に沿って行った。
(1)定格容量が1Ahとなるように非水電解質二次電池(セル)を作製し、常温(25℃)下で、サイクル評価を実施した。
(2)得られたセルに対して、0.2Cレート(即ち、200mA)で一定電流にて終止電圧3.6Vで充電を行った後、一定電圧にて前記充電電流の1/10を終止電流(即ち、20mA)として充電を行った。
(3)容量確認のための放電を0.2Cレートで一定電流にて終止電圧2.5Vで行った。このときの放電容量を基準容量とし、基準容量を1Cレートの電流値とした(即ち、1,000mAとした)。
(4)セルの3Cレート(即ち、3000mA)で一定電流にて終止電圧3.8Vで充電を行った後、10秒間休止し、この状態から3Cレートにて終止電圧2.0Vで放電を行い、10秒間休止した。
(5)(4)のサイクル試験を3,000回繰り返した。
(6)(2)と同様の充電を実施した後に、(3)と同じ容量確認を実施した。
(7)(6)で測定された容量確認での放電容量をサイクル試験前の基準容量で除して百分率とする事で、3,000サイクル後のサイクル容量維持率(3,000サイクル容量維持率、単位:%)とした。
【0070】
<製造例1:負極の製造>
負極活物質である人造黒鉛100質量部と、結着材であるスチレンブタジエンゴム1.5質量部と、増粘材であるカルボキシメチルセルロースNa1.5質量部と、溶媒である水とを混合し、固形分50質量%の負極製造用組成物を得た。
得られた負極製造用組成物を、銅箔(厚さ8μm)の両面上にそれぞれ塗工し、100℃で真空乾燥した後、2kNの荷重で加圧プレスして負極シートを得た。得られた負極シートを打ち抜き、負極とした。
【0071】
<製造例2:集電体被覆層を有する集電体の製造>
カーボンブラック100質量部と、結着材であるポリフッ化ビニリデン40質量部と、溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)とを混合してスラリーを得た。NMPの使用量はスラリーを塗工するのに必要な量とした。
得られたスラリーを厚さ15μmのアルミニウム箔(正極集電体本体)の表裏両面に、乾燥後の集電体被覆層の厚さ(両面合計)が2μmとなるように、グラビア法で塗工し、乾燥し溶媒を除去して正極集電体とした。両面それぞれの集電体被覆層は、塗工量及び厚みが互いに均等になるように形成した。
【0072】
<実施例1~5、比較例1~6>
正極活物質粒子として、下記の3種の活物質被覆部を有するリン酸鉄リチウム粒子(以下「カーボンコート活物質」ともいう。)を用いた。
カーボンコート活物質(1.2):平均粒子径1.2μm、炭素含有量1.5質量%。
カーボンコート活物質(0.3):炭素含有量0.3質量%、平均粒子径0.9μm。
カーボンコート活物質(1.0):炭素含有量1.0質量%、平均粒子径1.2μm。
カーボンコート活物質(1.5):炭素含有量1.5質量%、平均粒子径1.3μm。
活物質被覆部の厚さは1~100nmの範囲内であった。
導電助剤としてカーボンブラック(CB)又はカーボンナノチューブ(CNT)を用いた。CB及びCNTは不純物が定量限界以下であり、炭素含有量100質量%とみなすことができる。
結着材としてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた。
分散剤として、ポリビニルピロリドン(PVP)を用いた。
溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いた。
正極集電体として、製造例2で得た集電体被覆層を有するアルミニウム箔、又は集電体被覆層を有しないアルミニウム箔(厚さ15μm)を用いた。
【0073】
以下の方法で正極活物質層を形成した。
正極活物質粒子、導電助剤、結着材、分散剤及び溶媒(NMP)をミキサーにて混合して正極製造用組成物を得た。溶媒の使用量は、正極製造用組成物を塗工するのに必要な量とした。なお、表中における正極活物質粒子、導電助剤、結着材及び分散剤の配合量は、溶媒以外の合計(即ち、正極活物質粒子、導電助剤、結着材及び分散剤の合計量)を100質量%とするときの割合である。
得られた正極製造用組成物を、正極集電体の両面上にそれぞれ塗工し、予備乾燥後、120℃環境で真空乾燥して正極活物質層を形成した。両面それぞれの正極活物質層は、塗工量及び厚みが互いに均等になるように形成した。得られた積層物を加圧プレスして正極シートを得た。
得られた正極シートを打ち抜き、正極とした。
【0074】
以下の方法で、
図2に示す構成の非水電解質二次電池を製造した。
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)を、EC:DECの体積比が3:7となるように混合した溶媒に、電解質としてLiPF
6を1モル/リットルとなるように溶解して、非水電解液を調製した。
本例で得た正極と、製造例1で得た負極とを、セパレータを介して交互に積層し、最外層が負極である電極積層体を作製した。セパレータとしては、ポリオレフィンフィルム(厚さ15μm)を用いた。
電極積層体を作製する工程では、まず、セパレータ2と正極1とを積層し、その後、セパレータ2上に負極3を積層した。
電極積層体の正極集電体露出部13及び負極集電体露出部33のそれぞれに、端子用タブを電気的に接続し、端子用タブが外部に突出するように、アルミラミネートフィルムで電極積層体を挟み、三辺をラミネート加工して封止した。
続いて、封止せずに残した一辺から非水電解液を注入し、真空封止して非水電解質二次電池(ラミネートセル)を製造した。
上記の方法で、急速充電試験により、エネルギー密度と放電特性を評価した。結果を表1に示す。
【0075】
【0076】
表1の結果に示されるように、実施例1では、少量の結着材で十分な結着性が得られており、正極活物質層の細孔比表面積、正極活物質層の細孔の平均細孔径ともに適切な範囲としたため、電解液との副反応も少なく、エネルギー密度とサイクル容量維持率が優れていた。
実施例2では、結着材のZ平均分子量(Mz)が小さいため、正極集電体に対する正極活物質層の結着性がやや低下して、正極活物質層の剥離強度が下がった。また、サイクル容量維持率もやや低下したが、許容範囲と考えられる。
実施例3では、Z平均分子量(Mz)が小さい結着材を用い、その結着材の添加量をやや増やしたことにより、正極活物質層の細孔比表面積が増加し、正極活物質層の細孔の平均細孔径が低下した。その結果、正極活物質層の剥離強度がやや増加した。Z平均分子量(Mz)が大きい結着材を用いた方が、少量で正極活物質層の細孔比表面積や正極活物質層の細孔の平均細孔径を適切な範囲に調整しやすい。
実施例4では、導電性炭素量が少なく、容量に寄与しない炭素が少なくなったため、電池としてエネルギー密度が高くなった。導電性炭素が少なくともZ平均分子量(Mz)が高い結着材を用いることで結着力が高く、充放電に伴う膨張伸縮に伴う導電性炭素の剥がれや導電パス分断を抑制し、良好なサイクル特性を示した。
実施例5では、導電助剤を添加し、導電性炭素量を多くした。Z平均分子量(Mz)が高い結着材を用いることで、導電助剤を少量添加しても高いエネルギー密度、高レートサイクルでの良好な容量維持率を示した。
【0077】
比較例1では、Z平均分子量(Mz)が小さい結着材を多めに添加したが、正極活物質層の細孔比表面積が適切な範囲となっておらず、サイクル時の充放電反応で電解液と正極活物質層との接触面積が不足し、抵抗が高い状態であったため、劣化が加速した。
比較例2では、Z平均分子量(Mz)が大きい結着材の添加量が多すぎるため、正極活物質層の細孔比表面積が小さく、かつ正極活物質層の細孔の平均細孔径が大きいため、導電パスが悪く、サイクル容量維持率が低下した。
比較例3では、比較例1よりもZ平均分子量(Mz)が小さい結着材を用いた結果、正極活物質層の剥離強度が低くなり、サイクル時の膨張伸縮などで正極の導電パスが悪くなり、エネルギー密度とサイクル容量維持率が低下した。
比較例4では、導電助剤を多く添加したことにより、正極活物質層の細孔比表面積が大きくなり、正極活物質層の細孔の平均細孔径が小さくなり、導電助剤の添加により、エネルギー密度とサイクル容量維持率が低下した。
比較例5では、比較例1よりもZ平均分子量(Mz)が小さい結着材を用い、比較例1よりも結着材の添加量を少なくした結果、正極活物質層の剥離強度が非常に低くなり、エネルギー密度とサイクル容量維持率が低下した。
比較例6では、導電性炭素量を少なくし、エネルギー密度を高くすることができたが、良好な充放電反応のために必要な導電性炭素が不足したため、Z平均分子量(Mz)が高く、高い結着強度を持ち、剥離強度が高い電極であったが、サイクル容量維持率が低下した。
【符号の説明】
【0078】
1 正極(非水電解質二次電池用正極)
2 セパレータ
3 負極
5 外装体
10 非水電解質二次電池
11 集電体(正極集電体)
12 正極活物質層
13 正極集電体露出部
14 正極集電体本体
15 集電体被覆層
【要約】
【課題】正極活物質粒子の十分な結着性を有し、エネルギー密度が高く、かつサイクル特性に優れる非水電解質二次電池を実現する非水電解質二次電池用正極を提供する。
【解決手段】集電体11と、集電体11上に存在する、正極活物質粒子を含む正極活物質層12と、を有し、正極活物質層12に含まれる結着材のZ平均分子量(Mz)が40万以上140万以下、正極活物質層12の総質量に対して結着材の含有量が0.1質量%以上1.5質量%以下、正極活物質層12が導電性炭素を含み、正極活物質層12の総質量に対して導電性炭素の含有量が0.5質量%以上3.0質量%未満である、非水電解質二次電池用正極1。
【選択図】
図1